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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014367
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】検査システムおよびその制御方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20240125BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022117140
(22)【出願日】2022-07-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003528
【氏名又は名称】東京製綱株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001830
【氏名又は名称】弁理士法人東京UIT国際特許
(72)【発明者】
【氏名】糸井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】椎木 貞則
(72)【発明者】
【氏名】河原 純平
(72)【発明者】
【氏名】矢島 卓
【テーマコード(参考)】
2G024
【Fターム(参考)】
2G024AD34
2G024CA30
2G024FA06
2G024FA11
(57)【要約】
【課題】大型の走行装置を必要とせずに検査装置を検査対象のケーブル(ロープ)に沿って高所にまで移動させることができるようにする。
【解決手段】検査システムは,2台の登攀装置20,30を備えている。登攀装置20,30は,長手方向に連続する線条体を包囲するフレーム26,上記フレーム26に取り付けられ,上記フレーム26によって包囲されたケーブルの外周面に押し付けられる複数のタイヤ22,およびフレーム26に取り付けられ,上記複数のタイヤ22を回転させるモータ25を備えている。上記登攀装置20,30および上記ケーブルを検査する検査装置が,角度変更可能な連結機構によって縦続に連結される。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれが,長手方向に連続する線条体を包囲するフレーム,上記フレームに取り付けられ,上記フレームによって包囲された上記線条体の外周面に押し付けられる複数のタイヤ,および上記複数のタイヤの少なくとも一つを回転させるモータを備える,第1および第2の登攀装置,
上記フレームによって包囲された上記線状体を検査する検査装置,ならびに
上記第1および第2の登攀装置ならびに上記検査装置を角度変更可能に縦続に連結する連結機構を備えている,
検査システム。
【請求項2】
上記第1および第2の登攀装置のそれぞれが,上記モータの単位時間あたりの回転数を計測する回転計,ならびに
上記回転計によって計測される単位時間あたりの回転数に基づいて,上記第1および第2の登攀装置の速度が所定速度になるように,上記第1および第2の登攀装置のそれぞれが備えるモータを制御する速度制御装置を備えている,
請求項1に記載の検査システム。
【請求項3】
上記第1および第2の登攀装置のそれぞれが,上記モータを流れる電流を検出する電流検出回路,ならびに
上記電流検出回路によって検出されるモータ電流値に基づいて算出される第1および第2の登攀装置のそれぞれの駆動力が所定割合に配分されるように,上記第1および第2の登攀装置のそれぞれが備える上記モータに供給される電圧を制御する駆動力制御装置を備えている,請求項1に記載の検査システム。
【請求項4】
上記第1および第2の登攀装置のそれぞれが,互いにデータを送受信するための送受信回路を備えている,請求項1に記載の検査システム。
【請求項5】
上記第1および第2の登攀装置のそれぞれが,上記複数のタイヤが上記線条体の外周面に押し付けられることによって生じる力を計測する計測装置,および上記計測装置によって計測される押し付け力にしたがって,上記複数のタイヤの位置を上記線条体に近づけるまたは遠ざけるアクチュエータを備えている,
請求項1に記載の検査システム。
【請求項6】
上記検査装置が,画像検査装置,漏洩磁束検査装置,全磁束検査装置,および渦流探傷検査装置のいずれかであり,これらの一または複数が交換可能に連結される,
請求項1に記載の検査システム。
【請求項7】
それぞれが,長手方向に連続する線条体を包囲するフレーム,上記フレームに取り付けられ,上記フレームによって包囲された上記線条体の外周面に押し付けられる複数のタイヤ,および上記複数のタイヤの少なくとも一つを回転させるモータを備える,第1および第2の登攀装置,上記フレームによって包囲された上記線状体を検査する検査装置,ならびに上記第1および第2の登攀装置ならびに上記検査装置を角度変更可能に縦続に連結する連結機構を備える検査システムを制御する方法であって,
上記第1の登攀装置が備えるモータの出力トルクおよび第2の登攀装置が備えるモータの出力トルクを所定のトルク配分率となるように制御する,
検査システムの制御方法。
【請求項8】
第1の登攀装置が第2の登攀装置のモータの電流値を取得し,
第1の登攀装置において第1の登攀装置のモータの電流値と第2の登攀装置のモータの電流値の比を算出し,
算出された電流比が上記所定のトルク配分率に追従するように上記第1の登攀装置のモータおよび第2の登攀装置のモータに印加される電圧を制御する,
請求項7に記載の検査システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,斜張橋,吊り橋,クレーンなどにおいて用いられている,地上(橋桁)と高所とを斜めにまたは垂直に結ぶ線条体(ケーブル,ロープ)を,現場において検査するために用いられる検査システムおよび検査システムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
斜張橋,吊り橋,クレーンなどに用いられる金属製,特に鋼製ケーブル(ロープ)は屋外において風雨にさらされる。海岸付近では塩水の影響を受け,工業地帯では亜硫酸の影響を受ける。このためケーブルを現場において定期的に検査することが求められる。
【0003】
特許文献1は,斜張橋のケーブルの劣化状況やその位置を把握するための点検装置を開示する。点検装置は,ケーブルが通される通路を備えるフレーム部材と,フレーム部材の長手方向の両端に形成さる走行支持手段と,光源と,撮影手段とを備えている。
【0004】
特許文献1に記載の点検装置は,フレーム部材,走行支持手段,光源および撮影手段を一体的に自走させるものであるので,これらすべての自重を支えながらケーブル上を走行させるためには走行支持手段は強力な駆動力を必要とし,多くの場合,ケーブル径(ロープ径)ごとに設計をする必要がある。また,大型モータが必要となるから走行支持手段の大型化や大重量化を避けることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-163402号公報
【発明の開示】
【0006】
この発明は,大型の走行装置を必要とせずに検査装置を検査対象の線条体(ケーブル,ロープ)に沿って高所にまで移動させることができるようにすることを目的とする。
【0007】
この発明はまた,危険な高所作業を不要にすることを目的とする。
【0008】
この発明はさらに,様々な直径の線条体に利用できるようにすることを目的とする。
【0009】
この発明による検査システムは,それぞれが,長手方向に連続する線条体を包囲するフレーム,上記フレームに取り付けられ,上記フレームによって包囲された上記線条体の外周面に押し付けられる複数のタイヤ,および上記複数のタイヤの少なくとも一つを回転させるモータを備える,第1および第2の登攀装置,上記フレームによって包囲された上記線状体を検査する検査装置,ならびに上記第1および第2の登攀装置ならびに上記検査装置を角度変更可能に縦続に連結する連結機構を備えている。
【0010】
上記検査装置は,一実施態様では,画像検査装置,漏洩磁束検査装置,全磁束検査装置,および渦流探傷検査装置のいずれかであり,これらの一または複数が交換可能に第1,第2の登攀装置に連結される。検査システムに用いられる検査装置の種類を異ならせる(取り替える)ことによって様々な診断項目に対応することができる。
【0011】
この発明によると,検査システムは,それぞれがモータを備える第1および第2の登攀装置を備えており,これら2台の登攀装置と検査装置とが連結機構によって縦続に連結されている。2台の登攀装置のそれぞれに駆動力を配分することができるので,検査装置の重量が大きいとしても線条体に沿って検査装置を高所にまで登攀させることができる。検査装置を高所にまで人手によって運搬する必要がなく,危険な高所作業を不要にすることができる。2台の登攀装置が用いられるので,登攀装置の大型化や大重量化を避けることもできる。
【0012】
第1,第2の登攀装置および検査装置は角度変更可能な連結機構によって連結される。角度変更可能な連結機構によって第1,第2の登攀装置および検査装置を連結することによって,たとえば線条体が湾曲しているとしても連結機構において第1,第2の登攀装置および検査装置の位置を線条体の湾曲に沿わせることができるので,線条体の湾曲に追従させながら検査システム(2台の登攀装置および検査装置)を線条体に沿って登攀させることができる。
【0013】
好ましくは,上記第1および第2の登攀装置のそれぞれが,上記モータの単位時間あたりの回転数を計測する回転計,ならびに上記回転計によって計測される単位時間あたりの回転数に基づいて,上記第1および第2の登攀装置の速度が所定速度になるように,上記第1および第2の登攀装置のそれぞれが備えるモータを制御する速度制御装置を備えている。第1,第2の2台の登攀装置を同じ速度で線状体に沿って登攀させることができる。
【0014】
好ましくは上記第1および第2の登攀装置のそれぞれが,上記モータを流れる電流を検出する電流検出回路,ならびに上記電流検出回路によって検出されるモータ電流値に基づいて算出される第1および第2の登攀装置のそれぞれの駆動力(出力トルク)が所定割合に配分されるように,上記第1および第2の登攀装置のそれぞれが備えるモータに供給される電圧を制御する駆動力制御装置を備えている。第1および第2の登攀装置に所定割合の駆動力を配分することができる。たとえば,2台の登攀装置のうち検査装置の近くに設けられる登攀装置に大きな駆動力を配分し,かつ他の一台の登攀装置によって,検査装置の近くに設けられる登攀装置の駆動力を補助することができる。
【0015】
モータに供給される電圧は好ましくはPWM(Pulse Width Modulation)制御される。もちろん必ずしもPWM制御する必要はなく,電源からモータに供給される電圧自体を制御してもよいし,PWM制御と供給電圧制御の両方を用いてもよい。
【0016】
一実施態様では,上記第1および第2の登攀装置のそれぞれが,互いにデータを送受信するための送受信回路を備えている。第1,第2の登攀装置のそれぞれの速度調整,駆動力調整等を図ることができる。
【0017】
好ましくは,上記第1および第2の登攀装置のそれぞれが,上記複数のタイヤが上記線条体の外周面に押し付けられることによって生じる力を計測する計測装置,および上記計測装置によって計測される押し付け力にしたがって,上記複数のタイヤの位置を上記線条体に近づけるまたは遠ざけるアクチュエータを備えている。直径が異なる線条体に共通の検査システムを用いることができる。
【0018】
この発明は,検査システムを制御する方法の発明も提供する。この発明による検査システムの制御方法は,それぞれが,長手方向に連続する線条体を包囲するフレーム,上記フレームに取り付けられ,上記フレームによって包囲された上記線条体の外周面に押し付けられる複数のタイヤ,および上記複数のタイヤの少なくとも一つを回転させるモータを備える,第1および第2の登攀装置,上記フレームによって包囲された上記線状体を検査する検査装置,ならびに上記第1および第2の登攀装置ならびに上記検査装置を角度変更可能に縦続に連結する連結機構を備える検査システムを制御する方法であって,上記第1の登攀装置が備えるモータの出力トルクおよび第2の登攀装置が備えるモータの出力トルクを所定のトルク配分率となるように制御することを特徴とする。たとえば,検査装置の近くに位置する登攀装置のモータに大きなトルクを発生させ,検査装置から離れて位置する登攀装置のモータをその補助として用いることができる。
【0019】
一実施態様では,第1の登攀装置が第2の登攀装置のモータの電流値を取得し,第1の登攀装置において第1の登攀装置のモータの電流値と第2の登攀装置のモータの電流値の比を算出し,算出された電流比が上記所定のトルク配分率に追従するように上記第1の登攀装置のモータおよび第2の登攀装置のモータに印加される電圧を制御する。モータの電流は出力トルクに比例するので,第1の登攀装置のモータおよび第2の登攀装置のモータのそれぞれに流れる電流の比から,現在の出力トルクの配分を検出することができる。所定のトルク配分率に追従するように第1の登攀装置および第2の登攀装置のモータに印加される電圧を制御することによって,上記第1の登攀装置が備えるモータの出力トルクおよび第2の登攀装置が備えるモータの出力トルクを所定のトルク配分率となるように制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】斜張橋を概略的に示している。
図2】検査装置を概略的に示す正面図である。
図3】検査装置を概略的に示す正面図である。
図4】連結装置の正面図である。
図5】登攀装置の斜視図である。
図6】登攀装置の電気的構成を示すブロック図である。
図7】タイヤ駆動モータの駆動回路の電気的構成を示すブロック図である。
図8】タイヤ駆動モータの回転数とトルクとの関係を示すグラフである。
図9】2台の登攀装置の処理を示すフローチャートである。
図10】2台の登攀装置の処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は,河川または海峡の両岸に掛け渡された斜張橋の一部を概略的に示すもので,斜張橋の斜材ケーブルを検査する様子を概略的に示すものである。
【0022】
斜張橋は,立設された塔2と,両岸に掛け渡された橋桁1と,複数本の斜材ケーブル3とから構成される。塔2は,車両等が通行する橋桁1の両側のそれぞれに立設されており(図1では一方側の塔2が図示されている),一方側および他方側の2本の塔2の間を橋桁1が通っている。塔2から橋桁1にかけて,塔2の左右のそれぞれに,複数本の斜材ケーブル3が斜めに張設されている。斜材ケーブル3は,その一端が塔2に,他端が橋桁1にそれぞれ固定される。塔2の左右に斜めに張られる複数本の斜材ケーブル3によって橋桁1がバランスよく吊られる。
【0023】
斜張橋の橋桁1を吊る斜材ケーブル3が,詳細を後述する検査システム10によって検査される。検査システム10は検査装置,一例として可搬型の全磁束測定器を含み,斜材ケーブル3を通る磁束(全磁束)に基づく測定値が用いられて,腐食または摩耗に起因する斜材ケーブル3の欠損断面積が測定される。全磁束測定器は,間隔をあけて配置された一対の磁石(磁化器)と,一対の磁石の間に配置され,斜材ケーブル3を取巻くように設けられるサーチコイルを含む。全磁束測定器が静止しているときにサーチコイルからの出力はない。検査をするときには全磁束測定器を含む検査システム10を斜材ケーブル3に沿って移動させる。断面積が小さい斜材ケーブル3の部分,すなわち腐食または摩耗が発生している部分をサーチコイルが通過すると,斜材ケーブル3の磁束の時間変化が誘導起電力としてサーチコイルに発生する。サーチコイルに発生する誘導起電力の時間積分値に基づいて,磁束減少量,すなわち断面積の減少量を知ることができる。全磁束測定器(サーチコイルから出力される検査信号)を用いることによって,斜材ケーブル3の腐食または摩耗を定量的に測定でき,斜材ケーブル3の健全性を評価することができる。
【0024】
全磁束測定器には,たとえば2つの半円筒部材がヒンジによって連結され,中心に円筒状の中心孔を備えるものが用いられる。斜材ケーブル3に全磁束測定器を被せることによってその中心孔に斜材ケーブル3が通される。
【0025】
全磁束測定器に代えてまたは加えて撮像装置を検査システム10に含ませてもよい。撮像装置によって斜材ケーブル3の外面(表面)が撮像され,撮像によって得られた画像データに基づいて斜材ケーブル3の外観が検査される。その他,漏洩磁束測定器,渦流探傷測定器を検査システム10に含ませてもよい。
【0026】
検査システム10は,上述した検査装置(全磁束測定器,撮像装置など)を斜材ケーブル3に沿って自走させるために,以下に詳細に説明する登攀装置を含む。検査装置と登攀装置とは互いに連結され,登攀装置によって検査装置は斜材ケーブル3を上り下りする。
【0027】
図2および図3は,登攀装置20,30と検査装置40を含む検査システム10の全体を概略的に示す正面図である。図4は登攀装置20,登攀装置30,および検査装置40を連結する連結部材50の拡大正面図である。
【0028】
図2を参照して,登攀装置20および30はいずれも検査装置40を斜材ケーブル3に沿って自走(移動)させるもので連結部材50によって互いに連結される。図2図3では,2台の登攀装置20,30が連結部材50によって連結され,登攀装置30に検査装置40が連結部材50によって連結されている。検査装置40は登攀装置20と登攀装置30との間に配置してもよい。
【0029】
図4を参照して,連結部材50は,互いに回転可能かつ角度変更可能に接続された第1の継手51および第2の継手52と,第1の継手51の他端からのびる丸棒53と,第2の継手52の他端からのびる丸棒54とを備えている。丸棒53の他端は次に説明する固定部材21(31,41)に角度変更可能に接続され,丸棒54の他端は固定部材31(21,41)に角度変更可能に固定される。すなわち,連結部材50は,第1の継手51と第2の継手52の接続部分,固定部材21(31,41)と丸棒53の接続部分,および固定部材31(21,41)と丸棒54の接続部分の3か所において角度が可変であり,さらに第1の継手51と第2の継手52の接続部分においては回転可能な構成を有している。
【0030】
図2図3を参照して,登攀装置20の上端および下端のそれぞれに複数の固定部材21が設けられている。図示の便宜上,図2図3において,登攀装置20の上端および下端のそれぞれに2つずつの固定部材21が示されているが,後述するように登攀装置20は平面から見て三角形の構造を備えており,上端および下端のそれぞれにはこれに対応して3つの固定部材21が設けられる。同様にして,登攀装置30および検査装置40にも,それらの上端および下端のそれぞれに複数の固定部材31,41が設けられている。登攀装置20の下端の固定部材21と登攀装置30の上端の固定部材31とが連結部材50によって接続される。同様にして,登攀装置30の下端の固定部材31と検査装置40の上端の固定部材41とが連結部材50によって接続される。
【0031】
斜材ケーブル3はその全長にわたって必ずしも一直線にのびず,全体的にまたは部分的に湾曲することがある。図3図4とを対比して,検査システム10が,2台の登攀装置20,30と検査装置40とを上述した構造を持つ連結部材50を用いて連結することで構成されているので,図4に示すように斜材ケーブル3が湾曲しているとしても,斜材ケーブル3の湾曲に追従するようにして,登攀装置20,30および検査装置40を斜材ケーブル3に沿って移動させることができる。
【0032】
図5は登攀装置20を示す斜視図である。登攀装置30も同様の構成を備えている。
【0033】
登攀装置20は,平面から見て三角形の形状に配置されたフレーム26を備えるもので,三角形の頂点の位置のそれぞれに,上下に間隔をあけて配置された一対のタイヤ22を備えている。フレーム26内の空間に斜材ケーブル3が通され,通された斜材ケーブル3の外周面に合計6本のタイヤ22が三方から押し付けられる。なお,図5においては上述した固定部材21の図示は省略されている。
【0034】
上下に並ぶ一対のタイヤ22のうちの一方(下側)のタイヤ22の回転軸にタイヤ駆動モータ25の回転軸が接続されている。タイヤ駆動モータ25の回転力がタイヤ22に伝達され,これによって登攀装置20は斜材ケーブル3に沿って移動する。登攀装置20には3台のタイヤ駆動モータ25が設けられる。
【0035】
上下に並ぶ一対のタイヤ22の回転軸に無端ベルト(図示略)が掛け渡され,これによって上下に並ぶ一対のタイヤ22のうちタイヤ駆動モータ25が接続されていない他方(上側)のタイヤ22にも,無端ベルトを介してタイヤ駆動モータ25の回転力が伝達される。
【0036】
三角形の頂点にそれぞれ位置する一対のタイヤ22を斜材ケーブル3の外周面に三方からしっかりと押し付けるために,三角形の頂点にそれぞれ位置する一対のタイヤ22のうち2ヵ所のタイヤ22(図5においては手前側の2ヵ所の上下一対のタイヤ22)はフレーム26に平行にのびるレール23に沿って移動可能である。レール23と平行にボールねじ24が設けられており,このボールねじ24をボールねじ駆動モータ(図示略)(以下,ボールねじ24およびボールねじ駆動モータをアクチュエータと呼ぶことがある。)によって回転させることによって,2ヵ所のタイヤ22を残りの1か所のタイヤ22に向けて近づけるまたは遠ざけることができる。登攀装置20には2本のボールねじ24をそれぞれ駆動するための2台のボールねじ駆動モータが設けられる。移動しない一対のタイヤ22(図5においては奥側1ヵ所の上下一対のタイヤ。以下,固定側タイヤ22という)はその一部を外に露出させた状態で収納ボックス29に収納されている。
【0037】
収納ボックス29内に収納されている固定側タイヤ22の回転軸には,斜材ケーブル3の外周面に押し付けられるタイヤ22の押し付け力を検出する荷重センサ(ロードセル)(図示略)が取り付けられている。荷重センサによってタイヤ22の斜材ケーブル3に対する押し付け力が検出される。
【0038】
収納ボックス29にはタイヤ駆動モータ25,ボールねじ駆動モータ,および荷重センサを制御するための制御装置(制御基板)が収納された制御ボックス27が取り付けられている。また,収納ボックス29にはバッテリ28が交換可能に取り付けられ,制御ボックス27内の制御装置を介してタイヤ駆動モータ25,ボールねじ駆動モータ,荷重センサ等にバッテリ28からの電源が供給される。
【0039】
図6は登攀装置20の電気的構成を示すブロック図である。
【0040】
上述したように,登攀装置20の制御ボックス27に制御装置60が収納されている。制御装置60には,3台のタイヤ駆動モータ25,2台のボールねじ駆動モータ65,荷重センサ67およびバッテリ28が接続されている。また,制御装置60は制御装置60の動作を全体的に統括するCPU61,メモリ62および無線回路63を備え,メモリ62に記憶されるデータおよびプログラム,ならびに無線回路63によって送受信されるデータ(信号)によって,登攀装置20(タイヤ駆動モータ25,およびボールねじ駆動モータ65)の動作が制御される。登攀装置20の動作の詳細は後述する。
【0041】
図7はタイヤ駆動モータ25の駆動回路の電気的構成を示すブロック図である。駆動回路は制御装置60と一体に設けてもよいし,制御装置60とタイヤ駆動モータ25との間に別体に設けてもよい。
【0042】
タイヤ駆動モータ25の駆動回路は,モータドライバ回路25Aおよび電流検出回路25Bを備えている。
【0043】
制御装置60からモータドライバ回路25Aに供給電圧Vおよび所定のデューティ比DのPWM周波数fPWMが与えられ,供給電圧Vおよびデューティ比Dにしたがうモータ印加電圧がタイヤ駆動モータ(ブラシレスモータ)25に与えられる。デューティ比Dが制御されることによってモータ印加電圧がPWM(Pulse Width Modulation)制御される。デューティ比Dの制御に加えて供給電圧によってもモータ印加電圧を制御することができる。
【0044】
タイヤ駆動モータ25から制御装置60には,電流検出回路25Bによって検出されるモータ電流Iと,たとえばホール素子(回転計)によって検出されるタイヤ駆動モータ25の単位時間あたりの回転数ωが与えられる。次に説明するように,タイヤ駆動モータ25から制御装置60に与えられるモータ電流Iが用いられて,デューティ比Dおよび供給電圧Vがフィードバック制御され,これによってモータ印加電圧が制御される。タイヤ駆動モータ25から制御装置60に与えられる回転数ωが用いられてPWM周波数fPWMがフィードバック制御され,これによってタイヤ駆動モータ25の回転数(すなわち登攀装置20の速度)が制御される。タイヤ駆動モータ25の出力トルク(駆動力)はモータ電流Iに比例するという特性があるので,モータ電流Iを検出することでタイヤ駆動モータ25が発生しているトルクを推定することができる。
【0045】
ボールねじ駆動モータ65は,収納ボックス29内の荷重センサによって計測される,タイヤ22の斜材ケーブル3に対する押し付け力に応じて制御される。所定の押し付け力が生じるように2台のボールねじ駆動モータ65(アクチュエータ)が制御され,これによって三方のタイヤ22同士の距離が近づけられるまたは遠ざけられる。
【0046】
図8はタイヤ駆動モータ(ブラシレスモータ)25の回転数-トルク特性を示すグラフである。
【0047】
タイヤ駆動モータ25は無負荷のときに回転数が最大(最大速度)となり,負荷トルクが大きくなると回転数は小さくなる。タイヤ駆動モータ25は負荷トルクと出力(発生)トルクが釣り合った点で回転し,たとえばモータ印加電圧V1のときに負荷トルクT1が加わると回転数ωで回転する。
【0048】
タイヤ駆動モータ25の出力トルクは上述のようにモータ電流Iに比例する特性があるので,モータ印加電圧をV1からV2に上げると,モータ電流Iが増加して回転数-トルク特性が変化する。負荷トルクが一定の場合にモータ印加電圧をV1からV2に上げるとタイヤ駆動モータ25の回転数ωは大きくなる。モータ印加電圧を一定とした場合に負荷トルクがTからTに増えるとタイヤ駆動モータ25の回転数ωが小さくなる。もっとも図8に示すグラフの特性の下では,モータ印加電圧をV1からV2に上げるとタイヤ駆動モータ25の出力トルクがTからTになるので,回転数ωを一定にして運転することができる。
【0049】
上述のように,登攀装置30も登攀装置20と同様の構造を備えている。もっとも,以下に詳細に説明するように,登攀装置20と登攀装置30とでは異なる動作制御が行われ,これは登攀装置20,30の制御装置60のCPU61によって実行されるプログラムの違いに基づく。すなわち登攀装置20では登攀装置20用制御プログラムが,登攀装置30では登攀装置30用制御プログラムが,それぞれ実行される。登攀装置20の制御装置60のメモリ62には登攀装置20用制御プログラムが少なくとも記憶され,登攀装置30の制御装置60のメモリ62には登攀装置30用制御プログラムが少なくとも記憶される。両方のプログラムを両方の登攀装置20,30のメモリ62に記憶することもでき,この場合にはCPU61によって実行させるプログラムを選択することによって,同一の登攀装置を,登攀装置20としても,登攀装置30としても動作させることができる。
【0050】
図9および図10は,検査システム10が備える2台の登攀装置20,30の動作(タイヤ駆動モータ25の動作)を示すフローチャートである。以下の説明では,並び順の先頭に位置する登攀装置20を「マスタ20」と呼び,検査装置40に近い登攀装置30を「スレーブ30」と呼ぶ。上述したようにマスタ20およびスレーブ30はいずれも3つのタイヤ駆動モータ25を備えるが,マスタ20の3つのタイヤ駆動モータ25,およびスレーブ30の3つのタイヤ駆動モータ25のいずれについても,それぞれ以下に説明する制御が同様に行われる。
【0051】
図9の左側に示すマスタ20の動作を参照して,タイヤ駆動モータ25の目標回転速度およびモータ印加電圧(初期値)が設定される(ステップ71)。目標回転速度およびモータ印加電圧(初期値)にはマスタ20が備える制御装置60のメモリ62に記憶されている値が用いられる。
【0052】
タイヤ駆動モータ25の回転がスタートする。モータ回転速度および設定されるモータ印加電圧によってタイヤ駆動モータ25の出力トルクが決定される(図8参照)。
【0053】
上述したように,タイヤ駆動モータ25から制御装置60にはモータの回転数ωがフィードバックされる(図7)。フィードバックされるモータの回転数ωからモータの回転速度が算出される(ステップ72)。
【0054】
算出されたモータ回転速度と目標回転速度の偏差が求められ(ステップ73),求められた偏差に応じてモータ回転速度が目標回転速度に追従するようにモータドライバ回路25Aに与えられるPWM周波数fPWMが増減される(ステップ74)。PWM周波数fPWMが高くなるとモータ回転速度は速くなり,PWM周波数fPWMが低くなるとモータ回転速度は遅くなる。ステップ72から74の処理は繰り返し実行され,これによってモータ回転速度は目標回転速度に等しくなる。
【0055】
図9の右側に示すスレーブ30についても同様である(ステップ91~94)。マスタ20において設定される目標回転速度およびモータ印加電圧(初期値)と同じ値が,スレーブ30においても設定される。
【0056】
上述したように,タイヤ駆動モータ25から制御装置60にはモータ電流Iもフィードバックされる。図10を参照して,スレーブ30のモータ電流値IS(以下では,マスタ20について添え字「M」を,スレーブ30について添え字「S」を用いる)がマスタ20に送信されて受信される(ステップ95,75)。スレーブ30のモータ電流値ISの送受信にマスタ20およびスレーブ30のそれぞれの制御装置60が備える無線回路63が用いられる。
【0057】
マスタ20において,受信したスレーブ30のモータ電流値Iとタイヤ駆動モータ25の「最大電流許容値×0.8」とが比較される(ステップ76)。これはスレーブ30のタイヤ駆動モータ25に必要以上の負荷をかけないためである。以下に説明するように,検査装置40の近くに配置されるスレーブ30に対してマスタ20よりも大きな出力トルク(駆動力)が配分されるようにマスタ20およびスレーブ30は制御されるので,必要以上の負荷がかかっていないことの確認はスレーブ30に対してのみ判断される。
【0058】
スレーブ30のモータ電流値Iが「最大電流許容値×0.8」を超えている場合,マスタ20のモータ電流値Iの微増とスレーブ30のモータ電流値Iの微減が指示される(ステップ76でYES ,ステップ79A)。スレーブ30に対する指示は無線回路63を通じてマスタ20からスレーブ30に送信され,無線回路63を通じてスレーブ30において受信される(ステップ80,ステップ96)。これによってマスタ20のタイヤ駆動モータ25とスレーブ30のタイヤ駆動モータ25の出力トルクの配分が,マスタ20側により大きく,スレーブ30側により小さく配分される。
【0059】
マスタ20およびスレーブ30のそれぞれにおいて,制御装置60からモータドライバ回路25Aに与えられるPWM周波数fPWMのデューティ比D,Dが調整される(ステップ81,ステップ97)。具体的にはマスタ20においてモータ電流値Iの微増が指示されているので,制御装置60からモータドライバ回路25Aに与えられるPWM周波数fPWMのデューティ比Dが上げられる。スレーブ30にはモータ電流値Iの微減が指示されているので,制御装置60からモータドライバ回路25Aに与えられるPWM周波数fPWMのデューティ比Dが下げられる。
【0060】
デューティ比Dを上げてもモータ電流Iが増加しないことがあり,この場合には制御装置60からモータドライバ回路25Aに与えられる供給電圧Vが上げられる(ステップ81)。
【0061】
スレーブ30のモータ電流値Iが「最大電流許容値×0.8」を超えていない場合(ステップ76でNO),モータ電流値I/モータ電流値Iが算出され(ステップ77),この値が所定のトルク配分率Ukと比較される(ステップ78)。
【0062】
トルク配分率Ukは,斜材ケーブル3の斜行角度,検査システム10(検査装置40)の重量等に基づいて1~0.6程度の間の値であらかじめ決定されてマスタ20のメモリ62に記憶される。たとえば,トルク配分率Ukが0.6であれば,これは検査システム10全体の出力トルクを,マスタ20とスレーブ30で0.6:1.0に配分することを意味する。トルク配分率Ukが1.0であれば,検査システム10全体の出力トルクをマスタ20とスレーブ30で1.0:1.0に配分することを意味する。検査装置40に近い位置に設けられるスレーブ30に大きな出力トルクを発生させ,かつマスタ20をその補助として用いることができる。
【0063】
トルク配分率Uk<(マスタ20のモータ電流値I/スレーブ30のモータ電流値I)である場合,マスタ20のモータ電流値Iの微減とスレーブ30のモータ電流値Iの現状維持が指示される(ステップ79B)。マスタ20のモータ電流値Iを微減するために,マスタ20の制御装置60からモータドライバ回路25Aに与えられるPWM周波数fPWMのデューティ比Dが下げられ,必要に応じて供給電圧Vが下げられる。スレーブ30のモータ電流値Iが維持されかつマスタ20のモータ電流値Iが小さくなるので,スレーブ30の出力トルクが維持されつつ,かつマスタ20の出力トルクが小さくされる。マスタ20とスレーブ30の出力トルクの配分が所定のトルク配分率Ukに近づく。
【0064】
トルク配分率Uk>(マスタ20のモータ電流値I/スレーブ30のモータ電流値I)である場合,マスタ20のモータ電流値Iの微増とスレーブ30のモータ電流値Iの微減が指示される(ステップ79C)。マスタ20のモータ電流値Iを微増するために,マスタ20の制御装置60からモータドライバ回路25Aに与えられるPWM周波数fPWMのデューティ比Dが上げられ,必要に応じて供給電圧Vが上げられる。スレーブ30のモータ電流値Iを微減するために,スレーブ30の制御装置60からモータドライバ回路25Aに与えられるPWM周波数fPWMのデューティ比Dが下げられ,必要に応じて供給電圧Vが下げられる。これによってマスタ20の出力トルクが大きく,かつスレーブ30の出力トルクが小さくなる。マスタ20とスレーブ30の出力トルクの配分が所定のトルク配分率Ukに近づく。
【0065】
トルク配分率Uk=(マスタ20のモータ電流値I/スレーブ30のモータ電流値I)である場合,マスタ20のモータ電流値Iおよびスレーブ30のモータ電流値Iの両方の維持が指示される(ステップ79D)。所定のトルク配分率Ukどおりのマスタ20とスレーブ30の出力トルクの配分が維持される。
【0066】
上述したマスタ20およびスレーブ30の出力トルクの制御も繰り返し実行され,これによってマスタ20およびスレーブ30は所定のトルク配分率Ukにしたがって動作する。
【符号の説明】
【0067】
3 斜材ケーブル
10 検査システム
20 登攀装置(マスタ)
21,31,41 固定部材
22 タイヤ
23 レール
24 ボールねじ
25 タイヤ駆動モータ
25A モータドライバ回路
25B 電流検出回路
26 フレーム
27 制御ボックス
28 バッテリ
30 登攀装置(スレーブ)
40 検査装置
50 連結部材
51 第1の継手
52 第2の継手
53,54 丸棒
60 制御装置
61 CPU
62 メモリ
63 無線回路
65 ボールねじ駆動モータ
67 荷重センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10