(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143720
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】焼成用または乾燥用の治具、該治具を構成する支持部材、および該支持部材を構成するユニット部材
(51)【国際特許分類】
F27D 3/12 20060101AFI20241003BHJP
C04B 35/64 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
F27D3/12 Z
C04B35/64
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056526
(22)【出願日】2023-03-30
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業/水素利用等高度化先端技術開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】ノリタケ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(72)【発明者】
【氏名】山田 祐貴
【テーマコード(参考)】
4K055
【Fターム(参考)】
4K055AA05
4K055AA06
4K055AA07
4K055AA08
4K055HA15
4K055HA27
(57)【要約】
【課題】汎用性の高い焼成用または乾燥用の治具を得るための技術を提供すること。
【解決手段】ここで開示される支持部材は、被焼成物または被乾燥物を載置する1または複数のセッターを支持する支持部材である。一態様では、支持部材1は、複数種類のユニット部材U1,U2,およびU3が、複数個相互に組み合わされて構成されている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被焼成物または被乾燥物を載置する1または複数のセッターを支持する支持部材であって、
前記支持部材は、1または複数種類のユニット部材が、複数個相互に組み合わされて構成される、支持部材。
【請求項2】
前記ユニット部材は、1または複数種類の、所定の形状に形成された単体が、複数個相互に接合されて構成される、請求項1に記載の支持部材。
【請求項3】
前記単体の所定の形状は、立方体または直方体である、請求項2に記載の支持部材。
【請求項4】
前記単体は接着剤によって相互に接合されている、請求項2または3に記載の支持部材。
【請求項5】
前記支持部材は、セラミック材料から構成されている、請求項1または2に記載の支持部材。
【請求項6】
前記セラミック材料は、アルミナ、シリカ、マグネシア、ジルコニア、ムライト、およびフォルステライトからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項5に記載の支持部材。
【請求項7】
請求項1または2に記載の支持部材を構成する、ユニット部材。
【請求項8】
被焼成物または被乾燥物を載置する1または複数のセッターと、
前記セッターを支持する支持部材と、
を備えた焼成用または乾燥用の治具であって、
前記支持部材は、請求項1または2に記載の支持部材である、焼成用または乾燥用の治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、焼成用または乾燥用の治具、該治具を構成する支持部材、および該支持部材を構成するユニット部材に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1~3には、被焼成物を載置するセッターを支持する支持部材を有する焼成用の治具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8-91944号公報
【特許文献2】特開平10-218672号公報
【特許文献3】特許第6378155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年では、様々な大きさの被焼成物(あるいは、被乾燥物)を取り扱う必要がある。即ち、大きさの異なる被焼成物(あるいは、被乾燥物)を載置することができるような、汎用性の高い焼成用(あるいは、乾燥用)の治具の開発が求められている。
【0005】
本開示は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、汎用性の高い焼成用または乾燥用の治具を得るための技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を実現すべく、本開示は、被焼成物または被乾燥物を載置する1または複数のセッターを支持する支持部材であって、上記支持部材は、1または複数種類のユニット部材が、複数個相互に組み合わされて構成される、支持部材を提供する。詳細については後述するが、かかる構成の支持部材によると、被焼成物(あるいは、被乾燥物)の大きさに合わせて適宜構造を変化させることができるため、結果的に、汎用性の高い焼成用または乾燥用の治具を得ることができる。
【0007】
ここで開示される支持部材の好適な一態様では、上記ユニット部材は、所定の形状に形成された単体が複数個相互に接合されて構成される。かかる構成によると、単体を生産性高く得ることができるため、コストの観点等から好ましい。
【0008】
ここで開示される支持部材の好適な一態様では、上記単体の所定の形状は、立方体または直方体である。かかる構成によると、上記ユニット部材を簡便に作製することができるため、好ましい。
【0009】
ここで開示される支持部材の好適な一態様では、上記単体は接着剤によって相互に接合されている。かかる構成によると、単体どうしの接合強度が好適に向上するため、支持部材の強度を好適に向上させることができる。
【0010】
ここで開示される支持部材の好適な一態様では、上記支持部材は、セラミック材料から構成されている。かかる構成の支持部材は、焼成用または乾燥用の治具の支持部材として好適に用いることができる。また、汎用性の観点から、上記セラミック材料は、アルミナ、シリカ、マグネシア、ジルコニア、ムライト、およびフォルステライトからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0011】
また、本開示は、他の側面から、ここで開示されるいずれかの支持部材を構成するユニット部材を提供する。
【0012】
また、本開示は、他の側面から、被焼成物または被乾燥物を載置する1または複数のセッターと、上記セッターを支持する支持部材と、を備えた焼成用または乾燥用の治具であって、上記支持部材は、ここで開示されるいずれかの支持部材である、焼成用または乾燥用の治具(以下、単に「治具」ともいう)を提供する。かかる構成の焼成用または乾燥用治具は、被焼成物(あるいは、被乾燥物)の大きさに合わせて適宜構造を変化させることができる支持部材を備えているため、汎用性の高い治具ということができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1A】本実施形態に係るユニット部材U1を分離したときの構造を示す模式図である。
【
図1B】本実施形態に係るユニット部材U1の構造を示す模式図である。
【
図2A】本実施形態に係るユニット部材U2を分離したときの構造を示す模式図である。
【
図2B】本実施形態に係るユニット部材U2の構造を示す模式図である。
【
図3A】本実施形態に係るユニット部材U3を分離したときの構造を示す模式図である。
【
図3B】本実施形態に係るユニット部材U3の構造を示す模式図である。
【
図4】本実施形態に係る支持部材の構成を示す模式図である。
【
図5】本実施形態に係る治具の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の好適な実施形態について説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本開示の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本開示は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。以下の実施形態は、ここで開示される技術をかかる実施形態に限定することを意図したものではない。また、以下の図面において、寸法関係(長さ、幅、厚み等)は実際の寸法関係を反映するものではなく、特に言及されない限りにおいて本開示を限定するものではない。そして、図面中の符号X、Y、Zは、治具や部材の縦方向、縦方向と直交する横方向、高さ方向を、それぞれ表すものとする。ただし、これらは説明の便宜上の方向に過ぎず、治具や部材の設置形態を何ら限定するものではない。なお、本明細書および特許請求の範囲において、所定の数値範囲をA~B(A、Bは任意の数値)と記すときは、A以上B以下の意味である。したがって、Aを上回り且つBを下回る場合を包含する。なお、「支持部材」とは、ゲタ(例えば、1または複数のセッターを支持する台)状のものや、棚(例えば、1または複数のセッターを載置するラック)状のもの、柱(例えば、1または複数のセッターを支持する支柱)状のもの等種々の形状を包含するものとする。以下では、支持部材を柱状とした場合を例にして説明する。
【0015】
<支持部材>
先ず、本実施形態に係る支持部材1について説明する。ここで、
図4は、本実施形態に係る支持部材1の構成を示す模式図である。また、
図5は、本実施形態に係る治具10の構成を示す模式図である。
図5に示すように、本実施形態に係る支持部材1は、被焼成物または被乾燥物(以下、単に「ワーク」ともいう)を載置する1または複数(ここでは、5枚)のセッター2を支持する支持部材である。また、
図4に示すように、支持部材1は、1または複数種類(ここでは、3種類)のユニット部材U1,U2,U3が、複数個(ここでは、6個)相互に組み合わされて構成されている。
【0016】
かかる構成の支持部材1によると、ワーク3の大きさに合わせて支持部材1の構造を適宜変化させることができるため、汎用性の高い焼成用または乾燥用の治具10を得ることができる。具体的には、ワーク3の厚み等に合わせて、支持部材1を構成するユニット部材U1,U2,U3の個数を調整し、セッター2どうしを配置する高さ方向(
図5のZ方向)における距離を調整することができるため、汎用性の高い焼成用または乾燥用の治具10を得ることができる。
【0017】
上記ユニット部材の形状は、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に限定されない。好適な一態様では、上記ユニット部材は、1または複数種類の、所定の形状に形成された単体が、複数個相互に接合されて構成されている。かかる構成によると、単体を生産性高く得ることができるため、コストの観点等から好ましい。
【0018】
また、上記単体の所定の形状としては、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に限定されない。上記単体の形状は、例えば、立方体や直方体を包含する四角柱、円柱、楕円柱、多角柱等その他種々の形状とすることができる。好適な一態様では、上記単体の所定の形状は、立方体または直方体である。かかる構成によると、ユニット部材を簡便に作製することができるため、好ましい。以下、本実施形態に係るユニット部材U1,U2,U3の構造を例にして説明する。
【0019】
先ず、ユニット部材U1の構造について説明する。ここで、
図1Aは、本実施形態に係るユニット部材U1を分離したときの構造を示す模式図である。また、
図1Bは、本実施形態に係るユニット部材U1の構造を示す模式図である。
図1Aに示すように、ユニット部材U1は、直方体および立方体の2種類の単体S1,S2が、計8個相互に接合されて構成されている。
【0020】
次に、ユニット部材U2の構造について説明する。ここで、
図2Aは、本実施形態に係るユニット部材U2を分離したときの構造を示す模式図である。また、
図2Bは、本実施形態に係るユニット部材U2の構造を示す模式図である。
図2Aに示すように、ユニット部材U2は、直方体および立方体の2種類の単体S1,S2が、計7個相互に接合されて構成されている。
【0021】
次に、ユニット部材U3の構造について説明する。ここで、
図3Aは、本実施形態に係るユニット部材U3を分離したときの構造を示す模式図である。また、
図3Bは、本実施形態に係るユニット部材U3の構造を示す模式図である。
図3Aに示すように、ユニット部材U3は、直方体および立方体の2種類の単体S1,S2が、計7個相互に接合されて構成されている。
【0022】
また、支持部材1を構成する材料(換言すると、ユニット部材U1,U2,U3を構成する材料。あるいは、単体S1,S2を構成する材料。)については、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に限定されない。好適な一態様では、支持部材1(またはユニット部材U1,U2,U3。あるいは、単体S1,S2。)は、セラミック材料から構成されている。ここで、「セラミック材料から構成されている」とは、支持部材(またはユニット部材U1,U2,U3。あるいは、単体S1,S2。)の全体を100質量%としたとき、セラミック材料が、例えば50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上含有されることを意味し得る(後述の、セッター2やワーク3の説明においても同様である)。かかる構成の支持部材は、焼成用または乾燥用の治具の支持部材として好適に用いることができる。また、上記セラミック材料としては、汎用性等の観点から、アルミナ、シリカ、マグネシア、ジルコニア、ムライト、フォルステライト等を好適に用いることができる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、ジルコニアとしては、耐久性等の観点から安定化ジルコニアを好適に用いることができる。安定化ジルコニアの好適例としては、酸化イットリウム(Y2O3,「イットリア」ともいう)で安定化されたイットリア安定化ジルコニア(YSZ)や、カルシア(CaO)で安定化されたカルシア安定化ジルコニア(CSZ)等が挙げられる。これらのなかでも、特にYSZが好適に用いられ、全体の1モル%~15モル%(好ましくは、1モル%~10モル%)となる量のイットリアを固溶させたYSZを好ましく用いることができる。
【0023】
特に限定されるものではないが、直方体である単体S1の寸法の一例としては、縦×横×高さが5mm~20mm×5mm~20mm×1mm~15mm程度(例えば、10mm~15mm×10mm~15mm×3mm~10mm程度)が挙げられる。なお、単体S1において縦、横、高さとは、例えば
図1AにおけるX方向における長さ、Y方向における長さ、Z方向における長さをそれぞれ意味するものとする。また、立方体である単体S1の寸法の一例としては、一辺の長さが5mm~20mm程度(例えば、10mm~15mm程度)のものが挙げられる。なお、単体S1,S2は、市販品を特に制限なく用いることができる。係る単体としては、例えば、アズワン株式会社製や株式会社ニッカトー製のものを用いることができる。
【0024】
また、好適な一態様では、単体S1,S2は接着剤によって相互に接着されている。かかる構成によると、単体S1,S2どうしの接合強度が好適に向上するため、支持部材1の強度を好適に向上させることができる。
【0025】
接着剤としては、無機材料や樹脂材料を主成分として含む接着剤が挙げられる。ここで、「無機材料(樹脂材料)を主成分として含む」とは、接着剤の全量を100質量%としたとき、無機材料(樹脂材料)が、例えば50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上含有されることを意味し得る。また、無機材料(樹脂材料)の上限は、例えば100質量%以下、99質量%以下、95質量%以下であってもよい。また、上記無機材料の一例としては、ガラス(ガラス組成物)等が挙げられる。そして、上記樹脂材料の一例としては、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂、ゴム系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂等が挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。なお、耐熱性等の観点からは、上記接着剤としてガラス接着剤を好ましく用いることができる。
【0026】
かかるガラス接着剤の好適例としては、ガラス組成物を主成分として含んでおり、上記ガラス組成物は、該ガラス組成物全体を100モル%としたとき、95モル%以上(好ましくは、99モル%以上であり、例えば100モル%であってもよい)が酸化物換算のモル比で以下の組成:MgO:0モル%~40モル%、CaO:0モル%~30モル%、BaO:0モル%~50モル%、ZnO:0モル%~50モル%、B2O3:0モル%~50モル%、Al2O3:1モル%~20モル%、SiO2:5モル%~50モル%、Fe2O3:0モル%~3モル%、Bi2O3:0モル%~20モル%、CuO:0モル%~5モル%、Y2O3:0モル%~3モル%、を含むものが挙げられる。かかる構成によると、単体S1,S2どうしの接合部の強度を好適に向上させることができるため、支持部材1の強度、ひいては治具1の強度を好適に向上させることができる。
【0027】
また、好ましい一態様では、上記ガラス組成物は、該ガラス組成物全体を100モル%としたとき、Mg、Ca、Baを酸化物換算のモル比の合計で3モル%~60モル%の範囲内で含まれていることが好ましい。かかる構成において、単体S1,S2どうしの接合部の強度をより好適に向上させることができるため、支持部材1の強度、ひいては治具1の強度を好適に向上させることができる。
【0028】
また、上記ガラス接着剤は、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて、上記11種類の構成成分以外の任意成分を含んでいてもよい。かかる任意成分の一例として、銅成分(典型的には、Cu2O)、鉄成分(典型的には、FeO,Fe3O4)、ニッケル成分(典型的には、NiO)、ジルコニウム成分(典型的には、ZrO2)、ニオブ成分(典型的には、Nb2O5)、スズ成分(典型的には、SnO,SnO2)、ランタン成分(典型的には、La2O3)、セリウム成分(典型的には、CeO2)、チタン成分(典型的には、TiO2)、バナジウム成分(典型的には、V2O5)、リン成分(典型的には、P2O5)、第1族元素成分(典型的には、第1族元素の酸化物:M2O,Mは、Li,Na,K,Rb,Cs,Frのなかから選択することができる)、第2族元素成分(典型的には、第2族元素の酸化物:M’O,M’は、Be,Sr,Raのなかから選択することができる)等が挙げられる。これらの任意成分を添加し、多成分系のガラス組成物を構成することによって、焼成後のガラス接合部の物理的安定性を向上させることができる。なお、これらの任意成分を添加する場合、ガラス接着剤全体に占める上記任意成分の割合は、ガラス組成物全体を100モル%としたとき、酸化物換算のモル比で、概ね0.01モル%~5モル%程度とすることができ、0.05モル%~3モル%程度であることが好ましく、0.1モル%~1モル%程度であることがより好ましい。
【0029】
また、上記ガラス接着剤は、鉛(Pb)、テルル(Te)、ヒ素(As)、カドミウム(Cd)等を含まないことが好ましい。これらの成分を含まないことにより、人体や環境に悪影響を与え得る物質の生成を未然に防止することができるため、好ましい。なお、本明細書および特許請求の範囲において「含まない」とは、上述した成分を意図的に添加していないことを示す。したがって、原料や製造工程等に由来して微量に含まれ得る不可避的なものを厳格に排除するものではない。例えば、上記ガラス組成物全体を100モル%としたとき、酸化物換算のモル比で0.1モル%未満である場合が好適である。
【0030】
また、上記ガラス接着剤は、ガレット状、パウダー状、フリット状、ペレット状、板状、ペースト状等種々の形態として用いることができる。このなかでも、作業性や取り扱い易さの観点から、かかるガラス接着剤は、ペースト状に調製されていることが好ましい。特に限定されるものではないが、上記ガラス接着剤がペースト状に調製されている場合、該ガラス接着剤の、25℃の環境下において、回転粘度計を用いて回転速度100rpmで測定される粘度は、例えば10Pa・s~2000Pa・sとすることができる。上記ガラス接着剤の粘度を上記範囲内とすることで、耐熱性や寸法精度がより優れた治具を得ることができる。上記粘度は、部材の寸法精度をより優れたものとするという観点から、好ましくは10Pa・s~1000Pa・sであり、例えば20Pa・s~1000Pa・s、100Pa・s~1000Pa・sであってもよい。また、上記粘度は、寸法精度を特に優れたものとするという観点からは、10Pa・s~100Pa・s(例えば、20Pa・s~100Pa・s)の範囲内であることがより好ましい。上記粘度は、例えば50Pa・s~500Pa・sの範囲内であってもよい。なお、かかる粘度は、市販の粘度計を用いて測定することができる。かかる市販の粘度計としては、Brookfield HB型粘度計等が挙げられる。また、かかるガラス接着剤の粘度は、ガラス粉末や溶剤、添加剤の配合量等を調整することによって、容易に調整することができる。
【0031】
また、上記ガラス接着剤の熱膨張係数は、ここで開示される技術の効果が得られる限りにおいて特に制限されないが、被接合部材(好ましくは、セラミック材料から構成されるセラミック部材)の破損を好適に防止するという観点から、該ガラス接着剤の熱膨張係数を接合対象の熱膨張係数に近似させることが好ましい。かかる観点から、上記ガラス接着剤の熱膨張係数は、好ましくは6.0×10-6K-1~12.0×10-6K-1(より好ましくは6.5×10-6K-1~11.5×10-6K-1程度)とすることができる。なお、本明細書において「熱膨張係数」とは、30℃から500℃までの温度領域において、熱機械分析装置(Thermomechanical Analysis:TMA)を用いて測定した平均膨張係数(平均線膨張係数)であり、試料の初期長さに対する試料長さの変化量を温度差で割った値をいう。熱膨張係数の測定は、例えばJISR3102:1995等に準じて実施することができる。
【0032】
また、上記ガラス接着剤のガラス軟化点は、ここで開示される技術の効果が得られる限りにおいて特に限定されないが、好ましくは、500℃~850℃である。かかる構成において、耐熱性や寸法精度がより好適に向上された焼成用または乾燥用の治具を得ることができる。なお、「ガラス軟化点」とは、近似的にこれより低い温度ではガラス接着剤のほとんどの成形操作が不可能となる温度を意味し、例えば107.6dPa・sの粘度に相当する温度を意味し得る。かかるガラス軟化点は、例えば、以下の方法によって測定することができる。具体的には、上記ガラス接着剤に使用しているガラス粉体を直径7~10mm×高さ5~7mm程度の円柱状にプレス成形して500~850℃で10分間仮焼きする。そして、仮焼した試験片を再度加熱し、硝子平行板粘度測定装置を用いて室温(25℃)から最高900℃までの高さ方向の変形量を検出する。そして、測定試料の変形速度からGent式に基づいてガラス粘度が107.6dPa・sになる時の温度をガラス軟化点とすることができる。Gent式:η=2πMgH5/3V(-dH/dt)(2πH3+V)(ただし、η:粘度(Poise)、M:荷重(g)、H:試料の高さ(cm)、g:重力加速度(cm/s2)、V:試料体積(cm3)、dH/dt:試料変形速度(cm/s)である。)
【0033】
特に限定されるものではないが、上記接着剤により接着された際の、単体どうしの接着力(接合強度)は、例えば、1.0MPa以上(好ましくは、5.0MPa以上)とすることができる。また、かかる接合強度の上限は、例えば100MPa以下や80MPa以下とすることができる。かかる接合強度試験は、例えば以下の方法によって測定することができる。先ず、接合する単体を一辺が10mm~15mm程度の立方体形状に切り出し、該切り出した部材どうしを、上記ガラス接着剤0.1g程度を介して重ねる(接着させる)。そして、例えば常温下(20℃±10℃)において、圧縮試験機等を用いて、一方の単体に圧縮速度0.5mm/分の速度にてシェア方向に力を加え、両者が剥離したときの最大破壊点荷重を測定し、接合面積で除した値を接合強度とする。
【0034】
上述のとおり、ここで開示される技術によると、ここで開示されるいずれかの支持部材を構成するユニット部材が提供される。
【0035】
また、
図4に示すように、本実施形態に係る支持部材1は、略四角柱であり、さらにセッター2を載置する5個の凹部Pを有している。ただし、他の実施形態では、支持部材の形状は円柱、楕円柱、多角柱等その他種々の形状であってもよい。また、他の実施形態では、セッターを載置する凹部の数は、1個であってもよいし、5個以外の複数個であってもよい。
【0036】
なお、上述したようなユニット部材U1,U2,U3や、支持部材1の製造方法については、後述の治具10の製造方法において併せて説明する。
【0037】
<治具>
次に、本実施形態に係る治具10について説明する。
図5に示すように、本実施形態に係る治具10は、被焼成物または被乾燥物(即ち、ワーク3)を載置する1または複数(ここでは、5枚)のセッター2と、セッター2を支持する支持部材1と、を備えた焼成用または乾燥用の治具である。前述のとおり、かかる構成の治具10は、ワーク3の大きさに合わせて適宜構造を変化させることができる支持部材1を備えているため、汎用性の高い治具ということができる。以下、
図5における、上記説明した支持部材1以外の各部材について説明する。
【0038】
図5に示すように、本実施形態に係るセッター2は、板状(プレート状)である。セッター2は、ここでは矩形状である。セッター2の上には、ワーク3が載置することができる。セッター2は、例えばセラミック材料から構成されていることが好ましい。かかるセラミック材料としては、例えば支持部材1の説明において列挙したものが挙げられる。また、セッター2の寸法の一例としては、縦:10cm~30cm,横:10cm~30cm,厚み:0.1cm~5cmのものが挙げられる。なお、セッター2において縦、横、厚みとは、例えば
図5におけるX方向における長さ、Y方向における長さ、Z方向における長さをそれぞれ意味するものとする。また、他の実施形態では、セッターは板状ではなく、ワークを収容できるように構成された箱型等であってもよい。また、他の実施形態では、セッターは矩形状ではなく、円形状、楕円形状、その他種々の形状であってもよい。
【0039】
図5に示すように、本実施形態に係るワーク3は、板状(プレート状)である。ワーク3は、ここでは矩形状である。ワーク3は、セッター2の上に載置されている。ワーク3は、例えばセラミック材料から構成されていることが好ましい。かかるセラミック材料としては、例えば支持部材1の説明において列挙したものが挙げられる。ワーク3の寸法の一例としては、縦:5cm~20cm,横:5cm~20cm,厚み:0.05cm~5cmのものが挙げられる。なお、ワーク3において縦、横、厚みとは、例えば
図5におけるX方向における長さ、Y方向における長さ、Z方向における長さをそれぞれ意味するものとする。また、他の実施形態では、ワークは矩形状ではなく、円形状、楕円形状、その他種々の形状であってもよい。
【0040】
なお、治具1が焼成用である場合、焼成時にセッター2とワーク3との副反応が生じにくくするために、セッター2とワーク3との間にさらに反応防止用セッターを配置してもよい。
【0041】
<治具の製造方法>
続いて、本実施形態に係る治具1の製造方法の一例について説明する。なお、以下では、単体S1,S2をガラス接着剤によって接合(接着)してユニット部材U1,U2,U3を作製する場合について説明する。
【0042】
先ず、ガラス接着剤を調製する。そして、かかるガラス接着剤の調製にあたり、ガラス原料粉末を作製する。ガラス原料粉末の作製では、例えば、上記のような各構成成分を含有する酸化物、炭酸塩、硝酸塩、複合酸化物等を含む工業製品、試薬、または各種の鉱物原料を用意し、これらが所望の組成となるよう混合する。かかるガラス原料粉末の調製は、例えばボールミル等の混合機に上記原料を投入し、数時間~数十時間混合することによって行うことができる。
【0043】
次に、上記のとおり得られたガラス原料粉末を乾燥した後、高温(典型的には、900~1400℃程度)条件下で加熱・溶融して、冷却または急冷することでガラス化させる。好適な一態様では、得られたガラス(ガラス質中間体)を適当な大きさ(粒子径)になるまで粉砕し、ガラス粉末を作製する。ガラス質中間体の平均粒子径は、例えば0.5μm~50μm(典型的には、1μm~10μm)とすることが好ましい。なお、「平均粒子径」(D50粒径ともいう)とは、レーザー回折・散乱法に基づく体積基準の粒度分布において、粒径の小さい側から積算値50%に相当する粒径を意味し得る。
【0044】
続いて、得られたガラス粉末と、溶剤(典型的には、有機溶剤)やバインダー(典型的には、有機バインダー)等とともに混合して、ペースト状に調製する。かかる有機溶剤としては、例えば、ターピネオール、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、各種のグリコール等を用いることができる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、かかる有機バインダーとしては、通常この種のガラスペーストに用いられている各種のバインダーを用いることができる。例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ニトロセルロース等のセルロース系高分子や、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、アミン系樹脂等を用いることができる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、上記溶剤やバインダーとしては、市販品を特に制限なく用いることができる。ここで、ガラス接着剤の全体を100質量%としたとき、上記ガラス粉末は、概ね50~90質量%(例えば、60~80質量%)添加することができる。また、ガラス接着剤の全体を100質量%としたとき、上記溶剤は、概ね1~50質量%(例えば、5~45質量%)添加することができる。そして、ガラス接着剤の全体を100質量%としたとき、上記バインダーは、概ね1~20質量%(例えば、10~15質量%)添加することができる。ペースト状のガラス接着剤は、所望の用途に応じて適切な粘度に調整することによって、塗布または印刷等の形態で被接合部材(例えば、セラミック部材等)に付与することが可能である。なお、ペーストの分散、混合方法についても特に限定されず、例えば、従来公知の三本ロールミル等を用いて行うことができる。このようにして、ガラス接着剤を調製することができる。
【0045】
なお、ガラス接着剤の調製に際して、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて、必要に応じて任意の成分を添加してもよい。かかる任意の成分としては、分散剤、可塑剤、酸化防止剤、消泡剤、レベリング剤等が挙げられる。例えば、分散剤としては、通常ガラスペーストに使用されるものを使用することが可能であり、ポリアミン系高分子分散剤、ポリカルボン酸型高分子界面活性剤、変性アクリル系ブロック共重合体、顔料親和性基を有するアクリル共重合物、塩基性或いは酸性の顔料吸着基を有するブロック共重合物、顔料親和性基を有する変性ポリアルコキシレート、ポリアミノアマイド塩とポリエステル、極性酸エステルと高分子アルコールの組み合わせ、酸性ポリマーのアルキルアンモニウム塩、酸基を含む共重合体及びアルキルアンモニウム塩、顔料親和性基を有する高分子量ブロック共重合体、特種変性ウレア等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を適宜選択して用いることができる。また、ガラス接着剤の全体を100質量%としたとき、上記任意の成分は、概ね0.1~5質量%(例えば、1~3質量%)添加することができる。
【0046】
次に、単体S1,S2を必要な個数だけ準備し、上記のとおり調製したガラス接着剤を、単体S1,S2どうしを接合(接着)する面に所定量(概ね0.1g~1g程度、例えば0.1g~0.5g程度)塗布する。かかる塗布は、金属ヘラやディスペンサー等によって行うことができる。具体的には、ユニット部材U1の作製においては、先ず、
図1A中の縦線部分に上記ガラス接着剤を塗布し、単体S2を3個接着する。次に、単体S1を2個、上記ガラス接着剤によって接合した単体S2を3個有する部材2個をそれぞれ準備し、さらに
図1A中の斜線部分に上記ガラス接着剤を塗布し、それぞれを接着する。また、ユニット部材U2の作製においては、先ず、
図2A中の縦線部分に上記ガラス接着剤を塗布し、単体S2を3個接着する。次に、単体S1を1個、上記ガラス接着剤によって接合した単体S2を3個有する部材2個をそれぞれ準備し、さらに
図2A中の斜線部分に上記ガラス接着剤を塗布し、それぞれを接着する。そして、ユニット部材U3の作製においては、先ず、
図3A中の縦線部分に上記ガラス接着剤を塗布し、単体S2を3個接着する。次に、単体S1を1個、上記ガラス接着剤によって接合した単体S2を3個有する部材2個をそれぞれ準備し、さらに
図3A中の斜線部分に上記ガラス接着剤を塗布し、それぞれを接着する。続いて、所定温度(例えば、50~100℃程度)で所定時間(例えば、0.5~2時間程度)乾燥し、所定温度(例えば、500~1500℃程度)で所定時間(1~2時間程度)熱処理することで、ユニット部材U1,U2、U3を得ることができる。
【0047】
続いて、
図4に示すように、上記のとおり得られたユニット部材U1,U2,U3を計6個組み合わせる。これによって、セッター2を載置する凹部Pを5個有する支持部材1を得ることができる。そして、かかる支持部時1を4個準備し、対応する凹部Pにセッター2を載置することで、治具1を製造することができる。
【0048】
このようにして得られた治具1は、ワーク3を乾燥させるための乾燥用の治具として用いることもできるし、ワーク3を焼成するための焼成用の治具として用いることもできる。例えば、治具1が乾燥用の治具である場合は、ワーク3をセッター2に載置した状態で乾燥機等に入れて、所定温度(例えば、50~300℃程度)でワーク3を乾燥させることができる。また、治具1が焼成用の治具である場合は、ワーク3をセッター2に載置した状態で焼成炉等に入れて、所定温度(例えば、500~1500℃程度)でワーク3を焼成することができる。
【0049】
以上、本開示の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0050】
例えば、上記実施形態では、3種類のユニット部材を組み合わせた構成された支持部材1について説明しているが、これに限定されない。他の実施形態では、1種類のユニット部材を組み合わせて構成された支持部材であってもよいし、3種類以外の複数種類のユニット部材を組み合わせて構成された支持部材であってもよい。
【0051】
例えば、上記実施形態では、直方体および立方体の2種類の単体から構成されたユニット部材U1,U2,U3について説明しているが、これに限定されない。他の実施形態では、1種類の単体から構成されたユニット部材であってもよいし、2種類以外の複数種類の単体から構成されたユニット部材であってもよい。また、例えば、上記実施形態では、単体の斜線部分や縦線部分に接着剤を塗布しているが、これに限定されず、他の実施形態では、単体の他の部分に接着剤を塗布してもよい。
【0052】
例えば、上記実施形態では、ユニット部材U1,U2,U3を高さ方向(例えば、
図4のZ方向)に沿って組み合わせているが、これに限定されない。他の実施形態では、ユニット部材を縦方向や横方向(例えば、
図4のX方向やY方向)に沿って組み合わせてもよい。
【0053】
以上のとおり、ここで開示される技術の具体的な態様として、以下の各項(item)に記載のものが挙げられる。
項1:被焼成物または被乾燥物を載置する1または複数のセッターを支持する支持部材であって、上記支持部材は、1または複数種類のユニット部材が、複数個相互に組み合わされて構成される、支持部材。
項2:上記ユニット部材は、所定の形状に形成された単体が複数個相互に接合されて構成される、項1に記載の支持部材。
項3:上記単体の所定の形状は、立方体または直方体である、項2に記載の支持部材。
項4:上記単体は接着剤によって相互に接合されている、項2または項3に記載の支持部材。
項5:上記支持部材は、セラミック材料から構成されている、項1~項3のいずれか一つに記載の支持部材。
項6:上記セラミック材料は、アルミナ、シリカ、マグネシア、ジルコニア、ムライト、およびフォルステライトからなる群から選択される少なくとも1種である、項5に記載の支持部材。
項7:項1~項6のいずれか一つに記載の支持部材を構成する、ユニット部材。
項8:被焼成物または被乾燥物を載置する1または複数のセッターと、上記セッターを支持する支持部材と、を備えた焼成用または乾燥用の治具であって、上記支持部材は、項1~項6のいずれか一つに記載の支持部材である、焼成用または乾燥用の治具。
【符号の説明】
【0054】
1 支持部材
2 セッター
3 ワーク
10 治具
U1,U2,U3 ユニット部材
S1,S2 単体