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特開2024-143769結晶性ベーマイト粉末及び結晶性ベーマイトスラリー、並びにそれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143769
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】結晶性ベーマイト粉末及び結晶性ベーマイトスラリー、並びにそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01F 7/14 20220101AFI20241003BHJP
   C01F 7/021 20220101ALI20241003BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20241003BHJP
   B01J 37/00 20060101ALI20241003BHJP
   B01J 29/08 20060101ALI20241003BHJP
   C10G 11/18 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C01F7/14
C01F7/021
B01J37/04 102
B01J37/00 F
B01J29/08 M
C10G11/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056636
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新宅 泰
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 武聡
(72)【発明者】
【氏名】水野 隆喜
【テーマコード(参考)】
4G076
4G169
4H129
【Fターム(参考)】
4G076AA02
4G076AB02
4G076BA24
4G076BD02
4G076CA26
4G076CA28
4G076CA29
4G076FA08
4G169AA03
4G169AA08
4G169AA09
4G169BA01B
4G169BA02A
4G169BA02B
4G169BA02C
4G169BA07A
4G169BA07B
4G169BA07C
4G169BA10A
4G169BA10B
4G169BA10C
4G169BB05C
4G169BB20C
4G169BC16C
4G169BC41B
4G169CC07
4G169DA08
4G169EA01X
4G169EA04Y
4G169EB18Y
4G169EC14Y
4G169EC22X
4G169EC22Y
4G169FA01
4G169FA02
4G169FB06
4G169FB14
4G169FB57
4G169FB63
4G169FC02
4G169FC03
4G169FC04
4G169ZA05A
4G169ZA05B
4G169ZD05
4G169ZF02A
4G169ZF02B
4G169ZF05B
4H129AA01
4H129CA07
4H129CA08
4H129GA12
4H129KA02
4H129KB02
4H129KC03X
4H129KC03Y
4H129KC04X
4H129KC04Y
4H129KC15Y
4H129NA22
4H129NA37
4H129NA45
(57)【要約】
【課題】結晶性ベーマイトをFCC触媒のマトリックス成分として用いた際に、FCC触媒の触媒性能(例えば、炭化水素油の転化率)を向上させることのできる結晶性ベーマイト粉末等を提供すること。
【解決手段】X線回析測定における(020)面のピークから算出される結晶子径が10~40nmであり、窒素吸着法により測定される比表面積が60~160m2/gであり、走査電子顕微鏡による観察から求められるアスペクト比が7以上であり、CBDが0.10~0.35g/mlである、結晶性ベーマイト粉末。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線回析測定における(020)面のピークから算出される結晶子径が10~40nmであり、
窒素吸着法により測定される比表面積が60~160m2/gであり、
走査電子顕微鏡による観察から求められるアスペクト比が7以上であり、
CBD(Compact Bulk Density)が0.10~0.35g/mlである、
結晶性ベーマイト粉末。
【請求項2】
請求項1に記載の結晶性ベーマイト粉末及び分散媒を含む、結晶性ベーマイトスラリー。
【請求項3】
レーザー回折・散乱法により測定される体積基準のd50(メジアン径)が0.1μm以上70μm未満であるギブサイトをAl23換算で70~95質量部、
X線回析測定における(020)面のピークから算出される結晶子径が2~6nmであり、レーザー回折・散乱法により測定される体積基準のd50(メジアン径)が3~30μmであり、且つ解膠処理を施されていない擬ベーマイトをAl23換算で5~30質量部(ただし、ギブサイト及び擬ベーマイトのAl23換算の合計量を100質量部とする。)、及び

を、pHが7.0以下とならないように混合して混合液(1)を調製する第一の工程と、
前記混合液(1)に無機塩基性化合物を加えて、pHが9.0~12.5の混合液(2)を調製する第二の工程と、
前記混合液(2)を、5~30℃/時間の速度で昇温し、150~190℃で0.5~24時間かけて水熱処理する第三の工程と
を含む結晶性ベーマイトスラリーの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法により結晶性ベーマイトスラリーを製造する工程(A)と、
工程(A)で製造された前記結晶性ベーマイトスラリーを乾燥する工程(B)と
を含む結晶性ベーマイト粉末の製造方法。
【請求項5】
請求項3に記載の方法により結晶性ベーマイトスラリーを製造するか、又は請求項4に記載の方法により結晶性ベーマイト粉末を製造する工程(α)と、
前記結晶性ベーマイトスラリー及び/又は前記結晶性ベーマイト粉末と、超安定化Y型ゼオライト類と、シリカ系マトリックス形成成分と、任意に水と、任意に粘土鉱物類と、任意に添加剤とを混合して触媒原料スラリーを製造する工程(β)と、
前記触媒原料スラリーを噴霧乾燥して粒子を得る工程(γ)と、
前記粒子を、アンモニウム塩を含む水と接触させる工程(δ)と
を含む炭化水素油の流動接触分解触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶性ベーマイト粉末及び結晶性ベーマイトスラリー、並びにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶性ベーマイトは、例えば、難燃剤、吸着剤、研磨剤、触媒担体として、或いはγアルミナ及びαアルミナ用の原料として用いられている。
用途等に応じて様々な特性を持つ結晶性ベーマイトが開発され、またその製造方法も開発されている。例えば特許文献1には、d50が7μm以下の結晶性ベーマイトの製造方法及びこの方法により製造される結晶性ベーマイトが開示され、この結晶性ベーマイトが難燃性プラスチック混合物の形成に有効であることなどが記載されている。
【0003】
また特許文献2には、低アスペクト比ないし球状のベーマイト生成物粒子及びその製造方法が開示され、このベーマイト生成物粒子が難燃性能等に優れていることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2018-503583号公報
【特許文献2】特表2011-515307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
触媒の材料には、触媒反応時の原料や生成物の拡散が容易となるよう、空隙が多いことが求められることがある。結晶性ベーマイトについても、拡散を容易にして触媒性能を向上させるために、空隙を多くもつことが良いと考えられる。
【0006】
また、結晶性ベーマイトを炭化水素油の流動接触分解触媒(以下「FCC触媒」ともいう。)のマトリックス成分として用いる場合には、結晶性ベーマイトが触媒性能の向上に寄与することが望まれる。
【0007】
そこで本発明は、結晶性ベーマイトをFCC触媒のマトリックス成分として用いた際に、FCC触媒の触媒性能(例えば、炭化水素油の転化率)を向上させることのできる結晶性ベーマイト粉末及びそのスラリーを提供することを目的とする。
【0008】
更に、本発明は、このような特性を有する結晶性ベーマイト粉末及びそのスラリー、具体的にはCBD(Compact Bulk Density)が小さく、且つ結晶子径が大き過ぎない結晶性ベーマイト粉末、及びそのスラリーの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の結晶性ベーマイトの粉末は、X線回析測定における(020)面のピークから算出される結晶子径が10~40nmである。この粉末は、CBDが0.10~0.35g/ml、窒素吸着法により測定される比表面積が60~160m2/g、走査電子顕微鏡による観察から求められるアスペクト比が7以上である。
【0010】
このような結晶性ベーマイト粉末を得るために、以下のような第一の工程から第三の工程を含む結晶性ベーマイトスラリーの製造方法、及び結晶性ベーマイト粉末の製造方法を見出した。
【0011】
まず、ギブサイト、解膠処理を施されていない擬ベーマイト、及び水を、pHが7.0以下とならないように混合して混合液(1)を調製する第一の工程。
ここで、ギブサイトは、レーザー回折・散乱法により測定される体積基準のd50(メジアン径)が0.1μm以上70μm未満である。また、擬ベーマイトは、X線回析測定における(020)面のピークから算出される結晶子径が2~6nmであり、レーザー回折・散乱法により測定される体積基準のd50(メジアン径)が3~30μmである。これら、ギブサイトと擬ベーマイトとを、Al23換算で70~95質量部と5~30質量部(ただし、ギブサイト及び擬ベーマイトのAl23換算の合計量を100質量部とする。)の割合で混合する。
【0012】
次に、第一の工程で調製された混合液(1)に無機塩基性化合物を加えて、pHが9.0~12.5の混合液(2)を調製する第二の工程。
この混合液(2)を、5~30℃/時間の速度で昇温し、150~190℃で0.5~24時間かけて水熱処理する第三の工程。
【0013】
結晶性ベーマイト粉末の製造方法では、上記の結晶性ベーマイトスラリーの製造方法により製造された結晶性ベーマイトスラリーを乾燥させることにより、結晶性ベーマイト粉末が製造される。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、触媒の材料として有用な、CBDの小さい結晶性ベーマイトを提供することができる。
例えば、本発明の結晶性ベーマイト粉末又はそのスラリーをFCC触媒のマトリックス成分として用いることにより、FCC触媒の触媒性能、例えば炭化水素油の転化率を向上させることができる。
【0015】
更に、本発明の製造方法により、このような特性を有する結晶性ベーマイト粉末及びそのスラリー、具体的にはCBDが小さく、且つ結晶子径が大き過ぎない結晶性ベーマイト粉末及びそのスラリーを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
[結晶性ベーマイト粉末]
本発明に係る、結晶性ベーマイト粉末は、
X線回析測定における(020)面のピークから算出される結晶子径が10~40nmであり、
窒素吸着法により測定される比表面積が60~160m2/gであり、
走査電子顕微鏡による観察から求められるアスペクト比が7以上であり、且つ
CBDが0.10~0.35g/mlである
結晶性ベーマイトの粉末である。
【0017】
各物性について詳述する。
<結晶子径>
結晶性ベーマイトの、X線回析測定における(020)面のピークから算出される結晶子径は、10~40nmである。
【0018】
結晶子径がこの範囲にあると、触媒材料として適している。例えば、この結晶性ベーマイト粉末をマトリックス成分として用いることにより、触媒性能に優れたFCC触媒を製造することができる。
【0019】
一方、結晶子径がこの範囲よりも大きい結晶性ベーマイト粉末は、触媒材料として不適であり、例えばこの結晶性ベーマイト粉末をマトリックス成分として用いて製造されたFCC触媒においては、触媒性能もしくは耐摩耗性が大きく劣る場合がある。
この結晶子径は、好ましくは15~40nm、より好ましくは20~35nmである。
結晶子径は、以下の方法又はこれと同等の方法により求められる。
【0020】
《結晶子径の算出方法》
まず、測定試料である結晶性ベーマイトを準備する。結晶性ベーマイトがスラリーの態様である場合には、例えばスラリーを130℃で12時間乾燥させた後に、残渣を乳鉢ですり潰すことにより、結晶性ベーマイトの粉末を採取する。
【0021】
次に、乳鉢を用いて測定試料を粉砕し、X線回折装置(例えば、(株)リガク製、RINT-1400)によってX線回折パターンを得る。そして、得られたX線回折パターンにおける、ベーマイトの(020)面のピークの半値全幅を測定し、下記Scherrerの式により算出される値を、結晶子径として採用する。
【0022】
D=Kλ/βcosθ
D:結晶子径(nm)
K:Scherrer定数(本発明ではK=0.94とする)
λ:X線波長(0.15418nm、CuKα)
β:半値全幅(rad)
θ:反射角
【0023】
結晶子径は、例えば後述する製造方法において水熱処理の時間を変化させること、水熱処理時のアルミニウムと無機塩基性化合物との比率を変化させること、又はギブサイトと擬ベーマイトとの混合比率を変化させることにより調整できる。
【0024】
<比表面積>
結晶性ベーマイトの窒素吸着法(下記の方法又はこれと同等の方法)により測定される比表面積は、60~160m2/gである。比表面積が上記の範囲にあると、ベーマイトの結晶性を保持しやすい。この比表面積は、好ましくは80~140m2/gである。
【0025】
《窒素吸着法による比表面積の測定方法》
まず、測定試料である結晶性ベーマイトを準備する。結晶性ベーマイトがスラリーの態様である場合には、例えばスラリーを130℃で12時間乾燥させた後に、残渣を乳鉢ですり潰すことにより、結晶性ベーマイトの粉末を採取する。
【0026】
次に、測定試料を磁性ルツボに採取し、600℃で2時間焼成後、デシケータに入れて室温まで冷却する。次に、0.3gの測定試料を採取し、全自動表面積測定装置を用いて、BET1点法により試料の比表面積(m2/g)を測定する。
【0027】
比表面積は、例えば後述の製造方法において水熱処理の時間を変化させること、水熱処理時のアルミニウムと無機塩基性化合物との比率を変化させること、又はギブサイトと擬ベーマイトとの混合比率を変化させることにより調整できる。
【0028】
<結晶形状>
結晶性ベーマイトの、下記条件下での走査電子顕微鏡(SEM)により求められるアスペクト比は、7以上、好ましくは8以上であり、その上限値は、例えば50であってもよい。
【0029】
《SEM観察によるアスペクト比の算出方法》
まず、測定試料である結晶性ベーマイトを準備する。結晶性ベーマイトがスラリーの態様である場合には、例えばスラリーを130℃で12時間乾燥させた後に、残渣を乳鉢ですり潰すことにより、結晶性ベーマイトの粉末を採取する。
【0030】
走査型電子顕微鏡により、前記測定試料を観察し結晶のSEM像を得る。倍率は、例えば50000~300000倍である。画像から、板状粒子の平板面が観察できる20粒子を無作為に選び、最長径を測定する。また画像から、板状粒子の厚さが観察できる20粒子を無作為に選び、最短径(粒子厚さ)を測定する。20粒子の単純平均最長径を20粒子の単純平均最短径で除した値をアスペクト比とする。粒子の最長径及び最短径の測定には画像解析ソフト(例えば、三谷商事(株)製画像解析ソフトウェアWinroof2018 STANDARD)を使用してもよい。
【0031】
アスペクト比は、例えば後述の製造方法において水熱処理の時間を変化させること、水熱処理時のアルミニウムと無機塩基性化合物との比率を変化させること、又はギブサイトと擬ベーマイトとの混合比率を変化させることにより調整できる。
また、前記結晶性ベーマイトの形状は、好ましくは板状である。
【0032】
<CBD(Compact Bulk Density)>
結晶性ベーマイトの、以下の方法により測定されるCBDは小さく、0.10~0.35g/mlである。この結晶性ベーマイトは、このようにCBDが小さいため、カードハウス構造を形成しているものと考えられる。このため、本発明の結晶性ベーマイト粉末を触媒の材料として用いると、得られる触媒は空隙が多くなり、触媒反応時の原料や生成油の拡散が容易になると考えられる。例えば、本発明の結晶性ベーマイト粉末をFCC触媒のマトリックス成分として用いると、FCC触媒に大きな空隙を形成し、転化率等の触媒性能を向上させることができると考えられる。このCBDは、好ましくは0.15~0.30g/mlである。
【0033】
《CBDの測定方法》
まず、測定試料である結晶性ベーマイト粉末を準備する。結晶性ベーマイトがスラリーの態様である場合には、例えばスラリーを130℃で12時間乾燥させた後に乳鉢ですり潰すことにより、結晶性ベーマイトの粉末を採取する。
【0034】
次に、25gの測定試料を量り取り、容量250mlのメスシリンダーに移し、タイラー型篩振盪器にメスシリンダーを取り付ける。タイラー型篩振盪器で15分かけて試料をタッピング充填し、メスシリンダーを取り外し、試料表面を平らにして充填容積を読み取り、CBDを算出する。
【0035】
CBDは、例えば後述の製造方法においてギブサイトと擬ベーマイトとの混合比率を変化させることにより調整できる。
本発明の結晶性ベーマイト粉末は、例えばFCC触媒のマトリックス成分として好ましく使用することができる他、水素化触媒、水素化脱硫触媒、異性化触媒、酸化触媒、排ガス浄化触媒などの触媒材料に用いることができる。
【0036】
[結晶性ベーマイトスラリー]
本発明に係る結晶性ベーマイトスラリーは、上述した本発明に係る結晶性ベーマイト粉末及び分散媒を含むことを特徴としている。
【0037】
分散媒としては、水、メタノール、エタノール、1-プロパノールなどが挙げられ、これらの中でも水が好ましい。
この結晶性ベーマイトスラリーにおける結晶性ベーマイトのアルミナ(Al23)換算の濃度は、例えば5.0~30質量%、好ましくは8.0~25質量%である。
【0038】
上述のように、本発明に係る結晶性ベーマイトスラリーは、高濃度であっても粘度が低く、例えば前記結晶性ベーマイトの濃度を15質量%に調整した際の粘度(25℃)が好ましくは10~3000cPである。濃度の調整は、結晶性ベーマイトスラリーに含まれる分散媒、典型的には水の量を増減させることにより行われる。
【0039】
結晶性ベーマイトスラリーは、その用途などに応じて、本発明の効果を損なわない範囲で添加剤、例えば無機酸(硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、ホウ酸など)、無機塩基(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニウムなど)、有機酸(ギ酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸、コハク酸、シュウ酸、乳酸など)、増粘剤(ポリビニルアルコール、メチルセルロース、アラビアゴム、ケイソウ土、ベントナイト、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキシド、ポリアクリル酸エステル、ローカストビーンガムなど)を含んでいてもよく、添加剤を含んでいなくてもよい。
【0040】
[結晶性ベーマイトスラリーの製造方法]
本発明に係る結晶性ベーマイトのスラリーの製造方法は、
レーザー回折・散乱法により測定される体積基準のd50(メジアン径)が0.1μm以上70μm未満であるギブサイトをAl23換算で70~95質量部、
X線回析測定における(020)面のピークから算出される結晶子径が2~6nmであり、レーザー回折・散乱法により測定される体積基準のd50(メジアン径)が3~30μmであり、且つ解膠処理を施されていない擬ベーマイトをAl23換算で5~30質量部(ただし、ギブサイト及び擬ベーマイトのAl23換算の合計量を100質量部とする。)、及び

を、pHが7.0以下とならないように混合して混合液(1)を調製する第一の工程と、
この混合液(1)に無機塩基性化合物を加えて、pHが9.0~12.5の混合液(2)を調製する第二の工程と、
この混合液(2)を、5~30℃/時間の速度で昇温し、150~190℃で0.5~24時間かけて水熱処理する第三の工程と、
を含むことを特徴としている。
この製造方法により、上述した本発明に係る結晶性ベーマイトスラリーを製造することができる。
【0041】
(第一工程)
第一の工程は、ギブサイトと、擬ベーマイトと、水とを混合して混合液(1)を調製する工程である。
【0042】
このギブサイトの体積基準のd50(メジアン径)は0.1μm以上70μm未満であり、好ましくは1.0μm以上65μm未満である。このd50が、この範囲よりも過小であると反応の制御が困難であり、過大であると水に懸濁した際のギブサイトの沈降が速く、取り扱いが困難である。このd50は、より好ましくは2.0μm以上60μm未満である。d50が小さいと水熱処理時間が短縮できるため、更に好ましくは2.0μm以上40μm未満である。
【0043】
ギブサイトの例としては、市販品であれば、「C-303」(住友化学(株)製)、「C-12」(住友化学(株)製)などが挙げられる。このギブサイトは、d50が前記範囲内となるように適宜粉砕して使用してもよい。粉砕はボールミル、アトライター、ビーズミル、コロイドミル、高せん断ミキサー等で行ってもよい。
【0044】
《粒度分布の測定方法》
粒度分布は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置を用いて、光線透過率が70~95%の範囲となるように試料を溶媒(水)に投入し、循環速度 5.0L/分、超音波照射 1分間、反復回数 15回、屈折率 1.66の条件又はこれと同等の条件で測定される。
【0045】
擬ベーマイトについては、水熱処理時に種結晶(シード)として機能すると考えられ、その結晶子径は、2~6nmである。この結晶子径がこの範囲よりも過小であると、水熱処理に長時間を要するため好ましくなく、過大であると反応制御が困難である。
【0046】
擬ベーマイトの結晶子径の算出方法は、上述した結晶性ベーマイトの結晶子径の算出方法と同様である。
この擬ベーマイトの体積基準のd50(メジアン径)は3~30μmである。このd50が、この範囲よりも過小であると液粘度が高く取り扱いが困難であり、過大であると種結晶として機能しない。このd50は、好ましくは5.0~20μmである。
【0047】
擬ベーマイトの例としては、市販品であれば、「Catapal-A」(Sasol製)などが挙げられる。
擬ベーマイトはd50が前記範囲内となるように適宜粉砕して使用してもよい。粉砕はボールミル、アトライター、ビーズミル、コロイドミル、高せん断ミキサー等で行ってもよい。
【0048】
擬ベーマイトのd50の測定方法は、上述したギブサイトのd50の測定方法と同様である。
擬ベーマイトは、公知の方法でスラリーの形態に調製し、擬ベーマイトスラリーとして、ギブサイトと水との混合に供してもよい。このような擬ベーマイトスラリーの製造方法としては、例えば、60℃の温水を攪拌しながらアルミン酸ナトリウム水溶液と硫酸アルミニウム水溶液を添加して擬ベーマイトを析出させる方法が挙げられる。
【0049】
本発明に係る擬ベーマイトは、解膠させることなく、ギブサイト及び水と混合される。擬ベーマイトの解膠を行わないことで、擬ベーマイトの凝集体が種結晶として機能し、得られる結晶性ベーマイトも凝集してカードハウス構造を形成するため、CBDが小さくなると考えられる。また、解膠を行わないことで、工程を短縮できるため、工業的な経済性及び生産性にも優れる。
【0050】
使用する水としてはイオン交換水が好ましい。この水は、擬ベーマイト及び水を含むスラリーとして供してもよい。
ギブサイトと、擬ベーマイトとの混合比、すなわち「ギブサイトの質量:擬ベーマイトの質量」は、Al23換算で、「70~95:30~5」である(ただし、両者の合計を100とする。)。ここで、ギブサイトの量が過小(擬ベーマイトの量が過大)であると、結晶性ベーマイトスラリーから得られる結晶性ベーマイトのCBDが大きくなってしまう。逆に、ギブサイトの量が過大(擬ベーマイトの量が過小)であると、得られる結晶性ベーマイトは、結晶子径が大きく、且つ比表面積が小さくなってしまう。この「ギブサイトの質量:擬ベーマイトの質量」は、好ましくは「75~90:25~10」、更に好ましくは「80~90:20~10」である。
【0051】
ギブサイトと、擬ベーマイトと、水とを混合して得られる混合液(1)は、通常、スラリーである。
ギブサイトと、擬ベーマイトと、水とを混合して混合液(1)を調製する際の温度は、通常5~90℃、好ましくは15~80℃である。
【0052】
これらの成分は、混合液(1)のpHが7.0以下にならないように混合され、次の工程に使用する。こうすることで、擬ベーマイトは酸性条件にすることによる解膠を受けずに凝集体のまま種結晶として機能し、CBDが小さい結晶性ベーマイトが得られる。
【0053】
(第二工程)
第二の工程は、混合液(1)に無機塩基性化合物を加えて、pHが9.0~12.5である混合液(2)を調製する工程である。
【0054】
無機塩基性化合物の例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムなどが挙げられ、水酸化ナトリウムが好ましい。
混合液(2)は、通常、スラリーである。
【0055】
無機塩基性化合物の種類及び量は、得られる混合液(2)のpHが通常9.0~12.5、好ましくは10.5~12.4となるように調整される。pHがこの下限値よりも小さいと、水熱処理中にギブサイトや擬ベーマイトの溶解再析出が進行せず、所望のベーマイトだけでなくギブサイトをも含むスラリーが得られるため好ましくない。
混合液(1)に無機塩基性化合物を加えて混合液(2)を調製する際の温度は、通常5~90℃、好ましくは15~80℃である。
【0056】
(第三工程)
第三の工程は、第二の工程で得られた混合液(2)を水熱処理して結晶性ベーマイトスラリーを得る工程である。
【0057】
熱処理温度は、通常150~190℃、好ましくは160~190℃である。
熱処理時間は、通常1~24時間、好ましくは1.5~18時間である。
一方、熱処理温度がこの範囲よりも過度に低いと、或いは熱処理時間がこの範囲よりも過度に短いと、水熱反応が十分に進行せず、結晶性ベーマイトの収率が下がってしまう。
【0058】
また、昇温速度(すなわち、第二の工程で得られた混合液(2)を上述の熱処理温度まで昇温する速度)は、通常5~30℃/時間、好ましくは15~30℃/時間である。
一方、昇温速度がこの範囲よりも過度に大きいと、水熱反応が十分に進行せず、結晶性ベーマイトの収率が下がってしまう。
【0059】
水熱処理は、自然発生圧力下で行ってもよい。
水熱処理には、通常、オートクレーブが使用される。このオートクレーブは、好ましくは攪拌翼を備えている。水熱処理は、攪拌翼を用いて混合物(2)を攪拌することによって、より均一に行うことができる。
【0060】
(第四工程)
本発明に係る結晶性ベーマイトスラリーの製造方法は、任意に、第三の工程で得られたスラリーを洗浄する第四の工程を有していてもよい。
【0061】
第四の工程では、第三の工程で得られたスラリーを脱水し、得られた固形分を水(好ましくは、イオン交換水)で洗浄し、得られた洗浄ケーキを液媒体(好ましくは、イオン交換水等の水)中に懸濁させて、洗浄された結晶性ベーマイトスラリーを調製する。
【0062】
洗浄に使用する水の温度は、好ましくは40~90℃に設定される。
第四の工程を実施すると、不純物(ナトリウムや硫酸根等)を除去することができる。また、洗浄ケーキを水等に再び懸濁させることで、スラリーを所望の濃度に調整することができる。
【0063】
(結晶性ベーマイトスラリー)
本発明の方法により、結晶性ベーマイトスラリーが製造される。
この結晶性ベーマイトスラリーに含まれる結晶性ベーマイトは、通常、上述した本発明の結晶性ベーマイト粉末の説明の中で説明した物性(結晶子径、比表面積、結晶形状、CBD)を有している。
【0064】
本発明の方法により製造される結晶性ベーマイトスラリーのアルミナ(Al23)換算の濃度は、例えば5.0~30質量%、好ましくは8.0~25質量%である。
この濃度の調整は、結晶性ベーマイトスラリーに含まれる水の量を増減させることにより行うことができる。
【0065】
また、この結晶性ベーマイトの濃度を15質量%に調整した際の結晶性ベーマイトスラリーの粘度(25℃)は、好ましくは10~3000cPである。
この結晶性ベーマイトスラリーは、その用途などに応じて、上述した本発明の結晶性ベーマイトスラリーの説明の中で説明した添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲で含んでいてもよく、添加剤を含んでいなくてもよい。添加剤が含まれる場合、添加剤は、上記第一工程~第四工程のいずれかの段階で常法により添加される。
【0066】
結晶性ベーマイトスラリー中の不純物量に特に制限はないが、触媒原料として用いた時の不純物量を低減する観点では、結晶性ベーマイトスラリー中の不純物量は、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは2.0質量%以下、更に好ましくは0.4質量%以下である(ただし、結晶性ベーマイトスラリー中のアルミナ(Al23)分(すなわち、結晶性ベーマイトのAl23換算量)と不純物量の合計を100質量%とする)。結晶性ベーマイトスラリー中の不純物量の調整は、第一工程で使用する原料中の不純物の量、第二工程で添加する無機塩基性化合物の量、第四工程の洗浄の水の量や温度等、を変更して行うことができる。
【0067】
結晶性ベーマイトスラリーは本発明の効果を損なわない範囲で適宜粉砕して使用してもよい。粉砕はボールミル、アトライター、ビーズミル、コロイドミル、高せん断ミキサー等で行ってもよい。
【0068】
本発明の方法により製造される結晶性ベーマイトスラリーは、例えば流動接触分解触媒(FCC触媒)の材料として好ましく使用することができる他、水素化触媒、水素化脱硫触媒、異性化触媒、酸化触媒、排ガス浄化触媒などの触媒に好ましく用いることができる。
【0069】
[結晶性ベーマイト粉末の製造方法]
本発明に係る結晶性ベーマイト粉末の製造方法は、
上述した本発明に係る方法により結晶性ベーマイトスラリーを製造する工程(A)と、
工程(A)で製造された結晶性ベーマイトスラリーを乾燥する工程(B)と
を含むことを特徴としている。
【0070】
(工程(A))
工程(A)の詳細は上述のとおりである。
【0071】
(工程(B))
工程(B)では、工程(A)で製造された結晶性ベーマイトスラリーを、乾燥前に水で洗浄してもよい。水の温度は、好ましくは40~90℃である。
【0072】
乾燥としては、例えば洗浄後の結晶性ベーマイトスラリーを、例えば90~200℃で、0.5~24時間加熱することにより実施してもよい。
得られた乾燥物は、好ましくは粉砕される。粉砕は、乳鉢を使用するなど従来公知の方法で行うことができる。
【0073】
また、乾燥としては、結晶性ベーマイトスラリーを噴霧乾燥することにより実施してもよい。この場合、水の添加により結晶性ベーマイトスラリーの濃度を、Al23換算で例えば5~30質量%となるように調整してもよい。
【0074】
例えば、結晶性ベーマイトスラリーを噴霧乾燥機のスラリー貯槽に入れ、例えば120~600℃の範囲に設定された気流(例えば、空気流)が流れる乾燥チャンバー内に結晶性ベーマイトスラリーを噴霧することで、粒子(噴霧乾燥粒子)が得られる。結晶性ベーマイトスラリーの噴霧によって、この気流の温度は低下するが、乾燥チャンバーの出口の温度は、ヒーター等を用いることで、例えば50~300℃の範囲に維持される。
【0075】
噴霧乾燥粒子の粒子径は、噴霧する結晶性ベーマイトスラリーの濃度、粘度、噴霧量、噴霧圧力、噴霧乾燥機のノズル径、熱風温度等を調製することにより、制御できる。
本発明の方法により製造される結晶性ベーマイト粉末は、通常、上述した本発明の結晶性ベーマイト粉末の説明の中で説明した物性(結晶子径、比表面積、結晶形状、CBD)を有する結晶性ベーマイトから構成されている。
【0076】
本発明の方法により製造される結晶性ベーマイト粉末は、例えば流動接触分解触媒(FCC触媒)の材料として好ましく使用することができる他、水素化触媒、水素化脱硫触媒、異性化触媒、酸化触媒、排ガス浄化触媒などの触媒に好ましく用いることができる。
【0077】
[炭化水素油の流動接触分解触媒の製造方法]
本発明に係る炭化水素油の流動接触分解触媒(FCC触媒)の製造方法は、
上述した本発明に係る方法により結晶性ベーマイトスラリーを製造するか、又は上述した本発明に係る方法により結晶性ベーマイト粉末を製造する工程(α)と、
工程(α)で得られた結晶性ベーマイトスラリー及び/又は結晶性ベーマイト粉末と、他の成分とを混合して、触媒原料スラリーを製造する工程(β)と、
工程(β)で製造された触媒原料スラリーを噴霧乾燥して粒子を得る工程(γ)と、
工程(γ)で製造された粒子を、アンモニウム塩を含む水と接触させる工程(δ)と
を含むことを特徴としている。
【0078】
(工程(α))
工程(α)の詳細は上述のとおりである。
【0079】
(工程(β))
工程(β)では、工程(α)で製造された結晶性ベーマイトスラリー及び/又は結晶性ベーマイト粉末と、超安定化Y型ゼオライト類と、シリカ系マトリックス形成成分と、任意に水と、任意に粘土鉱物類と、任意に添加剤とを混合して、触媒原料スラリーを製造する。
【0080】
超安定化Y型ゼオライト類、シリカ系マトリックス形成成分、粘土鉱物類及び添加剤は、それぞれ粉末の状態で添加しても、スラリー化して添加してもよい。また、ゲル化を引き起こすことなくスラリーを調製できる限り、各成分を添加する順序は問わない。
【0081】
(超安定化Y型ゼオライト類)
超安定化Y型ゼオライト類の例としては、超安定化Y型ゼオライト(USY)及びUSYに希土類金属をイオン交換等により導入した希土類金属交換超安定化Y型ゼオライト(以下「REUSY」とも記載する。)が挙げられる。
【0082】
(シリカ系マトリックス形成成分)
シリカ系マトリックス形成成分は、通常、シリカ源と酸とを混合して調製される。このシリカ源の例としてはシリカ、シリカゲル(シリカヒドロゲルも包含する。)、シリカゾル(シリカヒドロゾルも包含する。)、ケイ酸(塩)(オルトケイ酸(塩)、メタケイ酸(塩)も包含する。)の水溶液(例えば、水ガラス)が挙げられる。シリカゾル及びケイ酸塩には、ナトリウム型、カリウム型、リチウム型、酸型等のコロイダルシリカを使用することができる。これらのうちシリカゾル及びケイ酸(塩)の水溶液が好適である。
【0083】
酸としては、無機酸が挙げられる。無機酸としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸が挙げられ、これらの中でも硫酸、塩酸及び硝酸が好ましく、硫酸が特に好ましい。
【0084】
(粘土鉱物類)
増量材としての役割を担う粘土鉱物類は、粘土及び/又は粘土鉱物であり、その例として、カオリン、ベントナイト、カオリナイト、ハロイサイト、モンモリロナイト等が挙げられ、特にカオリンが好ましい。
【0085】
工程(β)において、触媒原料スラリーは、これらの成分に加えて、任意に添加剤及び水を添加して調製してもよい。
添加剤としては、シリカアルミナ、活性アルミナ、水酸化アルミニウム(ギブサイトを含む)などが挙げられる。
【0086】
この触媒原料スラリーは、結晶性ベーマイトスラリー及び/又は結晶性ベーマイト粉末を、Al23換算で例えば1~30質量%、好ましくは3~20質量%(ただし、触媒原料スラリー中の固形分量を100質量%とする。)含有する。
【0087】
触媒原料スラリーは、ゼオライトを、例えば10~40質量%、好ましくは12~38質量%、より好ましくは14~36質量%(ただし、触媒原料スラリー中の固形分量を100質量%とする。)含有する。
【0088】
触媒原料スラリーは、前述のシリカ系マトリックス形成成分をSiO2量に換算して、例えば10~30質量%、好ましくは12~26質量%、より好ましくは14~24質量%(ただし、触媒原料スラリー中の固形分(触媒原料スラリー中の分散媒以外の成分以下も同様である。)量を100質量%とする。)含有する。
【0089】
触媒原料スラリーは、前述の粘土鉱物類を、例えば10~60質量%、好ましくは14~56質量%、より好ましくは18~52質量%(ただし、触媒原料スラリー中の固形分量を100質量%とする。)含有する。
【0090】
触媒原料スラリーは、前述の添加剤を、例えば2~30質量%、好ましくは5~20質量%(ただし、触媒原料スラリー中の固形分量を100質量%とする。)含有する。
触媒原料スラリーは、分散媒として水を含む。
【0091】
触媒原料スラリーには、分散媒として水以外の成分、例えばメタノール、エタノール、及びアセトン等が少量含まれていてもよい。
触媒原料スラリーの固形分濃度は、触媒原料スラリーの噴霧乾燥を困難なく実施する等のために、例えば10~50質量%、好ましくは20~40質量%である。
【0092】
(工程(γ))
工程(γ)では、工程(β)で製造された触媒原料スラリーを噴霧乾燥し、粒子(以下、「噴霧乾燥粒子」とも記載する。)を得る。
【0093】
噴霧乾燥条件は、触媒原料スラリーの固形分濃度、粘度等によって適宜変更してよく、得られる噴霧乾燥粒子の平均粒子径が、一般的なFCC触媒粒子と同様、平均50~90μmの範囲となる条件であれば、特に限定されない。
【0094】
例えば、触媒原料スラリーを噴霧乾燥機のスラリー貯槽に入れ、例えば120~600℃の範囲に設定された気流(例えば、空気流)が流れる乾燥チャンバー内に触媒原料スラリーを噴霧することで、粒子(噴霧乾燥粒子)が得られる。触媒原料スラリーの噴霧によって、この気流の温度は低下するが、乾燥チャンバーの出口の温度は、ヒーター等を用いることで、例えば50~300℃の範囲に維持される。
【0095】
噴霧乾燥粒子の粒子径は、噴霧する触媒原料スラリーの濃度、粘度、噴霧量、噴霧圧力、噴霧乾燥機のノズル径、熱風温度等を調製することにより、制御できる。
また、この噴霧乾燥粒子を洗浄し(例えば、水により洗浄し)、乾燥させてもよい。
【0096】
(工程(δ))
工程(δ)では、工程(γ)で得た噴霧乾燥粒子を、希土類金属を含む水溶液と接触させ、噴霧乾燥粒子中のゼオライトに希土類金属を導入する。この工程(δ)によりFCC触媒が得られる。
【0097】
工程(δ)では、好ましくは噴霧乾燥粒子を水に懸濁させて懸濁液を調製し、この懸濁液をイオン交換する希土類金属(RE)を含む水溶液と接触させる。その後、得られた固形分(FCC触媒)を分離、洗浄及び乾燥してもよい。水の温度は、好ましくは40~80℃である。また、懸濁液を濾過し、濾別された固形分を再度水に懸濁させることにより、噴霧乾燥粒子中に存在する不要な可溶性物質を除去してもよい。
【0098】
希土類金属を含む水溶液は、例えば希土類金属の塩(例えば、LaCl3)を水に溶解させることで調製できる。
工程(δ)は、得られる流動接触分解触媒中の希土類金属の濃度が希土類金属の酸化物(RE23)に換算して0.5~3.5質量%、好ましくは0.7~3.0質量%含有するように行われる。この希土類金属の酸化物が目的の含有量となるように、希土類金属を含む水溶液の量、濃度等により調整する。
【0099】
超安定化Y型ゼオライト類がUSYである場合のみならず、REUSYを使用し、工程(β)において触媒原料スラリーを調製した際、又は工程(γ)で得られた噴霧乾燥粒子を洗浄する際に、REUSYから一部の希土類金属イオンが外れた(プロトンに置換された)場合であっても、工程(δ)を行うことによって、所望の量の希土類金属を含む流動接触分解触媒を製造することができる。
【0100】
以上のような工程(α)~(δ)を含む本発明の方法により炭化水素油の流動接触分解触媒を製造することができる。
【実施例0101】
以下に実施例を示し具体的に本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0102】
[測定方法]
実施例等では、以下の方法で各種測定を行った。
【0103】
<スラリーの測定>
(粒度分布(d50))
試料の粒度分布の測定を、堀場製作所(株)製レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(LA-950V2)にて行った。具体的には、光線透過率が70~95%の範囲となるように試料を溶媒(水)に投入し、循環速度を5.0L/分、超音波照射を1分間、反復回数を15回、屈折率を1.66として、測定を実施した。
【0104】
<粉末の測定>
(測定試料の調製)
実施例及び比較例の工程3を実施する過程で得られる洗浄ケーキを、130℃で12時間かけて乾燥させ、次いで乳鉢で粉砕し、測定試料を得た。
【0105】
(結晶子径、結晶形態及び結晶形状)
この測定試料について、X線回折装置((株)リガク製 RINT-1400)によりX線回折分析を行い、結晶構造を同定した。
更に、ベーマイトの(020)面のピークから、上述の方法により結晶子径を算出した。
【0106】
(結晶形状)
上述した方法で走査電子顕微鏡(SEM)により測定試料を観察し、結晶の形状を確認し、アスペクト比を求めた。なお、走査型電子顕微鏡として(株)日立ハイテクノロジーズの走査電子顕微鏡S-5500を使用し、倍率を50000~300000倍とし、画像解析ソフトとして三谷商事(株)製画像解析ソフトウェアWinroof2018 STANDARDを使用した。
【0107】
(比表面積)
測定試料を磁性ルツボに採取し、600℃で2時間焼成後、デシケータに入れて室温まで冷却した。次に、0.3gの測定試料を採取し、全自動表面積測定装置((株)マウンテック製 Macsorb-1220)を用いて、比表面積(m2/g)をBET1点法により測定した。
【0108】
(CBD)
25gの結晶性ベーマイト粉末を量り取り、容量250mlのメスシリンダーに移し、タイラー型篩振盪器にメスシリンダーを取り付けた。タイラー型篩振盪器で15分かけて試料をタッピング充填し、メスシリンダーを取り外し、試料表面を平らにして充填容積を読み取り、CBDを算出した。
【0109】
[実施例1]
(工程1 擬ベーマイトの調製)
容量が100Lのスチームジャケット付のタンクに、Al23換算濃度が22質量%のアルミン酸ナトリウム水溶液9.09kgを入れ、イオン交換水で希釈して40.00kgとした。次いで、この溶液に濃度26質量%のグルコン酸ナトリウム水溶液230.8gを加え、攪拌しながら60℃に加温し、Al23換算濃度が5質量%のアルミン酸ナトリウム・グルコン酸ナトリウムの混合溶液を得た。
【0110】
この混合溶液とは別に、Al23換算で7質量%の硫酸アルミニウム水溶液14.29kgをイオン交換水25.71kgで希釈し、次いで60℃に加温して、硫酸アルミニウム水溶液を調製した。
【0111】
次に、Al23換算濃度が5質量%のアルミン酸ナトリウム・グルコン酸ナトリウムの混合溶液を攪拌しながら、これに前記硫酸アルミニウム水溶液を10分間かけて添加して、Al23として濃度が3.8質量%のアルミナ水和物スラリーを調製した。このとき、スラリーのpHは7.2であった。得られたアルミナ水和物スラリーを、攪拌しながら60℃で60分間熟成した。ついで、熟成したアルミナ水和物スラリーを平板ろ過装置で減圧脱水した後、60℃のイオン交換水100Lで洗浄した。洗浄して得られたケーキ(1)に、Al23濃度換算で15質量%となるようイオン交換水を加えて懸濁し、擬ベーマイトスラリー(1)を得た。
【0112】
このスラリーから分析用試料を少量抜き取り分析したところ、スラリー中の粒子は擬ベーマイト粒子であり、その結晶子径は3.6nm、体積基準のd50(メジアン径)は16μmであった。
【0113】
(工程2 水熱処理による結晶性ベーマイトの調製)
工程1で得られた擬ベーマイトスラリー(1)0.60kgに、ギブサイト粉末(1)(住友化学(株)製 C-303、Al23換算濃度 66.6質量%、体積基準のd50(メジアン径) 5.6μm)0.77kgと、イオン交換水2.59kgとを加え、Al23換算濃度が15質量%のスラリーを調製した。攪拌しながら、48質量%水酸化ナトリウム水溶液を49g加えて、pHが12.2の均一なスラリー(2)を得た。容量5Lのオートクレーブ反応器に前記スラリー(2)を入れ、攪拌下、昇温速度25℃/時間で190℃へ加熱し、自然発生圧力で5時間保持し、スラリー(3)を得た。
【0114】
(工程3 結晶性ベーマイトの洗浄)
工程2で得られたスラリー(3)4.0kgを、平板ろ過装置で減圧脱水した後、60℃のイオン交換水20Lで通水洗浄して、洗浄ケーキ(2)を得た。洗浄ケーキ(2)をステンレス製バットに載せ、130℃で12時間乾燥したのち、乳鉢でよくすり潰して、結晶性ベーマイト粉末(1)を得た。得られた結晶性ベーマイト粉末(1)について、上述の方法で測定した。
製造条件及び測定結果を表1に示す(以下の実施例及び比較例も同様)。
【0115】
[実施例2]
実施例1の工程3で得られた洗浄ケーキ(2)を、イオン交換水で、Al23換算濃度が15質量%になるよう希釈して、よく懸濁して、結晶性ベーマイトのスラリー(4)を得た。該スラリー(4)を液滴として入口温度が250℃、出口温度が120℃の噴霧乾燥機で乾燥させ、結晶性ベーマイト粉末(2)を得た。得られた結晶性ベーマイト粉末(2)について、上述の方法で測定した。
【0116】
[実施例3]
工程2において、ギブサイト粉末(1)をギブサイト粉末(2)(住友化学(株)製、C-303(Al23換算濃度 66.6質量%)をビーズミルで粉砕し、体積基準のd50(メジアン径)を2.6μmとしたもの)0.77kgに変更したこと以外は実施例1と同様にして、結晶性ベーマイト粉末(3)を製造し、測定した。
【0117】
[実施例4]
工程2において、擬ベーマイトスラリー(1)の量を0.28kgに、ギブサイト粉末(1)の量を0.84kgに、イオン交換水の量を2.83kgに変更したこと以外は実施例1と同様にして、結晶性ベーマイト粉末(4)を製造し、測定した。
【0118】
[実施例5]
工程2において、擬ベーマイトスラリー(1)の量を1.00kgに、ギブサイト粉末(1)の量を0.68kgに、イオン交換水の量を2.28kgに変更したこと以外は実施例1と同様にして、結晶性ベーマイト粉末(5)を製造し、測定した。
【0119】
[実施例6]
工程2において、ギブサイト粉末(1)をギブサイト粉末(3)(住友化学(株)製 C-12、Al23換算濃度 66.6質量%、体積基準のd50(メジアン径) 51μm)0.77kgに変更したこと以外は実施例1と同様にして、結晶性ベーマイト粉末(6)を製造し、測定した。
【0120】
[実施例7]
工程2において、加熱温度を160℃に、加熱時間を12時間に変更したこと以外は実施例1と同様にして、結晶性ベーマイト粉末(7)を製造し、測定した。
【0121】
[実施例8]
(工程1 ベーマイトの調製)
実施例1で得られた擬ベーマイトスラリー(1)に、濃度15質量%のアンモニア水を添加してpH10.2に調整し、攪拌しながら95℃で10時間熟成した。熟成したアルミナ水和物スラリーを平板ろ過装置で減圧脱水した後、60℃のイオン交換水100Lで洗浄した。
【0122】
洗浄して得られたケーキに、Al23換算濃度が15質量%となるようイオン交換水を加えて懸濁し、擬ベーマイトスラリー(8)を得た。
このスラリーから分析用試料を少量抜き取り分析したところ、スラリー中の粒子は擬ベーマイト粒子であり、その結晶子径は5.3nm、体積基準のd50(メジアン径)は6.8μmであった。
【0123】
(工程2及び工程3)
擬ベーマイトスラリー(1)を0.60kgの擬ベーマイトスラリー(8)に変更したこと以外は実施例1の工程2及び工程3と同様にして、結晶性ベーマイト粉末(8)を製造し、測定した。
【0124】
[実施例9]
工程2において、48質量%水酸化ナトリウム水溶液の量を196gに変更したこと以外は実施例1と同様にして、結晶性ベーマイト粉末(9)を製造し、測定した。
【0125】
[比較例1]
工程2において、擬ベーマイトスラリー(1)を使用せず、ギブサイト粉末(1)の量を0.90kgに、イオン交換水の量を3.10kgにそれぞれ変更したこと以外は実施例1と同様にして、結晶性ベーマイト粉末(10)を製造し、測定した。
【0126】
[比較例2]
工程2において、擬ベーマイトスラリー(1)の量を3.20kgに、ギブサイト粉末(1)の量を0.18kgに、イオン交換水の量を0.62kgに変更したこと以外は実施例1と同様にして、結晶性ベーマイト粉末(11)を製造し、測定した。
【0127】
[比較例3]
工程2において、加熱温度を140℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして、水酸化アルニウム粉末を製造し、測定した。
【0128】
[比較例4]
工程2において、昇温速度を40℃/時に変更したこと以外は実施例1と同様にして、水酸化アルニウム粉末を製造し、測定した。
【0129】
【表1】
【0130】
以下に、本発明の結晶性ベーマイト粉末をFCC触媒の材料に適用する例を示す。
〔FCC触媒の製造及び評価〕
[触媒調製実施例1]
水ガラス(SiO2濃度 17質量%)2941gと硫酸水溶液(硫酸濃度 25%)1059gとを同時に連続的に加えて、SiO2濃度が12.5質量%のシリカバインダー溶液4000gを調製した。このシリカバインダー溶液にカオリン(固形分濃度(1000℃1時間での強熱残重量/強熱処理前の重量) 85質量%)882g、活性マトリックスとして、水酸化アルミニウム(結晶形態 ギブサイト、Al23換算濃度 66.6質量%)を378g、結晶性ベーマイトとして結晶性ベーマイト粉末(1)を純水に懸濁して調製したスラリー(Al23換算濃度 15質量%、硫酸でpHを3.0に調整した。)を1667g、更に、硫酸にてpHを3.9に調整した超安定化Y型ゼオライトスラリー(UCS 2.445nm、蛍光X線測定より求めたSiO2/Al23モル比 7.1、固形分濃度 33質量%)を2273g加えて、良く攪拌して混合スラリーを調製した。
【0131】
この混合スラリーを液滴として、入口温度が250℃、出口温度が150℃の噴霧乾燥機で噴霧乾燥し、平均粒径が70μmの球状粒子を得た。
得られた噴霧乾燥粒子を温水で洗浄し、次いで硫酸アンモニウム水溶液、希土類金属塩化物水溶液によるイオン交換と温水洗浄し、RE23(REは希土類金属元素である。)として1.0質量%となるようにイオン交換処理をした。その後、触媒粒子を雰囲気150℃の乾燥機で10時間乾燥して、流動接触分解触媒C1を得た。
【0132】
[触媒調製実施例2~4、触媒調製比較例1~2]
結晶性ベーマイト粉末(1)に代えて、結晶性ベーマイト粉末(3)、(4)、(5)、(10)、及び(11)のいずれかを用いた以外は、FCC触媒の触媒調製実施例1と同様の操作を実施し、流動接触分解触媒C2~C6を得た。
【0133】
[触媒調製比較例3]
結晶性ベーマイト粉末(1)に代えて、市販の結晶性ベーマイト粉末(結晶形態 ベーマイト、結晶子径 22nm、CBD 0.56g/ml、Al23換算濃度 83質量%)を用いた以外は、FCC触媒の触媒調製実施例1と同様の操作を実施し、流動接触分解触媒C7を得た。
【0134】
[耐摩耗性試験]
触媒実施例と触媒比較例の各流動接触分解触媒について、触媒化成技報Vol.13, No.1, P65, 1996に記載された方法による耐摩耗性指数により評価した。
【0135】
[触媒活性評価試験]
触媒実施例と触媒比較例の各流動接触分解触媒について、ACE-MAT(Advanced Cracking Evaluation-Micro Activity Test)を用い、同一原油、同一反応条件下で、性能評価試験を行った。流動接触分解触媒C5については、耐摩耗性が悪化していたため、性能評価試験には供しなかった。結果を表2に示す。
【0136】
ただし、これらの性能評価試験を行う前に、触媒再生塔で水熱劣化を受けた状態、を模擬する目的で、予めニッケルを1000ppm(ニッケルの質量を触媒の質量で除している)及びバナジウムを2000ppm(バナジウムの質量を触媒の質量で除している)沈着させた後、780℃で13時間スチーミングして、擬平衡化処理を行った。
【0137】
<運転条件>
触媒の性能評価試験における反応条件等は以下の通りである。
原料油:原油の脱硫常圧残渣油(DSAR)+脱硫減圧軽油(DSVGO)の50+50混合油
触媒/通油量の質量比(C/O):5.0(質量%/質量%)
反応温度:520℃
1)転化率=100-(LCO+HCO) (質量%)
2)ガソリンの沸点範囲:30~216℃
3)LCOの沸点範囲:216~343℃(LCO:Light Cycle Oil)
4)HCOの沸点範囲:343℃+(HCO:Heavy Cycle Oil)
5)LPG(液体石油ガス)
6)Dry Gas:メタン、エタン及びエチレン
【0138】
【表2】