IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社大林組の特許一覧

特開2024-143660バイオレメディエーション促進剤、及び、汚染地盤の浄化方法
<>
  • 特開-バイオレメディエーション促進剤、及び、汚染地盤の浄化方法 図1
  • 特開-バイオレメディエーション促進剤、及び、汚染地盤の浄化方法 図2
  • 特開-バイオレメディエーション促進剤、及び、汚染地盤の浄化方法 図3
  • 特開-バイオレメディエーション促進剤、及び、汚染地盤の浄化方法 図4
  • 特開-バイオレメディエーション促進剤、及び、汚染地盤の浄化方法 図5
  • 特開-バイオレメディエーション促進剤、及び、汚染地盤の浄化方法 図6
  • 特開-バイオレメディエーション促進剤、及び、汚染地盤の浄化方法 図7
  • 特開-バイオレメディエーション促進剤、及び、汚染地盤の浄化方法 図8
  • 特開-バイオレメディエーション促進剤、及び、汚染地盤の浄化方法 図9
  • 特開-バイオレメディエーション促進剤、及び、汚染地盤の浄化方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143660
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】バイオレメディエーション促進剤、及び、汚染地盤の浄化方法
(51)【国際特許分類】
   B09C 1/10 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
B09C1/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056440
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】緒方 浩基
(72)【発明者】
【氏名】藤井 雄太
(72)【発明者】
【氏名】三塚 和弘
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】森 一星
【テーマコード(参考)】
4D004
【Fターム(参考)】
4D004AA41
4D004AB06
4D004CA18
4D004CC11
4D004CC15
(57)【要約】
【課題】新規なバイオレメディエーション促進剤、及び、汚染土壌の浄化方法を提供すること。
【解決手段】味噌を含有する、バイオレメディエーション促進剤。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
味噌を含有する、バイオレメディエーション促進剤。
【請求項2】
前記味噌が米味噌、麦味噌、豆味噌又は調合味噌である、請求項1に記載のバイオレメディエーション促進剤。
【請求項3】
さらに炭素源、窒素源及び/又はリン源を含有する、請求項1に記載のバイオレメディエーション促進剤。
【請求項4】
汚染地盤の浄化方法であって、
前記汚染地盤に、請求項1~3のいずれか一項に記載のバイオレメディエーション促進剤を供給する工程を有する、
汚染地盤の浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオレメディエーション促進剤、及び、汚染地盤の浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
揮発性有機化合物(以下「VOC」ともいう。)等によって汚染された地盤を浄化する方法として、従来からバイオレメディエーション等の方法が知られている。バイオレメディエーションは、微生物を使って地盤中の汚染物質を分解し無害化する方法のことである。バイオレメディエーションには、汚染地盤中に元々存在する汚染物質を分解する微生物を増殖・活性化させて汚染物質を浄化したり、外部で培養した汚染物質を分解する微生物を汚染地盤に導入して、これを増殖・活性化させて汚染物質を浄化したりする方法が含まれる。
【0003】
バイオレメディエーションは、温和な条件で、かつ、低コストで汚染物質を浄化できるという利点があるものの、その浄化プロセスに時間がかかるというデメリットがあり、新規なバイオレメディエーション促進方法が求められている。
【0004】
特許文献1には、大豆ホエーを、油分及び/又は揮発性有機化合物を含有する汚染土壌に供給することにより、微生物による油分及び/又は揮発性有機化合物の分解を促進させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-150272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑み、新規なバイオレメディエーション促進剤、及び、汚染地盤の浄化方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、バイオレメディエーション促進剤に味噌を含有させることにより、バイオレメディエーションによる汚染物質の浄化を促進できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の各発明に関する。
[1]味噌を含有する、バイオレメディエーション促進剤。
[2]上記味噌が、米味噌、麦味噌、豆味噌又は調合味噌である、[1]に記載のバイオレメディエーション促進剤。
[3]さらに炭素源、窒素源及び/又はリン源を含有する、[1]に記載のバイオレメディエーション促進剤。
[4]汚染地盤の浄化方法であって、前記汚染地盤に、[1]~[3]のいずれかに記載のバイオレメディエーション促進剤を供給する工程を有する、汚染地盤の浄化方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、新規なバイオレメディエーション促進剤、及び、汚染地盤の浄化方法の提供が可能となる。本発明に係るバイオレメディエーション促進剤、及び、汚染地盤の浄化方法によれば、これまでVOCを分解する微生物が増殖しやすい嫌気的な環境下が整うまでに時間がかかり、VOCの分解までに時間がかかっていたというデメリットを軽減することが可能になる。また本発明に係るバイオレメディエーション促進剤、及び、汚染地盤の浄化方法は、意外にも食塩を相当量含む味噌を用いることによって、バイオレメディエーションが効果的に促進されることを見出したことに基づくものであり、容易に入手可能でコスト的に安価な味噌をバイオレメディエーション促進剤等として用いることができ、低コストで汚染物質を浄化できるという利点も有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、対照区1-1の各VOC濃度(mg/L)の経時変化を示したグラフである。
図2図2は、対照区1-2の各VOC濃度(mg/L)の経時変化を示したグラフである。
図3図3は、試験区1-1の各VOC濃度(mg/L)の経時変化を示したグラフである。
図4図4は、試験区1-2の各VOC濃度(mg/L)の経時変化を示したグラフである。
図5図5は、試験区1-3の各VOC濃度(mg/L)の経時変化を示したグラフである。
図6図6は、試験区1-4の各VOC濃度(mg/L)の経時変化を示したグラフである。
図7図7は、対照区2-1の各VOC濃度(mg/L)の経時変化を示したグラフである。
図8図8は、対照区2-2の各VOC濃度(mg/L)の経時変化を示したグラフである。
図9図9は、試験区2-1の各VOC濃度(mg/L)の経時変化を示したグラフである。
図10図10は、試験区2-2の各VOC濃度(mg/L)の経時変化を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0012】
本明細書において「バイオレメディエーション」とは、汚染物質を浄化する微生物により汚染地盤中の汚染物質の濃度を低減させることを意味する。
また本実施形態に係るバイオレメディエーション促進剤及び汚染土壌の浄化方法は、汚染地盤に元々存在する浄化微生物を利用するバイオスティミュレーション、及び、外部で培養した汚染物質を浄化する微生物を汚染地盤に導入するバイオオーグメンテーションのいずれにおいても適用可能である。
【0013】
[1.バイオレメディエーション促進剤]
本実施形態に係るバイオレメディエーション促進剤は、味噌を含有する。
【0014】
[1-1.味噌]
本明細書において「味噌」とは、大豆若しくは大豆及び米、麦等の穀類を蒸煮したものに、米、麦等の穀類を蒸煮して麹菌を培養したものを加えたもの又は大豆を蒸煮して麹菌を培養したもの若しくはこれに米、麦等の穀類を蒸煮したものを加えたものに食塩を混合し、これを発酵させ、及び熟成されたもの、あるいはこれにさらに砂糖類、風味原材料等を加えたものであって、半固体状のものをいう。なお、半固体状とは、皿に出したときに流れて崩れない程度のものをいう。
【0015】
本実施形態に用いる味噌としては、特に限定されず、公知慣用のものを用いることができる。本実施形態に用いる味噌としては、例えば、米味噌(大豆を蒸煮したものに、米麹を加えたものに食塩を混合したもの)、麦味噌(大豆を蒸煮したものに、麦麹を加えたものに食塩を混合したもの)、豆味噌(大豆を蒸煮して麹菌を培養したものに食塩を混合したもの)、調合味噌(米味噌、麦味噌又は豆味噌を混合したもの、米麹に麦麹又は豆麹を混合したものを使用したもの等米味噌、麦味噌、及び豆味噌以外のもの)等が挙げられる。これらの味噌は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
米味噌としては、例えば、関西白味噌、讃岐白味噌、府中白味噌、江戸甘味噌等の甘味噌;越中味噌、御膳味噌等の甘口味噌;信州味噌、北海道味噌、津軽味噌、秋田味噌、仙台味噌、会津味噌、佐渡味噌、越後味噌、加賀味噌等の辛口味噌等が挙げられる。
麦味噌としては、例えば、瀬戸内麦味噌、九州麦味噌等が挙げられる。
豆味噌としては、例えば、東海豆味噌(八丁味噌、三河味噌、三州味噌、名古屋味噌等の豆味噌の総称)等が挙げられる。
【0017】
本実施形態に用いる味噌としては、バイオレメディエーションをより促進するという観点から、たんぱく質、脂質、ミネラル等に富む豆味噌を用いることが好ましい。
【0018】
バイオレメディエーション促進剤中の味噌の含有量は、特に限定されず、浄化対象となる地盤中の汚染物質の濃度、地盤の種類、土質等に応じて適宜設定できる。味噌の含有量としては、バイオレメディエーション促進剤を100質量%とした場合に、0.1~50質量%であることが好ましく、5~40質量%であることがより好ましく、10~30質量%であることがさらに好ましい。
【0019】
[1-2.その他の栄養剤]
本実施形態に係るバイオレメディエーション促進剤は、さらに炭素源、窒素源及び/又はリン源を含有していてもよい。
【0020】
炭素源としては、特に限定されず、例えば、グルコース、スクロース、ラクトース、ガラクトース、フルクトース、アラビノース、マルトース、澱粉等の糖類;エタノール、グリセロール、マンニトール、ソルビトール等のアルコール類;グルコン酸、乳酸、フマル酸、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸等の有機酸類;有機酸類のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等の有機酸塩類;グルコン酸アミド、グルコン酸エステル、グルコン酸無水物等のグルコン酸誘導体;パルチミン酸、ステアリン酸、リノール酸等の脂肪酸類;脂肪酸類のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等の脂肪酸塩類;大豆油、ヒマワリ種子油、落花生油、ヤシ油等の脂肪類などが挙げられる。これらの炭素源は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
炭素源としては、グルコン酸及びグルコン酸塩、並びに、グルコン酸アミド、グルコン酸エステル、グルコン酸無水物等のグルコン酸誘導体を用いることが好ましい。
【0021】
窒素源としては、例えば、アスパラギン、グルタミン、アルギニン、リシン、トリプトファン、ヒスチジン等のアミノ酸、尿素、ビウレット、トリウレット、N-置換C1-C6アルキル尿素等の尿素誘導体などの含窒素有機化合物;塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸三アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム等のアンモニウム塩;硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム等の硝酸塩;亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム等の亜硝酸塩などが挙げられる。これらの窒素源は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
窒素源としては、尿素、ビウレット、トリウレット、N-置換C1-C6アルキル尿素等の尿素誘導体を用いることが好ましい。
【0022】
リン源としては、例えば、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム等が挙げられる。これらのリン源は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
リン源としては、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素アンモニウムを用いることが好ましい。
【0023】
バイオレメディエーション促進剤に含有される炭素源、窒素源、リン源の含有割合は、特に限定されず、浄化対象となる地盤中の汚染物質の濃度、地盤の種類、土質等に応じて適宜設定できる。上記炭素源、窒素源、リン源に含まれるC:N:Pのモル比が、20~60:1~6:0.1~0.6であることが好ましく、20~50:2~5:0.2~0.5であることがより好ましい。
【0024】
本実施形態に係るバイオレメディエーション促進剤には、上記以外にも、さらに無機イオン、ビタミン等が含まれていてもよい。
【0025】
[1-3.剤型]
本実施形態に係るバイオレメディエーション促進剤の剤型は、特に限定されず、使用目的に応じて公知慣用の剤型を選択することができる。バイオレメディエーション促進剤の剤型は、例えば、溶液状、スラリー状、懸濁液状、ゲル状、ペースト状、半固体状、粉末状、パウダー状等が挙げられる。
【0026】
[2.汚染地盤の浄化方法]
本実施形態に係る汚染地盤の浄化方法は、汚染地盤に上記バイオレメディエーション促進剤を供給する工程を有する。
【0027】
本明細書において「汚染地盤」とは、揮発性有機化合物(VOC)に汚染された地盤のことを意味する。揮発性有機化合物としては、例えば、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、1,1-ジクロロエチレン、1,2-ジクロロエチレン、クロロエチレン、1,1,1-トリクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、四塩化炭素、ジクロロメタン、1,3-ジクロロプロペン、ベンゼン、o-ジクロロベンゼン、m-ジクロロベンゼン、p-ジクロロベンゼン等が挙げられる。
とりわけ本実施形態に係る汚染地盤の浄化方法は、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、1,1-ジクロロエチレン、1,2-ジクロロエチレン、クロロエチレン等の浄化方法として好適に用いることができる。
【0028】
本実施形態に係る汚染地盤の浄化方法として用いるバイオレメディエーションの剤型としては、特に限定されず、例えば、溶液状、スラリー状、懸濁液状のもの等を好適に用いることができる。
【0029】
またバイオレメディエーション促進剤には、味噌に加えて、上述した炭素源、窒素源、リン源、無機イオン、ビタミン等が適宜含まれていてもよい。
【0030】
汚染地盤にバイオレメディエーション促進剤を供給する方法は、特に限定されず、公知慣用の方法を用いることができる。汚染地盤にバイオレメディエーション促進剤を供給する方法としては、例えば、地表に溝を掘ってバイオレメディエーション促進剤を溝にためて地表から汚染地盤中に浸透させる方法、注入井戸からバイオレメディエーション促進剤を汚染地盤中に注入する方法、バックホウ、パワーブレンダー、スタビライザー、深層撹拌混合機械等を用いてバイオレメディエーション促進剤と汚染地盤とを撹拌・混合する方法等が挙げられる。
【実施例0031】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0032】
[試験例:各種味噌によるVOC分解促進効果の評価]
米味噌、麦味噌、及び、豆味噌がVOC分解促進に与える効果について、各種味噌を含まない対照区と、各種味噌を含む試験区とで、VOCの1つであるトリクロロエチレン(以下「TCE」ともいう。)濃度及びその分解物(1,2-ジクロロエチレン、1,1-ジクロロエチレン、クロロエチレン)濃度の経時変化に与える影響を比較して評価した。
【0033】
[試験例1.米味噌又は麦味噌によるVOC分解促進効果の評価]
<対照区及び試験区の作製>
120mL容メジューム瓶に、土壌として山砂(愛知県産)を50g(湿潤重量)添加した。次に、脱イオン水を表1に示す所定の量添加した後、味噌(湿潤重量比10%懸濁液)、クロロクリン(湿潤重量比10%水溶液)を表1に示す所定の量添加した。さらに、VOCを分解する菌源として、VOC汚染サイトから採取したVOC分解菌液を培養した液をそれぞれ0.2mL添加し、次いでTCE飽和水溶液を1mL添加した。その後、pH調整剤として炭酸水素ナトリウム(以下「重曹」ともいう。)5%水溶液を5mL添加した。最後にセプタム付きの中空の蓋で密閉し、対照区1-1及び1-2並びに試験区1-1~1-4を作製した。
【0034】
表1記載の各成分の詳細は以下のとおりである。
(栄養剤)
・クロロクリン(登録商標):グルコン酸ソーダ、尿素、リン酸二水素ナトリウムを重量比93:6:1で配合した材料、全有機炭素濃度31%(乾燥重量当たり)(C:N:P(モル比)=34:3:0.3)
・米味噌:マルコメ 一休さん かつお・昆布 だし入り(栄養成分表示(みそ100g当たり):タンパク質11.3g、脂質4.2g、炭水化物24.4g、食塩相当量11.8g)、含水率54%(分析値)、水溶性全有機炭素量17%(乾物重量当たり、分析値)
・麦味噌:鹿児島県の麦みそ(栄養成分表示(100g当たり):たんぱく質7.1g、脂質3.1g、炭水化物40.1g、食塩相当量8.4g)、含水率50%(分析値)、水溶性全有機炭素量22%(乾物重量当たり、分析値)
※水溶性全有機炭素量:水溶性全有機炭素量として、各種味噌と脱イオン水を1:10の重量比で混合し、1時間振とうした後に10分間静置し、上澄み液の全有機炭素濃度を測定した。この上澄み液中の全有機炭素量を水溶性全有機炭素量(以下「水溶性TOC換算量」ともいう。)とした。
【0035】
【表1】
【0036】
表2では、表1において各対照区又は試験区に添加した栄養剤について、水溶性TOC換算して表記した値を示す。表2から各対照区又は試験区において添加した栄養剤の水溶性TOC換算濃度はいずれも600~635mg/Lの範囲に含まれていることが分かる。また、味噌とクロロクリンを併用した試験区1-2、1-4及び1-6においては、各種味噌とクロロクリンの水溶性TOC換算添加量がほぼ1:4になるように調製している。
【0037】
【表2】
【0038】
<各種VOC濃度の測定>
各対照区及び試験区の溶液をシリンジで採取して、ガスクロマトグラフ(PID検出器)により、トリクロロエチレン(TCE)、1,2-ジクロロエチレン(1,2-DCE)、1,1-ジクロロエチレン(1,1-DCE)、クロロエチレン(VC)の濃度をそれぞれ測定した。その結果を図1~6に示す。
【0039】
図1及び2から、栄養剤として各種味噌及びクロロクリンを含まない対照区1-1に比べて、クロロクリンを含む対照区1-2では、TCEの濃度が、40日経過以降、急激に減少し、TCEの分解が進んでいること、また同時にTCEの分解物である1,2-DCEの濃度が増えていることが分かる。他方で、対照区1-2では、微生物が少ない初期段階から、VOC分解微生物が増殖しやすい嫌気的な環境が整うまでに時間がかかり、結果的にTCE分解までに時間がかかってしまうという傾向が見られた。
【0040】
図3から、栄養剤として米味噌を単独で含む試験区1-1では、比較的緩やかにTCE濃度が経時的に減少し、これに伴いTCEの分解物等である1,2-DCE及び1,1-DCEの濃度が経時的に増加していく傾向が認められる。これに対して、図4から、栄養剤としてクロロクリンを単独で含む対照区1-2(図2)及び米味噌を単独で含む試験区1-1(図3)に比べて、栄養剤として米味噌とクロロクリンとを含む試験区1-2では、TCEの分解が強く促進され、その分解物として生じる1,2-DCE、1,1-DCE及びVCの分解も促進されることが分かる。すなわち、図4から、栄養剤として米味噌とクロロクリンの両方を含ませることにより、TCEの分解を相乗的に促進させる効果を奏することが分かる。
【0041】
図5から、栄養剤として麦味噌を単独で含む試験区1-3では、比較的緩やかにTCE濃度が減少することが分かる。これに対して、図6から、栄養剤として麦味噌とクロロクリンとを含む試験区1-4では、TCEの分解が強く促進され、その分解物として生じる1,2-DCEの分解は比較的緩やかであったものの、1,2-DCE及びVCの分解が対照区に比べて促進されていることが分かる。したがって、図6から、栄養剤として麦味噌とクロロクリンの両方を含ませることにより、TCEの分解を相乗的に促進させる効果を奏することが分かる。
【0042】
自然界には食塩の存在を必須とする好塩菌、あるいはかなり高濃度の食塩下にも生育する耐塩菌も認められるものの、一般的には食塩は微生物の生育を抑制、阻止し、通常、食塩は防腐、保存の目的で用いられることが多い。これに対して、図4及び6の結果から、意外なことに食塩を含む味噌がVOCの分解を促進する結果が得られており、容易に入手可能でコスト的に安価な味噌を用いることにより、これまでVOCを分解する微生物が増殖しやすい嫌気的な環境下が整うまで時間がかかり、VOCの分解までに時間がかかっていたという問題点を軽減できることが分かる。
【0043】
[試験例2.豆味噌によるVOC分解促進効果の評価]
<対照区及び試験区の作製>
試験例1と同様の順番・方法で、120mL容メジューム瓶に、山砂(愛知県産)、脱イオン水、味噌(湿潤重量比10%懸濁液)、クロロクリン(湿潤重量比10%水溶液)、VOC分解菌液、TCE飽和水溶液、重曹5%水溶液を表3に示す所定の量添加し、最後にセプタム付きの中空の蓋で密封し、対照区2-1及び2-2並びに試験区2-1及び2-2を作製した。
【0044】
表3記載の各成分の詳細は以下のとおりである。なお、表3記載の成分で、表1と同じ成分は上記記載のものと同様のものを用いた。
(栄養剤)
・豆味噌:八丁味噌(栄養成分表示(100g当たり):たんぱく質20.1g、脂質10.9g、炭水化物16.7g、食塩相当量10.3g)、含水率39%(分析値)、水溶性全有機炭素量15%(乾燥重量当たり、分析値)
※水溶性全有機炭素量:水溶性全有機炭素量として、各種味噌と脱イオン水を1:10の重量比で混合し、1時間振とうした後に10分間静置し、上澄み液の全有機炭素濃度を測定した。この上澄み液中の全有機炭素量を水溶性全有機炭素量(以下「水溶性TOC換算量」ともいう。)とした。
【0045】
【表3】
【0046】
表4では、表3において各対照区又は試験区に添加した栄養剤について、水溶性TOC換算して表記した値を示す。表4から各対照区又は試験区において添加した栄養剤の水溶性TOC換算濃度はいずれも610~630mg/Lの範囲に含まれていることが分かる。また、味噌とクロロクリンを併用した試験区2-2においては、豆味噌とクロロクリンの水溶性TOC換算添加量がほぼ1:4になるように調製している。
【0047】
【表4】
【0048】
<各種VOC濃度の測定>
各対照区及び試験区の溶液をシリンジで採取して、ガスクロマトグラフ(PID検出器)により、トリクロロエチレン(TCE)、1,2-ジクロロエチレン(1,2-DCE)、1,1-ジクロロエチレン(1,1-DCE)、クロロエチレン(VC)の濃度をそれぞれ測定した。その結果を図7~10に示す。
【0049】
図7及び8から、栄養剤として豆味噌及びクロロクリンを含まない対照区2-1に比べて、クロロクリンのみを含む対照区2-2では、TCEの濃度が、40日経過以降、わずかながら減少しているもののTCEの分解がかなり緩やかに進んでいることが分かる。
【0050】
図9から、栄養剤として豆味噌を単独で含む試験区2-1では、15日経過以降、TCEが急激に分解され、続いてTCEの分解物として生じる1,2-DCE及び1,1-DCEの分解も進行していることが分かる。また図10から、栄養剤として豆味噌とクロロクリンを含む試験区2-2では、栄養剤として豆味噌を単独で含む試験区2-1に比べて、さらにTCEの分解が促進され、8日経過以降、TCEが急激に分解され、TCEの分解物として生じる1,2-DCEの分解が律速とはなっているものの、1,1-DCE及びVCの分解も進んでいることが分かる。
【0051】
一般的に、豆味噌は、米味噌及び麦味噌に比べて、たんぱく質、脂質、ミネラルの量が豊富であることが知られている。図3、5及び9の結果から、豆味噌に含まれる栄養成分によるものか、栄養剤に米味噌又は麦味噌を含ませた場合に比べて、豆味噌を含ませた場合の方が、TCEの分解をさらに強く促進する効果を奏することが分かる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10