(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143795
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】情報処理方法
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/04 20120101AFI20241003BHJP
G05B 23/02 20060101ALI20241003BHJP
G06Q 99/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
G06Q50/04
G05B23/02 P
G06Q99/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056682
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】槻尾 大輔
(72)【発明者】
【氏名】小川 彰
(72)【発明者】
【氏名】山口 貴史
【テーマコード(参考)】
3C223
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
3C223AA05
3C223BA01
3C223BB17
3C223EB01
3C223FF22
3C223FF26
5L049CC03
5L049DD02
5L050CC03
5L050DD02
(57)【要約】
【課題】ポリマーを含む組成物の製造に関し、ポリマーの製造条件および組成物の製造条件を決定する。
【解決手段】ポリマーの製造、および該ポリマーを含む組成物の製造に関し、情報処理装置(1)が実行する情報処理方法であって、(i)ポリマーの製造条件、ならびに、組成物の製造条件の候補を取得するステップ(S10、S11)と、(ii)予測モデルを用いて、上記候補を使用して、ポリマーを含む組成物を製造する場合の該組成物の製造結果を予測するステップ(S12)と、(iii)予測された製造結果に基づいて、上記候補の良否を評価する判定ステップ(S14)とを含み、予測モデルは、(a)過去に、ポリマーを製造したときの製造条件と、該ポリマーを使用して製造した組成物の製造結果とを含む学習用データを用いて構築され、かつ(b)製造条件と組成物の製造結果との関係を示す。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーの製造、および該ポリマーを含む組成物の製造に関し、情報処理装置が実行する情報処理方法であって、
(i)上記ポリマーの製造条件の候補のポリマー配合条件およびポリマープロセス設定値、ならびに、上記組成物の製造条件の候補の組成物配合条件および組成物プロセス設定値を取得するステップと、
(ii)予測モデルを用いて、上記ポリマーの製造条件の候補および上記組成物の製造条件の候補を使用して、上記ポリマーを含む組成物を製造する場合の該組成物の製造結果を予測するステップと、
(iii)上記予測された製造結果に基づいて、上記ポリマーの製造条件の候補および上記組成物の製造条件の候補の良否を評価するステップと、を含み
上記予測モデルは、(a)過去に、上記ポリマーを製造したときのポリマー配合条件およびポリマープロセス設定値、ならびに過去に、該ポリマーを含む組成物を製造したときの組成物配合条件および組成物プロセス設定値と、該ポリマーを使用して製造した上記組成物の製造結果とを含む学習用データを用いて構築され、かつ(b)上記ポリマー配合条件、上記ポリマープロセス設定値、上記組成物配合条件、および上記組成物プロセス設定値と、上記組成物の製造結果との関係を示す、情報処理方法。
【請求項2】
上記(i)のステップにおいて、ポリマーの製造条件の候補の、ポリマープロセス測定値をさらに取得し、
上記予測モデルはさらに、(c)上記学習用データが、過去に、上記ポリマーを製造したときの製造中に測定されたポリマープロセス測定値を含み、かつ、(d)上記ポリマー配合条件、上記ポリマープロセス設定値、上記ポリマープロセス測定値、上記組成物配合条件、および上記組成物プロセス設定値と、上記組成物の製造結果との関係を示す、請求項1に記載の情報処理方法。
【請求項3】
上記ポリマープロセス測定値が、ポリマー製造時の水分量の経時変化、熱収支の経時変化、粘度の経時変化から選択される1種類以上である、請求項2に記載の情報処理方法。
【請求項4】
上記(i)のステップにおいて、組成物の製造条件の候補の、組成物プロセス測定値をさらに取得し、
上記予測モデルはさらに、(e)上記学習用データが、過去に、上記組成物を製造したときの、製造中に測定された組成物プロセス測定値を含み、かつ、(f)上記ポリマー配合条件、上記ポリマープロセス設定値、上記ポリマープロセス測定値、上記組成物配合条件、上記組成物プロセス設定値、および上記組成物プロセス測定値と、上記組成物の製造結果との関係を示す、請求項2または3に記載の情報処理方法。
【請求項5】
上記組成物プロセス測定値が、組成物配合時のミキサー内の水分量の経時変化、組成物配合時のミキサー内の熱収支の経時変化、組成物配合時のミキサー内の粘度の経時変化から選択される1種類以上である、請求項4に記載の情報処理方法。
【請求項6】
上記情報処理方法において、上記組成物の製造結果には上記組成物の貯蔵安定性が含まれる、請求項1に記載の情報処理方法。
【請求項7】
(iv)上記(ii)のステップの処理を前記ポリマーの製造条件と前記組成物の製造条件の候補を変えながら繰り返し実行し、上記(iii)のステップにおける評価が所定の基準を満たした上記ポリマーの製造条件の候補と上記組成物の製造条件の候補を、ポリマーの製造条件、および組成物の製造条件として決定するステップ、をさらに含む、請求項1に記載の情報処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は化学製品等の製造管理に係る情報処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学プラント等の各種製品の製造現場においては、実際に製品を製造して、その品質や生産量等を確認するという作業を、製造条件を変えつつ繰り返し行うことにより最適な製造条件を見出している。これは、使用原料品質や前工程における処理結果等がばらつく、外乱が生じる、設備の劣化が進行する等の要因により、常に同じ製造状況下で生産することができないためである。
【0003】
特許文献1には、製造条件と、該製造条件により得られた製品の製造結果のデータを使用した予測モデルから、製品の製造条件の候補を生成する装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ポリマーは可塑剤、充填剤等の成分と配合して組成物とすることにより、シーリング材、接着剤、塗料等として使用できる。上述した特許文献1に記載の技術は優れたものであるが、ポリマーの製造時の条件と、ポリマーを含む組成物の配合時に得られる条件とを使用して、得られる組成物の物性を予測する技術については開示されていない。
【0006】
本発明の一態様は、ポリマーを含む組成物の製造に関し、上記ポリマーの製造条件および上記組成物の製造条件を決定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る情報処理方法は、ポリマーの製造、および該ポリマーを含む組成物の製造に関し、情報処理装置が実行する情報処理方法であって、(i)上記ポリマーの製造条件の候補のポリマー配合条件およびポリマープロセス設定値、ならびに、上記組成物の製造条件の候補の組成物配合条件、および組成物プロセス設定値を取得するステップと、(ii)予測モデルを用いて、上記ポリマーの製造条件の候補および上記組成物の製造条件の候補を使用して、上記ポリマーを含む組成物を製造する場合の該組成物の製造結果を予測するステップと、(iii)上記予測された製造結果に基づいて、上記ポリマーの製造条件の候補および上記組成物の製造条件の候補の良否を評価する判定ステップと、を含み、上記予測モデルは、(a)過去に、上記ポリマーを製造したときのポリマー配合条件およびポリマープロセス設定値、ならびに過去に、該ポリマーを含む組成物を製造したときの組成物配合条件、および組成物プロセス設定値と、該ポリマーを使用して製造した上記組成物の製造結果とを含む学習用データを用いて構築され、かつ(b)上記ポリマー配合条件、上記ポリマープロセス設定値、上記組成物配合条件、および上記組成物プロセス設定値と、上記組成物の製造結果との関係を示す。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、ポリマーを含む組成物の製造に関し、上記ポリマーの製造条件および上記組成物の製造条件を決定できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】上記情報処理装置を含む製造システムの概要を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る情報処理装置の要部構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る、組成物の製造プロセス、および各プロセスで取得可能な学習用データを示したフローチャートである。
【
図4】製造条件を決定する情報処理方法の一例を示すフローチャートである。
【
図5】本発明の一実施形態に係る、各説明変数の組み合わせパターンを示した図である。
【
図6】予測モデルの構築方法の一例を示すフローチャートである。
【
図7】条件候補の評価値の算出方法の例を示す図である。
【
図8】上記製造システムによる組成物の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔製造システムの概要〕
本発明の一実施形態に係る情報処理方法が適用される、製造システムの概要を
図1に基づいて説明する。
図1は、製造システム100の概要を示す図である。製造システム100は、ポリマーを含む組成物を製造する製造システムである。本明細書において、「ポリマーを含む組成物」を単に「組成物」とも記載する。製造システム100には、好ましくは、情報処理装置1によって実現されるサイバー工場と、実際にポリマーおよび組成物を製造する実工場2が含まれる。実工場2には、ポリマー製造設備と、組成物の製造設備3と、製造設備3の動作を制御する制御装置4が設けられている。ポリマー製造設備と組成物の製造設備3は同じ実工場2に設けられていてもよいし、異なる実工場2に設けられていてもよい。ポリマー製造設備と組成物の製造設備3が異なる実工場2に設けられている場合、情報処理装置1はそれぞれの実工場2に対して最適な製造情報を提示すればよい。
【0011】
製造システム100では、実工場2におけるポリマーの製造条件、組成物の製造条件、および製造結果を示すデータ等が製造情報として蓄積される。情報処理装置1は、いわゆるコンピュータ(計算装置)であり、蓄積された製造情報を用いて実工場2をモデル化し、サイバー工場を構築する。なお、本明細書中、ポリマーの製造条件、組成物の製造条件を合わせて単に「製造条件」と記載する場合がある。
【0012】
詳細は後述するが、サイバー工場は、(a)過去に製造システム100で上記組成物を製造したときの製造条件と、該製造条件による上記組成物の製造結果とを示すデータを用いて構築され、かつ、(b)上記製品の製造条件と該製造条件で製造された上記組成物の製造結果との関係を示す予測モデルによって構成されている。
【0013】
そして、情報処理装置1は、様々な製造条件での製品製造のシミュレーションを行って、最適な製造条件を提示し、実工場2ではこの製造条件にて組成物の製造が行われる。上記シミュレーションにおいて、情報処理装置1は、(i)上記ポリマーの製造条件の候補のポリマー配合条件およびポリマープロセス設定値、ならびに、上記組成物の製造条件の候補の組成物配合条件および組成物プロセス設定値を取得する処理と、(ii)予測モデルを用いて、上記ポリマーの製造条件の候補および上記組成物の製造条件の候補を使用して、上記ポリマーを含む組成物を製造する場合の該組成物の製造結果を予測する処理と、(iii)上記予測された製造結果に基づいて、上記ポリマーの製造条件の候補および上記組成物の製造条件の候補の良否を評価する処理と、を実行する。
【0014】
情報処理装置1は、(iv)上記(ii)のステップの処理を、上記ポリマーの製造条件と組成物の製造条件の候補を変えながら繰り返し実行し、上記(iii)のステップにおける評価が所定の基準を満たした上記候補の製造条件を、上記製品の製造条件として決定するステップをさらに含んでもよい。
【0015】
上記の構成によれば、実際にポリマー、および該ポリマーを含む組成物を製造することなく、所定の基準を満たす製造結果が得られる可能性が高い上記ポリマーの製造条件および上記組成物の製造条件を決定することができる。よって、適切ではない製造条件での製造を繰り返すことなく、適切な製造条件を速やかに見出して、組成物の生産性を高めることができる。また、製造システム100によれば、製造作業員の能力に依存することなく適切な製造条件を決定して、高い生産性を安定して実現することも可能になる。加えて、上記構成は、多様な製造データからの製造プロセスの状態や将来の挙動の予測、あるいは製造される組成物の品質等の予測にも利用することが可能である。
【0016】
〔情報処理装置の構成〕
本発明の一実施形態に係る上記情報処理方法を実行する、情報処理装置1の概要を
図2に基づいて説明する。
図2は、情報処理装置1の要部構成の一例を示すブロック図である。情報処理装置1は、情報処理装置1の各部を統括して制御する制御部10、情報処理装置1が使用する各種データを記憶する記憶部20、情報処理装置1に対する入力操作を受け付ける入力部30、および情報処理装置1がデータを出力する際に用いる出力部40を備えている。出力部40の出力態様は特に限定されず、例えば表示出力であってもよいし、印字出力であってもよいし、音声出力であってもよい。また、制御部10には、条件候補生成部101、予測部102、評価部104、および学習部105が含まれている。記憶部20には、ポリマー製造条件データ201、組成物製造条件データ202、および製造結果データ203が記憶されている。
【0017】
なお、記憶部20と入力部30と出力部40は、情報処理装置1に外付けされた装置であってもよい。また、制御部10に含まれるブロックの一部について、その機能を情報処理装置1と通信可能な他の装置に持たせて、制御部10から当該ブロックを省略してもよい。例えば、学習部105の機能を他の装置に持たせてもよい。この場合、情報処理装置1は、当該他の装置が生成した予測モデルを取得して予測を行えばよい。
【0018】
条件候補生成部101は、ポリマーの製造条件と、組成物の製造条件をそれぞれ生成する。これらの製造条件についての詳細は後述する。条件候補生成部101は、評価部104が決定したポリマーの製造条件および組成物の製造条件と、該製造条件が決定されたときの状況を示す情報とを教師データ(正解データ)として機械学習を行うことにより、製造条件候補を生成するための学習済みモデルを構築してもよい。これにより、妥当性の高い製造条件候補を生成することが可能になる。なお、製造条件が決定されたときの状況を示す情報としては、例えば製造に使用した製造設備3および外気温等が挙げられる。
【0019】
また、条件候補に基づいて製造結果の予測が行われた後は、条件候補生成部101は、当該予測結果に基づいて新たなポリマーの製造条件および組成物の製造条件の候補を生成してもよい。これにより、効率的に最適な製造条件を決定することが可能になる。例えば、条件候補生成部101は、ヒューリスティック手法やメタヒューリスティック手法を適用して条件候補を生成してもよい。
【0020】
メタヒューリスティック手法の一例として、PSO(Particle Swarm Optimization:粒子群最適化)が挙げられる。PSOを用いる場合、条件候補生成部101は、これまでに生成した各条件候補をその条件候補を構成する各項目の値(例えば製造温度や圧力等)を要素とするベクトルで表す。そして、条件候補生成部101は、生成済みの条件候補の中で最も評価が高かった条件候補を特定し、ベクトル空間上において、生成済みの他の条件候補を、最も評価が高かった条件候補に近付くように更新して、新たな条件候補とする。
【0021】
予測部102は、予測モデルを用いて、条件候補が示す製造条件で組成物を製造する場合の製造結果を予測する。詳細は後述するが、この予測モデルは、学習部105が生成したものである。
【0022】
評価部104は、予測部102が予測した製造結果に基づいて条件候補の良否を評価する。評価の方法は特に限定されず、例えば、評価部104は、予測部102が出力する製造結果の数値を所定の評価関数に入力することにより算出した評価値を評価結果としてもよい。例えば、上記の数値が組成物の貯蔵安定性等が高いほど好ましい数値である場合、上記評価関数は、入力された数値が大きいほど評価値が大きくなるような関数とすればよい。なお、評価方法の例については、
図7に基づいて後述する。
【0023】
学習部105は、ポリマーを製造したときのポリマー配合条件およびポリマープロセス設定値、ならびに過去に、該ポリマーを含む組成物を製造したときの組成物配合条件および組成物プロセス設定値と、該ポリマーを使用して製造した上記組成物の製造結果とを含む学習用データを用いて予測モデルを構築する。この予測モデルは、上記ポリマー配合条件、上記ポリマープロセス設定値、上記組成物配合条件、および上記組成物プロセス設定値と、上記組成物の製造結果との関係を示す。
【0024】
好ましくは、上記学習用データが、過去に、上記ポリマーを製造したときの製造中に測定されたポリマープロセス測定値を含み、上記ポリマー配合条件、上記ポリマープロセス設定値、上記ポリマープロセス測定値、上記組成物配合条件、および上記組成物プロセス設定値と、上記組成物の製造結果との関係を示す。好ましくは、上記学習用データが、過去に、上記組成物を製造したときの、製造中に測定された組成物プロセス測定値を含み、上記ポリマー配合条件、上記ポリマープロセス設定値、上記ポリマープロセス測定値、上記組成物配合条件、上記組成物プロセス設定値、および上記組成物プロセス測定値と、上記組成物の製造結果との関係を示す。
【0025】
予測モデルにおける説明変数はポリマー製造条件、および組成物製造条件を示す数値となる。例えば、ポリマーの製造工程における原料の添加条件、温度、水分量、粘度等を示す数値、ならびに組成物の製造工程における成分の配合条件、温度、水分量、粘度等が説明変数となる。説明変数は、ポリマー配合条件、ポリマープロセス設定値、組成物配合条件、および組成物プロセス設定値について、少なくとも1つずつあればよい。ポリマープロセス予測モデルにおける目的変数は、組成物の製造結果を示す数値となる。例えば、組成物の基材への接着特性、粘度、皮張り時間を示す数値が目的変数となる。目的変数は、少なくとも1つあればよい。このような説明変数と目的変数との関係をモデル化する方法としては、例えば統計モデルを用いる方法が挙げられる。また、予測モデルは、線形モデルであってもよいし、非線形モデルであってもよい。具体例を挙げれば、最小二乗法、主成分回帰、ニューラルネットワーク、k-NN法(k-nearest neighbor algorithm)、あるいはSVR(Support Vector Regression)等により予測モデルを構築することができる。
【0026】
回帰分析によって予測モデルを構築する場合、学習部105は、例えばPLS(Partial Least Squares:部分的最小二乗法)回帰分析を用いてもよい。PLS回帰分析は、統計解析手法の一つであり、多重共線性(説明変数間に強い相関関係)があるデータに対しても安定した予測が可能である。製造システム100において説明変数として利用可能なパラメータのうち、例えば温度と圧力等には多重共線性があるため、製造システム100のシミュレーションに用いる予測モデルの構築にPLS回帰分析は好適である。また、PLS回帰分析のような統計解析手法で構築した予測モデルは、その構築結果を人が理解しやすいため、予測結果の変動要因の解析等にも利用可能である。
【0027】
ポリマー製造条件データ201、および組成物製造条件データ202は、過去に製造システム100で組成物を製造したときの製造条件を示すデータである。また、製造結果データ203は、過去に製造システム100で組成物を製造したときの製造結果を示すデータである。製造結果とその製造結果が得られた製造条件とは相互に対応付けられている。上述のように、学習部105は、これらのデータを用いて予測モデルを構築する。なお、これらのデータは、ユーザが入力したものであってもよいし、センサ等の測定機器から入力されたものであってもよい。
【0028】
〔製造プロセスの例〕
本実施形態では、実工場2においてポリマーを含む組成物を製造する例を説明する。ポリマーを含む組成物の製造プロセスは、例えば
図3のようなものであってもよい。
図3は、組成物の製造プロセスの一例を示す図である。
【0029】
図3の製造プロセスは、ポリマーを得るポリマー製造工程と、組成物を得る組成物製造工程に分けることができる。ポリマー製造工程では、ポリマー原料であるモノマーを重合させた後、必要に応じて官能基変換等を経て、ポリマーを得る。一方、組成物製造工程においては、ポリマーに対して、フィラー、脱水剤等の組成物の原料を加えた後、必要に応じて加熱および攪拌することにより、ポリマーを含む組成物が得られる。ポリマー製造工程、および組成物製造工程において、それぞれ製造されるポリマー、および組成物の物性の経時的なデータをセンサにより測定してもよい。
【0030】
情報処理装置1は、例えば上記製造プロセスをモデル化して予測モデルを生成してもよい。これにより、情報処理装置1は、組成物の製造のシミュレーションを行い、組成物の最適な製造条件を決定することが可能になる。なお、情報処理装置1は、任意の組成物の製造プロセスの任意の工程をモデル化することが可能であり、モデル化の対象は
図3の例に限られない。
【0031】
〔情報処理方法の概要〕
本発明の一実施形態に係る情報処理方法の概要を
図4に基づいて説明する。
図4は、情報処理装置1による情報処理方法の概要を示すフローチャートである。
【0032】
S10、S11では、条件候補生成部101がそれぞれポリマーの製造条件の候補、および組成物の製造条件の候補を別々に生成する。ここで、ポリマーの製造条件の候補には、少なくともポリマー配合条件、およびポリマープロセス設定値が含まれる。また、組成物の製造条件の候補には、少なくとも組成物配合条件、および組成物プロセス設定値が含まれる。
【0033】
S10において、ポリマーの製造条件の候補は、好ましくはポリマープロセス測定値をさらに含む。また、S11において、組成物製造条件の候補は、好ましくは組成物プロセス測定値をさらに含む。なお、ポリマープロセス測定値、および組成物プロセス測定値は経時的に測定されるデータである。そのため、候補として生成されるデータは製造開始からの経過時間における、各パラメータの数値範囲を示すデータであってもよい。
【0034】
続いて、予測部102が、学習部105が事前に構築した予測モデルにS10、S11で生成された条件候補を入力することにより、当該条件候補の条件で組成物を製造した場合の製造結果を予測する。予測部102は、予測モデルが出力した予測値に、直近数回分の予測偏差平均を加えてもよい。これにより、短期的な予測のズレを吸収することができる。
【0035】
S13では、評価部104が、S12で予測された製造結果を評価して評価値を算出する。
【0036】
S14では、評価部104は、S13で算出した評価値が予め定められた基準値以上であるか判定する。基準値以上であると判定された場合(S14でYES)、処理はS15に進む。一方、基準値未満であると判定された場合(S14でNO)、処理はS17に進む。なお、評価部104は、基準値未満であると判定された場合であっても、所定の上限判定回数に達していれば、S14でYESと判定してもよい。
【0037】
S17では、条件候補生成部101が新たな条件候補を生成し、S17の後、処理はS12に進む。新たな条件候補は、1つであってもよいし、複数であってもよい。S17では、条件候補生成部101は、S13で算出された評価値に基づいて新たな条件候補を生成することが好ましい。
【0038】
S15では、評価部104は、S13で算出した評価値が基準値以上であると判定した条件候補の製造条件を、製品の製造条件として決定する。なお、評価値が基準値以上であると判定した条件候補が複数ある場合、評価部104は、それらの条件候補から1つの条件候補(例えば最も評価値が高かった条件候補)を選択して、製品の製造条件として決定してもよい。そして、S16では、評価部104は、決定した製造条件を出力部40に出力させ、これにより
図4の処理は終了する。
【0039】
以上のように、上記情報処理方法は、ポリマーの製造、および該ポリマーを含む組成物の製造に関し、情報処理装置が実行する情報処理方法であって、(i)上記ポリマーの製造条件の候補のポリマー配合条件およびポリマープロセス設定値、ならびに、上記組成物の製造条件の候補の組成物配合条件および組成物プロセス設定値を取得するステップ(S10)、(S11)と、(ii)予測モデルを用いて、上記ポリマーの製造条件の候補および上記組成物の製造条件の候補を使用して、上記ポリマーを含む組成物を製造する場合の該組成物の製造結果を予測するステップ(S12)と、(iii)上記予測された製造結果に基づいて、上記ポリマーの製造条件の候補および上記組成物の製造条件の候補の良否を評価するステップ(S14)と、を含む。そして、上記情報処理方法は、上記(ii)のステップの処理を製造条件の候補を変えながら繰り返し実行し、上記(iii)のステップにおける評価が所定の基準を満たした条件候補の製造条件を、上記組成物の製造条件として決定するステップ(S15)をさらに含む。よって、上記情報処理方法によれば、ポリマーおよび組成物を製造することなく適切な製造条件を決定することができる。
【0040】
〔説明変数と目的変数の例〕
予測モデルにおける説明変数、すなわち予測に用いる製造条件には、ポリマーの製造条件および組成物の製造条件が含まれる。上記製造条件には、例えば、製造システム100に含まれる製造設備3に関する情報等がさらに含まれていてもよい。
【0041】
ポリマーの製造条件には、ポリマー配合条件およびポリマープロセス設定値が含まれる。好ましくは、ポリマーの製造条件にはポリマープロセス測定値が含まれる。ポリマーの製造条件がポリマープロセス測定値を含むことにより、より正確に組成物の製造結果を予測することが可能になる。
【0042】
上記ポリマー配合条件としては、例えばモノマーの種類、モノマーの量、モノマーの末端基の種類、モノマー当たりの官能基数、モノマーの重合方法等があげられる。上記ポリマープロセス設定値としては、例えばポリマー製造時の、温度、水分量、粘度、pH、外観(ポリマー製造時の色)、熱収支、原料の添加速度等が挙げられる。上記ポリマープロセス測定値としては、製造時にセンサ等により測定された上記ポリマープロセス設定値の経時的なデータが挙げられる。好ましくは、上記ポリマープロセス測定値は、ポリマー製造時の水分量の経時変化、熱収支の経時変化、粘度の経時変化を含む。
【0043】
組成物の製造条件には、組成物配合条件および組成物プロセス設定値が含まれる。好ましくは、組成物の製造条件には、組成物プロセス測定値が含まれる。組成物の製造条件が組成物プロセス測定値を含むことにより、より正確に組成物の製造結果を予測することが可能となる。
【0044】
上記組成物配合条件としては、硬化触媒、シリコン化合物、接着性付与剤、可塑剤、溶剤、充填剤、タレ防止剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、物性調整剤、粘着付与樹脂、表面性改良剤、その他の樹脂等の配合量、ポリマーの末端基の種類、ポリマー当たりの官能基数、ポリマーの官能化率、または各成分の配合比が挙げられる。上記組成物プロセス設定値としては、ミキサーの攪拌速度、攪拌翼の形状、攪拌時間、温度、粘度、水分量、材料の総容量等が挙げられる。上記組成物プロセス測定値としては、製造時にセンサ等により測定された上記組成物プロセス設定値の経時的なデータが挙げられる。好ましくは、組成物プロセス測定値に、組成物配合時のミキサー内の水分量の経時変化、組成物配合時のミキサー内の熱収支の経時変化、組成物配合時のミキサー内の粘度の経時変化から選択される1種類以上が含まれる。
【0045】
上記説明変数の組み合わせについて、
図5に基づいて説明する。
図5より、説明変数はポリマー製造条件と、組成物製造条件との組み合わせを含む。また、ポリマー製造条件において、ポリマープロセス測定値は任意選択であり、組成物製造条件において、組成物プロセス測定値は任意選択である。すなわち、本発明の一実施形態に係る情報処理方法において、ポリマー製造条件と組成物製造条件との組み合わせは、少なくとも
図5に示される4種類が存在している。
【0046】
製造設備3に関する上記情報としては、例えば、製造設備3に含まれる機器や器具の種類、数量、または劣化度を示す情報等が挙げられる。劣化度を示す情報としては、例えば、摩耗量などの物理的な劣化の程度を示す情報の他、使用回数や使用期間を示す情報や、配管汚れ(ファウリング)の程度を示す情報等が挙げられる。このように、予測モデルの構築において、製造設備3に関する情報を製造条件に含めることにより、使用する製造設備3に応じた最適な製造条件を決定することが可能になる。
【0047】
一方、予測モデルにおける目的変数、すなわち該予測モデルによって予測される製造結果は、組成物の良否の評価指標となるものであればよい。例えば組成物の、粘度、皮張り時間、引張応力、引張強さ、破断伸び、残留タック、引裂き強度、せん断強度、各種基板への接着特性(アルミニウム、ステンレス、ガラス、モルタルなど)、耐候性、チキソ性、貯蔵安定性の少なくとも何れかを予測モデルにおける目的変数としてもよい。
【0048】
上記目的変数には、貯蔵安定性が含まれることが好ましい。上記貯蔵安定性は、例えば50℃で14日間貯蔵後の粘度変化率、外観変化率(分離の有無)、力学物性の変化率等、硬化性の変化率を変数として含み得る。目的変数が貯蔵安定性を含むことにより、従来技術では考慮されていなかった、長期間に渡る組成物の物性についても予測することができる。
【0049】
目的変数として上記のような情報を用いて予測モデルを構築した場合、評価部104は、条件候補の評価において、予測された製造結果が示す上記組成物の基板(アルミニウム、ステンレス、ガラス、モルタルなど)への接着特性、予測された製造結果が示す上記組成物の粘度、予測された製造結果が示す上記組成物の皮張り時間、予測された製造結果が示す上記組成物の引張応力、予測された製造結果が示す上記組成物の引張強さ、予測された製造結果が示す上記組成物の破断伸び、予測された製造結果が示す上記組成物の残留タック、予測された製造結果が示す上記組成物の引裂き強度、予測された製造結果が示す上記組成物の引裂き強度、予測された製造結果が示す上記組成物のせん断強度、予測された製造結果が示す上記組成物の耐候性、予測された製造結果が示す上記組成物のチキソ性、および予測された製造結果が示す上記組成物の貯蔵安定性、の少なくとも何れかに応じて当該候補を評価することになる。これにより、所望の製造結果が得られ得る製造条件を決定することが可能になる。例えば、貯蔵安定性を目的変数として構築された予測モデルを用いることにより、所望の貯蔵安定性で組成物を製造し得る製造条件を決定することができる。
【0050】
〔予測モデルの構築〕
学習部105による予測モデルの構築方法を
図6に基づいて説明する。
図6は、予測モデルの構築方法の一例を示すフローチャートである。
【0051】
S1では、学習部105は、記憶部20に記憶されているポリマー製造条件データ201、組成物製造条件データ202、および製造結果データ203を読み込み、これらのデータに対して所定の前処理を行う。読み込データは、予測モデル構築の直近の所定期間に取得されたデータとすることが好ましい(Moving Window方式)。これにより、実工場2等の経年変化に追従した予測モデルを構築することができる。前処理は、データの特徴点を失わせないようなものであればよい。例えば、学習部105は、データに含まれるノイズを除去する処理等を前処理として行ってもよい。
【0052】
S2では、学習部105は、S1で前処理済みのデータを用いて予測モデルを構築する。そして、S3では、学習部105は、S2で構築した予測モデルを記憶し、これにより
図6の処理は終了する。学習部105が記憶した予測モデルは、予測部102による予測に用いられるため、予測モデルは予測部102が読み出し可能な場所に記憶すればよい。例えば、学習部105は、記憶部20に予測モデルを記憶してもよい。
【0053】
〔条件候補の評価〕
評価部104は、条件候補の評価値を算出し、その評価値に基づいて条件候補を評価してもよい。この場合、評価部104は、例えば
図7に示す方法で評価値を決定してもよい。
図7は、条件候補の評価値の算出方法の例を示す図である。
図7には、貯蔵安定性として50℃14日間貯蔵後の粘度変化率を用いた例を示す。
【0054】
図7の例では、粘度と貯蔵安定性(50℃14日間貯蔵後の粘度変化率)という2つの指標に基づいて条件候補の評価値を決定している。貯蔵安定性は、組成物製造結果の一例であり、その値は予測モデルに入力される。組成物においては、貯蔵安定性が高い方が好ましい。このため、貯蔵安定性に基づく評価では、その値が大きいほど評価を高くする。
【0055】
一方、粘度は、組成物の製造直後の結果の一例であり、その値は予測モデルによって予測される。例えば、粘度は製品規格値を超えない範囲において、その値が大きいほど好ましい場合がある。このような場合、評価部104は、粘度に基づく評価では、その値が大きいほど評価を高くするが、製品規格値を超えると評価を低くする。このように、組成物の粘度に応じて条件候補を評価することにより、所望の粘度の組成物を製造し得るポリマーの製造条件、および組成物の製造条件を決定することができる。
【0056】
図7の例のように、評価部104は、予測モデルで予測された製造結果の少なくとも一部(上記の例では粘度)と、条件候補が示す製造条件の少なくとも一部(上記の例では貯蔵安定性)と、に基づいて当該条件候補を評価してもよい。これにより、製造条件の少なくとも一部についても加味して、所望の製造結果が得られるポリマーの製造条件、および組成物の製造条件を決定することが可能になる。なお、複数の指標から1つの評価値を決定する方法は特に限定されない。例えば、評価部104は、各指標についてそれぞれ評価値を算出し、それらの評価値を線形結合して1つの評価値を決定してもよい。
【0057】
また、評価部104は、予測モデルで予測された製造結果の一部の評価結果と、該製造結果の他の一部の評価結果と、に基づいて条件候補を評価してもよい。例えば、予測モデルによって、組成物の貯蔵安定性と、組成物の残留タックが予測された場合、評価部104は、貯蔵安定性に基づく評価値(貯蔵安定性が高いほど値が大きい)と、残留タックに基づく評価値(残留タックが低いほど値が大きい)とを算出してもよい。そして、これらの評価値に基づいて1つの評価値を決定してもよい。これにより、製造結果に対する複数の評価結果を加味して製造条件を決定することが可能になるので、多様な条件を充足し得る製造条件を決定することが可能になる。
【0058】
〔製品の製造方法〕
図8は、製造システム100による組成物の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【0059】
S21では、情報処理装置1が
図4に示した処理により、所定の基準を満たす評価の製造条件を決定する。そして、情報処理装置1の評価部104は、決定した製造条件を制御装置4(
図2参照)に通知する。この通知は有線または無線通信で行えばよい。
【0060】
S22では、制御装置4が、製造設備3を制御して、通知された上記製造条件でのポリマーおよび組成物の製造を開始させる。なお、制御装置4は、製品製造に関する制御の全てを行う必要はない。例えば、通知された上記製造条件の一部の適用を、実工場2の作業員等が行ってもよい。
【0061】
S23では、学習部105が、S21で決定された製造条件で製造された組成物の製造結果を特定し、当該製造条件と製造結果を用いて予測モデルを更新する。なお、製造結果を示す情報を自動または手動で情報処理装置1に入力する構成としておけば、学習部105は、製造結果を特定することができる。予測モデルの更新において、例えば、学習部105は、上記の製造条件と製造結果を、ポリマー製造条件データ201、組成物製造条件データ202、および製造結果データ203からそれぞれ読み出した製造条件と製造結果に追加してもよい。そして、それらの製造条件と製造結果を用いて予測モデルを再構築してもよい。
【0062】
S24では、情報処理装置1の条件候補生成部101が、製造条件を再決定する必要があるか否かを判定する。再決定の必要ありと判定された場合(S24でYES)にはS25の処理に進み、再決定は不要と判定された場合(S24でNO)にはS26の処理に進む。S24において再決定される製造条件は、ポリマー製造条件であってもよいし、組成物製造条件であってもよいし、ポリマー製造条件および組成物製造条件の両方であってもよい。
【0063】
例えば、条件候補生成部101は、ポリマー配合条件、ポリマープロセス設定値、ポリマープロセス測定値、組成物の配合条件、組成物プロセス設定値、組成物プロセス測定値の少なくとも1つが変化したときは、製造条件を再決定する必要があると判定してもよい。この場合、条件候補生成部101は、例えば、製造設備3に供給されるポリマーの原料モノマーが別の原料モノマー、に切り替わったときに、製造条件を再決定する必要があると判定してもよい。また、予測モデルに入力する製造条件に製造設備3の周囲の温度が含まれている場合、条件候補生成部101は、製造設備3の周囲の温度が所定値以上変化したときに製造条件を再決定する必要があると判定してもよい。この他にも、例えば、条件候補生成部101は、最後に製造条件を決定した後、所定期間が経過している場合、最後に製造条件を決定した後、所定回数の製造が行われている場合、または予測モデルの更新後等に、製造条件の再決定要と判定してもよい。
【0064】
S25では、情報処理装置1により製造条件が再決定される。具体的には、
図4のS11~S15と同様の処理により、好適な製造条件が新たに決定され、制御装置4は新たに決定された製造条件での製造を開始する。この後処理はS23に戻る。なお、製造条件の再決定においては、条件候補生成部101は、再決定の原因に関する製造条件を固定値として条件候補を生成する。例えば、製造設備3の周囲の温度が所定値以上変化したことに起因して再決定を行う場合、条件候補生成部101は、条件候補における「製造設備3の周囲の温度」を現在の温度に固定して条件候補を生成する。
【0065】
一方、S26では、製造条件の再決定は行われず、従って、制御装置4は、同じ製造条件での製造を継続する。この後処理はS23に戻る。なお、製造結果の特定と、予測モデルの更新を行うタイミングは、上記の例に限られない。例えば、学習部105は、組成物の製造が行われた後、製造結果を特定し、製造方法と共に、ポリマー製造条件データ201、組成物製造条件データ202および製造結果データ203として記憶しておいてもよい。そして、学習部105は、例えばポリマー製造条件データ201、組成物製造条件データ202および製造結果データ203に追加したデータ数が所定数に達したタイミング等に予測モデルを更新してもよい。
【0066】
以上のように、上記の製造方法によれば、S21の処理すなわち
図4等に基づいて説明した情報処理方法によって決定された製造条件で上記組成物を製造する。これにより、効率よく所望の品質の組成物を製造することが可能になる。なお、上記の製造方法によって製造された組成物も、本発明の範疇に含まれる。
【0067】
また、
図8の例では、製造条件を再決定する必要が生じたときに、製造条件を再決定しているので、好適な製造条件による製造を継続的に行うことが可能になる。さらに、学習部105は、評価部104が決定した製造条件と、該製造条件で組成物を製造した製造結果とに基づいて予測モデルを更新するので、予測精度を維持または向上させることが可能になる。
【0068】
〔ソフトウェアによる実現例〕
情報処理装置1の制御ブロック(特に制御部10に含まれる各部)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0069】
後者の場合、情報処理装置1は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば1つ以上のプロセッサを備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などをさらに備えていてもよい。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0070】
〔その他〕
本発明の一態様は、以下の構成を包含する。
<1>ポリマーの製造、および該ポリマーを含む組成物の製造に関し、情報処理装置が実行する情報処理方法であって、(i)上記ポリマーの製造条件の候補のポリマー配合条件およびポリマープロセス設定値、ならびに、上記組成物の製造条件の候補の組成物配合条件および組成物プロセス設定値を取得するステップと、(ii)予測モデルを用いて、上記ポリマーの製造条件の候補および上記組成物の製造条件の候補を使用して、上記ポリマーを含む組成物を製造する場合の該組成物の製造結果を予測するステップと、(iii)上記予測された製造結果に基づいて、上記ポリマーの製造条件の候補および上記組成物の製造条件の候補の良否を評価するステップと、を含み上記予測モデルは、(a)過去に、上記ポリマーを製造したときのポリマー配合条件およびポリマープロセス設定値、ならびに過去に、該ポリマーを含む組成物を製造したときの組成物配合条件および組成物プロセス設定値と、該ポリマーを使用して製造した上記組成物の製造結果とを含む学習用データを用いて構築され、かつ(b)上記ポリマー配合条件、上記ポリマープロセス設定値、上記組成物配合条件、および上記組成物プロセス設定値と、上記組成物の製造結果との関係を示す、情報処理方法。
<2>上記(i)のステップにおいて、ポリマーの製造条件の候補の、ポリマープロセス測定値をさらに取得し、上記予測モデルはさらに、(c)上記学習用データが、過去に、上記ポリマーを製造したときの製造中に測定されたポリマープロセス測定値を含み、かつ、(d)上記ポリマー配合条件、上記ポリマープロセス設定値、上記ポリマープロセス測定値、上記組成物配合条件、および上記組成物プロセス設定値と、上記組成物の製造結果との関係を示す、<1>に記載の情報処理方法。
<3>上記ポリマープロセス測定値が、ポリマー製造時の水分量の経時変化、熱収支の経時変化、粘度の経時変化から選択される1種類以上である、<2>に記載の情報処理方法。
<4>上記(i)のステップにおいて、組成物の製造条件の候補の、組成物プロセス測定値をさらに取得し、上記予測モデルはさらに、(e)上記学習用データが、過去に、上記組成物を製造したときの、製造中に測定された組成物プロセス測定値を含み、かつ、(f)上記ポリマー配合条件、上記ポリマープロセス設定値、上記ポリマープロセス測定値、上記組成物配合条件、上記組成物プロセス設定値、および上記組成物プロセス測定値と、上記組成物の製造結果との関係を示す、<2>または<3>に記載の情報処理方法。
<5>上記組成物プロセス測定値が、組成物配合時のミキサー内の水分量の経時変化、組成物配合時のミキサー内の熱収支の経時変化、組成物配合時のミキサー内の粘度の経時変化から選択される1種類以上である、<4>に記載の情報処理方法。
<6>上記情報処理方法において、上記組成物の製造結果には上記組成物の貯蔵安定性が含まれる、<1>~<5>のいずれか1つに記載の情報処理方法。
<7>(iv)上記(ii)のステップの処理を前記ポリマーの製造条件と前記組成物の製造条件の候補を変えながら繰り返し実行し、上記(iii)のステップにおける評価が所定の基準を満たした上記ポリマーの製造条件の候補と上記組成物の製造条件の候補を、ポリマーの製造条件、および組成物の製造条件として決定するステップ、をさらに含む、<1>~<6>のいずれか1つに記載の情報処理方法。
【0071】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0072】
1 情報処理装置
3 製造設備
100 製造システム