(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143808
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】複合磁性材料、圧粉磁心、及びパワーチョークコイル
(51)【国際特許分類】
H01F 1/33 20060101AFI20241003BHJP
H01F 1/26 20060101ALI20241003BHJP
H01F 17/04 20060101ALI20241003BHJP
H01F 37/00 20060101ALI20241003BHJP
H01F 27/255 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
H01F1/33
H01F1/26
H01F17/04 F
H01F37/00 A
H01F27/255
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056700
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 悠馬
(72)【発明者】
【氏名】小谷 淳一
【テーマコード(参考)】
5E041
5E070
【Fターム(参考)】
5E041AA02
5E041AA03
5E041AA05
5E041AA06
5E041AA07
5E041AA11
5E041BB05
5E041BD12
5E041CA02
5E041NN04
5E041NN05
5E070AA01
5E070AB08
5E070BB03
(57)【要約】
【課題】比透磁率の低下を抑制しつつ、耐電圧が向上しうる複合磁性材料を提供する。
【解決手段】複合磁性材料は、鉄系軟磁性合金粒子と、無機絶縁粒子と、熱硬化性樹脂と、を含有する。各無機絶縁粒子の表面は、疎水基と親水基とを有する両親媒性分子で被覆されている。疎水基は、炭化水素鎖を備え、親水基は、リン酸基とリン酸塩とのうち少なくとも一方を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄系軟磁性合金粒子と、無機絶縁粒子と、熱硬化性樹脂と、を含有する複合磁性材料であり、
前記各無機絶縁粒子の表面は、疎水基と親水基とを有する両親媒性分子で被覆されており、
前記疎水基は、炭化水素鎖を備え、
前記親水基は、リン酸基とリン酸塩とのうち少なくとも一方を備える、
複合磁性材料。
【請求項2】
前記無機絶縁粒子の平均粒子径と前記鉄系軟磁性合金粒子の平均粒子径とは、式(1)の関係を満たす、
0.09≦無機絶縁粒子の平均粒子径/鉄系軟磁性合金粒子の平均粒子径≦0.5 ・・・(1)
請求項1に記載の複合磁性材料。
【請求項3】
前記無機絶縁粒子の平均粒子径は、0.8μm以上4μm以下である、
請求項1又は2に記載の複合磁性材料。
【請求項4】
前記鉄系軟磁性合金粒子全体積に対する前記無機絶縁粒子の体積割合は、1.3体積%以上4.0体積%である、
請求項1又は2に記載の複合磁性材料。
【請求項5】
前記無機絶縁粒子全質量に対する前記両親媒性分子の割合は、10質量%以上100質量%以下である、
請求項1又は2に記載の複合磁性材料。
【請求項6】
前記無機絶縁粒子は、前記無機絶縁粒子100質量%に対して、前記両親媒性分子を10質量%以上100質量%以下の割合で添加することで得られる被覆粒子を含む、
請求項1又は2に記載の複合磁性材料。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の複合磁性材料の硬化物を含む、
圧粉磁心。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の複合磁性材料の硬化物と、コイル導体部と、を備え、
前記コイル導体部は、前記複合磁性材料の硬化物で被覆されている、
パワーチョークコイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複合磁性材料、圧粉磁心、及びパワーチョークコイルに関し、より詳細には複合磁性材料、複合磁性材料の硬化物を含む圧粉磁心及びパワーチョークコイルに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、例えば金属磁性粉末と熱硬化性樹脂とを含み、金属磁性粉末の充填率が65体積%以上90体積%以下である複合磁性体が開示されている。この複合磁性体には、更に熱硬化性樹脂以外の電気絶縁性材料を含みうること、電気絶縁性材料は、板状又は針状の粒子であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の目的は、比透磁率の低下を抑制しつつ、耐電圧が向上しうる複合磁性材料を提供することにある。
【0005】
本開示の他の目的は、比透磁率の低下を抑制しつつ、耐電圧が向上しうる圧粉磁心、並びにパワーチョークコイルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る複合磁性材料は、鉄系軟磁性合金粒子と、無機絶縁粒子と、熱硬化性樹脂と、を含有する。前記各無機絶縁粒子の表面には、疎水基と親水基とを有する両親媒性分子で被覆されている。前記疎水基は、炭化水素鎖を有する。前記親水基は、リン酸基とリン酸塩とのうち少なくとも一方を備える。
【0007】
本開示の圧粉磁心は、前記複合磁性材料の硬化物を含む。
【0008】
本開示のパワーチョークコイルは、前記複合磁性材料の硬化物と、コイル導体部と、を備える。前記コイル導体部は、前記複合磁性材料の硬化物に被覆されている。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、比透磁率の低下を抑制しつつ、耐電圧が向上しうる、という利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施形態に係る複合磁性材料を含む成形体の概略断面図である。
【
図2】
図2Aは、実施形態に係る圧粉磁心を含む磁性素子の一例を示す概略の分解斜視図である。
図2Bは、
図2Aにおける圧粉磁心を含む磁性素子の一例を示す概略の斜視図である。
【
図3】
図3Aは、実施形態に係るパワーチョークコイルの一例を示すX-X線断面図である。
図3Bは、同上の実施形態のパワーチョークコイルの概略を示す斜視図である。
【
図4】
図4は、同上の実施形態のパワーチョークコイルの変形例を示す断面図である。
【
図5】
図5は、比較例1、比較例2及び実施例1における磁場と比透磁率との関係を示すグラフである。
【
図6】
図6は、比較例1、比較例3及び実施例2における磁場と比透磁率との関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、比較例1、比較例4、実施例3及び実施例4における磁場と比透磁率との関係を示すグラフである。
【
図8】
図8は、比較例1、比較例5及び実施例5における磁場と比透磁率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.概要
以下、本開示の一実施形態について説明する。なお、以下の実施形態は、本開示の様々な実施形態の一つに過ぎない。以下の実施形態は、本開示の目的を達成できれば設計に応じて種々の変更が可能である。
【0012】
本実施形態の複合磁性材料は、鉄系軟磁性合金粒子と、無機絶縁粒子と、熱硬化性樹脂と、を含有する。各無機絶縁粒子の表面には、疎水基と親水基とを有する両親媒性分子で被覆されている。疎水基は、炭化水素鎖を有する。親水基は、リン酸基とリン酸塩とのうち少なくとも一方を備える。
【0013】
本実施形態の複合磁性材料によれば、電気絶縁性の成分である無機絶縁粒子が複合磁性材料中に含まれていても、比透磁率の低下を抑制しつつ耐電圧を向上させることができる。その理由は、下記のとおりであると推察される。ただし、本実施形態は、下記の理由の説明には拘束されない。
【0014】
従来、複合磁性材料中に電気絶縁性を有する成分を配合すると、成形体において電気絶縁性を有する成分が凝集しやすく、これにより軟磁性合金粒子等の充填率が低下し、その結果、成形体の比透磁率を低下させる傾向があった。さらに、電気絶縁性を有する成分が凝集することで耐電圧を低下させる傾向があった。これに対し、本実施形態の無機絶縁粒子は、疎水基と親水基とを有する両親媒性分子で被覆されている。具体的には、無機絶縁粒子の表面には、無機絶縁粒子の表面の成分と、親水基であるリン酸基とリン酸塩とのうち少なくとも一方とが酸塩基相互作用によって結合し、両親媒性分子が吸着している。そして、無機絶縁粒子の表面における吸着側(すなわち親水基が吸着した側)とは反対側には疎水基である炭化水素鎖が存在する。このため、無機絶縁粒子同士に凝集が生じにくくなる。複合磁性材料の成形体において無機絶縁粒子が凝集しにくく、かつ分散しやすいことで、複合磁性材料の硬化物中で鉄系軟磁性合金粒子の充填率を高めやすくすることができる。そして、鉄系軟磁性合金粒子の充填率が高まると、磁力に与える作用を有する鉄系軟磁性合金粒子の割合が相対的に増加するため比透磁率が向上しうる、と考えられる。さらに、両親媒性分子で被覆された無機絶縁粒子は、複合磁性材料の硬化物中で互いに凝集しにくくなった状態で、鉄系軟磁性合金粒子同士の粒子間に介在している。そのため、複合磁性材料の硬化物の電気抵抗率が上昇しうる。これにより、複合磁性材料から作製される成形体の絶縁耐性、すなわち耐電圧を向上させることができる、と考えられる。
【0015】
本実施形態の複合磁性材料は、硬化させることで硬化物とすることができ、上述のとおり比透磁率及び耐電圧に優れるため、圧粉磁心、及びパワーチョークコイル等の磁性素子等の電子部品を作製するために好適に用いることができる。
【0016】
2.詳細
以下、本実施形態に係る複合磁性材料、圧粉磁心、及びパワーチョークコイルについて、順に詳細に説明する。
【0017】
(1)複合磁性材料
本実施形態の複合磁性材料は、既に述べたとおり、鉄系軟磁性合金粒子と、無機絶縁粒子と、熱硬化性樹脂と、を含有する。複合磁性材料に含まれうる成分の詳細について説明する。
【0018】
(鉄系軟磁性合金粒子)
鉄系軟磁性合金粒子は、導電性を有する。鉄系軟磁性合金粒子は、複合磁性材料中において分散している。
【0019】
鉄系軟磁性合金粒子は、鉄(Fe)を主原子として含む軟磁性合金粒子である。ここで、主原子とは、軟磁性合金粒子中に含まれる原子のうち質量換算して最も質量割合の高い原子のことをいう。例えば、鉄系軟磁性合金粒子中に含まれる全原子の質量に対して鉄原子は、50質量%以上であることが好ましい。
【0020】
鉄系軟磁性合金粒子を構成する鉄系軟磁性合金は、適宜の組成を有する合金を採用できるが、例えば鉄以外の原子として、ケイ素(Si)、クロム(Cr)、及びアルミニウム(Al)からなる群から選択される少なくとも一種の原子を含みうる。ただし、鉄以外の原子は前記に限られない。
【0021】
軟磁性合金粒子とは、軟磁性を有する合金を粒子状にした粒子である。本開示において、軟磁性合金が粒子状であることには、粉末状であることも含まれる。軟磁性合金粒子において粒子状であることは、粒子径を測定し、その粒子径が100μm以下であるかどうかを確認することにより判断できる。本開示における鉄系軟磁性合金粒子の平均粒子径は、メジアン径D50(50%粒子径)を意味する。鉄系軟磁性合金粒子の平均粒子径は、レーザー回折・散乱法により鉄系軟磁性合金粒子の粒度分布を測定し、粒度分布から得られる積算値50%となる体積基準の粒径を算出して得られる。鉄系軟磁性合金粒子の平均粒子径は、例えば3μm以上40μm以下である。鉄系軟磁性合金粒子の平均粒子径がこの範囲内であると、複合磁性材料の成形体中での鉄系軟磁性合金の粒子の高い充填率を実現しやすい。また、鉄系軟磁性合金粒子の平均粒子径が40μm以下であると、複合磁性材料から作製した成形体を高周波帯で使用しても成形体(例えば磁心)中での損失を低減することができ、特に過電流損失を低減しうる。また、鉄系軟磁性合金粒子は、粒度分布がそれぞれ異なる複数の粒子群の合金粒子を含みうる。この場合、複合磁性材料の成形体における鉄系軟磁性合金の充填率をより高めやすい。一例として、鉄系軟磁性合金粒子は、平均粒子径が3μm以上20μm以下である粒子群の合金粒子(A1)と、平均粒子径が20μm以上40μm以下である粒子群の合金粒子(A2)とを含んでもよい。ただし、鉄系軟磁性合金粒子の平均粒子径は、前記のものに限られない。
【0022】
鉄系軟磁性合金の具体的な例としては、軟磁性鉄-シリコン(Fe-Si)系合金、軟磁性鉄-アルミニウム(Fe-Al)系合金、軟磁性鉄-アルミニウム-シリコン(Fe-Al-Si)系合金、軟磁性鉄-シリコン-クロム(Fe-Si-Cr)系合金、軟磁性鉄-クロム(Fe-Cr)系合金、軟磁性鉄-ニッケル(Fe-Ni)系合金、軟磁性鉄-シリコン-ホウ素(Fe-Si-B)系合金、軟磁性鉄-窒素(Fe-N)系合金、軟磁性鉄-炭素(Fe-C)系合金、軟磁性鉄-ホウ素(Fe-B)系合金、軟磁性鉄-リン(Fe-P)系合金、パーメンジュール(Fe-Co)、軟磁性鉄-コバルト-バナジウム(Fe-Co-V)系合金、Fe基アモルファス合金、Fe基ナノ結晶合金等を挙げることができる。
【0023】
複合磁性材料の固形分全量に対する鉄系軟磁性合金粒子の割合は、89質量%以上99質量%以下であることが好ましい。89質量%以上であると、複合磁性材料から成形体(例えば磁心)を作製した場合の飽和磁束密度を低下しにくくすることができる。また、99質量%以下であると、鉄系軟磁性合金粒子同士を結着させやすく、磁心としての形状を保持しやすい。本開示において、複合磁性材料の固形分全量とは、複合性磁性材料に含まれうる成分のうち揮発する成分、例えば溶剤等を除いた成分の合計量をいう。
【0024】
鉄系軟磁性合金粒子は、適宜の方法、例えば機械的粉砕、溶湯粉化、物理的粉化、及び化学的粉化等の方法により作製可能である。機械的粉砕としては、スタンプミル法、ボールミル法、及びハンマーミル法等が挙げられる。溶湯粉化としては、高圧水噴霧法(水アトマイズ法)、超高圧水噴霧法、ガス噴霧法(ガスアトマイズ法)、回転電極法、及び真空噴霧法等が挙げられる。物理的粉化又は化学的粉化としては、電気分解法、ガス還元法、固体還元法、カルボニル法、水素化物分解法、蒸発凝縮法、及びアマルガム法等が挙げられる。ただし、鉄系軟磁性合金粒子の作製方法は前記の方法に限られない。なお、鉄系軟磁性合金粒子は、適宜の分散剤、改質剤等により予め表面処理が施されていてもよい。
【0025】
(無機絶縁粒子)
無機絶縁粒子は、電気絶縁性を有する。具体的には、無機絶縁粒子は、電気絶縁性を有する無機系材料を粒子状にした粒子である。本実施形態では、無機絶縁粒子は、その表面に、疎水基と親水基とを有する両親媒性分子で被覆されている。なお、ここでいう無機系材料には、上述の鉄系軟磁性合金は含まれない。
【0026】
両親媒性分子は、疎水基と親水基とを有する化合物である。本実施形態では、疎水基は炭化水素鎖を備える。親水基は、リン酸基とリン酸塩とのうち少なくとも一方を備える。
親水基における炭化水素鎖とは、直鎖状、又は分岐状に炭化水素が連結する炭化水素基である。なお、両親媒性分子は、疎水基として、前記の炭化水素基以外の基を更に有していてもよく、また親水基としてリン酸基及びリン酸塩以外の基を更に有していてもよい。
【0027】
また、本実施形態では、無機絶縁粒子は、複合磁性材料の硬化物中で、鉄系軟磁性合金粒子の粒子間に介在しうる。すなわち、複合磁性材料の硬化物中において無機絶縁粒子は、複数の鉄系軟磁性合金粒子同士が接触しにくくなるように分散して存在しうる。このため、複合磁性材料の硬化物において、無機絶縁粒子は、耐電圧を向上させることに寄与しうる。
【0028】
本開示において、無機絶縁粒子が粒子状であることには、粉末状(粉体)であることも含まれる。また、本開示における無機絶縁粒子の平均粒子径とは、鉄系軟磁性合金粒子と同様、メジアン径D50(50%粒子径)を意味する。無機絶縁粒子の平均粒子径は、具体的には、レーザー回折・散乱法により、無機絶縁粒子の粒度分布を測定し、粒度分布から得られる積算値50%となる体積基準の粒径を算出して得られる。無機絶縁粒子の平均粒子径は、0.8μm以上4μm以下であることが好ましい。この場合、成形体の比透磁率及び耐電圧がより向上しうる。
【0029】
無機絶縁粒子の平均粒子径と鉄系軟磁性合金粒子の平均粒子径とは、以下の関係を満たすことが好ましい。すなわち、無機絶縁粒子の平均粒子径をDIns、鉄系軟磁性合金粒子の平均粒子径をDCondと表した場合に、DIns/DCondで表される比が下記式(1)の関係を満たすことが好ましい。
【0030】
0.09≦DIns/DCond≦0.5 ・・・(1)
前記の比DIns/DCondが0.09以上であれば、複合磁性材料の硬化物において無機絶縁粒子が鉄系軟磁性合金粒子同士の粒子間により入り込んで介在しやすくなり、鉄系軟磁性合金粒子の充填率を更に高めやすい。このため、硬化物の比透磁率を更に高めやすい。また、前記の比DIns/DCondが0.5以下であれば、複合磁性材料の硬化物における鉄系軟磁性合金粒子の充填率を高く維持しながら、耐電圧をより向上させることができる。DIns/DCondは、0.2以上であればより好ましい。
【0031】
複合磁性材料中において、鉄系軟磁性合金粒子の体積を100(体積%)とした場合に、鉄系軟磁性合金粒子全体積に対する無機絶縁粒子の割合は、1.3体積%以上4.0体積%以下であることが好ましい。無機絶縁粒子の割合が上記範囲内であると、複合磁性材料中の鉄系軟磁性合金粒子の充填性をより良好に高めることができる。このため、複合磁性材料の成形体の比透磁率をより向上させることができ、また耐電圧もより向上させることができる。
【0032】
無機絶縁粒子を構成する無機系材料は、適宜の絶縁性を有する無機系の成分を採用できる。無機系材料は、例えばタルク(含水ケイ酸マグネシウム)、シリカ(酸化ケイ素)、アルミナ(酸化アルミニウム)、窒化ホウ素、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、及びマイカ(雲母)からなる群から選択される少なくとも一種を含む。窒化ホウ素は、六方晶窒化ホウ素(h-BN)を含むことが好ましい。
【0033】
本開示における、表面が両親媒性分子で被覆された無機絶縁粒子は、例えば以下のようにして作製可能である。ただし、表面が両親媒性分子で被覆された無機絶縁粒子の作製方法は以下の方法に限られない。
【0034】
無機絶縁粒子として絶縁性を有する粒子状の無機系材料と、分散剤と、を用意する。
【0035】
分散剤は、上述の両親媒性分子を含有する。このため、無機絶縁粒子の表面を両親媒性分子で特に被覆しやすい。分散剤は、例えばリン酸エステル系分散剤であることが好ましい。リン酸エステル系分散剤は、両親媒性分子を有し、疎水基は炭化水素鎖を備え、親水基はリン酸基とリン酸塩とのうち少なくとも一方を備える。より具体的には、分散剤は、例えばリン酸エステル系湿潤分散剤である。
【0036】
続いて、無機絶縁粒子と、分散剤と、必要により有機溶剤等の溶剤とを混合し、無機絶縁粒子を混合物中で分散させる。この場合において、無機絶縁粒子100質量%に対する両親媒性分子の割合は、10質量%以上100質量%以下であることが好ましい。両親媒性分子の割合が10質量%以上であると、複合磁性材料の成形体が高い比透磁率を維持でき、かつ耐電圧を向上させることできる。また、両親媒性分子の割合が100質量%以下であれば、無機絶縁粒子の表面に十分な量の両親媒性分子で被覆することができるため、特に優れた比透磁率及び耐電圧が実現しやすい。前記の両親媒性分子の割合は、30質量%以上であればより好ましい。前記の両親媒性分子の割合の上限は特に制限されず、例えば100質量%である。
【0037】
これにより、両親媒性分子で被覆された無機絶縁粒子が得られる。
【0038】
(熱硬化性樹脂)
熱硬化性樹脂は、複合磁性材料の硬化物において、いわゆるバインダー(結着剤)として機能する。すなわち、熱硬化性樹脂は、複合磁性材料の硬化物において鉄系軟磁性合金粒子同士を結着させうる機能を有する。ただし、本実施形態においては、上述のとおり、複合磁性材料の硬化物中で鉄系軟磁性合金粒子同士の間には無機絶縁粒子が介在しているため、結着とは、鉄系軟磁性合金粒子同士すべてが結着されることには限られない。
【0039】
熱硬化性樹脂は、電気絶縁性を有しうる、そのため、複合磁性材料を硬化すると、熱硬化性樹脂は、軟磁性合金粒子同士の隙間を埋めるように入り込みうるため、複合磁性材料の成形体の電気絶縁性を高めうる。また、熱硬化性樹脂は、複合磁性材料を成形して硬化物を作製するにあたって成形性を確保しうる。
【0040】
熱硬化性樹脂は、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂、シリコン樹脂、ポリイミド、有機リン酸化合物等を挙げることができるがこれに限られない。
【0041】
エポキシ樹脂としては、例えばフェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のアルキルフェノールノボラック型エポキシ樹脂;ナフトールノボラック型エポキシ樹脂;フェニレン骨格、ビフェニレン骨格等を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂;ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂;フェニレン骨格、ビフェニレン骨格等を有するナフトールアラルキル型エポキシ樹脂;トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂等の多官能型エポキシ樹脂;トリフェニルメタン型エポキシ樹脂;テトラキスフェノールエタン型エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂;スチルベン型エポキシ樹脂;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂;ナフタレン型エポキシ樹脂;脂環式エポキシ樹脂;ビスフェノールA型ブロム含有エポキシ樹脂等のブロム含有エポキシ樹脂;ジアミノジフェニルメタンやイソシアヌル酸等のポリアミンとエピクロルヒドリンとの反応により得られるグリシジルアミン型エポキシ樹脂;並びにフタル酸やダイマー酸等の多塩基酸とエピクロルヒドリンとの反応により得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂からなる群から選択される一種以上の成分が挙げられる。
【0042】
熱硬化性樹脂は、例えば液状であってもよいし、固体状であってもよい。
【0043】
複合磁性材料は、熱硬化性樹脂以外の硬化性を有する成分を含有してもよい。例えば、複合磁性材料は、光硬化性の成分を含有してもよい。
【0044】
鉄系軟磁性合金粒子全量に対する熱硬化性樹脂の割合は、複合磁性材料の形状、熱硬化性樹脂の種類、成形体に必要な特性に応じて適宜調整すればよいが、例えば1質量%以上10質量%以下である。この範囲内であると、複合磁性材料の成形体の電気絶縁性を良好に維持しやすい。
【0045】
本開示の目的を逸脱しない限りにおいて、複合磁性材料は、上記以外の成分を含有してもよい。例えば、複合磁性材料は、上記以外の成分として、添加剤を含有しうる。添加剤としては、例えば改質剤、潤滑剤、硬化剤等が挙げられる。
【0046】
改質剤、又は潤滑剤は、複合磁性材料の硬化物中の鉄系軟磁性合金粒子の分散性を向上させたり、鉄系軟磁性合金粒子の表面を改質したりしうる。改質剤としては、例えばカップリング剤、及び界面活性剤等を挙げることができる。カップリング剤としては、シランカップリング剤、チタン系カップリング剤、チタンアルコキシド、及びチタンキレートからなる群から選択される少なくとも一種の成分を挙げることができる。界面活性剤としては、例えばイオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤を挙げることができる。
【0047】
また、潤滑剤としては、例えば有機金属石鹸等を挙げることができ、有機金属石鹸は、例えばステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、及びステアリン酸バリウムからなる群から選択される少なくとも一種の成分を挙げることができる。なお、改質剤及び潤滑剤は前記の成分に限られない。
【0048】
硬化剤としては、熱硬化性樹脂を硬化させうる成分であれば特に制限されない。なお、本開示においては、硬化剤には、硬化促進剤、硬化触媒、硬化助剤も含まれる。硬化剤としては、具体的には、例えばフェノール系硬化剤、酸無水物系硬化剤、脂肪族アミン系硬化剤、及び芳香族アミン系硬化剤、並びにイミダゾール系硬化促進剤、第3級アミン類、及びリン化合物等を挙げることができる。
【0049】
(2)複合磁性材料の調製、及び成形体
本実施形態の複合磁性材料は、例えば以下のようにして調製することができる。
【0050】
まず、鉄系軟磁性合金粒子と、表面に両親媒性分子を有するように被覆処理が施された無機絶縁粒子(以下、「被覆無機絶縁粒子」ということがある。)と、熱硬化性樹脂と、を用意する。鉄系軟磁性合金粒子は、必要により、適宜の分散剤、改質剤、及び潤滑剤などにより予め表面処理等が施されていてもよい。
【0051】
そして、例えば混練可能な容器に鉄系軟磁性合金粒子と被覆無機絶縁粒子とを加え混合し、均一になるように分散させる。
【0052】
続いて、鉄系軟磁性合金粒子と被覆無機絶縁粒子とを混合させてから、熱硬化性樹脂を更に添加し、必要により更に添加剤、溶剤等を加え、これらの混合物を混練する。熱硬化性樹脂を添加するにあたっては、熱硬化性樹脂を予め溶剤に溶解させた状態で鉄系軟磁性合金粒子と被覆無機絶縁粒子とに添加してもよい。また、混練するにあたっては適宜の混練装置を採用可能である。混練する際の条件は、熱硬化性樹脂の種類、溶融開始温度等に応じて適宜調整すればよいが、例えば加熱温度は、熱硬化性樹脂が硬化を開始するよりも低い温度とすることができる。これにより、複合磁性材料が得られる。
【0053】
また、混練された複合磁性材料を適宜の温度で加熱することで、複合磁性材料を乾燥させてもよい。混練するにあたって有機溶剤等の溶剤を添加する場合には、溶剤が揮発しうる温度で加熱して乾燥することが好ましい。
【0054】
また、乾燥させた複合磁性材料を適宜の粉砕装置等により粉砕することで、複合磁性材料を粉末状にしてもよい。粉砕には、スタンプミル法、ボールミル法、及びハンマーミル法等を採用すればよい。また、粉砕してから更に分級することで、適宜の粒子径を有する複合磁性材料を作製してもよい。複合磁性材料の粒子径は、例えば100μm以上500μm以下とすることができるが、これに限られない。
【0055】
このように、複合磁性材料の形状又は性状は特に制限されない。複合磁性材料を粉末状(粉体)にすると、成形性を高めやすい。そのため、複合磁性材料の粉体は、例えば成形体を作製するための材料として特に好適に用いることができる。成形体を作製するには、まず、粉体の複合磁性材料を、金型に投入し、適宜の形状に加圧成形する。加圧時の条件は、適宜調整すればよいが、例えば1ton/cm2以上10ton/cm2以上とすることができる。
【0056】
続いて、加圧成形後の複合磁性材料を加熱することで、熱硬化性樹脂を硬化させる。加熱温度及び加熱時間などの条件は、熱硬化性樹脂の種類等に応じて適宜調整すればよいが、加熱温度は、例えば150℃以上300℃以下、加熱時間は1分以上10時間以下である。
【0057】
これにより、複合磁性材料の硬化物が得られる。なお、本開示において、複合磁性材料の成形体は、複合磁性材料の硬化物を含む。
【0058】
図1には、本実施形態の複合磁性材料から作製される成形体1の概略の断面図を示している。
図1に示されるように、成形体1は、鉄系軟磁性合金粒子2と、無機絶縁粒子3と、熱硬化性樹脂の硬化物4と、を含有している。すなわち、成形体1は、上記で説明した複合磁性材料を含んでいる。そして、鉄系軟磁性合金粒子2の粒子間には、無機絶縁粒子3が介在している。また、各無機絶縁粒子3の表面は、炭化水素鎖を有する疎水基と、リン酸基とリン酸塩とのうち少なくとも一方の親水基と、を有する両親媒性分子で被覆されている。このため、複合磁性材料を含む成形体は、比透磁率の低下を抑制しつつ耐電圧の向上を実現しうる。
【0059】
(成形体及び硬化物の特性)
複合磁性材料の硬化物の初比透磁率とは、磁場を印加していない場合(すなわち、磁場0kA/m)における比透磁率である。本開示における複合磁性材料の初比透磁率、及び磁場を印加した際の比透磁率は、後掲の実施例『(2-1)評価1:初比透磁率及び比透磁率』に記載の方法で測定し、算出可能である。
【0060】
複合磁性材料の硬化物の耐電圧は、70V/mm以上であることが好ましい。この場合、複合磁性材料から作製される硬化物をインダクタ部品の磁心として用いると、磁心のリーク電流が良好に低減されうる。本開示における硬化物の耐電圧は、後掲の実施例『(2-2)評価2:耐電圧』に記載の方法で測定し、算出可能である。
【0061】
本実施形態の複合磁性材料は、上述のとおり、電気絶縁性の成分が含まれていても、成形体の比透磁率及び耐電圧の向上が両立できるものである。このため、本実施形態の複合磁性材料は、例えば加圧して、所望の形状に成形することで磁性素子、及び磁性素子に備えられる磁心を製造するために、好適に用いることができる。
【0062】
例えば、複合磁性材料は、磁気応答性の電子部品、例えば磁性素子であるインダクタ部品等を製造するために用いることができる。インダクタ部品としては、例えばインダクタ、ノイズフィルタ、リアクトル、及びトランス等が挙げられる。また、磁性素子の用途としては、特に限定されないが、例えば、ノイズフィルタの部品、及びインピーダンスマッチング回路の部品等が挙げられる。インダクタ部品は、例えばコイル線状の導体部と、コイル線状の導体部を被覆する被覆層とを備える。そのため、複合磁性材料から作製される成形体を、被覆層として用いることでインダクタ部品を作製しうる。特に、本実施形態の複合磁性材料の成形体1は、圧粉磁心10及びパワーチョークコイル110等に好適に用いることができる。ただし、複合磁性材料の用途が前記に限られるという趣旨ではない。
【0063】
本実施形態の圧粉磁心10及びパワーチョークコイル110の好ましい態様について、図面(
図2A~
図4)を参照して説明する。
【0064】
(3)圧粉磁心
圧粉磁心10は、例えば磁心を備える磁性素子に用いられる。圧粉磁心10は、ダストコアと称されることもある。
【0065】
圧粉磁心10は、上記の複合磁性材料の成形体1(硬化物)を含む。本実施形態の圧粉磁心10は、例えば上記の複合磁性材料を加圧成形し、加熱することで得られる成形体である。
【0066】
圧粉磁心10の形状は、磁性素子等の電子部品に用いるにあたっての適宜の形状に応じて設定すればよく、特に制限されないが、例えば円柱形状、多角柱形状、トロイダル形状、円盤形状等とすることができる。
【0067】
具体的には、
図2Aに一例として示す圧粉磁心10は、空芯を有するように銅線が巻回されたコイル導体部20に対し、コイル導体部20の空芯を通る凸部102を有し、かつコイル導体部20の巻回部分の周囲を覆うように本体部101を有して成形されている。
図2Aでは、コイル導体部20は、例えば平角銅線を巻回して形成されたエッジワイズコイルであるが、これに限られない。
【0068】
図2Aでは、同様の形状を有する2つの圧粉磁心10(11,12)で、コイル導体部20が、コイル導体部20の空芯を通るように凸部102を配置して、空芯の上下方向から挟まれているチョークコイル100の分解斜視図を示している。すなわち、コイル導体部20と、圧粉磁心10(11,12)とからチョークコイル100が作製される(
図2B参照)。圧粉磁心11,12に挟まれたコイル導体部20のうち先端部200(第1先端部201及び第2先端部202)は、圧粉磁心11,12を重ねた段階では各圧粉磁心11,12からはみ出しうるが、第1先端部201及び第2先端部202は、外部回路と接続しうる端子(接続端子)となりうる。また、接続端子は、圧粉磁心11,12にコイル導体部20を挟んで重ねてから、コイル導体部20の先端部201,202を互いに反対方向に折り曲げることにより、作製されうる。また、
図2Bに示すように、圧粉磁心11,12にコイル導体部20を挟んで重ねてから、圧粉磁心10(11,12)の本体部101全体を覆うように樹脂でモールド成形を施すことで筐体50が形成されてもよい。
【0069】
(4)パワーチョークコイル
パワーチョークコイルは、端子部間を流れる電気エネルギーを、磁気エネルギーとして蓄える受動素子である。具体的には、パワーチョークコイル110は、例えばコイル導体部20を備える。コイル導体部20は、2つの端子部(第1端211及び第2端212)を有する(
図3A参照)。パワーチョークコイル110は、コイル導体部20における第1端子211と第2端子部212との間を流れる電流により磁気エネルギーを発生しうる。コイル導体部20は、例えば平角銅線を巻回して形成されたエッジワイズコイルである。
【0070】
上述のとおり、複合磁性材料は、成形体1に高い比透磁率及び耐電圧を付与しうるため、パワーチョークコイル110を作製するために好適に用いることができる。本実施形態のパワーチョークコイル110は、複合磁性材料の硬化物と、コイル導体部20と、を備えている。コイル導体部20は、複合磁性材料の硬化物で被覆されている。なお、複合磁性材料の硬化物は、複合磁性材料の成形体1であるため、上述の圧粉磁心10であってもよい。
【0071】
上述の
図2Bのようなチョークコイル100は、パワーチョークコイル110の一種といえるが、
図3A~
図3Bに示すパワーチョークコイル110では、複合磁性材料とコイル導体部20とが一体成形されている。具体的には、
図3Aの断面図で示されるように、パワーチョークコイル110において、コイル導体部20は、複合磁性材料に被覆されて成形されることで、成形体1の内部に内蔵されている。すなわち、
図2A~
図2Bに示すチョークコイル100では、複合磁性材料の成形体(圧粉磁心10)とコイル導体部20とを別々に用意して組み立てるコイル組立型の磁性素子であるのに対し、
図3A~
図3Bに示すパワーチョークコイル110は、コイル導体部20を内包するように複合磁性材料とコイル導体部20とが一体成形されたコイル埋設型の磁性素子といえる。
【0072】
図3A及び
図3Bに示すように、パワーチョークコイル110は、成形体1の内部に空芯を有するコイル導体部20を備えており、大きな電流が流れる用途にも適用でき、かつ小型化が可能である。
【0073】
コイル導体部20は、第1端211及び第2端212を有する。第1端211及び第2端212は、各々の接続端子30に接続されている。具体的には、第1端211は、第1の接続端子31に接続されており、第2端212は、第2の接続端子32に接続されている。また、コイル導体部20の空芯部分は、複合磁性材料の硬化物(成形体1)で埋められており、このため、コイル導体部20の空芯であった部分は、磁路となりうる。
【0074】
接続端子30(第1の接続端子31及び第2の接続端子32)は、外部電極と接続されることにより、パワーチョークコイル110に電流を流すことができる。パワーチョークコイル110に電流が流れると、磁界が生じるが、磁路に複合磁性材料の成形体1を含むことで、比透磁率を低下させにくいことにより、パワーチョークコイル110は、良好に電気エネルギーを磁気エネルギーに変換し、磁気エネルギーを蓄えうる。また、パワーチョークコイル110は、耐電圧にも優れる。
【0075】
なお、
図3Bに示すように、複合磁性材料の硬化物(成形体1)、コイル導体部20の第1端211及び第2端212の外面を適宜の樹脂でモールド成形を施すことで筐体51が形成されていてもよい。
【0076】
(変形例)
図4に示すパワーチョークコイル110も、
図3A及び
図3Bと同様、複合磁性材料とコイル導体部20とが一体成形されたコイル埋設型の磁性素子である。
図4に示すパワーチョークコイル110では、コイル導体部20として、例えばコイル線材、具体的には巻線コイル20Aが用いられている。パワーチョークコイル110では、巻線コイル20Aと複合磁性材料とが一体に成形されている。巻線コイル20Aは、第1端及び第2端(図示省略)を有し、巻線コイル20Aの第1端と第2端とのそれぞれが、各接続端子30に接続されることで、パワーチョークコイル110に電流を流すことができる。本変形例のパワーチョークコイル110も、比透磁率が低下しにくく、耐電圧に優れる。
【0077】
(5)まとめ
上述の実施形態から明らかなように、本開示の下記の態様を含む。以下では、実施形態との対応関係を明示するためだけに、符号を括弧付きで付している。
【0078】
第1の態様に係る複合磁性材料は、鉄系軟磁性合金粒子と、無機絶縁粒子と、熱硬化性樹脂と、を含有する。前記各無機絶縁粒子の表面は、疎水基と親水基とを有する両親媒性分子で被覆されている。前記疎水基は、炭化水素鎖を備え、前記親水基は、リン酸基とリン酸塩とのうち少なくとも一方を備える。
【0079】
この態様によれば、成形体の比透磁率を低下させにくくしつつ、耐電圧を向上できる。
【0080】
第2の態様に係る複合磁性材料は、第1の態様において、前記無機絶縁粒子の平均粒子径と前記鉄系軟磁性合金粒子の平均粒子径とは、式(1)の関係を満たす。
【0081】
0.09≦無機絶縁粒子の平均粒子径/鉄系軟磁性合金粒子の平均粒子径≦0.5 ・・・(1)
【0082】
この態様によれば、成形体の比透磁率を更に高めやすく、また耐電圧をより向上させうる。
【0083】
第3の態様に係る複合磁性材料は、第1又は第2の態様において、前記無機絶縁粒子の平均粒子径は、0.8μm以上4μm以下である。
【0084】
この態様によれば、成形体の比透磁率及び耐電圧が更に向上しうる。
【0085】
第4の態様に係る複合磁性材料は、第1から第3のいずれか一の態様において、前記鉄系軟磁性合金粒子全体積に対する前記無機絶縁粒子の体積割合は、1.3体積%以上4.0体積%である。
【0086】
この態様によれば、成形体の高い比透磁率を維持でき、耐電圧をより向上させうる。
【0087】
第5の態様に係る複合磁性材料は、第1から第4のいずれか一の態様において、前記無機絶縁粒子全質量に対する前記両親媒性分子の割合は、10質量%以上100質量%以下である。
【0088】
この態様によれば、複合磁性材料の成形体が高い比透磁率を維持でき、かつ耐電圧を向上させることできる。また、両親媒性分子の割合が100質量%以下であれば、無機絶縁粒子の表面に十分な量の両親媒性分子で被覆することができるため、特に優れた比透磁率及び耐電圧が実現しやすい。
【0089】
第6の態様に係る複合磁性材料は、第1から第5のいずれか一の態様において、前記無機絶縁粒子が、前記無機絶縁粒子100質量%に対して、前記両親媒性分子を10質量%以上100質量%以下の割合で添加することで得られる被覆粒子を含む。
【0090】
この態様によれば、複合磁性材料の成形体が高い比透磁率を維持でき、かつ耐電圧を向上させることできる。また、両親媒性分子の割合が100質量%以下であれば、無機絶縁粒子の表面に十分な量の両親媒性分子で被覆することができるため、特に優れた比透磁率及び耐電圧が実現しやすい。
【0091】
第7の態様に係る圧粉磁心(10)は、第1から第6のいずれか一の態様の複合磁性材料の硬化物を含む。
【0092】
この態様によれば、比透磁率を低下させにくくしつつ、耐電圧の向上を両立して実現しうる圧粉磁心(10)が得られる。
【0093】
第8の態様に係るパワーチョークコイル(110)は、第1から第6のいずれか一の態様の複合磁性材料の硬化物と、コイル導体部(20)と、を備える。前記コイル導体部(20)は、前記複合磁性材料の硬化物で被覆されている。
【0094】
この態様によれば、比透磁率を低下させにくくしつつ、耐電圧の向上を両立して実現しうるパワーチョークコイル(110)が得られる。
【実施例0095】
以下、本開示を実施例によって具体的に説明する。ただし、本開示は、以下の実施例に限定されない。
【0096】
(1)実験1(複合磁性材料の調製)
[比較例1]
鉄系軟磁性合金粒子(以下、「合金粒子」ともいう。)として、平均粒子径D50が9μmであるFe-Si-Cr系の金属粉末(FeSiCr系金属粉)を用意した。用意した合金粒子100質量%に対し、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を4質量%、有機溶剤としてMEK(メチルエチルケトン)を混合した。比較例1では、無機絶縁粒子を添加していない。混合物を混練したのち、50℃で30分間乾燥することで溶剤を除去し、複合磁性材料(乾燥物)を調製した。
【0097】
乾燥物を粉砕機により粉砕し、続いて分級することで、100μm~500μmの粒子径を有する複合磁性材料の粉体を得た。
【0098】
続いて、粉体を圧縮成形金型に添加し、加圧圧力2t/cm2の条件で成形した。なお、後掲の評価のため、トロイダル形状を有する成形体と、円盤形状を有する成形体と、を準試験片として作製した。続いて、各準試験片の成形体を175℃で3時間加熱することにより硬化させ、複合磁性材料の硬化物を作製した。これにより、トロイダル形状の硬化物の試験片、及び円盤形状の硬化物の試験片を得た。硬化物の試験片の密度、及び合金粒子の充填率(体積%)は、表1にそれぞれ「密度(g/cm3)」、及び「合金粒子充填率(体積%)」で示すとおりである。なお、硬化物の試験片の密度は、試験片の質量をマイクロメータで測長した試験片の体積で除して算出した。合金粒子の充填率は、下記式(2)から算出した。以下も同様である。下記式(2)において、試験片の密度をdMea、合金粒子の真密度をdMet、無機絶縁粒子の真密度をdIns、熱硬化性樹脂の真密度をdRes、合金粒子の充填率をaMet、複合磁性材料中における合金粒子100質量%に対して、無機絶縁粒子質量%をMIns、熱硬化性樹脂の質量%をMRes、両親媒性分子の質量%をMAmp、とそれぞれ表した。
【0099】
aMet=dMea×(100/dMet)/(100+MIns+MRes+MAmp)×100・・・(2)
【0100】
[実施例1、比較例2]
実施例1では、合金粒子として、平均粒子径(D50)が9μmであるFeSiCr系金属粉を用意した。また、無機絶縁粒子として平均粒子径D50が2μmであるタルクを用意し、無機絶縁粒子100質量%に対し33質量%のリン酸エステル系湿潤分散剤、及び有機溶剤としてMEKを適量添加することで撹拌し、無機絶縁粒子に表面処理を施し、被覆無機絶縁粒子を調製した。
【0101】
続いて、合金粒子と、被覆無機絶縁粒子とを混合してから、合金粒子100質量%に対し、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を4質量%、有機溶剤としてMEKを混合した。そして、混合物を混練したのち、50℃で30分間乾燥することで溶剤を除去し、複合磁性材料(乾燥物)を調製した。乾燥物を粉砕機により粉砕し、続いて分級することで、100μm~500μmの粒子径を有する複合磁性材料の粉体を得た。
【0102】
比較例2では、実施例1と無機絶縁粒子がタルクであることは同様であるが、無機絶縁粒子に対して表面処理を施さなかった。それ以外は、実施例1と同様に、混合し、混練、乾燥、粉砕、分級することで100μm~500μmの粒子径を有する複合磁性材料の粉体を得た。
【0103】
続いて、実施例1及び比較例2の各複合磁性材料の粉体について、比較例1と同様の条件で、粉体を圧縮成形し、トロイダル形状を有する成形体と、円盤形状を有する成形体と、を準試験片として作製し、準試験片である成形体を175℃で3時間加熱することにより硬化させた。これにより、トロイダル形状の硬化物の試験片、及び円盤形状の硬化物の試験片を得た。硬化物の試験片の密度、合金粒子の充填率(体積%)は表1に示すとおりである。
【0104】
[実施例2、比較例3]
実施例2では、実施例1における無機絶縁粒子を平均粒子径D50が4μmであるシリカに変更し、無機絶縁粒子を表面処理するにあたりリン酸エステル系湿潤分散剤の量を35質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様の条件で、複合磁性材料の粉体を作製した。
【0105】
比較例3では、比較例2における無機絶縁粒子を平均粒子径D50が4μmであるシリカに変更した以外は、比較例2と同様の条件で、複合磁性材料の粉体を作製した。
【0106】
続いて、実施例2及び比較例3の各複合磁性材料の粉体について、比較例1と同様の条件で、粉体を圧縮成形し、トロイダル形状を有する成形体と、円盤形状を有する成形体と、を準試験片として作製し、準試験片である成形体を175℃で3時間加熱することにより硬化させた。これにより、トロイダル形状の硬化物の試験片、及び円盤形状の硬化物の試験片を得た。硬化物の試験片の密度、合金粒子の充填率(体積%)は表1に示すとおりである。
【0107】
[実施例3-4、比較例4]
実施例3では、実施例1における無機絶縁粒子を平均粒子径D50が3μmであるアルミナに変更し、無機絶縁粒子を表面処理するにあたりリン酸エステル系湿潤分散剤の量を23質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様の条件で、複合磁性材料の粉体を作製した。
【0108】
実施例4では、実施例3におけるリン酸エステル系湿潤分散剤の量を35質量%に変更したこと以外は、実施例3と同様の条件で、複合磁性材料の粉体を作製した。
【0109】
比較例4では、比較例2における無機絶縁粒子を平均粒子径D50が3μmであるアルミナに変更した以外は、比較例2と同様の条件で、複合磁性材料の粉体を作製した。
【0110】
続いて、実施例3-4及び比較例4の各複合磁性材料の粉体について、比較例1と同様の条件で、粉体を圧縮成形し、トロイダル形状を有する成形体と、円盤形状を有する成形体と、を準試験片として作製し、準試験片である成形体を175℃で3時間加熱することにより硬化させた。これにより、トロイダル形状の硬化物の試験片、及び円盤形状の硬化物の試験片を得た。硬化物の試験片の密度、合金粒子の充填率(体積%)は表1に示すとおりである。
【0111】
[実施例5、比較例5]
実施例5では、実施例1における無機絶縁粒子を平均粒子径D50が3μmである窒化ホウ素(六方晶窒化ホウ素)に変更し、無機絶縁粒子を表面処理するにあたりリン酸エステル系湿潤分散剤の量を41質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様の条件で、複合磁性材料の粉体を作製した。
【0112】
比較例5では、比較例2における無機絶縁粒子を平均粒子径D50が3μmである窒化ホウ素(六方晶窒化ホウ素)に変更した以外は、比較例2と同様の条件で、複合磁性材料の粉体を作製した。
【0113】
続いて、実施例5及び比較例5の各複合磁性材料の粉体について、比較例1と同様の条件で、粉体を圧縮成形し、トロイダル形状を有する成形体と、円盤形状を有する成形体と、を準試験片として作製し、準試験片である成形体を175℃で3時間加熱することにより硬化させた。これにより、トロイダル形状の硬化物の試験片、及び円盤形状の硬化物の試験片を得た。硬化物の試験片の密度、合金粒子の充填率(体積%)は表1に示すとおりである。
【0114】
(2)実験1の評価
(2-1)評価1:初比透磁率及び比透磁率
各実施例及び比較例において、外径φ14mm、内径φ10mm、厚さ約2mmの寸法を有するトロイダル形状の成形体の硬化物の試験片に対し、φ0.6mm、被覆厚さ0.15mmを有する銀メッキ軟銅線を30回巻回してから、LCRメータに接続し、10kHz条件で電流0Aでのインダクタンスを測定した。得られた結果から、下記式(3)に基づき、比透磁率を算出した。式(3)中、Lはインダクタンス[H]、μ0は真空の透磁率[H/m]、μiは比透磁率、leは磁路長[m]、Aeは断面積[m2]、及びnはコイルの巻き数をそれぞれ示し、[]内に示す字句は単位である。これにより算出された数値を表1に示す。
【0115】
L=(μi)×(μ0)×n2×Ae/le・・・(3)
続いて、磁場を印加した場合のインダクタンスを測定するために、上述の試験片に同様の条件で銅線を巻回したものに対し、直流バイアス電流を印加して、初比透磁率と同様にLCRメータを用いて10kHzの条件でインダクタンスを測定した。
【0116】
なお、印加磁場に対して必要な直流電流は、下記式(4)に基づき、算出した。式(4)中、Hxは印加磁場[A/m]、leは磁路長[m]、Ixは印加電流[A]、及びnはコイルの巻き数をそれぞれ示し、[]内に示す字句は単位である。
【0117】
Hx=n/le×Ix・・・(4)
表1に、磁場を印加していない場合(0kA/m)における比透磁率(初比透磁率ともいう)と磁場が12.4kA/mにおける比透磁率を示す。そして、印加磁場と比透磁率との関係を示すグラフを
図5~
図8に示す。
図5~
図8において、横軸は磁場[kA/m]、縦軸は比透磁率である。
図5は、比較例1と比較例2及び実施例1との結果を示している。
図6は、比較例1と比較例3及び実施例2との結果を示している。
図7は、比較例1と比較例4、実施例3及び実施例4との結果を示している。
図8は、比較例1と比較例5及び実施例5との結果を示している。
【0118】
(2-2)評価2:耐電圧
各実施例及び比較例において、直径φ12mm、厚さ約1mmの寸法を有する円盤形状の成形体の硬化物の試験片の中心付近の両面をプローブで挟み、超高抵抗/微小電流計により、直流電圧10Vを段階的に印加した。ディスチャージ時間は1秒、チャージ時間は10秒とした。これにより得られた「リーク電流が10mA以上となった時点での電圧[V]」から、下記式(5)に基づき、耐電圧を算出した。式(5)中、Exは耐電圧[V/mm]、Ezは「リーク電流が10mA以上となった時点の電圧」[V]、dは試験片の厚さ[mm]を示し、[]内に示す字句は単位である。その結果を表1の「耐電圧(V/mm)」の欄に示す。
【0119】
Ex=(Ez-10)/d・・・(5)
【0120】
【0121】
上記結果から明らかなように、無機絶縁粒子を添加していない比較例1と、表面処理を施していない無機絶縁粒子を添加した比較例2-5とを対比すると、
図5~
図8及び表1から明らかなように、比較例2-5では、いずれの無機絶縁粒子を用いても、比較例1よりも比透磁率が低下することが示された。
【0122】
これに対し、無機絶縁粒子を添加していない比較例1と、被覆無機絶縁粒子を添加した実施例1-5と、を対比すると、
図5~
図8及び表1から明らかなように、被覆無機絶縁粒子を添加した実施例1-5は、合金粒子の充填率が低下するものの、いずれの無機絶縁粒子を用いても、比較例1と同程度の比透磁率が得られることがわかった。さらに、比較例1に比べて、実施例1-5では、非常に高い耐電圧を実現できることが示された。
【0123】
また、比較例2-5と実施例1-5とについて、同じ種類の無機絶縁粒子で対比すると、被覆無機絶縁粒子を配合することにより、高い比透磁率が実現できることが示された。
【0124】
さらに、被覆無機絶縁粒子を添加した実施例1-5では、同じ種類の無機絶縁粒子で対比すると、被覆無機絶縁粒子を配合することにより高い耐電圧を実現できることが示された。
【0125】
(3)実験2(複合磁性材料の調製)
次に、上記実験1との対比のため、以下の実験を行った。
【0126】
[実施例6-21、比較例6-10]
実施例6-21では、表2又は表3に示すように、無機絶縁粒子の「種類」、平均粒子径「D50(μm)」、「添加量(対合金粒子(体積%))」、及び無機絶縁粒子表面の被覆に用いる分散剤の「添加量(対無機絶縁粒子(質量%))」のうち1つ又は複数を、上述の実施例1から変更して、実施例1と同様の条件で、複合磁性材料の粉体を作製した。
【0127】
また、比較例6-10では、表2又は表3に示すように、無機絶縁粒子の「種類」、平均粒子径「D50(μm)」、及び「添加量(対合金粒子(体積%))」のうち1つ又は複数を、上述の比較例2から変更して、比較例2と同様の条件で、複合磁性材料の粉体を作製した。
【0128】
そして、実施例6-21及び比較例6-10の各複合磁性材料の粉体についても、比較例1と同様の条件で、粉体を圧縮成形し、トロイダル形状を有する成形体と、円盤形状を有する成形体と、を準試験片として作製し、準試験片である成形体を175℃で3時間加熱することにより硬化させ、トロイダル形状の硬化物の試験片、及び円盤形状の硬化物の試験片を得た。
【0129】
(4)実験2の評価
上記の『(2-1)評価1:初比透磁率及び比透磁率』と同様の条件で、実施例6-21、及び比較例6-10についても、インダクタンスを測定し、初比透磁率及び比透磁率を算出した。その結果を、表2及び表3に示す。
【0130】
また、上記の『評価2:耐電圧』と同様の条件で、実施例6-21、及び比較例6-10についても、リーク電流が10mA以上となった時点での電圧[V]」を測定し、耐電圧を算出した。その結果を、表2及び表3に示す。なお、表2及び表3には、対比のため上述の実験1(実施例1-5、及び比較例1-5)における結果も記載している。
【0131】
【0132】
【0133】
実験2においても、無機絶縁粒子を添加していない比較例1、及び表面処理を施していない無機絶縁粒子を添加した比較例6-10と、被覆無機絶縁粒子を添加した実施例6-21と、を対比しても、上記実験1と同様の傾向があることがわかった。すなわち、実施例6-21では、いずれの無機絶縁粒子を用いても、比較例1と同程度の高い比透磁率、及び比較例1よりも非常に高い耐電圧が実現できることが示された。また、実施例6-22と同じ種類の無機絶縁粒子の比較例6-10とを対比すると、実施例6-21では、比較例6-10よりも、高い比透磁率を有し、かつ高い耐電圧を有することが示された。