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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143635
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】トイレットロールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A47K 10/16 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
A47K10/16 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056410
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】天野 良美
【テーマコード(参考)】
2D135
【Fターム(参考)】
2D135AA07
2D135AB02
2D135AB13
2D135AC01
2D135AC08
(57)【要約】
【課題】巻長さが長くてもエンボスが潰れ難く柔らかいトイレットロールの製造方法を提供する。
【解決手段】
トイレットロールの製造方法であって、第一巻取ロール、第二巻取ロール及び第三巻取ロールと、を有し、これらのロールによって外周面を支持しながら巻き取りを行うサーフェイス式ワインダーによる巻き取り工程を有し、この巻き取り工程において、第三巻取ロールと第一巻取ロール及び第二巻取ロールとの間の距離が遠ざかるように、第三巻取ロールを移動させつつ、第一巻取ロール、第二巻取ロール及び第三巻取ロールによって巻径を増径させつつ設定巻径となるまで巻き取る増径期間の後に、第三巻取ロールの位置を固定して、前記設定巻径を維持しつつ巻き取りを行う巻径維持期間を設けた、トイレットロールの製造方法により解決される。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トイレットロールの製造方法であって、第一巻取ロール、第二巻取ロール及び第三巻取ロールと、を有し、これらのロールによって外周面を支持しながら巻き取りを行うサーフェイス式ワインダーによる巻き取り工程を有し、
この巻き取り工程において、
第三巻取ロールと第一巻取ロール及び第二巻取ロールとの間の距離が遠ざかるように、第三巻取ロールを移動させつつ、第一巻取ロール、第二巻取ロール及び第三巻取ロールによって巻径を増径させつつ設定巻径となるまで巻き取る増径期間の後に、
第三巻取ロールの位置を固定して、前記設定巻径を維持しつつ巻き取りを行う巻径維持期間を設ける
ことを特徴とするトイレットロールの製造方法。
【請求項2】
前記増径期間における第一巻取ロールの速度に対する第二巻取ロールの速度の差である追従値を基準値として、
巻径維持期間において、第二巻取ロールの速度を基準値以上に上昇させて巻き取る、請求項1記載のトイレットロールの製造方法。
【請求項3】
前記増径期間における第一巻取ロールの速度に対する第二巻取ロールの速度の差である追従値を基準値として、
紙管にシートを巻き掛けるピックアップを行った直後に、第二巻取ロールの速度を前記基準値に達するまで上昇させつつ巻き取る、第二巻取ロールの第一の変速期間を設けた、
請求項1又は2記載のトイレットロールの製造方法。
【請求項4】
第一の変速期間は、段階的に変速を行うこととし、少なくともピックアップ直後の急速に速度を第一の上昇期間と、前記基準値まで緩やかに速度を上昇させる第二の上昇期間とを有する、請求項3記載のトイレットロールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トイレットロールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、トイレットロールの一部の消費者にとって、いわゆる長尺のトイレットロールが好まれている。
これは、購入後における持ち運びの便宜、購入・交換回数が少なくなるメリット、保管スペースに利便性があるなどの利点を要因としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6726653号公報
【特許文献2】特表2013-520379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の「従来長尺巻取品」を含めた長尺巻取品においては、柔らかさを確保するためにエンボスが付与される。通常は、「従来長尺巻取品」を含めた長尺巻取品においては、古紙パルプを含有し、シングルエンボスが付与される。
【0005】
しかるに、従来の長尺巻取品においては、ロールを手に持った際に過度に固く感じられやすく、消費者が巻かれているシートも固いと印象を持つことがあった。
また、この長尺巻取品においては、巻き取り時にシートを強く引っ張って巻きとるため、特にロール芯際に近い部分のエンボスが潰れやすく、シートの柔らかさや滑らかさが劣り、エンボスの潰れによる意匠性の低下が見られ、特に、日常的に短尺巻取品を使用している、柔らかさを望んでいる消費者にとって改良の余地があるものであった。
【0006】
そこで本発明の主たる課題は、長尺巻取品における上記のデメリットを改善でき、ロールが柔らかく感じられやすく、シートにおいても十分な柔らかさを示す及び又は滑らかな長尺品のトイレットロールの新規製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決したトイレットロールの製造方法は次の態様を有する。
トイレットロールの製造方法であって、第一巻取ロール、第二巻取ロール及び第三巻取ロールと、を有し、これらのロールによって外周面を支持しながら巻き取りを行うサーフェイス式ワインダーによる巻き取り工程を有し、
この巻き取り工程において、
第三巻取ロールと第一巻取ロール及び第二巻取ロールとの間の距離が遠ざかるように、第三巻取ロールを移動させつつ、第一巻取ロール、第二巻取ロール及び第三巻取ロールによって巻径を増径させつつ設定巻径となるまで巻き取る増径期間の後に、
第三巻取ロールの位置を固定して、前記設定巻径を維持しつつ巻き取りを行う巻径維持期間を設ける。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、長尺巻取品における上記のデメリットを改善でき、ロールが柔らかく感じられやすく、シートにおいても十分な柔らかさを示す及び又は滑らかな長尺品のトイレットロールの新規製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態のトイレットロールの製造方法を説明するための第一の図である。
図2】実施形態のトイレットロールの製造方法を説明するための第二の図である。
図3】実施形態のトイレットロールの製造方法を説明するための第三の図である。
図4】実施形態のトイレットロールの製造方法を説明するための第四の図である。
図5】実施形態の第二巻取ロールの速度変化を説明するための図である。
図6】実施形態の第三巻取ロールの位置変化を説明するための図である。
図7】従来法の第三巻取ロールの位置変化を説明するための図である。
図8】トイレットロールの概要説明図である。
図9】ダブルエンボス品の部分断面図である。
図10】(A)及び(B)はエンボス形状及び配置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次いで、本発明の実施形態に係るトイレットロールの製造方法を図1図10を参照しながら以下に詳述する。但し、本発明は、図示の形状やこの実施形態に限定されるわけではない。
【0011】
図8に示すように、本実施形態に係るトイレットロール1は、帯状のトイレットペーパー10を紙管(管芯とも称される)20にロール状に巻いたものである。本形態の製造方法は、例示すれば、エンボス加工による凹凸を有し、2プライで、巻長さが60m以上、より適値としては70m以上、上限は80m程度までの巻長さであって、紙管20の直径L3は30~45φmm、好ましくは34~42φmmであり、ロール径L2が110~125mm、より適値としては110~120mmのトイレットロールを製造するに特に有用である。このような長尺品において、ロールが柔らかく感じられやすく、シートにおいても十分な柔らかさを示す及び又は滑らかな長尺品のトイレットロールとすることができる。トイレットロールの幅L1は、限定されないが100~130mm、好ましくは105~120mmである。
【0012】
このトイレットロール1の製造方法では、特に図1図4に示すように、第一巻取ロール61、第二巻取ロール62及び第三巻取ロール63と、を有し、これらのロールによって被巻取ロール70の外周面を支持しながら巻き取りを行うサーフェイス式ワインダー60による巻き取り工程を有する。
【0013】
この巻き取り工程の一形態は、ログとも称さる原反ロールから繰り出した幅広のトイレットペーパーを、製品幅の複数倍幅又はそれ以上の幅で、製品直径と同様の直径で巻き取る工程である。トイレットロールの製造方法では、このログを形成するための巻き取り工程の前段において、複数のシートを積層して複数プライとするプライアップ工程、シートに対してエンボス加工によって凹凸を付与するエンボス付与工程、プライアップしたシートにコンタクトエンボスを付与して積層一体化するコンタクトエンボス付与工程等を適宜の順で有する。また、巻き取り工程の後段において、巻き取ったログを製品幅に裁断して個々のトイレットロールとする裁断工程、トイレットロールを一つ又は複数個で包装する包装工程等を有する。また、巻き取り工程とは別に、トイレットペーパーを巻き付けるための紙管を製造する紙管製造工程を有する。本発明においては、巻き取り工程以外の工程については限定されるものではない。
【0014】
このサーフェイス式ワインダー60の第一巻取ロール61は、ワインダーロールとも称される。第二巻取ロール62は、ベッドロールとも称される。第三巻取ロール63は、ニップロールとも称される。
【0015】
このサーフェイス式ワインダー60では、図1に示すように、まず、第一巻取ロール61上で、供給された紙管20に対してシート10の先端部を巻き掛ける。これをピックアップと言う。紙管20とシート10の先端部との接着の一形態は、デンプン糊、接着剤、水等の適宜のピックアップ糊によって行われる。
【0016】
ピックアップの直後、被巻取ロール70は、図2に示すように、第一巻取ロール61及び第二巻取ロール62の二つのロールに挟持されつつ巻き取りが行なわれつつ、第一巻取ロール61、第二巻取ロール62及び第三巻取ロール63とで巻き取りが行われる巻取位置Xに移動させられる。ピックアップから第一巻取ロール61及び第二巻取ロール62の二つのロールでの巻き取りが開始されるまで、限定されないが、紙管に対してシートが半~数巻き程度巻かれる。
【0017】
巻取位置Xに移動されて、第一巻取ロール61及び第二巻取ロール62による巻き取りが所定期間行われた後、図3に示すように、第三巻取ロール63が、被巻取ロール70側に移動して接触し、三つの巻取ロール61,62,63で、被巻取ロール70の外周面を支持しながら巻き取りが行われる。このとき、被巻取ロール70の巻径の増径にともなって、第三巻取ロール63は、第一巻取ロール61及び第二巻取ロール62から離れるように移動する。本実施形態では、三つの巻取ロール61,62,63で被巻取ロール70の巻径を増径させる期間を増径期間と言う。
【0018】
このサーフェイス式ワインダー60では、第一巻取ロール61及び第二巻取ロール62とで回転の速度が異なる。なお、本発明における各ロールの速度とは、周速度を意味する。第一巻取ロール61の回転の速度を基準として第二巻取ロール62の回転の速度を若干異ならしめることで、紙管20に対してシート10が締まるように或いは緩くなるように巻き付けられる。本実施形態では、第一巻取ロール61の速度に対する第二巻取ロール62の速度の割合を追従値という。なお、第一巻取ロールの61の具体的な速度は、必ずしも限定されない。1~4プライ、巻長さが25~100mm、巻径が110~125mmの公知のトイレットロールの製造における製造時の速度とすることができる。一形態としては、100~800m/分である。特に、巻長さが60m以上の長尺品では、製造時の巻き取りの速度が速い傾向にあり、エンボス加工による凹部が潰れやすくなる傾向がある。本発明の効果の点からより好ましい、第一巻取ロールの速度としては、250~750m/分、特に好ましい速度としては、550~650m/分である。なお、第一巻取ロールの速度は、少なくとも一つのロールを巻き取る間は一定である。
【0019】
図5は、本実施形態における第二巻取ロール62の速度変化を示すグラフである。本実施形態のトイレットロールの製造方法では、好ましく、特徴的に、被巻取ロール70に対して第三巻取ロール63が接触し、第一巻取ロール61、第二巻取ロール62及び第三巻取ロール63の三つのロールによって支持されつつ巻径を増径させる上記の増径期間(図5中のA期間)における第一巻取ロール61の速度に対する第二巻取ロール62の速度の差である追従値を基準値(図5中の符号Pで示す)として、紙管20にシート10を巻き掛けるピックアップを行った直後に、第二巻取ロール62の速度を前記基準値Pに達するまで段階的に上昇させつつ巻き取る第二巻取ロール62の第一の変速期間(図5中のB期間)を有している。この実施形態では、二段階に速度を変化させて第二巻取ロールの速度を上昇させている。なお、ピックアップは、図5中のCで行われる。
【0020】
本実施形態における基準値P、すなわち第一巻取ロール61、第二巻取ロール62及び第三巻取ロール63の三つのロールによって支持されつつ巻径を増径させる上記の増径期間Aにおける追従値は、必ずしも限定されるわけではないが、特に2プライのダブルエンボス品のようにシートが伸びやすいものの上記長尺品を製造する場合には、99.0~99.9%、より好適には99.4~99.9%である。この基準値Pでは、第二巻取ロール62によるロール側の送りと第一巻取ロールによるシートの新たな巻き付けに僅かな差を設けつつ巻き取られる。
【0021】
第一の変速期間Bにおける第二巻取ロール62の速度は、前記基準値Pに達するまで上昇させる前、すなわち基準値Pの速度よりも低い速度となっている。換言すれば、第一巻取ロール61の速度と、第二巻取ロール62の速度差が基準値Pよりも大きい。そして、被巻取ロール70に対して第二巻取ロール62が接してから第二巻取ロール62の速度が段階的に速まる。このような第一の変速期間Bでは、ピックアップ直後に被巻取ロール70が第二巻取ロール62に接した際の速度差が最も大きく、その結果、被巻取ロール70は、極めて迅速に第一巻取ロール61、第二巻取ロール62及び第三巻取ロール63で巻き取りが行われる所定の巻取位置Xに移動させられる。そのため、第一巻取ロール61及び第二巻取ロール62とで挟持されつつ紙管20に巻かれるシート10の長さが短いうちに、巻取位置Xに移動させられる。よって、紙管近傍、すなわちロール芯際に近い部分のシートが引っ張られたり、挟持されたりするシートが極めて短くなり、ロール芯際に近い部分でエンボス加工による凹凸が潰れ難くなる。その一方、第二巻取ロール62の速度を基準値Pまで段階的に高めるため、ロール芯際が緩くなりすぎることがなくなるともに、適度に基準値Pでの巻きにつなげることができる。なお、第二巻取ロールの速度変化の段階は限定されないが、1~3段階が好ましく、特に好適には2段階である。
【0022】
第一の変速期間Bにおける第二巻取ロール62の速度は、必ずしも限定されないが、引張強度等の点から1プライの坪量が11.0~14.0g/mのシートが、2プライに積層され、その2プライシートにエンボスが形成されたものの上記長尺品を製造する場合には、ピックアップした直後の第二巻取ロール62の変速率D1は4.8~5.5%とするのが望ましい。変速率とは、基準値Pに対する変化の割合である(変速率は、図5中でD1、D2で示される)。すなわち、第一の変速期間Bでは基準値Pの速度より、4.8~5.5%遅い速度から基準値Pまで速度を上昇させる。この変速率D1は、さらに、2プライでの紙厚が130~210μm、ダブルエンボス品のようにシートが伸びやすいものではより適値となる。この第一の変速期間Bにおいて第一巻取ロール61及び第二巻取ロール62のみで行われる巻き取りは、限定されないが、巻長さの1.8~9.0%の長さである。
【0023】
第一の変速期間Bにおける第二巻取ロール62の速度の変化については、特に、第二巻取ロール62が前記基準値Pとなるまで、段階的に速度を上昇させる。そして、特に、少なくともピックアップ直後の急速に速度を上昇させる第一の上昇期間B1と、前記基準値Pまで緩やかに速度を上昇させる第二の上昇期間B2とを設けるのが望ましい。急速に速度を上昇させる第一の上昇期間B1を設けることで、被巻取ロール70が、極めて迅速に第一巻取ロール61、第二巻取ロール62及び第三巻取ロール63で巻き取りが行われる所定の巻取位置Xに移動させられ、その際の巻き取り回数が少なく、巻き長さも短いため、巻取時のテンションや巻取ローラの接触等によるシートへの影響が小さく、また、その後に第三巻取ロール63とともに三つのロールで巻き取りを行う基準値Pまで緩やかに上昇させる第二の上昇期間B2を設けることで第一巻取ロール61と第二巻取ロール62での巻取時のシートの締まり具合などが増径期間Aと差が小さくなり、ロール芯際に近い部分シートの巻き取り性が良好になる。例えば、トイレットロールでは、ロール芯際でスパイラル状の皺が入ることがあるが、このようなスパイラル状の皺の発生が好適に防止される。
【0024】
第一の変速期間Bの具体的な時間は、限定されるわけではないが、上記のエンボス加工による凹凸を有し、2プライで、巻長さが60m以上の巻長さ、ロール径が110~125mmの長尺品の製造の一形態では、第一の変速期間Bは、巻長さの0%超12%以下が望ましい。理論的には、第一変速期間が少しでもあればよいが、下限値は、より具体的には、巻長さの3%以上である。
【0025】
増径期間Aは、既述のとおり、巻取位置Xに移動された被巻取ロール70に対して、第一巻取ロール61、第二巻取ロール62及び第三巻取ロール63が接触し、三つの巻取ロール61,62,63で、被巻取ロール70の外周面を支持しながら巻き取りを行う。このとき、被巻取ロール70の巻径の増径にともなって、第三巻取ロール63の位置が、第一巻取ロール61及び第二巻取ロール62から離れるように移動する。増径期間Aの一形態では、第一巻取ロール61と第三巻取ロール63との速度差は一致しているか、第三巻取ロールの移動を考慮して第三巻取ロールをやや速くする。第三巻取ロール63は、外周面を支持して皺の発生を抑制するとともに、増径の速度とシート間の空隙の形成、すなわち巻の密度に影響を与える。特に、第二巻取ロール62の速度を、追従値として、第一巻取ロール61より若干速度を遅くすることで、シートが締まるように巻かれるが、第三巻取ロール63の位置とも相まって、ロールの柔らかさや締まり具合に影響を及ぼす。第三巻取ロールの速度は限定されないが、第一巻取ロールの速度の100~100.2%である。
【0026】
本製造方法では、さらに特徴的に増径期間Aの後に、第三巻取ロール63の位置を固定して、設定巻径を維持しつつ巻き取りを行う巻径維持期間Qを設けている。さらに、この巻径維持期間Qにおいて、第二巻取ロール62の速度を基準値P以上に上昇させて巻き取る第二巻取ロール62の第二の変速期間Gを設けるのが望ましい。
【0027】
巻径の維持は、増径期間Aの後に第三巻取ロール63の位置を固定することで行うことができる。すなわち、被巻取ロール70は外周面が、第一巻取ロール61、第二巻取ロール62及び第三巻取ロール63で支持されているため、その巻径は、第一巻取ロール61、第二巻取ロール62及び第三巻取ロール63の離隔距離によって定まる。巻取位置Xにおいて、このサーフェイス式ワインダー60は、第一巻取ロール61及び第二巻取ロール62の位置が固定されているため、第三巻取ロール63の移動を停止し、その位置を固定すれば、被巻取ロール70の巻径の増径が停止し、巻径が維持される。
【0028】
この巻径の維持に係る第三巻取ロールの位置変化を示すグラフを図6に示す。図6の縦軸は、第三巻取ロール63の位置を示し、横軸は時間を示す。本実施形態の製造方法では、図6に示すように、第三巻取ロール63が被巻取ロール70に接触した後(図6中においてYが接触位置を示す)、第三巻取ロール63の位置が被巻取ロール70の増径とともに変化する。図6中においてAが増径期間に相当する。そして、巻き取り終了位置であるOの手前の所定位置Kにおいて、第三巻取ロール63の位置を固定して巻き取りを行う。図中地点K~Oの間が巻径維持期間Qである。なお、対比のため従来製造方法における第三巻取ロールの位置変化を示すグラフを図7に示す。従来法では、第三巻取ロールを巻き取り終了位置Oまで位置変化させ、巻径の維持期間を設けていない。
【0029】
なお、第二の変速期間Gを設ける場合、巻径維持期間Qの全てを第二の変速期間Gにする必要はない。第二の変速期間Gは、限定されないが、2プライシートにエンボスが形成されたものの上記長尺品を製造する場合には、設定した巻長さの最終端から8.0~12.0%の長さを巻く間である。この具体的な期間は、さらに、2プライでの紙厚が130~210μm、ダブルエンボス品のようにシートが伸びやすいものではより適値となる。なお、巻径維持期間Qにおける第二の変速期間G以外の期間は、第二巻取ロールの速度は基準値Pとすればよい。
【0030】
巻径維持期間Qは、第二の変速期間Gよりも長い期間であり、限定されないが、2プライシートにエンボスが形成されたものの上記長尺品を製造する場合には、設定した巻長さの88%~90%位置から巻取が終わるまでの間である。この間、第三巻取ロール63の位置を固定すればよい。この具体的な期間も、さらに、2プライでの紙厚が130~210μm、ダブルエンボス品のようにシートが伸びやすいものではより適値となる。
【0031】
第二の変速期間Gにおける第二巻取ロール62の変速率D2は、限定されないが、0.5~4.0%程度であり、2プライシートにエンボスが形成されたものの上記長尺品を製造する場合には1.0~3.5%がよい。すなわち、基準値Pの追従値よりも、第二巻取ロール62の速度を1.0~3.5%速くする。この変速率D2は、さらに、2プライでの紙厚が130~210μm、ダブルエンボス品のようにシートが伸びやすいものではより適値となる。
【0032】
巻径維持期間Qでは、被巻取ロール70は、先行するロール部分がこれから巻かれようとするシートに押し込まれるようにして巻かれる。よりも第一巻取ロール側に早く移動させられる。巻径維持期間Qは、増径期間Aの後、すなわち、所定の巻径に達した後に行われるため、トイレットロール外周面及びこれに近い位置で行われる。この位置では、ロールの外周の長さが長くなっているため、シートが伸びやすくロールの層も変形しやすいため、このような巻径維持期間Qとすることができる。
【0033】
巻径維持期間Qでは、シートが張られつつ、かつ、そのシートに先行するロールが押し込みながら巻き付けられるため、巻き取られるシートと、それが巻かれる先行するロール部分との間に僅かな緩みが入りつつシートが張って硬巻きに巻かれる。これが、ロールを手にもった際に、巻緩みがないものの外周面から所定の厚み(深さ)の層又は内部の層が柔らかく感じられ、ロール全体としても柔らかさを感じやすくなると考えられる。
【0034】
特に第二の変速期間Gを設けた場合には、シートが張られつつ、かつ、そのシートに先行するロールが押し込みながら巻き付けられるため、より巻き取られるシートと、それが巻かれる先行するロール部分との間に僅かな緩みが入りつつシートが張って硬巻きにきに巻かれる。したがって、ロールを手にもった際に、巻緩みがないものの外周面から所定の厚み(深さ)の層又は内部の層がより柔らかく感じられ、ロール全体としても柔らかさを感じやすくなると考えられる。
【0035】
ここで、本製造方法における巻径維持期間Q、さらに第一の変速期間B及び第二の変速期間Gは、ロールの柔らかさやシートの柔らかさに影響を及ぼす。少なくとも長尺品における影響がある。これは、本発明者らが知見した。すなわち、長尺品は、通常品よりも巻長さが長く、ロールにおけるシートの層が密となる。このためある層においてシートの巻き付けの設定を他の層と異なるように設定することが可能であり、また、その異なる設定によってロール全体の柔らかさの感じ方が異なる。
【0036】
そして、特に本製造方法では、シートの物性によって影響の程度は変わるものの巻径維持期間Q、さらに第二の変速期間Gでは、外周面から所定の厚み(深さ)の層の巻きの質が、それまでと異なることによって柔らかく感じられ、ロール全体としても柔らかさを感じやすくなる。さらに、第一の変速期間Bにおいてロール芯際でのエンボス加工による凹凸の潰れ、スパイラル状の皺の入りが防止される。
【0037】
このような巻径維持期間Q、さらに第一の変速期間B及び第二の変速期間Gにおけるロール品質の向上がみられる、シートの一つの形態では、1プライの坪量が11.0~14.0g/mのシートが、2プライに積層され、その2プライシートにエンボスが形成されたものである。特に、2プライでの紙厚が130~210μm、巻長さが60m以上、ロール径が110~120mmである。
【0038】
また、本製造方法は、パルプ100%原料又は純パルプに近い(古紙パルプが30%未満)のトイレットペーパーのトイレットロールに適する。これは、紙質が柔らかいとともに剛直な繊維が少ないため、トイレットペーパー表面に平滑性があり滑らかであり表面性に優れるためである。トイレットロールは、トイレットペーパーが幾重にも巻かれた層をなすため、表面性が影響するものと考えらえる。
【0039】
本製造方法は、ダブルエンボスのトイレットペーパーのトイレットロールに適する。図9の概要図に示す、ダブルエンボス(符号E2で示す)は、両面に凹部が形成され、積層シートの表裏差がない又は少ない。但し、ダブルエンボスは、図示例のように表裏の凹部が対面している形態に限られない。また、積層シート両面が凹部であるということは、使用者はその指先を、凹部間における緩やかな角度のドーム部分を触ることになるので、しかも表裏面を複数の指で触ることになるので、表裏にドーム部分が形成される関係で指先の感覚として柔らかく、しかも、柔軟性に富むパルプ原料及び緩やかな角度のドーム部分の生成の関係で滑らかな表面性であることを指先を介して強く感じるようになる。そして、シートが伸びやすい。このダブルエンボスの特徴も本製造法に適する理由である。
【0040】
ここで、本発明に係るエンボス加工による凹部の深さは、限定されるものではない。公知のエンボス加工による凹部と同程度の深さとすることができる。また、適宜に調整することができる。ここで、実施の形態のエンボスパターンは必ずしも限定されるわけではない。エンボスは、マイクロエンボスやドット型のエンボス、デザインエンボス等の適宜のエンボスパターンとすることができる。但し、巻長さが60m以上の長尺品においては、紙の坪量や厚みが低くなる傾向にあるため製造時にエンボス加工による凹部が潰れやすい。したがって、本発明に係る製造方法は、長尺品におけるエンボス加工で形成される程度の凹部の深さにおいては特に有効である。
【0041】
本製造方法によって製造されるトイレットロールの一形態は、巻長さが60m以上で巻径が125m以下の長尺品において、トイレットロールを巻きほぐした際の巻取端から巻長の8~12%に相当するロール外周面に近い位置における凹部の見栄えと、巻取端から巻長の8~12%に相当するロール芯際に近い位置における凹部の見栄えとを対比した際に、差異が小さい。つまり、ロール芯際に近い位置における凹部が潰れないか、または、ロール芯際に近くなっても凹部の潰れが感じ難い。
【0042】
ここで、実施の形態のエンボスパターンは必ずしも限定されるわけではない。エンボスは、マイクロエンボスやドット型のエンボス、デザインエンボス等の適宜のエンボスパターンとすることができる。
【0043】
また、好適なエンボスパターン例は、凹部の面積が1.0~2.5mmで、密度が5.0~50個/cmで、エンボス深さが、0.100~0.500mmである。トイレットペーパーとしての柔らかさが向上するとともに、トイレットロールのようにロール状態における柔らかさが高まり、消費者が手に持った際に柔らかいと感じやすくなる。
特に、図10に示すように、紙面全体に、底面が対角L4×対角L4=1.0~1.5×1.0~1.5mmの正方形の凹部31(図10A)又はその正方形の四方角が対角線外方に向かって延在された略正方形(図10B)をなす凹部32が、中心間隔L5が4.5~5.5mmで幅方向に対する配列角度が45°で斜め格子状に配列され、かつ、凹部31(32)と凹部31(32)との間に凹部の四方角同士から延在する谷線部33を有するものである。なお、谷線部33は、凹部31(32)の四方角が最も深く、凹部間の中間が最も浅くなるように漸次緩やかに断面弓なりに配されているのが望ましい。
このエンボスパターンは、幅方向の45°に向かって谷線部によって、巻き取り時のテンションが分散され巻硬さなどを調整しやすく、長尺に巻いてもエンボスが不明瞭となりがたい。また、トイレットペーパー自体の柔らかさや便の拭き取り性についても優れる。
【0044】
本製造方法によるトイレットロールのトイレットペーパーにおけるパルプ繊維は、特に限定されないがバージンパルプ70~100質量%、古紙パルプ0~30質量%であるのが望ましい。古紙パルプを配合すると、バージンパルプ100質量%からなるものに比して、安価に製造することができる。また、古紙パルプは、古紙からパルプを再生する工程において、再生前のパルプ繊維に比して繊維が細かくなる傾向にあり、このような繊維の性質上、紙厚を厚くせずに、繊維が密となるが繊維が細かくなるため紙力は出にくい。過度に配合すると柔軟性や平滑性などの風合いが低下する。よって古紙パルプの特徴に鑑みて、その配合比率を0~30質量%の範囲で定めればよい。なお、古紙パルプの種類は必ずしも限定されるものではないが、特に、ミルクカートン古紙、上質古紙を原料とする古紙パルプが望ましい。これらは原料由来の針葉樹クラフトパルプ(NBKP)や広葉樹クラフトパルプ(LBKP)が多く配合されているため、紙力を発現させやすい。
【0045】
他方、バージンパルプ100%とするのが特に望ましく、特にそのバージンパルプは、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)と広葉樹クラフトパルプ(LBKP)であるのが望ましい。これらの配合比率は、NBKP:LBKPを20:80~50:50とするのが望ましい。
【0046】
実施の形態において製造されるトイレットロールのトイレットペーパーは、構成する繊維の75~90質量%が広葉樹由来のパルプであるのが望ましい。広葉樹由来のパルプは繊維長が短く、紙表面の地合いを良好にしやすい。広葉樹由来のパルプを75質量%以上とすることで滑らかさが高まり、使用時に硬さを感じ難いものとなりやすい。なお、広葉樹由来のパルプとしては、LBKP、LUKP、LOKPなどが知られるが、漂白処理されたLBKPであるのが望ましい。なお、広葉樹由来のパルプ以外の繊維としては、針葉樹由来のパルプであるのが望ましい。この場合、漂白されたNBKPであるのが望ましい。
【0047】
実施の形態における「坪量」、「紙厚」、「巻径」、「紙管径」は、以下の測定によることができる。
【0048】
[坪量]
JIS P 8124(2011)に準拠して、1枚当たりの坪量として計測を行なった。
【0049】
[紙厚]
10cm×10cmに裁断した2プライの試験片をJIS P 8111(1998)の条件下で十分に調湿した後、同条件下でダイヤルシックネスゲージ(厚み測定器)「PEACOCK G型」(尾崎製作所製)を用いて測定した値とした。具体的には、プランジャーと測定台の間にゴミ、チリ等がないことを確認してプランジャーを測定台の上におろし、前記ダイヤルシックネスゲージのメモリを移動させてゼロ点を合わせ、次いで、プランジャーを上げて試験片を測定台の上におき、プランジャーをゆっくりと1mm/秒以下の速度で下ろしその時のゲージを読み取る。測定時には、金属製のプランジャーの端子(直径10mmの円形の平面)が紙平面に対し垂直に当たるように留意する。紙厚の測定値は、測定を10回行って得られる平均値とする。
【0050】
[巻径]
巻径は、ロールの外周を幅方向3か所でダイヤメータールール(ムラテックKDS株式会社)を用いて測定し3か所の平均値として求めた。単位はmm、小数点1桁として表す。
【0051】
[紙管径]
紙管径は、紙管の外周を幅方向3か所でダイヤメータールール(ムラテックKDS株式会社)を用いて測定し3か所の平均値として求めた。単位はmm、小数点1桁として表す。
【0052】
[試験例]
従来製造方法と本発明に係る実施形態に係る製造方法によって、図10(B)に示すエンボスパターン、坪量12.3g/m、紙厚140μm、ダブルエンボスの条件でトイレットペーパーを巻長60mで巻き取ってトイレットロールを製造し、巻長の8~12%に相当するロール外周面に近い位置におけるエンボス潰れと、巻取端から巻長の8~12%に相当するロール芯際に近い位置におけるエンボス潰れと、を目視にて確認する試験を行った。
【0053】
評価は、5段階で判断し、次のように評価した。「1」エンボスが潰れている、「2」エンボス痕は視認できるがエンボスは潰れている、「3」エンボスは潰れていない、「4」エンボス痕が明瞭でエンボスは明瞭に確認できる、「5」エンボスが明瞭に確認できる。
【0054】
被験者10名で評価した結果、本発明に係る製造方法のトイレットロールは、外周面に近い位置及びロール芯際に近い位置の双方において、被験者全員「4」~「5」の評価となったのに対して、従来製造方法のトイレットロールは、ロール芯際に近い位置において「1」~「2」の評価があった。これらの結果から、本発明の製造方法によれば、長尺巻取品のように巻き取り時にシートを強く引っ張って巻きとっても、ロール芯際に近い部分のエンボスが潰れにくく、エンボス潰れが改善される。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のトイレットロールは家庭用のほか、業務用(例えば不特定多数が使用する空港のトイレ、病院など)としても使用できる。
【符号の説明】
【0056】
1…トイレットロール、10…トイレットペーパー、20…紙管(管芯)、L1…トイレットロールの巻径(直径)、L2…トイレットロールの管芯の直径、L3…トイレットロールの幅、31,32…凹部、E、E2…エンボス、M…山部。
60…サーフェイス式ワインダー、61…第一巻取ロール、62…第二巻取ロール、63…第三巻取ロール、70…被巻取ロール、X…巻取位置、A…増径期間、B…第一の変速期間、P…基準値(追従値での第二巻取ロールの速度)、G…第二の変速期間、C…ピックアップ位置、Y…第三巻取ロールの被巻取ロールに対する接触位置、O…巻き取り終了位置、Q…巻径維持期間、D1,D2…変速率。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10