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特開2024-14364糖類含有化合物の精製方法および糖類含有化合物の精製キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014364
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】糖類含有化合物の精製方法および糖類含有化合物の精製キット
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/26 20060101AFI20240125BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20240125BHJP
   G01N 27/447 20060101ALI20240125BHJP
   C07K 2/00 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
C07K1/26
G01N33/53 V
G01N27/447 315C
G01N27/447 315J
C07K2/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022117135
(22)【出願日】2022-07-22
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100194250
【弁理士】
【氏名又は名称】福原 直志
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【弁理士】
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】金安 美雨
(72)【発明者】
【氏名】豊田 雅哲
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA20
4H045BA10
4H045GA30
(57)【要約】
【課題】目的の糖タンパク質から生じた糖類含有化合物を精製する精製方法及び糖類含有化合物の精製キットの提供。
【解決手段】糖タンパク質を含む混合試料を電気泳動し混合試料から分離する工程と、電気泳動後のゲルから膜に糖タンパク質を転写する工程と、転写された糖タンパク質をウエスタンブロッティング法を用いて標識する工程と、膜から標識された糖タンパク質のバンドを含む切片を切り出す工程と、切片に遊離試薬を含む液体を添加して糖タンパク質から遊離させた糖類含有化合物を含む混合液とし、混合液に精製剤を接触させて精製剤に糖類含有化合物を吸着させる工程と、混合液から分離した精製剤を水を含む溶液に接触させ、精製剤から水に糖類含有化合物を溶出させる工程と、を含み、精製剤は、ベタイン構造を有するポリマー、又はポリマーとポリマーを担持する支持体とを有する複合体の少なくともいずれか一方を含有する、糖類含有化合物の精製方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖タンパク質を含む混合試料を電気泳動し、前記混合試料から前記糖タンパク質を分離する工程と、
前記電気泳動を行ったゲルから膜に前記糖タンパク質を転写する工程と、
前記膜に転写された前記糖タンパク質を、ウエスタンブロッティング法を用いて可視化する工程と、
前記膜から、可視化された前記糖タンパク質のバンドを含む切片を切り出す工程と、
前記切片に遊離試薬を含む液体を添加して前記糖タンパク質から遊離させた糖類含有化合物を含む混合液とし、前記混合液に精製剤を接触させて前記精製剤に前記糖類含有化合物を吸着させる工程と、
前記混合液から分離した前記精製剤を、水を含む溶液に接触させ、前記精製剤から前記水に前記糖類含有化合物を溶出させる工程と、
を含み、
前記精製剤は、ベタイン構造を有するポリマー、又は前記ポリマーと前記ポリマーを担持する支持体とを有する複合体の少なくともいずれか一方を含有する、糖類含有化合物の精製方法。
【請求項2】
前記混合液は、0.01体積%~20体積%の水を含む、請求項1に記載の糖類含有化合物の精製方法。
【請求項3】
前記ベタイン構造はアニオン基と、カチオン基と、及び前記アニオン基と前記カチオン基とを連結するリンカーと、を有し、
前記アニオン基は、リン酸基、ホスホン酸基、カルボキシル基及びスルホン酸基からなる群より選択される基であり、
前記カチオン基は、4級アンモニウム基であり、
前記リンカーは炭素数1~4のアルキレン基である、請求項1に記載の糖類含有化合物の精製方法。
【請求項4】
前記アニオン基がリン酸基である請求項3に記載の糖類含有化合物の精製方法。
【請求項5】
前記ベタイン構造が、ホスホリルコリン基である請求項3に記載の糖類含有化合物の精製方法。
【請求項6】
前記支持体に固定された前記ポリマーの重量が、前記支持体の単位表面積(m)当たり0.5mg~1.5mgである請求項1に記載の糖類含有化合物の精製方法。
【請求項7】
前記支持体が、無機化合物を材料とする請求項6に記載の糖類含有化合物の精製方法。
【請求項8】
前記複合体の比重が、1.05~3.00である、請求項6に記載の糖類含有化合物の精製方法。
【請求項9】
前記複合体は、形状が球状であり、平均粒径が0.5μm~100μmである、請求項6に記載の糖類含有化合物の精製方法。
【請求項10】
前記ポリマーが、(メタ)アクリル化合物に由来する繰り返し単位を含む請求項1に記載の糖類含有化合物の精製方法。
【請求項11】
前記混合液は、少なくとも、前記糖類含有化合物を含む試料と、水と、有機溶媒と、塩とを含む、請求項1に記載の糖類含有化合物の精製方法。
【請求項12】
前記混合液の塩濃度は、0.01mmol/L~50mmol/Lである、請求項11に記載の糖類含有化合物の精製方法。
【請求項13】
請求項1~12いずれか1項に記載の糖類含有化合物の精製方法に用いられる糖類含有化合物の精製キットであって、
前記精製キットは、前記精製剤と、
キット使用のためのプロトコル情報と、を含む糖類含有化合物の精製キット。
【請求項14】
前記精製キットであって、
前記混合液に含まれる塩、をさらに含む、請求項13に記載の糖類含有化合物の精製キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖類含有化合物の精製方法および糖類含有化合物の精製キットに関する。
【背景技術】
【0002】
生体を構成するタンパク質の多くは、タンパク質を構成するアミノ酸の一部に糖鎖が結合した糖タンパク質として存在している。糖タンパク質は、細胞や生物の構造、免疫系、ホルモン、細胞間シグナル伝達等、生体内において、重要な役割を担っている。このような糖タンパク質の構造解析は、生命科学、医療、創薬等の種々の技術分野において、非常に重要視されており、検討されている。
【0003】
糖タンパク質の構造解析は、目的とする糖タンパク質をタンパク質混合溶液から分画する。さらに分画後の目的の糖タンパク質を消化酵素などによって分解し、生じる糖類や糖ペプチドを分析することによって行われる。構造解析の前処理段階として、目的の糖タンパク質を検出する方法が、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-152132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された糖タンパク質または多糖類の検出方法を用いると、染色した薄膜上の糖タンパク質または多糖類を検出することができる。検出された糖タンパク質や多糖類の量が十分に確保できれば、糖タンパク質や多糖類を構成する糖類含有化合物について、構造決定等の分析を行うことが可能となる。しかしながら、上記方法では、目的の糖タンパク質が微量である場合に、分画後の目的の糖タンパク質から糖類含有化合物を回収することが困難であり、改善が求められていた。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、微量の目的の糖タンパク質を検出し、目的の糖タンパク質から生じた糖類含有化合物を精製する精製方法を提供することを目的とする。また、微量の目的の糖タンパク質を検出し、目的の糖タンパク質から生じた糖類含有化合物を精製することが可能な糖類含有化合物の精製キットを提供することを併せて目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明の一態様は、以下の態様を包含する。
【0008】
〔1〕糖タンパク質を含む混合試料を電気泳動し、前記混合試料から前記糖タンパク質を分離する工程と、前記電気泳動を行ったゲルから膜に前記糖タンパク質を転写する工程と、前記膜に転写された前記糖タンパク質を、ウエスタンブロッティング法を用いて可視化する工程と、前記膜から、可視化された前記糖タンパク質のバンドを含む切片を切り出す工程と、前記切片に遊離試薬を含む液体を添加して前記糖タンパク質から遊離させた糖類含有化合物を含む混合液とし、前記混合液に精製剤を接触させて前記精製剤に前記糖類含有化合物を吸着させる工程と、前記混合液から分離した前記精製剤を、水を含む溶液に接触させ、前記精製剤から前記水に前記糖類含有化合物を溶出させる工程と、を含み、前記精製剤は、ベタイン構造を有するポリマー、又は前記ポリマーと前記ポリマーを担持する支持体とを有する複合体の少なくともいずれか一方を含有する、糖類含有化合物の精製方法。
【0009】
〔2〕前記混合液は、0.01体積%~20体積%の水を含む、〔1〕に記載の糖類含有化合物の精製方法。
【0010】
〔3〕前記ベタイン構造はアニオン基と、カチオン基と、及び前記アニオン基と前記カチオン基とを連結するリンカーと、を有し、前記アニオン基は、リン酸基、ホスホン酸基、カルボキシル基及びスルホン酸基からなる群より選択される基であり、前記カチオン基は、4級アンモニウム基であり、前記リンカーは炭素数1~4のアルキレン基である、〔1〕又は〔2〕に記載の糖類含有化合物の精製方法。
【0011】
〔4〕前記アニオン基がリン酸基である〔3〕に記載の糖類含有化合物の精製方法。
【0012】
〔5〕前記ベタイン構造が、ホスホリルコリン基である〔3〕又は〔4〕に記載の糖類含有化合物の精製方法。
【0013】
〔6〕前記支持体に固定された前記ポリマーの重量が、前記支持体の単位表面積(m)当たり0.5mg~1.5mgである〔1〕~〔5〕いずれか1つに記載の糖類含有化合物の精製方法。
【0014】
〔7〕前記支持体が、無機化合物を材料とする〔6〕に記載の糖類含有化合物の精製方法。
【0015】
〔8〕前記複合体の比重が、1.05~3.00である、〔6〕又は〔7〕に記載の糖類含有化合物の精製方法。
【0016】
〔9〕前記複合体は、形状が球状であり、平均粒径が0.5μm~100μmである、〔6〕~〔8〕いずれか1つに記載の糖類含有化合物の精製方法。
【0017】
〔10〕前記ポリマーが、(メタ)アクリル化合物に由来する繰り返し単位を含む〔1〕~〔9〕いずれか1つに記載の糖類含有化合物の精製方法。
【0018】
〔11〕前記混合液は、少なくとも、前記糖類含有化合物を含む試料と、水と、有機溶媒と、塩とを含む、〔1〕~〔10〕いずれか1つに記載の糖類含有化合物の精製方法。
【0019】
〔12〕前記混合液の塩濃度は、0.01mmol/L~50mmol/Lである、〔11〕に記載の糖類含有化合物の精製方法。
【0020】
〔13〕〔1〕~〔12〕いずれか1つに記載の糖類含有化合物の精製方法に用いられる糖類含有化合物の精製キットであって、前記精製キットは、前記精製剤と、キット使用のためのプロトコル情報と、を含む糖類含有化合物の精製キット。
【0021】
〔14〕前記精製キットであって、前記混合液に含まれる塩をさらに含む、〔13〕に記載の糖類含有化合物の精製キット。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、微量の目的の糖タンパク質を検出し、目的の糖タンパク質から生じた糖類含有化合物を精製する精製方法を提供することができる。また、微量の目的の糖タンパク質を検出し、目的の糖タンパク質から生じた糖類含有化合物を精製することが可能な糖類含有化合物の精製キットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、実施形態の精製方法で用いる精製剤の一例を示す模式図である。
図2図2は、実施形態の精製方法を実施する装置の一例を説明する模式図である。
図3図3は、実施例1と参考例1の結果を示すHPLCチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本明細書において、数値範囲について、「A以上B以下」を「A~B」と表記する場合がある。例えば「0.01体積%~20体積%」と記載した場合、0.01体積%から20体積%までの範囲であって下限値(0.01体積%)と上限値(20体積%)を含む数値範囲、すなわち「0.01体積%以上20体積%以下」を意味する。
【0025】
[第1実施形態]
本発明の一様態である第一実施形態の糖類含有化合物の精製方法は、下記(I)~(VII)の工程を含む。
(I)糖タンパク質を含む混合試料を電気泳動し、前記混合試料から前記糖タンパク質を分離する工程
(II)前記電気泳動を行ったゲルから膜に前記糖タンパク質を転写する工程
(III)前記膜に転写された前記糖タンパク質を、ウエスタンブロッティング法を用いて可視化する工程
(IV)前記膜から、可視化された前記糖タンパク質のバンドを含む切片を切り出す工程
(V)前記切片に遊離試薬を含む液体を添加し前記糖タンパク質から糖類含有化合物を遊離させ、得られた混合液に精製剤を接触させ、前記精製剤に前記糖類含有化合物を吸着させる工程
(VI)前記混合液から分離した前記精製剤を、水を含む溶液に接触させ、前記精製剤から前記水に前記糖類含有化合物を溶出させる工程
【0026】
ここで、本明細書においては、以下のように用語を定義する。
「糖類」とは、単糖及び糖鎖をまとめた集合を指す。単糖は、誘導体であってもよい。「糖鎖」とは、2以上の単糖がグリコシド結合により直鎖状又は分岐鎖状につながった化合物を指す。糖鎖を構成する単糖は、誘導体であってもよい。
「糖ペプチド」は、糖類により修飾されたペプチドのことを指す。
「糖類含有化合物」は、糖類及び糖ペプチドをまとめた総称である。
「糖タンパク質」は、糖鎖修飾を受けたタンパク質のことをさす。
【0027】
「糖タンパク質を含む混合試料」としては、糖タンパク質を含有している可能性のある試料であれば特に制限はない。糖タンパク質を含む混合試料としては、生体試料及び環境試料を挙げることができる。このような試料としては、例えば、全血、血清、血漿、尿、唾液、糞便、脳脊髄液、細胞、細胞培養物及び細胞組織等の生体試料が挙げられる。生体試料は、未精製のものであってもよく、脱脂、脱塩、電気泳動等のタンパク質分画、熱変性等の必要な前処理を行ったものであってもよい。
【0028】
上記試料は、有機溶媒の溶液であってもよく、水溶液であってもよい。
【0029】
以下の説明においては、糖類含有化合物の精製方法を単に「精製方法」と称することがある。以下、精製方法について、順に説明する。
【0030】
[工程(I)]
本実施形態の精製方法では、糖類含有化合物を含む試料として、糖タンパク質を含む混合試料を精製対象とする。複数種類の糖タンパク質を含む混合試料を対象とし、通常知られた電気泳動を行うことにより、ゲル上で混合試料を複数のバンドに分離する(工程(I))。
【0031】
電気泳動としては、以下に制限されないが、例えば、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)を挙げることができる。
電気泳動に用いるゲルは、ゲル全体で濃度が一定のものであってもよく、濃度勾配ゲルであってもよい。また、電気泳動時には、有色の分子量マーカーやコントロールサンプルを一緒に泳動させてもよい。
【0032】
[工程(II)]
次いで、糖タンパク質を複数のバンドに分離したゲルから、膜に糖タンパク質を転写する。具体的には、電気泳動で分離した糖タンパク質を、ゲルから疎水性膜(例えば、PVDF膜)に公知の方法により転写する(工程(II))。糖タンパク質の転写に用いるトランスファーバッファやブロッターは、通常知られたものを用いることができる。
【0033】
工程(II)において、用いられる膜は、親水性膜であってもよく、疎水性膜が好ましい。親水性膜としては、たとえば、ニトロセルロ-ス膜、ナイロン膜等を挙げることができる。疎水性膜としては、たとえば、PVDF膜等を挙げることができる。
【0034】
[工程(III)]
次いで、膜に転写した糖タンパク質を、ウエスタンブロッティング法を用いて可視化する(工程(III))。糖タンパク質のバンドが存在しない膜の表面部分に、目的のタンパク質を特異的に捉える抗体(一次抗体)が非特異的に結合しないようにブロッキング処理を行う。次に、糖タンパク質を転写した膜に、一次抗体を作用させる。次に、洗浄後の疎水性膜に、標識物質(酵素又は蛍光体)で標識した抗体(二次抗体)を作用させる。ここで、一次抗体は、二次抗体によって特異的に捉えられる。その後、化学発光法、物理的発色法又は蛍光検出等によって、目的の糖タンパク質を可視化して検出する。検出には、通常用いられる公知の検出器を使用することができる。工程(III)では、その他通常知られたウエスタンブロッティング法を用いることができる。
【0035】
標識物質の酵素としては、たとえば、HRP(西洋ワサビペルオキシダーゼ)、AP(アルカリフォスファターゼ)を挙げることができる。その他通常知られた酵素標識抗体を用いることができる。
【0036】
標識物質の蛍光体としては、たとえば、フルオロセイン等が挙げられる。
【0037】
ウエスタンブロッティング法を用いることによって、目的の糖タンパク質を特異的に高感度で検出することが可能となる。したがって、微量である目的の糖タンパク質の膜上のバンドの位置を確認し、切り出すこと(工程(IV))を容易にする。
【0038】
本実施形態では、一次抗体及び二次抗体により目的の糖タンパク質を高感度で検出する方法を記載したが、一次抗体を高感度で検出する方法はこれに限られず、例えば、一次抗体に特異的に結合する二次抗体以外の物質により高感度で検出することができる。
【0039】
[工程(IV)]
次いで、糖タンパク質が転写された膜から、工程(III)により特異的に可視化された目的の糖タンパク質のバンドを含む切片を切り出す(工程(IV))。
【0040】
[工程(V)]
次いで、切片に遊離試薬を含む液体を添加し、糖タンパク質から糖類含有化合物を遊離させ、混合液を得る(工程(V))。工程(IV)で切り出した切片を、サンプル管やマイクロチューブ等の容器に集め、糖鎖遊離試薬を加えることで、切片に転写されている糖タンパク質から、糖鎖を遊離させる。これにより、上述の工程(V)で示した混合液を得る。
【0041】
工程(V)の糖鎖遊離処理は、糖タンパク質から糖鎖を遊離することができるものであれば、特に制限はなく、酵素的処理及び化学的処理等を用いることができる。また、糖鎖遊離処理に先立って、糖タンパク質や糖ペプチド等に対してタンパク質分解酵素を作用させ、タンパク質及びペプチド部分の断片化処理等を行ってもよい。
【0042】
(糖鎖遊離試薬)
糖鎖遊離試薬としては、糖鎖遊離酵素を採用することができる。糖鎖遊離酵素としては、アスパラギン側鎖に結合したN型糖鎖を特異的に切断する糖切断酵素(例えば、PNGase F)を用いることができる。また、糖鎖を遊離させる公知の方法で採用される試薬を、糖鎖遊離試薬として採用することができる。このような公知の方法としては、O型糖鎖遊離法である「脱離オキシム化法」を挙げることができる。
【0043】
精製剤を混合液に接触させて、精製剤に糖類含有化合物を吸着させる(工程(V))。これにより、用いる精製剤に試料中の糖類含有化合物を吸着させる。混合液は、少なくとも、糖類含有化合物を含む試料と、有機溶媒を含んでいればよい。
【0044】
(精製剤)
本願発明においては、精製剤は、下記の(A)(B)の少なくともいずれか一方を含有する。
(A)ベタイン構造を有するポリマー
(B)ベタイン構造を有するポリマーと、当該ポリマーを担持する支持体と、を有する複合体
【0045】
本実施形態の糖類含有化合物の精製方法で用いる上記(A)(B)の精製剤は、いずれもベタイン構造を有する。このような精製剤は、ベタイン構造を有する部分において、試料中の糖類含有化合物を吸着する。
【0046】
「ベタイン構造」とは、下記(a)~(c)の要件を満たす分子構造を意味する。
(a)正電荷と負電荷を同一分子構造内の隣り合わない位置に有する。
(b)正電荷を持つ原子には解離しうる水素が結合していない。
(c)分子構造全体としては電荷を持たない。
【0047】
精製剤は、工程(V)で調製する混合液中で上記(a)~(c)を満たす構造(ベタイン構造)を有する。すなわち、精製剤には、単独でベタイン構造を分子内に有するポリマー及び複合体の他、混合液に入れることで初めて分子内にベタイン構造が生じるポリマー及び複合体も含まれる。精製剤については、後に詳述する。
【0048】
(混合液)
混合液は、工程(V)において、少なくとも、糖類含有化合物を含む試料と、有機溶媒とを混合したものであり、精製剤に前記糖類含有化合物を吸着させるものとして用いる。
【0049】
有機溶媒、又は有機溶媒と水との混合溶媒は、精製対象である糖類含有化合物の種類に応じて選択することができる。
【0050】
混合液に用いられる有機溶媒としては、糖類含有化合物を溶解可能なものである限り特に制限はない。例えば、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、アセトン、ジオキサン、ピリジン、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、および1-ブタノール等を挙げることができる。これらの有機溶媒は、1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。混合液に用いられる有機溶媒は、アセトニトリル、1-ブタノール又はエタノールが好ましい。
【0051】
混合液は、0.01体積%~20体積%の水を含むことが好ましく、0.1体積%~15体積%の水を含むことがより好ましく、0.5体積%~12体積%の水を含むことがさらに好ましい。混合液が上記量の水を含むことにより、糖類を効果的に精製剤に吸着させることができる。
【0052】
工程(V)において、少なくとも、糖類含有化合物を含む試料と、精製剤とを混合して混合液を調製することにより、混合液の中では、効果的に精製剤に試料中の糖類含有化合物が吸着される。この際、糖類含有化合物と比べ、相対的に親水性が低い夾雑物(タンパク、ペプチド、脂質、塩等)は、精製剤に吸着されず、混合液中に遊離状態で残存する。
【0053】
(濃縮対象)
ここで、用いる精製剤は、あらゆる糖類を濃縮対象とする。
【0054】
糖類を構成する単糖又はその誘導体としては、グルコース、ガラクトース、マンノース、フコース、キシロース、アラビノース、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、シアル酸、及びこれらの誘導体が挙げられる。
【0055】
精製剤で濃縮する糖類としては、単糖及びその誘導体、多糖類、糖タンパク質、並びに、糖ペプチド、プロテオグリカン、及び、糖脂質等の複合糖質から遊離又は誘導された糖鎖等が挙げられるが、これらに限定されない。特に、本実施形態で用いる精製剤は、単糖や二糖等の小さな糖をも効率的に吸着することができる。
【0056】
ここで、糖タンパク質を構成する糖類は、主にアスパラギン残基に糖類が結合するN-グリコシド結合糖鎖(N型糖鎖)、及び、セリン及びスレオニン等と結合するO-グリコシド結合糖鎖(O型糖鎖)の2種類に大別される。本実施形態で用いる精製剤は、いずれの糖類をも濃縮対象とし、糖類の種類、鎖長、構造等は特に制限されない。したがって、上記精製剤は、例えば、分子量が小さなO型糖鎖を、多量に存在する糖類以外の夾雑物(タンパク、ペプチド、脂質、塩等)の影響を最小限に抑え、特異的かつ効率的に吸着することができる。
【0057】
[工程(VI)]
次いで、糖類含有化合物を吸着させた精製剤を混合液から分離し、分離した精製剤を、水を含む溶液に接触させる(工程(VI))。これにより、精製剤から水に糖類含有化合物を溶出させる。
【0058】
工程(VI)においては、まず、混合液から精製剤を分離する。分離後には、精製剤を洗浄すると良い。洗浄により、精製剤に捕捉された糖類含有化合物以外の夾雑物を除去することができる。
【0059】
洗浄は、糖類含有化合物を吸着させた精製剤を、マイクロチューブ、遠心管、マイクロプレート等の容器中で洗浄液に浸漬し、洗浄液の交換を繰り返すことにより行うことができる。例えば、容器に精製剤を入れ、洗浄液を加え、振とう又は撹拌した後、固液分離により液相部分を除去する操作を繰り返すことにより行う。また、フィルター入りチューブを使用することで、精製剤の回収を効率的に行うことができる。
【0060】
次いで、糖類含有化合物を吸着させた精製剤から糖類含有化合物を溶出させる。糖類含有化合物の溶出は、精製剤を溶出液に浸漬することによって行う。例えば、精製剤から十分に洗浄液を取り除いた後、マイクロチューブ、遠心管、マイクロプレート等の容器中で精製剤に溶出液を加え、振とう又は撹拌することで行う。
【0061】
溶出液には、水を含む溶液を用いる。具体的には、溶出液は有機溶媒と水との混合溶媒であってもよい。有機溶媒としては、混合液に用いられる有機溶媒として提示した有機溶媒が挙げられる。混合溶媒を使用する場合は、溶出液中の水の含有率は25体積%以上であるとよい。
【0062】
また、溶出液は、前記標識物質とは異なる標識試薬を含んでもよい。溶出液を、標識試薬を含んだ状態で加熱することによって、溶出液に含まれる糖類含有化合物を標識し、LC-MS等で解析することができる。
標識試薬としては、たとえば、2-アミノベンズアミド(2-aminobenzamide)、2-アミノ安息香酸(2-aminobenzoic acid)等が挙げられる。
なお、上記標識試薬は、溶出液中に含めず、溶出後に添加してもよい。
【0063】
工程(VI)で、精製された糖類含有化合物をLC-MS等で解析してもよい。糖類含有化合物の解析方法としては、たとえば、キャピラリー電気泳動(CE)、液体クロマトグラフィー(LC)等を挙げることができる。
【0064】
このようにして、試料に含まれる糖類含有化合物を精製することができる。必要に応じて、糖類含有化合物が溶出した溶出液から、溶出液のみを留去することにより、糖類含有化合物を濃縮することもできる。
【0065】
本実施形態の精製方法においては、従来の方法と比べ、微量の目的の糖タンパク質を検出し、目的の糖タンパク質から生じた糖類含有化合物を精製することができる。特に、本実施形態の精製方法においては、従来の方法と比べ、単糖の回収量が顕著に多く、効率的に糖類含有化合物を精製することができる。
【0066】
また、工程(III)の後、一次抗体や標識抗体を剥離する抗体剥離処理を行わずに、後続の工程(IV)~(VI)を行うことができるため、糖タンパク質への影響を軽減することができる。
【0067】
以下、用いる精製剤について、さらに詳細に説明する。
【0068】
(精製剤)
精製剤に含まれるベタイン構造は、具体的には、下記式(1)又は式(2)のいずれかの構造である。下記式(1)又は式(2)のいずれかの構造を分子内に有する化合物は、分子末端にベタイン構造を有する。
-Z-L-A …(1)
-A-L-Z …(2)
[式(1)(2)中、Zは、2級アミノ基、3級アミノ基、4級アンモニウム基、イミノ基及びイミニウム基からなる群より選択されるカチオン基を表す。
Lは、炭素数1~10のアルキレン基を表す。
Aは、リン酸基、カルボキシル基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、スルホン酸基、スルフィン基、スルフェン基、水酸基、チオール基及びボロン酸基からなる群より選択されるアニオン基を表す。]
【0069】
すなわち、精製剤におけるベタイン構造は、アニオン基と、カチオン基と、アニオン基とカチオン基とを連結するリンカーと、を有する。
【0070】
カチオン基としては、2級アミノ基(-NHR)、3級アミノ基(-NR)、4級アンモニウム基(-N)、イミノ基(-C(=NR)-)及びイミニウム基(-C(=N)-)が挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0071】
カチオン基が有するRは、アルキル基又はアリール基であり、アルキル基が好ましい。アルキル基は直鎖状であってもよく、分岐していてもよい。カチオン基が複数のRを有する場合、複数のRはそれぞれ異なっていてもよく同一であってよい。Rは、例えば炭素数1~3のアルキル基が好ましい。
【0072】
カチオン基として、4級アンモニウム基が好ましい。上記式(2)においては、カチオン基は、トリメチルアンモニウム基がより好ましい。
【0073】
カチオン基は、陰イオンとイオン結合し、塩を形成してもよい。このようなカチオン基であっても、混合液中では陰イオンが脱離し、カチオン基として機能する。カチオン基とイオン結合する陰イオンとしては、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、塩酸イオン、酢酸イオン、硫酸イオン、フッ化水素酸イオン、及び炭酸イオンを挙げることができる。
【0074】
式(1)(2)中、Lで表される基は、カチオン基とアニオン基とを接続するリンカーである。リンカーであるアルキレン基は、直鎖状であってもよく、環状であってもよく、分岐構造を有していてもよいが、直鎖状が好ましい。アルキレン基の炭素数は、2~5が好ましい。
【0075】
アニオン基としては、例えば、リン酸基(-OP(=O)(OH))、カルボキシル基(-COOH)、ホスホン酸基(-P(=O)(OH))、ホスフィン酸基(-P(=O)R(OH))、スルホン酸基(-SOH)、スルフィン基(-S(=O)OH)、スルフェン基(-SOH)、水酸基(-OH)、チオール基(-SH)、及びボロン酸基(-B(OH))等が挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0076】
アニオン基としては、リン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基及びカルボキシル基が好ましく、リン酸基及びカルボキシル基がより好ましい。
【0077】
アニオン基は、陽イオンとイオン結合し、塩を形成してもよい。このようなアニオン基であっても、混合液中では陽イオンが脱離し、アニオン基として機能する。アニオン基とイオン結合する陽イオンとしては、ナトリウムイオンやカリウムイオン等のアルカリ金属イオン、及びカルシウムイオン等のアルカリ土類金属イオン等を挙げることができる。
【0078】
精製剤におけるベタイン構造において、カチオン基とアニオン基の組み合わせは特に制限はない。好ましい組み合わせは、アニオン基が、リン酸基、ホスホン酸基、カルボキシル基及びスルホン酸基からなる群より選択される基であり、カチオン基が4級アンモニウム基であり、リンカーが炭素数1~4のアルキレン基である。
【0079】
また、精製剤が有するベタイン構造において、アニオン基はリン酸基がより好ましい。さらに、精製剤が有するベタイン構造において、ベタイン構造を示す部分は、ホスホリルコリン基であると好ましい。
【0080】
((A)ベタイン構造を有するポリマー)
精製剤は、上記式(1)又は(2)で表されるベタイン構造を有するポリマー(高分子)であってもよい。以下の説明では、「ベタイン構造を有するポリマー」を「ポリマーA」と称することがある。
【0081】
ポリマーAは、直鎖状であってもよく、分岐構造を有していてもよい。
【0082】
ポリマーAが分岐構造を有する場合、主鎖がベタイン構造を有していてもよく、側鎖がベタイン構造を有していてもよい。側鎖がベタイン構造を有する場合、ポリマーAは、全ての側鎖がベタイン構造を有してもよく、側鎖の一部がベタイン構造を有してもよい。ベタイン構造を有していない側鎖は、電荷を有していてもよく、有していなくてもよい。
【0083】
ポリマーAの主鎖には、特に制限はない。主鎖は、(メタ)アクリル化合物に由来する繰り返し単位を含むことが好ましく、(メタ)アクリル酸エステル又は(メタ)アクリル酸エステルの誘導体に由来する繰り返し単位を含むとより好ましい。
【0084】
さらに、主鎖には、上記繰り返し単位と共重合可能な繰り返し単位を含んでもよい。このような共重合可能な繰り返し単位としては、ビニル基、アリル基、α-アルコキシメチルアクリロイル基、マレイン酸残基、フマル酸残基、イタコン酸残基、クロトン酸残基、イソクロトン酸残基、及びシトラコン酸残基に由来する繰り返し単位を挙げることができる。
【0085】
ポリマーAは、ベタイン構造を有する重合性単量体の重合体であると好ましい。ベタイン構造を有する重合性単量体としては、公知の単量体を用いることができる。例えば、(i)ホスホベタイン基を有するホスホベタイン系単量体、(ii)カルボキシベタイン基を有するカルボキシベタイン系単量体、(iii)スルホベタイン基を有するスルホベタイン系単量体等が挙げられる。
【0086】
(i)ホスホベタイン系単量体としては、ホスホリルコリン基を有する重合性単量体が好ましい。例えば、
2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、
2-(メタ)アクリロイルオキシエトキシエチルホスホリルコリン、
6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルホスホリルコリン、
10-(メタ)アクリロイルオキシエトキシノニルホスホリルコリン、
2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルホスホリルコリン、
2-(メタ)アクリロイルオキシブチルホスホリルコリン
が挙げられる。以上の単量体は、式(2)におけるAがリン酸基、Zが4級アンモニウム基、Lがエチレン基であるベタイン構造を有する。
【0087】
なかでも、入手が容易であることから、ホスホベタイン系単量体としては、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンが好ましく、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)がより好ましい。
【0088】
更に、ホスホベタイン系単量体として、上記式(1)で表されるベタイン構造を有する単量体を用いることもできる。例えば、
・ジメチル(2-メタクリロイルオキシエチル)(ホスホナトメチル)アミニウム、ジメチル(2-アクリロイルオキシエチル)(ホスホナトメチル)アミニウム(上記式(1)のAがホスホン酸基、Zが4級アンモニウム基、Lがメチレン基)
・ジメチル(2-メタクリロイルオキシエチル)(2-ホスホナトエチル)アミニウム、ジメチル(2-アクリロイルオキシエチル)(2-ホスホナトエチル)アミニウム(上記式(1)のAがホスホン酸基、Zが4級アンモニウム基、Lがエチレン基)
・ジメチル(2-メタクリロイルオキシエチル)(3-ホスホナトプロピル)アミニウム、ジメチル(2-アクリロイルオキシエチル)(3-ホスホナトプロピル)アミニウム(上記式(1)のAがホスホン酸基、Zが4級アンモニウム基、Lがプロピレン基)
・ジメチル(2-メタクリロイルオキシエチル)(4-ホスホナトブチル)アミニウム、ジメチル(2-アクリロイルオキシエチル)(4-ホスホナトブチル)アミニウム(上記式(1)のAがホスホン酸基、Zが4級アンモニウム基、Lがブチレン基)
が挙げられる。
【0089】
カルボキシベタイン系単量体としては、上記式(1)で表されるベタイン構造を有する単量体を用いることができる。例えば、
・ジメチル(2-メタクリロイルオキシエチル)(カルボキシラトメチル)アミニウム、ジメチル(2-アクリロイルオキシエチル)(カルボキシラトメチル)アミニウム(上記式(1)のAがカルボキシル基、Zが4級アンモニウム基、Lがメチレン基)
・ジメチル(2-メタクリロイルオキシエチル)(2-カルボキシラトエチル)アミニウム、ジメチル(2-アクリロイルオキシエチル)(2-カルボキシラトエチル)アミニウム(上記式(1)のAがカルボキシル基、Zが4級アンモニウム基、Lがエチレン基)・ジメチル(2-メタクリロイルオキシエチル)(3-カルボキシラトプロピル)アミニウム、ジメチル(2-アクリロイルオキシエチル)(3-カルボキシラトプロピル)アミニウム(上記式(1)のAがカルボキシル基、Zが4級アンモニウム基、Lがプロピレン基)
・ジメチル(2-メタクリロイルオキシエチル)(4-カルボキシラトブチル)アミニウム、ジメチル(2-アクリロイルオキシエチル)(4-カルボキシラトブチル)アミニウム(上記式(1)のAがカルボキシル基、Zが4級アンモニウム基、Lがブチレン基)が挙げられる。
【0090】
スルホベタイン系単量体としては、上記式(1)で表されるベタイン構造を有する単量体を用いることができる。例えば、
・ジメチル(2-メタクリロイルオキシエチル)(スルホナトメチル)アミニウム、ジメチル(2-アクリロイルオキシエチル)(スルホナトメチル)アミニウム(上記式(1)のAがスルホン酸基、Zが4級アンモニウム基、Lがメチレン基)
・ジメチル(2-メタクリロイルオキシエチル)(2-スルホナトエチル)アミニウム、ジメチル(2-アクリロイルオキシエチル)(2-スルホナトエチル)アミニウム(上記式(1)のAがスルホン酸基、Zが4級アンモニウム基、Lがエチレン基)
・ジメチル(2-メタクリロイルオキシエチル)(3-スルホナトプロピル)アミニウム、ジメチル(2-アクリロイルオキシエチル)(3-スルホナトプロピル)アミニウム(上記式(1)のAがスルホン酸基、Zが4級アンモニウム基、Lがプロピレン基)
・ジメチル(2-メタクリロイルオキシエチル)(4-スルホナトブチル)アミニウム、ジメチル(2-アクリロイルオキシエチル)(4-スルホナトブチル)アミニウム(上記式(1)のAがスルホン酸基、Zが4級アンモニウム基、Lがブチレン基)
が挙げられる。
【0091】
これらのベタイン構造を有する重合性単量体としては、ホスホベタイン系単量体が好ましく、ホスホリルコリン基を有するホスホベタイン系単量体がより好ましい。
【0092】
((B)ベタイン構造を有するポリマーと、ポリマーを担持する支持体と、を有する複合体)
精製剤としては、上記ポリマーAを単独で用いてもよく、ポリマーAを不溶性の支持体に担持させた複合体として用いてもよい。上記ポリマーAを不溶性の支持体に担持させた複合体は、糖類含有化合物を吸着させた後、混合液から分離しやすく、精製操作が簡便になるため好ましい。
【0093】
図1は、本実施形態の精製方法で用いる精製剤の一例を示す模式図である。図1に示すように、精製剤1は、ベタイン構造を有するポリマー(ポリマーA)と、当該ポリマーを担持する支持体2とを有する複合体である。図1に示す精製剤1では、支持体2が球状(粒子状)であり、ベタイン構造を有するポリマーは、支持体2の表面に層状に設けられている。図1では、層状に設けられたポリマーの層を符号3で示しており、層3を構成するベタイン構造を有するポリマーを符号3aで示している。
【0094】
(支持体)
図1では、支持体2を、球状であることとして示したがこれに限らない。例えば、支持体の形状は、基板やマルチウェルプレート等の板状、シートやフィルム、メンブレン等の膜状、繊維状であってもよい。
【0095】
支持体2が球状であり、精製剤1が球状である場合、精製剤1の平均粒径は、0.5μm以上100μm以下が好ましく、1μm以上50μm以下がより好ましく、1μm以上10μm以下がさらに好ましく、3μm以上10μm以下が特に好ましい。精製剤1の平均粒径が上記下限値以上であると、取り扱いが容易となり好ましい。また、精製剤1の平均粒径が上記上限値以下であると、工程(I)で調製する混合液中で、糖類含有化合物と精製剤1とを良好に接触させ、精製剤1に糖類含有化合物を吸着させやすいため好ましい。
【0096】
精製剤1の平均粒径は、例えば、粒度分布計等で測定することができる。
【0097】
精製剤1は、スピンカラム等のフィルターカップ、マルチウェルプレートの各ウェル、フィルタープレートの各ウェル、マイクロチューブ等の容器の中に充填された状態で用いてもよい。
【0098】
また、図1では、ポリマー3aが支持体2の表面の全体を覆っているが、これに限らず、支持体2の表面が露出していてもよい。
【0099】
支持体2の材料は、糖類含有化合物の精製過程で使用する有機溶媒及び水に不溶な基材であり、上述のベタイン構造を有するポリマー(ポリマーA)を担持できるものを採用できる。このような支持体2の材料は、無機材料(無機化合物)であってもよく、有機材料であってもよく、無機材料と有機材料との複合材料であってもよい。
【0100】
無機材料としては、ガラス、酸化鉄(フェライト、マグネタイト等)、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア等の酸化物、鉄、銅、金、銀、白金、コバルト、アルミニウム、パラジウム、イリジウム、ロジウム等の金属及びその合金、グラファイト等の炭素材料等が挙げられる。
これらの材料は1種のみで用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0101】
有機材料としては、架橋ポリビニルアルコール、架橋ポリアクリレート、架橋ポリアクリルアミド、架橋ポリスチレン等の合成高分子、架橋セファロース、結晶性セルロース、架橋セルロース、架橋アミロース、架橋アガロース、架橋デキストラン等の多糖類等が挙げられる。
これらの材料は1種のみで用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0102】
支持体2としては、無機材料を用いることが好ましい。支持体2となりうる有機材料は比重が1前後であり、精製で用いる混合液との比重差が小さい。そのため、支持体2の材料として有機材料を採用すると、固液分離が煩雑になることがある。一方、支持体2の材料として無機材料を用いると、容易かつ簡便に混合液と精製剤とを固液分離できる。これにより、作業効率の向上に寄与することができる。
支持体2の材料としては、シリカが特に好ましい。
【0103】
支持体2は、多孔質体であってもよい。多孔質の支持体2を用いることにより、支持体2表面に固定するベタイン構造を有するポリマーAの量を増加できる。これにより、作業効率の向上に寄与することができる。
【0104】
また、空隙を有する支持体と空隙を有さない支持体とを併用する、または、多孔質体である支持体の空隙の量を調製することにより、精製剤全体の比重を調製することもできる。
【0105】
ポリマーAを支持体の表面に担持させる方法は、物理吸着、又は、化学結合のいずれであってもよい。糖類含有化合物の精製過程において、支持体からポリマーAが遊離し難いため、上記担持させる方法は、化学結合が好ましい。
【0106】
例えば、表面に水酸基等の反応点を有する支持体の存在下、上述した重合性単量体を重合させることにより、支持体表面に重合体を結合させ担持させることができる。その他、WO2019/088167に記載の公知の方法により、支持体の表面にポリマーAを担持させることができる。
【0107】
このような精製剤1において、支持体2に結合しているポリマーAの重量は、支持体2の単位表面積(m)当たり0.5mg以上1.5mg以下が好ましく、0.6mg以上1.3mg以下がより好ましく、0.7mg以上1.2mg以下がさらに好ましい。単位表面積当たりのポリマー重量が上記範囲であると、ポリマーAの重合時に支持体2からポリマーAを成長させやすく、ポリマー合成時のハンドリングが良好となる。また、精製剤1において、ポリマーAと糖類含有化合物とを接触させやすく、糖類含有化合物を効率よく吸着させることができる。
【0108】
支持体2に結合しているポリマーAの重量は、精製剤を熱重量分析することで求められる重量減少率と、支持体2について窒素吸着法で求めるBET比表面積とから、求めることができる。
【0109】
このような精製剤の比重は、1.05~3.00であると好ましく、1.1~2.7であるとより好ましく、1.5~2.5であるとさらに好ましい。精製剤の比重が下限値以上であることにより、精製剤を沈降させやすく固液分離の操作が容易となる。また、精製剤の比重が上限以下であることにより、工程(V)で調製する混合液において精製剤を分散させやすい。これにより、工程(V)で調製する混合液において、精製剤と糖類含有化合物とを接触させやすく、精製剤に糖類含有化合物を吸着させやすい。
【0110】
上記構成の精製剤を用いることにより、効果的に本実施形態の精製方法を実施可能である。
【0111】
(塩)
工程(V)においては、糖鎖遊離試薬により糖タンパク質から糖類含有化合物を遊離させた後に塩を加え、混合液を得てもよい。または、糖鎖遊離試薬により糖タンパク質から糖類含有化合物を遊離させる際に塩も加えておくことで、混合液を得てもよい。糖類含有化合物を遊離させる際に塩を加えておくことで、上記工程(VI)において回収される糖類含有化合物の量を増加させることができる。
【0112】
混合液の塩濃度は、0.01mmol/L~50mmol/Lであると好ましく、0.01mmol/L~40mmol/Lであるとより好ましく、0.01mmol/L~30mmol/Lであるとさらに好ましい。混合液の塩濃度が上記の範囲であることにより、精製剤から離れた自由水を水和水とすることができ、その結果糖類を効果的に精製剤に吸着させることができる。
【0113】
混合液に含まれる塩は、極性溶媒に可溶であり、水溶性を有すると好ましい。用いる塩は、アルカリ金属塩を含むと好ましい。アルカリ金属塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウムを挙げることができ、入手しやすいことから塩化ナトリウムが好ましい。
【0114】
発明者らは、混合液に塩を加えることの効果について、次のように考えている。精製剤の一例として、ベタイン構造としてホスホリルコリン基を含有するポリマーと、ポリマーを担持するシリカ粒子(支持体)とを有する複合体(上記(B)の精製剤)を用いた場合について説明する。ホスホリルコリン基は、本発明における「ベタイン構造」を示す部分に該当する。
【0115】
精製剤は、ホスホリルコリン基(ベタイン構造)が有する電荷により、親水性が高い。このような精製剤では、ポリマー鎖近傍に混合液中の水分子を引き付ける。これにより、精製剤は、ポリマー鎖が引き付けた水分子を介して、シリカ粒子の表面の水酸基と混合液中の糖類との相互作用を促し、糖類を吸着する。
【0116】
混合液中に塩が溶解していると、混合液中では、塩の少なくとも一部は電離し、イオンを生じる。生じたイオンに対しては水分子が水和するため、ポリマー鎖やイオンによる束縛を受けておらず糖類に水和可能な水分子(自由水)が減少する。その結果、塩が存在しない場合と比べて、精製剤のポリマー鎖近傍に糖類がより近づきやすくなり、上記メカニズムによる吸着が促進される。
その結果、糖類含有化合物の吸着の効率が向上すると考えられる。
【0117】
[糖類含有化合物の精製キット]
本実施形態に係る糖類含有化合物の精製キットは、上述の精製剤、及び精製キット使用のためのプロトコル情報を含む。さらに、上述の混合液を作製するための塩(混合液に含まれる塩)を含んでいてもよい。
【0118】
プロトコル情報は、使用説明書に収録されている。使用説明書は、紙又はその他の媒体に書かれたもの又は印刷されたものでもよく、磁気テープ、磁気ディスク、光ディスク等の電子媒体に記録されたものでもよい。
【0119】
糖類含有化合物の精製キットは、更に、当該キットを実施するために必要な試薬類を含めることができる。試薬類としては、例えば、糖類含有化合物を含む試料と、水と、有機溶媒と、塩とを混合した混合液のpHを調製するための緩衝液、精製剤の洗浄に用いる洗浄液、糖類含有化合物を吸着させた精製剤から糖類含有化合物を溶出させる溶出液等が挙げられる。
【0120】
これらの試薬類は、凍結乾燥粉末の形態で提供されてもよい。試薬類が凍結乾燥粉末として提供される場合、精製キットには、凍結乾燥粉末を溶解、希釈するための希釈液を含んでいてよい。
【0121】
糖類含有化合物の精製キットは、フィルターカップ、マルチウェルプレート、フィルタープレート、マイクロチューブ等の容器類を含んでいてよい。容器類には、上述の精製剤が充填されていてもよい。
【0122】
このように、糖類含有化合物の精製に必要な精製剤、混合液を作製するための塩及びプロトコル情報をキット化することにより、糖類含有化合物の精製をより簡便に行うことができる。
【0123】
図2は、本実施形態の精製方法を実施する装置の一例を説明する模式図である。装置100は、精製剤10を収容した容器15を保持する保持部20と、容器15に試薬を導入する導入部30とを備える。装置100は、容器15の収容物を固液分離する分離部40を備えていてもよい。また、装置100は、容器15の収容物の温度を調節する温度調節部60を更に備えていてもよい。
【0124】
保持部20は、精製剤10を収容した容器15を直接又は間接的に保持する。装置100では保持部20が回収容器16を保持し、容器15が回収容器16に装着されていることで、保持部20が容器15を間接的に保持している。回収容器16は、例えばコレクションチューブ、コレクションプレート等を挙げることができる。
【0125】
導入部30は、保持部20に保持された容器15内に液体類(試料L1、有機溶媒と塩とを含む液L2、洗浄液L3、溶出液L4)を導入する。導入部30は、液体類をそれぞれ収容したタンク34と、タンク34が収容した液体類を送液する送液管35aと、液体類を容器15に導入するノズル35とを備えている。送液管35aは、各タンク34に分岐している。分岐した各送液管35aには、各液体類の送液を制御する弁(36,37,38,39)を備える。
【0126】
分離部40は、容器15の収容物から固体(精製剤10)と液体とを分離する。容器15には、回収容器16が装着されていてもよい。
【0127】
分離部40は、容器15を保持するラック41と、ラック41が接続されるドライブシャフト42と、ドライブシャフト42を回転させるモーター43とを備えている。
【0128】
分離部40は、保持部20から独立して構成されてもよい。この場合、装置100は、保持部20から分離部40へ、容器15を自動移送させる移送部50を含んでいてもよい。
【0129】
分離部40は、遠心力によって、精製剤10に固定された糖類含有化合物を容器15内に残すとともに、洗浄液を回収容器16中に廃棄することができる。また、溶出過程においては、糖類含有化合物を含む溶出液を回収容器16中に回収することができる。
【0130】
装置100においては、精製剤10を収容する容器15を保持部20にて保持し、導入部30を用いて容器15に試料L1、有機溶媒と塩とを含む液L2を導入する。これにより、容器15で混合液L5を調製し、試料L1に含まれる糖類含有化合物を精製剤10に吸着させる。
【0131】
次いで、分離部40を用いて混合液L5を固液分離し、容器15から液相を抜き出す。固体である精製剤10が残された容器15に対し、導入部30を用いて洗浄液L3を導入し分離部40を用いて固液分離することで、精製剤10の洗浄を行う。
【0132】
次いで、洗浄後の精製剤10が収容された容器15に、導入部30を用いて溶出液L4を導入する。これにより、精製剤10に吸着させた糖類含有化合物を溶出液L4に溶出させ、糖類含有化合物を精製する。
【0133】
L2は、塩を含まない液体であってもよい。すなわち、L2は、試料L1と有機溶媒と、を含む液であってもよい。
【0134】
以上のような操作により、装置100を用いて本実施形態の精製方法を実施することができる。
【0135】
以上のような糖類含有化合物の精製方法によれば、微量であり、染色しにくい糖類含有化合物も精製することが可能となる。さらに、従来の方法よりも高精度の精製が可能となる。
また、以上のような糖類含有化合物の精製キットによれば、本発明の糖類含有化合物の精製方法を容易に実施し、糖類含有化合物を効率的に精製することが可能となる。
【実施例0136】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0137】
[実施例1]
(1.fetuinA転写メンブレンの用意)
セミドライ法によって、電気泳動ゲルからPVDFメンブレン(アトー製。品番:WSE-4051)に、ヒトfetuinA(SigmaAldrich製。品番:SRP3283-50UG)500ngを転写して、fetuinA転写メンブレンを用意した。
【0138】
(2.ウェスタンブロット)
(2-1.ブロッキング)
1質量%ブロックエース(ケー・エー・シー製。品番:UKB80)溶液(以下、ブロッキング液)5mLに、fetuinA転写メンブレンを浸漬して、室温で1時間振盪した。
【0139】
(2-2.一次抗体感作)
ブロッキング液で希釈した抗fetuinA抗体(SigmaAldrich製。品番:SAB4200820-100UL)溶液(以下、一次抗体溶液)5mLを調製した。(2-1)後のメンブレンを一次抗体溶液に浸漬して、室温で1時間振盪した。振盪後、0.05質量%Tween20含有PBS(PBST)5mLにメンブレンを浸漬して、5分間振盪して洗浄した。PBSTを用いた洗浄操作をさらに2回繰り返した。
【0140】
(2-3.二次抗体感作)
ブロッキング液で希釈した抗マウスIgM抗体(Abcam製。品番:ab97230)溶液(以下、二次抗体溶液)5mLを調製した。(2-2)後のメンブレンを二次抗体溶液に浸漬して、室温で30分間振盪した。振盪後、PBST5mLにメンブレンを浸漬して5分間振盪して洗浄した。PBSTを用いた洗浄操作をさらに2回繰り返した。
【0141】
(2-4.目的の糖タンパク質のバンドの可視化)
(2-3)後のメンブレンを、ECLPrime(Cytiva製。品番:RPN2232)に浸漬させた後、透明フィルムにメンブレンを挟んだ。これを、CCDイメージャー(ImageQuantLAS 4000)で撮影することで、fetuinA存在部分を可視化した。
【0142】
(2-4.目的の糖タンパク質のバンドの切り取り)
(2-4)で撮影したウェスタンブロット画像と照合し、fetuinA存在領域に透明フィルム上から印をつけて切り出した。切り出したメンブレンを2~3mm四方に細かく切って、1.5mLチューブに入れた。
【0143】
(3.糖類含有化合物の遊離)
(2)で切り出したメンブレンを入れた1.5mLチューブに、50%ヒドロキシアミン水溶液(住友ベークライト製、品番:BS-41601に付属)とDBU(住友ベークライト製、品番:BS-41601に付属)を体積比5:2の比率で混合した糖鎖遊離溶液15μLを、添加して混合し混合溶液を得た。その後、メンブレンごとこの混合溶液を37℃で75分加熱し、メンブレン上のfetuinAから糖鎖を遊離させた。
【0144】
(4.糖類含有化合物の回収)
(3)の反応終了後、混合溶液にアセトニトリル(富士フイルム和光純薬製。製品コード:018-19853、純度99.9%)を添加し、数回ピペッティングして混合した。この混合溶液を、精製剤(住友ベークライト製、品番:BS-41601に付属)0.65mgに添加し懸濁した後、スピンカラム(住友ベークライト製、品番:BS-41601に付属)に加え、卓上遠心機を用い下記条件にて遠心分離して溶液を除去した。続いて、アセトニトリル200μLを加え、遠心分離によりアセトニトリルを主成分とする溶液を除去した。再度、アセトニトリル200μLを加え、遠心分離によりアセトニトリルを主成分とする溶液を除去した。
(運転条件)(以降の操作では、同一の運転条件で遠心分離を行った)
遠心力:3000×g、運転時間:1分間
【0145】
(5.糖鎖の標識)
(5-1.標識溶液の調製)
標識試薬である2-アミノベンズアミド(住友ベークライト製、品番:BS-41601に付属)8mgを、メタノール45μLと酢酸10μLの混合溶液に溶かした後、超純水45μLを加えた溶液1を調製した。また、ピコリンボラン(住友ベークライト製、品番:BS-41601に付属)4mgを、メタノール45μLと酢酸10μLの混合溶液に溶かした後、超純水45μLを加えた溶液2を調製した。溶液1に、2μLの溶液2を加えて攪拌し、標識溶液とした。
【0146】
(5-2)
(4)でカラムに残留した固体に、(5-1)の標識溶液50μLを加えた。その後、遠心分離により、精製剤(カラムに残留した個体)から遊離した糖鎖を含む標識溶液をマイクロチューブに回収した。得られた溶液を50℃で2.5時間加熱した。
【0147】
(5-3)
反応終了後の(5-2)のチューブに、アセトニトリル1mLを加え、攪拌した。
【0148】
(5-4)
(5-3)で得られた溶液を、クリーンアップカラム(住友ベークライト製、品番:BS-41601に付属)に全量添加した後、標識した糖鎖と、糖鎖以外の液体成分(アセトニトリルを主成分とする溶液)とを遠心分離により分離し、溶液を除去した。その後、標識した糖鎖を保持したクリーンアップカラムにアセトニトリル600μLを加え、標識した糖鎖と、アセトニトリルを主成分とする溶液とを遠心分離により分離し、溶液を除去した。再度、標識した糖鎖を保持したクリーンアップカラムにアセトニトリル600μLを加え、遠心分離によりアセトニトリルを主成分とする溶液を除去した。
【0149】
(5-5)
上記クリーンアップカラムに超純水50μLを加えて遠心分離し、標識した糖鎖溶液をマイクロチューブに回収した。
【0150】
(6.標識した糖鎖溶液の濃縮)
(5-5)で得られた標識した糖鎖溶液を凍結させた後、遠心乾燥機に1時間かけることで水分を乾燥させた。水分が完全になくなり標識した糖鎖が残っているこのマイクロチューブに、超純水10μLを加えて攪拌した。これにより5倍濃縮した標識した糖鎖溶液を得た。
【0151】
(7.HPLC分析)
(6)で調製した溶液のうち1μLを用いて、下記表1の条件のもとHPLC分析を実施した。fetuinAから回収される4種類の糖鎖に該当するピークを確認した。また、副反応であるピーリングの割合(ピーリング率=ピーリングに該当するピーク面積/4つのピーク面積の合計)は10%以下に抑えられることを確認した。
【0152】
【表1】
【0153】
[参考例1]
(1.fetuinA溶液の調製)
ヒトfetuinA(SigmaAldrich製。品番:SRP3283-50UG)を50ng/μLになるように超純水に溶解させ、fetuinA溶液とした。
【0154】
(2.糖鎖の遊離)
(1)で調製した溶液10μLが入った1.5mLチューブに、50%ヒドロキシアミン水溶液(住友ベークライト製、品番:BS-41601に付属)とDBU(住友ベークライト製、品番:BS-41601に付属)を5:2の比率で混合した糖鎖遊離溶液15μLを添加して混合した。その後、混合溶液を37℃で75分加熱した。
【0155】
(3.糖類含有化合物の回収)
[実施例1](4)と同様の手順により行った。
【0156】
(4.糖鎖標識)
[実施例1](5)と同様の手順により行った。
【0157】
(5.標識した糖鎖溶液の濃縮)
[実施例1](6)と同様の手順により行った。
【0158】
(6.HPLC分析)
[実施例1](7)と同様の手順により行った。
【0159】
(考察)
図3は、実施例1と参考例1の結果を示すHPLCチャートである。
図3において、fetuinAのO型糖鎖のピークを矢印で示す。
[実施例1]の電気泳動後メンブレン転写したfetuinAから遊離させたO型糖鎖のピークの位置は、[参考例1]のfetuinA溶液から直接遊離させたO型糖鎖のピーク位置と一致した。この結果から、ウェスタンブロット処理をすることにより、回収できるO型糖鎖の種類に影響はないことが示された。
【符号の説明】
【0160】
1,10…精製剤
2…支持体
3…ポリマーの層
3a…ポリマー
L1…試料
L2…有機溶媒と塩とを含む液
L5…混合液
図1
図2
図3