(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014371
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】認知機能改善用の組成物、それを含む食品、薬剤、組成物キット、及び、その組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 33/10 20160101AFI20240125BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240125BHJP
A61K 31/7048 20060101ALI20240125BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240125BHJP
A61K 36/82 20060101ALI20240125BHJP
A61K 36/752 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
A23L33/10
A61P25/28
A61K31/7048
A61P43/00 121
A61K36/82
A61K36/752
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022117147
(22)【出願日】2022-07-22
(71)【出願人】
【識別番号】505225197
【氏名又は名称】長崎県公立大学法人
(71)【出願人】
【識別番号】000214191
【氏名又は名称】長崎県
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】田中 一成
(72)【発明者】
【氏名】中山 久之
(72)【発明者】
【氏名】宮田 裕次
【テーマコード(参考)】
4B018
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018MA08
4B018MD08
4B018MD42
4B018MD52
4B018MD59
4B018ME14
4B018MF06
4B018MF14
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA11
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA15
4C086ZA16
4C086ZC75
4C088AB45
4C088AB62
4C088AC04
4C088AC05
4C088BA08
4C088BA14
4C088CA05
4C088CA08
4C088MA07
4C088MA52
4C088NA05
4C088NA14
4C088ZA16
4C088ZC75
(57)【要約】
【課題】生体に吸収されやすく効果を発揮しやすい認知機能改善用の組成物、それを含む食品、薬剤、組成物キット、及び、その組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】ヘスペリジンと茶ポリフェノールとを含有する認知機能改善用の組成物、それを含む食品、薬剤、組成物キット、及び、その組成物の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘスペリジンと茶ポリフェノールとを含有する認知機能改善用の組成物。
【請求項2】
前記ヘスペリジンと前記茶ポリフェノールとの会合体を含有する、請求項1に記載の認知機能改善用の組成物。
【請求項3】
前記ヘスペリジンと前記茶ポリフェノールとの会合体は、前記茶ポリフェノールが前記ヘスペリジンの疎水性部分を会合によって取り込んだ構造を有する、請求項2に記載の認知機能改善用の組成物。
【請求項4】
前記ヘスペリジンを含有するミカンと前記茶ポリフェノールを含有する茶とを混合し揉捻して得られた混合揉捻物を有効成分とする認知機能改善用の組成物であって、
前記混合揉捻物の全体質量に対してミカンを10~50質量%混合した、請求項1または2に記載の認知機能改善用の組成物。
【請求項5】
前記ミカンが未熟ミカンを含み、前記茶が緑茶生葉を含む、請求項4に記載の認知機能改善用の組成物。
【請求項6】
前記組成物の全体質量1000mgに対して前記ヘスペリジンを20~60mg含有する、請求項1または2に記載の認知機能改善用の組成物。
【請求項7】
前記組成物の全体質量1000mgに対して前記茶ポリフェノールを75~200mg含有する、請求項1または2に記載の認知機能改善用の組成物。
【請求項8】
前記ヘスペリジンに対して前記茶ポリフェノールを質量比で2:1~1:4となるよう含有する、請求項1または2に記載の認知機能改善用の組成物。
【請求項9】
請求項1または2に記載の認知機能改善用の組成物を含む食品。
【請求項10】
請求項1または2に記載の認知機能改善用の組成物を含む薬剤。
【請求項11】
請求項1または2に記載の認知機能改善用の組成物を28~90包含む組成物キット。
【請求項12】
請求項1または2に記載の認知機能改善用の組成物の製造方法であって、前記ヘスペリジンを含有する原料aと前記茶ポリフェノールを含有する原料bとを混合し揉捻して混合揉捻物を得る揉捻物調製工程を備える認知機能改善用の組成物の製造方法。
【請求項13】
前記揉捻物調製工程は、前記原料aとしてミカン、前記原料bとして茶、を用い、混合揉捻物の全体質量に対して前記原料aを10~50質量%を混合し揉捻する、請求項12に記載の認知機能改善用の組成物の製造方法。
【請求項14】
前記原料aのミカンが未熟ミカン、前記原料bの茶が緑茶生葉である、請求項13に記載の認知機能改善用の組成物の製造方法。
【請求項15】
前記揉捻物調製工程は、前記原料aと前記原料bとを混合し揉捻する操作の後に、温度80~120℃の熱風を10~60分間吹き込み、前記混合揉捻物の全体質量に対して水分量が5質量%になるよう乾燥する操作をさらに備える、請求項12に記載の認知機能改善用の組成物の製造方法。
【請求項16】
前記揉捻物調製工程は、原料a:原料bを1:2~1:4の割合で混合し、揉捻する操作を15~30分間行う、請求項12に記載の認知機能改善用の組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、認知機能改善用の組成物、それを含む食品、薬剤、組成物キット、及び、その組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フラバノン配糖体はミカン等の柑橘類に多く含まれており、脂質の酸化防止作用等を有することが知られている。中でもヘスペリジンは、血管強化、血圧低下、コレステロール低減、中性脂肪低減及び血流改善作用等の効能が認められているフラバノン配糖体である。
【0003】
ヘスペリジンを利用する発明としては、例えば、特許文献1の発明は、水溶性が低く加工等が行いにくいヘスペリジンの一部にグルコースを結合させ、酵素処理することによって、ヘスペリジンに対して水溶性を付与するものである。
【0004】
ヘスペリジンを含む組成物の効果・効能としては、例えば、特許文献2によると、酵素処理ヘスペリジンを飲用することで、睡眠の質の改善が確認されている。
【0005】
非特許文献1によると、酵素処理ヘスペリジン(アグリコンとして170mg)を飲用することで、寒冷刺激によって低下した手の血流量および皮膚表面温度がプラセボ群と比べて有意に回復している。
【0006】
本発明者らによる特許文献3によると、フラバノン配糖体と茶ポリフェノールとを含有する組成物が開示されている。特許文献3には、この組成物の製造方法として、前記フラバノン配糖体を含有する原料と前記茶ポリフェノールを含有する原料とを揉捻して混合揉捻物を得る揉捻物調製工程と、前記混合揉捻物を抽出溶媒に浸漬する抽出工程とを備える組成物の製造方法も開示されている。
【0007】
本発明者らによる特許文献4によると、ヘスペリジンと茶ポリフェノールとを含有する冷え性改善用、肩こり改善用、疲労回復用、又は睡眠改善用の組成物、それを含む食品、薬剤、組成物キット、及び、その組成物の製造方法が開示されている。この技術は、生体に吸収されやすく、上記の各種の体調の改善効果を発揮しやすい上述の組成物等を得ようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平3-7593号公報
【特許文献2】特開2010-064992号公報
【特許文献3】国際公開第2014/136681号
【特許文献4】特許第6826347号広報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】日本栄養・食糧学会誌 第61巻第5号 233-239(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、近年、社会活動や経済活動に関わる高齢者が増加しているが、加齢に伴い身体能力は低下する。とりわけ、注意力、判断力、記憶力といった認知機能の低下は日常生活に多大な支障をきたす。また、加齢以外に、各種の疾病によっても認知機能の低下は起こり得る。そのため、認知機能の維持、低下予防、改善は我が国において重要な課題である。
【0011】
これまで知られていたヘスペリジンの効果については、上述の各従来技術に示されているように、体内に及ぼす幾つかの影響が予測されていた。しかし、従来の技術では摂取量に対する体内への吸収性や影響が限定的であるという理由もあり、どのような効果を奏するかの効果は十分に確認されていなかった。
【0012】
本発明者らは、特許文献4に示されるような生体に吸収されやすく効果を発揮しやすいヘスペリジンと茶ポリフェノールとを含有する組成物を用い、その体内に及ぼす効果について検証を進めていった。
【0013】
本発明は上記のような事情を鑑みてなされたものであり、生体に吸収されやすく、認知機能の改善の効果を有効に発揮することのできる組成物、それを含む食品、薬剤、組成物キット、及び、その組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の実施態様は、以下の側面を有する。
本発明の態様1は、ヘスペリジンと茶ポリフェノールとを含有する認知機能改善用の組成物である。
【0015】
本発明の態様2は、態様1に記載の認知機能改善用の組成物において、前記ヘスペリジンと前記茶ポリフェノールとの会合体を含有する。
【0016】
本発明の態様3は、態様2に記載の認知機能改善用の組成物において、前記ヘスペリジンと前記茶ポリフェノールとの会合体は、前記茶ポリフェノール類が前記ヘスペリジンの疎水性部分を会合によって取り込んだ構造を有する。
【0017】
本発明の態様4は、態様1から3のいずれか1に記載の認知機能改善用の組成物において、前記ヘスペリジンを含有するミカンと前記茶ポリフェノールを含有する茶とを混合し揉捻して得られた混合揉捻物を有効成分とする認知機能改善用の組成物であって、前記混合揉捻物の全体質量に対してミカンを10~50質量%混合した、認知機能改善用の組成物である。
【0018】
本発明の態様5は、態様4に記載の認知機能改善用の組成物において、前記ミカンが未熟ミカンを含み、前記茶が緑茶生葉を含む。
【0019】
本発明の態様6は、態様1から5のいずれか1に記載の認知機能改善用の組成物において、前記組成物の全体質量1000mgに対して前記ヘスペリジンを20~60mg含有する。
【0020】
本発明の態様7は、態様1から6のいずれか1に記載の認知機能改善用の組成物において、前記組成物の全体質量1000mgに対して前記茶ポリフェノールを75~200mg含有する。
【0021】
本発明の態様8は、態様1から7のいずれか1に記載の認知機能改善用の組成物において、前記ヘスペリジンに対して前記茶ポリフェノールを質量比で2:1~1:4となるよう含有する。
【0022】
本発明の態様9は、態様1から8のいずれか1に記載の認知機能改善用の組成物を含む食品である。
【0023】
本発明の態様10は、態様1から8のいずれか1に記載の認知機能改善用の組成物を含む薬剤である。
【0024】
本発明の態様11は、態様1から8のいずれか1に記載の認知機能改善用の組成物を28~90包含む組成物キットである。
【0025】
本発明の態様12は、態様1から8のいずれか1に記載の認知機能改善用の組成物の製造方法であって、前記ヘスペリジンを含有する原料aと前記茶ポリフェノールを含有する原料bとを混合し揉捻して混合揉捻物を得る揉捻物調製工程を備える。
【0026】
本発明の態様13は、態様12の認知機能改善用の組成物の製造方法であって、前記揉捻物調製工程は、前記原料aとしてミカン、前記原料bとして茶、を用い、混合揉捻物の全体質量に対して原料aを10~50質量%を混合し揉捻する。
【0027】
本発明の態様14は、態様13の認知機能改善用の組成物の製造方法であって、前記原料aのミカンが未熟ミカン、前記原料bの茶が緑茶生葉である。
【0028】
本発明の態様15は、態様12から14のいずれか1に記載の認知機能改善用の組成物の製造方法であって、前記揉捻物調製工程は、前記原料aと前記原料bとを混合し揉捻する操作の後に、温度80~120℃の熱風を10~60分間吹き込み、前記混合揉捻物の全体質量に対して水分量が5質量%になるよう乾燥する操作をさらに備える。
本発明の態様16は、態様12から15のいずれか1に記載の認知機能改善用の組成物の製造方法であって、前記揉捻物調製工程は、原料a:原料bを1:2~1:4の割合で混合し、揉捻する操作を15~30分間行う。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、生体に吸収されやすく効果を発揮しやすく、認知機能の改善の効果を有効に発揮することのできる組成物、それを含む食品、薬剤、組成物キット、及び、その組成物の製造方法が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の認知機能改善用の組成物、それを含む食品、薬剤、組成物キット、及び、その組成物の製造方法について、実施形態を示して説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0031】
(実施形態)
本実施形態の認知機能改善用の組成物(以下、単に「本実施形態の組成物」とも記載する)は、ヘスペリジン(以下、(A)成分)と茶ポリフェノール(以下、(B)成分)とを含有する。
【0032】
<(A)成分:ヘスペリジン>
(A)成分はヘスペリジンである。ヘスペリジンは、フラバノン配糖体の一種である。フラバノン配糖体は、フラバノン骨格を有するフラボノイドに糖が結合した配糖体であり、例えば、ヘスペリジン、ナリルチン、ナリンギン、ネオヘスペリジン等が挙げられる。このうちヘスペリジンは、フラバノンのヘスペレチンの配糖体である。
(A)成分は、例えば、未熟ミカン等の柑橘類の原料に含まれている。これらの原料には、ヘスペリジン以外の上述のフラバノン配糖体が含まれている場合がある。
【0033】
<(B)成分:茶ポリフェノール>
(B)成分は、茶ポリフェノールである。茶ポリフェノールとは、一般に茶葉に含まれるポリフェノールあるいは茶葉から抽出されるポリフェノールを指す。茶ポリフェノールとしては、カテキン、プロトシアニジン、フラボノール配糖体及び紅茶ポリフェノール等が挙げられる。さらに具体的には、緑茶生葉には没食子酸、テアシネンシンB、エピガロカテキン、カフェイン、テアシネンシンA、エピカテキン、エピガロカテキンガレート、エピカテキンガレート、ナリンギン及びテアフラビン等が含まれている。
(B)成分は、例えば、緑茶等の非発酵茶葉、紅茶やウーロン茶等の発酵茶葉等の原料に含まれているが、(B)成分の供給源としては、カテキン、プロトシアニジン、フラボノール配糖体又は紅茶ポリフェノール等の精製品でもよいし、例えば、紅茶抽出物である紅茶エキスや、緑茶抽出物である緑茶エキス等のエキスでもよい。非発酵茶葉のうち、緑茶生葉には茶ポリフェノール成分が豊富に含まれ、後述する揉捻の工程を経ると発酵茶に含まれるカテキン等も含まれるようになるので好ましい。本実施形態では、緑茶生葉を用いている。
【0034】
本実施形態の組成物は、上述の成分を含んでいれば、後述する任意成分を含んでいてもよい。その成分によって各種の形態となるよう調整されていてもよく、例えば粉粒状、タブレット状等の固体でもよいし、液体でもよい。
【0035】
<会合体>
本実施形態の認知機能改善用の組成物は、上述のヘスペリジン((A)成分)と上述の茶ポリフェノール((B)成分)との会合体を含有することが好ましい。ここで会合体とは、複数の化合物が分子間力(例えば、疎水結合や水素結合)で結合したものを指す。
【0036】
本実施形態の組成物は、後述する製造過程における揉捻などの操作によって、ヘスペリジンと茶ポリフェノールの会合が起こる。その結果、茶ポリフェノールとの会合によって、ヘスペリジンが認知機能改善用に特に効果を発揮する形態となる。具体的には、通常難溶性であり吸収が困難なヘスペリジンの水溶性が増加する点の他、体内への吸収性がより高まる等、その他の相乗効果による点が考えられる。
【0037】
さらに、本実施形態においては、前記ヘスペリジンと前記茶ポリフェノールとの会合体は、前記茶ポリフェノール類が前記ヘスペリジンの疎水性部分を会合によって取り込んだ構造を有するものであることが特に好ましい。
【0038】
一般に(A)成分は、疎水性の部位(例えば、ヘスペリジンにおいてはヘスペレチン部分)同士が強固に会合して結晶を形成しているため、水への溶解性に劣る。しかし、ヘスペリジンと茶ポリフェノールを含む原料を混合揉捻すると、水溶性のカテキンやカテキンの酸化重合で生成した茶ポリフェノール類が、その両親媒性によりフラボノイドの疎水性部分を会合によって取り込むこと(スタッキング効果)が生じる。すなわち、ヘスペリジンと茶ポリフェノールとを共存させると、茶ポリフェノールがヘスペリジン同士の疎水性の会合部分を切り離し、ヘスペリジンとの会合体を形成する。そして、形成された茶ポリフェノールとヘスペリジンの会合体は、水への溶解性が高い。また、この形態はヘスペリジンの体内への吸収性が高いと考えられる。
【0039】
このようなヘスペリジンと茶ポリフェノールの会合体が形成されていることについては、例えば、1H―NMR解析においてヘスペリジンの糖部分(Glc-1,6)等その他の親水性の部分に比べて、環部分(ring)のケミカルシフトが負側に変化していることなどから、ヘスペリジンの疎水性の部位であるB環及びC環部分が覆い隠されていることを確認できる。
【0040】
このような形態のヘスペリジンと茶ポリフェノールの会合体は、本実施形態の認知機能改善用の効果を高くする。
従来の技術では、ヘスペリジンを酵素処理による抽出、及び糖転移などの反応によって水溶性を高めようとしているが、例えばヘスペリジン含有量として0.5~50g、500mg~2000mgなどの比較的多量の摂取を必要とする。この理由としては、ヘスペリジンの重量あたりの体内への吸収性が充分でないため、生理活性を発揮するには多量の摂取を必要としている可能性がある。本実施形態では、後述するように20~60mgのヘスペリジンを含む組成物を摂取することで、その直後から各種の体質の改善、特に認知機能改善の効果が得られる。
【0041】
(摂取量)
本実施形態の組成物は、ヘスペリジンを1回の摂取分につき20~60mg含有する形態が好ましい。具体的には、認知機能改善用の目的に供する場合、1回の摂取につき上記含有量を摂取することで上記目的の効果が得られる。目安として、1回につき本実施形態の組成物に含まれるヘスペリジンを20mgを摂取することで充分な効果が得られる。摂取量に特に望ましい上限はないが、目安として上限を60mgとすることはコスト面や、後述する摂取の形態の面から適量である。
【0042】
本実施形態の組成物は、1回の組成物の摂取分につきヘスペリジンの含有量が上述の範囲内であれば、組成物の総重量は適宜選択できる。しかし、目安として、組成物の全体質量1000mgに対して、ヘスペリジンを20~60mg含有していることが好ましい。1回の摂取、又は組成物の全体質量1000mgに対して、20~50mg含有していることがより好ましく、22~40mg含有していることがさらに好ましく、30~40mg含有していることが特に好ましい。組成物の全体質量1000mgに対してヘスペリジンを20mgを摂取することで充分な体質の改善の効果が得られる。摂取量に特に望ましい上限はないが、目安として上限を60mgとすることはコスト面や、後述する摂取の形態の面から適量である。
【0043】
本実施形態の組成物は、茶ポリフェノールを1回の摂取分につき75~200mg含有する形態が好ましい。75mg以上の量を含むことで、本実施形態のヘスペリジンを有効に吸収できるようにすることができる。認知機能改善用の目的に供する場合、1回の摂取につき上記含有量を摂取することで上記目的の効果が得られる。摂取量に特に望ましい上限はないが、目安として上限を200mgとすることヘスペリジンの量との関係、コスト面や、後述する摂取の形態の面から適量である。
【0044】
本実施形態の組成物は、1回の組成物の摂取分につき茶ポリフェノールの含有量が上述の範囲内であれば、組成物の総重量は適宜選択できる。しかし、目安として、組成物の全体質量1000mgに対して、茶ポリフェノールを75~200mg含有していることが好ましい。1回の摂取、又は組成物の全体質量1000mgに対して、25~40mg含有していることがさらに好ましい。組成物の全体質量1000mgに対して20~60mgの範囲であれば、充分な効果及びコスト面や後述する摂取の形態の面から適量である。
【0045】
本実施形態の組成物は、ヘスペリジンに対して茶ポリフェノールを質量比で2:1~1:4となるよう含有していることが好ましい。
本実施形態の組成物では、ヘスペリジンと茶ポリフェノールの会合体について、ヘスペリジンに対して茶ポリフェノールが質量比で1~1.6倍前後の量が含まれている。本発明者らの解析では、およそヘスペリジンが1分子に対して茶ポリフェノールが1~2分子の割合で会合体を形成することが多いものの、茶ポリフェノールは幅広い分子量の成分が含まれ、いずれもヘスペリジンと会合する可能性があるため、このように広い範囲となっていると推定される。
これを鑑みると、本実施形態の組成物についてはヘスペリジン:茶ポリフェノールが2:1よりも大きければ、ヘスペリジンが生理活性を発揮することができ、ヘスペリジン:茶ポリフェノールが1:4程度までであれば、茶ポリフェノール過度に含有量が多過ぎずヘスペリジンに生理活性を発揮することができる。
本実施形態の組成物は、ヘスペリジン:茶ポリフェノールを質量比で1.5:1~1:2となるよう含有していることが好ましく、1:1~1:1.25となるよう含有していることがさらに好ましい。
【0046】
(任意成分)
本実施形態の組成物は、例えば、剤形等に応じて、(A)~(B)成分以外の任意成分を含有してもよい。
例えば、固形の組成物においては、造粒又は成形性を高める観点から、デンプン等のバインダーを含有してもよい。
【0047】
(認知機能改善用途)
本実施形態の組成物は、認知機能改善用の組成物とすることができる。ここで認知機能は、生物が外部の情報を収集・知覚、記憶・判断することやそれに関わる機能を広く指すが、具体的には、五感(視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚)、前庭感覚(平衡感覚)、固有受容覚などの感覚による情報を得る機能、およびそれらの情報を処理する機能、また、それに関連する機能を指す。さらに具体的には、注意力、判断力、記憶力といった機能が認知機能として挙げられる。
【0048】
ここでの認知機能は、生物全般の有する認知機能を指し、特にヒト(人間)の持つものを指す。認知機能改善とは、これらの機能を改善することを広く指すが、特に、認知機能が低下した対象が、低下以前に回復することを指す。認知機能が低下する要因としては、各種の疾病のほか、加齢などによって生じることがある。
【0049】
認知機能の低下、改善(回復)の具体的指標としては、例えば、MMSE試験、TMT(Trail Making Test)試験、ベントン視覚記銘試験、または標準言語性対連合学習検査などの結果を上げることができる。
【0050】
ここで、MMSE試験は、認知症のスクリーニング検査として広く用いられている方法の一種で、複数の検査項目について試験を行い、合計点を計上して、満点の場合の点数と比較して評価する方法などがある。検査項目としては、例えば、時間の見当識(5点)、場所の見当識(5点)、単語の即時再生(3点)、計算(5点)、遅延再生(3点)、物品呼称(2点)、文章復唱(1点)、口頭命令(3点)、書字命令(1点)、文章書字(1点)、および図形複写(1点)の11項目から構成される、合計30点満点の検査を使用することができる。本実施形態では、MMSE試験のうち計算の項目についての認知機能に特に改善がみられる効果がある。
【0051】
本実施形態の効果として、MMSE試験における前記合計30点満点の合計点が、本実施形態の認知機能改善用の組成物を一日20~60mg摂取し、摂取開始から12週間後に、平均0.4点以上向上していることが好ましい。
また、MMSE試験における計算の項目についての5点満点の点数が、本実施形態の認知機能改善用の組成物を一日20~60mg摂取し、摂取開始から12週間後に平均0.25点以上向上していることが好ましい。
また、前記計算の項目についての点数が、摂取開始後から12週間後に4.90以上となっていることが好ましく、4.95以上となっていることがさらに好ましい。
【0052】
また、TMT試験としては、ここでは各種のTMT試験を指標に用いることができるが、例えばTrail Making Test 日本版(TMT-J)を用いてもよい。TMT-Jは幅広い注意、ワーキングメモリ(作業記憶)、空間的探索、処理速度、保続、衝動性などを総合的に測定できる検査法である。TMT-J検査は数字を1から26まで順番に結んでいくTMT-J Part A検査と数字と五十音を交互に結んでいくTMT-J Part B検査からなる。いずれも、前記文字を結んでいく秒数を計測し、秒数が短縮したことを改善と評価する。本実施形態では、TMT-J Part A検査とTMT-J Part B検査の両方において、改善がみられる効果がある。
【0053】
本実施形態の効果として、TMT-J Part A検査における所要時間(秒数)の変化量が、15.0以上減少していることが好ましく、20.0以上減少していることがさらに好ましく、25.0以上減少していることが特に好ましい。
また、本実施形態の効果として、TMT-J Part B検査における所要時間(秒数)の変化量が、20.0以上減少していることが好ましく、24.0以上減少していることがさらに好ましい。
【0054】
従来の技術においては、ヘスペリジン体内への吸収性が充分ではなかったが、本実施形態の組成物の投与においては、後述する体内への影響が充分に大きく、認知機能の改善につながると考えられる。
本発明者らは、ヘスペリジンの有する活性について検証し、特にヘスペリジンと茶ポリフェノールを含有し生体に吸収されやすく効果を発揮しやすい組成物について、その生態への効能、効果を検証していった。その結果、ヘスペリジンと茶ポリフェノールを含有する組成物について従来知られていなかった、認知機能の改善の効果を奏することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0055】
本実施形態の組成物は、認知機能改善のほか、冷え性改善用、肩こり改善用、疲労回復用、又は睡眠改善用などの機能を有していてもよい。具体的には、本実施形態の上記組成を含むことで、これらの機能も有している。
【0056】
(食品)
本実施形態の食品は、本実施形態の組成物を含有するものである。
対象となる食品は、特に限定されない。例えば、上記した本実施形態の飲料に増粘多糖類やゼラチン等を加え、これを冷却して得られるゲル状食品等が挙げられる。
また、例えば、加工食品、菓子類等が挙げられる。
【0057】
本実施形態の食品には、飲料も含まれる。本実施形態の飲料は、本実施形態の組成物を含有するものである。例えば、本実施形態の組成物を水やその他の溶媒、例えばエタノール等のアルコール、又はその他の有機溶媒に浸漬し、これを任意の温度で加熱したり、混合揉捻物を任意の温度の水などの溶媒に浸漬して得られる抽出液が挙げられる。即ち、従来公知の茶の飲用方法と同様にして、本実施形態の飲料を得られる。特に、本実施形態の組成物は、生理活性を有する成分の水溶性が高いため、提供される際は乾燥した状態であっても、水により抽出することによって生理活性を有する成分を再び水に溶解させ吸収されやすい状態とすることができる。
あるいは、液体又は固体の本実施形態の組成物を任意の飲料(例えば、清涼飲料水、アルコール飲料)に添加する方法が挙げられる。
【0058】
(薬剤)
本実施形態の薬剤は、本実施形態の組成物を含有するものである。ここで薬剤は医薬品、医薬部外品等を含む。
【0059】
薬剤中の本実施形態の組成物の含有量は、医薬品の剤形等を勘案して適宜決定される。
例えば、薬剤中の本実施形態の組成物の含有量は、食品等に含まれる組成物と同様でもよいが、それより多くともよい。1回の服用で、ヘスペリジンの500~2000mgを摂取できる量であってもよい。
【0060】
(組成物キット)
本実施形態の組成物は、該組成物を含むキットの形態とすることもできる。例えば、1回摂取する分量の組成物を含むものを1包として、28~90包含むキットとすることができる。
本実施形態の組成物は、上述の含有量を1回摂取するのみでも1時間~1日である程度の体質の改善の効果が得られるが、例えば、1日1包で継続して4週間以上、好ましくは8週間以上摂取することで、認知機能改善などの効果が特に顕著に得られる。そのため、特に認知機能改善用の組成物としては、28包(4週間分)以上、好ましくは56包(8週間分)以上を含むキットの形態で提供することができる。上限は特にないが、目安として90包(3か月分)を継続して摂取することで充分な効果が得られるので、継続摂取のために90包までを含むキットとしてもよい。例えば充分な効果が得られる期間として56~70包(8~10週間分)を含むキットを1セットとしてもよい。
また、上述した食品又は薬剤などの形態であるものを、28~90包含むキットとしてもよい。
【0061】
(製造方法)
本実施形態の組成物の製造方法は、剤形等に応じて適宜決定される。
例えば、(A)成分と(B)成分とを水に分散し混合して、液体の本実施形態の組成物を得たり、この液体の本実施形態の組成物を凍結乾燥等により乾燥して、固体の本実施形態の組成物を得る方法が挙げられる。
【0062】
あるいは、例えば、(A)成分を含有する原料(以下、原料aということがある)と、(B)成分を含有する原料(以下、原料bということがある)とから、本実施形態の組成物を得る方法が挙げられる。
【0063】
原料aと原料bとから本実施形態の組成物を得る製造方法の一例について、以下に説明する。
本実施形態の組成物の製造方法は、原料aと原料bとを揉捻して混合揉捻物を得る工程(揉捻物調製工程、揉捻工程)を備える。この混合揉捻物を本実施形態の組成物としてもよいし、混合揉捻物に対してさらなる工程を加えてもよい。例えば、混合揉捻物に対してさらに発酵させる発酵工程を加えてもよい。また、混合揉捻物から成分を抽出する工程(抽出工程)をさらに備え、この抽出工程を経た物(水抽出物、熱水抽出物)を本実施形態の組成物としてもよい。
【0064】
<揉捻物調製工程>
揉捻物調製工程は、原料aと原料bとの混合揉捻物を得る工程である。
まず、原料aを従来知られた技術によってスライスあるいは粉砕する等して小片とする。小片とした原料aを原料bに混合し、揉捻して(揉捻操作)、混合揉捻物を得る。
【0065】
原料aとしては、(A)成分を含有するものであればよく、例えば、ミカン、オレンジ、イヨカン、ポンカン、ブンタン、ヒュウガナツ、ハッサク、ダイダイ、ナツミカン、グレープフルーツ、ユズ、カボス又はカラタチ等、柑橘類の果実が挙げられ、中でも、ミカンの果実が好ましく、未熟ミカンの果実がより好ましい。ヘスペリジンやメトキシフラボン類などの機能性を有する成分は、未熟ミカンに多く含まれる特徴があり、さらに、未熟ミカンは成熟したミカンに比べ従来は有効に利用されていないため好ましい。特に、収穫しない果実を成熟前に落とした摘果ミカンを利用することで、摘果ミカンの有効な利用となるためより好ましい。
原料aは、青果でもよいし、乾燥物でもよく、中でも乾燥物が好ましい。乾燥物であれば、揉捻操作において水分が揉み出されにくくなって、原料a中の(A)成分が流失されにくくなる。
【0066】
原料bは、茶葉であり、茶生葉でもよいし、発酵茶葉でもよいし、これらが予め萎凋されたものでもよい。緑茶生葉は本実施形態でヘスペリジンと相互作用する茶ポリフェノール類を豊富に含むので好ましい。
原料bは、原料aと混合されるに際し、予め萎凋されていることが好ましい。予め萎凋された原料bは、揉捻操作において水分が揉み出されにくくなって、原料b中の(B)成分が流失されにくくなる。
萎凋された原料bの水分量は、例えば、45~65質量%が好ましい。水分量は45~60質量%であってもよい。
【0067】
揉捻方法としては、特に限定されず、例えば、原料bを任意の時間揉捻し、次いで、原料aを加えて揉捻してもよいし、予め原料aと原料bとを仕込み、これを揉捻してもよい。揉捻操作には、例えば製茶機械、又は圧力容器のような機器を用いてもよい。
【0068】
原料b/原料aで表される質量比(以下、b/a比ということがある)は、原料a及び原料bの水分量等を勘案して決定される。例えば、原料aが青果で、原料bが茶生葉であれば、b/a比は、1~10が好ましく、2~8がより好ましく、2~6がさらに好ましく、2~4が特に好ましく、3~4がより特に好ましい。b/a比が上記下限値未満では、得られる本実施形態の組成物の水に対する溶解性が低下するおそれがあり、上記上限値超としても、本実施形態の組成物の水に対する溶解性のさらなる向上を図れないおそれがある。また、例えば、原料bとして茶、原料aとして未熟ミカンを用いる場合、茶の量に対して未熟ミカンを10~50重量%添加してもよい。さらに、茶の量に対して未熟ミカンを21~30重量%添加してもさらによい。
【0069】
揉捻操作における原料の温度は、例えば、20~40℃とされる。揉捻操作の時間は、例えば、10~60分間が好ましく、15~30分間がより好ましく、15~25分間がさらに好ましい。
【0070】
または、揉捻操作として、前記のように20~40℃で製茶機械等を用いて物理的に揉捻する操作にかえて、より高温、および/または高圧を同時に加えることによっても行うことができる。
例えば、前記原料を温度80℃以上、好ましくは120℃以上で、前記と同様の時間、好ましくは10~20分加圧することができる。この操作によって、水溶性が高まるので好ましい。この操作には前記圧力容器、例えばオートクレーブを用いて行うことができる。
【0071】
上記した混合揉捻物を、本実施形態の組成物としてもよい。
また、揉捻物調製工程の後、発酵操作を行う工程(発酵工程)を加えてもよい。特に、原料bが発酵茶でない場合に、組成物に対する発酵工程を加えてもよい。本実施形態の組成物は、揉捻工程によって充分に水溶性が高まり、茶葉に含まれるカテキンの酸化が起こり紅茶ポリフェノールに相当する成分が生成されるので、発酵工程を必ずしも必要としないが、発酵した成分をより含む組成物を得るために、発酵工程を行ってもよい。
発酵操作においては、混合揉捻物を数cmの厚さに堆積させた状態で、温度20~27℃、湿度30~60%RHの発酵室内等の環境下に静置する。
発酵操作の時間は、例えば、0~4時間とされる。なお、揉捻操作の開始と同時に原料a又は原料bの発酵が開始する場合がある。その場合、発酵が早めに行われることを考慮すると、発酵操作の時間は、例えば0~1時間であってもよい。
【0072】
加えて、揉捻物調製工程は、揉捻操作の後(発酵操作を備える場合には、発酵操作の後)に、乾燥操作を備えてもよい。乾燥操作を備えることで、混合揉捻物中の酸化酵素(ポリフェノールオキシダーゼ等)を失活させ、水分量を低減させて、混合揉捻物の品質安定性を高められる。
乾燥操作は、例えば、連続式乾燥機に原料を投入し、これに温度80~120℃の熱風を吹き込み、排気温度が50~60℃となるように操作する。乾燥操作の時間は、特に限定されず、例えば、10~60分間とされる。
乾燥操作後の混合揉捻物の水分量は、例えば、5質量%以下が好ましい。
【0073】
<抽出工程>
本実施形態の組成物に対して、さらに抽出工程を行い、抽出組成物を得てもよい。抽出組成物は、後述するように、抽出する溶媒によって以下、水抽出物、熱水抽出物等と呼ぶ。
抽出工程は、揉捻物調製工程で得られた混合揉捻物から、さらに抽出組成物を抽出する工程である。
抽出工程としては、例えば、混合揉捻物を抽出溶媒に浸漬し、任意の温度で加熱して、抽出溶媒に本実施形態の組成物を抽出して、液体の本実施形態の組成物を得る方法が挙げられる。
【0074】
抽出溶媒としては、例えば、水、有機溶媒(例えば、炭素数1~6の低級アルコール)及びこれらの混合液等が挙げられる。
抽出工程における温度条件は、特に限定されず、例えば、20~100℃が好ましい。目安として、常温又はそれ以下の温度(0~40℃)の水で抽出された抽出組成物を水抽出物と呼び、それ以上の温度(40~100℃)の水(熱水)で抽出された抽出組成物を熱水抽出物と呼ぶ。熱水で抽出した方が、抽出される成分の量が多くなるため好ましい。熱水の温度が高い方が抽出量が多くなるためより好ましいが、60~100℃であれば本願の効果が得られる成分が充分に抽出される。
抽出時間は、特に限定されず、例えば、3~30分間が好ましい。
【0075】
抽出工程の後、液体の本実施形態の組成物を乾燥して、固体の本実施形態の組成物としてもよい。乾燥方法としては、例えば、凍結乾燥法等が挙げられる。
【実施例0076】
以下に、実施例を示して本実施形態を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0077】
(組成物の製造)
緑茶生葉(原料b)30kgを萎凋して、水分量50質量%の原料b15kgを得た。萎凋後の原料b15kgと、スライスした未熟ミカンの青果(原料a)10kgとを混合し、製茶機械を用いて揉捻して、混合揉捻物を得た(揉捻操作)。揉捻時間は20分間であり、揉捻温度は35℃であった。
混合揉捻物に100℃の空気を30分間当てて、乾燥した(乾燥操作)。溶出率は、下記(1)式により求めた。得られた組成物を実施例1とした。
【0078】
溶出率(質量%)=[ミカン単位の溶出量]÷[原料aの乾燥物(100mg)中のヘスペリジン量]×100・・・(1)
[(1)式中、ミカン単位の溶出量は、後述する抽出試験で求められた溶出量(混合揉捻物から溶出した(A)成分の量(mg))を、実施例1では4倍した値である。]
【0079】
(抽出試験)
(熱水抽出)
100℃の水100mLに前記実施例1の組成物100mgを浸漬後、そのまま室温下に置き、水温がほぼ常温になるまで放置することで、熱水抽出液(実施例2)を得た。また、実施例1の組成物にかえて原料aのみ100mgから熱水抽出を行った熱水抽出液(比較例1)も得た。
得られた抽出液を0.45μmメンブランフィルターでろ過し、ろ液中のヘスペリジン量を超高速液体クロマトグラフィーUFLC(HPLC、株式会社島津製作所製)で測定した。1試料につき3回測定し、得られた面積からヘスペリジンの溶出量を算出した。
HPLCの分析条件は、以下の通りである。なお、原料aの乾燥物(100mg)に含まれるヘスペリジン量は20.8mgであった。
【0080】
[分析条件]
カラム・・・Shim-pack C18(3.0×50mm、株式会社島津製作所製)。
移動相A液・・・CH3CN:10mMリン酸=20:80(体積比)。
移動相B液・・・CH3CN:10mMリン酸=30:70(体積比)。
グラジェント構成・・・移動相A液:移動相B液=100:0(体積基準)を7分間で直線的に、移動相A液:移動相B液=0:100(体積基準)とした。
流速:0.6mL/分。
カラム温度:40℃。
検出波長:280nm。
【0081】
試験の結果、実施例2の熱水抽出液の原料中のヘスペリジン量に対する溶出率は45.2±2.7%であった。これに対して、比較例1の熱水抽出液のヘスペリジン溶出率は9.6±1.2%であった。
【0082】
(認知機能改善試験)
長崎県立大学のヒト臨床試験を行う治験ネットワークに登録したヒトから、認知機能に衰えを感じているが、他の健康状態については健常な中高齢者を対象に、実施例1の組成物1.2g(ヘスペリジン含有量36.7mg)を含む分包を被験飲料とし、それを1日1包を水に溶かして、夕食時に12週間摂取させた。摂取開始日(摂取開始0週)、摂取開始6週後、摂取開始12週後に下記の検査を行った。
【0083】
ランダム化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験で実施した。本試験に先立ち,軽度な認知障害をスクリーニングする検査法であるJapanese version of Montreal Cognitive Assessment(MoCA-J)を一部改変してスクリーニング試験を実施した。その後,年齢、MoCA-Jスコアを考慮して, 被験者を試験食品群22名(ヘスペリジン含有量36.7mg)とプラセボ食品群21名(ヘスペリジン含有量0mg)にランダムに割り付けた。
測定値は平均値±標準誤差で示した。異なる食品間の比較は対応のないt検定あるいはMann-WhitneyのU検定,試験開始時との比較は対応のあるt検定あるいはWilcoxonの符号付順位和検定を行った。いずれも両側検定で行い,統計的有意水準はp < 0.05とした。
【0084】
(1)Mini-Mental State Examination(MMSE)試験
前述したように、時間の見当識(5点)、場所の見当識(5点)、単語の即時再生(3点)、計算(5点)、遅延再生(3点)、物品呼称(2点)、文章復唱(1点)、口頭命令(3点)、書字命令(1点)、文章書字(1点)、図形複写(1点)の計11項目から構成される、合計30点満点の検査を行った。
【0085】
表1に、実施例1の組成物による認知機能改善の指標となるMMSE試験の結果を示す。
ここで、平均値±標準誤差 *P < 0.05(プラセボ食品と比較して有意差あり)である。
摂取開始12週後、特に計算項目に関して試験食品群でプラセボ食品群より有意に高値を示した。ここで、計算項目とは、100から順番に7を引き算し、これを4回繰り返すという項目である。
すなわち、実施例1の組成物1.2g(ヘスペリジン含有量36.7mg)による1包を1日1包、12週間飲用することで、認知機能が改善されることが示された。
【0086】
【0087】
(2)Trail Making Test 日本版(TMT-J)試験
前述したように、TMT-J検査は数字を1から26まで順番に結んでいくTMT-J Part A検査と数字と五十音を交互に結んでいくTMT-J Part B検査を行った。TMT-J Part A検査では直径約1cmの円が26個ランダムに書かれた横A4用紙を用いた。その円に「1~26」の数字のいずれかが書かれており,鉛筆で番号順に線でつなぎ、その所要時間秒数を計測した。TMT-J Part B検査では直径約1 cmの円が25個ランダムに書かれた横A4用紙を用いた。円の中に「1~13」,平仮名「あ~し」のいずれかが書かれており「1→あ→2→い→3→う」と数字―平仮名の順に線でつなぎ、その所要時間秒数を計測した。
【0088】
表2は実施例1の組成物による認知機能改善の指標となるTMT-J Part Aの所要時間と変化量の結果である。
ここで、平均値±標準誤差 *P < 0.05(プラセボ食品と比較して有意差あり) #p< 0.05(摂取開始日と比較して有意差あり)とした。
所要時間は摂取開始日から摂取開始12週後にかけて試験食品群およびプラセボ食品群とも経時的に短縮し,摂取開始12週後で両群とも開始日より有意に短縮することが観察された。また,摂取開始12週後において,試験食品群がプラセボ食品群に比べ有意に低値を示した。所要時間を変化量で算出したところ,摂取開始12週後で試験食品群の値はプラセボ食品群より有意に低かった。
【0089】
【0090】
表3は、実施例1の組成物による認知機能改善の指標となるTMT-J Part Bの所要時間と変化量の結果である。
ここで、平均値±標準誤差 #p< 0.05(摂取開始日と比較して有意差あり)とした。
所要時間はプラセボ食品群と試験食品群ともに経時的に短縮し,開始12週後では開始日より有意に短くなった。摂取開始12週後の所要時間は試験食品群でプラセボ食品群に比べ短い傾向にあった(p = 0.10)。所要時間の変化量に群間で有意な差は観察されなかった。
特に、実施例1の組成物1.2g(ヘスペリジン含有量36.7mg)による1包を1日1包、12週間飲用することで、認知機能が改善されることが示された。
【0091】
【0092】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。