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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143723
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】ルーツ式流体機械
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/18 20060101AFI20241003BHJP
   F04C 2/18 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
F04C18/18 B
F04C2/18 A
F04C2/18 311A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056529
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002358
【氏名又は名称】新明和工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 厚
(72)【発明者】
【氏名】真下 悟史
(72)【発明者】
【氏名】中島 晋平
【テーマコード(参考)】
3H041
【Fターム(参考)】
3H041AA00
3H041BB09
3H041CC20
3H041DD06
(57)【要約】
【課題】理論容積係数が大きいルーツ式流体機械を提供する。
【解決手段】ルーツ式流体機械1は、一対のロータ21、22と、ケーシング3と、を備え、各ロータの葉数Zは3又は4であると共に、山歯212の横断面は卵形曲線の一部によって構成されかつ、ピッチ円20の直径Dpを100としたときの一対のロータのシール範囲の幅が1.8以上でかつ、理論容積係数が、葉数3の場合0.83以上、葉数4の場合0.72以上となるよう、山歯の横断面が形成されている。シール範囲の幅は、一対のロータ同士の最小隙間がゼロである理論歯形のロータの横断面において、ピッチ円の直径Dpを100としたときに一対のロータ同士の隙間が0以上0.1以下となる範囲の長さであり、理論容積係数は、流体室33の横断面積を(2×葉数Z)倍したロータ1回転当たりの移送面積を、ロータの歯先円直径Dkの二乗で除した無次元数である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに噛み合う一対のロータと、
前記一対のロータを回転可能に収容するケーシングと、を備え、
前記各ロータの葉数Zは3であると共に、前記各ロータのピッチ円よりも外側の山歯の横断面は、式(1)で表される卵形曲線であって、曲率の大きい側が前記ロータの径方向外方に位置する卵形曲線の一部によって構成され、
前記ピッチ円よりも内側の谷歯の横断面は、相手側ロータの前記山歯によって創成されるエンベロープによって構成され、
前記式(1)の係数a、b、cについて、|b/a|が0.8以上0.98以下でかつ、|c/a|が0.07以上0.325以下を満たすことによって、前記ピッチ円の直径Dpを100としたときの前記一対のロータのシール範囲の幅が1.8以上でかつ、理論容積係数が0.83以上となるよう、前記山歯の横断面が形成されている、ルーツ式流体機械。
【数1】
但し、前記シール範囲の幅は、前記一対のロータ同士の最小隙間がゼロである理論歯形のロータの横断面において、前記ピッチ円の直径Dpを100としたときに前記一対のロータ同士の隙間が0以上0.1以下となる範囲の長さであり、
前記理論容積係数は、前記ロータの周方向に隣り合う前記山歯と前記山歯の間と、前記ケーシングとによって囲まれる流体室の横断面積を(2×葉数Z)倍したロータ1回転当たりの移送面積を、前記ロータの歯先円直径Dkの二乗で除した無次元数である。
【請求項2】
互いに噛み合う一対のロータと、
前記一対のロータを回転可能に収容するケーシングと、を備え、
前記各ロータの葉数Zは4であると共に、前記各ロータのピッチ円よりも外側の山歯の横断面は、式(1)で表される卵形曲線であって、曲率の大きい側が前記ロータの径方向外方に位置する卵形曲線の一部によって構成され、
前記ピッチ円よりも内側の谷歯の横断面は、相手側ロータの前記山歯によって創成されるエンベロープによって構成され、
前記式(1)の係数a、b、cについて、|b/a|が0.8以上0.98以下でかつ、|c/a|が0.1以上0.45以下を満たすことによって、前記ピッチ円の直径Dpを100としたときの前記一対のロータのシール範囲の幅が1.8以上でかつ、理論容積係数が0.72以上となるよう、前記山歯の横断面が形成されている、ルーツ式流体機械。
【数2】
但し、前記シール範囲の幅は、前記一対のロータ同士の最小隙間がゼロである理論歯形のロータの横断面において、前記ピッチ円の直径Dpを100としたときに前記一対のロータ同士の隙間が0以上0.1以下となる範囲の長さであり、
前記理論容積係数は、前記ロータの周方向に隣り合う前記山歯と前記山歯の間と、前記ケーシングとによって囲まれる流体室の横断面積を(2×葉数Z)倍したロータ1回転当たりの移送面積を、前記ロータの歯先円直径Dkの二乗で除した無次元数である。
【請求項3】
互いに噛み合う一対のロータと、
前記一対のロータを回転可能に収容するケーシングと、を備え、
前記各ロータの葉数Zは3であると共に、前記各ロータのピッチ円よりも外側の山歯の横断面は、式(2)で表される卵形曲線であって、曲率の大きい側が前記ロータの径方向外方に位置する卵形曲線の一部によって構成され、
前記ピッチ円よりも内側の谷歯の横断面は、相手側ロータの前記山歯によって創成されるエンベロープによって構成され、
前記式(2)の係数a、bについて、|b/a|が0.94以上1.06以下を満たすことによって、前記ピッチ円の直径Dpを100としたときの前記一対のロータのシール範囲の幅が1.8以上でかつ、理論容積係数が0.83以上となるよう、前記山歯の横断面が形成されている、ルーツ式流体機械。
【数3】
但し、前記シール範囲の幅は、前記一対のロータ同士の最小隙間がゼロである理論歯形のロータの横断面において、前記ピッチ円の直径Dpを100としたときに前記一対のロータ同士の隙間が0以上0.1以下となる範囲の長さであり、
前記理論容積係数は、前記ロータの周方向に隣り合う前記山歯と前記山歯の間と、前記ケーシングとによって囲まれる流体室の横断面積を(2×葉数Z)倍したロータ1回転当たりの移送面積を、前記ロータの歯先円直径Dkの二乗で除した無次元数である。
【請求項4】
互いに噛み合う一対のロータと、
前記一対のロータを回転可能に収容するケーシングと、を備え、
前記各ロータの葉数Zは4であると共に、前記各ロータのピッチ円よりも外側の山歯の横断面は、式(2)で表される卵形曲線であって、曲率の大きい側が前記ロータの径方向外方に位置する卵形曲線の一部によって構成され、
前記ピッチ円よりも内側の谷歯の横断面は、相手側ロータの前記山歯によって創成されるエンベロープによって構成され、
前記式(2)の係数a、bについて、|b/a|が0.94以上1.06以下を満たすことによって、前記ピッチ円の直径Dpを100としたときの前記一対のロータのシール範囲の幅が1.8以上でかつ、理論容積係数が0.72以上となるよう、前記山歯の横断面が形成されている、ルーツ式流体機械。
【数4】
但し、前記シール範囲の幅は、前記一対のロータ同士の最小隙間がゼロである理論歯形のロータの横断面において、前記ピッチ円の直径Dpを100としたときに前記一対のロータ同士の隙間が0以上0.1以下となる範囲の長さであり、
前記理論容積係数は、前記ロータの周方向に隣り合う前記山歯と前記山歯の間と、前記ケーシングとによって囲まれる流体室の横断面積を(2×葉数Z)倍したロータ1回転当たりの移送面積を、前記ロータの歯先円直径Dkの二乗で除した無次元数である。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のルーツ式流体機械において、
前記ロータの歯先円直径Dkは、前記ピッチ円の直径Dpを100としたときに139以上144以下の範囲にある、ルーツ式流体機械。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載のルーツ式流体機械において、
前記一対のロータは、ヘリカルロータである、ルーツ式流体機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する技術は、ルーツ式流体機械に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ルーツ式ポンプが記載されている。ルーツ式ポンプは、ロータ対と、ロータ対を収容するケーシングとを備えている。特許文献1に記載されているルーツ式ポンプは多段であって、形状の異なる複数種のロータ対を有しているが、複数のロータ対のうちの一のロータ対を構成するロータは、次のような形状を有する3葉のロータである(特許文献1の段落0031、図4C参照)。つまり、ロータの基準円23′よりも径方向外側の凸部21′が、円弧21a′によって形成されると共に、基準円23′よりも径方向内側が、相対するロータの凸部円弧により描かれるエンベロープ曲線22a′により形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4767625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ルーツ式流体機械の体積効率向上及び/又は騒音低減のためにロータを3葉又は4葉にした場合、葉数が多いため、理論容積係数が小さくなるという不都合がある。理論容積係数とは、ロータの周方向に隣り合う山歯と山歯の間とケーシングとによって囲まれる流体室の横断面積を、葉数倍(つまり、一つのロータ当たりの流体室の数)及び2倍(つまり、ロータ二つ分)したロータ1回転当たりの移送面積を、ロータの歯先円直径の二乗で除した無次元数である。理論容積係数が大きいルーツ式流体機械は、同一のロータ径であっても、より高流量を実現できるため、装置の小型化に有利である。また、理論容積係数が大きいルーツ式流体機械は、低回転で高流量を実現できるから、低騒音化及び/又は省エネ化にも有利である。
【0005】
本願発明者は、特許文献1に記載されているような円弧からなるロータを有するルーツ式流体機械では、理論容積係数が、3葉であれば0.828、4葉であれば0.717を超えないことを見出した。理論容積係数が大きいルーツ式流体機械を実現するためには、ロータの歯形を工夫する必要がある。
【0006】
ここに開示する技術は、理論容積係数が大きいルーツ式流体機械を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
具体的に、ここに開示するルーツ式流体機械は、
互いに噛み合う一対のロータと、
前記一対のロータを回転可能に収容するケーシングと、を備え、
前記各ロータの葉数Zは3であると共に、前記各ロータのピッチ円よりも外側の山歯の横断面は真円ではない略円弧によって構成され、
前記ピッチ円の直径Dpを100としたときの前記一対のロータのシール範囲の幅が1.8以上でかつ、理論容積係数が0.83以上となるよう、前記山歯の横断面が形成されている、ルーツ式流体機械である。
【0008】
ここで、前記シール範囲の幅は、前記一対のロータ同士の最小隙間がゼロである理論歯形のロータの横断面において、前記ピッチ円の直径Dpを100としたときに前記一対のロータ同士の隙間が0以上0.1以下となる範囲の長さであり、
前記理論容積係数は、前記ロータの周方向に隣り合う前記山歯と前記山歯の間と、前記ケーシングとによって囲まれる流体室の横断面積を(2×葉数Z)倍したロータ1回転当たりの移送面積を、前記ロータの歯先円直径Dkの二乗で除した無次元数である。
【0009】
ここに開示する、別のルーツ式流体機械は、
互いに噛み合う一対のロータと、
前記一対のロータを回転可能に収容するケーシングと、を備え、
前記各ロータの葉数Zは4であると共に、前記各ロータのピッチ円よりも外側の山歯の横断面は真円ではない略円弧によって構成され、
前記ピッチ円の直径Dpを100としたときの前記一対のロータのシール範囲の幅が1.8以上でかつ、理論容積係数が0.72以上となるよう、前記山歯の横断面が形成されている、ルーツ式流体機械である。
【発明の効果】
【0010】
前記のルーツ式流体機械は、山歯の横断面が、真円ではない略円弧によって構成されているため、同じ葉数の円弧からなる山歯を有するルーツ式流体機械と比較して、理論容積係数を大きくすることができると共に、シール範囲の最小幅を大きくできるから、ルーツ式流体機械の性能向上に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、ルーツ式流体機械を模式的に示している。
図2図2は、円弧からなる山歯を有する従来のロータの形状を説明している。
図3図3は、従来のロータを有するルーツ式流体機械において、葉数Zを変化させた場合の理論容積係数を示している。
図4図4(a)(b)は、ルーツ式流体機械のシール範囲の幅を説明する図である。
図5図5は、円弧からなる山歯の中心を、ロータの径方向内方へオフセットした場合の、山歯と谷歯との境界の形状を示している。
図6図6は、円弧からなる山歯を有するルーツ式流体機械において、オフセット量を変化させた場合のシール範囲の最小幅を示している。
図7図7は、円弧からなる山歯を有するルーツ式流体機械において、オフセット量を変えた場合の、理論容積係数及びシール範囲の最小幅の変化を示している。
図8図8は、円弧からなる山歯と、楕円からなる山歯との形状を比較している。
図9図9は、楕円の式の係数を説明する図である。
図10図10は、長短径比を変更した各ロータの歯形に関する諸元を示している。
図11図11は、4葉の、楕円からなる山歯を有するルーツ式流体機械において、長短径比を変えた場合の、理論容積係数及びシール範囲の最小幅の変化を示している。
図12図12は、3葉の、楕円からなる山歯を有するルーツ式流体機械において、長短径比を変えた場合の、理論容積係数及びシール範囲の最小幅の変化を示している。
図13図13は、楕円からなる山歯と、卵形曲線からなる山歯との形状を比較している。
図14図14は、卵形曲線の式の係数を説明する図である。
図15図15は、山本の卵形曲線の式における係数cを変更した場合の、ロータの形状の変化を示している。
図16図16は、図15に示す各ロータの歯形に関する諸元を示している。
図17図17は、4葉の、山本の式による卵形曲線からなる山歯を有するルーツ式流体機械において、係数cを変えた場合の、理論容積係数及びシール範囲の最小幅の変化を示している。
図18図18は、3葉の、山本の式による卵形曲線からなる山歯を有するルーツ式流体機械において、係数cを変えた場合の、理論容積係数及びシール範囲の最小幅の変化を示している。
図19図19は、山本の式による卵形と、伊藤の式による卵形の形状を比較している。
図20図20は、4葉の、伊藤の式による卵形曲線を用いたロータにおいて、歯先円外径を変化させた場合の、ロータの歯形に関する諸元を示している。
図21図21は、4葉の、伊藤の式による卵形曲線からなる山歯を有するルーツ式流体機械において、歯先円外径を変えた場合の、理論容積係数及びシール範囲の最小幅の変化を示している。
図22図22は、山本の式による卵形曲線を用いたロータ、及び、伊藤の式による卵形曲線を用いたロータのそれぞれにおいて、歯先円外径を変化させた場合の、ロータの歯形に関する諸元を示している。
図23図23は、楕円からなる山歯と、2つの卵形曲線からなる山歯との特性を比較している。
図24図24は、円弧からなる山歯における閉込面積と、楕円からなる山歯における閉込面積とを比較している。
図25図25は、スパー型のロータにおける閉込容積と、ヘリカル型のロータにおける閉込容積とを比較している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、ルーツ式流体機械の実施形態について、図面を参照しながら説明する。ここで説明するルーツ式流体機械は例示である。
【0013】
(ルーツ式流体機械の全体構成)
図1は、ルーツ式流体機械1を模式的に示している。ルーツ式流体機械1は、第1ロータ21及び第2ロータ22からなる一対のロータ21、22を有している。一対のロータ21、22は、ケーシング3に収容されている。ケーシング3は、二つのロータ21、22を回転可能に収容する。ケーシング3は、吸込口31と有していると共に、吐出口32を有している。
【0014】
図1において、第1ロータ21に一体化された第1シャフト211、及び、第2ロータ22に一体化された第2シャフト221は共に、紙面に直交する方向に延びている。第1シャフト211と第2シャフト221とは、平行である。第1シャフト211は、図示を省略する駆動源に接続されている。第1シャフト211と第2シャフト221とは、図示を省略するギヤを介して互いに連結されている。駆動源の駆動力によって第1シャフト211が図1の反時計回り方向に回転すると、第2シャフト221は、時計回り方向に回転する。
【0015】
図1のルーツ式流体機械1において、第1ロータ21及び第2ロータ22は、4葉のロータである。第1のロータ21は、周方向に等間隔に配置された4つの山歯212と、隣り合う山歯212と山歯212との間の谷歯213であって、周方向に等間隔に配置された4つの谷歯213とを有している。尚、山歯212は、第1ロータ21のピッチ円20よりも外側の部位であり、谷歯213は、ピッチ円20よりも内側の部位である。
【0016】
第1ロータ21の横断面形状、及び、第2ロータ22の横断面形状は、同じ形状である。第2ロータ22も、4つの山歯222と4つの谷歯223とを有している。
【0017】
第1ロータ21及び第2ロータ22は、非接触状態で互いに噛み合った状態のまま、それぞれ反対方向に回転する。これにより、第1ロータ21及び第2ロータ22のそれぞれにおいて、吸込口31から吸い込まれた流体(空気又はその他の気体)が、周方向に隣り合う山歯212と山歯212との間と、ケーシング3の内周面とによって囲まれた流体室33内に閉じ込められると共に、吐出口32まで送られて、吐出口32からケーシング3の外へ吐出される。
【0018】
尚、第1ロータ21及び第2ロータ22は、3葉のロータであってもよい。4葉又は3葉のロータを有するルーツ式流体機械1は、体積効率の向上、及び/又は、騒音低減の点で、2葉のロータを有するルーツ式流体機械1よりも有利である。
【0019】
図1のルーツ式流体機械1は、第1ロータ21の山歯212の横断面、及び、第2ロータ22の山歯222の横断面がそれぞれ、非円弧によって構成されているという特徴を有している。山歯222の横断面はそれぞれ、真円ではない略円弧によって構成されている。ロータ21、22の歯形形状について詳細に説明する。尚、ロータ21、22は、以下において説明する、非円弧によって構成された山歯を有する二種のロータを含んでいる。
【0020】
また、以下においては主に4葉のロータを図示して、4葉のロータを例に、ここに開示する技術の説明をするが、ここに開示する技術は、3葉のロータにも適用可能である。3葉のロータの特性については、随時、図において示す。
【0021】
(従来のロータの歯形形状)
ここに開示する技術が適用されたロータ21、22の歯形を説明する前に、図2を参照しながら、従来のロータ41、42の歯形について説明をする。図2は、第1ロータ41と第2ロータ42との噛み合い箇所を拡大して示している。第1ロータ41の山歯412の横断面、及び、第2ロータ42の山歯422の横断面はそれぞれ、円弧によって構成されている。
【0022】
また、図2に示すロータ41、42は、第1ロータ41と第2ロータ42との最小隙間がゼロである。図2のロータ41、42の歯形は、円弧からなる山歯412、422を有するロータ41、42の理論歯形である。ルーツ式流体機械1の実際のロータの歯形は、図2に示される理論歯形から、所定の最小隙間分だけ変位させた形状となる。
【0023】
図2のDpは、第1ロータ41のピッチ円410の直径である。ピッチ円410は、山歯412及び谷歯413を有する第1ロータ41の基準円であり、第1ロータ41及び第2ロータ42は、互いにピッチ円410、420において接している。
【0024】
山歯412は、第1ロータ41においてピッチ円410よりも径方向の外側の部分であり、谷歯413は、ピッチ円411よりも径方向の内側の部分である。図2におけるピッチ円410上の点Pは、山歯412と谷歯413との境界の点である。
【0025】
前述したように、図2のロータ41、42において山歯412の横断面は、円弧によって構成されている。山歯412の円弧の直径は、dである。
【0026】
ここで、ピッチ円411の直径Dp、ロータ41の葉数Zとすると、各葉の中心線に対するピッチ円411上の歯厚半角θpは、次式(1)で表される。尚、2で除することの一つは、ロータの一つの葉は、山歯と谷歯との一対で構成されるためであり、2で除することのもう一つは、θpは、山歯の全体の半角だからである。
【0027】
【数1】
【0028】
θpは、4葉のロータであれば、22.5°であり、3葉のロータであれば、30°である。
【0029】
ロータ41のピッチ円の直径Dpと葉数Zとが決まれば、山歯412の円弧の直径dは以下の式(2)によって一意に決まり、ロータ41の歯先円直径Dkは以下の式(3)によって一意に決まる。
【0030】
【数2】
【0031】
尚、図2においては、第1ロータ41の山歯412の円弧の中心がピッチ円410上にあるため、谷歯413の横断面は、山歯412の円弧と同一径の円弧によって構成されている。後述するように、山歯412の円弧の中心がピッチ円410からずれると、谷歯413の横断面は、第2ロータ42の山歯422の円弧によって創成されるエンベロープ(包絡線)になる。
【0032】
ルーツ式流体機械1の性能を表すパラメータの一つとして、理論容積係数がある。理論容積係数は、ロータの周方向に隣り合う山歯と山歯の間と、ケーシングとによって囲まれる流体室(図1の網かけの流体室33参照)の横断面積Aを葉数Z倍(つまり、ロータ一つ当たりの流体室数)及び2倍(つまり、第1ロータと第2ロータとの二つ分)したロータ1回転当たりの移送面積(=2AZ)を、ロータの歯先円直径Dkの二乗で除した無次元数(=2AZ/Dk)である。
【0033】
ここで、図2に示すような山歯が円弧からなる理論歯形によって構成したロータについて、ピッチ円の直径Dpを100mmに固定した上で、葉数Zを2~4に変化させた場合の理論容積係数を図3に記す。
【0034】
前述の通り、実際のルーツ式流体機械1では、ロータの歯形が、理論歯形から、所定の最小隙間分だけ変位させた形状になるため、理論容積係数は図3に記された値よりも小さくなる。つまり、山歯の横断面が円弧によって構成される場合、ルーツ式流体機械1の理論容積係数は、3葉のロータであれば、0.828を超えることはなく、4葉のロータであれば、0.717を超えることはない。
【0035】
理論容積係数が大きいルーツ式流体機械1は、同一のロータ径であっても、より高流量を実現できるため、装置の小型化に有利である。また、理論容積係数が大きいルーツ式流体機械1は、低回転で高流量を実現できるから、低騒音化及び/又は省エネ化にも有利である。
【0036】
理論容積係数が大きくても、流体室33内に閉じ込められた流体が、吸込口31から吐出口32へ移送される間に漏れてしまうと、ルーツ式流体機械1の流量が低減してしまう。ルーツ式流体機械1の性能評価としては、理論容積係数とは別の、漏れに関係する指標が必要である。
【0037】
図4に示すように、ルーツ式流体機械1において、一対のロータ41、42が噛み合って回転するときに、低圧の吸込み側と、高圧の吐出し側の間には、2種類の漏れ経路が存在している。(1)一つは各ロータ41、42の歯先とケーシング3の内面との隙間の漏れ経路であり、(2)もう一つは、ロータ41、42同士の隙間の漏れ経路である。
【0038】
ルーツ式流体機械1は、ロータ41、42同士、及び、ロータ41、42とケーシング3とが非接触であるため、隙間は常に存在しているが、その隙間が狭ければ、漏れが抑制される。本願発明者の検討によれば、ピッチ円の直径Dpが100mmであるロータであって、ロータ同士の最小隙間がゼロである理論歯形のロータにおいて、隙間が0以上100μm(=0.1mm)以下となる部分の幅が大きければ、漏れ抑制に有効であることが判った。そこで、ピッチ円直径Dpに対する隙間の大きさC(=C/Dp)が0以上0.001以下の範囲を、漏れ抑制の機能を発揮できる「シール範囲」と呼ぶ。
【0039】
ここで、図4(a)に丸30を付けて示すように、ロータ41、42とケーシング3との間においては、一つのロータ41、42につき、常時、1又は数箇所のシール範囲が形成され、そのシール範囲の幅は一定である。ロータ41、42の歯先形状を工夫するといった対策を施すことにより、ロータ41、42とケーシング3との間のシール範囲の幅を長くすることは可能である。尚、ロータ41、42の歯先形状を変えることが、後述するロータ41、42同士におけるシール範囲に悪影響を及ぼすこともある。
【0040】
一方、噛み合った一対のロータ41、42が回転する場合、第1ロータ41と第2ロータ42との間に形成されるシール範囲は、ロータ41、42の回転位相によって変化する。図4(a)に示すように第1ロータ41の山歯412が、第2ロータ42の谷歯423に対向する回転位相、又は、第1ロータ41の谷歯413が、第2ロータ42の山歯422に対向する回転位相においては、シール範囲の幅は長くなり、図4(b)に示すように、第1ロータ41の山歯412と谷歯413の境界と、第2ロータ42の山歯422と谷歯423との境界が接する回転位相においては、シール範囲の幅は、相対的に短くなる。特に、図4に示すロータの歯形は、山歯412、422と谷歯413、423との境界が滑らかでなく角が立っている。そのため、境界同士が接する回転位相においては、シール範囲の幅が大幅に短くなる。シール範囲の幅が短いことは、漏れ量を増大させる。
【0041】
尚、ルーツ式流体機械1の漏れの評価指標として、ロータ41、42の回転に伴い変化するシール範囲の幅の平均を指標とすることも可能であるが、シール範囲の幅が短くなったタイミングで大量の漏れが発生することを考慮して、ここでは、ロータ41、42の回転に伴い変化するシール範囲の幅の最小値(以下、シール範囲の最小幅と呼ぶ)を、漏れの評価指標として用いる。つまり、シール範囲の最小幅が大きいルーツ式流体機械1は、漏れを抑制できる。
【0042】
前述の通り、山歯と谷歯との境界が滑らかでなく角が立っていると、シール範囲の最小幅が小さくなってしまう。ルーツ式流体機械1の漏れを抑制するために、山歯と谷歯との境界が滑らかになるよう、ロータの歯形を設計することが求められる。
【0043】
山歯と谷歯との境界を滑らかにする設計手法として、山歯を構成する円弧の中心を、ロータのピッチ円上から、ロータの径方向の内側へずらす手法が、従来から知られている。山歯を構成する円弧の中心をずらす(つまり、オフセットする)と、谷歯の横断面形状は、例えば相手側のロータの山歯によって創成されるエンベロープにより構成できる。図5は、山歯412を構成する円弧中心のオフセット量を、1mmずつ変化させた場合の山歯412と谷歯413との境界の形状を例示している。尚、全ての場合において、山歯412と谷歯413の境界は、ロータ41のピッチ円上(つまり、点P)に位置している。オフセット量を大きくすれば、山歯412と谷歯413の境界を滑らかになる。図5に示すように、オフセット量を大きくして山歯412と谷歯413の境界を滑らかにすれば、シール範囲の最小幅は、大きくなる。
【0044】
その一方で、オフセット量を大きくすると、ロータの歯先円直径Dkが小さくなって、流体室33の断面積が小さくなってしまう。その結果、図6に示すように、理論容積係数が小さくなる。つまり、図7に示すように、オフセット量の変化に対して、理論容積係数が大きくなる方向と、シール範囲の最小幅が大きくなる方向とは一致しないため、山歯が円弧によって構成されるロータを有するルーツ式流体機械は、理論容積係数の向上と、シール範囲の最小幅の増大とを両立させることができない。
【0045】
尚、山歯を構成する円弧の中心を、ピッチ円から径方向の外方へずらすと、歯先円外径は大きくなるが、この場合、相手側のロータの山歯によって創成される谷歯と山歯との境界がピッチ円よりも径方向の外方へずれてしまい、ロータとロータとの間にシール範囲が形成できなくなる。山歯を構成する円弧の中心を、ピッチ円から径方向の外方へずらすことはできない。
【0046】
以上の検討から、山歯が円弧であるロータを有する従来のルーツ式流体機械は、図3に示すように、ピッチ円の直径Dpを100としたときに、4葉であれば、歯先円直径Dkの最大値は約139であり、理論容積係数は0.717を超えない。3葉であれば、歯先円直径Dkの最大値は約151であり、理論容積係数は0.828を超えない。
【0047】
(楕円からなる山歯を有するロータ)
図8の上図に示すように、山歯412の横断面形状が円弧によって構成されている場合に、山歯412の中心をロータ41の径方向の内方へオフセットさせると、ロータ41の歯先円直径Dkが小さくなって、理論容積係数が小さくなってしまう。そこで、図8の下図に示すように、山歯512の中心をロータ51の径方向の内方へオフセットさせても、歯先円直径Dkが小さくならないよう、山歯512の横断面形状を楕円の一部によって構成することが考えられる。楕円は、以下の式(4)によって表される。楕円は、その長径がロータの径方向となるよう配置される。
【0048】
【数3】
【0049】
式(4)の係数a、bはそれぞれ、式(4-2)で表される。尚、図9に示すように、tは楕円の中心とピッチ円とのオフセット量であり、ロータの径方向外方をプラスとする。また、ypは、楕円の中心を基準とした、楕円とピッチ円との交点Pのy座標である。
【0050】
【数4】
【0051】
山歯512の横断面形状が楕円の一部によって構成されると、歯先円直径Dkが、円弧からなる山歯412のロータ41と比べて大きくできるため、理論容積係数を大に維持できる。前述したように、円弧からなる山歯412を有する4葉のロータ41であれば、歯先円直径Dkは、最大で139(但しピッチ円の直径Dpを100とする)である。楕円からなる山歯512のロータ51は、その歯先円直径Dkを139以上にすることができる。
【0052】
理論容積係数が大である一方で、山歯512の中心がロータの径方向の内方へオフセットしていることにより、前述したように、シール範囲の最小幅を大きくできる。
【0053】
尚、ロータ51のピッチ円510よりも内側の谷歯513の横断面は、相手側ロータの山歯によって創成されるエンベロープによって構成される。
【0054】
図10は、ロータの歯先円外径を一定にした上で、楕円の長径aと短径bとの長短径比(a/b)を変化させた場合のロータの歯形に関する諸元を示している(従来例、及び、参考例1~9)。図11は、図10に基づく図であって、楕円の長短径比を変化させた場合の、理論容積係数の変化とシール範囲の最小幅の変化とを示している。尚、ロータは、4葉である。
【0055】
参考例1~9のロータは、理論容積係数が0.72以上でかつ、ピッチ円の直径を100としたときのシール範囲の最小幅が1.8以上である。円弧からなる山歯412を有する従来例のロータ41と比較して、理論容積係数が大きくかつ、シール範囲の最小幅が大きい。図11から、楕円の長短径比を、1.15以上3以下にすれば、ルーツ式流体装置1は、理論容積係数が0.72以上でかつ、ピッチ円の直径Dpを100としたときのシール範囲の最小幅が1.8以上を確保できる。
【0056】
山歯の横断面が、式(4)で表される楕円であって、長径をロータの径方向となるよう配置した楕円の一部によって構成される、4葉のルーツ式流体装置は、理論容積係数が0.72以上でかつ、ピッチ円の直径Dpを100としたときのシール範囲の最小幅が1.8以上を確保できる。
【0057】
尚、図10の歯形は一例であり、楕円からなる山歯512を有するロータ51のオフセット量及び長短径比の組み合わせは、様々な組み合わせが可能である。
【0058】
図12は、3葉のロータについて、楕円の長短径比を変化させた場合の、理論容積係数の変化とシール範囲の最小幅の変化とを示している。図12から、3葉のルーツ式流体装置は、理論容積係数が0.83以上でかつ、ピッチ円の直径Dpを100としたときのシール範囲の最小幅が1.8以上を確保することは難しい。
【0059】
(卵形曲線からなる山歯を有するロータ)
前述したように山歯512が楕円の一部によって構成されれば、円弧からなる山歯412では実現することができない、大きい理論容積係数と、長いシール幅の最小幅との組み合わせを実現できる可能性がある。
【0060】
楕円の一部からなる山歯512と、相手側ロータの山歯のエンベロープによって構成される谷歯513との組み合わせは、山歯512と谷歯513との境界が角になりやすい。これは、シール範囲の最小幅を小さくする。図13の符号514は、ロータ51の山歯512の基礎となる楕円である。符号522は、相手側のロータ52の山歯(つまり、楕円の一部)である。この山歯522の形状に倣って、楕円514におけるピッチ円510よりも径方向内側の部分517が削られていくことにより、谷歯513が創成される。このときに、二つの楕円514、522のなす角αが大きいと、山歯512と谷歯513との境界に角が立ちやすい。これは、シール範囲の最小幅を小さくする。楕円の一部からなる山歯512を有するロータ51の歯形には、改良の余地がある。
【0061】
図13に破線515で示すように、山歯512を構成する基礎の曲線が、角αが小さくなるような曲線であれば、山歯512と谷歯513との境界に角が立ち難くなる。そこで、実線で示す楕円514の一部と破線515によって構成されるような、いわゆる卵形曲線516を基礎に山歯を構成することが考えられる。尚、卵形曲線は、ここでは、ロータの径方向に対応する軸に対して対称な閉曲線でかつ、当該軸の一端側(ロータの径方向の外方側)と他端側(ロータの径方向の内方側)とを比較した場合に、一端側が先細で、他端側が、一端側と比べて先細ではないような、軸の延びる方向について非対称の閉曲線をいう。
【0062】
本願発明者が検討したところ、ルーツ式流体機械1のロータの歯形の基礎として用いることができる卵形曲線の式としては、(1)山本の式と、(2)伊藤の式との2つが存在することがわかった。
【0063】
(1)山本の式(https://nyjp07.com/index_egg5.html:卵形の曲線を表す方程式V)
下記の式(5)が、山本の式である。係数c=0であれば、山本の式は、楕円の式と同じである。
【0064】
【数5】
【0065】
式(5)の係数a、bはそれぞれ、式(5-2)で表される。なお、xp、ypは、卵形曲線の中心を基準とした、卵形曲線とピッチ円との交点Pのy座標である(図14参照)。
【0066】
【数6】
【0067】
卵形曲線の中心(0,0)がピッチ円の上にある場合、ピッチ円直径Dp、歯先円外径Dk、ロータの葉数、及び、係数cを決めると、山本の式の係数a及びbは一意に定まる。図15は、ロータの歯先円外径、ピッチ円直径を一定にした上で、係数cを変化させた場合のロータの歯形の変化を例示している。また、図16は、図15に示す各ロータの歯形に関する諸元の一例を示している。図17は、図16に基づく図であって、|c/a|を変化させた場合の、理論容積係数の変化とシール範囲の最小幅の変化とを示している。尚、ロータは、4葉である。
【0068】
従来例は、円弧からなる山歯412を有するロータ41である(a=b、c=0)。実施例1-1~1-6のロータは、理論容積係数が0.72以上でかつ、ピッチ円の直径を100としたときのシール範囲の最小幅が1.8以上である。円弧からなる山歯412を有する従来例のロータ41と比較して、理論容積係数が大きくかつ、シール範囲の最小幅が長い。比較例1は、理論容積係数が0.72以上でなく、シール範囲の最小幅が1.8以上でない。比較例2は、シール範囲の最小幅が1.8以上でない。図17から、|c/a|を0.1以上0.45以下にすれば、理論容積係数が0.72以上でかつ、ピッチ円の直径を100としたときのシール範囲の最小幅が1.8以上を確保できる。
【0069】
また、図15の例では、歯先円外径Dkを変えずに、係数cを変化させているが、歯先円外径Dkは大きくすることも可能である。歯先円外径Dkが大きくなれば、理論容積係数はさらに大きくなる。その一方で、後述の通り、本願発明者の検討によれば、歯先円外径Dkが拡大するに伴い、シール範囲の最小幅が狭くなっていく傾向がある。ピッチ円の直径Dpを100としたときに、歯先円外径Dkが144を超えると、シール範囲の最小幅が、十分なシール機能を発揮できなくなる程度に狭くなることから、ロータの歯先円外径Dkは、ピッチ円の直径Dpを100としたときに、139以上でかつ144以下とする。
【0070】
尚、図15の歯形は一例である。例えば卵形曲線の中心を、ピッチ円からずらす(つまり、オフセットする)ことも可能である。オフセット量を変化させれば、ロータの歯形の自由度はさらに高まる。
【0071】
図18は、3葉のロータについて、山本の式の係数cを変化させた場合の、理論容積係数の変化とシール範囲の最小幅の変化とを示している。図18の横軸は、山本の式の係数a及びcの比(|c/a|)である。図18から、|c/a|を、0.07以上0.325以下にすれば、ルーツ式流体装置1は、理論容積係数が0.83以上でかつ、ピッチ円の直径Dpを100としたときのシール範囲の最小幅が1.8以上を確保できる。
【0072】
(2)伊藤の式(https://nyjp07.com/index_egg_by_Itou.html:伊藤忠夫氏による卵形曲線の方程式)
下記の式(6)が、伊藤の式である。
【0073】
【数7】
【0074】
式(6)の係数a、bはそれぞれ、式(6-2)で表される。なお、xp、ypは、卵形曲線の中心を基準とした、卵形曲線とピッチ円との交点Pのy座標である(図14参照)。
【0075】
【数8】
【0076】
図19は、山本の式による卵形の曲線(実線)と、伊藤の式による卵形の曲線(破線)とを比較している。尚、山本の式の係数の値は、a=1、b=0.93178、c=-0.0976であり、伊藤の式の係数の値は、a=-1、b=1.025である。図19から明らかなように、山本の式による卵形曲線と、伊藤の式による卵形曲線とはほぼ一致している。伊藤の式による卵形の曲線も、前述した山本の式による卵形の曲線と同様に、ロータの山歯の横断面形状を構成できる。
【0077】
伊藤の式では、係数がa、bの2つのみであり、これらの係数a、bは、ロータのピッチ円の直径Dp、歯先円外径Dk、及び、ロータの葉数Zが決まれば一意に定まる。そこで、歯先円外径Dkを変化させた場合の、ロータの歯形に関する諸元を図20に示す。尚、ロータは、4葉である。
【0078】
歯先円外径が拡大すると理論容積係数は大きくなるが、シール範囲の最小幅は徐々に狭くなっていく。図21に示すように、ピッチ円の直径を100としたときの、1.8以上のシール範囲の最小幅を維持するためには、ロータの歯先円外径Dkの上限は、ピッチ円の直径Dpを100としたときに、144である。また、歯先円外径Dkが139以上であれば、理論容積係数が0.72以上になる。尚、歯先円外径の変化に対する、理論容積係数、及び、シール範囲の最小幅の変化の傾向は、前述した山本の式による卵形曲線を用いた場合も同様であり、楕円を用いた場合も同様である。
【0079】
図22は、山本の式による卵形曲線を用いたロータにおいて、歯先円外径Dkを変化させた場合の、係数a、bを例示している。尚、ピッチ円の直径は100mmで一定である。図22に示される係数a、bであれば、4葉のロータにおいて、ロータのシール範囲の幅が1.8以上でかつ、理論容積係数が0.72以上となり、3葉のロータにおいて、ロータのシール範囲の幅が1.8以上でかつ、理論容積係数が0.83以上となる。従って、山本の式による卵形曲線を用いたロータにおいては、|b/a|は0.8以上0.98以下とすればよい。
【0080】
また、伊藤の式による卵形曲前を用いたロータにおいて、図22に示される係数a、bであれば、4葉のロータにおいて、ロータのシール範囲の幅が1.8以上でかつ、理論容積係数が0.72以上となり、3葉のロータにおいて、ロータのシール範囲の幅が1.8以上でかつ、理論容積係数が0.83以上となる。従って、伊藤の式による卵形曲線を用いたロータにおいては、|b/a|は0.94以上1.06以下とすればよい。
【0081】
図23は、前述した楕円によって構成される歯形と、2種類の卵形曲線によって構成される歯形とを比較する図である。尚、ピッチ円の直径は100mmで、歯先円外径は、139.02mmで全て同じである。また、ロータは、4葉である。
【0082】
理論容積係数が同じであれば、卵形曲線(山本の式)によって構成される歯形の方が、楕円によって構成される歯形よりも、シール範囲の最小幅が大きいことがわかる。また、伊藤の式による卵形曲線によって構成される歯形も、山本の式による卵形曲線によって構成される歯形と同様の、理論容積係数と、シール範囲の最小幅との組み合わせが得られる。
【0083】
(楕円、又は、卵形曲線によって構成される歯形の閉込部に対する対処)
前述したような、楕円、又は、卵形曲線によって構成される歯形は、理論容積係数と、シール範囲の最小幅との組み合わせについては、円弧によって構成される歯形よりも、有利である。その一方で、楕円、又は、卵形曲線によって構成される歯形は、図24の下図に示すように、ロータ21の山歯212とロータ22の谷歯223との間、又は、ロータ21の谷歯とロータ22の山歯との間に、「閉込部」が形成されやすくなる。ロータ21、22の間に形成された閉込部は、ロータ21、22の回転に伴いその容積が次第に小さくなっていくため、ルーツ式流体機械1の圧縮損失となる。尚、図24の上図に示すように、円弧によって構成される歯形は、ロータ41の山歯412とロータ42の谷歯423との間、又は、ロータ41の谷歯とロータ42の山歯との間に、閉込部が形成されにくい。
【0084】
図25の右に示すように、ルーツ式流体機械1のロータ21、22が、その軸方向についてねじりのないスパー型のロータ21a、22aであれば、閉込部の容積は、ロータ21a、22aの横断面における閉込面積×ロータ長によって表すことができる。スパー型のロータ21a、22aの閉込部の容積は、相対的に大きく、ルーツ式流体機械1の圧縮損失は、相対的に大である。
【0085】
これに対し、軸方向にねじれたヘリカル型のロータ21b、22bであれば、ロータ21b、22bの間に形成された閉込部は、ロータ21b、22bの回転に伴い、軸方向の一端から他端へ、容積を一定に保ちながら移動し、ロータ21b、22bの他端に到達した後、ケーシング3の側壁との間で、その容積が次第に小さくなっていく。図25の左に示すように、ヘリカル型のロータ21b、22bでは、容積が次第に小さくなる閉込部が、軸方向の他端部のみであるため、閉込部の容積は、スパー型のロータ21a、22aに比べて大幅に小さい。例えば、長短径比a/bを1.88とした楕円によって構成される歯形について、スパー型のロータ21a、22aの閉込部の容積は、8240mmになるのに対し、ねじれ角が90°のヘリカル型のロータ21b、22bの閉込部の容積は、350mmである。
【0086】
楕円、又は、卵形曲線によって構成される歯形のロータ21、22は、ヘリカル型のロータとすることによって、ルーツ式流体機械1の圧縮損失の低減を図ることができる。
【0087】
尚、圧縮損失の低減を目的として、例えば実公昭60-14945号公報に記載されているような、ケーシング3の側壁に、閉込部の圧力を逃がすためのくぼみを設けてもよい。また、同様の機能を発揮するくぼみを、ケーシング3の側壁ではなく、ケーシング3の側壁に対向するロータ21、22の端面に形成してもよい。
【0088】
(まとめ)
従って、ここに開示するルーツ式流体装置1の一つは、図1に示すように、
互いに噛み合う一対のロータ21、22と、
前記一対のロータ21、22を回転可能に収容するケーシング3と、を備え、
前記各ロータ21、22の葉数Zは4であると共に、前記各ロータ21、22のピッチ円20よりも外側の山歯212、222の横断面は卵形曲線の一部によって構成され、
前記ピッチ円20の直径Dpを100としたときの前記一対のロータ21、22のシール範囲の幅が1.8以上でかつ、理論容積係数が0.72以上となるよう、前記山歯212、222の横断面が形成されている。
【0089】
また、ここに開示するルーツ式流体装置は、図15図17及び図22に示すように、
前記山歯の横断面は、前記の式(5)で表される卵形曲線であって、曲率の大きい側が前記ロータの径方向外方に位置する曲線の一部によって構成され、
前記ピッチ円よりも内側の谷歯の横断面は、相手側ロータの前記山歯によって創成されるエンベロープによって構成され、
前記式(5)の係数a、b、cについて、|b/a|が0.8以上0.98以下でかつ、|c/a|が0.1以上0.45以下を満たす。
【0090】
また、ここに開示するルーツ式流体装置は、図19及び図22に示すように、
前記山歯の横断面は、式(6)で表される卵形曲線であって、曲率の大きい側が前記ロータの径方向外方に位置する卵形曲線の一部によって構成され、
前記ピッチ円よりも内側の谷歯の横断面は、相手側ロータの前記山歯によって創成されるエンベロープによって構成され、
前記式(6)の係数a、bについて、|b/a|が0.94以上1.06以下を満たす。
【0091】
図21に示すように、前記ロータの歯先円直径Dkは、前記ピッチ円の直径Dpを100としたときに139以上144以下の範囲にある。
【0092】
ここに開示する4葉のロータを有するルーツ式流体装置は、前述したように、従来のルーツ式流体装置と比較して、理論容積係数を大きくすることができると共に、シール範囲の最小幅を大きくできるから、ルーツ式流体機械の性能向上に有利である。
【0093】
ここに開示するもう一つのルーツ式流体装置は、図18に示すように、
互いに噛み合う一対のロータと、
前記一対のロータを回転可能に収容するケーシングと、を備え、
前記各ロータの葉数Zは3であると共に、前記各ロータのピッチ円よりも外側の山歯の横断面は卵形曲線の一部によって構成され、
前記ピッチ円の直径Dpを100としたときの前記一対のロータのシール範囲の幅が1.8以上でかつ、理論容積係数が0.83以上となるよう、前記山歯の横断面が形成されている。
【0094】
また、3葉のロータを有するルーツ式流体装置において、図18及び図22に示すように、前記山歯の横断面は、前記の式(5)で表される卵形曲線であって、曲率の大きい側が前記ロータの径方向外方に位置する曲線の一部によって構成され、
前記ピッチ円よりも内側の谷歯の横断面は、相手側ロータの前記山歯によって創成されるエンベロープによって構成され、
前記式(5)の係数a、b、cについて、|b/a|が0.8以上0.98以下でかつ、|c/a|が0.07以上0.325以下を満たす。
【0095】
また、3葉のロータを有するルーツ式流体装置において、図19及び図22に示すように、前記山歯の横断面は、式(6)で表される卵形曲線であって、曲率の大きい側が前記ロータの径方向外方に位置する卵形曲線の一部によって構成され、
前記ピッチ円よりも内側の谷歯の横断面は、相手側ロータの前記山歯によって創成されるエンベロープによって構成され、
前記式(6)の係数a、bについて、|b/a|が0.94以上1.06以下を満たす。
【0096】
ここに開示する3葉のロータを有するルーツ式流体装置も、従来のルーツ式流体装置と比較して、理論容積係数を大きくすることができると共に、シール範囲の幅を長くできるから、ルーツ式流体機械の性能向上に有利である。
【0097】
尚、前述した山歯を形成する各式は基本式であり、それらの基本式を座標変換(反転、平行移動、及び/又は、回転等)した式も、ここに開示する技術思想の範疇に含まれる。
【0098】
前記一対のロータは、図25に示すように、ヘリカルロータ21b、22bである。ヘリカルロータは、ルーツ式流体機械1の圧縮損失の低減を図ることができる。
【符号の説明】
【0099】
1 ルーツ式流体機械
20 ピッチ円
21 (第1)ロータ
212 山歯
222 山歯
22 (第2)ロータ
213 谷歯
223 谷歯
3 ケーシング
33 流体室
51 ロータ
510 ピッチ円
512 山歯
513 谷歯
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25