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  • 特開-3次元造形物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143687
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】3次元造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/106 20170101AFI20241003BHJP
   B29C 64/209 20170101ALI20241003BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20241003BHJP
   B33Y 70/10 20200101ALI20241003BHJP
   B29C 64/314 20170101ALI20241003BHJP
【FI】
B29C64/106
B29C64/209
B33Y10/00
B33Y70/10
B29C64/314
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056475
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山野 俊明
(72)【発明者】
【氏名】竹内 文人
(72)【発明者】
【氏名】依田 勇佑
(72)【発明者】
【氏名】浜本 拓哉
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213AA11
4F213AA45
4F213AB11
4F213AB16
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL23
4F213WL24
4F213WL25
(57)【要約】
【課題】3次元造形物を、機械特性の低下を抑制して簡便に再造形することができる3次元造形物の製造方法を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂と、熱可塑性エラストマーと、タルクと、を含む3次元造形物のリサイクル材を用いた3次元造形用材料を準備する材料準備工程と、前記3次元造形用材料を溶融する溶融工程と、前記溶融された前記3次元造形用材料を3次元造形物製造装置のノズルから押し出し、3次元造形物を造形する造形工程と、を含む3次元造形物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と、熱可塑性エラストマーと、充填材と、を含む3次元造形物のリサイクル材を用いた3次元造形用材料を準備する材料準備工程と、
前記3次元造形用材料を溶融する溶融工程と、
前記溶融された前記3次元造形用材料を3次元造形物製造装置のノズルから押し出し、3次元造形物を造形する造形工程と、
を含む3次元造形物の製造方法。
【請求項2】
前記3次元造形用材料は、前記3次元造形用材料を、加熱温度200℃、射出圧力45MPaで射出成形した射出成形品の引張弾性率X(MPa)が下記式(I)を満たす、請求項1に記載の3次元造形物の製造方法。
式(I) 50<X<4000
【請求項3】
前記3次元造形用材料は、前記3次元造形用材料の全質量に対する前記リサイクル材の含有率が95質量%以上である、請求項1又は請求項2に記載の3次元造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、3次元造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、3次元造形用の製造装置を用いて3次元造形物を造形する方法が注目されている。3次元造形物を造形するには、3次元造形物の3次元の座標データ(以下、「3Dデータ」という。)が必要とされる。スライサーソフトウェアは、3Dデータを輪切りにして、複数の2次元データを生成する。3次元造形用の製造装置は、複数の2次元データをもとに、2次元層を順次積層する。これによって3次元造形物は、造形される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
3次元造形物の造形方式としては、材料押出(MEX;Material Extrusion)方式、光造形方式、インクジェット方式、粉末固着造形方式、粉末焼結造形方式等が挙げられる。これらの方式の中でも、材料押出方式は、幅広い材料選択が可能である点で特に注目されている。
【0004】
材料押出方式は、熱により溶融した熱可塑性樹脂をノズルから押出して積層することで3次元造形物を造形する方式である。
材料押出方式の3次元造形に用いる材料として、例えば、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、及び充填材が含まれる3次元造形用材料が開示されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-131497号公報
【特許文献2】国際公開第2021/060278号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
材料押出方式の3次元造形方法では、熱可塑性樹脂を使用することから射出成形品と同様に造形物の再造形が期待される。
しかし、材料押出方式では、再造形の際に再度熱が加わることで、熱劣化による造形品の品質低下が予想される。
【0007】
本開示は、上記事情に鑑み、3次元造形物を、機械特性の低下を抑制して簡便に再造形することができる3次元造形物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
【0009】
<1> 熱可塑性樹脂と、熱可塑性エラストマーと、充填材と、を含む3次元造形物のリサイクル材を用いた3次元造形用材料を準備する材料準備工程と、
前記3次元造形用材料を溶融する溶融工程と、
前記溶融された前記3次元造形用材料を3次元造形物製造装置のノズルから押し出し、3次元造形物を造形する造形工程と、
を含む3次元造形物の製造方法。
<2> 前記3次元造形用材料は、前記3次元造形用材料を溶融して射出成形した射出成形品の引張弾性率X(MPa)が下記式(I)を満たす、<1>に記載の3次元造形物の製造方法。
式(I) 50<X<4000
<3> 前記3次元造形用材料は、前記3次元造形用材料の全質量に対する前記リサイクル材の含有率が95質量%以上である、<1>又は<2>に記載の3次元造形物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、3次元造形物を、機械特性の低下を抑制して簡便に再造形することができる3次元造形物の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】3次元造形性を評価するために実施例1で製造した3次元造形物を写した画像である。
図2】比較例1及び実施例1で製造した3次元造形物の機械特性を評価するためのサンプルの打ち抜き形状を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本開示の実施形態について説明する。以下に説明する実施形態及び実施例は、本開示に係る3次元造形物の製造方法を例示するものであり、本開示の3次元造形物の製造方法を制限するものではない。
【0013】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値に置き換えてもよく、下限値についても同様である。
また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0014】
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。本開示において組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
また、本開示おいて「工程」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0015】
本開示に係る3次元造形物の製造方法は、熱可塑性樹脂と、熱可塑性エラストマーと、充填材と、を含む3次元造形物のリサイクル材を用いた3次元造形用材料を準備する材料準備工程と、前記3次元造形用材料を溶融する溶融工程と、前記溶融された前記3次元造形用材料を3次元造形物製造装置のノズルから押し出し、3次元造形物を造形する造形工程と、を含む。
【0016】
熱可塑性樹脂等を含む3次元造形用材料を用いて3次元造形物を造形する場合、充填材として、ガラス繊維等を混合することで強度向上を図ることができる。しかし、3次元造形用材料で造形した3次元造形物をフレーク状に粉砕して押出により再ペレット化した3次元造形用材料(リサイクル材)を用いて再度3次元造形物を造形(再造形)すると、バージン材を用いて造形した3次元造形物に比べて機械特性(引張特性、曲げ特性)が大きく低下してしまう。
【0017】
そこで、本開示の発明者らが実験、検討を重ねたところ、充填材として、例えばタルクを用いた3次元造形物であれば、使用済みや造形不良の3次元造形物をフレーク状に粉砕して再ペレット化したリサイクル材を用いて再造形しても、バージン材で造形した3次元造形物と同等レベルの機械特性が得られることが分かった。3次元造形物を粉砕して押出により再ペレット化する際、ガラス繊維は壊れ易いが、タルクは壊れ難い。そのため、充填材としてタルクを用いた3次元造形物であれば、これを粉砕して押出したリサイクル材を3次元造形用材料として用いても機械特性の低下が効果的に抑制されると考えられる。
【0018】
[材料準備工程]
材料準備工程では、熱可塑性樹脂と、熱可塑性エラストマーと、充填材と、を含む3次元造形物のリサイクル材を用いた3次元造形用材料を準備する。
【0019】
<3次元造形用材料>
本開示に係る3次元造形物の製造方法は、3次元造形用材料として、熱可塑性樹脂と、熱可塑性エラストマーと、充填材と、を含む3次元造形物を粉砕、溶融、押出などのリサイクル処理により得られたリサイクル材(本明細書において「3次元造形物リサイクル材」又は単に「リサイクル材」と称する場合がある。)を用いる。充填材としてガラス繊維を含まない充填材、好ましくはタルクを含む3次元造形物をリサイクル材の原料とするため、リサイクル処理時の粉砕、溶融、押出などによる充填材の破壊が抑制される。そのため、この3次元造形物リサイクル材を用いて3次元造形物を再造形しても機械特性の低下を抑制することができる。
【0020】
3次元造形用材料の全質量に対する3次元造形物リサイクル材の含有率(本明細書において「リサイクル材含有率」と称する場合がある。)は、再造形する3次元造形物に要求される機械特性に応じて設定することができるが、リサイクル材含有率の向上、製造容易性などの観点から、リサイクル材含有率は95質量%以上が好ましく、99質量%以上がより好ましく、特に製造容易性の観点から、100質量%であることが特に好ましい。
【0021】
以下、3次元造形用材料の一例として、3次元造形用材料が3次元造形物リサイクル材のみで構成されている場合(すなわち、リサイクル材含有率100質量%)について主に説明する。
【0022】
(熱可塑性樹脂)
本開示における3次元造形物リサイクル材は、熱可塑性樹脂を含む。
本開示において、熱可塑性樹脂の25℃での引張弾性率は、6.0×10Pa以上である。
熱可塑性樹脂は、特に制限されず、公知の熱可塑性樹脂が適用できる。熱可塑性樹脂は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
例えば、熱可塑性樹脂としては、汎用プラスチック、エンジニアリング・プラスチック、スーパーエンジニアリング・プラスチック等が挙げられる。
汎用プラスチックとしては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、プロピレン系重合体(プロピレン単独重合体(PP)等)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン(PS)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS樹脂)、スチレンアクリロニトリルコポリマー(AS樹脂)、アクリル樹脂(PMMA等)などが挙げられる。
エンジニアリング・プラスチックとしては、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE、変性PPE、PPO)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、環状ポリオレフィン(COP)等が挙げられる。
スーパーエンジニアリング・プラスチックとしては、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリテトラフロロエチレン(PTFE)、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルサルフォン(PES)、非晶ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、熱可塑性ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)等が挙げられる。
中でも、熱可塑性樹脂は、高密度ポリエチレン(HDPE)、プロピレン系重合体、ポリアミド(PA)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)及びポリアセタール(POM)からなる群より選択される1種以上を含むことが好ましく、プロピレン系重合体を含むことがより好ましい。
【0023】
熱可塑性樹脂は、結晶性の熱可塑性樹脂であっても、非晶性の熱可塑性樹脂であってもよい。例えば、熱可塑性エラストマーとの親和性の観点及び充填材を熱可塑性樹脂に好適に分散させる観点からは、熱可塑性樹脂は、結晶性の熱可塑性樹脂を含むことが好ましく、高密度ポリエチレン(HDPE)、プロピレン系重合体、ポリアミド(PA)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)及びポリアセタール(POM)からなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、結晶性のプロピレン系重合体を含むことがさらに好ましい。なお、熱可塑性樹脂の「結晶性」とは、示差走査熱量測定において、吸熱ピークを有することを指す。一方、熱可塑性樹脂の「非晶性」とは、示差走査熱量測定において、明確な吸熱ピークが認められないことを指す。
【0024】
プロピレン系重合体は、少なくともプロピレンを構成単位として有する重合体である。
プロピレン系重合体は、プロピレンの単独重合体であっても、プロピレンと他の単量体との共重合体であってもよい。プロピレン系重合体が共重合体である場合、プロピレン系重合体としては、例えば、プロピレンと炭素数2~20のα-オレフィン(但し、プロピレンを除く。)との共重合体が挙げられる。前記プロピレンと炭素数2~20のα-オレフィンとの共重合体としては、例えば、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・1-ブテン共重合体、プロピレン・エチレン・1-ブテン共重合体、プロピレン・4-メチル-1-ペンテン共重合体、これらの混合物等が挙げられる。
【0025】
プロピレン系重合体が共重合体である場合、プロピレン系重合体は、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、及びグラフト共重合体のいずれであってもよい。
【0026】
プロピレン系重合体が共重合体である場合、プロピレン系重合体におけるプロピレンに由来する構成単位の比率は、所望する3次元造形物の性質に応じて適宜設計してよい。例えば、プロピレン系重合体におけるプロピレンに由来する構成単位の比率は、プロピレン系重合体中の全構成単位100モル%に対して、50モル%以上であることが好ましく、70モル%~99.5モル%であることがより好ましく、80モル%~98モル%であることがさらに好ましい。
【0027】
プロピレン系重合体の立体規則性は、アイソタクチック、シンジオタクチック及びこれらの混合体のいずれであってもよい。
【0028】
プロピレン系重合体の含有量は、熱可塑性樹脂の総量100質量%に対して、95.0質量%以上であることが好ましく、98.0質量%以上であることがより好ましく、99.9質量%以上であることがさらに好ましい。
【0029】
熱可塑性樹脂の結晶化温度(Tc)は、90℃~140℃であることが好ましく、110℃~130℃であることがより好ましい。
熱可塑性樹脂の結晶化温度は、示差走査熱量計(DSC)により降温速度10℃/分の条件で、測定される。
【0030】
熱可塑性樹脂の結晶化度は、2%~80%であることが好ましく、5%~75%であることが好ましい。
熱可塑性樹脂の結晶化度は、示差走査型熱量計(DSC)を用いて得られた熱流カーブのうち主成分の融解に由来する融解熱より算出される。熱流カーブは、熱可塑性樹脂を窒素雰囲気下-40℃で5分間保持した後、10℃/分で昇温させることにより得られる。具体的には、示差走査型熱量計(パーキン・エルマー社製、DSC-7)を用い、試料5mgを窒素雰囲気下-40℃で5分間保持した後、10℃/分で昇温させることにより熱流カーブが得られる。得られた熱流カーブのうち主成分の融解に由来する融解熱より下記の式を用いて、融解熱は算出される。
結晶化度=(ΔH/ΔH0)×100(%)
式中、ΔHは熱可塑性樹脂の主成分の融解に由来する融解熱カーブより求めた融解熱量(J/g)であり、ΔH0は主成分の完全結晶の融解熱量(J/g)である。例えば、主成分がエチレンの場合、ΔH0は293J/gであり、主成分がプロピレンの場合、ΔH0は210J/gである。
【0031】
熱可塑性樹脂の融点は、90℃以上であることが好ましく、110℃以上200℃以下であることがより好ましく、110℃以上180℃以下であることがさらに好ましい。
【0032】
融点の測定は、後述する熱可塑性エラストマーの融点の測定方法と同様にして行うことができる。
【0033】
熱可塑性樹脂の含有量は、再造形する3次元造形物の機械特性の低下を抑制する観点から、3次元造形物リサイクル材の全質量に対して、0.1質量%以上100質量%未満の範囲とすることができ、10質量%~70質量%の範囲がより好ましく、20質量%~60質量%の範囲がさらに好ましい。
【0034】
(熱可塑性エラストマー)
本開示における3次元造形物リサイクル材は、熱可塑性エラストマーを含む。
3次元造形物リサイクル材が熱可塑性エラストマーを含むことで、再造形する3次元造形物の変形が効果的に抑制される。
【0035】
熱可塑性エラストマーは、ゴム状弾性を有する。ゴム状弾性とは、樹脂に荷重が加えられると樹脂の形状が変形し、樹脂に加えられた荷重が除かれると樹脂の形状が元の形状に戻ろうとする性質を示す。具体的には、熱可塑性エラストマーとは、25℃での引張弾性率が6.0×10Pa未満である熱可塑性樹脂を指す。この点において、熱可塑性エラストマーは、熱可塑性樹脂と区別される。
【0036】
熱可塑性エラストマーは、α-オレフィン由来の構成単位と該α-オレフィンと異なる他のオレフィン由来の構成単位とを含む共重合体であることが好ましい。
【0037】
α-オレフィンとしては、通常、炭素数2~20のα-オレフィンを1種単独で含んでもよいし、2種以上を組み合わせて含んでいてもよい。中でも、α-オレフィンは、炭素数が3以上であるα-オレフィンが好ましく、炭素数3~8のα-オレフィンが特に好ましい。
【0038】
α-オレフィンとして、例えば、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ブテン、3,3-ジメチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン等が挙げられる。α-オレフィンは、1種もしくは2種以上が用いられる。
中でも、入手の容易さの観点から、α-オレフィンとして、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテンが好ましい。
【0039】
α-オレフィンと異なる他のオレフィンとしては、炭素数2~4のオレフィンが好ましく、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン等を挙げることができる。中でも、α-オレフィンと異なる他のオレフィンは、炭素数2~3のオレフィンがより好ましい。
【0040】
熱可塑性エラストマーである共重合体には、例えば、エチレン・α-オレフィン共重合体、プロピレン・α-オレフィン共重合体、ブテン・α-オレフィン共重合体が含まれる。
【0041】
熱可塑性エラストマーとしては、例えば、エチレン-プロピレン共重合体(EPR)、エチレン-1-ブテン共重合体(EBR)、エチレン-1-ペンテン共重合体、エチレン-1-オクテン共重合体(EOR)、プロピレン-1-ブテン共重合体(PBR)、プロピレン-1-ペンテン共重合体、プロピレン-1-オクテン共重合体(POR)等が挙げられる。
【0042】
中でも、熱可塑性エラストマーとしては、炭素数2~8のα-オレフィン由来の構成単位と炭素数2~3のオレフィン由来の構成単位とを含む共重合体が好ましく、熱可塑性樹脂(特に、プロピレン系重合体)との相溶性に優れ、再造形する3次元造形物の変形がより抑制される点で、プロピレン系エラストマーが好ましい。
【0043】
さらに、α-オレフィンは、ランダム共重合体を形成してもよく、ブロック共重合体を形成してもよい。
【0044】
熱可塑性エラストマーの融点は、30℃~120℃であることが好ましい。
融点が30℃~120℃であると、熱可塑性エラストマーは材料押出法で造形された3次元造形物の造形層間において、接着剤として作用する。これにより、材料押出法で造形された3次元造形物の造形層間の接着強度は向上する。材料押出法において、造形層は、ノズルから押し出される3次元造形物リサイクル材で構成される。
【0045】
融点は、示差走査熱量測定(DSC)によって吸熱曲線に現れる融解ピーク位置の温度Tmとして求められる値である。
融点は、試料をアルミパンに詰め、100℃/minで230℃まで昇温し、230℃で5分間保持した後、-10℃/minで-70℃まで降温し、ついで10℃/minで昇温する際の吸熱曲線より求められる。
【0046】
熱可塑性エラストマーのメルトフローレート(MFR;230℃、2.16kg荷重)の下限は、好ましくは0.5g/10min以上、より好ましくは1g/10min以上、さらに好ましくは2g/10min以上、特に好ましくは5g/10minである。
熱可塑性エラストマーのメルトフローレート(MFR;230℃、2.16kg荷重)の上限は、好ましくは70g/10min以下、より好ましくは35g/10min以下、さらに好ましくは30g/10minである。
熱可塑性エラストマーのMFRの上限及び下限がこの範囲内であると、再造形する3次元造形物の変形をより効果的に抑制することができる。
【0047】
メルトフローレート(Melt Flow Rate;MFR)は、ASTM D1238-65Tに準拠し、230℃、2.16kg荷重の条件で測定される値である。
【0048】
熱可塑性エラストマーは、ショアA硬度が50~99である熱可塑性エラストマー、又はショアD硬度が30~60である熱可塑性エラストマーが好ましい。
熱可塑性エラストマーの硬度がショアA硬度で50以上又はショアD硬度で30以上であると、熱可塑性エラストマーは変形し難くなる。換言すると、熱可塑性エラストマーの形状が維持され易くなる。そのため、後述する3次元造形物製造装置を用いて3次元造形物が造形される際、熱可塑性エラストマーがシリンダーのスクリューへ入り込みやすくなる。その結果、溶融状態の3次元造形材料の吐出効率が良くなる。これにより、表面が滑らかで外観に優れた3次元造形物が得られやすい。
硬度の下限は、上記と同様の理由から、ショアA硬度で55以上又はショアD硬度で40以上が好ましく、ショアA硬度で60以上又はショアD硬度で50以上がより好ましい。また、硬度の上限は、特に制限はなく、ショアA硬度で96以下又はショアD硬度で60以下が好ましい。硬度の下限は、上記の中でも、上記と同様の理由から、ショアD硬度が40以上であるものがさらに好ましく、ショアD硬度が50以上であるものがさらに好ましい。
【0049】
ショアA硬度及びショアD硬度は、ASTM D2240に記載の方法に準拠して測定される値である。
【0050】
熱可塑性エラストマーの具体例としては、例えば、三井化学株式会社製のタフマー(登録商標)シリーズ(例:タフマーDF605、タフマーDF610、タフマーDF640、タフマーDF710、タフマーDF740、タフマーDF7350、タフマーDF810、タフマーDF840、タフマーDF8200、タフマーDF940、タフマーDF9200、タフマーDF110、タフマーH-0530S、タフマーH-1030S、タフマーH-5030S、タフマーXM-7070、タフマーXM-7080、タフマーXM-7090、タフマーBL2491M、タフマーBL2481M、タフマーBL3110M、タフマーBL3450M、タフマーMA8510、タフマーMH7010、タフマーMH7020、タフマーMH5020、タフマーPN-2070、タフマーPN-3560)などを挙げることができる。
上記の中でも、熱可塑性樹脂(特に、プロピレン系重合体)との相溶性に優れ、再造形する3次元造形物の変形がより抑制される点で、プロピレン系エラストマーであるタフマーXMシリーズが好ましい。
タフマーXMシリーズは、熱可塑性樹脂(特に、プロピレン系重合体)との相溶性に優れ、かつ、3次元造形物に要求される破断応力αを維持することができる。これにより、材料押出法で造形される3次元造形物の造形層間の接着強度は向上する。
【0051】
熱可塑性エラストマーは、プロピレン系エラストマーであることが好ましい。プロピレン系エラストマーは、少なくともプロピレンを構成単位として有する熱可塑性エラストマーである。
熱可塑性エラストマーは、プロピレン系エラストマーであり、融点が80℃~120℃で、ショアD硬度が40~60で、MFRが2g/10min~20g/10minであることが好ましい。これにより、3次元造形物は、応力歪がより小さく、より反りにくくなる。
融点が80℃~120℃で、ショアD硬度が40~60で、MFRが2g/10min~20g/10minであるプロピレン系エラストマーとしては、タフマーXM-7090が挙げられる。
【0052】
熱可塑性エラストマーの含有量は、3次元造形物リサイクル材の全質量に対して、0.1質量%超え100質量%未満の範囲が好ましく、10質量%以上100質量%未満の範囲がより好ましく、10質量%~70質量%の範囲がさらに好ましく、20質量%~50質量%の範囲が特に好ましい。
【0053】
3次元造形物リサイクル材は、下記の(a1)、(b1)及び(c1)を満たすことが好ましい。
(a1)熱可塑性エラストマーの含有量が、3次元造形物リサイクル材の全質量に対して、10質量%以上70質量%未満であること
(b1)充填材の含有量が、3次元造形物リサイクル材の全質量に対して、10質量%以上50質量%未満であること
(c1)熱可塑性エラストマーの含有量と充填材の含有量との合計が、3次元造形物リサイクル材の全質量に対して、20質量%以上90質量%未満であること
【0054】
3次元造形物リサイクル材は、下記の(a2)、(b2)及び(c2)のいずれか1つを満たすことがより好ましい。
下記の(a2)、(b2)及び(c2)のいずれか1つを満たす3次元造形物リサイクル材を用いた3次元造形物は、応力歪がより小さく、より破断されにくく、より反りにくい。
(a2)3次元造形物リサイクル材の全質量に対して、熱可塑性エラストマーの含有量が、15質量%以上25質量%以下であり、充填材の含有量が、35質量%以上45質量%以下であること
(b2)3次元造形物リサイクル材の全質量に対して、熱可塑性エラストマーの含有量が、25質量%以上35質量%以下であり、充填材の含有量が、15質量%以上45質量%以下であること
(c2)3次元造形物リサイクル材の全質量に対して、熱可塑性エラストマーの含有量が、35質量%以上45質量%以下であり、充填材の含有量が、15質量%以上35質量%以下であること
【0055】
3次元造形物リサイクル材は、上記の(a2)、(b2)及び(c2)のうち、下記の(a3)及び(b3)のいずれか1つを満たすことがさらに好ましい。
下記の(a3)及び(b3)のいずれか1つを満たす3次元造形物リサイクル材を用いた3次元造形物は、応力歪がさらに小さく、3Dデータがより忠実に実体化され得る。
(a3)3次元造形物リサイクル材の全質量に対して、熱可塑性エラストマーの含有量が、25質量%以上35質量%以下であり、充填材の含有量が、25質量%以上35質量%以下であること
(b3)3次元造形物リサイクル材の全質量に対して、熱可塑性エラストマーの含有量が、35質量%以上45質量%以下であり、充填材の含有量が、15質量%以上35質量%以下であること
【0056】
(充填材)
本開示における3次元造形物リサイクル材は、ガラス繊維外の充填材を含む。好ましい充填材の1つとしてタルクが挙げられる。
タルクは、3次元造形物からリサイクル材を製造する際の粉砕、溶融などによって破壊され難い。そのため、充填材としてタルクを含む3次元造形物を粉砕、押出等のリサイクル処理により製造したリサイクル材を用いて3次元造形物を再造形した場合に、リサイクル材の原料である元の3次元造形物に比べて機械特性の低下が抑制される。
【0057】
タルクは、滑石と呼ばれる。タルクとは、含水珪酸マグネシウムである。含水珪酸マグネシウムは、層状粘土鉱物の一種であり、マグネシウム(Mg)とシリコン(Si)が酸素及び水酸基と結びついて構成される。
タルクの化学構造式は、一般に、[MgSi10(OH)]又は[3MgO・4SiO・HO]で表される。
【0058】
タルクの形状は、特に限定されず、例えば、鱗片状、楕円等が好ましい。
【0059】
タルクの体積平均粒径の上限は、好ましくは30μm以下、より好ましくは10μm以下である。タルクの体積平均粒径の下限は、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上である。
【0060】
タルクの体積平均粒径は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置等の粒度分布測定装置を用い、タルクを水中に分散した状態で測定した各粒子の粒径に基づく各粒子の体積を小粒径側から積算した場合に積算体積が全体積の50%となる粒径値をいう。
【0061】
3次元造形物リサイクル材におけるタルクの含有量は、再造形する3次元造形物に要求される機械特性などに応じて設定すればよいが、タルクの含有量は、再造形する3次元造形物の機械特性の低下と変形(特に反り)を抑制する観点から、3次元造形物リサイクル材の全質量に対して、5質量%以上70質量%以下であり、5質量%超え55質量%以下であることが好ましく、5質量%超え45質量%以下であることがより好ましい。
タルクの含有量が5質量%以上70質量%以下であれば、再造形する3次元造形物の機械特性の低下と変形(特に反り)が抑制される。
【0062】
例えば、充填材としては、タルクに限定されず、タルク以外の無機充填材(ガラス繊維を除く)、有機充填材、光輝性粉体、色素粉体、及びこれらの複合充填材等を含んでもよい。タルク以外の充填材は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0063】
タルク以外の無機充填材としては、タルクとは異なる無機粉体(以下、単に「無機粉体」という。)、光輝性無機粉体、複合無機粉体、無機繊維等が挙げられる。
無機粉体としては、酸化チタン、黒色酸化チタン、コンジョウ、群青、ベンガラ、黄色酸化鉄、黒色酸化鉄、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、シリカ、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化クロム、水酸化クロム、カーボンブラック、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、マイカ、合成雲母、合成雲母鉄、セリサイト、モスハイジ(硫酸マグネシウムウィスカー)、カオリン、炭化珪素、硫酸バリウム、ベントナイト、スメクタイト、窒化ホウ素等が挙げられる。
光輝性無機粉体としては、オキシ塩化ビスマス、酸化チタン被覆マイカ、酸化鉄被覆マイカ、酸化鉄被覆マイカチタン、酸化鉄・酸化チタン焼結体、アルミニウムパウダー等が挙げられる。
複合無機粉体としては、微粒子酸化チタン被覆マイカチタン、微粒子酸化亜鉛被覆マイカチタン、硫酸バリウム被覆マイカチタン、酸化チタン内包シリカ、酸化亜鉛内包シリカ等が挙げられる。
無機繊維としては、炭素繊維等が挙げられる。なお、3次元造形物の充填材としてガラス繊維が使用される場合もあるが、本開示に係る3次元造形物の製造方法では、充填材としてガラス繊維は含まれない。
【0064】
有機充填材としては、樹脂粒子、パルプ等が挙げられる。
樹脂粒子としては、カーボンファイバー、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、テトラフルオロエチレン、シリコーンパウダー、ポリフェニレンエーテル等が挙げられる。
パルプとしては、セルロース、セルロース誘導体等が挙げられる。
【0065】
(その他の成分)
本開示における3次元造形物リサイクル材を用いた3次元造形用材料は、上記した熱可塑性エラストマー、熱可塑性樹脂、充填材以外に、再造形した場合の機械特性の低下が抑制される範囲内で他の成分を含んでもよい。
例えば、紫外線吸収剤、安定剤、酸化防止剤、可塑剤、着色剤、整色剤、難燃剤、帯電防止剤、蛍光増白剤、つや消し剤、衝撃強度改良剤等が挙げられる。
また、再資源化の観点から、バイオマス由来原料を含んでもよい。
【0066】
上述したその他の成分は、3次元造形物リサイクル材の原料である3次元造形物に含まれていてもよいし、3次元造形物のリサイクル材とは別に、3次元造形用材料の一部として添加されてもよい。
【0067】
また、3次元造形物リサイクル材の原料である3次元造形物に含まれている熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、及びタルクとは別に、バージン材である(すなわち、リサイクル材ではない)熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、及びタルクのいずれか1種又は2種以上を、3次元造形用材料の一部として追加してもよい。特に、リサイクル材に含まれる樹脂成分(熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー)は、再ペレット化の際の熱などによって劣化する傾向があるため、3次元造形用材料の一部として(例えば、3次元造形用材料全質量に対して5質量%以内で)バージン材を添加することが好ましい。
また、3次元造形物リサイクル材とは異なるリサイクル材、例えば、熱可塑性樹脂を含むが、熱可塑性エラストマーを含まない3次元造形物を原料としたリサイクル材、3次元造形物に由来しないリサイクル材を配合してもよい。
【0068】
なお、3次元造形物リサイクル材と、上記のようなバージン材や他のリサイクル材等の他の材料とを混合した3次元造形用材料を用いる場合は、前述した熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、及びタルクの各含有量は、その他の材料を含む3次元造形用材料の全質量に対して、それぞれ前述した範囲内とすることが好ましい。
【0069】
熱可塑性樹脂と、熱可塑性エラストマーと、タルクと、を含む3次元造形物を用いてリサイクル材を製造する方法は特に限定されず、公知の方法を適用することができる。例えば、熱可塑性樹脂と、熱可塑性エラストマーと、タルクと、を含む3次元造形物(使用済み品、造形不良品など)を回収して粉砕機によりフレーク状に粉砕した後、押出により再ペレタイズ処理する方法が挙げられる。
また、3次元造形物リサイクル材の形状、サイズも特に限定されず、例えば、材料押出方式の3次元造形物製造装置に用いることができる形状、サイズを採用することができる。
【0070】
本開示における3次元造形物リサイクル材を用いた3次元造形用材料は、射出成形品とした場合の引張弾性率X(MPa)が下記式(I)を満たすことが好ましい。
式(I) 50<X<4000
【0071】
3次元造形用材料の射出成形品の引張弾性率Xが50MPa超であれば、安定して積層造形することができる。一方、3次元造形用材料の射出成形品の引張弾性率Xが4000MPa未満であれば、バージン材を用いた場合と同等の造形性を維持した3次元造形物を製造できる。
かかる観点から、300≦X≦4000であることが好ましく、1000≦X≦2500であることがより好ましい。
射出成形品の引張弾性率Xは、3次元造形物リサイクル材の組成、あるいは、必要に応じて3次元造形用材料の一部として添加される他のリサイクル材やバージン材によって調整可能である。
【0072】
射出成形品の引張弾性率Xは、JIS K7161-2:2014に準拠して測定される。試験速度は、1mm/分である。
【0073】
引張弾性率Xの測定に用いる射出成形品は、3次元造形物リサイクル材を射出成形して得られたJIS K7161-2:2014に規定される1A形試験片である。射出成形品の全長は、170mmである。射出成形品の厚みは、2.5mmである。
射出成形の加熱温度は、200℃である。射出成形の射出圧力(保圧)は、45MPaである。
射出成形品は、リサイクル材を用いた3次元造形用材料を射出成形して得られる射出成形物に機械加工が施された機械加工物であってもよい。
【0074】
[溶融工程]
溶融工程は、既述の3次元造形物リサイクル材を用いた3次元造形用材料を溶融する。
【0075】
3次元造形物リサイクル材を溶融する加熱手段は、特に制限されず、公知の加熱手段が適用できる。
【0076】
溶融工程では、例えば電気ヒーター等の加熱手段を備えた3次元造形物製造装置を用いることが好ましい。
【0077】
3次元造形物リサイクル材を溶融する温度は、特に制限されず、熱可塑性樹脂の性質に応じて適宜設定すればよい。3次元造形物リサイクル材を溶融する温度は、例えば、熱可塑性樹脂の融点又はガラス転移温度(Tg)のいずれか高い温度を基準として、+10℃~150℃の温度としてもよい。
【0078】
溶融工程では、例えば、3次元造形用材料を溶融し、かつ混練してもよい。3次元造形用材料が溶融及び混練されたことにより、3次元造形用材料はより均一に混ざる傾向にある。そのため、得られた3次元造形物の材料のムラが生じることが抑制され易い。その結果、再造形される3次元造形物の機械特性のバラつきと変形が抑制される傾向にある。
【0079】
[造形工程]
造形工程は、溶融された3次元造形用材料を3次元造形物製造装置のノズルから押し出し、3次元造形物を造形する。
【0080】
例えば、溶融された3次元造形用材料を3次元造形物製造装置のノズルから押し出し、複数の2次元データをもとに、2次元層を基板の上に順次積層することにより、3次元造形物を造形することができる。複数の2次元データは、スライサーソフトウェアによって、造形される3次元造形物の3次元の座標データが輪切りにされて、生成される。
【0081】
3次元造形物製造装置は、材料押出方式の3次元造形物製造装置を用いることができる。材料押出方式の3次元造形物製造装置は、特に制限はなく、公知の装置又は公知の装置構成を適用することができる。
【0082】
3次元造形物製造装置は、例えば、シリンダーと、ノズルと、加熱手段と、を備えた装置であってもよい。シリンダーには、3次元造形用材料が供給される。ノズルは、シリンダーの3次元造形用材料の吐出方向下流側の部位に設けられる。ノズルは、3次元造形用材料を吐出する。加熱手段は、シリンダーに設けられる。加熱手段は、3次元造形用材料を加熱し溶融する。
3次元造形物製造装置は、加熱溶融された3次元造形用材料をノズルから押し出し、ノズルから押し出された3次元造形用材料を積層造形する。これにより、3次元造形物が造形される。
【0083】
シリンダーは、その内部にスクリューを有していてもよい。スクリューは、3次元造形材料を混練する。
3次元造形物製造装置は、テーブル装置をさらに備えていてもよい。テーブル装置は、ノズルに対向して配置される。テーブル装置上には、ノズルから押し出される溶融状態の3次元造形用材料が積層される。
3次元造形物製造装置は、制御手段をさらに備えていてもよい。制御手段は、基板及びノズルの空間座標、並びに、ノズルから押し出される3次元造形用材料の量を制御する。制御手段は、ノズルから押し出される溶融状態の3次元造形用材料の吐出を制御し、かつ、ノズル及び/又はテーブル装置の、基準面に対するX軸,Y軸,Z軸方向への移動を制御することが好ましい。
【0084】
なお、3次元造形物リサイクル材を用いて再造形する3次元造形物は特に限定されず、リサイクル材の原料である元の3次元造形物と異なる形状、用途の3次元造形物であってもよい。
【0085】
[他の工程]
本開示の3次元造形物の製造方法は、例えば、加工工程をさらに有してもよい。加工工程では、造形工程で造形された3次元造形物を加工処理する。
【0086】
上述したように、本開示の3次元造形物の製造方法によれば、熱可塑性樹脂と、熱可塑性エラストマーと、タルクと、を含む3次元造形物を粉砕、押出により再ペレット化した3次元造形物リサイクル材を3次元造形用材料として用いて、機械特性の低下が抑制された3次元造形物を簡便に再造形することができる。
【0087】
なお、リサイクル材の原料として利用した元の3次元造形物(再利用元品)と同じ形状の3次元造形物を再造形する場合は、再利用元品と同じ3次元造形物製造装置及び条件で造形し、再利用元品と同等レベルの機械特性(例えば、強度低下10%以内)、外観をする3次元造形物を製造することができる。
また、リサイクル材の原料である元の3次元造形物は、バージン材で造形されたものに限らず、リサイクル材で造形された3次元造形物でもよい。
本開示の3次元造形物の製造方法によれば、高いリサイクル材含有率で3次元造形物を製造することができるため、製造コストを引く抑え、資源の再利用にも大いに資することができる。
【実施例0088】
以下、本開示を実施例によりさらに具体的に説明するが、本開示はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0089】
[比較例1]
<3次元造形用材料の準備>
3次元造形用材料として下記材料を混合、溶融、押出によりペレット化したバージンペレット(サイズ:φ2.5×3mm)を準備した。
【0090】
(熱可塑性エラストマー)43質量%
・XM7090:タフマーXM-7090(三井化学株式会社)
【0091】
(熱可塑性樹脂)17質量%
・J105G:プライムポリプロJ-105G(プロピレン単独重合体、株式会社プライムポリマー)
【0092】
(充填剤)40質量%
タルク(体積平均粒径5μm~10μm)
【0093】
<3次元造形物の製造>
上記バージンペレットを用い、材料押出方式の3次元造形物製造装置(GEM444、エスラボ社製)により、直線部、曲線部、及び屈曲部を有する形状の3次元造形物V1(高さH:4mm、幅W:200×240mm)を製造した。
・造形スピード:600mm/min
・ノズル温度 :200℃
・積層ピッチ :1.5mm
【0094】
[実施例1]
<3次元造形用材料>
3次元造形用リサイクル材として、比較例1で製造した5個の3次元造形物を粉砕、溶融、押出により再ペレット化したリサイクルペレット(サイズ:φ2.5×3mm)を製造した。
【0095】
<3次元造形物の製造>
3次元造形用材料として上記リサイクルペレットを用いたこと以外は、比較例1と同様にして3次元造形物R1を製造した。
【0096】
[評価]
(3次元造形性)
3次元造形性の評価として、3次元造形物V1及び3次元造形物R1の外観をそれぞれ目視で評価した。図1は、実施例1で製造した3次元造形物R1の外観を写した画像である。3次元造形物R1の外観は3次元造形物V1の外観と同等であり、外観上の優劣は認められなかった。
【0097】
(3次元造形物の機械特性)
材料押出方式の3次元造形物製造装置(GEM444、エスラボ社製)を用い、ホッパーに3次元造形用材料(バージンペレット又はリサイクルペレット)を投入し、3次元造形用材料をシリンダー内に供給した。
次いで、シリンダーに設けられたヒーターにより3次元造形用材料の温度を180℃~240℃に加熱し、溶融させた(溶融工程)。
【0098】
次に、下記の3Dデータモデルを輪切りにして、複数の2次元データを生成した。複数の2次元データをもとに、設定パラメータを下記のとおりに設定し、材料押出方式(MEX;Material Extrusion)にて機械加工前の測定用造形物を造形した(造形工程)。
<3Dデータ>
・205mm×205mm×高さ100mmの四角柱
・厚み 引張2.0mm、曲げ4.0mm
<設定パラメータ>
・造形スピード:引張1500mm/min、曲げ750mm/min
・ノズル温度 :240℃
・積層ピッチ :引張1.0mm、曲げ2.0mm
【0099】
図2に示すように、得られた3次元造形物の平坦な側壁部分10から、積層方向に対して垂直方向のサンプル(図2(A))と、積層方向に対して平行方向のサンプル(図2(B))をそれぞれ1BA形試験片の形状(白抜き部分S1,S2)に打ち抜き、各サンプルを用いて、JIS K7161-2:2014に準拠して引張弾性率及び引張破壊応力を、JIS K7171:2016に準拠して曲げ弾性率及び曲げ強さをそれぞれ測定した。測定結果を表1に示す。
【0100】
【表1】

【0101】
表1に見られるように、実施例1の3次元造形物は、バージンペレットを用いて製造した比較例1の3次元造形物を粉砕、押出して再ペレット化したリサイクルペレットを用いて造形したにも関わらず、比較例1の3次元造形物を100%とした場合に比べ、引張特性、曲げ特性とも95%以上であり、同等レベル以上の機械特性が得られた。特に引張弾性率は、積層方向に対して垂直方向及び平行方向のいずれも110%を超えていた。
【0102】
(射出成形品の機械特性)
比較例1で用いたバージンペレット又は実施例1で用いたリサイクルペレットを用いて下記条件により射出成形を行い、射出成形品(サイズ:引張JIS K7161-2:2014に規定される1A形、曲げJIS K7161)を製造した。
<設定パラメータ>
・加熱温度:200℃
・射出圧力(保圧):45MPa
【0103】
製造した各射出成形品についてJIS K7161-2:2014に準拠して引張弾性率及び引張破壊応力を、JIS K7171:2016に準拠して曲げ弾性率をそれぞれ測定した。結果を表2に示す。
【0104】
【表2】
【0105】
表2に見られるように、リサイクルペレットを用いた射出成形品は、バージンペレットを用いた射出成形品と比べ、引張弾性率、引張破壊応力、及び曲げ弾性率のいずれも同等レベルであった。このような結果からも、熱可塑性樹脂と、熱可塑性エラストマーと、タルクと、を含む3次元造形物から得たリサイクル材を用いた成形であれば、バージン材に比べ機械特性の低下を効果的に抑制することができ、3次元造形物の製造に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0106】
10 3次元造形物の一部(機械特性測定用)
S1 積層方向に対して垂直方向のサンプルの打ち抜き形状
S2 積層方向に対して平行方向のサンプルの打ち抜き形状
図1
図2