(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143826
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】脳脊髄液滞留性評価システムおよび脳脊髄液滞留性評価プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
A61B5/055 380
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056727
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098796
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 全
(74)【代理人】
【識別番号】100121647
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 和孝
(74)【代理人】
【識別番号】100187377
【弁理士】
【氏名又は名称】芳野 理之
(72)【発明者】
【氏名】榎本 加央里
(72)【発明者】
【氏名】福田 智弘
【テーマコード(参考)】
4C096
【Fターム(参考)】
4C096AB36
4C096AC01
4C096AD14
4C096AD15
4C096DC19
4C096DC21
4C096DC24
4C096DC33
4C096DD13
4C096DD16
(57)【要約】
【課題】脳脊髄液の滞留の程度を層別化し、患者の抱える症状が解剖学的形状に由来するか否かを判断できる脳脊髄液滞留性評価システムおよび脳脊髄液滞留性評価プログラムを提供すること。
【解決手段】脳脊髄液滞留性評価システム2は、体内の画像に基づいて設定された脈絡叢の位置を記憶する記憶部6と、画像に基づいて対象領域のうち脳脊髄液が存在する領域の形状を算出する形状算出部31と、脈絡叢の位置と脳脊髄液が存在する領域の形状とに基づいて脳脊髄液が存在する領域における脳脊髄液の流速分布を算出する流速分布算出部32と、流速分布算出部32により算出された流速分布に基づいて、対象領域全体の脳脊髄液に対する流速に関する所定条件を満たす部分の脳脊髄液の割合を算出する流速割合算出部33と、流速割合算出部33により算出された割合に基づいて脳脊髄液の滞留の程度を示す滞留性指標を出力する滞留性指標出力部36と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳脊髄液の滞留の程度を評価する脳脊髄液滞留性評価システムであって、
撮像された体内の画像に基づいて設定された脈絡叢の位置を記憶する記憶部と、
前記画像に基づいて対象領域のうち前記脳脊髄液が存在する領域の形状を算出する形状算出部と、
前記記憶部に記憶された前記脈絡叢の位置と前記形状算出部により算出された前記脳脊髄液が存在する領域の形状とに基づいて前記脳脊髄液が存在する領域における前記脳脊髄液の流速分布を算出する流速分布算出部と、
前記流速分布算出部により算出された前記流速分布に基づいて、前記対象領域全体の前記脳脊髄液に対する流速に関する所定条件を満たす部分の前記脳脊髄液の割合を算出する流速割合算出部と、
前記流速割合算出部により算出された前記割合に基づいて前記脳脊髄液の滞留の程度を示す滞留性指標を出力する滞留性指標出力部と、
を備えることを特徴とする脳脊髄液滞留性評価システム。
【請求項2】
前記割合は、前記対象領域全体の前記脳脊髄液が占める面積に対する前記部分の前記脳脊髄液が占める面積の割合であることを特徴とする請求項1に記載の脳脊髄液滞留性評価システム。
【請求項3】
前記割合は、前記対象領域全体の前記脳脊髄液が占める体積に対する前記部分の前記脳脊髄液が占める体積の割合であることを特徴とする請求項1に記載の脳脊髄液滞留性評価システム。
【請求項4】
前記画像に基づいて前記脈絡叢の位置を算出し前記記憶部に記憶する脈絡叢位置算出部をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載の脳脊髄液滞留性評価システム。
【請求項5】
前記流速に関する前記所定条件を満たす部分は、前記流速が基準値以下の部分および前記流速が前記基準値以上の部分の少なくともいずれかを含むことを特徴とする請求項1に記載の脳脊髄液滞留性評価システム。
【請求項6】
前記滞留性指標出力部が出力する前記滞留性指標は、前記流速割合算出部が算出した前記脳脊髄液の前記割合であって、前記対象領域全体の前記脳脊髄液に対する前記流速が前記基準値以下の部分の前記脳脊髄液の前記割合または前記対象領域全体の前記脳脊髄液に対する前記流速が前記基準値以上の部分の前記脳脊髄液の前記割合であることを特徴とする請求項5に記載の脳脊髄液滞留性評価システム。
【請求項7】
前記画像に基づいて前記脈絡叢の容量を算出する脈絡叢容量算出部をさらに備え、
前記流速分布算出部は、前記脈絡叢容量算出部により算出された前記脈絡叢の容量にさらに基づいて前記流速分布を算出することを特徴とする請求項1に記載の脳脊髄液滞留性評価システム。
【請求項8】
前記滞留性指標出力部により出力された前記滞留性指標を表示する表示部をさらに備え、
前記滞留性指標出力部は、前記流速分布を前記画像に重ね合わせる画像処理を実行し、前記画像処理により生成された流速分布画像を前記表示部に出力し表示させることを特徴とする請求項1に記載の脳脊髄液滞留性評価システム。
【請求項9】
前記対象領域は、頭蓋内であることを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の脳脊髄液滞留性評価システム。
【請求項10】
脳脊髄液の滞留の程度を評価する脳脊髄液滞留性評価システムのコンピュータによって実行される脳脊髄液滞留性評価プログラムであって、
前記コンピュータに、
撮像された体内の画像に基づいて設定された脈絡叢の位置を記憶するステップと、
前記画像に基づいて対象領域のうち前記脳脊髄液が存在する領域の形状を算出するステップと、
記憶された前記脈絡叢の位置と算出された前記脳脊髄液が存在する領域の形状とに基づいて前記脳脊髄液が存在する領域における前記脳脊髄液の流速分布を算出するステップと、
算出された前記流速分布に基づいて、前記対象領域全体の前記脳脊髄液に対する流速に関する所定条件を満たす部分の前記脳脊髄液の割合を算出するステップと、
算出された前記割合に基づいて前記脳脊髄液の滞留の程度を示す滞留性指標を出力するステップと、
を実行させることを特徴とする脳脊髄液滞留性評価プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳脊髄液の滞留の程度を評価する脳脊髄液滞留性評価システムおよび脳脊髄液滞留性評価プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、被検体内に存在する流体が停滞し易い部位を推定可能な磁気共鳴イメージング装置が開示されている。特許文献1に記載された磁気共鳴イメージング装置は、複数のMR画像の各画素の信号値に基づいて、撮像部位内の流体の挙動を示す流体挙動指標値を算出する。特許文献1に記載された磁気共鳴イメージング装置において、流体挙動指標値は、信号値の時間変化量と血液循環の程度すなわち血流停滞の程度との相関に基づいて規定される。また、特許文献1に記載された磁気共鳴イメージング装置は、心臓を流れる血液を解析する場合、心臓領域に限定して流体挙動指標値を算出するなど、流体挙動指標値の算出対象を限定することにより、画像処理の処理効率を向上させる。
【0003】
ここで、頭蓋内や脊髄腔内のクモ膜下腔内には、脳脊髄液が存在する。本発明者が得た知見の1つによれば、脳脊髄液は、頭蓋内や脊髄腔内を絶えず循環しており、脳や脊髄を外傷や身体的衝撃から保護する役割や、脳の水分含有量を調整する役割などを有する。脳脊髄液が循環不全状態になると、例えば頭痛や脳機能低下などの身体症状が発生する。そこで、頭蓋内などの体腔全体における脳脊髄液の滞留性の程度を評価できるシステムが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、脳脊髄液の滞留の程度を層別化し、患者の抱える症状が解剖学的形状に由来するか否かを判断できる脳脊髄液滞留性評価システムおよび脳脊髄液滞留性評価プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、(1)脳脊髄液の滞留の程度を評価する脳脊髄液滞留性評価システムであって、撮像された体内の画像に基づいて設定された脈絡叢の位置を記憶する記憶部と、前記画像に基づいて対象領域のうち前記脳脊髄液が存在する領域の形状を算出する形状算出部と、前記記憶部に記憶された前記脈絡叢の位置と前記形状算出部により算出された前記脳脊髄液が存在する領域の形状とに基づいて前記脳脊髄液が存在する領域における前記脳脊髄液の流速分布を算出する流速分布算出部と、前記流速分布算出部により算出された前記流速分布に基づいて、前記対象領域全体の前記脳脊髄液に対する流速に関する所定条件を満たす部分の前記脳脊髄液の割合を算出する流速割合算出部と、前記流速割合算出部により算出された前記割合に基づいて前記脳脊髄液の滞留の程度を示す滞留性指標を出力する滞留性指標出力部と、を備えることを特徴とする脳脊髄液滞留性評価システムである。
【0007】
上記(1)の脳脊髄液滞留性評価システムによれば、記憶部は、撮像された体内の画像に基づいて設定された脈絡叢の位置を記憶する。形状算出部は、体内の画像に基づいて対象領域のうち脳脊髄液が存在する領域の形状を算出する。流速分布算出部は、脈絡叢の位置と脳脊髄液が存在する領域の形状とに基づいて、脳脊髄液が存在する領域における脳脊髄液の流速分布を算出する。流速割合算出部は、脳脊髄液が存在する領域における脳脊髄液の流速分布に基づいて、対象領域全体の脳脊髄液に対する、流速に関する所定条件を満たす部分の脳脊髄液の割合を算出する。そして、滞留性指標出力部は、その割合に基づいて脳脊髄液の滞留の程度を示す滞留性指標を出力する。これにより、本発明に係る脳脊髄液滞留性評価システムは、脳脊髄液が存在する領域全体の脳脊髄液の滞留の程度を層別化し、患者の抱える症状が解剖学的形状に由来するか否かを判断できる。
【0008】
(2)上記(1)の脳脊髄液滞留性評価システムにおいて、前記割合は、前記対象領域全体の前記脳脊髄液が占める面積に対する前記部分の前記脳脊髄液が占める面積の割合であることが好ましい。
【0009】
上記(2)の脳脊髄液滞留性評価システムによれば、撮像された体内の画像を用いて、脳脊髄液の滞留の程度を層別化することができる。
【0010】
(3)上記(1)の脳脊髄液滞留性評価システムにおいて、前記割合は、前記対象領域全体の前記脳脊髄液が占める体積に対する前記部分の前記脳脊髄液が占める体積の割合であることが好ましい。
【0011】
上記(3)の脳脊髄液滞留性評価システムによれば、撮像された複数の体内の画像を解析し3次元画像を構築することにより、脳脊髄液の滞留の程度をより高い精度で層別化することができる。
【0012】
(4)上記(1)~(3)のいずれかの脳脊髄液滞留性評価システムは、前記画像に基づいて前記脈絡叢の位置を算出し前記記憶部に記憶する脈絡叢位置算出部をさらに備えたことが好ましい。
【0013】
上記(4)の脳脊髄液滞留性評価システムによれば、脈絡叢位置算出部が、撮像された体内の画像に基づいて脈絡叢の位置を自動的に算出し、脈絡叢の位置を記憶部に記憶することができる。
【0014】
(5)上記(1)~(4)のいずれかの脳脊髄液滞留性評価システムにおいて、前記流速に関する前記所定条件を満たす部分は、前記流速が基準値以下の部分および前記流速が前記基準値以上の部分の少なくともいずれかを含むことが好ましい。
【0015】
上記(5)の脳脊髄液滞留性評価システムによれば、閾値としての基準値が流速に設定されることにより、流速割合算出部は、対象領域全体の脳脊髄液に対する、流速に関する所定条件を満たす部分の脳脊髄液の割合を簡易的に算出できる。特に、流速に関する所定条件を満たす部分を、脳脊髄液の流速が基準値以下の部分とすると、脳脊髄液が滞留している部分の割合の大きさを定量的に評価することができ、脳脊髄液の滞留の程度が対象者の健康に及ぼす影響を適切に把握することができる。
【0016】
(6)上記(5)の脳脊髄液滞留性評価システムにおいて、前記滞留性指標出力部が出力する前記滞留性指標は、前記流速割合算出部が算出した前記脳脊髄液の前記割合であって、前記対象領域全体の前記脳脊髄液に対する前記流速が前記基準値以下の部分の前記脳脊髄液の前記割合または前記対象領域全体の前記脳脊髄液に対する前記流速が前記基準値以上の部分の前記脳脊髄液の前記割合であることが好ましい。
【0017】
上記(6)の脳脊髄液滞留性評価システムによれば、流速割合算出部が算出した脳脊髄液の割合を、そのまま滞留性指標として使用することにより、脳脊髄液の滞留の程度を効率的に層別化できる。
【0018】
(7)上記(1)~(6)のいずれかの脳脊髄液滞留性評価システムは、前記画像に基づいて前記脈絡叢の容量を算出する脈絡叢容量算出部をさらに備え、前記流速分布算出部は、前記脈絡叢容量算出部により算出された前記脈絡叢の容量にさらに基づいて前記流速分布を算出することが好ましい。
【0019】
上記(7)の脳脊髄液滞留性評価システムによれば、流速分布算出部は、脈絡叢容量算出部により算出された脈絡叢の容量にさらに基づいて、脳脊髄液が存在する領域における脳脊髄液の流速分布を算出することで、より高い精度で脳脊髄液の流速分布を算出できる。
【0020】
(8)上記(1)~(7)のいずれかの脳脊髄液滞留性評価システムは、前記滞留性指標出力部により出力された前記滞留性指標を表示する表示部をさらに備え、前記滞留性指標出力部は、前記流速分布を前記画像に重ね合わせる画像処理を実行し、前記画像処理により生成された流速分布画像を前記表示部に出力し表示させることが好ましい。
【0021】
上記(8)の脳脊髄液滞留性評価システムによれば、医療従事者は、脳脊髄液の流速分布を体内の画像に重ね合わせる画像処理により生成された流速分布画像を表示部において確認することにより、層別化された脳脊髄液の滞留の程度を表示部で視認できる。
【0022】
(9)上記(1)~(8)のいずれかの脳脊髄液滞留性評価システムにおいて、前記対象領域は、頭蓋内であることが好ましい。
【0023】
上記(9)の脳脊髄液滞留性評価システムによれば、本発明に係る脳脊髄液滞留性評価システムは、頭蓋内の脳脊髄液の滞留の程度を層別化し、患者の抱える症状が解剖学的形状に由来するか否かを判断できる。
【0024】
本発明は、(10)脳脊髄液の滞留の程度を評価する脳脊髄液滞留性評価システムのコンピュータによって実行される脳脊髄液滞留性評価プログラムであって、前記コンピュータに、撮像された体内の画像に基づいて設定された脈絡叢の位置を記憶するステップと、前記画像に基づいて対象領域のうち前記脳脊髄液が存在する領域の形状を算出するステップと、記憶された前記脈絡叢の位置と算出された前記脳脊髄液が存在する領域の形状とに基づいて前記脳脊髄液が存在する領域における前記脳脊髄液の流速分布を算出するステップと、算出された前記流速分布に基づいて、前記対象領域全体の前記脳脊髄液に対する流速に関する所定条件を満たす部分の前記脳脊髄液の割合を算出するステップと、算出された前記割合に基づいて前記脳脊髄液の滞留の程度を示す滞留性指標を出力するステップと、を実行させることを特徴とする脳脊髄液滞留性評価プログラムである。
【0025】
上記(10)の脳脊髄液滞留性評価プログラムによれば、撮像された体内の画像に基づいて設定された脈絡叢の位置を記憶するステップが実行される。体内の画像に基づいて対象領域のうち脳脊髄液が存在する領域の形状を算出するステップが実行される。脈絡叢の位置と脳脊髄液が存在する領域の形状とに基づいて、脳脊髄液が存在する領域における脳脊髄液の流速分布を算出するステップが実行される。脳脊髄液が存在する領域における脳脊髄液の流速分布に基づいて、対象領域全体の脳脊髄液に対する、流速に関する所定条件を満たす部分の脳脊髄液の割合を算出するステップが実行される。そして、その割合に基づいて脳脊髄液の滞留の程度を示す滞留性指標を出力するステップが実行される。これにより、本発明に係る脳脊髄液滞留性評価プログラムは、脳脊髄液が存在する領域全体の脳脊髄液の滞留の程度を層別化し、患者の抱える症状が解剖学的形状に由来するか否かを判断できる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、脳脊髄液の滞留の程度を層別化し、患者の抱える症状が解剖学的形状に由来するか否かを判断できる脳脊髄液滞留性評価システムおよび脳脊髄液滞留性評価プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本実施形態に係る脳脊髄液滞留性評価システムを表すブロック図である。
【
図2】本実施形態に係る脳脊髄液滞留性評価システムの動作の第1具体例を説明するフローチャートである。
【
図3】本実施形態に係る脳脊髄液滞留性評価システムの動作の第2具体例を説明するフローチャートである。
【
図4】本実施形態に係る脳脊髄液滞留性評価システムの動作の第2具体例を説明するフローチャートである。
【
図5】本実施形態の表示部に表示された画像の一例を表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明の好ましい実施形態を、図面を参照して詳しく説明する。
なお、以下に説明する実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0029】
図1は、本実施形態に係る脳脊髄液滞留性評価システムを表すブロック図である。
図1に表したように、本実施形態に係る脳脊髄液滞留性評価システム2は、脳脊髄液の滞留の程度を評価するシステムであり、制御部3と、送受信部4と、表示部5と、記憶部6と、電源7と、を備える。なお、脳脊髄液滞留性評価システム2は、必ずしも表示部5を備えていなくともよい。つまり、表示部5は、脳脊髄液滞留性評価システム2の一部として設けられていてもよく、脳脊髄液滞留性評価システム2とは異なる他の装置として設けられていてもよい。
【0030】
制御部3は、画像測定部8から送受信部4を介して各種情報を取得し、記憶部6に記憶されたプログラムを読み出して種々の演算や処理を実行する。制御部3としては、例えばCPU(Central Processing Unit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)などが挙げられる。制御部3は、形状算出部31と、流速分布算出部32と、流速割合算出部33と、脈絡叢容量算出部34と、脈絡叢位置算出部35と、滞留性指標出力部36と、を有する。
【0031】
形状算出部31は、画像測定部8から送受信部4を介して取得した患者の体内の画像に基づいて、対象領域のうち脳脊髄液が存在する領域(クモ膜下腔)の形状および容量を算出する。画像測定部8としては、例えばMRI(Magnetic Resonance Image)やCT(Computed Tomography)や超音波診断装置などが挙げられる。そのため、体内の画像としては、例えばMRIやCTや超音波診断装置により撮像された画像などが挙げられる。本願明細書において「対象領域」とは、脳脊髄液が存在する領域の形状および容量を算出する領域である。対象領域としては、例えば頭蓋内などが挙げられる。また、対象領域は、クモ膜下腔全体を含む領域であってもよい。対象領域が、脳脊髄液が存在する領域の一部のみを含んでいる場合には、流速分布算出部32は、流速分布を算出する際、対象領域内の脳脊髄液が存在する領域と対象領域外の脳脊髄液が存在する領域との間では脳脊髄液の移動がないものと仮定して流速分布を算出する。
【0032】
対象領域のうち脳脊髄液が存在する領域の形状を算出する方法としては、例えば、形状算出部31は、画像測定部8により撮像された体内の画像に基づいて、脳脊髄液が存在する領域とそれ以外の領域との境界を認識する。例えば、形状算出部31は、画像測定部8により撮像された体内の画像を所定階調(例えば、256階調)の明度情報に変換し、明度情報を所定の閾値で二値化する二値化処理を実行することにより脳脊髄液が存在する領域とそれ以外の領域との境界を認識する。そして、形状算出部31は、その境界の情報に基づいて、脳脊髄液が存在する領域の形状を算出する。
【0033】
流速分布算出部32は、例えば記憶部6に記憶された脈絡叢の位置と、脈絡叢が産生する脳脊髄液の量と、脳脊髄液が吸収される部位の位置と、脳脊髄液が吸収される部位において脳脊髄液が吸収される量と、形状算出部31により算出された脳脊髄液が存在する領域の形状と、に基づいて数値シミュレーションを行って脳脊髄液が存在する領域における脳脊髄液の流速分布を算出する。脈絡叢の位置は、画像測定部8により撮像された体内の画像に基づいて設定され、記憶部6に記憶されている。脈絡叢の位置は、画像測定部8により撮像された画像に基づいて医療従事者により手動で設定されてもよく、画像測定部8により撮像された画像に基づいて脈絡叢位置算出部35により自動で設定されてもよい。脈絡叢位置算出部35については、後述する。
【0034】
また、流速分布算出部32は、記憶部6に記憶された脈絡叢の位置と、形状算出部31により算出された脳脊髄液が存在する領域の形状と、脈絡叢容量算出部34により算出された脈絡叢の容量と、に基づいて脳脊髄液が存在する領域における脳脊髄液の流速分布を算出してもよい。この場合には、流速分布算出部32は、より高い精度で脳脊髄液の流速分布を算出できる。
【0035】
流速割合算出部33は、流速分布算出部32により算出された流速分布に基づいて、流速に関する所定条件を満たす部分の脳脊髄液の割合を算出する。具体的には、流速割合算出部33は、対象領域全体の脳脊髄液に対して、流速に関する所定条件を満たす部分の脳脊髄液がどの程度存在するかを示す割合を算出する。
【0036】
流速に関する所定条件を満たす部分とは、例えば、脳脊髄液の流速が基準値以下の部分および脳脊髄液の流速が基準値以上の部分の少なくともいずれかを含む。そして、流速割合算出部33により算出される割合は、対象領域全体の脳脊髄液が占める面積に対するその部分の脳脊髄液が占める面積の割合である。「脳脊髄液が占める面積」とは、画像測定部8により撮像された体内の画像において、所定の条件を満たす脳脊髄液が占める面積である。あるいは、流速割合算出部33により算出される割合は、対象領域全体の脳脊髄液が占める体積に対するその部分の脳脊髄液が占める体積の割合である。「脳脊髄液が占める体積」とは、画像測定部8により撮像された複数の体内の画像を解析し構築された3次元画像において、所定の条件を満たす脳脊髄液が占める体積である。
【0037】
脈絡叢容量算出部34は、画像測定部8から送受信部4を介して取得した患者の体内の画像に基づいて、脈絡叢の容量を算出する。例えば、脈絡叢容量算出部34は、画像測定部8により撮像された体内の画像に基づいて、頭蓋内腔と脈絡叢との境界を認識する。例えば、脈絡叢容量算出部34は、画像測定部8により撮像された体内の画像を所定階調(例えば、256階調)の明度情報に変換し、明度情報を所定の閾値で二値化する二値化処理を実行することにより頭蓋内腔と脈絡叢との境界を認識する。そして、脈絡叢容量算出部34は、頭蓋内腔と脈絡叢との境界に基づいて脈絡叢の容量を算出する。なお、脈絡叢容量算出部34が頭蓋内腔と脈絡叢との境界を認識する手段は、これだけに限定されるわけではない。
【0038】
脈絡叢位置算出部35は、画像測定部8から送受信部4を介して取得した患者の体内の画像に基づいて脈絡叢の位置を算出し、脈絡叢の位置を記憶部6に記憶する。例えば、脈絡叢位置算出部35は、脈絡叢容量算出部34と同様に、画像測定部8により撮像された体内の画像に基づいて、頭蓋内腔と脈絡叢との境界を認識する。例えば、脈絡叢位置算出部35は、画像測定部8により撮像された体内の画像を所定階調(例えば、256階調)の明度情報に変換し、明度情報を所定の閾値で二値化する二値化処理を実行することにより頭蓋内腔と脈絡叢との境界を認識する。そして、脈絡叢位置算出部35は、頭蓋内腔と脈絡叢との境界に基づいて脈絡叢の位置を算出する。
【0039】
滞留性指標出力部36は、流速割合算出部33により算出された割合に基づいて脳脊髄液の滞留の程度を示す滞留性指標を出力する。また、滞留性指標出力部36は、出力した滞留性指標を表示部5に表示する処理を実行する。例えば、滞留性指標出力部36は、「滞留良好」および「滞留不良」などの滞留性指標を表示部5に表示する処理を実行する。また、滞留性指標出力部36は、流速分布算出部32により算出された流速分布を、画像測定部8により撮像された体内の画像に重ね合わせる画像処理を実行し、画像処理により生成された流速分布画像を表示部5に出力し表示させる処理を実行する。滞留性指標の具体例については、後述する。
【0040】
滞留性指標出力部36により出力される滞留性指標は、流速割合算出部33が算出した割合であってもよい。つまり、対象領域全体の脳脊髄液に対する流速が基準値以下の部分の脳脊髄液の割合、または対象領域全体の脳脊髄液に対する流速が基準値以上の部分の脳脊髄液の割合が、そのまま滞留性指標として使用されてもよい。対象領域全体の脳脊髄液に対する流速が基準値以下の部分の脳脊髄液の割合が通常よりも大きい場合には、循環性が悪いことを示している。また、対象領域全体の脳脊髄液に対する流速が基準値以上の部分の脳脊髄液の割合が通常よりも大きい場合には、循環性が良いことを示している。本願明細書において「循環性」とは、患者の脳脊髄液の新しい脳脊髄液への置換の速さを意味する。
【0041】
記憶部6には、形状算出部31、流速分布算出部32、流速割合算出部33、脈絡叢容量算出部34および脈絡叢位置算出部35の算出動作を制御する演算プログラム、滞留性指標出力部36の出力動作を制御する出力プログラム、滞留性指標出力部36の表示動作を制御する表示プログラム等の各種プログラムが格納されている。また、記憶部6には、形状算出部31、流速分布算出部32、流速割合算出部33、脈絡叢容量算出部34および脈絡叢位置算出部35の算出データ等の各種データが格納される。また、記憶部6には、脳脊髄液の流速に関する閾値としての基準値が格納されている。なお、プログラムは、記憶部6に格納されていることには限定されず、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に予め格納され頒布されてもよく、あるいはネットワークを介して脳脊髄液滞留性評価システム2にダウンロードされてもよい。
【0042】
記憶部6としては、例えば、脳脊髄液滞留性評価システム2に内蔵された半導体メモリなどが挙げられる。あるいは、記憶部6としては、例えば、脳脊髄液滞留性評価システム2に接続可能なCD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、RAM(Random access memory)、ROM(Read only memory)、ハードディスク、メモリカードなどの種々の記憶媒体やデータサーバなどが挙げられる。
【0043】
形状算出部31、流速分布算出部32、流速割合算出部33、脈絡叢容量算出部34、脈絡叢位置算出部35および滞留性指標出力部36は、記憶部6に格納(記憶)されているプログラムを制御部3が実行することにより実現される。なお、流速分布算出部32、流速割合算出部33、脈絡叢容量算出部34、脈絡叢位置算出部35および滞留性指標出力部36は、ハードウェアによって実現されてもよく、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせによって実現されてもよい。
【0044】
制御部3を含むコンピュータによって実行されるプログラムは、本発明の「脳脊髄液滞留性評価プログラム」に相当する。ここでいう「コンピュータ」とは、パソコンには限定されず、情報処理機器に含まれる演算処理装置、マイコン等も含み、プログラムによって本発明の機能を実現することが可能な機器、装置を総称している。
【0045】
表示部5は、滞留性指標出力部36により出力される滞留性指標や、滞留性指標出力部36の画像処理により生成された流速分布画像などを表示する。表示部5は、例えば医療従事者の指の接触等を検出可能なタッチパネルを含むディスプレイを有していてもよい。
【0046】
電源7は、制御部3、表示部5および記憶部6などの脳脊髄液滞留性評価システム2の全体に対して電力を供給する。
【0047】
ここで、本発明者が得た知見の1つによれば、頭蓋内や脊髄腔内に存在する脳脊髄液は、頭蓋内や脊髄腔内を絶えず循環しており、脳や脊髄を外傷や身体的衝撃から保護する役割や、脳の水分含有量を調整する役割などを有する。脳脊髄液が循環不全状態になると、例えば頭痛や脳機能低下などの身体症状が発生する。
【0048】
これに対して、本実施形態に係る脳脊髄液滞留性評価システム2によれば、流速割合算出部33は、脳脊髄液が存在する領域における脳脊髄液の流速分布に基づいて、対象領域全体の脳脊髄液に対する、流速に関する所定条件を満たす部分の脳脊髄液の割合を算出する。そして、滞留性指標出力部36は、その割合に基づいて脳脊髄液の滞留の程度を示す滞留性指標を出力する。これにより、本実施形態に係る脳脊髄液滞留性評価システム2は、脳脊髄液が存在する領域全体の脳脊髄液の滞留の程度を層別化し、患者の抱える症状が解剖学的形状に由来するか否かを判断できる。
【0049】
以下では、本実施形態に係る脳脊髄液滞留性評価システム2の具体的な動作を、図面を参照して説明する。
図2は、本実施形態に係る脳脊髄液滞留性評価システムの動作の第1具体例を説明するフローチャートである。
【0050】
まず、ステップS1において、脳脊髄液滞留性評価システム2は、画像測定部8により撮像された患者の体内の画像を送受信部4を介して受信する。続いて、ステップS2において、脈絡叢位置算出部35は、画像測定部8により撮像された体内の画像に基づいて脈絡叢の位置を検出し記憶部6に記憶する。脈絡叢位置算出部35が脈絡叢の位置を検出あるいは算出する例は、
図1に関して前述した通りである。
【0051】
続いて、ステップS3において、形状算出部31は、画像測定部8により撮像された体内の画像に基づいて対象領域のうち脳脊髄液が存在する領域の形状および容量を算出する。続いて、ステップS4において、流速分布算出部32は、記憶部6に記憶された脈絡叢の位置と、形状算出部31により算出された脳脊髄液が存在する領域の形状と、に基づいて脳脊髄液が存在する領域における脳脊髄液の流速分布を算出する。
【0052】
続いて、ステップS5において、流速割合算出部33は、流速分布算出部32により算出された脳脊髄液の流速分布に基づいて、対象領域全体の脳脊髄液に対する流速に関する所定条件を満たす部分の脳脊髄液の割合を算出する。本具体例では、流速割合算出部33は、対象領域全体の脳脊髄液に対して、流速分布算出部32により算出された脳脊髄液の流速分布のうち基準値以下または基準値以上の流速の脳脊髄液の割合を算出する。
【0053】
また、ステップS5において、滞留性指標出力部36は、流速分布算出部32により算出された脳脊髄液の流速分布のうちの流速の最大値が第1リファレンス値以上であるか否かを判断する。第1リファレンス値は、複数(例えば1000枚程度)の体内の画像に基づいて流速分布算出部32により算出された脳脊髄液の流速分布のうちの流速の最大値の平均値であり、予め記憶部6に格納されている。
【0054】
また、ステップS5において、滞留性指標出力部36は、流速分布算出部32により算出された脳脊髄液の流速分布のうちの流速の最小値が第2リファレンス値以上であるか否かを判断する。第2リファレンス値は、複数(例えば1000枚程度)の体内の画像に基づいて流速分布算出部32により算出された脳脊髄液の流速分布のうちの流速の最小値の平均値であり、予め記憶部6に格納されている。
【0055】
また、ステップS5において、滞留性指標出力部36は、流速分布算出部32により算出された脳脊髄液の流速分布のうち基準値以下の流速の割合(すなわち流速割合算出部33により算出された基準値以下の流速の割合)が第3リファレンス値以下であるか否かを判断する。または、ステップS5において、滞留性指標出力部36は、流速分布算出部32により算出された脳脊髄液の流速分布のうち基準値以上の流速の割合(すなわち流速割合算出部33により算出された基準値以上の流速の割合)が第3リファレンス値以上であるか否かを判断する。第3リファレンス値は、脳脊髄液の流速に関する基準値の割合の閾値として予め記憶部6に格納されている。
【0056】
続いて、流速の最大値が第1リファレンス値以上であり、かつ、流速の最小値が第2リファレンス値以上であり、かつ、脳脊髄液の流速分布のうち基準値以下の流速の割合が第3リファレンス値以下(または脳脊髄液の流速分布のうち基準値以上の流速の割合が第3リファレンス値以上)である場合には(ステップS5:YES)、ステップS6において、滞留性指標出力部36は、滞留性指標として「滞留していない」を出力し、表示部5に「滞留していない」と表示する処理を実行する。ステップS6において、滞留性指標出力部36は、「滞留していない」の代わりに「滞留性が低い」と表示する処理を実行してもよい。
【0057】
一方で、流速の最大値が第1リファレンス値以上、流速の最小値が第2リファレンス値以上、および脳脊髄液の流速分布のうち基準値以下の流速の割合が第3リファレンス値以下(または脳脊髄液の流速分布のうち基準値以上の流速の割合が第3リファレンス値以上)のいずれかが満たされない場合には(ステップS5:NO)、ステップS7において、滞留性指標出力部36は、滞留性指標として「滞留している」を出力し、表示部5に「滞留している」と表示する処理を実行する。ステップS7において、滞留性指標出力部36は、「滞留している」の代わりに「滞留性が高い」と表示する処理を実行してもよい。
【0058】
図3および
図4は、本実施形態に係る脳脊髄液滞留性評価システムの動作の第2具体例を説明するフローチャートである。
【0059】
まず、ステップS11~ステップS14の処理は、
図2に関して前述したステップS1~ステップS4の処理と同じである。
【0060】
続いて、ステップS15において、流速割合算出部33は、対象領域全体の脳脊髄液に対して、流速分布算出部32により算出された脳脊髄液の流速分布のうち上位50%の流速の脳脊髄液の割合を算出する。例えば、対象領域の流速の最大値が0.05cm/s, 最小値を0.005cm/sだった場合、最大値と最小値の平均の0.0275cm/sよりも速い流速の割合を算出する。
【0061】
また、ステップS15において、滞留性指標出力部36は、流速分布算出部32により算出された脳脊髄液の流速分布のうちの流速の最大値が第1リファレンス値以上であるか否かを判断する。また、ステップS15において、滞留性指標出力部36は、流速分布算出部32により算出された脳脊髄液の流速分布のうちの流速の最小値が第2リファレンス値以上であるか否かを判断する。また、ステップS15において、滞留性指標出力部36は、流速分布算出部32により算出された脳脊髄液の流速分布のうち上位50%の流速の割合(すなわち流速割合算出部33により算出された脳脊髄液の流速分布のうち上位50%の流速の割合)が第3リファレンス値以上であるか否かを判断する。
【0062】
流速の最大値が第1リファレンス値以上であり、かつ、流速の最小値が第2リファレンス値以上であり、かつ、脳脊髄液の流速分布のうち上位50%の流速の割合が第3リファレンス値以上である場合には(ステップS15:YES)、ステップS16において、滞留性指標出力部36は、滞留性指標として「滞留していない(循環性は全患者の上位20%以上)」を出力し、表示部5に「滞留していない(循環性は全患者の上位20%以上)」と表示する処理を実行する。ステップS16において、滞留性指標出力部36は、「滞留していない」の代わりに「滞留性が低い」と表示する処理を実行してもよい。
【0063】
一方で、流速の最大値が第1リファレンス値以上、流速の最小値が第2リファレンス値以上、および脳脊髄液の流速分布のうち上位50%の流速の割合が第3リファレンス値以上のいずれかが満たされない場合には(ステップS15:NO)、ステップS17において、滞留性指標出力部36は、流速の最大値が第1リファレンス値以上、流速の最小値が第2リファレンス値以上、および脳脊髄液の流速分布のうち上位50%の流速の割合が第3リファレンス値以上のいずれか2つが満たされるか否かを判断する。
【0064】
流速の最大値が第1リファレンス値以上、流速の最小値が第2リファレンス値以上、および脳脊髄液の流速分布のうち上位50%の流速の割合が第3リファレンス値以上のいずれか2つが満たされる場合には(ステップS17:YES)、ステップS18において、滞留性指標出力部36は、滞留性指標として「滞留していない(循環性は全患者の上位50%以上)」を出力し、表示部5に「滞留していない(循環性は全患者の上位50%以上)」と表示する処理を実行する。ステップS18において、滞留性指標出力部36は、「滞留していない」の代わりに「滞留性が低い」と表示する処理を実行してもよい。
【0065】
一方で、流速の最大値が第1リファレンス値以上、流速の最小値が第2リファレンス値以上、および脳脊髄液の流速分布のうち上位50%の流速の割合が第3リファレンス値以上のいずれか2つが満たされない場合には(ステップS17:NO)、ステップS19において、滞留性指標出力部36は、流速の最大値が第1リファレンス値以上、流速の最小値が第2リファレンス値以上、および脳脊髄液の流速分布のうち上位50%の流速の割合が第3リファレンス値以上のいずれか1つが満たされるか否かを判断する。
【0066】
流速の最大値が第1リファレンス値以上、流速の最小値が第2リファレンス値以上、および脳脊髄液の流速分布のうち上位50%の流速の割合が第3リファレンス値以上のいずれか1つが満たされる場合には(ステップS19:YES)、ステップS21において、滞留性指標出力部36は、滞留性指標として「やや滞留している(循環性は全患者の下位50%以下)」を出力し、表示部5に「やや滞留している(循環性は全患者の下位50%以下)」と表示する処理を実行する(
図5に表した結果511参照)。ステップS21において、滞留性指標出力部36は、「やや滞留している」の代わりに「滞留性がやや高い」と表示する処理を実行してもよい。
【0067】
一方で、流速の最大値が第1リファレンス値以上、流速の最小値が第2リファレンス値以上、および脳脊髄液の流速分布のうち上位50%の流速の割合が第3リファレンス値以上のすべてが満たされない場合には(ステップS19:NO)、ステップS22において、滞留性指標出力部36は、滞留性指標として「滞留している(循環性は全患者の下位20%以下)」を出力し、表示部5に「滞留している(循環性は全患者の下位20%以下)」と表示する処理を実行する。ステップS22において、滞留性指標出力部36は、「滞留している」の代わりに「滞留性が高い」と表示する処理を実行してもよい。
【0068】
図5は、本実施形態の表示部に表示された画像の一例を表す模式図である。
図5に関する説明では、表示部5が例えば医療従事者の指の接触等を検出可能なタッチパネルを含むディスプレイ51を有する場合を例に挙げる。
【0069】
ディスプレイ51の下部には、
図4に関して前述した「滞留やや悪い(滞留性は全患者の上位50%以上)」が結果511として表示されている。また、ディスプレイ51の左上の部分には、「画像読み込み」のアイコン512が表示されている。例えば、医療従事者がアイコン512を指で操作すると、MRIやCTなどの画像の種類を選択する操作画面が別ウインドウで開く。画像の読み込みが完了すると、「OK」のアイコン513の色が例えば灰色から青色などに反転する。一方で、画像の読み込みが失敗すると、「NG」のアイコン514の色が例えば灰色から青色などに反転する。
【0070】
アイコン512の下側には、「頭蓋内腔容量算出」のアイコン515が表示されている。例えば、医療従事者がアイコン515を指で操作すると、
図5に表したように、画像測定部8により撮像された体内の画像に基づいて、頭蓋内腔の容量が算出されディスプレイ51に表示される。また、
図5に表したように、頭蓋内腔の容量だけではなく、算出された頭蓋内腔の容量が平均容量と比べて大きいか、あるいは小さいかのコメントが表示される。対象領域の脳脊髄液が存在する領域の容量や当該容量と平均容量との比較結果が表示されてもよい。
【0071】
アイコン515の下側には、「滞留性算出」のアイコン516が表示されている。例えば、医療従事者がアイコン516を指で操作すると、流速分布算出部32は、記憶部6に記憶された脈絡叢の位置と、形状算出部31により算出された脳脊髄液が存在する領域の形状と、に基づいて脳脊髄液が存在する領域における脳脊髄液の流速分布を算出する。あるいは、流速分布算出部32は、記憶部6に記憶された脈絡叢の位置と、形状算出部31により算出された脳脊髄液が存在する領域の形状と、脈絡叢容量算出部34により算出された脈絡叢の容量と、に基づいて脳脊髄液が存在する領域における脳脊髄液の流速分布を算出する。そして、
図5に表したように、滞留性指標出力部36は、流速分布算出部32により算出された流速分布を、画像測定部8により撮像された体内の画像に重ね合わせる画像処理を実行し、画像処理により生成された流速分布画像517をディスプレイ51に表示させる処理を実行する。流速が基準値以下の流速を示す矢印の色を他の矢印の色と異なる色で表示したり、流速が基準値以下の領域の背景の色を他の領域の背景の色とは異なる色で表示したりして、滞留している領域が分かりやすくなるよう表示してもよい。
【0072】
図5に表したように、流速分布画像517では、脳脊髄液の流速分布がカラー矢印として画像測定部8により撮像された体内の画像に重ね合わされて表示されたり、脳脊髄液の流速分布がカラーコンターとして画像測定部8により撮像された体内の画像の側方に表示されたりする。これにより、医療従事者は、層別化された脳脊髄液の滞留の程度を表示部5のディスプレイ51で視認できる。
【0073】
以上説明したように、本実施形態に係る脳脊髄液滞留性評価システム2によれば、流速割合算出部33は、脳脊髄液が存在する領域における脳脊髄液の流速分布に基づいて、対象領域全体の脳脊髄液に対する、流速に関する所定条件を満たす部分の脳脊髄液の割合を算出する。そして、滞留性指標出力部36は、その割合に基づいて脳脊髄液の滞留の程度を示す滞留性指標を出力する。これにより、本実施形態に係る脳脊髄液滞留性評価システム2は、脳脊髄液が存在する領域全体の脳脊髄液の滞留の程度を層別化し、患者の抱える症状が解剖学的形状に由来するか否かを判断できる。
【0074】
また、
図1に関して前述した「流速に関する所定条件を満たす部分」は、脳脊髄液の流速が基準値以下の部分および脳脊髄液の流速が基準値以上の部分の少なくともいずれかを含む。閾値としての基準値が流速に設定されることにより、流速割合算出部33は、対象領域全体の脳脊髄液に対する、流速に関する所定条件を満たす部分の脳脊髄液の割合を簡易的に算出できる。特に、「流速に関する所定条件を満たす部分」を、脳脊髄液の流速が基準値以下の部分とすると、脳脊髄液が滞留している部分の割合の大きさを定量的に評価することができ、脳脊髄液の滞留の程度が対象者の健康に及ぼす影響を適切に把握することができる。
【0075】
また、流速割合算出部33により算出された脳脊髄液の割合がそのまま滞留性指標として使用される場合には、脳脊髄液滞留性評価システム2は、脳脊髄液の滞留の程度を効率的に層別化できる。
【0076】
また、本願明細書における「対象領域」が頭蓋内である場合には、脳脊髄液滞留性評価システム2は、頭蓋内の脳脊髄液の滞留の程度を層別化し、患者の抱える症状が解剖学的形状に由来するか否かを判断できる。
【0077】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は、上記実施形態に限定されず、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で種々の変更を行うことができる。上記実施形態の構成は、その一部を省略したり、上記とは異なるように任意に組み合わせたりすることができる。
例えば、脈絡叢容量算出部34が算出した脈絡叢の容量に基づいて、脈絡叢における脳脊髄液の産生量を算出し、流速分布算出部32が、算出した脳脊髄液の産生量に基づいて対象領域における脳脊髄液の流速の分布を算出することができる。この構成により、対象者の脳脊髄液の産生量を考慮して、より正確に対象者の脳脊髄液の滞留性を評価することができる。
【符号の説明】
【0078】
2:脳脊髄液滞留性評価システム、 3:制御部、 4:送受信部、 5:表示部、 6:記憶部、 7:電源、 8:画像測定部、 31:形状算出部、 32:流速分布算出部、 33:流速割合算出部、 34:脈絡叢容量算出部、 35:脈絡叢位置算出部、 36:滞留性指標出力部、 51:ディスプレイ、 511:結果、 512:アイコン、 513:アイコン、 514:アイコン、 515:アイコン、 516:アイコン、 517:流速分布画像