(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143785
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】既設管の更生方法及び既設管の更生に用いられる補強板
(51)【国際特許分類】
E03F 7/00 20060101AFI20241003BHJP
E03F 3/04 20060101ALI20241003BHJP
F16L 55/18 20060101ALI20241003BHJP
F16L 1/028 20060101ALI20241003BHJP
F16L 1/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
E03F7/00
E03F3/04 Z
F16L55/18 B
F16L1/028 Z
F16L1/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056662
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】508100055
【氏名又は名称】日本ノーディッグテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119091
【弁理士】
【氏名又は名称】豊山 おぎ
(72)【発明者】
【氏名】中村 忠臣
(72)【発明者】
【氏名】山根 歩
【テーマコード(参考)】
2D063
【Fターム(参考)】
2D063BA37
2D063EA07
(57)【要約】
【課題】本発明は、既設管の破損を防止してより確実に更生管を形成する方法及びそのための補強板を提供する。
【解決手段】本発明は、地中に設けられた既設管1の内壁面に補強板3を固定する補強板設置工程と、既設管1の内部に更生管2を形成する更生管形成工程と、浮上防止柱設置工程とを有する既設管1の更生方法に関する。本発明の既設管の更生方法は、更生管2を貫通させた浮上防止柱5の一端が既設管1に当てられる位置に、補強板3を設置してもよい。また、本発明の既設管の更生方法は、補強板3を、既設管1の内壁面の形状に沿うように配置してもよい。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に設けられた既設管の内壁面に補強板を固定する補強板設置工程と、
前記既設管の内部に更生管を形成する更生管形成工程と、
浮上防止柱設置工程とを有する既設管の更生方法。
【請求項2】
前記更生管を貫通させた浮上防止柱の一端が前記既設管に当てられる位置に、前記補強板を設置する請求項1に記載の既設管の更生方法。
【請求項3】
前記補強板は、既設管の内壁面の形状に沿うように配置される請求項1又は2に記載の既設管の更生方法。
【請求項4】
地中に設けられた既設管の内壁面の少なくとも一部の形状に沿って形成され、
前記既設管の内側に設ける更生管の形成前に前記既設管の内壁面に直接固定される既設管の更生に用いられる補強板。
【請求項5】
厚さ方向に貫通孔を有する板部材により形成され、
前記貫通孔に固定具を挿通して前記既設管への固定が可能に形成されている請求項4に記載の既設管の更生に用いられる補強板。
【請求項6】
前記貫通孔は、板部材の偏平面の中央部分に1つ設けられている請求項5に記載の既設管の更生に用いられる補強板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設管の更生方法及び既設管の更生に用いられる補強板に関する。
【背景技術】
【0002】
老朽化した下水道管等の既設管を更生する方法として、既設管内に硬質塩化ビニル等の合成樹脂製の更生管を製管した後、既設管と更生管との間隙に裏込め材を注入して硬化させる方法が広く採用されている。老朽化が進んだ既設管は、形状が若干偏平に変形していたり、壁部が腐食して内壁面が減肉して薄肉状態になっていたり、薄肉になった結果、既設管の管壁中に設けられた鉄筋が浮き出た状態となっており、外圧に対する耐力がほとんど残っていないことがある。このような場合、更生管としては、それだけで外圧に対する十分な耐力を有する、いわゆる自立管が採用され、自立管を既設管に内挿していくことで既設管の更生が行われる。既設管の更生の過程で既設管と更生管との間に裏込め材を注入して行くと、更生管の浮力により、既設管に対して更生管が浮いてしまうことがあるため、裏込め材の注入前に更生管の頂壁部を貫通させて既設管の内壁面の頂部と更生管底部の間に、浮上防止柱を設置することが行われる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
既設管が著しく腐食し劣化度が大きい場合、既設管に更生管を内挿する工程等で、既設管の一部が破損する懸念が生じる。そのような懸念がある場合には、破損で既設管内面に周辺土砂を引入れる事による陥没が生じ得るという問題がある。また、陥没の可能性を考慮すると、更生管の浮き上がり防止のために設置する浮上防止柱の設置が適切に行えなくなる。その場合、更生管の形成後のモルタル注入による更生管の浮力による浮上りが生じ、更生管の管路勾配が取れず、次工程に進めないという問題が生じる。また、最悪の場合には既設管の更生の中止が発生し、地上の道路の開削を伴い、新管を用いた敷設替え工への計画変更が必要となる。
そこで、本発明は、既設管の破損リスクを低減させて安定的に更生管を形成する方法及びそのための補強板を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の既設管の更生方法は、地中に設けられた既設管の内壁面に補強板を固定する補強板設置工程と、前記既設管の内部に更生管を形成する更生管形成工程と、浮上防止柱設置工程とを有する。
この構成によれば、劣化が進んだ既設管の更生において、破損の虞の高い既設管の内壁を容易かつ確実に補強することができる。
【0005】
本発明の既設管の更生方法は、前記更生管を貫通させた浮上防止柱の一端が前記既設管に当てられる位置に、前記補強板を設置してもよい。
この構成によれば、裏込め材の注入時に更生管の浮上を防止すべく浮上防止柱を設置しこの浮上防止柱が既設管の内壁を押圧する場合でも、補強板の全体で浮上防止柱の押圧を受けることができる。
【0006】
本発明の既設管の更生方法は、前記補強板を既設管の内壁面の形状に沿うように配置してもよい。
この構成によれば、補強板を既設管の内壁面に沿って配置することでより安定的に既設管の内壁を補強することができる。
【0007】
本発明の既設管の更生に用いられる補強板は、地中に設けられた既設管の内壁面の少なくとも一部の形状に沿って形成され、前記既設管の内側に設ける更生管の形成前に前記既設管の内壁面に直接固定される。
この構成によれば、劣化が進み、破損の虞の高い既設管の内壁を良好に補強することができる。
【0008】
本発明の既設管の更生に用いられる補強板は、厚さ方向に貫通孔を有する板部材により形成され、前記貫通孔に固定具を挿通して前記既設管への固定が可能に形成されていてもよい。
この構成によれば、容易かつ確実に補強板の既設管の内壁面への設置を行うことができる。
【0009】
本発明の既設管の更生に用いられる補強板の前記貫通孔は、板部材の偏平面の中央部分に1つ設けられててもよい。
この構成によれば、補強板の設置に伴う既設管の内壁への干渉を最小限に抑えるとともに、簡便かつ確実に補強板の既設管の内壁面への設置を行うことができる。
【発明の効果】
【0010】
本願の各発明は、既設管の破損リスクを低減させて安定的に更生管を形成することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態の既設管の更生方法の一工程であって補強板設置工程を示す概略図である。
【
図2】本発明の一実施形態の補強板を示す斜視図である。
【
図3】本発明の一実施形態の既設管の更生方法の一工程であって補強板設置工程を示す概略図である。
【
図4】本発明の一実施形態の既設管の更生方法の一工程であって更生管形成工程を示す概略図である。
【
図5】本発明の一実施形態の既設管の更生方法の一工程であって浮上防止柱設置工程を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図を参照して本発明の一実施形態の既設管の更生方法及びこれに用いられる補強板の一実施形態について説明する。
【0013】
図1,
図4又は
図5に示すように、本発明の既設管1の更生には、更生管2、補強板3、腹起し材4、浮上防止柱5が主として用いられる。
【0014】
図4に示すように、本発明の適用対象となる既設管1は、老朽化が進んで管の形状が若干偏平に変形していたり、壁部が腐食して内壁面が減肉して薄肉状態になっていたり、薄肉になった結果、既設管1の管壁中に設けられた鉄筋が浮き出た状態となった管である。このようなコンクリートの既設管1は、外圧への耐力がほとんど残っていないことが多く、更生管2の形成時に更生管2の浮き上がり防止のための浮上防止柱を突き当てた場合、壁部が崩れてしまうことが懸念される。
適用対象となる既設管1の軸線方向に視た形状としては、軸線方向に直交する断面で視て円形、馬蹄形、概略矩形など公知の様々な形状のものがある。
【0015】
更生管2は、上記のような劣化した既設管1の内壁に沿って新たに設けられる合成樹脂材料を用いた軸線方向に直交する断面形状が円形の管である。本発明は、外圧への耐力をほとんど期待できない既設管1に適用されるものであるため、更生管2としてそれだけで十分な耐力を有する、いわゆる自立管が用いられる。
【0016】
図2に示すように、補強板3としては、厚さが2mm以上、好ましくは3mm以上あり、所定の面積を有する鋼板が好適に用いられる。補強板3は、特に限定されないが、300mm×300mm程度の寸法を有し矩形に形成されている。補強板3の材質としては、一例としてSS400(一般構造用圧延鋼材)を使用することができる。補強板3は、剛性を十分に担保できるものであれば必ずしも鋼板でなければならないわけではない。
【0017】
補強板3の偏平面3aの中心部分(例えば対角線の交差部付近)には、厚さ方向に貫通する貫通孔3cが1つ形成されている。貫通孔3cは中心部その他の箇所に複数あってもよい。貫通孔3cを複数作った場合には、所定の位置に補強板3を配して貫通孔3cにボルトを挿通させる場合において、貫通孔3cが既設管1の内壁に穴を形成することが困難な箇所に位置するとき等に、他の貫通孔3cをボルトの挿通孔とすることが可能となる。
【0018】
補強板3は、既設管1の内壁面にほぼ沿うように、補強板3の設置位置に対応する既設管1の内壁面の形状にほぼ沿って形成されている。本実施形態では、既設管1の内壁面の頂部の形状に沿ってわずかに湾曲している。
【0019】
図5に示すように、腹起し材4は、長尺でその長尺な延在方向に貫通するよう中空に形成された鋼管部材である。腹起し材4の形状は様々あるが、本実施形態では、延在方向に視た形状が概略矩形となっている。
【0020】
浮上防止柱5は、鋼単管部材である。浮上防止柱5の一方の端部の管内には、ジャッキボルトが挿入され突っ張りの調整ができる構成となっている。浮上防止柱5の一方の端部の先には、腹起し材4を受けるための皿部材5dを有している。
【0021】
次に、本発明の既設管1を構成する方法について説明する。
<事前工程>
まず、既設管1の内壁面の頂部で、更生管2の設置後に浮上防止柱5の一端を突き当てる予定位置にカラースプレー等で分かり易い印をつける。浮上防止柱5は、更生管2の大きさにもより特に限定されないが、形成される更生管2の軸線方向に2m弱から3m程度の間隔で、一端が既設管1の内壁面の頂部に突っ張るように設けられるので、前記印は、軸線方向に所定の間隔で複数付される。
【0022】
<補強板設置工程>
補強板3の設置位置の印を付けたら、
図3に示すように、
図2に示す補強板3の偏平面3aが既設管1の内壁面に沿うようにかつ前記印の位置に従って一つずつ補強板3を配していく。なお、補強板3は、特に限定されないが、既設管1の内壁面において浮上防止柱5が設置される予定の1箇所に1つ設けられればよい。補強板3の既設管1の内壁面への固定は、貫通孔3cにボルトBを挿通させて既設管1の内壁を削りながら螺入してナットで留めることにより行う。既設管1は壁部が大きく劣化しているが、本発明の補強板3のように板の面3aを当てることで浮上防止柱5のような管端の圧が局所的にかからないため、壁部の破損が防止される。
【0023】
なお、補強板3の既設管1の内壁面への固定に際しては、既設管1内に、作業者が入って作業をすることができる径と長さを有する補強板固定作業用の短管7を適宜移動させながら用いるとよい。このような補強板固定作業用の短管7を用いることで、補強板3の既設管1への固定作業中に作業者の体重が既設管1の内壁に局所的にかかることを防止して、作業用の短管7の底壁に体重を分散してかけることができる。また、補強板3の固定作業中に既設管1の内壁の腐食部分が欠けて落ちた場合であっても、欠けた部分が作業者上に落ちることを防止する等、作業者を極力保護することができるという効果を奏する。
【0024】
<更生管形成工程>
補強板3の設置が完了したら、
図4に示すように、既設管1内に更生管2を設けていく。
更生管2の製管方法としては、自走式(すなわち不図示の製管機が自走しながら製管し、更生管2を設置していく方法)が採用される。
【0025】
<腹起し材及び浮上防止柱5の設置工程>
既設管1の始端から終端まで(又は予定された範囲において)更生管2の形成が完了したら、
図5に示すように、既設管1と更生管2との間に裏込め材を注入する前に、更生管2の内側にこの更生管2を支持する腹起し材4及び浮上防止柱5を設置して行く。
具体的に腹起し材4及び浮上防止柱5の更生管2内への設置は、以下のようにして行う。
まず、更生管2の頂部で浮上防止柱5を挿通させる位置に、浮上防止柱5の挿通孔2cをホルソー等で形成する。
【0026】
次に、鋼材により形成された長尺な棒状の角材からなる複数の腹起し材4を、更生管2の管底に更生管2の軸線Lにほぼ平行に固定していく。腹起し材4としては、浮上防止柱5の設置間隔で連結していける長さの鋼材を連接させながら設置する。
腹起し材4は、浮上防止柱5をその設置予定位置に立てた際に、浮上防止柱5の下端が腹起し材4の連接部分を押さえられるように配置していく。
【0027】
浮上防止柱5はその上端部を挿通孔2cに挿通させて、挿通孔2内に臨む既設管1の内壁面に固定された補強板3に突き当てる。浮上防止柱5の下端部には、腹起し材4を受ける断面略逆U字形の皿部材5dを固定して、皿部材5dを腹起し材4の上部に嵌合させ、浮上防止柱5の長さを調整して腹起し材4と補強板3との間にしっかりと突っ張らせ、浮上防止処置を行う。
以上の作業によって、更生管2の固定が完了し、更生管2の既設管1に対する位置決めができた状態となる。
【0028】
<裏込め材注入作業>
更生管2内に軸線方向に所定の間隔で複数の浮上防止柱5が設置された後、既設管1と更生管2との間に間詰め材又はモルタル等の裏込め材を充填する。裏込め材がある程度養生固化したら、上述した浮上防止柱5及び腹起し材4を設置時の手順と逆の手順で撤去する。
【0029】
本発明の既設管1の更生方法は、浮上防止柱5を腹起し材4と既設管1の内壁面の頂部との間に突っ張らせても、剛性の高い補強板3が既設管1の内壁面の頂部で浮上防止柱5の上端側を受ける。したがって、浮上防止柱5の突っ張り又は裏込め材を入れた際にかかる浮力によって浮上防止柱5の上端部が上方への押圧を高めても、補強板3がその偏平面3aの全体に押圧力を分散することができ、既設管1の内壁を破損してしまうリスクが大きく軽減される。特に、補強板3は、既設管1の内壁面に沿って配されるため、浮上防止柱5による押圧を補強板3の全体で受けることができる。
【0030】
また、補強板3に形成した貫通孔3cの一つにボルトBを挿通させて既設管1の内壁に螺入するため、補強板3の既設管1の内壁への固定に伴う内壁への干渉を可及的に抑えることができる。したがって、既設管1の内壁の一部を破壊して崩落させてしまうリスクを押さえてより確実かつ安定的に更生管2を形成することができるという効果を奏する。
【0031】
また、上記実施形態では、補強板設置工程において、既設管1の内壁面の頂部に必要な補強板3を更生管2の形成前に全て設置してしまう例を示したが、補強板設置工程は、更生管形成工程と交互に行ってもよい。
【0032】
すなわち、例えば2~3m等の一定の長さの更生管2を形成する毎に更生管2の形成を中断し、次に同じ長さの更生管2を形成する範囲で、浮上防止柱5が当てられる予定の箇所に補強板3を固定し、その後更生管2の形成を再開、補強板3の固定…という工程を繰り返してもよい。
【0033】
このように、更生管2を所定長さ分ずつ形成しながら、中断時に補強板3を固定していくことで、万が一にも補強板3の固定時に既設管1の内壁が崩れても、作業者は既に形成された更生管2内に退避することが可能となるという効果を奏する。
【0034】
なお、浮上防止柱5が突き当てられる箇所以外で既設管1の内壁の老朽化が著しい箇所、例えば既設管1の内部に設けられた骨材(鉄筋)が露出し始め鉄筋自体の腐食も大きく進んで見られる箇所や、内壁の腐食により剥がれが生じて減肉されている箇所などにも補強板3が取り付けられてもよい。
【符号の説明】
【0035】
1 既設管
2 更生管
3 補強板
3c 貫通孔
4 腹起し材
5 浮上防止柱
B ボルト(固定具)
N ナット(固定具)