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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143679
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】アンダーパス工法及び地下空間構造
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/04 20060101AFI20241003BHJP
   E21D 9/06 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
E21D9/04 F
E21D9/06 311A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056467
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(71)【出願人】
【識別番号】592069137
【氏名又は名称】植村技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川合 洋二
(72)【発明者】
【氏名】金子 大貴
【テーマコード(参考)】
2D054
【Fターム(参考)】
2D054AB05
2D054AC18
2D054AD27
2D054AD33
2D054EA07
2D054FA02
2D054FA12
(57)【要約】
【課題】既存地下構造部の下方の地下水が存在する地盤に、地下空間を形成する函体構造物を、より安定した状態で推進できるようにするアンダーパス工法を提供する。
【解決手段】フリクションカットプレート部材18及び両側の側面部箱形ルーフ22によって囲まれる計画設置領域35と、同様の矩形断面形状を備える函体構造物15を、天面部箱形ルーフ21と置き換えるようにして、既存地下構造物30の直下部分の地盤に向けて推進する工程では、側面部箱形ルーフ22及びフリクションカットプレート部材18を地中に残置したまま、両側の側面部箱形ルーフ22の間で対向する各内側面22aに両側の側面部分15bを各々沿わせるようにしつつ、天面部箱形ルーフ21のみを天面部15aと置き換えるようにして、函体構造物15が、既存地下構造物30の直下部分の地盤に推進される。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存地下構造物の下方の地下水が存在する地盤に、当該既存地下構造物の下方を横断して、矩形断面形状を備える函体構造物による地下空間を形成するためのアンダーパス工法であって、
前記函体構造物の計画設置領域の天面部分に沿って、フリクションカットプレート部材が上面部に配設された複数の矩形状箱形パイプ部材を、横幅方向に連設させるようにして、作業用立坑から前記既存地下構造物の下方の地盤に密閉式推進工法により各々押し込むことで、前記既存地下構造物の直下部分を横断する天面部箱形ルーフを形成する工程と、
前記計画設置領域の両側の側面部分に沿って、複数のパイプ部材を、縦方向に連設させるようにして、作業用立坑から前記既存地下構造物の下方の地盤に各々押し込むことで、前記既存地下構造物の直下部分の地盤を横断する両側の側面部箱形ルーフを形成する工程と、
少なくとも前記側面部箱形ルーフの周囲の地盤の地盤改良を行なう工程と、
地中に残置される前記フリクションカットプレート部材、及び両側の前記側面部箱形ルーフの間で対向する各内側面によって周囲を囲まれる、断面が矩形状の前記計画設置領域と、同様の矩形断面形状を備える前記函体構造物を、天面部を前記天面部箱形ルーフと置き換えるようにして、前記作業用立坑から前記既存地下構造物の直下部分の地盤に向けて推進する工程とを含んでおり、
前記函体構造物を前記既存地下構造物の直下部分の地盤に向けて推進する工程では、両側の前記側面部箱形ルーフ及び前記フリクションカットプレート部材を地中に残置したまま、両側の前記側面部箱形ルーフの間で対向する各内側面に両側の側面部分を各々沿わせるようにしつつ、前記天面部箱形ルーフのみを天面部と置き換えるようにして、前記函体構造物が、前記既存地下構造物の直下部分の地盤に推進されるようになっているアンダーパス工法。
【請求項2】
前記計画設置領域の底面部分に沿って、少なくとも両側の前記側面部箱形ルーフと隣接する領域に、複数のパイプ部材を横幅方向に連設させるようにして、作業用立坑から前記既存地下構造物の下方の地盤に各々押し込むことで、前記既存地下構造物の直下部分を横断する底面部箱形ルーフを形成する工程を含んでおり、
前記函体構造物を前記既存地下構造物の直下部分の地盤に向けて推進する工程では、前記底面部箱形ルーフを残置したまま、前記側面部箱形ルーフの上側面に底面部を沿わせるようにしつつ、前記函体構造物が、前記既存地下構造物の直下部分の地盤に推進されるようになっている請求項1記載のアンダーパス工法。
【請求項3】
前記側面部箱形ルーフを形成するパイプ部材、及び/又は前記底面部箱形ルーフを形成するパイプ部材が、矩形状箱形パイプ部材となっている請求項2記載のアンダーパス工法。
【請求項4】
前記側面部箱形ルーフの周囲の地盤の地盤改良を行う工程が、前記側面部箱形ルーフを構成する複数の前記矩形状箱形パイプ部材の内部からの作業によって、低圧浸透注入工法により実施されるようになっている請求項3記載のアンダーパス工法。
【請求項5】
前記天面部箱形ルーフを形成する前記矩形状箱形パイプ部材は、略四辺形状の中空断面形状を備えていると共に、両側の側板部の各上端部分で上下に分離可能に連結されたコの字状上部扁平ピースと、コの字状下部ピースとからなり、前記既存地下構造物の下方の地盤に前記天面部箱形ルーフが設置された後に、前記函体構造物が推進される際に、前記コの字状下部ピースが前記コの字状上部扁平ピースから分離されて前記函体構造物の天面部と置き換えられると共に、前記コの字状上部扁平ピースを地中に残置させて前記フリクションカットプレート部材として機能させるようになっている請求項1又は2記載のアンダーパス工法。
【請求項6】
前記函体構造物の前面部分の切羽で掘削作業を行うR&C工法(登録商標)として実施されるようになっている請求項1又は2記載のアンダーパス工法。
【請求項7】
請求項1記載のアンダーパス工法によって設けられた地下空間構造であって、
前記既存地下構造物の下方を横断する地下空間を形成している前記函体構造物の両側の側面部分に沿って、複数のパイプ部材が、縦方方向に連設して改良された地盤と共に設置されている地下空間構造。
【請求項8】
請求項2記載のアンダーパス工法によって設けられた地下空間構造であって、
前記既存地下構造物の下方を横断する地下空間を形成している前記函体構造物の両側の側面部分に沿って、複数のパイプ部材が、縦方方向に連設して改良された地盤と共に設置されていると共に、底面部分に沿って、少なくとも両側の前記側面部箱形ルーフと隣接する領域に、複数のパイプ部材が横幅方向に連設して設置されている地下空間構造。
【請求項9】
前記函体構造物の両側の側面部分に沿って縦方方向に連設する前記複数のパイプ部材、及び底面部分に沿って横幅方向に連設する前記複数のパイプ部材の内部に、固化材が充填されて固化している請求項7又は8記載の地下空間構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンダーパス工法及び地下空間構造に関し、特に、既存地下構造物の下方の地下水が存在する地盤に、矩形断面形状を備える函体構造物による地下空間を形成するための、アンダーパス工法及び地下空間構造に関する。
【背景技術】
【0002】
アンダーパス工法は、例えば既存の鉄道や道路等の既存構築物の下方の地盤に、これらを横断する地下空間を形成するための工法として採用されるものであり、R&C工法(登録商標)(例えば、特許文献1参照)やSFT工法(登録商標)(例えば、特許文献2参照)等が知られている。アンダーパス工法は、例えば地下空間の形成予定箇所となる既存構築物の下方の地盤に、矩形状の中空断面形状を有する箱形パイプ部材を連設させて設置することにより、既存構築物を下方から支えて支持する天面部箱形ルーフ、及び側面部箱形ルーフを形成した後に、形成した天面部箱形ルーフ及び側面部箱形ルーフを、地下空間の形成予定箇所に例えばプレキャストコンクリートト製の矩形断面形状を備える函体構造物を推進させて置換することによって、置換した函体構造物による地下空間を形成するようになっている。
【0003】
また、例えば地下に構築された既存構築物(既存地下構築物)の、さらに下方の地盤に、既存地下構築物を横断して函体構造物による地下空間を形成しようとする場合、地下空間の形成予定箇所となる領域を含む地盤が、地下水が存在している地盤となっていると、地下水の流入や浮力等による影響を受けることで、函体構造物を安定した状態で推進することが難しくなると考えられる。また地下水が存在している地盤に設置された函体構造物による地下空間は、特に函体構造物が本体構造物と接続されて一体化するまでの間、地下水による浮力等の影響を受け易くなると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-177553号公報
【特許文献2】特開2012-144942号公報
【特許文献3】特開平6-167595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、例えば特許文献3には、大断面の地下構造物を構築する際に、計画トンネルの両側に発進坑と到達坑とを設け、適宜の深さの地盤内に多数本の鋼管パイプを、互いに密接させた状態で圧入して、横方向及び縦方向に並べたパイプ列によるパイプルーフ防護工を施工した後に、施工されたパイプルーフ防護工の内側の地盤に、地下構造物となるンクリート函体を、発進坑から到達坑に向けて掘進させることが記載されており、これによって、天面部において横方向に並べて連設する複数の鋼管パイプによる天面部のパイプルーフ列と、両側の側面部において縦方向に並べて連設する複数の鋼管パイプによる両側の側面部のパイプルーフ列とによって、周囲を防護された状態で、これらのパイプルーフ列の内側の領域に、コンクリート函体による大断面の地下構造物を、安定した状態で形成できるようにする技術が開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献3に記載の発明では、天面部のパイプルーフ列及び両側の側面部のパイプルーフ列によるパイプルーフ防護工によって、周囲を防護されるコンクリート函体による地下構造物は、地中に形成されている既存地下構造部のさらに下方の地下水の存在する地盤に設置されるものではなく、地下水の流入や浮力等による影響については、何等考慮されていないことから、既存地下構造部のさらに下方の地下水が存在する地盤に、地下空間を形成するための函体構造物を、地下水による影響を効果的に抑制できるように防護しつつ、より安定した状態で推進可能にすると共に、このような地盤に設置された函体構造物による地下空間を、より安定した状態で保持できるようにする、アンダーパス工法に関する新たな技術の開発が望まれている。
【0007】
本発明は、既存地下構造部のさらに下方の地下水が存在する地盤に、地下空間を形成するための函体構造物を、地下水による影響を効果的に抑制できるように防護しつつ、より安定した状態で推進可能にすると共に、このような地盤に設置された函体構造物による地下空間を、より安定した状態で保持させることのできるアンダーパス工法、及びこれによって設けられた地下空間構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、既存地下構造物の下方の地下水が存在する地盤に、当該既存地下構造物の下方を横断して、矩形断面形状を備える函体構造物による地下空間を形成するためのアンダーパス工法であって、前記函体構造物の計画設置領域の天面部分に沿って、フリクションカットプレート部材が上面部に配設された複数の矩形状箱形パイプ部材を、横幅方向に連設させるようにして、作業用立坑から前記既存地下構造物の下方の地盤に密閉式推進工法により各々押し込むことで、前記既存地下構造物の直下部分を横断する天面部箱形ルーフを形成する工程と、前記計画設置領域の両側の側面部分に沿って、複数のパイプ部材を、縦方向に連設させるようにして、作業用立坑から前記既存地下構造物の下方の地盤に各々押し込むことで、前記既存地下構造物の直下部分の地盤を横断する両側の側面部箱形ルーフを形成する工程と、少なくとも前記側面部箱形ルーフの周囲の地盤の地盤改良を行なう工程と、地中に残置される前記フリクションカットプレート部材、及び両側の前記側面部箱形ルーフの間で対向する各内側面によって周囲を囲まれる、断面が矩形状の前記計画設置領域と、同様の矩形断面形状を備える前記函体構造物を、天面部を前記天面部箱形ルーフと置き換えるようにして、前記作業用立坑から前記既存地下構造物の直下部分の地盤に向けて推進する工程とを含んでおり、前記函体構造物を前記既存地下構造物の直下部分の地盤に向けて推進する工程では、両側の前記側面部箱形ルーフ及び前記フリクションカットプレート部材を地中に残置したまま、両側の前記側面部箱形ルーフの間で対向する各内側面に両側の側面部分を各々沿わせるようにしつつ、前記天面部箱形ルーフのみを天面部と置き換えるようにして、前記函体構造物が、前記既存地下構造物の直下部分の地盤に推進されるようになっているアンダーパス工法を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0009】
そして、本発明のアンダーパス工法は、前記計画設置領域の底面部分に沿って、少なくとも両側の前記側面部箱形ルーフと隣接する領域に、複数のパイプ部材を横幅方向に連設させるようにして、作業用立坑から前記既存地下構造物の下方の地盤に各々押し込むことで、前記既存地下構造物の直下部分を横断する底面部箱形ルーフを形成する工程を含んでおり、前記函体構造物を前記既存地下構造物の直下部分の地盤に向けて推進する工程では、前記底面部箱形ルーフを残置したまま、前記側面部箱形ルーフの上側面に底面部を沿わせるようにしつつ、前記函体構造物が、前記既存地下構造物の直下部分の地盤に推進されるようになっていることが好ましい。
【0010】
また、本発明のアンダーパス工法は、前記側面部箱形ルーフを形成するパイプ部材、及び/又は前記底面部箱形ルーフを形成するパイプ部材が、矩形状箱形パイプ部材となっていることが好ましい。
【0011】
さらに、本発明のアンダーパス工法は、前記側面部箱形ルーフの周囲の地盤の地盤改良を行う工程が、前記側面部箱形ルーフを構成する複数の前記矩形状箱形パイプ部材の内部からの作業によって、低圧浸透注入工法により実施されるようになっていることが好ましい。
【0012】
さらにまた、本発明のアンダーパス工法は、前記天面部箱形ルーフを形成する前記矩形状箱形パイプ部材が、略四辺形状の中空断面形状を備えていると共に、両側の側板部の各上端部分で上下に分離可能に連結されたコの字状上部扁平ピースと、コの字状下部ピースとからなり、前記既存地下構造物の下方の地盤に前記天面部箱形ルーフが設置された後に、前記函体構造物が推進される際に、前記コの字状下部ピースが前記コの字状上部扁平ピースから分離されて前記函体構造物の天面部と置き換えられると共に、前記コの字状上部扁平ピースを地中に残置させて前記フリクションカットプレート部材として機能させるようになっていることが好ましい。
【0013】
また、本発明のアンダーパス工法は、前記函体構造物の前面部分の切羽で掘削作業を行うR&C工法(登録商標)として実施されるようになっていることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、上記のアンダーパス工法によって設けられた地下空間構造であって、前記既存地下構造物の下方を横断する地下空間を形成している前記函体構造物の両側の側面部分に沿って、複数のパイプ部材が、縦方方向に連設して改良された地盤と共に設置されている地下空間構造を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0015】
さらに、本発明は、上記のアンダーパス工法によって形成された地下空間構造であって、前記既存地下構造物の下方を横断する地下空間を形成している前記函体構造物の両側の側面部分に沿って、複数のパイプ部材が、縦方方向に連設して改良された地盤と共に設置されていると共に、底面部分に沿って、少なくとも両側の前記側面部箱形ルーフと隣接する領域に、複数のパイプ部材が横幅方向に連設して設置されている地下空間構造を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0016】
そして、本発明の地下空間構造は、前記函体構造物の両側の側面部分に沿って縦方方向に連設する前記複数のパイプ部材、及び底面部分に沿って横幅方向に連設する前記複数のパイプ部材の内部に、固化材が充填されて固化していることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のアンダーパス工法又は地下空間構造によれば、既存地下構造部のさらに下方の地下水が存在する地盤に、地下空間を形成するための函体構造物を、地下水による影響を効果的に抑制できるように防護しつつ、より安定した状態で推進可能にすると共に、このような地盤に設置された函体構造物による地下空間を、より安定した状態で保持させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の好ましい一実施形態に係るアンダーパス工法における、作業用立坑を形成する工程及び鏡部を地盤改良する工程を説明する、(a)は略示縦断面図、(b)は(a)のA-Aに沿った略示横断面図である。
図2】天面部箱形ルーフを形成する工程を説明する略示縦断面図である。
図3】天面部箱形ルーフを形成する工程、側面部箱形ルーフ22を形成する工程、及び底面部箱形ルーフを形成する工程を説明する、(a)は略示縦断面図、(b)は(a)のA’-A’に沿った略示横断面図である。
図4】函体構造物の先端部に設置されるルーフ支持鋼殻を説明する略示斜視図である。
図5】作業用立坑の内部で函体構造物を形成する状況を説明する略示縦断面図である。
図6】作業用立坑の内部で函体構造物を形成する状況を説明する略示斜視図である。
図7】函体構造物を既存地下構造物の直下部分の地盤に向けて推進する工程を説明する略示縦断面図である。
図8】函体構造物を既存地下構造物の直下部分の地盤に向けて推進する工程を説明する略示斜視面図である。
図9】既存構造物の下方を横断して形成された函体構造物による地下空間を説明する略示縦断面図である。
図10】既存構造物の下方を横断して形成された函体構造物による地下空間を説明する略示斜視図である。
図11】箱形パイプ部材を説明する、(a)は横断面図、(b)はコの字状上部扁平ピースとコの字状下部ピースを分離した状態の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の好ましい一実施形態に係るアンダーパス工法は、図1(a)、(b)に示すように、既存地下構造物30として、例えば地下鉄用の既存の設備構造物の下方の地盤に、他の新設の地下鉄用の地下空間26(図9図10参照)を、既存地下構造物30の直下部分を横断して設置した、函体構造物15(図7図8参照)によって形成するための工法として採用されたものである。また、本実施形態では、アンダーパス工法として、切羽部28(図7参照)において、箱形ルーフ20で囲まれた内側の領域に残置された地盤を掘削しながら函体構造物15を推進する、R&C工法(登録商標)が採用されると共に、既存地下構造物30を挟んだ箱形ルーフ20や函体構造物15の到達側にも、既存の設備構造物40が地下構造物として形成されていることから、発進側の立坑のみを作業用立坑31として、到達側に立坑を設けることなく、各々の作業工程が実施されるようになっている。発進側の立坑のみを作業用立坑31としていることから、例えば特開2001-72670号に記載の地下構造物の構築方法と同様に、箱形ルーフ20を構成する箱形パイプ部材17を、例えば後述する単位コの字状下部ピース19a毎に作業用立坑31に回収しつつ、函体構造物15が、これと置換されるようにして、既存地下構造物30下方の地盤に推進されるようになっている(図7図8参照)。なお、図3図8においては、箱形ルーフ20は、これの内側に残置された地盤(土砂)が、省略された状態で示されている。
【0020】
さらに、本実施形態では、既存地下構造物30の下方の地盤には、地下水が存在しており、本実施形態のアンダーパス工法は、このような地下水が存在する地盤に、函体構造物15による地下空間26を形成する場合であっても、地下空間26を形成するための函体構造物15を、地下水による影響を効果的に抑制できるように防護しつつ、より安定した状態で推進可能にすると共に、このような地盤に設置された函体構造物15による地下空間26を、より安定した状態で保持できるようにするものとなっている。
【0021】
そして、本実施形態のアンダーパス工法は、既存地下構造物30の下方の地下水が存在する地盤に、当該既存地下構造物30の下方を横断して、矩形断面形状を備える函体構造物15による地下空間26を形成するための、好ましくはR&C工法(登録商標)によるアンダーパス工法であって、函体構造物15の計画設置領域35の天面部分35aに沿って、フリクションカットプレート部材18が上面部に配設された複数の矩形状箱形パイプ部材17を、横幅方向に連設させるようにして、作業用立坑31から既存地下構造物30の下方の地盤に密閉式推進工法により各々押し込むことで、既存地下構造物30の直下部分を横断する天面部箱形ルーフ21を形成する工程(図2参照)と、計画設置領域35の両側の側面部分35bに沿って、複数のパイプ部材17’を、縦方向に連設させるようにして、作業用立坑31から既存地下構造物30の下方の地盤に各々押し込むことで、既存地下構造物30の直下部分の地盤を横断する両側の側面部箱形ルーフ22を形成する工程と、少なくとも側面部箱形ルーフ22の周囲の地盤の地盤改良を行なう工程(図3(a)、(b)参照)と、地中に残置されるフリクションカットプレート部材18、及び両側の側面部箱形ルーフ22の間で対向する各内側面22aによって周囲を囲まれる、断面が矩形状の計画設置領域35と、同様の矩形断面形状を備える函体構造物15を、天面部15aを天面部箱形ルーフ21と置き換えるようにして、作業用立坑31から既存地下構造物30の直下部分の地盤に向けて推進する工程(図7図8参照)とを含んでいる。函体構造物15を既存地下構造物30の直下部分の地盤に向けて推進する工程では、両側の側面部箱形ルーフ22及びフリクションカットプレート部材18を地中に残置したまま、両側の側面部箱形ルーフ22の間で対向する各内側面22a(図3(b)参照)に両側の側面部分15b(図10参照)を各々沿わせるようにしつつ、天面部箱形ルーフ21のみを天面部15aと置き換えるようにして、函体構造物15が、既存地下構造物30の直下部分の地盤に推進されるようになっている。
【0022】
また、本実施形態では、好ましくは計画設置領域35の底面部分35cに沿って、少なくとも両側の側面部箱形ルーフ22と隣接する領域に、複数のパイプ部材17”を横幅方向に連設させるようにして、作業用立坑31から既存地下構造物30の下方の地盤に各々押し込むことで、既存地下構造物30の直下部分を横断する底面部箱形ルーフ23を形成する工程(図3(a)、(b)参照)を含んでおり、函体構造物15を既存地下構造物30の直下部分の地盤に向けて推進する工程では、底面部箱形ルーフ23を残置したまま、底面部箱形ルーフ23の上側面23aに底面部分15c(図10参照)を沿わせるようにしつつ、函体構造物15が、既存地下構造物30の直下部分の地盤に推進されるようになっている。
【0023】
さらに、本実施形態では、好ましくは天面部箱形ルーフ21を形成する矩形状箱形パイプ部材17は、図11(a)、(b)に示すように、略四辺形状の中空断面形状を備えていると共に、両側の側板部17aの各上端部分で上下に分離可能に連結されたコの字状上部扁平ピース18と、コの字状下部ピース19とからなり、既存構造物30の下方の地盤に天面部箱形ルーフ21が設置された後に、函体構造物15が推進される際に、コの字状下部ピース19がコの字状上部扁平ピース18から分離されて函体構造物15の天面部15aと置き換えられると共に、コの字状上部扁平ピース18を残置させてフリクションカットプレート部材として機能させるようになっている(図7参照)。
【0024】
本実施形態では、好ましくはR&C工法によって、既存地下構造物30の下方に地盤に函体構造物15による地下空間26を形成する作業に先立って、既存地下構造物30を挟んだ一方側に、作業基地となる作業用立坑31を形成する工程が実施される(図1参照)。本実施形態では、上述のように、既存地下構造物30を挟んだ他方側には、既存の設備構造物40が形成されていることとから、一方側のみに作業用立坑31を形成して、R&C工法の各々の作業工程を実施するようになっている。作業用立坑31は、例えばシールド掘進機によるシールド工法において形成される立坑と同様に、止水性に富んだ好ましくはSMW工法による地盤改良と矢板を用いた土留壁32を形成して、これの内側を山留しつつ所定の深さまで掘削することによって、容易に形成することができる。作業用立坑31側の表面は矢板で保護され、切梁等の支保工によって支持される。形成された作業用立坑31には、箱形パイプ部材17や函体構造物15を推進させる推進設備や、側面部箱形ルーフ22の周囲を地盤改良するための薬液の注入設備や、箱形パイプ部材17を単位コの字状下部ピース19a毎に撤去する際の撤去設備等が、適宜設置されることになる(図7図8参照)。
【0025】
また、本実施形態では、好ましくは作業用立坑31の土留壁32を形成するSMW工法を施工したら、これの内側を掘削するのに先立って、既存構造物30の下方を横断する方向における、函体構造物15の計画設置領域35の両側の端部の地盤に、地盤改良によって鏡部の改良地盤33,34を形成するための、鏡部を地盤改良する工程が行われる。鏡部改良地盤33,34は、既存地下構造物30を挟んだ両側の地盤における、函体構造物15の計画設置領域35と同様の高さ部分を含んだ領域に形成することができる。鏡部改良地盤33,34は、函体構造物15の計画設置領域35の両側の端部として、作業用立坑31の土留壁32側の端部の発進部分には、発進側鏡部改良地盤33が形成されると共に、既存の設備構造物40側の端部の到達部分には、到達側鏡部改良地盤34が形成されるようになっている(図1参照)。鏡部改良地盤33,34は、地上から薬剤を高圧噴射して注入することによる縦方向への地盤改良工法によって、シールド工法における鏡部の地盤改良工法と同様に、容易に形成することが可能になる。鏡部地盤改良工程は、土留壁32を形成するSMW工法を施工する前に、実施することもできる。また、地下水位が計画設置領域35の上端より低い場合は、土留壁32の地盤改良に変えて行っても良い。
【0026】
作業用立坑31及び鏡部改良地盤33,34を形成したら、本実施形態では、図2及び図3(a)、(b)に示すように、作業用立坑31に公知の推進設備(図示せず。)を設置して、従来のR&C工法と同様に、函体構造物15の計画設置領域35における天面部分35aに沿って、フリクションカットプレート部材18が上面部に配設された複数の矩形状箱形パイプ部材17の各々を、横幅方向に連設させるようにして作業用立坑31から既存構造物30の下方の地盤に圧密推進工法により押し込むことで、既存地下構造物30の直下部分を横断する天面部箱形ルーフ21を形成する工程が実施される(図2参照)。天面部箱形ルーフ21を形成する矩形状箱形パイプ部材17は、各々、好ましくは横幅が800~1400mm程度、縦幅が800~1400mm程度の大きさの、略四辺形状の中空断面形状(本実施形態では略正方形の中空断面形状)を有しており、作業員が立ち入って作業を行える程度の空間を内部に備えている。本実施形態では、矩形状箱形パイプ部材17の上面部に配設されたフリクションカットプレート部材18は、好ましくは矩形状箱形パイプ部材17のコの字状上部扁平ピース18によるものとなっている。
【0027】
また、本実施形態では、函体構造物15の計画設置領域35における両側の側面部分35bに沿って、複数のパイプ部材17’を、縦方向に連設させるようにして、作業用立坑31から既存地下構造物30の下方の地盤に各々押し込むことで、既存地下構造物30の直下部分の地盤を横断する両側の側面部箱形ルーフ22を形成する工程が実施されるようになっていると共に、さらに、好ましくは計画設置領域35の底面部分35cに沿って、少なくとも両側の側面部箱形ルーフ22と隣接する領域に、複数のパイプ部材17”を横幅方向に連設させるようにして、作業用立坑31から既存地下構造物30の下方の地盤に各々押し込むことで、既存地下構造物30の直下部分を横断する底面部箱形ルーフ23を形成する工程が実施されるようになっている(図3(a)、(b)参照)。これらによって、既存構造物30の直下部分を横断する天面部箱形ルーフ21及び側面部箱形ルーフ22に加えて、好ましくは両側の端部角部部分の底面部箱形ルーフ23を含む、箱形ルーフ20を形成することが可能になる。
【0028】
ここで、側面部箱形ルーフ22や底面部箱形ルーフ23を形成するパイプ部材17’,17”は、天面部箱形ルーフ21を形成する矩形状箱形パイプ部材17と同様に、例えば縦横800~1400mm程度の大きさの中空の略正方形の断面形状を有するものとすることができる。本実施形態では、側面部箱形ルーフ22や底面部箱形ルーフ23を形成するパイプ部材17’,17”は、作業用立坑31に回収されることなく、地中に残置されたまま埋設されるものとなる(図10参照)。このようなことから、側面部箱形ルーフ22や底面部箱形ルーフ23を形成するパイプ部材17’,17”は、例えば円筒形状のパイプ部材等の、矩形状箱形パイプ部材17とは異なる断面形状のパイプ部材とすることもできる。本実施形態では、これらのパイプ部材17’,17”や上述の矩形状箱形パイプ部材17は、好ましくは適宜の長さとして、例えば3mの長さに分割した単位箱形パイプを順次継ぎ足しながら、既存地下構造物30の直下部分の地盤を横断するのに十分な延長で、地中に設置することができる。
【0029】
また、実施形態では、矩形状箱形パイプ部材17やパイプ部材17’,17”が推進される、既存地下構造物30の下方の地盤には、地下水が存在していることから、これらのパイプ部材17,17’,17”は、内部への地下水の侵入を回避できるように、全面を密閉する方式の掘削装置を先端部分に取り付けて推進する、密閉式推進工法によって、既存地下構造物30の下方の地盤に推進されて押し込まれるようになっている。これらのパイプ部材17,17’,17”の先端部分の、全面を密閉する方式の掘削装置としては、例えば特開2022-134305号公報や、特開2022-134306号公報に記載の掘進機を用いることができる。これらの掘削装置は、パイプ部材17,17’,17”の先端部分からの取り外しが可能なので、推進したパイプ部材17,17’,17”の先端部分が、既存地下構造物30を挟んだ推進方向の前方側の、先端到達部分の鏡部改良地盤34に至った後に、先端部分から取り外して、他のパイプ部材17,17’,17”に転用して用いることができる。
【0030】
そして、本実施形態では、天面部箱形ルーフ21を形成する矩形状箱形ルーフパイプ17は、上述のように、略四辺形状(略正方形)の中空断面形状を備えていると共に、例えば3m程度の長さの複数の単位箱形ルーフパイプを、公知のボルト接合やピン接合等の接合手段を用いて、軸方向に連結一体化して所定の長さに形成されるようになっている。
【0031】
また、本実施形態では、単位箱形ルーフパイプは、所定の長さとして、例えば3mの長さの単位コの字状上部扁平ピースの下方に、これよりも長さの短い例えば1mの長さの複数の単位コの字状下部ピース19a(図7図8参照)を、軸方向に連結一体化させた状態で、上下に分離可能に接合して形成されている。これによって、後述するように、天面部箱形ルーフ21を形成する矩形状箱形ルーフパイプ17のコの字状下部ピース19を、フリクションカットプレート部材となる単位コの字状上部扁平ピースによるコの字状上部扁平ピース18を地中に残置したまま、当該コの字状下部ピース19を構成する単位コの字状下部ピース19a毎に、後端部の単位コの字状下部ピース19aから、函体構造物15の内側に、順次撤去できるようになっている。これらの単位コの字状下部ピース19aは、撤去される前の状態では、公知のボルト接合やピン接合等の接合手段を用いて、単位コの字状上部扁平ピースの下方において、軸方向に連結一体化しておくことができる。
【0032】
天面部箱形ルーフ21及び側面部箱形ルーフ22に加えて、好ましくは両側の端部角部部分の底面部箱形ルーフ23を含む箱形ルーフ20を形成したら、少なくとも側面部箱形ルーフ22の周囲の地盤の地盤改良を行なう工程として、例えば作業用立坑31からの作業によって、好ましくは低圧浸透注入工法を実施する。また、側面部箱形ルーフ22を構成するパイプ部材17’が、作業員が立ち入り可能な空間を内部に備えている場合には、好ましくはこれらのパイプ部材17’の内部からの作業によって、実施することができる。少なくとも側面部箱形ルーフ22の周囲の地盤が地盤改良されていることによって、函体構造物15の推進時に、側面部箱形ルーフ22からこれの内側に、地下水が流入しないようにすることが可能になる。また箱形ルーフ20の内側の地盤を、掘削時に地山の崩壊が起きず、且つ掘削しにくくならない程度の硬さになるように、効果的に改良することが可能になる。作業用立坑31が小さく、側面部箱形ルーフ22の外側の領域との間に地盤改良を行うスペースを十分に確保できない場合には、側面部箱形ルーフ22の外側の領域についてはパイプ部材17’から、側面部箱形ルーフ22の内側の計画設置領域35について作業用立坑31から、各々地盤改良の作業を行ようにすることもできる。
【0033】
本実施形態では、例えば作業用立坑31からの作業によって、好ましくは低圧浸透注入工法を実施することにより、天面部箱形ルーフ21や底面部箱形ルーフ23の周囲の地盤を地盤改良することもできる。天面部箱形ルーフ21や底面部箱形ルーフ23の周囲の地盤の地盤改良は、矩形状箱形ルーフパイプ17やパイプ部材17”の内部からの作業によって実施することもできる。天面部箱形ルーフ21や底面部箱形ルーフ23の周囲の地盤を地盤改良することによって、函体構造物15の推進時に、さらに効果的に、箱形ルーフ20の内側に地下水が流入しないようにすることが可能になる。
【0034】
本実施形態では、地下水の存在する地盤において、天面部箱形ルーフ21や側面部箱形ルーフ22や底面部箱形ルーフ23を構成するパイプ部材17,17’,17”を、各々地中に押し込むようになっており、また切羽部を開放させない密閉式の推進工法によって、パイプ部材17,17’,17”が地中に推進されるようになっていることから、各々のパイプ部材17,17’,17”は、隣接するパイプ部材同士を係止接合するためのセクション(継手)を外周部分に有しておらず、これらの間に隙間部分を生じ易くなっている。このため、これらの間の隙間部分の地山に対して、より効果的に止水処理を行うことができるように、天面部箱形ルーフ21、側面部箱形ルーフ22、及び底面部箱形ルーフ23による箱形ルーフ20の全体における、周囲の地盤の地盤改良が実施されるようになっていることが好ましい。
【0035】
ここで、低圧浸透注入工法は、中結~瞬結性のグラウトを用いて、対象となる地盤の手前から奥へ、漸次各ステージ毎に注入を行う、下降注入方式による低圧の浸透注入工法として公知のものである。低圧浸透注入工法は、軽量小型の穿孔機やツールを用いることから、ボーリングマシーン等を持ち込むことができない狭隘箇所での作業が可能であると共に、締まった砂質地盤や砂層が介在する複雑な地盤などに、効果的な注入を行なうことが可能な工法である。また、低圧で中結~瞬結性のグラウトを注入することから、低圧浸透効果が得られて、地盤隆起や周辺構造物への影響がほとんど無く、下降注入方式でステージ毎に改良できるため、注入効果(湧水状況等)を確認しながら施工することも可能である。さらに、改良後の地盤は、掘削が容易な適度な固さを備えることになる。このような低圧浸透注入工法としては、例えば日本綜合防水株式会社製の「ステージ注入工法」を採用することができる。
【0036】
本実施形態では、少なくとも側面部箱形ルーフ22の周囲の地盤の地盤改良を行なう工程を実施したら、次に、図5図8に示すように、地中に残置されるフリクションカットプレート部材18、及び両側の側面部箱形ルーフ22の間で対向する各内側面21aによって周囲を囲まれる、断面が矩形状の計画設置領域35と、同様の矩形断面形状を備える函体構造物15を、天面部15aを天面部箱形ルーフ21と置き換えるようにして、作業用立坑31から既存地下構造物30の直下部分の地盤に向けて推進する工程が実施されるようになっている。また函体構造物15を既存地下構造物30の直下部分の地盤に向けて推進する工程では、両側の側面部箱形ルーフ22及びフリクションカットプレート部材18を地中に残置したまま、両側の側面部箱形ルーフ22の間で対向する各内側面22a(図3(b)参照)に両側の側面部分15b(図10参照)を各々沿わせるようにしつつ、天面部箱形ルーフ21のみを天面部15aと置き換えるようにして、函体構造物15が、既存地下構造物30の直下部分の地盤に推進されるようになっており、これによって函体構造物15による地下空間26が形成されるようになっている(図9図10参照)。
【0037】
また、本実施形態では、函体構造物15は、複数のプレキャストコンクリート製のアンダーパス用函体ピース16を単位函体として、これらのプレキャストコンクリート製のアンダーパス用函体ピース16を、推進方向に連接して構成されるものとなっている。函体構造物15を既存地下構造物30の直下部分の地盤に向けて推進する工程において、プレキャストコンクリート製のアンダーパス用函体ピース16を、作業用立坑31に一体ずつ設置して(図5図6参照)、設置したアンダーパス用函体ピース16を、先行して押し出されたアンダーパス用函体ピース(単位函体)16と共に前方に押し出すことで、函体構造物15が、天面部箱形ルーフ21のみを天面部15aと置き換えるようにして、既存地下構造物30の直下部分の地盤に推進されるようになっている。また天面部箱形ルーフ21の下方の地盤(箱形ルーフ20の内側の地盤)を、作業用立坑31側の切羽部28で掘削することによって、後方に張り出すようにして露出した、箱形パイプ部材17の後端部分における、アンダーパス用函体ピース16の天面部16aと対向する部分に配置された単位コの字状下部ピース19aが、好ましくはルーフ支持鋼殻11(図4参照)を介して、後端部のものから順次撤去されるようになっている(図7図8参照)。
【0038】
すなわち、本実施形態では、好ましくは側面部箱形ルーフ22及び底面部箱形ルーフ23を地中に残置したまま、天面部箱形ルーフ21を構成する各々の矩形状箱形パイプ部材17の単位箱形パイプの単位コの字状下部ピース19aを、函体構造物15の天面部15aと置き換えるようになっており、また連接する複数のアンダーパス用函体ピース16による函体構造物15は、先端部に単位コの字状下部ピース18bを回収するためのルーフ支持鋼殻11(図4参照)が取り付けられた状態で、作業用立坑31に設置した推進設備27によって、作業用立坑31から、既存構造物30の直下部分の地盤に向けて推進させるようになっている。
【0039】
そして、本実施形態では、例えば狭い空間の作業用立坑31において、R&C工法の各工程が実施されるようになっていることから、函体構造物15は、軸方向(推進方向)に連続して連結一体化される複数のプレキャストコンクリート製の単位函体であるアンダーパス用函体ピース16によって、形成されるようになっている(図5図7図9参照)。また各々のアンダーパス用函体ピース16は、周方向に分割された複数の分割ピースであるプレキャストピース16bを、作業用立坑31において一体として組み付けることで(図6参照)、例えば推進設備27のジャッキストロークに相当する、好ましくは1m程度の厚さを備えるように形成されることになる。すなわち、各々のアンダーパス用函体ピース16は、図5及び図6に示すように、作業用立坑31において先行して組み付けられた、後述するルーフ支持鋼殻11を構成する函体側矩形枠体13の後方で、地上から作業用立坑31に吊り込まれたプレキャストピース16bを、作業用立坑31において矩形形状となるように組み付けることによって、形成することができるようになっている。また形成されたアンダーパス用函体ピース(単位函体)16は、軸方向に順次連接され、作業用立坑31に設置した推進設備27によって、函体構造物15として、先端部のルーフ支持鋼殻11と共に既存構造物30の直下部分の地盤に向けて推進されて、押し出されて行くことになる(図7参照)。
【0040】
すなわち、例えば推進設備27のジャッキストローク毎に形成されたアンダーパス用函体ピース16は、従来のR&C工法と同様に、函体構造物15の構成部材として、函体構造物15の推進方向に、これの後方側から順次連接して組み付けられることになる。これによって形成される函体構造物15は、天面部箱形ルーフ21を構成する各々の矩形状箱形パイプ部材17の単位箱形パイプの単位コの字状下部ピース19aと、天面部15aを置き換えるようにしながら、且つ各々の矩形状箱形パイプ17のコの字状上部扁平ピース18を、フリクションカットプレート部材として地中に残置したまま、作業用立坑31から、既存構造物30の直下部分の地盤に向けて、先端部に設置されたルーフ支持鋼殻11と共に推進されるようになっている。これによって、当該函体構造物15による地下空間26を、既存構造物30の直下部分の地盤を横断させてこれの直下部分の地盤に、形成することが可能になる(図9図10参照)。
【0041】
ここで、本実施形態では、函体構造物15及びアンダーパス用函体ピース16は、地中に残置されるフリクションカットプレート部材18、及び両側の側面部箱形ルーフ22の間で対向する各内側面22aによって周囲を囲まれる(図3(b)参照)、断面が矩形状の計画設置領域35と、同様の矩形断面形状又は矩形正面形状を備えており、函体構造物15は、天面部25aを天面部箱形ルーフ21と置き換えるようにして、作業用立坑31から既存地下構造物30の直下部分の地盤に向けて推進されるようになっている。函体構造物15を既存地下構造物30の直下部分の地盤に向けて推進する工程では、両側の側面部箱形ルーフ22及びフリクションカットプレート部材18を地中に残置したまま、両側の側面部箱形ルーフ22の間で対向する各内側面22aに両側の側面部分15bを各々沿わせるようにしつつ、天面部箱形ルーフ21のみを天面部15aと置き換えるようにして、函体構造物15が、既存地下構造物30の直下部分の地盤に推進されるようになっている(図10参照)。また好ましくは底面部箱形ルーフ23を残置したまま、底面部箱形ルーフ23の上側面23aに底面部分15cを沿わせるようにしつつ、函体構造物15が、既存地下構造物30の直下部分の地盤に推進されるようになっている。
【0042】
これらによって、本実施形態では、特に両側の側面部箱形ルーフ22によって案内させながら、函体構造物15を、安定した状態で既存地下構造物30の直下部分の地盤に推進させることが可能になると共に、好ましくは底面部箱形ルーフ23の上側面23aに底面部分15c支持させながら、これに沿わせるようにして函体構造物15を推進させることで、より安定した状態で、既存地下構造物30の直下部分の地盤に推進させることが可能になる。また特に、両側の側面部箱形ルーフ22の周囲の地盤が地盤改良されていて、止水性が向上しているので、地下空間26を形成するための函体構造物15を効果的に防護して、函体構造物15が、地下水の流入や浮力等による影響を受けることになるのを、効果的に抑制することが可能になる。
【0043】
また、本実施形態では、上述のように、好ましくはR&C工法によるアンダーパス工法として、図7に示すように、切羽部28において箱形ルーフ20の内側の地盤を掘削しながら函体構造物15が推進されると共に、発進側の立坑のみを作業用立坑31としていることから、函体構造物15を既存地下構造物30の直下部分の地盤に向けて推進する工程において、天面部箱形ルーフ21を形成する各々の箱形パイプ部材17の、単位箱形パイプのコの字状下部ピース19を構成する単位コの字状下部ピース19aを、ルーフ支持鋼殻11を介して作業用立坑31に順次回収しつつ、函体構造物15が既存地下構造物30下方の地盤に推進されるようになっている。
【0044】
すなわち、本実施形態では、複数のアンダーパス用函体ピース16による函体構造物15の推進方向の先端部に、箱形ルーフ20との間に介在して、函体構造物15の断面形状に沿った外周形状を有する一対の矩形枠体12,13を備える、ルーフ支持鋼殻11が設置されている(図5図7参照)。ルーフ支持鋼殻11は、図4にも示すように、ルーフ側矩形枠体12及び函体側矩形枠体13と、これらの矩形枠体12,13を平行に並べた状態で接合一体化する、複数の連結鋼材14とを含んで構成されている。ルーフ支持鋼殻11は、ルーフ側矩形枠体12及び函体側矩形枠体13と、これらの矩形枠体12,13を平行に並べた状態で接合一体化する、複数の連結鋼材14とを含んで構成されている。ルーフ支持鋼殻11が介在していることで、矩形枠体12,13の間に、箱形ルーフパイプ17の単位コの字状下部ピース19aが通過可能で、且つ作業員が立入り可能な間隔部分が保持される。
【0045】
また、本実施形態では、ルーフ支持鋼殻11におけるルーフ側矩形枠体12及び函体側矩形枠体13の上辺部鋼材12a,13aは、好ましくは先行して設置された天面部箱形ルーフ21の下面と同様の高さ位置に、上面が配置されるように設置されているので、好ましくはルーフ側矩形枠体12の上辺部鋼材12aの上に、天面部箱形ルーフ21の後端部分を載置させることで(図7参照)、当該ルーフ支持鋼殻11によって、天面部箱形ルーフ21の後端部分を、下方から強固に且つ安定した状態で支持することが可能になる。また函体側矩形枠体13が函体構造物15の前面に当接することで、函体構造物15の推進に伴って、ルーフ支持鋼殻11を、函体構造物15と共にスムーズに前進させることが可能になる。函体構造物15の先端部分において、ルーフ支持鋼殻11は、函体構造物15の両側部に取り付けた先端刃口部材の内側に配置して設けることができ、また当該ルーフ支持鋼殻11の両側部に、先端刃口部材を取り付けて、切羽部28の地盤を掘削できるようにすることも可能である。
【0046】
さらに、本実施形態では、上述のように、箱形ルーフ20の内側の地盤を切羽部28において掘削しつつ、函体構造物15を推進させる際に、ルーフ支持鋼殻11のルーフ側矩形枠体12と函体側矩形枠体13との間隔部分の直上に張り出してきた、天面部箱形ルーフ21を形成する各々の矩形状箱形パイプ部材17の、後端部に配置された単位箱形パイプのコの字状下部ピース19を構成する各々の単位コの字状下部ピース19aを、これらの間隔部分を介して函体構造物15の内側に順次回収して、撤去することができるようになっている(図7図8参照)。
【0047】
さらにまた、本実施形態では、単位コの字状下部ピース19aを撤去する際に、函体構造物15の先端と切羽部28との間の部分における上方からの荷重は、先端部分が好ましくは耐荷ローラ部材を介して函体構造物15の天面部15aに載置された、フリクションカットプレート部材として機能する、コの字状上部扁平ピース18によって、下方から支持することが可能になる(図7参照)。本実施形態では、図11(a)、(b)に示すように、コの字状上部扁平ピース18は、両側の側部が下方に折れ曲がった、扁平なコの字状の断面形状を備えていることで、平坦な形状のフリクションカットプレートと比較して、相当の剛性を備えることになるので、安定した状態で、上方からの荷重を支持することが可能になる。これに加えて、本実施形態では、互いに連結されたままの状態のコの字状上部扁平ピース18は、これの天板部の下面側に、帯板形状の高さ調整金物18aが固着された状態で取り付けられているので、これらの高さ調整金物18aにより剛性がさらに高められることによって、より安定した状態で、上方からの荷重を支持することが可能になる。
【0048】
そして、本実施形態では、上述のように、函体構造物15を既存地下構造物30の直下部分の地盤に向けて推進する工程において、天面部箱形ルーフ21を形成する各々の矩形状箱形パイプ部材17の後端部分の、アンダーパス用函体ピース16の天面部16aと対向する部分に配置された、コの字状下部ピース19を構成する単位コの字状下部ピース19aを、各々撤去した長さ分、アンダーパス用函体ピース16による函体構造物15を、一体として前方に押し出すようになっている。これらの単位コの字状下部ピース19aを撤去する工程と、函体構造物15を押し出す工程とを繰り返えして、少なくとも天面部15aを天面部の箱形ルーフ21と置き換えることによって、複数のアンダーパス用函体ピース16を連接一体化して得られた函体構造物15による、地下空間26(図9図10参照)が、既存地下構造物30の直下部分の地盤に形成されることになる。
【0049】
またこれによって、既存地下構造物30の下方を横断する地下空間26を形成している函体構造物15の両側の側面部分15bに沿って、側面部箱形ルーフ22を構成する複数のパイプ部材17’が、縦方方向に連設して改良地盤と共に残置されている、本実施形態の地下空間構造50が、既存地下構造物30の直下部分の地盤に設けられることになる(図10参照)。
【0050】
このようにして設けられた地下空間構造50は、地下空間26を形成している函体構造物15の周囲が、周囲の地盤が地盤改良された、特に両側の側面部箱形ルーフ22によって防護されていて、止水性が向上しているので、函体構造物15が地下水の流入や浮力等による、地下水の影響を受けることになるのを、効果的に抑制して、地下水が存在する地盤に設置された函体構造物15による地下空間26を、より安定した状態で、長期間保持させることが可能になる。また、本実施形態の地下空間構造50は、好ましくは既存地下構造物30の下方を横断する地下空間26を形成している函体構造物15の底面部分15cに沿って、少なくとも両側の側面部箱形ルーフ22と隣接する領域に、底面部箱形ルーフ23を構成する複数のパイプ部材17”が、周囲の地盤改良された地盤と共に、横幅方向に連設して残置されているので、函体構造物15が地下水の流入や浮力等による、地下水の影響を受けることになるのを、より効果的に抑制して、地下水が存在する地盤に設置された函体構造物による地下空間を、さらに安定した状態で、長期間保持させることが可能になる。
【0051】
函体構造物15の両側の側面部分15bに沿って縦方方向に連設する、側面部箱形ルーフ22を構成する複数のパイプ部材17’、及び底面部分15cに沿って横幅方向に連設する、底面部箱形ルーフ23を構成する複数のパイプ部材の内部には、固化材を充填して、固化させておくことが好ましい。
【0052】
これらによって、本実施形態のアンダーパス工法又は地下空間構造50によれば、既存地下構造物30のさらに下方の地下水が存在する地盤に、地下空間26を形成するための函体構造物15を、地下水による影響を効果的に抑制できるように防護しつつ、より安定した状態で推進可能にすると共に、このような地盤に設置された函体構造物15による地下空間26を、より安定した状態で保持させることが可能になる。
【0053】
このようにして、本実施形態では、函体構造物15が地中に推進されて、函体構造物15の先端が、例えば既存構造物30を挟んだ推進方向の前方側の到達側鏡部改良地盤34に至ることで、既存地下構造物30の直下部分を横断して設置された当該函体構造物15による、地下空間26が形成されることになる(図8図9参照)。形成された地下空間26は、例えば他の既存の設備構造物40における地下空間26と対応する部分の側壁40aを撤去することによって、既存の設備構造物40と連通させて用いることが可能になる(図9参照)。
【0054】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、下方の地盤に函体構造物による地下空間が形成される既存地下構造物は、地下鉄用の既存地下構造物や道路用の既存地下構造物等の他、ビルの地下室や下水用の管路等の、その他の種々の既存地下構造物であっても良い。また、箱形ルーフを形成するパイプ部材や、函体構造物は、既存地下構造物を挟んだ到達側にも作業用立坑を設けて、到達側の作業用立坑に向けて推進させるようにしても良い。到達側にも作業用立坑が設けられている場合には、アンダーパス工法として、到達側の作業用立坑で箱形ルーフの内側に残置された地盤や土砂を撤去する、SFT工法(登録商標)において、本発明を実施することもできる。また既存構造物は、地下構造物である必要は必ずしもない。
【符号の説明】
【0055】
11 ルーフ支持鋼殻
12 ルーフ側矩形枠体
12a 上辺部鋼材
13 函体側矩形枠体
13a 上辺部鋼材
14 連結鋼材
15 函体構造物
15a 天面部
15b 側面部分
15c 底面部分
16 アンダーパス用函体ピース(単位函体)
16a 天面部
16b プレキャストピース
17,17’,17” 箱形パイプ部材
18 コの字状上部扁平ピース(フリクションカットプレート部材)
19 コの字状下部ピース
19a 単位コの字状下部ピース
20 箱形ルーフ
21 天面部箱形ルーフ
22 側面部箱形ルーフ
22a 内側面
23 底面部箱形ルーフ
23a 上側面
26 地下空間
27 推進設備
28 切羽部
30 既存地下構造物
31 作業用立坑
32 土留壁
33 発進側鏡部改良地盤
34 到達側鏡部改良地盤
35 函体構造物の計画設置領域
35a 天面部分
35b 側面部分
35c 底面部分
40 到達側の既存の構造物
40a 地下空間と対応する部分の側壁
50 地下空間構造
B 作業空間幅
図1
図2
図3
図4
図5
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図8
図9
図10
図11