(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143772
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】積層体および積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 3/30 20060101AFI20241003BHJP
B32B 27/06 20060101ALI20241003BHJP
B32B 7/022 20190101ALI20241003BHJP
【FI】
B32B3/30
B32B27/06
B32B7/022
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056642
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000122313
【氏名又は名称】株式会社ユポ・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】太田 崇智
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AK07A
4F100AK07B
4F100BA02
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100CA23A
4F100DD07A
4F100DE01A
4F100JB16A
4F100JK01B
4F100JL16A
4F100YY00A
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】最大高さが大きな突起部を有する基材層を含む積層体において、印刷時の白抜けの発生を抑制することができる手段を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂を含む基材層と、前記基材層の少なくとも一方の面に積層された表面層と、を有する積層体であって、前記基材層の前記面の最大高さが10μm以上であり、前記表面層は、クラーク剛度が10cm
3/100以上のフィルムである、積層体である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を含む基材層と、前記基材層の少なくとも一方の面に積層された表面層と、を有する積層体であって、
前記基材層の前記面の最大高さが10μm以上であり、
前記表面層は、クラーク剛度が10cm3/100以上のフィルムである、積層体。
【請求項2】
前記表面層は、クラーク剛度が10~40cm3/100のフィルムである、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記表面層の厚みが30~80μmである、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
前記積層体の厚みが80~400μmである、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項5】
前記基材層に含まれる前記熱可塑性樹脂がリサイクル樹脂を含む、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項6】
熱可塑性樹脂を含み、少なくとも一方の面の最大高さが10μm以上である基材フィルムの前記面に、クラーク剛度が10cm3/100以上である表面フィルムを貼り合わせることを含む、積層体の製造方法。
【請求項7】
前記基材フィルムの厚みが20~340μmであり、
前記基材フィルムが、前記熱可塑性樹脂と、粒子と、を含み、
前記粒子の最大粒子径が前記基材フィルムの厚みの3~30倍である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記基材フィルムの表面を溶融させた状態で、前記表面フィルムを貼り合わせる、請求項6または7に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体および積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチック廃棄物による環境汚染を低減する観点から、廃棄物のリサイクルが活発に行われている。プラスチック廃棄物から再生したリサイクル樹脂は再度様々な用途に利用される。なかでも、消費者が購入、利用した上で廃棄されたプラスチックから再生した樹脂はPCR(Post-Consumer Recycle)樹脂と呼ばれる。環境汚染を低減する要請の高まりから、PCR樹脂を用いたリサイクルシートの利用を促進するための技術はより強く求められている。
【0003】
しかし、PCR樹脂には各種異物が付着していたり、もとの製品に使用されていた粒子や繊維が含まれていたりすることから、再生の過程で除去されない異物が混入している場合が多い。したがって、かような異物を含むPCR樹脂をそのままフィルム原料として使用した場合、フィルム表面に粗大突起を生じるといった問題があった。
【0004】
かような問題を解決するために、例えば、特許文献1では、異物を多く含む層の表面に、異物含有量の少ない層を積層させてなる複合フィルムが提案されている。また、特許文献2では、異物として粒子(粗大粒子)を含む基材層表面に、粗大粒子の最大粒子径の0.15倍以上の厚みを有する表面層を積層させてなる積層体が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-141573号公報
【特許文献2】国際公開第2022/210896号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、PCR樹脂を用いて形成されたフィルムは、異物として粗大粒子を含んでおり、このような粗大粒子を含むフィルム表面には、粗大粒子に起因して、最大高さやクルトシス(尖り)が大きな突起部が現れる。そして、このようなフィルム表面に対して印刷を行った場合、突起部周辺にインクが付着しない部分(白抜け)が生じるという問題がある。
【0007】
したがって、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、最大高さが大きな突起部を有する基材層を含む積層体において、印刷時の白抜けの発生を抑制することができる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の問題を解決すべく、鋭意研究を行った。その結果、その表面における最大高さが大きな基材層と、特定の値以上のクラーク剛度を有する表面層(表面フィルム)と、を有する積層体によって、印刷に供された際の白抜けの発生を抑制できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0009】
すなわち、上記諸目的は、下記の構成を有する本発明によって達成でき、本発明は、下記態様および形態を包含する。
【0010】
本発明の一態様は、
1.熱可塑性樹脂を含む基材層と、前記基材層の少なくとも一方の面に積層された表面層と、を有する積層体であって、前記基材層の前記面の最大高さが10μm以上であり、前記表面層は、クラーク剛度が10cm3/100以上のフィルムである、積層体である;
2.上記1.に記載の積層体において、前記表面層は、クラーク剛度が10~40cm3/100のフィルムであると好ましい;
3.上記1.または2.に記載の積層体において、前記表面層の厚みが30~80μmであると好ましい;
4.上記1.~3.のいずれかに記載の積層体において、前記積層体の厚みが80~400μmであると好ましい;
5.上記1.~4.のいずれかに記載の積層体において、前記基材層に含まれる前記熱可塑性樹脂がリサイクル樹脂を含むと好ましい。
【0011】
また、本発明の他の態様は、
6.熱可塑性樹脂を含み、少なくとも一方の面の最大高さが10μm以上である基材フィルムの前記面に、クラーク剛度が10cm3/100以上である表面フィルムを貼り合わせることを含む、積層体の製造方法である;
7.上記6.に記載の製造方法において、前記基材フィルムの厚みが20~340μmであり、前記基材フィルムが、前記熱可塑性樹脂と、粒子と、を含み、前記粒子の最大粒子径が前記基材フィルムの厚みの3~30倍であると好ましい;
8.上記6.または7.に記載の製造方法において、前記基材フィルムの表面を溶融させた状態で、前記表面フィルムを貼り合わせることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、最大高さが大きな突起部を有する基材層を含む積層体において、印刷時の白抜けの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明に係る積層体の代表的な実施形態の積層構成を模式的に表した断面図である。
【
図2】
図2は、
図1の実施形態の応用例として、積層体の積層構成の異なる構成例を模式的に表した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一態様は、熱可塑性樹脂を含む基材層と、前記基材層の少なくとも一方の面に積層された表面層と、を有する積層体であって、前記基材層の前記面の最大高さが10μm以上であり、前記表面層は、クラーク剛度が10cm3/100以上のフィルムである、積層体である。以下、上記構成を有する積層体を、単に「本発明に係る積層体」とも称する。また、上記基材層を単に「本発明に係る基材層」と、上記表面層を単に「本発明に係る表面層」とも、それぞれ称する。
【0015】
また、本発明の他の態様は、熱可塑性樹脂を含み、少なくとも一方の面の最大高さが10μm以上である基材フィルムの前記面に、クラーク剛度が10cm3/100以上である表面フィルムを貼り合わせることを含む、積層体の製造方法である。以下、上記構成を有する積層体の製造方法を、単に「本発明に係る製造方法」とも称する。また、上記基材フィルムを単に「本発明に係る基材フィルム」と、上記表面フィルムを単に「本発明に係る表面フィルム」とも、それぞれ称する。
【0016】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。
【0017】
本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で測定する。また、「Aおよび/またはB」は、A、Bの各々および一つ以上のすべての組み合わせを含み、具体的には、AおよびBの少なくとも一方を意味し、A、BならびにAとBとの組み合わせを意味する。また、「(メタ)アクリル」との語は、アクリルおよびメタクリルの双方を包含する。よって、例えば、「(メタ)アクリル酸」との語は、アクリル酸およびメタクリル酸の双方を包含する。
【0018】
《積層体》
本発明に係る積層体は、熱可塑性樹脂を含み、最大高さが10μm以上である面を有する基材層と;クラーク剛度が10cm3/100以上のフィルムである表面層と;を有し、上記基材層の面(特定の最大高さを有する面)に上記表面層が積層されてなる。本発明者は、驚くべきことに、上記構成を有する表面層を有することにより、最大高さの大きな突起部を有する基材層を含む積層体であっても、印刷時の白抜けの発生を抑制できることを見出した。
【0019】
ここで、本発明の構成による上記作用効果の発揮のメカニズムは以下のように推測される。
【0020】
上述のように、例えばPCR樹脂のような異物を含む樹脂を用いて形成されたフィルムには粗大粒子が含まれており、かようなフィルムの表面には、最大高さやクルトシス(尖り)の大きな突起部(粗大突起)が生じる。そして、このようなフィルム表面に対して印刷を行った場合、突起部の周辺に白抜けが生じるが、従来、このような白抜けは、突起部の最大高さおよびクルトシス(尖り)が大きいことに起因していると考えられていた。しかしながら、本発明者は、白抜けを抑制する技術について検討を重ねる過程で、突起部の最大高さやクルトシス(尖り)について詳細に検討し、驚くべきことに、これらのうち、クルトシス(尖り)は白抜けの発生に顕著に影響しているとは言えない一方で、突起部の最大高さが白抜けの発生に大きな影響を与えることを見出した。そしてこの知見に基づき、最大高さを低減させるべく、鋭意検討を積み重ねた。その結果、最大高さの大きな突起部を有する基材層に対し、クラーク剛度が10cm3/100以上であるフィルムを表面層として組み合わせることにより、積層体表面の最大高さを低減することができ、結果として白抜けを抑制できることが判明したのである。
【0021】
一般に、フィルムや紙(以下、「フィルム等」とも記載する)の剛度の規定としては、クラーク剛度のほかに、ガーレー剛度やテーバー剛度などがある。クラーク剛度は、自重で撓む際の撓み方を表す指標であり、フィルム等の弾性率および厚みの三乗に比例するパラメータである。一方、ガーレー剛度は、フィルム等を一定の角度となるように曲げる際に必要な力を表す指標であり、テーバー剛度は、フィルム等に一定の力を加えて押し曲げた際の角度(撓みや曲がり)を表す指標である。これらのなかでも、クラーク剛度は、以下で詳説するように、フィルム等が自重で撓む際の挙動に関する指標であり、弾性率に依存するパラメータである。
【0022】
本発明に係る積層体は、クラーク剛度が10cm3/100以上であるフィルムを表面層として有しており、このようなフィルム(表面層)は、十分な弾性を有することから、基材層の突起部により形成される凹凸に対してクッション層のように作用し、基材層表面の凹凸を緩和(吸収)する。その結果、表面の最大高さが大きな基材層を用いて積層体を作製した場合であっても、表面層の表面(積層体の表面)における最大高さが低減できるため、印刷時の白抜けが抑制される。一方、表面の最大高さが大きな基材層に対し、クラーク剛度が10cm3/100未満であるフィルムを組み合わせた場合、当該フィルムは弾性が不十分であることから、上記のようなクッション層のように作用できない。ゆえに、基材層の突起部の最大高さが低減されずに積層体表面に現れてしまうため、白抜けが生じる。
【0023】
このように、本発明に係る積層体は、10cm3/100以上であるクラーク剛度を有する表面層(表面フィルム)を有することにより、印刷時の白抜けが抑制できる。本発明に係る積層体は、その表面における最大高さが低減されることから、白抜けの抑制に加え、突起部とそれ以外の部分(バルク部)における色濃度ムラの発生もまた抑制することができる。したがって、本発明によれば、印刷品質が良好な積層体が提供される。
【0024】
なお、上記メカニズムは推測であり、本発明の技術的範囲をなんら制限するものではない。
【0025】
以下、本発明に係る積層体の構造を、図面を参照して説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0026】
本発明に係る積層体10は、熱可塑性樹脂を含む基材層1上に表面層2を有する。基材層1は、その表面(表面層2が積層された面)の最大高さが10μm以上である。表面層2は、クラーク剛度が10cm
3/100以上のフィルムである。表面層2は、基材層1の少なくとも一方の表面上に設けられていればよい。よって、表面層2は、
図1に示されるように、基材層1の一方の表面(片面)にのみ設けられていてもよいし、
図2に示されるように、基材層1の両方の面(両面)に設けられていてもよい(すなわち、基材層1の一方の表面上に第1の表面層を有し、基材層1の他方の表面上に第2の表面層を有していてもよい)。ただし、
図2に示す第2の表面層がいずれも本発明に係る表面層であったとしても、基材層1の2つの表面の最大高さがともに10μm以上である必要はなく、一方のみの最大高さが10μm以上であれば本発明の範囲に包含される。
【0027】
図1の積層体10を印刷用紙として用い、該積層体10に印刷を施す場合には、
図1のA側が印刷面になる。また、
図2の積層体10を印刷用紙として用いる場合には、
図2のA側、B側の両面が印刷面になる。すなわち、表面層(第1の表面層、第2の表面層)2が印刷面となる。
【0028】
なお、
図1および
図2では、基材層1が単一の材料(単層)で構成される例を図示したが、基材層1の構造は、その表面における最大高さが10μm以上であれば、異なる材料を多層に積層してなる多層構造体であってもよい。また、同様に、
図1および
図2では、表面層2が単一の材料(単層)で構成される例を図示したが、表面層2の構造は、クラーク剛度が10cm
3/100以上のフィルムであれば、異なる材料を多層に積層してなる多層構造体であってもよい。また、
図1および
図2では、基材層1の上に直接表面層2が積層されている(基材層1と表面層2とが隣接している)構成を図示したが、基材層1と表面層2との間には、接着層等の他の層が設けられていてもよい。
【0029】
本発明に係る積層体は、ラベル、包装紙、ポスター、カレンダー、カタログ、広告等の印刷用紙として好適に用いられる。すなわち、本発明の積層体の一形態としては、印刷用紙がある。ここで、「印刷用紙」とは、合成樹脂を含む組成物をフィルム状に成形することにより得られたもの、すなわち、合成紙を指す。上記のような用途を考慮すると、積層体の厚みは、80~400μmであることが好ましく、100~300μmであることがより好ましく、120~250μmであることが特に好ましい。
【0030】
以下、本発明の積層体を構成する基材層および表面層について詳細に説明する。
【0031】
[1]基材層
[1-1]基材層の最大高さ
本発明に係る積層体は、基材層を有する。本発明に係る基材層は、熱可塑性樹脂を含み、その表面(表面層が積層される面)の最大高さが10μm以上である。なお、本明細書において、「最大高さ」とは、JIS-B0601:2013に準拠して測定される値を意図する。
【0032】
本発明に係る基材層の最大高さは10μm以上であり、他の実施形態において、12μm以上であってもよく、14μm以上であってもよい。このように、本発明によれば、最大高さの大きい基材層を用いた場合であっても、印刷時の白抜けが発生しにくい積層体を提供することができる。
【0033】
また、積層体表面の最大高さを低減しやすく、白抜けの発生をより抑制しやすいという観点からは、基材層の最大高さは、小さいほど好ましい。一例として、基材層の最大高さは、30μm以下であると好ましく、25μm以下であるとより好ましく、20μm以下であると特に好ましい。
【0034】
上記のような最大高さを有する基材層は、以下で詳説するように、異物粒子(粗大粒子)を含みうる。一例として、基材層は、基材層(基材フィルム)の厚みの3~30倍である最大粒子径を有する粗大粒子を含む熱可塑性樹脂組成物によって形成されうる。
【0035】
[1-2]基材層(基材フィルム)の組成
[熱可塑性樹脂]
本発明に係る基材層は、熱可塑性樹脂を含む。「基材層に含まれる熱可塑性樹脂」とは、基材層形成用の樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂であり、基材層形成時の押出工程において溶融状態となる樹脂をいう。本発明に係る基材層は、熱可塑性樹脂を主成分として含むと好ましい。なお、当該形態において、「主成分」とは、基材層全体の総質量に対して(基材層全体の総質量を100質量%として)、その割合は好ましくは40質量%以上であり、より好ましくは50質量%以上であり、特に好ましくは60質量%以上である。また、熱可塑性樹脂の含有量の上限は、特に制限されないが、100質量%以下でありうる。
【0036】
資源を有効利用し、環境負荷を低減するという観点から、本発明に係る積層体の好ましい実施形態として、粗大粒子を含むリサイクル樹脂(PCR樹脂)を用いて製造される積層体が挙げられる。したがって、一実施形態において、基材層に含まれる熱可塑性樹脂は、リサイクル樹脂を含むと好ましい。本明細書において、「リサイクル樹脂」とは、使用済みのプラスチック製品を再生して作られた樹脂を意図し、再生プラスチックやPCR(Post-Consumer Recycle)樹脂とも呼ばれる。そして、リサイクル樹脂は、上記のように、異物としての粗大粒子を含むことが多い。このような粗大粒子を含むため、リサイクル樹脂を用いて基材層を形成すると、粗大粒子もまた基材層に含まれることとなるため、上記のような最大高さを有する基材層が形成される。換言すると、上述の最大高さを有する基材層は、リサイクル樹脂と、リサイクル樹脂に由来する粗大粒子とを含みうる。なお、粗大粒子はリサイクル樹脂由来でなくてもよく、粗大粒子となりうる他の成分を加えて基材層を形成してもよい。
【0037】
基材層に含まれるリサイクル樹脂としては、熱可塑性樹脂であれば特に制限されないが、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂が挙げられる。なかでも、耐水性および耐溶剤性の観点からは、ポリオレフィン系樹脂が好ましい。すなわち、リサイクル樹脂は、ポリオレフィン系樹脂を含むと好ましい。
【0038】
好適なポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂等が挙げられる。すなわち、一実施形態において、リサイクル樹脂は、ポリプロピレン系樹脂および/またはポリエチレン系樹脂を含むと好ましい。
【0039】
ポリプロピレン系樹脂としては、例えばプロピレン単独重合体(ホモポリプロピレン)、およびプロピレンを主体とし、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテン等のα-オレフィン等を共重合させたプロピレン共重合体等が挙げられる。プロピレン系共重合体は、2元系でも3元系以上の多元系でもよく、またランダム共重合体でもブロック共重合体でもよい。
【0040】
ポリエチレン系樹脂としては、例えば密度が0.940~0.970g/cm3程度の高密度ポリエチレン、密度が0.920~0.940g/cm3程度の中密度ポリエチレン、密度が0.900~0.920g/cm3程度の低密度ポリエチレン、エチレン等を主体とし、プロピレン、ブテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、4-メチルペンテン-1等のα-オレフィンを共重合させた共重合体、マレイン酸変性エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体およびその金属塩(金属は亜鉛、アルミニウム、リチウム、ナトリウム、カリウム等)、エチレン-環状オレフィン共重合体、マレイン酸変性ポリエチレン等が挙げられる。上記熱可塑性樹脂は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
上記ポリオレフィン系樹脂のなかでも、成形性およびコストの観点から、リサイクル樹脂は、プロピレン単独重合体(ホモポリプロピレン)および/または高密度ポリエチレンを含むとより好ましい。
【0042】
基材層に含まれる熱可塑性樹脂は、リサイクル樹脂に加えて、これ以外の熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。すなわち、基材層に含まれる熱可塑性樹脂は、リサイクル樹脂のみであってもよいし、リサイクル樹脂と、リサイクル品でない樹脂(以下、「リサイクル樹脂以外の樹脂」または「バージン樹脂」とも称する)とを含んでいてもよい。
【0043】
リサイクル樹脂以外の樹脂(バージン樹脂)の具体例としては、上記においてリサイクル樹脂の具体例として挙げたものと同様のものが挙げられる。なかでも、耐水性および耐溶剤性の観点から、リサイクル樹脂以外の樹脂は、ポリオレフィン系樹脂を含むと好ましく、ポリプロピレン系樹脂および/またはポリエチレン系樹脂を含むとより好ましい。さらに、成形性およびコストの観点からは、プロピレン単独重合体および/または高密度ポリエチレンを含むと特に好ましい。
【0044】
また、リサイクル樹脂以外の樹脂として基材層に含まれる熱可塑性樹脂は、後述する表面層と同じ種類の熱可塑性樹脂であると好ましい。かような形態であると、表面層と、基材層との間の接着性に優れ、積層体の耐久性が向上する。
【0045】
リサイクル樹脂と、リサイクル樹脂以外の樹脂(バージン樹脂)とは、同じ種類であっても異なっていても構わないが、同じ種類の熱可塑性樹脂を含んでいることが好ましい。例えば、基材層がバージン樹脂を含む場合において、リサイクル樹脂の種類がプロピレン系樹脂であるとき、基材層は、バージン樹脂として、プロピレン系樹脂を含んでいることが好ましい。すなわち、プロピレン系樹脂のリサイクル樹脂と、プロピレン系樹脂のバージン樹脂とを含む樹脂組成物を用いて、基材層を形成することが好ましい。
【0046】
本発明に係る基材層中に含まれるリサイクル樹脂の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。一例として、基材層全体の総質量に対して(基材層の総質量を100質量%として)、リサイクル樹脂の含有量は、20質量%以上であることが好ましく、35質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることが特に好ましい。また、リサイクル樹脂の含有量の上限は、特に制限されないが、100質量%以下でありうる。
【0047】
[粒子(粗大粒子)]
本発明に係る基材層は、粒径の大きな粒子(粗大粒子)を含みうる。このように粗大粒子を含むことにより、基材層の表面の最大高さが上記所定の範囲内となりやすい。上述のように、基材層に含まれる熱可塑性樹脂がリサイクル樹脂を含む場合、当該リサイクル樹脂に由来する粗大粒子もまた基材層に含まれることが多いため、基材層表面の最大高さが大きくなる傾向にある。これに対し、本発明によれば、かような粗大粒子を含む材料(リサイクル樹脂)を使用しつつも、白抜けを抑制することができ、高い印刷品質を有する積層体を提供することができる。なお、本明細書において、「粗大粒子」とは、基材層の厚みに対して粒子径の大きな粒子を意図し、一例としては、その最大粒子径が、基材層の厚みの3~30倍である粒子である。特に、基材層を構成する熱可塑性樹脂がリサイクル樹脂を含む場合、当該リサイクル樹脂由来の粗大粒子が基材層に含まれうる。リサイクル樹脂の品質は年々向上しており、これに含まれる異物も減少・微粒化する傾向にはあるものの、依然として、粒子径が数十μm~数百μmという粗大粒子を含有するものも多い。かような粗大粒子の最大粒子径としては、一例として、60~1200μmであり、他の例として、100~900μmである。なお、基材層中の粗大粒子の粒子径は、基材層の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察することにより求めることができる。
【0048】
粗大粒子の種類としては、特に制限はなく、例えばリサイクル樹脂が含有する様々な異物でありうる。かような異物としては、種々の無機粒子、有機粒子(樹脂粒子)が挙げられ、その形状としては球状、針状、板状、繊維状および不定形状等が挙げられる。
【0049】
無機粒子の種類としては、例えば、炭酸カルシウム、タルク、酸化チタン、金属アルミニウム、シリカ等が挙げられる。
【0050】
有機粒子としては、基材層に含まれる熱可塑性樹脂とは異なる種類の樹脂粒子が挙げられる。なお、かような樹脂粒子(有機粒子)は、基材層形成時の押出工程において当該層形成用の樹脂組成物中で溶融しないものであり、例えば基材層に含まれる熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂である場合、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂等の樹脂粒子が挙げられる。
【0051】
本発明に係る基材層中に含まれる粗大粒子の含有量としては、以下の範囲であることが好ましい。すなわち、基材層全体の総質量に対して(基材層の総質量を100質量%として)、粗大粒子の含有量は、0.1~30質量%であることが好ましく、0.5~20質量%であることがより好ましく、1~10質量%であることが特に好ましい。
【0052】
[空孔形成材]
本発明に係る基材層は、強度を損なわない程度に、空孔形成材を含んでいてもよい。空孔形成材を含む熱可塑性樹脂組成物を用いて形成された層(フィルム)を所定温度で延伸した場合、当該層(フィルム)中には、空孔形成材を核とした微細な空孔が多数形成される。このように、基材層が延伸フィルムである場合、空孔形成材を含むことにより、延伸工程時に基材層内部に空孔が形成されやすく、白色度や不透明度を高めることができる。また、基材層の剛度を調整することが可能となる。このように、一実施形態において、基材層は、熱可塑性樹脂と空孔形成材とを含む、多孔質延伸層(多孔質延伸フィルム)でありうる。
【0053】
空孔形成材としては、後述の表面層に含まれうる無機フィラーおよび有機フィラーと同様のものが挙げられる。空孔形成材は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。基材層に含まれる空孔形成材と、以下で詳説する、表面層に含まれうる無機フィラーおよび有機フィラーとは、同種のものであっても、異種のものであってもよい。
【0054】
本発明に係る基材層中に含まれる空孔形成材の含有量は、空孔の形成性の観点から、熱可塑性樹脂100質量部に対して、好ましくは45~250質量部であり、より好ましくは60~200質量部であり、さらに好ましくは75~150質量部であり、特に好ましくは100~150質量部である。
【0055】
[他の成分(任意成分)]
本発明に係る基材層は、必要に応じて、上記成分以外の他の成分(任意成分)を含んでいてもよい。かような他の成分としては、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、結晶核剤、アンチブロッキング剤、可塑剤、脂肪酸アミド等のスリップ剤、染料、顔料、離型剤、難燃剤等として公知のものが挙げられる。他の成分(任意成分)は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0056】
屋外での耐久性を高める観点からは、基材層は、酸化防止剤、光安定剤等を含むことが好ましい。
【0057】
酸化防止剤としては、立体障害フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤等が挙げられる。
【0058】
光安定剤としては、立体障害アミン系光安定剤、ベンゾトリアゾール系光安定剤、ベンゾフェノン系光安定剤等が挙げられる。
【0059】
酸化防止剤および光安定剤の各含有量は、特に制限されないが、基材層全体の総質量に対して(基材層の総質量を100質量%として)、0.001~1質量%の範囲内であると好ましい。
【0060】
[1-3]基材層(基材フィルム)の厚み
本発明に係る基材層の厚みは、特に制限されないが、一実施形態において、20~340μmであると好ましい。なお、基材層は、上述のように、その表面に突起部(凹凸)が形成されている。したがって、本明細書において、基材層の厚みとは、突起部の高さを含まない厚み(突起部が形成されていない部分の厚み)を指すものとする。すなわち、基材層の厚みとは、突起部を形成する粗大粒子を含まない部分における厚みを指すものとする。
【0061】
後述するように、表面層(表面フィルム)と、基材層(基材フィルム)とを貼合することにより積層体を製造する場合、その生産性を考慮すると、基材層の厚みは、20~290μmであることが好ましく、25~200μmであることがより好ましく、30~150μmであることがさらに好ましく、30~100μmであることが特に好ましく、30~80μmであることが最も好ましい。基材層の厚みが上記下限値以上であると、粗大粒子の粒子径に対して基材層の厚みが小さくなりすぎることがなく、結果として基材層表面の最大高さが大きくなりすぎることがない。また、基材層にリサイクル樹脂を用いる場合、積層体の単位面積あたりのリサイクル樹脂の使用量が多くなるため、環境配慮製品としての価値が向上する。一方、積層体を上述の好ましい厚みとなるように各層の厚みを考慮すると、基材層の厚みを上記上限値以下とすることにより、表面層も十分な厚みとすることができる。ゆえに、表面層を過剰に薄くする必要がないため、表面層のクラーク剛度を所定の範囲に調整しやすくなるという利点がある。
【0062】
[2]表面層
[2-1]表面層のクラーク剛度
本発明に係る表面層は、クラーク剛度が10cm3/100以上のフィルムである。なお、本明細書において、「クラーク剛度」とは、JIS P 8143:2009に準じて測定された値を意図する。なお、表面層の面内各方向のクラーク剛度のうち、最も大きな値をその表面層のクラーク剛度とし、例えば表面層が一軸延伸フィルムの場合は、流れ方向(MD)、二軸延伸フィルムの場合MD方向またはこれに直交する方向(TD)のいずれか大きい方、無延伸フィルムの場合はMD方向のクラーク剛度がこれに相当する。
【0063】
本発明に係る表面層はフィルムによって構成され、当該フィルム(表面フィルム)は、そのクラーク剛度が10cm3/100以上である。表面層のクラーク剛度を10cm3/100以上とすることにより、基材層表面の突起部に起因する、積層体表面の最大高さを低減することによって印刷時の白抜けを抑制することができる他、クルトシスを低減する効果も奏される。一方、40cm3/100以下とすることにより、表面層は適度な柔軟性を有することとなり、表面に突起部を有する基材層との十分な密着性を確保することができるため好ましい。積層体表面の最大高さをより低減しやすく、白抜けを抑制する効果がより得られやすいという観点から、表面層のクラーク剛度は、13cm3/100以上であることが好ましく、20cm3/100以上であることがより好ましい。また、基材層と表面層との密着性をより高めるという観点から、表面層のクラーク剛度は、35cm3/100以下であることが好ましく、32cm3/100以下であることがより好ましい。
【0064】
すなわち、一実施形態において、表面層は、クラーク剛度が10~40cm3/100のフィルムであると好ましく、クラーク剛度が13~35cm3/100のフィルムであるとより好ましく、クラーク剛度が20~32cm3/100のフィルムであると特に好ましい。
【0065】
なお、積層体を構成する表面層(表面フィルム)のクラーク剛度は、基材層から分離され(はがされ)、表面層(表面フィルム)のみの状態となった表面層(表面フィルム)について測定することにより得ることができる。
【0066】
[2-2]表面層(表面フィルム)の厚み
本発明に係る表面層の厚みは、特に制限されないが、当該層を形成するために使用する樹脂組成物の種類に応じ、上記クラーク剛度を満たすように適宜選択される。一実施形態において、表面層の厚みは、30~80μmであると好ましい。表面層の厚みを上記範囲内とすることにより、突起部を有する基材層の表面に対する追随性が良好になる。また、基材層に対し、表面層(表面フィルム)を貼合しやすくなる。さらに他の実施形態において、表面層の厚みは、40~70μmであると好ましい。
【0067】
[2-3]表面層(表面フィルム)の構造
本発明に係る表面層はフィルムによって構成される。表面層を構成するフィルム(表面フィルム)は、延伸フィルムであっても無延伸フィルムであってもよいが、所定のクラーク剛度を確保する観点から、延伸フィルムであることが好ましい。延伸フィルムであることで、より薄い厚みを有しながら、所定のクラーク剛度を有する表面フィルムとすることが容易となる。そして、基材層にリサイクル樹脂を用いる場合、積層体全体に占めるリサイクル樹脂の割合を高くすることができる。したがって、リサイクル樹脂の含有割合を高くしながら、より薄い積層体を形成することが可能となる。また、延伸の形態は、一軸延伸であっても、二軸延伸であってもよい。
【0068】
本発明に係る表面層(表面フィルム)の構造は特に制限されず、単層構造であっても、2層以上からなる多層構造であってもよい。所定のクラーク剛度を有する表面層(表面フィルム)を形成しやすいという観点から、表面フィルムは、多層構造であると好ましい。一例として、表面フィルムを表層(i)/基層/表層(ii)の3層構造が挙げられる。かような形態によれば、基層にて積層体に好適な剛度、不透明性、軽量性などを付与することができる。また、表層(i)と表層(ii)とは、同質の表面構造であってもよく、異質の表面構造であってもよい。例えば、一方の表層(表層(i);基材層と積層される面)を、上述の基材層との密着性に優れ、基材層表面の最大高さを緩和(吸収)するに適した表面構造(すなわち、柔軟性の高い表面構造)とし、他方の表層(表層(ii);基材層と積層される面とは反対側の面)を、印刷面として適した表面構造とすることで、より印刷性に優れた積層体を得ることができる。表層(ii)について、より具体的には、表層(ii)を、不透明な印刷受容層としてもよいし、表層(ii)を多孔質層とすることにより不透明化し、印刷面として適した層としてもよい。
【0069】
さらに、所定のクラーク剛度を有する表面層(表面フィルム)を形成しやすいという観点から、表面フィルムの多層構造である場合、少なくともその一層が延伸されていることが好ましい。同様の観点から、多層構造の好適な例としては、一軸延伸層/二軸延伸層/一軸延伸層がこの順に積層されてなる多層構造が挙げられる。このように、二軸延伸層を含むことにより、クラーク剛度の大きな表面層(表面フィルム)が得られやすくなる。
【0070】
[2-4]表面層(表面フィルム)の組成
表面層(表面フィルム)を構成する成分は、特に制限されないが、上記クラーク剛度を満たすように適宜選択される。上記クラーク剛度を満たしやすくするため、表面層は、好ましい一実施形態において、熱可塑性樹脂を含む。さらに同様の観点から、表面層は、好ましい一実施形態において、熱可塑性樹脂、ならびに、無機フィラーおよび/または有機フィラーを含む。
【0071】
[熱可塑性樹脂]
表面層に含まれる熱可塑性樹脂は、リサイクル樹脂以外の樹脂、すなわち、バージン樹脂を含むと好ましく、バージン樹脂であるとより好ましい。バージン樹脂により形成される表面層(表面フィルム)は、平滑な表面を有するだけでなく、リサイクル樹脂を用いた場合と比較して、そのクラーク剛度が大きくなりやすいという利点がある。ゆえに、表面層に含まれる熱可塑性樹脂は、実質的にリサイクル樹脂を含まないと好ましい。ここで、「実質的にリサイクル樹脂を含まない」とは、少なくとも意図的にはリサイクル樹脂を配合しないことをいい、原料や製法等に由来して微量のリサイクル樹脂が不可避的に含まれることは許容されうる。上記微量とは、リサイクル樹脂の含有量が、熱可塑性樹脂の総質量100質量%に対して1質量%以下(好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下)であることをいう。好ましい一実施形態において、表面層に含まれる熱可塑性樹脂は、リサイクル樹脂を含まない(リサイクル樹脂の含有量が0質量%である)。
【0072】
表面層に含まれる熱可塑性樹脂の具体例としては、基材層に含まれる熱可塑性樹脂と同様の樹脂が挙げられ、熱可塑性樹脂は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、耐水性および耐溶剤性の観点から、表面層は、ポリオレフィン系樹脂を含むと好ましい。さらに、成形性およびコストの観点から、表面層は、プロピレン単独重合体および/または高密度ポリエチレンを含むとより好ましい。
【0073】
また、表面層に含まれる熱可塑性樹脂は、上述の基材層に含まれる熱可塑性樹脂(好ましくは、リサイクル樹脂)と同種であると好ましい。かような形態であると、表面層と、基材層との間の密着性(接着性)に優れ、積層体の耐久性が向上する。さらに、このような形態であると、後述するように、サーマルラミネート法にて積層体を作製する場合において、特に密着性(接着性)が向上する。例えば、基材層がポリオレフィン系樹脂を含む場合、表面層もまた、ポリオレフィン系樹脂を含むことが好ましい。さらに、他の例として、基材層がプロピレン系樹脂を含む場合、表面層もまた、プロピレン系樹脂を含むことが好ましい。さらに、他の例として、基材層がプロピレン系樹脂を含む場合であって、表面層が上記のような表層(i)/基層/表層(ii)の3層構造であり、表層(i)が基材層と積層される層であるとき(表層(i)が基材層と対向する層であるとき)、表層(i)もまた、プロピレン系樹脂を含むことが好ましい。さらに、他の例として、基材層が高密度ポリエチレンを含む場合であって、表面層が上記のような表層(i)/基層/表層(ii)の3層構造であり、表層(i)が基材層と積層される層であるとき(表層(i)が基材層と対向する層であるとき)、表層(i)もまた、高密度ポリエチレンを含むことが好ましい。
【0074】
本発明に係る表面層中に含まれる熱可塑性樹脂の含有量は、特に制限されないが、表面層は、主成分として熱可塑性樹脂を含むと好ましい。なお、当該形態において、「主成分」とは、表面層全体の総質量に対して(表面層の総質量を100質量%として)、その割合が40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることが特に好ましい。また、熱可塑性樹脂の含有量の上限は、特に制限されないが、100質量%以下でありうる。
【0075】
[無機フィラーおよび有機フィラー]
表面層は、無機フィラーおよび/または有機フィラーを含むフィルムであると好ましい。フィラーを含有することにより、例えば板状フィラー同士の重なりや、球状フィラーによる延伸時の空孔形成などの効果により、表面層のクラーク剛度が向上する傾向がある。
【0076】
また、本発明に係る表面層は印刷が施される層である。ゆえに、印刷の視認性を高めるため、表面層は、不透明であることが好ましい。このように、不透明である表面層を形成するという観点からも、表面層は、上記熱可塑性樹脂に加え、無機フィラーおよび/または有機フィラーを含むと好ましい。熱可塑性樹脂、ならびに無機フィラーおよび/または有機フィラーを含む表面層形成用熱可塑性樹脂組成物を溶融混練し、押出成形してフィルムとした後、これを延伸すると、無機フィラーおよび/または有機フィラーを核とした微細な空孔をフィルム内部に多数形成する(多孔質層とする)ことができる。これにより、不透明である表面層を形成することができる。
【0077】
無機フィラーとしては、表面層(表面フィルム)を白色化、不透明化させることができるものであれば、その種類は特に限定されない。無機フィラーの具体例としては、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、焼成クレイ、タルク、珪藻土、硫酸バリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化亜鉛、二酸化チタン、二酸化珪素(シリカ)などが挙げられる。また、これらを脂肪酸、高分子界面活性剤、帯電防止剤等で表面処理したものも挙げられる。
【0078】
有機フィラーもまた、その種類は特に限定されない。有機フィラーは、表面層に含まれる熱可塑性樹脂とは非相溶であり、表面層に含まれる熱可塑性樹脂の融点より高い融点またはガラス転移温度を有するものが使用できる。また、有機フィラーは、表面層を構成する熱可塑性樹脂の溶融混練条件下で微分散するものが好ましい。例えば、表面層を構成する熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂である場合は、有機フィラーとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ナイロン-6、ナイロン-6,6、ポリエチレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリメチルメタクリレート、ポリ-4-メチル-1-ペンテン、環状オレフィンの単独重合体、環状オレフィンとエチレンとの共重合体で、融点が120~300℃またはガラス転移温度が120~280℃を有するもの等が挙げられる。またはメラミン樹脂のような熱硬化性樹脂の微粉末を用いてもよい。さらに熱可塑性樹脂を架橋して不熔化することもまた好ましい。なお、本明細書において、樹脂の融点およびガラス転移温度は、JIS K 7121:1987に準拠して、示差走査熱量測定(DSC)を用いて測定される値を意図する。
【0079】
なかでも、粒度分布の調整のしやすさの観点から、表面層に含まれるフィラーとしては、無機フィラーが好ましい。さらに、無機フィラーとしては、重質炭酸カルシウムや軽質炭酸カルシウム等の炭酸カルシウム、焼成クレイ、タルクが、空孔成形性が良く、安価なために好ましい。また、白色度、不透明度を向上させるため、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸バリウムを用いることも好ましい。
【0080】
無機フィラーおよび有機フィラーは、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。2種以上を組み合わせる場合は無機フィラーと有機フィラーとの組み合わせであってもよい。
【0081】
無機フィラーの平均粒子径および有機フィラーの平均分散粒子径は、好ましくは0.01~30μmあり、より好ましくは0.1~20μmであり、さらに好ましくは0.2~10μmである。
【0082】
無機フィラーの平均粒子径は、一例として粒子計測装置、例えば、レーザー回折式粒子計測装置「マイクロトラック」(株式会社日機装製)により測定した、体積基準で累積50%にあたる粒子径(累積50%粒径)を採用することができる。また、溶融混練と分散により熱可塑性樹脂中に分散した有機フィラーの粒子径は、表面層(表面フィルム)の切断面の電子顕微鏡観察により、粒子の少なくとも10個の最大径を測定し、その平均値を粒子径として求めることも可能である。
【0083】
表面層(表面フィルム)が、無機フィラーおよび/または有機フィラーを含む場合、無機フィラーおよび有機フィラーの含有量(2種以上を含む場合は、合計の含有量)は、表面層(表面フィルム)のクラーク剛度を所定の範囲内としやすくするという観点、また、層中の空孔形成性の観点から、熱可塑性樹脂100質量部に対して、好ましくは20~250質量部であり、より好ましくは50~200質量部であり、さらに好ましくは75~150質量部であり、特に好ましくは100~150質量部である。
【0084】
[他の成分(任意成分)]
本発明に係る表面層は、必要に応じて、上記成分以外の他の成分(任意成分)を含んでいてもよい。かような他の成分としては、上述の基材層に含まれうる任意成分と同様のものが挙げられる。他の成分(任意成分)は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0085】
上記のなかでも、屋外での耐久性を高める観点からは、表面層は、酸化防止剤、光安定剤等を含むことが好ましい。酸化防止剤および光安定剤としては、上述の基材層に含まれうる酸化防止剤および光安定剤と同様のものがそれぞれ挙げられる。また、酸化防止剤および光安定剤の各含有量は、特に制限されないが、表面層全体の総質量に対して(表面層の総質量を100質量%として)、0.001~1質量%の範囲内であると好ましい。これらは、表面層と基材層との密着を阻害しない範囲で添加することが好ましい。
【0086】
[2-5]表面層(表面フィルム)の空孔率
上述のように、表面層(表面フィルム)が熱可塑性樹脂に加え、無機フィラーおよび/または有機フィラーを含む場合、当該層(フィルム)内部には空孔が形成されうる。このような空孔の形成により、表面層(表面フィルム)に不透明性や軽量性を付与することができる。フィルム中に占める空孔の割合は空孔率で表すことができる。
【0087】
表面層(表面フィルム)の空孔率は、不透明性を得る観点から、10%以上であることが好ましく、12%以上であることがより好ましく、15%以上であることがさらに好ましく、20%以上であることが特に好ましい。一方、表面層(表面フィルム)の空孔率は、クラーク剛度を10cm3/100以上としやすく、また、機械的強度を良好にするという観点から、60%以下であることが好ましく、57%以下であることがより好ましく、54%以下であることが更に好ましく、50%以下であることが特に好ましい。
【0088】
表面層(表面フィルム)における空孔率の測定方法は、表面層(表面フィルム)の断面を電子顕微鏡で観察し、観察領域において空孔が占める面積の比率より求めることができる。具体的には、表面層(表面フィルム)試料より任意の一部を切り取り、エポキシ樹脂で包埋して固化させた後、ミクロトームを用いてフィルムの面方向に垂直な切断面を作製し、切断面が観察面となるように観察試料台に貼り付け、その観察面に金ないしは金-パラジウム等を蒸着し、電子顕微鏡にて観察しやすい任意の倍率(例えば、500倍~3000倍の拡大倍率)における表面の空孔を観察し、さらに観察した領域を画像データとして取り込み、その画像を画像解析装置にて画像処理を行い、空孔部分の面積率を求めて、空孔率とすることができる。この場合、任意の10箇所以上の観察における測定値を平均して空孔率とすることが可能である。
【0089】
《積層体の製造方法》
本発明に係る積層体の製造方法は、少なくとも一方の面の最大高さが10μm以上である基材層の前記面に、クラーク剛度が10cm3/100以上のフィルムである表面層を積層することができれば特に制限されない。最大高さをより低減し、白抜けの抑制効果をさらに向上させるという観点からは、本発明に係る積層体は、上記構成を有する基材層と、上記構成を有する表面層(表面フィルム)とを、貼り合わせることにより製造されると好ましい。
【0090】
すなわち、好ましい一実施形態において、本発明に係る積層体の製造方法は、熱可塑性樹脂を含み、少なくとも一方の面の最大高さが10μm以上である基材フィルムの前記面に、クラーク剛度が10cm3/100以上である表面フィルムを貼り合わせることを含む。本発明者は、驚くべきことに、かような方法(本発明に係る製造方法)により得られる積層体が、印刷時の白抜けの発生を抑制できることもまた見出した。
【0091】
上記特許文献1および特許文献2には、粗大粒子を含む層(すなわち、本発明に係る基材フィルムに対応する層)の表面に、共押出成形または押出ラミネート法により、特定の表面層を形成することにより積層体を作製する技術が開示されている。かような技術について、本発明者は、積層体の表面に現れる突起部について、基材層の表面に生じた突起部と比較してクルトシス(尖り)は低減されるものの、最大高さについてはさらに低減することが望ましいと考えた。
【0092】
上記特許文献1および特許文献2に開示された共押出成形や押出ラミネート法により表面層を形成した場合、表面層を形成する樹脂が柔らかい状態(溶融状態)で基材層の表面に積層されることとなる。そうすると、基材層表面の凹凸に表面層を形成する樹脂が沿うような状態で表面層が形成され、基材層表面の凹凸を緩和する効果が低減する。すなわち、基材層表面の凹凸が積層体表面に維持されやすい。これに対し、本発明に係る製造方法によれば、最大高さが大きな基材層に対し、特定のクラーク剛度を有する表面フィルムを貼り合わせることから、上記のような樹脂の溶融を伴わないため、基材層表面の凹凸を緩和する効果に優れる。したがって、本発明に係る製造方法により得られる積層体は、印刷時の白抜けを抑制できる。なお、上記メカニズムは推測であり、本発明の技術的範囲をなんら制限するものではない。
【0093】
以下、本発明に係る製造方法について、詳細に説明する。本発明に係る製造方法は、上記基材フィルムと、上記表面フィルムとを貼り合わせること(貼合工程)を含むが、当該貼合工程の前に、基材フィルムを製造すること(基材フィルムの製造工程)および表面フィルムの製造工程をさらに含んでいてもよい。以下、これらの各工程について説明する。
【0094】
[1]基材フィルムの製造工程(製造方法)
基材フィルムは、公知の種々の方法をそのまま、または適宜改変して用いることにより製造することができ、その成形方法は特に限定されない。いかなる方法により製造された基材フィルムであっても、本発明の趣旨を逸脱するものでない限り、本発明の範囲内に含まれる。
【0095】
[1-1]基材フィルム用熱可塑性樹脂組成物の調製
好ましい一実施形態において、基材フィルムは、熱可塑性樹脂(好ましくは、リサイクル樹脂)および粗大粒子を含む基材フィルム用熱可塑性樹脂組成物(基材層用熱可塑性樹脂組成物)を用いて作製される。基材フィルム用熱可塑性樹脂組成物は、例えば、リサイクル樹脂原料から、あるいは、リサイクル樹脂原料とバージン樹脂原料とを混合することにより得ることができる。この際、必要に応じて、上記空孔形成材および/または上記任意成分をさらに添加し、混合してもよい。ここで、リサイクル樹脂原料は、市販のリサイクル樹脂ペレットであってもよいし、熱可塑性樹脂を含む成形品(例えば、合成紙等)を粉砕して得られる粒状物であってもよい。また、バージン樹脂原料の例としては、市販のバージン樹脂ペレットがある。
【0096】
上記混合は、溶融混錬により行われると好ましく、この際の加熱条件については特に制限はなく、溶融押し出し技術等における従来公知の技術が適宜参照されうる。加熱温度は、熱可塑性樹脂(好ましくは、リサイクル樹脂)の融点以上であって、当該樹脂の劣化または分解が開始する温度未満であればよいが、例えば180~300℃であり、好ましくは200~280℃である。また、加熱時間は、樹脂が溶融するのに十分な時間であればよい。
【0097】
基材フィルム用熱可塑性樹脂組成物は、一実施形態において、リサイクル樹脂と、粗大粒子とを含みうる。かような形態であると、基材フィルム(基材層)の最大高さが上記所定の範囲内となりやすい。ここで、粗大粒子は、一実施形態において、その最大粒子径が、基材フィルムの厚みの3~30倍でありうる。このように、基材フィルムにおける粗大粒子の最大粒子径が基材フィルムの厚みの3~30倍であると、基材フィルムの最大高さが上記所定の範囲内となりやすい。
【0098】
すなわち、本発明に係る製造方法は、一実施形態において、基材フィルムの厚みが20~340μmであり、当該基材フィルムが、熱可塑性樹脂(リサイクル樹脂)と、粒子(粗大粒子)と、を含み、当該粒子(粗大粒子)の最大粒子径が上記基材フィルムの厚みの3~30倍でありうる。さらに他の実施形態において、基材フィルムの厚みが30~80μmであり、当該基材フィルムに含まれる粒子(粗大粒子)の最大粒子径が上記基材フィルムの厚みの3~30倍でありうる。このように、粗大粒子の最大粒子径と基材フィルムの厚みとが上記のような関係にあると、基材フィルム(基材層)の表面の最大高さが上記所定の範囲内となりやすい。また、このような場合において、粗大粒子の最大粒子径は、一例として、60~1200μmであり、他の例として、100~900μmである。なお、基材フィルム用熱可塑性樹脂組成物に含まれる粗大粒子の最大粒子径は、以下の方法にて求められる。
【0099】
(粗大粒子の最大粒子径の測定方法)
粗大粒子を含む基材フィルム用熱可塑性樹脂組成物50gを、当該樹脂組成物における主成分樹脂の融点より70℃高い温度で、プレス圧を15MPaとし、シートの厚さが300μmとなるように5分間プレスする。その後、上記のようにプレスして得られたシートを20℃で2分間冷却し、厚さ300μmのプレスシートを得、当該プレスシートから90mm×90mmを切り出す。当該プレスシートの主成分樹脂の融点より20℃高い温度に設定したオーブン内で、上記切り出されたプレスシートを2分間保持し、縦横各4倍に延伸し、厚みが20μmである延伸シートサンプルを得る。当該延伸シートサンプル3枚につき、当該サンプル中に含まれる粗大粒子の粒子径を、デジタルマイクロスコープを用いて透過光で測定する。測定された粒子径の値を各々10μmの位で四捨五入し、100μm径、200μm径など、100μm単位で該当する粒子数を集計する。当該粒子数をサンプル枚数である3で除し、0.5個/枚以上となった粒子径のうち最大の値を「最大粒子径」とする。
【0100】
なお、上記において「主成分樹脂」とは、基材フィルム用熱可塑性樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂のうち最も含有量の多い樹脂を意味し、基材フィルム用熱可塑性樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂の総質量を100質量%とすると、その割合は好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上であり、特に好ましくは95質量%以上であり、最も好ましくは99質量%以上である。
【0101】
[1-2]基材フィルムの成形
基材フィルムは、特に制限されないが、例えばスクリュー型押出機に接続された単層または多層のTダイ、Iダイ等により、溶融させた上記基材フィルム用樹脂組成物(溶融樹脂)をシート状に押し出すキャスト成形、カレンダー成形、圧延成形、インフレーション成形等の方法を用いて、熱可塑性樹脂等を含むフィルム層として形成することができる。
【0102】
[1-3]基材フィルムの延伸
基材フィルムは、無延伸フィルムであってもよいし、延伸フィルムであってもよい。延伸フィルムとする場合には、表面フィルムを積層(貼合)する前に延伸してもよいし、積層(貼合)後に延伸してもよい。延伸方法としては、特に制限されず、公知の方法が用いられる。
【0103】
[2]表面フィルムの製造工程(製造方法)
表面フィルムは、公知の種々の方法をそのまま、または適宜改変して用いることにより製造することができ、その成形方法は特に限定されない。いかなる方法により製造された表面フィルムであっても、本発明の趣旨を逸脱するものでない限り、本発明の範囲内に含まれる。
【0104】
[2-1]表面フィルム用熱可塑性樹脂組成物の調製
好ましい一実施形態において、表面フィルムは、熱可塑性樹脂を含む表面フィルム用熱可塑性樹脂組成物(表面層用熱可塑性樹脂組成物)を用いて作製される。また、他の好ましい一実施形態において、表面フィルムは、熱可塑性樹脂、ならびに、無機フィラーおよび/または有機フィラーを含む表面フィルム用熱可塑性樹脂組成物(表面層用熱可塑性樹脂組成物)を用いて作製される。表面フィルム用熱可塑性樹脂組成物は、例えば、熱可塑性樹脂から、あるいは、熱可塑性樹脂と無機フィラーおよび/または有機フィラーとを混合することにより得ることができる。この際、必要に応じて、上記任意成分をさらに添加し、混合してもよい。
【0105】
上記混合は、溶融混錬により行われると好ましく、この際の加熱条件については特に制限はなく、溶融押し出し技術等における従来公知の技術が適宜参照されうる。加熱温度は、熱可塑性樹脂の融点以上であって、当該樹脂の劣化または分解が開始する温度未満であればよいが、例えば180~300℃であり、好ましくは200~280℃である。また、加熱時間は、樹脂が溶融するのに十分な時間であればよい。
【0106】
[2-2]表面フィルムの成形
表面フィルムの成形方法は、特に制限されないが、例えば、スクリュー型押出機に接続された単層または多層のTダイ、Iダイなどにより、溶融させた上記表面フィルム用熱可塑性樹脂組成物(溶融樹脂)をシート状に押し出すキャスト成形、カレンダー成形、圧延成形、インフレーション成形などが挙げられる。また、表面フィルム用熱可塑性樹脂組成物と、有機溶媒またはオイルとの混合物をキャスト成形またはカレンダー成形した後、溶媒またはオイルを除去する方法を用いて、表面フィルムを成形してもよい。
【0107】
[表面フィルムの多層化]
上述のように、表面フィルムは、2層以上からなる多層構造のものであってもよい。表面フィルムを多層構造にする場合、公知の種々の方法が使用できるが、具体例としては、フィードブロック、マルチマニホールドを使用した多層ダイス方式と、複数のダイスを使用する押出しラミネーション方式等が挙げられる。また、多層ダイスと押出しラミネーションを組み合わせて使用することも可能である。
【0108】
[2-3]表面フィルムの延伸
表面フィルムは、上述のように、延伸されたフィルム(延伸フィルム)であると好ましい。フィルムを延伸する方法としては、従来公知の種々の方法を使用することができ、その方法は特に限定されない。
【0109】
例えば、上記表面フィルム用熱可塑性樹脂組成物を、スクリュー型押出機を用いて溶融混練し、この押出機に接続されたTダイやIダイを用いて溶融樹脂を押し出してシート状に成形した後、該シートを延伸して樹脂フィルムを得る。延伸方法としては、ロール群の周速差を利用したロール間縦延伸法、テンターオーブンを利用した横延伸法、これらを組み合わせた逐次二軸延伸法などが使用できる。また、圧延法、テンターオーブンとパンタグラフとの組み合わせによる同時二軸延伸法、テンターオーブンとリニアモーターとの組み合わせによる同時二軸延伸法などが使用できる。さらには、スクリュー型押出機に接続された円形ダイを使用して溶融樹脂をチューブ状に押し出し成形した後、これに空気を吹き込む同時二軸延伸(インフレーション成形)法などが使用できる。
【0110】
また、上述のように、表面フィルムが多層構造である場合は、少なくともその一層が延伸されていることが好ましい。複数層を延伸する場合は、各層を積層する前に個別に延伸しておいてもよいし、積層した後にまとめて延伸してもよい。また、延伸した層を積層後に再び延伸してもよい。
【0111】
表面フィルムの延伸は、同フィルムに含まれる熱可塑性樹脂に好適な温度範囲内で実施することが好ましい。表面フィルムの延伸温度は、同フィルムに用いられる熱可塑性樹脂が非結晶性樹脂の場合には、当該熱可塑性樹脂のガラス転移点温度以上の範囲であることが好ましい。また、同フィルムに用いられる熱可塑性樹脂が結晶性樹脂の場合には、当該熱可塑性樹脂の非結晶部分のガラス転移点以上であって、かつ当該熱可塑性樹脂の結晶部分の融点以下の範囲内であることが好ましい。具体的には、表面フィルムの延伸温度は、当該フィルムに含まれる熱可塑性樹脂の融点よりも2~60℃低い温度であると好ましい。
【0112】
表面フィルムを延伸する場合の延伸速度は、特に限定されるものではないが、安定してフィルムの延伸成形を行うため、20~350m/分の範囲内であることが好ましい。表面フィルムを延伸する場合の延伸倍率は特に限定されず、同フィルムに用いられる熱可塑性樹脂の特性などを考慮して適宜決定される。
【0113】
例えば、熱可塑性樹脂としてプロピレンの単独重合体またはプロピレンの共重合体を含むフィルムを一方向に延伸する場合、その延伸倍率は、好ましくは約1.2倍以上、より好ましくは2倍以上であり、また、その延伸倍率は、好ましくは12倍以下、より好ましくは10倍以下である。一方、上記フィルムを二軸延伸する場合の延伸倍率は、面積延伸倍率で好ましくは1.5倍以上、より好ましくは10倍以上であり、また、その延伸倍率は、好ましくは60倍以下、より好ましくは50倍以下である。
【0114】
上記延伸倍率の範囲内であれば、表面フィルムのクラーク剛度を上記所定の範囲内に制御することが容易となり、また、フィルム内に空孔が形成された不透明性が向上しやすくなる。また、表面フィルムの破断が起きにくく安定した延伸成形ができる傾向がある。
【0115】
[2-4]表面フィルムの表面酸化処理
表面フィルムは、基材フィルムと貼り合わせて積層体とする前に、或いは貼り合わせた後で、積層体の最外層に相当するその表面に表面酸化処理を行ってもよい。表面酸化処理を施すことによって各種印刷インキの密着性が向上し、本発明に係る積層体を各種用途に適用する際の印刷性が向上する。
【0116】
上記表面酸化処理としては、コロナ放電処理、フレーム処理、プラズマ処理、グロー放電処理若しくはオゾン処理などより選ばれた処理方法が挙げられ、またはこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0117】
表面酸化処理を実施する場合、コロナ放電処理またはフレーム処理を実施することが好ましい。コロナ放電処理を実施する場合、その処理量は、好ましくは600~12,000J/m2(10~200W・分/m2)であり、より好ましくは1,200~10,800J/m2(20~180W・分/m2)である。
【0118】
[2-5]クラーク剛度の制御
クラーク剛度が上記所定の範囲内にある表面フィルムの製造は、当業者であれば適宜実施することができるが、一例として、表面フィルムの厚み、表面フィルムに含まれる熱可塑性樹脂の種類、無機フィラーおよび/または有機フィラーの含有量、延伸の有無等を、適切に選択することが有効であり、これらのうち少なくとも一つ、さらには二つ、さらにはこれらのすべてについて、上述の好ましい範囲および形態とすることが好ましい。
【0119】
クラーク剛度は、臨界長さ(cm)の3乗を100で除した値として求められるが、当該臨界長さは、当該フィルムの弾性率(E)および厚み(h)の3乗にそれぞれ比例し、重さ(W)に反比例する。なお、ここでいう重さ(W)は、臨界長さに対応する重さであり、フィルムの比重と体積との積である。
【0120】
ゆえに、フィルムの厚み(h)や弾性率(E)を大きくするとクラーク剛度は大きくなり、フィルムの比重を小さくすることによってもクラーク剛度は大きくなる。この際、弾性率を大きくするには、表面フィルムを構成する熱可塑性樹脂として、弾性率の大きな結晶性樹脂を用いたり、フィルムを延伸するなどの手法が用いられうる。また、フィルムの比重を小さくするには、無機フィラーおよび/または有機フィラーの含有量を少なくしたり、延伸倍率の制御により、フィルムの空孔率を適度に大きくするなどの手法が用いられうる。
【0121】
一方、フィルムの厚み(h)や弾性率(E)を小さくするとクラーク剛度は小さくなり、フィルムの比重を大きくすることによってもクラーク剛度は小さくなる。この際、弾性率を小さくするには、表面フィルムを構成する熱可塑性樹脂として、弾性率の小さな熱可塑性エラストマーを用いたり、フィルムを無延伸とするなどの手法が用いられうる。また、フィルムの比重を大きくするには、無機フィラーおよび/または有機フィラーの含有量を多くしたり、延伸倍率の制御により、フィルムの空孔率を適度に小さくするなどの手法が用いられうる。
【0122】
[2-6]表面フィルムのその他の物性
[表面フィルムの最大高さ]
本発明に係る表面フィルム(表面層)は、積層体の最大高さを効果的に低減するという観点から、その表面の最大高さ(積層体を形成する前の最大高さ)が、基材層の最大高さよりも小さいことが好ましい。一実施形態において、表面フィルムの表面の最大高さは、8μm未満であると好ましく、6μm以下であると好ましく、5μm以下であるとより好ましい。一方、表面フィルムの表面の最大高さの下限は特に制限されないが、一例として、0.1μm以上である。
【0123】
[表面フィルムのクルトシス]
本発明に係る表面フィルム(表面層)は、積層体のクルトシスを効果的に低減するという観点から、その表面のクルトシス(積層体を形成する前のクルトシス)が、基材層のクルトシスよりも小さいことが好ましい。一実施形態において、表面フィルムの表面のクルトシスは、8未満であると好ましく、6以下であると好ましく、4以下であるとより好ましい。なお、本明細書において、「クルトシス」とは、実施例に記載の方法により測定される値を意図する。
【0124】
[3]貼合工程(貼合方法)
上述のように作製した基材フィルムと表面フィルムとを貼り合わせる方法としては、特に制限されず、公知の方法をそのまま、あるいは適宜改変して採用することができる。なお、貼合工程において、表面フィルムは、基材フィルムの一方の面に貼り合わせてもよいし(
図1の形態)、基材フィルムの両面に貼り合わせてもよい(
図2の形態)。
【0125】
具体的な貼合方法としては、以下の(1)または(2)の方法が好ましい。
【0126】
(1)まず、上述の基材フィルム用熱可塑性樹脂組成物を押出機内で溶融混練した後、当該樹脂組成物を押出ダイによってシート状に押し出すことにより、基材フィルム(基材層)を製膜する。次いで、上記樹脂組成物(少なくともその表面)が未だ溶融状態(軟化状態)を保持している間に上述の表面フィルムを加圧溶着する(サーマルラミネート法);
(2)まず、上述の方法に従って、基材フィルムおよび表面フィルムをそれぞれ作製する。次いで、これらのフィルムをホットメルト接着剤または溶剤型接着剤を用いて貼り合わせる(接着法)。
【0127】
[3-1]サーマルラミネート法
上記(1)の方法、すなわち、サーマルラミネート法(熱ラミネート法)としては、公知の方法をそのまま、あるいは適宜改変して採用することができる。
【0128】
本方法では、一対のロール間に基材フィルムおよび表面フィルムを挟み込み、少なくとも一方のロールを回転駆動させながらこれらのフィルムを移送する。この際、少なくとも一方のロールを加熱ロールとし、フィルムを加熱しながら接着(熱圧着)する。
【0129】
具体的には、基材フィルム用熱可塑性樹脂組成物を用いて、キャストフィルムとして基材フィルム(基材層)を製膜し、加熱ロールを用いて上記基材フィルムを加熱しながら表面フィルムに熱圧着(加圧溶着)させると好ましい。この際、基材フィルム(基材層)を製膜する方法の詳細は上記[1]基材フィルムの製造工程(製造方法)の項が参照される。また、加熱ロールの加熱方式は特に制限されず、公知のものを採用できる。また、加熱ロールの材質も特に制限されず、金属ロール、ゴムロール等を用いることができる。
【0130】
熱圧着の際のロール温度は、基材フィルムを構成する熱可塑性樹脂の融点以上であって、当該樹脂の劣化または分解が開始する温度未満であればよいが、例えば、30~95℃であることが好ましく、50~85℃であることがより好ましい。ロール温度が上記下限値以上であれば、各フィルム間の接着性をより向上させることができ、上記上限値以下であれば、表面フィルムの溶融による変形を抑制することができる。
【0131】
また、熱圧着の際の加工速度は0.5~100m/分であることが好ましく、3~30m/分であることがより好ましい。加工速度が上記下限値以上であれば、生産性が向上し、上記上限値以下であれば、各フィルム間の接着性をより向上させることができる。
【0132】
さらに、熱圧着の際の加圧条件は、3~15MPaとすると好ましく、5~10MPaとするとより好ましい。加圧条件が上記下限値以上であれば、各フィルム間の接着性をより向上させることができ、上記上限値以下であれば、表面フィルムの変形を抑制することができる。
【0133】
上記(1)および(2)の方法のうち、環境負荷が低く、また、工程数が少なくてすむ(すなわち、生産性に優れる)という観点から、上記(1)の方法(サーマルラミネート法)が好ましい。すなわち、本発明に係る製造方法において、好ましい一実施形態は、基材フィルムの表面を溶融させた状態で、表面フィルムを貼り合わせることを含む。
【0134】
[3-2]接着法
上記(2)の方法、すなわち、接着法としては、公知の方法をそのまま、あるいは適宜改変して採用することができる。
【0135】
この際用いられるホットメルト接着剤および溶剤型接着剤としては、公知のものを適宜選択して使用することができ、例えば、特開平8-332690号公報に記載の接着剤などを使用することができる。また、ホットメルト接着剤による接着の形態も特に制限されず、共押出法によりホットメルト接着剤層を基材フィルムの表面に設け、当該ホットメルト接着剤層に対して表面フィルムを貼合する形態であってもよいし、ホットメルト接着剤層を予め備える表面フィルムを作製し、当該表面フィルムに備えられたホットメルト接着剤層に対して表面フィルムを貼合する形態であってもよい。
【0136】
本発明の実施形態を詳細に説明したが、これは説明的かつ例示的なものであって限定的ではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって解釈されるべきであることは明らかである。
【実施例0137】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。以下の製造例、実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の技術的範囲は、以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、以下の実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いる場合があるが、特に断りがない限り、「質量部」あるいは「質量%」を表す。また、溶液あるいは分散液として使用する原料の量比(単位:「質量部」、「質量%」)は、いずれも固形分換算の値である。なお、特記しない限り、各操作は、室温(25℃)で行った。なお、樹脂および樹脂組成物のメルトフローレート(MFR)は、JIS K 7210-1:2014に従って、温度230℃、荷重2.16kgで測定した。
【0138】
[実施例1]
1.基材層の作製
ユーザー使用後のリサイクル樹脂原料として、以下を用いた:(株)ユポ・コーポレーション製の合成紙(主成分としてのホモポリプロピレンを含み、さらに無機フィラーを含む)に油性印刷を施した印刷用紙を粉砕し、リサイクル樹脂原料とした。当該リサイクル樹脂原料を220℃の押出機で溶融混練し、基材層形成用の樹脂組成物1を調製した。樹脂組成物1のMFRは5.5g/10minであった。
【0139】
次いでこれを押出成形し、冷却装置にて50℃まで冷却して単層の無延伸シートである基材層(基材フィルム)を得た。基材層の厚さは30μmであった。また、基材層に含まれる粗大粒子の最大粒子径について、上記に記載の方法で測定したところ、300μmであった。得られた基材層(基材フィルム)につき、後述の[試験例]に記載の方法にて、表面の最大高さ、クルトシス、白抜けの有無および転移濃度を評価した。結果を表1に示す。
【0140】
2.表面層の準備
表面層として、ポリオレフィン系合成紙(主成分としてのホモポリプロピレンを含み、さらに無機フィラーを含む、(株)ユポ・コーポレーション製)を準備した。当該合成紙は、一軸延伸層/二軸延伸層/一軸延伸層がこの順に積層されてなる合成紙であって、厚みが60μmであり、空孔率が40%であり、クラーク剛度(最大クラーク剛度)が30.5cm3/100であった。なお、クラーク剛度は、JIS P 8143:2009に準じて測定した(以下、同じ)。
【0141】
3.積層体の作製
上記2.にて準備した表面層としての合成紙(表面フィルム)を、上記1.に記載の方法にて押出成形され、未だ軟化状態(溶融状態)を保っている基材層(すなわち、冷却前の状態の基材層)の両面にサーマルラミネート(加熱ロール温度:85℃、加工速度:3.0m/分、加圧条件:5.0MPa)して、厚みが150μmの積層体を得た。得られた積層体につき、後述の[試験例]に記載の方法にて、表面の最大高さ、クルトシス、白抜けの有無および転移濃度を評価した。結果を表1に示す。
【0142】
[比較例1]
MFRが15g/10minである酸化チタン含有ポリプロピレン系マスターバッチ(商品名:ホワイトPPM-7Y788FX、住化カラー(株)社製、酸化チタン濃度は60質量%)17質量部、およびMFRが11g/10minであるホモプロピレン(商品名:MA3、日本ポリプロ(株)社製)83質量部を配合した樹脂組成物Aと、実施例1の1.にて調製した基材層形成用の樹脂組成物1とを、それぞれ別々の押出機で220℃の温度で溶融混練し、一台のダイ内に供給して当該ダイ内で積層させた後、共押出成形し、基材層の両面に樹脂組成物Aからなる層(表面層)が形成された、厚み150μmの積層体を得た。基材層の厚みは実施例1の基材層と同様に30μmであり、共押出成形にて得られた表面層の厚みはいずれも60μmであった。
【0143】
なお、樹脂組成物A(表面層形成用組成物)を別途単層(厚み60μm)で押出成形することにより得られたフィルム(表面フィルム)についてクラーク剛度(最大クラーク剛度)を測定したところ、10cm3/100未満であった。
【0144】
得られた積層体につき、後述の[試験例]に記載の方法にて表面の最大高さ、クルトシスおよび白抜けの有無を評価した。結果を表1に示す。なお、比較例1の基材層は、上記実施例1の1.で作製した基材層と同様の条件で作製されたことから、比較例1の基材層に関する評価(含まれる粗大粒子の最大粒子径、表面の最大高さ、クルトシス、白抜けの有無および転移濃度)の結果は、上記実施例1の1.にて得られた基材層(基材フィルム)の結果を援用する。
【0145】
[実施例2]
上記実施例1の1.において、基材層の厚みを80μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして積層体を作製した。実施例1と同様に、基材層(基材フィルム)および積層体のそれぞれについて、表面の最大高さ、クルトシス、白抜けの有無および転移濃度を評価した。結果を表1に示す。
【0146】
[比較例2]
上記比較例1において、基材層の厚みを80μmとしたこと以外は、比較例1と同様にして積層体を作製した。比較例1と同様に、積層体について表面の最大高さ、クルトシスおよび白抜けの有無を評価した。結果を表1に示す。なお、比較例2の基材層は、上記実施例2で作製した基材層と同様の条件で作製されたことから、比較例2の基材層に関する評価(含まれる粗大粒子の最大粒子径、表面の最大高さ、クルトシス、白抜けの有無および転移濃度)の結果は、上記実施例2にて得られた基材層(基材フィルム)の結果を援用する。
【0147】
[実施例3]
上記実施例1において、基材層の厚みを60μmとし、表面層として、厚みが45μmであり、空孔率が34%であり、クラーク剛度(最大クラーク剛度)が13.9cm3/100であり、一軸延伸層/二軸延伸層/一軸延伸層がこの順に積層されてなるポリオレフィン系合成紙(主成分としてのホモポリプロピレンを含み、さらに無機フィラーを含む、(株)ユポ・コーポレーション製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして積層体を作製した。実施例1と同様に、基材層(基材フィルム)および積層体のそれぞれについて、最大高さ、クルトシスおよび白抜けの有無を評価した。結果を表1に示す。
【0148】
[実施例4]
1.基材層の作製
ユーザー使用後のリサイクル樹脂原料として、以下を用いた:(株)ユポ・コーポレーション製のシート(主成分としてのホモポリプロピレンを含み、さらに無機フィラーを含む)に、顔料を含むコート層を設けた印刷済み用紙を粉砕し、リサイクル樹脂原料とした。当該リサイクル樹脂原料を220℃の押出機で溶融混練し、基材層形成用の樹脂組成物2を調製した。樹脂組成物2のMFRは5.5g/10minであった。
【0149】
次いでこれを押出成形し、冷却装置にて50℃まで冷却して単層の無延伸シートである基材層(基材フィルム)を得た。基材層の厚さは30μmであった。また、基材層に含まれる粗大粒子の最大粒子径について、上記に記載の方法で測定したところ、800μmであった。得られた基材層(基材フィルム)につき、後述の[試験例]に記載の方法にて、表面の最大高さ、クルトシス、白抜けの有無および転移濃度を評価した。結果を表1に示す。
【0150】
2.積層体の作製
上記実施例1において、基材層を、上記樹脂組成物2を用いて作製した基材層(基材フィルム)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして積層体を作製した。実施例1と同様に、積層体について、表面の最大高さ、クルトシス、白抜けの有無および転移濃度を評価した。結果を表1に示す。
【0151】
[試験例]
(最大高さおよびクルトシス)
各実施例および比較例にて得られた基材層のみの単層フィルム(基材フィルム)および積層体を、40mm×60mmの大きさに切り出して、測定用の試験片を作製した。試験片を23℃、50%RH下に24時間以上静置した後、1cm×1cmの範囲を3点選択し、接触式3次元粗さ測定器(装置名:SURFCOM(登録商標) 1500 DX2、(株)東京精密製)を用いて最大高さおよびクルトシスを測定し、測定値の平均値を算出し、その試験片における最大高さおよびクルトシスの値とした。
【0152】
最大高さ(Rz)は、JIS-B0601:2013に定められている方法に準拠して測定した。
【0153】
また、クルトシスとは、ISO25178-2:2021に規定されるSku(クルトシス)であり、ISO25178-3:2021に規定されている条件に準拠して測定した。クルトシスは、三次元表面性状パラメータの一つであり、表面の鋭さの尺度である尖度(せんど)を意味し、高さ分布のとがり(鋭さ)を表す。Skuが3である場合は表面形状が平均面に対して対称(正規分布)であり、Skuが3を超えると高さ分布が尖った形状を有し、Skuが3未満となると高さ分布がつぶれる形状を有する傾向にあると把握できる。積層体表面のクルトシスは、10未満であると好ましく、8以下であるとより好ましい。
【0154】
〈印刷評価(サンプルの作製)〉
各実施例および比較例にて得られた基材層のみの単層フィルム(基材フィルム)および積層体に対し、JIS K5701-1:2000「平版インキ-第1部:試験方法」に基づき、RIテスター(石川島産業機械(株)製)を用いて黒ベタ印刷を実施した。黒ベタ印刷は、UVオフセット用インク(製品名:BC161、(株)T&K TOKA製)を用いて、インクを基材層(基材フィルム)または積層体に転写するゴムロールの硬度は90のものを使用し、印圧が10mmとなるように調整し、インク盛り量1.5g/m2にて実施した。次いで、UV照射機(アイグラフィックス株式会社製、アイインバーターグランデージ、型式:ECS-401GX)を用いて、照射強度が100mJ/cm2になるようにUV照射を実施し、白抜けおよび転移濃度評価用サンプルを得た。
【0155】
(白抜け)
得られた評価用サンプルにつき、目視にて白抜けの有無を評価した。
【0156】
(転移濃度)
得られた評価用サンプルにつき、分光光度計(装置名:SpectroEye(登録商標)、エックスライト社製)を用いて、印刷濃度(転移濃度)を測定した。基材層のみの単層フィルム(基材フィルム)は、突起部とバルク部(突起部以外の領域)における転移濃度を各々測定した。また実施例1、2および4にて得られた積層体については、その表面に突起部が見られず、転移濃度にムラがなかったことから、任意の点につき転移濃度を測定した。
【0157】
【0158】
基材層表面は、最大高さおよびクルトシスがいずれも高く、その表面に印刷した結果、突起部に起因する白抜けが発生した。また、基材層表面の突起部にはインクが濃く付着するため、当該突起部は転移濃度が高い。一方、印刷版が突起部に押し上げられて基材層表面から浮いてしまうため、バルク部(突起部以外の領域)にはインクが十分に付着せず、転移濃度が低い結果となり、色濃度にムラが生じた。
【0159】
これに対し、実施例にて得られた積層体は、その表面における最大高さおよびクルトシスが、基材層表面における値に対して大幅に低減しており、積層体の表面平滑化効果が十分に奏されていることがわかる。そして、実施例にて得られた積層体表面に印刷した結果、白抜けは発生しなかった。また、積層体表面には、基材層表面における突起部およびバルク部にて生じる転移濃度差は現れなかった。
【0160】
一方、比較例にて得られた積層体は、クルトシスこそ低減しているものの、最大高さの低減効果が十分とは言えず、いずれも積層体表面の最大高さが10μmを超える値であった。また、比較例にて得られた積層体に印刷した結果、突起部に起因する白抜けが発生した。