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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143674
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】アンダーパス工法
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/04 20060101AFI20241003BHJP
   E21D 9/06 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
E21D9/04 F
E21D9/06 311A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056462
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(71)【出願人】
【識別番号】592069137
【氏名又は名称】植村技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川合 洋二
(72)【発明者】
【氏名】金子 大貴
【テーマコード(参考)】
2D054
【Fターム(参考)】
2D054AB05
2D054AC15
2D054AC18
2D054AD23
2D054AD32
2D054EA07
(57)【要約】
【課題】地下水が存在する地盤に地下空間を形成するアンダーパス工法おいて、簡易な構成によって、計画設置領域の地盤を、掘削が容易な適度な硬さで止水処理できるようにする。
【解決手段】既存地下構造物30の直下部分を横断する天面部箱形ルーフ21及び側面部箱形ルーフ22を形成した後に、これと置き換えるようにして函体構造物15を既存地下構造物30の直下部分の地盤に向けて推進させるのに先立って、天面部箱形ルーフ21や側面部箱形ルーフ22の内部からの作業によって、低圧浸透注入工法により少なくとも側面部箱形ルーフ22の周囲の地盤13aの地盤改良を行なうことにより、函体構造物15の推進時にこれらの内側に地下水が流入しないようする。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存地下構造物の下方の地下水が存在する地盤に、当該既存地下構造物の下方を横断して、矩形断面形状を備える函体構造物による地下空間を形成するためのアンダーパス工法であって、
前記函体構造物の計画設置領域の少なくとも天面部分及び両側の側面部分に沿って、複数の箱形パイプ部材の各々を、前記計画設置領域における横断方向と垂直な断面の周方向に連設させるようにして、作業用立坑から前記既存地下構造物の下方の地盤に密閉式推進工法により押し込むことで、前記既存地下構造物の直下部分を横断する天面部箱形ルーフ及び側面部箱形ルーフを形成した後に、少なくとも天面部を前記天面部箱形ルーフと置き換えるようにして、前記作業用立坑から前記函体構造物を前記既存地下構造物の直下部分の地盤に向けて推進させることにより、前記函体構造物による地下空間を形成するようになっており、
前記函体構造物を前記既存地下構造物の直下部分の地盤に向けて推進させるのに先立って、少なくとも前記側面部箱形ルーフを構成する複数の前記箱形パイプ部材の内部からの作業によって、低圧浸透注入工法により少なくとも前記側面部箱形ルーフの周囲の地盤の地盤改良を行なうことにより、前記函体構造物の推進時にこれらの内側に地下水が流入しないようにするアンダーパス工法。
【請求項2】
前記作業用立坑を形成した後、当該作業用立坑から前記既存地下構造物の下方の地盤に複数の箱形パイプ部材を押し込むのに先立って、前記既存地下構造物と前記函体構造物の計画設置領域との間の部分に、薬剤を高圧噴射して注入することによる水平方向への地盤改良工法によって、防護改良地盤を形成する請求項1記載のアンダーパス工法。
【請求項3】
前記作業用立坑を形成した後、当該作業用立坑から前記既存地下構造物の下方の地盤に複数の箱形パイプ部材を押し込むのに先立って、前記函体構造物の計画設置領域における前記作業用立坑の土留壁側の部分の鏡部となる地盤、及び前記作業用立坑から推進される前記箱形パイプ部材及び前記函体構造物の先端到達部分の鏡部となる地盤に、薬剤を高圧噴射して注入することによる縦方向への地盤改良工法によって、鏡部改良地盤を形成する請求項1又は2記載のアンダーパス工法。
【請求項4】
前記作業用立坑の土留壁は、SMW工法によって形成される請求項3記載のアンダーパス工法。
【請求項5】
前記函体構造物の前面部分の切羽で掘削作業を行うR&C工法(登録商標)において、発進立坑のみを前記作業用立坑として、各々の作業工程が実施される請求項1又は2記載のアンダーパス工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンダーパス工法に関し、特に、既存地下構造物の下方の地下水が存在する地盤に、函体構造物による地下空間を形成するためのアンダーパス工法に関する。
【背景技術】
【0002】
アンダーパス工法は、例えば既存の鉄道や道路等の既存構築物の下方の地盤に、これらを横断する地下空間を形成するための工法として採用されるものであり、R&C工法(登録商標)(例えば、特許文献1参照)やSFT工法(登録商標)(例えば、特許文献2参照)等が知られている。アンダーパス工法は、例えば地下空間の形成予定箇所となる既存構築物の下方の地盤に、箱形パイプ部材を連設させて設置することにより、既設構築物を下方から支えて支持する天面部箱形ルーフ、及び側面部箱形ルーフを形成した後に、形成した天面部箱形ルーフ及び側面部箱形ルーフを、地下空間の形成予定箇所に例えばプレキャスト製の矩形断面形状を備える函体構造物を推進させて置換することによって、置換した函体構造物による地下空間を形成するようになっている。
【0003】
また、既存構築物の下方の地下空間の形成予定箇所を含む地盤が、軟弱地盤であったり、地下水が存在する地盤であったりする場合に、地下空間の形成予定箇所の周辺部の地盤の止水処理を、容易に且つ迅速に行えるようにする技術も開示されている(例えば、特許文献3参照)。特許文献3のルーフ防護工による函体推進工法では、天面ルーフ部と側面ルーフ部による門型ルーフ防護工の上部隅部の箱形パイプ部材を、通常径よりも大きな径の作業用の大型パイプとし、この大型パイプの内部から外部の任意方向に、薬剤を高圧噴射して注入することによる地盤改良を行なうようになっており、例えば大型パイプの内部から下方に向けて地盤改良を行なうことで、側面ルーフ部の設置箇所を、前もって止水処理しておくようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-177553号公報
【特許文献2】特開2012-144942号公報
【特許文献3】特開2009-167595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、近年、例えば地中に形成された既存地下構造部の、さらに下方の地盤を横断して、地下空間を形成する工事が種々計画されており、このような工事にアンダーパス工法を採用することで、既存地下構造部の下方における当該構造物になるべく近い領域の地盤に、地下空間を形成できるようにすることが検討されている。既存地下構造部のさらに下方の地盤にアンダーパス工法によって地下空間を形成する場合、地下水の水圧による影響が大きくなることから、より安定した状態で工事を行えるように、既存地下構造部の下方の地下空間の形成予定箇所となる、函体構造物の計画設置領域の地盤の全体を、函体構造物を推進させるのに先立って、予め止水処理しておくことが望ましい。
【0006】
また、函体構造物の計画設置領域の地盤の全体を、函体構造物を推進させるのに先立って、予め止水処理しておく方法として、上述の特許文献3に記載の薬剤を高圧噴射して注入することで地盤改良する方法を採用した場合、通常径よりも大きな径の作業用の大型パイプを必要とするなど、大掛かりな設備を要することになって、既存地下構造部の下方の深い地盤に対して作業するには、負担が大きくなると共に、薬剤を高圧噴射して注入することによって形成された改良地盤は、固くなりすぎるため、函体構造物の推進時に、函体構造物と置換される天面部の箱形ルーフや側面部の箱形ルーフの内側の地盤を、掘削する作業に多くの手間を要することになる。
【0007】
さらに、地下水の存在する地盤において、天面部箱形ルーフや側面部箱形ルーフを形成する箱形パイプ部材を地中に押し込む場合、各々の箱形パイプ部材は、切羽部を開放させない密閉式の推進工法によって地中に推進する必要があることから、各々箱形パイプ部材は、隣接する当該箱形パイプ部材同士を係止接合するセクション(継手)を外周部分に有しておらず、これらの間には隙間部分を生じているため、これらの間の隙間部分の地山に対しても、特に側面部箱形ルーフの隙間部分については、止水処理しておく必要がある。
【0008】
本発明は、既存地下構造物の下方の地下水が存在する地盤に、函体構造物による地下空間を形成する際に、簡易な構成によって、函体構造物の計画設置領域の地盤を、掘削が容易な適度な硬さで、効果的に改良して止水処理することを可能にして、地下空間を、安定した状態で効率良く形成してゆくことのできるアンダーパス工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、既存地下構造物の下方の地下水が存在する地盤に、当該既存地下構造物の下方を横断して、矩形断面形状を備える函体構造物による地下空間を形成するためのアンダーパス工法であって、前記函体構造物の計画設置領域の少なくとも天面部分及び両側の側面部分に沿って、複数の箱形パイプ部材の各々を、前記計画設置領域における横断方向と垂直な断面の周方向に連設させるようにして、作業用立坑から前記既存地下構造物の下方の地盤に密閉式推進工法により押し込むことで、前記既存地下構造物の直下部分を横断する天面部箱形ルーフ及び側面部箱形ルーフを形成した後に、少なくとも天面部を前記天面部箱形ルーフと置き換えるようにして、前記作業用立坑から前記函体構造物を前記既存地下構造物の直下部分の地盤に向けて推進させることにより、前記函体構造物による地下空間を形成するようになっており、前記函体構造物を前記既存地下構造物の直下部分の地盤に向けて推進させるのに先立って、少なくとも前記側面部箱形ルーフを構成する複数の前記箱形パイプ部材の内部からの作業によって、低圧浸透注入工法により少なくとも前記側面部箱形ルーフの周囲の地盤の地盤改良を行なうことで、前記函体構造物の推進時にこれらの内側に地下水が流入しないようにするアンダーパス工法を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0010】
そして、本発明のアンダーパス工法は、前記作業用立坑を形成した後、当該作業用立坑から前記既存地下構造物の下方の地盤に複数の箱形パイプ部材を押し込むのに先立って、前記既存地下構造物と前記函体構造物の計画設置領域との間の部分に、薬剤を高圧噴射して注入することによる水平方向への地盤改良工法によって、防護改良地盤を形成するようになっていることが好ましい。
【0011】
また、本発明のアンダーパス工法は、前記作業用立坑を形成した後、当該作業用立坑から前記既存地下構造物の下方の地盤に複数の箱形パイプ部材を押し込むのに先立って、前記函体構造物の計画設置領域における前記作業用立坑の土留壁側の部分の鏡部となる地盤、及び前記作業用立坑から推進される前記箱形パイプ部材及び前記函体構造物の先端到達部分の鏡部となる地盤に、薬剤を高圧噴射して注入することによる縦方向への地盤改良工法によって、鏡部改良地盤を形成するようになっていることが好ましい。
【0012】
さらに、本発明のアンダーパス工法は、前記作業用立坑の土留壁は、SMW工法によって形成されるようになっていることが好ましい。
【0013】
さらにまた、本発明のアンダーパス工法は、前記函体構造物の前面部分の切羽で掘削作業を行うR&C工法(登録商標)において、発進立坑のみを前記作業用立坑として各作業工程が実施されるようになっていることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のアンダーパス工法によれば、既存地下構造物の下方の地下水が存在する地盤に、函体構造物による地下空間を形成する際に、簡易な構成によって、函体構造物の計画設置領域の地盤を、掘削が容易な適度な硬さで、効果的に改良して止水処理することを可能にして、地下空間を、安定した状態で効率良く形成してゆくことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】作業用立坑を設置する工程、防護改良地盤を形成する工程、及び鏡部改良地盤を形成する工程を説明する、(a)は略示縦断面図、(b)は(a)のA-Aに沿った略示縦断面図である。
図2】箱形パイプ部材を推進して天面部箱形ルーフ及び側面部箱形ルーフを形成する工程を説明する略示縦断面図である。
図3】天面部箱形ルーフ及び側面部箱形ルーフを形成した後に、低圧浸透注入工法による地盤改良を行なう工程を説明する、(a)は略示縦断面図、(b)は(a)のA’-A’に沿った略示縦断面図である。
図4】函体構造物を既存地下構造物の直下部分の地盤に向けて推進させる工程を説明する略示縦断面図である。
図5】R&C工法によって、箱形ルーフの内側の地盤を掘削しながら函体構造物を推進する工程を説明する略示縦断面図である。
図6】既存地下構造物の下方を横断して形成された函体構造物による地下空間を説明する、(a)は略示縦断面図、(b)は(a)のA”-A”に沿った略示縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の好ましい一実施形態に係るアンダーパス工法は、図1(a)、(b)に示すように、既存地下構造物30として、例えば地下鉄用の既存の設備構造物の下方の地盤に、他の新設の地下鉄用の地下空間10を、既存地下構造物30の直下部分を横断して設置した、函体構造物11(図6(a)、(b)参照)によって形成するための工法として採用されたものである。また、本実施形態では、アンダーパス工法として、切羽部12(図5参照)において、箱形ルーフ20で囲まれたこれの内側の領域に残置された地盤を掘削しながら函体構造物11を推進する、R&C工法(登録商標)が採用されると共に、既存地下構造物30を挟んだ箱形ルーフ20や函体構造物11の到達側にも、既存の設備構造物40が地下構造物として形成されていることから、発進側の立坑のみを作業用立坑31として、到達側に立坑を設けることなく、各々の作業工程が実施されるようになっている。発進側の立坑のみを作業用立坑31としていることから、例えば特開2001-72670号に記載の地下構造物の構築方法と同様に、箱形ルーフ20を構成する箱形パイプ部材25は、単位パイプ25a毎に作業用立坑31に回収しつつ、函体構造物11を既存地下構造物30下方の地盤に推進するようになっている(図5参照)。なお、図3(a)、図4、及び図5においては、箱形ルーフ20は、これの内側に残置された地盤(土砂)が省略された状態で示されている。
【0017】
さらに、本実施形態では、既存地下構造物30の下方の地盤には、地下水が存在しており、本実施形態のアンダーパス工法は、このような地下水が存在する地盤に、函体構造物11による地下空間10を形成する場合であっても、地下空間10を、安定した状態で効率良く形成できるようにする機能を備えている。
【0018】
そして、本実施形態のアンダーパス工法は、既存地下構造物30の下方の地下水が存在する地盤に、当該既存地下構造物30の下方を横断して、矩形断面形状を備える函体構造物11による地下空間10(図6(b)参照)を形成するための、好ましくはR&C工法によるアンダーパス工法であって、図1(a)、(b)~図6(a)、(b)に示すように、函体構造物11の計画設置領域16(図1(a)、(b))参照)の少なくとも天面部分16a及び両側の側面部分16bに沿って、複数の箱形パイプ部材25の各々を、計画設置領域16における横断方向と垂直な断面の周方向に並べて連設させるようにして、作業用立坑31から既存地下構造物30の下方の地盤に、密閉式推進工法により押し込むことで、既存地下構造物30の直下部分を横断する天面部箱形ルーフ21及び側面部箱形ルーフ22を形成する(図2図3(a)、(b)参照)。しかる後に、少なくとも天面部11aを天面部箱形ルーフ21と置き換えるようにして(本実施形態では、側面部11bもまた側面部箱形ルーフ22と置き換えるようにして)、作業用立坑31から函体構造物11を既存地下構造物30の直下部分の地盤に向けて推進させることにより(図5参照)、函体構造物11による地下空間10を形成するようになっている(図6(a)、(b)参照)。
【0019】
本実施形態のアンダーパス工法では、函体構造物11を既存地下構造物30の直下部分の地盤に向けて推進させるのに先立って、少なくとも側面部箱形ルーフ22を構成する複数の箱形パイプ部材25の内部からの作業によって、低圧浸透注入工法により側面部箱形ルーフ22の周囲の地盤13a、及び好ましくは天面部箱形ルーフ21と側面部箱形ルーフ22とによって囲まれるこれらの内側の地盤13bの改良を行なうことにより、函体構造物11の推進時にこれらの内側に地下水が流入しないようにしている(図3(b)参照)。
【0020】
また、本実施形態のアンダーパス工法では、好ましくは作業用立坑31を形成した後、当該作業用立坑31から既存地下構造物30の下方の地盤に複数の箱形パイプ部材25を押し込むのに先立って、既存地下構造物30と函体構造物11の計画設置領域16との間の部分に、薬剤を高圧噴射して注入することによる水平方向への地盤改良工法によって、防護改良地盤17を形成するようになっている(図1(a)、(b)参照)。
【0021】
さらに、本実施形態のアンダーパス工法では、作業用立坑31を形成した後、当該作業用立坑31から既存地下構造物30の下方の地盤に複数の箱形パイプ部材25を押し込むのに先立って、函体構造物11の計画設置領域16における作業用立坑31の土留壁32側の部分の鏡部となる地盤、及び作業用立坑31から推進される箱形パイプ部材25及び函体構造物11の先端到達部分の鏡部となる地盤に、薬剤を高圧噴射して注入することによる縦方向への地盤改良工法によって、鏡部改良地盤18a,18bを形成するようになっている(図1(a)参照)。
【0022】
本実施形態では、好ましくはR&C工法によって、既存地下構造物30の下方に地盤に函体構造物11による地下空間を形成する作業に先立って、既存地下構造物30を挟んだ一方側に、作業基地となる作業用立坑31を形成する(図1(a)参照)。本実施形態では、上述のように、既存地下構造物30を挟んだ他方側には、既存の設備構造物40が形成されていることとから、一方側のみに作業用立坑31を形成して、各々の作業工程を実施するようになっている。作業用立坑31は、例えばシールド掘進機によるシールド工法において形成される立坑と同様に、止水性に富んだ好ましくはSMW工法による地盤改良と矢板を用いた土留壁32を形成して、これの内側を山留しつつ所定の深さまで掘削することにより、容易に形成することができる。作業用立坑31側の表面は矢板で保護され、切梁等の支保工によって支持される。形成された作業用立坑31には、箱形パイプ部材25や函体構造物11を推進させる推進設備や、箱形パイプ部材25を撤去する際の撤去設備や、水平方向への地盤改良工法を行うための設備等が、適宜設置されることになる(図4図5参照)。
【0023】
また、本実施形態では、好ましくは作業用立坑31の土留壁32をSMW工法等によって形成した後、これの内側を掘削するのに先立って、上述のように、既存地下構造物30を挟んだ両側の地盤における函体構造物11の計画設置領域16と同様の高さ部分に、鏡部改良地盤18a,18bが、計画設置領域16の一部として形成されるようになっている(図1(a)参照)。鏡部改良地盤18a,18bは、例えばシールド掘進機によるシールド工法において形成される鏡部の改良地盤と同様に、例えば既存地下構造物30を挟んだ両側の地盤面から、好ましくは薬剤を高圧噴射して注入することによる縦方向への地盤改良工法によって、計画設置領域16における作業用立坑31の土留壁32側の発進部分、及び作業用立坑31から推進される箱形パイプ部材25や函体構造物11の先端到達部分の地盤に、例えば3,000~3,500mm程度の厚さとなるように、容易に形成することができる。
【0024】
さらに、本実施形態では、好ましくは作業用立坑31を形成した後、当該作業用立坑31から既存地下構造物30の下方の地盤に、天面部箱形ルーフ21及び側面部箱形ルーフ22を含む箱形ルーフ20を構成する、複数の箱形パイプ部材25を推進して押し込むのに先立って、上述のように、既存地下構造物30と函体構造物11の計画設置領域16との間の部分に、防護改良地盤17を形成するようになっている(図1(a)、(b)参照)。防護改良地盤17は、薬剤を高圧噴射して注入することによる水平方向への地盤改良工法によって形成されるようになっており、作業用立坑31に設置した、地盤改良工法を行うための公知の設備を用いることで、既存地下構造物30の直下部分の地盤に、函体構造物11の計画設置領域16の全体の上方を覆うようにして、例えば1,400~2,600mm程度の厚さとなるように、容易に形成することができる。
【0025】
既存地下構造物30の下方の地盤に複数の箱形パイプ部材25を推進して押し込むのに先立って、既存地下構造物30と函体構造物11の計画設置領域16との間の部分に、防護改良地盤17を予め形成しておくことによって、既存地下構造物30の下方の地盤に地下水が存在する場合であっても、既存地下構造物30を防護改良地盤17によって下方から支持して、箱形ルーフ20を構成する複数の箱形パイプ部材25を既存地下構造物30の下方に地盤に推進する際や、これと置き換えて函体構造物11を既存地下構造物30の下方に地盤に推進する際に、既存地下構造物30やこれの下方に適宜埋設された埋設物に影響が及ぶことになるのを、効果的に回避することが可能になる。
【0026】
そして、本実施形態では、好ましくは函体構造物11の計画設置領域16の上方を覆うようにして、防護改良地盤17を形成したら、作業用立坑31に箱形パイプ部材25の推進設備を設置して、従来のR&C工法と同様に、複数の箱形パイプ部材25の各々を、函体構造物11の計画設置領域16の天面部分16a、両側の側面部分16b、及び底面部分16cの両端部分に沿って、計画設置領域16の横断面の周方向に並べて連設させるようにして、作業用立坑31から既存地下構造物30の下方の地盤に、密閉式推進工法によって推進させて押し込む(図2参照)。これによって、既存地下構造物30の直下部分を横断する天面部箱形ルーフ21及び側面部箱形ルーフ22に加えて、好ましくは両側の端部角部部分の底面部箱形ルーフ23を含む、箱形ルーフ20を形成することができる(図3(a)、(b)参照)。
【0027】
ここで、箱形パイプ部材25は、本実施形態では、各々、例えば縦横800mm程度の大きさの中空の略正方形の断面形状を有しており、作業員が内部に立ち入って作業をすることが可能な程度の空間を、内部に保持している。箱形パイプ部材25は、好ましくは1m程度の長さの単位パイプ25aを順次継ぎ足しながら、既存地下構造物30の直下部分の地盤を横断するのに十分な延長で設置されることになる(図3(a)参照)。
【0028】
また、実施形態では、箱形パイプ部材25が推進される既存地下構造物30の下方の地盤には、地下水が存在していることから、箱形パイプ部材25の内部への地下水の侵入を回避できるように、箱形パイプ部材25の先端部分に、全面を密閉する方式の掘削装置を取り付けて推進する密閉式推進工法によって、既存地下構造物30の下方の地盤に推進されて押し込まれるようになっている。箱形パイプ部材25の先端部分の全面を密閉する方式の掘削装置としては、例えば特開2022-134305号公報や、特開2022-134306号公報に記載の掘進機を用いることができる。これらの掘削装置は、箱形パイプ部材25の先端部分からの取り外しが可能なので、推進した箱形パイプ部材25の先端部分が、既存地下構造物30を挟んだ推進方向の前方側の先端到達部分の鏡部改良地盤18bに至った後に、先端部分から取り外して、他の箱形パイプ部材25に転用して用いることができる。
【0029】
そして、本実施形態のアンダーパス工法では、複数の箱形パイプ部材25を推進することによって、天面部箱形ルーフ21、側面部箱形ルーフ22、及び好ましくは底面部箱形ルーフ23による箱形ルーフ20を形成したら、函体構造物11を既存地下構造物30の直下部分の地盤に向けて推進させるのに先立って、少なくとも側面部箱形ルーフ22を構成する複数の箱形パイプ部材25の内部からの作業によって、低圧浸透注入工法により、特に側面部箱形ルーフ22の周囲の地盤13aの地盤改良を行って、周辺注入改良地盤13aを形成することができる。また、好ましくは作業用立坑31からの作業によって、天面部箱形ルーフ21と側面部箱形ルーフ22とによって囲まれるこれらの内側の地盤13bの地盤改良を行なうことで、内側注入改良地盤13bを形成することができる。これらによって、函体構造物11の推進時に、天面部箱形ルーフ21や側面部箱形ルーフ22の内側に地下水が流入しないようにすることが可能になる(図3(b)参照)。またこれらによって、掘削時に地山の崩壊が起きず、掘削しにくくならない程度の硬さになるように、天面部箱形ルーフ21や側面部箱形ルーフ22の内側の地盤の地盤改良を行なうことが可能になる。
【0030】
本実施形態では、地下水の存在する地盤において、天面部箱形ルーフ21や側面部箱形ルーフ22を形成する箱形パイプ部材25を地中に押し込むようになっており、切羽部を開放させない密閉式の推進工法によって箱形パイプ部材25が地中に推進されるようになっていることから、各々の箱形パイプ部材25は、隣接する箱形パイプ部材同士を係止接合するセクション(継手)を外周部分に有しておらず、これらの間に隙間部分を生じ易くなる。このため、これらの間の隙間部分の地山に対して効果的に止水処理できるように、天面部箱形ルーフ21の周囲の地盤についても、天面部箱形ルーフ21を構成する箱形パイプ部材の内部からの作業によって、周辺注入改良地盤13aを形成しておくことが好ましい。
【0031】
ここで、低圧浸透注入工法は、中結~瞬結性のグラウトを用いて、対象となる地盤の手前から奥へ、漸次各ステージ毎に注入を行う、下降注入方式による低圧の浸透注入工法として公知のものである。低圧浸透注入工法は、軽量小型の穿孔機やツールを用いることから、ボーングマシーン等を持ち込むことができない狭隘箇所での作業が可能であると共に、締まった砂質地盤や砂層が介在する複雑な地盤などに、効果的な注入を行なうことが可能な工法である。また、低圧で中結~瞬結性のグラウトを注入することから、低圧浸透効果が得られて、地盤隆起や周辺構造物への影響がほとんど無く、下降注入方式でステージ毎に改良できるため、注入効果(湧水状況等)を確認しながら施工することも可能である。さらに、改良後の地盤は、掘削が容易な適度な固さを備えることになる。このような低圧浸透注入工法としては、例えば日本綜合防水株式会社製の「ステージ注入工法」を採用することができる。
【0032】
箱形パイプ部材25の内部からの作業による低圧浸透注入工法によって、周辺注入改良地盤13aを形成すると共に、好ましくは作業用立坑31からの作業による地盤改良によって、内側注入改良地盤13bを形成したら、従来のR&C工法と同様に、天面部11a及び側面部11bを天面部箱形ルーフ21や側面部箱形ルーフ22と置き換えるようにして、作業用立坑31から函体構造物11を既存地下構造物30の直下部分の地盤に向けて推進させることにより、函体構造物11による地下空間を形成する(図4図5参照)。
【0033】
本実施形態では、立地条件等から、大きな空間の作業用立坑31を形成できないことから、函体構造物11は、軸方向に連続して連結一体化される複数のプレキャストコンクリート製の単位函体14によって、構成されるようになっている。また、各々の単位函体14は、周方向に分割された複数の分割ピース14aを、作業用立坑31において、一体として組み付けて形成されるようになっている。すなわち、各々の単位函体14は、地上から作業用立坑31に吊り込まれた分割ピース14aを、作業用立坑31において組み付けることで、単位函体14が各々形成されると共に、形成された単位函体14は、軸方向に順次連設させて、作業用立坑31に設置した推進設備15によって、函体構造物11として既存地下構造物30の直下部分の地盤に向けて推進されてゆくことになる(図4参照)。
【0034】
また、本実施形態では、上述のように、R&C工法として、切羽部12において箱形ルーフ20の内側に残置された地盤を掘削しながら函体構造物11が推進されると共に、発進側の立坑のみを作業用立坑31としていることから、箱形ルーフ20を構成する箱形パイプ部材25を、単位パイプ25a毎に作業用立坑31に回収しつつ、函体構造物11を既存地下構造物30下方の地盤に推進させるようになっている(図5参照)。
【0035】
このようにして函体構造物11が地中に推進されて、函体構造物11の先端が、既存地下構造物30を挟んだ推進方向の前方側の先端到達部分の鏡部改良地盤18bに至ることで、既存地下構造物30の直下部分を横断して設置された当該函体構造物11による、地下空間10が形成されることになる(図6(a)、(b)参照)。形成された地下空間10は、例えば既存の設備構造物40における地下空間10と対応する部分の側壁40aを撤去することによって、既存の設備構造物40と連通させて用いることができる。
【0036】
これらによって、本実施形態のアンダーパス工法によれば、既存地下構造物30の下方の地下水が存在する地盤に、函体構造物11による地下空間10を形成する際に、簡易な構成によって、函体構造物11の計画設置領域16の地盤を、掘削が容易な適度な硬さで、効果的に改良して止水処理することを可能にして、地下空間10を、安定した状態で効率良く形成してゆくことが可能になる。
【0037】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、下方の地盤に函体構造物による地下空間が形成される既存地下構造物は、地下鉄用の既存の設備構造物である必要は必ずしも無く、道路用の地下構造物の他、ビルの地下室や下水用の管路等の、その他の種々の既存の地下構造物であっても良い。また、箱形パイプ部材や函体構造物は、既存地下構造物を挟んだ到達側にも作業用立坑を設けて、到達側の作業用立坑に向けて推進させるようにしても良い。アンダーパス工法として、到達側の作業用立坑で箱形ルーフの内側に残置された地盤や土砂を撤去するSFT工法(登録商標)において、本発明を採用することもできる。
【0038】
10 地下空間
11 函体構造物
11a 天面部
11b 側面部
12 切羽部
13a 周辺注入改良地盤(箱形ルーフの周囲の地盤)
13b 内側注入改良地盤(内側の地盤)
14 単位函体
14a 分割ピース
15 推進設備
16 函体構造物の計画設置領域
16a 天面部分
16b 側面部分
16c 底面部分
17 防護改良地盤
18a,18b 鏡部改良地盤
20 箱形ルーフ
21 天面部箱形ルーフ
22 側面部箱形ルーフ
23 底面部箱形ルーフ
25 箱形パイプ部材
25a 単位パイプ
30 既存地下構造物
31 作業用立坑
32 土留壁
40 既存の設備構造物
40a 地下空間と対応する部分の側壁
図1
図2
図3
図4
図5
図6