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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143765
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】果汁感増強用組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/00 20160101AFI20241003BHJP
   A23L 27/24 20160101ALI20241003BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20241003BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20241003BHJP
   A23L 21/15 20160101ALN20241003BHJP
   A23G 3/34 20060101ALN20241003BHJP
   C12G 3/04 20190101ALN20241003BHJP
   C12C 5/02 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
A23L27/00 Z
A23L27/24
A23L2/00 B
A23L2/52 101
A23L21/15
A23G3/34 101
C12G3/04
C12C5/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056627
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】519127797
【氏名又は名称】三菱商事ライフサイエンス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】有田 頌彬
(72)【発明者】
【氏名】山本 暁久
(72)【発明者】
【氏名】池田 咲子
【テーマコード(参考)】
4B014
4B041
4B047
4B115
4B117
4B128
【Fターム(参考)】
4B014GG09
4B014GG18
4B014GK01
4B014GL04
4B014GL09
4B014GL10
4B014GY04
4B041LC01
4B041LD02
4B041LD04
4B041LK07
4B041LK12
4B041LK13
4B041LK42
4B041LP15
4B047LB07
4B047LB09
4B047LF07
4B047LF09
4B047LF10
4B047LG09
4B047LG15
4B047LG25
4B047LG56
4B047LP19
4B115LH01
4B115LH11
4B117LC03
4B117LG05
4B128CP16
(57)【要約】
【課題】
本発明の課題は、果汁含有飲食品の風味を改善することを課題とする。
【解決手段】
本発明者らは、上記課題の解決につき鋭意研究の結果、グルコース、フルクトース、酵母エキス含む培地でマンニトール-2-デヒドロゲナーゼを有する乳酸菌を培養する事により、培養液中にマンニトールが高含有され、かつ、特有で良好な味質を有する組成物が製造でき、この組成物を高果汁及び低果汁の果汁含有飲食品に添加することにより、果汁含有飲食の風味を改善することを見出した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンニトールを5 ~70重量%、乳酸を1.5~20重量%、酢酸を1~10重量%、グルタミン酸ナトリウムを1~10重量%含有する果汁感増強用組成物。
【請求項2】
マンニトールを5 ~70重量%、乳酸を1.5~20重量%、酢酸を1~10重量%、グルタミン酸ナトリウムを1~10重量%含有する果汁感増強用乳酸菌発酵組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の組成物を果汁含有飲食品に添加する事を特徴とする果汁感増強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果汁含有飲食品の果汁感を改善できる調味料、果汁感増強剤、及び、その方法に関する。
【背景技術】
【0002】
果汁含有飲食品は、果汁による風味、おいしさが重要であり、果汁含有飲料では、果汁100%の飲料が販売されている。
しかし、果汁原料は、天然物であるため、価格の変動等により、高価であり、また果汁の酸味などを抑えるなどのために、果汁含量を低くして、飲みやすい飲料にする場合がある。
【0003】
果汁含量を低減させた飲食品は、甘味が強くなり過ぎること、コクがなくなる、天然素材から感じる複雑味がなくなるなどの欠点もあった。
【0004】
一方、発酵調味料は、種々の飲食品に利用されている。酵母を利用した酵母エキス、乳酸菌や麹を利用した発酵調味料など多数の発酵調味料が知られている。この中で、乳酸菌を活用し、マンニトールを含む乳酸発酵調味料が昆布風味を付与する調味料が報告されている(特許文献1)。マンニトールは穏やかな甘味を有しており、昆布の甘味を特徴づける成分の一つであることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2018/110633
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、果汁含有飲食品の風味を改善することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題の解決につき鋭意研究の結果、グルコース、フルクトース、酵母エキス含む培地でマンニトール-2-デヒドロゲナーゼを有する乳酸菌を培養する事により、培養液中にマンニトールが高含有され、かつ、特有で良好な味質を有する組成物が、果汁含有飲食品の風味を改善することを見出し本発明を完成させた。
【0008】
すなわち本発明は、
(1)マンニトールを5 ~70重量%、乳酸を1.5~20重量%、酢酸を1~10重量%、グルタミン酸ナトリウムを1~10重量%含有する果汁感増強用組成物、
(2)マンニトールを5 ~70重量%、乳酸を1.5~20重量%、酢酸を1~10重量%、グルタミン酸ナトリウムを1~10重量%含有する果汁感増強用乳酸菌発酵組成物、
(3)前記(1)又は(2)に記載の組成物を果汁含有飲食品に添加する事を特徴とする果汁感増強方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、乳酸菌発酵組成物を果汁含有飲食品に添加することで、果汁感を増強できる。本発明で果汁感増強とは、コクや厚みを付与すること、特に低果汁の飲料に対して、高果汁飲料のような、コク、厚みを付与できること、さらに高果汁飲料のような風味を感じ、すっきりした味わいになり果汁風味が持続することを意味する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の組成物は、マンニトールを5~70質量%、乳酸を1.5~20質量%、酢酸を1~10質量%、グルタミン酸ナトリウムを1~10重量%含むものである。この組成であれば、製造方法は、特に制限はないが、発酵により製造する場合は、培地にフルクトースと酵母エキスを用い、マンニトール-2-デヒドロゲナーゼを有する乳酸菌を培養し、その培養上清を濃縮する事により得る事ができる。また、粉末化が必要な場合は、適宜賦形剤を使用する事によって乾燥化が可能である。
【0011】
本発明に含有するマンニトール含量は、適宜調整して良く、通常は、マンニトールを5~70%重量%とする。さらに好ましいマンニトール含量は、20重量%~40重量である。特に好ましくは、25重量%~30重量%である。本発明のマンニトールは、後段のマンニトール-2-デヒドロゲナーゼを発現する乳酸菌により、培地に使用したフルクトースから得られるマンニトールである。そのため、本発明のマンニトール含量は、上記の含量になるよう乳酸菌発酵を行う。マンニトール含量は、デキストリン等の賦形剤で調整することもできる。
【0012】
本発明に含有する乳酸は、適宜調整して良く、通常は、1.5~20質量%、好ましくは、4~15質量%とする。酢酸については、酢酸を1~10質量%、好ましくは、4~8質量%とする。
【0013】
本発明に含有するグルタミン酸ナトリウムは、適宜調整して良く、通常は、1~10重量%、好ましくは、3~7重量%とする。
【0014】
本発明の組成物を得る方法については、それぞれの成分が前段までの含量になれば、その方法に制限はない。食品に使用できる各成分を調合しても良いが、乳酸菌を発酵させることで得られるものが特に好ましく採用することができる。
【0015】
以下に乳酸菌を発酵させて製造する方法について説明する。
本発明の組成物製造に用いられる乳酸菌としては、マンニトール-2-デヒドロゲナーゼを発現し、食品製造に使用できる乳酸菌であれば、特に制限はない。例えば、ラクトバチルス属、ロイコノストック属など、マンニトール-2-デヒドロゲナーゼを発現する乳酸菌を使用する事ができる。
【0016】
本発明の乳酸菌発酵に用いる培地には、酵母エキスを添加する。使用する酵母エキスは、グルタミン酸を5%以上含有するものを用いる。好ましくは15%以上、さらに好ましくは20%以上のグルタミン酸を含有する酵母エキスを用いる。培地に添加する当該酵母エキスの含量は、乳酸菌発酵に通常用いる酵母エキスと同様の添加量でよく、任意に調整できる。このような酵母エキスは、トルラ酵母、ビール酵母、パン酵母などを原料に製造される。特にトルラ酵母は、酵母臭が少ないため、本発明では、好適である。また、市販のものを用いても良い。市販の酵母エキスとしては、興人ライフサイエンス社製の「アジトップ」、アサヒグループ食品社製「ハイパーミースト」、富士食品工業の「ハイマックスGL」などがある。特に、トルラ酵母から製造される「アジトップ」が、本発明では、適している。
なお、本発明でのグルタミン酸含量は、乾燥粉末状の酵母エキス中の遊離グルタミン酸をいい、常法に従いアミノ酸分析計L8800(HITACHI製)により測定した。
このような、酵母エキスを培地に用いることで、本発明の乳酸発酵組成物中に、グルタミン酸ナトリウムを含む組成物を得ることができる。本発明の乳酸発酵組成物中のグルタミン酸ナトリウム含量は、培地への酵母エキス添加量により異なるが、本願実施例のような添加量であれば、2重量%以上の含量とすることができる。
【0017】
前段の乳酸菌を発酵させて培地組成として前段の酵母エキス以外に、フルクトースを用いる。また、フルクトースとグルコースを併用することもできる。また、これらを含有する液糖類を用いても良い。
【0018】
本発明の組成物を発酵製造するには、さらに、塩化マグネシウムを添加する。にがりを添加しても良い。
その他、乳酸菌発酵に必要な、窒素源、炭素源、ビタミン類など、通常の乳酸菌発酵の際に、培地に添加される成分を添加してもよい。
【0019】
前述の培地組成物を乳酸菌発酵に一般的に用いる手法で混合する。例えば、100-150g/Lのフルクトース、10-50g/Lの酵母エキスを混合し加熱殺菌する。乳酸菌発酵に必要なミネラルを添加する場合には、0.05-5ml/Lのにがりをさらに混合しても良い。冷却後、乳酸菌を培養する。培地成分として、10-60g/Lのグルコースを併用する事もできる。
【0020】
本発明での培養条件は、乳酸菌発酵で一般的に採用される温度、pHで可能である。使用する菌種によりことなるが、一般的には、20℃~40℃であり、好ましくは、25~30℃で培養する。さらに、半嫌気的条件下が好ましい。培養時は有機酸産生に伴う培養液のpH低下が生じるため、培養時のpHを乳酸菌の生育に好ましいpHに保つよう、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどで調整する。例えば、水酸化ナトリウムを適宜添加し、例えば、pH5.0~6.0になるよう培地pHを調整する。
【0021】
本発明の乳酸菌発酵組成物は、培養上清を回収する事により得る事ができる。具体的には、培養終了後、必要に応じて培地に水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを用いて適宜pH調整を行う。加熱処理を行った後に、遠心分離やフィルター濾過により、菌体を除去し、培養上清を回収することで、本発明品を得ることができる。回収した培養上清はそのままでも良いが、濃縮乾燥させる事も可能である。乾燥方法は、特に限定なく採用でき、スプレードライ法、ドラムドライ法、凍結乾燥法など、公知の乾燥方法を採用できる。
【0022】
本発明の組成物は、このようにして製造できるが、各成分の含量は、澱粉類、デキストリンなどの賦形剤を添加して適宜調整することもできる。
【0023】
本発明の果汁感増強は、前述までの乳酸菌発酵組成物を果汁含有飲食品に添加することで、本発明の効果を発揮することができる。本発明の果汁感とは、低果汁の飲食品において、高果汁飲食品が有している、果汁から得られる、自然な風味、コク、厚み、濃厚感、複雑味を意味する。低果汁飲料とは、果汁含有量が100%果汁飲料ではないものであり、果汁率は、50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下が特に好ましい。
【0024】
本発明の果汁率は、果実を搾汁して得られるストレート果汁を100%としたときの相対濃度であり、JAS規格(果実飲料の日本農林規格)に示される糖用屈折計示度の基準(°Bx)または酸度の基準(%)に基づいて換算できる。
【0025】
本発明の果汁含有飲料の果汁とは、一般に果汁飲料に使用されるものであれば採用することができる。例えば、バレンシアオレンジ、ネーブルオレンジ、ブラッドオレンジなどのオレンジ類、ホワイトマーシュ、スウィーティーなどのグレープフルーツ類、温州みかん、ゆず、甘夏、日向夏、すだち、かぼす、ライム、シークヮーサー、レモン、いよかん、夏みかん、ポンカンなどの柑橘類、メロン、パイナップル、リンゴ、ブドウ、イチゴ、ラズベリー、ブルーベリー、桃、梨、洋ナシ、スイカ、キウィーフルーツなど例示することができる。本発明の果汁感とは、これらの果汁がそれぞれ有している、果汁によって異なる特徴である果汁感を増強するものである。
【0026】
本発明の果汁含有飲食品は、前段の果汁を含む飲食品であり、例えば、果汁飲料、果汁入り野菜ジュース、果汁入りのノンアルコール酎ハイ、果汁入りチューハイ、果汁酒、果汁入りのビールなどである。また、果汁グミ、果汁ゼリー、ジャムなどの果汁入り食品なども例示することができる。
【0027】
本発明の乳酸菌発酵組成物を果汁含有飲食品に添加する量は、任意であるが、添加量は、一般的に0.001~0.1質量%であり、好ましくは0.005~0.05質量%である。飲食品への添加方法は、任意であり、本願組成物が、飲食品にむらなく混合できればよく、甘味料などの素材を添加する際に添加するなど特に制限はない。
【0028】
本発明の果汁感増強方法は、前段までの果汁含有飲食品に本願の組成物を添加することである。添加量、添加方法は、前段の記載の通りである。
【実施例0029】
以下に実施例を用いて、本発明を具体的に説明する。本発明はこれらに限定されるものではない。
【0030】

(製造例)
グルコース60g/L、フルクトース150g/L、「アジトップ(三菱商事ライフサイエンス社)」50g/L、混合殺菌し培地を作製した。乳酸菌(ロイコノストック シュードメセンテロイデス(ATC12291))はMRS液体培地にて37℃1日の前培養を実施した。2L容量のジャーファーメンターに前記培地1Lと前培養した乳酸菌10mlを入れ、30℃で培養した。エアレーションは実施せず、撹拌回転数70rpmの半嫌気的条件とした。培養中は水酸化ナトリウムで培養液がpH5.3になるようにコントロールし、96時間培養した。培養終了後に水酸化ナトリウムでpH6.0に調整し、90℃10分の加熱実施を行った後に8,000rpm10分の遠心分離を実施し、菌体を分離して培養上清を回収した。回収した上清をエバポレーターにて濃縮し、Brix70%の組成物を取得し、実施例1のサンプルとした。当該サンプル中のマンニトール含量は50 重量%であった。マンニトールの分析にはHPLCを用い、測定条件は、検出器:RI、移動相:超純水、カラム:SUGAR SP0810、カラム温度:80℃、流速:0.7ml/minとした。得られたサンプルにデキストリンを添加し、マンニトール含量が25重量%となるよう調整し、なおデキストリン添加後のグルタミン酸ナトリウム含量は、2.7重量%であった。以下の試験を行った。
【0031】
(果汁感試験1)
上記製造例で得られた乳酸菌発酵組成物を市販の濃縮還元果汁100%飲料に0.01重量%、0.03重量%添加し、官能評価を実施した。
【0032】
官能評価は、訓練されたパネラーで行い以下のような評価となった。
製造例1を0.01重量%添加した場合、後味のキレが良く、すっきりした味わいになり、オレンジの風味が持続することと評価された。
製造例1を0.03重量%添加した場合、厚みが付与されオレンジ果汁が濃縮されたような味質になると評価された。これにより、果汁濃度が高い場合でも、本願発明により、さらに果汁感が増強されることが分かった。
【0033】
(果汁感試験2)
上記製造例で得られた乳酸菌発酵組成物を市販の果汁10%入り飲料に0.01重量%、0.03重量%添加し、官能評価を実施した。評価方法は、前記果汁感試験1と同様に行った。
【0034】
評価の結果は以下のようになった。
製造例1を0.01重量%添加した場合、先~中の厚みが付与された。また、甘味のピークが先に移動するとともに甘味が強くなった。キレが早くなり、後味の果汁香が強く感じられた印象であると評価された。
製造例1を0.03重量%添加した場合、0.01重量%添加した場合と同様の味質変化を感じ、さらに、甘味と酸味がおのおの強くなる印象と評価された。