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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143641
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】磁気粘性流体組成物
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/44 20060101AFI20241003BHJP
   H01F 1/28 20060101ALI20241003BHJP
   C10M 169/04 20060101ALI20241003BHJP
   C10M 143/10 20060101ALN20241003BHJP
   C10M 125/30 20060101ALN20241003BHJP
   C10N 40/06 20060101ALN20241003BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
H01F1/44 170
H01F1/28
C10M169/04
C10M143/10
C10M125/30
C10N40:06
C10N30:00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056417
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】398053147
【氏名又は名称】コスモ石油ルブリカンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神田 信
【テーマコード(参考)】
4H104
5E041
【Fターム(参考)】
4H104AA24C
4H104BA02A
4H104BA04A
4H104BA07A
4H104BB08A
4H104BB33A
4H104BB34A
4H104BB36A
4H104BB41A
4H104CA04A
4H104CA07C
4H104CB14A
4H104DA02A
4H104EB07
4H104EB08
4H104EB09
4H104LA20
4H104PA04
5E041AA01
5E041BB01
5E041BB03
5E041BC05
5E041BD07
5E041CA01
5E041NN04
(57)【要約】
【課題】磁性粒子の沈降防止性、磁場無印加時の流動性、及び沈降した磁性粒子の再分散性に優れた磁気粘性流体組成物の提供。
【解決手段】磁性粒子(A)と、潤滑油基油(B)と、水添スチレン系ブロック共重合体(C)と、有機変性ベントナイト(D)と、を含有し、前記水添スチレン系ブロック共重合体(C)の含有量が、組成物の全質量に対して0.1質量%~1.1質量%であり、有機変性ベントナイト(D)の含有量が、組成物の全質量に対して0.05質量%~1.5質量%である磁気粘性流体組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性粒子(A)と、潤滑油基油(B)と、水添スチレン系ブロック共重合体(C)と、有機変性ベントナイト(D)と、を含有し、
前記水添スチレン系ブロック共重合体(C)の含有量が、組成物の全質量に対して0.1質量%~1.1質量%であり、
前記有機変性ベントナイト(D)の含有量が、組成物の全質量に対して0.05質量%~1.5質量%である磁気粘性流体組成物。
【請求項2】
前記有機変性ベントナイト(D)は、アルキル基を有する4級アンモニウム塩基及びアリール基を有する4級アンモニウム塩基からなる群より選択される少なくとも1種の有機基を有する、請求項1に記載の磁気粘性流体組成物。
【請求項3】
前記有機変性ベントナイト(D)は、強熱減量試験による有機物含有量が、前記有機変性ベントナイト(D)の全質量に対して30.0質量%~50.0質量%である、請求項1に記載の磁気粘性流体組成物。
【請求項4】
組成物の全質量に対して40質量%~95質量%の前記磁性粒子(A)を含む、請求項1に記載の磁気粘性流体組成物。
【請求項5】
清浄剤、分散剤、酸化防止剤、摩耗防止剤、極圧剤、及び摩擦調整剤から選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1に記載の磁気粘性流体組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、磁気粘性流体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車のダンパー等への適用を目的として、従前の磁性流体に使用されていた磁性粒子に比べて、格段に粒子径が大きい磁性粒子を基油に配合した、磁気粘性流体(Magneto-Rheological Fluid:MR流体)が開発されている。磁気粘性流体は、外部から印加される磁界強度に応じて、流動性の高い状態から大きな降伏応力を有するゲル状態に、急速かつ連続的、可逆的に変化する機能性流体である。
磁気粘性流体が充填されたダンパーは、一般に、MRダンパーと呼ばれる。MRダンパーは、磁界強度を変化させることにより降伏応力の大きさを制御できることから、減衰力の調整が幅広い範囲で可能なため、自動車のダンパーへ適用した場合、自動車の車体安定性を向上させると共に、卓越した乗り心地を実現できるとされている。
【0003】
磁気粘性流体は、近年では、自動車用のMRダンパーのみならず、各種クラッチ、アクチェーター、ブレーキ等への応用が種々検討されている。
また、磁気粘性流体は、最近では、高層ビル、一般の戸建住宅等の建造物の免震及び制振構造分野においても注目され、振動に対する構造物の応答加速度と応答変位との両方を低減させる目的で、ダンパーなどのエネルギー吸収部材に応用されつつある。この用途にMRダンパーを適用すると、降伏応力の制御範囲が広いため、建造物の揺れ度合いに応じた減衰力を発生することができ、地震発生時に、建造物の揺れを抑制することができる。
【0004】
磁気粘性流体組成物としては、例えば特許文献1に、磁性粒子(A)と、潤滑油基油(B)と、水添スチレン系ブロック共重合体(C)と、を含有する磁気粘性流体組成物が開示されている。
また、特許文献2には、磁性粒子(A)と、潤滑油基油(B)と、エチレンに由来する構成単位及び前記エチレン以外のオレフィン系炭化水素に由来する構成単位を有する共重合体(C)と、を含有する磁気粘性流体組成物が開示されている。
また、特許文献3には、1)磁性粒子と、(2)基油と、(3)2個以上の極性官能基を持つ化合物を含む分散剤と、(4)レオロジーコントロール剤と、を含有する磁気粘性流体組成物が開示されている。
また、特許文献4には、(1)磁性粒子と、(2)基油と、(3)分散剤と、(4)レオロジーコントロール剤と、(5)炭酸カルシウム、グラファイト、及び窒化ホウ素からなる群より選ばれる少なくとも一つの固体潤滑剤と、を含有する磁気粘性流体組成物が開示されている。
【0005】
また、特許文献5には、(A)40℃における動粘度が2~5000mm/sである基油と、(B)鉄、コバルト及びニッケルから選ばれる1種以上の金属を含む金属粒子、並びに、窒化鉄、炭化鉄、カルボニル鉄、フェライト及びマグネタイトから選ばれる1種以上を含み、強磁性を示す金属化合物粒子からなる群より選ばれる1種以上の磁性粒子であって、平均粒子径が0.05~50μmであり、組成物全量に対する含有量が50~90質量%である磁性粒子と、(C)特定の式で表される構造を有し、組成物全量に対する含有量が0.2~10.0質量%である沈降抑制剤と、を含有する磁気粘性剤組成物が開示されている。
また、特許文献6には、(A)特定の一般式を平均単位式とする25℃における動粘度が500~35,000mm/sであるポリオルガノシロキサン流体と、(B)鉄、コバルト及びニッケルから選ばれる1種以上の金属を主成分とする金属粒子、その金属合金粒子、並びに窒化鉄、炭化鉄、カルボニル鉄、フェライト及びマグネタイトから選ばれる1種以上を主成分とする強磁性を示す金属化合物粒子から選ばれる1種以上の磁性粒子であって、その平均粒子直径が2μm~15μmの磁性粒子と、(C)ヒュームドシリカを含有する磁気粘性流体組成物であって、組成物中に(B)の磁性粒子を50~90質量%、(C)のヒュームドシリカを0.1~5.0質量%含有する磁気粘性流体組成物が開示されている。
また、特許文献7には、ノイブルグ珪土、分散媒及び磁性粒子を含有する磁気粘性流体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6807813号公報
【特許文献2】特許第6807814号公報
【特許文献3】特許第6692146号公報
【特許文献4】特許第6560073号公報
【特許文献5】特許第6465437号公報
【特許文献6】特開2014-95031号公報
【特許文献7】特開2006-286890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
磁気粘性流体は潤滑油基油(B)に磁性粒子(A)を配合したものであるが、潤滑油基油(B)と磁性粒子(A)の2成分のみでは、基油に比べ格段に密度の大きい磁性粒子は沈降しやすい。磁性粒子が沈降すると設定値に見合う出力(降伏応力)が得られ難くなるため、磁性粒子(A)の沈降を防止することが求められる。
また、磁性粒子(A)の沈降が生じた場合であっても、沈降後に撹拌したり磁場を印加したりすることで磁性粒子(A)を組成物中に再度分散させることができれば、磁気粘性流体としての機能を回復させることができる。そのため、沈降した磁性粒子(A)の再分散性に優れることが求められる。
さらに、磁気粘性流体組成物には、重要な特性として磁場を印加していない状態で高い流動性を示すこと(磁場無印加時の流動性)が求められる。
【0008】
本開示は、上記構成を有することで、磁性粒子の沈降防止性、磁場無印加時の流動性、及び沈降した磁性粒子の再分散性に優れる磁気粘性流体組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示には、以下の実施態様が含まれる。
<1>
磁性粒子(A)と、潤滑油基油(B)と、水添スチレン系ブロック共重合体(C)と、有機変性ベントナイト(D)と、を含有し、
前記水添スチレン系ブロック共重合体(C)の含有量が、組成物の全質量に対して0.1質量%~1.1質量%であり、
前記有機変性ベントナイト(D)の含有量が、組成物の全質量に対して0.05質量%~1.5質量%である磁気粘性流体組成物。
<2>
前記有機変性ベントナイト(D)は、アルキル基を有する4級アンモニウム塩基及びアリール基を有する4級アンモニウム塩基からなる群より選択される少なくとも1種の有機基を有する、<1>に記載の磁気粘性流体組成物。
<3>
前記有機変性ベントナイト(D)は、強熱減量試験による有機物含有量が、前記有機変性ベントナイト(D)の全質量に対して30.0質量%~50.0質量%である、<1>又は<2>に記載の磁気粘性流体組成物。
<4>
組成物の全質量に対して40質量%~95質量%の前記磁性粒子(A)を含む、<1>~<3>のいずれか1項に記載の磁気粘性流体組成物。
<5>
清浄剤、分散剤、酸化防止剤、摩耗防止剤、極圧剤、及び摩擦調整剤から選ばれる少なくとも1つを含む、<1>~<4>のいずれか1項に記載の磁気粘性流体組成物。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、磁性粒子の沈降防止性、磁場無印加時の流動性、及び沈降した磁性粒子の再分散性に優れる磁気粘性流体組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示に係る磁気粘性流体組成物について詳細に説明する。
本開示中、数値範囲を表す「~」は、その上限及び下限としてそれぞれ記載されている数値を含む範囲を表す。また、「~」で表される数値範囲において上限値のみ単位が記載されている場合は、下限値も同じ単位であることを意味する。
本開示において、組成物中の各成分の含有率又は含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。
本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0012】
本開示において組成物中の各成分は、組成物中に各成分が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する該当する複数の物質の合計量を意味する。
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において、「JIS」は、日本産業規格(Japanese Industrial Standards)の略称として用いる。
【0013】
(磁気粘性流体組成物)
本開示の実施形態に係る磁気粘性流体組成物は、磁性粒子(A)と、潤滑油基油(B)と、水添スチレン系ブロック共重合体(C)と、有機変性ベントナイト(D)と、を含有する。そして、水添スチレン系ブロック共重合体(C)の含有量が、組成物の全質量に対して0.1質量%~1.1質量%であり、有機変性ベントナイト(D)の含有量が、組成物の全質量に対して0.05質量%~1.5質量%である。
【0014】
本開示の実施形態に係る磁気粘性流体組成物は、上記構成を有することで、磁性粒子(A)の沈降防止性に優れ、磁場無印加時の流動性に優れ、且つ沈降した磁性粒子(A)の再分散性に優れる。この効果が奏される理由は次の通り推測される。
【0015】
磁気粘性流体(MR流体)組成物は磁場を印加した際に粘度が変化する機能性流体である。配合されている磁性粒子(A)が磁場に沿って配列することで、流体の粘度上昇が生じる。ところで、磁気粘性流体は潤滑油基油(B)に磁性粒子(A)を配合したものであるが、潤滑油基油(B)と磁性粒子(A)の2成分のみでは、基油に比べ格段に密度の大きい磁性粒子は沈降しやすい。磁性粒子が沈降すると設定値に見合う出力(降伏応力)が得られ難くなる。
これに対し、本開示の実施形態に係る磁気粘性流体組成物は、水添スチレン系ブロック共重合体(C)を含むことで、優れた沈降防止性が得られる。これは、高分子化合物である水添スチレン系ブロック共重合体(C)を含むことで、高分子鎖同士が絡まりあい、その特定の絡まりあい構造が磁性粒子(A)の沈降を抑制するためと考えられる。
【0016】
また、磁性粒子(A)の沈降が生じた場合であっても、沈降後に撹拌したり磁場を印加したりすることで磁性粒子(A)を組成物中に再度分散させることができれば、MR流体としての機能を回復させることができる。なお、沈降した磁性粒子同士が強く固着してしまうと、磁場の印加等では再分散させることができない。そのため、磁性粒子(A)の沈降防止性に加えて、沈降した磁性粒子(A)の再分散性に優れることが求められる。
さらに、磁気粘性流体(MR流体)組成物の重要な要求性能として、磁場無印加時の流動性が挙げられる。磁場を印加していない状態で高い流動性を示し、且つ磁場印加時に大きく粘度上昇する性能は、車両ダンパー、ブレーキ、及びパプティクスなど様々なデバイスに用いるMR流体に求められる。
【0017】
これに対し、本開示の実施形態に係る磁気粘性流体組成物は、有機変性ベントナイト(D)を含むことで、優れた再分散性及び磁場無印加時の流動性が得られる。有機変性ベントナイト(D)は薄板状の形状を有しており、磁性粒子(A)の沈降が生じた場合であっても、磁性粒子と他の磁性粒子との間に有機変性ベントナイト(D)が介在し、磁性粒子同士の固着が抑制される。その結果、沈降後に撹拌したり磁場を印加したりすることで磁性粒子(A)を組成物中に再度分散させることができ、つまり再分散性に優れるものと考えられる。
一方で、有機変性ベントナイト(D)の含有量が増えすぎると、組成物における磁場無印加時の流動性に劣るが、本開示の実施形態に係る磁気粘性流体組成物では、有機変性ベントナイト(D)の含有量を1.5質量%としており、これによって磁場無印加時の流動性が確保される。
なお、有機変性されていないベントナイトを用いた場合、潤滑油基油(B)との相溶性の影響で、磁性粒子(A)の沈降防止性に劣るが、本開示の実施形態では有機変性ベントナイト(D)を用いることで、優れた沈降防止性が確保される。
【0018】
以上により、本開示の実施形態に係る磁気粘性流体組成物によれば、磁性粒子(A)の沈降防止性に優れ、磁場無印加時の流動性に優れ、且つ沈降した磁性粒子(A)の再分散性に優れる。
【0019】
以下、本開示の実施形態に係る2磁気粘性流体組成物に含有される各成分について説明する。
【0020】
<磁性粒子(A)>
本開示の実施形態に係る磁気粘性流体組成物は、磁性粒子(A)を含有する。
磁性粒子としては、例えば、鉄、コバルト及びニッケルから選ばれる少なくとも1種の金属を(好ましくは主成分として)含む金属粒子、並びに、窒化鉄、炭化鉄、フェライト及びマグネタイトから選ばれる少なくとも1種の化合物を(好ましくは主成分として)含み、かつ、強磁性を示す金属化合物粒子が挙げられる。
この中でも、磁性粒子としては、鉄を主成分とする金属粒子及びフェライトを主成分とする金属化合物粒子の少なくとも一方であることが好ましく、鉄を主成分とする金属粒子であることがより好ましい。
磁性粒子は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0021】
本明細書において、「金属粒子」とは、基本的に、金属単体の粒子、2種以上の金属が結合した合金の粒子、2種以上の金属が結合せずに含まれる粒子等を意味する。例えば、後述するカルボニル鉄のように、金属を主成分とし、原料中の金属以外の残留成分も含まれる粒子も包含される。金属化合物粒子についても同様に、金属を主成分とし、原料中の金属以外の残留成分も含まれる粒子も包含される。
また、本明細書において、「主成分」とは、磁性粒子を構成する成分のうち質量割合が最も多い成分を意味し、好ましくは、磁性粒子を構成する成分の50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上である。
【0022】
磁性粒子が、鉄を主成分とする金属粒子を含有する場合、鉄を主成分とする金属粒子としては、飽和磁化が高くなる観点から、鉄含有率が高く、かつ、不純物が少ない金属粒子ほど好ましい。
なお、本明細書中において、不純物とは、原材料に含まれる成分、または、製造の過程で混入する成分であって、意図的に金属粒子に含有させたものではない成分を指す。
【0023】
磁性粒子が鉄を含む金属粒子である場合、鉄の含有率としては、金属粒子の全質量に対して、98質量%以上であることが好ましく、より好ましくは99質量%以上である。
鉄含有率が上記範囲である磁性粒子としては、カルボニル鉄が挙げられる。カルボニル鉄は、ペンタカルボニル鉄(Fe(Co))の熱分解により製造される高純度の金属粒子である。
【0024】
磁性粒子の累積50%粒子径は、好ましくは0.05μm~50μmであり、より好ましくは0.1μm~30μm、さらに好ましくは1.0μm~20μmである。
累積50%粒子径が0.05μm以上であると、磁界印加時の降伏応力がより高く好ましい。
また、累積50%粒子径が50μm以下であると、基油中での磁性粒子の沈降をより遅くすることができる。また装置の摩擦部位の潤滑において、装置部材の摩耗をより少なくすることができる。
なお、本明細書において、累積50%粒子径とは、磁性粒子の全体積が100%となるような累積曲線を求めたときに、その累積曲線の累積値50%に対応する粒子径(μm)を意味する。
累積50%粒子径は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(装置名:SKマイクロアナライザーLMS-2000e:(株)セイシン企業製)により測定することができる。
【0025】
磁性粒子は、各種のカップリング剤又は樹脂で表面処理したものであってもよいし、未処理のものでもよい。
各種のカップリング剤としては、シラン系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤、チタネート系カップリング剤等が挙げられる。
樹脂としては、炭化水素系樹脂、ワックス、ポリエチレン、ポリメタクリレート等が挙げられる。
【0026】
磁性粒子の含有率としては、磁気粘性流体組成物の全質量に対して、好ましくは40質量%~95質量%、より好ましくは50質量%~92質量%、更に好ましくは60質量%~90質量%である。
磁性粒子の含有率が、40質量%以上であると、磁界印加時に必要なせん断応力を得られる傾向がある。また、磁性粒子の含有率が、95質量%以下であると、磁気粘性流体組成物は、流体となりやすい傾向があり、装置への充填が行いやすく、磁気粘性流体としての機能を得られやすい。
【0027】
<潤滑油基油(B)>
本開示の実施形態に係る磁気粘性流体組成物は、潤滑油基油(B)を含有する。
潤滑油基油は、磁気粘性流体組成物において、磁性粒子(A)、水添スチレン系ブロック共重合体(C)、及び有機変性ベントナイト(D)の分散媒の役割を担う。
潤滑油基油を構成する基油成分としては、特に制限されず、鉱油系潤滑油基油成分であってもよく、合成系潤滑油基油成分又は植物油系潤滑油基油成分であってもよい。
【0028】
鉱油系潤滑油基油としては、例えば、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、及び水素化精製等の処理を少なくとも1つ行って精製したもの、及び、ワックス異性化鉱油等が挙げられる。
鉱油系潤滑油基油成分としては、パラフィン系潤滑油基油及びナフテン系潤滑油基油が好適である。
【0029】
合成系潤滑油基油成分としては、フィッシャー・トロプシュ合成で得られたワックス等の原料を水素化分解処理及び水素化異性化処理して得られる潤滑油基油、ポリ-α-オレフィン基油、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等の芳香族系合成油、エステル油、アルキル化フェニルエーテル油、イソパラフィン油、ポリブテン油、ポリアルキレングリコール類等の合成系潤滑油基油などが挙げられる。
ポリ-α-オレフィン基油の好適な製造方法としては、エチレンの低重合又はワックスの熱分解によって炭素数6~18のα-オレフィンを合成し、このα-オレフィン2~9単位を重合し、水添反応を行う方法が挙げられる。
【0030】
エステル油の好適な例としては、1価アルコールとジカルボン酸とから製造されるジエステル、ポリオールとモノカルボン酸とから製造されるポリオールエステル、又はポリオールとモノカルボン酸とポリカルボン酸とから製造されるコンプレックスエステル等が挙げられる。
【0031】
ジエステルとしては、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の二塩基酸のエステルが挙げられる。
【0032】
二塩基酸としては、炭素数4~36の脂肪族二塩基酸が好ましい。二塩基酸のエステルのエステル部を構成するアルコール残基としては、炭素数4~26の1価アルコール残基が好ましい。
【0033】
このようなジエステルとしては、ジオクチルアジペート、ジオクチルセバケート、ジイソデシルアジペート、ジオクチルアゼレート等が挙げられる。
【0034】
また、ポリオールエステル及びコンプレックスエステルに用いられるポリオールとしては、具体的には、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ネオペンチルグリコール等のβ水素を持たないヒンダードアルコールが好適に用いられる。
また、ポリオールエステル及びコンプレックスエステルに用いられるモノカルボン酸としては、ヤシ油脂肪酸、ステアリン酸等の直鎖飽和脂肪酸、オレイン酸等の直鎖不飽和脂肪酸、イソステアリン酸等の分岐脂肪酸などが好適に用いられ、ポリカルボン酸としてはコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の直鎖飽和ポリカルボン酸が好適に用いられる。
【0035】
アルキル化フェニルエーテル油の好適な例としては、アルキル化ジフェニルエーテル、(アルキル化)ポリフェニルエーテル等が挙げられる。
【0036】
ポリアルキレングリコール類としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、又はエチレンオキサイド-プロピレンオキサイドコポリマー、プロピレンオキサイド-ブチレンオキサイドコポリマー、及びこれらの誘導体が挙げられる。
【0037】
植物油系潤滑油基油としては、大豆油、菜種油、パーム油等が挙げられる。
【0038】
これらの潤滑油基油は、それぞれ1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、鉱油系潤滑油基油、合成系潤滑油基油及び植物油系潤滑油基油から選ばれる2種以上の潤滑油基油を混合して使用してもよい。
【0039】
潤滑油基油(B)の40℃における動粘度は、2mm/s~5000mm/sであることが好ましく、より好ましくは3mm/s~2000mm/s、更に好ましくは3mm/s~1000mm/sである。
また、潤滑油基油(B)の粘度指数は、50以上が好ましく、80~200がより好ましい。
なお、潤滑油基油(B)の40℃における動粘度及び粘度指数は、日本規格協会JIS K2283(2000)「原油及び石油製品-動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」により求めることができる。
基油の40℃における動粘度が2mm/s以上であると、引火点が高くなる傾向があり、蒸発が抑えられ傾向にあるため、MR流体として好ましい。
また、基油の40℃における動粘度が5000mm/s以下であると、粘稠性が低くなる傾向があり、磁気粘性流体組成物の製造時に基油中への磁性粒子の安定分散がより容易になる。
【0040】
<水添スチレン系ブロック共重合体(C)>
本開示の実施形態に係る磁気粘性流体組成物は、水添スチレン系ブロック共重合体(C)を含有する。水添スチレン系ブロック共重合体(C)を含むことで、磁性粒子の沈降を抑制することができる。
水添スチレン系ブロック共重合体としては、ビニル芳香族化合物又はそのアルキル化誘導体から選ばれる少なくとも1種のモノマーと、共役ジエンから選ばれる1種以上のモノマーと、を共重合させたのち、水素化処理して得られるものが挙げられる。
【0041】
ビニル芳香族化合物又はそのアルキル化誘導体としては、例えば、スチレン、メチルスチレン、エチルスチレン、ジビニルベンゼン等が挙げられ、中でも、共役ジエンと共重合可能なモノマーであることが好ましい。
【0042】
共役ジエンとしては、例えば、ブタジエン、2-メチル-ブタジエン、2,3-ジメチル-ブタジエン、2-エチル-ブタジエン、2,3-ジエチル-ブタジエン、ペンタジエン、2-メチル-ペンタジエン、3-メチル-ペンタジエン等が挙げられ、中でも、ビニル芳香族化合物又はそのアルキル化誘導体と共重合可能なモノマーであることが好ましい。
【0043】
水添スチレン系ブロック共重合体としては、スチレンと、2-メチル-ブタジエンと、を共重合させたのち、水素化処理して得られる共重合体であることが好ましい。
【0044】
ビニル芳香族化合物又はそのアルキル化誘導体から選ばれる少なくとも1種のモノマーの共重合割合は、水添スチレン系ブロック共重合体の全質量に対して、好ましくは20質量%~70質量%であり、より好ましくは30質量%~60質量%である。
共役ジエンから選ばれる少なくとも1種のモノマーの共重合割合は、水添スチレン系ブロック共重合体の全質量に対して、好ましくは30質量%~80質量%であり、より好ましくは40質量%~70質量%である。
水添スチレン系ブロック共重合体は、共役ジエンを共重合させた後に、水素化処理しているので、共役ジエンに由来する不飽和結合は少なくなる傾向にあるが、共役ジエンに由来する不飽和結合を有するものであってもよい。
共役ジエンに由来する不飽和度は低い方が好ましく、共役ジエンに基づく繰り返し単位の合計量に対して、不飽和結合を有する共役ジエンに基づく繰り返し単位が50質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることが更に好ましい。
【0045】
水添スチレン系ブロック共重合体(C)は、主としてビニル芳香族化合物又はそのアルキル化誘導体に由来する構成単位と、共役ジエンに由来する構成単位と、を含有するが、本開示の目的が損なわれない限り、上記ビニル芳香族化合物又はそのアルキル化誘導体に由来する構成単位及び共役ジエンに由来する構成単位に加えて、極性基を有するモノマーに由来する構成単位を更に含有してもよい。
【0046】
極性基を有するモノマーの具体例としては、アルキル-ビニルピリジン、N-ビニルピロリドン及びビニルイミダゾール等の窒素原子含有化合物、ポリアルキレングリコールエステル、マレイン酸エステル及びフマル酸エステル等のエステル類が挙げられる。
極性基を有するモノマーは1種単独であってもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
水添スチレン系ブロック共重合体(C)の重量平均分子量は、50,000~900,000であることが好ましく、より好ましくは70,000~800,000であり、更に好ましくは100,000~700,000である。
重量平均分子量が50,000以上であると、磁性粒子の沈降をより抑制することが可能となる。重量平均分子量が900,000以下であると、水添スチレン系ブロック共重合体(C)が均一に溶解しやすく、磁気粘性流体組成物中で均一な分散状態を保つことが可能となる。
なお、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定されたポリスチレン換算による値である。
【0048】
<条件>
装置:Shodex GPC-101(昭和電工社製)
カラム:Shodex GPC LF-804(昭和電工社製)3本
検出器:示差屈折検出器
移動相:THF(テトラヒドロフラン)
流量:1ml/分
試料濃度:約1.0質量%/vol%THF
注入量:100μL
【0049】
水添スチレン系ブロック共重合体(C)の含有率は、磁気粘性流体組成物の全質量に対して、0.1質量%~1.1質量%である。水添スチレン系ブロック共重合体(C)の含有率が1.1質量%超であると磁気粘性流体の磁場無印加時の流動性が損なわれ、一方0.1質量%未満であると磁性粒子の沈降を抑制する効果が得られない。
水添スチレン系ブロック共重合体(C)の含有率は、より好ましくは0.4質量%~1.0質量%であり、さらに好ましくは0.8質量%~0.9質量%である。
水添スチレン系ブロック共重合体(C)は、1種を単独使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0050】
<有機変性ベントナイト(D)>
本開示の実施形態に係る磁気粘性流体組成物は、有機変性ベントナイト(D)を含有する。有機変性ベントナイト(D)を含むことで、磁場無印加時の流動性に優れ且つ沈降した磁性粒子(A)の再分散性に優れる。
【0051】
・含有量
本開示の実施形態に係る磁気粘性流体組成物のおける有機変性ベントナイト(D)の含有量は、組成物の全質量に対して0.05質量%~1.5質量%である。
有機変性ベントナイト(D)の含有量が0.05質量%未満では、磁場無印加時の流動性向上の効果、及び磁性粒子(A)の再分散性向上の効果が得られない。また、有機変性ベントナイト(D)の含有量が1.5質量%超では、磁場無印加時の流動性に劣る。
有機変性ベントナイト(D)の含有量は、好ましくは0.1質量%~1.4質量%であり、より好ましくは0.2質量%~1.2質量%である。
【0052】
・有機変性ベントナイト
ベントナイトとは、粘土鉱物であるモンモリロナイトを主成分とし、さらに微量の石英や長石などを含む鉱物である。本開示では、有機変性処理が施されたベントナイトを用いる。有機変性されたベントナイトを用いることで、潤滑油基油(B)との相溶性が高められ、磁性粒子(A)の優れた沈降防止性が得られる。
【0053】
有機変性ベントナイトが有する有機基としては、例えば、4級アンモニウム塩基が挙げられ、より好ましくはアルキル基を有する4級アンモニウム塩基及びアリール基を有する4級アンモニウム塩基からなる群より選択される少なくとも1種の有機基が好ましい。
【0054】
4級アンモニウム塩基は、4級アンモニウム塩に由来する有機基である。4級アンモニウム塩としては、例えば、メチルトリアルキルアンモニウム、ジメチルジアルキルアンモニウム、トリメチルアルキルアンモニウム、ベンジルジメチルアルキルアンモニウム、ジベンジルメチルアルキルアンモニウム、ジベンジルジアルキルアンモニウムなどが挙げられる。
【0055】
4級アンモニウム塩基が有するアルキル基としては、炭素数14~18のアルキル基が好ましく、例えば、ステアリル基(オクタデシル基)、パルミチル基(ヘキサデシル基)、ミリスチル基(テトラデシル基)等が挙げられ、中でもステアリル基が好ましい。
【0056】
4級アンモニウム塩基が有するアリール基としては、例えばベンジル基(-CH-C)が好ましい。
【0057】
・有機物含有量
有機変性ベントナイト(D)における、強熱減量試験による有機物含有量は、試験対象物である有機変性ベントナイトの全質量に対して、30.0質量%~50.0質量%であることが好ましく、より好ましくは32.0質量%~48.0質量%であり、さらに好ましくは35.0質量%~45.0質量%である。
有機物含有量が30.0質量%以上であることで、潤滑油基油(B)との相溶性が高められ、磁性粒子(A)のより優れた沈降防止性が得られる。有機物含有量が50.0質量%以下であることで、ベントナイト自体の量が十分に確保され、より優れた磁場無印加時の流動性及び磁性粒子(A)の再分散性が得られる。
【0058】
強熱減量試験とは、鉱物中に含まれる揮発性物質の質量を測定するための試験であり、加熱後の質量の減少率から算出される。有機変性ベントナイト(D)における強熱減量試験による有機物含有量は、以下の方法により測定する。
乾燥させた有機変性ベントナイト(D)を、800℃で1時間加熱し、加熱前後の質量を測定して、加熱後の質量の減少率から、有機物含有量を算出する。
【0059】
有機変性ベントナイト(D)は、1種を単独使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0060】
<潤滑油添加剤>
長期安定性を確保する観点から、磁気粘性流体組成物は、潤滑油組成物に用いられる一般的な潤滑油添加剤を、更に含んでいてもよい。
潤滑油添加剤としては、例えば、清浄剤、分散剤、酸化防止剤、摩耗防止剤、極圧剤、摩擦調整剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、金属不活性化剤、防錆剤、消泡剤、着色剤等が挙げられる。
これらの中でも、本開示の実施形態に係る磁気粘性流体組成物は、清浄剤、分散剤、酸化防止剤、摩耗防止剤、極圧剤、及び摩擦調整剤から選ばれる少なくとも1種の潤滑油添加剤を含むことが好ましい。
【0061】
潤滑油添加剤の配合割合は、得られる磁気粘性流体組成物の用途に応じて、適宜設定することができる。
潤滑油添加剤の合計配合割合としては、磁気粘性流体組成物の全質量に対して、好ましくは0質量%~10質量%、より好ましくは0質量%~8質量%、更に好ましくは0質量%~6質量%である。
【0062】
(清浄剤)
清浄剤としては、金属成分がカルシウムやマグネシウムである、スルホネート、フィネート、サリシレート等が挙げられる。
上記清浄剤は、特に機械内部が高温になる環境で使用される磁気粘性流体組成物に好適である。
【0063】
(分散剤)
分散剤としては、コハク酸イミド系無灰分散剤、コハク酸アミド系無灰分散剤、又はこれらのホウ素化誘導体などが挙げられる。
コハク酸イミド系無灰分散剤としては、ビスポリプロペニルコハク酸イミド、モノプロペニルコハク酸イミド、ビスポリブテニルコハク酸イミド、モノブテニルコハク酸イミド、ビスポリペンテニルコハク酸イミド、モノペンテニルコハク酸イミドなどのポリアルケニルコハク酸イミドなどが挙げられる。
コハク酸アミド系無灰分散剤としては、ポリプロペニルコハク酸アミド、ポリブテニルコハク酸アミド、ポリペンテニルコハク酸アミドなどのポリアルケニルコハク酸アミド等が挙げられる。
通常、これらの無灰分散剤におけるポリアルケニル基の重量平均分子量は、70~50000程度である。
また、これらのホウ素化誘導体としては、ポリアルケニルコハク酸無水物を、ホウ酸、ホウ酸エステル、ホウ酸塩などのホウ素化合物及びポリアミンなどと反応させることにより得られる無灰分散剤が挙げられる。
【0064】
(酸化防止剤)
酸化防止剤としては、フェノール系、アミン系等の無灰酸化防止剤、亜鉛系、銅系、モリブデン系等の金属系酸化防止剤が挙げられる。
具体的には、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール等の単環フェノール系酸化防止剤、4,4’-ビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、4,4’-エチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、4,4’-ブチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、6,6’-メチレンビス(2-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール)等のビスフェノール系酸化防止剤、4,4’チオビス-(2,6-ジ-t-ブチル-フェノール)、4,4’チオビス-(2-メチル-6-t-ブチル-フェノール)等の硫黄含有フェノール系酸化防止剤、芳香族アミン化合物、アルキルジフェニルアミン、アルキルナフチルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、アルキルフェニル-α-ナフチルアミン等のアミン系酸化防止剤、アルキルホスファイト、アリールホスファイト類等のリン系酸化防止剤等が挙げられる。
【0065】
(摩耗防止剤)
摩耗防止剤としては、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、各種のリン酸エステル、チオリン酸エステル、各種リン酸エステルのアミン塩などが挙げられる。
【0066】
(極圧剤)
極圧剤としては、炭化水素硫化物、硫化油脂、硫化オレフィン、硫黄、リン酸エステル、亜リン酸エステル、塩素化パラフィン、塩素化ジフェニルなどが挙げられる。
【0067】
(摩擦調整剤)
摩擦調整剤としては、有機モリブテン化合物、多価アルコール部分エステル系、アミン系、アミド系、硫化エステル、リン酸エステル、酸性リン酸エステルやそのアミン塩、ジオール類、オレイン酸、ステアリン酸、高級アルコール、アミン、エステル、硫化油脂、酸性リン酸エステル、酸性亜リン酸エステルなどが挙げられる。
【0068】
<その他の成分>
本開示の実施形態に係る磁気粘性流体組成物は、上記の成分以外に、必要に応じて、磁性粒子の安定分散の目的で用いられる界面活性剤、磁性粒子の沈降抑制の目的から水添スチレン系ブロック共重合体以外の沈降抑制剤を配合することが可能である。
【0069】
界面活性剤としては、磁性粒子と親和性のある官能基とを備えたものが好ましい。
界面活性剤の具体例としては、カプロン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸等の高級脂肪酸、脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等のエステル類などが挙げられる。
また、脂肪酸アミド、脂肪酸アミン、ポリオキシエチレン誘導体、グリセリン誘導体、ひまし油誘導体、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0070】
水添スチレン系ブロック共重合体以外の沈降抑制剤としては、例えば、ヒュームドシリカ、脂肪酸アマイドワックス等が挙げられる。
【0071】
磁気粘性流体組成物の調製方法は、磁性粒子、潤滑油基油、水添スチレン系ブロック共重合体、有機変性ベントナイト、各種潤滑油添加剤及び、必要に応じてその他の添加剤を適宜混合すればよい。
各成分の混合順序は特に制限されるものではなく、プロペラタイプの高速撹拌機、プラネタリミキサー型の撹拌装置等が好ましく用いられ、撹拌時の磁気粘性流体組成物の温度は50℃~100℃程度であることが好ましい。
【0072】
本開示の実施形態に係る磁気粘性流体組成物は、各種車両用又は工業用のダンパー、クラッチ、トルク伝達装置及びブレーキ、更には、建造物の耐震装置等に好適に利用することができる。
【実施例0073】
次に、本開示を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本開示は、これらの例によって何ら制限されるものではない。
【0074】
実施例1~8及び比較例1~7の磁気粘性流体組成物は、以下に示す成分を、下記表1に示す割合で配合し、プロペラタイプの高速撹拌機を用いて、約70℃~85℃で混合し、調製した。
得られた各磁気粘性流体組成物の性能を評価した。結果を表1に示す。
なお、表中の「空欄」は、当該成分を配合していないことを意味し、「-」は測定していないことを意味する。
【0075】
実施例及び比較例の磁気粘性流体組成物の調製に用いた成分は次の通りである。
(磁性粒子(A))
・カルボニル鉄粉:ペンタカルボニル鉄(Fe(Co))の熱分解物、鉄含有率;99.7質量%、累積50%粒子径(D50);6.2μm
【0076】
(潤滑油基油(B))
・潤滑油基油:鉱油系潤滑油基油;API(米国石油協会)の基油カテゴリー グループIII、40℃動粘度;20.06mm/s、粘度指数;122
【0077】
(水添スチレン系ブロック共重合体(C))
・ポリマーA;スチレン-水素添加された1,4イソプレンーブロック共重合体、重量平均分子量;284,000
【0078】
(有機変性ベントナイト(D))
・有機化ベントナイトA:BYK製 CLAYTONEAF 有機変性ベントナイト
・有機化ベンドナイトB:ホージュン製 エスベンN400 有機変性ベントナイト、ジメチルジアルキルアンモニウム修飾、強熱減量試験による有機物含有量39.3質量%
【0079】
(その他沈降抑制剤)
・ベンドナイトC:ホージュン製 エスベン ベントナイト
・ヒュームドシリカ;日本アエロジル株式会社製、ジメチルジクロロシラン表面処理、ETによる比表面積;110m/g±20m/g、一次粒子の平均径;約16nm
【0080】
(その他の成分)
・界面活性剤;オレイン酸
【0081】
[評価]
-沈降特性試験-
10mlのガラス製メスシリンダーに、実施例及び比較例で得られた磁気粘性流体組成物を10ml入れ、室温(約20℃)にて504時間又は2500時間静置した。504時間又は2500時間後にメスシリンダーの上部に分離してきた分離油量[ml]を目視で読み取り、この数値を下記式(1)に代入して、分離率を求めた。結果を表1に示す。
分離率(%)=(分離油量[ml]/10[ml])×100 (1)
分離率の値が小さいほど沈降抑制に優れ、実用的なものとして好ましくは504時間後の分離率が25%以下であり、20%以下がより好ましく、15%以下がさらに好ましい。
【0082】
-流動性測定-
アントンパール社製レオメータ「MCR102e」に直径24.978mm、角度2.003°のコーンプレートを用いて、25℃にてせん断速度100S-1で5分間せん断させた後のせん断粘度(mPa・s)を測定した。
せん断粘度の値が小さいほど流動性に優れ、実用的なものとして好ましくは1600mPa・s以下であり、1300mPa・s以下が好ましく、1100mPa・s以下がより好ましい。
【0083】
-再分散性試験-
前記沈降特性試験における2500時間静置後に、35%以上の分離率が確認された磁気粘性流体組成物に関して、再分散性試験を実施した。2500時間静置後の磁気粘性流体組成物から油分を除いて、沈降物をJIS-K2220(2013)の1/4ちょう度計に移し、一晩静置した後のちょう度を測定した。
ちょう度の値が大きいほど再分散性に優れ、実用的なものとして好ましくは300以上であり、310以上がより好ましく、320以上がさらに好ましい。
【0084】
【表1】
【0085】
表1に示すように、磁性粒子(A)と、潤滑油基油(B)と、水添スチレン系ブロック共重合体(C)と、有機変性ベントナイト(D)と、を含有し、有機変性ベントナイト(D)の含有量が0.05質量%~1.5質量%である実施例1~実施例8の磁気粘性流体組成物は、磁性粒子の沈降防止性、磁場無印加時の流動性、及び沈降した磁性粒子の再分散性に優れている。
これに対して、水添スチレン系ブロック共重合体(C)を含まない比較例6~比較例7の磁気粘性流体組成物は磁性粒子の沈降防止性に劣り、有機変性されていないベントナイトを用いた比較例4の磁気粘性流体組成物も磁性粒子の沈降防止性に劣っている。
有機変性ベントナイト(D)を含まない比較例3、比較例5の磁気粘性流体組成物は沈降した磁性粒子の再分散性に劣っている。
有機変性ベントナイト(D)の含有量が1.6質量%である比較例1の磁気粘性流体組成物は流動性に劣っている。
有機変性ベントナイト(D)を含まず、且つ水添スチレン系ブロック共重合体(C)の含有量が1.2質量%である比較例2の磁気粘性流体組成物は流動性に劣っている。
【0086】
以上の通り、本開示の実施形態に係る磁気粘性流体組成物は、磁性粒子の沈降防止性、磁場無印加時の流動性、及び沈降した磁性粒子の再分散性に優れている。そのため、特に各種車両用又は工業用のダンパー、クラッチ、アクチェーター、トルク伝達装置及びブレーキ、更に建造物の耐震装置等の使用に、極めて有用である。