(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143756
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】コイル装置
(51)【国際特許分類】
H01F 17/04 20060101AFI20241003BHJP
H01F 27/28 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
H01F17/04 A
H01F17/04 F
H01F27/28 123
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056582
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 洋史
(72)【発明者】
【氏名】志村 宏二
(72)【発明者】
【氏名】乾 京介
【テーマコード(参考)】
5E043
5E070
【Fターム(参考)】
5E043AB01
5E070AA01
5E070BB03
5E070CA13
5E070DA13
(57)【要約】
【課題】インダクタンスを向上させることができるコイル装置
【解決手段】磁性体を含有しており、板状部と、前記板状部から突出する突出部と、を有する第1磁性材料部分と、前記突出部を巻回する2層以上の巻層を形成する巻回部を有する金属ワイヤと、磁性体と樹脂とを含有しており、磁性体の含有割合が前記第1磁性材料部分より少なく、少なくとも前記巻回部の外周側を覆う第2磁性材料部分と、を有し、前記金属ワイヤの断面であるワイヤ断面が前記突出部への前記金属ワイヤの巻回数分観察される前記巻回部の巻回軸を含む所定の断面において、隣接する少なくとも一組の前記ワイヤ断面の中心間距離が前記一組の前記ワイヤ断面が真円である場合に比べて近づくように真円に対して変形している前記一組の前記ワイヤ断面を有するコイル装置。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体を含有しており、板状部と、前記板状部から突出する突出部と、を有する第1磁性材料部分と、
前記突出部を巻回する2層以上の巻層を形成する巻回部を有する金属ワイヤと、
磁性体と樹脂とを含有しており、磁性体の含有割合が前記第1磁性材料部分より少なく、少なくとも前記巻回部の外周側を覆う第2磁性材料部分と、を有し、
前記金属ワイヤの断面であるワイヤ断面が前記突出部への前記金属ワイヤの
巻回数分観察される前記巻回部の巻回軸を含む所定の断面において、隣接する少なくとも一組の前記ワイヤ断面の中心間距離が前記一組の前記ワイヤ断面が真円である場合に比べて近づくように真円に対して変形している前記一組の前記ワイヤ断面を有するコイル装置。
【請求項2】
前記一組の前記ワイヤ断面の少なくとも一方は、前記第1磁性材料部分に面する請求項1に記載のコイル装置。
【請求項3】
前記突出部への前記金属ワイヤの前記巻回数は6以上であり、
前記所定の断面において、前記板状部と前記突出部との間で形成されるコーナー部から近い順で第1番目から第3番目の前記ワイヤ断面における最大直径を最小直径で割った値で示される真円度の平均値は、前記コーナー部から遠い順で第1番目から第3番目の前記ワイヤ断面における前記真円度の平均値より大きいことを特徴とする請求項1に記載のコイル装置。
【請求項4】
前記所定の断面を、前記突出部の一方側と他方側に有する請求項1に記載のコイル装置。
【請求項5】
前記突出部への前記金属ワイヤの前記巻回数は9以上であり、
前記板状部と前記突出部との間で形成されるコーナー部から近い順で第4番目から遠い順で第4番目までの前記ワイヤ断面における最大直径を最小直径で割った値で示される真円度の平均値は、前記コーナー部から近い順で第1番目から第3番目の前記ワイヤ断面における前記真円度の平均値より小さく、前記コーナー部から遠い順で第1番目から第3番目の前記ワイヤ断面における前記真円度の平均値より大きいことを特徴とする請求項1に記載のコイル装置。
【請求項6】
前記突出部への前記金属ワイヤの前記巻回数は6以上であり、
前記板状部と前記突出部との間で形成されるコーナー部から近い順で第1番目から第3番目の前記ワイヤ断面における最大直径を最小直径で割った値で示される真円度の平均値は、前記コーナー部から遠い順で第1番目から第3番目の前記ワイヤ断面における前記真円度の平均値に対して、1.03倍以上である請求項1に記載のコイル装置。
【請求項7】
前記突出部への前記金属ワイヤの前記巻回数は6以上であり、
前記板状部と前記突出部との間で形成されるコーナー部から遠い順で第1番目から第3番目の前記ワイヤ断面における最大直径を最小直径で割った値で示される真円度の平均値は、1.12以下である請求項1に記載のコイル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インダクタ素子などとして用いられるコイル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コイル装置として、樹脂および磁性体の含有比率が異なる2種類のコア部と巻回部とを組み合わせたものが提案されている。このようなコイル装置は、樹脂および磁性体の含有比率が異なる2種類のコア部を用いることにより、応力を緩和し、クラックの発生を防止することが可能である。
【0003】
このようなコイル装置では、巻回部を被覆するように磁性体が配置されており、インダクタンス向上の観点から有利である。しかしながら、このようなコイル装置では、たとえば巻回数が多くなると、ワイヤの配置するスペースが大きくなることに伴って、磁性体を配置するスペースが小さくなり、インダクタンスの向上を十分に図れない場合があり、課題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、このような実状に鑑みてなされ、インダクタンスの向上を図ることが可能なコイル装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係るコイル装置は、
磁性体を含有しており、板状部と、前記板状部から突出する突出部と、を有する第1磁性材料部分と、
前記突出部を巻回する2層以上の巻層を形成する巻回部を有する金属ワイヤと、
磁性体と樹脂とを含有しており、磁性体の含有割合が前記第1磁性材料部分より少なく、少なくとも前記巻回部の外周側を覆う第2磁性材料部分と、を有し、
前記金属ワイヤの断面であるワイヤ断面が前記突出部への前記金属ワイヤの巻回数分観察される前記巻回部の巻回軸を含む所定の断面において、隣接する少なくとも一組の前記ワイヤ断面の中心間距離が前記一組の前記ワイヤ断面が真円である場合に比べて近づくように真円に対して変形している前記一組の前記ワイヤ断面を有する。
【0007】
本開示に係るコイル装置では、巻回部のワイヤ断面が、真円である場合に比べて中心間距離が近付くように変形している少なくとも一組のワイヤ断面を有する。このようにワイヤ断面が変形していることにより、真円である場合に比べて密に金属ワイヤを配置することができ、そのぶんより多くの磁性体を巻回部の周辺に配置できるようになるため、インダクタンスの向上の観点から有利である。
【0008】
また、たとえば、前記一組の前記ワイヤ断面の少なくとも一方は、前記第1磁性材料部分に面してもよい。
【0009】
このようなコイル装置では、コイル装置の断面において比較的変形力が大きくなる第1磁性材料部分の近傍に変形したワイヤ断面を形成することにより、製造時においてワイヤ断面に対して過剰な変形力を加えることを回避できる。したがって、このようなコイル装置は、耐電圧特性が良好である。
【0010】
また、たとえば、前記突出部への前記金属ワイヤの前記巻回数は6以上であってもよく、
前記所定の断面において、前記板状部と前記突出部との間で形成されるコーナー部から近い順で第1番目から第3番目の前記ワイヤ断面における最大直径を最小直径で割った値で示される真円度の平均値は、前記コーナー部から遠い順で第1番目から第3番目の前記ワイヤ断面における前記真円度の平均値より大きくてもよい。
【0011】
このようなコイル装置では、コイル装置の断面において比較的変形力が大きくなるコーナー部の近傍に大きく変形したワイヤ断面を形成し、比較的変形力が小さくなるコーナー部から離間した部分に変形の少ないワイヤ断面を形成している。このようなコイル装置では、コーナー部近傍のワイヤ断面の配置密度を高めてインダクタンスを向上させるとともに、製造時においてワイヤ断面に対して過剰な変形力を加えることを回避することにより、良好な耐電圧特性を奏する。
【0012】
また、たとえば、前記所定の断面を、前記突出部の一方側と他方側に有してもよい。
【0013】
このようなコイル装置は、巻回部の全体で密に金属ワイヤを配置し、そのぶんより多くの磁性体を巻回部の周辺に配置することにより、インダクタンスの向上を図ることができる。
【0014】
また、たとえば、前記突出部への前記金属ワイヤの前記巻回数は9以上であってもよく、
前記板状部と前記突出部との間で形成されるコーナー部から近い順で第4番目から遠い順で第4番目までの前記ワイヤ断面における最大直径を最小直径で割った値で示される真円度の平均値は、前記コーナー部から近い順で第1番目から第3番目の前記ワイヤ断面における前記真円度の平均値より小さく、前記コーナー部から遠い順で第1番目から第3番目の前記ワイヤ断面における前記真円度の平均値より大きくてもよい。
【0015】
このようなコイル装置では、コイル装置の所定の断面における各部分に配置されたワイヤ断面に対して、製造時に作用する変形力の違いに応じたワイヤ断面の変形を生じさせている。このようなコイル装置では、コーナー部に近い領域でワイヤ断面の配置密度を高めてインダクタンスを向上させるとともに、巻回部全体としては、製造時においてワイヤ断面に対して過剰な変形力を加えることを回避することにより、良好な耐電圧特性を奏する。
【0016】
また、たとえば、前記突出部への前記金属ワイヤの前記巻回数は6以上であってもよく、
前記板状部と前記突出部との間で形成されるコーナー部から近い順で第1番目から第3番目の前記ワイヤ断面における最大直径を最小直径で割った値で示される真円度の平均値は、前記コーナー部から遠い順で第1番目から第3番目の前記ワイヤ断面における前記真円度の平均値に対して、1.03倍以上であってもよい。
【0017】
このようなコイル装置では、コイル装置の断面において変形力が大きくなるコーナー部の近傍と、変形力が小さくなるコーナー部から離間した部分との間で、ワイヤ断面の変形度を示す真円度の差が大きい。このようなコイル装置では、コーナー部近傍のワイヤ断面の配置密度を高めてインダクタンスを向上させるとともに、製造時においてワイヤ断面に対して過剰な変形力を加えることを回避することにより、良好な耐電圧特性を奏する。
【0018】
また、たとえば、前記突出部への前記金属ワイヤの前記巻回数は6以上であってもよく、
前記板状部と前記突出部との間で形成されるコーナー部から遠い順で第1番目から第3番目の前記ワイヤ断面における最大直径を最小直径で割った値で示される真円度の平均値は、1.12以下であってもよい。
【0019】
このようなコイル装置では、比較的変形力が小さい位置に配置されるワイヤ断面の変形度を小さくすることで、比較的変形力が大きい位置に配置されるワイヤ断面に対して、製造時において過剰な変形力を加えられることを回避することにより、良好な耐電圧特性を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は本開示の一実施形態に係るコイル装置の一部透視斜視図である。
【
図3】
図3は、
図2に示す断面における巻回部周辺を拡大した拡大断面図である。
【
図4】
図4は、
図3に示す断面に含まれるワイヤ断面の真円度の測定方法を示す概念図である。
【
図5】
図5は、実施例に係るコイル装置におけるワイヤ断面の真円度の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
第1実施形態
図1は、本開示の一実施形態に係るコイル装置10の一部透視斜視図である。
図1に示すように、コイル装置10は、第1磁性材料部分20、第2磁性材料部分30、金属ワイヤ40を有する。また、コイル装置10は、金属ワイヤ40に接続する一対の端子電極(
図1では不図示)を有する。なお、
図1では、コイル装置10の内部構造を理解するために、第2磁性材料部分30を仮想線で表示して透視している。
【0022】
図1に示すように、コイル装置10は、略直方体状の外形状を有しており、第1磁性材料部分20は、コイル装置10の底面付近に配置されている。第1磁性材料部分20は、磁性体を含有しており、略矩形平板状の板状部22と、板状部22の中央部分から上方に突出する円柱状の突出部24とを有する。
【0023】
第1磁性材料部分20は、たとえば、樹脂を含まない磁性体による焼結コアや、磁性体を構成する磁性体分およびバインダとしての樹脂を含む顆粒を、圧縮成形または射出成形して形成した磁性体と樹脂とを含むコア等で構成してある。磁性体粉としては、特に限定されないが、センダスト(Fe-Si-Al;鉄-シリコン-アルミニウム)、Fe-Si-Cr(鉄-シリコン-クロム)、パーマロイ(Fe-Ni)、カルボニル鉄系、カルボニルNi系、アモルファス粉、ナノクリスタル粉などの金属磁性体粉が好ましく用いられる。
【0024】
ただし、磁性体粉としては、Mn-Zn、Ni-Cu-Znなどのフェライト磁性体粉であってもよい。第1磁性材料部分20が磁性体と樹脂とを含む場合、第1磁性材料部分20に含まれるバインダ樹脂としては、特に限定されないが、たとえばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、シリコン樹脂、これらを組み合わせたものなどが例示される。
【0025】
断面図である
図2に示すように、第1磁性材料部分20は、後述する第2磁性材料部分30とともに、コイル装置10におけるコアとして機能する。板状部22は、上方から見た場合の投影面積が突出部24より広い。板状部22の厚みは、コイル装置10の全体厚みの10~40%程度とすることができるが、特に限定されない。板状部22の形状についても、略矩形平板状のみには限定されず、多角形板状、円形板状、楕円形板状など、矩形平板状以外の形状であってもかまわない。
【0026】
突出部24の突出高さについても、特に限定されないが、コイル装置10の全体厚みの20~60%程度とすることができる。
図1に示す突出部24の外周形状は、円形のみには限定されず、楕円形、多角形など、円形以外の形状であってもかまわないが、金属ワイヤ40を突出部24の外周に密着させて巻回する観点から、円形または楕円形が好ましい。
【0027】
図1に示すように、金属ワイヤ40は、突出部24を巻回する2層以上の巻層を形成する巻回部42と、巻回部42から引き出されるワイヤ端部41とを有する。拡大図である
図3に示すように、金属ワイヤ40の表面には、絶縁被覆であるワイヤ被覆88が形成されている。
【0028】
金属ワイヤ40は、たとえばCu、Al、Fe、Ag、Au、リン青銅などで構成してある。金属ワイヤ40の表面に形成されるワイヤ被覆88の材質としては、たとえばポリウレタン、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリエステル-イミド、ポリエステル-ナイロンなどが挙げられる。
【0029】
金属ワイヤ40の一部は、突出部24に巻かれて巻回部42を構成する。
図2は、巻回部42の巻回軸40aを含む所定の断面による断面図であり、その一部拡大図である
図3では、金属ワイヤ40の断面であるワイヤ断面51~71が、突出部24への金属ワイヤ40の巻回数分観察される。なお、
図2および
図3に示すコイル装置10における金属ワイヤ40の突出部24への巻回数は21ターンであるが、巻回部42の巻回数は特に限定されない。ただし、ワイヤ断面51~71における真円度の平均値を算出する場合には、真円度の算出を可能とするだけの巻回数を有する。巻回部42は、板状部22の板状部上面22cと、突出部24の突出部側面24aとによる略L字状の壁で規定される領域に配置される。
図2に示すように、巻回部42は、2層以上の巻層を形成しており、実施形態では、第1巻層43、第2巻層44、第3巻層45、第4巻層46、第5巻層47、第6巻層48および第7巻層49の巻層を形成する。第1巻層43は、突出部24の突出部側面24aに押し当てられて巻かれており、第2巻層44は、内周側の第1巻層43に押し当てられて巻かれている。第3巻層45、第4巻層46、第5巻層47、第6巻層48についても、第2巻層44と同様に、内周側の巻層に押し当てられて巻かれている。
【0030】
巻回部42は、巻線機等で金属ワイヤ40を巻回部42に対して巻き付けて形成されることにより、巻回部42が突出部側面24aに密着し、巻線密度を高める観点から好ましい。ただし、巻回部42は、空芯コイルで構成することも可能である。巻回部42が有する巻層数についても特に限定されず、2層以上の任意の巻層を、巻回部42の周りに形成することができる。また、巻回部42では、すべて巻層が内側の巻層に押し当てられて巻かれていてもよく、一部または全部の巻層が、内周側の巻層と間隔を空けて巻かれていてもよい。
【0031】
図2に示すように、金属ワイヤ40は、ワイヤ断面(
図3に示すワイヤ断面51~71等参照)が略円形である丸線である。金属ワイヤ40が丸線であることは、ワイヤ断面51~71の間の隙間であるワイヤ間隙間の一部または全部に磁性体を導入する観点から好ましい。
【0032】
図1に示すように、金属ワイヤ40は、巻回部42の両端から引き出された1対のワイヤ端部41を有しており、各ワイヤ端部41は、板状部22の板状部側面22aおよび板状部底面22bに形成される端子電極部(図示省略)に接続してある。端子電極部としては、たとえば、板状部22に接着された銅または銅合金などの金属端子であってもよく、あるいは銀あるいは銀合金などを含む焼付け電極、あるいはメッキなどにより形成された金属膜電極であってもよい。
【0033】
図2に示すように、第2磁性材料部分30は、少なくとも巻回部42の外周側を覆い、第1磁性材料部分20とともに、コイル装置10のコアを構成する。第2磁性材料部分30は、磁性体と樹脂とを含有する。第2磁性材料部分30は、第1磁性材料部分20と同様に磁性体を含有するが、磁性体の含有割合が、第1磁性材料部分20より少ない。第2磁性材料部分30は、磁性体の含有割合が少ないため、製造時において流動性をもたせた状態で巻回部42の周辺に配置することができ、これにより、第2磁性材料部分30は、巻回部42に対して外周側および上側から隙間なく密着することができる。
【0034】
第2磁性材料部分30が含む磁性体としては、第1磁性材料部分20に含まれる磁性体粉として挙げたものと同様の金属磁性体粉や、フェライト磁性体粉を用いることができる。また、第2磁性材料部分30に含まれるバインダ樹脂としては、第1磁性材料部分20と同様に、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、シリコン樹脂、これらを組み合わせたものなどが例示される。
【0035】
第2磁性材料部分30は、
図1および
図2に示すような板状部22を1つのみ有する第1磁性材料部分20と組み合わせる場合は、巻回部42の外周側だけでなく、巻回部42の上側や、突出部24の上側にも配置される。ただし、第1磁性材料部分が、突出部を挟む一対の板状部を有するドラムコア形状である場合は、第2磁性材料部分は、板状部に上下方向を挟まれた巻回部42の外周側の領域にのみ配置される場合がある。
【0036】
第2磁性材料部分30は、圧縮成形等により製造される。たとえば、第2磁性材料部分30は、第1磁性材料部分20の突出部24の周りに金属ワイヤ40による巻回部42を形成した中間製造品と、第2磁性材料部分30の材料となる磁性粉およびバインダ樹脂の混合物とをキャビティに投入し、全体を圧縮することで得られる。
【0037】
第2磁性材料部分30における磁性体の含有割合は、50%以上とすることがインダクタンス向上の観点から好ましく、70%以上とすることがさらに好ましい。また、第2磁性材料部分30に含まれる磁性体としては、平均粒径の異なる2種類以上の磁性体粉により構成されていてもよい。このような第2磁性材料部分30は、磁性体粉の粒度分布が複数のピークを有して広い範囲に分布するため、粒径の小さい磁性粉がワイヤ間隙間に入りやすくなる。
【0038】
図3は、
図2に示す巻回部42の巻回軸40aを含む所定の断面を表した拡大断面図であり、金属ワイヤ40の断面であるワイヤ断面51~71が観察される。
図3では、金属ワイヤ40の断面であるワイヤ断面51~71を、突出部24への金属ワイヤ40の巻回数(21ターン)に相当する数、観察することができる。
【0039】
図3に示す所定の断面では、隣接する少なくとも一組のワイヤ断面(たとえばワイヤ断面51、52)の中心間距離L1が、一組のワイヤ断面51、52が真円である場合に比べて近づくように、真円に対して変形している。コイル装置10では、ワイヤ断面51、52の他に、ワイヤ断面53、55や、ワイヤ断面55、56なども、このような一組のワイヤ断面に該当する。なお、各ワイヤ断面51~71の中心は、巻回軸40a方向(
図4の矢印Zで示す方向)に関する各ワイヤ断面51~71の中央線と、巻回軸40aに垂直な方向(
図4の矢印Xで示す方向)に関する各ワイヤ断面51~71の中央線が交わる位置とする。
【0040】
このように変形したワイヤ断面51、52、53、55、56を有するコイル装置10は、ワイヤ断面51、52、53、55、56が真円から潰れて矩形形状に近づくことによりワイヤ断面51、52、53、55、56間の隙間が狭くなり、密に金属ワイヤ40を配置することができる。したがって、コイル装置10では、金属ワイヤ40の周りにより多くの第2磁性材料部分30を形成することが可能となり、インダクタンスの向上を図ることができる。なお、
図3に示すように、ワイヤ断面51~71の隙間であるワイヤ間隙間に磁性体を配置することも可能であるが、ワイヤ間隙間には、第2磁性材料部分30が配置される巻回部42の周辺部分ほどには高密度に磁性体を配置することが難しい。したがって、ワイヤ間隙間に磁性体を配置するコイル装置10であっても、密に金属ワイヤ40を配置することが、インダクタンスの向上につながる。
【0041】
また、一組のワイヤ断面51、52の少なくとも一方は、第1磁性材料部分20に面していてもよい。ワイヤ断面51、52は、間に他のワイヤ断面を挟まずに第1磁性材料部分20に隣接しているため、いずれも第1磁性材料部分20に面する。このようなコイル装置10では、コイル装置10の断面において比較的変形力が大きくなる第1磁性材料部分20の近傍に変形したワイヤ断面51、52を形成することにより、製造時においてワイヤ断面51~71に対して過剰な変形力を加えることを回避できる。したがって、このようなコイル装置10は、樹脂やワイヤ被覆88等によるワイヤ断面51~71間の絶縁性が良好に保たれ、耐電圧特性が良好である。
【0042】
また、
図3に示すように、突出部24への金属ワイヤ40の巻回数が6以上であるコイル装置10では、以下の特徴を有することも好ましい。すなわち、
図3のような所定の断面において、板状部22と突出部24との間で形成されるコーナー部25から近い順で第1番目から第3番目のワイヤ断面51、52、53における真円度Vの平均値Vavg.は、コーナー部25から遠い順で第1番目から第3番目のワイヤ断面69、70、71における真円度Vの平均値Vavg.より大きい。なお、
図3では、各ワイヤ断面51~71に対して、コーナー部25からより近いものに、より小さい数の符号を付している。
【0043】
ここで、各ワイヤ断面51~71の真円度Vは、ワイヤ断面51~71における最大直径を最小直径で割った値で定義される。
図4は、ワイヤ断面67を例に、ワイヤ断面51~71の真円度Vの定義を説明した概念図である。
図4に示すように、ワイヤ断面67の真円度Vを算出する場合、まず、第1直径D1、第2直径D2、第3直径D3および第4直径D4を算出する。第1直径D1は、矢印Zで示す巻回軸40a方向に沿うワイヤ断面67の最大幅で規定される。また、第2直径D2は、巻回軸40a方向から時計回りに45度回転した方向に沿うワイヤ断面67の最大幅で規定される。また、第3直径D3は、巻回軸40a方向から時計回りに90度回転した方向に沿うワイヤ断面67の最大幅で規定される。また、第4直径D4は、巻回軸40a方向から時計回りに135度回転した方向に沿うワイヤ断面67の最大幅で規定される。
【0044】
ワイヤ断面67の真円度の算出では、次に、測定した第1~第4直径D1~D4のうち最大である最大直径を、測定した第1~第4直径D1~D4のうち最小である最小直径を割った値を算出し、その値をワイヤ断面67の真円度Vとする。なお、所定の断面において、第1直径D1の方向は、第1磁性材料部分20における突出部24の突出部側面24aと平行であり、第3直径D3の方向は、第1磁性材料部分20における板状部22の板状部上面22cと平行である。
【0045】
このように算出された各ワイヤ断面51~71の真円度Vについて、
図3に示すコイル装置10では、コーナー部25から近いワイヤ断面51、52、53における真円度Vの平均値Vavg.が、コーナー部25から遠いワイヤ断面69、70、71における真円度Vの平均値Vavg.より大きい。このようなコイル装置10は、コイル装置10の所定の断面において比較的変形力が大きくなるコーナー部25の近傍に大きく変形したワイヤ断面51、52、53を形成し、比較的変形力が小さくなるコーナー部25から離間した部分に変形の少ないワイヤ断面69、70、71を形成している。このようなコイル装置では、コーナー部25近傍のワイヤ断面51、52、53の配置密度を高めてインダクタンスの向上に寄与するとともに、製造時においてワイヤ断面51~71に対して過剰な変形力を加えることを回避することにより、良好な耐電圧特性を奏する。
【0046】
さらに、突出部24への金属ワイヤ40の巻回数が6以上であるコイル装置10では、以下の特徴を有することも好ましい。すなわち、
図3のような所定の断面において、板状部22と突出部24との間で形成されるコーナー部25から近い順で第1番目から第3番目のワイヤ断面51、52、53における真円度Vの平均値Vavg.は、コーナー部25から遠い順で第1番目から第3番目のワイヤ断面69、70、71における真円度Vの平均値Vavg.に対して1.03倍以上である。
【0047】
このようなコイル装置10では、コイル装置10の所定の断面において変形力が大きくなるコーナー部25の近傍と、変形力が小さくなるコーナー部25から離間した部分との間で、ワイヤ断面51~71の変形度を示す真円度Vの差が大きい。このようなコイル装置10では、コーナー部25近傍のワイヤ断面51~71の配置密度を効果的に高めてインダクタンスを向上させるとともに、製造時においてワイヤ断面51~71に対して過剰な変形力を加えることを回避することにより、良好な耐電圧特性を奏する。
【0048】
さらに、突出部24への金属ワイヤ40の巻回数が6以上であるコイル装置10では、以下の特徴を有することも好ましい。すなわち、
図3のような所定の断面において、板状部22と突出部24との間で形成されるコーナー部25から遠い順で第1番目から第3番目のワイヤ断面69、70、71における真円度Vの平均値Vavg.は、1.12以下である。
【0049】
このようなコイル装置10では、製造時において比較的変形力が小さい位置に配置されるワイヤ断面69、70、71の変形度を小さくすることで、製造時において比較的変形力が大きい位置に配置される他のワイヤ断面51、52、53に対して、製造時において過剰な変形力を加えられることを回避することにより、良好な耐電圧特性を奏する。
【0050】
また、突出部24への金属ワイヤ40の巻回数が9以上であるコイル装置10では、以下の特徴を有することも好ましい。すなわち、
図3のような所定の断面において、板状部22と突出部24との間で形成されるコーナー部25から近い順で第4番目から遠い順で第4番目までのワイヤ断面54~68における真円度Vの平均値Vavg.は、コーナー部25から近い順で第1番目から第3番目のワイヤ断面51、52、53における真円度Vの平均値Vavg.より小さく、コーナー部25から遠い順で第1番目から第3番目のワイヤ断面69、70、71における真円度Vの平均値Vavg.より大きい。
【0051】
このようなコイル装置10では、コイル装置10の所定の断面における各部分に配置されたワイヤ断面51~71に対して、製造時に作用する変形力の違いに応じたワイヤ断面51~71の変形を生じさせている。このようなコイル装置10では、コーナー部25に近い領域でワイヤ断面51、52、53の配置密度を高めてインダクタンスを向上させるとともに、巻回部42全体としては、製造時においてワイヤ断面51~71に対して過剰な変形力を加えることを回避することにより、樹脂やワイヤ被覆88等によるワイヤ断面51~71間の絶縁性を保ち、良好な耐電圧特性を奏する。
【0052】
コイル装置10では、
図3に示す所定の断面を、少なくとも突出部24の一方側と他方側に有することも好ましい。このようなコイル装置10は、巻回部42の全体で密に金属ワイヤ40を配置し、そのぶんより多くの磁性体を巻回部42の周辺に配置することにより、インダクタンスの向上を図ることができる。
【0053】
以上のように、コイル装置10は、ワイヤ断面51~71の少なくとも一部が変形していることにより、ワイヤ断面51~71が真円である場合に比べて、密に金属ワイヤ40を配置することができ、そのぶんより多くの磁性体を巻回部42の周辺に配置できるようになるため、インダクタンスの向上の観点から有利である。
【0054】
以下、実施例を挙げてコイル装置10をさらに詳細に説明するが、コイル装置10は実施例のみには限定されない。
【0055】
実施例では、
図1~
図3に示すようなコイル装置10を実際に製造したのち
図3に示す断面を光学顕微鏡下で観察し、各ワイヤ断面51~71についての真円度Vを測定した。真円度Vの測定手順は、
図4を用いて説明したように、第1~第4直径D1~D4を測定して行った。結果を表1に示す。なお、表1における第1~第4直径D1~D4、最大直径および最小直径の値は相対値である。
【0056】
【0057】
表1に示すように、コーナー部25から近い順で第1番目から第3番目のワイヤ断面51、52、53における真円度Vの平均値Vavg.は、1.141であり、コーナー部25から遠い順で第1番目から第3番目のワイヤ断面69、70、71における真円度Vの平均値Vavg.は、1.098であり、コーナー部25から近い順で第4番目から遠い順で第4番目までのワイヤ断面55~68における真円度Vの平均値Vavg.は、1.116であった。
【0058】
図5は、ワイヤ断面51、52、53、ワイヤ断面55~68、ワイヤ断面69、70、71のそれぞれの真円度Vの平均値Vavg.を縦軸にとり、コーナー部25から各ワイヤ断面54~68、ワイヤ断面69、70、71の中心位置までの平均距離をとったグラフである。
図5に示すように、コーナー部25からの距離が大きくなるにつれて、ワイヤ断面51~61の真円度Vの平均値Vavg.の値が小さくなる傾向が見られた。
【0059】
また、
図3に示す一組のワイヤ断面51、52の中心間距離L1は82.58であり、中心間距離L1上にあるワイヤ被覆88の厚みは12.0であり、ワイヤ断面51、52が真円であった場合の半径(第1~第4直径D1~D4の平均値の1/2)の和は、79.51であった。したがって、一組のワイヤ断面51、52は、一組のワイヤ断面51、52の中心間距離L1が、一組のワイヤ断面51、52が真円である場合の91.51に比べて近づくように、真円に対して変形していることを確認できた。
【0060】
本開示は、上述した実施形態や実施例に限定されるものではなく、本開示の範囲内で種々に改変することができる。
【0061】
たとえば、本開示に係るコイル装置は、ドラムコア形状の第1磁性材料部分を有してもよい。また、コイル装置は、複数の金属ワイヤ40を突出部24に巻回するものであってもよく、巻回部42は、断面積や断面形状が互いに異なるワイヤ断面を有するものであってもよい。
【符号の説明】
【0062】
10…コイル装置
20…第1磁性材料部分
22…板状部
22a…板状部側面
22b…板状部底面
22c…板状部上面
24…突出部
24a…突出部側面
25…コーナー部
30…第2磁性材料部分
40…金属ワイヤ
40a…巻回軸
41…ワイヤ端部
42…巻回部
43…第1巻層
44…第2巻層
45…第3巻層
46…第4巻層
47…第5巻層
48…第6巻層
51~71…ワイヤ断面
88…ワイヤ被覆
L1…中心間距離
V…真円度
Vavg.…真円度の平均値
D1…第1直径
D2…第2直径
D3…第3直径
D4…第4直径