(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001438
(43)【公開日】2024-01-10
(54)【発明の名称】銅インク、導電膜形成方法、及びRFタグ
(51)【国際特許分類】
C09D 11/52 20140101AFI20231227BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20231227BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20231227BHJP
H05K 1/09 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
C09D11/52
H01B1/22 A
H01B13/00 503D
H05K1/09 A
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100077
(22)【出願日】2022-06-22
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-10-24
(71)【出願人】
【識別番号】000197975
【氏名又は名称】石原ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113712
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 裕弘
(72)【発明者】
【氏名】川戸 祐一
(72)【発明者】
【氏名】南原 聡
(72)【発明者】
【氏名】有村 英俊
【テーマコード(参考)】
4E351
4J039
5G301
5G323
【Fターム(参考)】
4E351AA20
4E351BB01
4E351BB31
4E351CC11
4E351DD04
4E351EE24
4E351GG04
4E351GG09
4E351GG20
4J039AE12
4J039BA39
4J039BC07
4J039BE12
4J039BE22
4J039EA24
4J039GA16
5G301DA06
5G301DA42
5G301DD02
5G301DE01
5G323CA05
(57)【要約】
【課題】低抵抗の導電膜を紙基材上に形成する。
【解決手段】銅インクは、銅微粒子と、液体の分散媒と、銅微粒子を分散媒中で分散させる分散剤とを含有する。銅微粒子は、メジアン径が60nm以上かつ110nm以下の銅の粒子である。銅微粒子の濃度は、銅インク全体に対して60重量%以上である。分散媒は、複数のヒドロキシ基を有するアルコールを含む。分散剤は、リン酸基を有する高分子化合物又はその塩である。分散剤の濃度は、銅重量に対して3重量%以上かつ6重量%以下である。この銅インクは、光焼成によって紙基材上に導電膜を形成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電膜を形成するための銅インクであって、
銅微粒子と、液体の分散媒と、前記銅微粒子を前記分散媒中で分散させる分散剤とを含有し、
前記銅微粒子は、メジアン径が60nm以上かつ110nm以下の銅の粒子であり、
前記銅微粒子の濃度は、銅インク全体に対して60重量%以上であり、
前記分散媒は、複数のヒドロキシ基を有するアルコールを含み、
前記分散剤は、リン酸基を有する高分子化合物又はその塩であり、
前記分散剤の濃度は、前記銅微粒子の重量に対して3重量%以上かつ6重量%以下であることを特徴とする銅インク。
【請求項2】
前記分散媒は、2-メチル2,4-ペンタンジオール及び3-メチル1,3-ブタンジオールからなる群から選択されるアルコールを含むことを特徴とする請求項1に記載の銅インク。
【請求項3】
紙基材上に導電膜を形成する導電膜形成方法であって、
請求項1又は請求項2に記載の銅インクを用いてインク膜を紙基材上に形成する工程と、
前記インク膜を乾燥して銅微粒子から成る塗布乾燥膜を前記紙基材上に形成する工程と、
前記塗布乾燥膜を光焼成する工程とを有することを特徴とする導電膜形成方法。
【請求項4】
RFIDのRFタグであって、
少なくとも紙基材と、前記紙基材上のアンテナとを有し、
前記アンテナは、請求項3に記載の導電膜形成方法で形成された導電膜から成ることを特徴とするRFタグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電膜を形成するための銅インク、その銅インクを用いた導電膜形成方法、及びその導電膜を有するRFタグに関する。
【背景技術】
【0002】
製品タグ付けにRFID(radio frequency identification)のRFタグが用いられている(非特許文献1参照)。RFIDは、電磁的結合を用いてRFタグのデータを読み取るシステムである。なお、非特許文献1の日本産業規格JIS Z0667:2017「RFIDのサプライチェーンへの適用-製品タグ付け」は、国際規格ISO17367:2013”Supply chain applications of RFID-Product tagging”に対応する。
【0003】
RFタグは、PET(ポリエチレンテレフタラート)等の樹脂フィルムの上にアンテナ、配線、ICチップを有する。そのアンテナ及び配線は、アルミ等の金属箔であり、樹脂フィルム上に形成される。RFタグの製造は、金属箔をエッチングする工程を有し、エッチングで発生する廃液の処理にコストがかかる。さらに、最近、脱プラスチックが求められている。しかし、RFタグの樹脂フィルムを紙基材に置き換えると、紙基材上の金属箔をエッチングできなくなる。
【0004】
そこで、銅インクを用いてRFタグのアンテナ等を紙基材上に印刷することが考えられる。銅インクは、銅微粒子を含有し、焼成によって導電膜を形成する(例えば、特許文献1参照)。RFタグの信号強度を上げるには、RFタグのアンテナが低抵抗である必要がある。このため、銅インクを用いてアンテナを作るためには、銅インクの焼成によって厚く低体積抵抗率の導電膜を形成する必要がある。しかし、紙基材は、耐熱性が低いので、厚く低体積抵抗率の導電膜を焼成によって紙基材上に形成することは難しい。
【0005】
また、紙基材に限らず、耐熱性が低い基材上に低抵抗の導電膜を形成することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題を解決するものであり、低抵抗の導電膜を紙基材上に形成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の銅インクは、導電膜を形成するためのインクであって、銅微粒子と、液体の分散媒と、前記銅微粒子を前記分散媒中で分散させる分散剤とを含有し、前記銅微粒子は、メジアン径が60nm以上かつ110nm以下の銅の粒子であり、前記銅微粒子の濃度は、銅インク全体に対して60重量%以上であり、前記分散媒は、複数のヒドロキシ基を有するアルコールを含み、前記分散剤は、リン酸基を有する高分子化合物又はその塩であり、前記分散剤の濃度は、前記銅微粒子の重量に対して3重量%以上かつ6重量%以下であることを特徴とする。
【0010】
この銅インクにおいて、前記分散媒は、2-メチル2,4-ペンタンジオール及び3-メチル1,3-ブタンジオールからなる群から選択されるアルコールを含むことが好ましい。
【0011】
本発明の導電膜形成方法は、紙基材上に導電膜を形成する方法であって、前記の銅インクを用いてインク膜を紙基材上に形成する工程と、前記インク膜を乾燥して銅微粒子から成る塗布乾燥膜を前記紙基材上に形成する工程と、前記塗布乾燥膜を光焼成する工程とを有することを特徴とする。
【0012】
本発明のRFタグは、RFIDのRFタグであって、少なくとも紙基材と、前記紙基材上のアンテナとを有し、前記アンテナは、前記の導電膜形成方法で形成された導電膜から成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の銅インクによれば、銅微粒子のメジアン径が60nm以上であるので、光焼成により紙基材上に厚い導電膜を形成することができる。銅微粒子のメジアン径が110nm以下であるので、光焼成により紙基材上に低体積抵抗率の導電膜を形成することができる。銅微粒子の濃度が銅インク全体に対して60重量%以上であるので、厚い導電膜を形成することができる。分散媒が複数のヒドロキシ基を有するアルコールを含むので、銅微粒子の表面との水素結合により、銅インクが紙基材への印刷に適した粘度及びレオロジー特性(チキソ性)になる。分散剤の濃度が銅重量に対して3重量%以上であるので、銅インクの安定性が良い。分散剤の濃度が6重量%以下であるので、低体積抵抗率の導電膜を形成することができる。形成される導電膜は、厚く、低体積抵抗率であるので、低抵抗となる。さらに、分散剤がリン酸基を有し、かつ、分散剤の濃度が3重量%以上であるので、リンが銅の酸化を防ぐことにより、恒温恒湿試験における導電膜の耐久性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1(a)(b)(c)は本発明の一実施形態に係る銅インクを用いた導電膜の形成を時系列順に示す断面構成図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態に係る銅インクについて説明する。銅インクは、導電膜を形成するために用いられる。銅インクは、銅微粒子と、液体の分散媒と、分散剤とを含有する。分散剤は、銅微粒子を分散媒中で分散させる。
【0016】
銅微粒子は、銅の粒子であり、メジアン径(D50)が60nm以上かつ110nm以下である。走査型電子顕微鏡による画像(SEM画像)から銅微粒子の粒径が抽出され、その粒径分布からメジアン径が算出される。銅微粒子の粒子径が小さ過ぎると、形成される導電膜を厚くできない。粒子径が大き過ぎると、導電膜の体積抵抗率が高くなる。
【0017】
銅微粒子の濃度は、銅インク全体に対して60重量%以上である。銅微粒子の濃度が低過ぎると、形成される導電膜が薄くなる。銅微粒子の濃度は、75重量%以下であることが望ましい。銅微粒子の濃度が高過ぎることによって銅インクの粘度が高くなると、印刷したインク膜の凹凸が低粘度の場合に比べて大きくなり、インク膜を乾燥して形成される塗布乾燥膜に5μmより厚い部分が生じる。塗布乾燥膜の厚い部分は、表面と底部で光焼成時の焼結差が大きくなり、部分的に吹き飛ぶため、均一な導電膜を形成しない。
【0018】
分散媒は、複数のヒドロキシ基を有するアルコールを含む。銅微粒子は、大気中に含まれる酸素によって最表面が酸化され、酸化銅から成る薄い表面酸化皮膜を形成する。銅インク中において、銅微粒子の表面酸化被膜の酸化銅の酸素原子と、アルコールのヒドロキシ基の水素原子との間に水素結合が生じる。このため、複数のヒドロキシ基を有するアルコールは、銅微粒子の分散性に優れる。
【0019】
複数のヒドロキシ基を有するアルコールは、例えば、2-メチル2,4-ペンタンジオール(へキシレングリコール)、3-メチル1,3-ブタンジオール(イソプレングリコール)、1,2-エタンジオール(エチレングリコール)、プロパン-1,2-ジオール(プロピレングリコール)、1,5-ペンタンジオール、2,2‘-オキシジエタノール(ジエチレングリコール)、トリエチレングリコール、1,2,3-プロパントリオール(グリセリン)、ソルビトールであり、これらに限定されない。
【0020】
分散剤は、リン酸基を有する高分子化合物又はその塩である。高分子とは、分子量が大きい分子で、分子量が小さい分子から実質的または概念的に得られる単位の多数回の繰り返しで構成した構造を有する(国際純正・応用化学連合(IUPAC))。銅微粒子は、分散剤分子で表面が覆われるので、分散媒中で分散される。
【0021】
分散剤の濃度は、銅重量に対して3重量%以上かつ6重量%以下である。分散剤の濃度が低過ぎると、分散剤の分散性が不足し、銅インクの安定性が良くない。濃度が高過ぎると、形成される導電膜に分散剤残渣が残留し、導電膜の体積抵抗率が高くなる。
【0022】
分散剤がリン酸基を有し、かつ、その分散剤の濃度が3重量%以上の場合、形成される導電膜は、恒温恒湿試験における耐久性が向上する。これは、本願発明者による発見である。透過電子顕微鏡(TEM)画像のエネルギー分散型X線分光法による分析では、形成された導電膜は、焼結された銅微粒子の周りにリンが残存している。そのリンが銅の酸化を防いでいる。
【0023】
この銅インクを用いた導電膜形成方法を
図1(a)~(c)を参照して説明する。この導電膜形成方法は、紙基材上に導電膜を形成する方法である。
図1(a)に示すように、銅インク1を用いてインク膜2が紙基材3上に形成される。インク膜2は、印刷法で形成される。印刷法では、銅インクが印刷用のインクとして用いられ、印刷装置によって紙基材3上に所定のパターンの銅インクが塗布され、そのパターンのインク膜2が形成される。本実施形態では、印刷方式は、フレキソ印刷である。そして、インク膜2が乾燥される。インク膜2の乾燥によって、
図1(b)に示すように、銅微粒子が紙基材3上に残り、銅微粒子から成る塗布乾燥膜4が紙基材3上に形成される。そして、銅微粒子から成る塗布乾燥膜4に光が照射され、塗布乾燥膜4が光焼成される。光焼成に用いられる光源は、例えば、キセノンランプである。光源にレーザー装置を用いてもよい。光のエネルギーによって、塗布乾燥膜4内の銅微粒子の表面酸化被膜が除去され、銅微粒子が互いに溶融してバルク化する。すなわち、
図1(c)に示すように、塗布乾燥膜4は、光焼成によって紙基材3上に導電膜5を形成する。なお、インク膜2の乾燥及び塗布乾燥膜4の光焼成を、光の照射によっていっぺんに行ってもよい。
【0024】
すなわち、この導電膜形成方法は、銅インク1を用いてインク膜2を紙基材3上に形成する工程と、インク膜2を乾燥して銅微粒子から成る塗布乾燥膜4を紙基材3上に形成する工程と、塗布乾燥膜4を光焼成する工程とを有する。
【0025】
例えば、本実施形態よりも小粒径のメジアン径40nmの銅微粒子を有する銅インクを用いると、低体積抵抗率の導電膜を形成することができるが、導電膜を厚くすることができない。小粒径の銅微粒子を有する銅インクを用いて厚さ2μm以上の塗布乾燥膜を形成しようとすると、塗布乾燥膜にクラックが入るからである。そのクラックの原因は、銅微の粒径が小さいとインク膜の乾燥時の体積収縮率が大きくなること、及び、小粒径の銅微粒子によってパッキングされて分散媒がガスとして抜ける経路(パス)が無くなることである。本願の発明者は、数多くの実験を行い、メジアン径60nm~110nmの銅微粒子が紙基材上の導電膜の形成に好適であることを見出した。
【0026】
しかし、銅微粒子の粒径を大きくすると、銅インクの粘度が低下する。それにより、フレキソ印刷で銅インクのぬれ広がりやだれることが発生したため、銅インクを増粘する必要が生じた。一般的に、インクは、樹脂やレオロジーコントロール剤などの添加剤で増粘する。しかし、有機物の添加剤は、その残渣が抵抗になって、導電膜の体積抵抗率を高くするので、銅インクに添加することは避けたい。銅微粒子の表面酸化被膜の酸化銅の酸素原子と、分散媒の複数のヒドロキシ基の水素原子との間の水素結合相互作用を利用することにより、紙基材への印刷に適した粘度を有する銅インクができることを本願の発明者が発見した。分散媒が一価アルコールであると、銅インクの粘度が不足する。
【0027】
以上、本実施形態の銅インクによれば、銅微粒子のメジアン径が60nm以上であるので、光焼成により紙基材上に厚い導電膜を形成することができる。銅微粒子のメジアン径が110nm以下であるので、光焼成により紙基材上に低体積抵抗率の導電膜を形成することができる。銅微粒子の濃度が銅インク全体に対して60重量%以上であるので、厚い導電膜を形成することができる。分散媒が複数のヒドロキシ基を有するアルコールを含むので、銅微粒子の表面との水素結合により、銅インクが紙基材への印刷に適した粘度及びレオロジー特性(チキソ性)になる。分散剤の濃度が銅重量に対して3重量%以上であるので、銅インクの安定性が良い。分散剤の濃度が6重量%以下であるので、低体積抵抗率の導電膜を形成することができる。形成される導電膜は、厚く、低体積抵抗率であるので、低抵抗となる。さらに、分散剤がリン酸基を有し、かつ、分散剤の濃度が3重量%以上であるので、リンが銅の酸化を防ぐことにより、恒温恒湿試験における導電膜の耐久性が向上する。
【0028】
本実施形態の銅インクを用いることにより、紙基材上に1~5μmの厚さの塗布乾燥膜を形成することができ、その紙基材上に約1~2μm(0.7~1.8μm)の厚さの導電膜を形成することができる。形成される導電膜が厚く、低体積抵抗率を有するので、その導電膜は低抵抗である。
【0029】
この銅インクを用いて、紙基材を有するRFタグを作ることができる。
図1(c)を流用してそのRFタグについて説明する。RFタグ6は、RFIDのRFタグである。本実施形態のRFタグ6は、少なくとも紙基材3と、紙基材3上のアンテナとを有する。アンテナは、本実施形態の導電膜形成方法で形成された導電膜5から成る。
【0030】
このRFタグ6は、基材が紙であるので、環境にやさしい。RFタグ6のアンテナは、本実施形態の導電膜形成方法で形成された導電膜5から成る。その導電膜が厚く、低体積抵抗率を有するので、アンテナが低抵抗になる。このRFタグ6は、アンテナが低抵抗であるので、十分な信号強度が得られる。
【0031】
なお、RFタグ6をラミネート加工してもよい。なお、RFタグのラミネートの例が、日本産業規格に記載されている(非特許文献1参照)。
【0032】
本発明の実施例としての銅インク、及び比較例としての銅インクを作り、その銅インクを用いて紙基材上に導電膜を形成する実験を行った。
【0033】
共通の実験条件を説明する。紙基材として、コート紙(王子製紙株式会社(Oji PaperCo., Ltd.)製、商品名「OKトップコート+EF」(「トップコート」「TOPKOTE」は登録商標)を用いた。銅インクを用いて、フレキソ印刷にて配線テストパターン(0.6mm幅のライン)を紙基材上に印刷した。印刷したインク膜は、2~5μm厚であった。インク膜を乾燥し、塗布乾燥膜を形成した。フラッシュランプにて4J/cm2のエネルギーで塗布乾燥膜を光焼成した。形成された導電膜(ライン)の測定長37.8mmの抵抗(配線抵抗)をテスタで測定した。また、レーザー顕微鏡にて導電膜(ライン)の断面積を計測した。そして、抵抗値と断面積等から導電膜の体積抵抗率及び平均厚みを算出した。フレキソ印刷では、銅インクは、版から紙基材に完全には転写されず、版と紙基材にランダムに分裂する。このため、形成される導電膜の断面形状は、通常平滑でなく、凹凸を有する。導電膜の平均厚みは、その凹凸を平均化した厚み、すなわち長方形の厚みである。形成した導電膜(ライン)をその配線抵抗で評価した。
【0034】
実施例における銅インクの組成範囲について説明する。銅微粒子の粒径(メジアン径)は、60~110nmとした。銅インクの3万倍のSEM画像から無作為に抽出した100個以上の銅微粒子の粒径頻度分布からメジアン径(D50)を算出した。銅微粒子の濃度は、銅インク全体に対して(以下、銅微粒子の重量%において同様)60~75重量%とした。分散剤は、リン酸基を有するものとした。分散媒の濃度は、銅重量に対して(以下、分散剤の重量%において同様)3~6重量%とした。分散媒は、複数のヒドロキシ基を有するアルコールとした。分散媒の量は、銅インクにおける残部である。
【0035】
銅インクの組成を変えて、光焼成によって形成された導電膜(光焼成膜)を評価した。なお、前述したように、導電膜の断面積と配線抵抗は実測値であり、平均厚みと体積抵抗率は計算値である。
【実施例0036】
メジアン径80nmの銅微粒子を銅インクに用いた(実施例2~6及び比較例1、3において同じ)。銅微粒子の濃度は75重量%とした。分散剤として高分子リン酸エステル(ビックケミー社(BYK-Chemie)製、商品名「DISPERBYK(登録商標)-102」)を用いた。この分散剤は、リン酸基を有する高分子化合物である。分散剤の濃度は4重量%とした。分散媒として、2-メチル2,4-ペンタンジオール(二価アルコール)を用いた。
【0037】
形成された導電膜は、クラックが無かった。導電膜の平均厚みは1.8μmであった。体積抵抗率は5.2μΩcmであった。断面積は1100μm2であった。線幅は600μmであった。配線抵抗は1.8Ωであった。この配線抵抗は、実施例の中で一番低かった。
銅インクにおいて、銅微粒子の濃度は、実施例1より低い70重量%とした。分散剤の濃度は、実施例1より低い3重量%とした。それ以外の条件は、実施例1と同じにした。
形成された導電膜は、クラックが無かった。導電膜の平均厚みは、実施例1より薄い1.3μmであった。体積抵抗率は、実施例1より低い5.1μΩcmであった。断面積は800μm2であった。線幅は600μmであった。配線抵抗は実施例1より高い2.4Ωであった。
銅微粒子の濃度が実施例1より低かったため、導電膜の平均厚みが薄くなり、配線抵抗が高くなった。分散剤の濃度が実施例1より低かったため、導電膜の体積抵抗率が低くなったが、配線抵抗に対して銅微粒子の濃度の影響が大きかった。