(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143846
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】車両の制御装置及び内燃機関の排気浄化装置
(51)【国際特許分類】
F01N 3/20 20060101AFI20241003BHJP
F01N 3/24 20060101ALI20241003BHJP
F01N 9/00 20060101ALI20241003BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20241003BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
F01N3/20 K ZAB
F01N3/24 L
F01N9/00
F01N3/28 L
B01D53/94 222
B01D53/94 245
B01D53/94 280
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056754
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】間瀬 和弥
(72)【発明者】
【氏名】高田 傑士
【テーマコード(参考)】
3G091
4D148
【Fターム(参考)】
3G091AB03
3G091BA07
3G091CA03
3G091EA16
3G091EA18
3G091EA26
3G091EA28
3G091GA16
3G091GB01W
3G091GB06W
3G091GB07W
4D148AA06
4D148AA13
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4D148AB01
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4D148BA30Y
4D148BA31Y
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4D148BB02
4D148CC48
4D148CC53
4D148DA01
4D148DA13
(57)【要約】
【課題】触媒担持体にクラックが発生する虞を低減できる車両の制御装置及び内燃機関の排気浄化装置を提供する。
【解決手段】本発明による車両の制御装置4は、触媒を担持した触媒担持体5を有する電気加熱式触媒装置3が内燃機関1の排気通路6に配置された車両に搭載された車両の制御装置4であって、触媒担持体5の熱伝導率に比例し及び/又は触媒担持体5の嵩密度に反比例する温度拡散係数に基づき、触媒担持体5を加熱するために電気加熱式触媒装置3に供給する電力量を制御する加熱制御部40を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒を担持した触媒担持体を有する電気加熱式触媒装置が内燃機関の排気通路に配置された車両に搭載された車両の制御装置であって、
前記触媒担持体の熱伝導率に比例し及び/又は前記触媒担持体の嵩密度に反比例する温度拡散係数に基づき、前記触媒担持体を加熱するために前記電気加熱式触媒装置に供給する電力量を制御する加熱制御部
を備える、車両の制御装置。
【請求項2】
前記加熱制御部は、前記電気加熱式触媒装置に供給しようとする供給電力量が、前記温度拡散係数に応じて決定される指定最大電力量を超えているとき、前記指定最大電力量以下となるように前記供給電力量を補正する、
請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記加熱制御部は、
前記触媒担持体にクラックが発生することを防止するための温度に基づき設定された第1指定最大電力量と前記温度拡散係数との関係を表す第1マップを参照して、前記温度拡散係数に応じた前記第1指定最大電力量を決定し、
前記触媒の劣化を防止するための温度に基づき設定された第2指定最大電力量と前記温度拡散係数との関係を表す第2マップを参照して、前記温度拡散係数に応じた前記第2指定最大電力量を決定し、
前記電気加熱式触媒装置に供給しようとする供給電力量が、前記第1及び第2指定最大電力量のいずれか低い方を超えているとき、前記低い方以下となるように前記供給電力量を補正する、
請求項2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記加熱制御部は、前記電気加熱式触媒装置に供給しようとする供給電力量が、前記温度拡散係数に応じて決定される指定最低電力量を下回るとき、前記指定最低電力量以上となるように前記供給電力量を補正する、
請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記加熱制御部は、
前記触媒を活性化するための温度に基づき設定された第3指定最低電力量と前記温度拡散係数との関係を表す第3マップを参照して、前記温度拡散係数に応じた前記第3指定最低電力量を決定し、
前記電気加熱式触媒装置に供給しようとする供給電力量が、前記第3指定最低電力量を下回るとき、前記第3指定最低電力量以上となるように前記供給電力量を補正する、
請求項4に記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記温度拡散係数は、前記触媒担持体の熱伝導率を前記触媒担持体の嵩密度で除した値に、1より大きく1.5以下の定数を乗じた係数である、
請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項7】
触媒を担持する触媒担持体を有し、車両の内燃機関の排気通路に配置された電気加熱式触媒装置と、
請求項1から6までのいずれか1項に記載の車両の制御装置と、
を備える、
内燃機関の排気浄化装置。
【請求項8】
前記触媒担持体は、外周壁と、前記外周壁の内側に配設され、一方の端面から他方の端面まで延びる流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁とを有するハニカム構造体である、
請求項7に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項9】
触媒を担持した触媒担持体を有する電気加熱式触媒装置が内燃機関の排気通路に配置された車両に搭載された車両の制御装置であって、
前記触媒担持体及び前記触媒の熱伝導率に比例し及び/又は前記触媒担持体及び前記触媒の嵩密度に反比例する温度拡散係数に基づき、前記触媒担持体を加熱するために前記電気加熱式触媒装置に供給する電力量を制御する加熱制御部
を備える、車両の制御装置。
【請求項10】
前記加熱制御部は、前記電気加熱式触媒装置に供給しようとする供給電力量が、前記温度拡散係数に応じて決定される指定最大電力量を超えているとき、前記指定最大電力量以下となるように前記供給電力量を補正する、
請求項9に記載の車両の制御装置。
【請求項11】
前記加熱制御部は、
前記触媒担持体にクラックが発生することを防止するための温度に基づき設定された第1指定最大電力量と前記温度拡散係数との関係を表す第1マップを参照して、前記温度拡散係数に応じた前記第1指定最大電力量を決定し、
前記触媒の劣化を防止するための温度に基づき設定された第2指定最大電力量と前記温度拡散係数との関係を表す第2マップを参照して、前記温度拡散係数に応じた前記第2指定最大電力量を決定し、
前記電気加熱式触媒装置に供給しようとする供給電力量が、前記第1及び第2指定最大電力量のいずれか低い方を超えているとき、前記低い方以下となるように前記供給電力量を補正する、
請求項10に記載の車両の制御装置。
【請求項12】
前記加熱制御部は、前記電気加熱式触媒装置に供給しようとする供給電力量が、前記温度拡散係数に応じて決定される指定最低電力量を下回るとき、前記指定最低電力量以上となるように前記供給電力量を補正する、
請求項9に記載の車両の制御装置。
【請求項13】
前記加熱制御部は、
前記触媒を活性化するための温度に基づき設定された第3指定最低電力量と前記温度拡散係数との関係を表す第3マップを参照して、前記温度拡散係数に応じた前記第3指定最低電力量を決定し、
前記電気加熱式触媒装置に供給しようとする供給電力量が、前記第3指定最低電力量を下回るとき、前記第3指定最低電力量以上となるように前記供給電力量を補正する、
請求項12に記載の車両の制御装置。
【請求項14】
前記温度拡散係数は、前記触媒担持体及び触媒の熱伝導率を前記触媒担持体及び触媒の嵩密度で除した値に、1より大きく1.5以下の定数を乗じた係数である、
請求項9に記載の車両の制御装置。
【請求項15】
触媒を担持する触媒担持体を有し、車両の内燃機関の排気通路に配置された電気加熱式触媒装置と、
請求項9から14までのいずれか1項に記載の車両の制御装置と、
を備える、
内燃機関の排気浄化装置。
【請求項16】
前記触媒担持体は、外周壁と、前記外周壁の内側に配設され、一方の端面から他方の端面まで延びる流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁とを有するハニカム構造体である、
請求項15に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒を担持した触媒担持体を有する電気加熱式触媒装置が内燃機関の排気通路に配置された車両に搭載された車両の制御装置及びそれを備える内燃機関の排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、導電性セラミックスからなる触媒担持体に電極を配設し、通電により触媒担持体自体を発熱させることで、触媒担持体に担持された触媒を内燃機関始動前に活性温度まで昇温させて、内燃機関が始動開始直後から排気ガスの浄化を狙う電気加熱式触媒(EHC)が知られている。下記の特許文献1には、触媒担持体への通電開始時の通電条件に応じて、触媒担持体における通電抵抗値の特性を示す通電特性を設定し、その設定された通電特性に基づいて触媒担持体に対する異常判定又は通電制御を行う装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば材料のバラツキ及び/又は製造条件のゆらぎ等により、触媒担持体の物性にバラツキが生じることがある。上記した特許文献1に記載された従来装置では、通電開始時の通電特性に基づいて触媒担持体の異常判定又は通電制御を行うが、触媒担持体の物性バラツキまでは考慮されていない。物性バラツキを考慮せずに触媒担持体に通電を行った場合、物性バラツキにより触媒担持体が過剰に加熱されて、触媒担持体にクラックが発生する虞がある。
【0005】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、その目的の一つは、触媒担持体にクラックが発生する虞を低減できる車両の制御装置及び内燃機関の排気浄化装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
項目1.本発明は、一実施形態において、触媒を担持した触媒担持体を有する電気加熱式触媒装置が内燃機関の排気通路に配置された車両に搭載された車両の制御装置であって、触媒担持体の熱伝導率に比例し及び/又は触媒担持体の嵩密度に反比例する温度拡散係数に基づき、触媒担持体を加熱するために電気加熱式触媒装置に供給する電力量を制御する加熱制御部を備える、車両の制御装置に関する。
【0007】
項目2.本発明は、加熱制御部は、電気加熱式触媒装置に供給しようとする供給電力量が、温度拡散係数に応じて決定される指定最大電力量を超えているとき、指定最大電力量以下となるように供給電力量を補正する、項目1に記載の車両の制御装置に関していてもよい。
【0008】
項目3.本発明は、加熱制御部は、触媒担持体にクラックが発生することを防止するための温度に基づき設定された第1指定最大電力量と温度拡散係数との関係を表す第1マップを参照して、温度拡散係数に応じた第1指定最大電力量を決定し、触媒の劣化を防止するための温度に基づき設定された第2指定最大電力量と温度拡散係数との関係を表す第2マップを参照して、温度拡散係数に応じた第2指定最大電力量を決定し、電気加熱式触媒装置に供給しようとする供給電力量が、第1及び第2指定最大電力量のいずれか低い方を超えているとき、低い方以下となるように供給電力量を補正する、項目2に記載の車両の制御装置に関していてもよい。
【0009】
項目4.本発明は、加熱制御部は、電気加熱式触媒装置に供給しようとする供給電力量が、温度拡散係数に応じて決定される指定最低電力量を下回るとき、指定最低電力量以上となるように供給電力量を補正する、項目1から3までのいずれか1項に記載の車両の制御装置に関していてもよい。
【0010】
項目5.本発明は、加熱制御部は、触媒を活性化するための温度に基づき設定された第3指定最低電力量と温度拡散係数との関係を表す第3マップを参照して、温度拡散係数に応じた第3指定最低電力量を決定し、電気加熱式触媒装置に供給しようとする供給電力量が、第3指定最低電力量を下回るとき、第3指定最低電力量以上となるように供給電力量を補正する、項目4に記載の車両の制御装置に関していてもよい。
【0011】
項目6.本発明は、温度拡散係数は、触媒担持体の熱伝導率を触媒担持体の嵩密度で除した値に、1より大きく1.5以下の定数を乗じた係数である、項目1から5までのいずれか1項に記載の車両の制御装置に関していてもよい。
【0012】
項目7.本発明は、一実施形態において、触媒を担持する触媒担持体を有し、車両の内燃機関の排気通路に配置された電気加熱式触媒装置と、項目1から6までのいずれか1項に記載の車両の制御装置と、を備える内燃機関の排気浄化装置に関する。
【0013】
項目8.本発明は、触媒担持体は、外周壁と、外周壁の内側に配設され、一方の端面から他方の端面まで延びる流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁とを有するハニカム構造体である、項目7に記載の内燃機関の排気浄化装置に関していてもよい。
【0014】
項目9.本発明は、一実施形態において、触媒を担持した触媒担持体を有する電気加熱式触媒装置が内燃機関の排気通路に配置された車両に搭載された車両の制御装置であって、触媒担持体及び触媒の熱伝導率に比例し及び/又は触媒担持体及び触媒の嵩密度に反比例する温度拡散係数に基づき、触媒担持体を加熱するために電気加熱式触媒装置に供給する電力量を制御する加熱制御部を備える、車両の制御装置に関する。
【0015】
項目10.本発明は、加熱制御部は、電気加熱式触媒装置に供給しようとする供給電力量が、温度拡散係数に応じて決定される指定最大電力量を超えているとき、指定最大電力量以下となるように供給電力量を補正する、項目9に記載の車両の制御装置に関していてもよい。
【0016】
項目11.本発明は、加熱制御部は、触媒担持体にクラックが発生することを防止するための温度に基づき設定された第1指定最大電力量と温度拡散係数との関係を表す第1マップを参照して、温度拡散係数に応じた第1指定最大電力量を決定し、触媒の劣化を防止するための温度に基づき設定された第2指定最大電力量と温度拡散係数との関係を表す第2マップを参照して、温度拡散係数に応じた第2指定最大電力量を決定し、電気加熱式触媒装置に供給しようとする供給電力量が、第1及び第2指定最大電力量のいずれか低い方を超えているとき、低い方以下となるように供給電力量を補正する、項目10に記載の車両の制御装置に関していてもよい。
【0017】
項目12.本発明は、加熱制御部は、電気加熱式触媒装置に供給しようとする供給電力量が、温度拡散係数に応じて決定される指定最低電力量を下回るとき、指定最低電力量以上となるように供給電力量を補正する、項目9から11までのいずれか1項に記載の車両の制御装置に関していてもよい。
【0018】
項目13.本発明は、加熱制御部は、触媒を活性化するための温度に基づき設定された第3指定最低電力量と温度拡散係数との関係を表す第3マップを参照して、温度拡散係数に応じた第3指定最低電力量を決定し、電気加熱式触媒装置に供給しようとする供給電力量が、第3指定最低電力量を下回るとき、第3指定最低電力量以上となるように供給電力量を補正する、項目12に記載の車両の制御装置に関していてもよい。
【0019】
項目14.本発明は、温度拡散係数は、触媒担持体及び触媒の熱伝導率を触媒担持体及び触媒の嵩密度で除した値に、1より大きく1.5以下の定数を乗じた係数である、項目9から13までのいずれか1項に記載の車両の制御装置に関していてもよい。
【0020】
項目15.本発明は、一実施形態において、触媒を担持する触媒担持体を有し、車両の内燃機関の排気通路に配置された電気加熱式触媒装置と、項目9から14までのいずれか1項に記載の車両の制御装置と、を備える内燃機関の排気浄化装置に関する。
【0021】
項目16.本発明は、触媒担持体は、外周壁と、外周壁の内側に配設され、一方の端面から他方の端面まで延びる流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁とを有するハニカム構造体である、項目15に記載の内燃機関の排気浄化装置に関していてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の車両の制御装置及び内燃機関の排気浄化装置の一実施形態によれば、触媒担持体にクラックが発生する虞を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施の形態による内燃機関の排気浄化装置を示す説明図である。
【
図2】
図1の加熱制御部が行う加熱制御動作を示すフローチャートである。
【
図3】
図1の触媒担持体の一例を示す斜視図である。
【
図4】実施例における温度拡散係数と最高温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。本発明は各実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施の形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態の構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【0025】
図1は、本発明の実施の形態による内燃機関1の排気浄化装置を示す説明図である。
図1に示す内燃機関1の排気浄化装置は、内燃機関1の排気ガス2を大気中に排出する前に浄化するための装置である。内燃機関1は、限定はされないが、ガソリンエンジン又はディーゼルエンジンであり得る。
【0026】
図1に示すように、内燃機関1の排気浄化装置は、電気加熱式触媒装置3と、車両の制御装置4とを備えている。
【0027】
電気加熱式触媒装置3は、触媒を担持する触媒担持体5を有し、車両の内燃機関1の排気通路6に配置されている。
【0028】
排気通路6は、一端が内燃機関1に接続された第1管体60と、第1管体60の他端に接続された缶体61と、一端が缶体61に接続された第2管体62とを有している。第2管体62の他端が大気に開放されていてもよいし、第2管体62の他端と大気開放部分との間に他の部材が設けられていてもよい。缶体61は、第1及び第2管体60,62よりも大径に設けられている。触媒担持体5は、缶体61の内部に収容されている。
【0029】
触媒担持体5には、一対の電極端子7が取り付けられている。一対の電極端子7は、缶体61から突出されていてよいし、缶体61に設けられた開口を通してアクセス可能とされていてもよい。一対の電極端子7は、触媒担持体5の中心軸を挟むように触媒担持体5の周方向に互いに離間して配置されている。これら一対の電極端子7を介して触媒担持体5に電力が供給されることで、触媒担持体5が加熱可能とされている。触媒担持体5が加熱されることで、より早期に触媒を活性させることができる。
【0030】
触媒としては、Pd(パラジウム)、Pt(白金)、及びRh(ロジウム)を例として挙げることができる。Pd及びPtには、排気ガス2中のHC及びCOを酸化してCO2(二酸化炭素)及びH2O(水)を生成させる作用がある。Pd及びRhには、排気ガス2中のNOxを還元してN2(窒素)を生成させる作用がある。
【0031】
車両の制御装置4は、上述の電気加熱式触媒装置3が内燃機関1の排気通路6に配置された車両に搭載されている。以下、車両の制御装置4を、単に制御装置4と呼ぶことがある。制御装置4は、内燃機関1の動作制御を行うECUによって構成されていてもよいし、他のハードウェアによって構成されていてもよい。
【0032】
制御装置4は、触媒担持体5の加熱制御を行うための加熱制御部40を備えている。加熱制御部40は、電気加熱式触媒装置3(触媒担持体5)に接続されており、電気加熱式触媒装置3に供給する電力量を制御することにより触媒担持体5の加熱を制御することができる。
【0033】
ここで、例えば材料のバラツキ及び/又は製造条件のゆらぎ等により、触媒担持体5の物性にバラツキが生じることがある。ある触媒担持体5を加熱するために適切な電力量を他の触媒担持体5に投入したとき、物性バラツキにより、その触媒担持体5が過剰に加熱されて、触媒担持体5にクラックが発生する虞がある。
【0034】
本実施の形態の加熱制御部40は、触媒担持体5の熱伝導率に比例し及び/又は触媒担持体5の嵩密度に反比例する温度拡散係数に基づき、触媒担持体5を加熱するために電気加熱式触媒装置3に供給する電力量を制御する。
【0035】
温度拡散係数は、触媒担持体5内での熱の拡散のしやすさを表す係数と理解できる。温度拡散係数が大きいほど(すなわち、触媒担持体5の熱伝導率が高いほど、また触媒担持体5の嵩密度が低いほど)、触媒担持体5内で熱が拡散しやすい。すなわち、温度拡散係数が大きいほど、触媒担持体5内の温度差が低減し、所定の電力量を投入した際の触媒担持体5の最高温度が低くなる傾向にある。このため、加熱制御部40が、温度拡散係数に基づき、触媒担持体5を加熱するために電気加熱式触媒装置3に供給する電力量を制御することにより、触媒担持体5の最高温度を制御でき、触媒担持体5の加熱が不足する虞も低減できると考えられる。また、温度拡散係数が小さいほど、触媒担持体5内に局所的に温度が高い部分が表れやすく、所定の電力量を投入した際の触媒担持体5の最高温度が高くなる傾向にある。このため、加熱制御部40が、温度拡散係数に基づき、触媒担持体5を加熱するために電気加熱式触媒装置3に供給する電力量を制御することにより、触媒担持体5の最高温度を制御でき、触媒担持体5にクラックが発生する虞を低減できると考えられる。
【0036】
温度拡散係数は、触媒担持体5の熱伝導率を表す値によって構成されていてもよいし、触媒担持体5の熱伝導率を表す値に所定の定数を乗じた値によって構成されていてもよい。また、温度拡散係数は、触媒担持体5の嵩密度を表す値の逆数によって構成されていてもよいし、触媒担持体5の嵩密度を表す値の逆数に所定の定数を乗じた値によって構成されていてもよい。また、温度拡散係数は、触媒担持体5の熱伝導率を表す値に触媒担持体5の嵩密度を表す値の逆数を乗じた値によって構成されていてもよいし、その値に所定の定数を乗じた値であってもよい。温度拡散係数は、触媒担持体5の熱伝導率を触媒担持体5の嵩密度で除した値に、1より大きく1.5以下の定数を乗じた係数であってもよい。
【0037】
温度拡散係数は、加熱制御部40が記憶していてもよいし、例えばRAM又はROM等の外部メモリに記憶されていてもよい。例えば、触媒担持体5の製造時に、その触媒担持体5の温度拡散係数を決定することができる。決定された温度拡散係数を例えばバーコード等の情報保持媒体に保持させ、その情報保持媒体を触媒担持体5とともに流通させることができる。そして、その触媒担持体5を車両の排気通路6に組み込むときに、情報保持媒体から読み出した温度拡散係数をその車両の加熱制御部40に入力するか、又はその加熱制御部40に関連付けられた外部メモリに入力することができる。
【0038】
以上の説明では触媒担持体5の物性のバラツキのみに注目したが、触媒担持体5の物性のバラツキに加えて、触媒の物性のバラツキも考慮に入れることもできる。すなわち、加熱制御部40は、触媒担持体5及び触媒の熱伝導率に比例し及び/又は触媒担持体5及び触媒の嵩密度に反比例する温度拡散係数に基づき、触媒担持体5を加熱するために電気加熱式触媒装置3に供給する電力量を制御してもよい。
【0039】
温度拡散係数は、触媒担持体5及び触媒の熱伝導率を表す値によって構成されていてもよいし、触媒担持体5及び触媒の熱伝導率を表す値に所定の定数を乗じた値によって構成されていてもよい。また、温度拡散係数は、触媒担持体5及び触媒の嵩密度を表す値の逆数によって構成されていてもよいし、触媒担持体5及び触媒の嵩密度を表す値の逆数に所定の定数を乗じた値によって構成されていてもよい。また、温度拡散係数は、触媒担持体5及び触媒の熱伝導率を表す値に触媒担持体5及び触媒の嵩密度を表す値の逆数を乗じた値によって構成されていてもよいし、その値に所定の定数を乗じた値であってもよい。温度拡散係数は、触媒担持体5及び触媒の熱伝導率を触媒担持体5及び触媒の嵩密度で除した値に、1より大きく1.5以下の定数を乗じた係数であってもよい。
【0040】
次に、
図2は、
図1の加熱制御部40が行う加熱制御動作を示すフローチャートである。加熱制御部40は、車両が始動された後(例えばレディ・オン後)に加熱制御動作を開始することができる。
【0041】
加熱制御部40は、加熱制御動作を開始すると、通電要求があるか否かを判定する(ステップS1)。加熱制御部40は、例えば、エンジン水温が所定温度範囲内であり、且つ、触媒担持体5が所定温度(触媒暖機判定温度)以下であり、尚且つ、車両に搭載されたバッテリのSOCが所定量以上である場合に、通電要求があると判定してよい。
【0042】
加熱制御部40は、通電要求がないと判定した場合、加熱制御動作を終了する。車両が始動されているとき、加熱制御動作が所定間隔で開始されてよい。
【0043】
加熱制御部40は、通電要求があると判定したとき、温度拡散係数を取得する(ステップS2)。より具体的には、加熱制御部40は、加熱制御部40に関連付けられた外部メモリから温度拡散係数を取得する。加熱制御部40が温度拡散係数を記憶しているとき、このステップは省略されてよい。
【0044】
加熱制御部40は、温度拡散係数を取得した後に、その温度拡散係数に対応する指定最大電力量及び指定最低電力量を決定する(ステップS3)。上述のように温度拡散係数は、触媒担持体5の熱伝導率に比例し及び/又は触媒担持体5の嵩密度に反比例していてもよく、触媒担持体5及び触媒の熱伝導率に比例し及び/又は触媒担持体5及び触媒の嵩密度に反比例していてもよい。
【0045】
限定はされないが、加熱制御部40は、温度拡散係数と指定最大電力量との関係、及び温度拡散係数と指定最低電力量との関係を示すマップを参照することにより、温度拡散係数に対応する指定最大電力量及び指定最低電力量を決定してよい。マップは、加熱制御部40が記憶していてもよいし、外部メモリに記憶されていてもよい。
【0046】
加熱制御部40は、指定最大電力量及び指定最低電力量を決定した後に、指定最低電力量≦供給電力量≦指定最大電力量の関係を満たすか否か(すなわち、供給電力量が指定最低電力量以上であり、かつ供給電力量が指定最大電力量以下であるか否か)を判定する(ステップS4)。
【0047】
加熱制御部40は、電気加熱式触媒装置3に供給しようとする所定の供給電力量を予め記憶していることができる。この供給電力量は、例えば触媒担持体5に物性バラツキがないとの前提の下に予め決定されることができる。この供給電力量は、例えば触媒担持体5の物性のNominal値に基づいて予め決定されることができる。
【0048】
加熱制御部40は、指定最低電力量≦供給電力量≦指定最大電力量の関係を満たさないと判定したとき、供給電力量を補正した後に(ステップS5)、電力供給を実行する(ステップS6)。具体的には、加熱制御部40は、電気加熱式触媒装置3に供給しようとする供給電力量が、温度拡散係数に応じて決定される指定最大電力量を超えているとき、指定最大電力量以下となるように供給電力量を補正する。これにより、触媒担持体5が過剰に加熱される虞を低減できる。一方で、加熱制御部40は、電気加熱式触媒装置3に供給しようとする供給電力量が、温度拡散係数に応じて決定される指定最低電力量を下回るとき、指定最低電力量以上となるように供給電力量を補正する。これにより、触媒担持体5の加熱が不足する虞を低減できる。
【0049】
これに対して、加熱制御部40は、上述のステップS4で、指定最低電力量≦供給電力量≦指定最大電力量の関係を満たすと判定したとき、供給電力量の補正を行うことなく、電力供給を実行する(ステップS6)。
【0050】
加熱制御部40は、複数のマップを参照して、複数の指定最大電力量を決定することができる。例えば、加熱制御部40は、触媒担持体5にクラックが発生することを防止するための温度に基づき設定された第1指定最大電力量と温度拡散係数との関係を表す第1マップを参照して、温度拡散係数に応じた第1指定最大電力量を決定し、触媒の劣化を防止するための温度に基づき設定された第2指定最大電力量と温度拡散係数との関係を表す第2マップを参照して、温度拡散係数に応じた第2指定最大電力量を決定し、電気加熱式触媒装置3に供給しようとする供給電力量が、第1及び第2指定最大電力量のいずれか低い方を超えているとき、低い方以下となるように供給電力量を補正することができる。これにより、触媒担持体5にクラックが発生する虞を低減できることに加えて、触媒担持体5が担持する触媒の劣化も防止することができる。
【0051】
また、加熱制御部40は、触媒を活性化するための温度に基づき設定された第3指定最低電力量と温度拡散係数との関係を表す第3マップを参照して、温度拡散係数に応じた第3指定最低電力量を決定し、電気加熱式触媒装置3に供給しようとする供給電力量が、第3指定最低電力量を下回るとき、第3指定最低電力量以上となるように供給電力量を補正することができる。これにより、触媒担持体5の加熱が不足して、触媒の活性化が不十分となる虞を低減できる。
【0052】
次に、
図3は、
図1の触媒担持体5の一例を示す斜視図である。触媒担持体5は、
図3に示すハニカム構造体8であってもよい。ハニカム構造体8は、ハニカム構造部80と、一対の電極層81とを備えている。
【0053】
ハニカム構造部80は、セラミックス製の柱状の部材であり、外周壁800と、外周壁800の内側に配設され、一方の端面から他方の端面まで延びる流路を形成する複数のセル801aを区画形成する隔壁801とを有している。
【0054】
ハニカム構造部80の外形は、柱状である限り特に限定されず、例えば、端面が円形の柱状(円柱形状)、端面がオーバル形状の柱状、端面が多角形(四角形、五角形、六角形、七角形、八角形等)の柱状等の他の形状とすることができる。柱状とは、セル801aの延伸方向(ハニカム構造部80の軸方向)に厚みを有する立体形状と理解できる。ハニカム構造部80の軸方向長さとハニカム構造部80の端面の直径又は幅との比(アスペクト比)は任意である。柱状には、ハニカム構造部80の軸方向長さが端面の直径又は幅よりも短い形状(偏平形状)も含まれていてよい。
【0055】
ハニカム構造部80の大きさは、耐熱性を高める(外周壁800の周方向に入るクラックを抑制する)という理由により、端面の面積が2000~20000mm2であることが好ましく、5000~15000mm2であることが更に好ましい。
【0056】
セル801aの延伸方向に垂直な断面におけるセル801aの形状に制限はないが、四角形、六角形、八角形、又はこれらの組み合わせであることが好ましい。これ等のなかでも、四角形及び六角形が好ましい。セル形状をこのようにすることにより、ハニカム構造体8に排気ガス2を流したときの圧力損失が小さくなり、触媒の浄化性能が優れたものとなる。
【0057】
セル801aを区画形成する隔壁801の厚みは、0.1~0.3mmであることが好ましく、0.1~0.2mmであることがより好ましい。隔壁801の厚みが0.1mm以上であることで、ハニカム構造体8の強度が低下するのを抑制可能である。隔壁801の厚みが0.3mm以下であることで、ハニカム構造体8を触媒担体として用いて、触媒を担持した場合に、排気ガス2を流したときの圧力損失が大きくなるのを抑制できる。本発明において、隔壁801の厚みは、セル801aの延伸方向に垂直な断面において、隣接するセル801aの重心同士を結ぶ線分のうち、隔壁801を通過する部分の長さとして定義される。
【0058】
ハニカム構造部80は、セル801aの延伸方向に垂直な断面において、セル密度が40~150セル/cm2であることが好ましく、70~100セル/cm2であることが更に好ましい。セル密度をこのような範囲にすることにより、排気ガス2を流したときの圧力損失を小さくした状態で、触媒の浄化性能を高くすることができる。セル密度が40セル/cm2以上であると、触媒担持面積が十分に確保される。セル密度が150セル/cm2以下であるとハニカム構造部80を触媒担体として用いて、触媒を担持した場合に、排気ガス2を流したときの圧力損失が大きくなりすぎることが抑制される。セル密度は、外周壁800部分を除くハニカム構造部80の一つの端面部分の面積でセル数を除して得られる値である。
【0059】
ハニカム構造部80の外周壁800を設けることは、ハニカム構造部80の構造強度を確保し、また、セル801aを流れる流体が外周壁800から漏洩するのを抑制する観点で有用である。具体的には、外周壁800の厚みは好ましくは0.05mm以上であり、より好ましくは0.10mm以上、更により好ましくは0.15mm以上である。但し、外周壁800を厚くしすぎると高強度になりすぎてしまい、隔壁801との強度バランスが崩れて耐熱衝撃性が低下することから、外周壁800の厚みは好ましくは1.0mm以下であり、より好ましくは0.7mm以下であり、更により好ましくは0.5mm以下である。ここで、外周壁800の厚みは、厚みを測定しようとする外周壁800の箇所をセル801aの延伸方向に垂直な断面で観察したときに、当該測定箇所における外周壁800の接線に対する法線方向の厚みとして定義される。
【0060】
ハニカム構造部80は、セラミックス製であり、導電性を有することが好ましい。ハニカム構造部80は、通電してジュール熱により発熱可能である限り、体積抵抗率については特に制限はないが、0.1~200Ωcmであることが好ましく、1~200Ωcmがより好ましい。本発明において、ハニカム構造部80の体積抵抗率は、四端子法により25℃で測定した値とする。
【0061】
ハニカム構造部80の材質としては、限定的ではないが、アルミナ、ムライト、ジルコニア及びコージェライト等の酸化物系セラミックス、炭化珪素、窒化珪素及び窒化アルミ等の非酸化物系セラミックスからなる群から選択することができる。また、珪素-炭化珪素複合材や炭化珪素/グラファイト複合材等を用いることもできる。これらの中でも、耐熱性と導電性の両立の観点から、ハニカム構造部80の材質は、珪素-炭化珪素複合材又は炭化珪素を主成分とするセラミックスを含有していることが好ましい。ハニカム構造部80の材質が、珪素-炭化珪素複合材を主成分とするものであるというときは、ハニカム構造部80が、珪素-炭化珪素複合材(合計質量)を、全体の90質量%以上含有していることを意味する。ここで、珪素-炭化珪素複合材は、骨材としての炭化珪素粒子、及び炭化珪素粒子を結合させる結合材としての珪素を含有するものであり、複数の炭化珪素粒子が、炭化珪素粒子間に細孔を形成するようにして、珪素によって結合されていることが好ましい。ハニカム構造部80の材質が、炭化珪素を主成分とするものであるというときは、ハニカム構造部80が、炭化珪素(合計質量)を、全体の90質量%以上含有していることを意味する。
【0062】
ハニカム構造部80が珪素-炭化珪素複合材を含んでいる場合、ハニカム構造部80に含有される「骨材としての炭化珪素粒子の質量」と、ハニカム構造部80に含有される「結合材としての珪素の質量」との合計に対する、ハニカム構造部80に含有される「結合材としての珪素の質量」の比率が、10~40質量%であることが好ましく、15~35質量%であることが更に好ましい。
【0063】
隔壁801は多孔質としてもよい。多孔質とする場合、隔壁801の気孔率は、35~60%であることが好ましく、35~45%であることが更に好ましい。気孔率は、水銀ポロシメータにより測定した値である。
【0064】
ハニカム構造部80の隔壁801の平均細孔径は、2~15μmであることが好ましく、4~8μmであることが更に好ましい。平均細孔径は、水銀ポロシメータにより測定した値である。
【0065】
図示はしないが、ハニカム構造体8には、ハニカム構造体8の外周面8aから径方向内方に延び、かつ、セル801aの延伸方向に延びる複数のスリットが設けられていてよい。スリットは、周方向に互いに離間して配置されている。スリットは、ハニカム構造部80の一方の端面から他方の端面までセル801aの延伸方向に延びている。周方向におけるスリットの本数としては、2本以上12本以下であってもよい。スリットの深さは、セル801aの延伸方向に垂直な断面において、ハニカム構造部80の半径の60%以下であることが好ましく、1%以上25%以下がより好ましい。スリットの幅は、0.4mm以上2.0mm以下であってもよい。スリットの深さは、外周壁800の外周面からスリットの先端までの距離と理解してよい。
【0066】
なお、外周壁800の外周面がハニカム構造体8の外周面の少なくとも一部を構成している。より具体的には、外周壁800の外周面が露出されている位置、すなわち外周壁800の外周面が電極層81によって覆われていない位置では、外周壁800の外周面がハニカム構造体8の外周面を構成している。一方、一対の電極層81が設けられている位置では、一対の電極層81の外周面がハニカム構造体8の外周面を構成している。別の観点では、ハニカム構造体8の外観を観察したとき、複数のスリットが表れている面をハニカム構造体8の外周面として扱ってよい。ハニカム構造体8の外周面には、セル801aが開口するハニカム構造部80の端面は含まれないと理解してよい。
【0067】
スリットには、充填材が充填されていてよい。充填材は、スリットの空間の少なくとも一部に充填されていることが好ましい。充填材は、スリットの空間の50%以上に充填されていることが好ましく、スリットの空間の全部に充填されていることがより好ましい。
図3に示す態様では、充填材は、スリットの空間の全部に充填されており、ハニカム構造部80の両方の端面と一体の平面を形成し、ハニカム構造体8の外周面8aと一体の曲面を形成している。しかしながら、充填材は、ハニカム構造部80の端面よりも軸方向の内側の位置まで充填されていてもよく、ハニカム構造体8の外周面8aよりも径方向又は幅方向の内側の位置まで充填されていてもよい。
【0068】
充填材は、ハニカム構造部80の主成分が炭化珪素、又は珪素-炭化珪素複合材である場合、炭化珪素を20質量%以上含有することが好ましく、20~70質量%含有することが更に好ましい。これにより、充填材の熱膨張係数を、ハニカム構造部80の熱膨張係数に近い値にすることができ、ハニカム構造部80の耐熱衝撃性を向上させることができる。充填材は、シリカ、アルミナ等を30質量%以上含有するものであってもよい。
【0069】
一対の電極層81は、ハニカム構造部80の中心軸を挟んで、外周壁800の外面上において、セル801aの延伸方向に帯状に延びるように設けられている。
図1に示す電極端子7は電極層81上に設けることができる。これら電極端子7及び電極層81を通してハニカム構造部80に電圧を印加して、ハニカム構造部80を発熱させることができる。
【0070】
一対の電極層81のそれぞれは、分離帯810によって分離された第1及び第2部分電極層811,812を有している。
【0071】
電極層81に電気を流しやすくする観点から、電極層81の体積抵抗率は、ハニカム構造部80の電気抵抗率の1/200以上、1/10以下であることが好ましい。
【0072】
電極層81の材質は、導電性セラミックス、金属、又は金属及び導電性セラミックスとの複合材(サーメット)を使用することができる。金属としては、例えばCr、Fe、Co、Ni、Si又はTiの単体金属又はこれらの金属よりなる群から選択される少なくとも一種の金属を含有する合金が挙げられる。導電性セラミックスとしては、限定的ではないが、炭化珪素(SiC)が挙げられ、珪化タンタル(TaSi2)及び珪化クロム(CrSi2)等の金属珪化物等の金属化合物が挙げられる。
【0073】
電極層81を有するハニカム構造体8の製造方法としては、まず、ハニカム乾燥体の側面に、セラミックス原料を含有する電極層形成原料を塗布し、乾燥させて、ハニカム乾燥体の中心軸を挟んで、外周壁800の外面上において、セル801aの延伸方向に帯状に延びるように一対の未焼成電極層を形成して、未焼成電極層付きハニカム乾燥体を作製する。次に、未焼成電極層付きハニカム乾燥体を焼成して一対の電極層81を有するハニカム焼成体を作製する。これにより、電極層81を有するハニカム構造体8が得られる。なお、一対の電極層81は必須の構成要素ではなく、ハニカム構造体8は一対の電極層81を備えていなくてもよい。
【0074】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと理解される。
【実施例0075】
次に、実施例を挙げる。本発明者は、触媒担持体5に所定の電力量を投入した際の触媒担持体5の最高温度と温度拡散係数との関係を調査した。すなわち、以下の表に示すように、10個の供試体を準備して、それぞれの供試体の触媒担持体5に所定の電力量を投入した際の触媒担持体5内の最高温度(Max温度)、クラック発生有無及び触媒劣化の有無を調査した。
【0076】
供試体1~6は、温度拡散係数が互いに異なる触媒担持体5を使用したものである。これらの温度拡散係数の差異は、触媒担持体5の熱伝導率及び嵩密度のバラツキに起因するものである。なお、供試体1~6の触媒担持体5には、触媒は塗布されていない。供試体1~6の温度拡散係数は、触媒担持体5の熱伝導率を触媒担持体5の嵩密度で除した値とした。供試体1~3は、互いに異なる熱伝導率を有する一方で、同じ嵩密度を有している。これとは逆に、供試体4~6は、互いに異なる嵩密度を有する一方で、同じ熱伝導率を有している。
【0077】
供試体7,8は、供試体2,3の触媒担持体5に触媒を塗布したものである。同様に、供試体9,10は、供試体4,6の触媒担持体5に触媒を塗布したものである。これらの温度拡散係数の算出には、触媒の熱伝導率及び嵩密度の影響も加味している。すなわち、供試体7,8の温度拡散係数は、触媒担持体5及び触媒の熱伝導率を触媒担持体5及び触媒の嵩密度で除した値とした。
【0078】
なお、供試体7~10において触媒はハニカム構造体8の隔壁801の表面細孔に担持されており、触媒によるハニカム構造体8の隔壁801の厚み増加は無いものとする。したがって、触媒担持体5に触媒が塗布された形態(供試体7~10)において、触媒が塗布されている隔壁801部の体積増加は無いと考えられる。
【0079】
触媒担持体5に投入する電力量は、触媒担持体5のそれぞれで平均温度が等しくなるように設定した。以下の表に示す供試体1~3,7,8については3kW×43.5sec(130kJ)の電力を投入し、供試体4~6,9,10については2.4kW×43.5sec(104kJ)の電力を投入した。
【0080】
【0081】
なお、触媒担持体5内の最高温度(Max温度)は熱電対により測定した。クラック発生の有無及び触媒劣化の有無は、触媒担持体5内の最高温度から判断した。触媒担持体5内の最高温度が950℃超の場合にクラック発生有と判断した。触媒担持体5内の最高温度が900℃超の場合に触媒劣化有と判断した(触媒が担持されていない供試体1~6についても同様である)。
【0082】
図4は、実施例における温度拡散係数と最高温度との関係を示すグラフである。
図4において、黒塗りの丸(●)のプロットは、供試体1~3における温度拡散係数と触媒担持体5内の最高温度との関係を示している。白塗りの丸(〇)のプロットは、供試体4~6における温度拡散係数と触媒担持体5内の最高温度との関係を示している。黒塗りの三角(▲)のプロットは、供試体7,8における温度拡散係数と触媒担持体5内の最高温度との関係を示している。白塗りの三角(△)のプロットは、供試体9,10における温度拡散係数と触媒担持体5内の最高温度との関係を示している。
【0083】
いずれの供試体においても、温度拡散係数が小さいほど触媒担持体5の最高温度が高く、温度拡散係数が大きいほど触媒担持体5の最高温度が低くなっている。上述のように、温度拡散係数は、触媒担持体5の熱伝導率を触媒担持体5の嵩密度で除した値、又は触媒担持体5及び触媒の熱伝導率を触媒担持体5及び触媒の嵩密度で除した値としている。すなわち、
図4の結果から、触媒担持体5の最高温度が、触媒担持体5の熱伝導率に比例するとともに、触媒担持体5及び触媒の嵩密度に反比例することが確認できる。このことから、触媒担持体5の熱伝導率に比例し及び/又は触媒担持体5の嵩密度に反比例する温度拡散係数、又は触媒担持体5及び触媒の熱伝導率に比例し及び/又は触媒担持体5及び触媒の嵩密度に反比例する温度拡散係数に基づき電気加熱式触媒装置3に供給する電力量を制御することで、触媒担持体5にクラックが発生する虞を低減できることが分かる。
【0084】
供試体1~3のプロット(●)から温度拡散係数と触媒担持体5内の最高温度との関係を表す近似式を求めたところ、以下の式(1)を得ることができた。yは触媒担持体5内の最高温度であり、xは温度拡散係数である。
y=-11.8x+1035.5・・・(1)
【0085】
同様に、供試体4~6のプロット(〇)から温度拡散係数と触媒担持体5内の最高温度との関係を表す近似式を求めたところ、以下の式(2)を得ることができた。yは触媒担持体5内の最高温度であり、xは温度拡散係数である。
y=-9.0x+986.6・・・(2)
【0086】
上述のように、供試体1~3は、互いに異なる熱伝導率を有する一方で、同じ嵩密度を有している。これとは逆に、供試体4~6は、互いに異なる嵩密度を有する一方で、同じ熱伝導率を有している。すなわち、供試体1~3のプロット(●)は、触媒担持体5内の最高温度に与える熱伝導率の変化の影響を表し、供試体4~6のプロット(〇)は、触媒担持体5内の最高温度に与える嵩密度の変化の影響を表している。式(1)及び式(2)の傾きの値(「-11.8」及び「-9.0」)を比較することで分かるように、触媒担持体5内の最高温度は、嵩密度の変化の影響と比べて、熱伝導率の変化の影響をより多く受ける傾向にある。
【0087】
上述のように温度拡散係数を、触媒担持体5の熱伝導率を触媒担持体5の嵩密度で除した値としてもよいが、触媒担持体5熱伝導率を触媒担持体5の嵩密度で除した値に、触媒担持体5内の最高温度が熱伝導率の変化の影響をより多く受けることを考慮に入れた定数を乗じてもよい。この定数は、式(1)及び式(2)の傾きの値から、1より大きく1.5以下の値であってよく、好ましくは1.15以上かつ1.4以下の値であってよく、より好ましくは1.31(=-11.8÷-9.0)であり得る。この定数を用いることで、触媒担持体5にクラックが発生する虞をより確実に低減できる。
【0088】
同様に、供試体7,8のプロット(▲)から温度拡散係数と触媒担持体5内の最高温度との関係を表す近似式を求めたところ、以下の式(3)を得ることができた。yは触媒担持体5内の最高温度であり、xは温度拡散係数である。
y=-14.4x+987.8・・・(3)
【0089】
また、供試体9,10のプロット(△)から温度拡散係数と触媒担持体5内の最高温度との関係を表す近似式を求めたところ、以下の式(4)を得ることができた。yは触媒担持体5内の最高温度であり、xは温度拡散係数である。
y=-10.9x+963.8・・・(4)
【0090】
上述のように、供試体7,8は、互いに異なる熱伝導率を有する一方で、同じ嵩密度を有している。これとは逆に、供試体9,10は、互いに異なる嵩密度を有する一方で、同じ熱伝導率を有している。すなわち、供試体7,8のプロット(▲)は、触媒担持体5内の最高温度に与える熱伝導率の変化の影響を表し、供試体9,10のプロット(△)は、触媒担持体5内の最高温度に与える嵩密度の変化の影響を表している。式(3)及び式(4)の傾きの値(「-14.4」及び「-10.9」)を比較することで分かるように、触媒担持体5内の最高温度は、触媒の熱伝導率及び嵩密度の影響を加味した場合でも、嵩密度の変化の影響と比べて、熱伝導率の変化の影響をより多く受ける傾向にある。
【0091】
上述のように温度拡散係数を、触媒担持体5及び触媒の熱伝導率を触媒担持体5及び触媒の嵩密度で除した値としてもよいが、触媒担持体5及び触媒の熱伝導率を触媒担持体5及び触媒の嵩密度で除した値に、触媒担持体5内の最高温度が熱伝導率の変化の影響をより多く受けることを考慮に入れた定数を乗じてもよい。この定数は、式(3)及び式(4)の傾きの値から、1より大きく1.5以下の値であってよく、好ましくは1.15以上かつ1.4以下の値であってよく、より好ましくは1.32(=-14.4÷-10.9)であり得る。この定数を用いることで、触媒担持体5にクラックが発生する虞をより確実に低減できる。