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特開2024-143647フローレスレドックス電池、フローレスレドックス電池モジュールおよび電源装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143647
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】フローレスレドックス電池、フローレスレドックス電池モジュールおよび電源装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/36 20100101AFI20241003BHJP
   H01M 4/02 20060101ALI20241003BHJP
   H01M 4/80 20060101ALI20241003BHJP
   H01M 50/477 20210101ALI20241003BHJP
   H01M 50/497 20210101ALI20241003BHJP
【FI】
H01M10/36 A
H01M4/02 A
H01M4/80 C
H01M50/477
H01M50/497
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056423
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】322000041
【氏名又は名称】ENETEK株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000124591
【氏名又は名称】河村電器産業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】506158197
【氏名又は名称】公立大学法人 滋賀県立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100142365
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100146064
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 玲子
(72)【発明者】
【氏名】高木 順
(72)【発明者】
【氏名】神戸 健吾
(72)【発明者】
【氏名】乾 義尚
(72)【発明者】
【氏名】秋山 毅
【テーマコード(参考)】
5H017
5H021
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H017CC25
5H017EE06
5H021CC09
5H021EE25
5H029AM00
5H029CJ03
5H029DJ04
5H029HJ04
5H029HJ07
5H029HJ08
5H029HJ15
5H029HJ20
5H050AA07
5H050AA14
5H050BA08
5H050DA04
5H050EA08
5H050FA16
5H050GA03
5H050HA04
5H050HA07
5H050HA08
5H050HA15
5H050HA17
(57)【要約】
【課題】 軽量で形状の自由度が高く、特に薄型(シート状)とすることも可能であり、かつ、数千回におよぶ充放電に対応できるフローレスレドックス電池を提供する。
【解決手段】 炭素繊維織物から形成される電極と、電解質層と、セパレータとを含み、セパレータの両面に電解質層が設けられ、両面に設けられた電解質層は2つの電極で挟まれており、電解質層は、希硫酸を電解液とするバナジウムイオンレドックス溶液と炭素フィラーとを含む電解質ペースト層であり、電極を形成する炭素繊維織物は、比表面積が0.1m/g~100m/gの範囲内にあり、厚さが50μm/MPa~200μm/MPaの範囲内にあり、目付が20g/m~120g/mの範囲内にあり、厚み抵抗値が2.1mΩ/MPa/cm~8.0mΩ/MPa/cmの範囲内にあり、2つの電極間の距離が0.05mm以上0.5mm以下であることを特徴とする。
【選択図】 図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維織物から形成される電極と、電解質層と、セパレータとを含み、
前記セパレータの両面に前記電解質層が設けられ、前記両面に設けられた電解質層は2つの前記電極で挟まれており、
前記電解質層は、希硫酸を電解液とするバナジウムイオンレドックス溶液と炭素フィラーとを含む電解質ペースト層であり、
前記電極を形成する炭素繊維織物は、
比表面積が0.1m/g~100m/gの範囲内にあり、
厚さが50μm/MPa~200μm/MPaの範囲内にあり、
目付が20g/m~120g/mの範囲内にあり、
厚み抵抗値が2.1mΩ/MPa/cm~8.0mΩ/MPa/cmの範囲内にあり、
前記2つの電極間の距離が0.05mm以上0.5mm以下であることを特徴とするフローレスレドックス電池。
【請求項2】
前記2つの電極間が0.1kg/cm以上30kg/cm以下の圧力で加圧された状態である、請求項1記載のフローレスレドックス電池。
【請求項3】
前記炭素繊維織物は、開口率が15%~75%の範囲内である、請求項1記載のフローレスレドックス電池。
【請求項4】
前記炭素繊維織物は、接触角が、0°~10°の範囲内である、請求項1記載のフローレスレドックス電池。
【請求項5】
前記セパレータは、溝構造を有するイオン交換膜である、請求項1記載のフローレスレドックス電池。
【請求項6】
前記電極の引き出し部を除き、封止材で封止されている、請求項1記載のフローレスレドックス電池。
【請求項7】
前記封止材は、フィルム基材に導電部が形成されたものである、請求項6記載のフローレスレドックス電池。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のフローレスレドックス電池を複数組み合わせたフローレスレドックス電池モジュールであって、
複数の前記フローレスレドックス電池は、接続方式が、直列/並列の切り替え可能に配置されていることを特徴とするフローレスレドックス電池モジュール。
【請求項9】
請求項8記載のフローレスレドックス電池モジュールに、太陽電池が接続されていることを特徴とする電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維織物(カーボンクロス)を電極としたフローレスレドックス電池、前記フローレスレドックス電池を用いたフローレスレドックス電池モジュールおよび電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気を繰り返し充放電することができる二次電池は、環境負荷の小さいエネルギー貯蔵源として注目を集めている。産業用の二次電池としては、鉛蓄電池、ナトリウム硫黄電池、レドックスフロー電池等が知られている。このうち、バナジウム電解液を用いたレドックスフロー電池は、室温で作動し、活物質が液体で外部タンクに貯蔵できるので、他の二次電池の電解液と比べて再生が容易で長寿命である等の利点がある。しかし、電気容量を得るためにタンクを大型化する必要があり、軽量小型で高出力性能を有するレドックス電池を得ることは困難であった。そこで、軽量小型で高出力性能を有するレドックス電池を得るために、電解液を循環させないフローレスレドックス電池が提案されている。そして、バナジウムを活物質として含む電解質を集電体に担持させた電極を用いるフローレスバナジウムレドックス電池において、電池の内部抵抗を低減し、効率よく高エネルギー密度を実現し、高容量であり、軽量小型化を可能とするための検討がなされている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかし、軽量、フレキシブルで、形状の自由度の高さを兼ね備え、かつ、充放電回数が数千回以上を実現するような電池は、未だ実現には至っていない。このような電池が実現すると、環境や生体のモニタリングを実施する際の電源として極めて魅力的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-130778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明においては、軽量で形状の自由度が高く、特に薄型(シート状)とすることも可能であり、かつ、数千回におよぶ充放電に対応できるフローレスレドックス電池、フローレスレドックス電池モジュールおよび電源装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のフローレスレドックス電池は、炭素繊維織物から形成される電極と、電解質層と、セパレータとを含み、
前記セパレータの両面に前記電解質層が設けられ、前記両面に設けられた電解質層は2つの前記電極で挟まれており、
前記電解質層は、希硫酸を電解液とするバナジウムイオンレドックス溶液と炭素フィラーとを含む電解質ペースト層であり、
前記電極を形成する炭素繊維織物は、
比表面積が0.1m/g~100m/gの範囲内にあり、
厚さが50μm/MPa~200μm/MPaの範囲内にあり、
目付が20g/m~120g/mの範囲内にあり、
厚み抵抗値が2.1mΩ/MPa/cm~8.0mΩ/MPa/cmの範囲内にあり、
前記2つの電極間の距離が0.05mm以上0.5mm以下であることを特徴とする。
【0007】
本発明のフローレスレドックス電池において、前記セパレータは、溝構造を有するイオン交換膜であることが好ましい。
【0008】
本発明のフローレスレドックス電池において、前記炭素繊維織物は、開口率が15%~75%の範囲内であることが好ましい。
【0009】
本発明のフローレスレドックス電池において、前記前記炭素繊維織物は、接触角が、0°~10°の範囲内であることが好ましい。
【0010】
本発明のフローレスレドックス電池において、前記2つの電極間が0.1kg/cm以上30kg/cm以下の圧力で加圧された状態であることが好ましい。
【0011】
本発明のフローレスレドックス電池において、前記電極の引き出し部を除き、封止材で封止されていることが好ましい。
【0012】
本発明のフローレスレドックス電池において、前記封止材は、フィルム基材に導電部が形成されたものであることが好ましい。
【0013】
本発明のフローレスレドックス電池モジュールは、前記本発明のフローレスレドックス電池を複数組み合わせたフローレスレドックス電池モジュールであって、
複数の前記フローレスレドックス電池は、接続方式が、直列/並列の切り替え可能に配置されていることを特徴とする。
【0014】
本発明の電源装置は、前記本発明のフローレスレドックス電池モジュールに、太陽電池が接続されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、軽量で形状の自由度が高く、特に薄型(シート状)とすることも可能であり、かつ、数千回におよぶ充放電に対応できるフローレスレドックス電池、フローレスレドックス電池モジュールおよび電源装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明のフローレスレドックス電池の模式構造図である。
図2図2は、本発明のフローレスレドックス電池の、実施例での製造方法を説明する図である。
図3図3は、実施例1における発電性能試験の結果を示すグラフである。
図4図4は、比較例1における発電性能試験の結果を示すグラフである。
図5図5は、実施例1と比較例1との充放電特性を比較したグラフである。
図6図6は、比較例2における発電性能試験の結果を示すグラフである。
図7図7は、実施例1および実施例2のフローレスレドックス電池の放電電圧カーブである。
図8図8は、実施例5における加圧時の評価試験用のフローレスレドックス電池20の断面模式図である。
図9図9は、実施例5における加圧時の評価試験の結果を示すグラフである。
図10図10は、実施例6におけるユビキタス電源の評価試験において、人工太陽光に対する相対値6%の光量の場合の結果を示すグラフである。
図11図11は、実施例6におけるユビキタス電源の評価試験において、人工太陽光に対する相対値2%の光量の場合の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のフローレスレドックス電池の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。ただし、本発明は、以下の例に限定および制限されない。なお、以下で参照する図面は、模式的に記載されたものであり、図面に描画された物体の寸法の比率などは、現実の物体の寸法の比率などとは異なる場合がある。図面相互間においても、物体の寸法比率等が異なる場合がある。
【0018】
本発明では、充放電回数が数千回におよぶレドックス電池、十分な導電性と高い実効電極面積を備えた炭素繊維織物(シート状のカーボンクロス)からなる電極、これらを最適に機能させるための電解質組成の組み合わせによって、従来にない軽量、形状自由、かつ数千回におよぶ充放電回数を備える蓄電デバイスであるフローレスレドックス電池を提供する。
【0019】
本発明のフローレスレドックス電池は、炭素繊維織物を電極として用い、前記炭素繊維織物は、特定の範囲の比表面積、厚さ、目付および厚み抵抗値を有している。
【0020】
図1は、本発明のフローレスレドックス電池の模式構造図の一例である。図1に示すように、フローレスレドックス電池10は、セパレータ1の両面に電解質層3,3が設けられている。そして、セパレータ1の両面に設けられた電解質層3,3は、2つの電極4,4で挟まれている。図2は、本発明のフローレスレドックス電池の、実施例での製造方法を説明する図である。電解質層3は、セパレータ1に、電解質層3の形成箇所を設けている枠2を取り付け、枠2内に塗布することで形成することができる。
【0021】
[電極]
前記炭素繊維織物の比表面積は、0.1m/g~100m/gの範囲内と大きいことが好ましい。前記比表面積は、NBET値である。比表面積は、炭素繊維織物を賦活処理をすることで、例えば、1桁~2桁大きくすることができ、賦活処理条件等を調整することで、所望の好適な範囲の比表面積値を得ることができる。薄型の充放電系を構築するためには、電極実面積を増加させることが必要である。そこで、前記比表面積を所定の範囲内とする。
【0022】
前記炭素繊維織物の厚さは、50μm/MPa~200μm/MPaの範囲内にある。前記厚さは、1cmの押板で1MPa押圧時の厚みを、ミツトヨ製のデジタル厚み測定器で読み取った値(μm/MPa)である。なお、通常状態の厚みは、電池セル枠の厚みから0~+数%程度であることが好ましい。
【0023】
前記炭素繊維織物の目付は、20g/m~120g/mの範囲内にあり、好ましくは、40m/g~110m/gの範囲内である。本願にて「目付」とは、日本工業規格(JIS)L02028における「毛織物などの単位面積当たりの質量を表す単位で、1m当りのグラム数」と同義である。
【0024】
また、前記炭素繊維織物の厚み抵抗値は、2.1mΩ/MPa/cm~8.0mΩ/MPa/cmの範囲内と低く、好ましくは、2.5mΩ/MPa/cm~6.0mΩ/MPa/cmの範囲内である。前記厚み抵抗値とは、1cmの銀板で挟み100Nの押圧をかけた時の厚み方向の抵抗値(mΩ/MPa/cm)である。
【0025】
本発明のフローレスレドックス電池は、電極4,4間の距離が0.05mm以上0.5mm以下であることを特徴とする。電極間距離は、好ましくは、0.15mm以上0.5mm以下の範囲内である。
【0026】
前記炭素繊維織物は、開口率が15%~75%の範囲内であることが好ましく、より好ましくは50%~75%の範囲内である。ここで、開口率とは、測定面積に対する透過光面積の割合で規定することができる。開口率が前記範囲であることで、比表面積を大きくすることで電子が伝わりやすい導電性炭素繊維を確保しつつ、電解質を多く充填できるため電極としての機能を保持させることができる。開口率が15%未満では、充填できる電解質の量が少ないため、寿命が短くなりやすく、開口率が75%を超えると、強度が不足する場合がある。
【0027】
前記炭素繊維織物は、接触角が、0°~10°の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0°~5°の範囲内である。フローレスレドックス電池における電極は、電池のセル内部で、電解質と密着しやすく、電子のやり取りが起こりやすい材料であることが求められるため、親水性の指標である接触角が、前記範囲にあることが好ましい。前記炭素繊維織物は、例えば、1μLの水滴をその表面に接触させると、織物繊維内に瞬時に拡散する程の親水性を有していることが好ましい。
【0028】
織物は、平織、朱子織、2重織、マット織等を用いることができるが、織組織による溝構造を形成することができる平2重織を、特に好ましく用いることができる。
【0029】
[セパレータ]
本発明のフローレスレドックス電池は、電解質ペースト層の間にセパレータ(多孔膜)を有する。セパレータとしては、特定のイオンを通過させるイオン交換膜等を例示することができる。イオン交換膜としては、SelemionAPS(登録商標)(旭硝子社製)やナフィオン(登録商標)(デュポン社製)、ネオセプタ(登録商標)等を例示することができる。特に、イオン交換膜が選択的に通過させることができるイオンには、プロトン、硫酸イオン及び亜硫酸イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種のイオンが挙げられる。本発明において用いるセパレータとしては、陽イオン性で高いイオン交換容量、高い永久選択性及び高い抵抗率を有する膜を用いることが好ましく、ナフィオン(登録商標)、ネオセプタ(登録商標)(アストム社製)なる商品名で市販されているイオン交換膜を好適に用いることができる。あるいは、厚いポリマー層(イオン交換膜)にPTFE等のフッ素繊維製補強布を組み込んだ、フッ素系スルホン酸陽イオン交換膜も、好適に用いることができる。フッ素繊維製補強布を組み込むことにより、イオン交換膜に溝構造を発現させることができるため、イオン膜と活物質(電解質)との接触面積を増やすことができ、面積効率を向上させることができ、好ましい。また、溝構造を有していることで、電解質(電解液)と接触する際に膨潤が発生するような系であっても、寸法変化を抑えることができる、というメリットもある。前記フッ素系スルホン酸陽イオン交換膜としては、FORBLUE(登録商標)S-SERIES Sx-2301(AGC株式会社製)等を例示することができる。
【0030】
[電解質]
本発明のフローレスレドックス電池は、電解質として、希硫酸を電解液とするバナジウムイオンレドックス溶液と炭素フィラーとを含む電解質ペーストを用いる。希硫酸を電解液とするバナジウムイオンレドックス溶液系を用いることで、数千回におよぶ充放電サイクルを実現することができる。また、電極として炭素繊維織物を用いるので、電解質としては、電極に電解質が浸み出してくることを防止するため、前記溶液に炭素フィラーとを含む電解質ペーストとして用いる。電解液は、電池が充電状態0~100%まで取り得るのに過不足のない量を含む。炭素フィラーとしては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレン等を使用することができる。炭素フィラーとして、カーボンナノチューブを用いた電解質ペーストは、塗布がしやすく均一な塗布膜を容易に形成することができ、歩留まりの向上効果が見込まれるため好ましい。電解質ペーストは、例えば、2Mの硫酸水溶液に2Mのバナジウムイオンを溶かした電解液に、体積比1/3のカーボンブラックを混合、分散させてペースト化して調製することができる。
【0031】
[フローレスレドックス電池]
これらを組みわせて密閉した電池構造とすることで、電解液の水分ロスやイオン流出を防ぎ、数千回におよぶ充放電サイクルを実現することができる。前記密閉した電池構造とするには、電極4の引き出し部4Aを除き、封止材5で封止することが好ましい。図1においては、電極4の引き出し部4Aは、銅板6で挟んで補強している。
【0032】
あるいは、電極である炭素繊維織物の外側に、電解液が染み出さないような導電シートを密着させて、前記導電シートを引き出し部として使用することもできる。前記導電シートとしては、液が浸透しない緻密なグラファイトシートを用いることが好ましい。前記導電シートは、前記封止材の外部に電気を取り出せるように、例えば、タブ状の突起のある形状としておくとよい。
【0033】
前記封止材としては、電解液に対して耐性があり、薄くフレキシブルな材料を用いることが好ましく、カプトン(登録商標)テープ、PETフィルム等のフィルム基材を用いることができる。前記封止材として、前記フィルム基材に導電部が形成されたものであると、封止材を貼り付けるだけで、電極を銅板で挟むことなく、そのまま使用することができるため、好ましい。フィルム基材に導電部が形成されたものとしては、カプトンテープに電極と導通が取れるように銅めっきや導電塗料を印刷等したものを用いることができる。また、PETフィルム等のフィルム基材に低融点(熱圧着が可能な程度の融点)の樹脂を塗布したシート等を用いると、熱圧着によって封止を行うことができる。フィルム基材の内側には、加熱硬化型の樹脂を塗布しておいてもよい。前記フィルム基材に、スリット部を設け、前記スリット部から前記引き出し部が取り出されるようにして熱圧着してもよい。前記スリット部はシリコンゴム等で封止しておくことが好ましい。
【0034】
本発明のフローレスレドックス電池においては、上述のとおり、前記セパレータの両面に前記電解質層が設けられ、前記両面に設けられた電解質層は2つの前記電極で挟まれているが、前記2つの電極間に、0.1kg/cm以上30kg/cm以下の圧力がかけられて加圧された状態であることが好ましい。0.1kg/cm以上の荷重の範囲では、交流抵抗が急減し、放電容量も増加するため、好ましい。これは、電極を形成する本発明における炭素繊維織物は、厚み方向に復元力を有するため、荷重が小さい状態では、前記炭素繊維織物を構成する繊維と電解質ペーストに含まれる炭素フィラーとの間に隙間が生じるが、荷重が十分な状態では、前記隙間の形成が抑制されることで、導電性が良好になるためと考えられる。レドックス電池はバナジウムイオンの酸化還元反応を利用しており、導電性が良好になることで、バナジウムイオンの電荷の2価⇔3価、もしくは反対極の4価⇔5価の反応が促進されると考えられる。
【0035】
充放電回数が数千回以上におよぶ蓄電デバイスとしてのキャパシタを電源として用いるためには、DC-DCコンバーターなどの電圧安定化の回路が事実上必須であるが、蓄電デバイスである本発明のフローレスレドックス電池は、原理的にこれが不要あるいは簡素化できる。
【0036】
また、充放電回数が数千回以上におよぶ蓄電デバイスとしてのリチウムイオン電池は、その性能を発現し、安全性を担保するためには精密な充放電を実現する電子回路が必須であるが、本発明のフローレスレドックス電池は原理的にこれが不要あるいは簡素化できる。本発明のフローレスレドックス電池は、キャパシタやリチウムイオン電池に比べて、軽量化、フレキシビリティ、形状の自由度の高さにおいて原理的に優れている。
【0037】
本発明のフローレスレドックス電池は、単位セルあたり0.8V程度の電池であり、直列接続による電圧微調整が容易である。そのため、所望の電圧が、例えば、3Vでも5Vでも対応が簡単である。また、原理的に薄型シートの形状を取り得る。このような形状で充放電できるのは、用途展開の観点からも非常に好ましい。
【0038】
また、本発明のフローレスレドックス電池は、複数を組み合わせることにより、容易にフローレスレドックス電池モジュールを作製することができる。そして、前記フローレスレドックス電池モジュールに、太陽電池を接続することで、光による充電が可能な電源装置を得ることができる。前記フローレスレドックス電池モジュールにおいては、複数のフローレスレドックス電池の接続方式を、制御回路を設けることなく直列/並列を容易に切り替え可能に配置することができる。直列/並列の切り替えは、スライドスイッチにより接続端子を切り替える方法等を採用することができる。具体的には、3本の導線のうちの中央の導線と左右どちらかの導線とで導通できるように切り替えるスイッチを複数同時に使用することで実現できる。また、前記フローレスレドックス電池モジュールに、太陽電池が積層するようにした状態で接続することもできる。この場合、太陽電池のパネルを上述のフローレスレドックス電池の電極間加圧の加圧板として用いることもできる。太陽電池のパネルを前記加圧板として用いることにより、部材を減少させることも可能となる。
【0039】
本発明において用いる炭素繊維は、一般的には1.5Vを超えて長期にわたり充放電すると、電蝕を起こして痩せて劣化してしまう。例えば、フローレスレドックス電池を、直射日光照射時に2.7V程度の起電力を生じる太陽電池と接続して、太陽光を用いて充電を行う場合、単体のフローレスレドックス電池を並列に接続した状態であると、各電池に1.5Vを超える電圧がかかってしまうことになり、上述の電蝕現象が起こってしまう。しかし、単体のフローレスレドックス電池を、例えば3個、直列に接続すると、1個あたりにかかる電圧は0.9Vとなるので、劣化防止が可能となる。一方で、室内光等の光が弱い状態での充電を行おうとした場合、この太陽電池の起電力は、0.8V程度になることがあり、3個を直列に接続した前記状態では、1個あたりにかかる電圧は0.3Vを下回るため充電効率が悪い。この場合には、3個を並列に接続することで、充電が可能となる。このように、直列接続と並列接続とを切り替えて対応可能なフローレスレドックス電池モジュールとすることで、フローレスレドックス電池の劣化を防ぎつつ、どのような状況でも効率よく充電を行うことが可能となる。
【0040】
本発明のフローレスレドックス電池モジュールは、前記フローレスレドックス電池を複数組み合わせてなるため、折り畳み可能な形状とすることも可能である。長寿命であること、バリエーションが作りやすいことがメリットとなる。
【0041】
ユビキタス電源は、起電力が高くなるだけがメリットではなく、安全性、長寿命であること、バリエーションが作りやすいことがメリットとなる。例えば、ニッケル水素電池は安全性の観点からは、使用可能だが、薄型のものがなく円筒形であり、デバイス形状の自由度の制約のもとになる。鉛蓄電池は重く、そして、充放電回数で限界に達するまでが比較的早く、長期間もたない。このように、既存の蓄電池だと、安心して選べる選択肢がなかったところ、本発明のフローレスレドックス電池は、ユビキタス電源に好適に用いることができる。まず、本発明のフローレスレドックス電池は、著しく事故の可能性が低い。まず、起電力が水の電解電圧よりも低く、可燃性あるいは発火性のガスが生じる可能性が極めて低い。また、電解液には希硫酸を用いており、可燃性あるいは発火性の溶媒が含まれていない。さらに、完全バイポーラである(充電して初めてプラス極/マイナス極ができる)ため、完全に放電してしまった状態となっても、充電を行うことで再度の使用が可能である。この点は、環境モニタリング等で用いる際に、優位性を発揮する。電池が完全放電によって使えなくなってしまったら、付け替えないといけなくなるが、完全放電後にも使用が可能となれば、モニタリングの中断や、付け替えのための過大な負担を回避可能であるためである。また、本発明のフローレスレドックス電池は、廃棄物処理が容易であるという利点もある。
【実施例0042】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0043】
[実施例1]
図1のような、炭素繊維織物(カーボンクロス)を電極としたフローレスレドックス電池10を構成した。フローレスレドックス電池は、図2に示す次の手順で組み立てた。
【0044】
[セパレータ1へ枠2の取付]
セパレータ1としては、ナフィオン(登録商標)NRE-212(厚さ51μm)を、17mm×17mmにカットし、VOSO水溶液に浸漬したものを使用した。前記セパレータ1に、電解質流出防止用の10mm×10mmの枠2を取り付けた。枠2は、0.055mm厚のカプトン(登録商標)テープを3枚重ね、0.165mm厚にしたものを、20mm×20mmにカットし、中央に10mm×10mmの孔を切り抜いたものを使用した。前記セパレータ1の両面に枠を取り付けた。
【0045】
[電解質層3の形成]
2Mの硫酸水溶液3mlにVOSO・nHO(n=3~4)を1.41gを溶解した。ここにカーボンブラック(米山製01761、密度及び/又は相対密度1.8~2.1(水=1))を2gを入れよく混ぜ、ペースト状になったものを、電解質(電解質ペースト)として使用した。調製された電解質ペーストを、前記の枠中のセパレータの両面に塗り付けて密着させ、電解質層3とした。塗布した電解質の体積は、片面で16.5μL(10mm×10mm×0.165mm)であった。
【0046】
[電極4取付]
単糸直径は8μm以下、65本以上の単糸が無撚りの状態で束状になっている無撚紡績糸から作製された炭素繊維織物を、10mm×20mmにカットしたものを電極4とした。前記塗布された電解質層3を覆うように、その両面に配置した。その際、電解質層3のペーストに、炭素繊維織物をなじませるように密着させた。この炭素繊維織物は、厚さが200μm/MPa、目付が110g/mの溝付きの平2重織の織物である。また、比表面積(NBET値)は0.2m/g、厚み抵抗値は6.0mΩ/MPa/cmであった。
【0047】
[封止]
0.055mm厚のカプトン(登録商標)テープを、20mm×20mmにカットしたものを封止材5とした。封止材5を、電解質層3および電極4を配置した枠2の上から貼り、電極引き出し部4Aを除き封止し、電池を得た。
【0048】
[取り出し電極補強]
得られた電池の電極引き出し部4Aを、充放電試験におけるクリップ補強用に銅板6で挟み、この状態のもの(図1)を、充放電試験等に使用した。
【0049】
電極4,4間の距離(カーボンクロス間距離)は0.381mm以下であった。
【0050】
得られた電池の充放電特性およびサイクル容量変化を評価した。結果を図3に示す。0.6-0.8Vの充放電電圧を示し、充放電回数が6000回を超え、なお蓄電池として機能することが明らかとなった。
【0051】
[比較例1]
電極として、炭素繊維織物に代えて、カーボンペーパーを用いた他は、実施例1と同様にフローレスレドックス電池を作製した。カーボンペーパーは、東レ株式会社製「TGP-H-060」を使用した。得られた電池の充放電特性およびサイクル容量変化を評価した。結果を図4に示す。0.6~0.8Vの充放電電圧を示し、充放電回数が975回であり、容量劣化が実施例1の電池より早いことが明らかとなった。
【0052】
図5に、実施例1(Cクロス)と比較例1(Cペーパー)との充放電特性を比較したグラフを示す。実施例1の本発明のフローレスレドックス電池は、カーボンペーパーで作った比較例1の電池と比べて、3倍程度のサイクル寿命が得られていることがわかる。
【0053】
[比較例2]
電極として、炭素繊維織物に代えて、カーボン板(厚さ2mm)を用いた他は、実施例1と同様にフローレスレドックス電池を作製した。このカーボン板は、炭素をフェノール樹脂で焼き固めたものであり、緻密であり、ポーラスではない。本例については、実施例1の炭素繊維織物を使用したときと同条件(CC-CV、10mA上限電圧0.8V)では、1秒未満で最大電圧まで達し充電が止まるため、充電不可能であった。そこで、最大電圧を無視して、定電流充電した際に電圧上昇を観察したグラフを図6に示す。使用したカーボン板は、炭素粒子間の繋がりが不十分であり、また、疎水性であること、電解質との密着性や比表面積等の影響により内部抵抗が大きいため、0.8Vでの充電は難しかったと考えられる。また、時間の経過に伴い、電極が硫酸で劣化している(ボロボロになる)ことが確認できた。
【0054】
[接触角評価]
電極材料の親水性を評価するため、接触角を測定した。接触角は、測定器名「VCA Optima」(Product Inc.USA)を使用して測定した。実施例1で用いた炭素繊維織物は、細径ノズルから垂れ下がった1μL(直径1.24mm)の純水の球状体(水滴)をその布に接触させるとすぐに織目や繊維間に吸収拡散した(接触角は0°と評価)。比較例1で用いたカーボンペーパーは、接触角が136°であり、前記の純水の球状体は吸収拡散されずに表面に維持されており、水滴を5μLとしても広がることはなかった。
【0055】
実施例1の炭素繊維織物を電極として使用する場合、フェノール樹脂等を含んでいないことが、サイクルが伸びた一因であると考えられる。従来の、バインダー樹脂を有するカーボンペーパーの電極(比較例1)や炭素をフェノール樹脂で焼き固めた電極(比較例2)の場合、電解質に含まれる硫酸によって樹脂成分が時間経過に伴い劣化しやすい。本実施例で用いた電極は、硫酸による劣化は起こりにくい。
【0056】
[実施例2]
実施例1において作製したフローレスレドックス電池10を、2枚のガラス板でサンドして、接着剤は使わずにカプトンテープで巻いて密閉した。前記ガラス板を外から加圧した状態で、放電電圧の測定を行った。この時の加圧圧力は、1kg/cm程度であった。
【0057】
(放電電圧測定)
実施例1および実施例2で得られたフローレスレドックス電池について測定した。
充電は、10mAでコンスタントに充電した。電圧は1.8Vで固定し、3mAになったら終了した。放電は3mAで行った。放電電圧カーブを図7に示す。加圧状態(実施例2、図中の実線)では、無加圧状態(実施例1、図中の破線)と比べて、電圧が向上していることがわかる。なお、加圧していない実施例1では、0.12mAhの放電であったが、加圧した実施例2では、0.20mAhの放電となった。
【0058】
[実施例3]
実施例1において、セパレータ1として、ナフィオン(登録商標)NRE-212に代えて、フッ素系スルホン酸陽イオン交換膜 FORBLUE(登録商標)S-SERIES Sx-2301DH(AGC株式会社製)(厚さ280μm)を用い、さらに、電極である炭素繊維織物の外側に、導電シートであるグラファイトシート(東洋炭素株式会社製「PF-40」)を密着させて、前記グラファイトシートを電極引き出し部4Aとして使用した。電極4,4間の距離(カーボンクロス間距離)が0.61mmとなるよう(炭素繊維織物の厚さが0.165mmとなるよう)、両面からエポキシガラス板(ガラエポ板)で挟み込み、スペーサで一定厚みを確保して、角の4箇所をボルト締め加圧した他は、実施例1と同様にフローレスレドックス電池を作製した。前記フッ素系スルホン酸陽イオン交換膜は、フッ素繊維織物で補強され、前記フッ素繊維織物のフッ素繊維部分に格子状の溝構造が形成されたイオン交換膜である。本実施例における加圧圧力は、30kg/cmであった。得られたフローレスレドックス電池の充放電特性を評価した。結果を表1に示す。
【0059】
[実施例4]
実施例1において、セパレータ1は、ナフィオン(登録商標)NRE-212(厚さ51μm)のままで、電極である炭素繊維織物の外側に、導電シートであるグラファイトシート(東洋炭素株式会社製「PF-40」)を密着させて、前記グラファイトシートを電極引き出し部4Aとして使用した。電極4,4間の距離(カーボンクロス間距離)は0.38mmとなるよう(炭素繊維織物の厚さが0.165mmとなるよう)、両面からエポキシガラス板(ガラエポ板)で挟み込み、スペーサで一定厚みを確保して、角の4箇所をボルト締め加圧した他は、実施例1と同様にフローレスレドックス電池を作製した。本実施例における加圧圧力は、30kg/cmであった。得られたフローレスレドックス電池の充放電特性を評価した。結果を表1に示す。
【0060】
充放電特性の評価方法は次のとおりである。北斗電工製ポテンショスタットHA151Bを使用し、10mA/cm一定で、1.5Vまで充電し、その後10mA/cm一定で、0.2Vまで放電した。表1において、充電(放電)利用率は、充電(放電)電気量を、正負極のうちの含有バナジウム量の少ない極のバナジウム量で除したものであり、次式で表される数値である。
充放電回収率は、放電電気量を充電電気量で除したものである。
【0061】
【表1】
【0062】
実施例3では、セパレータとして、フッ素繊維織物で補強され、前記フッ素繊維織物のフッ素繊維部分に格子状の溝構造が形成されたイオン交換膜を用いているため、実施例4のセパレータと比較して、電解質ペーストとの接触面積が大きく、充電利用率や放電利用率が良い。ここで、実施例3で用いたセパレータは厚いため、電池内部抵抗は実施例4と比較してやや大きいが、低い電流域で充放電して使用するときは、その内部抵抗によるロスのマイナス面は軽減されるので、フッ素繊維製補強布が組み込まれていることによる形状安定性等のメリットの方が大きい。
【0063】
[実施例5]
図8のような、炭素繊維織物(カーボンクロス)を電極とした、加圧時の評価試験用のフローレスレドックス電池20を構成した。フローレスレドックス電池20は、次の手順で組み立てた。
【0064】
[セパレータ21へ枠22の取付]
セパレータ21としては、ナフィオン(登録商標)NRE-212(厚さ51μm)を、98mm×98mmにカットし、VOSO水溶液に浸漬したものを使用した。前記セパレータ21に、電解質流出防止用の枠22として、NBRシール枠を取り付けた。取付けは、厚さ0.05mmの両面接着テープを枠22と同じ寸法にカットして片面をNBRシール枠に接着し、もう一方の面でセパレータ21に接着して行った。前記NBRシール枠は、厚さ0.36mmの極薄滑り止めシート(WAKI SANGYO Co.Ltd製SD-07)を、外寸86mm×86mm、穴寸80mm×80mmにカットして矩形枠としたものである。枠22は、前記セパレータ21の中心に一致させて、前記セパレータ21の両面に取り付けた。
【0065】
[電極24]
単糸直径は8μm以下、65本以上の単糸が無撚りの状態で束状になっている無撚紡績糸から作製された炭素繊維織物を、80mm×80mmにカットしたものを電極24として準備した。この炭素繊維織物は、厚さが200μm/MPa、目付が110g/mの溝付きの平2重織の織物である。また、比表面積(NBET値)は0.2m/g、厚み抵抗値は6.0mΩ/MPa/cmであった。
【0066】
[電解質層23の形成]
電解質(電解質ペースト)を、実施例1と同様に、増量して調製した。具体的には、2Mの硫酸水溶液420mlにVOSO・nHO(n=3~4)を197gを溶解した。ここにカーボンブラック(米山製01761、密度及び/又は相対密度1.8~2.1(水=1))を280gを入れよく混ぜ、ペースト状になったものを、電解質(電解質ペースト)として使用した。枠寸80mm×80mm、深さ0.41mmの枠の底面にテフロン(登録商標)シートを配置したものを準備した。調製された電解質ペーストを、前記準備した枠の上面と電解質ペーストの上面とが同一になるように電解質ペーストを満たし、電解質層23とした。電解質ペーストの体積は、片面で2.63cm(80mm×80mm×0.41mm)であった。この電解質ペーストが満たされた枠内に、80mm×80mmにカットした電極24を、電解質ペーストが枠外にはみ出さないようゆっくり押し込み、電極24(炭素繊維織物)と電解質層23とが一体になった(織物空間に電解質ペーストが充填された)シートを作製した。電極24(炭素繊維織物)を枠内に押し込む際には、上からガラス板で押し込む。そして、前記ガラス板を介して、電解質ペーストが前記炭素繊維織物の上面に均一に染み出すことを確認しながら、前記炭素繊維織物の隙間に電解質ペーストが十分充填され、かつ馴染ませるように圧縮することが重要である。ここでは、電極として用いる炭素繊維織物は、上述ように接触角が0°~10°の範囲内にあり、良好な親水性が有利に働いている。次に、電極24(炭素繊維織物)と電解質層23とが一体になったシートを、前記枠から取り出し、先に準備した枠22付きのセパレータ21の両面にはめ込み、セパレータ21と、前記の電極24(炭素繊維織物)と電解質層23とが一体になったシートとを密着させた。
【0067】
[電極引き出し部24A]
セパレータ21の両面に配置された、電極24(炭素繊維織物)と電解質層23とが一体になった前記シートを挟むように、炭素繊維織物(電極24)の外側に、電解液が染み出さないような導電シートを密着させて、前記導電シートを電極引き出し部24Aとした。前記導電シートとしては、電解液が染み出さないような緻密なグラファイトシート(東洋炭素株式会社製「PF-40」、厚さ0.4mm)を用いた。前記導電シートは、以下に述べる封止シートの外部に電気を取り出せるように80mm×80mmの枠の外にタブ状の幅15mmの突起のある形状とした。
【0068】
[熱シール封止]
熱シール封止用の熱圧着シート(封止材)25として、厚さ0.1mmのPETフィルム(アイリスオーヤマ株式会社製ラミネートフィルム LZ-A4100)を、110mm×110mmにカットしたものを用いた。上述のセパレータ21、電極24(炭素繊維織物)と電解質層23とが一体になったシート、電極引き出し部24Aを順に配置したものを、包み込むように熱圧着シート(封止材)25で挟み、80mm×80mmの枠外の周囲部分を熱シール封止した。熱シール封止は、上側および下側の熱圧着シート25の上下を、後述の図8における平板27相当で加熱制御された板である熱プレス板で挟み、加圧して行う。ここで、前記PETフィルムの内側に塗布された加熱硬化型の樹脂がPETフィルムを密着し、セパレータ21や電極24等を封止できるようにしている。封止の際には、封止部分(周囲部分)において、当該部分を熱圧着させるための熱伝導性スペーサを、前記熱プレス板と前記PETフィルムとの間(上下とも)に挿入しておく。このとき、封止材25に、スリット部25Aを設け、前述の電極引き出し部24Aのタブ状の突起が、スリット部25Aから封止領域の外部に取り出されるようにした状態で熱圧着した。熱圧着時に用いる熱伝導性スペーサには、電極引き出し部24Aのタブ状の突起部の厚み分の切り欠きや段差補整用のシムを設けておき、タブ状の突起の部分にせん断力がかからないようにしておく。ここで、熱プレス板間の距離は1.85mm、熱伝導性スペーサ厚みは0.825mmとした。熱シール温度(熱プレス板温度)は95℃、シール部(熱伝導性スペーサ部)での加圧は250N/cmで2分間加圧した。熱プレス後の厚みは2mmで、炭素繊維織物の復元力で0.15mm膨らみ厚くなった。スリット部25Aは、熱圧着後にシリコンゴム(図示せず)で封止した。さらに、厚さ0.4mmのグラファイトシートは曲がると破損しやすいので、スリット部25Aから取り出されたタブ状の突起部分を、両面テープで隣接する熱圧着シート(封止材)25の熱圧着部に固定して補強したのち、内径2mmの真鍮はと目で圧着固定し、ここに導線を半田付けして、加圧時の特性評価試験用のフローレスレドックス電池20を得た。
【0069】
[加圧時の特性評価]
得られたフローレスレドックス電池20の正極・負極の電極引き出し部24A(はと目部に接続された導線)を、充放電試験装置29(北斗電工製ポテンショスタット HA151B)に接続するとともに、交流抵抗測定器30(TURUGA製 MODEL3356、60Hzで正極負極間の抵抗を測定)に接続した。厚さ1cmの平板27(ガラエポ板)2枚の間にフローレスレドックス電池20を挟み込み、図8に示すように、上に重錘28を置いた状態で、フローレスレドックス電池20の押し圧に対する交流抵抗と充電放電特性を測定した。重錘の重さは無し、4kg、8kg、12kg、16kgとした。ここで充電特性は0.64A一定で充電し1.5Vに達すれば停止し、その後0.64Aで放電し0.2Vで停止した。この充放電サイクルを3回繰り返し、時間に対する電圧曲線を積分し充電エネルギーおよび放電エネルギー(W・分)を算出した。結果を図9に示す。図9において、実線が交流抵抗(内部抵抗相当)、破線が充電エネルギー、一点鎖線が放電エネルギーである。ここで充電エネルギー能力とは、充電時の一定電流に、平均電圧と充電時間を掛け合わせ、ワット×分で表示したものである。放電エネルギー能力とは、放電時の一定電流に、平均電圧と充電時間を掛け合わせ、ワット×分で表示したものである。
【0070】
有効面積が64cm(80mm×80mm)の、本実施例フローレスレドックス電池20の特性は、押し圧(重錘28の重さ)が増加するほど、充電エネルギーや放電エネルギーが増加し、交流抵抗(内部抵抗相当)が低下した。押し圧がゼロの状態では、封止材として用いたPETフィルムの引張応力のみで正極材料や負極材料に圧縮応力がかかるが、時間の経過とともに前記引張応力が緩和し、圧縮応力も低下し、導電性が劣化してしまう。また、封止の際に、空気を内包するため64cmに対し8kg以上の重錘を乗せた状態に相当する押し圧(0.125kg/cm以上)をかけておくと、面内における電解質層23の分散が均一になり、蓄電量のばらつきも少なくなる。
【0071】
[実施例6]
実施例1で得られたフローレスレドックス電池10を複数組み合わせたフローレスレドックス電池モジュールを、シリコン太陽電池(ソーラパネル)と一体化したユビキタス電源を作製した。フローレスレドックス電池10を5直列にして、太陽電池の裏面に張り付け、光充電~放電の評価を行った。
【0072】
光量の目安:
人工太陽光源(AM(エアマス)1.5、100mW/cm)からの光をシリコンフォトダイオードで受け、短絡光電流値の比率を目安とした。ここでは、波長分布、光量分布、天然光由来の場合の時間変化などは不問とした。
【0073】
短絡光電流の相対値:
人工太陽光(AM1.5、100mW/cm)の短絡光電流値を100として、各条件における相対値を算出した。
ピントをずらし照射面積を広げた人工太陽光:6%
窓ガラス越しの太陽光由来の光:2%
室内光量(約3m離れた場所の40W蛍光灯×2+窓からの散乱光):0.04%
測定結果を図10および図11に示す。図10および図11において、破線が電圧、実線が電流である。
【0074】
人工太陽光に対する相対値6%および2%の光量では、光充電-放電が可能であった。相対値6%の光量の場合〈図10〉、30秒の充電で、80秒程度(約0.06mAh)の放電が可能であることが確認できた。相対値2%の光量の場合(図11)、30秒の充電で、18秒程度(約0.01mAh)の放電が可能であることが確認できた。各条件間の放電量(放電時間)の違いは、光量の差を反映しているものと考えられる。なお、蛍光灯の光が主となる室内光(相対値0.04)では、光充電はできなかった。
【0075】
なお、本実施例においては、放電終了電圧を2.3Vとしており、1セルあたりでは0.46Vになる。以上の充放電特性からは、「窓際くらいの明るさがあれば、光がなくても各種センサーを駆動できる電源」には使用可能であり、ユビキタス電源としては有効なものであるといえる。
【0076】
[実施例7]
実施例5で得られたフローレスレドックス電池20を複数組み合わせたフローレスレドックス電池モジュールを、ソーラパネルと一体化した。ソーラパネルはガラエポ板のように剛性のある素材からなり、前記ソーラパネルと金属板とで、シート状のフローレスレドックス電池20(フローレスレドックス電池モジュール)を複数枚挟み、金属チャンネル(ステンレス製のC型(上下と縁を囲むような形状の)チャンネル)で弾性部材を介して両側から挟み込み、フローレスレドックス電池20の押し圧を確保した。
【0077】
ソーラパネルとしては、大きさが、270mm×85mm、厚み3mmであり、日光で2.7Vの起電力があるものを用いた。フローレスレドックス電池モジュールは、フローレスレドックス電池20(約2mm厚み)を3枚長手方向に並べて直列接続したものを、厚み方向に3層重ねて各層を並列接続して作製した。このフローレスレドックス電池モジュールは、小容量で安全かつ長寿命なユビキタス電源に適したものである。
【0078】
また室外と室内ではソーラパネルの発電電圧が変わるため、これに合わせるべく、各モジュールの接続方式を、直列と並列とを切り替え可能にする配線とできるように切り替えスイッチを設けて、太陽電池の能力と蓄電池の能力とをマッチングさせた。
上記のフローレスレドックス電池モジュールは、さらに折り畳み方式によりタブレットの容量にマッチングさせることもできる。
【0079】
本発明のフローレスレドックス電池は、小型のセンサにも組み込むことができる。軽量でフレキシブルであるため、環境や生体のモニタリング用のセンサの用途等に好適に使用することができる。また、本発明のフローレスレドックス電池は、複数を組み合わせることにより、容易にフローレスレドックス電池モジュールを作製することができる。そして、前記フローレスレドックス電池モジュールに、太陽電池を接続することで、光による充電が可能な電源装置を得ることができる。
【符号の説明】
【0080】
1 セパレータ
2 枠
3 電解質層(電解質ペースト)
4 電極
4A 電極引き出し部
5 封止材
6 銅板
10、20 フローレスレドックス電池
21 セパレータ
22 枠
23 電解質層(電解質ペースト)
24 電極(炭素繊維織物)
24A 電極引き出し部
25 熱圧着シート(封止材)
25A スリット部
27 平板(ガラエポ板)
28 重錘
29 充放電試験装置
30 交流抵抗測定器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11