(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143717
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】燃料噴射装置
(51)【国際特許分類】
F02M 47/02 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
F02M47/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056522
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】316015888
【氏名又は名称】三菱重工エンジン&ターボチャージャ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小川 久雄
【テーマコード(参考)】
3G066
【Fターム(参考)】
3G066AA07
3G066AC09
3G066BA51
3G066CA15U
3G066CE22
(57)【要約】
【課題】圧力制御室からリークする燃料のリーク量を低減して噴射効率を向上させる。
【解決手段】本開示に係る燃料噴射装置の一態様は、先端部に燃料噴射孔が形成され、内部に燃料通路が形成されたケーシングと、電磁式アクチュエータの作動によってケーシングの軸線方向に沿って移動可能なように配置され、燃料噴射孔を開閉可能なニードル弁と、燃料通路と連通する圧力制御室に対面する駆動ピストンと、を含むスプールと、電磁式アクチュエータの作動によって開閉される出口ポートおよびピストン面に対向する対向面に形成された開口を有する減圧流路であって、圧力制御室に連通する減圧流路が内部に形成された減圧流路形成部材と、を備え、ピストン面は、開口側へ突出する凸部を有すると共に、減圧流路形成部材は、開口からピストン面から離間する方向へ向かうにつれて縮径するように傾斜した傾斜面を有し、凸部は、ピストン面が他端側へ移動したとき、傾斜面に線接触して開口を閉鎖可能な線接触部を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁式アクチュエータによって燃料を噴射可能に構成された燃料噴射装置であって、
先端部に燃料噴射孔が形成されるとともに、前記燃料噴射孔と燃料入口ポートとを連通する燃料通路が内部に形成されたケーシングと、
前記ケーシングの内部において、前記電磁式アクチュエータの作動によって前記ケーシングの軸線方向に沿って移動可能なように配置されたスプールであって、
前記スプールの一端側において、前記燃料噴射孔を開閉可能なように配置されたニードル弁と、
前記スプールの他端側において、前記燃料通路と連通する圧力制御室に対面するように配置されたピストン面を有する駆動ピストンと、を含むスプールと、
前記電磁式アクチュエータの作動によって開閉される出口ポートおよび前記ピストン面に対向する対向面に形成された開口を有する減圧流路であって、前記圧力制御室に連通する減圧流路が内部に形成された減圧流路形成部材と、
を備え、
前記ピストン面は、前記開口側へ突出する凸部を有すると共に、前記減圧流路形成部材は、前記開口から前記ピストン面から離間する方向へ向かうにつれて縮径するように傾斜した傾斜面を有し、
前記凸部は、前記ピストン面が前記他端側へ移動したとき、前記傾斜面に線接触して前記開口を閉鎖可能な線接触部を有する、
燃料噴射装置。
【請求項2】
前記ケーシングの中心軸線を含む断面において、前記凸部は、前記ピストン面側に形成された第1傾斜面と、前記第1傾斜面よりも先端側に形成された第2傾斜面と、を含み、
前記中心軸線に対する前記傾斜面の鋭角側の角度をθとし、前記中心軸線に対する前記第1傾斜面の鋭角側の角度をθ1とし、前記中心軸線に対する前記第2傾斜面の鋭角側の角度をθ2としたとき、次の(1)式の関係を満たし、
前記線接触部は前記第1傾斜面および前記第2傾斜面の境界に形成される、
請求項1に記載の燃料噴射装置。
θ1<θ<θ2 (1)
【請求項3】
前記凸部は、前記ケーシングの中心軸線を含む断面において、
前記ピストン面に形成された台形状の第1突出部と、
前記第1突出部の頂面に形成された円弧状の第2突出部であって、前記減圧流路の前記開口側に向かって縮径するように突出した第2突出部と、
を含み、
前記線接触部は前記第2突出部の円弧面によって形成される、
請求項1に記載の燃料噴射装置。
【請求項4】
前記第1突出部の前記頂面には凹部が形成され、
前記第2突出部は、前記凹部に一部が圧入された球体の残部から構成されている、
請求項3に記載の燃料噴射装置。
【請求項5】
前記駆動ピストンの径方向外側に前記駆動ピストンを囲むように配置される筒状スリーブを備え、
前記駆動ピストンは、前記駆動ピストンの全ストローク範囲において、前記筒状スリーブの内周面に摺接するように構成されている、
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の燃料噴射装置。
【請求項6】
前記筒状スリーブは、一端側に形成された前記駆動ピストンが挿入される開口と、他端側に形成された蓋部と、を有する有底筒状に形成され、
前記圧力制御室は、前記ピストン面と前記蓋部との間に画定され、
前記筒状スリーブには、前記燃料通路と前記圧力制御室とに連通する入口オリフィスが形成され、
前記蓋部には、前記ピストン面に対向する前記対向面及び前記減圧流路の少なくとも一部が形成されている、
請求項5に記載の燃料噴射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は燃料噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼル機関における燃料噴射システムは、コモンレールを初めとして電子制御方式が広く普及している。電子制御方式の燃料噴射システムにおいては、高速応答電磁弁が採用されて燃料の噴射制御が行われる事例が多い。この燃料噴射方式は、一般的な構造として、燃料通路と連通している圧力制御室が燃料噴射弁と連結している駆動ピストンに燃料圧を加えることで、燃料噴射孔を閉じている。他方、圧力制御室を電磁弁によって開放し、圧力制御室を減圧することで燃料噴射孔を開け、これによって、燃料噴射が行われる。その後、再び電磁弁で圧力制御室を閉じると圧力制御室の燃料圧が回復し、燃料噴射弁が燃料噴射孔を閉じて噴射が終了する。
特許文献1及び2には、上述のような構成を有する燃料噴射装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2007/100425号
【特許文献2】独国特許出願公開第102016219337号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような燃料噴射システムにおいては、圧力制御室から燃料をリークさせ減圧することで、燃料噴射が行われる。従って、燃料噴射装置の燃料排出量は燃料噴射孔から噴射される燃料噴射量と圧力制御室からリークされるリーク量との総和となる。従って、リーク量を減少して燃料排出量の総和に対する燃料噴射量の割合(噴射効率)を向上させることは、燃料噴射のために用いられる高圧ポンプの消費エネルギの低減につながる。また、リークした燃料の高温化を抑制し、燃料の劣化や燃料を冷却するクーラの容量を低減できる。
【0005】
特許文献1及び2には、上記噴射効率を向上させるための手段が開示されているが、これらの手段では十分ではないと考えられる。
【0006】
本開示は、上述する事情に鑑みてなされたもので、圧力制御室からリークする燃料のリーク量を低減して噴射効率を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本開示に係る燃料噴射装置の一態様は、電磁式アクチュエータによって燃料を噴射可能に構成された燃料噴射装置であって、先端部に燃料噴射孔が形成されるとともに、前記燃料噴射孔と燃料入口ポートとを連通する燃料通路が内部に形成されたケーシングと、前記ケーシングの内部において、前記電磁式アクチュエータの作動によって前記ケーシングの軸線方向に沿って移動可能なように配置されたスプールであって、前記スプールの一端側において、前記燃料噴射孔を開閉可能なように配置されたニードル弁と、前記スプールの他端側において、前記燃料通路と連通する圧力制御室に対面するように配置されたピストン面を有する駆動ピストンと、を含むスプールと、前記電磁式アクチュエータの作動によって開閉される出口ポートおよび前記ピストン面に対向する対向面に形成された開口を有する減圧流路であって、前記圧力制御室に連通する減圧流路が内部に形成された減圧流路形成部材と、を備え、前記ピストン面は、前記開口側へ突出する凸部を有すると共に、前記減圧流路形成部材は、前記開口から前記ピストン面から離間する方向へ向かうにつれて縮径するように傾斜した傾斜面を有し、前記凸部は、前記ピストン面が前記他端側へ移動したとき、前記傾斜面に線接触して前記開口を閉鎖可能な線接触部を有する。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係る燃料噴射装置の一態様によれば、燃料噴射時に圧力制御室から減圧流路を経て排出(リーク)される燃料のリーク量を低減でき、これによって、噴射効率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施形態に係る燃料噴射装置を示す模式的縦断面図である。
【
図2】
図1に示される燃料噴射装置の一部を拡大して示す縦断面図である。
【
図3】
図2に示される燃料噴射装置の一部をさらに拡大して示す図である。
【
図4】別な実施形態に係る燃料噴射装置の一部であって、圧力制御室の付近を示す拡大縦断面図である。
【
図5】さらに別な実施形態に係る燃料噴射装置の一部であって、圧力制御室の付近を示す拡大縦断面図である。
【
図6】別な実施形態に係る燃料噴射装置を示す模式的縦断面図である。
【
図7】
図6に示される燃料噴射装置の一部を拡大して示す縦断面図である。
【
図8】さらに別な実施形態に係る燃料噴射装置の一部を示す縦断面図である。
【
図9】従来の燃料噴射装置の一部を示す模式的縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、これらの実施形態に記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状及びその相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一つの構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0011】
(燃料噴射装置の構成)
図1は、本開示に係る燃料噴射装置の一実施形態を示す模式的縦断面図である。
図1に示されているように、燃料噴射装置10Aのケーシング12の内部には燃料通路14が形成され、燃料通路14は、ケーシング12の先端部に形成された少なくとも1つの燃料噴射孔16と燃料入口ポート18とに連通している。燃料通路14には、高圧燃料配管(不図示)から、矢印aで示されるように、燃料入口ポート18を介して高圧の燃料が供給される。例えば、燃料噴射装置10がディーゼルエンジンに設けられるコモンレール式燃料噴射システムに適用される場合には、一種のサージタンクである、「コモンレール」と称される蓄圧配管に蓄圧された高圧燃料が燃料通路14に供給される。
【0012】
図1では、ケーシング12の本体に対して燃料噴射孔16が設けられたケーシング12の先端側方向をX方向とし、X方向と反対方向をY方向としている。
【0013】
ケーシング12の内部にはケーシング12の中心軸線Oに沿って延在する第1空間S1が形成され、第1空間S1にスプール20がケーシング12の軸線方向(以下単に「軸線方向」とも言う。)に沿って移動可能なように配置されている。スプール20の一端側(X方向側)にニードル弁22が設けられ、スプール20の他端側(Y方向側)に駆動ピストン24が設けられている。燃料通路14は、ケーシング12の内部で燃料噴射孔16に連通する燃料通路14aと、入口オリフィス25を介して圧力制御室Pに連通する燃料通路14bとに分岐している。スプール20の他端側において、第1空間S1のY方向側領域に隔壁12aに面して圧力制御室Pが形成され、駆動ピストン24のピストン面24aは圧力制御室Pに対面するように配置されている。
【0014】
スプール20と共にニードル弁22が中心軸線Oに沿って往復動することにより、燃料噴射孔16が開閉する。開放された燃料噴射孔16から内燃機関の燃焼室(不図示)に高圧状態の燃料が噴射される。
【0015】
第1空間S1よりもY方向側に隔壁12aを隔てて第2空間S2が形成されている。隔壁12aに圧力制御室Pと第2空間S2とに連通する減圧流路26が形成され、減圧流路26は第2空間S2に開口する出口オリフィス26aを有している。第2空間S2には、出口オリフィス26aを開閉するために、電磁式アクチュエータ40が設けられている。
【0016】
図1に図示されている例示的な実施形態では、第1空間S
1において、スプール20の軸方向中央部にはバネ部材28が設けられている。バネ部材28の一端は、スプール20に一体に設けられ、ケーシング12の径方向(以下単に「径方向」とも言う。)に拡径した支持台32に係止し、バネ部材28の他端は、第1空間S
1に面するケーシング12の内側壁に形成された段差部30に係止している。バネ部材28は、ニードル弁22が燃料噴射孔16を閉止する方向(X方向)へスプール20にバネ力を付勢している。電磁式アクチュエータ40の非作動時に出口オリフィス26aは閉止され、この時、ピストン面24aに加わる圧力制御室Pの燃料圧とニードル弁22に加わる燃料圧とが均衡し、かつ圧力制御室Pの燃料圧にバネ部材48のバネ力が加わるため、ニードル弁22は燃料噴射孔16を閉止する位置にある。
【0017】
電磁式アクチュエータ40が作動して出口オリフィス26aが開放されると、圧力制御室Pの燃料が減圧流路26から出口オリフィス26aで絞られて第2空間S2にリークし、一方、燃料通路14bからの燃料流入は入口オリフィス25で絞られる(制限される)ため、圧力制御室Pの燃料圧は減圧する。これによって、ピストン面24aに付勢される燃料圧とニードル弁22側に付勢される燃料圧との均衡が崩れ、スプール20はY方向へ移動する。そのため、燃料噴射孔16が開口し、高圧燃料がエンジン(例えばディーゼルエンジンなど)の燃焼室(不図示)に噴射される。電磁式アクチュエータ40が非作動となって出口オリフィス26aが閉鎖されると、ピストン面24aに付勢される燃料圧とニードル弁22に付勢される燃料圧との均衡が戻り、スプール20はX方向へ移動し、ニードル弁22によって燃料噴射孔16が閉じられる。
【0018】
本実施形態では、減圧流路26の出口部に絞り機能を有する出口オリフィス26aを設けているが、別な実施形態(不図示)では、絞り機能を有さない開口(出口ポート)を設けてもよい。
【0019】
図1に図示されている例示的な実施形態では、ケーシング12には第1空間S
1と第2空間S
2とに連通するリーク通路34が形成され、ケーシング12の内壁面と駆動ピストン24又はニードル弁22との摺動面から第1空間S
1に漏れた燃料は、リーク通路34を経て第2空間S
2に流入する。そして、第2空間S
2から、矢印bで示されるように、ケーシング12に形成された排出口36を介して外部に排出される。
【0020】
(電磁式アクチュエータの構成)
図1に図示されている例示的な実施形態では、電磁式アクチュエータ40は第2空間S
2に設けられ、ステータコア42を備えている。ステータコア42は磁性体で構成され、ソレノイドコイル44を内蔵し、ソレノイドコイル44に通電されると、ソレノイドコイル44は磁束を発生し、ステータコア42から電磁力が発生する。さらに、軸線方向においてステータコア42のX方向側にアーマチャ46が配置されている。アーマチャ46は、拡径部46aと、拡径部46aからX方向に沿って延在する軸部46bと、軸部46bの先端に設けられた弁体46cと、を備えている。拡径部46aはステータコア42のX方向側に対向して配置され、アーマチャ46はステータコア42から発生する電磁力の有無によって軸線方向に沿って往復動可能に配置されている。
【0021】
ステータコア42の内部にバネ部材48が設けられ、バネ部材48のバネ力はアーマチャ46に対してX方向へ付勢され、ステータコア42から電磁力が発生しないとき、弁体46cはバネ部材48から付勢されるバネ力によって出口オリフィス26aに当接し、出口オリフィス26aを閉じている。そして、ソレノイドコイル44に通電されるとソレノイドコイル44から磁束が発生し、ステータコア42から電磁力が発生する。この電磁力によってアーマチャ46は軸線方向に沿ってステータコア42側に引き寄せられて、出口オリフィス26aが開放される。ソレノイドコイル44への通電が止まると、ステータコア42から電磁力が発生しなくなるため、アーマチャ46はX方向へ移動し、弁体46cが出口オリフィス26aを閉鎖する位置に戻る。
【0022】
図2は、燃料噴射装置10Aの一部を示す縦断面図である。
図2に示されているように、燃料噴射装置10Aは減圧流路形成部材50(アンカ部材54)を備えている。減圧流路形成部材50には、出口オリフィス26aと、ピストン面24aに対向するように配置された対向面50aとが形成され、減圧流路形成部材50の内部に減圧流路26が形成されている。減圧流路26が圧力制御室Pに開口する開口26bは対向面50aに形成されている。そして、ピストン面24aには開口26b側へ突出する凸部51Aが形成されている。減圧流路形成部材50は、開口26bからピストン面24aから離間する方向へ向かうにつれて縮径するように傾斜した傾斜面50bを有している。さらに、凸部51は、ピストン面24aがY方向側へ移動したとき、傾斜面50bに線接触して開口26bを閉鎖可能な線接触部Lcを有している。
【0023】
上述のように、電磁式アクチュエータ40が作動して出口オリフィス26aが開放されると、スプール20と共に、ニードル弁22が燃料噴射孔16を閉止した状態からY方向へ移動し、ニードル弁22のリフト量が最大となったとき、凸部51Aの少なくとも一部(例えば、凸部51Aの先端部)は開口26bよりも減圧流路26側へ進入した状態となる。従って、出口オリフィス26aが開放されたとき、圧力制御室Pに貯留された燃料は、開口26bよりも減圧流路26側に進入している凸部51の存在によって開口26bから排出されにくくなっている。
【0024】
また、ピストン面24aがY方向側へ移動したとき、線接触部Lcが傾斜面50bに線接触して開口26bを閉鎖するため、燃料の減圧流路26側への排出量をさらに抑制できる。このように、線接触部Lcの存在によって、圧力制御室Pから減圧流路26に排出される燃料のリーク量をさらに低減できるため、噴射効率を向上できる。さらに、傾斜面50bに線接触部Lcを当接して線接触を形成するため、比較的容易に線接触部Lcの加工精度を確保できる。そのため、シール機能のロバスト性が良い。
【0025】
図2に図示されている例示的な実施形態では、バネ部材48はステータコア42の中心部に形成された空間で中心軸線O上に配置され、かつ軸線方向に沿って延在するコイルバネで構成されている。アーマチャ46の拡径部46aには表裏面に貫通するリーク孔46dが形成されている。第1空間S
1からリーク通路34を通して第2空間S
2に流入した漏れ燃料はリーク孔46dを通過して排出口36から矢印b方向へ流出する。他方、リーク孔46dがなくても、ステータコア42及びアーマチャ46の互いの対向面の間に形成される隙間からリーク燃料を排出口36へ逃すことができる。
また、
図2に示されているように、電磁式アクチュエータ40のステータコア42がバネ部材48の径方向外側にバネ部材48を囲むように配置され、かつステータコア42はアーマチャ46の拡径部46aよりY方向側で拡径部46aに対向するように配置されている。
【0026】
また、アーマチャ46の拡径部46aの表面には突出部46eが形成され、突出部46eはバネ部材48の内側に挿入される。そのため、突出部46eはバネ部材48の位置決めを容易にしている。軸部46bのX方向側先端部に設けられた弁体46cは半球状に形成され、弁体46cの球面が出口オリフィス26aに接近して当接し、出口オリフィス26aを閉止すると共に、電磁式アクチュエータ40が作動したらアーマチャ46が引き上げられるとともに軸部46bがY方向に移動し、出口オリフィス26aから後退して出口オリフィス26aを開放する。
【0027】
さらに、
図2に図示されている例示的な実施形態では、アーマチャ46の軸部46bを軸線方向に沿って摺動自在に支持するためのアンカ部材54を備えている。アンカ部材54は、ケーシング12の内部において、軸線方向においてアーマチャ46に対してステータコア42と反対側に配置されている。アンカ部材54は、互いに一体に形成された小径部54aと大径部54bとで構成されている。大径部54bは
図1に図示されている隔壁12aに相当している。小径部54aは、中心部にアーマチャ46の軸部46bが摺動自在に挿入される凹部54cが形成され、凹部54cの底面に出口オリフィス26aが形成されている。大径部54bには、減圧流路26、燃料通路14bの一部、圧力制御室Pの一部等が形成され、さらに、燃料通路14bが入口オリフィス25を介して圧力制御室Pに連通する流路が形成されている。
【0028】
図2に図示されている例示的な実施形態では、減圧流路形成部材50はアンカ部材54で構成されている。別な実施形態(不図示)では、アンカ部材54の代わりにケーシング12が中心部まで延在し、ケーシング12に、出口オリフィス26a、対向面50a、対向面50aに開口する開口26bを有する減圧流路26、燃料通路14bの一部、入口オリフィス25、及び圧力制御室Pの一部が形成されていてもよい。
【0029】
さらに、
図2に図示されている例示的な実施形態では、アンカ部材54の径方向外側には、アンカ部材54を取り巻くようにリテーニングナット56が配置される。リテーニングナット56の外周面はケーシング12の内周面と螺合し、アンカ部材54は大径部54bの上面がリテーニングナット56の底面によって係止されている。さらに、小径部54aには凹部54cと小径部54aの外周面に開口する貫通孔54dが形成され、リテーニングナット56には貫通孔54dに連通し第2空間S
2に開口する貫通孔56aが形成されている。出口オリフィス26aから凹部54cにリークした燃料は貫通孔54d及び56aを経て第2空間S
2に流出する。
【0030】
上記実施形態では、凸部51の線接触部Lcが傾斜面50bに線接触したときをもって、ニードル弁22の最大リフト量が規定される。そのため、従来のように、ニードル弁22側でスプール20の最大リフト量を規定する必要がなくなる。
【0031】
図9は、従来の燃料噴射装置の一部を示す模式的縦断面図である。
図9に示されているように、従来の燃料噴射装置にはニードル弁22に段差部100が形成されている。スプール20がY方向へ移動して段差部100がケーシング12の内壁面に当接したとき、スプール20のY方向への移動限界となり、ニードル弁22の最大リフト量となる。従って、段差部100がケーシング12の内壁面に当接してニードル弁22が最大リフト量となったときに、凸部51が開口26bを形成する減圧流路形成部材50の壁面に当接していない場合があり、このとき、圧力制御室Pから減圧流路26にリークする燃料量が増加するおそれがある。
【0032】
一実施形態では、
図3に示されているように、ケーシング12の中心軸線Oを含む断面において、凸部51Aは、ピストン面24a側に形成された第1傾斜面53aと、第1傾斜面53aよりも先端側に形成された第2傾斜面53bと、を有している。中心軸線Oに対する傾斜面50bの鋭角側の角度をθとし、中心軸線Oに対する第1傾斜面53aの鋭角側の角度をθ1とし、中心軸線Oに対する第2傾斜面53bの鋭角側の角度をθ2としたとき、これらの角度は次の(1)式の関係を満たしている。そして、線接触部Lcは第1傾斜面53aと第2傾斜面53bとの境界に形成されている。
θ1<θ<θ2 (1)
【0033】
本実施形態によれば、凸部51Aの線接触部Lcは中心軸線Oに対する角度が上記(1)式を満たす第1傾斜面53a及び第2傾斜面53bの境界に形成されるため、線接触部Lcを有する凸部51Aの加工が容易になる。また、第1傾斜面53a及び第2傾斜面53bは凸部51Aの表面に形成されるため、これら傾斜面の角度管理が容易である。
【0034】
図3に図示されている例示的な実施形態では、中心軸線Oを含む断面において、傾斜面50b、第1傾斜面53a及び第2傾斜面53bは、夫々直線状の傾斜面を有していると共に、第2傾斜面53bは中心軸線O上に頂部52を形成し、これらの傾斜面は夫々中心軸線Oに対して対称となる形状を有している。そのため、凸部51Aを中心軸線O上で中心軸線Oに沿って開口26bに接近させることで、線接触部Lcは、傾斜面50bとの間で隙間を形成せずに、開口26bを完全に閉じることができる。
【0035】
図4は、別な実施形態に係る燃料噴射装置の一部であって、圧力制御室の付近を示す拡大縦断面図である。
図4に示されているように、本実施形態に係る凸部51Bは、ケーシング12の中心軸線Oを含む断面において、ピストン面24aに形成された台形状の第1突出部60aと、第1突出部60aの頂面61に形成された円弧状の表面を有する第2突出部62aと、を有している。第2突出部62bは、減圧流路26の開口26b側に向かって縮径するように突出した形状を有している。本実施形態では、線接触部Lcは第2突出部62aの円弧面によって形成されている。
本実施形態における燃料噴射装置は、凸部51B以外の構成は
図2に図示されている燃料噴射装置の構成と同一である。
【0036】
本実施形態によれば、線接触部Lcは第2突出部62aの円弧面によって形成され、該円弧面で形成された線接触部Lcが傾斜面50bに当接することで、開口26bの完全閉鎖を確実に行うことができる。
【0037】
図4に図示されている例示的な実施形態では、第2突出部62aの裏面63の全面は第1突出部60aの頂面61に配置されている。これによって、第1突出部60aの中心軸線及び第2突出部62bの中心軸線をケーシング12の中心軸線Oに一致させることができるため、凸部51Bの中心軸線を開口26bの中心軸線に一致させることが容易になる。凸部51Bの中心軸線を開口26bの中心軸線に一致させることで、凸部51Bを開口26bに近づけたとき、開口26bを確実に閉じることができる。
【0038】
図5は、さらに別な実施形態に係る燃料噴射装置の一部であって、圧力制御室の付近を示す拡大縦断面図である。
図5に示されているように、本実施形態に係る凸部51Cは、ピストン面24aに形成された第1突出部60bの頂面64に凹部66が形成されている。第2突出部62bは、凹部66に一部が圧入された球体68の残部で構成されている。従って、本実施形態では、凸部51Cの線接触部Lcは第2突出部62bの球面によって形成される。
本実施形態における燃料噴射装置は、凸部51B以外の構成は
図2に示されている燃料噴射装置の構成と同一である。
【0039】
本実施形態によれば、開口26bが形成された減圧流路形成部材50の対向面50aに当接して開口26bを閉じる凸部51Cの線接触部Lcは第2突出部62bの球面によって形成されているため、線接触部Lcの形成が容易であり、かつ線接触部Lcで開口26bを閉じたとき開口26bの密封度を高めることができる。また、第2突出部62bは第1突出部60bの頂面64に形成された凹部66に球体68が圧入されることにより形成されるため、第2突出部62bの形成が容易である。
【0040】
図5に図示されている例示的な実施形態では、凹部66は、ピストン面24aの中心に円形の開口を有するように形成されている。そして、頂面64において、凹部66の周縁部に厚さtを有する堤部70が形成されている。堤部70の厚さtは小さいため、径方向への伸縮性を有する。そのため、凹部66への球体68の圧入が容易である。
【0041】
図6は、別な実施形態に係る燃料噴射装置10Bを示す模式的縦断面図であり、
図7は、燃料噴射装置10Bの一部であって、圧力制御室Pの付近を示す拡大縦断面図である。
図6に示されているように、燃料噴射装置10Bは、駆動ピストン24の径方向外側に駆動ピストン24を囲むように配置された筒状スリーブ72を備えている。圧力制御室Pは隔壁12aとピストン面24aと筒状スリーブ72とで形成されている。筒状スリーブ72の軸方向の一端側端面はバネ部材28によって支持されている。バネ部材28は、筒状スリーブ72に対してY方向側にバネ力を付勢しており、筒状スリーブ72はバネ部材28のバネ力で隔壁12aに押圧されている。
【0042】
さらに、燃料入口ポート18と第1空間S1とを連通する燃料通路14が形成され、高圧燃料が燃料入口ポート18から燃料通路14を通って第1空間S1に供給される。第1空間S1に供給された燃料は、入口オリフィス25を通って圧力制御室Pに流入する。電磁式アクチュエータ40が作動して出口オリフィス26aが開口すると、圧力制御室Pの燃料は減圧流路26から第2空間S2にリークし、圧力制御室Pが減圧する。これによって、スプール20のX方向側端とY方向側端との圧力バランスがくずれてスプール20はY方向側へ移動し、燃料噴射孔16が開口して高圧燃料がエンジンの燃焼室(不図示)に噴射される。第2空間S2にリークした燃料は矢印bで示されるように、排出口36から外部へ排出される。その他の構成は燃料噴射装置10Aと同一である。
【0043】
図7に示されているように、燃料噴射装置10Bは、
図6に図示されている隔壁12aはアンカ部材54で構成され、筒状スリーブ72Aの端面72dがアンカ部材54の一面54b1にバネ部材28のバネ力によって押圧されている。圧力制御室Pは、減圧流路形成部材50の対向面50aと筒状スリーブ72Aの内周面72aとピストン面24aとで形成されている。駆動ピストン24は、駆動ピストン24の全ストローク範囲において筒状スリーブ72Aの内周面72aに摺接するように構成されている。即ち、筒状スリーブ72Aの内周面72aは、軸線方向において駆動ピストン24の全ストローク範囲に亘り延在している。
【0044】
本実施形態によれば、筒状スリーブ72Aはケーシング12とは別な部材で構成されているため、駆動ピストン24の外周面24bと摺動面を形成する部材(即ち、筒状スリーブ72A)をコンパクト化できる。そのため、該摺動面の加工精度を高めるための加工が容易になる。これによって、該摺動面からの燃料漏れを抑制できる。また、筒状スリーブ72Aをケーシング12から取り出して、筒状スリーブ72Aの損傷や摩耗状態を検査できるため、該摺動面を含めた筒状スリーブ72Aの保守管理が容易になる。
【0045】
図7に図示されている例示的な実施形態では、筒状スリーブ72Aは、一端側(図中X方向側)に形成された、駆動ピストン24が挿入される開口72bを有し、圧力制御室Pは、ピストン面24aとアンカ部材54の大径部54bに形成された対向面50aとの間に画定されている。大径部54bには、燃料通路14bの一部と、圧力制御室Pの一部と、燃料通路14bと圧力制御室Pとに連通する入口オリフィス25と、減圧流路26の一部と、が形成されている。また、
図2に示されている実施形態と同様に、アンカ部材54が減圧流路形成部材50を構成している。
【0046】
また、筒状スリーブ72Aの径方向外側には高圧燃料が供給される第1空間S1が形成されている。筒状スリーブ72AのY方向の端面72dは大径部54bの対向面54b1に当接されてシール面を形成している。別な実施形態(不図示)では、端面72dは対向面54b1に接合されているか、又はアンカ部材54と筒状スリーブ72Aとは一体に形成されていてもよい。この実施形態では、上記シール面からの燃料漏れと大径部54bに対する筒状スリーブ72の位置決めを心配する必要はない。
さらに、駆動ピストン24及び筒状スリーブ72Aの内周面72a及び外周面72cの横断面は円形を有している。
【0047】
図8に示されている実施形態は、駆動ピストン24の径方向外側に駆動ピストン24を囲むように配置された筒状スリーブ72Bを備えた実施形態である。筒状スリーブ72Bは、一端側(図中X方向側)に形成された、駆動ピストン24が挿入される開口72bと、他端側(図中Y方向側)に形成された蓋部74と、を有する有底筒状に形成されている。圧力制御室Pは、ピストン面24aと蓋部74の一面との間に画定されている。さらに、筒状スリーブ72Bには燃料通路14bと圧力制御室Pとに連通する入口オリフィス25が形成され、蓋部74には、ピストン面24aに対向する対向面50a、及び減圧流路26の一部が形成されている。
【0048】
本実施形態によれば、筒状スリーブ72Bはケーシング12とは別な部材で構成されているため、駆動ピストン24の外周面24bと摺動面を形成する部材(即ち、筒状スリーブ72B)をコンパクト化できる。そのため、該摺動面の加工精度を高めるための加工が容易になる。これによって、該摺動面からの燃料漏れを抑制できる。また、筒状スリーブ72Bをケーシング12から取り出して、筒状スリーブ72Bの損傷や摩耗状態を検査できるため、蓋部74を含む筒状スリーブ72Bの保守管理が容易になる。
【0049】
図8に図示されている例示的な実施形態では、筒状スリーブ72Bの径方向外側には高圧燃料が供給される第1空間S
1が形成されている。筒状スリーブ72BのY方向の端面72dは大径部54bの対向面54b1に当接されてシール面を形成している。また、バネ部材28のバネ力によって、蓋部74のY方向の端面74aはアンカ部材54の大径部54bの対向面54b1に押圧されてシール面を形成している。別な実施形態(不図示)では、端面74aは対向面54b1に接合されているか、又はアンカ部材54と筒状スリーブ72Bとが一体に形成されていてもよい。さらに、駆動ピストン24の外周面、及び筒状スリーブ72Bの内周面72a及び外周面72cの横断面は夫々円形を有している。
【0050】
図8に図示されている例示的な実施形態では、減圧流路形成部材50は、出口オリフィス26a、及び減圧流路26の一部が形成されたアンカ部材54と、筒状スリーブ72Bに形成され、減圧流路26の一部、対向面50a、及び対向面50aに形成された開口26bが形成された板状の蓋部74と、を含んでいる。
【0051】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0052】
1)一態様に係る燃料噴射装置は、電磁式アクチュエータ(40)によって燃料を噴射可能に構成された燃料噴射装置(10)であって、先端部に燃料噴射孔(16)が形成されるとともに、前記燃料噴射孔(16)と燃料入口ポート(18)とを連通する燃料通路(14)が内部に形成されたケーシング(12)と、前記ケーシング(12)の内部において、前記電磁式アクチュエータ(40)の作動によって前記ケーシング(12)の軸線方向に沿って移動可能なように配置されたスプール(20)であって、前記スプール(20)の一端側において、前記燃料噴射孔(16)を開閉可能なように配置されたニードル弁(22)と、前記スプール(20)の他端側において、前記燃料通路(14)と連通する圧力制御室(P)に対面するように配置されたピストン面(24a)を有する駆動ピストン(24)と、を含むスプール(20)と、前記電磁式アクチュエータ(40)の作動によって開閉される出口ポート(26a)および前記ピストン面(24a)に対向する対向面(50a)に形成された開口(26b)を有する減圧流路(26)であって、前記圧力制御室(P)に連通する減圧流路(26)が内部に形成された減圧流路形成部材(50)と、を備え、前記ピストン面(24a)は、前記開口(26b)側へ突出する凸部(51)を有すると共に、前記減圧流路形成部材(50)は、前記開口(26b)から前記ピストン面(24a)から離間する方向へ向かうにつれて縮径するように傾斜した傾斜面(50b)を有し、前記凸部(51)は、前記ピストン面(24a)が前記他端側へ移動したとき、前記傾斜面(50b)に線接触して前記開口(26b)を閉鎖可能な線接触部(Lc)を有する。
【0053】
このような構成において、電磁式アクチュエータ(40)が作動して減圧流路(26)の出口ポート(26a)が開放されると、圧力制御室(P)の燃料が減圧流路(26)から排出されて圧力制御室(P)が減圧されるため、圧力制御室(P)とニードル弁(22)側との間で圧力の不均衡が生じる。これによって、スプール(20)が圧力制御室(P)側へ移動して燃料噴射孔(16)が開き、燃料噴射孔(16)から燃料が噴射される。電磁式アクチュエータ(40)が非作動となって減圧流路(26)の出口ポート(26a)が閉じられると、圧力制御室(P)とニードル弁(22)側の圧力とが均衡するため、スプール(20)が燃料噴射孔(16)側へ移動し、ニードル弁(22)によって燃料噴射孔(16)が閉じられる。
【0054】
ピストン面(24a)は、開口(26b)側へ突出する凸部(51)を有し、凸部(51)は、スプール(20)がスプール(20)の一端側から他端側へ移動してニードル弁(22)のリフト量が最大となった状態において、凸部(51)の少なくとも一部が開口(26b)より減圧流路(26)側へ進入するように構成されている。そのため、出口ポート(26a)が開放されたとき、圧力制御室(P)に貯留された燃料は、開口(26b)よりも減圧流路(26)側へ進入した凸部(51)によって開口(26b)から減圧流路(26)に排出されにくくなる。
【0055】
また、減圧流路形成部材(50)は上記傾斜面(50b)を有すると共に、凸部(51)は上記線接触部(Lc)を有し、ピストン面(24a)が他端側へ移動したとき、線接触部(Lc)が傾斜面(50b)に線接触して開口(26b)を閉鎖するため、燃料の減圧流路(26)側への排出量をさらに抑制できる。このように、線接触部(Lc)の存在によって、圧力制御室(P)から減圧流路(26)に排出される燃料のリーク量をさらに低減できるため、噴射効率を向上できる。さらに、傾斜面(50b)に線接触部(Lc)を当接して線接触を形成するため、比較的容易に線接触部(Lc)の加工精度を確保できる。そのため、シール機能のロバスト性が良い。
【0056】
2)別な態様に係る燃料噴射装置は、1)に記載の燃料噴射装置(10)において、前記ケーシング(12)の中心軸線(O)を含む断面において、前記凸部(51A)は、前記ピストン面(24a)側に形成された第1傾斜面(53a)と、前記第1傾斜面(53a)よりも先端側に形成された第2傾斜面(53b)と、を含み、前記中心軸線(O)に対する前記傾斜面(50b)の鋭角側の角度をθとし、前記中心軸線(O)に対する前記第1傾斜面(53a)の鋭角側の角度をθ1とし、前記中心軸線(O)に対する前記第2傾斜面(53b)の鋭角側の角度をθ2としたとき、次の(1)式の関係を満たし、前記線接触部(Lc)は前記第1傾斜面(53a)および前記第2傾斜面(53b)の境界に形成される。
θ1<θ<θ2 (1)
【0057】
このような構成によれば、凸部(51A)の線接触部(Lc)は、(1)式を満たす角度を有する第1傾斜面(53a)及び第2傾斜面(53b)の境界に形成されるため、線接触部(Lc)を形成する凸部(51)の加工が容易になる。また、第1傾斜面(53a)及び第2傾斜面(53b)は凸部(51A)の表面に形成されるため、これら傾斜面の角度管理が容易である。
【0058】
3)さらに別な態様に係る燃料噴射装置は、1)に記載の燃料噴射装置(10)において、前記凸部(51B)は、前記ケーシング(12)の中心軸線(O)を含む断面において、前記ピストン面(24a)に形成された台形状の第1突出部(60a)と、前記第1突出部(60a)の頂面(61)に形成された円弧状の第2突出部(62a)であって、前記減圧流路(26)の前記開口(26b)側に向かって縮径するように突出した第2突出部(62a)と、を含み、前記線接触部(Lc)は前記第2突出部(62a)の円弧面によって形成される。
【0059】
このような構成によれば、線接触部(Lc)は第2突出部(62a)の円弧面によって形成され、円弧面で形成された線接触部によって、開口(26b)の完全閉鎖を確実に行うことができる。
【0060】
4)さらに別な態様に係る燃料噴射装置は、3)に記載の燃料噴射装置(10)において、前記第1突出部(60b)の前記頂面(64)には凹部(66)が形成され、前記第2突出部(62b)は、前記凹部(66)に一部が圧入された球体(68)の残部から構成されている。
【0061】
このような構成によれば、減圧流路形成部材(50)に形成された傾斜面(50b)に当接して開口(26b)を閉じる凸部(51C)の線接触部(Lc)は、第2突出部(62a)の球面によって形成されているため、線接触部(Lc)の形成が容易であり、かつ開口(26b)の密封度を高めることができる。また、第2突出部(62b)は第1突出部(60b)の頂面(64)に形成された凹部(66)に球体(68)が圧入されることにより形成されるため、凸部(51C)の形成が容易である。
【0062】
5)さらに別な態様に係る燃料噴射装置は、1)乃至4)のいずれかに記載の燃料噴射装置(10)において、前記駆動ピストン(24)の径方向外側に前記駆動ピストン(24)を囲むように配置される筒状スリーブ(72)を備え、前記駆動ピストン(24)は、前記駆動ピストン(24)の全ストローク範囲において前記筒状スリーブ(72)の内周面(72a)に摺接するように構成されている。
【0063】
このような構成によれば、上記筒状スリーブ(72)はケーシング(12)とは別な部材で構成されるため、駆動ピストン(24)の外周面(24b)と摺動面を形成する部材、即ち、筒状スリーブ(72)をコンパクト化できる。そのため、該摺動面の加工精度を高めるための加工が容易になり、これによって、該摺動面からの燃料漏れを抑制できる。また、筒状スリーブ(72)をケーシング(12)から取り出して損傷や摩耗状態を検査できるため、該摺動面を含めた筒状スリーブ(72A)の保守管理が容易になる。
【0064】
6)さらに別な態様に係る燃料噴射装置は、5)に記載の燃料噴射装置(10)であって、前記筒状スリーブ(72B)は、一端側に形成された前記駆動ピストン(24)が挿入される開口(72b)と、他端側に形成された蓋部(74)と、を有する有底筒状に形成され、前記圧力制御室(P)は、前記ピストン面(24a)と前記蓋部(74)との間に画定され、前記筒状スリーブ(72B)には、前記燃料通路(14b)と前記圧力制御室(P)とに連通する入口オリフィス(25)が形成され、前記蓋部(74)には、前記ピストン面(24a)に対向する前記対向面(50a)及び前記減圧流路(26)の少なくとも一部が形成されている。
【0065】
このような構成によれば、上記筒状スリーブ(72B)はケーシング(12)とは別な部材で構成できるため、駆動ピストン(24)の外周面と摺動面を形成する部材(即ち、筒状スリーブ(72))をコンパクト化できる。そのため、該摺動面の加工精度を向上できる。また、筒状スリーブ(72A)をケーシング(12)から取り出して損傷や摩耗状態を検査できるため、該摺動面及び減圧流路(26)が形成された蓋部(74)を含めた筒状スリーブ(72A)の保守管理が容易になる。
【符号の説明】
【0066】
10(10A、10B) 燃料噴射装置
12 ケーシング
12a 隔壁
12b 内周面
14(14a、14b) 燃料通路
16 燃料噴射孔
18 燃料入口ポート
20 スプール
22 ニードル弁
24 駆動ピストン
24a ピストン面
24b 外周面
25 入口オリフィス
26 減圧流路
26a 出口オリフィス(出口ポート)
26b 開口
28、48 バネ部材
30、100 段差部
32 支持台
34 リーク通路
36 排出口
40 電磁式アクチュエータ
42 ステータコア
44 ソレノイドコイル
46 アーマチャ
46a 拡径部
46b 軸部
46c 弁体
46d リーク孔
46e 突出部
50 減圧流路形成部材
50a 対向面
50b 傾斜面
51(51A、51B、51C) 凸部
52 頂部
53(53a、53b) 傾斜面
54 アンカ部材
54a 小径部
54b 大径部
54b1 対向面
54c 凹部
54d 貫通孔
56 リテーニングナット
56a 貫通孔
60a、60b 第1突出部
61、64 頂面
62a、62b 第2突出部
63 裏面
66 凹部
68 球体
70 堤部
72(72A、72B) 筒状スリーブ
72a 内周面
72b 開口
72c 外周面
72d 端面
74 蓋部
74a 端面
O 中心軸線
P 圧力制御室
S1 第1空間
S2 第2空間