(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143643
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】湿式クラッチ用潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 135/18 20060101AFI20241003BHJP
C10N 20/02 20060101ALN20241003BHJP
C10N 30/12 20060101ALN20241003BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20241003BHJP
C10N 40/04 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
C10M135/18
C10N20:02
C10N30:12
C10N30:06
C10N40:04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056419
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】398053147
【氏名又は名称】コスモ石油ルブリカンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅見 直紀
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA04A
4H104BA07A
4H104BA08A
4H104BB23A
4H104BB24A
4H104BB41A
4H104BG10C
4H104CB14A
4H104DA02A
4H104EA02A
4H104EB10
4H104EB11
4H104LA03
4H104LA06
4H104PA03
(57)【要約】
【課題】適切な摩擦係数を有し且つ銅適合性に優れる湿式クラッチ用潤滑油組成物の提供。
【解決手段】基油と、一般式(a)で表されるジチオカルバミン酸亜鉛化合物と、窒素を含む分散剤と、を含有し、ジチオカルバミン酸亜鉛化合物の含有量が、潤滑油組成物全量に対し0.2質量%以上0.3質量%以下であり、分散剤の窒素量換算での含有量が、潤滑油組成物全量に対し0.02質量%以上0.03質量%以下である、湿式クラッチ用潤滑油組成物。一般式(a)中、R
11、R
12、R
13、及びR
14は、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を表す。
【化1】
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と、
下記一般式(a)で表されるジチオカルバミン酸亜鉛化合物と、
窒素を含む分散剤と、を含有し、
前記ジチオカルバミン酸亜鉛化合物の含有量が、潤滑油組成物全量に対し0.2質量%以上0.3質量%以下であり、
前記分散剤の窒素量換算での含有量が、潤滑油組成物全量に対し0.02質量%以上0.03質量%以下である、湿式クラッチ用潤滑油組成物。
【化1】
(一般式(a)中、R
11、R
12、R
13、及びR
14は、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を表す。)
【請求項2】
前記ジチオカルバミン酸亜鉛化合物の含有量(X)に対する、前記分散剤の窒素量換算での含有量(Y)の比率(Y/X)が、0.08以上である、請求項1に記載の湿式クラッチ用潤滑油組成物。
【請求項3】
金属不活性化剤を、潤滑油組成物全量に対し0.05質量%以上0.15質量%以下の範囲で含有する、請求項1に記載の湿式クラッチ用潤滑油組成物。
【請求項4】
腐食防止剤を、潤滑油組成物全量に対し0.01質量%以上0.1質量%以下の範囲で含有する、請求項1に記載の湿式クラッチ用潤滑油組成物。
【請求項5】
エーテル基を有するエーテル含有摩擦調整剤を、潤滑油組成物全量に対し2.0質量%以上4.0質量%以下の範囲で含有する、請求項1に記載の湿式クラッチ用潤滑油組成物。
【請求項6】
リンを含むリン含有摩擦調整剤を、潤滑油組成物全量に対し0.5質量%以上1.5質量%以下の範囲で含有する、請求項1に記載の湿式クラッチ用潤滑油組成物。
【請求項7】
流動点降下剤を、潤滑油組成物全量に対し0.1質量%以上0.5質量%以下の範囲で含有する、請求項1に記載の湿式クラッチ用潤滑油組成物。
【請求項8】
前記基油が、100℃で1mm2/s以上5mm2/s以下の動粘度を有する合成基油である、請求項1に記載の湿式クラッチ用潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、湿式クラッチ用潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
湿式クラッチ機構、特に金属製の摩擦クラッチは、自動車のデファレンシャルや軸継手などに用いられており、主に、動力伝達の制御を担う機構である。この湿式クラッチ機構での動力伝達は、クラッチの摺動により制御されるため、湿式クラッチに用いられる潤滑油には、良好なトルク伝達性能のために、一定以上の摩擦係数を有することが求められる。
【0003】
このような湿式クラッチ用潤滑油として、例えば特許文献1には、エステル部に炭素数7~9のアルキル基を有するオレイン酸エステルを含み、かつ100℃で2~50mm2/sの動粘度を有する基油に、(A)アルキル基の炭素数が8以上の高級アルコールとグリセリンのエーテルを潤滑油全量に対して0.1~10質量%、及び(B)リン酸エステル化合物を潤滑油全量に対して0.1~5質量%含有する湿式クラッチ用潤滑油、が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、基油と、粘度指数向上剤(A)と、を含有し、該基油の成分として、100℃における動粘度が1.0~3.0mm2/sであるポリアルファオレフィンが配合されており、該基油の100℃における粘度が1.0~2.5mm2/sであり、該粘度指数向上剤(A)が、重量平均分子量が10,000~100,000のポリメタクリレート系粘度指数向上剤であり、該粘度指数向上剤(A)の含有量が10~20質量%であり、100℃における動粘度が4.5~6.0mm2/sであり且つ粘度指数が200~280である、湿式クラッチ用潤滑油組成物、が開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、100℃で2~50mm2/sの粘度を有する鉱油及び合成油の中から選ばれる1種以上を基油とし、これに、(A)炭素数8以上の高級アルコールとグリセリンとのエーテル0.1~10質量%、及び(B)リン酸エステル化合物0.1~5質量%を含有し、疎水性シリカは含まない湿式クラッチ用潤滑油、が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-263439号公報
【特許文献2】特開2011-052047号公報
【特許文献3】特許第4209189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
湿式クラッチ機構に用いる潤滑油組成物には、トルクを伝達するために一定以上の摩擦係数(つまりトルク伝達性能)が求められている。また、湿式クラッチ用潤滑油組成物には、近年では、銅部材に接した際に銅の腐食を抑制する性能(いわゆる銅適合性)が求められている。
【0008】
つまり、本開示が解決しようとする課題は、適切な摩擦係数を有し且つ銅適合性に優れる湿式クラッチ用潤滑油組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示には、以下の実施態様が含まれる。
<1>
基油と、
下記一般式(a)で表されるジチオカルバミン酸亜鉛化合物と、
窒素を含む分散剤と、を含有し、
前記ジチオカルバミン酸亜鉛化合物の含有量が、潤滑油組成物全量に対し0.2質量%以上0.3質量%以下であり、
前記分散剤の窒素量換算での含有量が、潤滑油組成物全量に対し0.02質量%以上0.03質量%以下である、湿式クラッチ用潤滑油組成物。
【0010】
【0011】
(一般式(a)中、R11、R12、R13、及びR14は、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を表す。)
<2>
前記ジチオカルバミン酸亜鉛化合物の含有量(X)に対する、前記分散剤の窒素量換算での含有量(Y)の比率(Y/X)が、0.08以上である、<1>に記載の湿式クラッチ用潤滑油組成物。
<3>
金属不活性化剤を、潤滑油組成物全量に対し0.05質量%以上0.15質量%以下の範囲で含有する、<1>又は<2>に記載の湿式クラッチ用潤滑油組成物。
<4>
腐食防止剤を、潤滑油組成物全量に対し0.01質量%以上0.1質量%以下の範囲で含有する、<1>~<3>のいずれか1項に記載の湿式クラッチ用潤滑油組成物。
<5>
エーテル基を有するエーテル含有摩擦調整剤を、潤滑油組成物全量に対し2.0質量%以上4.0質量%以下の範囲で含有する、<1>~<4>のいずれか1項に記載の湿式クラッチ用潤滑油組成物。
<6>
リンを含むリン含有摩擦調整剤を、潤滑油組成物全量に対し0.5質量%以上1.5質量%以下の範囲で含有する、<1>~<5>のいずれか1項に記載の湿式クラッチ用潤滑油組成物。
<7>
流動点降下剤を、潤滑油組成物全量に対し0.1質量%以上0.5質量%以下の範囲で含有する、<1>~<6>のいずれか1項に記載の湿式クラッチ用潤滑油組成物。
<8>
前記基油が、100℃で1mm2/s以上5mm2/s以下の動粘度を有する合成基油である、<1>~<7>のいずれか1項に記載の湿式クラッチ用潤滑油組成物。
【発明の効果】
【0012】
本開示の一実施形態によれば、適切な摩擦係数を有し且つ銅適合性に優れる湿式クラッチ用潤滑油組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の一例である実施形態について説明する。これらの説明及び実施例は、実施形態を例示するものであり、発明の範囲を制限するものではない。
【0014】
本開示において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する複数の成分の合計量を意味する。
本開示において、2つ以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において、「JIS」は、日本産業規格(Japanese Industrial Standards)の略称として用いる。
【0015】
<湿式クラッチ用潤滑油組成物>
本開示の実施形態に係る湿式クラッチ用潤滑油組成物(以下単に「潤滑油組成物」とも称す)は、基油と、前述の一般式(a)で表されるジチオカルバミン酸亜鉛化合物(以下単に「ZnDTC化合物」とも称す)と、窒素を含む分散剤(以下単に「窒素分散剤」とも称す)と、を含有する。
そして、ZnDTC化合物の含有量が、潤滑油組成物全量に対し0.2質量%以上0.3質量%以下であり、窒素分散剤の窒素量換算での含有量が、潤滑油組成物全量に対し0.02質量%以上0.03質量%以下である。
【0016】
湿式クラッチ用潤滑油組成物が適用される湿式クラッチ機構とは、自動車のデファレンシャルや軸継手、農建機のブレーキなどに用いられ、主に動力伝達の制御を担う機構である。このような湿式クラッチ機構に用いる潤滑油組成物には、トルクを伝達するために一定以上の摩擦係数(つまりトルク伝達性能)が求められる。また、電子制御式駆動力伝達機構においても、同様に、適切な摩擦係数を有することが求められる。
また、湿式クラッチ用潤滑油組成物には、近年では、銅部材に接した際に銅の腐食を抑制する性能(いわゆる銅適合性)が求められている。
以上の通り、湿式クラッチ機構に用いる潤滑油組成物には、適切な摩擦係数を有し且つ銅適合性に優れることが要求されている。
【0017】
これに対し、本開示の実施形態に係る潤滑油組成物は、一般式(a)で表されるZnDTC化合物と窒素分散剤との両方を含有し、且つそれぞれの含有量を上記範囲に制御している。これにより、適切な摩擦係数と銅適合性とを両立することができる。
例えば、窒素分散剤のみを含みZnDTC化合物を含まない場合、及びZnDTC化合物のみを含み窒素分散剤を含まない場合、のいずれにおいても適切な摩擦係数が得られない。また、両者を含んでいても、ZnDTC化合物の含有量が前記上限値を上回る場合、銅適合性に劣る。
このように本開示においては、ZnDTC化合物と窒素分散剤とを含有し且つ各含有量を制御することで、適切な摩擦係数と銅適合性との両方を達成している。
【0018】
次いで、本開示の実施形態に係る潤滑油組成物に含有される各成分について説明する。
【0019】
<基油>
基油としては、特に限定されず、湿式クラッチ用の潤滑油において用いられる基油を用いることができる。基油としては、具体的には、鉱油系基油、及び合成系基油(合成基油)等が挙げられる。
【0020】
鉱油系基油としては、例えば、原油から常圧蒸留、減圧蒸留、溶剤脱歴、溶剤抽出、水素化精製、溶剤脱ろうの工程を組み合わせて得られるAPI(American Petroleum Institute;米国石油協会) Group Iに分類される基油;水素化分解、触媒脱ろう等の工程を組み合わせて得られるAPI Group IIに分類される基油;水素化分解、水素化異性化脱ろう等の高度水素化処理の工程を組み合わせて得られるAPI Group IIIに分類される基油;等が挙げられる。
鉱油系基油は、精製された、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油、及び芳香族系基油であってよく、これらの基油は、単独で使用しても組み合わせて使用してもよい。
【0021】
合成系基油(合成基油)としては、例えば、α-オレフィンオリゴマー(ポリアルファオレフィン:PAO、例えばプロピレンオリゴマー、イソブチレンオリゴマー、1-ブテンオリゴマー、1-オクテンオリゴマー、1-デセンオリゴマー、エチレン-プロピレンオリゴマー等)、イソパラフィンオリゴマー等の合成炭化水素;アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等の芳香族含有炭化水素;ジ-2-エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート等のエステル類;トリメチロールプロパンオレート、ペンタエリスリトール-2-エチルヘキサノエート等のポリオールエステル類;ポリオキシアルキレングリコール等のポリグリコール類;ポリフェニルエーテル類;等が挙げられる。
【0022】
湿式クラッチ用潤滑油組成物では、基油として合成基油を用いることが好ましく、中でもα-オレフィンオリゴマー(例えば1-デセンオリゴマー等)がより好ましい。α-オレフィンオリゴマーは、α-オレフィンの共重合体である。α-オレフィンオリゴマーとしては、炭素数が6~18のα-オレフィンの10量体以下の重合体又は共重合体が好ましい。α-オレフィンオリゴマーとしては、α-デセン(炭素数10)の2~4量体の重合体、α-ドデセン(炭素数12)の2~4量体の重合体、α-デセン(炭素数10)の2~4量体を主成分としこれを含む5量体以上の共重合体、及びα-ドデセン(炭素数12)の2~4量体を主成分としこれを含む5量体以上の共重合体がより好ましい。
【0023】
基油の100℃動粘度は、1mm2/s以上5mm2/s以下であることが好ましく、2mm2/s以上4mm2/s以下であることがより好ましい。基油の100℃動粘度は、基油単独又は混合基油のいずれである場合についても、上記の動粘度であることが好ましい。
基油の100℃動粘度は、JIS K2283(2000)に準拠して測定する。
【0024】
<ジチオカルバミン酸亜鉛化合物(ZnDTC化合物)>
本開示の実施形態に係る潤滑油組成物は、下記一般式(a)で表されるジチオカルバミン酸亜鉛化合物(ZnDTC化合物)を含有する。窒素分散剤と共にZnDTC化合物を添加することで、適切な摩擦係数を有する潤滑油組成物とすることができる。
【0025】
【0026】
一般式(a)中、R11、R12、R13、及びR14は、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を表す。
【0027】
R11、R12、R13、及びR14で表されるアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状又は環状のいずれであってもよいが、直鎖状又は分岐鎖状であることが好ましい。
【0028】
アルキル基は、特に限定されるものではないが、炭素数1~20であることが好ましく、炭素数1~10であることがより好ましく、炭素数1~8であることがさらに好ましい。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基(アミル基)、ヘキシル基、ヘプチル基、ノニル基、及びデシル基等が挙げられる。
【0029】
R11、R12、R13、及びR14は、それぞれ独立に、水素原子、或いは炭素数1~10の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~10の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であることがより好ましく、炭素数1~8の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であることがさらに好ましい。
【0030】
ZnDTC化合物としては、ジアミルジチオカルバミン酸亜鉛等が挙げられる。
【0031】
ZnDTC化合物の含有量は、潤滑油組成物全量に対し0.2質量%以上0.3質量%以下であり、さらに0.22質量%以上0.28質量%以下であることが好ましい。ZnDTC化合物の含有量が上記下限値未満では適切な摩擦係数を得ることができず、上記上限値超では銅適合性に劣る。
【0032】
<窒素を含む分散剤(窒素分散剤)>
本開示の実施形態に係る潤滑油組成物は、窒素を含む分散剤(窒素分散剤)を含有する。ZnDTC化合物と共に窒素分散剤を添加することで、適切な摩擦係数を有する潤滑油組成物とすることができる。
【0033】
窒素分散剤としては、ホウ素及び窒素を含むB含有窒素分散剤、及びホウ素を含まず且つ窒素を含むB非含有窒素分散剤が挙げられる。窒素分散剤は、1種を用いても、2種以上を併用してもよい。
【0034】
-B含有窒素分散剤-
B含有窒素分散剤としては、潤滑油分野において用いられるB含有窒素分散剤を用いることができる。B含有窒素分散剤としては、ホウ素含有イミド系分散剤が好ましい。ホウ素含有イミド系分散剤とは、ホウ素を含有し且つイミド結合を有する化合物である分散剤を意味する。ホウ素含有イミド系分散剤としては、例えば、アルキル又はアルケニルコハク酸のモノイミド体、そのビスイミド体のホウ素変性物が挙げられる。ホウ素含有イミド系分散剤としては、これらの中でも、潤滑油組成物の長寿命化、耐摩耗性及び分散性の観点から、アルキル又はアルケニルコハク酸のビスイミド体のホウ素変性物が好ましい。
【0035】
B含有窒素分散剤は、低分子化合物及び重合物のいずれでもよいが、清浄分散性の観点からは、重合物であることが好ましい。本開示において重合物とは、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が1,000以上である化合物を意味する。
【0036】
B含有窒素分散剤は、清浄分散性の観点から、重量平均分子量(Mw)が、2,000~7,000であることが好ましい。
【0037】
本開示において、重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定した値である。重量平均分子量(Mw)の測定は、測定装置:Shodex GPC-101(昭和電工社製)、測定カラム:Shodex GPC LF-804(昭和電工社製)を3本、検出器:示差屈折検出器、移動相:THF(テトラヒドロフラン)、流量:1ml/min、試料濃度:1.0mass%/vol、注入量:100μLの条件にて行う。重量平均分子量は、この測定結果から単分散ポリスチレン標準試料により作製した分子量分布曲線を使用して算出される。
【0038】
-B非含有窒素分散剤-
B非含有窒素分散剤とは、ホウ素を含まず且つ窒素を含む分散剤を意味し、例えば無灰系分散剤に包含される。
【0039】
B非含有窒素分散剤としては、潤滑油分野において用いられる無灰系分散剤であってホウ素を含まず且つ窒素を含む分散剤を用いることができる。B非含有窒素分散剤としては、例えば、極性基を主鎖に有さないポリオレフィンの側鎖又は極性基を主鎖に有するポリアミンの側鎖に極性基が直接結合した化合物等が挙げられる。ここで、極性基としては、例えば、アルコール性ヒドロキシ基、アミド基、及びエステル基が挙げられる。
【0040】
B非含有窒素分散剤としては、例えば、アルキル基又はアルケニル基を分子中に1個以上を含むポリアミン、及びこれらの酸変性物を用いることができる。B非含有窒素分散剤としては、例えば、特開2018-048220号公報の段落0029~0032に記載の一般式(1)又は一般式(2)で表されるコハク酸イミド(但し、ホウ素変性物は含まない)及び段落0048に記載の分散剤Bも好適に用いることができる。B非含有窒素分散剤として、具体的には、ホウ素を含有しないポリイソブテニルコハク酸イミド化合物が好適に挙げられる。
【0041】
窒素分散剤の窒素量換算での含有量(複数種の窒素分散剤を併用する場合には合計の含有量)は、潤滑油組成物全量に対し0.02質量%以上0.03質量%以下であり、0.022質量%以上0.028質量%以下が好ましい。窒素分散剤の含有量が上記下限値未満では適切な摩擦係数を得ることができず、上記上限値超では低温粘度特性の悪化が想定される。
【0042】
窒素分散剤自体の含有量は、窒素量換算での含有量が上記範囲となるよう調整される。なお、窒素分散剤の含有量は、潤滑油組成物全量に対し、5質量%以上20質量%以下であることが好ましく、6質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、8質量%以上12質量%以下であることがさらに好ましい。
【0043】
<ZnDTC化合物と窒素分散剤との含有比>
潤滑油組成物における、ZnDTC化合物の含有量(X)と窒素分散剤の窒素量換算での含有量(Y)との合計に対する、含有量(Y)の比率(Y/(X+Y))は、0.05超1.00未満であることが好ましく、0.07以上0.50以下であることがより好ましく、0.08以上0.10以下であることがさらに好ましい。ZnDTC化合物と窒素分散剤との含有比を上記範囲に調整することで、適切な摩擦係数と銅適合性との両立をより達成し易くなる。
【0044】
潤滑油組成物における、ZnDTC化合物の含有量(X)に対する、窒素分散剤の窒素量換算での含有量(Y)の比率(Y/X)は、0.08以上であることが好ましく、0.085以上0.120以下であることがより好ましく、0.090以上0.110以下であることがさらに好ましい。ZnDTC化合物と窒素分散剤との含有比を上記範囲に調整することで、適切な摩擦係数と銅適合性との両立をより達成し易くなる。
【0045】
<金属不活性化剤>
本開示の実施形態に係る潤滑油組成物は、金属の化学的活性を抑制して銅適合性を向上させる観点で、金属不活性化剤を含有することが好ましい。
【0046】
金属不活性化剤としては、特に限定されず、例えば、ベンゾトリアゾール及びその誘導体、トリルトリアゾール及びその誘導体、イミダゾール及びその誘導体、ピリミジン及びその誘導体等の化合物が挙げられる。中でも、金属不活性化剤としては、ベンゾトリアゾール及びその誘導体が好ましい。
【0047】
金属不活性化剤の含有量は、潤滑油組成物全量に対し0.05質量%以上0.15質量%以下であることが好ましく、0.07質量%以上0.13質量%以下であることがより好ましい。金属不活性化剤の含有量が上記下限値以上であることでより高い銅適合性が得られ、上記上限値以下であることで適切な摩擦特性を得ることができる。
【0048】
<腐食防止剤>
本開示の実施形態に係る潤滑油組成物は、金属における腐食の発生を抑制して銅適合性を向上させる観点で、腐食防止剤を含有することが好ましい。
【0049】
腐食防止剤は、主として非鉄金属材料であり、銅系又は鉛系の材料が用いられる箇所の腐食を防止する目的で添加されるものである。また、腐食防止剤は、金属の触媒作用を抑えるので間接的に酸化防止剤としても機能している。
【0050】
腐食防止剤としては、金属表面上で被膜を形成することで腐食防止効果を発現する化合物であり、例えば、チアジアゾール及びその誘導体、インダゾール及びその誘導体、ベンズイミダゾール及びその誘導体、インドール及びその誘導体等が挙げられる。中でも、腐食防止剤としては、チアジアゾール及びその誘導体(以下単に「チアジアゾール化合物」とも称す)が好ましい。
【0051】
チアジアゾール化合物としては、例えば下記一般式(1-1)又は下記一般式(1-2)で表される構造を有する、1,3,4-チアジアゾール誘導体が挙げられる。
【0052】
【0053】
(一般式(1-1)及び一般式(1-2)中、R11、R12及びR13は、それぞれ独立に、1以上の硫黄原子を有するチオアルキル基を表す。)
【0054】
チオアルキル基とは、炭素(C)及び硫黄(S)を有する有機連結基を表す。チオアルキル基におけるアルキル基は、さらに別の置換基によって置換されていてもよい。チオアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよいが、直鎖状又は分岐鎖状であることが好ましい。チオアルキル基は、脂肪族基であっても芳香族基であってもよいが、脂肪族基であることが好ましい。チオアルキル基は炭素数3以上であることが好ましく、炭素数6以上であることがより好ましく、炭素数8以上であることが特に好ましい。
【0055】
チオアルキル基としては、下記(a)及び(b)に示す基が好ましい。
【0056】
【0057】
基(a)及び(b)中、R14及びR15は、それぞれ独立にアルキル基を表す。アルキル基は、さらに別の置換基によって置換されていてもよい。直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよいが、直鎖状又は分岐鎖状であることが好ましい。アルキル基は、脂肪族基であっても芳香族基であってもよいが、脂肪族基であることが好ましい。アルキル基は炭素数3以上であることが好ましく、炭素数6以上であることがより好ましく、炭素数8以上であることが特に好ましい。
【0058】
腐食防止剤の含有量は、潤滑油組成物全量に対し0.01質量%以上0.1質量%以下であることが好ましく、0.02質量%以上0.07質量%以下であることがより好ましい。腐食防止剤の含有量が上記下限値以上であることでより高い銅適合性が得られ、上記上限値以下であることで適切な摩擦特性を得ることができる。
【0059】
<エーテル含有摩擦調整剤>
本開示の実施形態に係る潤滑油組成物は、適切な摩擦係数を得る観点で、エーテル基を有するエーテル含有摩擦調整剤を含有することが好ましい。
【0060】
エーテル含有摩擦調整剤としては、例えば一般式(2-1)で表わされる(ポリ)グリセリルエーテルが挙げられる。
【0061】
【0062】
一般式(2-1)において、R1は炭化水素基を表わす。
炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基等が挙げられる。
アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、2級ブチル、ターシャリブチル、ペンチル、イソペンチル、2級ペンチル、ネオペンチル、ターシャリペンチル、ヘキシル、2級ヘキシル、ヘプチル、2級ヘプチル、オクチル、2-エチルヘキシル、2級オクチル、ノニル、2級ノニル、デシル、2級デシル、ウンデシル、2級ウンデシル、ドデシル、2級ドデシル、トリデシル、イソトリデシル、2級トリデシル、テトラデシル、2級テトラデシル、ヘキサデシル、2級ヘキサデシル、ステアリル、イコシル、ドコシル、テトラコシル、トリアコンチル、2-ブチルオクチル、2-ブチルデシル、2-ヘキシルオクチル、2-ヘキシルデシル、2-オクチルデシル、2-ヘキシルドデシル、2-オクチルドデシル、2-デシルテトラデシル、2-ドデシルヘキサデシル、2-ヘキサデシルオクタデシル、2-テトラデシルオクタデシル、モノメチル分枝-イソステアリル等が挙げられる。
【0063】
アルケニル基としては、例えば、ビニル、アリル、プロペニル、ブテニル、イソブテニル、ペンテニル、イソペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、ウンデセニル、ドデセニル、テトラデセニル、オレイル等が挙げられる。
アリール基としては、例えば、フェニル、トルイル、キシリル、クメニル、メシチル、ベンジル、フェネチル、スチリル、シンナミル、ベンズヒドリル、トリチル、エチルフェニル、プロピルフェニル、ブチルフェニル、ペンチルフェニル、ヘキシルフェニル、ヘプチルフェニル、オクチルフェニル、ノニルフェニル、デシルフェニル、ウンデシルフェニル、ドデシルフェニル、フェニルフェニル、ベンジルフェニル、スチレン化フェニル、pークミルフェニル、α-ナフチル、β-ナフチル基等が挙げられる。
【0064】
シクロアルキル基及びシクロアルケニル基としては、例えば、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、メチルシクロペンチル、メチルシクロヘキシル、メチルシクロヘプチル、シクロペンテニル、シクロヘキセニル、シクロヘプテニル、メチルシクロペンテニル、メチルシクロヘキセニル、メチルシクロヘプテニル基等が挙げられる。
【0065】
R1は、アルキル基又はアルケニル基が好ましく、炭素数4~30のアルキル基又はアルケニル基がより好ましい。
また、一般式(1)において、nはグリセリンの重合度を表わす係数であって、1以上の数であり、好ましくは1~5の数である。なお、nが1以上の場合は、nは平均値である。
【0066】
エーテル含有摩擦調整剤の含有量は、潤滑油組成物全量に対し2.0質量%以上4.0質量%以下であることが好ましく、2.5質量%以上3.5質量%以下であることがより好ましい。エーテル含有摩擦調整剤の含有量が上記下限値以上であることで適切な摩擦係数を得易くなり、上記上限値以下であることで摩擦係数の温度依存性が減少するため好ましい。
【0067】
<リン含有摩擦調整剤>
本開示の実施形態に係る潤滑油組成物は、適切な摩擦係数を得る観点で、リンを含むリン含有摩擦調整剤を含有することが好ましい。
【0068】
リン含有摩擦調整剤としては、例えば一般式(2-2)で表されるリン酸エステル、亜リン酸エステル、及びそれらのアミン塩が挙げられる。好ましくは酸性リン酸エステルと、そのアミン塩である。
【0069】
【0070】
一般式(2-2)中、R2は1価の炭化水素基を、Xは酸素原子又は硫黄原子を、aは1、2又は3を、bは0又は1を、表す。
上記R2で表される1価の炭化水素基は、炭素数5~20の直鎖状又は分岐鎖状の飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基(例えば、アルキル基、アルケニル基)、炭素数6~26の芳香族炭化水素基又はシクロアルキル基が挙げられる。
【0071】
上記のアミン塩の具体例としては、酸性リン酸エステル、酸性亜リン酸エステル、酸性チオリン酸エステル、酸性ジチオリン酸エステルを、アルキルアミンで中和した化合物が挙げられる。
酸性リン酸エステルとしては、ブチルアシッドホスフェート、2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、オクチルアシッドホスフェート、イソデシルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、トリデシルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、トリールアシッドホスフェート、ジ-2-エチルヘキシルアシッドホスフェートなどが挙げられる。
【0072】
酸性亜リン酸エステルとしては、トリフェニルホスファイト、トリ(P-クレジル)ホスファイト、トリ(オクチルフェニル)ホスファイト、トリ(ノニルフェニル)ホスファイト、トリイソオクチルホスファイト、トリドデシルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、トリイソデシルホスファイト、トリテアリルホスファイト、トリオレイルホスファイト、ジ-2-エチルヘキシルハイドロゼンホスファイト、ジドデシルハイドロゼンホスファイト、ジラウリルハイドロゼンホスファイト、ジオレイルハイドロゼンホスファイトなどが挙げられる。
【0073】
酸性チオリン酸エステルとしては、ジオクチルチオアシッドホスフェート、トリオクチルチオアシッドホスフェート、トリドデシルチオアシッドホスフェート、トリヘキサデシルチオアシッドホスフェート、トリオクタデセニルチオアシッドホスフェート、トリ(オクチルフェニル)チオアシッドホスフェートなどが挙げられる。
酸性ジチオリン酸エステルとしては、トリデシルジチオアシッドホスフェート、ジ(2-エチルヘキシル)ジチオアシッドホスフェートなどが挙げられる。
リン酸エステルのアミン塩としては、上記のリン酸エステルを下記一般式(2-3)で表されるアルキルアミンで中和したアルキルアミン塩が挙げられる。
【0074】
【0075】
一般式(2-3)中、R3、R4及びR5は、それぞれ独立に、1価の炭化水素基又は水素原子を表し、少なくとも1つは炭化水素基である。
一般式(2-3)の具体例としては、ジブチルアミン、オクチルアミン、ジオクチルアミン、ラウリルアミン、ジラウリルアミン、オレイルアミン、ココナッツアミン、牛脂アミンなどが挙げられる。
【0076】
リン含有摩擦調整剤の含有量は、潤滑油組成物全量に対し0.5質量%以上1.5質量%以下であることが好ましく、0.6質量%以上1.0質量%以下であることがより好ましい。リン含有摩擦調整剤の含有量が上記下限値以上であることで適切な摩擦係数を得易くなり、上記上限値以下であることで摩擦係数の温度依存性が減少するため好ましい。
【0077】
<流動点降下剤>
本開示の実施形態に係る潤滑油組成物は、低温における潤滑油中のろう分の結晶化を抑制して流動点を低下させ、潤滑油の適用温度範囲を広げる観点で、流動点降下剤を含有することが好ましい。
【0078】
流動点降下剤としては、例えばポリメタクリレート、ポリアルキルメタクリレート、オレフィンコポリマー、塩素化パラフィン-ナフタレン縮合物、アルキル化ポリスチレンなどが挙げられる。中でも、流動点降下剤としては、ポリメタクリレート、及びポリアルキルメタクリレートが好ましい。
【0079】
流動点降下剤の重量平均分子量は、10,000以上100,000以下であることが好ましい。流動点降下剤の重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィーにより測定される、ポリスチレンを標準として算出する値である。
【0080】
流動点降下剤の含有量は、潤滑油組成物全量に対し0.1質量%以上0.5質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以上0.4質量%以下であることがより好ましい。流動点降下剤の含有量が上記下限値以上であることで潤滑油の適用温度範囲を広げることができ、上記上限値以下であることで低温粘度特性に優れる。
【0081】
<その他の添加剤>
本開示の実施形態に係る潤滑油組成物は、さらにその他の添加剤を含んでもよい。その他の添加剤としては、例えば、清浄剤、粘度指数向上剤が挙げられる。
【0082】
・清浄剤
清浄剤としては、金属を含有する金属型清浄剤が好ましく用いられる。金属型清浄剤としては、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属フェネート、アルカリ土類金属サリシレート等のアルカリ土類金属塩が挙げられる。金属型清浄剤としては、アルカリ土類金属スルホネートが好ましい。
【0083】
金属型清浄剤に含まれるアルカリ土類金属としては、例えばカルシウム、ナトリウム、バリウム等が挙げられる。これらの中でも、アルカリ土類金属としては、カルシウムが好適である。金属型清浄剤としては、炭酸又はホウ酸で過塩基化されたアルカリ土類金属塩が好ましい。
【0084】
清浄剤の塩基価としては、JIS K2501(2003)の過塩素酸法による塩基価で、好ましくは150mgKOH/g~500mgKOH/gであり、より好ましくは200mgKOH/g~450mgKOH/gであり、更に好ましくは250mgKOH/g~450mgKOH/gである。
【0085】
清浄剤の含有量は、清浄性を向上させる観点から、潤滑油組成物全量に対し0.01質量%以上2.0質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上1.0質量%以下であることがより好ましい。
【0086】
・粘度指数向上剤
粘度指数向上剤としては、JASO M355:2021に記載された、非分散タイプの粘度指数向上剤、及び分散タイプの粘度指数向上剤が挙げられる。
【0087】
非分散タイプの粘度指数向上剤としては、オレフィンコポリマーが挙げられる。オレフィンコポリマーとしては、ポリイソブチレン、エチレン-プロピレン共重合体などの重合体が挙げられる。
【0088】
分散タイプの粘度指数向上剤としては、ポリメタクリレート、オレフィン及びメタクリレートのランダム共重合体、オレフィン及びメタクリレートのブロック共重合体、ポリメタクリレート及びオレフィンコポリマーのグラフト共重合体などの重合体が挙げられる。
ポリメタクリレートとしては、ポリアルキルメタクリレートなどが挙げられる。
オレフィン及びメタクリレートのランダム共重合体としては、エチレン-アルキルメタクリレートのランダム共重合体、プロピレン-アルキルメタクリレートのランダム共重合体、イソブチレン-アルキルメタクリレートのランダム共重合体などが挙げられる。
オレフィン及びメタクリレートのブロック共重合体としては、エチレン-アルキルメタクリレートのブロック共重合体、プロピレン-アルキルメタクリレートのブロック共重合体、イソブチレン-アルキルメタクリレートのブロック共重合体などが挙げられる。
ポリメタクリレート及びオレフィンコポリマーのグラフト共重合体としては、主鎖がポリメタクリレートであり、側鎖にオレフィンコポリマーを有するポリマーが挙げられる。
【0089】
粘度指数向上剤である上記の重合体(オレフィンコポリマー、ポリメタクリレート等)が、側鎖アルキル基を有するアルキル化誘導体である場合、側鎖アルキル基の炭素数は1~50であることが好ましい。
【0090】
本開示において粘度指数向上剤は、粘度指数の向上に寄与する、重量平均分子量が10,000以上の重合体であり、且つ当該重合体の含有量が潤滑油組成物全量基準で1質量%以上であるものとする。
粘度指数向上剤の重量平均分子量は、50,000以上1,000,000以下であることが好ましく、100,000を超え800,000以下であることがより好ましい。粘度指数向上剤の重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィーにより測定される、ポリスチレンを標準として算出する値である。
【0091】
粘度指数向上剤の含有量は、潤滑油組成物全量に対し2.0質量%以上15.0質量%以下であることが好ましく、4.0質量%以上10.0質量%以下であることがより好ましい。
【0092】
(調製方法)
本開示の実施形態に係る潤滑油組成物の調製方法としては、基油、ジチオカルバミン酸亜鉛化合物(ZnDTC化合物)、及び窒素を含む分散剤(窒素分散剤)、並びに必要に応じて各種添加剤を適宜混合すればよい。これらの各成分の混合順序は、特に制限されるものではなく、基油に順次混合してもよいし、予め各種添加剤を基油に添加しておいてもよい。
【0093】
(動粘度、粘度指数)
本開示の実施形態に係る潤滑油組成物は、特に動粘度に制限はないが、低温及び高温時の安定性及び始動性を考慮すると、100℃における動粘度が1.0mm2/s~10.0mm2/sであることが好ましく、3.0mm2/s~8.0mm2/sであることがより好ましい。
【0094】
また、潤滑油組成物の粘度指数は、150以上であることが好ましく、170以上であることがより好ましく、190以上であることが更に好ましい。
【0095】
(用途)
本開示の実施形態に係る潤滑油組成物は、湿式クラッチを内蔵した電子制御カップリングや多板式クラッチ式LSD、湿式ブレーキ、AT(Automatic Transmission)、CVT(連続無断変速機)等に好適用いられる。
【実施例0096】
以下に実施例について説明するが、本開示はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0097】
<実施例、比較例>
基油及び各種添加剤を表1に記載の配合量で調製して潤滑油組成物を得た。
得られた潤滑油組成物をそれぞれ用いて下記の評価を行った。結果を表1に示す。
【0098】
<評価>
実施例及び比較例の湿式クラッチ用潤滑油組成物に関して、以下の試験方法によって評価を実施した。なお、表中の「空欄」は当該成分を配合していないことを意味し、評価結果における「-」は測定を行っていないことを意味する。
【0099】
-動粘度、粘度指数(VI)-
毛細管粘度計を用いてJIS K2283(2000)に従って、湿式クラッチ用潤滑油組成物の40℃及び100℃における動粘度を測定し、粘度指数(VI)を算出した。
【0100】
-銅適合性(銅溶出性能)-
試験管に銅板を入れ、湿式クラッチ用潤滑油組成物30gで浸し、150℃の恒温槽にて24時間保持した後、銅板を取り出した。
・外観
試験後の銅板について、ASTM D130にて規定された銅板腐食標準板を用いて外観の判定を行った。
・溶出量
試験後の湿式クラッチ用潤滑油組成物について銅濃度を測定した。上記の試験条件で銅板が腐食し、潤滑油組成物中に150質量ppm超の銅の溶出が確認された場合には、銅が腐食したことを示し、高温下では保護効果が十分でないことを示す。
・判定
銅適合性について、上記外観の判定が基準1又は2であり、且つ上記溶出量が150質量ppm以下である場合「A(○)」と判定し、このどちらか一方でも満たさない場合は「B(×)」と判定した。
【0101】
-動摩擦特性(SAE No.2)-
湿式クラッチ用潤滑油組成物を用いて、社団法人 自動車技術会の自動車規格JASO M348「自動変速機油摩擦特性試験方法」で定めたSAE No.2試験装置を用いて、湿式摩擦材の摩擦特性を調べた。すなわち、JASO M348で規定されたサイクルでの試験を行い、湿式摩擦材の摩擦特性を下記基準で評価した。
(湿式摩擦材の摩擦特性の評価基準)
試験終了後のフリクションディスクとスチールプレートを観察した。観察においては、高倍率・高精度な電子顕微鏡を使用する。フリクションディスクについては、目詰まりの発生が無いことを確認し、スチールプレートについては、表面の変色(黒色)発生が無いことを確認した。
フリクションディスクにおける目詰まりの発生、及びスチールプレートにおける表面の変色の発生がいずれも無い場合を「A(○)」と判定し、いずれか1つでも合格とならない場合は「B(×)」と判定した。
【0102】
-静摩擦特性(LVFA)-
湿式クラッチ用潤滑油組成物の静摩擦特性を以下の方法により調べた。
JASO M349(2020)に規定される、シャダー防止性能試験方法により寿命評価を行い、400h以上の寿命を保持する場合を「A(○)」と判定し、これに該当しない場合は「B(×)」と判定した。
【0103】
-低温粘度の測定-
湿式クラッチ用潤滑油組成物について、ASTM D 2983法により、-40℃BF粘度を測定した。
【0104】
【0105】
表中の略称の詳細について、以下に記載する。
【0106】
(基油)
・基油1:ポリ-α-オレフィン(α-デセンオリゴマー、PAO)、100℃動粘度が2mm2/s
・基油2:ポリ-α-オレフィン(α-デセンオリゴマー、PAO)、100℃動粘度が4mm2/s
【0107】
(添加剤)
・添加剤:DEXRON III(米国GM社のATF(Automatic Tran
smission Fluid)品質規格)用ATFパッケージ型添加剤(リン酸エステル化合物をリン量として0.28質量%含有し、他に摩耗防止剤、酸化防止剤、消泡剤、分散剤を含有する。)
・ポリマー1:流動点降下剤、ポリメタクリレート(重量平均分子量6万)
・ポリマー2:粘度指数向上剤、ポリアルキルメタクリレート(重量平均分子量14万)
・ポリマー3:粘度指数向上剤、ポリアルキルメタクリレート(重量平均分子量44万)
・アルキルグリセリルエーテル:エーテル含有摩擦調整剤(エーテル系FM)、オレイル(ポリ)グリセリルエーテル(オレイルアルコール:モノエーテル:ポリエーテルが約40:30:30質量%の混合物)
・ジオレイルハイドロゼンホスファイト:リン含有摩擦調整剤(リン系FM)、ジオレイルハイドロゼンホスファイト
・エステル:相溶化剤、アジピン酸ジイソデシル、40℃動粘度:14.2mm2/s
・過塩基性スルホネート:清浄剤、過塩基性カルシウムスルホネート、塩基価300mg/KOH
・トリアゾール系金属不活性化剤:金属不活性化剤、1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]メチルベンゾトリアゾール
・アルキルジチオチアジアゾール:腐食防止剤、2,5-ビス(第三オクチルジチオ)1,3,4-チアジアゾール
・コハク酸イミド分散剤:分散剤、ホウ素を含まないコハク酸イミド、重量平均分子量(ポリスチレン換算)5300、窒素含有量1.7質量%、ホウ素含有量0.0質量%である
・B系分散剤:分散剤、ホウ素含有コハク酸イミド、重量平均分子量(ポリスチレン換算)5500、窒素含有量1.4質量%、ホウ素含有量0.9質量%
・ZnDTC:ジアミルジチオカルバミン酸亜鉛
【0108】
表1に示すように、基油、特定のジチオカルバミン酸亜鉛化合物(アルキルジチオチアジアゾール)、窒素を含む分散剤(コハク酸イミド分散剤、B系分散剤)、を含有し、ジチオカルバミン酸亜鉛化合物の含有量、及び分散剤の窒素量換算での含有量が、特定の範囲である実施例の湿式クラッチ用潤滑油組成物は、適切な摩擦係数と銅適合性とを両立できている。
【0109】
これに対して、窒素を含む分散剤(コハク酸イミド分散剤、B系分散剤)を含まない比較例1~2の潤滑油組成物は、試験後の摩擦材の状態が正常ではなく、適切な摩擦特性を得ることができない。
窒素を含む分散剤(コハク酸イミド分散剤、B系分散剤)を含まず、且つジチオカルバミン酸亜鉛化合物の含有量が特定の範囲を超える比較例3の潤滑油組成物は、試験後の摩擦材の状態が正常ではなく、適切な摩擦特性を得ることができないほか、銅適合性にも劣っている。
ジチオカルバミン酸亜鉛化合物を含まない比較例4の潤滑油組成物は、試験後の摩擦材の状態が正常ではなく、適切な摩擦特性を得ることができない。
窒素を含む分散剤(コハク酸イミド分散剤、B系分散剤)の含有量が特定の範囲未満である比較例5~6の潤滑油組成物は、試験後の摩擦材の状態が正常ではなく、適切な摩擦特性を得ることができない。
【0110】
以上より、本実施例の湿式クラッチ用潤滑油組成物が、適切な摩擦係数を有し且つ銅適合性に優れることが分かる。