(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143743
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】燃料電池スタックおよび燃料電池スタックの組立方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/2465 20160101AFI20241003BHJP
H01M 8/2475 20160101ALI20241003BHJP
H01M 8/0247 20160101ALI20241003BHJP
H01M 8/2483 20160101ALI20241003BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20241003BHJP
【FI】
H01M8/2465
H01M8/2475
H01M8/0247
H01M8/2483
H01M8/10 101
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056565
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154380
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100081972
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 豊
(72)【発明者】
【氏名】大島 悠太
(72)【発明者】
【氏名】坂野 雅章
(72)【発明者】
【氏名】野▲崎▼ 拓真
(72)【発明者】
【氏名】大堀 健
(72)【発明者】
【氏名】畑岡 正浩
【テーマコード(参考)】
5H126
【Fターム(参考)】
5H126AA22
5H126AA28
5H126BB06
5H126DD05
5H126EE05
5H126EE06
5H126EE11
5H126FF10
5H126GG18
(57)【要約】
【課題】燃料電池スタックを安価に組み立てる。
【解決手段】燃料電池スタック100は、膜電極構造体とセパレータとを交互に積層してなるセル積層体101と、セル積層体101の積層方向の両側にそれぞれ配置されたエンドプレート6と、セル積層体101を包囲するケース103と、ケース内壁に取り付けられ、積層方向に延在するガイド部材10と、を備える。セパレータは、ガイド部材に係合する係合部を有し、エンドプレート6は、ガイド部材10の長手方向の一端部を支持する凹部61を有し、ガイド部材10は、長手方向の他端部に、ガイド部材10に連なって積層方向に延在する延長ガイド部材を挿脱可能に支持する延長支持部を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と電極とを含む膜電極構造体と、セパレータと、を交互に積層してなるセル積層体と、
前記セル積層体の積層方向の両側にそれぞれ配置された第1エンドプレートおよび第2エンドプレートと、
前記セル積層体を包囲する筐体と、
前記筐体の内壁に取り付けられ、前記積層方向に延在するガイド部材と、を備え、
前記セパレータは、前記ガイド部材に係合する係合部を有し、
前記第1エンドプレートは、前記ガイド部材の長手方向の一端部を支持する端部支持部を有し、
前記ガイド部材は、長手方向の他端部に、前記ガイド部材に連なって前記積層方向に延在する延長ガイド部材を挿脱可能に支持する延長支持部を有することを特徴とする燃料電池スタック。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池スタックにおいて、
前記ガイド部材は、長手方向全長にわたって断面形状が一定の樹脂材により構成されることを特徴とする燃料電池スタック。
【請求項3】
請求項1または2に記載の燃料電池スタックにおいて、
前記端部支持部は、前記ガイド部材の一端部が嵌合可能な有底凹部により構成されることを特徴とする燃料電池スタック。
【請求項4】
請求項3に記載の燃料電池スタックにおいて、
前記第1エンドプレートには、前記セル積層体に反応ガスと冷却媒体とを供給および前記セル積層体から反応ガスと冷却媒体とを排出するための給排用貫通孔が開口される一方、前記第2エンドプレートには、前記給排用貫通孔が開口されないことを特徴とする燃料電池スタック。
【請求項5】
筐体の内壁に沿ってガイド部材を導入し、前記筐体の端部に配置された第1エンドプレートに設けられた端部支持部に、前記ガイド部材の一端部を嵌合する工程と、
前記ガイド部材の他端部に延長ガイド部材を取り付けてガイド部材組立体が構成された状態で、電解質膜と電極とを含む膜電極構造体と、セパレータとを、前記セパレータに設けられた係合部を前記ガイド部材組立体に係合させながら交互に積層する工程と、
前記ガイド部材組立体に案内されながら第2エンドプレートを載置する工程と、
前記第1エンドプレートから前記第2エンドプレートまでの長さを所定長さに縮めて、前記第2エンドプレートを前記筐体に固定する工程と、
前記第2エンドプレートよりも外側に突出した前記延長ガイド部材を、前記ガイド部材の他端部から引き抜く工程と、を含むことを特徴とする燃料電池スタックの組立方法。
【請求項6】
請求項5に記載の燃料電池スタックの組立方法において、
前記第2エンドプレートを載置する工程では、前記第2エンドプレートに設けられた貫通孔に前記ガイド部材組立体を挿通して前記第2エンドプレートを載置し、
前記延長ガイド部材を引き抜いた後、前記貫通孔を封止する工程をさらに含むことを特徴とする燃料電池スタックの組立方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載の燃料電池スタックの組立方法において、
押出成形により前記ガイド部材を製造する工程をさらに含むことを特徴とする燃料電池スタックの組立方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のセルが積層してなる燃料電池スタックおよび燃料電池スタックの組立方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、より多くの人が手ごろで信頼でき、持続可能かつ先進的なエネルギへのアクセスを確保できるようにするため、エネルギの効率化に貢献する燃料電池に関する技術開発が行われている。この種の燃料電池に用いられる燃料電池スタックに関する技術として、従来、一端側のエンドプレートから円柱形状の位置決めピンを立設し、位置決めピンで位置決めしながら、セパレータを有する発電セルを積層してなる燃料電池スタックが知られている(例えば特許文献1参照)。特許文献1記載の燃料電池スタックでは、複数のセパレータの縁部にそれぞれ支持部が溶接され、支持部に設けられた貫通孔に位置決めピンが挿通されて、発電セルが位置決めされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1記載の燃料電池スタックでは、複数のセパレータに支持部を溶接する必要があり、コストの増加を伴う。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様である燃料電池スタックは、電解質膜と電極とを含む膜電極構造体と、セパレータと、を交互に積層してなるセル積層体と、セル積層体の積層方向の両側にそれぞれ配置された第1エンドプレートおよび第2エンドプレートと、セル積層体を包囲する筐体と、筐体の内壁に取り付けられ、積層方向に延在するガイド部材と、を備える。セパレータは、ガイド部材に係合する係合部を有し、第1エンドプレートは、ガイド部材の長手方向の一端部を支持する端部支持部を有し、ガイド部材は、長手方向の他端部に、ガイド部材に連なって積層方向に延在する延長ガイド部材を挿脱可能に支持する延長支持部を有する。
【0006】
本発明の他の態様である燃料電池スタックの組立方法は、筐体の内壁に沿ってガイド部材を導入し、筐体の端部に配置された第1エンドプレートに設けられた端部支持部に、ガイド部材の一端部を嵌合する工程と、ガイド部材の他端部に延長ガイド部材を取り付けてガイド部材組立体が構成された状態で、電解質膜と電極とを含む膜電極構造体と、セパレータとを、セパレータに設けられた係合部をガイド部材組立体に係合させながら交互に積層する工程と、ガイド部材組立体に案内されながら第2エンドプレートを載置する工程と、第1エンドプレートから第2エンドプレートまでの長さを所定長さに縮めて、第2エンドプレートを筐体に固定する工程と、第2エンドプレートよりも外側に突出した延長ガイド部材を、ガイド部材の他端部から引き抜く工程と、を含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、燃料電池スタックを安価に組み立てることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係る燃料電池スタックの全体構成を概略的に示す分解斜視図。
【
図2】
図1の燃料電池スタックの要部構成を概略的に示す斜視図。
【
図3】
図2の燃料電池スタックに含まれる電極アッセンブリの概略構成を示す斜視図。
【
図4】ケース内におけるセパレータの配置を示す平面図。
【
図6】
図1の燃料電池スタックに含まれるガイド部材の嵌合状態を示す斜視図。
【
図7】係合溝と凹部に対するガイド部材の位置関係を示す平面図。
【
図8】ガイド部材の上端部に延長ガイド部材を取り付ける状態を示す斜視図。
【
図9A】
図8のガイド部材の上端面を上方から見た図。
【
図9B】
図8の延長ガイド部材の下端面を下方から見た図。
【
図10】ガイド部材の上端面と延長ガイド部材の下端面の他の例をテーブル形式で示す図。
【
図11A】本発明の実施形態に係る燃料電池スタックの組立方法の手順の一例を示す図。
【
図13】
図8の延長ガイド部材の変形例を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、
図1~
図13を参照して本発明の実施形態について説明する。本発明の実施形態に係る燃料電池スタックは、燃料電池の主たる要素を構成する。燃料電池は、例えば車両に搭載され、車両駆動用の電力を発生することができる。燃料電池は、航空機や船舶等の車両以外の移動体、ロボットの他、各種産業機械に搭載することもできる。
【0010】
まず、燃料電池スタックの全体構成を概略的に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る燃料電池スタック100の全体構成を概略的に示す分解斜視図であり、燃料電池スタック100の組立途中の状態を示す図である。なお、以下では、便宜上、図示のように互いに直交する三軸方向を、前後方向、左右方向および上下方向と定義し、この定義に従い各部の構成を説明する。上下方向は、燃料電池スタック100を組み立たる際の燃料電池スタック100の積層方向であり、重力方向に相当する。なお、組立後の燃料電池スタック100は、例えば横に倒されて車両に搭載される。
【0011】
図1に示すように、燃料電池スタック100は、複数の発電セル1を前後方向に積層して構成されるセル積層体101と、セル積層体101の上端部および下端部にそれぞれ配置される一対のエンドユニット102と、セル積層体101を包囲する略ボックス形状のケース103と、を有し、全体が略直方体形状を呈する。
図1では、ケース103を詳細に図示することなく、二点鎖線でケース103の輪郭のみを示す。
【0012】
ケース103は、セル積層体101の前面、後面、右面および左面に対向した前後左右の略矩形状の4つの側壁を有する。これら4つの側壁により、ケース103は、上面および下面が開放された略ボックス状に形成される。ケース103の上面および下面は、エンドユニット102で覆われる。ケース103は、アルミニウムや鉄などの金属によって構成される。セル積層体101とケース103の側壁との間には、上下方向に延在するガイド部材10が介装される。
【0013】
図2は、燃料電池スタック100の要部構成を概略的に示す斜視図であり、燃料電池スタック100を車両に搭載した状態に相当する。
図2では、互いに直交する三軸方向を、X1-X2方向、Y1-Y2方向およびZ1-Z2方向で表す。燃料電池スタック100の積層方向(
図1の上下方向)は、X1-X2方向に相当する。
図2では、ケース103とガイド部材10の図示を省略する。したがって、セル積層体101の周縁部の詳細な構成は示さない。
【0014】
セル積層体101は、複数の発電セル1を積層して構成される。なお、
図2には、便宜上、単一の発電セル1が示される。発電セル1は、電解質膜と電極とを含む接合体を有する電極アッセンブリ2と、電極アッセンブリ2のX1-X2方向の両側に配置され、電極アッセンブリ2を挟持するセパレータ3,3と、を有する。電極アッセンブリ2とセパレータ3とは、X1-X2方向に交互に配置される。
【0015】
セパレータ3は、断面が波板状の一対の金属製の薄板を有し、これら薄板の外周同士を接合して一体に構成される。セパレータ3には耐腐食性に優れた導電性の材料が用いられ、例えばチタン、チタン合金、ステンレス等を用いることができる。一対の薄板は、セパレータ3の内部に冷却媒体が流れる冷却流路を形成するようにプレス成形などによって凹凸状に形成され、冷却媒体の流れにより発電セル1の発電面が冷却される。冷却媒体としては例えば水を用いることができる。電極アッセンブリ2に対向するセパレータ3の表面は、電極アッセンブリ2の接合体の表面、すなわち発電面との間にガス流路を形成するように凹凸状に構成される。
【0016】
電極アッセンブリ2のX1方向側のセパレータ3は、例えばアノード側のセパレータ(アノードセパレータ)であり、アノードセパレータ3と電極アッセンブリ2の接合体との間に、燃料ガスが流れるアノード流路が形成される。電極アッセンブリ2のX2方向側のセパレータ3は、例えばカソード側のセパレータ(カソードセパレータ)であり、カソードセパレータ3と電極アッセンブリ2の接合体との間に、酸化剤ガスが流れるカソード流路が形成される。燃料ガスとしては例えば水素ガスを、酸化剤ガスとしては例えば空気を用いることができる。燃料ガスと酸化剤ガスとを区別せずに、これらを反応ガスと呼ぶこともある。
【0017】
図3は、電極アッセンブリ2の概略構成を示す斜視図である。
図3に示すように、電極アッセンブリ2は、略矩形状の接合体20と、接合体20を支持するフレーム21と、を有する。接合体20は膜電極構造体(いわゆるMEA;Membrane Electrode Assembly)であり、電解質膜と、電解質膜のX1方向側の面に設けられたアノード電極と、電解質膜のX2方向側の面に設けられたカソード電極とを有する。
【0018】
電解質膜は、例えば固体高分子電解質膜であり、水分を含んだパーフルオロスルホン酸の薄膜を用いることができる。フッ素系電解質に限らず、炭化水素系電解質を用いることもできる。
【0019】
アノード電極は、電解質膜のX1方向側の面に形成され、電極反応の反応場となる電極触媒層であり、該電極触媒層のX1方向側の面には反応ガスを拡散して供給するガス拡散層が設けられる。カソード電極は、電解質膜のX2方向側の面に形成され、電極反応の反応場となる電極触媒層であり、該電極触媒層のX2方向側の面には反応ガスを拡散して供給するガス拡散層が設けられる。電極触媒層には、燃料ガスに含まれる水素と酸化剤ガスに含まれる酸素の電気化学反応を促進する触媒金属、プロトン伝導性を有する電解質、および電子伝導性を有するカーボン粒子等が含まれる。ガス拡散層は、ガス透過性を有する導電性部材、例えばカーボン多孔質体により構成される。
【0020】
アノード電極では、アノード流路およびガス拡散層を介して供給された燃料ガス(水素)が、触媒の作用によってイオン化され、電解質膜を通過してカソード電極側へ移動する。このとき生じた電子は、外部回路を通過し、電気エネルギとして取り出される。カソード電極では、カソード流路およびガス拡散層を介して供給された酸化剤ガス(酸素)と、アノード電極から導かれた水素イオンおよびアノード電極から移動した電子とが反応し、水が生成される。生成された水は、電解質膜に適度な湿度を与え、余剰な水は電極アッセンブリ2の外部へ排出される。
【0021】
フレーム21は、略矩形状を呈する薄板であり、絶縁性を有する樹脂やゴム等により構成される。フレーム21の中央部には、略矩形状の開口部21aが設けられる。接合体20は、開口部21aの全体を覆うように設けられ、接合体20の周縁部がフレーム21により支持される。フレーム21の開口部21aのY1方向側には、フレーム21をX1-X2方向に貫通する3つの貫通孔211~213がZ1-Z2方向に並んで開口される。開口部21aのY2方向側には、フレーム21をX1-X2方向に貫通する3つの貫通孔214~216がZ1-Z2方向に並んで開口される。
【0022】
図2に示すように、セパレータ3には、フレーム21の貫通孔211~216に対応する位置に、セパレータ3をX1-X2方向に貫通する貫通孔311~316がそれぞれ開口される。貫通孔311~316は、フレーム21の貫通孔211~216にそれぞれ連通する。これら互いに連通する貫通孔211~216,311~316の集合により、セル積層体101を貫通してX1-X2方向に延在する流路PA1~PA6(便宜上、矢印で示す)が形成される。流路PA1~PA6は、マニホールドと呼ばれることもある。流路PA1~PA6は、燃料電池スタック100の外部のマニホールドに接続される。
【0023】
貫通孔211,311を介してX1方向に延びる流路PA1(実線矢印)は、燃料ガス供給流路である。貫通孔216,316を介してX2方向に延びる流路PA6(実線矢印)は、燃料ガス排出流路である。燃料ガス供給流路PA1および燃料ガス排出流路PA6は、接合体20のX1方向側の面に対向するアノード流路と連通し、燃料ガス供給流路PA1と燃料ガス排出流路PA6とを介して、実線矢印に示すように、アノード流路をY1-Y2方向に燃料ガスが流れる。アノード流路と他の流路PA2~PA5との連通は、図示しないシール部を介して遮断される。
【0024】
貫通孔214,314を介してX1方向に延びる流路PA4(点線矢印)は、酸化剤ガス供給流路である。貫通孔213,313を介してX2方向に延びる流路PA3(点線矢印)は、酸化剤ガス排出流路である。酸化剤ガス供給流路PA4および酸化剤ガス排出流路PA3は、接合体20のX2方向側の面に対向するカソード流路と連通し、酸化剤ガス供給流路PA4と酸化剤ガス排出流路PA3とを介して、点線矢印に示すように、カソード流路をY1-Y2方向に酸化剤ガスが流れる。カソード流路と他の流路PA1,PA2,PA5,PA6との連通は、図示しないシール部を介して遮断される。
【0025】
貫通孔215,315を介してX1方向に延びる流路PA5(一点鎖線矢印)は、冷却媒体供給流路である。貫通孔212,312を介してX2方向に延びる流路PA2(一点鎖線矢印)は、冷却媒体排出流路である。冷却媒体供給流路PA5および冷却媒体排出流路PA2は、セパレータ3の内部の冷却流路と連通しており、冷却媒体供給流路PA5と冷却媒体排出流路PA2とを介して、冷却流路を冷却媒体が流れる。冷却流路と他の流路PA1,PA3,PA4,PA6との連通は、図示しないシール部を介して遮断される。
【0026】
図2に示すように、セル積層体101の積層方向の両側に配置されたエンドユニット102は、それぞれターミナルプレート4と、絶縁プレート5と、エンドプレート6とを有する。なお、X1方向側のエンドユニット102をドライ側エンドユニット、X2方向側のエンドユニット102をウェット側エンドユニットと呼ぶこともある。一対のターミナルプレート4,4は、セル積層体101を挟んでその両側に配置される。一対の絶縁プレート5,5は、ターミナルプレート4,4を挟んでその両側に配置される。一対のエンドプレート6,6は、絶縁プレート5,5を挟んでその両側に配置される。
【0027】
ターミナルプレート4は、金属製の略矩形状の板状部材であり、セル積層体101で電気化学反応により生成された電力を取り出すための端子部を有する。絶縁プレート5は、非導電性を有する樹脂製またはゴム製の略矩形状の板状部材であり、ターミナルプレート4とエンドプレート6とを電気的に絶縁する。エンドプレート6は、金属製または高強度に構成された樹脂製の板状部材である。
【0028】
図1には、エンドユニット102として、一対のエンドプレート6,6が示され、ターミナルプレート4と絶縁プレート5の図示が省略される。
図1の上側のエンドプレート6がドライ側エンドプレートであり、下側のエンドプレート6がウェット側エンドプレートである。一対のエンドプレート6,6には、ケース103の上下両端部がそれぞれボルトにより固定される。より詳しくは、下側のエンドプレート6とケース103とがボルトを介して固定された状態で、上方から上側のエンドプレート6が押し下げられ、上側のエンドプレート6とケース103とが、ボルトにより固定される。これにより、燃料電池スタック100は、上下一対のエンドプレート6,6により押圧された状態に保持される。
【0029】
図2に示すように、ウェット側(X2方向側)エンドユニット102には、エンドユニット102を前後方向に貫通する複数の貫通孔102a~102fが開口される。なお、貫通孔102a~102fは、それぞれターミナルプレート4を貫通する貫通孔、絶縁プレート5を貫通する貫通孔およびエンドプレート6を貫通する貫通孔を含むが、
図1では、便宜上、これらをまとめて貫通孔102a~102fとして示す。ドライ側(X1方向側)のエンドユニット102には、ターミナルプレート4と絶縁プレート5に、ウェット側エンドユニットと同様、貫通孔102a~102fが開口される。一方、ドライ側エンドユニット102のエンドプレート6には、貫通孔102~102fは開口されない。
【0030】
貫通孔102aは、燃料ガス供給流路PA1に連通する。貫通孔102bは、冷却媒体排出流路PA2に連通する。貫通孔102cは、酸化剤ガス排出流路PA3に連通する。貫通孔102dは、酸化剤ガス供給流路PA4に連通する。貫通孔102eは、冷却媒体供給流路PA5に連通する。貫通孔102fは、燃料ガス排出流路PA6に連通する。
【0031】
貫通孔102aには、高圧の燃料ガスが貯留された燃料ガスタンクが接続され、燃料ガスタンク内の燃料ガスが貫通孔102aを介して燃料電池スタック100に供給される。燃料ガス排出流路PA6を通った燃料ガスは、貫通孔102fを介して排出される。貫通孔102dには、酸化剤ガス供給用のコンプレッサが接続され、コンプレッサで圧縮された酸化剤ガスが貫通孔102dを介して燃料電池スタック100に供給される。酸化剤ガス排出流路PA3を通った酸化剤ガスは、貫通孔102cを介して排出される。貫通孔102eには、冷却媒体供給用のポンプが接続され、貫通孔102eを介して燃料電池スタック100に冷却媒体が供給される。冷却媒体排出流路PA2を通った冷却媒体は、102bを介して排出される。
【0032】
なお、
図2,
図3に示される貫通孔211~216、311~316、102a~102fの位置および形状は、反応ガスや冷却媒体の流れを説明するために模式的に示したにすぎない。
図1や後述の
図4などにも反応ガスや冷却媒体が流れる貫通孔の一部が示されるが、これら貫通孔も模式的に示したにすぎない。
【0033】
本実施形態に係る燃料電池スタック100は、セル積層体101の位置決め構造に特徴がある。以下、この点について説明する。
図4は、ケース103内のセパレータ3の配置を示す平面図(
図1のセル積層体101を上方から見た図)である。
図4に示すように、ケース103は、前後左右の側壁103aを有する。側壁103aの端部同士は互いに接合され、ケース103は、内部に略直方体形状の空間を形成するように全体が枠状に構成される。以下では、ケース103の前後左右方向の中心Pに向かう方向をケース内側と呼び、中心Pから離れる方向をケース外側と呼ぶ。
【0034】
セパレータ3の前後左右の縁部3aにはそれぞれ係合部35が設けられる。係合部35は、例えばセパレータ3の縁部3aの左右方向中間部または前後方向中間部に設けられる。なお、
図4のセパレータ3の左右の縁部3aでは、セパレータ3の左右両端部に設けられる貫通孔の位置を考慮して、前後方向中間部からずれた位置に係合部35が設けられる。係合部35にはガイド部材10が係合され、セパレータ3は、ガイド部材10を介してケース103の側壁103aから支持される。一方、燃料電池スタック100の組立時には、予め単一のセパレータ3に単一の電極アッセンブリ2が溶着または接着等によって接合されて一組の単位セルが形成され、複数組の単位セルが順次ケース103内に積層される。したがって、電極アッセンブリ2のフレーム21(
図3)の縁部には係合部は設けられず、フレーム21の外縁部は係合部35よりもケース内側に位置する。
【0035】
図5は、ガイド部材10の周辺の構成を示す
図4の要部拡大図(V部拡大図)である。
なお、4箇所のガイド部材10の周辺の構成は互いに等しい。ガイド部材10は、樹脂を構成材として押出成形により形成される。したがって、ガイド部材10の断面形状は、長手方向(上下方向)にわたって均一である。
図5に示すように、ガイド部材10は、ケース103の側壁103aに設けられた係合溝110に係合される。係合溝110は、セパレータ3の係合部35に対応する位置に設けられる。したがって、
図4に示すように、係合溝110は、前側および後側の側壁103aの左右方向中間部に設けられるとともに、左側および右側の側壁103aの前後方向中間部ないし前後方向中間部から角部側に所定量ずれた位置に設けられる。
【0036】
係合溝110は、側壁103aの内側面103bに設けられた凹部120によって構成され、側壁103aの上下方向全長にわたって延設される。より詳しくは、係合溝110は、所定の幅(左右方向長さ)と深さ(前後方向長さ)とを側壁103aの全長にわたって有する。側壁103aの内側面103bには、溝幅方向の内側(左右方向内側)に向けて突出する一対の突出部121,121が設けられる。突出部121は、側壁103aの他の内側面103bよりもケース内側に突出する。
【0037】
突出部121を設けることで、係合溝110の入口側(ケース内側)の幅は底面側(ケース外側)の幅よりも狭くなる。なお、係合溝110の入口側を溝入口部111と呼び、底面側を溝底面部112と呼ぶことがある。突出部121は、溝底面部112の深さ(前後方向長さ)が溝入口部111の深さより深くなるように形成される。溝底面部112と溝入口部111とが同一の深さであってもよい。
【0038】
ガイド部材10は、係合溝110の深さ方向に沿って、平面視で主に3つの部位から構成される。すなわち、ベース部11と、幅広部12と、係合凸部13とにより構成される。ベース部11は、溝入口部111に配置され、平面視略矩形状を呈する。ベース部11は、一対の突出部121,121の先端から溝幅方向(左右方向)に所定の隙間を空けて配置される。
【0039】
幅広部12は、溝底面部112に配置される。幅広部12は、ベース部11よりも溝幅方向に拡大して形成され、幅広部12の溝幅方向の長さは、溝入口部111の長さよりも長い。このため、係合溝110に幅広部12が係合されることにより、ガイド部材10の溝深さ方向(前後方向)への移動が規制される。また、ベース部11に対向して突出部121が配置されることにより、ガイド部材10の溝幅方向の移動が規制される。
【0040】
係合凸部13は、ベース部11の端部からケース内側(前方)に突設される。ベース部11からは溝幅方向一対の係合凸部13,13が突設され、一対の係合凸部13,13の間に凹部14が設けられる。係合凸部13は、全体が平面視略矩形状に形成される。
【0041】
係合部35は、係合凸部13に対応して平面視略矩形状の溝幅方向一対の係合凹部36,36を有する。さらに凹部14に対応して、一対の係合凹部36,36の間に凸部37を有する。係合凹部36の溝幅方向の長さは、係合凸部13の溝幅方向の長さとほぼ等しい。セパレータ3を積層するとき、上方から一対の係合凹部36,36が一対の係合凸部13,13に嵌合されるとともに、凸部37が凹部14に嵌合される。これによりガイド部材10を介して、ケース103に対しセパレータ3が位置決めしながら積層できる。
【0042】
図1に示すように、下側(ウェット側)のエンドプレート6の上面には、ガイド部材10の位置に対応して凹部61が設けられる。凹部61は、所定深さの有底凹部であり、貫通孔ではない。凹部61は、ガイド部材10の外周面の輪郭に対応した内周面の形状を呈し、凹部61にガイド部材10の下端部が嵌合される。
【0043】
図6は、ガイド部材10の凹部61(
図1のVI部)への嵌合状態を示す斜視図である。
図6に示すように、ガイド部材10は、その下端面が凹部61の底面に当接するまで所定深さにわたって嵌合される。
図1に示すように、上側(ドライ側)のエンドプレート6には、ガイド部材10の位置および形状に対応した貫通孔62、すなわち凹部61の内周面形状と等しい貫通孔62が設けられる。ガイド部材10の上端部は、貫通孔62を介して上側のエンドプレート6を挿通可能である。但し、燃料電池スタック100の組立が完了した状態では、ガイド部材10の上端部は、エンドプレート6の上面から突出することなく貫通孔62に嵌合する。これによりガイド部材10の上下両端部を、エンドプレート6によって位置決めされた状態で保持できる。
【0044】
上述したように、ガイド部材10は、ケース103の側壁103aの凹部120に係合され、ガイド部材10の下端部が凹部61に嵌合される。
図7は、係合溝110と凹部61に対するガイド部材10の位置関係を示す平面図である。
図7に示すように、凹部61は、ガイド部材10の係合凸部13の角部13aに対向する角部が、角部13aから離間するように円弧状に形成される。すなわち、凹部61の角部には、円弧部61aが設けられる。
【0045】
図7に示すように、互いに対向する溝幅方向(左右方向)におけるガイド部材10のベース部11の端面と凹部61の端面との間の距離をW1、互いに対向する溝幅方向におけるベース部11の端面と突出部121の端面との間の距離をW2とすると、W1がW2より小さくなるように凹部61とガイド部材10と突出部121とが形成される。一例を挙げると、W1は0.1~0.2mmであり、W2はW1の3倍程度の値である。これにより、エンドプレート6に対してガイド部材10を精度よく位置決めできる。また、W2>W1であるので、ガイド部材10を突出部121と干渉することなく係合溝110に容易に係合できる。
【0046】
さらに、互いに対向する溝幅方向におけるガイド部材10の幅広部12の端面と凹部120の端面との間の距離をW3とすると、W3はW2より大きい。また、互いに対向する溝深さ方向における幅広部12の端面と突出部121の端面との間の距離をD1とすると、D1はW2と同一の値または同程度の値である。これにより、ガイド部材10が突出部121により位置決めされながら、幅広部12を係合溝110に容易に嵌合することができる。
【0047】
ガイド部材10と突出部121との間の溝幅方向の隙間W2および溝深さ方向の隙間D1はいずれも微小(例えば0.4~0.55mm程度)である。これによりガイド部材10の変位を規制することができ、車両に衝撃が作用した場合に、セル積層体101がケース103の側壁103aに衝突することを抑制できる。すなわち、車両に衝撃が作用すると、セル積層体101は慣性力により、例えば
図4に二点鎖線で示すように、ケース内で回動しながらケース103に対し相対移動する。このため、セル積層体101の角部が側壁103aに衝突するおそれがあり、その結果、セル積層体101が損傷するおそれがある。
【0048】
この点、本実施形態では、ガイド部材10は、突出部121が咥え込むように係合溝110に係合されるので、車両に衝撃が作用した際のガイド部材10の変位を抑えることができる。その結果、セル積層体101の相対移動を抑制することができ、セル積層体101を保護することができる。特に、
図4に示すようにケース103の内側面には、係合凸部13が互いに異なる方向を向かうように4つのガイド部材10が取り付けられ、セル積層体101の周囲四方がガイド部材10を介して支持されるので、ケース内でのセル積層体101の変位や回転を良好に抑えることができる。
【0049】
また、本実施形態では、セパレータ3の縁部にガイド部材10と係合するための係合部35が設けられるが、係合部35は単なる凹凸形状である(係合凹部36)。このため、プレス加工によってセパレータ3を成形する際に、係合部35を同時に加工することができる。よって、セパレータ3の縁部に位置決め用のタブなどを別途溶接する必要がなく、燃料電池スタック100を安価に構成できる。
【0050】
以上のように構成された燃料電池スタック100の組立方法について説明する。燃料電池スタックは、複数の発電セル1を積層した後、上側のエンドプレート6から積層体に加圧力を付与することにより組み立てられるが、加圧力が付与される前は、積層体の高さがガイド部材10の長さよりも高くなる。このため、ガイド部材10を延長可能に構成する必要がある。この点を考慮して、本実施形態では、ガイド部材10の上端部に延長ガイド部材を着脱可能に取り付けることができるよう、以下のようにガイド部材10を構成する。
【0051】
図8は、ガイド部材10の上端部に延長ガイド部材40を取り付ける途中の状態を示す斜視図である。
図8に示すように、ガイド部材10の上端面10aには、延長ガイド部材40を挿脱可能に支持する延長支持部15が設けられる。
図9Aは、ガイド部材10の上端面10aを上方から見た図であり、
図9Bは、延長ガイド部材40の下端面40aを下方から見た図である。
図9A,
図9Bでは、便宜上、
図5に合わせて前後方向および左右方向を定義する。
図9Bは、下方から見た図であるため、
図9Aとは左右方向が反対となる。
【0052】
図9Bに示すように、延長ガイド部材40の輪郭は、ガイド部材10の輪郭と同一である。このため、延長ガイド部材40は、ガイド部材10と同様、ベース部41と、幅広部42と、係合凸部43とを有する。延長ガイド部材40は、燃料電池スタック100の組立用の治具であり、金属により構成できる。
【0053】
図8のA部拡大図および
図9Aに示すように、延長支持部15は、ガイド部材10の上端面10aに設けられた平面視略T字状の所定深さの有底凹部16により構成される。有底凹部16は、ベース部11と幅広部12との境界部に沿って左右方向に延在する横凹部161と、横凹部161の左右方向中間部から幅広部12を貫通して後方に延びる縦凹部162とを有する。横凹部161の左右方向両端面は、半円状に形成される。
【0054】
図8のA部拡大図および
図9Bに示すように、延長ガイド部材40の下端面40aからは、円柱形状の左右一対のピン410,410が下方に向けて突設される。ピン410の長さは有底凹部16の深さよりも短い。ピン410の直径は横凹部161の幅(前後方向長さ)と等しい。ピン410は、横凹部161の左右両端部の位置に対応して設けられ、横凹部161の左右両端の半円状の曲面に沿ってピン410が有底凹部16に嵌合される。延長ガイド部材40は、その下端面40aがガイド部材10の上端面に当接するまで押し込まれる。このとき、ガイド部材10の輪郭を示す外周面と延長ガイド部材40の輪郭を示す外周面とは、段差なく接続される。これによりガイド部材10を延長ガイド部材40の分だけ上方に延長できる。
【0055】
ピン410を介して延長ガイド部材40がガイド部材10に取り付けられた状態では、
図9Aに点線で示すように、ピン410は有底凹部16に格納される。これによりガイド部材10に対する延長ガイド部材40の移動や回転が一対のピン410、410によって阻止され、ガイド部材10に対する延長ガイド部材40の相対位置を所定位置に保持できる。延長ガイド部材40は、ピン410を有底凹部16に嵌合しながら下方に押し込むことで、ガイド部材10に取り付けることができる。また、延長ガイド部材40を上方に引き上げるだけで、ガイド部材10から分離することができる。これにより延長ガイド部材40の着脱、すなわち挿脱が容易である。
【0056】
なお、延長支持部15の構成は上述したものに限らない。ガイド部材10の上端面10aに所定深さの有底凹部16を設ける代わりに、例えばガイド部材10の上端面10aから下端面にかけて、有底凹部16と平面視同一形状である略T字状の切り欠きを設けるようにしてもよい。これにより、ガイド部材10の断面形状が全長にわたって同一となるため、押出成形によってガイド部材10を容易に形成できる。有底凹部16を設ける代わりに、ガイド部材10の上端面10aから下端面にかけて、左右一対のピン410,410の形状に対応した左右一対の貫通孔を設けるようにしてもよい。
【0057】
図10は、延長支持部15の他の例(第1変形例から第4変形例)を示す図であり、ガイド部材10の上端面10aと延長ガイド部材40の下端面40aの形状をそれぞれテーブル形式で示す。なお、
図10では、便宜上、
図9A,
図9Bと同様に、前後左右方向を定義する。
図10に示すように、第1変形例では、ガイド部材10の幅広部12の後面および凹部14の前面のそれぞれ左右方向中央部に、略半円形状の切り欠き163が設けられる。これら切り欠き163に対応して、延長ガイド部材40の下端面40aからは前後一対のピン420,420が突設され、切り欠き163にピン420が嵌合される。
【0058】
第2変形例では、ガイド部材10のベース部11の左右両端面から左右方向内側に略矩形状の切り欠き164が設けられる。これら切り欠き164に対応して、延長ガイド部材40の下端面40aからは前後一対のピン430,430が突設され、切り欠き164にピン430が嵌合される。ピン430は、延長ガイド部材40の下端面40aから左右方向外側に突出しない。
【0059】
第3変形例では、ガイド部材10の幅広部12の後面および凹部14の前面のそれぞれ左右方向中央部に、略矩形状の切り欠き165が設けられる。これら切り欠き165に対応して、延長ガイド部材40の下端面40aからは前後一対のピン440,440が突設され、切り欠き165にピン440が嵌合される。ピン440は、延長ガイド部材40の下端面40aから前後方向外側に突出しない。
【0060】
第4変形例では、ガイド部材10の上端面10aに凹部や切り欠きは設けられない。一方、延長ガイド部材40の下端面40aには、幅広部42を包囲するように外周ガイド部45が下方に向けて突設される。延長ガイド部材40の取付時には、点線で示すようにガイド部材10の幅広部12を外周ガイド部45が包囲する。このとき、ガイド部材10の幅広部12が延長支持部15となる。第4変形例では、外周ガイド部45の分だけ、延長ガイド部材40の後端面がガイド部材10の後端面よりも後方に突出する。したがって、側壁103aの上端部は、側壁103aと外周ガイド部45とが干渉しないように構成される。
【0061】
次に、本実施形態に係る燃料電池スタック100の組立方法について説明する。
図11A~
図11Eは、燃料電池スタック100の組立手順の一例を示す図である。燃料電池スタック100の組立を行う際には、予め押出成形によりガイド部材10を製造し、所定長さのガイド部材10を準備する(準備工程)。次いで、
図11Aに示すように、ウェット側エンドプレート6に、ボルトを用いてケース103を固定する(ケース取付工程)。
【0062】
次いで、
図11Bに示すように、ケース103の側壁103aの内面に設けられた係合溝110(
図5)に沿って、ケース103の上方からガイド部材10を挿入する。そして、ガイド部材10の下端部を、エンドプレート6の上面の凹部61に嵌合する(ガイド挿入工程)。このとき、ガイド部材10の嵌合前または嵌合後に、ガイド部材10の上端面10aに延長支持部15を介して延長ガイド部材40を取り付ける(延長ガイド取付工程)。具体的には、延長ガイド部材40の下端面40aから突設されたピン410を、ガイド部材10の上端面10aの有底凹部16に嵌合し(
図8)、上端面10aと下端面40aとが当接した状態で、ガイド部材10の延長上に延長ガイド部材40を保持する。
【0063】
次いで、ウェット側の絶縁プレート5とターミナルプレート4とを、延長ガイド部材40およびガイド部材10に沿ってケース103内に挿入し、順次積層する。さらに、
図11Cに示すように、単一の電極アッセンブリ2と単一のセパレータ3とを予め一体に接合した1組の単位セルを、所定組数だけ延長ガイド部材40およびガイド部材10に沿ってケース103内に挿入し、順次積層する(積層工程)。これによりセル積層体101が構成される。この場合、延長ガイド部材40の係合凸部43およびガイド部材10の係合凸部13がセパレータ3の縁部の係合部35(係合凹部36)に係合しながら、単位セルが下降する。このため、電極アッセンブリ2とセパレータ3とを、ウェット側エンドプレート6とケース103とを基準にして精度よく位置決めした状態で、セル積層体101を構成できる。
【0064】
次いで、ドライ側のターミナルプレート4と絶縁プレート5とを、延長ガイド部材40に沿って下降し、順次積層した後、
図11Dに示すように、ドライ側エンドプレート6を延長ガイド部材40に沿って下降する。この場合、エンドプレート6の貫通孔62に、延長ガイド部材40を挿通しながら、エンドプレート6をセル積層体101(厳密には絶縁プレート5)の上方に載置する(積層最終工程)。その後、不図示の加圧機を用いてエンドプレート6の上方から加圧力を付与し、ドライ側エンドプレート6の高さを所定高さに保った状態で、ボルトを用いてドライ側エンドプレート6をケース103に固定する(固定工程)。この状態では、延長ガイド部材40がドライ側エンドプレート6から上方に突出している。
【0065】
次いで、
図11Eに示すように、貫通孔62を介して延長ガイド部材40を、ガイド部材10から引き抜く(引き抜き工程)。最後に、
図12に示すように、エンドプレート6の貫通孔62を、シール材63を介してカバー64で覆い、貫通孔62を封止する(封止工程)。カバー64は、例えばボルトを用いてエンドプレート6に締結される。以上で、燃料電池スタック100の組立が完了する。
【0066】
以上の組立方法によれば、ガイド部材10の上方から延長ガイド部材40を嵌合することで、ガイド部材10に延長ガイド部材40を取り付けることができる。また、延長ガイド部材40を上方に引き抜くことで、ガイド部材10から延長ガイド部材40を取り外すことができる。このため、ねじ部を介して延長部材を取り付けるものに比べ、延長部材としての延長ガイド部材40の着脱が容易である。すなわち、ねじ部を介して延長部材を取り付ける場合、延長部材の回転操作が必要であるが、本実施形態では、延長ガイド部材40の取付に際し回転操作が不要であるため、延長ガイド部材40を即座に着脱できる。また、ねじ部を介して延長部材を取り付け得る場合、延長部材を回転するための余計なスペースが必要となるが、本実施形態では、そのようなスペースが必要ないため、燃料電池スタック100の小型化も可能である。
【0067】
延長ガイド部材40は、全長にわたって同一断面形状である必要はない。
図13は、延長ガイド部材40の変形例を示す斜視図である。
図13に示す例では、延長ガイド部材40が上方に向かうにつれて先細状に構成される。すなわち、係合凸部43の溝幅方向の厚さが上方に向かうに従い徐々に薄くなる。これにより、セパレータ3の係合部35を延長ガイド部材40に上方から容易に係合することができる。
【0068】
本実施形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)燃料電池スタック100は、電解質膜と電極とを含む接合体20(膜電極構造体)と、セパレータ3と、を交互に積層して構成されるセル積層体101と、セル積層体101を包囲するケース103と、ケース103の側壁103aの内側面103bに取り付けられ、セル積層体101の積層方向に延在するとともに、セパレータ3の縁部3aに向けて突出するガイド部材10と、を備える(
図1、
図2,
図4)。セパレータ3は、ガイド部材10の先端部の係合凸部13に係合する係合部35を有する(
図4)。側壁103aの内側面103bは、ガイド部材10を支持するガイド支持部として凹部120および突出部121を有する(
図5)。より詳しくは、内側面103bは、ガイド部材10の溝深さ方向の移動を規制するとともに溝幅方向の移動を規制する一対の突出部121,121を有する(
図5)。
【0069】
これにより、ケース103に対するガイド部材10の変位や回転を規制ながら、ケース103の内側面103bからガイド部材10を強固に保持できる。このため、例えば燃料電池スタック100を搭載した車両に外部から衝撃が作用した場合に、慣性力によるケース内でのセル積層体101の変位や回転が抑えられ、セル積層体101の損傷を抑えることができる。
【0070】
(2)ガイド支持部は、ケース103の積層方向の端面に至るまで積層方向に沿って延在する所定深さの係合溝110を形成する凹部120と、係合溝110の入口側である溝入口部111の幅が係合溝110の底面側である溝底面部112の幅よりも狭くなるように溝入口部111において係合溝110の幅方向内側に向かって突出する突出部121と、を有する(
図5)。ガイド部材10は、溝入口部111に配置されるベース部11と、溝底面部112に配置され、ベース部11から幅方向に拡大される幅広部12と、を有する(
図5)。これにより、ガイド部材10は、一対の突出部121が咥え込むようにして係合溝110に係合されるので、ガイド部材10の変位や回転を良好に抑えることができる。
【0071】
(3)突出部121は、ケース103の内側面103bよりもケース内側に位置する。このため、セル積層体101の角部から内側面103bまでの距離が大きくなり、外部から衝撃が作用した際に、セル積層体101の角部がケース103の内側面103bに衝突することを抑制できる。
【0072】
(4)溝深さ方向における互いに対向する幅広部12の端面から突出部121の端面までの空隙の長さW2、および、溝幅方向における互いに対向するベース部11の端面から突出部121の端面までの空隙の長さW1は、溝幅方向における互いに対向する溝底面部112の端面から幅広部12の端面までの空隙の長さW3よりも短い(
図7)。これにより、ガイド部材10(特に幅広部12)を係合溝110に容易に係合することができる。
【0073】
(5)燃料電池スタック100は、ガイド部材10の長手方向の一端部(下端部)を支持する凹部61を有するエンドプレート6をさらに備える(
図1)。ガイド部材10は、ベース部11と幅広部12とを長手方向の全長にわたって有する。凹部61は、ガイド部材10の下端部が嵌合可能な有底凹部により構成される(
図1)。溝幅方向における互いに対向するベース部11の端面から凹部61の端面までの空隙の長さW1は、溝方向における互いに対向するベース部11の端面から突出部121の端面までの空隙の長さW2よりも短い(
図7)。これにより、ガイド部材10をエンドプレート6に対し精度よく位置決めできるとともに、突出部121と干渉することなく、ガイド部材10を全長にわたって係合溝110に容易に挿入することができる。
【0074】
(6)エンドプレート6の凹部61は、幅広部12の溝深さ方向の反対側の角部、すなわち係合凸部13の角部に対向する部位が略円弧状となるように形成される(
図7)。これにより、ガイド部材10の嵌合が容易である。
【0075】
(7)上述したのとは別の観点として、燃料電池スタック100は、電解質膜と電極とを含む接合体20と、セパレータ3と、を交互に積層してなるセル積層体101と、セル積層体101の積層方向の両側にそれぞれ配置されたウェット側エンドプレート6およびドライ側エンドプレート6と、セル積層体101を包囲するケース103と、ケース103の側壁103aの内側面103bに取り付けられ、積層方向に延在するガイド部材10と、を備える(
図1,
図2)。セパレータ3は、ガイド部材10に係合する係合部35を有する(
図4)。ウェット側エンドプレート6は、ガイド部材10の長手方向の一端部(下端部)を支持する凹部61を有する(
図1)。ガイド部材10は、長手方向の他端部(上端部)に、ガイド部材10に連なって積層方向に延在する延長ガイド部材40を挿脱可能に支持する延長支持部15を有する(
図8)。
【0076】
これにより、セパレータ3の縁部に位置決め用のタブなどを別途溶接する必要がなく、燃料電池スタック100を安価に構成できる。すなわち、セパレータ3の縁部3aには、ガイド部材10に係合する係合部35を設ければよいので、例えばプレス加工によってセパレータ3を形成する際に、同時に係合部35を形成することができ、コストを抑えることができる。
【0077】
(8)ガイド部材10は、長手方向全長にわたって断面形状が一定の樹脂材により構成される。これにより、押出成形により長尺のガイド部材10を得ることができる。このため、射出成形の場合と比べ、反りやヒケなどの発生が抑えられ、精度よくガイド部材10を形成することができる。また、発電容量を増減するために発電セル1の積層枚数を変更する場合、ガイド部材10の長さを変更する必要があるが、押出成形によってガイド部材10を形成できるので、ガイド部材10の長さ変更が容易である。
【0078】
(9)エンドプレート6の凹部61は、ガイド部材10の一端部が嵌合可能な有底凹部により構成される。仮に凹部61が貫通孔により構成されると、凹部61の周囲に、ケース内への水分の浸入などを防ぐためのシール部などを別途設ける必要があるが、有底凹部とすることで、シール部を設ける必要がなく、構成を簡素化できる。
【0079】
(10)ウェット側エンドプレート6には、セル積層体101に反応ガスと冷却媒体とを供給およびセル積層体101から反応ガスと冷却媒体とを排出するための給排用の複数の貫通孔102a~102fが開口される(
図2)。一方、ドライ側エンドプレート6には、そのような給排用貫通孔は開口されず、延長ガイド部材40が挿通される貫通孔62が開口され、貫通孔62がカバー64によりシールされる(
図1,
図12)。仮にドライ側エンドプレート6にガイド部材10の下端部が嵌合される凹部を設け、ウェット側エンドプレート6に延長ガイド部材40が挿通する貫通孔を設けると、ウェット側エンドプレート6におけるシールが必要な貫通孔の個数が増加するため、ウェット側エンドプレート6の構成が煩雑になる。これに対し、ドライ側エンドプレート6であれば、シールが必要な貫通孔62を容易に形成することができる。
【0080】
(11)さらに上述したのとは別の観点として、燃料電池スタック100の組立方法は、ケース103の側壁103aの内側面103bに沿ってガイド部材10を導入し、ケース103の端部に配置されたエンドプレート6に設けられた凹部61に、ガイド部材10の一端部(下端部)を嵌合する工程(ガイド挿入工程)と、ガイド部材10の他端部(上端部)に延長ガイド部材40を取り付けてガイド部材10と延長ガイド部材40との組立体(ガイド部材組立体10,40と呼ぶ)が構成された状態で、電解質膜と電極とを含む接合体20と、セパレータ3とを、セパレータ3に設けられた係合部35をガイド部材組立体10,40に係合させながら交互に積層する工程(積層工程)と、ガイド部材組立体10,40に案内されながらエンドプレート6を載置する工程(積層最終工程)と、下側のエンドプレート6から上側のエンドプレート6までの長さを所定長さに縮めて、エンドプレート6をケース103に固定する工程(固定工程)と、上側のエンドプレート6よりも外側に突出した延長ガイド部材40を、ガイド部材10の上端部から引き抜く工程(引き抜き工程)と、を含む(
図11A~
図11E)。
【0081】
この構成により、延長ガイド部材40を上方から差し込むまたは上方に引き抜くことで、ガイド部材10の上端部に延長ガイド部材40を着脱することができる。このため、延長ガイド部材40の着脱が容易である。すなわち、ねじ部を介して、延長ガイド部材40のような延長部材を着脱する場合、延長部材を回転させる操作が必要となるが、本実施形態では、回転操作を必要としない。したがって、延長ガイド部材40の着脱を容易かつ即座に行うことができる。
【0082】
(12)積層最終工程では、上側のエンドプレート6に設けられた貫通孔62に延長ガイド部材40を挿通してエンドプレート6を載置する(
図11D)。燃料電池スタック100の組立方法は、延長ガイド部材40を引き抜いた後、貫通孔62を封止する工程(封止工程)をさらに含む(
図12)。これにより貫通孔62を介して外部から水分などが浸入することを防止できる。
【0083】
(13)燃料電池スタック100の組立方法は、押出成形によりガイド部材10を製造する工程(準備工程)をさらに含む。これにより、長尺のガイド部材10を精度よく形成することができ、ケース103の内側面103bの係合溝110に沿ったガイド部材10の挿入が容易である。
【0084】
上記実施形態では、ケース103によりセル積層体101を包囲するようにしたが、筐体の構成は上述したものに限らない。上記実施形態では、セル積層体101の積層方向両側に配置されたウェット側エンドプレート6(第1エンドプレート)およびドライ側エンドプレート6(第2エンドプレート)のうち、ウェット側エンドプレート6に、ガイド部材10の一端部を支持する凹部61を設けたが、端部支持部の構成はこれに限らない。上記実施形態では、ガイド部材10の他端部に、延長ガイド部材40を挿脱可能に支持する延長支持部15を設けるようにしたが、延長支持部の構成は上述したものに限らない。上記実施形態では、ウェット側エンドプレート6に、セル積層体101に反応ガスと冷却媒体とを供給およびセル積層体101から反応ガスと冷却媒体とを排出する給排用貫通孔102a~102fを開口するようにしたが、貫通孔の形状や位置は上述したものに限らない。
【0085】
以上の説明はあくまで一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、上述した実施形態および変形例により本発明が限定されるものではない。上記実施形態と変形例の1つまたは複数を任意に組み合わせることも可能であり、変形例同士を組み合わせることも可能である。
【0086】
3 セパレータ、6 エンドプレート、10 ガイド部材、15 延長支持部、35 係合部、61 凹部、64 カバー、100 燃料電池スタック、101 セル積層体、102a~102f 貫通孔、103 ケース、110 係合溝、120 凹部、121 突出部