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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143707
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】吹付け方法及び埋戻し方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 11/10 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
E21D11/10 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056504
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】松本 聡碩
(72)【発明者】
【氏名】石井 健嗣
(72)【発明者】
【氏名】小林 一三
(72)【発明者】
【氏名】米丸 佳克
【テーマコード(参考)】
2D155
【Fターム(参考)】
2D155DB02
2D155DB06
(57)【要約】
【課題】坑道の埋戻しにおいて吹付け材のリバウンドを低減する吹付け方法、及び埋戻し方法を提供する。
【解決手段】坑道1の妻壁面3に埋戻層5を形成する処理を繰返し実行して坑道1を埋め戻す埋戻し工事において、吹付け工法で埋戻層5を形成する吹付け方法は、埋戻層5のうち坑道1の坑壁面32に沿った部分である埋戻層周縁部22を形成する周縁部形成工程S302と、周縁部形成工程S302よりも後に実行され埋戻層5のうち埋戻層周縁部22の内側の部分である埋戻層中央部23を形成する中央部形成工程S303と、を備え、周縁部形成工程S302では、吹付けノズル11から坑壁面32に垂直に吹付け材が噴射される。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
坑道の妻壁面に埋戻層を形成する処理を繰返し実行して前記坑道を埋め戻す埋戻し工事において、吹付け工法で前記埋戻層を形成する吹付け方法であって、
前記埋戻層のうち前記坑道の坑壁面に沿った部分である埋戻層周縁部を形成する周縁部形成工程と、
前記周縁部形成工程よりも後に実行され前記埋戻層のうち前記埋戻層周縁部の内側の部分である埋戻層中央部を形成する中央部形成工程と、を備え、
前記周縁部形成工程では、吹付けノズルから前記坑壁面に垂直に吹付け材が噴射される、吹付け方法。
【請求項2】
前記中央部形成工程よりも前に実行され前記埋戻層のうち前記坑道の底面に沿った部分である埋戻層下縁部を形成する下縁部形成工程を更に備え、
前記埋戻層下縁部の上面は、前記坑道の奥側から手前側に向けて低くなる形状に形成される、請求項1に記載の吹付け方法。
【請求項3】
前記下縁部形成工程は前記周縁部形成工程よりも前に実行される、請求項2に記載の吹付け方法。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の吹付け方法による前記埋戻層の形成を繰返して前記坑道を埋め戻す埋戻し方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吹付け方法及び埋戻し方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1に記載の吹付け方法が知られている。この吹付け方法によって坑道の妻壁面上に吹付け層が形成され、この吹付け方法が繰り返されることで、積層された吹付け層による壁体を形成するものである。この吹付け方法では、吹付けノズルが妻壁面に垂直に向けられた状態で駆動装置によって水平に移動されて水平方向に延びる吹付け帯部が形成される。この吹付け帯部が上下方向に略等間隔で複数形成されて吹付け材の尾根部と谷部とが交互に形成される。その後、上記の谷部を埋めるように水平方向に延びる吹付け帯部が重ねて形成されることで、平面に近い形状の表面をもつ吹付け層が形成される。このように、吹付け層の表面を平面に近い形状にすることで、当該表面上に重ねて吹付けられる吹付け材のリバウンドが低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許6093578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の吹付け方法を坑道の埋戻しに適用した場合を考える。この場合、妻壁面の縁部(妻壁面と坑壁面との隅角部)の近傍においては、吹付けノズルを保持する駆動装置のアームと坑壁面との干渉を避ける必要があるので、吹付けノズルの噴射方向を妻壁面に対して垂直に向けることができない場合がある。そうすると、妻壁面の縁部近傍においては、吹付け材は妻壁面に対して斜めに吹付けられることになり、リバウンド増加の原因になり得る。本発明は、坑道の埋戻しにおいて吹付け材のリバウンドを低減する吹付け方法、及び埋戻し方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の要旨は以下の〔1〕~〔4〕に存する。
【0006】
〔1〕坑道の妻壁面に埋戻層を形成する処理を繰返し実行して前記坑道を埋め戻す埋戻し工事において、吹付け工法で前記埋戻層を形成する吹付け方法であって、前記埋戻層のうち前記坑道の坑壁面に沿った部分である埋戻層周縁部を形成する周縁部形成工程と、前記周縁部形成工程よりも後に実行され前記埋戻層のうち前記埋戻層周縁部の内側の部分である埋戻層中央部を形成する中央部形成工程と、を備え、前記周縁部形成工程では、吹付けノズルから前記坑壁面に垂直に前記吹付け材が噴射される、吹付け方法。
【0007】
〔2〕前記中央部形成工程よりも前に実行され前記埋戻層のうち前記坑道の底面に沿った部分である埋戻層下縁部を形成する下縁部形成工程を更に備え、前記埋戻層下縁部の上面は、前記坑道の奥側から手前側に向けて低くなる形状に形成される、〔1〕に記載の吹付け方法。
【0008】
〔3〕前記下縁部形成工程は前記周縁部形成工程よりも前に実行される、〔2〕に記載の吹付け方法。
【0009】
〔4〕 〔1〕~〔3〕の何れか1項に記載の吹付け方法による前記埋戻層の形成を繰返して前記坑道を埋め戻す埋戻し方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、坑道の埋戻しにおいて吹付け材のリバウンドを低減する吹付け方法、及び埋戻し方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】(a)は、坑道の断面図であり、(b)は、坑道の妻壁の正面図である。
図2】ロボットのアームの先端側の部分を拡大して示す図である。
図3】(a)は、本実施形態の吹付け方法のフローチャートであり、(b)及び(c)は、各変形例に係る吹付け方法のフローチャートである。
図4】(a)は下縁部形成工程における妻壁面の正面図であり、(b)はその妻壁面を含む断面図である。
図5】(a)は周縁部形成工程における妻壁面の正面図であり、(b)はその妻壁面を含む断面図である。
図6】周縁部形成工程の変形例における吹付けノズルと妻壁面の正面図である。
図7】(a)は中央部形成工程における妻壁面の正面図であり、(b)はその妻壁面を含む断面図である。
図8】中央部形成工程で形成される埋戻層中央部の層構造を拡大して模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明に係る吹付け方法及び埋戻し方法の実施形態について詳細に説明する。図1(a)は、坑道101の断面図であり、図1(b)は、坑道101の妻壁の正面図である。以下では、図に示すように坑道101の幅方向をX方向、坑道101の長手方向をY方向、鉛直方向をZ方向として、各部の位置関係等の説明にX,Y,Zを用いる場合がある。
【0013】
坑道101は、高レベル放射性廃棄物の地層処分施設の坑道である。地層処分施設の操業後には、放射性物質の流出を防止するために坑道101が埋戻しされる。坑道101は、コンクリート製のアーチカルバート102の内部空間として構成されている。坑道101の下部は土質材料103が充填され転圧で締め固められる。坑道101のうち土質材料103が充填された部分を除く断面半円状の上部が、本実施形態の吹付け方法及び埋戻し方法の対象である新たな坑道を構成する。このような本実施形態の吹付け方法及び埋戻し方法の対象である新たな坑道を「坑道1」と呼ぶものとする。坑道1の幅は例えば約5mであり、坑道1の高さは例えば約2.2mである。
【0014】
本実施形態の埋戻し方法が用いられる埋戻し工事は、坑道1の妻壁面3に、当該妻壁面3の全面に亘る埋戻層5を所定の層厚さで形成する処理を含む。そして、この埋戻層5を形成する処理が繰返し実行され、多数の埋戻層5がY方向に積層されることにより坑道1が埋め戻される。なお、上記の妻壁面3とは、先に形成された既設の埋戻層5の表面で構成され、概ねY方向に直交する平面をなす。本実施形態の吹付け方法は、吹付け工法を用いて所定の埋戻し材で上記埋戻層5を形成するものである。坑道1の断面はY方向から見て例えば略半円形状をなしている。1層分の埋戻層5の層厚さは例えば約150mmである。ここで用いられる埋戻し材は、ベントナイト混合土であり、例えばベントナイトと現地掘削土を混合して製造される。
【0015】
本実施形態の吹付け方法を実行するための施工装置10は、上記の埋戻し材を吹付け材として噴射する吹付けノズル11と、吹付けノズル11を操作する自走式のロボット13と、吹付けノズル11に対し搬送管を通じて吹付け材を送出する吹付け機15と、吹付け機15に対して吹付け材を供給する材料供給機17と、吹付け機15に対して圧縮空気を供給するコンプレッサ19と、を備えている。材料供給機17から吹付け機15に供給される吹付け材は、コンプレッサ19からの圧縮空気によって高圧で吹付けノズル11に送られ、吹付けノズル11から高速で噴射される。吹付けノズル11は、超音速ノズルであってもよい。
【0016】
ロボット13は、複数の関節を有するアーム14を備え、妻壁面3にアーム14が十分に届くような位置に設置される。アーム14の先端部には吹付けノズル11が保持されている。ロボット13は、オペレータによるリモートコントロールに従ってアーム14を駆動することにより、吹付けノズル11の位置と、吹付けノズル11の向き(噴射方向)を調整する。なお、このようなアーム14の駆動は、事前に準備されたプログラムに従うロボット13の自動制御により実行されてもよい。
【0017】
アーム14の駆動により、吹付けノズル11の位置はXYZ方向に3次元的に調整可能であり、吹付けノズル11の向き(噴射方向)は2軸で調整である。本実施形態の例では、図2に示されるように、ロボット13のアーム14の先端側の部分は、連結されたリンク14a,14b,14cを備えている。リンク14aは直線状に延在している。リンク14bはリンク14aの先端に連結され当該リンク14aに対して軸線B周りに回転可能である。リンク14cは吹付けノズル11を保持しリンク14bに対し軸線C周りに回転可能である。軸線Bはリンク14aの延在方向に平行であり軸線Cは軸線Bに直交する。
【0018】
このようなロボット13が使用されることで、妻壁面3に近い劣悪な環境下に作業者が立ち入ることなく吹付け作業を行なうことができる。吹付け機15、材料供給機17、及びコンプレッサ19は、妻壁面3から離れた位置に適宜配置されればよい。なお、ロボット13に代えて、コンクリート用吹付け重機や汎用の建設用重機等が使用されてもよい。
【0019】
1層分の埋戻層5を形成するための本実施形態の吹付け方法について説明する。以下では、図1(b)に示されるように、形成される埋戻層5を、埋戻層下縁部21、埋戻層周縁部22、及び埋戻層中央部23、といった3つの部分に分けて考える。埋戻層下縁部21は、埋戻層5のうち坑道1の水平な底面31に沿って直線的に延在する部分である。埋戻層下縁部21の上下方向の幅は例えば約300mmである。埋戻層周縁部22は、埋戻層5のうち坑道1の坑壁面32に沿って円弧状に延在する部分である。埋戻層周縁部22の径方向の厚さは例えば約300mmである。埋戻層中央部23は、埋戻層下縁部21と埋戻層周縁部22とに囲まれた内側の半円状の部分である。
【0020】
本実施形態の吹付け方法は、図3(a)に示されるように、埋戻層下縁部21を形成する下縁部形成工程S301と、埋戻層周縁部22を形成する周縁部形成工程S302と、埋戻層中央部23を形成する中央部形成工程S303と、を備えている。本実施形態の吹付け方法においては、最初に下縁部形成工程S301が実行され、その後に周縁部形成工程S302が実行され、更にその後に中央部形成工程S303が実行される。各工程について以下に説明する。以下の各工程における、吹付けノズル11の移動、吹付けノズル11のXYZ位置の調整、吹付けノズル11の向き(噴射方向)の変更や調整は、特に断らない限り、ロボット13が、オペレータによるリモートコントロール又は自動制御に基づいてアーム14を動作させることにより実行するものである。
【0021】
(下縁部形成工程S301)
図4(a)は下縁部形成工程S301における妻壁面3の正面図であり、図4(b)はその妻壁面3を含む断面図である。図に示されるように、下縁部形成工程S301では吹付けノズル11が妻壁面3に垂直に向けられる(Y方向に向けられる)。そして、吹付けノズル11から吹付け材が噴射された状態で、噴射方向Jが常に妻壁面3に直交するように調整されながら、埋戻層下縁部21に対応する領域内で吹付けノズル11がXZ方向に繰返し移動される。また、吹付けノズル11と吹付け対象との距離は例えば1m程度になるように調整される。このような吹付け処理により、坑道1の下部の妻壁面3上には吹付け材が徐々に積層されていく。そして、最終的には、妻壁面3と底面31とが交差する隅角部が吹付け材で埋められ、当該吹付け材(埋戻し材)が埋戻層5の層厚さ分だけ積層されることで、底面31に沿って直線的に延在する埋戻層下縁部21が形成される。
【0022】
図4(b)に示されるように完成後の埋戻層下縁部21は台形断面をなし、埋戻層下縁部21の上面21aは、坑道1の奥側から手前側に向けて低くなる形状に形成される。埋戻層下縁部21の側面21bはY方向に直交する平面をなし、最終的に埋戻層5の手前側の面の一部を構成する。図の例では、上面21aは傾斜した平面をなしている。上記のような断面形状の埋戻層下縁部21を形成するためには、例えば、埋戻層下縁部21の高さ位置ごとに吹付けの繰返し回数を適宜調整すればよい。または、埋戻層下縁部21の高さ位置ごとに吹付けノズル11の移動速度を適宜調整すればよい。すなわち、吹付けノズル11からの単位時間当たりの噴射量は一定にされ、吹付けノズル11の移動速度の調整により単位面積当たりに吹付けられる吹付け材の量が調整される。このように、埋戻層下縁部21の箇所ごとに吹付けの繰返し回数や吹付けノズル11の移動速度を適宜調整することで、埋戻層下縁部21を所望の断面形状に形成することができる。
【0023】
(周縁部形成工程S302)
図5(a)は周縁部形成工程S302における妻壁面3の正面図であり、図5(b)はその妻壁面3を含む断面図である。図に示されるように、周縁部形成工程S302では吹付けノズル11が埋戻層下縁部21の上方の位置に配置され、妻壁面3に平行な方向に向けられる(Y方向に直交する方向に向けられる)。そして、吹付けノズル11から吹付け材が噴射された状態で、噴射方向Jが常に坑壁面32に直交するように調整されながら、坑壁面32に沿って吹付けノズル11が繰返し移動される。また、吹付けノズル11と吹付け対象との距離は例えば1m程度になるように調整される。このような吹付け処理により、坑壁面32上には吹付け材が徐々に積層されていく。そして、最終的には、妻壁面3と坑壁面32とが交差する隅角部が吹付け材で埋められ、当該吹付け材(埋戻し材)が径方向に所定の厚さ分だけ積層されることで、坑壁面32に沿って円弧状に延在する埋戻層周縁部22が形成される。
【0024】
なお、Y方向から見た坑壁面32全体が完全に円弧であれば、図6に示されるように、当該円弧の中心Dに吹付けノズル11を配置し、吹付けノズル11のXZ位置を固定したまま吹付けノズル11の向きをY方向に平行な軸線周りに回転させるようにしてもよい。この場合においても、吹付け材の噴射方向Jが常に坑壁面32に直交する状態が実現される。この場合、周縁部形成工程S302におけるアーム14の動作の制御が簡易化される点において好ましい。
【0025】
(中央部形成工程S303)
図7(a)は中央部形成工程S303における妻壁面3の正面図であり、図7(b)はその妻壁面3を含む断面図である。図に示されるように、中央部形成工程S303では吹付けノズル11が妻壁面3に垂直に向けられる(Y方向に向けられる)。そして、吹付けノズル11から吹付け材が噴射された状態で、噴射方向Jが常に妻壁面3に直交するように調整されながら、埋戻層下縁部21の傾斜した上面21a上を含めて、埋戻層中央部23に対応する領域内で吹付けノズル11がXZ方向に繰返し移動される。また、吹付けノズル11と吹付け対象との距離は例えば1m程度になるように調整される。このような吹付け処理により、埋戻層下縁部21と埋戻層周縁部22とで囲まれた領域における妻壁面3上には吹付け材が徐々に積層されていく。そして、最終的には、吹付け材(埋戻し材)が埋戻層5の層厚さ分だけ積層されることで、半円状の埋戻層中央部23が形成される。
【0026】
中央部形成工程S303における吹付け処理の詳細を更に説明する。図8は、中央部形成工程S303で形成される埋戻層中央部23の層構造を拡大して模式的に示す断面図である。この吹付け処理では、図8に示されるように、複数の吹付け層40が妻壁面3上にY方向に積層されることで、埋戻層中央部23が形成される。各吹付け層40の層厚がすべて同じである必要はない。1つの吹付け層40は、第1吹付け工程で形成される第1吹付け部41と、第2吹付け工程で形成される第2吹付け部42と、で構成される。第1吹付け工程では、吹付けノズル11がX方向に移動することでX方向に延びる第1吹付け帯部41aが形成される。このような第1吹付け帯部41aが下から順に互いに一部ずつ重なり合い上下方向に略等間隔で複数配列するように形成される。これらの複数の第1吹付け帯部41aからなる第1吹付け部41は、上下方向に交互に現れる複数の尾根部と複数の谷部とを有する。第2吹付け工程では、X方向に延びる第2吹付け帯部42aが第1吹付け部41の各谷部を埋めるように略等間隔で複数形成される。これらの複数の第2吹付け帯部42aからなる第2吹付け部42が、第1吹付け部41上に形成される。このような第1吹付け工程と第2吹付け工程とにより1つの吹付け層40が形成され、当該吹付け層40の表面はY方向に直交する平面に近い形状になる。そして、上記のような吹付け層40の形成が繰り返され、埋戻層5の層厚さに達するまで吹付け層40が積層されることで、埋戻層中央部23が完成する。
【0027】
上述したような本実施形態の吹付け方法及び埋戻し方法による作用効果について説明する。
【0028】
ここで、仮に、埋戻層5の全体に亘るすべての箇所で、噴射方向JをY方向として吹付けを実行しようとする場合を考える。この場合、妻壁面3と坑壁面32との隅角部を吹付け施行するときには、吹付けノズル11を坑壁面32の近傍に配置する必要があるので、ロボット13のアーム14が坑壁面32に干渉する場合がある。そして、アーム14と坑壁面32との干渉を避けて上記隅角部を施工しようとすれば、噴射方向Jが妻壁面3に対してやや斜めにならざるを得ず、その結果、リバウンド増加の原因になり得る。なお、アーム14と坑壁面32との干渉を避けるためには、隅角部の施工時に、吹付けノズル11がY方向から見て常に坑壁面32とアーム14との間に位置するようにアーム14を動作させることも考えられる。しかしながら、このような動作を実現するにはアーム14の制御が複雑化するといった問題があり容易に採用できない。
【0029】
これに対して、本実施形態の吹付け方法では、周縁部形成工程S302によって上記隅角部が施工される。周縁部形成工程S302では、吹付けノズル11は妻壁面3に垂直ではなく妻壁面3に平行な方向に向けられ、坑壁面32に向けて吹付け材が噴射される。従って、吹付けノズル11は坑壁面32から径方向内側に離れて配置すればよく、アーム14と坑壁面32又は妻壁面3との干渉は発生し難い。また、吹付けノズル11からの吹付け材の噴射方向Jは常に坑壁面32に直交する方向とされる。このように、本実施形態の吹付け方法によれば、アーム14と坑壁面32との干渉が避けられた上で、坑壁面32には常に垂直に吹付け材が吹付けられる。よって、吹付け工法における吹付け材が対象面に常に垂直に吹付けられることで、吹付け材のリバウンドが低減される。そして、リバウンドの低減により、吹付け材(埋戻し材)が節減され、工費が節減される。
【0030】
また、中央部形成工程S303では、噴射方向JをY方向として埋戻層中央部23が吹付け施工される。埋戻層中央部23を施工すべき領域は、埋戻層周縁部22の径方向の厚さ分(例えば300mm)だけ坑壁面32から離れているので、中央部形成工程S303では吹付けノズル11を坑壁面32に極端に近づける必要はない。すなわち、吹付けノズル11が最も坑壁面32に近づいたときにも、吹付けノズル11は坑壁面32から埋戻層周縁部22の径方向の厚さ分(例えば300mm)だけ離れている。従って、アーム14先端と坑壁面32との干渉を回避しながら、吹付け材の噴射方向Jが妻壁面3に直交する状態を維持することができる。よって、中央部形成工程S303においても、妻壁面3に常に垂直に吹付け材が吹付けられるようにすることができ、その結果、吹付け材のリバウンドが低減される。
【0031】
また、中央部形成工程S303では、第1吹付け工程と第2吹付け工程とがこの順で繰り返し実施されて複数の吹付け層40が形成される。第1吹付け工程では、妻壁面3上でX方向に延びる第1吹付け帯部41aを、下から順に互いに一部ずつ重なり合わせて上下方向に略等間隔で複数配列するように形成することで、上下方向に交互に現れる複数の尾根部と複数の谷部とを有する第1吹付け部41を妻壁面3上に形成する。第1吹付け工程の後に、第2吹付け工程では、第1吹付け部41の各々の谷部を埋めるように、水平に延びる第2吹付け帯部42aを上下方向に複数配列するように形成することで、第2吹付け部42を第1吹付け部41上に形成する。これにより、第2吹付け部42の表面はY方向に略直交する略平面状になる。従って、第2吹付け工程の後に再び第1吹付け工程を実施するときに、吹付け面(第2吹付け部42の表面)が平面に近い形状であるので、吹付け材のリバウンドが低減される。
【0032】
また、本実施形態の吹付け方法では、周縁部形成工程S302及び中央部形成工程S303よりも先に下縁部形成工程S301で埋戻層下縁部21が形成され、埋戻層下縁部21の上面21aは、坑道1の奥側から手前側に向けて低くなるように傾斜している。
【0033】
ここで仮に、上面21aが水平な面であれば、周縁部形成工程S302及び中央部形成工程S303で発生するリバウンド材の一部は上面21a上に落下し滞留する。埋戻層下縁部21の上面21aの上は埋戻層中央部23を施工すべき領域内であるので、すなわち、上記リバウンド材が埋戻層中央部23を施工すべき領域内に滞留することになる。そして、この状態のままで中央部形成工程S303が実行されると、上面21a上のリバウンド材が新たに吹付けられる吹付け材に巻き込まれて埋戻層中央部23が形成される。
【0034】
ベントナイト混合土の吹付け施工においては、ベントナイト混合土のうち現地掘削土に含まれる礫分が特に吹付け面から跳ね返り易いので、リバウンド材は、新しい吹付け材に比較して礫分の含有率が高い。従って、上記のようにリバウンド材が巻き込まれて埋戻層中央部23が形成されると、巻き込まれた部分は礫分を多く含むことになり、この部分は止水性能が劣化した弱部になり得る。なお、中央部形成工程S303の実行前に上面21a上に蓄積されたリバウンド材を除去することも考えられるが、周縁部形成工程S302と中央部形成工程S303との連続性が損なわれるので好ましくない。また、中央部形成工程S303の実行前に除去したとしても、中央部形成工程S303の途中でリバウンド材が発生し上面21a上に滞留するので、埋戻層中央部23に巻き込まれるリバウンド材はある程度存在する。
【0035】
これに対し、本実施形態の吹付け方法では、埋戻層下縁部21の上面21aが前述のような傾斜面である。従って、周縁部形成工程S302及び中央部形成工程S303で発生するリバウンド材が上面21a上に落下しても、リバウンド材は埋戻層下縁部21の手前側に滑り落ち易く、上面21a上に残るリバウンド材は低減される。よって、中央部形成工程S303において埋戻層中央部23に巻き込まれるリバウンド材が低減され、埋戻層中央部23の止水性能の劣化が抑制される。なお、上面21aから滑り落ちたリバウンド材は、埋戻層下縁部21の側面21bの手前側に蓄積されるが、この蓄積されたリバウンド材は、次層の埋戻層5を形成する前に除去されればよい。
【0036】
ここで、本発明者らが行なった施工試験1及び施工試験2について説明する。各施工試験は、コンクリート製アーチカルバート(幅5.0m、高さ2.2m)の内部の妻壁面3に埋戻層5を形成するものである。施工試験1では、下縁部形成工程S301を実行して埋戻層下縁部21を形成した後、周縁部形成工程S302は行なわず、残りの妻壁面3全体を中央部形成工程S303の手法で施工して埋戻層5を形成した。これに対し、施工試験2では、本実施形態の吹付け方法により埋戻層5を形成した。各施工試験1,2により完成した埋戻層5について、坑壁面32との隅角部近傍(施工試験2における埋戻層周縁部22に対応する部分)を含む9点でブロックサンプリングを行い、そのサンプルの乾燥密度を測定した。
【0037】
上記の施工試験において、吹付けノズル11から噴射された吹付け材の重量に対するリバウンド材の重量の割合をリバウンド率と定義すれば、施工試験1のリバウンド率は43%であった。これに対し、施工試験2においては、周縁部形成工程S302でのリバウンド率は32%であり、中央部形成工程S303でのリバウンド率は35%である。従って、本実施形態の吹付け方法によれば、リバウンドが低減されることが確認された。また、上記サンプルの乾燥密度の平均値は、施工試験1においては1.970Mg/m3であり、施工試験2においては1.974Mg/m3であった。従って、本実施形態の吹付け方法は、形成される埋戻層5の物性に対して悪影響を及ぼさないことが確認された。なお、この乾燥密度を、既往の研究(JAEA:ベントナイト系材料の標準的室内試験法構築に向けての試験法の現状調査と試験による検討,2010.)に当てはめると、サンプルの透水係数は1.0×10-12m/secオーダーであると推定され、この値はこの種の埋戻層に要求される透水係数を十分に満足している。以上のように、本実施形態の吹付け方法及びこれを用いた埋戻し方法により、埋戻層の止水性能を確保した上でリバウンドの低減が図られることが確認された。
【0038】
本発明は、上述した実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した様々な形態で実施することができる。また、上述した実施形態に記載されている技術的事項を利用して、変形例を構成することも可能である。各実施形態等の構成を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0039】
例えば、上述の実施形態の吹付け方法では、下縁部形成工程S301、周縁部形成工程S302、中央部形成工程S303の順で実行されているが、図3(b)に示されるように、周縁部形成工程S302、下縁部形成工程S301、中央部形成工程S303の順で実行されてもよい。この場合、周縁部形成工程S302で発生したリバウンド材が、坑道1の底面31上で埋戻層下縁部21を施工すべき領域にも蓄積されるが、この蓄積されたリバウンド材は、下縁部形成工程S301の前に除去されればよい。そして、下縁部形成工程S301の後の中央部形成工程S303では、発生するリバウンド材が埋戻層下縁部21の上面21aを滑り落ちるので、上面21a上に滞留するリバウンド材は低減され、その結果、埋戻層中央部23に巻き込まれるリバウンド材が低減され、埋戻層中央部23の止水性能の劣化が抑制される。
【0040】
また、図3(c)に示されるように、下縁部形成工程S301が省略され、周縁部形成工程S302及び中央部形成工程S303がこの順で実行されてもよい。この場合の中央部形成工程S303で形成される埋戻層中央部23は、埋戻層5のうち坑道1の底面31と埋戻層周縁部22とで囲まれた部分である。この場合においても、周縁部形成工程S302では坑壁面32に常に垂直に吹付け材が吹付けられ、中央部形成工程S303では妻壁面3に常に垂直に吹付け材が吹付けられるようにすることができ、吹付け材のリバウンドが低減される。
【0041】
また、周縁部形成工程S302が省略され、下縁部形成工程S301及び中央部形成工程S303がこの順で実行されてもよい。この場合の中央部形成工程S303で形成される埋戻層中央部23は、埋戻層下縁部21の上方の部分であり、埋戻層5のうち坑道1の坑壁面32と埋戻層下縁部21とで囲まれた部分である。すなわち、埋戻層5のうち坑道1の底面31に沿った部分である埋戻層下縁部21を形成する下縁部形成工程S301と、この下縁部形成工程S301よりも後に実行され埋戻層5のうち埋戻層下縁部21の上方の部分である埋戻層上部を形成する上部形成工程と、を備える吹付け方法が採用されてもよい。そしてこの場合、埋戻層下縁部21の上面21aは、坑道1の奥側から手前側に向けて低くなる形状に形成される。この場合、上記の上部形成工程で発生するリバウンド材が埋戻層下縁部21の上面21a上に落下しても、リバウンド材は埋戻層下縁部21の手前側に滑り落ち易く、上面21a上に滞留するリバウンド材は低減される。よって、上部形成工程において埋戻層の上部に巻き込まれるリバウンド材が低減され、埋戻層5の止水性能の劣化が抑制される。
【0042】
また、上述の実施形態では、図4(b)に示されるように、埋戻層下縁部21の上面21aは傾斜した平面をなしているが、これには限定されず、上面21aの形状としては、リバウンド材が滑り落ち易い形状が適宜選択されればよい。上面21aは、坑道1の奥側から手前側に向けて低くなる形状であれば、例えば、外側に膨む凸面をなしてもよい。また、実施形態の下縁部形成工程S301では、吹付けノズル11が常に妻壁面3に垂直に向けられるが、吹付けノズル11の向きは、上面21aを所望の形状に形成し易いように制御されてもよい。また、下縁部形成工程S301では、吹付けノズル11が底面31に垂直に(下方に)向けられた状態で埋戻層下縁部21が形成されてもよい。
【符号の説明】
【0043】
1…坑道、3…妻壁面、5…埋戻層、11…吹付けノズル、21…埋戻層下縁部、22…埋戻層周縁部、23…埋戻層中央部、31…底面、32…坑壁面、21a…上面、S302…周縁部形成工程、S302…周縁部形成工程、S303…中央部形成工程。
図1
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図8