(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001437
(43)【公開日】2024-01-10
(54)【発明の名称】点検システム、及び点検方法
(51)【国際特許分類】
G06T 17/05 20110101AFI20231227BHJP
G01C 7/02 20060101ALI20231227BHJP
G09B 29/00 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
G06T17/05
G01C7/02
G09B29/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100072
(22)【出願日】2022-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】390023249
【氏名又は名称】国際航業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】王 ア
【テーマコード(参考)】
2C032
5B050
【Fターム(参考)】
2C032HB11
2C032HC14
5B050BA09
5B050BA13
5B050CA07
5B050DA01
5B050EA06
5B050EA07
5B050EA18
5B050EA19
5B050EA28
5B050FA02
5B050GA08
(57)【要約】
【課題】本願発明の課題は、従来の問題を解決することであり、すなわち、自動フィルタリング処理によって取り除かれた過抽出点を、従来技術に比して容易に発見することができる点検システム、及び点検方法を提供することである。
【解決手段】本願発明の点検システムは、複数の計測点からなる点群データに対して自動フィルタリング処理を行って得られる候補地盤点を点検するシステムであって、メッシュ設定手段と最低点抽出手段、陰影図生成手段、表示手段を備えたものである。このうち陰影図生成手段は、それぞれの小領域に係る最低点に基づいてモノクロ陰影図を生成する手段である。そして表示手段に重畳表示されたモノクロ陰影図と候補地盤点を目視確認することにで、点検者は過抽出点を容易に抽出することができるようになる。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の計測点からなる点群データに対して自動フィルタリング処理を行って得られる候補地盤点を点検するシステムであって、
前記点群データの範囲に複数の小領域を設定するメッシュ設定手段と、
前記小領域内に含まれる前記計測点のうち、最小の標高値となる最低点を抽出する最低点抽出手段と、
それぞれの前記小領域に係る前記最低点に基づいて、モノクロ陰影図を生成する陰影図生成手段と、
前記モノクロ陰影図と、前記候補地盤点と、を重畳表示する表示手段と、を備え、
前記表示手段に重畳表示された前記モノクロ陰影図と前記候補地盤点を目視確認することによって、自動フィルタリング処理で過剰に除去された前記計測点を抽出し得る、
ことを特徴とする点検システム。
【請求項2】
オペレータが操作することによって、前記点群データの範囲のうちの一部を選択領域として選択する領域選択手段を、さらに備え、
前記陰影図生成手段は、オペレータ操作によって選択された前記選択領域に係る前記小領域に基づいて前記モノクロ陰影図を生成する、
ことを特徴とする請求項1記載の点検システム。
【請求項3】
オペレータが操作することによって、前記小領域のサイズを設定するサイズ設定手段を、さらに備え、
複数の前記選択領域が選択されたときは、それぞれ該選択領域ごとに前記小領域のサイズを設定することができる、
ことを特徴とする請求項2記載の点検システム。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の前記点検システムを用いて、前記候補地盤点を点検する方法であって、
前記点群データに対して自動フィルタリング処理を行うことで、前記候補地盤点を抽出する自動フィルタリング工程と、
前記メッシュ設定手段によって、前記計測範囲に複数の前記小領域を設定するメッシュ設定工程と、
前記最低点抽出手段によって、前記小領域内に含まれる前記計測点のうち前記最低点を抽出する最低点抽出工程と、
前記陰影図生成手段によって、それぞれの前記小領域に係る前記最低点に基づく前記モノクロ陰影図を生成する陰影図生成工程と、
前記モノクロ陰影図と、前記候補地盤点と、を前記表示手段に重畳表示する、重畳表示工程と、
前記表示手段に重畳表示された前記モノクロ陰影図と前記候補地盤点を目視確認することによって、自動フィルタリング処理で過剰に除去された前記計測点を抽出する過剰点抽出工程と、を備えた、
ことを特徴とする点検方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、レーザスキャナによって得られた点群データから地盤面を生成する技術に関するものであり、より具体的には、自動フィルタリングによって過剰に除去された計測点を抽出することができる点検システム、及び点検方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
広範囲に渡って「地盤」や「地物」(以下、これらを総称して「地盤等」という。)を計測する場合、これまでは空中写真測量によるのが主流であったが、昨今では、航空レーザ計測や、衛星写真を利用した計測、あるいは合成開口レーダを利用した計測など様々な計測手法が出現し、状況に応じて好適な手法を適宜選択できるようになった。なおここでいう「地物」とは、地盤を除く「物」のことである。
【0003】
このうち航空レーザ計測は、計測したい対象範囲の上空を航空機で飛行し、この対象範囲にある地盤等に対してレーザスキャナが照射したレーザパルスの反射波を受けて計測する手法である。通常、航空機にはGNSS(Global Navigation Satellite System)などの測位計と、IMU(Inertial Measurement Unit)などの慣性測量装置が搭載されているため、これらGNSSとIMUによってレーザパルス照射時における照射位置(x,y,z)と照射姿勢(ω,φ,κ)を記録することができる。
【0004】
航空機のレーザスキャナからレーザパルスが照射されるとその照射時刻は記録され、また地盤等で反射したレーザパルスは航空機に搭載されたセンサで受信されるとともにその受信時刻が記録される。したがって、照射時刻と受信時刻との時間差によって計測点(レーザパルスが反射した地点)までの距離が得られ、レーザパルス照射時における照射位置(x,y,z)と照射姿勢(ω,φ,κ)も記録されていることから、レーザパルスの照射点(つまり、計測点)の3次元座標データを得ることができるわけである。さらに航空機に搭載されたセンサは、レーザパルスを受信すると、そのときの反射波の強度が記録される。この反射強度は、いわば受信した反射波のエネルギーの大きさ(レーザパルスの振幅)であり、直接的には電圧として計測され、この電圧を換算することでエネルギーの大きさが得られる。
【0005】
ここまで説明したように航空レーザ計測は、飛行中の航空機から地盤等に対してレーザパルスを照射することで計測点を取得する手法である。そして、このレーザパルスは1秒間に100,000~2,000,000回ほど発射されることから、1回の計測(フライト)では夥しい数の計測点が取得される。また森林などを対象に計測する場合、当然ながら樹木の間を縫って地盤に対してのみレーザパルスを照射する(つまり、地盤を狙ってレーザパルスを照射する)ことは不可能であり、そのため地盤に反射した計測点のほか、樹葉や樹幹に反射した計測点も取得される。なお便宜上ここでは、地盤に反射した計測点のことを「地盤点」、地盤以外の物(つまり、地物)に反射した計測点のことを「非地盤点」ということとする。
【0006】
多くの場合、航空レーザ計測は、対象範囲の地盤を把握するために行われることから、樹葉や樹幹に反射した計測点(非地盤点)はいわば不要なデータとされる。そのため、非地盤点を除去するいわゆるフィルタリングが実施される。このフィルタリングは、自動フィルタリングと手動フィルタリングによる2段階の処理とするのが主流であり、このうち先行して実施される自動フィルタリングではコンピュータと所定のソフトウェアを利用して文字どおり自動的に非地盤データが除去される。ところが自動フィルタリングでは、本来であれば非地盤点として除去すべきところ地盤点(以下、「未抽出点」という。)として残したり、本来であれば地盤点とすべきところ非地盤点(以下、「過抽出点」という。)として除去したりするなど、この段階では完全な地盤にならないことが知られている。
【0007】
したがって、自動フィルタリングによって抽出された地盤点に対して、点検者が目視によって未抽出点や過抽出点を発見するとともに、未抽出点は除去して過抽出点は地盤点に戻す手動フィルタリングが実施される。しかしながら、自動フィルタリング後の地盤点(以下、「候補地盤点」という。)を目視しただけでは、未抽出点や過抽出点を抽出することは極めて困難である。そこで、容易かつ適切な手動フィルタリングを行うことができる種々の技術がこれまでにも提案されている。例えば特許文献1では、未抽出点を発見するためには候補地盤点とカラー陰影図を重畳表示し、過抽出点を発見するためには候補地盤点とモノクロ陰影図を重畳表示したうえで、手動フィルタリングを行う発明を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の発明によれば、カラー陰影図上で未抽出点が鮮明に表れ、またモノクロ陰影図上で過抽出点が鮮明に表れることから、点検者は容易に未抽出点や過抽出点を発見することができる。ところが、例えば樹木が密集しているような場所で自動フィルタリングを行うと、実際には地盤まで到達しているにもかかわらず樹木に反射したもの、すなわち過抽出点として処理されることが多い。そして手動フィルタリングにおいて、候補地盤点と従来のモノクロ陰影図を重畳表示したとしても、点検者は果たして過抽出点なのかどうかが判然としないこともある。例えば、
図8は樹木密集箇所を自動フィルタリングした結果得られた候補地盤点を従来のモノクロ陰影図に重畳した画面図であり、枠線で囲った領域に過抽出点が生じたことを示しているが、これを目視によって過抽出点と判定することは極めて困難である。この場合、点検者は元の点群データ(いわゆる生データ)に戻って確認する必要があり、その分だけ点検に係る手間と時間が生じていた。
【0010】
本願発明の課題は、従来の問題を解決することであり、すなわち、自動フィルタリング処理によって取り除かれた過抽出点を、従来技術に比して容易に発見することができる点検システム、及び点検方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明は、過抽出点を抽出するため、点群データの範囲(計測範囲)に設定された小領域のうちの最低点を抽出するとともに、この最低点に基づいてモノクロ陰影図を生成する、という点に着目したものであり、従来にはなかった発想に基づいてなされた発明である。
【0012】
本願発明の点検システムは、複数の計測点からなる点群データに対して自動フィルタリング処理を行って得られる候補地盤点を点検するシステムであって、メッシュ設定手段と最低点抽出手段、陰影図生成手段、表示手段を備えたものである。このうちメッシュ設定手段は、点群データの範囲に複数の小領域を設定する手段であり、最低点抽出手段は、小領域内に含まれる計測点のうち最小の標高値となる最低点を抽出する手段である。また陰影図生成手段は、それぞれの小領域に係る最低点に基づいてモノクロ陰影図を生成する手段であり、表示手段は、モノクロ陰影図と候補地盤点を重畳表示する手段である。そして表示手段に重畳表示されたモノクロ陰影図と候補地盤点を目視確認することによって、点検者は自動フィルタリング処理で過剰に除去された計測点を抽出することができるようになる。
【0013】
本願発明の点検システムは、点群データの範囲のうちの一部を選択領域として選択する領域選択手段をさらに備えたものとすることもできる。この場合、陰影図生成手段は、オペレータ操作によって選択された選択領域に係る小領域に基づいてモノクロ陰影図を生成する。
【0014】
本願発明の点検システムは、小領域のサイズを設定するサイズ設定手段をさらに備えたものとすることができる。なお、オペレータ操作によって複数の選択領域が選択されたときは、それぞれ選択領域ごとに個別の小領域サイズを設定することができる。
【0015】
本願発明の点検方法は、本願発明の点検システムを用いて候補地盤点を点検する方法であって、自動フィルタリング工程とメッシュ設定工程、最低点抽出工程、陰影図生成工程、重畳表示工程、過剰点抽出工程を備えた方法である。このうち自動フィルタリング工程では、点群データに対して自動フィルタリング処理を行うことで候補地盤点を抽出し、メッシュ設定工程では、メッシュ設定手段によって計測範囲に複数の小領域を設定し、最低点抽出工程では、最低点抽出手段によって小領域内に含まれる計測点のうち最低点を抽出する。また陰影図生成工程では、陰影図生成手段によってそれぞれの小領域に係る最低点に基づくモノクロ陰影図を生成し、重畳表示工程では、モノクロ陰影図と候補地盤点を表示手段に重畳表示し、過剰点抽出工程では、表示手段に重畳表示されたモノクロ陰影図と候補地盤点を目視確認することによって自動フィルタリング処理で過剰に除去された計測点を抽出する。
【発明の効果】
【0016】
本願発明の点検システム、及び点検方法には、次のような効果がある。
(1)点検者は元の点群データに戻って確認することなく、過抽出点を抽出することができる。その結果、従来技術に比して容易かつ低コストで手動フィルタリングを実施することができる。
(2)従来に比べて少ない計測点を用いることから、より速やかにモノクロ陰影図を作成することができる。
(3)モノクロ陰影図が従来に比べて少ない計測点で作成されることから、より容易にモノクロ陰影図を操作することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】(a)はレーザ計測による全ての計測点を模式的に示す側面図、(b)は自動フィルタリング後の計測点を模式的に示す側面図。
【
図2】本願発明の点検システムの主な構成を示すブロック図。
【
図3】計測範囲に対して設定された複数の小領域を模式的に示す平面図。
【
図4】(a)は小領域内に含まれる全ての計測点を模式的に示す平面図、(b)は小領域内から抽出された最低点を模式的に示す平面図。
【
図5】樹木密集箇所を自動フィルタリングした結果得られた候補地盤点を低地モノクロ陰影図に重畳した画面図。
【
図6】点検システムの主な処理の流れの一例を示すフロー図。
【
図7】本願発明の点検方法の主な工程の流れを示すフロー図。
【
図8】樹木密集箇所を自動フィルタリングした結果得られた候補地盤点を従来のモノクロ陰影図に重畳した平面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本願発明の点検システム、及び点検方法の実施形態の一例を、図に基づいて説明する。
【0019】
1.全体概要
既述したとおり、多くの場合レーザ計測は対象範囲(以下、単に「計測範囲」という。)の地盤(地表面形状)を把握するために行われる。そのため、対象範囲を計測して得られた全ての計測点(以下、「オリジナルデータ」という。)から、地盤以外の地物を計測した「非地盤点」は除去し、地盤を計測した「地盤点」のみを抽出するフィルタリングが実施される。そしてこのフィルタリングは、自動フィルタリングと手動フィルタリングによる2段階の処理とするのが主流であり、自動フィルタリングでは機械的(自動的)に非地盤データを除去することで「候補地盤点」を生成する。
【0020】
ところが、自動フィルタリングによって「候補地盤点」を生成する過程において、本来であれば地盤点とすべきところ非地盤点として除去される「過抽出点」が生ずることが知られている。
図1はレーザ計測による計測点を模式的に示す側面図であり、(a)は全ての計測点(つまり、オリジナルデータ)を示し、(b)は自動フィルタリング後の計測点(つまり、候補地盤点)を示している。この図に示すように、樹間を通過して地盤に到達した計測点は、自動フィルタリングによって非地盤点とされることが多く、すなわち過抽出点とされやすい。
【0021】
そこで、オリジナルデータと候補地盤点を照らし合わせながら目視により過抽出点を発見し、その過抽出点を地盤点として戻す手動フィルタリングを実施するわけである。このとき、オリジナルデータに基づいてモノクロ陰影図を生成し、モノクロ陰影図(つまり、オリジナルデータ)と候補地盤点を照らし合わせるのが有効である。ここでモノクロ陰影図とは、特定の方向から3次元の地盤モデルに光を当てて地形に陰を付け、この陰の具合を濃淡で表示するもので、これまでにも広く知られた技術である。そして、従来ではすべての計測点(オリジナルデータ)を用いて生成したモノクロ陰影図を利用していた。これに対して本願発明は、標高が低い計測点を用いて生成したモノクロ陰影図を利用することを技術的特徴の一つとしている。
【0022】
2.点検システム
次に本願発明の点検システムについて、図を参照しながら詳しく説明する。なお、本願発明の点検方法は、本願発明の点検システムを用いて自動フィルタリング後の地盤点を点検する方法であり、したがってまずは本願発明の点検システムについて説明し、その後に本願発明の点検方法について説明することとする。
【0023】
図2は、本願発明の点検システム100の主な構成を示すブロック図である。この図に示すように点検システム100は、メッシュ設定手段101と最低点抽出手段102、陰影図生成手段103、表示手段104を含んで構成され、さらに領域選択手段105やサイズ設定手段106、自動フィルタリング手段107、モデル生成手段108、点群データ記憶手段109などを含んで構成することもできる。
【0024】
点検システム100を構成するメッシュ設定手段101と最低点抽出手段102、陰影図生成手段103、領域選択手段105、サイズ設定手段106は、専用のものとして製造することもできるし、汎用的なコンピュータ装置を利用することもできる。すなわち、所定のプログラムによってコンピュータ装置に演算処理を実行させることで、それぞれの手段特有の処理を行うわけである。このコンピュータ装置は、CPU等のプロセッサ、ROMやRAMといったメモリを具備しており、さらにマウスやキーボード等の入力手段やディスプレイを含むものもあり、例えばパーソナルコンピュータ(PC)やサーバなどによって構成することができる。ディスプレイを含むコンピュータ装置を利用するときは、このディスプレイを表示手段104とすることもできる。
【0025】
また、点群データ記憶手段109は、汎用的コンピュータ(例えば、パーソナルコンピュータ)の記憶装置を利用することもできるし、データベースサーバに構築することもできる。データベースサーバに構築する場合、ローカルなネットワーク(LAN:Local Area Network)に置くこともできるし、インターネット経由で保存するクラウドサーバとすることもできる。
【0026】
以下、本願発明の点検システム100を構成する主な要素ごとに詳しく説明する。
【0027】
(メッシュ設定手段)
メッシュ設定手段101は、計測範囲に対して「小領域MS」を設定する手段である。ここで小領域MSとは、
図3に示すように、計測範囲(ただし、平面範囲)を例えば直交するグリッドで区切られて形成される分割領域(いわゆる、メッシュ)であり、2次元位置(平面位置)を示す情報で構成され、標高といった高さ情報を有していない。
【0028】
メッシュ設定手段101は、全ての計測範囲に対して小領域MSを設定する仕様とすることもできるし、例えば樹木が多い山間地など所定の領域に対してのみ小領域MSを設定する仕様とすることもできる。この場合、点検システム100が領域選択手段105を備えたものとするとよい。領域選択手段105は、ポインティングデバイス(マウスやタッチパネル、ペンタブレット、タッチパッド、トラックパッド、トラックボールなど)やキーボード等を利用することができ、すなわちオペレータがポインティングデバイス等を用いて所望の領域(以下、「選択領域」という。)を選択する。そしてメッシュ設定手段101が、当該選択領域に対して小領域MSを設定するわけである。
【0029】
小領域MSの寸法(以下、「メッシュサイズ」という。)は、計測範囲の状況(地形の起伏や樹木等の密集度など)や手動フィルタリングに求められる要件(要求精度や与えられる作業時間など)に応じて設定することができ、例えば20cm×20cmなどとすることができる。このメッシュサイズは、所定値で固定された(変更できない)仕様とすることもできるし、オペレータがメッシュサイズを適宜設定する(変更することができる)仕様とすることもできる。この場合、点検システム100がサイズ設定手段106を備えたものとするとよい。オペレータがキーボードやポインティングデバイス等を用いて所望のメッシュサイズを選択し、そしてメッシュ設定手段101が当該メッシュサイズで小領域MSを設定するわけである。なお、領域選択手段105によって計測範囲のうち2以上の選択領域が選択された場合、サイズ設定手段106はそれぞれの選択領域に対して固有のメッシュサイズを設定することができる仕様にするとよい。
【0030】
(最低点抽出手段)
最低点抽出手段102は、点群データ記憶手段109に記憶されたオリジナルデータを読み出すとともに、小領域MS内に含まれる計測点のうち最小の標高値となる計測点(以下、「最低点」という。)を抽出する手段である。例えば
図4では16の小領域MSが示されており、(a)ではそれぞれの小領域MSに全ての計測点(黒点と白点)が示されており、これに対して(b)ではそれぞれの小領域MSで抽出された1の最低点(白点)が示されている。
【0031】
(陰影図生成手段)
陰影図生成手段103は、最低点抽出手段102によって抽出された最低点に基づいてモノクロ陰影図を生成する手段である。便宜上ここでは、従来のモノクロ陰影図と区別するため、本願発明で用いられるモノクロ陰影図のことを特に「低地モノクロ陰影図」ということとする。より詳しくは、モデル生成手段108によって生成された3次元の「地盤モデル」に対して、特定の方向から光を当てて地形に陰を付け、この陰の具合を濃淡(グレースケール)で表示した低地モノクロ陰影図を生成する。ここで地盤モデルとは、DSM(Digital Surface Model)やDEM(Digital Elevation Model)に代表されるモデルであり、モデル生成手段108は複数の最低点(
図4の白点)のみに基づいてこの地盤モデルを生成する。例えばモデル生成手段108は、複数の最低点からなる不整三角網(TIN:Triangulated Irregular Network)を用いて地盤モデルを生成する仕様とすることができる。あるいは、TINに代えて最近傍法(Nearest Neighbor)による手法のほか、逆距離加重法(IDW:Inverse Distance Weighting)、Kriging法、平均法などを採用してもよい。
【0032】
(表示手段)
表示手段104は、最低点抽出手段102によって生成された低地モノクロ陰影図と、自動フィルタリングによる候補地盤点とを重畳表示することができるもので、例えばコンピュータ装置が具備するディスプレイなどを利用することができる。
図5は、重畳表示された低地モノクロ陰影図と候補地盤点を模式的に示す画面図である。この
図5と
図8を見比べると、特に枠線で囲った領域に違いが認められ、
図4では地盤の起伏があることが把握できるのに対して、
図8ではこの起伏が把握できない。地盤の起伏があるということはそこが地盤である可能性が高く、そしてその範囲に計測点がなければ過抽出点が生じた可能性が高いと推認できる。すなわち、従来のモノクロ陰影図(
図8)と候補地盤点を重ねても過抽出点を発見することは難しいが、本願発明の低地モノクロ陰影図(
図5)と候補地盤点を重ねると過抽出点を発見することができるわけである。
【0033】
(処理の流れ)
以下、
図6を参照しながら点検システム100の主な処理について詳しく説明する。
図6は、点検システム100の主な処理の流れの一例を示すフロー図であり、中央の列に実行する処理を示し、左列にはその処理に必要なものを、右列にはその処理から生ずるものを示している。
【0034】
図6に示すように、まずは自動フィルタリング手段107を用いて点群データに対する自動フィルタリングを実施する(
図6のStep201)。この自動フィルタリングは、従来用いられている種々のソフトウェアを利用することができる。なお本願発明の点検システム100は、自動フィルタリング手段107を含んで構成することもできるが、これを含まない構成とすることもできる。自動フィルタリング手段107を含まない場合、点検システム100は、点群データに対して自動フィルタリングを実施した結果得られる候補地盤点を用いて一連の処理を実行する。
【0035】
点群データに対して自動フィルタリングを実施して候補地盤点が得られると、領域選択手段105を用いて計測範囲内に選択領域を設定するとともに(
図6のStep202)、サイズ設定手段106を用いて選択領域にメッシュサイズを設定する(
図6のStep203)。このとき、計測範囲のうち2以上の選択領域が選択された場合、サイズ設定手段106はそれぞれの選択領域に対して固有のメッシュサイズを設定することもできる。なお、本願発明の点検システム100は領域選択手段105やサイズ設定手段106を必ずしも備える必要はなく、したがって選択領域の設定(Step202)やメッシュサイズの設定(Step203)は省略して次の処理に進むこともできる。
【0036】
選択領域とメッシュサイズが設定されると、メッシュ設定手段101がその選択領域に対して指定のメッシュサイズで小領域MSを設定する(
図6のStep204)。このとき、領域選択手段が設定されていないときは全ての計測範囲に対して小領域MSを設定し、またメッシュサイズが設定されていないときは規定値(デフォルト)のメッシュサイズで小領域MSを設定する。
【0037】
小領域MSが設定されると、最低点抽出手段102がそれぞれの小領域MSから最低点を抽出するとともに(
図6のStep205)、モデル生成手段108がそれらの最低点に基づいて地盤モデルを生成する(
図6のStep206)。次いで、陰影図生成手段103が地盤モデルに基づいて低地モノクロ陰影図を生成し(
図6のStep207)、表示手段104に低地モノクロ陰影図と候補地盤点を重畳表示する(
図6のStep208)。そしてオペレータは、表示手段104に重畳表示された低地モノクロ陰影図と候補地盤点を目視しながら、過抽出点を発見し、発見した過抽出点を地盤点に戻す手動フィルタリングを行う(
図6のStep209)。
【0038】
3.点検方法
続いて本願発明の点検方法ついて、
図7を参照しながら説明する。なお、本願発明の点検方法は、ここまで説明した点検システム100を用いて自動フィルタリング後の地盤点を点検する方法であり、したがって点検システム100で説明した内容と重複する説明は避け、本願発明の点検方法に特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、「2.点検システムム」で説明したものと同様である。
【0039】
図7は、本願発明の点検方法の主な工程の流れを示すフロー図である。本願発明の点検方法を実施するにあたっては、この図に示すようにまずは点群データに対する自動フィルタリングを実施する(
図7のStep301)。点群データに対して自動フィルタリングを実施して候補地盤点が得られると、領域選択手段105を用いて計測範囲内に選択領域を設定するとともに(
図7のStep302)、サイズ設定手段106を用いて選択領域にメッシュサイズを設定する(
図7のStep303)。なお、本願発明の点検システム100は領域選択手段105やサイズ設定手段106を備えないケースでは、選択領域の設定(Step302)やメッシュサイズの設定(Step303)は省略したうえで次の工程に進む。
【0040】
選択領域とメッシュサイズが設定されると、メッシュ設定手段101を用いてその選択領域に対して指定のメッシュサイズで小領域MSを設定する(
図7のStep304)。このとき、領域選択手段が設定されていないときは全ての計測範囲に対して小領域MSを設定し、またメッシュサイズが設定されていないときは規定値(デフォルト)のメッシュサイズで小領域MSを設定する。
【0041】
小領域MSが設定されると、最低点抽出手段102を用いて小領域MSから最低点を抽出し(
図7のStep305)、モデル生成手段108を用いて最低点に基づいて地盤モデルを生成する(
図7のStep306)。次いで、陰影図生成手段103を用いて地盤モデルに基づく低地モノクロ陰影図を生成し(
図7のStep307)、表示手段104に低地モノクロ陰影図と候補地盤点を重畳表示する(
図7のStep308)。そしてオペレータが、表示手段104に重畳表示された低地モノクロ陰影図と候補地盤点を目視しながら、過抽出点を発見し、発見した過抽出点を地盤点に戻す手動フィルタリングを行う(
図7のStep309)。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本願発明の点検システム、及び点検方法は、山地部や海岸部、市街地など様々な場所の地盤高を取得する際に利用することができ、特に森林部を有する場所に好適に利用することができる。本願発明によれば、高い精度で地盤高を得ることができることから、社会インフラストラクチャーの計画や防災計画などに有効活用することができ、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明である。
【符号の説明】
【0043】
100 本願発明の点検システム
101 (点検システムの)メッシュ設定手段
102 (点検システムの)最低点抽出手段
103 (点検システムの)陰影図生成手段
104 (点検システムの)表示手段
105 (点検システムの)領域選択手段
106 (点検システムの)サイズ設定手段
107 (点検システムの)自動フィルタリング手段
108 (点検システムの)モデル生成手段
109 (点検システムの)点群データ記憶手段
MS 小領域