(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143696
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】活物質及びその製造方法、並びにそれを含む電極合剤、電極及び電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/505 20100101AFI20241003BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20241003BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20241003BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20241003BHJP
H01M 10/0525 20100101ALI20241003BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20241003BHJP
【FI】
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/36 C
H01M4/62 Z
H01M10/0525
H01M10/0562
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056486
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保田 智志
(72)【発明者】
【氏名】井上 大輔
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ04
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL07
5H029AM12
5H029CJ02
5H029CJ08
5H029DJ09
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ04
5H029HJ13
5H029HJ14
5H050AA09
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB08
5H050DA13
5H050EA01
5H050EA10
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA22
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA04
5H050HA13
(57)【要約】
【課題】貯蔵特性が保存環境に影響されやすい電池である固体電池の当該貯蔵特性を向上し得る活物質及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の活物質は芯材粒子と被覆部とを有する。被覆部は、リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び酸素(O)元素を含有する化合物を含む。化合物は、リン(P)元素に対するリチウム(Li)元素のモル比が0.8以上1.2以下であり、且つ、リン(P)元素に対する酸素(O)元素のモル比が2.5以上3.5以下である。活物質は、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)で得られた赤外吸収スペクトルにおいて1290±50cm
-1の範囲にピークを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材粒子と、該芯材粒子の表面に配置された被覆部とを有する活物質であって、
前記被覆部は、リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び酸素(O)元素を含有する化合物を含み、
前記化合物は、リン(P)元素に対するリチウム(Li)元素のモル比が0.5以上2.5以下であり、且つ、リン(P)元素に対する酸素(O)元素のモル比が2.5以上3.5以下であり、
フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)で得られた赤外吸収スペクトルにおいて1290±50cm-1の範囲にピークを有する、活物質。
【請求項2】
X線光電子分光分析によって測定されたP2pのスペクトルにおいて134±0.45eVの範囲にピークを有する、請求項1に記載の活物質。
【請求項3】
前記被覆部に含まれる前記化合物の割合が50質量%以上である、請求項1に記載の活物質。
【請求項4】
前記芯材粒子が、スピネル構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、及びオリビン構造を有するリン酸塩化合物から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1に記載の活物質。
【請求項5】
前記被覆部の厚みが1nm以上100nm以下である、請求項1に記載の活物質。
【請求項6】
カールフィッシャー法によって測定された250℃までの水分率が1200ppm以下である、請求項1に記載の活物質。
【請求項7】
前記被覆部がメタリン酸リチウムを含む、請求項1に記載の活物質。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか一項に記載の活物質と、固体電解質と、導電材とを含む電極合剤。
【請求項9】
請求項8に記載の電極合剤と、結合剤とを含む電極。
【請求項10】
正極層と、負極層と、該正極層及び該負極層の間に位置する固体電解質層とを有する電池であって、
前記正極層が、請求項1ないし7のいずれか一項に記載の活物質を含む、電池。
【請求項11】
芯材粒子と、リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び酸素(O)元素を含有する化合物とを含む混合物を冷却しながら乾式混合して、該芯材粒子の表面に該化合物を含む被覆部を配置させる、活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は活物質及びその製造方法に関する。また本発明は該活物質を含む電極合剤、電極及び電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、CO2削減による地球温暖化防止に向けた取り組みとして、二次電池が注目されている。その中でも固体電池は、安全性と高エネルギー密度を兼ね備えた電池として実用化が期待されている。固体電池の各種性能を向上させることを目的として、活物質の表面に被覆層を形成する技術が種々知られている。例えば特許文献1には、活物質の表面をメタリン酸リチウムで被覆することが記載されている。同文献においては、活物質とメタリン酸リチウムの水溶液とを混合した後に、活物質を400℃で乾燥させることで、該活物質の表面に被覆層を形成している。
【0003】
特許文献2においては、活物質の表面をニオブ酸リチウムで被覆することが提案されている。この被覆によって、活物質と固体電解質との間に抵抗層が形成されることが抑制され、それによって界面抵抗の上昇が抑制され、延いてはリチウムイオンの移動が円滑に行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2017/094416号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2020/175506号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
固体電池は、貯蔵特性が保存環境に影響されやすいという課題を有している。この課題は特に保存環境が高温のときに顕著となり、固体電池の抵抗増大につながりやすい。
したがって本発明の課題は、貯蔵特性が保存環境に影響されやすい電池である固体電池の当該貯蔵特性を向上し得る活物質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、芯材粒子と、該芯材粒子の表面に配置された被覆部とを有する活物質であって、
前記被覆部は、リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び酸素(O)元素を含有する化合物を含み、
前記化合物は、リン(P)元素に対するリチウム(Li)元素のモル比が0.5以上2.5以下であり、且つ、リン(P)元素に対する酸素(O)元素のモル比が2.5以上3.5以下であり、
フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)で得られた赤外吸収スペクトルにおいて1290±50cm-1の範囲にピークを有する、活物質を提供することにより前記課題を解決したものである。
【0007】
また本発明は、芯材粒子と、リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び酸素(O)元素を含有する化合物とを含む混合物を冷却しながら乾式混合して、該芯材粒子の表面に該化合物を含む被覆部を配置させる、活物質の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、貯蔵特性が保存環境に影響されやすい電池である固体電池の当該貯蔵特性を向上し得る活物質及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施例1及び2、並びに比較例1の活物質のフーリエ変換赤外分光法で得られた赤外吸収スペクトルのグラフである。
【
図2】
図2は、実施例1及び2、並びに比較例1の活物質のX線光電子分光分析で得られたP2pのスペクトルのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。
本発明は電池の活物質、例えばリチウムイオン電池の活物質、及びその製造方法に関するものである。本発明の活物質は、芯材粒子と、該芯材粒子の表面に配置された被覆部とを有する。芯材粒子は活物質の大部分を占める部位であり活物質母材から構成されている。被覆部は、後述するとおりリン(P)元素を含有する化合物(以下「リン含有化合物」という。)を含む。リン含有化合物の詳細については後述する。芯材粒子の表面に、特定の化合物からなる被覆部を配置することで、貯蔵特性が保存環境に影響されやすい電池である固体電池の当該貯蔵特性を向上できる。特に保存環境が高温のときに顕著となる固体電池の抵抗増大を抑制できる。このような効果が得られる理由として、芯材粒子の表面に配置された被覆部によって、活物質から固体電解質への酸素の引き抜き、及び固体電解質から活物質への電子の引き抜き、を抑制できることが挙げられる。
【0011】
〔リン含有化合物〕
本発明の活物質において、被覆部は、リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び酸素(O)元素を含有する化合物、すなわちリン含有化合物を含む。本発明における被覆部がリン含有化合物を含むことは、貯蔵特性が保存環境に影響されやすい電池である固体電池の当該貯蔵特性を向上できる観点から好ましい。また、リン(P)元素と酸素(O)元素とは共有結合性があり結合力が高いことから、被覆部から固体電解質への酸素の引き抜きが起こりにくくなり、それによって固体電解質の酸化を抑制できるという観点からも好ましい。
【0012】
リン含有化合物は、リン(P)元素に対するリチウム(Li)元素のモル比が、例えば0.5以上であることが好ましく、0.8以上であることが更に好ましく、0.9以上であることが一層好ましい。
また、リン(P)元素に対するリチウム(Li)元素のモル比が、例えば2.5以下であることが好ましく、1.5以下であることが更に好ましく、1.2以下であることが一層好ましく、1.1以下であることが更に一層好ましい。
リン(P)元素に対するリチウム(Li)元素のモル比が前記範囲内にあることで、被覆部の耐電圧が向上する。それによって、被覆部から固体電解質への酸素の引き抜きが起こりにくくなり、固体電解質の酸化を抑制できる。
以上を勘案すると、リン(P)元素に対するリチウム(Li)元素のモル比が前記範囲にあることは、貯蔵特性が保存環境に影響されやすい電池である固体電池の当該貯蔵特性を向上できる観点から好ましい。
【0013】
また、リン含有化合物は、リン(P)元素に対する酸素(O)元素のモル比が、例えば2.5以上であることが好ましく、2.7以上であることが更に好ましく、2.9以上であることが一層好ましい。
また、リン(P)元素に対する酸素(O)元素のモル比が、例えば3.5以下であることが好ましく、3.3以下であることが更に好ましく、3.1以下であることが一層好ましい。
リン(P)元素に対する酸素(O)元素のモル比が前記範囲内にあることで、被覆部の耐電圧が向上する。それによって、被覆部から固体電解質への酸素の引き抜きが起こりにくくなり、固体電解質の酸化を抑制できる。
以上を勘案すると、リン(P)元素に対する酸素(O)元素のモル比が前記範囲にあることは、貯蔵特性が保存環境に影響されやすい電池である固体電池の当該貯蔵特性を向上できる観点から好ましい。
【0014】
リンを含有する化合物としては、例えばリン酸のリチウム塩、リン酸、ホスフィン、ホスホラン、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム等が挙げられる。リン酸のリチウム塩としては、例えばオルトリン酸リチウム、並びにその縮合物であるピロリン酸リチウム、メタリン酸リチウム及びポリリン酸リチウム等が挙げられる。リン含有化合物として、特にメタリン酸リチウムを用いることが好ましい。その理由は、貯蔵特性が保存環境に影響されやすい電池である固体電池の当該貯蔵特性を効果的に向上できるからである。リン含有化合物は一種を単独で用いることができ、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0015】
被覆部を形成するリン含有化合物は、上述したリチウム(Li)元素、リン(P)元素及び酸素(O)元素に加えて他の元素を含有してもよい。
他の元素としては、例えば炭素(C)元素、窒素(N)元素等が挙げられる。これらは一種を単独で用いることができ、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
リン含有化合物は、活物質に対して例えば0.1質量%以上含まれることが、好ましく、0.5質量%以上含まれることが更に好ましく、1.0質量%以上含まれることが一層好ましく、3.0質量%以上含まれることが更に一層好ましい。
また、リン含有化合物は、活物質に対して例えば10.0質量%以下含まれることが好ましく、8.0質量%以下含まれることが更に好ましく、7.0質量%以下含まれることが一層好ましい。
活物質に対するリン含有化合物が含まれる量を前記範囲とすることは、貯蔵特性が保存環境に影響されやすい電池である固体電池の当該貯蔵特性を効果的に向上できるといった観点から好ましい。特に保存環境が高温のときに顕著となる固体電池の抵抗増大を効果的に抑制できるといった観点から好ましい。
【0017】
〔被覆部〕
リン含有化合物は、芯材粒子の表面に、(I)粒子として存在しているか、(II)粒子が凝集してなる凝集粒子として存在しているか、又は(III)層を形成して存在している。「層を形成して存在する」とは、化合物が厚みをもって存在している状態を意味する。
本明細書においては、前記(I)ないし(III)のいずれの態様も「リン含有化合物を含む被覆部が形成されている」に包含される。
【0018】
被覆部に含まれるリン含有化合物はその割合が、例えば50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることが更に好ましく、95質量%以上であることが一層好ましい。被覆部に含まれるリン含有化合物の割合がこの範囲内にあることで、貯蔵特性が保存環境に影響されやすい電池である固体電池の当該貯蔵特性を効果的に向上できる。特に保存環境が高温のときに顕著となる固体電池の抵抗増大を効果的に抑制できる。被覆部に含まれるリン含有化合物の割合は100質量%に近ければ近いほど、高抵抗層の生成の抑制に一層寄与する。
【0019】
被覆部は、上述したリン含有化合物に加えて更に他の化合物を含んでもよい。他の化合物は、上述したリン含有化合物と異なる化合物である。被覆部におけるこれら化合物の存在状態は、被覆部の形成方法に依存する。被覆部の形成方法によっては、リン含有化合物と他の化合物とは、両者が混合された状態で被覆部中に存在していてもよい。
あるいは、被覆部の形成方法によっては、リン含有化合物を主として含む層と、他の化合物を主として含む層とが、積層された状態になって被覆部が形成されていてもよい。この場合、芯材粒子の表面に、リン含有化合物を主として含む層が存在し、その上に他の化合物を主として含む層が存在していてもよい。その逆に、芯材粒子の表面に、他の化合物を主として含む層が存在し、その上にリン含有化合物を主として含む層が存在していてもよい。
他の化合物としては、酸化物であることが好ましい。この酸化物はリチウム(Li)元素を含むことが好ましい。この酸化物がLi元素を含むことで、貯蔵特性が保存環境に影響されやすい電池である固体電池の当該貯蔵特性を効果的に向上できる。この利点を一層顕著なものとする観点から、この酸化物は、Li元素に加えて、A元素(Aは、ニオブ(Nb)元素、タンタル(Ta)元素、硫黄(S)元素及びジルコニウム(Zr)元素から選択される少なくとも一種の元素を表す。)を含むことが好ましい。以下、Li元素及びA元素を含む酸化物のことを便宜的に「LiA酸化物」ともいう。
【0020】
LiA酸化物の例としては、A元素がS元素であるLi2SO4が挙げられる。これに加えて、LiA酸化物の例としては、A元素がNb元素である酸化物であるLixNbOyも挙げられる。式中のx及びyは、Nb元素の価数に即した範囲内で任意の値を取り得る。具体的には、Li3NbO4、LiNbO3、LiNb3O8及びLi8Nb6O19などが挙げられる。
以上の各種LiA酸化物は、一種を単独で用いることができ、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
被覆部がリン含有化合物に加えて更に他の化合物を含む場合、被覆部におけるリン含有化合物と他の化合物との存在状態によらず、リン含有化合物と他の化合物との存在比率は、リン含有化合物に対する他の化合物の質量比で表して、例えば0.01以上であってもよく、0.10以上であってもよく、0.30以上であってもよい。
また、リン含有化合物と他の化合物との存在比率は、リン含有化合物に対する他の化合物の質量比で表して、1.00以下であってもよく、0.80以下であってもよく、0.60以下であってもよい。
リン含有化合物と他の化合物との存在比率が前記範囲内にあることで、貯蔵特性が保存環境に影響されやすい電池である固体電池の当該貯蔵特性を効果的に向上できる。特に保存環境が高温のときに顕著となる固体電池の抵抗増大を効果的に抑制できる。
被覆部に含まれるリン含有化合物及び他の化合物の量は、ICP発光分光分析法によって測定することができる。
【0022】
被覆部はその厚みが、例えば1nm以上であることが好ましく、中でも10nm以上、その中でも25nm以上であることが好ましい。被覆部の厚みがこの下限値を有することで、固体電解質と活物質との間での反応、例えば固体電解質と活物質との間での抵抗の増加を効果的に抑制できる。
また、被覆部はその厚みが、例えば100nm以下であることが好ましく、中でも50nm以下、その中でも35nm以下であることが好ましい。被覆部の厚みがこの上限値を有することで、固体電解質から活物質に対するイオンの移動が妨げられることを効果的に防ぐことができ、それによって電荷移動抵抗が増加することを効果的に防ぐことができる。
以上を勘案すると、被覆部の厚みが前記範囲内にあることで、貯蔵特性が保存環境に影響されやすい電池である固体電池の当該貯蔵特性を効果的に向上できる。特に保存環境が高温のときに顕著となる固体電池の抵抗増大を効果的に抑制できる。
被覆層の厚みは、例えば、X線光電子分光分析(XPS)により測定することができる。また、必要に応じて走査型透過電子顕微鏡(STEM)や、オージェ電子分光分析法(AES)などを組み合わせて観察し、測定することもできる。
【0023】
芯材粒子の表面の一部に被覆部が存在しない箇所があってもよい。この場合、芯材粒子の表面全体の面積の、例えば10%以上を被覆部が被覆していることが好ましく、中でも30%以上、その中でも45%以上を被覆部が被覆していることが好ましい(この値を「被覆率」ともいう。)。芯材粒子の表面を被覆部が被覆していることは、例えば、前記と同様に、X線光電子分光分析(XPS)と、必要に応じて走査型透過電子顕微鏡(STEM)や、エネルギー分散型X線分析(EDS)を組み合わせて芯材粒子の表面を観察することに加え、オージェ電子分光分析法(AES)により確認することができる。
また、芯材粒子の表面を被覆する被覆部の厚みは均一であることを要しない。
【0024】
〔芯材粒子〕
芯材粒子は、活物質として機能するものであればよく、特に限定されない。芯材粒子は、例えば、リチウム金属複合酸化物を含んでいてもよい。リチウム金属複合酸化物としては、公知のリチウム金属複合酸化物を用いることができる。例えば一般式LiMO2(Mは金属元素を表す。)で示される層状岩塩型構造のリチウム含有複合酸化物、リチウム過剰層状岩塩型のリチウム含有複合酸化物、一般式LiM2O4(Mは金属元素を表す。)で示されるスピネル構造のリチウム含有複合酸化物、一般式LiMPO4(Mは金属元素を表す。)で示されるオリビン構造のリン酸塩化合物から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。あるいはこれらの二種類以上の組み合わせであってもよい。尤もこれらに限定されるものではない。
【0025】
〔芯材粒子A〕
芯材粒子は、Li、Mn及びOと、これら以外の一種又は二種以上の元素とを含む、スピネル構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物からなる粒子であることが好ましい(以下、この芯材粒子のことを「芯材粒子A」ともいう。)。芯材粒子Aを含む本発明の活物質を正極活物質として用いた場合、金属Li基準電位で4.5V以上の作動電位を有する。「金属Li基準電位で4.5V以上の作動電位を有する」とは、プラトー領域として4.5V以上の作動電位のみを有している必要はなく、4.5V以上の作動電位を一部有している場合も包含する意である。したがって本発明は、プラトー領域として4.5V以上の作動電位を有する5V級正極活物質のみからなる正極活物質に限定されるものではない。例えば本発明の活物質は、プラトー領域として4.5V未満の作動電位を有する正極活物質を含んでいてもよい。具体的には、5V級正極活物質が、例えば30質量%以上を占めていることが好ましく、好ましくは50質量%以上、その中でも特に好ましくは80質量%以上(100質量%含む)を占める正極活物質を許容するものである。
【0026】
上述のとおり、芯材粒子Aは、Li、Mn及びOと、これら以外の二種以上の元素とを含むスピネル型複合酸化物からなる粒子であることが好ましい。「これら以外の二種以上の元素」のうちの少なくとも1元素は、Ni、Co及びFeからなる群から選択される金属元素M1であることが好ましく、他の1元素は、Na、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Co、Cu、Ga、Y、Zr、Nb、Mo、In、Ta、W、Re及びCeからなる群から選択される一種又は二種以上の組み合わせからなる金属元素M2であることが好ましい。
【0027】
芯材粒子Aの好ましい組成例として、LiMn2O4-δにおけるMnサイトの一部を、Liと、金属元素M1と、他の金属元素M2とで置換してなる結晶構造を有するスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物を含むものを挙げることができる。
【0028】
金属元素M1は、主に金属Li基準電位で4.5V以上の作動電位を発現させるのに寄与する置換元素であり、Ni、Co及びFeなどを挙げることができる。活物質Aは、これらのうち少なくとも一種を含んでいればよく、中でもNi及びCoのうちの少なくとも一種の元素を含んでいることが特に好ましい。
【0029】
金属元素M2は、主に結晶構造を安定化させて特性を高めるのに寄与する置換元素である。例えば容量維持率向上に寄与する置換元素として、例えばNa、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Co、Cu、Ga、Y、Zr、Nb、Mo、In、Ta、W、Re、Ceなどを挙げることができ、中でもNa、Mg、Al、K、Ca、Ti、Cr、Fe、Co、Cu、Ga、Y、Zr、Nb、Mo、Ta及びWを用いることが好ましい。金属元素M2は、上述した元素のうちの一種又は二種以上の組み合わせであってもよい。金属元素M2は、上述した元素のうちの少なくとも一種を含んでいることが好ましく、上述した元素以外の金属元素を含んでいてもよい。構造中に含まれる金属元素M2は金属元素M1と異なる元素種である。
【0030】
芯材粒子Aの組成の一例として、式(1):Lix(M1yM2zMn2-x-y-z)O4-δで示されるスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物を含むものを挙げることができる。式(1)における金属元素M1及び金属元素M2は上述のとおりである。
【0031】
前記の式(1)において、「x」は、例えば1.00以上であることが好ましく、中でも1.01以上、その中でも1.02以上であることがより一層好ましい。また、前記の式(1)において、「x」は、例えば1.20以下であることが好ましく、中でも1.10以下、その中でも1.08以下であることがより一層好ましい。金属元素M1の含有量を示す「y」は、例えば0.20以上であることが好ましく、中でも0.30以上、その中でも0.35以上であることがより一層好ましい。また、金属元素M1の含有量を示す「y」は、例えば1.20以下であることが好ましく、中でも1.10以下、その中でも1.05以下であることがより一層好ましい。金属元素M2の含有量を示す「z」は、例えば0.001以上であることが好ましく、中でも0.002以上、その中でも0.005以上、更にその中でも0.100以上であることがより一層好ましい。特に0.100以上とすることでより効果的にサイクル特性を向上させることができる。また、金属元素M2の含有量を示す「z」は、例えば0.400以下であることが好ましく、中でも0.300以下であることがより一層好ましい。
【0032】
芯材粒子Aの組成の他の例として、式(2):Lix(NiyM3zMn3-x-y-z)O4-δで示されるスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物を挙げることができる。式(2)において、「x」は、例えば1.00以上であることが好ましく、中でも1.01以上、その中でも1.02以上であることがより一層好ましい。式(2)において、「x」は、例えば1.20以下であることが好ましく、中でも1.10以下、その中でも1.08以下であることがより一層好ましい。式(2)において、「y」は、例えば0.20以上であることが好ましく、中でも0.30以上、その中でも0.35以上であることがより一層好ましい。式(2)において、「y」は、例えば0.70以下であることが好ましく、中でも0.60以下、その中でも0.55以下であることがより一層好ましい。
【0033】
前記の式(2)において、金属元素M3としては、例えば、Na、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Co、Cu、Ga、Y、Zr、Nb、Mo、In、Ta、W、Re及びCe等が挙げられ、中でもNa、Mg、Al、K、Ca、Ti、Cr、Fe、Co、Cu、Ga、Y、Zr、Nb、Mo、Ta及びWであることが好ましい。金属元素M3は、上述した元素のうちの一種又は二種以上の組み合わせであってもよい。金属元素M3のモル比を示す「z」は、例えば0より大きいことが好ましく、中でも0.01より大きく、その中でも0.05以上、更にその中でも0.10以上であることがより一層好ましい。「z」をこの下限値以上とすることでより効果的にサイクル特性を向上させることができる。また、金属元素M3のモル比を示す「z」は、例えば0.50以下であることが好ましく、中でも0.45以下、その中でも0.40以下、更にその中でも0.35以下であることがより一層好ましい。
【0034】
なお、前記の式(1)及び(2)における「4-δ」は、酸素欠損を含んでいてもよいことを示している。また、酸素の一部がフッ素又はその他の元素で置換されていてもよい。この際、δは0以上であることが好ましい。また、δは例えば0.20以下であることが好ましく、その中でも0.10以下、その中でも0.05以下であることが更に好ましい。
【0035】
芯材粒子AはB(ホウ素)を含有してもよい。Bの存在状態としては、スピネルの結晶相の他に、Ni、Mn及びBを含む複合酸化物相を含有していてもよい。Ni、Mn及びBを含む前記複合酸化物相としては、例えばNi5MnO4(BO3)2の結晶相を挙げることができる。Ni5MnO4(BO3)2の結晶相を含有することは、X線回折(XRD)により得られた回折パターンを、PDF(Powder Diffraction File)番号「01-079-1029」と照合することにより確認することができる。
【0036】
Ni、Mn及びBを含む前記複合酸化物相の含有量に関しては、芯材粒子A中のB元素の含有量が0.02質量%以上となるように前記複合酸化物相を含有することが好ましく、中でも0.05質量%以上となるように前記複合酸化物相を含有することが更に好ましい。B元素の含有量が0.02質量%以上であれば、高温での放電容量を維持することができるから好ましい。また、芯材粒子A中のB元素の含有量が0.80質量%以下となるように前記複合酸化物相を含有することが好ましく、中でも0.60質量%以下、その中でも0.30質量%以下、特に0.25質量%以下となるように前記複合酸化物相を含有することが更に好ましい。B元素の含有量が0.80質量%以下であればレート特性を維持することができるから、好ましい。
【0037】
芯材粒子Aは、前記のLi、Mn、金属元素M1、金属元素M2、金属元素M3、O及びB以外の他の成分を含有してもよい。特にその他の元素をそれぞれ0.5質量%以下含んでいてもよい。この程度の量であれば、芯材粒子の性能にほとんど影響しないと考えられるからである。
【0038】
なお、芯材粒子Aは、例えば、空間群Fd-3m(Origin Choice2)の立方晶の結晶構造モデルとフィッティングした際、観測強度と計算強度の一致の程度を表すRwp、Sの範囲がRwp<10又はS<2.5であることにより、スピネル構造であると確認することができる。
【0039】
芯材粒子Aの一次粒子は、単結晶体ではなく、多結晶体であることが好ましい。単結晶体とは、一次粒子が一つの結晶子で構成されている粒子を意味し、多結晶体とは一次粒子内に複数の結晶子が存在している粒子であることを意味する。芯材粒子が多結晶体であるか否かは、電子線後方散乱回折法(EBSD)により、一次粒子断面を観察することで確認することができる。多結晶体である場合は、一次粒子内に複数の方位を持つ結晶体が存在することを確認できる。
【0040】
〔芯材粒子B〕
芯材粒子は、Li、M元素(Mは、少なくともNi、Co、Mn及びAlからなる群から選択される一種又は二種以上の元素の組み合わせを含む。)及びOを含む、層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物からなる粒子であることも好ましい(以下、この芯材粒子のことを「芯材粒子B」ともいう。)。本発明の活物質は、芯材粒子Bの他に、他の成分を含んでいてもよい。尤も、芯材粒子Bの特性を効果的に得ることができる観点から、芯材粒子Bが、例えば80質量%以上、中でも90質量%以上、その中でも95質量%以上(100質量%を含む)を占めることが好ましい。
【0041】
芯材粒子Bは、式(3):Li1+xM1-xO2(式中、Mは、Ni、Co、Mn及びAlからなる群から選択される一種若しくは二種以上の元素の組み合わせであるか、又は、Ni、Co、Mn及びAlからなる群から選択される一種若しくは二種以上の元素の組み合わせと、周期律表の第3族元素から第11族元素の間に存在する遷移金属元素、及び、周期律表の第1周期から第3周期までの典型金属元素からなる群のうちのいずれか一種若しくは二種以上の組み合わせとを含む。)で表される層状構造を持つリチウム金属複合酸化物からなる粒子であることが好ましい。
【0042】
式(3):Li1+xM1-xO2において、「1+x」は、例えば0.95以上、中でも0.97以上、その中でも0.98以上であることが好ましい。また、式(3):Li1+xM1-xO2において、「1+x」は、例えば1.09以下、中でも1.07以下、その中でも1.05以下であることが好ましい。
【0043】
前記の式(3)中の「M」は、Mn、Co及びNiの3元素を含んでいてもよい。例えばMn、Co及びNiの3元素のみから構成されていてもよいし、当該3元素に前記その他の元素の一種以上を含んでいてもよいし、その他の構成でもよい。
【0044】
周期律表の第3族元素から第11族元素の間に存在する遷移金属元素、及び、周期律表の第1周期から第3周期までの典型金属元素としては、例えばAl、V、Fe、Ti、Mg、Cr、Ga、In、Cu、Zn、Nb、Zr、Mo、W、Ta、Reなどを挙げることができ、中でもV、Fe、Ti、Mg、Cr、Ga、Cu、Zn、Nb、Zr、Mo、W及びTaであることが好ましい。
【0045】
前記の式(3)中の「M」が、Mn、Co及びNiの3元素を含有する場合、Mn、Co及びNiの含有モル比率は、Mn:Co:Ni=0.00より大きく0.45以下:0.00より大きく0.40以下:0.30以上1.00以下であることが好ましく、Mn:Co:Ni=0.01以上0.45以下:0.01以上0.40以下:0.30以上0.95以下であることが好ましく、中でもMn:Co:Ni=0.05以上0.40以下:0.03以上0.40以下:0.30以上0.85以下、その中でもMn:Co:Ni=0.05以上0.40以下:0.03以上0.40以下:0.30以上0.75以下であることが更に好ましい。
【0046】
前記の式(3)において、酸素量の原子比は、便宜上「2」と記載しているが、多少の不定比性を有してもよい。すなわち、酸素量の原子比は「2-δ」であってよく、この際「-δ」は酸素欠損を示している。この場合、δは0以上であることが好ましい。また、δは、例えば0.20以下であることが好ましく、その中でも0.10以下、その中でも0.05以下であることが更に好ましい。
【0047】
芯材粒子Bは、不純物を含んでいてもよい。例えば不純物の元素をそれぞれ0.17質量%以下含んでいてもよい。この程度の量であれば、芯材粒子Bの特性にほとんど影響しないと考えられるからである。
【0048】
なお、芯材粒子Bは、例えば、空間群R-3mの六方晶の結晶構造モデルとフィッティングした際、観測強度と計算強度の一致の程度を表すRwp、Sの範囲が、Rwp<10又はS<2.5であることにより、それが層状構造であると確認することができる。
【0049】
芯材粒子Bの一次粒子は、芯材粒子Aと同様に、単結晶体ではなく、多結晶体であることが好ましい。単結晶体及び多結晶体の定義は、芯材粒子Aの場合と同じである。
【0050】
〔芯材粒子C〕
芯材粒子は、Li、Ma(Maは、Mnを必ず含み、且つNi及びCoから選ばれる少なくとも1種を含む。)、Mb(Mbは、Al、Mg、Ti、Fe及びNbから選ばれる少なくとも1種を含む。)及びOを含む、リチウム過剰層状岩塩型のリチウム含有複合酸化物からなる粒子であることが好ましい(以下、この芯材粒子のことを「芯材粒子C」ともいう。)。本発明の活物質は、芯材粒子Cの他に、他の成分を含んでいてもよい。尤も、芯材粒子Cの特性を効果的に得ることができる観点から、芯材粒子Cが、例えば50質量%以上、特に70質量%以上、中でも90質量%以上、その中でも95質量%以上(100質量%を含む)を占めることが好ましい。
【0051】
芯材粒子Cは、式(5):Li1+xMa1-x-yMbyO2(式中、Maは、Mnを必ず含み、且つNi及びCoから選ばれる少なくとも1種を含む。Mbは、Al、Mg、Ti、Fe及びNbから選ばれる少なくとも1種を含む。)で表されるリチウム過剰層状岩塩型のリチウム含有複合酸化物からなる粒子であることが好ましい。
【0052】
前記の式(5)において、「x」は、例えば0.10以上であることが好ましく、0.11以上であることがより好ましく、0.12以上であることが更に好ましい。また、前記の式(5)において、「x」は、例えば0.33以下であることが好ましく、0.32以下であることがより好ましく、0.31以下であることが更に好ましい。
前記の式(5)において、「y」は、例えば0.000以上であることが好ましく、0.005以上であることがより好ましく、0.010以上であることが更に好ましい。また、前記の式(5)において、「y」は、例えば0.300以下であることが好ましく、0.295以下であることがより好ましく、0.290以下であることが更に好ましい。
【0053】
芯材粒子におけるMaの含有量に関しては、Ma中のMnの含有量が、例えば30質量%以上であることが好ましく、31質量%以上であることがより好ましく、32質量%以上であることが更に好ましい。また、Ma中のMnの含有量が、例えば80質量%以下であることが好ましく、79質量%以下であることがより好ましく、78質量%以下であることが更に好ましい。
【0054】
前記の式(5)において、酸素量の原子比は、便宜上「2」と記載しているが、多少の不定比性を有してもよい。すなわち、酸素量の原子比は「2-δ」であってよく、この際「-δ」は酸素欠損を示している。この場合、δは0以上であることが好ましい。また、δは、例えば0.20以下であることが好ましく、その中でも0.10以下、その中でも0.05以下であることが更に好ましい。
【0055】
芯材粒子Cは、不純物を含んでいてもよい。例えば不純物としてSO4を含む場合、1.0質量%以下含んでいてもよい。あるいは不純物としてSO4以外の元素を含む場合、0.5質量%以下含んでいてもよい。この程度の量であれば、芯材粒子Cの特性にほとんど影響しないと考えられるからである。
【0056】
〔活物質〕
本発明の活物質は、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)で得られた赤外吸収スペクトルにおいて特定の範囲にピークを有することが好ましい。FT-IRによって本発明の活物質を測定することで、芯材粒子の表面に配置された被覆部を形成するリン含有化合物の化学状態を観察することができる。本発明者の検討の結果、FT-IRによって、前記リン含有化合物に特定のピークが観察されることで、貯蔵特性が保存環境(特に高温保存)に影響されやすい電池である固体電池の当該貯蔵特性を向上できることが判明した。この観点から、本発明の活物質は、FT-IRで得られた赤外吸収スペクトルが1290±50cm-1の範囲にピークを有することが好ましく、1290±30cm-1の範囲にピークを有することが更に好ましく、1290±15cm-1の範囲にピークを有することが一層好ましい。本明細書において、「1290±50cm-1の範囲にピークを有する」とはピークトップの位置が1290±50cm-1の範囲にあることをいう。ピークの有無の判定は、例えば以下の基準を用いることができる。具体的には、スペクトル上における波数が(1290-50)cm-1、すなわち、1240cm-1の点と、スペクトル上における波数が(1290+50)cm-1、すなわち、1340cm-1の点とを通る直線を引く。この直線を基準として吸光度を差し引いて、スペクトルを得る。そのときに、1290±50cm-1の範囲にあるピークの吸光度から直線上の吸光度を差し引いた最大値が、0.02以上、好ましくは0.05以上であれば、1290±50cm-1の範囲にピークが存在すると判定することができる。なお、上記吸光度の値は後述する実施例で用いた装置及び条件にて測定した値である。1290±50cm-1の範囲に観察されるピークは、リン含有化合物が含有するリン(P)元素と酸素(O)元素との結合の伸縮振動に由来するピークであると本発明者は考えている。
【0057】
活物質には、貯蔵特性が保存環境に影響されやすい電池である固体電池の当該貯蔵特性を向上することが求められているところ、先に述べた特許文献1に記載の活物質ではこの課題を解決できなかった。詳細には、同文献に記載の活物質はその表面にメタリン酸リチウムを被覆する処理が行われているものの、その処理の後にメタリン酸リチウムは熱処理を受けていることからその化学構造が変化していると考えられ、それによって、活物質の表面はメタリン酸リチウムと異なるリン含有化合物によって被覆されていると考えられる。そのことに起因して、同文献に記載の活物質は、本発明の活物質と異なり、FT-IRで得られた赤外吸収スペクトルにおける特定の範囲にピークが観察されない。これは後述する比較例1の結果から明らかである。その結果、同文献に記載の活物質では、固体電池の貯蔵特性が十分に向上しない。これに対して、活物質の表面が特定のリン含有化合物によって被覆されている本発明の活物質は、特許文献1に記載の活物質に比べ、上述した貯蔵特性を一層向上することができる。
【0058】
活物質が、FT-IRで得られた赤外吸収スペクトルにおいて1290±50cm-1の範囲にピークを有するようにするためには、後述の製造方法において芯材粒子と被覆部を形成する化合物とを冷却しながら乾式混合したり、被覆部にリン含有化合物を含ませたり、後述する水分率を制御したりすることが好適である。
【0059】
本発明の活物質は、X線光電子分光分析(XPS)によって測定されたP2pスペクトルにおいて特定の範囲にピークを有することも好ましい。XPSは、試料にX線を照射することで試料表面から生じる光電子エネルギーを測定し、試料表面の構成元素と、その電子状態を分析できる測定方法である。したがって、XPSによって本発明の活物質を測定することで、芯材粒子の表面に配置された被覆部を形成するリン含有化合物の化学状態を観察することができる。本発明者の検討の結果、XPS測定によって、前記リン含有化合物に特定の結合エネルギーが観察されることによっても、例えば高温で充放電を行ったときに、芯材粒子と電解質との接触によって両者間に生じることのある高抵抗層の生成を抑制できることが判明した。この観点から、本発明の活物質は、XPSによって測定されたP2pスペクトルが134±0.45eVの範囲にピークを有することが好ましく、134±0.40eVの範囲にピークを有することが更に好ましく、134±0.20eVの範囲にピークを有することが一層好ましい。本明細書において、「134±0.45eVの範囲にピークを有する」とはピークトップの位置が134±0.45eVの範囲にあることをいう。ピークの有無の判定は、例えば以下の基準を用いることができる。具体的には、XPSスペクトルにおいて、(134-5.0)±0.5eVの範囲、すなわち、129±0.5eVの範囲の光電子強度(counts/s)の平均値と、(134+5.0)±0.5eVの範囲、すなわち、139±0.5eVの範囲の光電子強度(counts/s)の平均値との平均値をバックグラウンドの強度Aとし、134±0.45eVの範囲内にあるピークトップの光電子強度(counts/s)をピーク強度Bとしたときに、その比(B/A)が、1.15以上、好ましくは1.20以上、更に好ましくは1.25以上であれば、134±0.45eVの範囲にピークが存在すると判定することができる。なお、上記光電子強度の値は、後述する実施例で用いた装置及び条件にて測定した値である。
【0060】
活物質が、XPSによって測定されたP2pスペクトルにおいて134±0.45eVの範囲にピークを有するようにするためには、後述の製造方法において芯材粒子と被覆部を形成する化合物とを冷却しながら乾式混合したり、被覆部にリン含有化合物を含ませたり、後述する水分率を制御したりすることが好適である。
【0061】
本発明の活物質は一般に粒子の形態をしており、そのD50、すなわちレーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積粒度分布測定による累積体積50容量%における体積累積粒径は、例えば0.5μm以上であることが好ましく、1.0μm以上であることが更に好ましく、2.0μm以上であることが一層好ましく、2.5μm以上であることが更に一層好ましい。一方、前記D50は、例えば15.0μm以下であることが好ましく、中でも10.0μm以下であることが更に好ましく、特に8.0μm以下であることが一層好ましい。D50を前記の範囲とすることで、活物質の粒子内にLiイオンが拡散するときの抵抗を小さくすることができ、その結果、放電末期特性を向上させることができる。
【0062】
本発明の活物質は、カールフィッシャー法によって測定された250℃までの水分率(質量ppm)が、例えば、1200ppm以下であってもよく、1000ppm以下であってもよく、900ppm以下であってもよい。また、水分率は例えば1ppm以上であってもよく、5ppm以上であってもよく、10ppm以上であってもよく、20ppm以上であってもよく、100ppm以上であってもよく、200ppm以上であってもよく、400ppm以上であってもよい。活物質に含まれる水分の量は、リチウムとの反応による活物質の構造劣化を減らす点、及び電池動作時の電解質との反応を減らす点から、少なければ少ないほど好ましい。活物質に含まれる水分の量を極力少なくするためには、例えば250℃等の温度下や真空下、不活性雰囲気で活物質を乾燥させればよい。
カールフィッシャー法によって水分率を測定する手順は、以下のとおりである。すなわち、電量滴定法が可能なカールフィッシャー水分計を用いて、110℃に測定サンプルを加熱し、放出された水分率(質量ppm)を測定し、その後、250℃に測定サンプルを加熱し、放出された水分率(質量ppm)を測定し、それぞれを足し合わせた値を水分率とする。測定はアルゴン雰囲気中で行い、例えば測定装置として860 KF Thermoprep(Metrohm社製)と899 Coulometer(Metrohm社製)を用いる。
【0063】
本発明の活物質は、正極層と、負極層と、正極層及び負極層の間に位置する固体電解質層とを有する電池に用いることができる。具体的には、正極層又は負極層に本発明の活物質を用いることができ、特に正極層が本発明の活物質を含むことが好ましい。また、本発明の活物質は、好適には固体電解質を含む固体電池に用いられるものである。固体電池において、本発明の活物質と、固体電解質との接触部分が存在することにより、本発明の効果を享受することができる。
「固体電池」とは、液状物質又はゲル状物質を電解質として一切含まない固体電池のほか、例えば50質量%以下、30質量%以下、10質量%以下の液状物質又はゲル状物質を電解質として含む態様も包含する。
【0064】
本発明の活物質は、これを固体電解質及び導電材と混合することで電極合剤を得ることができる。
固体電解質としては、一般的な固体電池に用いられる固体電解質と同様とすることができる。例えば、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、窒化物固体電解質、ハロゲン化物固体電解質等が挙げられる。中でも硫黄(S)元素を含有する硫化物固体電解質を用いることが好ましい。
硫化物固体電解質は、例えば、Li元素及びS元素を含みリチウムイオン伝導性を有するものであってもよく、あるいは、Li元素、P元素及びS元素を含みリチウムイオン伝導性を有するものであってもよい。硫化物固体電解質は、結晶性材料、ガラスセラミックス、ガラスのいずれであってもよい。硫化物固体電解質は、アルジロダイト型構造の結晶相を有していてもよい。このような硫化物固体電解質としては、例えば、Li2S-P2S5、Li2S-P2S5-LiX(「X」は1種以上のハロゲン元素を示す。)、Li2S-P2S5-P2O5、Li2S-Li3PO4-P2S5、Li3PS4、Li4P2S6、Li10GeP2S12、Li3.25Ge0.25P0.75S4、Li7P3S11、Li3.25P0.95S4、Li7-xPS6-xXx(アルジロダイト型構造の結晶相を有する固体電解質、「X」は1種以上のハロゲン元素を示し、0.2<x<2.0又は0.2<x<1.8である。)などが挙げられる。
導電材としては、例えばカーボンブラック及びアセチレンブラックなどの電子伝導性の炭素質材料を用いることができる。
【0065】
電極合剤は、これを溶剤及び結合剤と混合してペーストを作製し、該ペーストをアルミニウム箔等の集電体上に塗布し乾燥させることによって電極(正極層及び/又は負極層)を作製できる。このようにして作製された電極は、電極合剤及び結合剤を含むものである。
【0066】
〔活物質の製造方法〕
活物質の製造方法は、芯材粒子の製造方法と、芯材粒子の表面への被覆部の形成方法に大別される。
芯材粒子の製造方法の一例として、原料混合工程、湿式粉砕工程、造粒工程、焼成工程、熱処理工程、洗浄・乾燥工程及び粉砕工程を備えた製造方法を挙げることができる。尤も、かかる製造方法は好ましい一例であって、このような製造方法に限定するものではない。
【0067】
被覆部の形成方法は、該被覆部を構成するリン含有化合物の種類に応じて適宜選択される。
被覆部が、例えば、リン含有化合物としてメタリン酸リチウムを含む場合には、芯材粒子と、リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び酸素(O)元素を含有するリン含有化合物とを含む混合物を乾式混合して、該芯材粒子の表面に該リン含有化合物を含む被覆部を配置させることが好ましい。特に、乾式混合を冷却しながら行うと、該リン含有化合物が変質しづらくなる。その結果、得られる活物質は、貯蔵特性が保存環境に影響されやすい電池である固体電池の当該貯蔵特性を向上できるので好ましい。
乾式混合を冷却しながら行う場合には、例えば水冷ジャケットを備えた乾式混合機を用いることができる。乾式混合時の混合物の温度は好ましくは10℃以上50℃以下に維持する。
【0068】
被覆部が、例えばリン含有化合物に加えて更に他の化合物を含む場合、芯材粒子と、上述したリン含有化合物と、他の化合物とを含む混合物を乾式混合して、該芯材粒子の表面にこれら化合物を含む被覆部を配置させてもよい。あるいは、芯材粒子と、上述したリン含有化合物とを含む混合物を乾式混合し、更に他の化合物を乾式混合して、該芯材粒子の表面にこれら化合物を含む被覆部を配置させてもよい。あるいは、芯材粒子の表面に、湿式法によって一方の化合物を配置し、次いで該化合物が配置された芯材粒子と他方の化合物とを乾式混合させて、該芯材粒子の表面にこれら化合物を含む被覆部を配置させてもよい。
【0069】
芯材粒子の表面に化合物を含む被覆部を配置させる場合、従来は、芯材粒子と該化合物の含有溶液とを接触させて行うことが一般的であった。この方法は、芯材粒子の表面に化合物を均一に被覆させることを狙ったものである。しかし、従来の方法には、被覆部を配置させた後、更に乾燥工程及び熱処理工程が必要となることがあるという課題があった。このことに加えて、特に熱処理工程に起因して、化合物の化学構造が変化してしまうという課題があった。これら課題について本発明者が鋭意検討した結果、芯材粒子に化合物を含む被覆部を配置させる場合、上述のとおり乾式混合を冷却しながら行うことでこれら課題を解決できることを見出した。
【0070】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。
【0071】
前記実施形態に関し、更に以下の活物質及びその製造方法、並びにそれを含む電極合剤、電極及び電池を開示する。
〔1〕 芯材粒子と、該芯材粒子の表面に配置された被覆部とを有する活物質であって、
前記被覆部は、リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び酸素(O)元素を含有する化合物を含み、
前記化合物は、リン(P)元素に対するリチウム(Li)元素のモル比が0.5以上2.5以下であり、且つ、リン(P)元素に対する酸素(O)元素のモル比が2.5以上3.5以下であり、
フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)で得られた赤外吸収スペクトルにおいて1290±50cm-1の範囲にピークを有する、活物質。
【0072】
〔2〕 X線光電子分光分析によって測定されたP2pのスペクトルにおいて134±0.45eVの範囲にピークを有する、〔1〕に記載の活物質。
〔3〕 前記被覆部に含まれる前記化合物の割合が50質量%以上である、〔1〕又は〔2〕に記載の活物質。
〔4〕 前記芯材粒子が、スピネル構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、及びオリビン構造を有するリン酸塩化合物から選ばれる少なくとも1種を含む、〔1〕ないし〔3〕のいずれか一に記載の活物質。
〔5〕 前記被覆部の厚みが1nm以上100nm以下である、〔1〕ないし〔4〕のいずれか一に記載の活物質。
〔6〕 カールフィッシャー法によって測定された250℃までの水分率が1200ppm以下である、〔1〕ないし〔5〕のいずれか一に記載の活物質。
【0073】
〔7〕 前記被覆部がメタリン酸リチウムを含む、〔1〕ないし〔6〕のいずれか一に記載の活物質。
〔8〕 〔1〕ないし〔7〕のいずれか一に記載の活物質と、固体電解質と、導電材とを含む電極合剤。
〔9〕 〔8〕に記載の電極合剤と、結合剤とを含む電極。
〔10〕 正極層と、負極層と、該正極層及び該負極層の間に位置する固体電解質層とを有する電池であって、
前記正極層が、〔1〕ないし〔7〕のいずれか一に記載の活物質を含む、電池。
〔11〕 芯材粒子と、リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び酸素(O)元素を含有する化合物とを含む混合物を冷却しながら乾式混合して、該芯材粒子の表面に該化合物を含む被覆部を配置させる、活物質の製造方法。
【実施例0074】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0075】
〔実施例1〕
(1)芯材粒子の準備
芯材粒子として、Li:4.1%、Mn:41.3%、Ni:13.3%、Ti:5.4%の組成であるスピネル型リチウム遷移金属複合酸化物(以下「LNMO」ともいう。)を準備した。
【0076】
(2)被覆部の形成
芯材粒子と、メタリン酸リチウムとを、ホソカワミクロン株式会社製の乾式粒子複合化装置NOB-MINIを用いて混合し、前記芯材粒子の表面にメタリン酸リチウムを付着させて、メタリン酸リチウムを含む被覆部を形成した。芯材粒子及びメタリン酸リチウムの量は、活物質に対するメタリン酸リチウムの比率が5.0%となるように調整した。混合の間、装置を冷却して30℃に維持した。このようにして活物質の粒子を得た。
【0077】
〔実施例2〕
実施例1の(1)の工程において、芯材粒子として、Ni:60%、Co:20%、Mn:20%の組成であるリチウム遷移金属複合酸化物(以下「NCM」ともいう。)を準備した。これ以外は実施例1と同様にして活物質の粒子を得た。
【0078】
〔比較例1〕
本比較例は特許文献1の実施例に相当するものである。
実施例1の(2)の工程に代えて、以下の工程を設けた。まず、メタリン酸リチウム水溶液を調製した。水溶液におけるメタリン酸リチウムの濃度は0.1mol/Lであった。活物質に対するメタリン酸リチウムの比率が5.0%となるような濃度とした。
得られた水溶液に芯材粒子を添加し、ホモジナイザー(IKA社製、T-25)によって両者を10000rpmで30分間混合した。その後、55℃の恒温槽内で超音波を照射しながら、エバポレーターを使用して溶媒を除去した。更に、120℃で1時間乾燥させ、400℃空気気流下、常圧で1時間芯材粒子を乾燥させて活物質の粒子を得た。
【0079】
〔比較例2〕
実施例1の(2)の工程に代えて、以下の工程を設けた。まず、29.5gのLiOH・H2Oを214gの水に溶解して水酸化リチウム水溶液を得た。この水溶液を100℃まで加熱した後に、30%の過酸化水素水2mLと、水酸化ニオブ0.862gとを該水溶液に溶解した。水溶液の濃度は、活物質に対するニオブ酸リチウムの比率が1.3%となるように調整した。この水溶液を100℃に保ちながら30分間撹拌した後、芯材粒子50gを該水溶液に添加して更に20分間撹拌した。次いで、加熱及び撹拌を止めて静置し、水溶液内に活物質を沈降させた。水溶液をデカンテーションして、0.14mol/Lの硫酸リチウム溶液200mLで、活物質を2回洗浄した。その後、活物質を80℃で乾燥して、ニオブ酸リチウムが表面に存在する活物質の粒子を得た。XPS測定の結果、P2pピークは観察されなかった。本比較例の活物質はリン(P)元素を含まないので、リン(P)元素に対するリチウム(Li)元素のモル比、及びリン(P)元素に対する酸素(O)元素のモル比を算出できなかった。
【0080】
〔比較例3〕
実施例1の(1)の工程において、芯材粒子としてNCMを準備した。これに加えて、(2)の工程に代えて、以下の工程を設けた。まず、0.027gのエトキシリチウムを、10gの無水エタノールに溶解してエトキシリチウム溶液を得た。0.167gのペンタエトキシニオブを、10gの無水エタノールに溶解してペンタエトキシニオブ溶液を得た。溶液の濃度は、活物質に対するニオブ酸リチウムの比率が0.8%となるように調整した。10gのNCMを無水エタノール140gに加え、ホモジナイザーを使って10000rpmの条件で30分間分散させて、NCMを分散させたエタノール溶液を得た。次いで、NCMを分散させたエタノール溶液に、前記エトキシリチウム溶液を加え、10000rpmの条件で2分間撹拌した。この溶液に、更に前記ペンタエトキシニオブ溶液を加え、10000rpmの条件で8分間撹拌した。この溶液を55℃で超音波処理しながらエタノールを蒸発させ、ニオブ酸リチウムが表面に存在する活物質の粒子を得た。XPS測定の結果、P2pピークは観察されなかった。本比較例の活物質はリン(P)元素を含まないので、リン(P)元素に対するリチウム(Li)元素のモル比、及びリン(P)元素に対する酸素(O)元素のモル比を算出できなかった。
【0081】
〔評価1〕
実施例で得られた活物質について、以下の方法でFT-IRを行い、赤外吸収スペクトルのピーク位置を求めた。実施例1及び2、並びに比較例2について、得られた赤外吸収スペクトルのグラフを
図1に示す。また、以下の方法でXPS測定を行い、P2pピーク位置を求めた。実施例1及び2、並びに比較例2について、得られたP2pのスペクトルのグラフを
図2に示す。また、被覆部の被覆率及び厚みを以下の方法で測定した。更に、水分率を上述の方法で測定した。その結果を以下の表1に示す。
【0082】
〔赤外吸収スペクトルのピーク位置〕
Thermo Fisher Scientific社のフーリエ変換赤外分光光度計であるNICOLET iZ10を用いて、実施例及び比較例で得られた活物質の測定を行った。測定に使用した条件等は以下のとおりである。
測定方法:拡散反射法(バックグラウンド:Auミラー)
積算回数:256回
分解能:4cm-1
【0083】
〔P2pピーク位置〕
アルバック・ファイ株式会社製のXPS装置であるPHI Quantesを用いて、実施例及び比較例で得られた活物質の粒子表面の分析を行った。測定に使用した条件等は以下のとおりである。
励起X線:単色化Al線(1486.7eV)
出力:50W
加速電圧:15kV
X線照射径:200μmφ
測定面積:1000μm×300μm
Take of Angle:45°
パスエネルギー:26.0eV
エネルギーステップ:0.1eV
【0084】
データ解析ソフトウェア(アルバック・ファイ社製「MultiPakVer9.9」)を用いてXPSデータの解析を行った。バックグラウンドモードはIterated Shirleyを使用した。計算に用いる軌道として、P2pを選択した。エネルギー補正はC1s炭化水素ピーク(補正位置:284.8eV)を用いて行った。
【0085】
〔被覆部の被覆率〕
P2pピーク位置の測定に用いたXPS装置であるPHI Quantesを用いて、被覆部の被覆率を測定した。具体的には、被覆部のみに存在する元素の定量値及び芯材粒子のみに存在する元素の定量値の和に対する、被覆部のみに存在する元素の定量値の割合を算出した。例えば、芯材粒子としてLNMOを使用し、被覆部としてメタリン酸リチウムを使用した場合は、被覆率は、P/(Ni+Mn+Ti+P)×100によって算出した。同様に、例えば、芯材粒子としてNCMを使用し、被覆部としてメタリン酸リチウムを使用した場合は、被覆率は、P/(Co+Ni+Mn+P)×100によって算出した。測定に使用した条件はP2pピーク位置の測定に使用した条件と同一であった。
【0086】
〔被覆部の厚み〕
P2pピーク位置の測定に用いたXPS装置であるPHI Quantesを用いて、被覆部の厚みを測定した。具体的には、Arイオンスパッタリングを行い、XPS測定を行うことで、深さ方向のプロファイルを得た。スパッタリング前と比較して、芯材粒子を構成する主要な元素ではなく、且つ被覆部に固有の元素由来のピークの面積が半分になったときの、SiO2換算したスパッタリング深さを被覆部の厚みとした。測定に使用した条件はP2pピーク位置の測定に使用した条件と同一であった。
【0087】
〔評価2〕
実施例及び比較例で得られた活物質を用い、以下の方法で固体電池を製造し、貯蔵特性に関する評価である60℃保存後の抵抗増加率を測定した。その結果を以下の表1に示す。表1中の「-」は、値を算出することができなかったか、若しくは特定の範囲に赤外吸収スペクトルのピーク又はP2pピークを有さなかったことを示す。
【0088】
〔固体電池の作製〕
正極活物質として実施例及び比較例で得られた活物質を用い、負極活物質としてグラファイト(Gr)粉末を用いた。固体電解質粉末として、アルジロダイト型構造を持つ硫化物固体電解質を用いた。正極合材粉末として、正極活物質、固体電解質粉末及び導電助剤であるカーボン系材料を70:27:3の質量比で乳鉢混合して調製した。負極合材粉末として、負極活物質と固体電解質粉末とを質量比1:1の割合で乳鉢混合して調製した。
上下が開口したポリプロピレン製の円筒(開口径10.5mm、高さ18mm)の下側開口部を正極電極(SUS製)で閉塞し、その上に固体電解質粉末を載せ、負極電極(SUS製)で閉塞した後、10MPaにて一軸プレスすることで固体電解質層を形成した。次に、一旦負極電極を取り外し、固体電解質層の上に負極合材粉末を載せて再び負極電極で閉塞した。その後、前記円筒を上下反転させ、一旦正極電極を取り外し、固体電解質層の上に正極合材粉末を載せて再び正極電極で閉塞した後、60MPaにて一軸プレスすることで、正極合材、固体電解質層及び負極合材の3層構造からなる固体電池を作製した。
【0089】
〔60℃保存後の抵抗増加率〕
<芯材粒子がLNMOの場合>
実施例1、比較例1及び2で作製した固体電池を用いて、以下のように充放電試験を実施した。詳細には、電池を充放電する環境温度を25℃となるようにセットした環境試験機内に電池を入れ、充放電できるように準備し、電池温度が環境温度になるまで静置した。固体電池の充放電の条件は以下のとおりである。
次に、0.1Cで5.0Vまで定電流定電位充電した後に、0.1Cで3.0Vまで定電流放電し、これを3サイクル繰り返した。その後、充電状態(SOC)が50%になるまで充電を行った後、インピーダンス測定により、保存試験前の抵抗値を測定した。その後、0.1Cで4.9Vまで定電流定電位充電し、0.1Cで3.0Vまで定電流放電し、再び0.1Cで4.9Vまで定電流定電位充電した。
0.1Cで4.9Vまで定電流定電位充電した電池を、60℃にセットした恒温槽に入れ、168時間保存した。168時間後に電池を取り出し、該電池を室温に戻した後に、25℃となるようにセットした環境試験機内に電池を入れ、0.1Cで3.0Vまで定電流放電した。その後、0.1Cで4.9Vまで定電流定電位充電し、0.1Cで3.0Vまで定電流放電を行った。SOCが50%になるまで充電を行った後、インピーダンス測定により、保存試験後の抵抗値を測定した。
保存試験前の抵抗値に対する保存試験後の抵抗値を算出し、この値を60℃保存後抵抗増加率とした。
【0090】
<芯材粒子がNCMの場合>
実施例2及び比較例3で作製した固体電池を用いて、以下のように充放電試験を実施した。詳細には、電池を充放電する環境温度を25℃となるようにセットした環境試験機内に電池を入れ、充放電できるように準備し、電池温度が環境温度になるまで静置した。
次に、0.1Cで4.5Vまで定電流定電位充電した後に、0.1Cで2.5Vまで定電流放電し、これを3サイクル繰り返した。その後、充電状態(SOC)が50%になるまで充電を行った後、インピーダンス測定により、保存試験前の抵抗値を測定した。その後、0.1Cで4.5Vまで定電流定電位充電し、0.1Cで2.5Vまで定電流放電し、再び0.1Cで4.5Vまで定電流定電位充電した。
0.1Cで4.5Vまで定電流定電位充電した電池を、60℃にセットした恒温槽に入れ、168時間保存した。168時間後に電池を取り出し、該電池を室温に戻した後に、25℃となるようにセットした環境試験機内に電池を入れ、0.1Cで2.5Vまで定電流放電した。その後、0.1Cで4.5Vまで定電流定電位充電し、0.1Cで2.5Vまで定電流放電を行った。SOCが50%になるまで充電を行った後、インピーダンス測定により、保存試験後の抵抗値を測定した。
保存試験前の抵抗値に対する保存試験後の抵抗値を算出し、この値を60℃保存後抵抗増加率とした。
【0091】
【0092】
図1に示す結果から明らかなとおり、比較例1で得られた活物質には1290±50cm
-1の範囲にピークが観察されなかった。これに対して、実施例1及び2で得られた活物質には1290±50cm
-1の範囲にピークが観察された。
また、
図2に示す結果から明らかなとおり、比較例1で得られた活物質には134±0.45eVの範囲にピークが観察されなかった。これに対して、実施例1及び2で得られた活物質には134±0.45eVの範囲にピークが観察された。
更に、表1に示す結果から明らかなとおり、各実施例で得られた活物質を用いて得られた固体電池は、60℃保存後の抵抗増加率が低い値を示した。これによって、各実施例で得られた活物質は固体電池の貯蔵特性を向上することが分かる。