(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143742
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】採水器
(51)【国際特許分類】
G01N 1/12 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
G01N1/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056564
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】309015019
【氏名又は名称】地方独立行政法人青森県産業技術センター
(72)【発明者】
【氏名】三浦 創史
(72)【発明者】
【氏名】村井 博
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 正司
(72)【発明者】
【氏名】静 一徳
【テーマコード(参考)】
2G052
【Fターム(参考)】
2G052AA06
2G052AB04
2G052AB22
2G052AB23
2G052AB26
2G052AB27
2G052AC03
2G052AC05
2G052AD06
2G052AD26
2G052AD46
2G052BA02
2G052BA17
2G052DA12
2G052DA22
2G052DA23
2G052GA09
2G052GA28
2G052GA29
2G052HA12
2G052JA06
2G052JA07
2G052JA08
2G052JA23
(57)【要約】
【課題】
積載重量が小さな無人飛行体を用いた湖水等の採水に関する採水器の採水精度、操作性、メンテナンス性
【解決手段】
中空でかつ円筒状容器3に、穴が開いている上部ドーナツ型蓋2および下部ドーナツ型蓋5を設け、その穴をふさぐことができる上側吸盤型弁1および下側吸盤型弁4を有し、該吸盤型弁1および4は比重dが1.05以上1.5以下の素材とし、前記ドーナツ型蓋に開いている穴の内径Aと吸盤型弁の外径Bの比B/Aが1.2以上でありかつ吸盤型弁1および4の外径Bは円筒状容器3の内径C未満であり、該吸盤型弁が接する蓋表面6の算術平均粗さRaが1.8μm以下であり、上部ドーナツ型蓋2に接する吸盤型弁1に直径Dが1.5mm以上の空気穴7を設けることを特徴とする採水器を用いる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空でかつ円筒状の容器に、穴が開いているドーナツ型蓋を上下に設け、その穴を塞ぐことができる吸盤型弁を前記ドーナツ型蓋の鉛直方向上側に有することを特徴とする採水器。
【請求項2】
前記吸盤型弁の素材の比重dが1.05以上1.5以下であることを特徴とする請求項1に記載の採水器。
【請求項3】
前記ドーナツ型蓋に開いている穴の径Aと前記吸盤型弁の外径Bの比B/Aが1.2以上であり、かつ前記吸盤型弁の外径は前記円筒状容器の内径未満であることを特徴とする請求項1及び請求項2に記載の採水器。
【請求項4】
前記吸盤型弁が接する前記ドーナツ型蓋の表面の算術平均粗さRaが1.8μm以下であることを特徴とする請求項1~3に記載の採水器。
【請求項5】
前記ドーナツ型蓋のうち上側に設けた方の蓋に接する吸盤型弁に直径が1.5mm以上の空気穴を設けることを特徴とする請求項1~4に記載の採水器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海や河川、湖沼のプランクトン採取や水質調査で使用する採水器に関する。
【背景技術】
【0002】
河川、湖沼、ダムでは、大量のプランクトンによるアオコの発生など水質悪化の問題があり、定期的に水質を調査する必要がある。現在は採水器を携帯した調査員がモーターボート等で採水ポイントへ移動し、採水器を水中に投下することで採水作業を行っている。しかしながら、この方法では調査員がモーターボート等に乗ることに時間と労力がかかること、さらにモーターボート等での移動は付近の水を撹拌してしまい分析結果を不正確にするなどのデメリットがある。そこで、無人飛行体を利用して湖沼等の採水を行うことが期待されている。
【0003】
一般的に使用されている採水器は、バンドーン型やハイロート型、地下水型がある。バンドーン型はメッセンジャーと呼ばれる重りで蓋を閉じるための仕掛けが必要であり、必然的に重くなり無人飛行体での運用には採用できない。ハイロート型は自重で水中に沈めるために採水量以上の容器重量が必要となる。なおかつ、採水口の開閉に2本のロープを操作しなければならず、無人飛行体での運用が複雑である。地下水型(アクリル200型など)の採水器はパイプなど径が小さい穴の採水を目的としており、比較的採水量が少ない。採水量を多く確保しようとすればおのずと縦に細長い形状となる。これは水面付近の採水には適さない。また、開閉弁は円板の金属とパッキンで構成されており、部品点数が多くなり構造が複雑であった。さらに、牽引装置を利用して任意深さを採水する場合、自由落下と比べて下降速度が遅いため、採水器の下降中において、水の置換を司る弁が開かないという問題があった。
【0004】
無人移動体を利用して湖水等の採水を行う技術については、例えば以下の文献がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6883461号 公報
【特許文献2】特許第6789477号 公報
【特許文献3】特許第6340433号 公報
【特許文献4】特許第5665049号 公報
【特許文献5】特開2021-71445 公報
【特許文献6】特開2022-72208 公報
【0006】
特許文献1は、ドローンなどの無人飛行体を用いて採水することを記載しているが、具体的な採水方法やその機構等は記載されておらず、実施できない。
【0007】
特許文献2は、ドローンに固定した採水器を傾けて採水する方法であるが、傾ける方法では湖水表面の採水は可能であるが、水面より下の任意の深さのサンプルを採水することができない。
【0008】
特許文献3は、無人機に昇降装置を介した水試料検出器を設けて採水するものであるが、プログラム的なことは詳細に記述されているものの、具体的な採水器の構造には触れていないため任意の深さでの採水に適用できるか不明である。
【0009】
特許文献4は、無人調査船から昇降可能な牽引装置を取り付け、ボールバルブとボールシートを用いた採水器により採水を行う方法であるが、ボールバルブに海藻などが混入すると密閉性が悪くなること、また付着物が付くと掃除する必要があり、メンテナンス性に課題が生じ、利用しにくい。
【0010】
特許文献5及び特許文献6には、牽引装置を取り付けた無人飛行体に、水圧に応じて採水器の蓋の開閉が行なわれるという具体的な方法が記載されているが、ばねの開閉タイミングを示す構造、蓋の開閉の構造が記載されておらず利用しにくい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
例えば、河川、湖沼、ダム等において、水質を調査する場合、採水器を携帯した調査員がモーターボート等で採水ポイントへ移動し、採水器を水中に投下することで採水作業を行っているが、この方法ではモーターボート等の手配に多大な労力と経費が掛かること、さらにはモーターボート等での移動によって付近の水を撹拌してしまい分析結果を不正確にするなど問題点がある。このような問題に対する解決策が望まれる。近年、低コストでの利用が可能な無人飛行体を湖沼等の採水ポイントに移動させて採水を行うことが期待されるが、その場合、無人飛行体への取り付けが可能となる採水器が必要となる。
そこで本発明は、積載重量が小さなドローンなどの無人飛行体による湖水等の採水において課題であった、任意深さでの採水精度、操作性、メンテナンス性などを同時に解決した採水器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題について検討した結果、任意深さでの採水が可能な採水器であって、採水時の操作がしやすく、採水後のメンテナンスを簡単にできる解決方法を見出し、これを可能とする採水器の発明に至った。すなわち、上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は、以下の通りである。
【0013】
〔1〕 中空でかつ円筒状の容器に、穴が開いているドーナツ型蓋を上下に設け、その穴を塞ぐことができる吸盤型の弁を前記ドーナツ型蓋の鉛直方向上側に有することを特徴とする採水器。
〔2〕 前記ドーナツ型蓋の穴を塞ぐ吸盤型弁の素材の比重dが1.05以上から1.50以下であることを特徴とする、〔1〕に記載の採水器。
〔3〕 前記ドーナツ型蓋の穴の径と、その穴を塞ぐ吸盤型弁の外径の比が1.2以上であり、かつ吸盤型弁の外径は円筒状の容器の内径未満であることを特徴とする、〔1〕、〔2〕に記載の採水器。
〔4〕 〔1〕に記載の吸盤型弁が接するドーナツ型蓋の表面の算術平均粗さRaが1.8μm以下であることを特徴とする、〔1〕、〔2〕、〔3〕に記載の採水器。
〔5〕 〔1〕に記載のドーナツ型蓋のうち上側に設けられた方の蓋に接する吸盤型弁に直径が1.5mm以上の空気穴を設けることを特徴とする、〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕に記載の採水器。
【発明の効果】
【0014】
本発明の採水器は、上述のように構成されるため、これらによれば、牽引装置を備えたドローンなどのような無人飛行体に備え付けて運用することで簡便に海や河川、湖沼などにおいて任意の位置、任意の水深から採水が可能となる。また、吸盤型弁は容易に入手、交換が可能であり、メンテナンス性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の採水器の弁が閉じた状態の一例を示す説明図である。
【
図2】本発明の採水器の弁が開いた採水中の状態の一例を示す説明図である。
【
図3】本発明のドーナツ型蓋と、それに接する吸盤型弁について説明する図である。
【
図4】本発明の上側吸盤型弁の空気穴について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を
図1~4に基づいて詳細に説明する。
本発明は中空且つ円筒状の容器3に、穴が開いているドーナツ型蓋2および5を上下に設け、そのドーナツ型蓋の穴を塞ぐことができる吸盤型弁1および4をドーナツ型蓋2および5の鉛直方向上側に有し、吸盤型弁1および4の素材の比重は1.05以上1.5以下とし、ドーナツ型蓋2および5の穴の径Aと該吸盤型弁1および4の外径Bの比B/Aが1.2以上であり、かつ吸盤型弁1および4の外径Bは円筒状容器3の内径C未満であり、吸盤型弁1および4の接するドーナツ型蓋2および5の表面6の算術平均粗さRaが1.8μm以下であり、ドーナツ型蓋2に接する上側吸盤型弁1に直径Dが1.5mm以上の空気穴7を設けることを特徴とする採水器を提供する。これにより牽引装置を備えた無人飛行体に適用することで簡便にサンプルを入手することが可能となる。また、吸盤型弁1および4は容易に入手、交換可能なのでメンテナンス性にも優れる。
【0017】
吸盤型弁1および4の形状と素材の比重dについて説明する。本発明の採水器は下降時に水からの動圧を受けることによって吸盤型弁1および4を押し上げて採水する仕組みである。吸盤型は下降時の水からの動圧を円板型と同等に受けることが可能であり、かつ採水後も形状を保持できるためドーナツ型蓋2及び5との密着性が良い。さらに、部品点数も少ないためメンテナンス性が良い。比重dについては、吸盤型弁1および4の比重dが1.05未満の場合、湖水の比重と同程度になり採水後の搬送中に振動等で吸盤型弁1および4が浮き上がるため、採水しても水が漏れてしまう。また、吸盤型弁1および4の比重dが1.5を超えると牽引装置によって沈めている速度では吸盤型弁1および4を押し上げることができないため採水できなくなる。そのため比重dは1.05以上1.5以下が望ましい。
【0018】
B/Aはドーナツ型蓋2及び5の穴径Aと吸盤型弁1および4の外径Bの比を表すが、B/Aが1.2未満の場合、蓋穴と吸盤型弁の径がほぼ等しくなるために密着する面積が小さくなり、採水器運用中に生じる振動等で吸盤型弁がずれやすく、底部穴を十分に覆うことができないため水が漏れる。そのためB/Aは1.2以上が望ましい。
【0019】
上下ドーナツ型蓋と吸盤型弁が接する表面6は、表面の算術平均粗さRaが1.8より大きいと表面が粗くなりドーナツ型蓋2および5と吸盤型弁1および4が密着せず、水が漏れてしまう。そのため表面6の算術平均粗さRaは1.8μm 以下が望ましい。
【0020】
上側吸盤型弁の空気穴7は上部ドーナツ型蓋2の穴を塞ぐことができる上側吸盤型弁1の空気穴としての貫通穴を表す。空気穴がない場合、採水して水面から引き揚げた際、採水器容器内が採水した水で満たされているため、内圧は大気圧より低くなっている。そのため、大気圧によって下側吸盤型弁4を押し上げてしまい、下側吸盤型弁4と下部ドーナツ型蓋5の密着面から空気泡が入り、採取した水が下側吸盤型弁4から漏れやすい。そのため上側吸盤型弁の空気穴7から空気を入れることで、採水器内部と外部の圧力を平衡に保ち、空気泡の浸入がなくなる。上側吸盤型弁の空気穴7の直径Dが1.5mm未満では空気が入りにくく空気穴として機能せず、空中に引き上げられた際に大気圧によって下部ドーナツ型蓋5と接している下側吸盤型弁4が押上げられて採取した水が漏れる。そのため、上側吸盤型弁の空気穴7の直径Dは1.5mm以上が望ましい。
【実施例0021】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0022】
遠隔で上下操作可能な牽引装置を搭載した市販の着水型ドローンに本発明を適用した。本ドローンは可搬重量4kgで、乗用車でも持ち運び可能な大きさである。最長飛行時間は20分、飛行可能高度は150m、最高速度80km/hである。また牽引装置は釣り糸が巻かれたリールとそのリールを回転させることができるモータが接続されている。なおかつ、遠隔操作するための通信モジュールを備えた昇降速度0.3m/sの開発品である。これに、本発明の採水器を牽引装置の釣り糸の先端に吊り下げた。採水器を水に入れると吸盤型弁1と4が水からの動圧を受けることにより開き、水が置換される。所定の深さで停止させると、水の比重より重い吸盤型弁1および4がドーナツ型蓋2および5に接して閉まり、所定の深さの採水ができる。採水後の採水器は、水面から牽引装置で引き揚げられ、上側吸盤型弁1に開いている空気穴7から空気が入ることで採取した水が漏れることない。採水は海水が少し混じっている汽水湖で行い、水深4mの場所で実験した。この場所は、水面から2mの深さで塩分濃度0.4%、3m付近から塩分濃度が急激に上昇し、4m付近で塩分濃度0.6%の分布を持つ、いわゆる塩水くさびであることが確認されている。ドローンに搭載した牽引装置で、採水器を4mの深さまで降ろして採水した後に引き揚げた。採取した水が塩分0.6%に近い0.55%以上であれば意図した層の水を採取できたことになるが、0.55%未満であれば上層の濃度の低い水を巻き込んだと推定され、採水精度が確保できなかったことになる。
【0023】
実施例1~6の主な条件および評価結果を表1に、また悪条件を示す比較例1~8について表2に示す。比重0.98のシリコーンゴム製吸盤型弁に金属の箔を貼り付けて比重dを調整し、B/AはAの内径を変えることで調整し、さらに表面6の算術平均粗さRaはドーナツ型蓋2および5の表面をやすりで荒らすことで調整した。上側吸盤型弁の空気穴7の穴径は適宜工具で調整した。その結果、本発明の範囲に調整した実施例1~6はいずれも採取した水の濃度が0.55%以上でほぼ目的の0.6%に近かったことが確認され、本発明を裏付ける結果となった。
【0024】
【0025】
一方、本発明の範囲外を想定した比較例1~8は、表2に示すように塩分濃度が0.55%未満となった結果や、そもそも採水できなかった結果もあった。これらについて個別に説明する。
【0026】
【0027】
比較例1は本発明である吸盤型弁1および4の比重dが1.5以下から外れて1.6の場合である。この場合、湖水に採水器を入れた際に一旦弁が開いて上層の水(塩分0.4%)が充填されるが、比重が重いために所定の水深に達する前に弁が落ちて蓋がされてしまい、所定の深さの水が採取できなかった。そのため、採水はできたものの、採取した水の比重は上層と同じ0.4%レベルであり、目的の水層を入手することができなかった。
【0028】
比較例2と6は本発明であるB/Aの比1.2以上から外れており、採水後の搬送中の振動により吸盤型弁がずれて水が漏れてしまい採水できなかった。
【0029】
比較例3と7は本発明である下側吸盤型弁4と下部ドーナツ型蓋5と接する表面の算術平均粗さRaが1.8μm以下から外れており、採水後下側吸盤型弁4と下部ドーナツ型蓋5が密着せず、隙間が生じて水が漏れてしまい採水できなかった。
【0030】
比較例4と8は本発明である上側吸盤型弁1に備えられた空気穴7が1.5mm以上から外れているため、採水後空中へ巻き上げられたときに、穴から空気が入らず、採水器内の内圧が外側より低くなる。そのため、大気圧によって下側吸盤型弁4が押し上げられ、弁が開いて水が漏れてしまい採水できなかった。
【0031】
比較例5は本発明である吸盤型弁の比重dが1.05以上から外れて0.98の場合である。この場合、吸盤型弁の比重が湖水の比重と同程度になり採水後の搬送中に生じる振動等で該吸盤型弁1および4が浮き上がるため、採水器内の水が漏れてしまい、採水できなかった。
本発明の採水器によれば、メンテナンス等の部品交換が容易で、かつ採水、回収が簡単にできる。また、ドローンなどの無人飛行体と組み合わせることで、調査員は海や河川、湖沼等の採水地点の水上に赴くことなく短時間で採水と回収を行うことができるため、産業上の利用可能性は高い。