(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143666
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】地盤改良体及び地盤改良体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20241003BHJP
C09K 17/10 20060101ALI20241003BHJP
C09K 17/14 20060101ALI20241003BHJP
C09K 17/44 20060101ALI20241003BHJP
C04B 18/167 20230101ALI20241003BHJP
C04B 40/02 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C04B28/02
C09K17/10 P
C09K17/14 P
C09K17/44 P
C04B18/167
C04B40/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056447
(22)【出願日】2023-03-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年7月20日 一般社団法人 日本建築学会発行 「2022年度大会(北海道)学術講演梗概集・建築デザイン発表梗概集(DVD版)」にて公開 令和4年9月8日 2022年度 日本建築学会大会(北海道)にて公開
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構/カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/CO2排出削減・有効利用実用化技術開発/コンクリート、セメント、炭酸塩、炭素、炭化物などへのCO2利用技術開発「セメント系廃材を活用したCO2固定プロセス及び副産物の建設分野への利用技術の研究」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河野 貴穂
(72)【発明者】
【氏名】杉本 南
(72)【発明者】
【氏名】柳橋 邦生
(72)【発明者】
【氏名】小島 正朗
(72)【発明者】
【氏名】池尾 陽作
(72)【発明者】
【氏名】川尻 聡
(72)【発明者】
【氏名】景山 勇輝
【テーマコード(参考)】
4G112
4H026
【Fターム(参考)】
4G112PA30
4G112RA02
4H026CA01
4H026CB01
4H026CC02
4H026CC05
(57)【要約】
【課題】二酸化炭素が固定された地盤改良体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】再生コンクリート粉末及び再生地盤改良体粉末の少なくとも一方に由来する二酸化炭素固定化粉末、結合材、土壌及び水を含む地盤改良体及びその製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
再生コンクリート粉末及び再生地盤改良体粉末の少なくとも一方に由来する二酸化炭素固定化粉末、結合材、土壌及び水を含む地盤改良体。
【請求項2】
再生コンクリートガラ及び地盤改良体ガラの少なくとも一方を粉砕して、1.7mmのふるい通過品である粉末を得る粉砕工程と、
得られた粉末と二酸化炭素とを接触させ、二酸化炭素固定化粉末を得る二酸化炭素固定化工程と、
前記二酸化炭素固定化粉末、結合材、水、及び土壌を混合して混合物を得る混合工程と、を含む、
二酸化炭素を固定した地盤改良体の製造方法。
【請求項3】
前記混合物は、さらに、化学混和剤を含む、請求項2に記載の二酸化炭素を固定した地盤改良体の製造方法。
【請求項4】
前記二酸化炭素固定化工程は、前記粉末と水とを混合したスラリーに炭酸ガスを供給する湿式工程であるか、又は、前記粉末を、二酸化炭素濃度5%以上の閉鎖空間に配置する乾式工程である、
請求項2又は請求項3に記載の二酸化炭素を固定した地盤改良体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、地盤改良体及び地盤改良体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
構造物に用いられる結合材であるセメントは、セメント製造のための原材料及び焼成により、二酸化炭素を多く排出することから、二酸化炭素の削減が求められている。
一つの方法としては、構造物の解体に際して排出される再生コンクリートを、コンクリート原料に使用する方法が挙げられる。
軟弱地盤の支持力や変形性能を向上させるために、河口や海岸地区等の地盤軟弱地域に都市が発展した日本においては、様々な地盤改良工法が利用されており、セメントを用いた地盤改良体が最も多く使用されている。地盤改良に用いられるセメント使用量は、年間600万t(トン)程度であり、国内で消費されるセメント使用量の1/6程度の大量のセメントが地盤改良体の製造に使用されている。
セメントを用いて得た地盤改良体は、製造時にセメントと地盤とを適切に混合攪拌し、経時により硬化することにより所定の強度を発揮する。従って、セメント使用量の削減と、二酸化炭素固定化の向上は、二酸化炭素削減において重要な課題である。
近年、建造物の構築に用いられるコンクリートへの再生コンクリートの様々な利用について検討されてきてはいるが、地盤改良体への再生コンクリートの適用に対する検討は十分とはいえないのが現状である。
【0003】
特許文献1には、コンクリート廃材から再生骨材を製造する際に副次発生する微粉末を、セメント原料の一部としてリサイクル利用する方法が提案されている。特許文献1に記載の方法では、水酸化カルシウムを殆ど含まない、炭酸化が進行した廃コンクリート微粉末を、セメント原料であるセメントクリンカーに微量添加する方法が記載され、廃コンクリート微粉末のリサイクル利用を拡大することができるとされている。
【0004】
特許文献2には、水と、セルロースナノファイバー、二酸化炭素及び炭酸カルシウムを混合し、セルロースナノファイバー含有液を調製し、炭酸カルシウムを水に可溶な炭酸水素カルシウムとし、地盤改良の対象となる地盤に浸透させる地盤改良方法が記載されている。地盤に浸透した、セルロースナノファイバー含有液は、経時すると、含有液から水又は二酸化炭素が放出されることにより、炭酸水素カルシウムを再結晶させて地盤の強度を改良する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-193679号公報
【特許文献2】特開2010-254503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
コンクリート構造物の解体等によって生じるコンクリート廃棄物のセメントへの再利用は、二酸化炭素排出の低減に有用であるが、特許文献1の方法では、僅かなリサイクル利用に過ぎない。
また、特許文献2では、一旦、混合液の調製に称した二酸化炭素は、炭酸カルシウムの再結晶時に再び大気中に放出されるため、地盤改良体への二酸化炭素の固定化には至っていない。
【0007】
本開示の一実施形態の課題は、二酸化炭素が固定化された地盤改良体を提供することである。
本開示の別の課題は、二酸化炭素が固定化された地盤改良体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題の解決手段は、以下の態様を含む。
【0009】
<1> 再生コンクリート粉末及び再生地盤改良体粉末の少なくとも一方に由来する二酸化炭素固定化粉末、結合材、土壌及び水を含む地盤改良体。
前記第1の態様では、二酸化炭素固定化粉末は、再生コンクリート粉末及び再生地盤改良体の少なくとも一方に由来する。このため、地盤改良体に用いる二酸化炭素固定化粉末は、廃コンクリート及び廃地盤改良体のリサイクル用途として有効であり、製造時の二酸化炭素排出量を低減できる。さらに、得られた地盤改良体は、二酸化炭素固定化粉末を含むことで、結合材のみを含む地盤改良体に比較して、より良好な強度が得られる。
【0010】
<2> 再生コンクリートガラ及び地盤改良体ガラの少なくとも一方を粉砕して、1.7mmのふるい通過品である粉末を得る粉砕工程と、得られた粉末と二酸化炭素とを接触させ、二酸化炭素固定化粉末を得る二酸化炭素固定化工程と、前記二酸化炭素固定化粉末、結合材、水、及び土壌を混合して混合物を得る混合工程と、を含む、二酸化炭素を固定した地盤改良体の製造方法。
【0011】
前記第2の態様では、二酸化炭素固定化粉末を、再生コンクリートガラ及び地盤改良体ガラの少なくとも一方を粉砕して、1.7mmのふるい通過品である粉末を得て、得られた粉末に二酸化炭素を接触させることで、再生コンクリートガラ等に含まれる酸化カルシウム、水酸化カルシウム等と、二酸化炭素とが反応し、炭酸カルシウムとなる。上記二酸化炭素固定化工程により、多くの二酸化炭素を固定した粉末を得ることができる。さらに、土壌に、水と、結合材と、二酸化炭素固定化粉末とを混合し、硬化させることで、結合材の硬化性に加え、二酸化炭素固定化粉末が、結合材粒子の間隙に入り込み、組織が緻密になることで、地盤改良体は強度が良好となる。
【0012】
<3> 前記二酸化炭素固定化工程は、前記粉末と水とを混合したスラリーに炭酸ガスを供給する湿式工程であるか、又は、前記粉末を、二酸化炭素濃度5%以上の閉鎖空間に配置する乾式工程である、<2>に記載の二酸化炭素を固定した地盤改良体の製造方法。
前記第3の態様では、破砕体に対し、湿式工程、又は乾式工程により二酸化炭素を接触させることで、粉末に多くの二酸化炭素を効率的に固定させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本開示の一実施形態によれば、二酸化炭素が固定化された地盤改良体を提供することができる。
本開示の別の実施形態によれば、二酸化炭素が固定化された地盤改良体の製造方法を提供することができある。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<地盤改良体>
本開示の地盤改良体は、再生コンクリート粉末及び再生地盤改良体粉末の少なくとも一方に由来する二酸化炭素固定化粉末、結合材、土壌及び水を含む。
【0015】
本開示において、「地盤改良体」とは、セメントスラリー等のセメント系固化材と土とを攪拌して硬化したものである。地盤改良体には、コンクリートのように石等の骨材が含まれていないが、又は、殆ど含まれてない。
【0016】
本開示の地盤改良体は、再生コンクリート粉末及び再生地盤改良体粉末の少なくとも一方に由来する二酸化炭素固定化粉末を含むため、地盤改良体の製造に使用する微粉として、新規なコンクリートに由来する粉末の使用量を低減させることができ、さらに、二酸化炭素固定化粉末を用いることで、二酸化炭素の排出を低減することができると考えられる。
なお、以下、再生コンクリート粉末及び再生地盤改良体粉末の少なくとも一方を、「再生コンクリート粉末等」と総称することがある。
【0017】
一般に、コンクリートの解体・粉砕時に発生する再生コンクリート粉末等には、セメント硬化体が粉砕された粉に加え、骨材が削られた粉、砂が粉砕された粉が含まれている。また、地盤改良体の粉砕により得られる再生地盤改良体粉末もまた、セメント固化材等のセメント成分由来の粉末に加え、土粒等も含まれる。
【0018】
(二酸化炭素固定化粉末)
再生コンクリート粉末等には、セメント成分に由来するカルシウムが、酸化カルシウム(CaO)、水酸化カルシュウム(Ca(OH)2)等の形で含まれている。セメント成分由来のカルシウムを含む再生コンクリート粉末等を、例えば、空気中に放置することによっても、ある程度の二酸化炭素を吸着するが、吸着量は十分とはいえない。
本開示の地盤改良体に用いられる二酸化炭素固定化粉末には特に制限はないが、セメント成分に由来するカルシウムに、自然放置によらず、種々の方法で効率よく二酸化炭素を吸着させて得られた二酸化炭素固定化粉末、即ち、自然放置した場合よりも、より多くの二酸化炭素を吸着した二酸化炭素固定化粉末を用いることが、二酸化炭素固定化効率の観点から好ましい。
再生コンクリート粉末等に二酸化炭素を吸着させる操作を行ことにより、カルシウムにより多量の二酸化炭素を結合させることができ、炭酸カルシウム(CaCO3)がより多く生成され、二酸化炭素をより多く固定することができる。
【0019】
本開示の地盤改良体に含まれる前記二酸化炭素固定化粉末は、前記粉末1000kg当たりの二酸化炭素固定量が50kg以上であることが好ましく、70kg以上であることがより好ましく、90kg以上であることが更に好ましい。
前記地盤改良体に含まれる二酸化炭素固定化粉末を、前記粉末1000kg当たりの二酸化炭素固定量が50kg以上である二酸化炭素固定化粉末とすることで、本開示の地盤改良体は、多くの二酸化炭素を構造内に固定化することができ、環境への負荷をより低減することができる。
【0020】
なお、二酸化炭素固定化粉末における二酸化炭素の固定量は、TG-DTA試験(熱質量・示差熱同時測定:Thermogravimetry-DifferentialThermal Analysis)における600℃~800℃の質量減量より求めることができる。TG-DTA測定装置としては、例えば、リガク社製 Thermo plus EVO2 TG-DTA8122等を用いることができる。
ここで、二酸化炭素固定化粉末の炭酸カルシウム量を測定し、粉末に含まれる炭酸カルシウム量から、二酸化炭素の量を算出し、これを二酸化炭素固定化粉末における二酸化炭素の固定量(二酸化炭素の含有量)とする。
【0021】
二酸化炭素固定化粉末は、目開き1.7mmのふるいを通過し得るサイズであれば特に制限はない。例えば、再生コンクリート硬化体を粉砕して得られる粉末であって、1.7mmのふるいを通過し得る、即ち、最大粒径が1.7mm以下であれば、粉砕方法等の相違による粒度分布等についても特に制限はない。
二酸化炭素固定化粉末の平均粒子径としては、二酸化炭素固定量と、得られる地盤改良体の強度とのバランスの観点から、1000μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましい。
【0022】
地盤改良体における二酸化炭素固定化粉末の含有量は、後述の結合材の全質量に対して、10質量%~110質量%の範囲で、地盤改良体の使用態様、必要な強度を考慮して適宜選択することができ、30質量%~60質量%の範囲であることが好ましい。
【0023】
(結合材)
本開示の地盤改良体は、結合材を含む。結合材としては、公知の水硬性成分を制限なく使用することができる。結合材としては、セメント、詳細には、通常の地盤改良に用いる高炉セメントB種、高炉セメントC種、セメント系固化材等が挙げられる。
地盤改良体をセメントスラリー等の流動性スラリーとして地盤の土壌と混合して用いる場合、結合材の含有量は、改良対象土1m3に対して100kg~500kgの範囲とすることができ、地盤改良体の使用態様、必要な強度を考慮して含有量を適宜選択することができる。
地盤改良体に含まれる結合材の含有量は、必要な強度に応じて決定されるが、例えば、地盤改良対象土1m3に対しては、結合材の含有量を100kg~500kgの範囲とすることができる。
【0024】
(土壌)
本開示の地盤改良体は、土壌を含む。土壌は、地盤改良体を施工する現場の土壌を用いることができる。現場土壌と結合材であるセメント成分とを混合したソイルセメントの形態で用いてもよい。
地盤改良体における前記結合材の含有量を多くすることで、得られる地盤改良体の強度は向上するが、地盤改良体形成用の組成物の流動性が低下するため、施工性が低下する可能性がある。
地盤改良体を、土壌の表層改良工法に用いる場合には、セメント等の結合材を粉体として直接地盤に投入し、混合攪拌する場合が多いため、土壌に対し、より多くの結合材を用いることができる。
【0025】
(水)
本開示の地盤改良体は水を含む。
地盤改良体に含まれる水には、特に制限はない。
土壌と混合して地盤改良体を形成するに際し、有害物質含まないこと、結合材の硬化性を損なわないこと等の条件を満たせば、水道水、再生水、貯留した雨水等、適宜選択して含有させればよい。
水の含有量は、地盤改良体が必要とする強度、地盤改良体が、地盤の表層等の浅い層に形成されるか、深層に形成されるか等の目的に応じて適宜選択される。
水の質量に対する結合材、二酸化炭素固定化粉末等、地盤改良体に含まれる固形分の総含有量、即ち、水/固形分比は、50%~300%とすることができる。なお、水/固形分比を、地盤改良体の強度を向上させる目的で、例えば、60%以下とする場合等については、流動性向上を目的として、公知の化学混和剤をさらに含んでもよい。
【0026】
本開示の地盤改良体は、地盤の表層改良用として、結合材と二酸化炭素固定化粉末とを粉体として地盤に適用して用いることができる。また、地盤の浅層、中層、深層等の混合改良、山留め壁に用いるソイルセメント壁工法等に適用する場合には、結合材と二酸化炭素固定化粉末と水とを含む所謂セメントスラリーとして用い、地盤に注入し、混合して用いることができる。本開示の地盤改良体は、種々の目的の地盤改良に有用である。
本開示の地盤改良体は、再生コンクリート粉末等に由来する二酸化炭素固定化粉末を含むことで、二酸化炭素が固定化された地盤改良体となる。
本開示の地盤改良体の製造方法には特に制限はないが、後述の本開示の地盤改良体の製造方法により製造されることが効果の観点から好ましい。
【0027】
<地盤改良体の製造方法>
本開示の地盤改良体の製造方法(以下、本開示の製造方法とも称する)は、再生コンクリートガラ及び地盤改良体ガラの少なくとも一方を粉砕して、1.7mmのふるい通過品である粉末を得る粉砕工程(工程A)と、得られた粉末と二酸化炭素とを接触させ、二酸化炭素固定化粉末を得る二酸化炭素固定化工程(工程B)と、前記二酸化炭素固定化粉末、結合材、水、及び土壌を混合して混合物を得る混合工程(工程C)とを含む。
【0028】
(工程A:粉砕工程)
工程Aは、再生コンクリートガラ及び地盤改良体ガラの少なくとも一方を粉砕して、1.7mmのふるい通過品である粉末を得る粉砕工程である。
再生コンクリートガラを粉砕する場合、破砕機に投入できる大きさ、例えば、粒径40mm程度となるまで予備粉砕した後、破砕機に投入して粉砕することができる。
粉砕に用いる粉砕装置としては、例えば、媒体を用いずに予備粉砕したコンクリートガラ同士の衝突を利用して粉砕するブラスト処理機、媒体を用いずにコンクリートガラ同士の接触を利用し、すりもみで粉砕する遊星ミル装置、媒体を用いて試料を粉砕するボールミル粉砕装置等が挙げられる。
また、解体コンクリートを粉砕するクラッシャーラン製造機を用いて、所定の範囲のサイズの破砕物を得て、後述の工程Bに供することができる。
【0029】
前記例示した粉砕装置を用いて得た粉砕物を、目開きが1.7mmのふるいでふるい分けし、目開き1.7mmのふるいを通過させた粉砕物を得る。
再生コンクリートガラの性能は、解体前のコンクリート硬化体の圧縮強度、製造した際に用いられたセメントの種類、セメント添加量等により影響を受けるため、本開示の地盤改良体の製造方法に供する粉砕物は、圧縮強度として18N/mm2以上の再生コンクリートを原料として用いることが望ましい。
【0030】
地盤改良体ガラを二酸化炭素固定化粉末の原料として用いる場合、地中に存在する地盤改良体を一度掘出し、粒径の最大値を40mm程度となるまで予備粉砕し、その後、既述の再生コンクリートガラと同じように、先に例示した破砕機を用いて粉砕し、目開きが1.7mmのふるいでふるい分けし、目開き1.7mmのふるいを通過させた粉砕物を得ることができる。
なお、地盤改良体は、コンクリート硬化体に比べると圧縮強度が比較的低いため、機械式の地盤改良施工機械の掘削ビットで地盤改良体を削った材料を用いてもよい。地盤改良体中には、コンクリート硬化体と異なり骨材は殆ど含まれていないため、地盤改良体に由来する粉末は、平均粒径が50mm以下のものを用いて、既述の方法により粉砕し、1.7mmのふるい通過粉末を調製してもよい。
【0031】
再生コンクリートガラを用いて二酸化炭素固定化粉末を得る場合には、粉砕工程の後、コンクリートに含まれる骨材と、再生コンクリート粉末とに分離する工程を含むことが好ましい。上記分離工程を経て、骨材を除いた再生コンクリート粉末を用いて、次いで行われる工程Bを実施し、二酸化炭素固定化粉末を得ることにより、粉末に対する二酸化炭素固定化の効率がより良好となる。
【0032】
一方、地盤改良体ガラを用いて二酸化炭素固定化粉末を得る場合、再生コンクリートガラ等のコンクリート廃棄物とは異なり、骨材が入っていないか、又は、殆ど入っていないため、地盤改良体を破砕した破砕体から骨材を分離することなく、そのまま粉末に二酸化炭素を固定して、簡易に二酸化炭素固定化粉末を得ることができるという利点も有する。
【0033】
(工程B)
工程Bは、前記工程Aで粉砕により得られた粉末と二酸化炭素とを接触させ、二酸化炭素固定化粉末を得る二酸化炭素固定化工程である。
工程Aで得られた粉末と二酸化炭素とを接触させる方法には特に制限はない。
粉末と二酸化炭素とを接触させる方法としては、例えば、前記粉末と水とを混合したスラリーに炭酸ガスを供給する湿式工程、前記粉末を、二酸化炭素濃度5%以上の閉鎖空間に配置する乾式工程等が挙げられ、いずれの方法も適用することができる。
【0034】
-湿式工程-
湿式工程としては、得られた粉末と水とを混合してスラリーを調製し、スラリーに二酸化炭素ガスを供給する方法が挙げられる。
粉末と水とを混合してスラリーを調製し、そのまま30分~90分間整置してなじませ、スラリーに炭酸ガスを供給する。炭酸ガスの供給は、スラリーのpHが6.8~8.0程度に到達した時点で停止することが好ましく、pHが6.8~7.0程度に到達した時点で停止することが好ましい。
【0035】
湿式工程における具体的な方法としては、粉末を配置した容器に水を満たすことで粉末を水に浸漬しスラリーと調製する。スラリーに炭酸ガスを吹き込んでバブリングする方法が挙げられる。
浸漬に用いる水には特に制限はない。使用される水は、炭酸ガスと接触して塩を形成する不純物が少ないことが処理効率の観点から好ましく、水としては、例えば、イオン交換水、水道水等を用いることができる。
【0036】
二酸化炭素固定化工程において、湿式工程を適用する場合には、水中に供給する炭酸ガス濃度は、5%とすることができ、10%以上が好ましく、20%以上がより好ましい。炭酸ガス濃度の上限には特に制限はなく、炭酸ガス濃度は100%であってもよい。
炭酸ガス濃度は高い方が、二酸化炭素固定化粉末の製造効率がより良好になる傾向がある。
供給する炭酸ガスは、後述の乾式工程におけるのと同様、炭酸ガスを含む排気ガスを用いてもよい。炭酸ガスの供給源として排気ガスを用いる場合には、炭酸ガス濃度は排気ガスに含まれる炭酸ガス量に依存する。排気ガスを用いる場合においても、排気ガス中の炭酸ガス濃度は、5%以上であることが好ましい。
【0037】
スラリーへの炭酸ガスの供給量、及び、上記濃度の炭酸ガスの供給速度は、目的に応じて適宜選択することができる。炭酸ガスの供給量(総量)及び供給速度を最適化して炭酸ガスを吹き込むことにより、水に浸漬された粉末と炭酸ガスとの接触が効率よく行われ、二酸化炭素固定化粉末が得られる。
炭酸ガスの水に対する溶解度は、水温が低い方が大きくなる。このため、スラリーの温度は特に制御しなくてもよい。
なお、炭酸ガスの供給源として排気ガスを用いる場合、排気ガスの温度によっては、水の温度が上昇することがあるが、水温は100℃に達することはないため、再生骨材の炭酸化処理の進行に影響を与えることはないと考えられる。
【0038】
スラリーの温度には特に制限はなく、湿式工程は常温で行うことができる。また、炭酸ガスの供給に排気ガスを用いた場合、排気ガスの温度及び供給量に起因してスラリーの温度が、例えば、90℃程度に上昇する場合があるが、当該温度条件においても二酸化炭素固定化粉末を得ることができる。
【0039】
湿式工程における処理時間には特に制限はない。処理時間としては、例えば、5分間~10時間とすることができ、30分間~6時間であることが好ましい。
粉末と炭酸ガスとの接触により、セメント由来成分の炭酸化が進行するとスラリーのpHが低下する傾向にあるため、水のpHが6~8に達する時点を炭酸化処理の終点としてもよい。水のpHが6.5~7.0に達する時点まで湿式処理を行うことが好ましく、pHが6.5~6.8に達する時点まで湿式処理を行うことがより好ましい。水のpHが目的となる値、例えば、上記水のpHが6.5~7.0に達した時点からさらに30分間~90分間湿式処理を継続することがさらに好ましい。
スラリーのpHは、公知のpHメーターで測定することができる。本開示では、液温20℃として、(株)東興化学研究所のガラス電極式水素イオン濃度指示計(TPX-999Si)で測定した値を用いている。
【0040】
pHが所定の値に到達した後、スラリーに含まれる水を除去して粉末を回収する。回収した粉末は水を含む湿潤状体であるため、フィルタープレス装置等を用いて含水比30%程度まで脱水することが、粉末の運搬性、地盤改良体製造時における施工性の観点から、好ましい。
【0041】
-乾式工程-
乾式工程は、前記粉末を、二酸化炭素濃度5%以上の閉鎖空間に配置する工程とすることができる。例えば、二酸化炭素濃度、湿度及び温度を調整した槽(閉鎖空間)内に、工程Aで得た粉末を投入し、粉末の質量変化が所定の値になった段階で回収する方法が挙げられる。
乾式工程では、再生骨材を閉鎖空間内に静置して、前記閉鎖空間内を炭酸ガスで満たして接触させることができる。
【0042】
閉鎖空間内の温度は5℃~200℃が好ましく、20℃~100℃がより好ましい。なお、例えば、特に温度制御を行わない閉鎖空間で、温度0℃~40℃の温度雰囲気下で炭酸化処理を行うこともできる。
閉鎖空間の湿度は、炭酸化効率がより向上するという観点から、30%RH~90%RHとすることができ、50%RH~80%RHが好ましい。
【0043】
接触させる気体中の炭酸ガス濃度は、5%以上であり、10%以上が好ましく、50%以上がより好ましい。接触させる炭酸ガスは、100%炭酸ガスであってもよい。
炭酸化処理に使用する炭酸ガスは、炭酸ガスを含む排気ガスを適用してもよい。排気ガスとしては、加熱炉から排出される排気ガス、動力機関から排出される排気ガス等が挙げられ、濃度5%以上の炭酸ガスを含めば特に制限はない。
炭酸ガスを含む排気ガスを炭酸化処理に用いることで、排気ガス中の炭酸ガスの低減と、炭酸ガスの粉末への吸着とを、同時に行うことができる。排気ガスの温度が100℃を超える高温である場合には、特に閉鎖空間を加熱しなくても、効率のよい二酸化炭素との接触を行うことができ、消費エネルギーの低減及び排ガス中の炭酸ガスの低減を同時に達成できるという利点をも有する。
また、二酸化炭素固定化粉末を効率よく得る目的で、閉鎖空間を加圧状態として炭酸ガスを供給し、粉末に接触させてもよい。
【0044】
乾式処理における好ましい処理時間は、炭酸ガス濃度及び供給量との関連で適宜選択される。処理時間は、例えば、10%~50%濃度の炭酸ガスを用いた場合、1時間以上とすることができ、24時間以上が好ましく、2日間以上がより好ましく、5日以上がさらに好ましく、10日以上がさらに好ましい。処理時間に特に上限はないが、製造効率の観点からは、20日以下とすることができる。
なお、好ましい処理時間は、再生コンクリート粉末等の状態により適宜選択することができる。
なお、乾式工程にかける処理時間を5日以上とする場合には、炭酸化の進行をより効率的にするという観点から、閉鎖空間内に静置した粉末を、数時間~3日間に一度程度の頻度で撹拌することが好ましい。撹拌により、粉末と炭酸ガスとの接触をより均一に行うことができる。
【0045】
工程Bにて得られた二酸化炭素固定化粉末の二酸化炭素吸着量は、既述の二酸化炭素固定化粉末における二酸化炭素の固定量の測定と同様にしてTG-DTA試験により求めることができる。
例えば、湿式工程により、粉末の含有量125g/L(リットル)のスラリーに炭酸ガスを供給し、スラリーのpHが6.8に到達した後、60分間炭酸ガスを供給して得られた粉末では、粉末に含まれる炭酸カルシウム量は22.9%であり、乾式工程により、10%濃度の炭酸ガスを、温度20℃、60%RHの装置内に9日間供給した後得られた粉末では炭酸カルシウム量は22.5%であった。未処理の粉末を同様に測定したところ、炭酸カルシウム量は15.5%であり、炭酸化処理により炭酸カルシウム量は、約7%程度増加したことが確認された。
【0046】
工程Bを経て得られた二酸化炭素固定化粉末は、前記粉末1000kg当たりの二酸化炭素固定量が50kg以上であることが好ましく、70kg以上であることがより好ましく、90kg以上であることが更に好ましい。
【0047】
工程Cは、前記工程Bにて得られた二酸化炭素固定化粉末、結合材、水、及び土壌を混合して混合物を得る混合工程である。
結合材には特に制限はなく、通常、地盤改良体に用いる高炉セメントB種、高炉セメントC種、セメント系固化材等を用いることができる。
【0048】
工程Cにおいて、結合材と水とを含むセメントスラリーに、二酸化炭素固定化粉末を混合して混合物とし、流動性を維持した状態で土壌と混合して使用する場合、セメント等の結合材の含有量は、改良対象土1m3に対して100kg~500kgの範囲とすることが好ましい。
二酸化炭素固定化粉末の含有量は、結合材の全質量に対して10質量%~110質量%とすることができる。
また。水の含有量に対する結合材と二酸化炭素固定化粉末との合計含有量、即ち、水/固形分比は、50%~300%とすることができる。
なお、強度向上等の目的で、水/固形分比を60%以下、好ましくは、47%~55%の範囲とする場合には、流動性向上の観点から、化学混和剤を用いることが好ましい。即ち、工程Cにおける混合物は、さらに、化学混和剤を含むことができる。
【0049】
化学混和剤は、セメントスラリーの流動性を向上しうる公知の化学混和剤を選択して用いればよく、化学混和剤としては、例えば、水溶性ビニル共重合体を含む化学混和剤が挙げられる。
化学混和剤の含有量は、目的に応じて適宜選択される。一般には、結合材の全質量に対して、0.3質量%~1.0質量%を用いることができるが、これに限定されない。
【0050】
(地盤改良体の施工方法)
次に、本開示の製造方法により得られた混合物を用いた地盤改良体の施工方法について説明する。以下、結合材としてセメントを用いた例を挙げて説明する。
地盤改良体は、まず、セメントと水を混合したセメントスラリーを作製し、得られたセメントスラリーと地盤における土壌とを混合攪拌して混合物とする。
得られた混合物は、そのまま硬化して地盤改良体を形成する。この方法は、一般に、機械式セメント混合処理工法と称し、深層混合処理工法及び浅層混合処理工法のいずれにも適用できる。
また、得られたセメントスラリーを高圧で地盤中に噴射し、地盤中の土壌と混合する高圧噴射工法も施工方法として適用できる。
また、地盤表面の補強等、浅層にて地盤改良体を形成する場合には、結合材と二酸化炭素固定化粉末と地盤における土壌とを粉体の状態で混合攪拌する粉体浅層改良工法により地盤改良体を構築することができる。
【0051】
以下、施工方法の例として、セメントスラリーを用いる深層混合処理工法、及び、粉体を用いる粉体浅層混合処理工法の施工手順を示す。
なお、セメントスラリーを用いる深層混合処理工法、及び粉体を用いる粉体浅層混合処理工法においては、地盤改良体の強度発現性を確認するため、施工前に現地の地盤、利用予定のセメントを用いた室内での事前の強度試験を行うことが重要であり、好ましい。二酸化炭素固定化粉末を用いる場合、室内での事前の強度試験において利用予定の二酸化炭素固定化粉末を用いた試験を行うことが好ましい。
【0052】
機械式深層混合処理工法においては、混練ミキサーを用いて、セメントと水を混練してセメントスラリーを造成し、圧送ポンプ及び圧送ホースを用いてセメントスラリーを地盤中に輸送し、攪拌翼の先端からセメントスラリーを噴射し、攪拌翼を用いたセメントスラリーと地盤を混合攪拌する。二酸化炭素固定化粉末を用いた地盤改良体を構築する場合、混練ミキサーによりセメントスラリーを混練する際に、二酸化炭素固定化粉末を所定量投入することにより、二酸化炭素固定化粉末入りのセメントスラリーを作製する。二酸化炭素固定化粉末の投入量に応じ、必要に応じて任意成分である化学混和剤を投入してもよい。
化学混和剤を用いることにより、二酸化炭素固定化粉末を含むセメントスラリーの攪拌性及び圧送ポンプによる圧送性がより良好となる。
地盤改良体の圧縮強度は、セメントスラリーの水とセメント等との水/固形分の比率に影響を受ける。
例えば、湿式工程を経て得られた二酸化炭素固定化粉末は30%程度の水分を含んでいることがあり、このような粉末を用いる場合には、二酸化炭素固定化粉末の含水比を事前に測定し、セメントスラリーを作製する際に投入する水の量を減じることにより、セメントスラリーの水とセメントの比率を計画した値とすることができる。
一方、乾式工程を経て得られた二酸化炭素固定化粉末は、水分をほぼ含まないため、セメントスラリーを作製する際に投入する水の量の調整は不要である。
【0053】
粉体浅層混合処理工法においては、改良対象地盤の表面に、少なくとも、所定のセメントと二酸化炭素固定化粉末とを散布し、掘削機械(バックホー)により、セメント、二酸化炭素固定化粉末と、地盤(土壌)とを混合して地盤改良体を造成している。
このとき、セメントの散布と同時に所定の二酸化炭素固定化粉末を散布し、掘削機械(バックホー)により、セメントと二酸化炭素固定化粉末と地盤を混合して地盤改良体を造成する。
既述の機械式深層混合処理公報と同様に、湿式工程で得た二酸化炭素固定化粉末を用いる場合には、二酸化炭素固定化粉末が30%程度の水分を含んでいることを考慮して、セメントの添加量を若干多くする等して、所定の強度を確保することが好ましい。一方、乾式工程を経て得られた二酸化炭素固定化粉末を用いる場合には、粉体浅層混合処理工法においても、セメント量の調整等は特に必要はない。
【0054】
いずれの施工方法においても、本開示の地盤改良体の製造方法によれば、地盤改良体の製造に、セメント等の結合材に加え、二酸化炭素固定化粉末が用いられるため、土壌との混合物が硬化して形成された地盤改良体には、二酸化炭素が固定化される。また、結合材と二酸化炭素固定化粉末と水との含有量を調整することにより、施工領域に応じた強度が保持された地盤改良体が製造される。
従来の地盤改良体の製造方法をそのまま適用でき、結合材と二酸化炭素固定化粉末とを用いることのみにより、特段の装置等を更に用いることなく、簡易に二酸化炭素が固定化された地盤改良体を得ることができることも本開示の製造方法の利点の一つである。
また、再生コンクリートガラ及び地盤改良体ガラの少なくとも一方に由来する二酸化炭素固定化粉末を用いることで、コンクリートを含む廃材の有効活用にもつながる。
【0055】
(地盤改良体の性能)
-圧縮強度-
本開示の地盤改良体は、地盤改良に十分な圧縮強度を有することが好ましい。
地盤改良体の強度発現性は、結合材と二酸化炭素固定化粉末と水と地盤とを混合した地盤改良体の一軸圧縮強度により判断する。
一軸圧縮強度は、JIS A 1216:2020 「土の一軸圧縮試験方法」に基づき測定する。
本開示の地盤改良体の圧縮強度の目標値は、施工目的により適宜選択されるが、一般に、一軸圧縮強度が1N/mm2以上であることで実用上問題のないレベルと評価され、2N/mm2以上であることが好ましく、3N/mm2以上であることがより好ましい。
【0056】
-セメントスラリーの物性-
本開示の地盤改良体の製造方法において、結合材と二酸化炭素固定化粉末と水と混合して製造する所謂セメントスラリーを用いる場合、セメントスラリーは、施工性の観点から、流動性が良好であることが好ましい。
セメントスラリーの流動性は、土木学会規『プレパックドコンクリートの注入モルタルの流動性試験方法(P漏斗による方法)(JSCE-F 521-1999)』に準拠して、Pロート流下時間により評価する。
一般に、スラリーのPロート流下時間が25秒以下の場合、ポンプによるスラリーの圧送性が可能となり、20秒以下の場合はスラリーの圧送に大きな問題は生じないとされている。
従って、本開示においても、セメントスラリーの流動性は、流加時間が25秒以下であることが好ましく、20秒以下であることがより好ましい。なお、地盤改良体を地盤の浅層改良のため、表層近くに製造する場合には、上記流動性を満たさなくても問題はない。
セメントスラリーの分離抵抗性は、調製したセメントスラリーの分離の有無を目視により評価して行う。
【0057】
-六価クロム溶出抑止-
地盤改良体を製造することで、地盤の六価クロム溶出が抑止されることが好ましい。
六価クロム溶出抑止に関しては、地盤改良体の六価クロムの溶出試験結果により評価することができる。
地盤改良体からの六価クロムの溶出は、「環境庁告示第46号に掲げる方法(平成3年8月23日付け)」に基づき行うことができる。
例えば、モデル地盤改良体を作製し、得られた地盤改良体における土塊、団粒を粗砕して得た2mm以下の土壌を採取して、水に分散させ、分散液を6時間連続振とうすることで、溶出試験を行うことができる。上記溶出試験の後に、分散液を採取し、六価クロム溶出量を測定し、溶出試験による六価クロムの溶出量が0.05mg/L以下である場合、六価クロムの溶出を抑止していると評価され、実用上問題のないレベルである。
【実施例0058】
以下に、本開示の地盤改良体及びその製造方法の実施例を挙げて説明する。本開示の地盤改良体及びその製造方法は、以下に実施例に限定されず、その主旨の範囲内で様々な変形例を包含することはいうまでもない。
なお、以下の実施例において、「%」は、特に断らない限り「質量%」を意味する。
【0059】
<二酸化炭素固定化粉末の製造例1、製造例2>
二酸化炭素固定化粉末は、再生コンクリートガラを用いて調製した。
建築物の解体に伴い発生したコンクリート塊を粉砕して40mm未満の粗粉砕物を得て、さらに、粉砕し、ふるい分けして目開き1.7mmのふるいを通過した粉末を得て、再生コンクリート粉末とした。
本製造例では、粉砕は、媒体を用いずに試料同士の衝突で粉砕するブラスト処理機により実施して得た再生コンクリート粉末を用いた。
なお、再生コンクリートガラの原料となる建築物の解体前の各階の床から採取したコンクリートコアの強度試験を以下の方法で行ったところ、コアの圧縮強度の平均値は27.4N/mm2であった。
【0060】
得られた再生コンクリート粉末に炭酸ガスを接触させ、二酸化炭素固定化粉末を得た。
まず、20Lの容器を備える湿式炭酸化装置を準備し、容器に、水と再生コンクリート粉末を投入し、撹拌して、固形分濃度125g/Lのスラリーを調製した。スラリーを60分静置した後、炭酸ガスを20L/minで供給し、スラリーのpHが6.8に到達した後、さらに60分炭酸ガスの供給を継続し、その後、静置して、水を分離し、二酸化炭素固定化粉末を得た。
二酸化炭素固定化粉末は水を含むため、プレスによりさらに水を除去して含水率を30%程度とした。(工程B-1)工程B-1(湿式工程)により得られた粉末を、以下、「粉末(I)」と称することがある。
【0061】
また、同じ再生コンクリート粉末を、20℃、60%RH、炭酸ガス濃度10%の槽内に9日間設置した。この間、再生コンクリート粉末全体に炭酸ガスが接触するように、1日毎に再生コンクリート粉末をかき混ぜて、二酸化炭素固定化粉末を得た。(工程B-2)工程B-2(乾式工程)により得られた粉末を、以下、「粉末(II)」と称することがある。
【0062】
(二酸化炭素固定化粉末の評価)
工程B-1を経て得た二酸化炭素固定化粉末(粉末(I))、及び、工程B-2を経て得た二酸化炭素固定化粉末(粉末(II))について、以下の方法で物性を評価した。
【0063】
・レーザー回折・散乱式粒度分布測定(マイクロトラックMT3300EXII、マイクロトラック・ベル(株)社製)により各粉末の粒度分布から50%粒径を求めた。
・気相置換試験装置(自動真密度測定装置BELPycno、マイクロトラック・ベル(株)社製)により各粉末の密度を測定した。
・TG-DTA試験において、Thermo plus Evo2 TG-DTA8122(リガク社製)を用いて、600℃~800℃の質量減量より各粉末の炭酸カルシウム量を求めた。さらに、炭酸カルシウム量から、粉末に固定された二酸化炭素の量を算出した。
結果を下記表1に示す。参考例として工程Aで得た再生コンクリート粉末(粉末(0))の結果を併記する。
【0064】
【0065】
さらに、各粉末を、X線回折装置(D8 ADVANCE、Bruker社製)を用いて分析を行った。
【0066】
分析の結果、工程Aを経たのみの未処理の粉末(粉末(0))では、エトリンガイト(Ett)、水酸化カルシウム(CH)等の水和物のピークが確認されたが、粉末(I)及び粉末(II)では、水和物のピークは認められず、工程Bにより、粉末に含まれる水和物が消失したと考えられる。
また、粉末に含まれる炭酸カルシウム量は、粉末(0)に比較して、粉末(I)及び粉末(II)では、7%程度の増加が見られ、二酸化炭素固定量の測定結果によれば、工程Bを行うことにより、再生コンクリート粉末に、未処理の粉末(0)に比較して、1トン当たり約30kg二酸化炭素の固定量が増加していることが確認された。
【0067】
上記結果より、本開示の地盤改良体の製造方法において、工程Bを行っても粉末の粒径及び密度には大きな影響はなく、且つ、より多くの二酸化炭素が固定化されることがわかる。
【0068】
<実施例1~実施例6>
得られた二酸化炭素固定化粉末を用いて、地盤改良体を製造した。地盤改良体の製造には、水道水を使用した。
(使用材料)
-結合材-
・高炉セメントB種(日鉄高炉セメント社製、密度3.02g/cm3)
・高炉セメントC種(日鉄高炉セメント社製、密度2.96g/cm3)
・セメント系固化材(日鉄高炉セメント社製、ソルスター(登録商標)R100、密度3.00g/cm3)
-二酸化炭素固定化粉末-
・上記製造例で得た粉末(I)、粉末(II)
-化学混和剤-
・チューポール(登録商標)HP-11、竹本油脂(株)製
【0069】
-土壌-
(使用材料)
・珪砂(乾燥珪砂6号:東北珪砂産)
・蛙目粘土(原特級蛙目 200m/s)
1.人工砂質地盤(モデル土壌1)
人工砂質地盤は、珪砂:蛙目粘土 質量比9:1(設定含水比:18%)
2.人工粘土質地盤(モデル土壌2)
人工粘土質地盤は、珪砂:蛙目粘土 質量比1:9(設定含水比:55%)
【0070】
モデル土壌1m3に対して、下記表2に記載の量で、セメント、水及び粉末(I)を、配合し、混合物を製造した。(工程C)
混合物を、地盤改良体形成用スラリーとして、十分に混合、撹拌し、以下に記載の方法に従い、Pロート試験、及び、スラリーの分離の有無を評価した。
製造した地盤改良体形成用スラリーを、型枠〔サイズ:直径50mm、高さ100mm〕に投入して、硬化させ、一軸圧縮試験用の地盤改良体を得て、圧縮強度を評価した。
また、六価クロム溶出量を評価した。
【0071】
-圧縮強度-
一軸圧縮強度を、JIS A 1216:2020 「土の一軸圧縮試験方法」に基づき測定した。
-セメントスラリーの物性-
土木学会規『プレパックドコンクリートの注入モルタルの流動性試験方法(P漏斗による方法)(JSCE-F 521-1999)』に準拠して、Pロート流下時間により評価した。
セメントスラリーの分離抵抗性は、調製したセメントスラリーの分離の有無を目視により評価して行った。
【0072】
-六価クロム溶出抑止-
製造した地盤改良体からの六価クロムの溶出は、「環境庁告示第46号に掲げる方法(平成3年8月23日付け)」に基づき行った。
即ち、得られた地盤改良体における土塊、団粒を粗砕して得た2mm以下の土壌を採取して、水に分散させ、分散液を6時間連続振とうして溶出試験を行った。溶出試験の後に、分散液を採取し、六価クロム溶出量を測定し、溶出試験による六価クロムの溶出量を測定した。
結果を表2に示す。
【0073】
-二酸化炭素排出量-
二酸化炭素排出量は、各地盤改良体を施工する際に使用するセメントを製造する際に発生する二酸化炭素量から、地盤改良体中に固定した二酸化炭素を差し引く事により算定した。材料の運搬や地盤改良体施工時に使用するエネルギーに起因する二酸化炭素排出量は考慮していない。
セメント製造時に発生する二酸化炭素は、一般社団法人 セメント協会:セメントのLCIデータの概要(2023年2月)のP8に記載された別表の高炉セメントB種の値である451.8kg-CO2/tを用いた。(https://www.jcassoc.or.jp/cement/4pdf/jg1i_01.pdf 参照)
地盤改良体に固定する二酸化炭素は、1000kg当たりのCO2固定微粉のCO2固定量として90kg-CO2/tと仮定して算定した。
【0074】
【0075】
粉末を含まない対照例に対して、粉末(I)を添加することで、圧縮強度が増加した。これは、二酸化炭素固定化粉末を加えることで、水和物の生成によって、地盤改良体における空隙が減少し、強度向上に寄与したものと考えられる。
実施例の地盤改良体には、いずれも六価クロム溶出抑止効果が認められた。
また、実施例1~実施例4の結果より、地盤改良体の圧縮強度は水結合材比が上昇するにつれて向上するが、一方、セメントスラリーの流動性は低下する傾向がみられた。
流動性向上を目的として、化学混和剤を添加した実施例5及び実施例6では、圧縮強度と流動性の双方がより向上する傾向が見られ、高強度の地盤改良体の製造に際しては、流動性の低下抑止に、化学混和剤の使用が有効であることが分かる。
【0076】
<実施例7~実施例14>
工程Aを経て得られた再生コンクリート粉末をふるいの目開きを変えて、最大粒径が335μm~1700μm(1.7mm)の粉末を得て、工程B-2を実施して粒径の異なる粉末(II)を得た。
工程Aでは、媒体を用いずに試料同士の衝突で粉砕するブラスト処理機により得た粉末、及び、クラッシャーラン製造機により得た粉末をそれぞれ用いて、工程B-2を行い、粉末(II)を製造し、粉砕方法による相違についても検討した。
実施例7~実施例14についても、混合物の物性、得られた地盤改良体の強度等の各項目について、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表3に示す。
【0077】
【0078】
表3の結果より、粉末を含まない対照例に対して、粉末(II)を添加することで、圧縮強度がやや増加した。
セメントスラリーの流動性、六価クロム溶出抑止のいずれも、実用上問題のないレベルであった。
実施例7~実施例14の対比より、同じ水結合材比であれば、粉砕方法の相違、粉末(II)の最大粒径の相違は、圧縮強度、流動性、及び六価クロム溶出抑止効果に大きな影響を与えないことが分かる。
【0079】
<実施例15~実施例19、比較例1~比較例5>
次に、用いるセメント種を表4に示す種類に変更して、混合物を調製した。
得られた混合物を、モデル地盤として、人工砂質地盤(モデル土壌1)及び人工粘土質地盤(モデル土壌2)を用いて地盤改良体を製造した。
得られた地盤改良体の圧縮強度、六価クロム溶出量、及び二酸化炭素排出量について、実施例1と同様にして評価した。結果を表4に示す。
なお、表4では、人工砂質地盤を「砂」と、人工粘土質地盤を「粘土」とそれぞれ略記している。
【0080】
【0081】
表4の結果より、モデル土壌が粘土質土壌の場合も、砂質土壌の場合と同様に、粉末(I)を含む各実施例は、粉末を含まない各比較例に対して、圧縮強度がやや増加することがわかる。
また、各実施例は、各比較例に対し、二酸化炭素排出量が少なく、六価クロム溶出抑止のいずれも、実用上問題のないレベルであった。