(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143680
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】けん引式アンダーパス工法
(51)【国際特許分類】
E21D 9/06 20060101AFI20241003BHJP
E02D 29/05 20060101ALI20241003BHJP
E21D 9/04 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
E21D9/06 311B
E02D29/05 F
E21D9/04 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056468
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(71)【出願人】
【識別番号】592069137
【氏名又は名称】植村技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 威
(72)【発明者】
【氏名】平賀 優司
(72)【発明者】
【氏名】北村 貴洋
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 静花
(72)【発明者】
【氏名】金子 大貴
【テーマコード(参考)】
2D054
2D147
【Fターム(参考)】
2D054AC18
2D054AD37
2D054BA18
2D147AA05
2D147DA04
(57)【要約】
【課題】函体構造物の重量が重いものであっても、けん引する際の支持反力を、安定した状態で得ることのできるけん引式アンダーパス工法を提供する。
【解決手段】高速道路50の直下部分の地盤に箱形ルーフ22を形成する箱形ルーフ形成工程と、函体構造物20を、箱形ルーフ22と置き換えるようにしつつ、到達基地52側にけん引して、高速道路50の下方の地盤に設置するけん引工程とを含んでいる。けん引工程では、到達基地52において、支持壁体11のけん引方向Xの対向面部11bと、高速道路50の下方の盛土地盤の鏡壁面部53aとの間につなぎ梁13を架設しておき、架設した該つなぎ梁13を介することで、けん引用鋼線12によって函体構造物20をけん引する際の支持反力を、支持壁体11のみならず盛土地盤の鏡壁面部53aにも負担させる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存構造物の下方の地盤を横断させてけん引した矩形断面形状を備える函体構造物による、地下空間を形成するためのけん引式アンダーパス工法であって、
前記函体構造物が設置されることになる、前記既存構造物の下方の地盤における前記函体構造物の計画設置領域を挟んだ一方の側に設けられた発進基地から、他方の側に設けられた到達基地に向けて、複数の中空パイプ部材を、前記計画設置領域の周方向に並べて連設させるようにして、前記既存構造物の直下部分の地盤に各々押し込むことで、前記既存構造物の直下部分の地盤を横断する少なくとも天面部パイプ列を含む箱形ルーフを形成する箱形ルーフ形成工程と、
前記到達基地に立設して設けられた支持壁体のけん引方向の背面部に一端部が連結支持されると共に、前記計画設置領域を横断するように延設して、前記発進基地に設けられた前記函体構造物のけん引方向の後端部に係止されたけん引用鋼線によって、前記函体構造物を、天面部を前記天面部パイプ列と置き換えるようにしつつ、又は天面部を前記天面部パイプ列に沿わせるようにしつつ、前記到達基地側にけん引することで、前記既存構造物の下方の地盤に前記函体構造物を移動させるけん引工程とを含んでおり、
該けん引工程では、前記到達基地において、前記支持壁体のけん引方向の対向面部と、前記既存構造物の下方の地盤に形成した鏡壁面部との間につなぎ梁を架設しておき、架設した該つなぎ梁を介することで、前記けん引用鋼線により前記函体構造物をけん引する際の支持反力を、前記支持壁体のみならず前記鏡壁面部にも負担させるようにするけん引式アンダーパス工法。
【請求項2】
前記到達基地に立設して設けられた前記支持壁体は、けん引方向に間隔をおいて設置された一対の土留壁部材の間隔部分に、コンクリ-トを充填固化させて形成されたものとなっており、前記けん引用鋼線の一端部は、前記支持壁体をけん引方向に貫通して配設されると共に、前記支持壁体のけん引方向の背面部に定着されて支持されるようになっている請求項1記載のけん引式アンダーパス工法。
【請求項3】
前記函体構造物のけん引方向の前面部の切羽部で掘削作業を行ないながら、天面部を前記天面部パイプ列と置き換えるようにしつつ前記函体構造物がけん引される、R&C工法(登録商標)において実施される請求項1又は2記載のけん引式アンダーパス工法。
【請求項4】
前記函体構造物のけん引方向の前面部の切羽部で掘削作業を行ないながら、天面部を前記天面部パイプ列の下面側に沿わせるようにしつつ、前記天面部パイプ列を地中に残置したまま前記函体構造物がけん引される、フロンテジャッキング工法において実施される請求項1又は2記載のけん引式アンダーパス工法。
【請求項5】
前記函体構造物は、けん引方向に連設された複数の単位函体が一体としてけん引される構成を備えている請求項1又は2記載のけん引式アンダーパス工法。
【請求項6】
前記既存構造物の下方の地盤が、盛土地盤となっている請求項1又は2記載のけん引式アンダーパス工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、けん引式アンダーパス工法に関し、特に、既存構造物の下方の地盤を横断させてけん引した矩形断面形状を備える函体構造物による、地下空間を形成するためのけん引式アンダーパス工法に関する。
【背景技術】
【0002】
アンダーパス工法は、例えば鉄道線路や道路等の既設構造物の下方の地盤に、鉄道や車両等の運行を妨げることなく、これらの既設構造物の下方の地盤を横断する地下空間を形成するための工法であり、例えばSFT工法(登録商標)やR&C工法(登録商標)等の、矩形断面形状を備える函体構造物を箱形ルーフと置換して設置する工法や、フロンテジャッキング工法(登録商標)等が知られている。SFT工法やR&C工法は、例えば地下空間の形成予定箇所となる函体構造物の計画設置領域の地盤に、鉄道線路や道路等の既設構造物を下方から支持する上床部のパイプルーフ(天面部パイプ列)を含む、好ましくは矩形断面形状を備える中空パイプ部材による箱形ルーフを形成し、形成した上床部のパイプルーフを含む箱形ルーフを、例えばコンクリート製の矩形断面形状を備える函体構造物を計画設置領域の地盤に推進したりけん引したりすることによって、当該函体構造物と置換して、函体構造物による地下空間を形成するようになっている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
また、フロンテジャッキング工法は、例えば函体構造物の計画設置領域の地盤に形成された上床部のパイプルーフを含むパイプ列を、地中に残置したまま、残置されたパイプ列の特に上床部のパイプルーフに天面部を沿わせるようにしながら、発進基地の函体構造物を到達基地側にけん引することによって、残置したパイプ列の内側に地下空間を形成するようになっている(例えば、特許文献3、特許文献4参照)。
【0004】
ここで、発進基地から到達基地に向けて函体構造物をけん引する場合、到達基地には、函体構造物をけん引用鋼線によってけん引する際の支持反力を得るための、反力抵抗体を設けておく必要があることから、例えば特許文献4の
図14(a)~(d)には、このような反力抵抗体に関して、種々提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-177553号公報
【特許文献2】特開2012-144942号公報
【特許文献2】特開平6-41996号公報
【特許文献3】特開2004-257025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、例えば既存構造物の下方の地盤が盛土地盤となっていて、既存構造物を挟んだ両側に、立坑を形成することなく、発進基地や到達基地を設けるための敷地を確保できる工事現場では、到達基地において、支持反力を得るための支持壁体を、反力抵抗体として立設させて形成する必要がある。また発進基地として広大な広さの敷地を確保することができる場合、コンクリート製の函体構造物を複数のパーツに分割して構成して、先行するパーツを推進した後にその都度後続する次のパーツを築造するよりも、広大な広さの発進基地の敷地を利用して、コンクリート製の函体構造物を、好ましくは既存構造物の下方の地盤を一度に横断させて推進するのに十分な延長を有する、大形の構造物として築造することが、さらに効率良く施工できるようになる点で望ましいが、これによって函体構造物の重量が相当程度に重いものとなると、到達基地に形成した支持壁体だけでは、函体構造物をけん引する際の支持反力を、安定した状態で得ることが困難になると想定される。
【0007】
このような場合に、支持壁体をより大規模に構築したり、支持壁体を補強するための補助壁体や補助構造物を追加で形成したりすることが考えられるが、これらを施工するには、余分の工事やコストがかかることになると共に、これらを撤去する際にも余分の工事やコストがかかることになることから、より簡易に且つ効果的に、既存構造物をけん引する際の支持反力を、安定した状態で得ることができるようにする技術の開発が要望されている。
【0008】
本発明は、発進基地に設けられた支持壁体を、簡易に且つ効果的に補強して、けん引される函体構造物の重量が相当程度に重いものとなっている場合でも、これをけん引する際の支持反力を、安定した状態で得ることのできるけん引式アンダーパス工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、既存構造物の下方の地盤を横断させてけん引した矩形断面形状を備える函体構造物による、地下空間を形成するためのけん引式アンダーパス工法であって、前記函体構造物が設置されることになる、前記既存構造物の下方の地盤における前記函体構造物の計画設置領域を挟んだ一方の側に設けられた発進基地から、他方の側に設けられた到達基地に向けて、複数の中空パイプ部材を、前記計画設置領域の周方向に並べて連設させるようにして、前記既存構造物の直下部分の地盤に各々押し込むことで、前記既存構造物の直下部分の地盤を横断する少なくとも天面部パイプ列を含む箱形ルーフを形成する箱形ルーフ形成工程と、前記到達基地に立設して設けられた支持壁体のけん引方向の背面部に一端部が連結支持されると共に、前記計画設置領域を横断するように延設して、前記発進基地に設けられた前記函体構造物のけん引方向の後端部に係止されたけん引用鋼線によって、前記函体構造物を、天面部を前記天面部パイプ列と置き換えるようにしつつ、又は天面部を前記天面部パイプ列に沿わせるようにしつつ、前記到達基地側にけん引することで、前記既存構造物の下方の地盤に前記函体構造物を移動させるけん引工程とを含んでおり、該けん引工程では、前記到達基地において、前記支持壁体のけん引方向の対向面部と、前記既存構造物の下方の地盤に形成した鏡壁面部との間につなぎ梁を架設しておき、架設した該つなぎ梁を介することで、前記けん引用鋼線により前記函体構造物をけん引する際の支持反力を、前記支持壁体のみならず前記鏡壁面部にも負担させるようにするけん引式アンダーパス工法を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0010】
そして、本発明のけん引式アンダーパス工法は、前記到達基地に立設して設けられた前記支持壁体が、けん引方向に間隔をおいて設置された一対の土留壁部材の間隔部分に、コンクリ-トを充填固化させて形成されたものとなっており、前記けん引用鋼線の一端部は、前記支持壁体をけん引方向に貫通して配設されると共に、前記支持壁体のけん引方向の背面部に定着されて支持されるようになっていることが好ましい。
【0011】
また、本発明のけん引式アンダーパス工法は、前記函体構造物のけん引方向の前面部の切羽部で掘削作業を行ないながら、天面部を前記天面部パイプ列と置き換えるようにしつつ前記函体構造物がけん引される、R&C工法(登録商標)において実施されるようになっていることが好ましい。
【0012】
さらに、本発明のけん引式アンダーパス工法は、前記函体構造物のけん引方向の前面部の切羽部で掘削作業を行ないながら、天面部を前記天面部パイプ列の下面側に沿わせるようにしつつ、前記天面部パイプ列を地中に残置したまま前記函体構造物がけん引される、フロンテジャッキング工法において実施されるようになっていることが好ましい。
【0013】
さらにまた、本発明のけん引式アンダーパス工法は、前記函体構造物が、けん引方向に連設された複数の単位函体が一体としてけん引される構成を備えていることが好ましい。
【0014】
また、本発明のけん引式アンダーパス工法は、前記既存構造物の下方の地盤が、盛土地盤となっていることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のけん引式アンダーパス工法によれば、発進基地に設けられた支持壁体を、簡易に且つ効果的に補強して、けん引される函体構造物の重量が相当程度に重いものとなっている場合でも、これをけん引する際の支持反力を、安定した状態で得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の好ましい一実施形態に係るけん引式アンダーパス工法を説明する略示縦断面図である。
【
図2】本発明の好ましい一実施形態に係るけん引式アンダーパス工法を説明する、
図1のA部拡大図である。
【
図3】(a)~(c)は、本発明の好ましい一実施形態に係るけん引式アンダーパス工法の各工程を説明する略示縦断面図である。
【
図4】(a)~(d)は、本発明の好ましい一実施形態に係るけん引式アンダーパス工法の各工程を説明する略示縦断面図である。
【
図5】(a)~(c)は、本発明の好ましい一実施形態に係るけん引式アンダーパス工法の各工程を説明する略示縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の好ましい一実施形態に係るけん引式アンダーパス工法は、例えば
図1に示すように、既存構造物50として、例えば複数車線の高速道路の下方の地盤を横断させて、これと立体交差する他の道路を新たに構築する際に、中空の矩形断面形状を有する函体構造物20を高速道路50の直下部分の地盤に推進させて、他の道路が敷設される地下空間を、推進された函体構造物20によって形成するための工法として採用されたものである。本実施形態では、けん引式アンダーパス工法として、好ましくは公知のけん引式のR&C工法(登録商標)が採用されるようになっており、高速道路50の直下部分の地盤に先行して形成された、天面部パイプ列22aを含む、好ましくは矩形断面形状を備える中空パイプ部材23による箱形ルーフ22と置き換えるようにして、函体構造物20が高速道路50の下方の地盤に推進されて設置されることで、地下空間が形成されるようになっている。
【0018】
また、本実施形態では、函体構造物20が推進される、既存構造物である高速道路50の下方の地盤は、盛土地盤となっていて、高速道路50を挟んだ両側の敷地には広大な広さの発進基地51や到達基地52を確保できるようになっている。このため、本実施形態では、効率良く施工することが可能なように、広大な広さの発進基地51において、コンクリート製の函体構造物20は、好ましくは複数体の単位函体21をけん引方向Xに連設させて、高速道路50の下方の地盤を一度に横断するのに十分な延長を有する、大形で重量が相当程度に重い構造物として構築されるようになっている。これによって、重い函体構造物20を到達基地52側にけん引する際の支持反力を、安定した状態で得ることができるようにする必要を生じることになるが、本実施形態のけん引式アンダーパス工法では、到達基地52に立設して構築された、けん引時に支持反力を得るための支持壁体11を、簡易に且つ効果的に補強して、函体構造物20をけん引する際の支持反力を、より安定した状態で得ることができようになっている。
【0019】
そして、本実施形態のけん引式アンダーパス工法は、既存構造物である高速道路50の下方の地盤を横断させてけん引した矩形断面形状を備える函体構造物20による、地下空間を形成するためのけん引式のR&C工法(登録商標)であって、
図3~
図5にも示すように、函体構造物20が設置されることになる、高速道路50の下方の地盤における函体構造物20の計画設置領域24(
図3(a)参照)を挟んだ一方の側に設けられた発進基地51から、他方の側に設けられた到達基地52に向けて、複数の中空パイプ部材23を、計画設置領域24の周方向に並べて連設させるようにして、高速道路50の直下部分の地盤に各々押し込むことで、高速道路50の直下部分の地盤を横断する少なくとも天面部パイプ列22aを含む箱形ルーフ22を形成する箱形ルーフ形成工程(
図3(b)参照)と、到達基地52に立設して設けられた支持壁体11のけん引方向Xの背面部11aに一端部が連結支持されると共に、計画設置領域24を横断するように延設して、発進基地51に設けられた函体構造物20のけん引方向Xの後端部に係止されたけん引用鋼線12(
図3(c)参照)によって、函体構造物20を、天面部20aを天面部パイプ列22aと置き換えるようにしつつ、到達基地52側にけん引することで、高速道路50の下方の地盤に函体構造物20を移動させるけん引工程(
図4(a)~(d)参照)とを含んでいる。けん引工程では、
図2に示すように、到達基地52において、支持壁体11のけん引方向Xの対向面部11bと、高速道路50の下方の盛土地盤に形成した鏡壁面部53aとの間につなぎ梁13を架設しておき、架設した該つなぎ梁13を介することで、けん引用鋼線12により函体構造物20をけん引する際の支持反力を、支持壁体11のみならず盛土地盤の鏡壁面部53aにも負担させるようになっている。
【0020】
また、本実施形態では、函体構造物20は、好ましくはけん引方向Xに連設された複数(本実施形態では、5体)の単位函体21が、一体としてけん引される構成を備えている(
図4(a)~(d)参照)。本実施形態では、連設するこれらの単位函体21は、各隣接する単位函体21の間に、中押しジャッキ25を介在させた状態となっており、これによって、例えば一体の単位函体21を推進函体とし、残りの単位函体21を反力函体として、推進しない反力函体の摩擦抵抗力を反力として、外部の反力抵抗に頼らずに、推進函体を入れ替えながら一方向に推進させてゆく、公知のESA工法を実施可能となっている。
【0021】
本実施形態のけん引式アンダーパス工法を実施するには、準備工として、例えば工事現場における支障物の撤去及び復旧や、ガイド導坑56の掘削に先立つ薬液注入工56a等を実施した後に、
図3(a)に示すように、高速道路50の下方の盛土地盤の両側部に土留用の鋼矢板を打ち込んで、高速道路50を挟んだ両側に鏡壁面部53a,53bを形成すると共に、発進基地51には、ルーフ推進用反力体55を形成し、到達基地52には、支持壁体11を形成する。ルーフ推進用反力体55は、箱形ルーフ22を形成した後に、函体構造物20を推進するのに先立って、撤去する必要があるため、例えば鋼矢板によって矩形状に周囲を囲まれた内部に、土砂を埋め戻すことによって形成することが好ましい。支持壁体11は、けん引時の反力を十分に負担できるように、例えば鋼矢板によって矩形状に周囲を囲まれた内部に、コンクリート打設して形成することが好ましい。支持壁体11には、けん引用鋼線12を挿通させる貫通孔を、けん引方向Xの対向面部11bと背面部11aとの間を貫通させて、所定の位置に形成しておく。また、函体構造物20の計画設置領域24における底部角部分の、薬液注入工56aが施された領域には、けん引用鋼線12を挿通させるガイド導坑56を形成しておく。
【0022】
さらに、本実施形態では、後述する函体構造物20のけん引工程において、函体構造物20をけん引する際の支持反力を盛土地盤の到達基地52側の壁面部53aにも負担させるようにするためのつなぎ梁13を、支持壁体11のけん引方向Xの対向面部11bと、高速道路50の下方の到達基地52側の鏡壁面部53aとの間に、架設して取り付けておく。つなぎ梁13は、例えばH形鋼による山留め梁部材からなり、対向面部11b及び鏡壁面部53aに設置された、例えばH形鋼による腹起し部材に両端部を接合することで、これらの間に架設した状態で取り付けることができる。本実施形態では、つなぎ梁13は、到達基地52において箱形ルーフ22で囲まれる範囲内に設けられる仮設の中空パイプ撤去設備27(
図3(b)参照)を構成する、骨組み鋼材と干渉しないように、その位置を適宜選定して、例えば上下に2段に配置されて取り付けられている。
【0023】
本実施形態では、これらの準備工等の後に、
図3(b)に示すように、少なくとも天面部パイプ列22aを含む箱形ルーフ22を形成する箱形ルーフ形成工程を実施する。箱形ルーフ形成工程では、発進基地51において、形成されたルーフ推進用反力体55と、発進基地51側の鏡壁面部53bとの間に、従来のR&C工法と同様の推進架台54や推進設備を設けて、従来のR&C工法と同様にして、発進基地51から到達基地52に向けて、複数の中空パイプ部材23を、好ましくは複数の単位パイプ部材23aを順次継ぎ足しながら、計画設置領域24の周方向に並べて連設させるようにして、高速道路50の直下部分の地盤に各々押し込むことができる。これによって、好ましくは少なくとも天面部パイプ列22aと、両側の一対の側面部パイプ列22bとからなる、コの字断面形状を備える箱形ルーフ22を、発進基地51側の鏡壁面部53aと到達基地52側の鏡壁面部53bとに跨るようにして、形成することができる。
【0024】
また、本実施形態では、上述の箱形ルーフ形成工程と並行して、発進基地51におけるルーフ推進用反力体55よりもけん引方向Xの後方側の作業領域において、函体構造物20を構成する、例えば5体の単位函体21を各々形成するようになっている。すなわち、発進基地51の広大な敷地による作業領域において、例えば敷鉄板の上で型枠の組立て、及び鉄筋の組付け行った後に、コンクリートを打設して硬化・養生させることによって、5体の各々の単位函体21を、けん引方向Xに所定の間隔をおいて連設させた状態で、形成することができる。また、けん引方向Xに連設するこれらの5体の単位函体21の間隔部分には、公知の中押しジャッキ25を各々取り付けておくと共に、けん引方向Xの先端部の単位函体21には、箱形ルーフ22の内側の地盤を掘削する際に用いる刃口部材26を先端に取り付けておく。
【0025】
一方、到達基地52では、上述の箱形ルーフ形成工程と並行して、到達基地52側の鏡壁面部53aと、支持壁体11の対向面部11bとの間の領域における、先行して取り付けられたつなぎ梁13の間の部分に、後述するけん引工程において函体構造物20により押し出された、箱形ルーフ22を構成する中空パイプ部材23を、単位パイプ部材23a毎に撤去する際に使用する(
図4(a)~(d)参照)、仮設の中空パイプ撤去設備27を設置しておく。仮設の中空パイプ撤去設備27は、これを構成する骨組み鋼材を、箱形ルーフ22で囲まれる範囲内に先行して取り付けられている上述のつなぎ梁13との干渉を避けるようにして、立体形状に組み付けることによって、形成されるようになっている。
【0026】
本実施形態では、上述の箱形ルーフ形成工程で、複数の中空パイプ部材23を計画設置領域24の地盤に各々押し込むことで、高速道路50の直下部分の地盤を横断する天面部パイプ列22aを含む箱形ルーフ22を形成したら、
図3(c)に示すように、発進基地51において、ルーフ推進用反力体55及び推進架台54を撤去すると共に、けん引用鋼線12を取り付けて、函体構造物20のけん引工程を実施可能な状態とする。
【0027】
すなわち、発進基地51において、好ましくはルーフ推進用反力体55及び推進架台54を撤去した部分に、例えば敷鉄板を敷設して、5体の単位函体21による函体構造物20をけん引する際に、けん引方向Xにスムーズにスライド移動させることができるようにする。また、例えば鋼より線からなる公知のけん引用鋼線12を、支持壁体11に形成した貫通孔に挿通させると共に、函体構造物20の計画設置領域24を横断するようにして底部角部分のガイド導坑56に挿通させ、さらに単位函体21の底部角部分に設けた挿通孔に挿通させて、支持壁体11のけん引方向Xの背面部11aから、函体構造物20のけん引方向Xの後端部に至る長さで延長させて配設する。さらに、配設したけん引用鋼線12の一端部を、公知の定着具28aを介して支持壁体11のけん引方向Xの背面部11aに定着させて連結支持させると共に、配設したけん引用鋼線12の他端部を、伸縮ジャッキ28bとして例えば公知のフロンテジャッキを介して、連設する複数の単位函体21による、函体構造物20のけん引方向Xの後端部に定着させて連結支持させる。これによって、伸縮ジャッキ28bを伸縮させつつ、支持壁体11からけん引時の支持反力を得ながら、後述する函体構造物20のけん引工程を実施することが可能になる。
【0028】
函体構造物20のけん引工程では、
図3(c)示す状態から、伸縮ジャッキ28bを伸縮させることで、
図1に示すように、支持壁体11からけん引時の支持反力を得ながら、5体の単位函体21による函体構造物20を一体としてけん引方向Xにけん引して、到達基地52側に引き寄せる。また函体構造物20を到達基地52側に引き寄せて、先端部の単位函体21による函体構造物20の先端が、先行して計画設置領域24の地盤に設置された箱形ルーフ22の後端に当接したら、箱形ルーフ22の内側の地盤を掘削しつつ、到達基地52側にさらに引き寄せる。これによって、
図4(a)に示すように、箱形ルーフ22と置き換えるようにしながら、函体構造物20を一体として、高速道路50の直下部分の計画設置領域24の地盤に押し込んでゆくことが可能になる。またこれによって到達基地52に押し出された、箱形ルーフ22を構成する各々の中空パイプ部材23は、到達基地52において、先端部の単位パイプ部材23a毎に、仮設の中空パイプ撤去設備27を介して撤去されてゆくことになる。
【0029】
そして、本実施形態では、函体構造物20の5体の単位函体21を一体としてけん引するけん引工程では、
図2にも拡大して示すように、高速道路50の下方の盛土地盤の鏡壁面部53aとの間につなぎ梁13を架設しておき、架設したつなぎ梁13を介することで、けん引用鋼線12によって函体構造物20をけん引する際の支持反力を、支持壁体11のみならず盛土地盤の鏡壁面部53にも負担させることができるようになっている。これによって、5体の単位函体21が一体となっていることで、函体構造物20が、既存構造物である高速道路50の下方の地盤を一度に横断させて推進するのに十分な延長を有する、大形の構造物として構築されていて、その重量が相当程度に重いものとなっていても、けん引用鋼線12によって函体構造物20をけん引する際の支持反力を、盛土地盤の鏡壁面部53にも負担させて、安定した状態で、函体構造物20を到達基地52側に引き寄せるようにして、けん引することが可能になる。
【0030】
したがって、本実施形態のけん引式アンダーパス工法によれば、到達基地52に設けられた支持壁体11を、盛土地盤の鏡壁面部53との間に架設されたつなぎ梁13によって簡易に且つ効果的に補強できるので、けん引される函体構造物50の重量が相当程度に重いものとなっている場合でも、これをけん引する際の支持反力を、安定した状態で効果的に得ることが可能になる。
【0031】
本実施形態では、上述のけん引工程において、箱形ルーフ22と置き換えるようにしながら、高速道路50の直下部分の計画設置領域24の地盤に函体構造物20を押し込んで、函体構造物20が所定の位置に到達したら、
図4(b)に示すように、支持壁体11のけん引方向Xの背面部11aに定着させていた、けん引用鋼線12の一端部を、先端部の単位函体21による函体構造物20の先端に盛り換えるようにして、定着具28aによって定着させる。また函体構造物20の上部に、ESA用鋼線29cを、定着具29a及びESAジャッキ29bを介して取り付けることで、公知のESA工法によって、函体構造物20を推進させることが可能な状態に段取り替えをする。
【0032】
しかる後に、
図4(c)に示すように、引き続き函体構造物20を、例えば5体の単位函体21のうちの一体の単位函体21を推進函体とし、残りの単位函体21を反力函体として、推進しない反力函体の摩擦抵抗力を反力として、推進函体を入れ替えながら一方向に推進させてゆく、ESA工法によって、高速道路50の直下部分の計画設置領域24の地盤に、箱形ルーフ22と置き換えるようにしながらさらに押し込んでゆく。また函体構造物20の押し込みによって到達基地52に押し出された、箱形ルーフ22を構成する各々の中空パイプ部材23は、上述と同様に、到達基地52において、先端部の単位パイプ部材23a毎に、仮設の中空パイプ撤去設備27を介して撤去されてゆくことになる。
【0033】
ESA工法によって、先端部の単位パイプ部材23aによる函体構造物20の先端が、到達基地52に至ったら、
図4(d)に示すように、支持壁体11と、高速道路50の下方の盛土地盤の鏡壁面部53aとの間に設けられていた、つなぎ梁13及び仮設の中空パイプ撤去設備27を撤去する。また、
図5(a)に示すように、隣接する単位函体21の間の中押しジャッキ25を順次取り外しながら、ESA工法によって後端部の単位函体21を到達基地52側に引き寄せることで、本実施形態のアンダーパス工法によって、5体の単位函体21が一体となって形成される矩形断面形状を備える函体構造物20が、高速道路50の直下部分地盤を横断して設置されることになる(
図5(b)参照)。
【0034】
また、高速道路50の直下部分地盤を横断して函体構造物20を設置したら、
図5(b)、(c)に示すように、けん引用鋼線12やESA用鋼線29c等を撤去すると共に、函体構造物20の先端から刃口部材26を撤去し、さらに到達基地52に設けられた支持壁体11を撤去した後に、必要な防水工や裏込めグラウト注入工、道路付帯工等を施すことによって、函体構造物20による、他の道路が敷設される地下空間が、高速道路50の直下部分の地盤に立体交差した状態で形成されることになる。
【0035】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、本発明は、函体構造物の前面部の切羽部で掘削作業を行ないながら、箱形ルーフと置き換えるようにしつつ函体構造物がけん引される、R&C工法において実施される必要は必ずししもなく、函体構造物のけん引方向の前面部の切羽部で掘削作業を行ないながら、天面部を箱形ルーフの天面部パイプ列の下面側に沿わせるようにしつつ、天面部パイプ列を地中に残置したまま函体構造物がけん引される、フロンテジャッキング工法において実施されるようにすることもできる。また、ESA工法によって函体構造物を推進させることが可能な状態に段取り替えをすると、支持壁体にかかる応力は大幅に軽減されるので、この時点でつなぎ梁を取り外してもよい。ただし、上述の実施形態では、函体構造物20の押し込みによる倒れを防止するために、盛土地盤の計画設置領域24内にアンカーが設置されているが、函体構造物20の先端が到達基地52に到達する段階でアンカーは切断されることから、このアンカーの代わりとして、つなぎ梁13を、函体構造物20の先端が到達基地52に至る直前まで、設置したままにしておいてもよい。
【符号の説明】
【0036】
11 支持壁体
11a けん引方向の背面部
11b けん引方向の対向面部
12 けん引用鋼線
13 つなぎ梁
20 函体構造物
20a 天面部
21 単位函体
22 箱形ルーフ
22a 天面部パイプ列
22b 側面部パイプ列
23 中空パイプ部材
23a 単位パイプ部材
24 計画設置領域
25 中押しジャッキ
26 刃口部材
27 中空パイプ撤去設備
28a 定着具
28b 伸縮ジャッキ(フロンテジャッキ)
29a 定着具
29b ESAジャッキ
29c ESA用鋼線
50 高速道路(既存構造物)
51 発進基地
52 到達基地
53a,53b 鏡壁面部
54 推進架台
55 ルーフ推進用反力体
56 ガイド導坑
56a 薬液注入工
X けん引方向