(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143833
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】皮膜除去剤及び皮膜除去方法
(51)【国際特許分類】
C23G 1/18 20060101AFI20241003BHJP
C23G 1/19 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C23G1/18
C23G1/19
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056735
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000232656
【氏名又は名称】日本表面化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】白川 周平
(72)【発明者】
【氏名】香取 光臣
(72)【発明者】
【氏名】牧野 利昭
(72)【発明者】
【氏名】西谷 伸
(72)【発明者】
【氏名】野坂 利弘
(72)【発明者】
【氏名】加田 卓也
【テーマコード(参考)】
4K053
【Fターム(参考)】
4K053PA02
4K053PA03
4K053QA05
4K053RA22
4K053RA23
4K053RA25
4K053RA63
4K053RA69
4K053SA06
4K053YA02
4K053YA03
(57)【要約】
【課題】基材の腐食を良好に抑制しながら基材の上に形成された皮膜を除去することが可能な皮膜除去剤及び皮膜除去方法を提供する。
【解決手段】(A)臭素酸塩、(B)アルカリ性アルカリ金属塩、アルカリ性アルカリ土類金属塩、及び、水酸化アルカリからなる群のうち1種以上、(C)ハロゲン化物、(D)還元糖、還元性硫黄化合物、及び、アルデヒド類からなる群のうち1種類以上、(E)カルボン酸、及び、(F)アゾール化合物を含有する、皮膜除去剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)臭素酸塩、(B)アルカリ性アルカリ金属塩、アルカリ性アルカリ土類金属塩、及び、水酸化アルカリからなる群のうち1種以上、(C)ハロゲン化物、(D)還元糖、還元性硫黄化合物、及び、アルデヒド類からなる群のうち1種類以上、(E)カルボン酸、及び、(F)アゾール化合物を含有する、皮膜除去剤。
【請求項2】
前記(A)が、臭素酸ナトリウム、臭素酸カリウム、臭素酸アンモニウム、臭素酸アルミニウム、臭化カリウム、及び、臭化ナトリウムからなる群のうち1種以上である、請求項1に記載の皮膜除去剤。
【請求項3】
前記(B)が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カルシウム、炭酸バリウム、水酸化アルミニウム、及び、水酸化アンモニウムからなる群のうち1種以上である、請求項1に記載の皮膜除去剤。
【請求項4】
前記(C)が、塩化水素、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、臭化ナトリウム、及び、フッ化ナトリウムからなる群のうち1種以上である、請求項1に記載の皮膜除去剤。
【請求項5】
前記(D)が、二酸化硫黄、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、チオ尿素、ホルムアルデヒド、バニリン、ギ酸、グルコース、フルクトース、及び、マルトースからなる群のうち1種以上である、請求項1に記載の皮膜除去剤。
【請求項6】
前記(E)が、酢酸、酒石酸、ロッシェル塩、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸、安息香酸、安息香酸ナトリウム、フタル酸、及び、サリチル酸からなる群のうち1種以上である、請求項1に記載の皮膜除去剤。
【請求項7】
前記(F)が、トリルトリアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール、2-メルカプトベンズイミダゾール、1,3,4-チオジアゾール-2,5-ジチオール、2-イソプロピルイミダゾール、及び、2-メルカプトベンゾチアゾールナトリウム塩からなる群のうち1種以上である、請求項1に記載の皮膜除去剤。
【請求項8】
被処理皮膜が物理気相成長により生成された皮膜である、請求項1に記載の皮膜除去剤。
【請求項9】
被処理皮膜が、鋼又は超硬合金で形成された基材の表面に形成されている、請求項1に記載の皮膜除去剤。
【請求項10】
基材表面の皮膜を除去する皮膜除去方法であって、
(A)臭素酸塩、(B)アルカリ性アルカリ金属塩、アルカリ性アルカリ土類金属塩、及び、水酸化アルカリからなる群のうち1種以上、(C)ハロゲン化物、(D)還元糖、還元性硫黄化合物、及び、アルデヒド類からなる群のうち1種類以上、(E)カルボン酸、及び、(F)アゾール化合物を含有する液体組成物を用いて、ORPを350~800mVに調整して基材表面の皮膜を除去する皮膜除去方法。
【請求項11】
被処理皮膜が物理気相成長により生成された皮膜である、請求項10に記載の皮膜除去方法。
【請求項12】
被処理皮膜が、鋼又は超硬合金で形成された基材の表面に形成されている、請求項10に記載の皮膜除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膜除去剤及び皮膜除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、金型などの金属加工用の工具は、耐摩耗性及び加工性を高めるために、ダイス鋼や超硬合金等の工具鋼基材に、所定の皮膜を設けている。皮膜が摩耗損傷した場合には、皮膜だけを選択的に溶解除去し、再生使用することが行われている。しかしながら、そういった皮膜は耐食性が良好であることから、皮膜除去が困難であり金型を再生するときの障害となっている。
【0003】
皮膜の除去方法としては、まず、物理的に除去する方法が挙げられる。特許文献1では粉体を被処理物に吹きつけることにより皮膜を除去している。しかしながら、このような方法では、基材が損傷を受け、寸法が変化してしまうという問題点がある。
【0004】
別の方法として、電解剥離による皮膜除去方法が挙げられる。特許文献2ではアルカリ性の水溶液中で被処理物を陽極として電解することで皮膜を除去している。この手法では皮膜のみを選択的に除去できるために寸法の変化が無い。しかしながら、電解を行うことによる基材中の金属が溶解することで工具鋼が侵食され、基材の強度低下や工具として使用した際の加工性の悪化が懸念される。また、電解を行うための電源を必要とするために設備投資費が高くなることや、複雑な形状の処理物を処理した場合に、形状に応じた電流密度分布の偏りが生じ、低電流密度の部分で皮膜の残留が生じるという問題点がある。
【0005】
複雑な形状の処理物においても皮膜残留部を生じさせず、皮膜を全面除去する方法としては、化学的皮膜除去剤に浸漬する方法が挙げられる。特許文献3には、硝酸第二セリウムアンモニウムを主成分とした酸性の皮膜除去剤が開示されている。しかしながら、ここで使用される皮膜除去剤は強酸性であるため、電解による皮膜除去法と同様に基材である工具鋼が侵食されるという問題点がある。
【0006】
基材を荒らさずに皮膜を除去する手法として、特許文献4のようなアルカリ性の化学的皮膜除去剤が挙げられる。特許文献4の処理液は処理pHがアルカリであるために基材の侵食が生じない。しかしながら、基材がガラスである皮膜を対象とした処理剤であるため、工具鋼上の皮膜の除去を行った場合、酸化力が強いことから基材である工具鋼から錆が発生してしまうという問題点がある。
【0007】
これらの問題に対し、特許文献5には、臭素酸塩、アルカリ性アルカリ金属塩等、ハロゲン化物、及び、還元糖等を含有する皮膜除去剤を用いて、基材の上に形成された皮膜を、基材の浸食及び基材からの錆の発生を良好に抑制しつつ、皮膜除去剤への浸漬のみで除去する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003-200350号公報
【特許文献2】特開2001-064800号公報
【特許文献3】特開2007-321186号公報
【特許文献4】特開1994-024240号公報
【特許文献5】特許第6528092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
基材の腐食を良好に抑制しながら基材の上に形成された皮膜を除去することができれば、皮膜を基材に再コーティングして再利用することができるため、生産におけるトータルコストの低減を図ることができる。このような需要は、基材の上に形成する皮膜の開発とともに今後ますます増加することが考えられるが、それに見合った皮膜除去剤の基材の腐食抑制効果については未だ開発の余地がある。
【0010】
本発明は、基材の腐食を良好に抑制しながら基材の上に形成された皮膜を除去することが可能な皮膜除去剤及び皮膜除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、(A)臭素酸塩、(B)アルカリ性アルカリ金属塩、アルカリ性アルカリ土類金属塩、及び、水酸化アルカリからなる群のうち1種以上、(C)ハロゲン化物、(D)還元糖、還元性硫黄化合物、及び、アルデヒド類からなる群のうち1種類以上、(E)カルボン酸、及び、(F)アゾール化合物を含有する皮膜除去剤を用いることで、上記課題が解決されることを見出した。
【0012】
以上の知見を基礎として完成した本発明は以下の(1)~(12)によって規定される。
(1)(A)臭素酸塩、(B)アルカリ性アルカリ金属塩、アルカリ性アルカリ土類金属塩、及び、水酸化アルカリからなる群のうち1種以上、(C)ハロゲン化物、(D)還元糖、還元性硫黄化合物、及び、アルデヒド類からなる群のうち1種類以上、(E)カルボン酸、及び、(F)アゾール化合物を含有する、皮膜除去剤。
(2)前記(A)が、臭素酸ナトリウム、臭素酸カリウム、臭素酸アンモニウム、臭素酸アルミニウム、臭化カリウム、及び、臭化ナトリウムからなる群のうち1種以上である、前記(1)に記載の皮膜除去剤。
(3)前記(B)が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カルシウム、炭酸バリウム、水酸化アルミニウム、及び、水酸化アンモニウムからなる群のうち1種以上である、前記(1)または(2)に記載の皮膜除去剤。
(4)前記(C)が、塩化水素、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、臭化ナトリウム、及び、フッ化ナトリウムからなる群のうち1種以上である、前記(1)~(3)のいずれかに記載の皮膜除去剤。
(5)前記(D)が、二酸化硫黄、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、チオ尿素、ホルムアルデヒド、バニリン、ギ酸、グルコース、フルクトース、及び、マルトースからなる群のうち1種以上である、前記(1)~(4)のいずれかに記載の皮膜除去剤。
(6)前記(E)が、酢酸、酒石酸、ロッシェル塩、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸、安息香酸、安息香酸ナトリウム、フタル酸、及び、サリチル酸からなる群のうち1種以上である、前記(1)~(5)のいずれかに記載の皮膜除去剤。
(7)前記(F)が、トリルトリアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール、2-メルカプトベンズイミダゾール、1,3,4-チオジアゾール-2,5-ジチオール、2-イソプロピルイミダゾール、及び、2-メルカプトベンゾチアゾールナトリウム塩からなる群のうち1種以上である、前記(1)~(6)のいずれかに記載の皮膜除去剤。
(8)被処理皮膜が物理気相成長により生成された皮膜である、前記(1)~(7)のいずれかに記載の皮膜除去剤。
(9)被処理皮膜が、鋼又は超硬合金で形成された基材の表面に形成されている、前記(1)~(8)のいずれかに記載の皮膜除去剤。
(10)基材表面の皮膜を除去する皮膜除去方法であって、
(A)臭素酸塩、(B)アルカリ性アルカリ金属塩、アルカリ性アルカリ土類金属塩、及び、水酸化アルカリからなる群のうち1種以上、(C)ハロゲン化物、(D)還元糖、還元性硫黄化合物、及び、アルデヒド類からなる群のうち1種類以上、(E)カルボン酸、及び、(F)アゾール化合物を含有する液体組成物を用いて、ORPを350~800mVに調整して基材表面の皮膜を除去する皮膜除去方法。
(11)被処理皮膜が物理気相成長により生成された皮膜である、前記(10)に記載の皮膜除去方法。
(12)被処理皮膜が、鋼又は超硬合金で形成された基材の表面に形成されている、前記(10)または(11)に記載の皮膜除去方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、基材の腐食を良好に抑制しながら基材の上に形成された皮膜を除去することが可能な皮膜除去剤及び皮膜除去方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に本発明を実施するための形態を詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0015】
<皮膜除去剤>
本発明の実施形態に係る皮膜除去剤は、(A)臭素酸塩、(B)アルカリ性アルカリ金属塩、アルカリ性アルカリ土類金属塩、及び、水酸化アルカリからなる群のうち1種以上、(C)ハロゲン化物、(D)還元糖、還元性硫黄化合物、及び、アルデヒド類からなる群のうち1種類以上、(E)カルボン酸、及び、(F)アゾール化合物を含有する。
【0016】
(被処理皮膜)
本発明の実施形態に係る皮膜除去剤は、基材の上に形成された皮膜(以下、被処理皮膜とも呼ぶ)を除去する。被処理皮膜としては、物理気相成長により生成された皮膜が好ましい。また、被処理皮膜は、クロム系の皮膜、チタン系の皮膜、アルミニウム系の皮膜等である。クロム系の皮膜としては、窒化クロム皮膜、窒化アルミニウムクロム皮膜、窒化アルミニウムクロムチタン皮膜、窒化アルミニウムクロムチタンケイ素皮膜、これらの単層皮膜および積層皮膜等が挙げられる。チタン系の皮膜、アルミニウム系の皮膜としては、炭窒化チタン皮膜や、窒化アルミニウムチタン皮膜、窒化チタン皮膜等が挙げられる。本発明の実施形態に係る皮膜除去剤は、(E)カルボン酸、及び、(F)アゾール化合物を含有しており、特に基材の腐食を良好に抑制しながらクロム系の皮膜を除去することができる。
【0017】
被処理皮膜の厚みは、特に限定されないが、0.5~10μmであってもよく、1~5μmであってもよい。
【0018】
(基材)
皮膜が形成される基材には、高速度工具鋼(SKH)や合金工具鋼鋼材(SKD)、ステンレス鋼(SUS)等の鋼、超硬合金等が挙げられる。
【0019】
ここで、本発明の実施形態に係る皮膜除去剤は、特に基材が超硬合金やSKH材等のタングステンを含む金属であるのが好ましい。従来、皮膜除去剤を用いて皮膜を除去すると基材が腐食する問題があった。この腐食については、皮膜除去剤がアルカリ性を示すため、特に基材が超硬合金やSKH材等のタングステンを含む金属である場合、タングステンが薬液中に溶出してしまい、基材金属の腐食が発生してしまうことが要因であった。基材金属の腐食が大きいと、基材において、切削工具として必要な加工精度や強度への影響が懸念される。これに対して、腐食抑制成分である(E)カルボン酸、及び、(F)アゾール化合物を用いることで、超硬合金やSKH材等に含まれるタングステンの溶解を抑制させながら、皮膜除去が可能となる。
【0020】
(臭素酸塩)
本発明の皮膜除去剤の構成成分である(A)臭素酸塩としては、臭素酸ナトリウム、臭素酸カリウム、臭素酸アンモニウム、臭素酸アルミニウム等の臭素酸塩、臭化カリウムや臭化ナトリウム等の臭化物をオゾン等の酸化剤により合成した臭素酸塩が利用できる。臭素酸の化合物であれば、上記以外の物質でも臭素酸塩として利用できる。(A)臭素酸塩としては、臭素酸ナトリウム、臭素酸カリウムが特に好ましい。これら臭素酸塩は一種または二種以上を使用することができる。
【0021】
臭素酸塩の濃度としては臭素酸イオン濃度として1~200g/Lが好ましく、20~200g/Lであるのがより好ましい。臭素酸イオン濃度が1g/Lより低下すると皮膜除去性の低下を招くことがある。臭素酸イオン濃度が200g/Lを超えるとコストメリットの低下と共に液安定性の低下を招くことがある。
【0022】
(アルカリ性アルカリ金属塩、アルカリ性アルカリ土類金属塩、及び、水酸化アルカリ)
本発明の皮膜除去剤の構成成分である(B)アルカリ性アルカリ金属塩、アルカリ性アルカリ土類金属塩、及び、水酸化アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カルシウム、炭酸バリウム等の各種アルカリ性アルカリ金属、及び、アルカリ性アルカリ土類金属塩と、水酸化アルミニウム、水酸化アンモニウム等の水酸化アルカリが利用できる。これらアルカリ性アルカリ金属塩、アルカリ性アルカリ土類金属塩、及び、水酸化アルカリは一種または二種以上を使用することができる。(B)アルカリ性アルカリ金属塩、アルカリ性アルカリ土類金属塩、及び、水酸化アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムが特に好ましい。
【0023】
アルカリ性アルカリ金属塩、アルカリ性アルカリ土類金属塩、及び、水酸化アルカリの濃度としては0.1~100g/Lが好ましく、1~50g/Lであるのがより好ましい。アルカリ性アルカリ金属塩、アルカリ性アルカリ土類金属塩、及び、水酸化アルカリの濃度が0.1g/Lより低下すると皮膜除去性の低下を招くことがある。アルカリ性アルカリ金属塩、アルカリ性アルカリ土類金属塩、及び、水酸化アルカリの濃度が100g/Lを超えるとコストメリットの低下とともに共に液安定性の低下を招くことがある。
【0024】
(ハロゲン化物)
本発明の皮膜除去剤の構成成分である(C)ハロゲン化物としては、塩化水素、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、臭化ナトリウム、フッ化ナトリウム等のハロゲン化物が利用できる。これらハロゲン化物は一種または二種以上を使用することができる。(C)ハロゲン化物としては、塩化水素、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、塩化カリウムが特に好ましい。
【0025】
ハロゲン化物の濃度としては、0.1~100g/Lが好ましく、1~50g/Lであるのがより好ましい。ハロゲン化物の濃度が0.1g/Lより低下すると皮膜除去性の低下を招くことがある。ハロゲン化物の濃度が100g/Lを超えるとコストメリットの低下と共に液安定性の低下を招くことがある。
【0026】
(還元糖、還元性硫黄化合物、及び、アルデヒド類)
本発明の実施形態に係る皮膜除去剤を用いた皮膜除去を行う際、処理液のORP調整は(A)臭素酸塩、及び、(B)アルカリ性アルカリ金属塩、アルカリ性アルカリ土類金属塩、及び、水酸化アルカリからなる群のうち1種以上を含有するアルカリ性の液体組成物を調製し、(D)還元糖、還元性硫黄化合物、及び、アルデヒド類からなる群のうち1種類以上、を添加することによりORPを下げて行う。ORPを下げすぎたときは、(A)臭素酸塩を用いてORPを上げることができる。本発明の皮膜除去剤の構成成分である(D)還元糖としては、グルコース、フルクトース、マルトース、及び、澱粉の分解等により生成した還元糖が利用できる。還元糖であれば、上記以外の物質でも還元糖の供給源として利用できる。本発明の皮膜除去剤の構成成分である(D)還元性硫黄化合物としては、二酸化硫黄、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、チオ尿素等の還元性硫黄化合物及び、硫黄単体及び硫黄化合物から合成して得られる還元性硫黄化合物が利用できる。また、本発明の皮膜除去剤の構成成分である(D)アルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、バニリン、ギ酸、及び、アルコール類の酸化あるいはカルボン酸類の還元により生成したアルデヒド類が利用できる。アルデヒド類であれば、上記以外の物質でもアルデヒド類の供給源として利用できる。これら還元糖、還元性硫黄化合物、及び、アルデヒド類は一種または二種以上を使用することができる。(D)還元糖、還元性硫黄化合物、及び、アルデヒド類としては、グルコース、フルクトース、チオ尿素、バニリンが特に好ましい。
【0027】
(カルボン酸)
本発明の皮膜除去剤の構成成分である(E)カルボン酸としては、酢酸、酒石酸、ロッシェル塩、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸、安息香酸、安息香酸ナトリウム、フタル酸、サリチル酸が利用できる。これらカルボン酸は一種または二種以上を使用することができる。(E)カルボン酸としては、ロッシェル塩、クエン酸、グルコン酸、安息香酸ナトリウムが特に好ましい。
【0028】
カルボン酸の濃度としては、0.01~50g/Lが好ましく、0.1~10g/Lであるのがより好ましい。カルボン酸の濃度が0.01g/Lより低下すると基材の腐食が進行するおそれがある。カルボン酸の濃度が50g/Lを超えると処理液の酸化力が低下し、除膜反応が進まなくなるおそれがある。
【0029】
(アゾール化合物)
本発明の皮膜除去剤の構成成分である(F)アゾール化合物としては、トリルトリアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール、2-メルカプトベンズイミダゾール、1,3,4-チオジアゾール-2,5-ジチオール、2-イソプロピルイミダゾール、及び、2-メルカプトベンゾチアゾールナトリウム塩が利用できる。これらアゾール化合物は一種または二種以上を使用することができる。(F)アゾール化合物としては、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール、2-メルカプトベンズイミダゾールが特に好ましい。
【0030】
アゾール化合物の濃度としては、0.1~100g/Lが好ましく、1~50g/Lであるのがより好ましい。アゾール化合物の濃度が0.1g/Lより低下すると、基材の腐食が進行するおそれがある。アゾール化合物の濃度が100g/Lを超えると処理液の酸化力が低下し、除膜反応が進まなくなるおそれがある。
【0031】
皮膜は、(A)臭素酸塩、及び、(B)アルカリ性アルカリ金属塩、アルカリ性アルカリ土類金属塩、及び、水酸化アルカリからなる群のうち1種以上を含有するアルカリ性の液体組成物を調製し、(C)ハロゲン化物を含有する液体組成物を所定のpHに調整することで溶解除去される。しかしながら、上記液体組成物をそのまま使用すると基材から錆が発生するため、更に(D)還元糖、還元性硫黄化合物、及び、アルデヒド類からなる群のうち1種類以上を用いてORPを制御することで酸化力を調整し、錆の発生を良好に抑制することができる。さらに、(E)カルボン酸による基材金属の腐食抑制(還元効果)、除膜促進(キレート効果)、及び、(F)アゾール化合物による基材金属の腐食抑制(保護膜の生成)の種々の効果により、基材の腐食を良好に抑制しながら基材の上に形成された皮膜を除去することができる。
【0032】
<皮膜除去方法>
本発明の実施形態に係る皮膜除去方法としては、まず、皮膜除去剤を準備する。皮膜除去剤は、上述の本発明の実施形態に係る皮膜除去剤を用いることができる。また、一方で、基材の上に皮膜が形成されたもの(被処理物とも呼ぶ)を準備する。
次に、当該被処理物を、皮膜除去剤を入れた浴槽に浸漬させる。このとき、浴槽は後述の処理温度、処理pH及びORPに制御する。
【0033】
(処理温度)
上記皮膜除去剤の処理温度は10~80℃の範囲が好ましく、より好ましくは20~80℃である。処理温度が10℃より低い場合は皮膜除去速度が著しく低下することがあり、80℃より高い場合は蒸発による処理液面の低下や温度維持によるコスト上昇が生じることがある。
【0034】
(処理pH)
皮膜除去剤のpHについては、pH8.0~14.0、更に好ましくはpH11.0~13.0に制御する。pHが8.0より低い、もしくは、pHが14.0より高い場合は皮膜除去速度の著しい低下を招くことがある。なお、処理液のpH調整剤としては、塩酸、硫酸、硝酸の無機酸や、苛性ソーダ、苛性カリ、アンモニア水のアルカリを用いることができる。
【0035】
(ORP)
ORP(酸化還元電位)は350mV~800mV(vs.Ag/AgCl)に調整し、好ましくは400mV~800mV(vs.Ag/AgCl)に調整する。ORPが350mVよりも低い場合は皮膜除去速度の著しい低下を招き、800mVよりも高い場合は基材より錆が発生することがある。
【0036】
なお、被処理物は、あらかじめ脱脂、活性化、表面調整を行うことで、本発明の皮膜除去速度の向上、及び、基材からの錆発生、基材の侵食に係る腐食をより抑制することが可能である。更に皮膜除去後に必要に応じて水洗と乾燥等の処理を行ってもよい。また、塗布や吹き付け工程による皮膜除去も可能である。
【0037】
上述の浸漬を好ましくは2~24時間行うことで皮膜を除去した後、浴槽から取り出して水洗、乾燥を行う。
【0038】
このような皮膜除去方法により、基材の腐食を良好に抑制しながら基材の上に形成された皮膜を除去することができる。
【実施例0039】
以下、本発明の実施例を示すが、これらは本発明をより良く理解するために提供するものであり、本発明が限定されることを意図するものではない。
【0040】
試験片として、超硬合金(超硬工具協会規格 VM-50)の表面に窒化クロム皮膜をイオンプレーティングにより0.8~1.2μmの厚さで形成した。試験片には前処理として脱脂を行った。
【0041】
実施例1:
浴槽内において、(A)臭素酸塩として臭素酸カリウムを50.0g/L、(B)アルカリ性アルカリ金属塩、アルカリ性アルカリ土類金属塩、及び、水酸化アルカリとして水酸化ナトリウムを20.0g/L、(C)ハロゲン化物として塩化ナトリウムを20.0g/L、(E)カルボン酸としてグルコン酸を2.0g/L、(F)アゾール化合物としてメルカプトベンゾチアゾールを20.0g/L含む液体組成物を調製した後に、硫酸、及び、水酸化ナトリウムを用いてpH12.0に調整し、皮膜除去剤とした。その後、(D)還元糖、還元性硫黄化合物、及び、アルデヒド類としてチオ硫酸ナトリウムを用いて、ORPを500mVに調整した。この状態で、浴槽の皮膜除去剤に上述の試験片を入れた。皮膜除去剤の温度を40℃に維持した状態で試験片を24時間浸漬した後、浴槽から取り出して水洗、乾燥を行った。次に、後述の条件で皮膜除去性、基材の荒れ、錆発生を評価した。
【0042】
実施例2~17:
(A)臭素酸カリウム、(B)水酸化ナトリウム、(C)塩化ナトリウム、(E)グルコン酸、(F)メルカプトベンゾチアゾールを下記表の濃度で含む液体組成物を調製した後に、硫酸、及び、水酸化ナトリウムを用いて下記表のpHに調整し、皮膜除去剤とした。その後、(D)チオ硫酸ナトリウムを用いて、下記表のORPに調整した。この状態で、浴槽の皮膜除去剤に上述の試験片を入れた。皮膜除去剤の温度を40℃に維持した状態で試験片を24時間浸漬した後、浴槽から取り出して水洗、乾燥を行った。次に、後述の条件で皮膜除去性、基材の荒れ、錆発生を評価した。
【0043】
比較例1:
(A)臭素酸カリウム、(B)水酸化ナトリウム、(C)塩化ナトリウム、(E)グルコン酸を下記表の濃度で含む液体組成物を調製した後に、硫酸、及び、水酸化ナトリウムを用いて下記表のpHに調製し、皮膜除去剤とした。その後、(D)チオ硫酸ナトリウムを用いて、下記表のORPに調整した。この状態で、浴槽の皮膜除去剤に上述の試験片を入れた。皮膜除去剤の温度を40℃に維持した状態で試験片を24時間浸漬した後、浴槽から取り出して水洗、乾燥を行った。次に、後述の条件で皮膜除去性、基材の荒れ、錆発生を評価した。
【0044】
比較例2:
(A)臭素酸カリウム、(B)水酸化ナトリウム、(C)塩化ナトリウム、(F)メルカプトベンゾチアゾールを下記表の濃度で含む液体組成物を調製した後に、硫酸、及び、水酸化ナトリウムを用いて下記表のpHに調製し、皮膜除去剤とした。その後、(D)チオ硫酸ナトリウムを用いて、下記表のORPに調整した。この状態で、浴槽の皮膜除去剤に上述の試験片を入れた。皮膜除去剤の温度を40℃に維持した状態で試験片を24時間浸漬した後、浴槽から取り出して水洗、乾燥を行った。次に、後述の条件で皮膜除去性、基材の荒れ、錆発生を評価した。
【0045】
比較例3:
(A)臭素酸カリウム、(B)水酸化ナトリウム、(C)塩化ナトリウムを下記表の濃度で含む液体組成物を調製した後に、硫酸、及び、水酸化ナトリウムを用いて下記表のpHに調製し、皮膜除去剤とした。その後、(D)チオ硫酸ナトリウムを用いて、下記表のORPに調整した。この状態で、浴槽の皮膜除去剤に上述の試験片を入れた。皮膜除去剤の温度を40℃に維持した状態で試験片を24時間浸漬した後、浴槽から取り出して水洗、乾燥を行った。次に、後述の条件で皮膜除去性、基材の荒れ、錆発生を評価した。
【0046】
(評価)
皮膜除去性の評価として、走査型電子顕微鏡(SEM)による試験片表面観察及びエネルギー分散型X線(EDS)分析により試験片表面から検出されるクロムの重量比率(試験片の皮膜除去前のクロム含有量に対する試験後のクロム含有量の比率)にて除去の可否を評価した。具体的な評価は以下の基準A~Cで行った。
A:試験片表面から検出されるクロムの重量比率が0%(100%皮膜除去できた)
B:試験片表面から検出されるクロムの重量比率が30%以上(30%以上の皮膜残渣あり)
C:試験片表面から検出されるクロムの重量比率が90%以上(90%以上の皮膜残渣あり)
【0047】
基材の荒れ、錆発生は、目視にて観察し、以下の基準A~Cで評価した。
A:比較例1に対して基材の荒れ、錆発生が抑制された。
B:比較例1と基材の荒れ、錆発生が同程度であった。
C:比較例1に対して基材の荒れ、錆発生の程度が大きかった。
以上の試験条件及び試験結果について、表1~2に示す。
【0048】
【0049】
【0050】
(考察)
実施例1~17は、いずれも(A)臭素酸塩、(B)アルカリ性アルカリ金属塩、アルカリ性アルカリ土類金属塩、及び、水酸化アルカリからなる群のうち1種以上、(C)ハロゲン化物、(D)還元糖、還元性硫黄化合物、及び、アルデヒド類からなる群のうち1種類以上、(E)カルボン酸、及び、(F)アゾール化合物を含有する皮膜除去剤を使用したため、基材の腐食を良好に抑制しながら基材の上に形成された皮膜を除去することができた。
比較例1は、皮膜除去剤が(F)アゾール化合物を含まなかったため、基材の上に形成された皮膜を除去することはできたが、基材の腐食を良好に抑制することができなかった。
比較例2は、皮膜除去剤が(E)カルボン酸を含まなかったため、基材の上に形成された皮膜を除去することはできたが、基材の腐食を良好に抑制することができなかった。
比較例3は、皮膜除去剤が(E)カルボン酸及び(F)アゾール化合物を含まなかったため、基材の上に形成された皮膜を除去することはできたが、基材の腐食を良好に抑制することができなかった。