(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143803
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】電動工具
(51)【国際特許分類】
B25B 21/02 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
B25B21/02 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056693
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】植田 尊大
(72)【発明者】
【氏名】小沢 公孝
(57)【要約】
【課題】音の発生を低減可能な電動工具を提供する。
【解決手段】電動工具1は、駆動軸30と、ハンマ40と、アンビル50と、出力軸60と、ハウジングと、を備える。ハンマ40は、モータ軸21の回転に応じて回転する駆動軸30から回転力が伝達されて回転する。アンビル50は、ハンマ40が回転することによってハンマ40から打撃を加えられて回転する。出力軸60は、アンビル50と回転方向において係合し、アンビル50の回転に応じて回転する。ハウジングは、少なくともハンマ40とアンビル50とを覆い、軸受部70を介して出力軸60を支持する。アンビル50は、軸方向において出力軸60と隙間GP1を介して対向している。駆動軸30は、出力軸60と相対回転可能に設けられている。駆動軸30は、軸方向において、出力軸60が駆動軸30に近づく向きに移動するのを規制している。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータが備えるモータ軸の回転に応じて回転する駆動軸と、
前記駆動軸から回転力が伝達されて回転するハンマと、
前記ハンマが回転することによって前記ハンマから打撃を加えられて回転するアンビルと、
先端工具を取付可能であり、前記アンビルと回転方向において係合し、前記アンビルの回転に応じて回転する出力軸と、
少なくとも前記ハンマと前記アンビルとを覆い、軸受部を介して前記出力軸を支持するハウジングと、を備え、
前記アンビルは、軸方向において前記出力軸と隙間を介して対向しており、
前記駆動軸は、前記出力軸と相対回転可能に設けられ、
前記駆動軸は、前記軸方向において、前記出力軸が前記駆動軸に近づく向きに移動するのを規制している、
電動工具。
【請求項2】
前記駆動軸と前記出力軸の間には、前記出力軸と前記駆動軸との間で伝搬する前記軸方向の振動を低減する緩衝部材が設けられている、
請求項1に記載の電動工具。
【請求項3】
前記駆動軸が、
前記モータ軸の回転に応じて回転し、前記ハンマに回転力を伝達する駆動部材と、
前記緩衝部材と前記駆動部材との間に配置されるシャフト部材と、を含み、
前記シャフト部材は、前記緩衝部材と接触可能であり、
前記駆動部材は、前記シャフト部材に対して相対的に回転可能に設けられている、
請求項2に記載の電動工具。
【請求項4】
前記緩衝部材は弾性材料で形成されている、
請求項2に記載の電動工具。
【請求項5】
前記アンビルが、前記軸方向において前記ハンマから離れる向きに移動するのを規制する第1移動規制部を更に備える、
請求項1に記載の電動工具。
【請求項6】
前記第1移動規制部は前記ハウジングに設けられており、
前記第1移動規制部は弾性材料で形成されている、
請求項5に記載の電動工具。
【請求項7】
前記出力軸が、前記軸方向において前記アンビルから離れる向きに移動するのを規制する第2移動規制部を更に備える、
請求項1に記載の電動工具。
【請求項8】
前記出力軸は、前記アンビルに設けられた1以上の第1の歯と回転方向において噛み合う1以上の第2の歯を有し、
前記1以上の第1の歯と前記1以上の第2の歯とが噛み合うことによって、前記出力軸と前記アンビルとが回転方向において係合する、
請求項1に記載の電動工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電動工具に関する。より詳細には、本開示は、モータを備える電動工具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、インパクト回転工具を開示する。特許文献1のインパクト回転工具では、ハンマに打撃されることで回転するアンビルの前端に、ドライバービット等を装備可能なビットホルダを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のインパクト回転工具では、ハンマがアンビルを打撃することによって、ハンマからアンビルに軸方向の衝撃が加えられる。アンビルに加えられた軸方向の衝撃がハウジングに伝わると、ハウジングが振動して音が発生する可能性があった。
【0005】
本開示の目的は、音の発生を低減可能な電動工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様の電動工具は、駆動軸と、ハンマと、アンビルと、出力軸と、ハウジングと、を備える。前記駆動軸は、モータが備えるモータ軸の回転に応じて回転する。前記ハンマは、前記駆動軸から回転力が伝達されて回転する。前記アンビルは、前記ハンマが回転することによって前記ハンマから打撃を加えられて回転する。前記出力軸は、先端工具を取付可能である。前記出力軸は、前記アンビルと回転方向において係合し、前記アンビルの回転に応じて回転する。前記ハウジングは、少なくとも前記ハンマと前記アンビルとを覆い、軸受部を介して前記出力軸を支持する。前記アンビルは、軸方向において前記出力軸と隙間を介して対向している。前記駆動軸は、前記出力軸と相対回転可能に設けられている。前記駆動軸は、前記軸方向において、前記出力軸が前記駆動軸に近づく向きに移動するのを規制している。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、音の発生を低減可能な電動工具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係る電動工具の外観斜視図である。
【
図2】
図2は、同上の電動工具の要部の断面図である。
【
図3】
図3は、同上の電動工具が備える駆動機構の側面図である。
【
図4】
図4は、同上の電動工具が備える駆動機構の斜視図である。
【
図5】
図5は、同上の電動工具が備える駆動機構の分解斜視図である。
【
図6】
図6は、同上の電動工具が備えるアンビルと出力軸とが組み合わされた状態の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態に係る電動工具について、図面を用いて説明する。ただし、下記の実施形態は、本開示の様々な実施形態の1つに過ぎない。下記の実施形態は、本開示の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。また、下記の実施形態において説明する各図は、模式的な図であり、図中の各構成要素の大きさ及び厚さそれぞれの比が必ずしも実際の寸法比を反映しているとは限らない。
【0010】
(実施形態)
(1)概要
以下、本実施形態に係る電動工具1の概要について、
図1及び
図2を参照して説明する。
【0011】
本実施形態に係る電動工具1は、
図1及び
図2に示すように、駆動軸30と、ハンマ40と、アンビル50と、出力軸60と、ハウジング10と、を備える。
【0012】
駆動軸30は、モータ20が備えるモータ軸21の回転に応じて回転する。
【0013】
ハンマ40は、駆動軸30から回転力が伝達されて回転する。
【0014】
アンビル50は、ハンマ40が回転することによってハンマ40から打撃を加えられて回転する。
【0015】
出力軸60は、先端工具B1を取付可能である。出力軸60は、アンビル50と回転方向において係合し、アンビル50の回転に応じて回転する。
【0016】
ハウジング10は、少なくともハンマ40とアンビル50とを覆い、軸受部70を介して出力軸60を支持する。
【0017】
アンビル50は、軸方向において出力軸60と隙間GP1を介して対向する。
【0018】
駆動軸30は、出力軸60と相対回転可能に設けられている。
【0019】
駆動軸30は、軸方向において、出力軸60が駆動軸30に近づく向きに移動するのを規制している。
【0020】
本実施形態では、駆動軸30、ハンマ40、アンビル50、及び出力軸60の各々は回転軸AX1を中心として回転可能に配置されており、回転軸AX1に沿う方向が駆動軸30、ハンマ40、アンビル50、及び出力軸60の軸方向となる。
【0021】
本実施形態の電動工具1は、ハンマ40及びアンビル50等で構成されるインパクト機構を有している。すなわち、本実施形態の電動工具1は、インパクト機構によるインパクト動作を行いながら、先端工具B1により作業対象の締付部品(例えば、ねじ、ボルト、ナット等)を締め付ける締付作業等を行う、電動式のインパクト電動工具である。インパクト機構は、インパクト動作において、モータ20の動力に基づいて打撃力を発生させ、その打撃力は先端工具B1に作用する。
【0022】
本実施形態によれば、アンビル50と出力軸60とは隙間GP1を介して対向しているので、先端工具B1を作業対象に押し当てる場合に、アンビル50を経由して出力軸60に力が加えられることはない。また、駆動軸30は、出力軸60が駆動軸30に近づく向きに移動するのを規制しているので、先端工具B1を作業対象に押し当てることによって出力軸60に加わる力を駆動軸30で受けることができる。これにより、ハンマ40がアンビル50を打撃することによって、ハンマ40からアンビル50に加えられた打撃力が出力軸60に加わりにくくなり、出力軸60に加わる軸方向の振動を低減し、電動工具1から発生する音を低減することができる。
【0023】
(2)詳細構成
(2.1)全体構成
本実施形態の電動工具1の詳細な構成について、
図1~
図6を参照して説明する。
【0024】
電動工具1は、上述のように、駆動軸30と、ハンマ40と、アンビル50と、出力軸60と、を備える。また、電動工具1は、緩衝部材80を更に備えている。緩衝部材80は、出力軸60と駆動軸30の間に設けられている。緩衝部材80は、出力軸60と駆動軸30との間で伝搬する軸方向の振動を低減する。
【0025】
ハウジング10は、例えば、駆動軸30、ハンマ40、アンビル50、及び出力軸60等を収容する内側ケース16と、内側ケース16を含む構成部品を収容する外側ケース11と、を備える。外側ケース11は、内側ケース16等を収容する円筒部12と、電池パックが取り付けられる基台部14と、円筒部12と基台部14との間を接続するグリップ部13と、を備えている。
【0026】
以下の説明では、出力軸60の軸方向D1(回転軸AX1の軸方向)を前後方向と規定し、ハンマ40から見てアンビル50側を前と規定し、アンビル50から見てハンマ40側を後と規定する。また、円筒部12とグリップ部13と基台部14とが並ぶ方向を上下方向と規定し、基台部14から見て円筒部12側を上と規定し、円筒部12から見て基台部14側を下と規定する。また、前後方向及び上下方向とそれぞれ直交する方向を、左右方向と規定する。ただし、これらの規定は、電動工具1の使用方向を規定する趣旨ではない。
【0027】
電動工具1の外側ケース11は、上述のように、円筒部12と、グリップ部13と、基台部14と、を備えている。
【0028】
基台部14には、電動工具1の電源である電池パックが着脱可能となっている。
【0029】
グリップ部13の一方の端部は円筒部12の周面の一部に繋がっており、グリップ部13の他方の端部は基台部14に繋がっている。グリップ部13は、電動工具1を用いて締付部品(例えばボルト等)に対する作業(例えばボルトの締付作業等)を行う際に、ユーザが手で握る部位である。グリップ部13には、トリガスイッチの操作部15が設けられている。すなわち、本実施形態の電動工具1は、ユーザが手に持って使用する可搬型の工具である。
【0030】
また、ハウジング10の内部には、操作部15が操作された場合にモータ20を回転させる制御回路等が収容されている。
【0031】
円筒部12の内部には、モータ20の回転に応じて出力軸60を回転させる駆動機構2(
図2~
図5参照)が収容されている。駆動機構2は、モータ20、伝達機構22、駆動軸30、ハンマ40、アンビル50、及び出力軸60等で構成される。
【0032】
以下、駆動機構2の構成について
図2~
図6を参照して説明する。
【0033】
モータ20は、例えば、サーボモータなどで構成されている。モータ20は制御回路によって回転が制御される。
【0034】
伝達機構22は例えば遊星歯車機構などで構成されている。伝達機構22は、モータ20のモータ軸21に接続され、モータ軸21の回転を軸23に所定の変速比で伝達する。伝達機構22の軸23は駆動軸30に接続されている。
【0035】
駆動軸30は、モータ軸21の回転に応じて回転し、ハンマ40に回転力を伝達する駆動部材31と、緩衝部材80と駆動部材31との間に配置されるシャフト部材32と、を含んでいる。
【0036】
駆動部材31は例えば金属材料により円柱形状に形成されており、ハウジング10の内部に回転可能に配置されている。駆動部材31の後部には軸穴310が設けられており、軸穴310に伝達機構22の軸23が挿入された状態で、駆動部材31と軸23とが結合されている。駆動部材31は、伝達機構22の軸23の回転に連動して、回転する。すなわち、駆動部材31は、モータ20が備えるモータ軸21の回転に応じて回転する。なお、伝達機構22は、モータ軸21の回転速度及び回転トルクを、締付部品を回転させるのに必要な回転速度及びトルクに変換する。
【0037】
駆動部材31の前寄りの部位の周面には、一対の鋼球42が挿入される溝部311が設けられている。溝部311は、円周方向において前後に蛇行するように設けられている。また、駆動部材31の後部には、コイルばね33の後端部を受けるリング状のばね受け座312が取り付けられている。
【0038】
シャフト部材32は、例えば金属材料により円柱状に形成されている。シャフト部材32は、駆動部材31の前側に配置されている。シャフト部材32の後面は駆動部材31の前面と接触し、シャフト部材32の前面は緩衝部材80に接している。シャフト部材32は、緩衝部材80を前後方向において位置決めする機能を有している。シャフト部材32と駆動部材31とは機械的に結合されておらず、駆動部材31は、シャフト部材32に対して相対的に回転可能に設けられている。
【0039】
ハンマ40は、例えば金属材料により、軸方向の長さ寸法よりも直径が大きい円柱状に形成されている。
【0040】
ハンマ40の中心には、ハンマ40を前後方向に貫通する軸穴41が設けられている。ハンマ40の軸穴41に駆動部材31の前側部分を挿入することによって、ハンマ40は、駆動部材31に対して、回転軸AX1に沿って移動可能、かつ、回転軸AX1を中心とする円周方向に移動可能(つまり回転可能)な状態で組み合わされている。
【0041】
ハンマ40の軸穴41の内周面には、一対の鋼球42がそれぞれ挿入される一対の溝部44が設けられている。ハンマ40の軸穴41に駆動部材31の前側部分が挿入された状態では、ハンマ40の一対の溝部44と駆動部材31の溝部311との間に一対の鋼球42が挟まれている。ここで、一対の溝部44と、溝部311と、一対の鋼球42とでカム機構が構成されている。駆動部材31が回転すると、駆動部材31の回転に応じて一対の鋼球42が溝部311と一対の溝部44とで囲まれる空間を移動することによって、駆動部材31の回転がハンマ40に伝えられ、ハンマ40は、駆動部材31の軸方向(回転軸AX1と平行な方向)に沿って前向き又は後向きに移動しながら、駆動部材31に対して回転する。
【0042】
ハンマ40の後面には、軸穴41と同心の環状の溝43が設けられている。溝43の内部には、複数の鋼球46が配置されている。複数の鋼球46は、リング状部材47と、溝43の底部との間に配置されている。また、溝43にはコイルばね33の前端部が挿入され、コイルばね33の前端部はリング状部材47に接触する。これにより、ハンマ40は、軸方向(つまり回転軸AX1)に沿った方向において、出力軸60に向かう向き(つまり前向き)の力をコイルばね33から受けている。また、コイルばね33の前端部が当たるリング状部材47と溝43の底部との間には一対の鋼球46が配置されているので、ハンマ40はコイルばね33に対して回転可能となっている。
【0043】
上述のように、ハンマ40は、回転軸AX1に沿って前向き(出力軸60に向かう向き)又は後向き(出力軸60から遠ざかる向き)に移動可能である。以下では、ハンマ40が前向きに移動することを「ハンマ40が前進する」と言い、ハンマ40が後向きに移動することを「ハンマ40が後退する」と言う。
【0044】
ハンマ40の前面には、前方に突出する一対の突起45が設けられている。一対の突起45は、前から見て回転軸AX1に対して対角の位置に設けられている。ハンマ40の前側から見て、一対の突起45の各々の形状は、扇形である。
【0045】
アンビル50は例えば金属材料により円柱状に形成されている。アンビル50は、アンビル50の前部に比べて外径が大きい大径部分51を後部に有している。大径部分51の外周面には、径方向に突出する一対の突起52が回転軸AX1に対して対角の位置に設けられている。
【0046】
アンビル50の中心には、アンビル50を前後方向に貫通する貫通孔53が設けられている。貫通孔53には、駆動部材31の前端部分と、円柱状のシャフト部材32と、が配置される。つまり、シャフト部材32は緩衝部材80と接触可能である。
【0047】
アンビル50の前面には、
図3~
図6に示すように、前方に突出する一対の第1の歯54が設けられている。一対の第1の歯54は、前から見て回転軸AX1に対して対角の位置に設けられている。また、アンビル50の前面には、一対の第1の歯54の間に一対の凹部55が設けられている。
【0048】
緩衝部材80は、弾性材料で形成されている。緩衝部材80は、例えば合成ゴム等の弾性材料により、円盤形に形成されている。緩衝部材80は、シャフト部材32と出力軸60との間に配置されている。
【0049】
出力軸60は、例えば金属材料により円柱形状に形成されている。出力軸60は、軸受部70を介して内側ケース16に回転可能な状態で保持される。出力軸60の後面には、緩衝部材80が挿入される凹部61(
図2参照)が設けられている。
【0050】
出力軸60の後面において凹部61の周縁部には、
図3~
図6に示すように、それぞれ後向きに突出する一対の第2の歯62が設けられている。一対の第2の歯62は、前から見て回転軸AX1に対して対角の位置に設けられている。また、出力軸60の後面において凹部61の周縁部には、一対の第2の歯62の間の部位に凹部63が設けられている。アンビル50と出力軸60とが組み合わされた状態では、一対の第1の歯54と一対の第2の歯62とがそれぞれ噛み合うことによって、アンビル50と出力軸60とを回転方向において確実に係合させることができ、アンビル50の回転に応じて出力軸60が回転する。アンビル50と出力軸60とが組み合わされた状態では、軸方向D1においてはアンビル50と出力軸60との間に隙間GP1が設けられており、アンビル50と出力軸60とは隙間GP1を介して対向している。なお、駆動軸30と出力軸60との間には緩衝部材80が介在しているので、駆動軸30は、出力軸60に対して相対的に回転可能に設けられている。また、出力軸60の後面に緩衝部材80の前面が接触し、緩衝部材80の後面にシャフト部材32の前面が接触しているので、軸方向において出力軸60が駆動軸30に近づく向きに移動するのを駆動軸30が規制している。
【0051】
出力軸60の前端は、内側ケース16の孔17に挿入されて、内側ケース16の外部に突出している。出力軸60の前端には角柱形状の取付部64が設けられている。取付部64には、先端工具B1を装着可能なソケット65が取り付けられる。出力軸60の取付部64に取り付けられたソケット65は、外側ケース11の孔18を介して、外側ケース11の外部に突出している。出力軸60は、ソケット65を介して先端工具B1を保持することができる。先端工具B1は、例えば、ドライバービットである。先端工具B1が締付部品と嵌合した状態で回転することにより、締付部品を締め付ける又は緩めるといった作業が可能となる。なお、ソケット65は電動工具1に必須の構成ではなく、出力軸60に対して、先端工具B1が着脱可能に直接取り付けられてもよい。
【0052】
なお、本実施形態の電動工具1は、アンビル50が、軸方向(アンビル50の回転中心である回転軸AX1に沿う方向)においてハンマ40から離れる向きに移動するのを規制する第1移動規制部91(
図2参照)を更に備える。第1移動規制部91は、例えば、内側ケース16に保持された合成樹脂製のリング状部品である。第1移動規制部91の中央の孔にはアンビル50が挿入されており、第1移動規制部91が、アンビル50の外周面に設けられた段差部56に前側から当たっている。第1移動規制部91がアンビル50の段差部56に前側から当たることによって、アンビル50の前方への移動を規制することができる。
【0053】
このように、第1移動規制部91はハウジング10(具体的には内側ケース16)に設けられている。ここで、第1移動規制部91は弾性材料で形成されていることが好ましい。例えば、第1移動規制部91は合成ゴムなどの弾性材料で形成されるのが好ましく、軸方向におけるアンビル50の振動がハウジング10に伝わるのを低減でき、アンビル50の振動に起因して発生する音を低減することができる。
【0054】
また、本実施形態の電動工具1は、出力軸60が、軸方向(出力軸60の回転中心である回転軸AX1に沿う方向)においてアンビル50から離れる向きに移動するのを規制する第2移動規制部92(
図2参照)を更に備えている。第2移動規制部92は、例えば、内側ケース16の孔17に配置されたC止め輪である。第2移動規制部92は、出力軸60の外周面に設けられた段差部66に前側から当たることで、出力軸60が前向きに移動するのを規制しており、出力軸60の移動を制限することができる。
【0055】
(2.2)動作説明
ユーザが電動工具1を用いて締付部品を締め付ける作業を行う場合、ユーザは、電動工具1の基台部14に電池パックを取り付け、出力軸60に取り付けられたソケット65に先端工具B1を取り付ける。そして、ユーザが、グリップ部13を持ち、先端工具B1を締付部品に押し当てた状態で操作部15を操作すると、制御回路が、操作部15の操作量に応じた駆動電流をモータ20の巻線に流し、モータ20のモータ軸21を操作部15の操作量に応じた回転速度で回転させる。モータ軸21が回転すると、モータ軸21の回転が伝達機構22を介して駆動部材31に伝達されて、駆動部材31が回転する。駆動部材31が回転すると、駆動部材31の回転がカム機構を介してハンマ40に伝えられ、ハンマ40が駆動部材31と共に回転する。ハンマ40が回転すると、ハンマ40の突起45がアンビル50の突起52を押すことによって、アンビル50が回転する。アンビル50と出力軸60とは回転方向において係合しているので、アンビル50が回転することによって出力軸60が回転し、出力軸60にソケット65を介して保持された先端工具B1が回転する。
【0056】
ここで、出力軸60が締付部品を回転させることによって、締付部品から出力軸60に加えられるトルク(以下、負荷トルクと言う。)の大きさが所定値以下であれば、駆動部材31と一緒にハンマ40が回転し、ハンマ40の回転に応じて出力軸60が回転する。
【0057】
一方、締付部品の締め付けが進み、負荷トルクが所定値を超えると、インパクト機構がインパクト動作を行う。負荷トルクが増加すると、アンビル50とハンマ40との間で発生する力のうち、ハンマ40を後退させる向きの分力が増加する。そして、負荷トルクが所定値以上となると、ハンマ40はコイルばね33を圧縮させながら後退する。ハンマ40が後退することによって、ハンマ40の突起45がアンビル50の突起52を乗り越えると、ハンマ40が回転しながら、コイルばね33の弾性力を受けて前進する。そして、ハンマ40が略半回転すると、ハンマ40の一対の突起45がアンビル50の一対の突起52の側面に衝突し、ハンマ40からアンビル50に打撃力(回転打撃力)が加えられることによって、アンビル50が回転し、アンビル50の回転によって出力軸60に保持された先端工具B1が回転する。電動工具1は、締付部品の締付トルクが所定のトルク設定値に達するまで、インパクト動作を繰り返し行う。締付部品の締付トルクがトルク設定値に達すると、制御回路がモータ20の励磁を停止し、モータ20の回転を停止させる。
【0058】
ここにおいて、アンビル50と出力軸60とは回転方向においては係合しているが、軸方向においては隙間GP1を介して対向している。そして、駆動軸30と出力軸60との間には緩衝部材80が介在しているので、駆動軸30から出力軸60に軸方向の振動が直接伝搬する経路が存在しない。したがって、インパクト動作を行う場合に駆動軸30に軸方向の振動が発生したとしても、緩衝部材80によって出力軸60に軸方向の振動が伝わりにくくなり、軸方向の振動に起因して発生する音を低減することができる。また、先端工具B1が締付部品に押しつけられた場合、出力軸60にかかる力は、緩衝部材80を介して駆動軸30に伝えられる。ここで、緩衝部材80は、出力軸60から駆動軸30側に伝わる軸方向の振動を抑制しているので、軸方向の振動がハウジング10に伝わりにくくなり、軸方向の振動に起因して発生する音を低減できる。
【0059】
また、インパクト動作が行われた場合、ハンマ40がアンビル50に打撃力を加えることによって、アンビル50には軸方向の振動が加わるのであるが、第1移動規制部91がアンビル50の段差部56に前側から当たることによって、第1移動規制部91は、アンビル50が出力軸60に近づく方向(つまり前方)へ移動するのを規制する。これにより、軸方向においてアンビル50と出力軸60とが接触する可能性を低減でき、アンビル50から出力軸60に軸方向の振動が伝わる可能性を低減できる。また、第1移動規制部91はアンビル50と内側ケース16との間に介在しており、第1移動規制部91は弾性材料で形成されているので、アンビル50から内側ケース16に伝わる振動を第1移動規制部91によって低減することができる。したがって、アンビル50の振動に起因して電動工具1から音が発生するのを抑制することができる。
【0060】
また、本実施形態では、第2移動規制部92が出力軸60の段差部66に前側から当たることによって、出力軸60が、軸方向においてアンビル50から離れる向き(つまり前方)に移動するのを規制することができる。これにより、アンビル50と出力軸60とが回転方向において係合している状態が外れにくくなり、アンビル50から出力軸60に回転力を加える際のロスを低減できる。
【0061】
また、本実施形態では、駆動軸30が、モータ軸21の回転に応じて回転する駆動部材31と、シャフト部材32とで構成されており、駆動部材31はシャフト部材32に対して相対的に回転可能に設けられている。これにより、緩衝部材80と接するシャフト部材32の回転を、駆動部材31に比べて少なくできる。したがって、シャフト部材32が回転することによって、シャフト部材32と緩衝部材80との摩擦によって緩衝部材80が摩耗するのを抑制することができる。
【0062】
なお、上記の実施形態は、本開示の様々な実施形態の一つに過ぎない。上記実施形態は、本開示の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。
【0063】
上記の実施形態では、駆動軸30が駆動部材31とシャフト部材32との2つの部材に分かれていたが、駆動軸30は1つの部材で構成されていてもよい。すなわち、モータ軸21の回転に応じて回転する駆動部材31が緩衝部材80と直接接触していてもよい。
【0064】
なお、第1移動規制部91は例えば合成ゴム等の弾性材料で形成されているが、第1移動規制部91は合成ゴム以外の材料で形成されていてもよい。第1移動規制部91の材料は、駆動軸30に比べて弾性係数が大きい材料であれば、適宜変更が可能である。
【0065】
また、第2移動規制部92は例えば金属材料で形成されているが、出力軸60の前方への移動を規制可能であれば、第2移動規制部92の材料は合成樹脂でもよく、適宜変更が可能である。
【0066】
(まとめ)
以上説明した実施形態等から、以下の態様が開示されている。
【0067】
第1の態様の電動工具(1)は、駆動軸(30)と、ハンマ(40)と、アンビル(50)と、出力軸(60)と、ハウジング(10)と、を備える。駆動軸(30)は、モータ(20)が備えるモータ軸(21)の回転に応じて回転する。ハンマ(40)は、駆動軸(30)から回転力が伝達されて回転する。アンビル(50)は、ハンマ(40)が回転することによってハンマ(40)から打撃を加えられて回転する。出力軸(60)は、先端工具(B1)を取付可能である。出力軸(60)は、アンビル(50)と回転方向において係合し、アンビル(50)の回転に応じて回転する。ハウジング(10)は、少なくともハンマ(40)とアンビル(50)とを覆い、軸受部(70)を介して出力軸(60)を支持する。アンビル(50)は、軸方向において出力軸(60)と隙間(GP1)を介して対向している。駆動軸(30)は、出力軸(60)と相対回転可能に設けられている。駆動軸(30)は、軸方向において、出力軸(60)が駆動軸(30)に近づく向きに移動するのを規制している。
【0068】
この態様によれば、アンビル(50)と出力軸(60)とは隙間(GP1)を介して対向しているので、先端工具(B1)を作業対象に押し当てる場合に、アンビル(50)を経由して出力軸(60)に力が加えられることはない。また、駆動軸(30)は、出力軸(60)が駆動軸(30)に近づく向きに移動するのを規制しているので、先端工具(B1)を作業対象に押し当てることによって出力軸(60)に加わる力を駆動軸(30)で受けることができる。これにより、ハンマ(40)がアンビル(50)を打撃することによって、ハンマ(40)からアンビル(50)に加えられた打撃力が出力軸(60)に加わりにくくなり、出力軸(60)に加わる軸方向の振動を低減し、電動工具(1)から発生する音を低減することができる。
【0069】
第2の態様の電動工具(1)では、第1の態様において、出力軸(60)と駆動軸(30)の間に、出力軸(60)と駆動軸(30)との間で伝搬する軸方向の振動を低減する緩衝部材(80)が設けられている。
【0070】
この態様によれば、電動工具(1)から発生する音を更に低減することができる。
【0071】
第3の態様の電動工具(1)では、第2の態様において、駆動軸(30)が、駆動部材(31)と、シャフト部材(32)と、を含む。駆動部材(31)は、モータ軸(21)の回転に応じて回転し、ハンマ(40)に回転力を伝達する。シャフト部材(32)は、緩衝部材(80)と駆動部材(31)との間に配置される。シャフト部材(32)は、緩衝部材(80)と接触可能である。駆動部材(31)は、シャフト部材(32)に対して相対的に回転可能に設けられている。
【0072】
この態様によれば、駆動部材(31)は、シャフト部材(32)に対して相対的に回転可能に設けられているので、緩衝部材(80)と接するシャフト部材(32)の回転を、駆動部材(31)に比べて少なくできる。したがって、シャフト部材(32)が回転することによって、緩衝部材(80)が摩耗するのを抑制することができる。
【0073】
第4の態様の電動工具(1)では、第2又は第3の態様において、緩衝部材(80)は弾性材料で形成されている。
【0074】
この態様によれば、駆動軸(30)から緩衝部材(80)を介して出力軸(60)に加わる軸方向の振動を低減することができる。
【0075】
第5の態様の電動工具(1)では、第1~第4のいずれかの態様において、アンビル(50)が、軸方向においてハンマ(40)から離れる向きに移動するのを規制する第1移動規制部(91)を更に備える。
【0076】
この態様によれば、アンビル(50)が出力軸(60)に近づく方向へ移動するのを第1移動規制部(91)が規制することができる。したがって、軸方向においてアンビル(50)と出力軸(60)とが接触する可能性を低減でき、アンビル(50)から出力軸(60)に軸方向の振動が伝わる可能性を低減できる。
【0077】
第6の態様の電動工具(1)では、第5の態様において、第1移動規制部(91)はハウジング(10)に設けられており、第1移動規制部(91)は弾性材料で形成されている。
【0078】
この態様によれば、弾性材料で形成された第1移動規制部(91)によって、アンビル(50)からハウジング(10)に伝わる軸方向の衝撃を低減することができ、電動工具(1)から発生する音を更に低減できる。
【0079】
第7の態様の電動工具(1)では、第1~第6のいずれかの態様において、出力軸(60)が、軸方向においてアンビル(50)から離れる向きに移動するのを規制する第2移動規制部(92)を更に備える。
【0080】
この態様によれば、出力軸(60)が軸方向においてアンビル(50)から離れる向きに移動するのを第2移動規制部(92)が規制しているので、アンビル(50)と出力軸(60)とが回転方向において係合している状態が外れにくくなるという利点がある。
【0081】
第8の態様の電動工具(1)では、第1~第7のいずれかの態様において、出力軸(60)は、アンビル(50)に設けられた1以上の第1の歯(54)と回転方向において噛み合う1以上の第2の歯(62)を有する。1以上の第1の歯(54)と1以上の第2の歯(62)とが噛み合うことによって、出力軸(60)とアンビル(50)とが回転方向において係合する。
【0082】
この態様によれば、出力軸(60)とアンビル(50)とを回転方向において確実に係合させることができる。
【0083】
第2~第8の態様に係る構成については、電動工具(1)に必須の構成ではなく、適宜省略可能である。
【符号の説明】
【0084】
1 電動工具
10 ハウジング
20 モータ
21 モータ軸
30 駆動軸
31 駆動部材
32 シャフト部材
40 ハンマ
50 アンビル
54 第1の歯
60 出力軸
62 第2の歯
70 軸受部
80 緩衝部材
91 第1移動規制部
92 第2移動規制部
B1 先端工具
GP1 隙間