IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 高周波熱錬株式会社の特許一覧

特開2024-143662二周波電源装置、高周波加熱装置及び高周波焼入装置
<>
  • 特開-二周波電源装置、高周波加熱装置及び高周波焼入装置 図1
  • 特開-二周波電源装置、高周波加熱装置及び高周波焼入装置 図2
  • 特開-二周波電源装置、高周波加熱装置及び高周波焼入装置 図3
  • 特開-二周波電源装置、高周波加熱装置及び高周波焼入装置 図4
  • 特開-二周波電源装置、高周波加熱装置及び高周波焼入装置 図5
  • 特開-二周波電源装置、高周波加熱装置及び高周波焼入装置 図6
  • 特開-二周波電源装置、高周波加熱装置及び高周波焼入装置 図7
  • 特開-二周波電源装置、高周波加熱装置及び高周波焼入装置 図8
  • 特開-二周波電源装置、高周波加熱装置及び高周波焼入装置 図9
  • 特開-二周波電源装置、高周波加熱装置及び高周波焼入装置 図10
  • 特開-二周波電源装置、高周波加熱装置及び高周波焼入装置 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143662
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】二周波電源装置、高周波加熱装置及び高周波焼入装置
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/04 20060101AFI20241003BHJP
   H05B 6/06 20060101ALI20241003BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20241003BHJP
   H02M 7/493 20070101ALI20241003BHJP
【FI】
H05B6/04 321
H05B6/06 366
H02M7/48 E
H02M7/493
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056442
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】390029089
【氏名又は名称】高周波熱錬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【弁理士】
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【氏名又は名称】内田 敬人
(74)【代理人】
【識別番号】100197538
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 功
(74)【代理人】
【識別番号】100176751
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 耕平
(72)【発明者】
【氏名】杉本 真人
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕高
(72)【発明者】
【氏名】益田 洋平
【テーマコード(参考)】
3K059
5H770
【Fターム(参考)】
3K059AA02
3K059AA09
3K059AA10
3K059AC12
3K059AD30
5H770CA02
5H770DA01
5H770DA14
5H770DA17
5H770DA22
5H770DA41
5H770EA11
(57)【要約】
【課題】耐久性が高い二周波電源装置、高周波加熱装置及び高周波焼入装置を提供する。
【解決手段】二周波電源装置1は、低周波電流と高周波電流とを交互に出力する電源部10を備える。電源部10は、直流電流を低周波電流及び高周波電流に変換するインバータ30と、インバータ30を制御する制御部40と、を有する。制御部40は、第1電力W1にて第1周波数λ1を探索する第1探索期間T21と、第1探索期間T21の後、第2周波数λ2を探索する第2探索期間T22と、を実現し、その後、第1電力W1よりも大きい第2電力W2にて低周波電流を出力する第1出力期間T11と、出力を停止する第1休止期間T12と、高周波電流を出力する第2出力期間T13と、出力を停止する第2休止期間T14と、をこの順に繰り返し実現する。第1電力W1は1kW以上100kW以下である。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1周波数の第1交流電流と、前記第1周波数よりも高い第2周波数の第2交流電流と、を交互に出力する電源部と、
第1マッチングトランスを有し、前記電源部の出力電流が入力され、前記第1交流電流を出力可能な第1整合器と、
第2マッチングトランスを有し、前記電源部の出力電流が入力され、前記第2交流電流を出力可能な第2整合器と、
を備え、
前記電源部は、
直流電流を前記第1交流電流及び前記第2交流電流に変換するインバータと、
前記インバータを制御する制御部と、
を有し、
前記制御部は、
第1電力にて前記第1周波数を探索する第1探索期間と、
前記第1探索期間の後、前記第2周波数を探索する第2探索期間と、
を実現し、その後、
前記第1電力よりも大きい第2電力にて前記第1交流電流を出力する第1出力期間と、
出力を停止する第1休止期間と、
前記第2交流電流を出力する第2出力期間と、
出力を停止する第2休止期間と、
をこの順に繰り返し実現し、
前記第1電力は1kW以上100kW以下である二周波電源装置。
【請求項2】
前記第1探索期間において前記第1電力が1kW以上100kW以下にならなかったときは、前記電源部を停止する請求項1に記載の二周波電源装置。
【請求項3】
請求項1または2つに記載の二周波電源装置と、
前記二周波電源装置から前記第1交流電流及び前記第2交流電流が入力されるコイルと、
を備えた高周波加熱装置。
【請求項4】
請求項3に記載の高周波加熱装置と、
前記高周波加熱装置によって加熱されたワークを冷却する冷却装置と、
を備えた高周波焼入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、二周波電源装置、高周波加熱装置及び高周波焼入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼部材に対して焼入処理を施し、表面を硬化する技術が知られている。焼入処理においては、鋼部材を加熱する工程と、加熱した鋼部材を急冷する工程を続けて実施する。歯車等の複雑な形状の部材の表面を効果的に加熱する方法として、二種類の周波数の高周波を用いた高周波焼入処理が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
このような高周波焼入処理に用いられる二周波電源装置においては、耐久性の向上が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4427417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の実施形態の目的は、耐久性が高い二周波電源装置、高周波加熱装置及び高周波焼入装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態に係る二周波電源装置は、第1周波数の第1交流電流と、前記第1周波数よりも高い第2周波数の第2交流電流と、を交互に出力する電源部と、第1マッチングトランスを有し、前記電源部の出力電流が入力され、前記第1交流電流を出力可能な第1整合器と、第2マッチングトランスを有し、前記電源部の出力電流が入力され、前記第2交流電流を出力可能な第2整合器と、を備える。前記電源部は、直流電流を前記第1交流電流及び前記第2交流電流に変換するインバータと、前記インバータを制御する制御部と、を有する。前記制御部は、第1電力にて前記第1周波数を探索する第1探索期間と、前記第1探索期間の後、前記第2周波数を探索する第2探索期間と、を実現し、その後、前記第1電力よりも大きい第2電力にて前記第1交流電流を出力する第1出力期間と、出力を停止する第1休止期間と、前記第2交流電流を出力する第2出力期間と、出力を停止する第2休止期間と、をこの順に繰り返し実現する。前記第1電力は1kW以上100kW以下である。
【0007】
本発明の実施形態に係る高周波加熱装置は、前記二周波電源装置と、前記二周波電源装置から前記第1交流電流及び前記第2交流電流が入力されるコイルと、を備える。
【0008】
本発明の実施形態に係る高周波焼入装置は、前記高周波加熱装置と、前記高周波加熱装置によって加熱されたワークを冷却する冷却装置と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明の実施形態によれば、耐久性が高い二周波電源装置、高周波加熱装置及び高周波焼入装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、第1の実施形態に係る高周波焼入装置を示すブロック図である。
図2図2は、第1の実施形態に係る高周波加熱装置を示すブロック図である。
図3図3は、第1の実施形態に係る二周波電源装置の電源部を示すブロック図である。
図4図4は、電源部のインバータを示す回路図である。
図5図5(a)は、第1整合器を示す回路図であり、図5(b)は第2整合器を示す回路図である。
図6図6は、横軸に時間をとり、縦軸に電源部の出力電圧をとって、第1の実施形態におけるインバータの動作を示すタイミングチャートである。
図7図7は、横軸に時間をとり、縦軸に電源部の出力電圧をとって、第1の実施形態における電源部の動作を模式的に示すタイミングチャートである。
図8図8は、横軸に時間をとり、縦軸に電源部の出力電圧及びその周波数をとって、第1の実施形態における電源部の動作を模式的に示すタイミングチャートである。
図9図9は、横軸に時間をとり、縦軸に電源部の出力電圧及びその周波数をとって、第2の実施形態における電源部の動作を模式的に示すタイミングチャートである。
図10図10は、横軸に時間をとり、縦軸に電源部の出力電圧及びその周波数をとって、第2の実施形態の変形例における電源部の動作を模式的に示すタイミングチャートである。
図11図11は、第3の実施形態に係る高周波加熱装置を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<第1の実施形態>
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。
先ず、第1の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る高周波焼入装置を示すブロック図である。
【0012】
図1に示すように、本実施形態に係る高周波焼入装置100においては、高周波加熱装置101と、冷却装置102が設けられている。高周波加熱装置101は、ワーク200を誘導加熱する。ワーク200は鋼からなる部材であり、例えば、複雑な形状の部材であり、例えば、歯車である。高周波加熱装置101は、ワーク200の焼入予定部分、例えば、表面の一部をオーステナイト変態点よりも高い温度まで加熱する。冷却装置102は例えば水冷装置であり、高周波加熱装置101によって加熱されたワーク200を急冷する。
【0013】
図2は、本実施形態に係る高周波加熱装置を示すブロック図である。
図2に示すように、本実施形態に係る高周波加熱装置101においては、二周波電源装置1と、コイル90が設けられている。コイル90はワーク200の近傍に配置され、二周波電源装置1から交流電流が供給される。これにより、コイル90はワーク200を誘導加熱する。
【0014】
二周波電源装置1においては、電源部10と、第1整合器60と、第2整合器70と、変成器80が設けられている。電源部10は、第1周波数の低周波電流(第1交流電流)と、第1周波数よりも高い第2周波数の高周波電流(第2交流電流)と、を交互に出力する。一例では、第1周波数は3kHzであり、第2周波数は80kHzである。
【0015】
第1整合器60及び第2整合器70は、電源部10の出力端子に接続されている。第1整合器60は低周波電流にマッチングされており、電源部10から出力された低周波電流を通過させる。第2整合器70は高周波電流にマッチングされており、電源部10から出力された高周波電流を通過させる。第1整合器60と変成器80との間には、共振用の整合コンデンサ69が設けられており、低周波電流の周波数(第1周波数)で共振するように調整されている。第2整合器70と変成器80との間にも、共振用の整合コンデンサ79が設けられており、高周波電流の周波数(第2周波数)で共振するように調整されている。但し、後述するように、第1周波数及び第2周波数は、それぞれ共振周波数よりも僅かに高くする。これにより、低周波電流及び高周波電流において、電流変化が電圧変化よりも僅かに遅れる「遅れ位相」を実現できる。変成器80は、第1整合器60の出力電流及び第2整合器70の出力電流が入力され、入力された電流の電圧及び電流を変換してコイル90に対して出力する。
【0016】
図3は、本実施形態に係る二周波電源装置の電源部を示すブロック図である。
図3に示すように、二周波電源装置1の電源部10においては、外部から入力された交流電流Iを直流電流Iに変換するコンバータ20と、コンバータ20から出力された直流電流Iを任意の周波数の交流電流Iに変換するインバータ30と、コンバータ20及びインバータ30を制御する制御部40と、が設けられている。また、電源部10には、インバータ30に接続された一対の出力端子11及び12が設けられている。なお、本明細書において、「直流」には、電流値が一定である狭義の直流の他に、脈流も含まれる。インバータ30は、コンバータ20から入力された直流電流Iを上述の低周波電流及び高周波電流に変換して出力する。
【0017】
図4は、電源部のインバータを示す回路図である。
図4に示すように、インバータ30においては、スイッチング素子31~34が設けられている。スイッチング素子31~34は、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)である。なお、スイッチング素子31~34は、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor:金属酸化物半導体電界効果トランジスタ)であってもよい。各スイッチング素子31~34には、スイッチング部分とダイオード部分とが設けられており、相互に並列に接続されている。スイッチング部分はゲートを含み、ゲートに印加された電位によって導通と非導通とが切り替わる。
【0018】
また、インバータ30には、高電位配線35及び低電位配線36が設けられている。高電位配線35にはコンバータ20から高電位側電位が供給され、低電位配線36にはコンバータ20から低電位側電位が供給される。
【0019】
スイッチング素子31は、高電位配線35(高電位側電位)と電源部10の出力端子11との間に接続されている。スイッチング素子32は、低電位配線36(低電位側電位)と出力端子11との間に接続されている。スイッチング素子33は、高電位配線35と電源部10の出力端子12との間に接続されている。スイッチング素子34は、低電位配線36と出力端子12との間に接続されている。
【0020】
スイッチング素子31~34の各ゲートは、制御部40に接続されている。制御部40はスイッチング素子31~34の各ゲートに所望の電位を印加することにより、スイッチング素子31~34のスイッチング部分の導通/非導通を相互に独立して切り替えることができる。図4においては、出力端子11と出力端子12との間に負荷Lを接続している。負荷Lは、上述の第1整合器60、整合コンデンサ69、第2整合器70、整合コンデンサ79、変成器80及びコイル90を含んでいる。
【0021】
なお、高電位配線35と低電位配線36との間には、スイッチング素子31~34からなるブリッジ回路が複数個、並列に接続されていてもよい。これにより、コイル90に供給する電流を増加させることができる。
【0022】
図5(a)は、第1整合器を示す回路図であり、図5(b)は第2整合器を示す回路図である。
図5(a)に示すように、第1整合器60においては、マッチングトランス61が設けられている。マッチングトランス61においては、端子62と、一次コイル63と、二次コイル64と、鉄芯65が設けられている。一次コイル63は電源部10に接続されており、二次コイル64は整合コンデンサ69に接続されている。端子62は一次コイル63における電流が流れる部分の巻数を選択することにより、一次コイル63のインピーダンスを調整する。一次コイル63と二次コイル64は鉄芯65に巻かれており、磁気的に相互に結合している。
【0023】
同様に、図5(b)に示すように、第2整合器70においては、マッチングトランス71が設けられている。マッチングトランス71においては、端子72と、一次コイル73と、二次コイル74と、鉄芯75が設けられている。一次コイル73は電源部10に接続されており、二次コイル74は整合コンデンサ79に接続されている。端子72は一次コイル73における電流が流れる部分の巻数を選択することにより、一次コイル73のインピーダンスを調整する。一次コイル73と二次コイル74は鉄芯75に巻かれており、磁気的に相互に結合している。
【0024】
次に、本実施形態に係る高周波焼入装置の動作について説明する。
図6は、横軸に時間をとり、縦軸に電源部の出力電圧をとって、本実施形態におけるインバータの動作を示すタイミングチャートである。
図7は、横軸に時間をとり、縦軸に電源部の出力電圧をとって、本実施形態における電源部の動作を模式的に示すタイミングチャートである。
【0025】
図6及び図7の縦軸が表す出力電圧は、出力端子12に対する出力端子11の電位である。
なお、図7においては、電流の波形と周波数の切り替えのタイミングを同時に可視化するために、横軸の縮尺は正確でなくなっている。実際には、低周波電流が出力される第1出力期間T11、第1休止期間T12、高周波電流が出力される第2出力期間T13、及び、第2休止期間T14の長さは、各電流の周期に対して十分に長い。後述する図8図10についても図7と同様である。なお、電源部10の出力電圧は方形波であり、出力電流は正弦波である。
【0026】
図3に示すように、電源部10のコンバータ20には、交流電流Iとして、例えば、商用の交流電流、例えば、440Vの三相電流が入力される。コンバータ20は交流電流Iを平滑化して直流電流Iを生成し、インバータ30に対して出力する。直流電流Iの最大電圧は例えば550Vである。
【0027】
図4及び図6に示すように、電源部10の制御部40は、第1導通期T1、第1不通期T2、第2導通期T3及び第2不通期T4を、この順に繰り返し実現する。
【0028】
第1導通期T1においては、制御部40は、スイッチング素子31及びスイッチング素子34を導通させ、スイッチング素子32及びスイッチング素子33を導通させない。これにより、負荷Lには図4に実線の矢印A1で示す順方向の電圧が印加される。
【0029】
第1不通期T2においては、制御部40は、スイッチング素子31、32、33及び34を全て導通させない。このとき、スイッチング素子32及び33のダイオード部分には出力電流が流れるため、負荷Lには破線の矢印A2で示す逆方向の電圧が印加される。
【0030】
第2導通期T3においては、制御部40は、スイッチング素子32及びスイッチング素子33を導通させ、スイッチング素子31及びスイッチング素子34を導通させない。これにより、負荷Lには図4に破線の矢印A2で示す逆方向の電圧が印加される。
【0031】
第2不通期T4においては、制御部40は、スイッチング素子31、32、33及び34を全て導通させない。このとき、スイッチング素子31及び34のダイオード部分には出力電流が流れるため、負荷Lには実線の矢印A1で示す順方向の電圧が印加される。
【0032】
このようにして、図3に示すように、インバータ30は交流電流Iを出力する。そして、制御部40が第1導通期T1、第1不通期T2、第2導通期T3及び第2不通期T4からなるサイクルの周期を切り替えることにより、電源部10は低周波電流と高周波電流を交互に出力する。図7に示すように、低周波電流を出力する第1出力期間T11の長さと、高周波電流を出力する第2出力期間T13の長さは、それぞれ任意に制御することができる。例えば、第1出力期間T11の長さと第2出力期間T13の長さの比は、1:1としてもよい。この場合、第1出力期間T11の長さと第2出力期間T13の長さは、それぞれ、50ms(ミリ秒)としてもよい。
【0033】
図2に示すように、第1整合器60から変成器80までの共振回路のインダクタンスにより第1周波数が選択されることにより、電源部10から出力された低周波電流が第1整合器60を通過する。同様に、第2整合器70から変成器80までの共振回路のインダクタンスにより第2周波数が選択されることにより、電源部10から出力された高周波電流が第2整合器70を通過する。第1整合器60から出力された低周波電流及び第2整合器70から出力された高周波電流は、変成器80に入力される。変成器80は、入力された電圧及び電流を変換して、コイル90に対して出力する。
【0034】
これにより、コイル90は、ワーク200を誘導加熱する。このとき、コイル90には低周波電流及び高周波電流が供給されるため、ワーク200が複雑な形状であっても、焼入予定部分を均一に加熱することが可能である。例えば、ワーク200が歯車である場合、低周波電流によってワーク200の歯底を加熱し、高周波電流によってワーク200の歯先を加熱する。
【0035】
図1に示すように、高周波加熱装置101がワーク200の焼入予定部分をオーステナイト変態点よりも高い温度まで加熱した後、冷却装置102がワーク200を急冷する。これにより、ワーク200の焼入予定部分に焼入処理が施される。
【0036】
次に、本実施形態に係る高周波焼入装置の加熱開始時の動作について説明する。
図8は、横軸に時間をとり、縦軸に電源部の出力電圧及びその周波数をとって、本実施形態における電源部の動作を模式的に示すタイミングチャートである。
【0037】
図8に示すように、二周波電源装置1が起動され、ワーク200の加熱を開始するときに、電源部10の制御部40は先ず第1探索期間T21を実現する。第1探索期間T21において、制御部40は第1電力W1にて第1周波数λ1を探索する。前述の如く、第1周波数λ1は第1整合器60を通過できるような周波数である。第1電力W1は第1電圧V1と電流値と力率の積である。第1電力W1は、第1出力期間T11及び第2出力期間T13において出力する第2電力W2よりも小さく、且つ、1kW以上100kW以下である。一例では、第2電圧V2は550Vであり、第1電圧V1は30Vであり、第1電力W1は5kWである。
【0038】
具体的には、制御部40は、図4に示すスイッチング素子31、32、33及び34を制御することにより、第1導通期T1、第1不通期T2、第2導通期T3及び第2不通期T4の繰り返し周期を変化させて、低周波電流の周波数を変化させる。低周波電流の周波数は、第1整合器60、整合コンデンサ69、変成器80及びコイル90を含む電流経路の共振周波数(以下、「第1共振周波数」という)に近い値とし、第1共振周波数よりも僅かに高く設定する。第1共振周波数は、上述の電流経路の構成の他に、コイル90の形状及び温度、並びに、コイル90とワーク200との位置関係にも依存するため、ある程度変動する。このため、第1周波数λ1は加熱開始時に毎回探索し、必要に応じて加熱途中にも探索し直し、探索された第1共振周波数に合わせて、低周波電流が僅かに遅れ位相になるように制御する。
【0039】
低周波電流の周波数は第1共振周波数の近傍であれば第1整合器60を通過可能である。周波数が第1共振周波数よりも僅かに高いと、電流変化が電圧変化よりも遅れる「遅れ位相」となり、周波数が第1共振周波数よりも僅かに低いと、電流変化が電圧変化よりも進む「進み位相」となる。このため、出力電圧と出力電流の位相を検出することにより、第1共振周波数を探索できる。第1周波数λ1は第1共振周波数よりも僅かに高く設定する。これにより、低周波電流に第1整合器60を通過させつつ、遅れ位相を実現できる。
【0040】
制御部40は、第1探索期間T21の後、第1探索休止期間T22を実現する。第1探索休止期間T22においては、制御部40はスイッチング素子31、32、33及び34を全て非導通とし、電流の出力を停止する。
【0041】
制御部40は、第1探索休止期間T22の後、第2探索期間T23を実現する。第2探索期間T23において、制御部40は第1電力W1にて第2周波数λ2を探索する。第2周波数λ2は、第2整合器70、整合コンデンサ79、変成器80及びコイル90を含む電流経路の共振周波数(以下、「第2共振周波数」という)に近い値とし、第2共振周波数よりも僅かに高く設定する。これにより、高周波電流に第2整合部70を通過させつつ、遅れ位相を実現できる。第2探索期間T23において、第2共振周波数を探索した後は、電力を第1電力W1から第2電力W2まで徐々に増加させる。
【0042】
制御部40は、第2探索期間T23の後、第2探索休止期間T24を実現する。第2探索休止期間T24においては、制御部40はスイッチング素子31、32、33及び34を全て非導通とし、電流の出力を停止する。
【0043】
その後、制御部40は、第1出力期間T11、第1休止期間T12、第2出力期間T13及び第2休止期間T14をこの順に繰り返し実現する。第1出力期間T11においては、第1探索期間T21において設定された第1周波数λ1により、低周波電流を出力する。低周波電流の出力は第1電力W1よりも大きい第2電力W2となる。第2電力W2は第2電圧V2と電流値と力積の積である。第2出力期間T13においては、第2探索期間T22において設定された第2周波数λ2により、第2電力W2にて、高周波電流を出力する。第1休止期間T12及び第2休止期間T14においては、スイッチング素子31、32、33及び34を全て非導通として、出力を停止する。
【0044】
本実施形態においては、第1探索期間T21において出力する第1電力W1を1kW以上100kW以下とすることにより、第1探索期間T21における第1共振周波数が第1出力期間T11における第1共振周波数から大きくずれることを抑制し、第1周波数λ1を正確に設定できる。これにより、第1出力期間T11において、第1周波数λ1が第1共振周波数よりも低くなり、低周波電流が進み位相になることを抑制できる。この結果、第1出力期間T11の開始時においてサージ電圧が発生することを抑制し、このサージ電圧によってスイッチング素子31、32、33及び34が損傷を受けることを抑制できる。
【0045】
なお、仮に、第1電力W1が1kW未満であると、第1探索期間T21における第1共振周波数が第1出力期間T11における第1共振周波数から大きくずれてしまう場合がある。この場合は、第1探索期間T21において設定された第1周波数λ1を第1出力期間T11において適用すると、第1周波数λ1が第1共振周波数よりも低くなり、進み位相になることがある。進み位相になるとサージ電圧が発生し、スイッチング素子31、32、33及び34が破壊される場合がある。
【0046】
進み位相になるとサージ電圧が発生する理由は以下のとおりである。
第1導通期T1においてスイッチング素子31及びスイッチング素子34が導通すると、高電位配線35からスイッチング素子31、負荷L、スイッチング素子34を介して低電位配線36に電流が流れる。進み位相であると、第1導通期T1の途中で電流の方向が逆転し、低電位配線36からスイッチング素子34のダイオード部分、負荷L、スイッチング素子31のダイオード部分を介して高電位配線35に電流が流れる。第1不通期T2においても同様に電流が流れる。
【0047】
その後、第2導通期T3に移行し、スイッチング素子32及びスイッチング素子33が導通すると、スイッチング素子31のダイオード部分とスイッチング素子32のスイッチング部分がアーム短絡して大電流が流れると共に、スイッチング素子33のスイッチング部分とスイッチング素子34のダイオード部分がアーム短絡して大電流が流れる。このとき、スイッチング素子31のダイオード部分とスイッチング素子34のダイオード部分には逆電圧が印加される。
【0048】
そして、スイッチング素子31のダイオード部分とスイッチング素子34のダイオード部分が、カソードから電流が流れ込まない状態に逆回復(リカバリー)すると、電流が急激に小さくなる。このような急激な電流の変化により、スイッチング素子31及びスイッチング素子34の両端に大きなサージ電圧が発生する。
【0049】
第2導通期T3から第2不通期T4を経て第1導通期T1に移行するときにも、上記と同様な原理により、進み位相であるとスイッチング素子32とスイッチング素子33の両端に大きなサージ電圧が発生する。
【0050】
このように、本実施形態によれば、スイッチング素子を保護することができ、耐久性が高い二周波電源装置を実現できる。なお、第2探索期間T23においては、第2共振周波数を探索した後、出力電力を第2電力W2に向けて増加させている。このため、第2出力期間T13においては進み位相にならず、サージ電圧も発生しない。但し、第2探索期間T23において出力電力を第1電力W1に維持する場合は、第2探索期間T23において出力する第1電力W1も、1kW以上100kW以下とすることが好ましい。
【0051】
<第1の実施形態の変形例>
次に、第1の実施形態の変形例について説明する。
上述の如く、第1電力W1は第1電圧V1と電流値と力率の積であるが、通常、設定可能な変数は電圧のみである。このため、負荷Lのインピーダンスが想定よりも高い場合は、負荷Lに十分な電流が流れず、第1電力W1が1kWに達しない場合がある。本変形例においては、第1探索期間T21において第1電力W1が1kW以上にならなかったときは、制御部40が電源部10を停止する。これにより、第1出力期間T11が開始されることがなく、第1出力期間T11の開始時にサージ電圧が流れてスイッチング素子31、32、33及び34が損傷を受けることを確実に回避できる。本変形例における上記以外の構成、動作及び効果は、第1の実施形態と同様である。
【0052】
<第2の実施形態>
次に、第2の実施形態について説明する。
図9は、横軸に時間をとり、縦軸に電源部の出力電圧及びその周波数をとって、本実施形態における電源部の動作を模式的に示すタイミングチャートである。
【0053】
図9に示すように、本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、制御部40は、第1探索期間T21を実現して第1電力W1にて第1周波数λ1を設定し、第2探索期間T22を実現して第1電力W1にて第2周波数λ2を設定する。第1電力W1は1kW以上であることが好ましいが、1kW未満であってもよい。
【0054】
その後、制御部40は、第1出力期間T11、第1休止期間T12、第2出力期間T13及び第2休止期間T14をこの順に繰り返し実現する。そして、少なくとも1回目の第1出力期間T11において、第1出力期間T11の開始時に低周波電流の周波数を第3周波数λ3とし、第3周波数λ3から低下させることによって第1共振周波数を再探索して、第1周波数λ1を再設定する。そして、再設定された第1周波数λ1により低周波電流を出力する。第3周波数λ3は、第1探索期間T21において設定された第1周波数λ1よりも高く第2周波数λ2よりも低い。例えば、第3周波数λ3は、第1探索期間T21において設定された第1周波数λ1の1.05倍以上であり2倍以下である。例えば、第3周波数λ3は、第1周波数λ1の1.12倍である。
【0055】
2回目以降の第1出力期間T11については、1回目の第1出力期間T11と同様に、低周波電流の周波数を第3周波数λ3から低下させることによって第1周波数λ1を再探索してもよく、または、直前の第1出力期間T11において使用した第1周波数λ1を適用してもよい。図9は、2回目以降の第1出力期間T11についても第3周波数λ3から低下させる例を示している。また、第2出力期間T13においては、第2探索期間T22において探索された第2周波数λ2をそのまま適用する。
【0056】
本実施形態においては、第1出力期間T11において低周波電流の周波数の初期値を第3周波数λ3とし、そこから低下させて第1周波数λ1を再探索している。このため、第1出力期間T11における第1共振周波数が第1探索期間T21における第1共振周波数から大きくずれた場合でも、第1出力期間T11において低周波電流の周波数が第1共振周波数未満となることを確実に回避し、遅れ位相を確実に実現できる。これにより、進み位相に起因してサージ電圧が発生することを抑制できる。このように、本実施形態においても、耐久性が高い二周波電源装置を実現できる。本実施形態における上記以外の構成、動作及び効果は、第1の実施形態と同様である。
【0057】
<第2の実施形態の変形例>
次に、第2の実施形態の変形例について説明する。
図10は、横軸に時間をとり、縦軸に電源部の出力電圧及びその周波数をとって、本変形例における電源部の動作を模式的に示すタイミングチャートである。
【0058】
図10に示すように、本変形例においては、2回目以降の第1出力期間T11において、周波数を第4周波数λ4から低下させることによって第1周波数λ1を再探索し、再探索された第1周波数λ1によって低周波電流を出力する。第4周波数λ4は、第1探索期間T21において探索された第1周波数λ1よりも高く、1回目の第1出力期間T11の初期値である第3周波数λ3よりも低い。
【0059】
本変形例によれば、2回目以降の第1出力期間T11において、低周波電流の周波数を第1周波数λ1よりも高く第3周波数λ3よりも低い第4周波数から低下させることによって、周波数が第1共振周波数未満となることを確実に回避しつつ、第1周波数λ1の再探索に要する時間を短縮することにより、力率を改善することができる。本変形例における上記以外の構成、動作及び効果は、第2の実施形態と同様である。
【0060】
<第3の実施形態>
次に、第3の実施形態について説明する。
図11は、本実施形態に係る高周波加熱装置を示すブロック図である。
【0061】
図11に示すように、本実施形態に係る二周波電源装置3は、第1の実施形態に係る二周波電源装置1(図2参照)と比較して、変成器80の替わりに2つの第1変成器80a及び第2変成器80bが設けられている点が異なっている。第1変成器80aには、整合コンデンサ69から低周波電流が入力され、この低周波電流の電流及び電圧を変換して出力する。第2変成器80bには、整合コンデンサ79から高周波電流が入力され、この高周波電流の電流及び電圧を変換して出力する。第1変成器80aから出力された変換後の低周波電流と、第2変成器80bから出力された変換後の高周波電流が合成されて合成電流Iとなり、コイル90に入力される。一例では、第1変成器80aには鉄芯トランスが設けられており、第2変成器80bには空芯トランスが設けられている。本実施形態における上記以外の構成、動作及び効果は、第1の実施形態と同様である。
【0062】
前述の実施形態は、本発明を具現化した例であり、本発明はこの実施形態には限定されない。例えば、前述の実施形態において、いくつかの構成要素を追加、削除又は変更したものも本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0063】
1、3:二周波電源装置
10:電源部
11、12:出力端子
20:コンバータ
30:インバータ
31、32、33、34:スイッチング素子
35:高電位配線
36:低電位配線
40:制御部
60:第1整合器
61:マッチングトランス
62:端子
63:一次コイル
64:二次コイル
65:鉄芯
69:整合コンデンサ
70:第2整合器
71:マッチングトランス
72:端子
73:一次コイル
74:二次コイル
75:鉄芯
79:整合コンデンサ
80:変成器
80a:第1変成器
80b:第2変成器
90:コイル
100:高周波焼入装置
101:高周波加熱装置
102:冷却装置
200:ワーク
:交流電流
:直流電流
:交流電流
:交流電流
L:負荷
T1:第1導通期
T2:第1不通期
T3:第2導通期
T4:第2不通期
T11:第1出力期間
T12:第1休止期間
T13:第2出力期間
T14:第2休止期間
T21:第1探索期間
T22:第1探索休止期間
T23:第2探索期間
T24:第2探索休止期間
λ1:第1周波数
λ2:第2周波数
λ3:第3周波数
λ4:第4周波数
V1:第1電圧
V2:第2電圧
W1:第1電力
W2:第2電力
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11