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特開2024-143788構造体のRC部材への取り付け構造及び取り付け方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143788
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】構造体のRC部材への取り付け構造及び取り付け方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/41 20060101AFI20241003BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
E04B1/41 502A
E04H9/02 351
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056668
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000235543
【氏名又は名称】飛島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂本 啓太
(72)【発明者】
【氏名】阿部 隆英
(72)【発明者】
【氏名】久保田 雅春
【テーマコード(参考)】
2E125
2E139
【Fターム(参考)】
2E125AA66
2E125AG12
2E125BA02
2E125BA22
2E125BB08
2E125BB29
2E125BB30
2E125BE07
2E125BE08
2E125CA05
2E125CA13
2E139AA01
2E139AC26
2E139AD03
2E139BA06
2E139BD22
2E139BD32
(57)【要約】
【課題】構造体の底板を貫通してRC部材に取り付けるアンカーボルトを、底板の貫通部分に対し所定の角度で、又は所定の距離離隔するように曲げてRC部材への埋め込み部を形成することにより、主筋又はせん断補強筋と干渉しない状態で構造体を正しい位置に設置することを可能にする構造体のRC部材への取り付け構造を提供する。
【解決手段】本発明による構造体のRC部材への取り付け構造は、構造体の底板を貫通して構造体をRC部材に取り付けるアンカーボルトを有し、アンカーボルトは、構造体の底板を貫通する直線状の貫通部と、RC部材に埋め込む埋め込み部とを備え、貫通部は、少なくとも構造体の底板の厚さと構造体の底板を厚さ方向に挟み込む2つの固定ナットの厚さとの合計の長さ分以上の雄ねじ部を備え、埋め込み部が貫通部の中心軸に対して所定の角度で、又は所定の距離離隔するように貫通部から曲げられていることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造体のRC部材への取り付け構造であって、
前記構造体の底板を貫通して前記構造体をRC部材に取り付けるアンカーボルトを有し、
前記アンカーボルトは、前記構造体の底板を貫通する直線状の貫通部と、RC部材に埋め込む埋め込み部とを備え、
前記貫通部は、少なくとも前記構造体の底板の厚さと前記構造体の底板を厚さ方向に挟み込む2つの固定ナットの厚さとの合計の長さ分以上の雄ねじ部を備え、
前記埋め込み部が前記貫通部の中心軸に対して所定の角度で、又は所定の距離離隔するように前記貫通部から曲げられていることを特徴とする構造体のRC部材への取り付け構造。
【請求項2】
前記構造体は制振装置であり、
前記制振装置の底板に設けられるせん断抵抗部材をさらに備え、
前記せん断抵抗部材は前記制振装置のせん断抵抗方向に向かって1又は間隔をあけて複数が設置され、前記せん断抵抗部材の厚さと高さは前記制振装置の負担荷重に応じて決定される値であることを特徴とする請求項1に記載の構造体のRC部材への取り付け構造。
【請求項3】
前記アンカーボルトは、前記埋め込み部の先端近傍にさらに雄ねじ部を備え、
前記構造体の底板を貫通する前記貫通部の雄ねじ部に螺合して、前記構造体の底板を挟んで前記アンカーボルトを固定する2つの固定ナットと、前記埋め込み部の先端近傍の雄ねじ部に螺合される抜け防止ナットとをさらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載の構造体のRC部材への取り付け構造。
【請求項4】
構造体のRC部材への取り付け方法であって、
前記構造体の底板を貫通する直線状で雄ねじを備える貫通部と、RC部材に埋め込む埋め込み部とを有し、前記埋め込み部が前記貫通部の中心軸に対して所定の角度で、又は所定の距離離隔するように前記貫通部から曲げられているアンカーボルトを、前記構造体の底板を貫通させて前記構造体の底板に抜け落ちない程度で回動可能に固定ナットにより仮固定する段階と、
前記構造体のRC部材の取り付け位置において、前記埋め込み部が主筋又はせん断補強筋と干渉しない回動位置に来るように前記アンカーボルトを回動後、結束線により周囲の主筋又はせん断補強筋に緊結してから前記貫通部を前記固定ナットで締め付けて前記構造体の底板に固定する段階と、
RC部材にコンクリートを打設して前記埋め込み部を埋め込んで固定する段階とを有することを特徴とする構造体のRC部材への取り付け方法。
【請求項5】
前記アンカーボルトを前記構造体の底板に仮固定する前に前記構造体の底板にせん断抵抗部材を設ける段階をさらに備えることを特徴とする請求項4に記載の構造体のRC部材への取り付け方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造体のRC部材への取り付け構造及び取り付け方法に関し、特に構造体の底板を貫通してRC部材に取り付けるアンカーボルトを、底板の貫通部分に対し所定の角度で、又は所定の距離離隔するように曲げてRC部材への埋め込み部を形成することにより、アンカーボルトを主筋又はせん断補強筋と干渉しない状態で構造体を正しい位置に設置することを可能にする構造体のRC部材への取り付け構造及び取り付け方法に関する。
【背景技術】
【0002】
制振装置に代表されるようなRC部材に取り付ける構造体に対して、現状では法律上、RC部材に後から取付穴を形成して取り付ける方法は認められていないため、構造体をRC部材に取り付けるため、RC部材を形成する段階でアンカーボルトを埋め込む形で形成する必要がある。
【0003】
RC部材には主筋やせん断補強筋などの鉄筋が多く組み込まれており、アンカーボルトの設置位置によっては主筋やせん断補強筋に干渉してしまう可能性ある。現状では設計上あらかじめ干渉が懸念される場合は、鉄筋の設置位置を事前に調整したり、構造物の取付位置が調整可能な場合は取付位置を調整したりしてアンカーボルトと鉄筋との干渉を回避することが行われる。しかし、近年はRC部材を形成する段階での鉄筋が密に配筋される事例が増えており、このような場合、アンカーボルトと鉄筋との干渉を回避するのは容易ではない。
【0004】
特許文献1には、複数のアンカー部を有し、複数のアンカー部の下端側が上端側に比べて相互に広がるアンカーボルトセットであって、複数のアンカー部を支持する支持部材に対して複数のアンカー部のうち少なくとも1つが着脱可能又は揺動可能に設けられているアンカーボルトセットが記載されている。
【0005】
引用文献1に記載の発明によれば、コンクリート基礎の上面から突出する1本のボルト部の下側に相互に広がる複数のアンカー部を備え、このアンカー部は着脱可能又は揺動可能であるため、このアンカーボルトセットを設置する際、アンカー部が主筋や縦筋などの鉄筋と干渉する場合、干渉するアンカー部のみを取り外したり、揺動させたりすることにより、鉄筋との干渉を回避することができる。
【0006】
しかし、引用文献1に記載の発明では複数のアンカー部を取り付ける特殊な支持部材を使用する必要があり、工事費用が嵩んでしまうという課題がある。
また、予め組み上げられた構造体で、後から構造体の底板にアンカーボルトの頭部を貫通させてナットで締め付けて固定するのに支障があるような場合や、組み上げられた結果構造体の底板から組み上げ用のボルトやナットが突出する場合、従来技術のようにアンカーボルトだけを先に埋め込んでおく取り付け方法は採用できない。
そこで簡単な構造で、主筋やせん断補強筋のある部分でも主筋やせん断補強筋との干渉を回避して構造物を設計位置に正しく配置することができる構造体のRC部材への取り付け構造及び取り付け方法の提供が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-52418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来のRC部材に取り付ける構造体の取り付け構造及び取り付け方法における問題点に鑑みてなされたものであって、本発明の目的は、構造体の底板を貫通してRC部材に取り付けるアンカーボルトを、底板の貫通部分に対し所定の角度で、又は所定の距離離隔するように曲げてRC部材への埋め込み部を形成することにより、アンカーボルトを主筋又はせん断補強筋と干渉しない状態で構造体を正しい位置に設置することを可能にする構造体のRC部材への取り付け構造及び取り付け方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するためになされた本発明による構造体のRC部材への取り付け構造は、前記構造体の底板を貫通して前記構造体をRC部材に取り付けるアンカーボルトを有し、前記アンカーボルトは、前記構造体の底板を貫通する直線状の貫通部と、RC部材に埋め込む埋め込み部とを備え、前記貫通部は、少なくとも前記構造体の底板の厚さと前記構造体の底板を厚さ方向に挟み込む2つの固定ナットの厚さとの合計の長さ分以上の雄ねじ部を備え、前記埋め込み部が前記貫通部の中心軸に対して所定の角度で、又は所定の距離離隔するように前記貫通部から曲げられていることを特徴とする。
【0010】
前記構造体は制振装置であり、前記制振装置の底板に設けられるせん断抵抗部材をさらに備え、前記せん断抵抗部材は前記制振装置のせん断抵抗方向に向かって1又は間隔をあけて複数が設置され、前記せん断抵抗部材の厚さと高さは前記制振装置の負担荷重に応じて決定される値であることが好ましい。
【0011】
前記アンカーボルトは、前記埋め込み部の先端近傍にさらに雄ねじ部を備え、前記構造体の底板を貫通する前記貫通部の雄ねじ部に螺合して、前記構造体の底板を挟んで前記アンカーボルトを固定する2つの固定ナットと、前記埋め込み部の先端近傍の雄ねじ部に螺合される抜け防止ナットとをさらに備えることが好ましい。
【0012】
上記目的を達成するためになされた本発明による構造体のRC部材への取り付け方法は、前記構造体の底板を貫通する直線状で雄ねじを備える貫通部と、RC部材に埋め込む埋め込み部とを有し、前記埋め込み部が前記貫通部の中心軸に対して所定の角度で、又は所定の距離離隔するように前記貫通部から曲げられているアンカーボルトを、前記構造体の底板を貫通させて前記構造体の底板に抜け落ちない程度で回動可能に固定ナットにより仮固定する段階と、前記構造体のRC部材の取り付け位置において、前記埋め込み部が主筋又はせん断補強筋と干渉しない回動位置に来るように前記アンカーボルトを回動後、結束線により周囲の主筋又はせん断補強筋に緊結してから前記貫通部を前記固定ナットで締め付けて前記構造体の底板に固定する段階と、RC部材にコンクリートを打設して前記埋め込み部を埋め込んで固定する段階とを有することを特徴とする。
【0013】
前記アンカーボルトを前記構造体の底板に仮固定する前に前記構造体の底板にせん断抵抗部材を設ける段階をさらに備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るRC部材に取り付ける構造体の取り付け構造及び取り付け方法によれば、構造体をRC部材に取り付けるアンカーボルトは、RC部材への埋め込み部が構造体の底板を貫通する貫通部の中心軸に対して所定の角度で、又は所定の距離離隔するように貫通部から曲げられているので、構造体を取り付ける位置に設置する場合、直線状のアンカーボルトではRC部材の鉄筋と干渉が起こるような位置であっても、曲げられて形成されたアンカーボルトを鉄筋と干渉が起こらない位置に回動して、鉄筋との干渉を回避しながら構造物を正しい設計位置に設置することを可能とする取り付け構造を実現することができる。
【0015】
また、本発明に係るRC部材に取り付ける構造体の取り付け構造及び取り付け方法によれば、アンカーボルトは構造体の底板を貫通する貫通部に、少なくとも構造体の底板の厚さと構造体の底板を厚さ方向に挟み込む2つの固定ナットの厚さとの合計の長さ分以上の雄ねじ部を備えるため、予め組み上げられて後からアンカーボルトを貫通させてナットで固定することが困難な構造体でも、前もって構造体の底板に取り付けた状態で構造体を正しい設計位置に設置することが可能となり、構造体の底板から組み上げ用のボルトやナットなどが突出していても、コンクリートの打設により、アンカーボルトの埋め込み部と同様コンクリートの中に埋め込むことも可能となる。
【0016】
さらに本発明に係るRC部材に取り付ける構造体の取り付け構造及び取り付け方法によれば、構造体が制振装置の場合、制振装置の底板にせん断抵抗用プレートを備えるため、せん断力は主にせん断抵抗用プレートが受けるようになることから、アンカーボルトは偏心モーメントによる軸力を負担すればよく、アンカーボルトへの負担を軽減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態による構造体のRC部材への取り付け構造の構成例を概略的に示す図である。
図2】本発明の実施形態による構造体のRC部材への取り付け構造の構成例を概略的に示す図である。
図3】本発明の実施形態によるアンカーボルトの形状を概略的に示す図である。
図4】本発明の実施形態による構造体としての制振装置のダンパー部を概略的に示す図である。
図5】本発明の実施形態による構造体のRC部材への取り付け方法を示す図である。
図6】本発明の実施形態による構造体のRC部材への取り付け方法を示す図である。
図7】本発明の実施形態による構造体のRC部材への取り付け方法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明に係る構造体のRC部材への取り付け構造及び取り付け方法を実施するための形態の具体例を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1図2は、本発明の実施形態による構造体のRC部材への取り付け構造の構成例を概略的に示す図である。図2(a)は、図1に示すA-A’線に沿う断面図であり、図2(b)は、図1の右側面方向からをアンカーボルト部分が見えるように露出させて示す図である。
【0019】
図1図2を参照すると、本発明の実施形態による構造体のRC部材への取り付け構造1は、構造体20の底板22を貫通して構造体20をRC部材10に取り付けるアンカーボルト30を有し、アンカーボルト30は、構造体20の底板22を貫通する直線状の貫通部31と、貫通部31に対して折れ曲がった形状で形成され、RC部材10に埋め込む埋め込み部32とを備える。
【0020】
ここで構造体20とは、RC部材10にコンクリートを打設してRC部材10を形成する際、アンカーボルト30によりRC部材10に一体的に固定される構造物であり、構造体20の具体例として図1に示すような制振装置20が挙げられる。構造体20としては、この他、鉄骨間柱部材、プレキャストR構造部材、木質構造部材、設備機器等が挙げられる。以下本明細書では構造体20の具体例として制振装置20についてRC部材10への取り付け構造及び取り付け方法を説明するが、上記各種の構造体20についてもRC部材10への取り付けの土台となる底板(又はベースプレートなどと呼称される)22の取り付けに関しては、以下に説明する制振装置20の場合と同様の構造または同様の方法にて行うことができる。
【0021】
制振装置20は、2つの離隔する構造物の間にあって、両構造物を接続するものの、一方の構造物で発生した地震などによる揺れが、他方の構造物にそのまま伝わらないように揺れを低減したり早く収めたりする装置である。このため代表的な制振装置20は、2つの離隔する構造物にそれぞれ取り付けられる2つの拘束材と拘束材の間に設けられるダンパー材とから構成される。図1に示す本発明の実施形態における制振装置20も2つの拘束材に相当する天板21及び底板22と、天板21と底板22との間に設けられるU字型のダンパー材23を備える。U字型の両端の直線部分はボルトナットなどの接合部材25により天板21及び底板22にそれぞれ固定され、U字型の両端の直線部分の間にある湾曲部分は固定されずに変形可能に取り付けられている。
【0022】
天板21と底板22の内、底板22がアンカーボルト30によりRC部材10に固定される。一方、天板21の側には天板21に突出するように取り付けられる取付ボルトなどの連結部27に壁部材などが固定される。例えば図1のような状態で地震が発生して地面に固定されるRC部材10が図中の左右方向であるx方向に揺れた場合、ダンパー材23の湾曲部が転がるように変形して地震のエネルギーを吸収し、天板21には減衰された後の揺れが伝わるため、天板21上の壁などの構造物はRC部材10及び底板22に比べて揺れが少ない。
【0023】
U字型のダンパー材23の場合、上記のように湾曲部が転がるように変形して地震のエネルギーを吸収するため、図1の例ではx方向の揺れに対しては効果的に地震のエネルギーを吸収し制振効果が発揮されるが、通常これと直交する紙面の奥行方向であるy方向の揺れに対してはこのようなエネルギーの吸収効果は期待できない。しかし本発明の実施形態におけるU字型のダンパー材23は湾曲部及び湾曲部から接合部材25による接合部にかけてスリット24を備えており、y方向の揺れに対しても、U字型のダンパー材23のスリット24により分割された各部分がねじれるように変形するので、ねじれ変形に応じた地震エネルギーを吸収することができる。
【0024】
制振装置20の底板22の4隅にはアンカーボルト30を挿通するための取付穴が設けられており、それぞれの取付穴に個別にアンカーボルト30の直線状の貫通部31を貫通するように挿通させ、2つの固定ナット40で上下から底板22を挟み込むようにしてアンカーボルト30が底板22に固定される。底板22の下面から突出するアンカーボルト30の貫通部31の一部分と貫通部31から折れ曲がる埋め込み部32が、底板22の下面側の固定ナット40と共にRC部材10のコンクリートの中に埋め込まれて固定される。
【0025】
RC部材10には主筋11やせん断補強筋12などの鉄筋があらかじめ組み込まれている。そのため、通常使用されるような直線状のアンカーボルト30ではこうした鉄筋との干渉が生ずるおそれがある。制振装置20を設計上の位置に設置する際、アンカーボルト30が干渉すると、従来技術ではせん断補強筋12などの部分的な組み換え作業を行い、アンカーボルト30が干渉しないようにしてからコンクリートを打設する作業が行われていた。しかし最近では主筋11やせん断補強筋12などの設置の密度は上昇する傾向にあり、こうした現場での手直し作業も難しくなってきている。
【0026】
しかし、本発明の実施形態によるアンカーボルト30は、埋め込み部32が貫通部31の中心軸に対して所定の角度で、又は所定の距離離隔するように貫通部31から曲げられている。そのため、貫通部31の中心軸を中心にアンカーボルト30を回動させて、主筋11やせん断補強筋12と干渉しない位置に回避することが可能である。
【0027】
図1のような位置関係で制振装置20を設置した場合、左右のアンカーボルトの取付位置の真下にはせん断補強筋12が組み込まれているので従来技術のような直線状のアンカーボルト30は設置することができない。しかし本発明の実施形態によるアンカーボルト30は制振装置20の底板22を貫通する貫通部31の下方が曲げられているため、図1のような位置に回動させることにより、直下のせん断補強筋12に干渉することなく制振装置20を設計位置に設置することができる。
【0028】
アンカーボルト30には地震などの外力が加わった際、せん断方向の荷重と制振装置20の上部の構造物から受ける曲げモーメントに伴う引き抜き力が加わる。そのためこれらの外力に耐えるだけの強度が求められる。本発明の実施形態による構造体のRC部材への取り付け構造1は、制振装置20の少なくとも底板22に溶接されるせん断抵抗部材であるせん断抵抗用プレート50をさらに備える。せん断抵抗用プレート50は、制振装置20の底板22又は天板21に加わるせん断力を受ける働きを備えるプレートであり、実施形態では制振装置20のせん断抵抗方向に向かって1又は間隔をあけて複数が設置される。図1では制振装置20のせん断抵抗方向であるx方向に沿って2つのせん断抵抗用プレート50が備えられるように示すが、せん断抵抗用プレート50の数や取付位置はこの図の例に限らない。また、せん断抵抗用プレート50は、確実にコンクリートに埋め込まれる底板22のみに備え、天板21には備えなくてもよい。
【0029】
図1ではせん断抵抗用プレート50はx方向に直交するように平板状のせん断抵抗用プレート50を設置するように示すが、これ以外にy方向に沿う形でせん断抵抗用プレート50を設置してもよいし、平板状ではなくy方向にも突起を備える十字状の水平断面を備えるせん断抵抗用プレート50を設置してもよい。いずれにしてもせん断抵抗用プレート50を備えることにより、アンカーボルト30に加わるせん断力を低減することができる。せん断抵抗用プレート50の厚さと高さは制振装置20の負担荷重に応じて決定される値である。特に高さに関してはRC部材10の鉄筋と干渉しない範囲で決定される必要がある。実施形態ではせん断抵抗用プレート50の高さは制振装置20の負担荷重に応じて20~40mmである。また厚さは同様に負担荷重に応じてt12mm~t22mmである。せん断抵抗用プレート50の幅については制振装置20の幅にもよるが、実施形態では40~100mmである。なお、上述のようにせん断抵抗部材は、平板状のせん断抵抗用プレート50に限らず、底板22に設けられたせん断抵抗要素であれば、その形状や設置方法は適宜変更可能である。
【0030】
また、本発明の実施形態による構造体のRC部材への取り付け構造1は、アンカーボルト30に加わる引き抜き力に対しては、アンカーボルト30の埋め込み部32の先端近傍に設けられた雄ねじ部に螺合される抜け防止ナット41をさらに備える。これにより抜け防止ナット41が大きな抵抗力を生じさせて、アンカーボルト30の取り付け強度をより強固なものとする。制振装置20の底板22の取り付け強度を向上するという意味では、例えばせん断抵抗用プレート50の側壁に水平方向の切り欠きや凹部を形成したり、せん断抵抗用プレート50に貫通孔を設けたりするようにしてもよい。切り欠きや凹部、又は貫通孔にコンクリートが入り込むことにより、せん断抵抗用プレート50にも抜け防止の機能を持たせることが可能となる。
【0031】
図3は、本発明の実施形態によるアンカーボルトの形状を概略的に示す図である。図3(a)は貫通部から所定の角度で折れ曲げられたアンカーボルトを示す図であり、図3(b)は貫通部から所定の距離離隔するように曲げられたアンカーボルトを示す図である。
【0032】
図3(a)を参照すると、本発明の実施形態によるアンカーボルト30は、直線状の貫通部31と貫通部31から所定の角度Θで折れ曲がる埋め込み部32とを備える。貫通部31には先端から長さL1の貫通部雄ねじ部33を備え、埋め込み部32には先端から長さL2の埋め込み部雄ねじ部34を備える。貫通部雄ねじ部33の長さL1は、制振装置20の底板22の厚さと、底板22を厚さ方向に挟み込む2つの固定ナット40の厚さとの合計の長さ分以上である。一方埋め込み部雄ねじ部34の長さL2は抜け防止ナット41の厚さ以上であればよい。所定の角度Θは、あまり大きく曲げると強度が低下する恐れもあるため実施形態では30°以下であることが好ましく、実施形態では所定の角度Θは30°である。また実施形態ではアンカーボルト30の径はφ13mm~φ19mmである。
【0033】
図3(b)に示すアンカーボルト30は、貫通部31に関しては図3(a)に示すアンカーボルト30と変わらないが、貫通部31から折れ曲がった埋め込み部32がさらに折れ曲がり、先端部が貫通部31の延長方向と同じ方向を向くように形成されている。埋め込み部32の先端部は貫通部31の中心軸から所定の距離rだけ離隔する。所定の距離rはRC部材10の中に組み込まれる主筋11又はせん断補強筋12の半径と埋め込み部32の先端部に取り付けられる抜け防止ナット41の最大の半径との合計値より大きくなるようにする。これにより抜け防止ナット41を取り付けた状態でもRC部材10の中の主筋11やせん断補強筋12を回避してアンカーボルト30を設置することができる。
【0034】
図4は、本発明の実施形態による構造体としての制振装置のダンパー部を概略的に示す図である。
図4を参照すると、本発明の実施形態による構造体としての制振装置20のU字状のダンパー23にはU字の底の部分にあたる湾曲部及び湾曲部からつながる直線部の途中までスリット24が設けられる。スリット24はU字状のダンパー23の幅に応じて、ダンパー23の幅方向に並行して複数設けられてもよい。図4では図示を省略しているが、U字状のダンパー23を天板21及び底板22にそれぞれ固定する接合部材25はU字状の両端の直線部分の内スリット24が設けられていない部分に設けられる。U字状のダンパー23は図中のx方向の地震の揺れに対し天板21と底板22との間にせん断変形が生じると湾曲部がx方向に転がるような変形をして地震のエネルギーを吸収する。
【0035】
スリット24が設けられないU字状のダンパー23の場合x方向と直交するy方向の揺れに対しては剛性が強くほとんど変形しないことから制振の効果は得られない。しかし本発明の実施形態による構造体としての制振装置20はU字状のダンパー23にスリット24が設けられているため、y方向の揺れに対しては、スリット24により分割された部分がねじれるように変形するため、この変形により地震のエネルギーの吸収が生じる。実施形態では天板21及び底板22にそれぞれねじれ変形が生じたときにその変形を妨げないように図に示すような凹部26を備えるため、x方向の揺れに対する制振効果ほどは大きくないものの、y方向の揺れに対しても制振の効果を得ることができる。
【0036】
図5は、本発明の実施形態による構造体のRC部材への取り付け方法を示す図である。図5(a)は正面図、図5(b)は側面図である
図5を参照すると、予め天板21及び底板22にそれぞれせん断抵抗用プレート50が溶接され、底板22の4隅にアンカーボルト30が仮固定された制振装置20が、予め組み込まれた主筋11及びせん断補強筋12の上に設置される。制振装置20を設置する段階ではまだRC部材10のコンクリートは打設されておらず、制振装置20はコンクリート打設後にコンクリートの表面となる位置に浮かせる形で設置する。この時アンカーボルト30は、固定ナット40で完全に締め付けずに回動可能な状態で仮固定されているので、主筋11及びせん断補強筋12に干渉せず、しかも主筋11又はせん断補強筋12に固定しやすい位置に回動し、結束線60により周囲の主筋11又はせん断補強筋12に緊結してから固定ナット40を締め付けてアンカーボルト30を底板22に固定する。なおアンカーボルト30はすべてが曲がったものを使用する必要はなく、制振装置20の設置の際に主筋11又はせん断補強筋12に干渉しない部分については、直線状のアンカーボルト30を使用してもかまわない。
なお、図5ではせん断抵抗用プレート50は天板21及び底板22に溶接して取り付けるように示すが、せん断抵抗用プレート50の取付方法は、溶接に限らず、せん断力に抵抗する形で取り付けられれば他の方法でもよい。例えば天板21、底板22に設けた孔にはめ込んだり、ねじ止めしたりして設置してもよい。
【0037】
このように制振装置20をコンクリート打設前に中空に浮かせて固定するため、制振装置20の底板22にU字状のダンパー23を固定するための接合部材25が突出している場合でも制振装置20を設計位置に正しく配置して固定することができる。なお、制振装置20を主筋11又はせん断補強筋12から一定の高さで保持するスペーサを使用し、制振装置20をスペーサ上に載せた状態でアンカーボルト30を回動させて適切な位置に固定するようにしてもよい。スペーサは結束線60によりアンカーボルト30を固定した後抜き取ってもよいし、スペーサごとコンクリートに埋め込むようにしてもよい。
【0038】
図6は、本発明の実施形態による構造体のRC部材への取り付け方法を示す図である。
図6は、図5と同様、予め天板21及び底板22にそれぞれせん断抵抗用プレート50が溶接され、底板22の4隅にアンカーボルト30が仮固定された制振装置20が、予め組み込まれた主筋11及びせん断補強筋12の上に設置される状態を示す。仮固定されたアンカーボルト30は貫通部31を中心に埋め込み部32を360°回動させることができる。そこで制振装置20を設計位置に設置する前にアンカーボルト30を主筋11又はせん断補強筋12に干渉しない位置に回動させてから設計位置に設置するようにするのが好ましい。
【0039】
以上、構造体20が制振装置20の場合を例に構造体のRC部材への取り付け構造1を説明したが、鉄骨間柱部材、プレキャストR構造部材、木質構造部材、設備機器等などの構造体20についてもそれぞれの底板22やベースプレートのRC部材10への取り付けは図3に示したようなロックボルト30を使用してRC部材10の主筋11やせん断補強筋12と干渉しないように取り付けることが可能である。
【0040】
図7は、本発明の実施形態による構造体のRC部材への取り付け方法を説明するためのフローチャートである。図7では一般化して構造体20として説明する。
図7を参照すると、段階S700にて構造体20の底板22にせん断抵抗部材を設置する。せん断抵抗部材がせん断抵抗用プレート50の場合、せん断抵抗用プレート50は底板22に加わると想定されるせん断力の方向や大きさに応じ、主なせん断抵抗方向に向かって1つ又は間隔をあけて複数溶接して設置する。またRC部材10の主筋11やせん断補強筋12と干渉しない高さの範囲で負担荷重に応じて決定される厚さと高さに設定する。また必要に応じて単純な矩形の平板構造ではなくコンクリートとかみ合いコンクリートから抜けにくくする切り欠き、凹部、貫通孔などを設けてもよい。
構造体20の底板22に加わるせん断力がアンカーボルト30だけでも十分受け止められる程度の大きさである場合は、せん断抵抗部材の設置は省略してもよい。
【0041】
次いで、段階S710にてアンカーボルト30を、構造体20の底板22を貫通させて抜け落ちない程度で回動可能に固定ナット40により仮固定する。固定ナット40は2個使用し、構造体20の底板22を挟み込む形で取り付ける。そのためアンカーボルト30の貫通部雄ねじ部33に1つ目の固定ナット40を螺合してから底板22の取付穴にアンカーボルト30を貫通させ、貫通した貫通部雄ねじ部33に2つ目の固定ナット40を完全に締め付けない状態で螺合して仮固定する。2つ目の固定ナット40は予め底板22の上面に回転しないように仮設置又は仮固定しておいてアンカーボルト30をねじ込むように取り付けてもよい。
【0042】
アンカーボルト30を仮固定した構造体20の底板22を取り付け位置に設置するにあたり、段階S720にて埋め込み部32が主筋11又はせん断補強筋12と干渉しない回動位置に来るようにアンカーボルト30を回動させる。構造体20の底板22の設置位置を確定するのは、結束線60により周囲の主筋11又はせん断補強筋12に緊結する形とするため、アンカーボルト30は、主筋11又はせん断補強筋12に緊結しやすい位置に回動することが好ましい。
【0043】
アンカーボルト30の回動位置が決まったら、段階S730にてアンカーボルト30を結束線60により周囲の主筋11又はせん断補強筋12に緊結して構造体20の底板22の設置位置を確定し、この状態で固定ナット40を締め付けアンカーボルト30が回動しないように固定する(段階S740)。構造体20の底板22の上面側に位置する固定ナット40を回転しないように仮設置又は仮固定している場合は、底板22の底面側の固定ナット40を締め付けることによりアンカーボルト30を固定することができる。例えば構造体20が制振装置20であり、内部に異物や水などが入り込まないように側面を側壁で囲ってしまう場合でも底板22の取付穴上部に固定ナット40を回転しないように仮設置又は仮固定しておくことで、上記のように取り付けることが可能である。
【0044】
最後に段階S750にてRC部材10にコンクリートを打設して埋め込み部32を埋め込み、構造体20の底板22をRC部材10に一体的に固定する。
【0045】
以上、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲から逸脱しない範囲内で多様に変更することが可能である。
【符号の説明】
【0046】
1 RC部材への取り付け構造
10 RC部材
11 主筋
12 せん断補強筋
20 構造体(制振装置)
21 天板
22 底板
23 ダンパー材
24 スリット
25 接合部材
26 凹部
27 連結部
30 アンカーボルト
31 貫通部
32 埋め込み部
33 貫通部雄ねじ部
34 埋め込み部雄ねじ部
40 固定ナット
41 抜け防止ナット
50 せん断抵抗用プレート
51 溶接部
60 結束線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7