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特開2024-143686ハイブリッド車両のブレーキシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143686
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両のブレーキシステム
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/15 20160101AFI20241003BHJP
   B60W 10/26 20060101ALI20241003BHJP
   B60K 6/485 20071001ALI20241003BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20241003BHJP
   B60W 10/18 20120101ALI20241003BHJP
   B60L 7/14 20060101ALI20241003BHJP
   B60T 8/17 20060101ALI20241003BHJP
   B60T 13/52 20060101ALI20241003BHJP
   B60T 17/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B60W20/15 ZHV
B60W10/26 900
B60K6/485
B60W10/08 900
B60W10/18 900
B60L7/14
B60T8/17 C
B60T13/52
B60T17/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056474
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】長屋 達成
【テーマコード(参考)】
3D048
3D049
3D202
3D246
5H125
【Fターム(参考)】
3D048BB07
3D048CC26
3D048CC49
3D048HH18
3D048HH70
3D048QQ07
3D048RR06
3D049BB05
3D049CC03
3D049HH08
3D049HH42
3D049HH51
3D049KK09
3D049QQ04
3D049RR04
3D202AA09
3D202BB19
3D202BB40
3D202BB41
3D202BB55
3D202CC05
3D202DD05
3D202DD06
3D202DD45
3D202DD46
3D246BA02
3D246BA08
3D246DA01
3D246DA02
3D246EA02
3D246GA01
3D246GB39
3D246GC14
3D246HA39A
3D246HA42A
3D246HA44A
3D246HA64A
3D246HA94A
3D246HC01
3D246HC13
3D246JA12
3D246JB02
3D246JB11
3D246LA05Z
3D246LA08Z
3D246LA13Z
5H125AA01
5H125AB01
5H125AC08
5H125AC12
5H125AC24
5H125BE00
5H125CB02
5H125CB07
5H125EE51
(57)【要約】
【課題】ブレーキブースタの負圧の低下によりブレーキペダルの操作力をアシストできなくなっても、十分な減速度を得ることができるハイブリッド車両のブレーキシステムを提供する。
【解決手段】ハイブリッド車両のブレーキシステムは、ブレーキブースタの負圧及びマスターシリンダの液圧、並びに予め定められた負圧と液圧との関係を示す負圧判定閾値マップ、に基づいて、負圧不足か否かを判定する負圧不足判定部を有するブレーキ制御装置と、駆動用バッテリの回生トルクを予め定められた規定値に設定する回生トルク設定部を有する走行制御装置と、を備え、走行制御装置は、負圧不足判定部が負圧不足と判定した場合に、駆動用モータの回生トルクを規定値よりも大きくなるように変更する回生トルク設定変更部を有する。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動用モータ又はエンジンの少なくとも一方によって駆動輪を駆動するハイブリッド車両のブレーキシステムであって、
前記ハイブリッド車両を制動するブレーキペダルの操作力を前記エンジンの吸気負圧によってアシストするブレーキブースタと、
前記ブレーキブースタでアシストされた前記ブレーキペダルの操作力を、ブレーキ液の液圧に変換するマスターシリンダと、
前記ブレーキブースタの負圧及び前記マスターシリンダの液圧、並びに予め求められた負圧不足となる負圧と液圧との関係に基づいて、負圧不足か否かを判定する負圧不足判定部を有するブレーキ制御装置と、
前記駆動用モータが前記ハイブリッド車両の運動エネルギに変換することで、前記ハイブリッド車両の運動エネルギを回収する駆動用バッテリと、
前記駆動用バッテリの回生トルクを予め定められた規定値に設定する回生トルク設定部を有する走行制御装置と、
を備え、
前記走行制御装置は、前記負圧不足判定部が負圧不足と判定した場合に、前記駆動用モータの回生トルクを前記規定値よりも大きくなるように変更する回生トルク設定変更部を有する、
ハイブリッド車両のブレーキシステム。
【請求項2】
前記ブレーキ制御装置は、前記負圧不足判定部が負圧不足と判定した場合に、前記負圧不足により必要となるアシスト量を演算する必要アシスト量演算部を有し、
前記回生トルク設定変更部は、前記必要となるアシスト量に相当する回生トルク分だけ大きくなるように変更する、
請求項1に記載のハイブリッド車両のブレーキシステム。
【請求項3】
電動パーキングブレーキを備え、
前記ブレーキ制御装置は、前記必要となるアシスト量が予め定められた第1閾値以上となる場合に、前記電動パーキングブレーキを作動させる電動パーキングブレーキ作動指示部を有する、
請求項2に記載のハイブリッド車両のブレーキシステム。
【請求項4】
ハイドロリックユニットを備え、
前記ブレーキ制御装置は、前記必要となるアシスト量が予め定められた第2閾値以上となる場合に、前記ハイドロリックユニットを作動させるハイドロリックユニット作動指示部を有する、請求項2又は3に記載のハイブリッド車両のブレーキシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ハイブリッド車両のブレーキシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの吸気負圧を利用してブレーキ液圧を高め、車輪軸に設置されたブレーキロータをブレーキパッドで押さえつけることで車両の制動力を確保するフットブレーキが広く知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-138279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されたフットブレーキでは、ブレーキブースタの負圧が低下すると、ブレーキペダルの操作力をアシストすることができなくなるので、大きな操作力が必要となり、十分な減速度を得ることができない。
【0005】
上述の事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態は、ブレーキブースタの負圧の低下によりブレーキペダルの操作力をアシストできなくなっても、十分な減速度を得ることができるハイブリッド車両のブレーキシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係るハイブリッド車両のブレーキシステムは、駆動用モータ又はエンジンの少なくとも一方によって駆動輪を駆動するハイブリッド車両のブレーキシステムであって、前記ハイブリッド車両を制動するブレーキペダルの操作力を前記エンジンの吸気負圧によってアシストするブレーキブースタと、前記ブレーキブースタでアシストされた前記ブレーキペダルの操作力を、ブレーキ液の液圧に変換するマスターシリンダと、前記ブレーキブースタの負圧及び前記マスターシリンダの液圧、並びに予め求められた負圧不足となる負圧と液圧との関係に基づいて、負圧不足か否かを判定する負圧不足判定部を有するブレーキ制御装置と、前記駆動用モータが前記ハイブリッド車両の運動エネルギに変換することで、前記ハイブリッド車両の運動エネルギを回収する駆動用バッテリと、前記駆動用モータの回生トルクを予め定められた規定値に設定する回生トルク設定部を有する走行制御装置と、を備え、前記走行制御装置は、前記負圧不足判定部が負圧不足と判定した場合に、前記駆動用モータの回生トルクを前記規定値よりも大きくなるように変更する回生トルク設定変更部を有する。
【0007】
上記(1)の構成によれば、ブレーキブースタの負圧の低下によりブレーキペダルの操作力をアシストできなくなっても、回生トルクを規定値よりも大きくすることで、ハイブリッド車両の運動エネルギの回収量が増加するので、ハイブリッド車両は、十分な減速度を得ることができる。
【0008】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、前記ブレーキ制御装置は、前記負圧不足判定部が負圧不足と判定した場合に、前記負圧不足により必要となるアシスト量を演算する必要アシスト量演算部を有し、前記回生トルク設定変更部は、前記必要となるアシスト量に相当する回生トルク分だけ大きくなるように変更する。
【0009】
上記(2)の構成によれば、負圧不足判定部が負圧不足と判定した場合に、必要アシスト量演算部が負圧不足により必要となるアシスト量を演算し、回生トルク設定変更部が、回生トルクを、負圧不足により必要となるアシスト量に相当する回生トルク分だけ大きくなるように変更する。これにより、負圧不足により必要となるアシスト量に相当する回生トルク分だけハイブリッド車両の運動エネルギが回収されるので、ハイブリッド車両は、ブレーキブースタの負圧の低下前と同等の減速度を得ることができる。
【0010】
(3)幾つかの実施形態では、上記(2)の構成において、電動パーキングブレーキを備え、前記ブレーキ制御装置は、前記必要となるアシスト量が予め定められた第1閾値以上となる場合に、前記電動パーキングブレーキを作動させる電動パーキングブレーキ作動指示部を有する。
【0011】
上記(3)の構成によれば、必要となるアシスト量が予め定められた第1閾値以上となる場合に、電動パーキングブレーキを作動させるので、駆動用バッテリがハイブリッド車両の運動エネルギを回収することができない場合であっても、十分な減速度を得ることができる。
【0012】
(4)幾つかの実施形態では、上記(2)又は(3)の構成において、ハイドロリックユニットを備え、前記ブレーキ制御装置は、前記必要となるアシスト量が予め定められた第2閾値以上となる場合に、前記ハイドロリックユニットを作動させるハイドロリックユニット作動指示部を有する。
【0013】
上記(4)の構成によれば、必要となるアシスト量が予め定められた第2閾値以上となる場合に、ハイドロリックユニットを作動させるので、駆動用バッテリがハイブリッド車両の運動エネルギを回収することができない場合であっても、十分な減速度を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、ブレーキブースタの負圧の低下によりブレーキペダルの操作力をアシストできなくなっても、ハイブリッド車両は、十分な減速度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態に係るブレーキシステムが搭載されたハイブリッド車両の構成を概略的に示す図である。
図2図1に示したブレーキシステムの制御構成を概略的に示すブロック図である。
図3】ブレーキペダルの操作力とブレーキ液の液圧との関係を示す図である。
図4】負圧不足か否かを判定する負圧判定閾値マップを示す図である。
図5】負圧不足により必要となるアシスト量を説明するための図である。
図6図2に示したブレーキシステムの制御内容を概略的に示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。また、例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0017】
[ハイブリッド車両]
図1は、実施形態に係るブレーキシステムが搭載されたハイブリッド車両1の構成を概略的に示す図である。図1に示すように、実施形態に係るブレーキシステムが搭載されたハイブリッド車両1は、駆動用モータ10又はエンジン11の少なくとも一方によって駆動輪12を駆動するハイブリッド車両であって、駆動用モータ10及びエンジン11のほか、駆動用モータ10及びエンジン11の動力を駆動輪12に伝達するトランスアクスル13、並びに駆動用モータ10に電気を供給する駆動用バッテリ14を備えている。実施形態に係るハイブリッド車両1は、停車中に外部機器(例えば、急速充電器)から充電(以下「外部充電」という)可能なプラグインハイブリッド車両(PHV,PHEV)であって、停車中に外部(例えば、一般家庭)に給電(以下「外部給電」という)可能であるが、これに限られるものではない。また、実施形態に係るハイブリッド車両1は、前輪二輪12を駆動するハイブリッド車両であるが、四輪12,15を駆動するハイブリッド車両であってもよい。
【0018】
[ブレーキシステムの構成]
実施形態に係るブレーキシステムは、ハイブリッド車両1を制動するブレーキペダル16の操作力をエンジン11の吸気負圧によってアシストするブレーキブースタ17を備えている。ブレーキブースタ17には、ブレーキブースタ17の負圧を検出するブレーキブースタ負圧センサ18が設けられ、ブレーキブースタ17の負圧が常時検出される。また、ブレーキブースタ17には、マスターシリンダ19が連結され、ブレーキブースタ17でアシストされたブレーキペダル16の操作力は、マスターシリンダ19においてブレーキ液の液圧に変換される。マスターシリンダ19には、ブレーキ液圧ライン20を介してハイドロリックユニット(以下「H/U」という)アクチュエータ21が接続されている。H/Uアクチュエータ21は、マスターシリンダ19においてブレーキ液の液圧に変換されたブレーキペダル16の操作力を車輪ごとに設けられたフロントブレーキ22(一例としてディスクブレーキなど)やリヤブレーキ23(一例としてドラムブレーキなど)に分配するアクチュエータであって、H/Uアクチュエータ21と車輪ごとに設けられたフロントブレーキ22やリヤブレーキ23はブレーキ液圧ライン24によって接続されている。
【0019】
H/Uアクチュエータ21には、ブレーキ制御ユニット25(以下「ブレーキECU25」という)が設けられている。ブレーキECU25は、演算装置、命令や情報を格納するレジスタ、及び周辺回路等から構成されるプロセッサ、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Acess Memory)等のメモリ、及び入力インタフェースによって構成される。
【0020】
ブレーキECU25には、ブレーキブースタ負圧センサ18のほか、マスターシリンダ19において変換されたブレーキ液の液圧を検出するブレーキ液圧センサ26、車輪ごとに設けられた車輪速センサ27、電動パーキングブレーキ(以下「EPB」という)のオン/オフスイッチ28、前後Gセンサ29、及び後輪二輪15にそれぞれ設けられた電動パーキングブレーキアクチュエータ30(以下「EPBアクチュエータ30」という)が信号線によって電気的に接続されている。これにより、ブレーキECU25において、センサ類及びスイッチ類の情報が管理され、H/Uアクチュエータ21を介してフロントブレーキ22及びリヤブレーキ23に供給されるブレーキ液の液圧が増減制御され、EPB(EPBアクチュエータ30)の動作が制御される。
【0021】
また、実施形態に係るブレーキシステムは、駆動用モータ10がハイブリッド車両1の運動エネルギを電気エネルギに変換することで、ハイブリッド車両1の運動エネルギを回収する駆動用バッテリ14を備えている。駆動用モータ10は、駆動輪12を駆動する駆動用モータ10と同じモータであり、駆動用バッテリ14は、駆動用モータ10に電気を供給する駆動用バッテリ14と同じバッテリである。したがって、駆動用モータ10が駆動輪12を駆動する場合には、駆動用バッテリ14から駆動用モータ10に電気が供給され、駆動用バッテリ14がハイブリッド車両1の運動エネルギを回収する場合には、駆動用モータ10において運動エネルギから変換された電気エネルギが駆動用モータ10から駆動用バッテリ14に回収される。
【0022】
図1に示す例では、駆動用モータ10は交流モータであり、駆動用バッテリ14から駆動用モータ10に供給される電気はインバータ31において直流から交流に変換され、駆動用モータ10から駆動用バッテリ14に回収する電気はインバータ31において交流から直流に変換される。また、駆動用バッテリ14には、充電率(SOC(State Of Charge))を管理するSOC管理装置32及び温度センサ33が設けられている。
【0023】
駆動用モータ10、エンジン11、トランスアクスル13、インバータ31、SOC管理装置32及び温度センサ33を含む駆動用バッテリ14、並びにブレーキECU25は、走行制御装置34(以下「HEV-ECU34」という)に信号線によって電気的に接続されている。HEV-ECU34は、演算装置、命令や情報を格納するレジスタ、及び周辺回路等から構成されるプロセッサ、ROM、RAM等のメモリ、及び入力インタフェースによって構成される。
【0024】
HEV-ECU34には、アクセルペダル35の操作量を検出するアクセルポジションセンサ36(以下「APS36」という)が信号線によって電気的に接続されている。これにより、HEV-ECU34において、APS36の情報、駆動用バッテリ14(特に、SOC管理装置32及び温度センサ33)の情報、及びブレーキECU25の情報(特に、ブレーキブースタ17の負圧、マスターシリンダ19の液圧、及び各車輪の車輪速)が管理され、これらに基づいて、駆動用バッテリ14、エンジン11及びトランスアクスル13が制御される。
【0025】
[ブレーキシステムの制御構成]
図2は、図1に示したブレーキシステムの制御構成を示すブロック図である。図2に示すように、HEV-ECU34には、駆動用モータ10の回生トルクを予め定められた規定値とする回生トルク設定部37が設けられている。駆動用モータ10の回生トルクは、ハイブリッド車両1の減速度と対応し、ハイブリッド車両1の運動エネルギを駆動用バッテリ14に回収する場合に、回生トルク設定部37が駆動用モータ10の回生トルクを規定値に設定することで、回生トルク(規定回生トルク)に対応する規定の減速度(規定減速度)を得ることができる。
【0026】
ブレーキECU25には、ブレーキブースタ17の負圧及びマスターシリンダ19の液圧、並びに予め求められた負圧不足となる負圧と液圧との関係に基づいて、負圧不足か否かを判定する負圧不足判定部38が設けられている。
【0027】
図3は、ブレーキペダル16の操作力とマスターシリンダ19で変換されたブレーキ液の液圧との関係を示す図である。図3に示すように、ブレーキペダル16の操作力はブレーキブースタ17の負圧でアシストされ、マスターシリンダ19で変換されたブレーキ液の液圧は増加する。ブレーキペダル16の操作力がブレーキブースタ17の負圧でアシストされる領域(以下「サーボ領域」といい、一点鎖線で表す)は、ブレーキブースタ17の負圧の大きさによって左右され、ブレーキブースタ17の負圧が0の時はもちろん、エンジン11の吸気負圧で得られる最大負圧の時であっても、サーボ領域を超えるとブレーキペダル16の操作力がアシストされない領域 (以下、「全負荷領域」といい、破線で表す) となる。また、ブレーキブースタ17の負圧が最大負圧の50パーセントの時は、サーボ領域において、ブレーキペダル16の操作力はブレーキブースタ17の負圧でアシストされるが、サーボ領域を超えるとアシストされず、全負荷領域となる。したがって、負圧不足か否かは、ブレーキペダル16の操作力がブレーキブースタ17の負圧でアシストされるか否かであり、ブレーキペダル16の操作力がブレーキブースタ17の負圧でアシストされる場合は負圧不足ではなく、アシストされない場合は負圧不足である。
【0028】
図4は、負圧不足か否かを判定する負圧判定閾値マップを示す図である。図4に示すように、負圧不足となる負圧と液圧の関係は、負圧判定閾値マップで判定することができる。負圧判定閾値マップは、ブレーキブースタ17及びマスターシリンダ19の性能によって異なるが、実験等により、予め求めることができる。負圧判定閾値マップは、負圧判定閾値マップは、横軸をブレーキブースタ17の負圧、縦軸をマスターシリンダ19で変換されたブレーキ液の液圧とした場合に、一定の傾きを有する直線で表すことができ、ブレーキブースタ17の負圧に対してマスターシリンダ19に要求される液圧がこの直線を上回った場合に負圧不足と判定される。
【0029】
図2に示すように、ブレーキECU15には、負圧不足判定部38が負圧不足と判定した場合に、負圧不足により必要となるアシスト量を演算する必要アシスト量演算部39が設けられているが、必須ではない。
【0030】
図5は、負圧不足により必要となるアシスト量を説明するための図である。図5において、横軸をブレーキペダル16の操作力とし、縦軸をマスターシリンダ19で変換されたブレーキ液の液圧とする。また、ここでは、ブレーキブースタ17の負圧がエンジン11の吸気負圧で得られる最大負圧の50パーセントの時を例に説明するが、ブレーキブースタ17の負圧がエンジン11の吸気負圧で得られる最大負圧の50パーセントの時に限られるものではない。
【0031】
図5に示すように、サーボ領域では、ブレーキペダル16の操作力がブレーキブースタ17の負圧でアシストされ、マスターシリンダ19の液圧を大きく出力でき、操作力と液圧の関係はサーボ領域の傾きとなるので負圧不足ではない。一方、サーボ領域を超えると、ブレーキペダル16の操作力に対する、マスターシリンダ19の液圧がブレーキブースタ17の負圧でアシストされていた時より小さくなり、操作力と液圧の関係は全負荷領域の傾きとなるので負圧不足となる。このときの差(「ブレーキブースタ17の負圧でアシストされていた時のマスターシリンダ19の液圧」-「アシストされていない時のマスターシリンダ19の液圧」)が負圧不足により必要となるアシスト量となる。この式で算出されアシスト量は液圧値のため、この液圧を減速度に換算する。換算は予め実車データで計測した値より換算値を決める。このアシスト量算出から減速度換算を必要アシスト量演算部39で実施する。
【0032】
図2に示すように、HEV-ECU34には、負圧不足判定部38が負圧不足と判定した場合に、駆動用モータ10の回生トルクを規定値よりも大きくなるように変更する回生トルク設定変更部40が設けられている。例えば、回生トルク設定変更部40は、ブレーキECU15に必要アシスト量演算部39を有する場合に、必要アシスト量演算部39で演算された必要となるアシスト量に相当する回生トルク分だけ規定値よりも大きくなるように回生トルクを変更する。
【0033】
また、ブレーキECU25には、負圧不足により必要となるアシスト量が予め定められた第1閾値以上となる場合に、EPB(EPBアクチュエータ30)を作動させる電動パーキングブレーキ作動指示部41(以下「EPB作動指示部41」という)が設けられているが、必須ではない。第1閾値は、駆動用バッテリ14のSOCや温度によって回生トルクが変化するため、それに応じて可変する。例えば、駆動用バッテリ14の充電が制限される場合に、第1閾値が小さくなるように設定される。
【0034】
また、ブレーキECU25には、負圧不足により必要となるアシスト量が予め定められた第2閾値以上となる場合に、H/Uアクチュエータ21を作動させるハイドロリックユニット作動指示部42(以下「H/U作動指示部42」という)が設けられているが、必須ではない。第2閾値は、第1閾値よりも大きく、第1閾値と同様に、駆動用バッテリ14のSOCや温度によって回生トルクが変化するため、それに応じて可変することに加え、EPBの作動状況にそれに応じて可変する。例えば、駆動用バッテリ14の充電が制限される場合やEPBの作動に制限がある場合に、第2閾値が小さくなるように設定される。
【0035】
尚、ブレーキシステムでは、前後Gセンサ29の検出値が当初必要となるアシスト量に対して一定の割合以下の場合には、必要となるアシスト量を増加させてもよい。
【0036】
[ブレーキシステムの制御内容]
図6は、図2に示したブレーキシステムの制御内容を示すフローチャートである。図3に示すように、実施形態に係るブレーキシステムでは、アクセルペダル35から運転者の足が離され、APS36で検出されたアクセルペダル35の操作量が0になると(ステップS11:Yes)、駆動用モータ10の回生トルクが規定値に設定される(ステップS12)。これにより、ハイブリッド車の運動エネルギが駆動用モータ10によって電気エネルギに変換され、ハイブリッド車両1の運動エネルギが駆動用バッテリ14に漸次回収される。したがって、ハイブリッド車両1は漸次減速することになるが、減速度が不足する場合には、運転者がブレーキペダル16を踏むことで、ブレーキペダル16の操作力がブレーキブースタ17でアシストされる。ブレーキブースタ17でアシストされたブレーキペダル16の操作力は、マスターシリンダ19においてブレーキ液の液圧に変換され、ブレーキ液圧ライン24を介してH/Uアクチュエータ21に供給され、車輪ごとに設けられたフロントブレーキ22やリヤブレーキ23に分配される。これにより、ハイブリッド車両1は、駆動用バッテリ14に回収されたハイブリッド車両1の運動エネルギとブレーキブースタ17でアシストされたブレーキペダル16の操作力により減速される。
【0037】
マスターシリンダ19で変換されたブレーキ液の液圧に対してブレーキブースタ17の負圧が不足する場合には、ブレーキペダル16の操作力はアシストされないので、ハイブリッド車両1は十分に減速できない。そこで、本実施形態に係るブレーキシステムでは、予め求められた負圧不足となる負圧と液圧との関係に基づいて、負圧不足か否かを判定し、負圧不足と判定された場合(ステップS13:Yes)に、駆動用モータ10の回生トルクを規定値よりも大きくなるように変更する(ステップS14)。これにより、駆動用バッテリ14に回収されるハイブリッド車両1の運動エネルギは増えるので、ハイブリッド車両1の減速が進む。
【0038】
一方、負圧不足により必要となるアシスト量が規定値よりも大きくなるように変更された回生トルクでは足りない場合や、駆動用バッテリ14に十分な空きがない場合や駆動用バッテリ14の温度が充電できない温度の場合(例えば、駆動用バッテリ14の温度が低すぎる場合や高すぎる場合)には、ハイブリッド車両1の運動エネルギを駆動用バッテリ14に回収することができないので、ハイブリッド車両1の減速が制限される。また、ハイブリッド車両1の停車間際は、駆動用バッテリ14に回収できるハイブリッド車両1の運動エネルギが小さくなり、ハイブリッド車両1の減速が進まない。
【0039】
そこで、本実施形態では、負圧不足により必要となるアシスト量が予め定められた第1閾値を超える場合(ステップS15:Yes)に、EPB作動指示部41が、EPB(EPBアクチュエータ30)を作動させる(ステップS17)。これにより、ハイブリッド車両1は制動されるので、ハイブリッド車両1の減速が進む。
【0040】
また、本実施形態では、負圧不足により必要となるアシスト量が予め定められた第2閾値を超える場合(ステップS16:Yes)に、H/U作動指示部42が、H/Uアクチュエータ21を作動させる(ステップS18)。これにより、ハイブリッド車両1は制動されるので、ハイブリッド車両1の減速が進む。
【0041】
尚、図6に示した例では、負圧不足により必要となるアシスト量が第1閾値以上(ステップS15:Yes)であって第2閾値以下の場合(ステップS16:No)に、EPBアクチュエータ30を作動させ(ステップS17)、必要アシスト量が第2閾値以上である場合(ステップS16:Yes)に、H/Uアクチュエータ21を作動させるものとしたが、負圧不足により必要となるアシスト量が第1閾値以上(ステップS15:Yes)に常にEPBアクチュエータ30を作動させるものとしてもよい。
【0042】
[ブレーキシステムの効果]
実施形態に係るハイブリッド車両1のブレーキシステムによれば、ブレーキブースタ17の負圧の低下によりブレーキペダル16の操作力をアシストできなくなっても、回生トルクを設定値よりも大きくすることで、ハイブリッド車両1の運動エネルギの回収量が増加するので、ハイブリッド車両1は、十分な減速度を得ることができる。
【0043】
また、負圧不足判定部38が負圧不足と判定した場合に、必要アシスト量演算部39が負圧不足により必要となるアシスト量を演算し、回生トルク設定変更部40が、回生トルクを、必要となるアシスト量に相当する回生トルク分だけ大きくなるよう変更する。これにより、負圧不足により必要となるアシスト量に相当する回生トルク分だけハイブリッド車両1の運動エネルギが回収されるので、ハイブリッド車両1は、ブレーキブースタ17の負圧低下前と同等の減速度を得ることができる。
【0044】
また、負圧不足により必要となるアシスト量が予め定められた第1閾値以上となる場合に、EPB作動指示部41がEPB(EPBアクチュエータ30)を作動させるので、駆動用バッテリ14がハイブリッド車両1の運動エネルギを回収することができない場合であっても、十分な減速度を得ることができる。
【0045】
また、負圧不足により必要となるアシスト量が予め定められた第2閾値以上となる場合に、H/U作動指示部42がH/Uアクチュエータ21を作動させるので、駆動用バッテリ14がハイブリッド車両1の運動エネルギを回収することができない場合であっても、十分な減速度を得ることができる。
【0046】
本発明は、上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態を含む。
【符号の説明】
【0047】
1 ハイブリッド車両
10 駆動用モータ
11 エンジン
12 駆動輪(前輪二輪)
13 トランスアクスル
14 駆動用バッテリ
15 後輪二輪
16 ブレーキペダル
17 ブレーキブースタ
18 ブレーキブースタ負圧センサ
19 マスターシリンダ
20 ブレーキ液圧ライン
21 ハイドロリックユニットアクチュエータ(H/Uアクチュエータ)
22 フロントブレーキ
23 リヤブレーキ
24 ブレーキ液圧ライン
25 ブレーキ制御ユニット(ブレーキECU)
26 ブレーキ液圧センサ
27 車輪速センサ
28 電動パーキングブレーキ(EPB)のオン/オフスイッチ
29 前後Gセンサ
30 電動パーキングブレーキアクチュエータ(EPBアクチュエータ)
31 インバータ
32 SOC管理装置
33 温度センサ
34 走行制御装置(HEV-ECU)
35 アクセルペダル
36 アクセルポジションセンサ(APS)
37 回生トルク設定部
38 負圧不足判定部
39 必要アシスト量演算部
40 回生トルク設定変更部
41 電動パーキングブレーキ作動指示部(EPB作動指示部)
42 ハイドロリックユニットアクチュエータ作動指示部(H/U作動指示部)

図1
図2
図3
図4
図5
図6