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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143834
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】摩擦低減剤及び潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 133/16 20060101AFI20241003BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20241003BHJP
   C10N 40/13 20060101ALN20241003BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20241003BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
C10M133/16 ZAB
C10N30:06
C10N40:13
C10N40:04
C10N40:25
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056738
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】390003001
【氏名又は名称】川研ファインケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】並木 拓哉
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA02A
4H104BA04A
4H104BA07A
4H104BB08A
4H104BB32A
4H104BB33A
4H104BB34A
4H104BB41A
4H104BE11C
4H104CA04A
4H104CB14A
4H104CD01A
4H104CD04A
4H104CJ02A
4H104DA02A
4H104DA06A
4H104EB08
4H104LA03
4H104PA02
4H104PA08
4H104PA42
4H104PA44
(57)【要約】      (修正有)
【課題】硫黄及びリンを含まず、かつ摩擦低減性に優れるアルキルリンゴ酸アミドエステル、それを用いた摩擦低減剤、及びそれを用いた潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】下記式で示されるリンゴ酸アミド誘導体の少なくとも一つ以上を摩擦低減剤として用いる。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)~(6)で示されるリンゴ酸アミド誘導体の少なくとも一つ以上からなる摩擦低減剤。
【化1】
(Rが炭素数8~30の直鎖または分岐鎖のアルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基またはヒドロキシアルキル基であり、Rが水素、ヒドロキシ基または炭素数6以下の炭化水素基)
【請求項2】
請求項1記載の摩擦低減剤を含有する潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫黄及びリンを含まず、かつ摩擦低減性に優れる摩擦低減剤、更にはそれを用いた潤滑油組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題の中でも地球温暖化に影響を及ぼす炭酸ガスの削減が強く求められている。自動車分野は全炭酸ガス排出源の約1/5を占めるといわれており、炭酸ガス削減に向けた燃費向上に関する取組みが活発に行われている。自動車分野における燃費向上技術は、エンジン損失、補機類損失、駆動系損失及び転がり抵抗、空気抵抗、慣性抵抗からなる走行抵抗の低減に整理され、様々な技術を組み合わせることで燃費向上を実現している。エンジン損失には、摩擦損失も含まれ、エンジンや駆動系の損失低減には、機械的な要素の他に、エンジンオイル等による摩擦損失低減がある。
【0003】
エンジンオイルによる摩擦損失低減は、もっぱらオイルの粘度を下げて流動抵抗を減らすアプローチが主流といわれている。しかし、単純な低粘度化では、油膜が薄くなり、通常粘度のオイルで流体潤滑領域であった速度域でも、低粘度オイルでは境界潤滑領域となり、逆に摩擦が増大し摩擦損失を生じたり、摩耗による機械の損傷を引き起こしたりする要因となる場合があった。そのため、低燃費エンジンオイルには、これらの摩擦や摩耗を小さくする目的で様々な添加剤が配合されている。
【0004】
低燃費エンジンオイルに添加される摩擦低減剤は、一般的に金属面に吸着し被膜を形成することにより、金属同士の直接接触を防止し、摩擦を低減することを目指している。代表的な摩擦低減剤として、例えば、モリブデン化合物と硫化アルカリとの懸濁液、二硫化炭素、二級アミン及び鉱酸を反応させて得られる硫化オキシモリブデンジチオカルバミン酸(特許文献1)、硫化オキシモリブデンジチオホスフェート(特許文献2)、6価のモリブデン化合物を還元剤で還元し、リン原子を含有しない鉱酸でそれを中和した後、酸性リン酸エステルと反応させて得られるリンモリブデン化合物(特許文献3)、モリブデン化合物と2級アミンとを反応させて得られるモリブデン酸アミン塩(特許文献4)等が提案されている。
【0005】
しかし、特許文献1~3に記載された摩擦低減剤は、硫黄やリンを含むため、高温下での金属の腐食や、排ガス触媒を被毒する場合があった。
【0006】
また、特許文献4に示される摩擦低減剤は、硫黄やリンを含まないものの、摩擦低減性が必ずしも十分ではない場合がある等の課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7-53983号公報
【特許文献2】特開2001-40383号公報
【特許文献3】特開2008-37860号公報
【特許文献4】特開昭61-285292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の背景技術に鑑みてなされたものであり、その目的は、硫黄及びリンを含まず、かつ摩擦低減性に優れる摩擦低減剤、更にはそれを用いた潤滑油組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定のリンゴ酸アミド誘導体がその構造的特徴に基づいて、潤滑油に添加することで優れた摩擦低減性を示すことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち本発明は、(1)一般式(1)~(6)で示されるリンゴ酸アミド誘導体の少なくとも一つ以上からなる摩擦低減剤。
【化1】
(Rが炭素数8~30の直鎖または分岐鎖のアルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基またはヒドロキシアルキル基であり、Rが水素、ヒドロキシ基または炭素数6以下の炭化水素基)
【0011】
(2)(1)記載の摩擦低減剤を含有する潤滑油組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、特定のリンゴ酸アミド誘導体により、硫黄及びリンを含まず、摩擦低減性に優れる摩擦低減剤、更にはそれを用いた潤滑油組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に具体例を挙げて、本発明についてさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの説明により何ら限定されるものでは無い。
【0014】
本発明である摩擦低減剤は、下記一般式(1)~(6)で示されるリンゴ酸アミド誘導体である。
【化1】
【0015】
一般式(1)~(6)のうち、1種類を単独で使用しても良く、それらの中から選ばれる2種以上のものを任意の割合で混合し使用してもよい。
【0016】
一般式(1)~(6)中のRは摩擦低減効果の観点から、炭素数8~30の直鎖または分岐鎖のアルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基またはヒドロキシアルキル基が挙げられる。
【0017】
炭素数8~30のアルキル基としては、例えば、直鎖状もしくは分枝鎖状の、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基、ヘンエイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、又はテトラコシル基等が挙げられる。
【0018】
炭素数8~30のアルケニル基としては、例えば、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、又はドデセニル基、オレイル基、リシノイル基、ネルボニル基等が挙げられる。
【0019】
炭素数8~30のアリール基としては、例えば、キシリル基、クメニル基、メシチル基、ベンジル基、フェネチル基、スチリル基、シンナミル基、ベンズヒドリル基、トリチル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基、スチレン化フェニル基、p-クミルフェニル基、フェニルフェニル基、ベンジルフェニル基、α-ナフチル基、又はβ-ナフチル基等が挙げられる。
【0020】
炭素数8~30のシクロアルキル基、シクロアルケニル基としては、例えば、メチルシクロヘプテニル基等が挙げられる。
【0021】
炭素数8~30のヒドロキシアルキル基としては、例えば、直鎖状もしくは分枝鎖状の、ヒドロキシオクチル基、ヒドロキシノニル基、ヒドロキシデシル基、ヒドロキシウンデシル基、ヒドロキシドデシル基、ヒドロキシトリデシル基、ヒドロキシテトラデシル基、ヒドロキシペンタデシル基、ヒドロキシヘキサデシル基、ヒドロキシヘプタデシル基、ヒドロキシオクタデシル基、ヒドロキシノナデシル基、ヒドロキシエイコシル基、ヒドロキシヘンエイコシル基、ヒドロキシドコシル基、ヒドロキシトリコシル基、またはヒドロキシテトラコシル基等が挙げられる。
【0022】
本発明である特定のリンゴ酸アミド誘導体が、金属面に吸着し被膜を形成した際に、Rが嵩高い場合、立体障害のため、金属面への吸着量が低下し摩擦低減効果が低下する場合がある。このため、好ましくは直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アルケニル基、アリール基、ヒドロキシアルキル基であり、より好ましくは、直鎖のアルキル基、アルケニル基、アリール基、ヒドロキシアルキル基である。一方、基油への溶解性の観点から、アルケニル基および分岐鎖のアルキル基も好ましい。基油の種類や、基油への添加量にもよるが、摩擦低減効果および基油への溶解性のバランスより、直鎖のアルケニル基がさらにより好ましい。
一方、Rは長鎖長であるほど摩擦低減効果が向上することから、炭素数12~30の炭化水素基がより好ましい。
このため、Rは摩擦低減効果および基油への溶解性の向上の総合的な観点から、炭素数12~30の直鎖のアルケニル基が特により好ましい。中でも、本発明のリンゴ酸アミド誘導体を合成する際の原料としては、オレイル基が含まれるものが、広く流通し、入手が容易である。
【0023】
一般式(1)~(6)中のRは、摩擦低減効果や基油への溶解性の観点から、水素、ヒドロキシ基または炭素数6以下の炭化水素基が挙げられる。
【0024】
炭素数6以下の炭化水素基としては、例えば、直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、又はシクロアルケニル基、ヒドロキシアルキル基等が挙げられる。
【0025】
炭素数6以下のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、以後いずれも直鎖状もしくは分枝鎖状の、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基が挙げられる。
【0026】
炭素数6以下のアルケニル基としては、例えば、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等が挙げられる。
【0027】
炭素数6以下のアリール基としては、例えば、フェニル基等が挙げられる。
【0028】
炭素数6以下のシクロアルキル基、シクロアルケニル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0029】
炭素数6以下のヒドロキシアルキル基としては、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基等が挙げられる。
【0030】
これらの水素、ヒドロキシ基または炭素数6以下の炭化水素基の中でも、摩擦低減効果および基油への溶解性の観点から、Rはヒドロキシ基または炭素数6以下のアルキル基が好ましい。
【0031】
本発明のリンゴ酸アミド誘導体は単体で用いてもよく、塩として用いてもよい。塩としては、例えばアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムまたは有機アミンとの塩が挙げられる。
【0032】
本発明である特定のリンゴ酸アミド誘導体は、一般的なアミド化の条件で合成することができる。例えば、加熱による脱水縮合やリンゴ酸アルコールエステルを原料とした脱アルコール縮合、酸触媒を利用した縮合、リンゴ酸重合物を原料とした脱水縮合、エステル-アミド交換反応が挙げられる。また、合成に使用するアミン誘導体は、アミド還元法や、NiやPd等の固体触媒を用いた水素添加による還元的アミノ化、福山アミン合成法によって調整することができる。
上記の合成法により得られる生成物中には原料のアミンやリンゴ酸が存在し、更に副生成物としてアルキルリンゴ酸アミドやリンゴ酸エステル等が存在する場合がある。目的物のみを精製して使用しても良いし、原料や副生成物等の不純物との混合物として使用しても良く、これらは本発明の摩擦低減剤、更にはそれを用いた潤滑油組成物中に任意の量が存在できる。
【0033】
本発明である特定のリンゴ酸アミド誘導体および基油を混合することにより、本発明の潤滑油組成物を得ることができる。
本発明の潤滑油組成物中の、リンゴ酸アミド誘導体の含有量は特に限定されないが、潤滑油組成物の摩擦特性および基油への溶解性の観点から、潤滑油組成物中の本発明のリンゴ酸アミド誘導体の含有量が、純分で0.001重量%から5重量%となる量であることが好ましい。0.001重量%未満では十分な摩擦低減効果を発揮しない場合があり、5重量%を超えると析出を生じる場合がある。より好ましくは、0.01重量%~1重量%である。
潤滑油組成物中の含有量が多く、一部析出した場合でも、一部溶解したリンゴ酸アミド誘導体により摩擦低減効果は得られるが、析出物による摩擦の増加や基材への影響などが発生する場合がある。
【0034】
本発明に用いる基油は特に制限されることなく、使用目的や条件に応じて適宜選択できる。例えば、広く使用されている基油として、鉱物基油、化学合成基油、動植物基油及びこれらの混合基油等が挙げられる。これらを一種類単独で使用しても良く、それらの中から選ばれる2種以上のものを任意の割合で混合して使用してもよい。
【0035】
鉱物基油としては、例えば、パラフィン基系原油、ナフテン基系原油、中間基系原油、芳香族基系原油がある。更にこれらを常圧蒸留して得られる留出油、或いは常圧蒸留の残渣油を減圧蒸留して得られる留出油があり、また、更にこれらを常法に従って精製することによって得られる精製油、具体的には溶剤精製油、水添精製油、脱ロウ処理油及び白土処理油等がある。
【0036】
化学合成基油としては、例えば、ポリ-α-オレフィン、ポリイソブチレン(ポリブテン)、モノエステル、ジエステル、ポリオールエステル、ケイ酸エステル、ポリアルキレングリコール、ポリフェニルエーテル、シリコーン、フッ素化化合物、アルキルベンゼン及びGTL基油等が挙げられる。これらの中でも、ポリ-α-オレフィン、ポリイソブチレン(ポリブテン)、ジエステル及びポリオールエステル等は汎用的に使用することができる。ポリ-α-オレフィンとしては例えば、1-ヘキセン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ドデセン及び1-テトラデセン等をポリマー化又はオリゴマー化したもの、或いはこれらを水素化したもの等が挙げられる。ジエステルとしては、例えば、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸及びドデカン二酸等の2塩基酸と、2-エチルヘキサノール、オクタノール、デカノール、ドデカノール及びトリデカノール等のアルコールのジエステル等が挙げられる。ポリオールエステルとしては、例えば、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール及びトリペンタエリスリトール等のポリオールと、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、カプリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸及びオレイン酸等の脂肪酸とのエステル等がある。
【0037】
動植物基油としては、例えば、ヒマシ油、オリーブ油、カカオ脂、ゴマ油、コメヌカ油、サフラワー油、大豆油、ツバキ油、コーン油、ナタネ油、パーム油、パーム核油、ひまわり油、綿実油及びヤシ油等の植物性油脂、牛脂、豚脂、乳脂、魚油及び鯨油等の動物性油脂がある。
【0038】
本発明の潤滑油組成物において、本発明のリンゴ酸アミド誘導体を基油に溶解させるために、可溶化剤を使用できる。可溶化剤としてはアニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられ、具体的には、オレイルアルコール、オレイン酸ソルビトール、モノオレイン酸グリセロール、ジオレイン酸グリセロールなどが挙げられる。本発明のリンゴ酸アミド誘導体と各種基油との組み合わせにより適宜選択し、本発明の効果を実質上損なわない質的、量的な範囲内で配合することができる。
【0039】
本発明の潤滑油組成物には、本発明である摩擦低減剤の他に、通常の潤滑油組成物に用いられる成分、例えば、摩擦調整剤、摩耗防止剤、清浄分散剤、極圧剤、増粘剤、酸化防止剤、粘度指数調整剤、洗浄剤、発泡防止剤(消泡剤)、解乳化剤、流動点降下剤、封止膨潤剤、金属不活化剤、キレート剤、香料、動植物抽出物等を適宜配合することができる。
また、潤滑油組成物中に、本発明であるリンゴ酸アミド誘導体を合成する際に生じる副生成物や、原料残が存在しても良い。
【0040】
本発明の潤滑油組成物は、基油と、本発明であるリンゴ酸アミド誘導体とを、混合する工程を含む。混合の順番は特に限定されず、可溶化剤を用いても良い。混合方法としては、撹拌機、スターラー、超音波分散装置、ホモジナイザー、ボールミル、ビーズミルなどを用い、室温付近または必要に応じて加熱しながら攪拌を施すことが挙げられる。この混合工程により、本発明の潤滑油組成物を得ることができる。
【実施例0041】
以下に実施例に基づき本発明を更に詳しく説明するが、これらは本発明の理解を助けるための例であって本発明はこれらの実施例により何等の制限を受けるものではない。なお、使用した試薬は、特に記載のない限り全て東京化成工業社製であり、等級のあるものは特級もしくは一級の試薬を用いた。また、以下の記載における潤滑油組成物中の配合量は、特に断りのない限り全量に対する重量%である。
【0042】
<摩擦低減剤の合成>
製造例1
撹拌機及び冷却管を備えた1Lの4つ口フラスコへ、オレイルアミンを50.00gおよびリンゴ酸を50.13g加え、窒素気流下中で100℃、5時間加熱した。加熱終了後、濾過を行い、クロロホルム抽出により油層のみを分取し、減圧蒸留、真空乾燥を行い、シリカゲルクロマトグラフィーによる分離の後、白色結晶状物質を得た。これを摩擦低減剤Aとした。
NMR測定装置(JEOL ECX400)を用い1H-NMR測定した。その結果より、目的物の構造を同定し、オレイルリンゴ酸アミドリンゴ酸エステルであることを確認した。
1H-NMRケミカルシフト:0.8~1.0ppm(3H t)、1.3ppm(22H m)、1.5ppm(2H m)、2.0ppm(4H m)、2.6~3.1ppm(4H m)、4.5ppm(2H m)、5.3ppm(2H m)。
これを用いて、実施例1~2に用いる摩擦低減剤とした。
【0043】
製造例2
製造例1におけるオレイルアミンを、N-メチルオレイルアミンに変更した以外は同様な方法で、白色結晶状物質を得た。これを摩擦低減剤Bとし、実施例3~7、比較例8および9に用いた。
なお、N-メチルオレイルアミンは、オレイン酸クロライドとメチルアミンのアミド化によりオレイン酸メチルアミドを調整した後、水素化リチウムアルミニウム(LAH)によりアミド生成物のアミド基を還元し、目的のアミン生成物を精製することで得た。
【0044】
製造例3
製造例1におけるオレイルアミンを、N-ブチルオレイルアミンに変更した以外は同様な方法で、白色結晶状物質を得た。これを摩擦低減剤Cとし、実施例8に用いた。
なお、N-ブチルオレイルアミンは、オレイン酸クロライドとブチルアミンのアミド化によりオレイン酸エチルアミドを調整した後、水素化リチウムアルミニウム(LAH)によりアミド生成物のアミド基を還元し、目的のアミン生成物を精製することで得た。
【0045】
製造例4
製造例1におけるオレイルアミンを、N-ヒドロキシオレイルアミンに変更した以外は同様な方法で、白色結晶状物質を得た。これを摩擦低減剤Dとし、実施例9に用いた。
なお、N-ヒドロキシオレイルアミンは、オレイン酸クロライドとヒドロキシルアミンのアミド化によりオレイン酸ヒドロキサミドを調整した後、水素化リチウムアルミニウム(LAH)によりアミド生成物のアミド基を還元し、目的のアミン生成物を精製することで得た。
【0046】
製造例5
製造例1におけるオレイルアミンを、N-メチルネルボニルアミンに変更した以外は同様な方法で、白色結晶状物質を得た。これを摩擦低減剤Eとし、実施例10に用いた。
なお、ネルボニルアミンは、ネルボン酸とメチルアミンのアミド化によりネルボン酸メチルアミドを調整した後、水素化リチウムアルミニウム(LAH)によりアミド生成物のアミド基を還元し、目的のアミン生成物を精製することで得た。
【0047】
製造例6
製造例1におけるオレイルアミンを、イソステアリルアミンに変更した以外は同様な方法で、白色結晶状物質を得た。これを摩擦低減剤Fとし、実施例11に用いた。
なお、イソステアリルアミンは、イソステアリン酸とアンモニアのアミド化によりイソステアリン酸アミドを調整した後、水素化リチウムアルミニウム(LAH)によりアミド生成物のアミド基を還元し、目的のアミン生成物を精製することで得た。
【0048】
製造例7
製造例1におけるオレイルアミンを、N-メチルメリシルアミンに変更した以外は同様な方法で、白色結晶状物質を得た。これを摩擦低減剤Gとし、実施例12に用いた。
なお、N-メチルメリシルアミンは、メリシン酸とメチルアミンのアミド化によりメリシン酸アミドを調整した後、水素化リチウムアルミニウム(LAH)によりアミド生成物のアミド基を還元し、目的のアミン生成物を精製することで得た。
【0049】
製造例8
製造例1におけるオレイルアミンを、メチルアミンに変更した以外は同様な方法で、白色結晶状物質を得た。これを比較合成物Iとし、比較例1に用いた。
【0050】
製造例9
製造例1におけるオレイルアミンを、N-オクチルオレイルアミンに変更した以外は同様な方法で、白色結晶状物質を得た。これを比較合成物Jとし、比較例2に用いた。
なお、N-オクチルオレイルアミンは、オレイン酸クロライドとオクチルアミンのアミド化によりオレイン酸オクチルアミドを調整した後、水素化リチウムアルミニウム(LAH)によりアミド生成物のアミド基を還元し、目的のアミン生成物を精製することで得た。
【0051】
組成物の作製
鉱物基油の精製油であるヘキサデカンを基油として、摩擦低減剤、場合によっては可溶化剤(オレイルアルコール)を、表1~3の組成比となるように調整・混合した。場合によっては60℃程度の加熱も行った。これにより、実施例1~12および比較例1~9の潤滑油組成物を得た。
【0052】
表1~3に示す実施例および比較例について下記基準にて評価を行った。
【0053】
<油溶性>
表1~3に示す摩擦低減剤の基油に対する溶解性について、目視により下記評価基準にて評価した。
(油溶性の評価基準)
◎:可溶(溶け残りが全くない)
○:可溶化剤使用で可溶
△:可溶化剤使用で一部可溶
×:可溶化剤使用でも溶解しない
【0054】
<摩擦特性の評価>
油溶性の評価が〇以上であった表1~3に示す潤滑油組成物を、往復摩擦摩耗試験機(新東科学社製、トライボギア(登録商標) Type:40)を用い、ボールプレート方式で、25℃、往復速度1200rpm、荷重20Nの条件で摩擦係数を評価した。ボールには、SUJ2を使用し、プレートにはラップ研磨済みの鋳鉄Fc250を使用した。1000往復測定した時の動摩擦係数より下記判断基準に基づき評価した。
【0055】
(摩擦特性の評価基準)
◎:動摩擦係数が0.065未満
○:動摩擦係数が0.065以上、0.080未満,
△:動摩擦係数が0.080以上、0.10未満,
×:動摩擦係数が0.10以上
【0056】
実施例1~7
【表1】
【0057】
実施例8~12
【表2】
【0058】
比較例1~9
【表3】
【0059】
※1:スタホーム(登録商標)DO(日油株式会社製)、※2:レオドール(登録商標)MO-60(花王社製)
【0060】
本発明である摩擦低減剤を使用した実施例1~12は、油溶性および摩擦特性においてすべてで〇以上の評価となり、硫黄及びリンを含まず、かつ摩擦低減性に優れる摩擦低減剤および潤滑油組成物であることが確認できた。
一方、比較例1、5および8は油溶性が△もしくは×となり、潤滑油組成物として不適であった。比較例2~4、6、7および9は、油溶性は〇以上であったが摩擦特性評価において△以下の評価となり、摩擦低減効果が不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の摩擦低減剤は、摩擦低減性に優れるため、各種潤滑油の添加剤として適する。特に、ガソリンエンジンオイル、ディーゼルエンジンオイル、ジェットエンジンオイル、ギヤオイル用の添加剤として有用である。