IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ テルモ株式会社の特許一覧

特開2024-143827脳治療支援システムおよび脳治療支援プログラム
<>
  • 特開-脳治療支援システムおよび脳治療支援プログラム 図1
  • 特開-脳治療支援システムおよび脳治療支援プログラム 図2
  • 特開-脳治療支援システムおよび脳治療支援プログラム 図3
  • 特開-脳治療支援システムおよび脳治療支援プログラム 図4
  • 特開-脳治療支援システムおよび脳治療支援プログラム 図5
  • 特開-脳治療支援システムおよび脳治療支援プログラム 図6
  • 特開-脳治療支援システムおよび脳治療支援プログラム 図7
  • 特開-脳治療支援システムおよび脳治療支援プログラム 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143827
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】脳治療支援システムおよび脳治療支援プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61M 3/00 20060101AFI20241003BHJP
   A61M 5/142 20060101ALI20241003BHJP
   A61M 25/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
A61M3/00
A61M5/142
A61M25/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056728
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098796
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 全
(74)【代理人】
【識別番号】100121647
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 和孝
(74)【代理人】
【識別番号】100187377
【弁理士】
【氏名又は名称】芳野 理之
(72)【発明者】
【氏名】福田 智弘
(72)【発明者】
【氏名】榎本 加央里
【テーマコード(参考)】
4C066
4C267
【Fターム(参考)】
4C066AA10
4C066CC01
4C267AA02
4C267CC12
4C267DD10
(57)【要約】
【課題】脳の治療領域に溶液を効率的および安全に送達することができる脳治療支援システムおよび脳治療支援プログラムを提供すること。
【解決手段】脳治療支援システム2は、撮像された体内の画像に基づいて脳脊髄液が存在する領域の形状を算出する形状算出部211と、形状算出部211により算出された脳脊髄液が存在する領域の形状に基づいて脳脊髄液が存在する領域における酸素または薬剤等の治療物質の濃度分布を算出する流体解析部212と、流体解析部212により算出された濃度分布に基づいて、脳脊髄液が存在する領域に送達される液体の流量に関する情報と、脳脊髄液が存在する領域に液体を送達するカテーテルの種類と、カテーテルの配置位置との少なくともいずれかを出力するパラメータ出力部213と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳の治療領域に治療物質を含む液体を送達する治療を支援する脳治療支援システムであって、
撮像された体内の画像に基づいて脳脊髄液が存在する領域の形状を算出する形状算出部と、
前記形状算出部により算出された前記脳脊髄液が存在する領域の形状に基づいて、前記脳脊髄液が存在する領域に前記液体を注入した際の前記治療物質の濃度分布を算出する流体解析部と、
前記流体解析部により算出された前記濃度分布に基づいて、前記脳脊髄液が存在する領域に送達される前記液体の流量に関する情報と、前記脳脊髄液が存在する領域に前記液体を送達するカテーテルの種類と、前記カテーテルの配置位置と、の少なくともいずれかを出力するパラメータ出力部と、
を備えたことを特徴とする脳治療支援システム。
【請求項2】
前記脳脊髄液が存在する領域に向かって送達される前記液体の流量を測定する流量測定部をさらに備え、
前記流体解析部は、前記流量測定部により測定された前記流量および前記形状算出部により算出された前記脳脊髄液が存在する領域の形状に基づいて前記濃度分布を更新し、
前記パラメータ出力部は、前記流体解析部により更新された前記濃度分布に基づいて、前記脳脊髄液が存在する領域に送達される前記液体の流量に関する情報を出力することを特徴とする請求項1に記載の脳治療支援システム。
【請求項3】
前記流体解析部は、前記脳脊髄液が存在する領域に送達される前記治療物質の濃度を取得するとともに、取得した前記濃度に基づいて前記濃度分布を更新し、
前記パラメータ出力部は、前記流体解析部により更新された前記濃度分布に基づいて、前記脳脊髄液が存在する領域に送達される前記液体の流量に関する情報を出力することを特徴とする請求項1に記載の脳治療支援システム。
【請求項4】
前記流体解析部は、前記形状算出部により算出された前記脳脊髄液が存在する領域の形状に基づいて前記脳脊髄液が存在する領域における前記脳脊髄液の圧力をさらに算出し、
前記パラメータ出力部は、前記流体解析部により算出された前記脳脊髄液の圧力にさらに基づいて、前記脳脊髄液が存在する領域に送達される前記液体の流量に関する情報を出力することを特徴とする請求項1に記載の脳治療支援システム。
【請求項5】
前記脳脊髄液が存在する領域に向かって送達される前記液体の圧力を測定する圧力測定部をさらに備え、
前記流体解析部は、前記圧力測定部により測定された前記圧力および前記形状算出部により算出された前記脳脊髄液が存在する領域の形状に基づいて前記脳脊髄液の圧力を更新し、
前記パラメータ出力部は、前記流体解析部により更新された前記脳脊髄液の圧力にさらに基づいて、前記脳脊髄液が存在する領域に送達される前記液体の流量に関する情報を出力することを特徴とする請求項4に記載の脳治療支援システム。
【請求項6】
前記液体は、高酸素溶液または酸素を分散させた液体であり、
前記脳治療支援システムは、脳梗塞の治療を支援するシステムであることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の脳治療支援システム。
【請求項7】
脳の治療領域に治療物質を含む液体を送達する治療を支援する脳治療支援システムであって、
撮像された体内の画像に基づいて脳脊髄液が存在する領域の形状を算出する形状算出部と、
前記形状算出部により算出された前記脳脊髄液が存在する領域の形状に基づいて、前記脳脊髄液が存在する領域に前記液体を注入した際の前記治療物質の濃度分布を算出する流体解析部と、
を備え、
前記流体解析部は、前記液体の送達を開始してから所定時間後の前記治療領域付近における前記治療物質の濃度を算出することを特徴とする脳治療支援システム。
【請求項8】
前記流体解析部により算出された前記濃度に基づいて、前記液体が前記治療領域付近に到達する到達時間を算出する到達時間算出部をさらに備えたことを特徴とする請求項7に記載の脳治療支援システム。
【請求項9】
前記到達時間算出部が算出した前記液体が前記治療領域付近に到達する到達時間が最短となる前記脳脊髄液が存在する領域に送達される前記液体の流量、前記脳脊髄液が存在する領域に前記液体を送達するカテーテルの種類および前記カテーテルの配置位置の少なくともいずれか一つを、推奨されるパラメータとして出力するパラメータ出力部をさらに備えたことを特徴とする請求項8に記載の脳治療支援システム。
【請求項10】
前記カテーテル内部における前記治療物質の濃度を測定する濃度測定部をさらに備え、
前記流体解析部は、前記濃度測定部により測定された前記治療物質の濃度に基づいて、前記所定時間後の前記治療領域付近における前記治療物質の濃度を更新することを特徴とする請求項9に記載の脳治療支援システム。
【請求項11】
脳の治療領域に治療物質を含む液体を送達する治療を支援する脳治療支援システムのコンピュータによって実行される脳治療支援プログラムであって、
前記コンピュータに、
撮像された体内の画像に基づいて脳脊髄液が存在する領域の形状を算出するステップと、
算出された前記脳脊髄液が存在する領域の形状に基づいて、前記脳脊髄液が存在する領域に前記液体を注入した際の前記治療物質の濃度分布を算出するステップと、
算出された前記濃度分布に基づいて、前記脳脊髄液が存在する領域に送達される前記液体の流量に関する情報と、前記脳脊髄液が存在する領域に前記液体を送達するカテーテルの種類と、前記カテーテルの配置位置と、の少なくともいずれかを出力するステップと、
を実行させることを特徴とする脳治療支援プログラム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳の治療領域に液体を送達する治療を支援する脳治療支援システムおよび脳治療支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
脳梗塞の治療において、血栓溶解療法や血栓回収療法などの治療方法が確立されている。しかし、出血リスクやアクセス不良による影響から、これらの治療が困難な場合が少なくない。このため、脳梗塞の治療の多くは、内科的治療に留まっている。
【0003】
脳梗塞の治療の1つとして、酸素化した脳脊髄液などの高酸素溶液を患者の髄腔内に注入し、酸素が欠乏している脳細胞に酸素を直接供給することが提案されている。特許文献1には、脳に高酸素化溶液(高酸素溶液を含む。)を送る脳血管障害治療デバイスが開示されている。
【0004】
高酸素溶液を効率的にペナンブラ領域に送達するためには、頭蓋内の酸素濃度分布を知る必要がある。しかし、頭蓋内の酸素濃度分布は、主に頭蓋内腔の形状に依存する。そのため、頭蓋内の酸素濃度分布を一般化することは、困難である。また、脳梗塞の治療中に頭蓋内の圧力が高くなりすぎると、頭蓋内圧亢進症(すなわち脳組織が負荷を受けることで発症する様々な症状)が発生するおそれがある。一方で、脳梗塞の治療中に頭蓋内の圧力が低くなりすぎると、低髄液圧症候群(すなわち脳組織の位置を保てなくなることで発症する様々な症状)が発生するおそれがある。
【0005】
また、特許文献1に記載された脳血管障害治療デバイスは、生体内に配置された酸素濃度測定部を備え、酸素濃度測定部の測定値に基づいて溶液の注入流量制御を行っている。しかし、実際の治療領域において酸素濃度を測定することは、例えば治療領域へのアクセスなどの点において困難性を伴う。この点において、特許文献1に記載された脳血管障害治療デバイスには、改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2022/181126号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、脳の治療領域に溶液を効率的および安全に送達することができる脳治療支援システムおよび脳治療支援プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、(1)脳の治療領域に治療物質を含む液体を送達する治療を支援する脳治療支援システムであって、撮像された体内の画像に基づいて脳脊髄液が存在する領域の形状を算出する形状算出部と、前記形状算出部により算出された前記脳脊髄液が存在する領域の形状に基づいて、前記脳脊髄液が存在する領域に前記液体を注入した際の前記治療物質の濃度分布を算出する流体解析部と、前記流体解析部により算出された前記濃度分布に基づいて、前記脳脊髄液が存在する領域に送達される前記液体の流量に関する情報と、前記脳脊髄液が存在する領域に前記液体を送達するカテーテルの種類と、前記カテーテルの配置位置と、の少なくともいずれかを出力するパラメータ出力部と、を備えたことを特徴とする脳治療支援システムである。
【0009】
上記(1)の脳治療支援システムによれば、流体解析部は、形状算出部により算出された脳脊髄液が存在する領域の形状に基づいて、脳脊髄液が存在する領域における治療物質の濃度分布を算出する。そして、パラメータ出力部は、流体解析部により算出された濃度分布に基づいて、脳脊髄液が存在する領域に送達される液体の流量に関する情報と、脳脊髄液が存在する領域に液体を送達するカテーテルの種類と、脳脊髄液が存在する領域に液体を送達するカテーテルの配置位置と、の少なくともいずれかを出力する。そのため、本発明に係る脳治療支援システムは、患者毎に異なる脳脊髄液が存在する領域の形状に基づいて、液体の流量に関する情報と、カテーテルの種類と、カテーテルの配置位置と、の少なくともいずれかのパラメータを治療前に適正化することができる。これにより、本発明に係る脳治療支援システムは、脳の治療領域に溶液を効率的および安全に送達することができる。
【0010】
(2)上記(1)の脳治療支援システムは、前記脳脊髄液が存在する領域に向かって送達される前記液体の流量を測定する流量測定部をさらに備え、前記流体解析部は、前記流量測定部により測定された前記流量および前記形状算出部により算出された前記脳脊髄液が存在する領域の形状に基づいて前記濃度分布を更新し、前記パラメータ出力部は、前記流体解析部により更新された前記濃度分布に基づいて、前記脳脊髄液が存在する領域に送達される前記液体の流量に関する情報を出力することが好ましい。
【0011】
上記(2)の脳治療支援システムによれば、流体解析部は、流量測定部により測定された流量および形状算出部により算出された脳脊髄液が存在する領域の形状に基づいて濃度分布を更新する。そして、パラメータ出力部は、流体解析部により更新された濃度分布に基づいて、液体の流量に関する情報を出力する。これにより、本発明に係る脳治療支援システムは、治療中に、液体の流量に関する情報のパラメータを調整し、脳の治療領域に溶液を効率的および安全に送達することができる。
【0012】
(3)上記(1)または(2)の脳治療支援システムにおいて、前記流体解析部は、前記脳脊髄液が存在する領域に送達される前記治療物質の濃度を取得するとともに、取得した前記濃度に基づいて前記濃度分布を更新し、前記パラメータ出力部は、前記流体解析部により更新された前記濃度分布に基づいて、前記脳脊髄液が存在する領域に送達される前記液体の流量に関する情報を出力することが好ましい。
【0013】
上記(3)の脳治療支援システムによれば、流体解析部は、脳脊髄液が存在する領域に送達される治療物質の濃度に基づいて濃度分布を更新する。そして、パラメータ出力部は、流体解析部により更新された濃度分布に基づいて、液体の流量に関する情報を出力する。これにより、本発明に係る脳治療支援システムは、治療中に、液体の流量に関する情報のパラメータを調整し、脳の治療領域に溶液を効率的および安全に送達することができる。
【0014】
(4)上記(1)~(3)のいずれかの脳治療支援システムにおいて、前記流体解析部は、前記形状算出部により算出された前記脳脊髄液が存在する領域の形状に基づいて前記脳脊髄液が存在する領域における前記脳脊髄液の圧力をさらに算出し、前記パラメータ出力部は、前記流体解析部により算出された前記脳脊髄液の圧力にさらに基づいて、前記脳脊髄液が存在する領域に送達される前記液体の流量に関する情報を出力することが好ましい。
【0015】
上記(4)の脳治療支援システムによれば、流体解析部は、形状算出部により算出された脳脊髄液が存在する領域の形状に基づいて脳脊髄液が存在する領域における脳脊髄液の圧力をさらに算出する。そして、パラメータ出力部は、流体解析部により算出された脳脊髄液の圧力にさらに基づいて、液体の流量に関する情報を出力する。これにより、本発明に係る脳治療支援システムは、患者毎に異なる脳脊髄液が存在する領域の形状に基づいて、液体の流量に関する情報のパラメータを治療前により一層適正化することができる。これにより、本発明に係る脳治療支援システムは、脳の治療領域に溶液をより一層効率的および安全に送達することができる。
【0016】
(5)上記(4)の脳治療支援システムは、前記脳脊髄液が存在する領域に向かって送達される前記液体の圧力を測定する圧力測定部をさらに備え、前記流体解析部は、前記圧力測定部により測定された前記圧力および前記形状算出部により算出された前記脳脊髄液が存在する領域の形状に基づいて前記脳脊髄液の圧力を更新し、前記パラメータ出力部は、前記流体解析部により更新された前記脳脊髄液の圧力にさらに基づいて、前記脳脊髄液が存在する領域に送達される前記液体の流量に関する情報を出力することが好ましい。
【0017】
上記(5)の脳治療支援システムによれば、流体解析部は、圧力測定部により測定された圧力および形状算出部により算出された脳脊髄液が存在する領域の形状に基づいて脳脊髄液の圧力を更新する。そして、パラメータ出力部は、流体解析部により更新された脳脊髄液の圧力にさらに基づいて、液体の流量に関する情報を出力する。これにより、本発明に係る脳治療支援システムは、治療中に、液体の流量に関する情報のパラメータを調整し、脳の治療領域に溶液をより一層効率的および安全に送達することができる。
【0018】
(6)上記(1)~(5)のいずれかの脳治療支援システムにおいて、前記液体は、高酸素溶液または酸素を分散させた液体であり、前記脳治療支援システムは、脳梗塞の治療を支援するシステムであることが好ましい。
【0019】
上記(6)の脳治療支援システムによれば、脳の治療領域に高酸素溶液または酸素を分散させた液体を効率的および安全に送達することができる。
【0020】
本発明は、(7)脳の治療領域に治療物質を含む液体を送達する治療を支援する脳治療支援システムであって、撮像された体内の画像に基づいて脳脊髄液が存在する領域の形状を算出する形状算出部と、前記形状算出部により算出された前記脳脊髄液が存在する領域の形状に基づいて、前記脳脊髄液が存在する領域に前記液体を注入した際の前記治療物質の濃度分布を算出する流体解析部と、を備え、前記流体解析部は、前記液体の送達を開始してから所定時間後の前記治療領域付近における前記治療物質の濃度を算出することを特徴とする脳治療支援システムである。
【0021】
上記(7)の脳治療支援システムによれば、流体解析部は、脳脊髄液が存在する領域に向かって液体の送達を開始してから所定時間後の治療領域付近における治療物質の濃度を算出する。これにより、治療対象領域における治療が完了する推定時間を算出することができ、医療従事者による脳治療を支援できるとともに、脳の治療領域に溶液をより一層効率的および安全に送達することができる。
【0022】
(8)上記(7)の脳治療支援システムは、前記流体解析部により算出された前記濃度に基づいて、前記液体が前記治療領域付近に到達する到達時間を算出する到達時間算出部をさらに備えたことが好ましい。
【0023】
上記(8)の脳治療支援システムによれば、医療従事者は、液体が治療領域付近に到達する到達時間を容易に把握し、脳の治療領域に溶液をより一層効率的および安全に送達することができる。
【0024】
(9)上記(8)の脳治療支援システムは、前記到達時間算出部が算出した前記液体が前記治療領域付近に到達する到達時間が最短となる前記脳脊髄液が存在する領域に送達される前記液体の流量、前記脳脊髄液が存在する領域に前記液体を送達するカテーテルの種類および前記カテーテルの配置位置の少なくともいずれか一つを、推奨されるパラメータとして出力するパラメータ出力部をさらに備えたことが好ましい。
【0025】
(10)上記(9)の脳治療支援システムは、前記カテーテル内部における前記治療物質の濃度を測定する濃度測定部をさらに備え、前記流体解析部は、前記濃度測定部により測定された前記治療物質の濃度に基づいて、前記所定時間後の前記治療領域付近における前記治療物質の濃度を更新することが好ましい。
【0026】
上記(10)の脳治療支援システムによれば、治療対象領域における治療が完了する推定時間を算出することができ、医療従事者による脳治療を支援できるとともに、脳の治療領域に溶液をより一層効率的および安全に送達することができる。
【0027】
本発明は、(11)脳の治療領域に治療物質を含む液体を送達する治療を支援する脳治療支援システムのコンピュータによって実行される脳治療支援プログラムであって、前記コンピュータに、撮像された体内の画像に基づいて脳脊髄液が存在する領域の形状を算出するステップと、算出された前記脳脊髄液が存在する領域の形状に基づいて、前記脳脊髄液が存在する領域に前記液体を注入した際の前記治療物質の濃度分布を算出するステップと、算出された前記濃度分布に基づいて、前記脳脊髄液が存在する領域に送達される前記液体の流量に関する情報と、前記脳脊髄液が存在する領域に前記液体を送達するカテーテルの種類と、前記カテーテルの配置位置と、の少なくともいずれかを出力するステップと、を実行させることを特徴とする脳治療支援プログラムである。
【0028】
上記(11)の脳治療支援プログラムによれば、コンピュータは、形状算出部により算出された脳脊髄液が存在する領域の形状に基づいて、脳脊髄液が存在する領域における治療物質の濃度分布を算出するステップを実行する。そして、コンピュータは、流体解析部により算出された濃度分布に基づいて、脳脊髄液が存在する領域に送達される液体の流量に関する情報と、脳脊髄液が存在する領域に液体を送達するカテーテルの種類と、脳脊髄液が存在する領域に液体を送達するカテーテルの配置位置と、の少なくともいずれかを出力するステップを実行する。そのため、コンピュータは、患者毎に異なる脳脊髄液が存在する領域の形状に基づいて、液体の流量に関する情報と、カテーテルの種類と、カテーテルの配置位置と、の少なくともいずれかのパラメータを治療前に適正化することができる。これにより、脳の治療領域に溶液を効率的および安全に送達することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、脳の治療領域に溶液を効率的および安全に送達することができる脳治療支援システムおよび脳治療支援プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】脳の治療領域に液体を送達する治療の概要を説明する模式図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る脳治療支援システムを表すブロック図である。
図3】第1実施形態の表示部に表示された画像の一例を例示する模式図である。
図4】本実施形態に係る脳治療支援システムの動作の具体例を説明するフローチャートである。
図5】本発明の第2実施形態に係る脳治療支援システムを表すブロック図である。
図6】第2実施形態の表示部に表示された画像の一例を例示する模式図である。
図7】本実施形態に係る脳治療支援システムの動作の具体例を説明するフローチャートである。
図8】本実施形態に係る脳治療支援システムの動作の具体例を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に、本発明の好ましい実施形態を、図面を参照して詳しく説明する。
なお、以下に説明する実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0032】
図1は、脳の治療領域に液体を送達する治療の概要を説明する模式図である。
図2は、本発明の第1実施形態に係る脳治療支援システムを表すブロック図である。
図3は、第1実施形態の表示部に表示された画像の一例を例示する模式図である。
図2に表した第1実施形態に係る脳治療支援システムは、治療前における脳治療支援システムの一例である。
【0033】
まず、図1を参照して、本実施形態で対象としている治療方法の例を説明する。図1に表したように、本実施形態で対象としている治療は、脳梗塞が発症して、脳の酸素が欠乏している部位(ペナンブラ領域)に酸素を供給するために、脳から脊髄にかけて存在するクモ膜下腔内に配置されたカテーテルを介して、脳脊髄液に高酸素溶液を注入し、ペナンブラ領域付近の脳脊髄液の酸素濃度を高めることにより、ペナンブラ領域に酸素を供給する手技である。
【0034】
図2に表したように、本実施形態に係る脳治療支援システム2は、脳の治療領域に液体を送達する治療を支援するシステムであって、制御部21と、通信部22と、表示部23と、操作部24と、記憶部25と、を備える。
【0035】
制御部21は、画像測定部3から通信部22を介して各種情報を取得し、記憶部25に記憶されたプログラムを読み出して種々の演算や処理を実行する。制御部21としては、例えばCPU(Central Processing Unit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)などが挙げられる。制御部21は、形状算出部211と、流体解析部212と、パラメータ出力部213と、到達時間算出部215と、入出力部216と、を有する。
【0036】
形状算出部211は、画像測定部3から通信部22を介して取得した患者の体内の画像に基づいて、対象領域のうち脳脊髄液が存在する領域(通常はクモ膜下腔)の形状および容量を算出する。画像測定部3としては、例えばMRI(Magnetic Resonance Image)やCT(Computed Tomography)や超音波診断装置などが挙げられる。そのため、体内の画像としては、例えばMRIやCTや超音波診断装置により撮像された画像などが挙げられる。本願明細書において「対象領域」とは、脳脊髄液が存在する領域の形状および容量を算出する領域である。対象領域としては、例えば頭蓋内などが挙げられる。
【0037】
流体解析部212は、画像測定部3から通信部22を介して各種情報を取得し、流体解析を行う。具体的には、流体解析部212は、形状算出部211により算出された脳脊髄液が存在する領域の形状に基づいて、脳脊髄液が存在する領域における酸素または薬剤等の治療物質の濃度分布を算出する。
【0038】
例えば、図1に表したように、本実施形態に係る脳治療支援システム2が高酸素溶液(本実施形態では酸素化された脳脊髄液)をクモ膜下腔に存在する脳脊髄液(CSF:Cerebrospinal Fluid)に注入し、脳脊髄液が存在する領域(例えばクモ膜下腔内)に高酸素溶液を送達する場合には、流体解析部212は、脳脊髄液が存在する領域における酸素の濃度分布を算出する。一方で、本実施形態に係る脳治療支援システム2がクモ膜下腔に存在する脳脊髄液に薬剤を注入し、脳脊髄液が存在する領域(例えばクモ膜下腔内)に薬剤を送達する場合には、流体解析部212は、脳脊髄液が存在する領域における薬剤の濃度分布を算出する。本実施形態の説明では、主に、脳治療支援システム2がクモ膜下腔に存在する脳脊髄液に高酸素溶液を注入し、脳脊髄液が存在する領域(例えばクモ膜下腔内)に高酸素溶液を送達する場合を例に挙げる。本実施形態の「高酸素溶液」および「薬剤」は、本発明の「液体」の例である。また、本発明の「液体」は、酸素を分散させた液体であってもよい。また、本発明における「治療物質」は、脳疾患を治療する効果がある物質をいい、「治療物質」には、酸素や脳疾患を治療する効果がある薬剤が含まれる。さらに、流体解析部212は、形状算出部211により算出された脳脊髄液が存在する領域の形状に基づいて、脳脊髄液が存在する領域における脳脊髄液の圧力を算出する。
【0039】
パラメータ出力部213は、流体解析部212により算出された酸素の濃度分布に基づいて、脳脊髄液が存在する領域に送達される液体の流量に関する情報と、脳脊髄液が存在する領域に液体を送達するカテーテルの種類と、脳脊髄液が存在する領域に液体を送達するカテーテルの配置位置と、の少なくともいずれかを出力する。パラメータ出力部213が出力するパラメータ(すなわち液体の流量に関する情報、カテーテルの種類およびカテーテルの配置位置)は、治療対象患者に対する治療において適切であると考えられる、推奨されるパラメータである。
【0040】
例えば、パラメータ出力部213は、流体解析部212により算出された酸素の濃度分布に基づいて、脳脊髄液が存在する領域に送達される液体の流量(すなわち供給流量)に関する情報を出力する。パラメータ出力部213が出力する供給流量は、治療対象患者に対する治療において適切であると考えられる、推奨される供給流量である。
【0041】
例えば、パラメータ出力部213は、流体解析部212により算出された酸素の濃度分布に基づいて、脳脊髄液が存在する領域に液体を送達するカテーテルの種類として、カテーテルの内径あるいは外径を出力する。パラメータ出力部213が出力するカテーテルの種類は、治療対象患者に対する治療において適切であると考えられる、推奨されるカテーテルの種類である。例えば図3に表したように、入出力部216は、パラメータ出力部213から出力されたカテーテルの内径あるいは外径を表示部23に表示して、医療従事者に対して提案する処理を実行する。
【0042】
例えば、パラメータ出力部213は、流体解析部212により算出された酸素の濃度分布に基づいて、脳脊髄液が存在する領域に液体を送達するカテーテルの配置位置として、カテーテルの先端の送達位置を出力する。パラメータ出力部213が出力するカテーテルの配置位置は、治療対象患者に対する治療において適切であると考えられる、推奨されるカテーテルの配置位置である。例えば、図3に表したように、入出力部216は、パラメータ出力部213から出力された液体送達用カテーテルの先端の送達位置を表示部23に表示して、医療従事者に対して提案する処理を実行する。
【0043】
また、パラメータ出力部213は、流体解析部212により更新された酸素の濃度分布に基づいて、脳脊髄液が存在する領域に送達される液体の流量に関する情報と、脳脊髄液が存在する領域に液体を送達するカテーテルの種類と、脳脊髄液が存在する領域に液体を送達するカテーテルの配置位置と、の少なくともいずれかを出力する。パラメータ出力部213が出力するパラメータ(すなわち液体の流量に関する情報、カテーテルの種類およびカテーテルの配置位置)は、治療対象患者に対する治療において適切であると考えられる、推奨されるパラメータである。脳脊髄液が存在する領域に送達される液体の流量に関する情報と、脳脊髄液が存在する領域に液体を送達するカテーテルの種類と、脳脊髄液が存在する領域に液体を送達するカテーテルの配置位置と、の例は、前述した通りである。これらの例は、以下の説明においても同様である。
【0044】
さらに、パラメータ出力部213は、流体解析部212により算出された脳脊髄液の圧力に基づいて、脳脊髄液が存在する領域に送達される液体の流量に関する情報と、脳脊髄液が存在する領域に液体を送達するカテーテルの種類と、脳脊髄液が存在する領域に液体を送達するカテーテルの配置位置と、の少なくともいずれかを出力する。パラメータ出力部213が出力するパラメータ(すなわち液体の流量に関する情報、カテーテルの種類およびカテーテルの配置位置)は、治療対象患者に対する治療において適切であると考えられる、推奨されるパラメータである。
【0045】
また、パラメータ出力部213は、流体解析部212により更新された脳脊髄液の圧力に基づいて、脳脊髄液が存在する領域に送達される液体の流量に関する情報と、脳脊髄液が存在する領域に液体を送達するカテーテルの種類と、脳脊髄液が存在する領域に液体を送達するカテーテルの配置位置と、の少なくともいずれかを出力する。パラメータ出力部213が出力するパラメータ(すなわち液体の流量に関する情報、カテーテルの種類およびカテーテルの配置位置)は、治療対象患者に対する治療において適切であると考えられる、推奨されるパラメータである。
【0046】
到達時間算出部215は、流体解析部212により算出された酸素の濃度分布と、パラメータ出力部213により出力されたパラメータ(すなわち液体の流量に関する情報、カテーテルの種類およびカテーテルの配置位置)と、に基づいて液体が治療領域付近に到達すると推定される液体到達推定時間を算出する。例えば、図3に表したように、入出力部216は、到達時間算出部215により算出された液体到達推定時間を表示部23に表示して、医療従事者を支援する処理を実行する。
【0047】
入出力部216は、パラメータ出力部213から出力されたカテーテルの種類およびカテーテルの配置位置を表示部23に表示して、医療従事者に提案する処理を行う。パラメータ出力部213から出力されたカテーテルの種類およびカテーテルの配置位置は、治療対象患者に対する治療において適切であると考えられる、推奨されるカテーテルの種類およびカテーテルの配置位置である。また、入出力部216は、到達時間算出部215により算出された液体到達推定時間を表示部23に表示して、医療従事者を支援する処理を実行する。
【0048】
表示部23は、入出力部216から出力されたカテーテルの種類およびカテーテルの配置位置を表示する。入出力部216から出力されたカテーテルの種類およびカテーテルの配置位置は、治療対象患者に対する治療において適切であると考えられる、推奨されるカテーテルの種類およびカテーテルの配置位置である。また、表示部23は、入出力部216から出力された液体到達推定時間を表示する。表示部23は、例えば医療従事者の指の接触等を検出可能なタッチパネルを含むディスプレイを有していてもよい。すなわち、表示部23は、操作部24と一体的に設けられていてもよい。
【0049】
記憶部25には、形状算出部211、パラメータ出力部213、および到達時間算出部215の演算動作を制御する演算プログラム、流体解析部212の解析動作を制御する解析プログラム、ならびに入出力部216の表示動作を制御する表示プログラム等の各種プログラムが格納されている。また、記憶部25には、形状算出部211、パラメータ出力部213、および到達時間算出部215の演算データ、ならびに流体解析部212の解析データ等の各種データが格納される。なお、プログラムは、記憶部25に格納されていることには限定されず、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に予め格納され頒布されてもよく、あるいはネットワークを介して脳治療支援システム2にダウンロードされてもよい。
【0050】
記憶部25としては、例えば、脳治療支援システム2に内蔵された半導体メモリなどが挙げられる。あるいは、記憶部25としては、例えば、脳治療支援システム2に接続可能なCD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、RAM(Random access memory)、ROM(Read only memory)、ハードディスク、メモリカードなどの種々の記憶媒体やデータサーバなどが挙げられる。
【0051】
形状算出部211、流体解析部212、パラメータ出力部213、到達時間算出部215、および入出力部216は、記憶部25に格納(記憶)されているプログラムを制御部21が実行することにより実現される。なお、形状算出部211、流体解析部212、パラメータ出力部213、到達時間算出部215、および入出力部216は、ハードウェアによって実現されてもよく、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせによって実現されてもよい。
【0052】
制御部21を含むコンピュータによって実行されるプログラムは、本発明の「脳治療支援プログラム」に相当する。ここでいう「コンピュータ」とは、パソコンには限定されず、情報処理機器に含まれる演算処理装置、マイコン等も含み、プログラムによって本発明の機能を実現することが可能な機器、装置を総称している。
【0053】
ここで、脳脊髄液が存在する領域(例えばクモ膜下腔内)に高酸素溶液を効率的に送達するためには、頭蓋内の酸素濃度分布を知る必要がある。しかし、頭蓋内の酸素濃度分布は、主に頭蓋内腔の形状に依存する。そのため、頭蓋内の酸素濃度分布を一般化することは、困難である。
【0054】
これに対して、本実施形態に係る脳治療支援システム2によれば、形状算出部211は、画像測定部3により撮像された患者の体内の画像に基づいて、脳脊髄液が存在する領域の形状を算出する。流体解析部212は、形状算出部211により算出された脳脊髄液が存在する領域の形状に基づいて脳脊髄液が存在する領域における酸素の濃度分布を算出する。そして、パラメータ出力部213は、流体解析部212により算出された酸素の濃度分布に基づいて、脳脊髄液が存在する領域に送達される液体の流量に関する情報と、脳脊髄液が存在する領域に液体を送達するカテーテルの種類と、脳脊髄液が存在する領域に液体を送達するカテーテルの配置位置と、の少なくともいずれかを出力する。
以下、本実施形態に係る脳治療支援システム2の具体的な動作を、図面を参照して説明する。
【0055】
図4は、本実施形態に係る脳治療支援システムの動作の具体例を説明するフローチャートである。
【0056】
まず、ステップS1において、脳治療支援システム2は、画像測定部3により撮像された患者の体内の画像を通信部22を介して受信する。続いて、ステップS2において、形状算出部211は、画像測定部3により撮像された体内の画像に基づいて脳脊髄液が存在する領域の形状を算出する。
【0057】
続いて、ステップS3において、パラメータ出力部213は、液体の流量と、カテーテルの種類と、液体送達用カテーテルの先端の配置位置と、を仮決定する。続いて、ステップS4において、流体解析部212は、形状算出部211により算出された脳脊髄液が存在する領域の形状と、オペレーターが入力した酸素濃度の値(通常は飽和酸素濃度)と、パラメータ出力部213が仮に設定した液体の流量、カテーテルの種類、および液体送達用カテーテルの先端の配置位置と、に基づいて、脳脊髄液が存在する領域における酸素または薬剤等の治療物質の濃度分布および酸素等の濃度分布の時間変化を算出する。例えば、流体解析部212は、脳脊髄液が存在する領域における酸素濃度(または薬剤濃度)の平均値を算出する。続いて、ステップS5において、流体解析部212は、形状算出部211により算出された脳脊髄液が存在する領域の形状に基づいて、脳脊髄液が存在する領域における脳脊髄液の圧力を算出する。なお、ステップS5の処理は、ステップS4の処理よりも先に実行されてもよい。あるいは、ステップS5の処理は、ステップS4の処理と同時に実行されてもよい。
【0058】
続いて、ステップS6において、到達時間算出部215は、治療対象領域、例えば脳梗塞が発生した部位の付近のペナンブラ領域(脳梗塞惹起後早期の病態において、血流量が低下していながらも、細胞死を免れている領域)の付近に液体が到達する時間、すなわち、ペナンブラ領域の付近の脳脊髄液の酸素濃度が基準値(治療に効果があると考えられる酸素濃度の値)以上となる時間を算出する。続いて、ステップS7において、制御部21は、到達時間算出部215がすべてのパラメータの組み合わせで液体到達時間を算出したか否かを判断する。
【0059】
到達時間算出部215がすべてのパラメータの組み合わせで液体到達時間を算出していない場合には(ステップS7:NO)、ステップS10において、パラメータ出力部213は、液体の流量、カテーテルの種類、液体送達用カテーテルの先端の配置位置の少なくともいずれかの値を変更(更新)する。続いて、ステップS4~ステップS7に関して前述した処理が繰り返し実行される。このようにして、パラメータ出力部213が、液体の流量、カテーテルの種類、およびカテーテルの配置位置を変化させて、到達時間算出部215が、液体が治療領域に到達する時間を算出し、各液体の流量、カテーテルの種類、およびカテーテルの配置位置における液体が治療領域に到達する時間が得られる。
【0060】
一方で、到達時間算出部215がすべてのパラメータで液体到達時間を算出した場合には(ステップS7:YES)、ステップS8において、パラメータ出力部213は、液体が治療領域に到達する時間が最短となるような液体の流量、カテーテルの種類、およびカテーテルの配置位置を、治療対象患者に対する適切な、推奨される液体の流量、カテーテルの種類、および液体送達用カテーテルの配置位置として出力する。
【0061】
基本的には、カテーテルの内径が大きく多くの流量の液体を送達でき、液体送達用カテーテルの先端の配置位置が脳に近く、流量が大きい方が液体の到達時間は短くなる。しかしながら、カテーテルの外径が大きすぎると、クモ膜下腔が狭い患者の場合、脳付近までカテーテルを送達できなくなり、液体の到達時間が長くなることがある。また、脳の付近で液体の流量を大きくすると、脳室に負担をかけてしまうリスクがある。したがって、液体の到達時間だけでなく、患者に対する負担も考慮して適切なパラメータを出力することが望ましい。
【0062】
続いて、ステップS9において、入出力部216は、パラメータ出力部213から出力された液体の流量、カテーテルの種類、およびカテーテルの配置位置を、治療対象患者に対する適切な、推奨される液体の流量、カテーテルの種類、およびカテーテルの配置位置として表示部23に表示する処理を行う。例えば、ステップS1~ステップS10に関して前述した処理は、脳治療を行う前に実行される処理である。
【0063】
以上説明したように、本実施形態に係る脳治療支援システム2によれば、形状算出部211は、画像測定部3により撮像された患者の体内の画像に基づいて、脳脊髄液が存在する領域の形状を算出する。流体解析部212は、形状算出部211により算出された脳脊髄液が存在する領域の形状に基づいて脳脊髄液が存在する領域における酸素の濃度分布を算出する。そして、パラメータ出力部213は、流体解析部212により算出された酸素の濃度分布に基づいて、脳脊髄液が存在する領域に送達される液体の流量に関する情報と、脳脊髄液が存在する領域に液体を送達するカテーテルの種類と、脳脊髄液が存在する領域に液体を送達するカテーテルの配置位置と、の少なくともいずれかを出力する。
【0064】
そのため、本実施形態に係る脳治療支援システム2は、患者毎に異なる脳脊髄液が存在する領域の形状に基づいて、液体の流量に関する情報と、カテーテルの種類と、カテーテルの配置位置と、の少なくともいずれかのパラメータを治療前に適正化することができる。これにより、本実施形態に係る脳治療支援システム2は、脳の治療領域に溶液を効率的および安全に送達することができる。
【0065】
また、流体解析部212は、形状算出部211により算出された脳脊髄液が存在する領域の形状に基づいて脳脊髄液が存在する領域における脳脊髄液の圧力を算出する。そして、パラメータ出力部213は、流体解析部212により算出された脳脊髄液の圧力に基づいて、液体の流量に関する情報と、カテーテルの種類と、カテーテルの配置位置と、の少なくともいずれかを出力する。これにより、本実施形態に係る脳治療支援システム2は、患者毎に異なる脳脊髄液が存在する領域の形状に基づいて、液体の流量に関する情報と、カテーテルの種類と、カテーテルの配置位置と、の少なくともいずれかのパラメータを治療前により一層適正化することができる。これにより、本実施形態に係る脳治療支援システム2は、脳の治療領域に溶液をより一層効率的および安全に送達することができる。
【0066】
以上説明した効果は、本実施形態に係る脳治療支援システム2がクモ膜下腔に存在する脳脊髄液に薬剤を注入し、脳脊髄液が存在する領域(例えばクモ膜下腔内)に薬剤を送達する場合においても同様に得られる。
【0067】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
なお、第2実施形態に係る脳治療支援システム2Aの構成要素が、図1図4に関して前述した第1実施形態に係る脳治療支援システム2の構成要素と同様である場合には、重複する説明は適宜省略し、以下、相違点を中心に説明する。
【0068】
図5は、本発明の第2実施形態に係る脳治療支援システムを表すブロック図である。
図6は、第2実施形態の表示部に表示された画像の一例を例示する模式図である。
図5に表した第2実施形態に係る脳治療支援システムは、治療中における脳治療支援システムの一例である。
【0069】
図5に表したように、第2実施形態に係る脳治療支援システム2Aは、図1図4に関して前述した第1実施形態に係る脳治療支援システム2と比較して、ポンプ制御部214と、ポンプ28と、液体供給部29と、圧力測定部261と、流量測定部262と、をさらに備える。図5に表したように、脳治療支援システム2Aは、濃度測定部263をさらに備えていてもよい。
【0070】
ポンプ制御部214は、パラメータ出力部213から出力された液体の流量に関する情報に基づいてポンプ28を制御し、ポンプ28の吐出量(すなわちクモ膜下腔に存在する脳脊髄液に注入(供給)される液体の流量)を調整する。すなわち、ポンプ制御部214は、通信部22を介してポンプ28に制御信号を送信し、ポンプ28の動作を制御する。例えば、ポンプ制御部214は、ポンプ28に供給する電力を制御し、ポンプ28から送り出される液体の流量を調整する。
【0071】
ポンプ28は、側臥位の状態の腰椎付近からクモ膜下腔に挿入されたカテーテルを介して脳脊髄液を吸引し、液体供給部29に送り出す。また、ポンプ28は、液体供給部29から供給された高酸素溶液を吸引し、カテーテルを介して脳脊髄液に注入する。なお、ポンプ28は、排出用ポンプと、注入用ポンプと、を有していてもよい。
【0072】
液体供給部29は、ポンプ28から送り出された脳脊髄液と、図示しない人工脳脊髄液バッグから供給された人工脳脊髄液と、図示しない酸素供給源から供給された酸素と、を混合して酸素化された(酸素濃度を高めた)脳脊髄液を生成する。あるいは、液体供給部29は、図示しない酸素バブリングを用いて脳脊髄液を酸素化してもよい。液体供給部29により酸素化された脳脊髄液は、高酸素溶液(通常の脳脊髄液よりも酸素濃度が高い液体)としてポンプ28に吸引され、カテーテルを介してクモ膜下腔に供給される。
【0073】
圧力測定部261は、脳脊髄液が存在する領域に向かってポンプ28から送達される液体の圧力または脳脊髄液の圧力を測定し、測定した圧力を通信部22を介して制御部21に送信する。
流量測定部262は、脳脊髄液が存在する領域に向かってポンプ28から送達される液体の流量を測定し、測定した流量を通信部22を介して制御部21に送信する。
【0074】
濃度測定部263は、カテーテル内部における脳脊髄液の酸素または薬剤等の治療物質の濃度を測定する。また、濃度測定部263は、測定した濃度を通信部22を介して制御部21に送信する。
【0075】
制御部21は、圧力測定部261、流量測定部262および濃度測定部263から通信部22を介して各種情報を取得し、記憶部25に記憶されたプログラムを読み出して種々の演算や処理を実行する。流体解析部212は、圧力測定部261、流量測定部262および濃度測定部263から通信部22を介して各種情報を取得し、流体解析を行う。
【0076】
具体的には、流体解析部212は、流量測定部262により測定され通信部22を介して取得した液体の流量と、形状算出部211により算出された脳脊髄液が存在する領域の形状と、に基づいて、事前(例えば治療前)に流体解析を行った結果(すなわち脳脊髄液が存在する領域における酸素または薬剤等の治療物質の濃度分布)を更新する。
【0077】
また、流体解析部212は、圧力測定部261により測定され通信部22を介して取得した液体の圧力と、形状算出部211により算出された脳脊髄液が存在する領域の形状と、に基づいて、事前(例えば治療前)に流体解析を行った結果(すなわち脳脊髄液が存在する領域における脳脊髄液の圧力)を更新する。
【0078】
また、流体解析部212は、脳脊髄液が存在する領域に向かって液体の送達を開始してから所定時間後の治療領域付近における脳脊髄液の酸素または薬剤等の治療物質の濃度を算出する。また、流体解析部212は、濃度測定部263により測定され通信部22を介して取得した濃度に基づいて、脳脊髄液が存在する領域に向かって液体の送達を開始してから所定時間後の治療領域付近における脳脊髄液の酸素または薬剤の濃度を更新する。
【0079】
到達時間算出部215は、治療対象領域、例えば脳梗塞が発生した部位の付近のペナンブラ領域(脳梗塞惹起後早期の病態において、血流量が低下していながらも、細胞死を免れている領域)の付近の脳脊髄液の酸素濃度が基準値以上となる液体の到達時間を算出するとともに、治療対象領域における治療効果が発揮されるまでの推定時間あるいは治療効果が出始めるまでの時間を算出する。図6に表したように、入出力部216は、算出された推定時間(すなわち液体到達推定時間)を表示部23に表示して、医療従事者による脳治療を支援する処理を実行する。
その他の構成は、図1図4に関して前述した第1実施形態に係る脳治療支援システム2の構成と同様である。
【0080】
以下、本実施形態に係る脳治療支援システム2Aの具体的な動作を、図面を参照して説明する。
図7図8は、本実施形態に係る脳治療支援システムの動作の具体例を説明するフローチャートである。
【0081】
まず、ステップS11において、ポンプ制御部214は、ポンプ28の動作を開始する制御を実行し、液体供給部29から供給される液体の循環を開始する。すなわち、ポンプ28は、側臥位の状態の腰椎付近からクモ膜下腔に挿入されたカテーテルを介して脳脊髄液を吸引し、液体供給部29から供給された液体(例えば高酸素溶液)をカテーテルを介して脳脊髄液に注入する動作を開始する。
【0082】
続いて、ステップS12において、流量測定部262は、脳脊髄液が存在する領域に向かってポンプ28から送達される液体の流量を測定する。また、ステップS12において、圧力測定部261は、脳脊髄液が存在する領域に向かってポンプ28から送達される液体の圧力を測定する。続いて、ステップS13において、濃度測定部263は、脳脊髄液が存在する領域に送達される液体の酸素濃度(または薬剤濃度)を測定する。なお、ステップS13の処理は、ステップS12の処理よりも先に実行されてもよい。あるいは、ステップS13の処理は、ステップS12の処理と同時に実行されてもよい。
【0083】
続いて、ステップS14において、流体解析部212は、流量測定部262により測定された液体の流量と、形状算出部211により算出された脳脊髄液が存在する領域の形状と、に基づいて、事前(例えば治療前)に流体解析を行った結果(すなわち脳脊髄液が存在する領域における酸素または薬剤等の治療物質の濃度分布)を更新する。続いて、ステップS15において、流体解析部212は、圧力測定部261により測定された液体の圧力と、形状算出部211により算出された脳脊髄液が存在する領域の形状と、に基づいて、事前(例えば治療前)に流体解析を行った結果(すなわち脳脊髄液が存在する領域における脳脊髄液の圧力)を更新する。続いて、ステップS16において、流体解析部212は、濃度測定部263から取得した液体の酸素濃度(または薬剤濃度)に基づいて、流体解析を行った結果(すなわち脳脊髄液が存在する領域における酸素または薬剤等の治療物質の濃度分布)を更新する。なお、ステップS14~ステップS16の処理の順序は、互いに前後してもよく、あるいは同時に実行されてもよい。
【0084】
続いて、ステップS17において、制御部21は、流体解析部212により更新された酸素の濃度分布および脳脊髄液の圧力が、事前(例えば治療前)に流体解析部212の流体解析により算出された酸素の濃度分布および脳脊髄液のそれぞれと差がないか否かを判断する。差がない場合には(ステップS17:YES)、ステップS18において、制御部21は、頭蓋内圧力の推定値が適正範囲内であるか否かを判断する。一方で、差がある場合には(ステップS17:NO)、ステップS19において、ポンプ制御部214は、通信部22を介してポンプ28に制御信号を送信し、ポンプ28から送り出される液体の流量および圧力を変更する。また、ステップS19において、到達時間算出部215は、液体が治療対象領域に到達する時間を、更新された酸素または薬剤等の治療物質の濃度分布に基づいて再度算出する。
【0085】
続いて、頭蓋内圧力の推定値が適正範囲内である場合には(ステップS18:YES)、ステップS21において、制御部21は、脳脊髄液が存在する領域おける酸素濃度(または薬剤濃度)が指定値となり、かつ指定時間留まったか否かを判断する。一方で、頭蓋内圧力の推定値が適正範囲内ではない場合には(ステップS18:NO)、ステップS19に関して前述した処理が実行される。
【0086】
続いて、脳脊髄液が存在する領域おける酸素濃度(または薬剤濃度)が指定値となり、かつ指定時間留まった場合には(ステップS21:YES)、ポンプ制御部214は、ポンプ28の動作を停止する制御を実行し、液体供給部29から供給される液体の循環を停止する。一方で、脳脊髄液が存在する領域おける酸素濃度(または薬剤濃度)が指定値ではなく、あるいは、脳脊髄液が存在する領域おける酸素濃度(または薬剤濃度)が指定値であっても指定時間留まっていない場合には(ステップS21:NO)、ステップS12に関して前述した処理が実行される。
【0087】
ステップS22に続くステップS23において、入出力部216は、表示部23に治療終了を表示する処理を実行する。
【0088】
以上説明したように、本実施形態に係る脳治療支援システム2Aによれば、流体解析部212は、流量測定部262により測定された流量および形状算出部211により算出された脳脊髄液が存在する領域の形状に基づいて、事前の流体解析により算出された濃度分布を更新する。そして、パラメータ出力部213は、流体解析部212により更新された濃度分布に基づいて、推奨される液体の流量に関する情報を出力する。これにより、本実施形態に係る脳治療支援システム2Aは、治療中に、液体の流量に関する情報を調整し、脳の治療領域に溶液を効率的および安全に送達することができる。
【0089】
また、流体解析部212は、濃度測定部263により測定された脳脊髄液が存在する領域に送達される液体の酸素濃度に基づいて、事前の流体解析により算出された濃度分布を更新する。そして、パラメータ出力部213は、流体解析部212により更新された濃度分布に基づいて、推奨される液体の流量に関する情報を出力する。これにより、本実施形態に係る脳治療支援システム2Aは、治療中に、液体の流量に関する情報を調整し、脳の治療領域に溶液を効率的および安全に送達することができる。
【0090】
また、流体解析部212は、圧力測定部261により測定された圧力および形状算出部211により算出された脳脊髄液が存在する領域の形状に基づいて、事前の流体解析により算出された脳脊髄液の圧力を更新する。そして、パラメータ出力部213は、流体解析部212により更新された脳脊髄液の圧力に基づいて、液体の流量に関する情報を出力する。これにより、本実施形態に係る脳治療支援システム2は、治療中に、液体の流量に関する情報を調整し、脳の治療領域に溶液をより一層効率的および安全に送達することができる。
【0091】
また、流体解析部212は、脳脊髄液が存在する領域に向かって液体の送達を開始してから所定時間後の治療領域付近における脳脊髄液の酸素または薬剤等の治療物質の濃度を算出する。また、流体解析部212は、濃度測定部263により測定された脳脊髄液の酸素または薬剤等の治療物質の濃度に基づいて、脳脊髄液が存在する領域に向かって液体の送達を開始してから所定時間後の治療領域付近における脳脊髄液の酸素または薬剤等の治療物質の濃度を更新する。これにより、到達時間算出部215は、治療対象領域における治療の効果が発揮される推定時間を算出することができ、医療従事者による脳治療を支援できるとともに、脳の治療領域に溶液をより一層効率的および安全に送達することができる。
【0092】
以上説明した効果は、本実施形態に係る脳治療支援システム2Aがクモ膜下腔に存在する脳脊髄液に薬剤を注入し、脳脊髄液が存在する領域(例えばクモ膜下腔内)に薬剤を送達する場合においても同様に得られる。
【0093】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は、上記実施形態に限定されず、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で種々の変更を行うことができる。上記実施形態の構成は、その一部を省略したり、上記とは異なるように任意に組み合わせたりすることができる。
【符号の説明】
【0094】
2:脳治療支援システム、 2A:脳治療支援システム、 3:画像測定部、 21:制御部、 22:通信部、 23:表示部、 24:操作部、 25:記憶部、 28:ポンプ、 29:液体供給部、 211:形状算出部、 212:流体解析部、 213:パラメータ出力部、 214:ポンプ制御部、 215:到達時間算出部、 216:入出力部、 261:圧力測定部、 262:流量測定部、 263:濃度測定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8