(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143793
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】抗ブタノロウイルス抗体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20241003BHJP
C07K 16/10 20060101ALI20241003BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20241003BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20241003BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20241003BHJP
G01N 33/569 20060101ALI20241003BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C07K16/10
C12M1/34 F
A61K39/395 S
A61P31/14
G01N33/569 L
C12P21/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056675
(22)【出願日】2023-03-30
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松村 佑太
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 啓
(72)【発明者】
【氏名】東條 卓人
(72)【発明者】
【氏名】村上 泰平
【テーマコード(参考)】
4B029
4B064
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB13
4B029CC01
4B029FA03
4B029GA08
4B029GB06
4B029GB10
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE12
4B064DA01
4B064DA15
4C085AA14
4C085BA52
4C085CC23
4C085DD61
4C085EE01
4C085GG01
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA29
4H045EA53
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】 (修正有)
【課題】特定の遺伝子型のノロウイルス粒子に対して特異的な結合活性を示す抗ブタノロウイルス抗体を提供する。
【解決手段】例えば、GLTFSMYSMG(配列番号1)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、SINWSGGSTY(配列番号2)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びDFSFLSRCKLGSSGYDY(配列番号3)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3、で示されるCDRを含む構造ドメインを1つ以上有する、ブタノロウイルスに結合する抗体を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)、(b)、(c)、(d)又は(e)で示されるCDRを含む構造ドメインを1つ以上有する、ブタノロウイルスに結合する抗体。
(a)GLTFSMYSMG(配列番号1)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、SINWSGGSTY(配列番号2)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びDFSFLSRCKLGSSGYDY(配列番号3)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(b)GIVFSVYPMG(配列番号4)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、GINSFHNTT(配列番号5)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びGAYRRLCPIEEYGMDF(配列番号6)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(c)GRAFSSYMVG(配列番号7)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、AIAWSTY(配列番号8)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びGFPTLVALPYEYDY(配列番号9)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(d)GITFSNTAMT(配列番号10)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、SINKSGDEVA(配列番号11)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びPYFGS(配列番号12)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(e)GSIFSFNAMA(配列番号13)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、GITSGGRTS(配列番号14)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びTRWATNSIAIRQVESYDY(配列番号15)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
【請求項2】
ブタノロウイルス構造タンパク質に結合する、請求項1記載の抗体。
【請求項3】
単一ドメイン抗体又はその多量体である、請求項1又は2記載の抗体。
【請求項4】
単一ドメイン抗体がVHH抗体である、請求項3記載の抗体。
【請求項5】
単一ドメイン抗体の多量体が、前記構造ドメインを複数連結した多量体である請求項3記載の抗体。
【請求項6】
単一ドメイン抗体の多量体が、前記構造ドメインの1又は複数と、該構造ドメインとは抗原特異性の異なる構造ドメインの1又は複数を連結した多量体である請求項3記載の抗体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項記載の抗体をコードする核酸。
【請求項8】
以下の(a)、(b)、(c)、(d)又は(e)で示されるCDRを含む構造ドメインを1つ以上有する、ノロウイルスに結合する抗体を被験試料に接触させる工程を含む、試料中のブタノロウイルスの検出方法。
(a)GLTFSMYSMG(配列番号1)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、SINWSGGSTY(配列番号2)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びDFSFLSRCKLGSSGYDY(配列番号3)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(b)GIVFSVYPMG(配列番号4)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、GINSFHNTT(配列番号5)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びGAYRRLCPIEEYGMDF(配列番号6)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(c)GRAFSSYMVG(配列番号7)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、AIAWSTY(配列番号8)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びGFPTLVALPYEYDY(配列番号9)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(d)GITFSNTAMT(配列番号10)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、SINKSGDEVA(配列番号11)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びPYFGS(配列番号12)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(e)GSIFSFNAMA(配列番号13)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、GITSGGRTS(配列番号14)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びTRWATNSIAIRQVESYDY(配列番号15)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
【請求項9】
請求項1~6のいずれか1項記載の抗体を含有するブタノロウイルス検出キット。
【請求項10】
請求項1~6のいずれか1項記載の抗体を含有するブタノロウイルス感染症の予防又は治療薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特定の遺伝子型のノロウイルス粒子に対して特異的な結合活性を示す抗ブタノロウイルス抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
ノロウイルスはカリシウイルス科に属する,エンベロープを持たない直径約30~40nmの球形ウイルスである。ノロウイルスはヒトに対して嘔吐、下痢などの急性胃腸炎症状を起こすが、ヒト以外にも様々な宿主に対して感染性を示すことが報告されている。ノロウイルスのゲノムは約7.6kbの1本鎖(+)RNAであり、近年ではゲノム相同性に基づき遺伝子群1(GI)、遺伝子群2(GII)、遺伝子群3(GIII)、遺伝子群4(GIV)、遺伝子群5(GV)、遺伝子群6(GVI)及び遺伝子群7(GVII)の7つの遺伝子群に分類されている。このうち、GIがヒト、GIIがヒト、ブタ、GIIIがウシ、GIVがヒト、ネコ、イヌ、GVがマウス、GVI及びGVIIがイヌへの感染性を示す(非特許文献1参照)。
【0003】
ノロウイルスの各遺伝子群には複数の遺伝子型が存在する。ノロウイルスの場合、各遺伝子型はそれぞれ異なる抗原性を示すが、同一遺伝子型は同じ抗原性を示すとされる。ノロウイルスのゲノムは変異速度が非常に速く、さらに異なる遺伝子型のウイルス間で組換えを起こすことが報告されており、新たな遺伝子型を示すノロウイルスの出現も確認されている。そのため、ノロウイルスを正確に分類することや遺伝子型を識別することは非常に重要である。
【0004】
現在までに、ヒトへの感染性を示すノロウイルス(以下、ヒトノロウイルスと呼ぶ)では、GIノロウイルスとしてGI.1~GI.9の遺伝子型、GIIノロウイルスとして少なくともGII.1~GII.10、GII.12~GII.17、GII.20~GII.22の遺伝子型が報告されている。ヒトノロウイルスは、日本国内においては例年秋から冬を中心に流行する感染性胃腸炎の主要な原因の1つである。ヒトノロウイルスは学校や、医療施設、食品取扱施設などの集団施設に持ち込まれると集団発生を引き起こし、食品を汚染すると食中毒の原因となる。そのため、ヒトノロウイルスの疫学情報は重要であり、国内では厚生労働省や国立感染症研究所などでノロウイルスの遺伝子群、遺伝子型を含めた疫学データの収集が行われている。
【0005】
一方、ヒトノロウイルスと同じGIIに分類されるノロウイルスのうち、GII.11、GII.18、GII.19はブタに感染することが報告されている(以下、ブタノロウイルスと呼ぶ)。これらブタノロウイルスは、ヒトノロウイルスの中でも流行性の高いGIIノロウイルスと近縁であるとされる。現在までに、ブタノロウイルスのヒトへの感染は報告されていない。しかしながら、GIIノロウイルスにおいて、流行性の高いヒトノロウイルスに近い遺伝子型のブタノロウイルスが報告されている(非特許文献2、3参照)。そのため、ブタはノロウイルスのヒトへの感染源としてだけでなく、新たな組換え型発生のリザーバーとなる可能性としても公衆衛生的問題が懸念されている(非特許文献4参照)。そのため、ブタノロウイルスに関しても疫学調査が行われている。
【0006】
ブタノロウイルスを特異的に検出できることは、ブタノロウイルスの疫学調査を行う上でも重要となる。特に、ヒトノロウイルスとブタノロウイルスは同一の遺伝子群(GII)を形成することから、疫学的情報を得るためには、遺伝子型レベルの識別方法が必要となる。
【0007】
ウイルス由来のタンパク質の検出する方法では抗体が用いられ、例えばイムノクロマト法やELISA(Enzyme-linked immuno-sorbent assay)法を測定原理とした抗原検査法がこれに該当する。ノロウイルスの場合、各遺伝子型はそれぞれ異なる抗原性を示すが、同一遺伝子型は同じ抗原性を示すとされる。また、ノロウイルスの構造タンパク質であるVP1タンパク質には、遺伝子群毎にアミノ酸配列が保存されている領域がする。そのためノロウイルスに対しても、イムノクロマト法やELISA法を測定原理とした抗原検査キットが市販されている。
【0008】
しかし、斯かる市販のキットでは、GI及びGIIノロウイルスのカプシドタンパク質に幅広く結合するモノクローナル、又はポリクローナルIgG抗体が用いられているため、GIIノロウイルスにおいて、遺伝子型を判別できるものはない。また、現在までにブタノロウイルスであるGII.11、GII.18、GII.19に対して特異的な抗体として公開されているものはない。ブタノロウイルスに対して優れた結合活性と結合特異性を示す抗体は、ブタノロウイルスの迅速かつ簡便な検出及び識別において重要となるが、ゲノム変異の速度が速く、非常に多くの遺伝子型が報告されているノロウイルスにおいて、遺伝子型レベルの高い特異性を示す抗体を開発することは困難という課題がある。
【0009】
一方、市販されている抗原検査キットの殆どはマウスやウサギ等に由来するモノクローナル、又はポリクローナルIgG抗体が用いられている。VHH(Variable domain of heavy chain of heavy chain antibody)はラクダ科動物が有する重鎖抗体の可変部ドメインからのみなる単一ドメイン抗体の1つである。VHHはIgG抗体と同等の結合活性を示しながらも、(1)IgG抗体と比較して分子量が10分の1程度であり、従来の抗体では結合できない新規のエピトープが期待されること、(2)IgG抗体とは異なり、可逆性の高いタンパク質構造をもち、熱や圧に対して優れた耐性を示すこと、(3)IgG抗体とは異なり、酵母や細菌等の微生物を用いた生産が可能であること、等の特徴をもつ。さらに、(4)VHHは、cDNAディスプレイ法やファージディスプレイ法等の試験管内の抗体選抜技術との親和性が非常に高く、マウスやウサギ等への免疫によって得られるIgG抗体と比較して、より短期間に開発することが可能である。そのため、VHHは医薬品や検査薬に用いられてきたIgG抗体やIgA抗体といった従来の免疫グロブリンに代わる抗体としてその利用が期待されている。
【0010】
抗原検査キットの開発においても、VHHの優位性は明らかである。特に、VHHが有する特性から、(1)VHHは粒子やニトロセルロース膜に高密度に固相化することが可能であり、より多くのパラトープを基材上に提示することができること、(2)VHHはタンパク質としての安定性に優れており、製品のより優れた保存安定性が期待できること、(3)VHHは微生物によって大量かつ安価に生産可能であるため、製造原価をより低減させることが出来ること、(4)VHHはイムノクロマト法において非特異的反応の原因となりうるFc領域を有さないこと、がIgG抗体と比較して優位であると考えられる。
【0011】
このように、VHHは通常の抗体(IgG抗体など)と比較して性状面、生産面において多くの利点を有している。そのため、ノロウイルスを標的とする単一ドメイン抗体を用いた検出技術は、従来のIgG抗体を用いた技術よりも性能面、価格面において有利に提供できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Advances in laboratory methods for detection and typing of norovirus. J Clin Microbiol. 2015;53(2):373-81.
【非特許文献2】Frequent Detection of Noroviruses and Sapoviruses in Swine and High Genetic Diversity of Porcine Sapovirus in Japan during Fiscal Year 2008. J Clin Microbiol. 2010;48(4):1215-1222.
【非特許文献3】Prevalence of Porcine Noroviruses, Molecular haracterization of Emerging Porcine Sapoviruses from Finisher Swine in the United States, and Unified Classification Scheme for Sapoviruses. J Clin Microbiol. 2013;51(7):2344-2353.
【非特許文献4】森光俊晴ら著、「高知県内のブタにおけるノロウイルス調査」高知衛研報、2014年、60巻、p.25-27
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、特定の遺伝子型のノロウイルス粒子に対して特異的な結合活性を示す抗ブタノロウイルス抗体を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らはブタノロウイルスとして報告されているGII.11、GII.18、GII.19ノロウイルスのウイルス様粒子(VLP、Virus-Like Particles)に特異的な結合活性を示す単一ドメイン抗体を得るべく検討した結果、特定のアミノ酸数を有するCDR1~3をコンストラクトに含むVHH抗体ライブラリから、cDNAディスプレイ法によるスクリーニングにより、当該標的分子に対して結合特異性の高いクローンを得ることに成功した。
【0015】
すなわち、本発明は以下の1)~5)に係るものである。
1)以下の(a)、(b)、(c)、(d)又は(e)で示されるCDRを含む構造ドメインを1つ以上有する、ブタノロウイルスに結合する抗体。
(a)GLTFSMYSMG(配列番号1)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、SINWSGGSTY(配列番号2)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びDFSFLSRCKLGSSGYDY(配列番号3)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(b)GIVFSVYPMG(配列番号4)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、GINSFHNTT(配列番号5)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びGAYRRLCPIEEYGMDF(配列番号6)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(c)GRAFSSYMVG(配列番号7)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、AIAWSTY(配列番号8)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びGFPTLVALPYEYDY(配列番号9)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(d)GITFSNTAMT(配列番号10)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、SINKSGDEVA(配列番号11)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びPYFGS(配列番号12)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(e)GSIFSFNAMA(配列番号13)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、GITSGGRTS(配列番号14)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びTRWATNSIAIRQVESYDY(配列番号15)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
2)1)の抗体をコードする核酸。
3)以下の(a)、(b)、(c)、(d)又は(e)で示されるCDRを含む構造ドメインを1つ以上有する、ノロウイルスに結合する抗体を被験試料に接触させる工程を含む、試料中のブタノロウイルスの検出方法。
(a)GLTFSMYSMG(配列番号1)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、SINWSGGSTY(配列番号2)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びDFSFLSRCKLGSSGYDY(配列番号3)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(b)GIVFSVYPMG(配列番号4)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、GINSFHNTT(配列番号5)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びGAYRRLCPIEEYGMDF(配列番号6)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(c)GRAFSSYMVG(配列番号7)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、AIAWSTY(配列番号8)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びGFPTLVALPYEYDY(配列番号9)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(d)GITFSNTAMT(配列番号10)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、SINKSGDEVA(配列番号11)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びPYFGS(配列番号12)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(e)GSIFSFNAMA(配列番号13)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、GITSGGRTS(配列番号14)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びTRWATNSIAIRQVESYDY(配列番号15)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
4)1)の抗体を含有するブタノロウイルス検出キット。
5)1)の抗体を含有するブタノロウイルス感染症の予防又は治療薬。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、GII.11、GII.18、GII.19のノロウイルス粒子に対して反応性の高い単一ドメイン抗体を提供することができる。本発明の抗体はブタノロウイルス粒子に対して優れた特異性を示すことから、当該抗体を用いることにより、ブタノロウイルスの特異的な検出、すなわちブタノロウイルス感染症の迅速な検出が可能となる。また、ノロウイルス陽性検体に対して、当該抗体を用いてノロウイルスの検査を行い、反応しないことを確認することによって、当該検体に含まれるノロウイルスがブタノロウイルスであることを確認することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】SDS―PAGEによるブタノロウイルスVLPの検出。
【
図2】選抜後のDNAライブラリ中に含まれる各VHHクローンの出現頻度。
【
図3】ファージELISAによるライブラリの力価確認。
【
図5】SDS―PAGEによるHisタグ付きVHHの検出。
【
図6】ELISAによる抗GIIノロウイルスポリクローナル抗体の活性評価。
【
図7】ラテラルフローアッセイで得られる呈色の判断基準。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のノロウイルスに結合する抗体(以下、「本発明の抗体」と称する)は、下記(a)、(b)、(c)、(d)又は(e)で示されるCDR1~3を含む構造ドメインを1つ以上有する、抗ブタノロウイルス モノクローナル抗体である。
(a)GLTFSMYSMG(配列番号1)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、SINWSGGSTY(配列番号2)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びDFSFLSRCKLGSSGYDY(配列番号3)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(b)GIVFSVYPMG(配列番号4)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、GINSFHNTT(配列番号5)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びGAYRRLCPIEEYGMDF(配列番号6)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(c)GRAFSSYMVG(配列番号7)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、AIAWSTY(配列番号8)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びGFPTLVALPYEYDY(配列番号9)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(d)GITFSNTAMT(配列番号10)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、SINKSGDEVA(配列番号11)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びPYFGS(配列番号12)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(e)GSIFSFNAMA(配列番号13)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、GITSGGRTS(配列番号14)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びTRWATNSIAIRQVESYDY(配列番号15)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
【0019】
ブタノロウイルスは、カリシウイルス科に属する、エンベロープを持たない直径約30~40nmの球形ウイルスであり、ブタノロウイルス感染症の原因となる。本発明の抗体は、ブタノロウイルス(GII.11、GII.18、GII.19)に結合する抗体であるが、詳細には、当該ブタノロウイルスの構造タンパク質及びその複合体に結合する抗体である。この複合体には、ウイルス様粒子(VLP)、VP1タンパク質およびその複合体が含まれる。
【0020】
本発明の抗体の構造ドメインは、CDR1、CDR2及びCDR3の3つのCDRを有する。CDR(Complementarity Determining Region;相補性決定領域)とは、配列可変な抗原認識部位又はランダム配列領域を含み、超可変領域とも云われる。本発明の抗体の構造ドメインにおいて、3つのCDRは、N末端側からCDR1、CDR2、CDR3の順で存在する。
【0021】
なお、ノロウイルスに対する結合能は、当業者に公知の方法により評価できる。具体的には、後述する実施例に示すように、表面プラズモン共鳴法により、平衡乖離定数KDを求めることにより評価できる。また、例えばELISA法、イムノクロマト法、等温滴定カロリメトリー法、バイオレイヤー干渉法等を用いた方法によっても評価できる。
【0022】
本発明の抗体の構造ドメインは、CDR1、CDR2、CDR3の両端にフレームワーク領域を有するものであってもよい。フレームワーク領域とは、抗体分子の可変領域において相補性決定領域を除く領域であり、保存性の高い領域を指す。
すなわち、本発明の構造ドメインは、一態様として、第1フレームワーク領域(FR1)、CDR1、第2フレームワーク領域(FR2)、CDR2、第3フレームワーク領域(FR3)、CDR3及び第4フレームワーク領域(FR4)をこの順に有するものが挙げられる。
構造ドメインにおけるフレームワーク領域のアミノ酸配列としては以下で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列が挙げられる。
FR1:
AEVQLVESGGGLVQAGDSLRLSCVAS(配列番号16)
AEVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAAS(配列番号17)
AQLQLVESGGGLVTAGGSLSLSCAAS(配列番号18)
AEVQLVESGGGQVQPGGSLRLSCIVS(配列番号19)
AEVQLVESGGGLVQAGGSLKLSCAAS(配列番号20)
FR2:
WFRQAPGKEREFVA(配列番号21)
WYRQAPGKQREWVA(配列番号22)
WVRRAPGKGLEWIS(配列番号23)
WYRQVPGKQREFIA(配列番号24)
FR3:
YADSVKGRFTISRDNAKNTVYLQMNSLSPEDTAVYYCAT(配列番号25)、
YEESVKGRFTISRDNAKNAVYLQMNDLKPEDTAVYYCAA(配列番号26)、
YDESVKGRFTISRDSAKNTVYLQMDDLKPEDTAVYYCAA(配列番号27)、
YADSVKGRFTISRDNAKNTLYLQMNSLKAEDTAVYYCHA(配列番号28)、
YADSVKGRFTISRDNAKNTVYLRMNSLRPEDSAVYYCAA(配列番号29)、
FR4:
WGQGTQVTVSS(配列番号30)
WGKGTLVTVSS(配列番号31)
【0023】
配列番号16~31で示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるフレームワーク領域としては、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは96%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるフレームワーク領域が挙げられる。
【0024】
ここで、アミノ酸配列の同一性とは、2つのアミノ酸配列をアラインメントしたときに両方の配列において同一のアミノ酸残基が存在する位置の数の全長アミノ酸残基数に対する割合(%)をいう。配列の同一性は、例えばNational Center for Biotechnology Information(NCBI)のBLAST(Basic Local Alignment Search Toolを用いて解析を行なうことにより算出できる。
【0025】
本発明の抗体のうち、FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4がこの順で連結され、CDR1が配列番号1で示されるアミノ酸配列、CDR2が配列番号2で示されるアミノ酸配列、CDR3が配列番号3で示されるアミノ酸配列であり、FR1が配列番号16で示されるアミノ酸配列、FR2が配列番号21で示されるアミノ酸配列、FR3が配列番号25で示されるアミノ酸配列、FR4が配列番号30で示されるアミノ酸配列である構造ドメイン(配列番号32)を有する抗体、及びCDR1が配列番号4で示されるアミノ酸配列、CDR2が配列番号5で示されるアミノ酸配列、CDR3が配列番号6で示されるアミノ酸配列であり、FR1が配列番号17で示されるアミノ酸配列、FR2が配列番号22で示されるアミノ酸配列、FR3が配列番号26で示されるアミノ酸配列、FR4が配列番号31で示されるアミノ酸配列である構造ドメイン(配列番号33)を有する抗体、及びCDR1が配列番号7で示されるアミノ酸配列、CDR2が配列番号8で示されるアミノ酸配列、CDR3が配列番号9で示されるアミノ酸配列であり、FR1が配列番号18で示されるアミノ酸配列、FR2が配列番号21で示されるアミノ酸配列、FR3が配列番号27で示されるアミノ酸配列、FR4が配列番号30で示されるアミノ酸配列である構造ドメイン(配列番号34)を有する抗体、及びCDR1が配列番号10で示されるアミノ酸配列、CDR2が配列番号11で示されるアミノ酸配列、CDR3が配列番号12で示されるアミノ酸配列であり、FR1が配列番号19で示されるアミノ酸配列、FR2が配列番号23で示されるアミノ酸配列、FR3が配列番号28で示されるアミノ酸配列、FR4が配列番号30で示されるアミノ酸配列である構造ドメイン(配列番号35)を有する抗体、及びCDR1が配列番号13で示されるアミノ酸配列、CDR2が配列番号14で示されるアミノ酸配列、CDR3が配列番号15で示されるアミノ酸配列であり、FR1が配列番号20で示されるアミノ酸配列、FR2が配列番号24で示されるアミノ酸配列、FR3が配列番号29で示されるアミノ酸配列、FR4が配列番号30で示されるアミノ酸配列である構造ドメイン(配列番号36)を有する抗体は、それぞれ、後述する実施例において、cDNAディスプレイ法によるスクリーニングにより得られた、ノロウイルスの構造タンパク質に対して反応性の高いクローン(配列番号32がNoVHH200、配列番号33がNoVHH201、配列番号34がNoVHH191E、配列番号35がNoVHH53、配列番号36がNoVHH54、である。)であり、好適な抗ブタノロウイルス モノクローナル抗体である。
【0026】
本発明の抗体は、上記の構造ドメインを少なくとも1つ有するものであればその形態は限定されず、単一ドメイン抗体(ナノボディーとも呼ばれる)や、単一ドメイン抗体が複数結合した多量体(例えば二量体)であり得る。多量体には、本発明の構造ドメインが複数連結した多量体の他、当該構造ドメインの1又は複数と、該構造ドメインとは抗原特異性の異なる他の構造ドメインの1又は複数が連結した多量体が含まれる。
単一ドメイン抗体は、単一の可変領域(抗原結合ドメイン)で抗原に特異的に結合する性質を有する抗体を指す。単一ドメイン抗体には,可変領域が重鎖の可変領域のみからなる抗体(重鎖単一ドメイン抗体)、可変領域が軽鎖の可変領域のみからなる抗体(軽鎖単一ドメイン抗体)が含まれる。ラクダ科動物(例えば、ラクダ、ラマ、アルパカなど)で同定された重鎖抗体であるVHH、軟骨魚類(例えばサメ)由来の重鎖抗体であるVNAR等が単一ドメイン抗体の一種として知られており、本発明においてはVHHが好ましい。
また、本発明の抗体はブタの免疫系を回避する改変が加えられていてもよい。ブタの免疫系を回避する改変が加えられた抗体は、ブタに投与することが可能であるため、家畜用医薬として応用することができる。
【0027】
本発明の抗体の作製方法は特に限定されず、当該技術分野における公知技術により容易に作製することができる。例えば、ペプチド固相合成法とネイティブ・ケミカル・リゲーション(Native Chemical Ligation;NCL)法を組み合わせて作製することや遺伝子工学的に作製することができるが、本発明の抗体をコードする核酸をコドン最適化などの工程を経ることにより宿主細胞における目的の抗体の発現に最適化された人工遺伝子を設計し、適当なベクターに組み込んで、これを宿主細胞に導入し、組換え抗体として産生させる方法が好ましい。
【0028】
組換え抗体として産生において使用される宿主細胞としては、例えば、大腸菌、枯草菌、カビ、動物細胞、植物細胞、バキュロウイルス/昆虫細胞または酵母細胞等が挙げられる。 抗体を発現させるための発現用ベクターは、各種宿主細胞に適したベクターを用いることができる。発現ベクターとしては、例えば、pBR322、pBR325、pUC12、pUC13等の大腸菌由来のベクター;pUB110、pTP5、pC194等の枯草菌由来のベクター;pHY300PLK等の大腸菌と枯草菌で共用することができるシャトルベクター;pSH19、pSH15等の酵母由来ベクター;λファージ等のバクテリオファージ;アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルス等のウイルス;及びこれらを改変したベクター等を用いることができる。
これらの発現ベクターは、各々のベクターに適した、複製開始点、選択マーカー及びプロモーターを有しており、必要に応じて、エンハンサー、転写集結配列(ターミネーター)、リボソーム結合部位及びポリアデニル化シグナル等を有していてもよい。さらに、発現ベクターには、発現したポリペプチドの精製を容易にするため、FLAGタグ、Hisタグ、HAタグ及びGSTタグなどを融合させて発現させるための塩基配列が挿入されていてもよい。
【0029】
発現させた本発明の抗体を培養菌体または培養細胞から抽出する際には、培養後、公知の方法で菌体または培養細胞を集め、これを適当な緩衝液に懸濁し、超音波、リゾチーム及び/または凍結融解などによって菌体または細胞を破壊したのち、遠心分離や濾過により、可溶性抽出液を取得する。得られた抽出液から、公知の分離・精製法を適切に組み合わせて目的の抗体を取得することができる。
公知の分離、精製法としては、塩析や溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法、透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、SDS-PAGE等の主として分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィーなどの電荷の差を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法または等電点電気泳動法などの等電点の差を利用する方法などが用いられる。
【0030】
本発明の抗体は、ブタノロウイルスの構造タンパク質に結合することから、これを、ブタノロウイルスを含有するか、または含有する可能性のある被験試料と接触させることによって、当該試料中にブタノロウイルスが存在すること、あるいは存在しないことを確認できる。
具体的には、本発明の抗体を用いたブタノロウイルスの検出は、本発明の抗体と、被験試料とを接触させ、本発明の抗体と前記被験試料中のブタノロウイルスとの結合体を形成させる工程と、前記結合体中のブタノロウイルスを検出する工程、を備えてなる。
また、本発明の抗体は、血清中のウイルス特異的抗体の検出において、固定化した被験試料(血清)中に含まれる抗ブタノロウイルス抗体(例えば血清抗体)に対して、ブタノロウイルスの構造タンパク質を含む抗原の一部を添加して結合させ、当該結合体状態にあるブタノロウイルス抗原の存在を確認する抗体として使用することもできる。
【0031】
被験試料としては、特に限定されないが、生物学的試料(例えば、唾液、体液、血液、血清、尿、糞便、組織、細胞、組織又は細胞の破砕物等)の他、ブタノロウイルスに汚染されている可能性のある溶液、固体表面等が挙げられる。
被験試料は、VLPへの結合の点から、被験試料中のウイルスを界面活性剤等を含む溶液で溶解し、当該溶液中で抗体と結合させるのが好ましい。抗体は固相に固定されていてもよく、固相に固定されていなくてもよい。
上記の結合体中のブタノロウイルスを検出する工程は、例えば、上記の結合体に、結合体中の本発明の抗体とは異なるエピトープを認識する、抗ブタノロウイルス抗体を反応させることにより行うことができる。或いは、ホモジニアスアッセイにより、液相中で上記の結合体中のブタノロウイルスを検出してもよい。
【0032】
また、本発明の抗体は、ブタノロウイルス検出用キットの構成成分となり得る。当該キットは、ブタノロウイルス感染症の診断薬として、またブタノロウイルス感染症の予防又は治療薬の開発用のツールとして使用可能である。
当該検出キットは、本発明の抗ブタノロウイルス抗体の他、検出に必要な試薬及び器具、例えば本発明の抗体を認識する抗体又は本発明の抗体とは異なるエピトープを認識する抗ブタノロウイルス抗体、固相担体、緩衝液、酵素反応停止液、マイクロプレートリーダー等を含むことができる。
当該検出キットにおいて、本発明の抗体は固相に固定されていてもよい。固相としては、例えば、ビーズ、膜、反応容器の側面や底面、スライドガラス等の板状基板、イムノプレート等のウェル基板等が挙げられ、本発明の抗体が直接的又は間接的に固定される。
【0033】
斯かるブタノロウイルス感染症の予防又は治療薬において、その組成物中における本発明の抗体の含有量は適宜調整できる。
また、斯かる医薬は、本発明の抗体として、有効量を1週間に1~数回程度の間隔で患者に投与することにより適用することができる。この場合の投与方法としては、好適には静脈注射、点滴等が挙げられる。
【0034】
本発明においては上述した実施形態に関し、さらに以下の態様が開示される。
<1>以下の(a)、(b)、(c)、(d)又は(e)で示されるCDRを含む構造ドメインを1つ以上有する、ブタノロウイルスに結合する抗体。
(a)(配列番号1)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、(配列番号2)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及び(配列番号3)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(b)(配列番号4)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、(配列番号5)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及び(配列番号6)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(c)(配列番号7)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、(配列番号8)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及び(配列番号9)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(d)(配列番号10)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、(配列番号11)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及び(配列番号12)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(e)(配列番号13)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、(配列番号14)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及び(配列番号15)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
<2>ブタノロウイルス構造タンパク質、好ましくはブタノロウイルスVP1から成るウイルス構造タンパク質に結合する、<1>の抗体。
<3>単一ドメイン抗体又はその多量体である、<1>又は<2>の抗体。
<4>単一ドメイン抗体がVHH抗体である、<3>の抗体。
<5>単一ドメイン抗体の多量体が、前記構造ドメインを複数連結した多量体、好ましくは二量体である<3>の抗体。
<6>単一ドメイン抗体の多量体が、前記構造ドメインの1又は複数と、該構造ドメインとは抗原特異性の異なる構造ドメインの1又は複数を連結した多量体である<3>の抗体。
【0035】
<7>構造ドメインが、第1フレームワーク領域(FR1)、CDR1、第2フレームワーク領域(FR2)、CDR2、第3フレームワーク領域(FR3)、CDR3及び第4フレームワーク領域(FR4)をこの順に有するものである、<1>~<6>のいずれかの抗体。
<8>FR1~FR4が以下のアミノ酸配列からなる、<7>の抗体。
FR1:配列番号16、17、18、19又は20で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列
FR2:配列番号21、22、23又は24で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列
FR3:配列番号25、26、27、28又は29で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列
FR4:配列番号30又は31で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列
<9>FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4がこの順で連結され、CDR1が配列番号1で示されるアミノ酸配列、CDR2が配列番号2で示されるアミノ酸配列、CDR3が配列番号3で示されるアミノ酸配列であり、FR1が配列番号16で示されるアミノ酸配列、FR2が配列番号21で示されるアミノ酸配列、FR3が配列番号25で示されるアミノ酸配列、FR4が配列番号30で示されるアミノ酸配列である構造ドメイン(配列番号32)を有する、<7>の抗体。
<10>FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4がこの順で連結され、CDR1が配列番号4で示されるアミノ酸配列、CDR2が配列番号5で示されるアミノ酸配列、CDR3が配列番号6で示されるアミノ酸配列であり、FR1が配列番号17で示されるアミノ酸配列、FR2が配列番号22で示されるアミノ酸配列、FR3が配列番号26で示されるアミノ酸配列、FR4が配列番号31で示されるアミノ酸配列である構造ドメイン(配列番号33)を有する、<7>の抗体。
<11>FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4がこの順で連結され、CDR1が配列番号7で示されるアミノ酸配列、CDR2が配列番号8で示されるアミノ酸配列、CDR3が配列番号9で示されるアミノ酸配列であり、FR1が配列番号18で示されるアミノ酸配列、FR2が配列番号21で示されるアミノ酸配列、FR3が配列番号27で示されるアミノ酸配列、FR4が配列番号30で示されるアミノ酸配列である構造ドメイン(配列番号34)を有する、<7>の抗体。
<12>FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4がこの順で連結され、CDR1が配列番号10で示されるアミノ酸配列、CDR2が配列番号11で示されるアミノ酸配列、CDR3が配列番号12で示されるアミノ酸配列であり、FR1が配列番号19で示されるアミノ酸配列、FR2が配列番号23で示されるアミノ酸配列、FR3が配列番号28で示されるアミノ酸配列、FR4が配列番号30で示されるアミノ酸配列である構造ドメイン(配列番号35)を有する、<7>の抗体。
<13>FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4がこの順で連結され、CDR1が配列番号13で示されるアミノ酸配列、CDR2が配列番号14で示されるアミノ酸配列、CDR3が配列番号15で示されるアミノ酸配列であり、FR1が配列番号20で示されるアミノ酸配列、FR2が配列番号24で示されるアミノ酸配列、FR3が配列番号29で示されるアミノ酸配列、FR4が配列番号30で示されるアミノ酸配列である構造ドメイン(配列番号36)を有する、<7>の抗体。
<14><1>~<13>のいずれかの抗体をコードする核酸。
<15>以下の(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)又は(g)で示されるCDRを含む構造ドメインを1つ以上有する、ノロウイルスに結合する抗体を被験試料に接触させる工程を含む、試料中のブタノロウイルスの検出方法。
(a)(配列番号1)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、(配列番号2)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及び(配列番号3)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(b)(配列番号4)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、(配列番号5)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及び(配列番号6)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(c)(配列番号7)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、(配列番号8)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及び(配列番号9)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(d)(配列番号10)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、(配列番号11)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及び(配列番号12)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(e)(配列番号13)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、(配列番号14)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及び(配列番号15)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
<16><1>~<15>のいずれかの抗体を含有するブタノロウイルス検出キット。
<17><1>~<15>のいずれかの抗体を含有するブタノロウイルス感染症の予防又は治療薬。
【実施例0036】
(実施例1)ノロウイルスのウイルス様中空粒子の作製
1-1.使用細胞株、培地及びプライマー
本検討で用いた菌株、細胞株を表1に示す。DH5α及びDH10bacの培養には、LB培地(ポリペプトン 10g/L、酵母エキス 5g/L、NaCl 10g/L、pH7~7.4、和光純薬)を用いた。寒天培地の場合は、15g/Lのアガロース(和光純薬)を含む。培養は37℃で行い、必要に応じて振とうした(200rpm)。また、形質転換時には必要に応じて、抗生物質等を添加した。
Sf9の培養には、Sf-900III SFM(Thermo Fisher Scientific社製)を用いた。使用にあたっては、培地1L当たり10000 U/mL Pencillin-streptomycin(Thermo Fisher Scientific社製)を10mL添加した(以下、Sf900培地と表記)。H5の培養には、Express Five SFM(Thermo Fisher Scientific社製)を用いた。使用にあたっては、培地1L当たり10000U/mL Pencillin-streptomycin(Thermo Fisher Scientific社製)を10 mL、200 mM L-Glutamine(Thermo Fisher Scientific社製)を100mL添加した(以下、H5培地と表記)。Sf9、H5ともに、培養温度は27℃で行った。細胞の継代培養は、Tフラスコ(ベクトンディッキンソン社製)を用いた静置培養系で行った。バキュロウイルスの増幅やVLP生産は、三角フラスコを用いた浮遊培養系で行った。
【0037】
【0038】
1-2.遺伝子の人工合成
公共の遺伝子データベースであるNoroNet(https://www.rivm.nl/en/noronet)または、NCBI(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/)より、ノロウイルスカプシドタンパク質をコードするORF2およびORF3の配列を入手した。入手したウイルス遺伝子型の株名、Accession No.等の一覧を表2に示す。配列を入手できた遺伝子型については、ORF2/ORF3配列の5‘側にORF2上流の4塩基(GI型;GTAA、GII型;GTGA)、3’側にそれぞれの遺伝子型の3‘-非翻訳領域(UTR、表3)を付加し、目的の遺伝子コンストラクトを設計した。設計した目的コンストラクトは、人工遺伝子合成によって取得した。GII.2とGII.3についてはGenscript社に合成を依頼し、目的のコンストラクトが挿入されたpUC57ベクターを得た。それ以外の遺伝子型についてはFASMAC社に合成を依頼し、目的のコンストラクトが挿入されたpUCFaベクターを得た。GI.1、GII.2、GII.3、GII.4以外のコンストラクトについては、タンパク質発現用細胞であるH5のコドン頻度に対応するように配列の最適化を行った。
【0039】
【0040】
【0041】
1-3.NoV遺伝子のpDEST8ベクターへの挿入
人工合成したコンストラクトを含むプラスミドベクターを鋳型に、表4のプライマーを用いてPCRにより各NoV遺伝子断片を増幅した。また、pDEST8ベクター(Thermo Fisher Scientific社製)を鋳型に、インバースPCR用プライマー(配列番号87、配列番号88)を用いて直鎖状のpDEST8ベクターを得た。PCR酵素にはKOD Plus Neo(TOYOBO社製)を用いた。それぞれのNoV遺伝子断片は、In-Fusion(登録商標) HD Cloning Kit(タカラバイオ社製)を用いてpDEST8ベクターに挿入した。表5のようにNoV遺伝子断片と直鎖状pDEST8ベクターと反応試薬を混合し、50℃で15分インキュベートさせ、In-Fusion反応液を得た。
【0042】
【0043】
【0044】
1-4.DH5αの形質転換
氷上で融解したDH5αのコンピテントセル100μLにInfusion反応液を2.5μL添加し、穏やかに混合した。氷上で5分静置後、42℃で45秒間インキュベートし、氷上で2分静置した。LB培地を1mL添加し、適当に希釈した溶液をアンピシリン100μg/mL含むLB寒天培地にプレーティングした。37℃で一晩培養後、生えてきたコロニーをピックアップし、アンピシリン100μg/mLを含むLB培地で一晩培養した。QIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN社製)を用いて培養液からプラスミドを抽出し、目的コンストラクトが挿入されたpDEST8ベクターを得た。
【0045】
1-5.組み換えBacmid(rBacmid)の構築
氷上でDH10Bacのコンピテントセルを融解し、コンピテントセル50μLにpDEST8ベクター溶液を1μL(終濃度100ng)添加した。1-4と同様にヒートショックによりpDEST8ベクターを導入した。ヒートショック後の菌体にSOC培地を900μL添加し、37℃、200rpmで4時間回復培養を行った。適当に希釈した菌液を、50μg/mLカナマイシン、7μg/mLゲンタマイシン、10μg/mLテトラサイクリン、40μg/mL IPTG、100μg/mL X-galを含むLB寒天培地にプレーティングした。37℃で静置培養し、50μg/mLカナマイシン、7 μg/mLゲンタマイシン、10μg/mLテトラサイクリンを含むLB寒天培地に白色のコロニーをピックアップした。目的配列が含まれた形質転換体は、PCRにより選択した。目的の形質転換体を50μg/mLカナマイシン、7μg/mLゲンタマイシン、10μg/mLテトラサイクリンを含むLB培地で培養後、QIAprep Spin Miniprep Kitを用いて培養液からrBacmidを抽出した。
【0046】
1-6.昆虫細胞へのrBacmidの導入
目的コンストラクトを持つ組み換えバキュロウイルス(rBV)を得るため、トランスフェクションによりrBacmidをSf9細胞に導入した。6ウェルプレート(ベクトンディッキンソン社製)に、8.5x106 cells/ウェルとなるようにSf9を播種しプレート底面に定着させた。細胞が定着する間に、以下の手順でトランスフェクション試薬を調製した。8μLのCellfectin Reagent(Thermo Fisher Scientific社製)と100μLのGrace’s insect medium, Unsupplemented(Thermo Fisher Scientific社製)を混合した。この溶液に、Grace’s insect medium, Unsupplementedで25μg/mLとなるように調製したrBacmid溶液を100μL加え、ピペッティングで穏やかに混合したのち、室温で15分インキュベートした。顕微鏡で細胞が定着したことを確認し、培地を除去した。プレーティング培地(1.5mL Grace’s insect medium Supplemented with 10% FBS、8.5 mL Grace’s insect medium Unsupplemented(Thermo Fisher Scientific社製)を2.5mL/ウェルずつ添加した。調製したトランスフェクション試薬を全量ウェルに添加し、27℃で3~5時間インキュベートした。上清を除去し、Sf900培地を2mL添加した。培養液の蒸発を防ぐためラップで包み、アルミホイルで遮光して、27℃で1週間静置培養した。回収した培養液を8000rpm、10min、4℃で遠心し、上清をP0 rBVシードとした。
【0047】
1-7.rBVシードの増幅
250mL容三角フラスコ(Nalgene社製)に4x105 cells/mLに調製したSf9細胞液を30mL添加した。そこに、P0 rBVシード溶液を1mL添加し、27℃、125rpmで1週間、旋回条件にて振とう培養した。培養液を8000rpm、10min、4℃で遠心し、回収した上清をP1 rBVシードとした。rBVシードの感染力価はプラークアッセイによって測定した。取得したrBVシードは、1mLずつ分注し、-80℃で凍結保存した。rBVシードの感染力価が不十分な場合は、必要に応じて同様の手順でさらに増幅を行った。
【0048】
1-8.プラークアッセイ-1
6ウェルプレートに、2.4x106cells/ウェルとなるようにSf9を播種した。室温で静置し細胞を定着させた後、上清を除去し、新しいSf900培地を900μL添加した。Sf900培地で10倍ずつ希釈したrBVシード溶液を、各ウェルに100μLずつ添加した。アルミホイルで遮光し、15分ごとに穏やかに攪拌しながら27℃で1時間インキュベートした。上清を除去し、表6のように調製したOverlay1培地を3mLずつ各ウェルに添加した。固化するまで室温で静置したのち、プレートをラップとアルミホイルで包み、プレートを上下反転させて27℃で4日間静置培養した。
【0049】
【0050】
1-9.プラークアッセイ-2
表7のように試薬を混合し、Overlay2培地を調製した。Overlay2培地培地を各ウェルに2mLずつ重層し、室温で静置して固化させた。プレートをラップとアルミホイルで包み、プレートを上下反転させて27℃で2日間静置培養した。プラークを目視で確認できるようになったら、プレートの底から白色光を当てて、適当な希釈倍率のウェルのプラークをカウントした。2ウェルのプラーク数の平均値に希釈倍率をかけ、さらに10倍を掛けた値をrBVシードの感染力価(pfu/mL)とした。
【0051】
【0052】
1-10.VLPの生産
VLP生産は、250mL容三角フラスコを用いた浮遊培養系で行った。終濃度が1x106cells/mLになるようにH5培地で調製したH5細胞液とrBVシードを250mL容三角フラスコに添加し、40mLの培養液量でVLP生産を行った。rBVシードは、MOI(Multiplicity of Infection)が0.01以上となるように培養液に加えた。フラスコをアルミホイルで遮光し、27℃、125rpmの条件で1週間振とう培養した。培養開始から二日後にプロテアーゼインヒビター(Roche社製)を添加した。プロテアーゼインヒビターは、H5培地1mLに対して1錠を溶解し、培地10mLあたり100μL添加した。
【0053】
1-11.VLPの精製
培養液全量を8000rpm、10min、4℃で遠心し、大まかに細胞を取り除いた。さらに、11000rpm、1h、4℃で遠心し、上清を新しい遠心管に回収した。この上清を遠心チューブ(ベックマンコールター社製)に移し、Optima XPN-100(ベックマンコールター社製)とSW32-Tiローターを用いて32000rpm、2h、4℃の条件で超遠心を行い、VLPを含むタンパク質を沈殿させた。上清を捨て、新しいH5培地を1mL添加して4℃で数時間静置し、ペレットを膨潤させた。膨潤したペレットを沈殿物がなくなるまでピペッティングでよく懸濁した。チューブあたり1.8gのCsCl(富士フィルム和光純薬社製)を量り取り、2mLのH5培地に溶解させ、ペレットの懸濁液と混合した。混合液を遠心チューブ(ベックマンコールター社製)に入れ、SW55-Tiローターを用いて、40,000rpm、20h、4℃の条件で超遠心を行った。遠心後、チューブ上方から白色光を当て、VLP由来のバンド部分のみをピペットマンで回収した。回収した溶液は、ペレットダウン用遠心チューブに移した。1xPBS(Thermo Fisher Scientific社製)でメスアップをして、32000rpm、2h、4℃の条件で超遠心を行い、VLPを沈殿させた。上清を捨て、新しいH5培地を添加して4℃で一晩静置し、ペレットを膨潤させた。膨潤したペレットをピペッティングでよく懸濁し、精製VLP溶液を得た。
【0054】
1-12.VLPの定量
ブラッドフォード法により、VLP濃度を定量した。0.5mg/mLから0.067 mg/mLまで2倍希釈したBSAを標準物質とした。800μLのイオン交換水に200μLの染色液(バイオラッド社製)を添加し、適当に希釈したサンプルを20μL加えてよく混合した。室温で5分静置し、分光光度計で600nmの吸光度を測定した。
【0055】
1-13.VLPのSDS-PAGE解析
VLPの取得は、SDS-PAGEによるVP1タンパク質の検出により確認した。1 μgが泳動されるように調製したサンプル6.5μLと2.5μLの4xLDS sample buffer(Thermo Fisher Scientifc社製)、1μLの10xSample Reducing Agent(Thermo Fisher Scientifc社製)を混合し、100℃で5分間熱処理した。NuPAGE 10% Bis-Tris Protein Gels(Thermo Fisher Scientifc社製)を用いて、定圧200V、40minの条件で泳動を行った。泳動後、GelCode Blue Safe Protein Stain(Thermo Fisher Scientifc社製)でゲルを染色した。水道水で脱色後、スキャナー(EPSON社製、GT-9300UF)でゲル画像を取り込んだ(
図1)。その結果、目的となるノロウイルスVP1タンパク質の合成が確認された。
【0056】
(実施例2)cDNAディスプレイ法によるVHHの選抜
2-1.VHH提示cDNAディスプレイ調整用のcDNA作製
完全長アルパカ由来抗体の可変領域断片(single Variable domain of the Heavy chain of a Heavy-chain antibody:VHH)コード化DNAライブラリの作製
RePHAGEN社より提供されている2種類のアルパカ由来ナイーブVHHライブラリ遺伝子であるSヒンジ及びLヒンジを鋳型として、SヒンジVHH特異的プライマーペア(配列番号126、127)及びLヒンジVHH特異的プライマーペア(配列番号126、128)にてPCRで増幅した後、T7プロモーター、オメガ(ω)エンハンサー、コザックコンセンサス配列、VHH遺伝子、Hisタグ、およびリンカーハイブリダイゼーション領域(Yタグ)からなるDNA断片へと調整するため、オーバーラップPCR用プライマー(配列番号129、130)を用いて伸長PCRを行って伸長させ、全長VHHコード化DNAライブラリを作製した。
【0057】
2-2.cDNAディスプレイの作製
それぞれのcDNAディスプレイを以下の2-3~2-7の手順に従い、調製した。使用するバッファーは表8に記載した。
【0058】
【0059】
2-3.転写
2-1で作製した全長VHHコード化DNAライブラリを、T7 RiboMAX Express Large Scale RNA Production System(Promega社製)を使用し、添付されたマニュアルに従って転写した。使用したDNA量は6.6μgとした。その後のセレクション毎のDNA量は、2ndラウンド以降は0.1~1μgとした。得られた転写産物は、RNAClean XP(Beckman Coulter社製)を使用し、添付されたマニュアルに従って精製した。精製産物はNanoPad DS-11FX(DeNovix社製)により濃度定量した。
【0060】
2-4.ライゲーション
精製した20pmol mRNA及び20pmol ピューロマイシン・リンカーであるcnvK riboG リンカー(Epsilon Molecular Engineering社製)に、NaCl(終濃度0.2M)及びTris-HCl(pH7.5、終濃度 0.05M)を加え、90 ℃で1分間インキュベートした。その後、0.1℃/秒の速度で70℃まで降温させ、70℃で1分間インキュベートした。次いで、0.1℃/秒の速度で25℃まで降温させ、2℃/秒の速度で10℃まで降温させ、cnvKリンカーをmRNAの3’末端側にハイブリダイズさせた。その後、UVP CrossLinker(CL―3000)、365nm,100―115V (Analytik Jena社製)を使用して、365nmのUVを4060mJ/cm2照射し、cnvKリンカーとmRNAを光架橋させ、mRNA-リンカー複合体を得た。
【0061】
2-5.mRNAディスプレイの調製
6pmolのmRNA-リンカー複合体を、50μLスケールの無細胞翻訳系(Rabbit reticulocyte Lysate(nuclease-treated)、Promega社製)を用いて、30℃で30分間インキュベートした。次いで、MgCL2及びKCLをそれぞれ最終濃度75mM、900mMとなるように加えて37℃で1時間インキュベートし、mRNA-リンカー上のピューロマイシンにmRNAに対応するペプチドをディスプレイした。次いで、EDTA(pH8.0)を最終濃度70mM になるように加えて、4℃で5分間インキュベートし、mRNAディスプレイを調製した。
【0062】
2-6.cDNAディスプレイの調製
Protein Lobind Tubeに、Dynabeads Myone streptavidin C1(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を60μL入れ、200μLの結合バッファーで洗浄した後、上記2-5の方法で調製したmRNAディスプレイを加え、25℃で30分間撹拌した。200μLの結合バッファーで洗浄し後、表7に示す組成の反応液中にて42℃,30分間インキュベートすることで逆転写反応を行い、mRNA/cDNA―VHH連結体を調製した。200μLの結合バッファーで洗浄後、39μLのHisタグ結合/洗浄バッファーと、1μLの1,000U/μLのRNase T1とを加え37℃15分撹拌することによってmRNA/cDNA―VHH連結体(以下、cDNAディスプレイと呼ぶ)をDynabeads Myone streptavidin C1(ベリタス社製)から溶出した。
【0063】
【0064】
2-7.cDNAディスプレイの精製
エッペンドルフチューブにHis Mag Sepharose Ni Beads (GE Health Care社製)を30μL入れ、200μLのHisタグ結合/洗浄バッファーで洗浄した後、2-1から2-6の方法で調製したcDNAディスプレイを加え、25℃で30分間撹拌した。200μLのHisタグ結合/洗浄バッファーで洗浄後、30μLのHisタグ溶出バッファーを加え37℃で15分撹拌することによってcDNAディスプレイを溶出した。
【0065】
2-8.試験管内淘汰実験
2-7で取得したライブラリから調製したcDNAディスプレイを用いて、セレクションを行った。各セレクションラウンドで使用したcDNAディスプレイの合成スケールを表10に示す。
【0066】
【0067】
2-9.セレクションサイクル1(R1)のスクリーニング手順
F96 Cert.Maxisorp Nunc-Immuno Plate(Thermo Fisher Scientific社製)の各ウェルにPBSを用いて調整した100μLの10μg/mL GII.11型VLP、GII.18型VLP、又はGII.19型VLPを添加し、シーリング後、4℃で一晩静置した。ウェルに吸着しなかったノロウイルスVLP分散液を取り除いた後200μLのPBST(0.05%(v/v)Tween20含有PBS)を添加し、すぐに取り除いた。この洗浄操作は3回行った。200μLの5%スキムミルク溶液(PBST溶媒)を添加し、室温で1時間インキュベートした後、ピペットを用いて丁寧に5%スキムミルク溶液を取り除いた。200μLのHBST(20mM HEPES、500mM NaCl、0.05% Tween20、pH7.2)を添加し、すぐに取り除いた。この洗浄操作は3回行った。VLPを固相化した各ウェルに対して、HBSTを用いて調整したVHH提示cDNAディスプレイライブラリを100μLずつ添加し、室温で1時間インキュベートした後、ピペットを用いて丁寧に未反応のVHH提示cDNAディスプレイライブラリを取り除いた。
200μLのHBSTを添加し、室温で5分間静置した後、取り除いた。この洗浄操作は6回行った。洗浄後の各ウェルに対して、Nuclease free waterで調整した100mM Tris(hydroxymethyl)aminomethane(pH11)を100μLずつ添加し、丁寧にピペッティングした後、37℃で10分間静置することにより固相化したVLPに対して結合したVHH提示cDNAディスプレイを溶出させた。溶出液はcnvK NewYtag for poly A(配列番号131)とT7 omeganew(配列番号132)をプライマーとして用いて、PCRに供した。反応液は1サンプルあたり25μLのKAPA HiFi HotStart Ready Mix(2X)(Kapa biosystems社製)、1.5μLの10μM cnvK NewYtag for poly Aプライマー、1.5μLの10μM T7 omeganewプライマー、12.5μLのVHH提示cDNAディスプレイ、9.5μLのNuclease free waterを混合し調整した。PCRは95℃で2分間の後、98℃で20秒間、68℃で15秒間、72℃で20秒間を22サイクル、そして72℃で5分間の条件で行った。PCR産物の精製はAgencourt AMPure XP(Beckman Coulter社製)を用いた。得られた精製済みDNAライブラリ(以下、R1ライブラリと呼ぶ)をR2セレクションに供した。
【0068】
2-10.セレクションサイクル2(R2)のスクリーニング手順
R1ライブラリから上記と同様の方法によりcDNAディスプレイライブラリを表3の合成スケールで調製した。F96 Cert.Maxisorp Nunc-Immuno Plate(Thermo Fisher Scientific社製)の各ウェルにPBSを用いて調整した100μLの1μg/mL GII.11型VLP、GII.18型VLP、又はGII.19型VLPを添加し、シーリング後、4℃で一晩静置した。ウェルに吸着しなかったノロウイルスVLP分散液を取り除いた後200μLのPBSTを添加し、すぐに取り除いた。この洗浄操作は3回行った。200μLの5%スキムミルク溶液(PBST溶媒)を添加し、室温で1時間インキュベートした後、ピペットを用いて丁寧に5%スキムミルク溶液を取り除いた。200μLのHBSTを添加し、すぐに取り除いた。この洗浄操作は3回行った。VLPを固相化した各ウェルに対して、HBSTを用いて調整したVHH提示cDNAディスプレイライブラリを100μLずつ添加し、室温で1時間インキュベートした後、ピペットを用いて丁寧に未反応のVHH提示cDNAディスプレイライブラリを取り除いた。
200μLのHBSTを添加し、室温で5分間静置した後、取り除いた。この洗浄操作は6回行った。洗浄後の各ウェルに対して、Nuclease free waterで調整した100mM Tris(hydroxymethyl)aminomethane(pH 11)を100μLずつ添加し、丁寧にピペッティングした後、37℃で10分間静置することにより固相化したVLPに対して結合したVHH提示cDNAディスプレイを溶出させた。溶出液はcnvK NewYtag for poly A(配列番号131)とT7 omeganew(配列番号132)をプライマーとして用いて、PCRに供した。反応液は1サンプルあたり25μLのKAPA HiFi HotStart Ready Mix(2X)(Kapa biosystems社製)、1.5μLの10μM cnvK NewYtag for poly Aプライマー、1.5μLの10μM T7 omeganewプライマー、12.5μLのVHH提示cDNAディスプレイ、9.5μLのNuclease free waterを混合し調整した。PCRは95℃で2分間の後、98℃で20秒間、68℃で15秒間、72℃で20秒間を24サイクル、そして72℃で5分間の条件で行った。PCR産物の精製はAgencourt AMPure XP(Beckman Coulter社製)を用いた。得られた精製済みDNAライブラリ(以下、R2ライブラリ)をR3セレクションに供した。
【0069】
2-11.セレクションサイクル(R3、R4)のスクリーニング手順
R2ライブラリから上記と同様の方法によりcDNAディスプレイライブラリを表3の合成スケールで調製した。以降、2-10の方法に従いR4までのスクリーニングを実施した。得られた精製済みDNAライブラリ(以下、R4ライブラリ)をR5セレクションに供した。
【0070】
2-12.セレクションサイクル5(R5)のスクリーニング手順
R4ライブラリから上記と同様の方法によりcDNAディスプレイライブラリを表3の合成スケールで調製した。F96 Cert.Maxisorp Nunc-Immuno(商標)Plate(Thermo Fisher Scientific社製)の各ウェルにPBSを用いて調整した100μLの0.1μg/mL GII.11型VLP又はGII.19型VLPを添加し、シーリング後、4℃で一晩静置した。ウェルに吸着しなかったノロウイルスVLP分散液を取り除いた後200μLのPBSTを添加し、すぐに取り除いた。この洗浄操作は3回行った。200μLの5%スキムミルク溶液(PBST溶媒)を添加し、室温で1時間インキュベートした後、ピペットを用いて丁寧に5%スキムミルク溶液を取り除いた。200μLのHBSTを添加し、すぐに取り除いた。この洗浄操作は3回行った。VLPを固相化した各ウェルに対して、HBSTを用いて調整したVHH提示cDNAディスプレイライブラリを100μLずつ添加し、室温で1時間インキュベートした後、ピペットを用いて丁寧に未反応のVHH提示cDNAディスプレイライブラリを取り除いた。
200μLのHBSTを添加し、室温で5分間静置した後、取り除いた。この洗浄操作は6回行った。洗浄後の各ウェルに対して、Nuclease free waterで調整した100mM Tris(hydroxymethyl)aminomethane(pH 11)を100μLずつ添加し、丁寧にピペッティングした後、37℃で10分間静置することにより固相化したVLPに対して結合したVHH提示cDNAディスプレイを溶出させた。溶出液はcnvK NewYtag for poly A(配列番号131)とT7 omeganew(配列番号132)をプライマーとして用いて、PCRに供した。反応液は1サンプルあたり25μLのKAPA HiFi HotStart Ready Mix(2X)(Kapa biosystems社製)、1.5μLの10μM cnvK NewYtag for poly Aプライマー、1.5μLの10μM T7 omeganewプライマー、12.5μLのVHH提示cDNAディスプレイ、9.5μLのNuclease free waterを混合し調整した。PCRは95℃で2分間の後、98℃で20秒間、68℃で15秒間、72℃で20秒間を24サイクル、そして72℃で5分間の条件で行った。PCR産物の精製はAgencourt AMPure XP(Beckman Coulter社製)を用いた。これにより、R5ライブラリを得た。
【0071】
2-13.次世代シーケンサー解析
R4ライブラリ又はR5ライブラリの収束度を詳細に確かめるために、次世代シーケンサーを利用したシーケンス解析を行った。シーケンスサンプルの調製は、イルミナ社が提供している2-step PCR Amplicon Library Preparationの方法を参考に実施した。最初に、各セレクション後のPCR産物を鋳型として、NGS Fw 1st PCR primer(配列番号133)、NGS Rv 1st PCR primer(配列番号134)をプライマーとして用いて、Amplicon PCRを行った。PCR条件は、98℃で1分間の後、98℃で10秒間、62℃で5秒間、72℃で35秒を15サイクル、そして72℃で1分間の条件で行った。得られたPCR産物をAgencourt AMPure XP(Beckman Coulter社製)の説明書に従って精製した後、イルミナ社の説明書に従いIndex PCRを行った。得られたPCR産物をAgencourt AMPure XPの説明書に従って精製した後、NanoPad DS-11FX(DeNovix社製)により濃度定量し、イルミナ社の説明書に従いMiSeq(イルミナ社製)及びMiSeq Reagent Nano kit v2(500サイクル)を用いて配列解析を実施した。
【0072】
2-14.シーケンスデータ解析
MiSeq Controllerを用いてDemultiplexingされた配列データを解析に供した。シーケンスデータからVHHがコードされている塩基配列領域を抜き出し、アミノ酸配列に翻訳した。その後、各アミノ酸配列と完全に一致したアミノ酸配列数を計測した。その結果、NoVHH200(配列番号32)、NoVHH201(配列番号33)、NoVHH53(配列番号35)、NoVHH54(配列番号36)の出現頻度が高く、抗原との親和性が高い抗体として選抜された。
【0073】
NoVHH200(配列番号32)のアミノ酸配列において、1~26番目がFR1(配列番号16)、27~36番目がCDR1(配列番号1)、37~50番目がFR2(配列番号21)、51~60番目がCDR2(配列番号2)、61~99番目がFR3(配列番号25)、100~116番目がCDR3(配列番号3)、117~127番目がFR4(配列番号30)である。
【0074】
NoVHH201(配列番号33)のアミノ酸配列において、1~26番目がFR1(配列番号17)、27~36番目がCDR1(配列番号4)、37~50番目がFR2(配列番号22)、51~59番目がCDR2(配列番号5)、60~98番目がFR3(配列番号26)、99~114番目がCDR3(配列番号6)、115~125番目がFR4(配列番号31)である。
【0075】
NoVHH53(配列番号35)のアミノ酸配列において、1~26番目がFR1(配列番号19)、27~36番目がCDR1(配列番号10)、37~50番目がFR2(配列番号23)、51~60番目がCDR2(配列番号11)、61~99番目がFR3(配列番号28)、100~104番目がCDR3(配列番号12)、105~115番目がFR4(配列番号30)である。
【0076】
NoVHH54(配列番号36)のアミノ酸配列において、1~26番目がFR1(配列番号20)、27~36番目がCDR1(配列番号13)、37~50番目がFR2(配列番号24)、51~59番目がCDR2(配列番号14)、60~98番目がFR3(配列番号29)、99~116番目がCDR3(配列番号15)、109~127番目がFR4(配列番号30)である。
【0077】
(実施例3)ファージディスプレイ法によるVHHの選抜
3-1.
2-10において、GII.18型VLPを標的分子とした選抜によって得られたR2ライブラリを鋳型にAlp_VHH_phagemid_F(配列番号135: CGATGGCCGCGGCCCATATGGCCATGGCTSAGKTGCAGCTCGTGGAGTC)、Alp_VHH_phagemid_R(配列番号136:CTAGGATCCTGCGGCCGCTCCGCCGTGATGATGATGATGATGGCTGCC)をプライマーとして用いて、 アニーリング温度55℃、伸長反応60秒の条件でPCRを行いファージミドベクターとのライゲーション用 の制限酵素認識配列を付加し、AMPure XP(ベックマンコールター社製)で精製した。 ファージミド及びDNAライブラリにFastDigest NotI(Thermo Fisher Scientific社製)を加え37℃、1時間反応し、その Fast Digest SfiI(Thermo Fisher Scientific社製)を加え50℃、1時間反応させた。制限酵素処理したファージミドベクター及びDNAライブラリを1×Gel green(富士フイルム和光純薬社製)入りの1%アガロースゲルで100V、30分電気泳動した後に、Fast Gene Gel/PCR Extraction Kit(日本ジェネティクス社製)を使用し、添付されたマニュアルに従って抽出、精製した。精製したファージミドベクターはFastAP Thermosensitive Alkaline Phosphatase(Thermo Fisher Scientific社製)を加えて37℃で60分間反応させ脱リン酸化した後に、75℃で5分間反応させて酵素を失活した。
上記で作製したファージミドベクターに対してDNAライブラリを5倍量から10倍量(モル比) で混合し、Ligation high Ver.2(東洋紡社製)を加え、16°Cで一晩反応させた。得られたファージミドベクターをエタノール沈殿で濃縮後、エレクトロポレーションで大腸菌 TG-1(ファージディスプレイ用コンピテントセル、Lucigen社製)を形質転換し、2YTAG寒天培地プレートで30℃、一晩培養した。コロニーをすべて2YTAG液体培地に回収し、O.D.600が0.5~1になるまで30°Cで培養した。その後、ヘルパーファージを大腸菌の20倍量加えてヘルパーファージを大腸菌に感染させ、2YT/Amp/Kan培地(アンピシリン100mg/mL、カナマイシン50mg/mLを含む)で30℃、一晩培養した。培養された大腸菌を含む培養液を、 4,000×g、30分、4℃で遠心分離し、上清を回収した。 上清に、2.5MのNaC1を含有する20%PEG(ポリエチレングリコール)溶液を添加し、転倒混和後、1時間氷上にて冷却後、遠心分離して上清を除去した。沈殿物に10%グリセロールを含むPBS(Phosphate Buffered Saline)を加え溶解し、ファージライブラリ溶液(以下、F-R0ライブラリと呼ぶ)とした。
【0078】
3-2.ELISAプレートを用いたバイオパニング
GII.18型VLPをPBSで10μg/mLに希釈しGII.18型VLP固定化溶液を調製した。100μLのGII.18型VLP固定化溶液を96ウェルELISAプレート(Immuno Clear Standard Modules_C8_MaxiSorp:catsha-pu445101、Thermo Fisher Scientific社製)の各ウェルに加え、4℃にて一晩固定化した。PBSをネガティブコントロールとして同様の作業を行った。各ウェルはPBSで3回洗浄後、200μLの3%スキムミルク含有PBSを加え、室温、1時間静置することでブロッキングを行った。その後、各ウェルをPBSで3回洗浄した。1mLの3%スキムミルク及び 5%BSA含有PBSに3-1で作製したF-R0ライブラリを50μL混合した後、各ウェルに100μL添加し、室温にて1時間反応させた。
200μLのPBSTで4回洗浄を行ない、さらに200μLのPBSTを加え、5分間振とうして洗浄した。これらの洗浄を2回行った。 洗浄後、100mMトリメチルアミン溶液100μLを各ウェルに加えて回収、さらに100mMトリメチルアミン溶液 100μLを各ウェルに加えて室温で10分間、静置し、GII.18型VLPと結合しているVHH提示ファージを溶出した。溶出液は直ちに100μLの0.5M Tris-HC1バッファー(pH6.8)で中和した。溶出液を1200μLの大腸菌TG-1と混合させ、30°Cに1時間静置した。10μLの混合液を2YTAG寒天培地(10cm ディッシュ)にまいた。混合液の残りを遠心分離し、100μLの沈殿物(大腸菌 TG-1)を2YTAG寒天培地(15cmディッシュ)にまいた。
各寒天培地は30℃で一晩培養した。各寒天培地上に出現したコロニーをすべて、 500mL三角フラスコ中の2YTAG液体培地に回収し、O.D.600が0.5~1になるまで30℃で培養した。その後、ヘルパーファージを大腸菌の20倍量加えてヘルパーファージを大腸菌に感染させ、2YT/Amp/Kan培地で30℃、一晩培養した。 培養された大腸菌を含む培養液を4,000×g、30分、4℃で遠心分離し、上清を回収した。 上清に、2.5MのNaClを含有する 20% PEG(ポリエチレングリコール)溶液を添加し、転倒混和後1時間氷上にて冷却後、遠心分離して上清を除去した。 沈殿物に10%グリセロールを含むPBSを加え溶解し、F-R1ライブラリを作成し、同様の方法で再度バイオパニングを行った(これにより得られたファージライブラリをF-R2ライブラリと呼ぶ)。
【0079】
3-3.ファージELISA
ライブラリ中にGII.18型VLPに結合するVHHが濃縮しているか否かを確かめるために、ファージELISAを行った。GII.18型VLPをPBSで10μg/mLに希釈しGII.18型VLP固定化溶液を調製した。100μLのGII.18型VLP固定化溶液を96ウェルELISAプレートの各ウェルに加え、4℃にて、一晩で固定化した。各ウェルはPBSで3回洗浄後、200μLの3%スキムミルク含有PBSを加え、室温、1時間静置することでブロッキングを行った。 その後、 各ウェルをPBSで3回洗浄した。50μLのF-R0ライブラリ、F-R1ライブラリ又はF-R2ライブラリを50μLの10%BSA含有PBSと混合後、 混合液を各ウェルに添加し、室温で1時間反応させた。その後、各ウェルを200μLのPBSTで5回洗浄した。Anti-M13-mAb-HRP(Sinobiologica社製)をPBSTで3000倍に希釈した溶液を各ウェルに50μL加え、室温で1 時間反応させた。その後、各ウェルを200μLのPBSTで6回洗浄した。洗浄後、OPDタブレット(富士フイルム和光純薬社製)を、10mLの0.1M NaH2PO4水溶液で溶解し、 各ウェルに溶解液を100μLずつ添加し、遮光下で5分 間インキュベートした。インキュベート後、100μLの1M硫酸を添加し、直ちにMicroplate Reader Infinite 200Pro M PLEX(Tecan社製)を用いて各ウェルの吸光度を490nmで測定した。その結果、バイオパンニングによりF-R1ライブラリ及びF-R2ライブラリのGII.18型VLPに対する力価が向上したことが確認された。
【0080】
3-4.モノクローナルファージELISA
F-R2ライブラリ中のGII.18型VLPに結合するVHHのアミノ酸配列を特定するためにモノクローナルでのファージELISAを行った。3-2で得られたF-R2ライブラリを大腸菌TG-1と混合させ、30℃に1時間静置した。混合液を遠心分離し、 沈殿物(大腸菌TG-1)を 2YTAGに溶解後、2YTAG寒天培地(15cm ディッシュ)にまいた。寒天培地上のコロニーをランダムに16個選抜し、3-1と同様の手法で各ファージディスプレイを作製した。ファージELISAは3-3と同様の手法で行った。その結果、12クローンで吸光度0.1以上の明確なレスポンスが得られた(
図4)。レスポンスが得られたクローンについてはファージミドを大腸菌から抽出し、VHHに相当する塩基配列についてユーロフィンジェノミクス社によるDNA配列解析を行った。その結果、
図4の#1、#2、#6、#8、#10、#11、#14及び#15のファージに提示されているVHHは同一のアミノ酸配列からなることが確認され、GII.18型VLPに結合するクローンとして、NoVHH191E(配列番号34)を同定した。
【0081】
NoVHH191E(配列番号34)のアミノ酸配列において、1~26番目がFR1(配列番号18)、27~36番目がCDR1(配列番号7)、37~50番目がFR2(配列番号21)、51~57番目がCDR2(配列番号8)、58~96番目がFR3(配列番号27)、97~110番目がCDR3(配列番号9)、111~121番目がFR4(配列番号30)である。
【0082】
(実施例4)プロテアーゼ欠損組換え枯草菌によるVHHの生産
4-1.遺伝子の人工合成
合成されるVHHのアミノ酸配列には、NoVHH200(配列番号32)、NoVHH201(配列番号33)、NoVHH191E(配列番号34)、NoVHH53(配列番号35)又はNoVHH54(配列番号36)のVHHのアミノ酸配列のC末端側にリンカー配列を介してHisタグを付与した。これにより合成されるVHHをHisタグ付きNoVHH200(配列番号137)、Hisタグ付きNoVHH201(配列番号138)、Hisタグ付きNoVHH191E(配列番号139)、Hisタグ付きNoVHH53(配列番号140)、Hisタグ付きNoVHH54(配列番号141)と呼ぶ。尚、これら配列番号139~143で示されるVHHをHisタグ付きVHHと総称する。これらHisタグ付きVHHを合成するための人工合成遺伝子として、Hisタグ付きNoVHH200用人工合成遺伝子(配列番号142)、Hisタグ付きNoVHH201用人工合成遺伝子(配列番号143)、Hisタグ付きNoVHH191E用人工合成遺伝子(配列番号144)、Hisタグ付きNoVHH53用人工合成遺伝子(配列番号145)、Hisタグ付きNoVHH54用人工合成遺伝子(配列番号146)をThermo Fisher Scientific社の遺伝子合成受託サービスを利用して合成し、実験に供した。
【0083】
4-2.Hisタグ付きVHH発現用プラスミドの構築
pHY300PLKをベースとして作製された組換え プラスミドpHY-S237(特開2014-158430)をテンプレートとし、5’-GATCCCCGGGAATTCCTGTTATAAAAAAAGG-3’(配列番号147)と5’-ATGATGTTAAGAAAGAAAACAAAGCAG-3’(配列番号148)のプライマーセットとPrimeSTAR Max DNAポリメラーゼ(TaKaRa社製)を用いたPCRによりプラスミド配列を増幅した。168株のゲノムをテンプレートとし、5’-GAATTCCCGGGGATCTAAGAAAAGTGATTCTGGGAGAG-3’(配列番号149)と5’-CTTTCTTAACATCATAGTAGTTCACCACCTTTTCCC-3’(配列番号150)のプライマーセットを用いたPCRによりspoVG遺伝子由来のプロモーターDNAを増幅した。得られたプロモーターDNAを、In-Fusion HD Cloning Kit(Takara社製)を用いてプラスミド配列に組み込み、spoVGプロモーターと連結されたVHH発現用プラスミドを構築した。5’-TGCTGCAAGAGCTGCCGGAAATAAA-3’(配列番号151)及び5’-TCTATTAAACTAGTTATAGGG-3’(配列番号152)のプライマーセットとPrimeSTAR Max DNAポリメラーゼ(TaKaRa社製)を用いたPCRによりプラスミド配列を増幅した。得られたPCR断片に人工合成遺伝子を含むDNAをIn-Fusion HD Cloning Kit(Takara社製)を用いて組み込み、人工合成VHH遺伝子の各々を含むVHH発現用プラスミドを構築した。
【0084】
4-3.組換え枯草菌の作製
Bacillus subtilis 168株(以下、168株という)から、特許第4485341号に記載されている方法に従って、細胞外プロテアーゼ遺伝子(epr、wprA、mpr、nprB、bpr、nprE、vpr、aprE、aprX)の欠損株を作製した。また、特許第4336082に記載されている方法に従い、上記9種の細胞外プロテアーゼ遺伝子を全て欠損している枯草菌株Dpr9から、胞子形成に関与するsigF遺伝子を欠損させた。得られた細胞外プロテアーゼ多重欠損株をDpr9ΔsigFと記載する。
Dpr9ΔsigF株へのプラスミド導入は以下に示すプロトプラスト法によって行った。1mLのLB液体培地にグリセロールストックした枯草菌を植菌し、30℃、210rpmで一晩振とう培養した。翌日、新たな1mLのLB液体培地にこの培養液を10μL植菌し、37℃、210rpmで約2時間振とう培養した。この培養液を1.5mLチューブに回収し、1,2000rpmで5分間遠心し、上清を除去したペレットをLysozyme(シグマアルドリッチ社製)4mg/mLを含むSMMP(0.5Mシュークロース、20mMマレイン酸二ナトリウム、20mM塩化マグネシウム6水塩、35%(w/v)Antibiotic medium 3(Difco))500μLに懸濁し、37℃で1時間インキュベートした。次いで、3,500rpmで10分間遠心し、上清を除去したペレットをSMMP400μLに懸濁した。この懸濁液33μLを各種プラスミドと混合し、さらに40%PEGを100μL添加してボルテックスした。この液にSMMPを350μL加えて転倒混和し、30℃、210rpmで1時間振とうした後、DM3寒天培地プレートに全量塗布し、30℃で2~3日間インキュベートした。
【0085】
4-4.VHH産生
4-3.で作製した組換え枯草菌を1mLの50ppmテトラサイクリンを含むLB培地に植菌し、30℃で一晩往復振とうし、前培養液とした。前培養液をひだ付き三角フラスコに入れた20mLの2×L-mal培地に1%接種し、30℃で72時間振とう培養した。培養終了時に1mLの培養液をマイクロチューブにて4℃、15,000rpm、5分間遠心し、上清を回収した。Hisタグ付きVHHについてはNi-NTAアガロースビーズ(富士フィルム和光純薬社製)を用い、キットのプロトコルに従って精製した。精製後のタンパク質は30mM イミダゾール含有PBSに溶解した。
【0086】
4-5.SDS-PAGEによる確認
4-4で回収したサンプルとLaemmli Sample Buffer(BIO-RAD社製)を等量混和後、99℃で5分間熱処理してサンプルを調製した。ゲルはMini-PROTEIN TGX Stain-Free(BIO-RAD社製)を用いた。各ウェルに5μLのサンプルをアプライし、210Vで25分間泳動した。分子量マーカーにはPrecision Plus protein Unstained standard(BIO-RAD社製)を用いた。ChemiDoc MP Imaging Systemでタンパク質のバンドを検出した。リゾチーム標品(Sigma-Aldrich社製)をもとに作成した検量線によって検出したタンパク質を定量した。その結果、目的とするHisタグ付きVHHが合成されていることが確認された(
図5)。
【0087】
(実施例5)ELISA法による結合特異性の評価
F96 Cert.Maxisorp Nunc-Immuno(商標)Plate(Thermo Fisher Scientific社製)の各ウェルにPBSを用いて調整した100μLの10μg/mL 各ノロウイルスVLPを添加し、シーリング後、4℃で一晩静置した。ウェルに吸着しなかったノロウイルスVLP分散液を取り除いた後200μLのPBST(0.05%(v/v)Tween20含有PBS)を添加し、すぐに取り除いた。この洗浄操作は3回行った。200μLの5%スキムミルク溶液(PBST溶媒)を添加し、室温で1時間インキュベートした後、ピペットを用いて丁寧に5%スキムミルク溶液を取り除いた。200μLのPBSTを添加し、すぐに取り除いた。この洗浄操作は3回行った。VLPを固相化した各ウェルに対して、PBSTを用いて調整した100μLの2μg/mL 各Hisタグ付きVHHを添加し、室温で1時間インキュベートした後、ピペットを用いて丁寧に未反応のVHHを取り除いた。200μLのPBSTを添加し、すぐに取り除いた。この洗浄操作は3回行った。Anti-His-tag mAb-Biotin(Monoclonal、OGHis)(MEDICAL&BIOLOGICAL LABORATORIES社製)を用いた。PBSTにより一次抗体を1/5,000に希釈した。各ウェルに100μLの一次抗体を添加し, 室温で1時間インキュベートした。ピペットを用いて丁寧に一次抗体を取り除いた後、200μLのPBSTを添加し, ピペットを用いて丁寧に取り除いた。この洗浄操作は3回行った。一次抗体の検出にはStreptavidin HRP Conjugate(東京化成工業社製)を用いた。PBSTによりStreptavidin HRP Conjugateを1/5,000に希釈し, 各ウェルに100μLずつ添加した後, 室温で1時間インキュベートした。ピペットを用いて丁寧にStreptavidin HRP Conjugateを取り除いた後, 200μLのPBSTを添加し, ピペットを用いて丁寧に取り除いた。この洗浄操作は3回行った。発色基質はOPDタブレット(Thermo Fisher Scientific社製)をStable Peroxide Substrate Buffer(Thermo Fisher Scientific社製)で溶解し調製した。各ウェルに100μLの発色基質を添加し, 遮光下で30分間インキュベートした後, 直ちにMicroplate Reader Infinite M1000 PRO(TECAN社製)を用いて吸光度450nmを測定した。得られた値をもとに、シグナル/ノイズ(S/N)比 を算出した。
【0088】
各VHHを供したELISAにて得られた最もS/N比の値に対して、10分の1以上のS/N比を示したものを陽性(〇と表記)、10分の1未満のS/N比を示したものを陰性(×と表記)と判断した。各遺伝子型VLPに対するHisタグ付きVHHの結合活性を表9に示す。NoVHH200とNoVHH201はGII.11型VLP、NoVHH191EはGII.18型VLP、NoVHH53はGII.11型VLPとGII.19型VLP、NoVHH54はGII.19型VLPに対して特異的に結合活性を示すことが確認された。即ち、NoVHH200、NoVHH201、NoVHH191E、NoVHH53、NoVHH54を用いることでブタノロウイルスを特異的に検出することが出来ることがわかった。
【0089】
【0090】
(実施例6)抗GII型ノロウイルスポリクローナル抗体の作成
6-1.抗GII型ノロウイルス結合ポリクローナル抗体の作成
GII型ノロウイルスの各遺伝子型VLP(GII.1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、15、17、18、19、21、22)を混合したものを抗原とし、抗GII型ノロウイルス結合ウサギポリクローナル抗体を作製した。抗原をユーロフィンジェノミクス株式会社に送付し、全採血抗血清を得た。抗血清50μLに対し、Melon Gel IgG purification kit(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて夾雑物を除去し、IgG抗体を含む溶液500μLを得た。操作は、キット付属のプロトコルに従って行った。精製後の溶液の抗体濃度は、1-12と同様にBSAを標準物質としたブラッドフォード法により定量した。これにより得られた抗体を抗GII pAbと呼ぶ。
【0091】
6-2.ノロウイルスVLPに対する結合活性の評価
F96 Cert.Maxisorp Nunc-Immuno Plate(Thermo Fisher Scientific社製)の各ウェルにPBSを用いて調整した100μLの25μg/mL各ノロウイルスVLP溶液を添加し、シーリング後、4℃で一晩静置した。ウェル中の溶液を取り除いた後、200μLのBlocking Reagent for ELISA-Chemically Defined-(コスモバイオ社製)を添加し、プレート上面をシールして室温で2時間静置した。ウェル中の溶液を除去した後、250μLのPBST(0.05%(v/v)Tween20含有PBS)を添加し、すぐに取り除いた。この洗浄操作は3回行った。Blocking Reagent for ELISA-Chemically Defined-を用いて2μg/mLとなるように調製した抗GII pAbを100μLウェルに添加し、室温で50分間インキュベートした。ウェル中の溶液を除去した後、250μLのPBSTを添加し、すぐに取り除いた。この洗浄操作は4回行った。Blocking Reagent for ELISA-Chemically Defined-を用いて1/1000に希釈した2次抗体(Anti-rabbit IgG, HRP-linked Antibody、Cell Signaling Technology社製)を100μLウェルに添加し、室温で50分間インキュベートした。ウェル中の溶液を除去した後、250μLのPBSTを添加し、すぐに取り除いた。この洗浄操作は4回行った。発色基質には、TMB ELISA Substrate Highest Sensitivity(Abcam社製)を用いた。各ウェルに100μLの発色基質を添加し、遮光下で25分間インキュベートした。0.5M硫酸(富士フイルム和光純薬社製)を100μL添加し、反応を停止させた。マイクロプレートリーダー(SpectraMax190、モレキュラーデバイス社製)を用いて、450nmの吸光度を測定した(
図6)。その結果、抗GII pAbは、GIIノロウイルスVLPに対して幅広く結合活性を示すことが確認された。
【0092】
(実施例7)ラテラルフローイムノアッセイによるノロウイルスVLPの検出
7-1.標識抗体の色素粒子への感作
色素粒子として着色セルロース粒子NanoAct(化学結合型、旭化成社製)を用いた。添付のプロトコルに沿って、検出抗体の感作を行った。15mL遠沈管に60μLのNanoActを分注し、そこに100mM MES(pH6)を540μL、4wt%のEDC(N-エチル-N’-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド)を7.5μL、4wt%のNHSを15μL加え、室温で15分静置してカルボキシル基のエステル化を行った。13,000×gで20分間遠心して上清を除去し、100mM MES(pH6)を600μL加えて超音波処理した。検出抗体として60μgのHisタグ付きNoVHH53又はHisタグ付きNoVHH54を加えたのちボルテックスし、37℃で120分間インキュベートした。次に、blocking buffer(1wt% Casein,100mM Boric Acid,pH8.5) を7.2mL加えたのちボルテックスし、37℃で60分間インキュベートした。13,000×gで20分間遠心して上清を除去し、100mM MES(pH6)を600μL加えて超音波処理した。再度13,000×gで15分間遠心して上清を除去し、保存液(33mM Boric Acid,0.2wt% Casein,15wt% Sucrose,pH9.2)を1.3mL加えて超音波処理し、使用時まで4℃で保存した(以下、感作済み粒子と呼ぶ。)。
【0093】
7-2.ハーフストリップの組み立て
ニトロセルロースメンブレンには、5mm×40mmに裁断したFF120HP Plus又はFF80 HP Plus(Cytiva社製)をとして用いた。5mm×20mmに裁断したCM5(Cytiva社製)を吸水パッドとして用いた。ニトロセルロースメンブレンと吸水パッドが10mm重なり合うように張り合わせ、バッキングシート(GL-57888,Lohmann社製)で接着させることで、ハーフストリップを組み立てた。
【0094】
7-3.捕捉抗体のニトロセルロースメンブレン膜への固定化
捕捉抗体として、Hisタグ付きNoVHH53又はHisタグ付きNoVHH54を用いた。ビオチン化試薬としてEZ-LinkTM NHS-LC-LC-Biotin(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて、Hisタグ付きVHHにビオチンを付与した。PBSを用いて1mg/mLのHisタグ付きVHHを調整した。VHH溶液に対して、VHHの20倍の分子数となるように10mMのビオチン化試薬を添加後、4℃で一晩静置した。その後、ZebaTM Spin Desalting Column、7K MWCO、0.5mL(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて、PBSに置換することで未反応のビオチン化試薬を除去した。PBSを用いて1mg/mLになるように調製したビオチン化VHHと20mg/mLになるように調製したストレプトアビジン(SA)(富士フイルム和光純薬社製)を混合(ビオチン化VHH(μL):SA(μL)=25:1)した後、室温で5分静置した。これにより、VHH-SA複合体を形成させた。6-2で組み立てたストリップの下端から2cmの箇所に、VHH-SA複合体をピペットで1μLスポットした。比較対象として1mg/mLに調製した抗GII pAbを用いた。その後、37℃30分間乾燥することで固定化を行った。以下では、捕捉抗体を固定化した部位をテストスポットと表記する。
【0095】
7-4.ディップスティック型のラテラルフローアッセイによる評価
展開液にはホウ酸バッファー(100mM ホウ酸、1%カゼイン、150mM NaCl、pH8.2)を用いた。展開液を用いて、0.5~5000ng/mL GII.19型VLP分散液を調整した(以下、陽性検体と呼ぶ)。GII.19型VLPを含まない条件には、展開液となるホウ酸バッファーを用いた(以下、陰性検体と呼ぶ)。96穴プレートの1ウェルに、100μLの陽性検体又は陰性検体と20μLの6-1で調製した感作済み粒子を添加し、ピペッティングでよく混合した。その後、6-3で調製したハーフストリップをウェルに立てかけることで浸漬させ、展開液が流れ切るまで静置した。その後、テストスポットにおける呈色の有無を目視により判断した。呈色の有無の判断基準は
図7に示す通りである。ラテラルフローアッセイの結果を表9に示す。その結果、NoVHH53とNoVHH54を用いたラテラルフローアッセイにより、GII.19型VLPを高感度に検出できることがわかった。この結果は、当該抗体がラテラルフローアッセイに適用可能であることを示している。
【0096】