(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143713
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】投擲制動装置、及びこれを備えた魚釣用リール
(51)【国際特許分類】
A01K 89/0155 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
A01K89/0155
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056515
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002495
【氏名又は名称】グローブライド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140822
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 光広
(72)【発明者】
【氏名】安田 悠
【テーマコード(参考)】
2B108
【Fターム(参考)】
2B108HE38
(57)【要約】 (修正有)
【課題】釣糸の種類を選ばずに糸フケの発生を確実に検出することで、バックラッシュを正確に抑制することができる投擲制動装置及びこれを備えた魚釣用リールを提供する。
【解決手段】投擲制動装置は、スプールのバックラッシュを抑制する投擲制動装置であって、前記スプールへの制動力を付与する制動部と、糸フケの発生を検出する糸フケ検出部と、該糸フケ検出部の検出値に応じて前記制動部の制動力を制御する制御部と、を備え、該糸フケ検出部は、糸フケ発生を検出するため、光を投光する投光部と、該投光部からの光を受光する受光部とにより構成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプールのバックラッシュを抑制する投擲制動装置であって、
前記スプールへの制動力を付与する制動部と、
糸フケの発生を検出する糸フケ検出部と、
該糸フケ検出部の検出値に応じて前記制動部の制動力を制御する制御部と、を備え、
該糸フケ検出部は、糸フケ発生を検出するため、光を投光する投光部と、該投光部からの光を受光する受光部とにより構成されることを特徴とする投擲制動装置。
【請求項2】
前記投光部は、拡散光を発する発光部と、該発光部から放出された光を平行光へと変換するコリメータ部(平行光変換部)と、を有する、請求項1に記載の投擲制動装置。
【請求項3】
前記投光部は、前記スプールの外側に配置され、該スプールの回転軸と概略同軸の光軸を有する、請求項1に記載の投擲制動装置。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項に記載の投擲制動装置を有する魚釣用リール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、投擲(キャスト)制動装置、及びこれを備えた魚釣用リールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、超音波式の距離センサを用いて、バックラッシュの発生を検出し、その検出結果に応じて制動装置を作動させるキャスト制動装置が知られている。このような制動装置では、バックラッシュが発生した場合に初めて制動装置が作動するので、制動装置が投擲(キャスティング)時の仕掛けの飛距離に悪影響を与えることがないという利点があった。
【0003】
また、特許文献1では、スプールに巻かれた糸の放出速度と、スプールの回転速度を検出し、この差を比較することで、バックラッシュ発生の有無を検出する制動装置について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の制動装置において、糸フケの検出に超音波を用いているため、釣糸が柔らかい素材の場合、超音波が反射しにくく、検出自体が困難となるだけでなく、超音波を用いているため、温度による音速変化の影響を受け易い等の理由により、糸フケの検出の高精度化、小型化、そして低コスト化を両立させることが難しいという問題があった。
【0006】
また、特許文献1における制動装置では、スプールに巻かれた糸の放出速度を検出するために、釣糸に着色部と透過部を所定長毎に設け、また、所定長毎に磁性体を設ける必要があるが、釣糸にこのような被検出部(着色部や磁性体)を設けること自体がそもそも困難であり、一般的な釣糸を用いると事実上バックラッシュの発生を検出することができないという問題があった。
【0007】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、釣糸の種類を選ばずに糸フケの発生を確実に検出することで、バックラッシュを正確に抑制することができる投擲制動装置及びこれを備えた魚釣用リールを提供することにある。本発明のこれら以外の目的は、本明細書全体を参照することにより明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態に係る投擲制動装置は、スプールのバックラッシュを抑制する投擲制動装置であって、前記スプールへの制動力を付与する制動部と、糸フケの発生を検出する糸フケ検出部と、該糸フケ検出部の検出値に応じて前記制動部の制動力を制御する制御部と、を備え、該糸フケ検出部は、糸フケ発生を検出するため、光を投光する投光部と、該投光部からの光を受光する受光部とにより構成される。
【0009】
本発明の一実施形態に係る投擲制動装置において、前記投光部は、拡散光を発する発光部と、該発光部から放出された光を平行光へと変換するコリメータ部(平行光変換部)と、を有するように構成される。
【0010】
本発明の一実施形態に係る投擲制動装置において、前記投光部は、前記スプールの外側に配置され、該スプールの回転軸と概略同軸の光軸を有するように構成される。
【0011】
本発明の一実施形態に係る魚釣用リールは、上記いずれかの投擲制動装置を備えるように構成される。
【発明の効果】
【0012】
上記実施形態によれば、釣糸の種類を選ばずに糸フケの発生を確実に検出することで、バックラッシュを正確に抑制することができる投擲制動装置及びこれを備えた魚釣用リールを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本魚釣用リールを含む一般的なリールを用いて、ルアー等の漁具を投擲する手順の一例について説明する。
【
図2】(A)本発明の一実施形態に係る魚釣用リールのスプールに巻回された釣糸の状態が正常な場合におけるスプールの断面図を示し、(B)本発明の一実施形態に係る魚釣用リールのスプールに巻回された釣糸に糸フケが発生した状態にある場合のスプール3の断面図を示す。
【
図3】本発明の一実施形態に係る魚釣用リール1の構成を説明するための概略図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る魚釣用リール1における投擲制動装置の制動装置7を説明するための図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る魚釣用リール1における投擲制動装置の制御部8の制御方法を説明するための図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る魚釣用リール1における投擲制動装置の糸フケ検出部の配置を説明するための図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る魚釣用リール1において、コリメータ部を有さない状態における釣糸が受光部に作る影を説明するためのものであり、(A)釣糸が受光部の遠くにある状態、(B)釣糸が受光部の近くにある状態を示すものである。
【
図8】本発明の一実施形態に係る魚釣用リール1において、コリメータ部を有する状態における釣糸が受光部に作る影を説明するためのものであり、(A)釣糸が受光部の遠くにある状態、(B)釣糸が受光部の近くにある状態を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る糸長計測装置及びこれを備える魚釣用リールの実施形態について、添付図面を参照しながら具体的に説明する。複数の図面において共通する構成要素には当該複数の図面を通じて同一の参照符号が付されている。各図面は、説明の便宜上、必ずしも正確な縮尺で記載されているとは限らない点に留意されたい。
【0015】
まず、本魚釣用リールを含む一般的なリールを用いて、ルアー等の漁具を投擲する手順の一例について、
図1を参照しながら説明する。
図1(a)に示すように、ルアー20を釣竿10の竿先から所定の長さに調整し、クラッチをオフにし、魚釣用リール1のスプール3をスプールフリー状態にする。このとき、釣糸がルアー10の自重等により出ていくことの無いよう、スプールを親指で押さえておく。
【0016】
次に、
図1(b)~(d)に示すように、釣竿10を振ることで、ルアー20に初速を与える。そして、
図1(e)に示すように、ルアー20の速度及び放出方向が適正になったタイミングで、親指をスプール3から離すと、ルアー20を投擲することができる。
【0017】
さらに、投擲後、
図1(g)以降、ルアー20は釣糸からの張力や、空気抵抗を受けることで減速を始める。他方、スプール3は、釣糸からの張力によって回転を始める。釣糸の放出速度とルアー20の飛行速度が一致するとスプール3は最高回転数となり、釣り糸は張力を失う。ルアー20はその後も空気抵抗等により失速を続ける。この際、スプール3が慣性により高速回転を続けると、釣糸の放出速度がルアー20の飛行速度を上回る。これにより、釣糸は余分に放出され、魚釣用リール1内で糸がらみが生じる。これを避けるために、スプール3には制動装置により所定の制動力を掛けるようにすることができる。
【0018】
制動装置による制動力が大きすぎると、ルアー20を投擲できる距離が短くなってしまう。他方で、制動装置による制動力が小さすぎると、糸がらみが発生し、巻取りや放出が正常に行えなくなってしまう。制動力の適正値は、ルアー20の質量や空気抵抗によって変化し得る。さらに、竿の長さ、投擲方法や風などの自然環境等、様々な影響によって変化する。
【0019】
次に、
図2を参照して、魚釣用リール1のスプール3に巻回された釣糸2の状態について説明する。
図2は、魚釣り用リール1のスプール3の断面図を示すものであり、(A)魚釣用リール1のスプール3に巻回された釣糸2の状態が正常な状態にある場合、(B)魚釣用リール1のスプール3に巻回された釣糸2に糸フケが発生した状態にある場合をそれぞれ示す。
【0020】
釣糸2に適切な張力が掛かった状態のままスプール3を回転(巻取り、放出)させるようにすると、
図2(A)に示すように、スプール3は釣糸2に糸フケを発生させることなく、釣糸2の放出及び巻取りを正常に行うことができる。他方で、上述のようにスプール3からの釣糸2の放出速度が、ルアー等の投擲物の速度を越えた場合や、釣糸2に掛かる張力が無い状態でスプール3を巻取り方向に回転させた場合、
図2(B)に示すように、糸フケ21を発生させることがある。この糸フケ21の量が著しい場合、釣糸2の一部が本来の回転方向とは逆方向に巻取られること等により、大きな糸絡みを生じることがあり、釣糸2の放出及び巻取りを正常に行うことができなくなってしまう。また、糸フケ21がリール本体に接触することで、意図しない摺動摩擦が発生し、ルアーを投擲できる距離(飛距離)が短くなってしまう。
【0021】
次に、
図3を参照して、本発明の一実施形態に係る魚釣用リール1の構成について説明する。本発明の一実施形態に係る魚釣用リール1は、釣糸2を巻取り可能なスプール3を有する。スプール3は、フレーム(リール本体)4に対して回転可能に軸支される。本発明の一実施形態に係る魚釣用リール1は、ベイトリール、両軸受けリール、片軸受けリール等と呼ばれるものであり、スプール3の回転軸は釣竿の延伸方向と概略直交する。
【0022】
ユーザは、ハンドル等の操作部(操作手段)5を操作することによりスプール3を巻取り方向に回転させることができる。この際、スプール3を駆動するギヤやハンドル等にワンウェイクラッチやラチェット機構等の回転方向制限手段を機能させて、釣糸2を放出方向に回転不能とすることで、釣糸2の意図しない放出を回避することが可能となる。また、魚釣用リール1には、クラッチ装置やドラグ装置等の伝達切替え手段を設け、スプール3を放出方向に回転可能とすることができる。この状態でスプール3が外力を受けると、釣糸2は放出されることとなる。
【0023】
糸フケ検出部(糸フケ検出手段)6は、スプール3に巻回された釣糸2が、正常な位置にあるか、又は異常な位置にあるかを判断する。ここで、正常な位置とは、既述の
図2(A)に示すように、釣糸2に糸フケが発生することなく、スプール2に整列して巻回されている状態であり、異常な位置とは、
図2(B)に示すように、釣糸2の一部が糸フケを形成している状態である。糸フケ検出部6の詳細については後述する。
【0024】
また、魚釣用リール1は、所定値以上のトルクが働いた際にスプール3を空転させることで釣糸の破断を防止するドラグ手段や、スプールの回転に応じて釣糸を案内する案内部の位置を往復運動させることで、釣糸を均等に巻取るオシレータ装置を設けるようにしてもよい。
【0025】
次に、
図4を参照して、本発明の一実施形態に係る投擲制動装置(制動装置)7又はこれを備えた魚釣用リール1について説明する。図示のように、本発明の一実施形態に係る魚釣用リール1のスプール3には、制動装置7が設けられ、該制動装置7により該スプール3に制動力を付与することができる。制動装置7として、本発明の一実施形態に係る魚釣用リール1では、渦電流によって制動トルクをスプールに付与する方式を用いている。スプール3には、アルミニウムや銅などの非磁性導体からなる環状回転体状の被制動部(インダクトロータ)71が取付けられ、該インダクトロータ71の外周側には、円筒形状の回転磁石72が配置され、該インダクトロータ71の内周側には、円筒状の固定磁石73が配置される。
【0026】
固定磁石72は、外周部がN等分されN極S極交互に着磁される。また、回転磁石73は、内周部がN等分されN極S極交互に着磁される。固定磁石73と回転磁石72とによって作られた磁場は、その間に位置するインダクトロータ71を貫通する。したがって、スプール3の回転時には、インダクトロータ71に渦電流が発生し、回転速度に応じた制動トルクが働く。制動トルクの大きさは、磁場の強さおよび回転速度に比例する。これにより、制動装置の制動力発生手段を実現している。制御部(制御手段)8により、モータや減速機等を介して回転磁石72と固定磁石73との位置関係を調節することで、スプール2へ任意の制動力を付与することができる。
【0027】
なお、本発明の一実施形態に係る投擲制動装置(制動装置)7又はこれを備えた魚釣用リール1における制動力の発生方式は、上述の渦電流によるものに限定しない。後述の制御部8によってスプール2への制動力を調整できるものであれば、従来公知の別の方式を用いてもよい。従来公知の制動装置には、スプール2に設けた制動部への接触力を調整する摩擦式の制動装置や、スプール2に設けた磁石と、リール本体に設けたコイルの間に発生する電磁力を利用する発電式制動装置等がある。制御部8は、糸フケ検出部6の出力信号に応じて、制動装置7がスプール3へ与える制動力(制動トルク)を調整する。その詳細については後述する。
【0028】
次に、本発明の一実施形態に係る投擲制動装置(制動装置)7又はこれを備えた魚釣用リール1における糸フケ検出部6の詳細について、再度
図3を用いて説明する。
図2では、本発明の一実施形態に係る魚釣用リール1のスプール3の回転軸31及び糸フケ検出部6の光軸63を通る断面で破断した断面図である。糸フケ検出部6は、投光部61と受光部62とによって構成される。投光部61は、特定の波長の光を発光するLEDや小型白熱電球などの発光部と、該発光部の発する光を平行光に変換するコリメータ部(コリメータ手段)又は平行光変換部(平行光変換手段)とから構成される。LED等の発光部から発した光は、あらゆる方向に拡散する性質がある。コリメータ部(平行光変換部)は、この拡散光を反射や屈折等で平行光に変換する光学要素である。コリメータ部は、従来公知のものが使用可能であり、LED光源を焦点とする球面レンズや反射鏡、ボールレンズ、ハーフボールレンズ等の光学素子がある。これらの光学素子は、投光部61の筐体を兼ねることで、小型化を実現し、位置決めを容易にすることができる。また、LED等の発光部から発する光の波長は、赤外光、可視光、紫外光等、任意のものを用いることができる。
【0029】
また、受光部62は、投光部61の光軸63と概略同軸の光軸になるようにして投光部61と対向して配置される。投光部61の発する波長特性に合わせ、投光部61の光を高効率に受光できるようにしている。それ以外の波長の光を遮蔽するようなフィルターを配置しておくと、環境光の影響を受けにくくなり、好適である。
【0030】
受光部62は、照射された光の量に応じた電気信号を発する公知の素子であり、フォトトランジスタ、フォトダイオード等がある。本実施例では、所定の電気回路等により、照射された光の量に比例した電圧を出力するように構成される。必要に応じて、レンズ等の光学要素を設けることで、集光力を高めてもよい。また、投光部61及び受光部62は、概略円筒状の遮光筒64内に囲まれて配置することで、外乱光の影響を受けにくくしている。遮光筒64は、スプール3と近接する箇所に開口部が設けられ、釣糸2に糸フケ21が発生すると遮光筒64内に入るように構成されている。このように、遮光筒64の両端に投光部61と受光部62とを配置することで、双方の光軸を精度よく一致させることができるという技術的効果が得られる。また、電気部品である投光部61と受光部62とを同一の部品に固定するため、遮光筒64上に配線を設けることができ、給電等の電気的接続が行い易いという技術的効果が得られる。
【0031】
投光部61及び受光部62は、光軸63と回転軸31とが概略平行になるように、スプール3の外周部に配置される。すなわち、釣糸2が正常な位置にあるときは投光部61の光が釣糸2により遮蔽されず、釣糸2が異常な位置にあるときは投光部61の光を釣糸2が遮蔽するような位置関係である。
【0032】
ここで、投光部61及び受光部62の配置について、
図6を参照してさらに説明する。
図6は、本発明の一実施形態に係る魚釣用リール1において、スプール回転軸と直交し、釣竿の中心軸を通る面で破断した断面図であり、紙面の左右方向の左方向が釣竿の竿先方向(糸の放出方向)である。上述のように、光軸63は、正常状態では釣糸の干渉を避け、異常状態では糸フケを貫通する位置に配置する必要がある。そのため、光軸63は、スプール3の周囲に配置する必要があり、
図6における円C内に配置するとよい。この領域の内、スプールの中心軸より上側かつ前側の領域(
図6のA1部分の領域)は、釣糸2が放出時に通過する糸道であり、ここに光軸63を配置することは難しい。魚釣用リールの後側の領域(
図6のA2部分の領域)は、ユーザのサミング操作やクラッチ操作のために開けておく必要があり、
図6のA3部分の領域は、クラッチレバーの可動範囲を確保するために開けておく必要がある。従って、光軸63を配置するのに好適な場所は、スプールの外周部、かつスプール中心軸と釣竿との間となる、
図6のA4部分の領域(糸道の下)及びA5部分の領域(クラッチの下)となる。この場所に光軸63を配置することで、魚釣用リールの通常操作を妨げることなく、糸フケを検出することができる。しかも、リールの他の部品によって外乱光を遮光しやすい構成が可能となる。また、これらの領域に糸フケ検出部6が配置されることで、ゴミ等が光軸63上に侵入しにくいという技術的効果が得られる。
【0033】
糸フケ21が投光部61の光を遮蔽すると、受光部62の受光量が減少する。したがって、受光部62からの電気信号により、釣糸2が正常な状態か、異常な状態かを判別することができる。また、既述のように、投光部61からの光は、平行光になるようにしているため、糸フケ21が形成する影が光の拡散や光の回り込みの影響を受けにくく、受光部62に明瞭に投影される。これにより、釣糸2として線径が細いものを使用しても、受光部62により釣糸2の状態を正確に検知することができる。
【0034】
なお、投光部61から投光される光は、平行光に近い方が望ましいが、理想的な平行光を作るのは困難である。投光部61のコストや大きさを勘案し、糸フケ発生時に受光部62によって検出できる程度の平行光であればよい。これを実現するため、投光部61の指向角は25°以下となるのが望ましく、本実施形態では、例えば、投光部61の指向角が3°となるものを使用している。
【0035】
次に、制御部8の制御方法について、
図5を用いて説明する。まず、糸フケが検出されているかの確認を行う(ステップS1)。ユーザがルアー等の投擲物を投擲した際に、投擲物が順調に投擲された場合は、糸フケ21の発生がない。この時は受光部62には最大の光量が入射し、糸フケ検出部6の発する電圧は最大となる。このとき、制御部8によって、スプール3に第1の制動力設定(例えば、制動力が20%でブレーキ設定1)を行う(ステップS2)。投擲中、釣糸2に糸フケ21が発生すると、受光部62で発生する電圧は下がる。このとき、制御部8により、スプール3に第1の制動力よりも高い第2の制動力設定(例えば、制動力80%でブレーキ設定2)を行う(ステップS3)。このとき、糸フケ検出部6のノイズの影響を低減するために、所定時間(例えば、100msec)以上、第2の制動力設定の状態を続けるとよい(ステップS4)。第2の制動力設定とした状態で、さらに投擲物の慣性移動により釣糸2が引き出されると、やがてスプール3に発生した糸フケ21は解消し得ることとなる。本実施形態では、制御部8は常に糸フケ検出部6の状態を監視しているため、糸フケの解消を検出することができる。糸フケの解消を検出したら、再度第1の制動力設定に戻すとよい。これにより、糸フケ21が発生していないときに余計な制動力を発生させる必要がなく、ルアー等の投擲物の飛距離の拡大を実現できる。
【0036】
本実施形態においては、説明の簡略化のためにブレーキ設定1及びブレーキ設定2はそれぞれ制動力を固定値としたが、制御部8での制御方法は、上記手段にとどまらない。例えば、本実施形態の糸フケ検出部6では、糸フケ量に応じた信号をアナログ信号として得ることができる。すなわち、糸フケ量が多い場合は、釣糸2は投光部61の放つ光をより多く遮光し、その結果受光部62の発する電圧は低くなる。そのようなときは、電圧の減少に応じて制動力を上げるようにするとよい。これにより、糸フケ21がより多く発生している場合には、制動力をより大きく、糸フケ21が少しだけ発生しているときは制動力を小さくすることができ、糸フケ解消をより短時間で行うことができる。
【0037】
また、クラッチの接続可否を検出するクラッチ状態検出手段を設け、その情報を制御手段に伝えることで、投擲可能状態か否かを判断し、投擲可能な状態にある場合のみ、上記制御を実行するようにしてもよい。これにより、投擲中以外に糸フケを検出しても、不必要な動力の調整を行わなくなるため、省電力化等が実現可能となる。
【0038】
また、本実施形態では、第1の制動力設定として、制動力が20%で固定される場合を例に説明したが、このような例に限定されない。例えば、スプールの回転を検出するスプール回転検出部を設け、スプールの回転速度や、回転加速度に応じて、制動力を適宜変更するような設定を行うようにしてもよい。これにより、ルアー等の投擲物の重量や空気抵抗、使用する竿の長さや硬さ、風向きなどの気象条件等によって、より適切な制動力設定にできる場合が考えられる。いずれの場合においても、糸フケを検出した場合は、糸フケを検出しない場合に比べて制動力を上げる第2の制動力設定を用いるという点で共通している。
【0039】
本発明の一実施形態に係る投擲制動装置(制動装置)7又はこれを備えた魚釣用リール1における糸フケ検出部6では、光学的検出手段によって糸フケの検出を行っている。すなわち、概略平行光となった光を投光部61によって糸フケ21を検出可能なように投光を行う、糸フケ21による遮光の有無を受光部62により検出している。したがって、超音波により検出する場合とは異なり、検出信号が釣糸の硬さに依存することがなく、また、気温変化による音速の変化の影響を受けることがない。投光部61から発する光を平行光に近付けることで、釣糸2の線径を細くした場合でも、光の回り込みが少なく、受光部62上に形成される影の陰影をより明瞭化することができる。これにより、糸フケ21が僅かに発生した場合でも、安定的かつ迅速に糸フケ21を検出することができる。
【0040】
また、釣糸2にナイロンやフロロカーボン等の光透過性のある素材を用いた場合でも、投光部61から発した光は、釣糸2を構成する素材と空気の屈折率の違いから、釣糸2の表面で屈折したり反射されるため、当該光が受光部62にそのまま到達することはなく、受光部62から得られる信号に変化が出る。すなわち、本発明の一実施形態に係る投擲制動装置(制動装置)7又はこれを備えた魚釣用リール1における糸フケ検出部6では、釣糸2に用いる素材を選ばずに、糸フケ21の発生を検出することができる。
【0041】
次に、平行光変換部(コリメータ部)65を有することの技術的効果について、
図7、8を用いて説明する。
図7は、本発明の一実施形態に係る魚釣用リール1において、平行光変換部(コリメータ部)65を有さない時の状態であり、
図8は、本発明の一実施形態に係る魚釣用リール1において、平行光変換部を有する時の状態である。
図7は、コリメータ部を有さない状態における釣糸が受光部に作る影を説明するためのものであり、(A)釣糸が受光部の遠くにある状態、(B)釣糸が受光部の近くにある状態を示すものである。また、
図8は、コリメータ部を有する状態における釣糸が受光部に作る影を説明するためのものであり、(A)釣糸が受光部の遠くにある状態、(B)釣糸が受光部の近くにある状態を示すものである。
【0042】
ここで、LED等の光源は、有限面積の発光部から拡散光を発する面光源であり、光源の面積は釣糸2の断面積に対して十分大きい。本明細書においては、説明の簡略化のため、光源面上の任意の点から照射角(垂線からの角度)θ°の円錐体内に均一の光が投光されると仮定することとする。まず、
図7(B)に示すように、釣糸2が受光部62に近い場所にある場合、釣糸2が形成する影として半影部及び本影部が形成される。本影部は光源面全てからの光を遮断している状態であり、光量が十分に落ちるため、受光部によって光量変化を検知し易いやすい。他方、
図7(A)に示すように、釣糸2が受光部62から遠い場所にある場合、釣糸2が形成する影からは本影部が消え、半影部及び擬本影部となる。半影部は光源面の一部の光を遮断しているものの、他の場所からの光が入射する状態であり、本影部に比べると光量が大きい。また、擬本影部は半影部よりもさらに明るい。このため、この状態では、釣糸の位置によって、受光部62による光量変化を検知しにくくなる。
【0043】
また、
図8では、光源と釣糸2の間に平行光変換部(コリメータ部)65を配置している。これにより、釣糸2には、平行光が投光される。理想的な平行光では、受光部62上に形成される影は、
図8(A)に示すように、釣糸2が受光部の遠くにある場合でも、
図8(B)のように近くにある場合でも、釣糸2の投影形状の本影ができる。この影は釣糸2が無い状態に比べて十分に光量が小さくなるため、受光部62による光量変化を検知し易い。このように、本発明の一実施形態に係る魚釣用リール1では、光源と釣糸2の間に平行光変換部(コリメータ部)65を配置することにより、釣糸2の場所に依存せずに受光面上に影を形成することができ、糸フケの検知を確実に行うことが可能となる。
【0044】
実際の平行光変換部(コリメータ部)65では、理想的な平行光を形成することは難しいが、平行光変換部(コリメータ部)65からの指向角が小さい程、受光面上の影をより明瞭に形成することができる。以下に示すように、平行光変換部の指向角として必要な値は、魚釣用リール内に組み込み、釣糸2を検出できるような距離で試算を行うと、釣糸2の直径を0.4mm、受光面までの距離を1.0mmとすると、本影を形成できる条件は、以下の式(1)で表すことができる。
2×Atan(0.4/1.0/2)≦23°式(1)
以上のことから、指向角θはこの角度以下となるようにすることが望ましい。
【0045】
本発明の一実施形態に係る投擲制動装置(制動装置)7又はこれを備えた魚釣用リール1における糸フケ検出部6によれば、糸フケ検出部6の検出結果に応じて、投擲制動装置(制動装置)7による制動力を制御している。したがって、糸フケが発生しない場合はスプール3の制動力を小さくし、糸フケが発生した場合はスプール3への制動力を大きくすることができる。これにより、バックラッシュの抑制と、ルアー等の投擲物の飛距離の拡大とを両立させることが可能となる。
【0046】
ルアー等の投擲物の重量が軽くなると、投擲中に釣糸2に掛かる張力は相対的に小さくなる。したがって、加速度や張力を検出して制動力を決定する方式では、投擲物の重量が軽くなる程、制御に必要な検出性能は高いものが求められる。しかしながら、加速度や張力の検出能力には限界があるため、バックラッシュを防止できる能力は投擲物の重量に依存することとなる。
【0047】
これに対して、本発明の一実施形態に係る投擲制動装置(制動装置)7又はこれを備えた魚釣用リール1によれば、張力の大きさではなく糸フケの発生の有無により制動力を決定するため、投擲物の重量に依存せずにバックラッシュの発生を抑制することができる。すなわち、ルアー等の投擲物の重量が軽いときでも、バックラッシュの抑制と、ルアー等の投擲物の飛距離の拡大とを両立させることが可能となる。
【0048】
また、投擲後のリトリーブ(回収)の際に一時的に張力が減少した場合等、スプールに巻回された釣糸に糸フケが発生することがある。このような糸フケも、投擲時の釣糸放出の際のバックラッシュ発生の原因となり得るところ、投擲時の張力を検出することのみではこのような現象を検出することは難しい。これに対して、本発明の一実施形態に係る投擲制動装置(制動装置)7又はこれを備えた魚釣用リール1では、投擲時の制動装置7による制動力を、釣糸に掛かる張力の大きさではなく糸フケ発生の有無により決定しているため、投擲前から糸フケを含むスプールを用いて投擲した場合にあっても、より正確にバックラッシュの抑制をすることが可能となる。
【0049】
本明細書で説明された各構成要素の寸法、材料、及び配置は、実施形態中で明示的に説明されたものに限定されず、この各構成要素は、本発明の範囲に含まれうる任意の寸法、材料、及び配置を有するように変形することができる。また、本明細書において明示的に説明していない構成要素を、説明した実施形態に付加することもできるし、各実施形態において説明した構成要素の一部を省略することもできる。
【符号の説明】
【0050】
1 魚釣用リール
2 釣糸
3 スプール
4 フレーム(リール本体)
5 操作部(操作手段)
6 糸フケ検出部(糸フケ検出手段)
7 投擲制動装置(制動装置)
8 制御部(制御手段)
10 釣竿
20 ルアー
21 糸フケ