(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143850
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】導電性ハニカム構造体、電気加熱型担体及び排ガス浄化装置
(51)【国際特許分類】
B01J 35/50 20240101AFI20241003BHJP
B01J 35/57 20240101ALI20241003BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20241003BHJP
F01N 3/20 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B01J35/02 G ZAB
B01J35/04 301F
B01D53/94 300
F01N3/20 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056761
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】原田 康弘
【テーマコード(参考)】
3G091
4D148
4G169
【Fターム(参考)】
3G091AA02
3G091AB02
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4G169FB67
(57)【要約】
【課題】ガスシール性と耐熱衝撃性を共に改善するのに寄与する導電性ハニカム構造体を提供する。
【解決手段】導電性ハニカム構造体(110)は、外周壁(114)が露出している外表面又は電極層(112a、112b)の外表面に開口し、電極層(112a、112b)の周方向両端から周方向にそれぞれ10mm以内の箇所に設けられた、セル(115)の延びる方向に延びる溝部(121)を有するスリット(117a、117b)を備える。このスリットの溝部の一部は充填材(119)によって充填されており、第一端面(116)から第二端面(118)までのセルの延びる方向の長さをLとし、第一端面の座標値を0、第二端面の座標値を1.0Lとして、セルの延びる方向に座標軸を取り、座標値が0~0.1Lの範囲における充填材の平均充填率(単位:%)をF
0-0.1、座標値が0.1L~1.0Lの範囲における充填材の平均充填率(単位:%)をF
0.1/1.0とすると、0≦F
0-0.1/F
0.1-1.0≦0.5が成立する。
【選択図】
図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周壁と、前記外周壁の内側に配設され、第一端面から第二端面まで流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁とを有する導電性のハニカム構造部と、
前記外周壁の外表面に設けられ、セルの延びる方向に帯状に延びる第一電極層と、
前記外周壁の外表面に設けられ、セルの延びる方向に帯状に延びる第二電極層であって、前記ハニカム構造部の中心軸を挟んで第一電極層と対向するように設けられた第二電極層と、
前記外周壁が露出している外表面又は第一電極層の外表面に開口し、第一電極層の周方向両端から周方向にそれぞれ10mm以内の箇所に設けられ、セルの延びる方向に延びる溝部を有する一対の第一スリットと、
前記外周壁が露出している外表面又は第二電極層の外表面に開口し、第二電極層の周方向両端から周方向にそれぞれ10mm以内の箇所に設けられ、セルの延びる方向に延びる溝部を有する一対の第二スリットと、
を備え、
前記一対の第一スリット及び前記一対の第二スリットのうち、少なくとも一つのスリットにおいて、前記溝部の一部に充填材が充填されており、
前記溝部の一部に充填材が充填されている前記少なくとも一つのスリットに関し、前記ハニカム構造部の第一端面から第二端面までのセルの延びる方向の長さをLとし、第一端面の座標値を0、第二端面の座標値を1.0Lとして、セルの延びる方向に座標軸を取り、座標値が0~0.1Lの範囲における前記充填材の平均充填率(単位:%)をF0-0.1、座標値が0.1L~1.0Lの範囲における前記充填材の平均充填率(単位:%)をF0.1-1.0とすると、0≦F0-0.1/F0.1-1.0≦0.50が成立する導電性ハニカム構造体。
【請求項2】
F0.1-1.0が20%~100%である請求項1に記載の導電性ハニカム構造体。
【請求項3】
F0-0.1が0%である請求項1又は2に記載の導電性ハニカム構造体。
【請求項4】
前記一対の第一スリット及び前記一対の第二スリットのすべてのスリットにおいて、0≦F0-0.1/F0.1-1.0≦0.50が成立する請求項1又は2に記載の導電性ハニカム構造体。
【請求項5】
第一端面が流体の入口側であり、第二端面が流体の出口側である請求項1又は2に記載の導電性ハニカム構造体。
【請求項6】
前記外周壁の露出した外表面に開口し、セルの延びる方向に延びる溝部を有し、前記溝部の全部が充填材によって充填されている第三スリットを少なくとも一つ更に備える請求項1又は2に記載の導電性ハニカム構造体。
【請求項7】
第一電極層及び/又は第二電極層の外表面に開口し、セルの延びる方向に延びる溝部を有し、前記溝部の全部が充填材によって充填されている第四スリットを少なくとも一つ更に備える請求項1又は2に記載の導電性ハニカム構造体。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の導電性ハニカム構造体と、
第一電極層及び第二電極層のそれぞれの外表面に接合された金属端子と、
を備える電気加熱型担体。
【請求項9】
請求項8に記載の電気加熱型担体と、
前記電気加熱型担体を収容する金属管と、
を備える排ガス浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ハニカム構造体に関する。また、本発明は導電性ハニカム構造体を備える電気加熱型担体に関する。また、本発明は電気加熱型担体を備える排ガス浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エンジン始動直後の排ガス浄化性能の低下を改善するため、導電性ハニカム構造体を備える電気加熱触媒(EHC)が提案されている。EHCは一般に、外周壁、及び、外周壁の内側に配設され、第一端面から第二端面まで流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁を有する導電性のハニカム構造部と、ハニカム構造部の外周壁に配設された一対の電極層とを備える。EHCを用いることで、通電により導電性ハニカム構造体自体を発熱させ、エンジン始動直後の低温な排ガスを触媒活性温度まで昇温させることができる。
【0003】
EHCに要求される特性の一つに耐熱衝撃性がある。ハニカム構造体の外周部にストレスリリーフを設けることで、ハニカム構造体にかかる応力を分散させ、耐熱衝撃性を向上させる技術が知られている。特許文献1(特開2014-198296号公報)には、外周に電極部が配設されている領域である電極部領域と、ハニカム構造部の側面が露出した領域であるハニカム構造部領域とが設けられており、電極部領域及びハニカム構造部領域の両方にスリットが1本以上形成されているハニカム構造体が記載されている。当該ハニカム構造体では、セルの延びる方向に直交する断面において、少なくとも1本の電極部スリットが、少なくとも1本のハニカム構造部スリットより長くなるように形成されていることで、耐熱衝撃性を向上させている。
【0004】
また、特許文献1には、ハニカム構造体のアイソスタティック破壊強度を向上するため、少なくとも1本のスリットに充填材を充填することが開示されており、充填材はスリットの空間の少なくとも一部に充填されてもよいし、スリットの空間の全部に充填されてもよいことが記載されている。更に、充填材のヤング率が0.001~20GPaであること、充填材の気孔率が40~80%であること等も記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1で提案されているように、ハニカム構造体の外周部にストレスリリーフとしてのスリットを設けることはハニカム構造体の耐熱衝撃性の向上に寄与する。しかしながら、スリットに充填材が充填されることで外周部の剛性(ヤング率)が高くなりやすく、スリットを設けたことによる耐熱衝撃性の向上効果が十分に発揮できないという問題があった。このため、900℃~950℃程度の低温域の排ガスに対してもハニカム構造体にクラックが発生してしまうという問題が未だ残されている。また、特許文献1には充填材はスリットの空間の少なくとも一部に充填されてもよいことが記載されているが、具体的な充填方法は示されておらず、ガスシール性と耐熱衝撃性を高次元で両立させることは困難であった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みて創作されたものであり、一実施形態において、ガスシール性と耐熱衝撃性を共に改善するのに寄与する導電性ハニカム構造体を提供することを課題とする。また、本発明は別の一実施形態において、そのような導電性ハニカム構造体を備える電気加熱型担体を提供することを課題とする。また、本発明は更に別の一実施形態において、そのような電気加熱型担体を備える排ガス浄化装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、以下に例示される本発明によって解決される。
[態様1]
外周壁と、前記外周壁の内側に配設され、第一端面から第二端面まで流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁とを有する導電性のハニカム構造部と、
前記外周壁の外表面に設けられ、セルの延びる方向に帯状に延びる第一電極層と、
前記外周壁の外表面に設けられ、セルの延びる方向に帯状に延びる第二電極層であって、前記ハニカム構造部の中心軸を挟んで第一電極層と対向するように設けられた第二電極層と、
前記外周壁が露出している外表面又は第一電極層の外表面に開口し、第一電極層の周方向両端から周方向にそれぞれ10mm以内の箇所に設けられ、セルの延びる方向に延びる溝部を有する一対の第一スリットと、
前記外周壁が露出している外表面又は第二電極層の外表面に開口し、第二電極層の周方向両端から周方向にそれぞれ10mm以内の箇所に設けられ、セルの延びる方向に延びる溝部を有する一対の第二スリットと、
を備え、
前記一対の第一スリット及び前記一対の第二スリットのうち、少なくとも一つのスリットにおいて、前記溝部の一部に充填材が充填されており、
前記溝部の一部に充填材が充填されている前記少なくとも一つのスリットに関し、前記ハニカム構造部の第一端面から第二端面までのセルの延びる方向の長さをLとし、第一端面の座標値を0、第二端面の座標値を1.0Lとして、セルの延びる方向に座標軸を取り、座標値が0~0.1Lの範囲における前記充填材の平均充填率(単位:%)をF0-0.1、座標値が0.1L~1.0Lの範囲における前記充填材の平均充填率(単位:%)をF0.1-1.0とすると、0≦F0-0.1/F0.1-1.0≦0.50が成立する導電性ハニカム構造体。
[態様2]
F0.1-1.0が20%~100%である態様1に記載の導電性ハニカム構造体。
[態様3]
F0-0.1が0%である態様1又は2に記載の導電性ハニカム構造体。
[態様4]
前記一対の第一スリット及び前記一対の第二スリットのすべてのスリットにおいて、0≦F0-0.1/F0.1-1.0≦0.50が成立する態様1~3の何れかに記載の導電性ハニカム構造体。
[態様5]
第一端面が流体の入口側であり、第二端面が流体の出口側である態様1~4の何れかに記載の導電性ハニカム構造体。
[態様6]
前記外周壁の露出した外表面に開口し、セルの延びる方向に延びる溝部を有し、前記溝部の全部が充填材によって充填されている第三スリットを少なくとも一つ更に備える態様1~5の何れかに記載の導電性ハニカム構造体。
[態様7]
第一電極層及び/又は第二電極層の外表面に開口し、セルの延びる方向に延びる溝部を有し、前記溝部の全部が充填材によって充填されている第四スリットを少なくとも一つ更に備える態様1~6の何れかに記載の導電性ハニカム構造体。
[態様8]
態様1~7の何れかに記載の導電性ハニカム構造体と、
第一電極層及び第二電極層のそれぞれの外表面に接合された金属端子と、
を備える電気加熱型担体。
[態様9]
態様8に記載の電気加熱型担体と、
前記電気加熱型担体を収容する金属管と、
を備える排ガス浄化装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一実施形態によれば、ガスシール性と耐熱衝撃性が共に改善された導電性ハニカム構造体を提供することができる。この導電性ハニカム構造体に金属端子を接合して電気加熱型担体を作製することができる。電気加熱型担体は、例えば排ガス浄化装置の触媒担体として好適に使用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電気加熱型担体を第一端面から観察したときの模式図である。
【
図2A】本発明の一実施形態に係る電気加熱型担体の模式的な斜視図である。
【
図2B】本発明の別の一実施形態に係る電気加熱型担体の模式的な斜視図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る排ガス浄化装置を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に本発明を実施するための形態を図面を参照しながら詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0012】
(1.電気加熱型担体)
図1は、本発明の一実施形態に係る電気加熱型担体100を第一端面116から観察したときの模式図である。
図2Aは、本発明の一実施形態に係る電気加熱型担体100の模式的な斜視図である。
図2Bは、本発明の別の一実施形態に係る電気加熱型担体100の模式的な斜視図である。
【0013】
電気加熱型担体100は、ハニカム構造体110及び金属端子130を備える。電気加熱型担体100に触媒を担持することにより、電気加熱型担体100を触媒体として使用することができる。触媒としては、例えば、貴金属系触媒又はそれ以外の触媒が挙げられる。貴金属系触媒としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)といった貴金属をアルミナ細孔表面に担持し、セリア、ジルコニア等の助触媒を含む三元触媒や酸化触媒、又は、アルカリ土類金属と白金を窒素酸化物(NOx)の吸蔵成分として含むNOx吸蔵還元触媒(LNT触媒)が例示される。貴金属を用いない触媒として、銅置換又は鉄置換ゼオライトを含むNOx選択還元触媒(SCR触媒)等が例示される。また、これらの触媒から選択される二種以上の触媒を用いてもよい。なお、触媒の担持方法についても特に制限はなく、ハニカム構造体に触媒を担持する公知の方法を採用することができる。
【0014】
(1-1.導電性ハニカム構造体)
一実施形態において、導電性ハニカム構造体110は、
外周壁114と、外周壁114の内側に配設され、第一端面116から第二端面118まで流路を形成する複数のセル115を区画形成する隔壁113とを有する導電性のハニカム構造部、
外周壁114の外表面に設けられ、セル115の延びる方向に帯状に延びる第一電極層112a、及び
外周壁114の外表面に設けられ、セル115の延びる方向に帯状に延びる第二電極層112bであって、ハニカム構造部の中心軸Oを挟んで第一電極層112aと対向するように設けられた第二電極層112b、
を備える。
【0015】
ハニカム構造体110の外形は特に限定されず、例えば端面が円形状、オーバル形状、楕円形状、レーストラック形状及び長円形状等のラウンド形状の柱体、端面が三角形状及び四角形状等の多角形状の柱体、並びに、端面がその他の異形形状を有する柱体とすることができる。図示のハニカム構造体110は、端面形状が円形状であり、全体として円柱状である。
【0016】
ハニカム構造体110の高さ(一方の端面から他方の端面までの長さ)は特に制限はなく、用途や要求性能に応じて適宜設定すればよい。ハニカム構造体110の高さと各端面の最大径(ハニカム構造体の各端面の重心を通る径のうち、最大長さを指す)の関係についても特に制限はない。従って、ハニカム構造体110の高さが各端面の最大径よりも長くてもよいし、ハニカム構造体110の高さが各端面の最大径よりも短くてもよい。
【0017】
また、ハニカム構造体110の大きさは、耐熱性を高める(外周壁の周方向に入るクラックを抑制する)という理由により、一つの端面の面積が2000~20000mm2であることが好ましく、5000~15000mm2であることが更に好ましい。
【0018】
一実施形態において、ハニカム構造体110は、下記の耐熱衝撃性試験を行ったときのクラック発生温度が900℃以上であり、好ましくは950℃以上であり、より好ましくは1050℃以上であり、例えば、900~1100℃とすることができる。
耐熱衝撃性試験は以下の手順で行う。プロパンガスバーナー試験機の金属ケースに、ハニカム構造体を収納(キャニング)する。そして、金属ケース内に、プロパンガスバーナーにより加熱されたガス(燃焼ガス)を供給し、ガスがハニカム構造体内を通過するようにした金属ケースに流入する加熱ガスの温度条件(入口ガス温度条件)を以下のように設定する。まず、10分間で指定温度まで昇温し、指定温度で5分間保持し、その後、3分間で100℃まで冷却し、100℃で10分間保持する。このような昇温、保持、冷却、保持の一連の操作を「昇温、冷却操作」と称する。その後、室温に冷却してハニカム構造体のクラックを顕微鏡により確認する。クラックが確認されなかった場合、耐熱衝撃性試験合格とし、クラックが確認された場合、耐熱衝撃性試験不合格とする。そして、指定温度を800℃から50℃ずつ上昇させながら上記「昇温、冷却操作」を繰り返す。指定温度は、ハニカム構造体にクラックが発生するまで50℃ずつ上昇させる。
【0019】
ハニカム構造体110のアイソスタティック破壊強度の下限は0.5MPa以上であることが好ましく、1.0MPa以上であることがより好ましく、1.5MPa以上であることが更により好ましい。アイソスタティック破壊強度の上限は特に設定されないが、3.0MPa以下であるのが通常であり、2.5MPa以下であるのが典型的である。ハニカム構造体のアイソスタティック破壊強度の測定においては、ハニカム構造体を圧力容器内の水中に沈め、水圧を徐々に増加させることでハニカム構造体に等方的な圧力を加える試験が行われる。圧力容器内の水圧が徐々に増加することで、最終的にハニカム構造体の隔壁や外周壁に破壊が生じる。破壊が生じた際の圧力の値(破壊強度)がアイソスタティック破壊強度である。アイソスタティック破壊強度は、社団法人自動車技術協会発行の自動車規格(JASO M505-87)に基づいて測定される。
【0020】
<ハニカム構造部>
ハニカム構造部を構成する外周壁114及び隔壁113は、電極層112a、112bよりも体積抵抗率は高いものの導電性を有する。外周壁114及び隔壁113の体積抵抗率は、通電してジュール熱により発熱可能である限り特に制限はないが、四端子法により25℃で測定したときに、0.1~200Ωcmであることが好ましく、1~200Ωcmであることがより好ましく、10~100Ωcmであることが更に好ましい。
【0021】
外周壁114及び隔壁113の材料としては、通電してジュール熱により発熱可能なセラミックス(導電性セラミックス)を一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用可能である。外周壁114及び隔壁113は、限定的ではないが、アルミナ、ムライト、ジルコニア及びコージェライト等の酸化物系セラミックス、並びに、炭化珪素、窒化珪素及び窒化アルミ等の非酸化物系セラミックスから選択される一種又は二種以上を含有することができる。また、炭化珪素-珪素複合材や炭化珪素/グラファイト複合材等を用いることもできる。これらの中でも、耐熱性と導電性の両立の観点から、外周壁114及び隔壁113の材質は、炭化珪素-珪素複合材又は炭化珪素を主成分とすることが好ましい。外周壁114及び隔壁113の材質が、炭化珪素-珪素複合材を主成分とするものであるというときは、外周壁114及び隔壁113がそれぞれ、炭化珪素-珪素複合材(合計質量)を全体の90質量%以上含有していることを意味する。ここで、炭化珪素-珪素複合材は、骨材としての炭化珪素粒子、及び炭化珪素粒子を結合させる結合材としての珪素を含有するものであり、複数の炭化珪素粒子が、炭化珪素粒子間に細孔を形成するようにして、珪素によって結合されていることが好ましい。外周壁114及び隔壁113の材質が、炭化珪素を主成分とするものであるというときは、外周壁114及び隔壁113がそれぞれ、炭化珪素(合計質量)を全体の90質量%以上含有していることを意味する。
【0022】
外周壁114及び隔壁113が、炭化珪素-珪素複合材を含有する場合、外周壁114及び隔壁113が含有する「骨材としての炭化珪素粒子の質量」と、外周壁114及び隔壁113が含有する「結合材としての珪素の質量」との合計に対する、外周壁114及び隔壁113が含有する「結合材としての珪素の質量」の比率はそれぞれ、10~40質量%であることが好ましく、15~35質量%であることが更に好ましい。10質量%以上であると、外周壁114及び隔壁113の強度が十分に維持される。40質量%以下であると、焼成時に形状を保持しやすくなる。
【0023】
ハニカム構造部に外周壁114を設けることは、ハニカム構造部の構造強度を確保し、また、セル115を流れる流体が外周壁114から漏洩するのを抑制する観点で有用である。この点で、外周壁114の厚みは好ましくは0.1mm以上であり、より好ましくは0.15mm以上であり、更により好ましくは0.2mm以上である。但し、外周壁114を厚くしすぎると高強度になりすぎてしまい、隔壁113との強度バランスが崩れて耐熱衝撃性が低下することから、外周壁114の厚みは好ましくは1.0mm以下であり、より好ましくは0.7mm以下であり、更により好ましくは0.5mm以下である。ここで、外周壁114の厚みは、厚みを測定しようとする外周壁114の箇所をセル115の延びる方向に垂直な断面で観察したときに、当該測定箇所における外周壁114の外表面の接線に対する法線方向の厚みとして定義される。
好ましい。
【0024】
セル115を区画形成する隔壁113の厚みは、0.1~0.3mmであることが好ましく、0.1~0.2mmであることがより好ましい。隔壁113の厚みが0.1mm以上であることで、ハニカム構造部の強度が低下するのを抑制可能である。隔壁113の厚みが0.3mm以下であることで、ハニカム構造部を触媒担体として用いて、触媒を担持した場合に、排ガスを流したときの圧力損失が大きくなるのを抑制できる。本発明において、隔壁113の厚みは、セル115の延びる方向に垂直な断面において、隣接するセル115の重心同士を結ぶ線分のうち、隔壁113を通過する部分の長さとして定義される。
【0025】
隔壁113はSi含浸SiCの形態等のように緻密質でもよいが、多孔質とすることが好ましい。隔壁113の気孔率は、35~60%であることが好ましく、35~45%であることが更に好ましい。気孔率が35%以上であると、焼成時の変形をより抑制しやすくなる。気孔率が60%以下であるとハニカム構造部の強度が十分に維持される。気孔率は、水銀ポロシメータにより測定した値である。なお、緻密質というのは気孔率が5%以下のことを指す。
【0026】
隔壁113の平均細孔径は、2~15μmであることが好ましく、4~8μmであることが更に好ましい。平均細孔径が2μm以上であると、体積抵抗率が大きくなりすぎることが抑制される。平均細孔径が15μm以下であると、体積抵抗率が小さくなりすぎることが抑制される。平均細孔径は、水銀ポロシメータにより測定した値である。
【0027】
ハニカム構造部は、セル115の延びる方向に垂直な断面において、セル密度が40~150セル/cm2であることが好ましく、70~100セル/cm2であることが更に好ましい。セル密度をこのような範囲にすることにより、ハニカム構造部に排ガスを流したときの圧力損失を小さくした状態で、触媒の浄化性能を高くすることができる。セル密度が40セル/cm2以上であると、触媒担持面積が十分に確保される。セル密度が150セル/cm2以下であるとハニカム構造体110を触媒担体として用いて、触媒を担持した場合に、排ガスを流したときの圧力損失が大きくなりすぎることが抑制される。セル密度は、外周壁114よりも内周側のハニカム構造部の一つの端面の面積でセル数を除して得られる値である。
【0028】
セル115の延びる方向に垂直な断面におけるセルの形状に制限はないが、四角形、六角形、八角形、又はこれらの組み合わせであることが好ましい。これ等のなかでも、四角形及び六角形が好ましい。セル形状をこのようにすることにより、ハニカム構造体110に排ガスを流したときの圧力損失が小さくなり、触媒の浄化性能が優れたものとなる。構造強度及び加熱均一性を両立させやすいという観点からは、六角形が特に好ましい。
【0029】
セル115は第一端面116から第二端面118まで貫通していてもよい。その際、セル115は、第一端面116が目封止されており第二端面118が開口を有する第1セルと、第一端面116が開口を有し第二端面118が目封止されている第2セルとが隔壁113を挟んで交互に隣接配置されていてもよい。
【0030】
<電極層>
外周壁114の外表面には、第一電極層112a及びこれにハニカム構造部の中心軸Oを挟んで対向する第二電極層112bが設けられる。外周壁114よりも体積抵抗率の低い電極層112a、112bが配設されることで、電流がハニカム構造体110の周方向及びセル115の延びる方向に広がりやすくなるので、ハニカム構造体110の均一発熱性を高めることが可能となる。
図1を参照すると、セル115の延びる方向に垂直な断面において、一対の電極層112a、112bのそれぞれの周方向中心からハニカム構造体110の中心軸O(重心)まで延ばした二つの線分のなす角度θ(0°≦θ≦180°)は、150°≦θ≦180°であることが好ましく、160°≦θ≦180°であることがより好ましく、170°≦θ≦180°であることが更により好ましく、180°であることが最も好ましい。
【0031】
一対の電極層112a、112bの形成領域に特段の制約はないが、ハニカム構造体110の均一発熱性を高めるという観点からは、一対の電極層112a、112bはそれぞれ、外周壁114の外表面上でハニカム構造体110の周方向及びセル115の延びる方向に帯状に延設されていることが好ましい。具体的には、セル115の延びる方向に垂直な断面において、各電極層112a、112bの周方向の両側端と中心軸O(重心)とを結ぶ2本の線分が作る中心角αは、電流を周方向に広げて均一発熱性を高めるという観点から、30°以上であることが好ましく、40°以上であることがより好ましく、60°以上であることが更により好ましい(
図1参照)。但し、中心角αを大きくし過ぎると、ハニカム構造体110の内部を通過する電流が少なくなり、外周壁114付近を通過する電流が多くなる。そこで、当該中心角αは、ハニカム構造体110の均一発熱性の観点から、140°以下であることが好ましく、130°以下であることがより好ましく、120°以下であることが更により好ましい。また、電極層112a、112bはそれぞれ、ハニカム構造体110の両端面間の長さの80%以上の長さに亘って、好ましくは90%以上の長さに亘って、より好ましくは全長に亘って延びていることが望ましい。電極層112a、112bは単層で構成されていてもよく、複数層が積層された積層構造を有することもできる。
【0032】
電極層112a、112bの厚みは、0.01~5mmであることが好ましく、0.01~3mmであることが更に好ましい。このような範囲とすることにより均一発熱性を高めることができる。電極層112a、112bの厚みが0.01mm以上であると、電気抵抗が適切に制御され、より均一に発熱することができる。電極層112a、112bの厚みが5mm以下であると、キャニング時に破損する恐れが低減される。電極層112a、112bの厚みは、厚みを測定しようとする電極層112a、112bの箇所をセル115の延びる方向に垂直な断面で観察したときに、当該測定箇所における電極層112a、112bの外表面の接線に対する法線方向の厚みとして定義される。
【0033】
電極層112a、112bの体積抵抗率を隔壁113及び外周壁114の体積抵抗率より低くすることにより、電極層112a、112bに優先的に電気が流れやすくなり、通電時に電気がハニカム構造体110の周方向及びセル115の延びる方向に広がりやすくなる。電極層112a、112bの体積抵抗率は、隔壁113及び外周壁114の体積抵抗率の1/10以下であることが好ましく、1/20以下であることがより好ましく、1/30以下であることが更により好ましい。但し、両者の体積抵抗率の差が大きくなりすぎると対向する電極層112a、112bの端部間に電流が集中してハニカム構造体110の発熱が偏ることから、電極層112a、112bの体積抵抗率は、隔壁113及び外周壁114の体積抵抗率の1/200以上であることが好ましく、1/150以上であることがより好ましく、1/100以上であることが更により好ましい。本発明において、電極層、隔壁及び外周壁の体積抵抗率は、四端子法により25℃で測定した値とする。
【0034】
電極層112a、112bの材質は、限定的ではないが、金属とセラミックス(とりわけ導電性セラミックス)との複合材(サーメット)を使用することができる。金属としては、例えばCr、Fe、Co、Ni、Si又はTiの単体金属又はこれらの金属から選択される少なくとも一種の金属を含有する合金が挙げられる。セラミックスとしては、限定的ではないが、炭化珪素(SiC)の他、珪化タンタル(TaSi2)及び珪化クロム(CrSi2)等の金属珪化物等の金属化合物が挙げられる。金属とセラミックスとの複合材(サーメット)の具体例としては、金属珪素と炭化珪素の複合材、珪化タンタルや珪化クロム等の金属珪化物と金属珪素と炭化珪素の複合材、更には上記の一種又は二種以上の金属に熱膨張低減の観点から、アルミナ、ムライト、ジルコニア、コージェライト、窒化珪素及び窒化アルミ等の絶縁性セラミックスを一種又は二種以上添加した複合材が挙げられる。電極層112a、112bの材質としては、上記の各種金属及びセラミックスの中でも、珪化タンタルや珪化クロム等の金属珪化物と金属珪素と炭化珪素の複合材とすることが、隔壁及び外周壁と同時に焼成できるので製造工程の簡素化に資するという理由により好ましい。
【0035】
<第一及び第二スリット>
スリット内に充填材を充填することは、セルの流路内を流れる流体がスリットを通じてハニカム構造部から抜け出て行くのを防止するガスシール性を高めることができる点で有利である。また、ハニカム構造体の機械的強度を向上することにも寄与する。しかしながら、先述した通り、スリットに充填材を充填すると、耐熱衝撃性の向上効果が十分に発揮されない、すなわちクラックの抑制効果に改善の余地がある。
【0036】
本発明者は各電極層の周方向両端付近のうち、特に端面付近に特にクラックが発生しやすいことに着目した。そして、本発明者は、各電極層の周方向両端付近のクラックは、少なくとも一方の端面近傍のスリット、好ましくは両端面近傍のスリットの充填材の充填率を低下させることで、ガスシール性と耐熱衝撃性の両立が可能であることを見出した。
【0037】
従って、本発明の一実施形態に係るハニカム構造体110は更に、
外周壁114が露出している外表面又は第一電極層の外表面、好ましくは外周壁114が露出している外表面に開口し、第一電極層112aの周方向両端から周方向にそれぞれ10mm以内の箇所に設けられ、セル115の延びる方向に延びる溝部121を有する一対の第一スリット117a、及び
外周壁114が露出している外表面又は第二電極層の外表面、好ましくは外周壁114が露出している外表面に開口し、第二電極層112bの周方向両端から周方向にそれぞれ10mm以内の箇所に設けられ、セル115の延びる方向に延びる溝部121を有する一対の第二スリット117b、
を備える。
【0038】
一対の第一スリット117aは、第一電極層112aの周方向両端から周方向にそれぞれ10mm以内の箇所に設けられる限り、本数に上限はない。例えば、
図2Aに示す実施形態において、第一スリット117aは、第一電極層112aの周方向両端に一本ずつ設けられているが、それよりも多い本数設けられてもよい。但し、第一スリット117aを第一電極層112aの周方向両端に設ける際は、第一電極層112aを挟んで同数ずつ対称な位置に設けることが好ましい。一対の第一スリット117aが「第一電極層の周方向両端から周方向にそれぞれ10mm以内の箇所に設けられる」というのは、一対の第一スリット117aの開口領域全体が第一電極層112aの周方向両端から周方向にそれぞれ10mm以内の箇所に位置することを意味する。一対の第二スリット117bについても同様であり、一対の第二スリット117bが「第二電極層の周方向両端から周方向にそれぞれ10mm以内の箇所に設けられる」というのは、一対の第二スリット117bの開口領域全体が第二電極層112bの周方向両端から周方向にそれぞれ10mm以内の箇所に位置することを意味する。
【0039】
図1を参照すると、ハニカム構造体110をセル115の延びる方向に垂直な断面で観察したときに、一対の第一スリット117aの一方のスリットは、一対の第二スリット117bの一方のスリットと中心軸Oを挟んで対向する位置に形成されていることが好ましい。同様に、ハニカム構造体110をセル115の延びる方向に垂直な断面で観察したときに、一対の第一スリット117aの他方のスリットは、一対の第二スリット117bの他方のスリットと、中心軸Oを挟んで対向する位置に形成されていることが好ましい。
【0040】
一対の第一スリット117a及び一対の第二スリット117bのうち、少なくとも一つのスリットにおいて、好ましくは半分以上の数のスリットにおいて、より好ましくはすべてのスリットにおいて、0≦F0-0.1/F0.1-1.0≦0.50、好ましくは0≦F0-0.1/F0.1-1.0≦0.30、より好ましくは0≦F0-0.1/F0.1-1.0≦0.10が成立するように溝部121の一部に充填材119が充填されることが望ましい。
【0041】
上記式中、ハニカム構造部の第一端面116から第二端面118までのセル115の延びる方向の長さをLとし、第一端面116の座標値を0、第二端面118の座標値を1.0Lとして、セル115の延びる方向に座標軸を取り、座標値が0~0.1Lの範囲における充填材119の平均充填率(単位:%)をF0-0.1、座標値が0.1L~1.0Lの範囲における充填材119の平均充填率(単位:%)をF0.1-1.0とする。
【0042】
F0-0.1は小さい方が耐熱衝撃性を向上させる観点で望ましい。従って、F0-0.1の上限はそれぞれ50%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、10%以下であることが更により好ましく、0%とすることも可能である。
【0043】
F0.1-1.0は、高い方がセルの流路内を流れる流体がスリットを通じてハニカム構造部から抜け出て行くのを防止する観点で望ましい。従って、F0.1-1.0は20%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、60%以上であることが更により好ましい。F0.1-1.0は100%を超えることもあり得るが、高くなりすぎると基材形状が不均一となることから、その上限は120%以下であることが好ましく、110%以下であることがより好ましく、100%以下であることが更により好ましい。
【0044】
F0-0.1及びF0.1-1.0は以下の手順で測定する。各スリットの幅方向(=柱状ハニカム構造部の周方向)中央において、当該スリットの延びる方向(=セルの延びる方向)に平行な断面を観察し、充填材の高さプロファイルを得て、所定の座標範囲(F0-0.1の場合は0~0.1L、F0.1-1.0の場合は0.1L~1.0L)において充填材の外周輪郭(充填材内部の空隙は充填材の一部として認識する)に囲まれる領域がスリット内に占める面積率を平均充填率とする。
【0045】
一対の第一スリット117a及び一対の第二スリット117bのうち、少なくとも一つのスリットにおいて、好ましくは半分以上の数のスリットにおいて、より好ましくはすべてのスリットにおいて、座標値が0.1L~1.0Lの範囲における充填材119の平均深さ(単位:mm)をD0.1-1.0とすると、D0.1-1.0は、例えば0.5mm~3.0mmとすることができ、典型的には0.5mm~2.0mmとすることができる。更には0mmとすることもできる。なお、座標値の定義は先述した通りである。
【0046】
一対の第一スリット117a及び一対の第二スリット117bのうち、少なくとも一つのスリットにおいて、好ましくは半分以上の数のスリットにおいて、より好ましくはすべてのスリットにおいて、座標値が0~0.1Lの範囲における前記充填材の平均深さ(単位:mm)をD0-0.1とすると、D0-0.1は、例えば0mm~3.0mmとすることができ、典型的には0mm~0.5mmとすることができる。なお、座標値の定義は先述した通りである。
【0047】
D0-0.1は、F0-0.1を測定する際の断面において、座標値0~0.1Lにおける充填材の外周輪郭に囲まれる領域の面積を、座標値0~0.1Lにおける座標軸方向の長さで割ることで求める。
D0.1-1.0は、F0.1-1.0を測定する際の断面において、座標値0.1L~1.0Lにおける充填材の外周輪郭に囲まれる領域の面積を、座標値0.1L~1.0Lにおける座標軸方向の長さで割ることで求める。
【0048】
図2Aに示す実施形態に係るハニカム構造体110においては、一対の第一スリット117a及び一対の第二スリット117bの第一端面116近傍(例えば0~0.3Lの範囲)における充填材の平均充填率が低く(例えば0%)、その他の箇所(例えば0.3L~1.0L)における充填材の平均充填率は高い(例えば100%)。
図2Aに示す実施形態において、第一端面116近傍と第二端面118近傍で耐熱衝撃性を比較すると、第一端面116近傍の方が相対的に優れている。
【0049】
図2Aに示す実施形態に係るハニカム構造体110においては、第一端面116が流体の入口側であり、第二端面118が流体の出口側であってもよいし、第二端面118が流体の入口側であり、第一端面116が流体の出口側であってもよい。但し、高温のガスが流入する場合、流体の入口側において特に耐熱衝撃性が求められる。そこで、好ましい実施形態においては、第一端面116が流体の入口側であり、第二端面118が流体の出口側である。
【0050】
図2Bに示す実施形態に係るハニカム構造体110においては、一対の第一スリット117a及び一対の第二スリット117bの各スリットについて、第一端面116近傍と第二端面118近傍における充填材の平均充填率は同一であることが好ましく、それに加えてスリットの開口幅及び深さも同一であることがより好ましい。換言すれば、一つのスリットは、ハニカム構造体110の座標値0.5Lを中心としてセル115の延びる方向に対称に設けることが好ましい。
【0051】
更に
図2Bに示す実施形態に係るハニカム構造体110においては、一対の第一スリット117a及び一対の第二スリット117bのすべてのスリットについて、第一端面116近傍と第二端面118近傍における充填材の平均充填率が同一であることがより好ましく、それに加えてスリットの開口幅及びスリットの深さも同一であることがより好ましい。つまり、一対の第一スリット117a及び一対の第二スリット117bはすべて同じ形状、構造及び寸法であることが好ましい。
【0052】
図2Bに示す実施形態に係るハニカム構造体110によれば、ハニカム構造体110の座標値0.5Lを中心としてセル115の延びる方向に対称に各スリットが設けられている。このため、第一端面116を流体の入口とした場合と、第二端面118を流体の入口とした場合とで耐熱衝撃性の優劣を実質的になくすことが可能である。従って、
図2Bに示す実施形態に係るハニカム構造体110においては、第一端面116が流体の入口側であり、第二端面118が流体の出口側であってもよいし、第二端面118が流体の入口側であり、第一端面116が流体の出口側であってもよい。すなわち、
図2Bに示す実施形態に係るハニカム構造体110においては、流体の流れ方向に寄らず同じ耐熱衝撃性が得られる。そのため、例えばハニカム構造体を排ガスラインに設置する際の向きを気にする必要がなくなる。
【0053】
本発明の一実施形態に係るハニカム構造体110において、一対の第一スリット117a及び一対の第二スリット117bの溝部121の深さは、ハニカム構造部のセル115の延びる方向に直交する断面における半径の1~80%であることが好ましく、1~60%であることがより好ましく、1~30%であることが更により好ましい。一対の第一スリット117a及び一対の第二スリット117bの溝部121の深さが、当該半径の1%以上であると、スリットによる耐熱衝撃性の向上効果が得られやすい。一対の第一スリット117a及び一対の第二スリット117bの溝部121の深さが、当該半径の80%以下であると、一対の電極層112a、112b間を流れる電流の流れが一対の第一スリット117a及び一対の第二スリット117bによって大きく妨げられたり、均一な発熱が阻害されたりすることを抑制するのに有利である。
【0054】
一対の第一スリット117a及び一対の第二スリット117bのそれぞれの溝部121の深さは、ハニカム構造部のセル115の延びる方向に直交する断面において、深さの測定対象となるスリットの溝部121の底部Dの周方向中心位置からスリットの開口端Tの周方向中心位置までの距離を指す。ハニカム構造部のセル115の延びる方向に直交する断面における半径は、当該断面において、深さの測定対象となるスリットの溝部121の開口端Tの周方向中心位置から中心軸Oまでの距離を指す。第一スリット117a及び第二スリット117bの深さは、互いに異なっていてもよく、全て同一でもよい。
【0055】
一対の第一スリット117a及び一対の第二スリット117bはそれぞれ、セル115の延びる方向の座標値によって溝部121の深さが変化してもよいが、常に上述した深さ条件を満たすことが好ましく、深さが一定であることがより好ましい。つまり、一つのスリットにおいては上述した溝部の深さ条件を満たし、且つ、溝部の深さが一定であることがより好ましい。更には、一対の第一スリット117a及び一対の第二スリット117bのうちすべてのスリットの溝部の深さが同一であることがより好ましい。なお、溝部の深さが同一であるとは設計上の溝部の深さが同一であることを指し、製造上の寸法誤差(例:溝部の深さの最大値と最小値の差が1mm以内)があることは許容される。
【0056】
一対の第一スリット117a及び一対の第二スリット117bのそれぞれの開口幅は、ハニカム構造部のセル115の延びる方向に直交する断面における外周壁の外周長(以下、「ハニカム構造部の外周長」と称することがある。)の0.3~5%であることが好ましく、0.3~3%であることがより好ましく、0.3~1%であることが更により好ましい。開口幅が、ハニカム構造部の外周長の0.3%以上であることで、ハニカム構造体110の耐熱衝撃性の向上効果を高めることができる。開口幅が、ハニカム構造部の外周長の5%以下であることで、ハニカム構造体110のガスシール性が低下するのを抑制可能である。スリットの開口幅は、ハニカム構造部のセル115の延びる方向に直交する断面において、各スリットの開口端Tにおける溝部121の隙間の距離(直線距離)である。第一スリット117a及び第二スリット117bの開口幅は、互いに異なっていてもよく、全て同一でもよい。なお、開口幅が同一であるとは設計上の開口幅が同一であることを指し、製造上の寸法誤差(例:開口幅の最大値と最小値の差が1mm以内)があることは許容される。
【0057】
一対の第一スリット117a及び一対の第二スリット117bのそれぞれのセル115の延びる方向の長さは、互いに異なっていてもよく、全て同一でもよい。但し、耐熱衝撃性を向上させる上では、ハニカム構造部の第一端面116から第二端面118までのセル115の延びる方向の長さをLとすると、一対の第一スリット117a及び一対の第二スリット117bのそれぞれについて、セル115の延びる方向に延びる長さが0.8L以上であることが好ましく、0.9L以上であることがより好ましく、1.0L(すなわち、第一端面116から第二端面118まで延びて両端面に開口を有する。)であることが更により好ましい。なお、長さが同一であるとは設計上の長さが同一であることを指し、製造上の寸法誤差(例:長さの最大値と最小値の差が1mm以内)があることは許容される。
【0058】
<第三スリット>
ハニカム構造体110の耐熱衝撃性の向上効果を高めるために、一対の第一スリット117a及び一対の第二スリット117bに加えて、第一電極層112a及び第二電極層112bの間の外周壁114の露出した外表面(第一スリット117a及び一対の第二スリット117bを設置可能な箇所を除く)に開口し、セル115の延びる方向に延びる溝部121を有し、溝部121の全部が充填材によって充填されている第三スリット117cを少なくとも一つ更に設けることが好ましく、複数設けることがより好ましい。第三スリット117cの本数に上限はないが、複数設けるときは、中心軸Oを挟んで対向する位置に対をなして設けることが好ましい。第三スリット117cは
図1に示すように一対設けてもよいし、又は、複数対設けてもよい。但し、少なくとも一対の第三スリット117cは、
図1に示すように、外周壁114の露出した外表面の周方向中心に設けられることが好ましい。
【0059】
第三スリット117cが位置する箇所は、溝部121の全部が充填材によって充填されていても耐熱衝撃性を低下させる影響が小さい。このため、第三スリット117cの溝部121の全部に充填材119を十分に充填することが、耐熱衝撃性とガスシール性の両立を図る上で望ましい。従って、すべての第三スリット117cにおいて、F0-0.1及びF0.1-1.0が30%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、70%以上であることが更により好ましい。F0-0.1及びF0.1-1.0は100%を超えることもあり得るが、高くなりすぎると車両への搭載が困難であることから、100%以下であることが好ましい。F0-0.1及びF0.1-1.0の定義は先述した通りである。
【0060】
また、すべての第三スリット117cにおいて、D0-0.1及びD0.1-1.0を例えば0.5mm~3.0mmとすることができ、典型的には0.5mm~2.0mmとすることができる。D0-0.1及びD0.1-1.0の定義は先述した通りである。
【0061】
本発明の一実施形態に係るハニカム構造体110において、第三スリット117cの溝部121の深さは、ハニカム構造部のセル115の延びる方向に直交する断面における半径の1~80%であることが好ましく、1~60%であることがより好ましく、1~30%であることが更により好ましい。第三スリット117cの溝部121の深さが、当該半径の1%以上であると、スリットによる耐熱衝撃性の向上効果が得られやすい。第三スリット117cの溝部121の深さが、当該半径の80%以下であると、一対の電極層112a、112b間を流れる電流の流れが第三スリット117cによって大きく妨げられたり、均一な発熱が阻害されたりすることを抑制するのに有利である。
【0062】
第三スリット117cの溝部121の深さは、ハニカム構造部のセル115の延びる方向に直交する断面において、深さの測定対象となるスリットの溝部121の底部Dの周方向中心位置からスリットの開口端Tの周方向中心位置までの距離を指す。ハニカム構造部のセル115の延びる方向に直交する断面における半径は、当該断面において、深さの測定対象となるスリットの開口端Tの周方向中心位置から中心軸Oまでの距離を指す。第三スリット117cが複数設けられる場合、これらの溝部121の深さは、互いに異なっていてもよく、全て同一でもよい。
【0063】
一つの第三スリット117cは、セルの延びる方向の座標値によって深さが変化してもよいが、常に上述した深さ条件を満たすことが好ましく、深さが一定であることがより好ましい。第三スリット117cが複数設けられる場合は、すべての第三スリット117cの深さが同一であることがより好ましい。なお、深さが同一であるとは設計上の深さが同一であることを指し、製造上の寸法誤差(例:深さの最大値と最小値の差が1mm以内)があることは許容される。
【0064】
第三スリット117cの開口幅は、ハニカム構造部のセル115の延びる方向に直交する断面における外周壁の外周長(以下、「ハニカム構造部の外周長」と称することがある。)の0.3~5%であることが好ましく、0.3~3%であることがより好ましく0.3~1%であることが更により好ましい。開口幅が、ハニカム構造部の外周長の0.3%以上であることで、ハニカム構造体110の耐熱衝撃性の向上効果を高めることができる。開口幅が、ハニカム構造部の外周長の5%以下であることで、ハニカム構造体110のガスシール性が低下するのを抑制可能である。開口幅は、ハニカム構造部のセル115の延びる方向に直交する断面において、各スリットの開口端Tにおける溝部121の隙間の距離(直線距離)である。第三スリット117cが複数設けられる場合は、第三スリット117cの開口幅は、互いに異なっていてもよく、全て同一でもよい。なお、開口幅が同一であるとは設計上の開口幅が同一であることを指し、製造上の寸法誤差(例:開口幅の最大値と最小値の差が1mm以内)があることは許容される。
【0065】
複数の第三スリット117cのセル115の延びる方向の長さは、互いに異なっていてもよく、全て同一でもよい。但し、耐熱衝撃性を向上させる上では、ハニカム構造部の第一端面116から第二端面118までのセル115の延びる方向の長さをLとすると、第三スリット117cのセル115の延びる方向に延びる長さは0.8L以上であることが好ましく、0.9L以上であることがより好ましく、1.0L(すなわち、第一端面116から第二端面118まで延びて両端面に開口を有する。)であることが更により好ましい。なお、長さが同一であるとは設計上の長さが同一であることを指し、製造上の寸法誤差(例:長さの最大値と最小値の差が1mm以内)があることは許容される。
【0066】
<第四スリット>
ハニカム構造体110の耐熱衝撃性の向上効果を高めるために、一対の第一スリット117a及び一対の第二スリット117bに加えて、第一電極層112a及び/又は第二電極層112bの外表面に開口し、セル115の延びる方向に延びる溝部121を有し、溝部121の全部が充填材119によって充填されている第四スリット117dを少なくとも一つ更に設けることが好ましく、複数設けることがより好ましい。第四スリット117dの本数に制限はないが、複数設けるときは、中心軸Oを挟んで対向する位置に対をなして設けることが好ましい。第四スリット117dは
図1に示すように一対設けてもよいし、又は、複数対設けてもよい。但し、少なくとも一対の第四スリット117dは、
図1に示すように、第一電極層112a又は第二電極層112bの外表面の周方向中心に設けられることが好ましい。
【0067】
第四スリット117dが位置する箇所は、溝部121の全部が充填材によって充填されていても耐熱衝撃性を低下させる影響が小さい。このため、第四スリット117dの溝部121の全部に充填材119を十分に充填することが、耐熱衝撃性とガスシール性の両立を図る上で望ましい。従って、すべての第四スリット117dにおいて、F0-0.1及びF0.1-1.0が30%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、70%以上であることが更により好ましい。F0-0.1及びF0.1-1.0は100%を超えることもあり得るが、高くなりすぎると車両への搭載が困難であることから、その上限は、100%以下であることが好ましい。F0-0.1及びF0.1-1.0の定義は先述した通りである。
【0068】
また、すべての第四スリット117dにおいて、D0-0.1及びD0.1-1.0を例えば0.5mm~3.0mmとすることができ、典型的には0.5mm~2.0mmとすることができる。D0-0.1及びD0.1-1.0の定義は先述した通りである。
【0069】
本発明の一実施形態に係るハニカム構造体110において、第四スリット117dの溝部121の深さは、ハニカム構造部のセル115の延びる方向に直交する断面における半径の1~80%であることが好ましく、1~60%であることがより好ましく、1~30%であることが更により好ましい。第四スリット117dの溝部121の深さが、当該半径の1%以上であると、スリットによる耐熱衝撃性の向上効果が得られやすい。第四スリット117dの深さが、当該半径の80%以下であると、一対の電極層112a、112b間を流れる電流の流れが第四スリット117dによって大きく妨げられたり、均一な発熱が阻害されたりすることを抑制するのに有利である。
【0070】
第四スリット117dの溝部121の深さは、ハニカム構造部のセル115の延びる方向に直交する断面において、深さの測定対象となるスリットの溝部121の底部Dの周方向中心位置からスリットの開口端Tの周方向中心位置までの距離を指す。ハニカム構造部のセル115の延びる方向に直交する断面における半径は、当該断面において、深さの測定対象となるスリットの開口端Tの周方向中心位置から中心軸Oの距離を指す。第四スリット117dが複数設けられる場合、これらの溝部121の深さは、互いに異なっていてもよく、全て同一でもよい。
【0071】
一つの第四スリット117dは、セルの延びる方向の座標値によって深さが変化してもよいが、常に上述した深さ条件を満たすことが好ましく、深さが一定であることがより好ましい。第四スリット117dが複数設けられる場合は、すべての第四スリット117dの深さが同一であることがより好ましい。なお、深さが同一であるとは設計上の深さが同一であることを指し、製造上の寸法誤差(例:深さの最大値と最小値の差が1mm以内)があることは許容される。
【0072】
第四スリット117dの開口幅は、ハニカム構造部のセル115の延びる方向に直交する断面における外周壁の外周長(以下、「ハニカム構造部の外周長」と称することがある。)の0.3~5%であることが好ましく、0.3~3%であることがより好ましく、0.3~1%であることが更により好ましい。開口幅が、ハニカム構造部の外周長の0.3%以上であることで、ハニカム構造体110の耐熱衝撃性の向上効果を高めることができる。開口幅が、ハニカム構造部の外周長の5%以下であることで、ハニカム構造体110のガスシール性が低下するのを抑制可能である。開口幅は、ハニカム構造部のセル115の延びる方向に直交する断面において、各スリットの開口端Tにおける溝部121の隙間の距離(直線距離)である。複数の第四スリット117dの開口幅は、互いに異なっていてもよく、全て同一でもよい。なお、開口幅が同一であるとは設計上の開口幅が同一であることを指し、製造上の寸法誤差(例:開口幅の最大値と最小値の差が1mm以内)があることは許容される。
【0073】
複数の第四スリット117dのセル115の延びる方向の長さは、互いに異なっていてもよく、全て同一でもよい。但し、耐熱衝撃性を向上させる上では、ハニカム構造部の第一端面116から第二端面118までのセル115の延びる方向の長さをLとすると、第四スリット117dのセル115の延びる方向に延びる長さは0.8L以上であることが好ましく、0.9L以上であることがより好ましく、1.0L(すなわち、第一端面116から第二端面118まで延びて両端面に開口を有する。)であることが更により好ましい。なお、長さが同一であるとは設計上の長さが同一であることを指し、製造上の寸法誤差(例:長さの最大値と最小値の差が1mm以内)があることは許容される。
【0074】
<充填材>
第一スリット117a、第二スリット117b、第三スリット117c、及び第四スリット117dに充填材119を充填する場合、ハニカム構造部の熱膨張係数α1に対する、充填材119の熱膨張係数α2の比率(α2/α1)は、0.6~1.5であることが好ましい。これにより、充填材119がこれらのスリットに配設されていることに起因する、ハニカム構造部及び充填材119の破損を防止するのを抑制可能である。例えば、ハニカム構造部の熱膨張係数α1に対する、充填材119の熱膨張係数α2の比率(α2/α1)が、0.6未満であると、充填材の膨張不足により、ハニカム構造部に縦クラックが生じることがある。ハニカム構造部の熱膨張係数α1に対する、充填材119の熱膨張係数α2の比率(α2/α1)が、1.5超であると、充填材の膨張過剰により、ハニカム構造部の端面にクラックが生じることがある。以下、「ハニカム構造部の熱膨張係数α1に対する、充填材の熱膨張係数α2の比率(α2/α1)」のことを、「熱膨張係数比率(α2/α1)」ということがある。なお、ここでの熱膨張係数は、25℃~800℃の線膨張係数のことを意味する。
【0075】
ハニカム構造部及び充填材の熱膨張係数は、以下の方法にて測定することができる。まず、ハニカム構造体からハニカム構造部を切り出し、縦1mm×横3mm×長さ50mmの直方体状の測定試料(ハニカム構造部用試料)を作製する。また、ハニカム構造体のスリットに充填された充填材を切り出し、縦1mm×横3mm×長さ50mmの直方体状の測定試料(充填材用試料)を作製する。それぞれの測定試料は、ハニカム構造体のセルの延びる方向が、当該測定試料の長さ方向となるように、ハニカム構造体から切り出して作製する。具体的には、測定試料の長さが50mmとなる方向(長さ方向)が、ハニカム構造体のセルの延びる方向に相当する。測定試料の横3mmとなる方向(横方向)が、ハニカム構造体の側面の周方向に相当する。測定試料の縦1mmとなる方向(縦方向)が、ハニカム構造体の側面から内側に向かう方向に相当する。上述した大きさの測定試料の作製が困難な場合には、測定対象のハニカム構造体と同材質・同構造の測定用テストピースを別途作製し、作製した測定用テストピースから、それぞれの測定試料を切り出して作製してもよい。また、ハニカム構造体のセルの延びる方向の長さが短く、測定試料の長さが50mmを確保できない場合には、ハニカム構造体のセルの延びる方向に、予め熱膨張特性が判っている材質より作製した試料を補完的にあてがって、熱膨張係数の測定を行ってもよい。例えば、ハニカム構造体のセルの延びる方向の長さが25mmの場合には、長さが不足して25mm分の試料(熱膨張特性が判っているもの)をハニカム構造体にあてがって、熱膨張係数の測定を行うことが好ましい。作製したハニカム構造部用試料と充填材用試料とのそれぞれについて、JIS R1618:2002に準拠した方法により、25~800℃の熱膨張係数を測定する。25~800℃の熱膨張係数は、それぞれの測定試料の長さ方向について測定する。熱膨張計としては、BrukerAXS社製の「TD5000S(商品名)」を用いることができる。上記方法によって測定されたハニカム構造部用試料の熱膨張係数が、「ハニカム構造部の25~800℃の熱膨張係数α1」である。上記方法によって測定された充填材用試料の熱膨張係数が、「充填材の25~800℃の熱膨張係数α2」である。
【0076】
充填材119のヤング率の下限は、ハニカム構造体110のガスシール性を高める観点で、0.001GPa以上であることが好ましく、0.005GPa以上であることがより好ましく、0.01GPa以上であることが更により好ましい。充填材119のヤング率の上限は、ハニカム構造体110の耐熱衝撃性を高める観点で、20GPa以下であることが好ましく、15GPa以下であることがより好ましく、10GPa以下であることが更により好ましい。従って、充填材119のヤング率は、例えば、0.001~20GPaであることが好ましく、0.005~15GPaであることがより好ましく、0.01~10GPaであることが更により好ましい。
【0077】
充填材のヤング率は、JIS R1602-1995に準拠して、曲げ共振法によって測定した値である。ハニカム構造体のスリットに充填された充填材から、3mm×4mm×40mmの直方体の試験片を切り出し、当該試験片に対してヤング率の測定を行う。
【0078】
充填材119の気孔率の下限は、ハニカム構造体110の耐熱衝撃性を高める観点で、40%以上であることが好ましく、43%以上であることがより好ましく、45%以上であることが更により好ましい。充填材119の気孔率の上限は、ハニカム構造体110のガスシール性を高める観点で、80%以下であることが好ましく、70%以下であることがより好ましく、65%以下であることが更により好ましい。従って、充填材119の気孔率は、例えば、40~80%であることが好ましく、43~70%であることがより好ましく、45~65%であることが更により好ましい。充填材の気孔率は、水銀ポロシメータにより測定する。
【0079】
充填材119は骨材とネック材とを含有することができる。「ネック材」とは、骨材粒子の粒間に入って粒子同士を結合・固定化するもののことである。ネック材の材質については、特に制限はない。例えば、ネック材は、酸化珪素、金属酸化物、金属、及び金属化合物からなる群より選択される少なくとも一種を含むものであることが好ましい。ネック材の態様として、以下のような例を挙げることができる。ネック材は、酸化珪素及び金属酸化物のうちの一方又は両方を合計で50質量%以上含有するものであってもよく、合計で80質量%以上含有するものであってもよく、合計で90質量%以上含有するものであってもよく、合計で実質的に100質量%含有するものであってもよい。ネック材を構成する金属酸化物としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化マグネシウムを挙げることができる。
【0080】
充填材119は、ネック材を2~90質量%を含むことが好ましく、ネック材を3~50質量%を含むことが更に好ましく、ネック材を5~25質量%を含むことが特に好ましい。充填材119の残部は実質的にすべて骨材で構成することができる。ネック材が2質量%未満であると、充填材119の強度が低下することがある。ネック材が90質量%超であると、充填材119の熱膨張係数が上昇することがある。また、ネック材が過剰量であると、充填材119の強度が低下することがある。
【0081】
骨材の材質についても特に制限はないが、骨材に含まれる好ましい成分としては、炭化珪素、コージェライト、アルミニウムチタネート、タルク、マイカ、及びリチウムアルミニウムチタネート、モンモリロナイト、タルク、ベーマイト、フォルステライト、カオリン、ムライトからなる群から選択される少なくとも1種の成分を挙げることができる。骨材は、上述した群から選択される少なくとも1種の成分を、合計で10~100質量%含むことが好ましく、合計で50~97質量%含むことが更に好ましく、合計で75~95質量%含むことが特に好ましい。複数種類の骨材を混合して使用してもよい。
【0082】
充填材119は、外周壁114及び隔壁113の主成分が炭化珪素、又は金属珪素-炭化珪素複合材である場合、炭化珪素を20質量%以上含有することが好ましく、20~50質量%含有することが更に好ましい。これにより、充填材119の熱膨張係数を、ハニカム構造部の熱膨張係数に近い値にすることができ、ハニカム構造体の耐熱衝撃性を向上させることができる。この場合、充填材119は、酸化珪素、酸化アルミニウム等の金属酸化物を50質量%以上含有することができる。
【0083】
(1-2.金属端子)
金属端子130は、一対の電極層112a、112bのそれぞれの外表面に直接又は間接的に接合されている。金属端子130を介してハニカム構造体110に電圧を印加すると通電してジュール熱によりハニカム構造体110を発熱させることが可能である。このため、ハニカム構造体110はヒーターとしても好適に用いることができる。これにより、ハニカム構造体110の均一加熱性を向上させることが可能となる。印加する電圧は12~900Vが好ましく、48~600Vが更に好ましいが、印加する電圧は適宜変更可能である。
【0084】
金属端子130と電極層112a、112bは直接接合してもよいが、電極層112a、112bと金属端子130の間の熱膨張差を緩和して金属端子130の接合信頼性を向上する目的で、一層又は二層以上の下地層120を介して接合してもよい。従って、好ましい実施形態において、ハニカム構造体110は外周壁114上に、ハニカム構造体110の中心軸O(重心)を挟んで対向するように配設された第一電極層112a及び第二電極層112bを有しており、各電極層112a、112bには下地層120を介して、一つ又は複数の金属端子130が接合される。
【0085】
熱膨張率は金属端子130→(下地層120)→電極層112a、112b→外周壁114の順に段階的に小さくすることが、接合信頼性を向上する観点で好ましい。なお、ここでの「熱膨張率」は、25℃から800℃まで変化させたときのJIS R1618:2002に従って測定される線膨張係数を意味する。
【0086】
金属端子130の材質としては、金属であれば特段の制約はなく、単体金属及び合金等を採用することもできるが、耐食性、体積抵抗率及び線膨張率の観点から例えば、Cr、Fe、Co、Ni及びTiよりなる群から選択される少なくとも一種を含む合金とすることが好ましく、ステンレス鋼及びFe-Ni合金がより好ましい。金属端子130の数、形状及び大きさは、特に限定されず、ハニカム構造体110の大きさや通電性能等に応じて、適宜設計することができる。
【0087】
下地層120の材質は、限定的ではないが、金属とセラミックス(とりわけ導電性セラミックス)との複合材(サーメット)を使用することができる。下地層120の熱膨張率は、例えば、金属とセラミックスの配合比を調整することで制御可能である。
【0088】
下地層120は、限定的ではないが、Ni基合金、Fe基合金、Ti基合金、Co基合金、金属珪素、及びCrから選択される一種又は二種以上の金属を含有することが好ましい。
【0089】
下地層120は、限定的ではないが、アルミナ、ムライト、ジルコニア、ガラス及びコージェライト等の酸化物系セラミックス、並びに、炭化珪素、窒化珪素及び窒化アルミ等の非酸化物系セラミックスから選択される一種又は二種以上のセラミックスを含有することが好ましい。
【0090】
下地層120の厚みは、特に制限はないが、クラック抑制の観点からは0.1~1.5mmであることが好ましく、0.3~0.5mmであることがより好ましい。下地層120の厚みは、厚みを測定しようとする下地層120をセルの延びる方向に垂直な断面で観察したときに、当該測定箇所における下地層120の外表面の接線に対する法線方向の厚みとして定義される。
【0091】
金属端子130と電極層112a、112b又は下地層120の接合方法には、特に制限はないが、例えば、溶射、溶接及びロウ付が挙げられる。
【0092】
(2.排ガス浄化装置)
本発明の一実施形態に係る電気加熱型担体は、排ガス浄化装置に用いることができる。
図3を参照すると、排ガス浄化装置200は、電気加熱型担体100と、当該電気加熱型担体100を収容する金属管220とを有する。電気加熱型担体100の金属端子130には給電のための電線240を接続することができる。金属管220を構成する金属としては限定的ではないが、クロム系ステンレス鋼を始めとする各種ステンレス鋼等を挙げることができる。これらの金属を使用することで、高い耐熱性と耐腐食性を有する排ガス浄化装置となる。
【0093】
排ガス浄化装置200において、電気加熱型担体100は、自動車排ガス等の流体の流路の途中に設置することができる。電気加熱型担体100は、例えば、セルの延びる方向と金属管220の延びる方向が一致する位置関係で金属管220内に押し込んで嵌合させる押し込みキャニングによって、金属管220内に固定することができる。金属管220と電気加熱型担体100の間には保持材(マット)260を配設することが好ましい。保持材(マット)260を構成する素材は限定的ではないが、アルミナファイバー、ムライトファイバー、アルミナ-シリカを主成分とするセラミックスファイバー等のセラミックスが挙げられる。
【0094】
(3.製造方法)
次に、本発明の一実施形態に係る電気加熱型担体を製造する方法について例示的に説明する。電気加熱型担体は、ハニカム成形体を得る工程1と、電極層形成ペースト付き未焼成ハニカム構造体を得る工程2と、スリットを形成する工程3と、スリットに充填材用原料を充填する工程4と、充填材用原料充填済み未焼成ハニカム構造体を焼成してハニカム構造体を得る工程5と、電極層に金属端子を接合する工程6とを含む製造方法により製造可能である。
【0095】
(工程1)
工程1は、ハニカム構造体の前駆体であるハニカム成形体を作製する工程である。ハニカム成形体の作製は、公知のハニカム構造体の製造方法におけるハニカム成形体の作製方法に準じて行うことができる。例えば、まず、炭化珪素粉末(炭化珪素)に、金属珪素粉末(金属珪素)、バインダ、界面活性剤、造孔材、水等を添加して成形原料を作製する。炭化珪素粉末の質量と金属珪素粉末の質量との合計に対して、金属珪素粉末の質量が10~40質量%となるようにすることが好ましい。炭化珪素粉末における炭化珪素粒子の平均粒子径は、3~50μmが好ましく、3~40μmがより好ましい。金属珪素粉末における金属珪素粒子の平均粒子径は、2~35μmであることが好ましい。炭化珪素粒子及び金属珪素粒子の平均粒子径はレーザー回折法で粒度の頻度分布を測定したときの、体積基準による算術平均径を指す。炭化珪素粒子は、炭化珪素粉末を構成する炭化珪素の微粒子であり、金属珪素粒子は、金属珪素粉末を構成する金属珪素の微粒子である。なお、これは、ハニカム構造体の材質を、珪素-炭化珪素系複合材とする場合の成形原料の配合であり、ハニカム構造体の材質を炭化珪素とする場合には、金属珪素は添加しない。
【0096】
バインダとしては、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。これらの中でも、メチルセルロースとヒドロキシプロポキシルセルロースとを併用することが好ましい。バインダの含有量は、炭化珪素粉末及び金属珪素粉末の合計質量を100質量部としたときに、2.0~10.0質量部であることが好ましい。
【0097】
界面活性剤としては、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリアルコール等を用いることができる。これらは、一種単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。界面活性剤の含有量は、炭化珪素粉末及び金属珪素粉末の合計質量を100質量部としたときに、0.1~2.0質量部であることが好ましい。
【0098】
造孔材としては、焼成後に気孔となるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、グラファイト、澱粉、発泡樹脂、吸水性樹脂、シリカゲル等を挙げることができる。造孔材の含有量は、炭化珪素粉末及び金属珪素粉末の合計質量を100質量部としたときに、0.5~10.0質量部であることが好ましい。造孔材の平均粒子径は、10~30μmであることが好ましい。造孔材の平均粒子径はレーザー回折法で粒度の頻度分布を測定したときの、体積基準による算術平均径を指す。造孔材が吸水性樹脂の場合には、造孔材の平均粒子径は吸水後の平均粒子径のことである。
【0099】
水の含有量は、炭化珪素粉末及び金属珪素粉末の合計質量を100質量部としたときに、20~60質量部であることが好ましい。
【0100】
次に、得られた成形原料を混練して坏土を形成した後、坏土を押出成形して、外周壁及び隔壁を有する柱状のハニカム成形体を作製する。押出成形に際しては、所望の全体形状、セル形状、隔壁厚み、セル密度等を有する口金を用いることができる。次に、得られたハニカム成形体について、乾燥を行うことが好ましい。ハニカム成形体の中心軸方向長さが、所望の長さではない場合は、ハニカム成形体の両端部を切断して所望の長さとすることができる。乾燥後のハニカム成形体をハニカム乾燥体と呼ぶ。
【0101】
工程1の変形例として、ハニカム成形体を一旦焼成してもよい。すなわち、この変形例では、ハニカム成形体を焼成してハニカム焼成体を作製し、当該ハニカム焼成体に対して工程2を実施する。
【0102】
(工程2)
工程2は、ハニカム成形体の側面に電極層形成ペーストを塗布して、電極層形成ペースト付き未焼成ハニカム構造体を得る工程である。電極層形成ペーストは、電極層の要求特性に応じて配合した原料粉(金属粉末、及び、セラミックス粉末等)に各種添加剤を適宜添加して混練することで形成することができる。原料粉の平均粒子径は、限定的ではないが、例えば、5~50μmであることが好ましく、10~30μmであることがより好ましい。原料粉の平均粒子径はレーザー回折法で粒度の頻度分布を測定したときの、体積基準による算術平均径を指す。
【0103】
次に、得られた電極層形成ペーストを、ハニカム成形体(典型的にはハニカム乾燥体)の側面の所要箇所に塗布し、電極層付き未焼成ハニカム構造体を得る。電極層形成ペーストを調合する方法、及び電極層形成ペーストをハニカム成形体に塗布する方法については、公知のハニカム構造体の製造方法に準じて行うことができるが、電極層を外周壁及び隔壁に比べて低い体積抵抗率にするために、外周壁及び隔壁よりも金属の含有比率を高めたり、原料粉中の金属粒子の粒径を小さくしたりすることができる。塗布後、電極層形成ペーストを乾燥させることが好ましい。
【0104】
(工程3)
工程3は、電極層付き未焼成ハニカム構造体の側面に、当該側面に開口するスリットを形成する工程である。スリットは、リューター等を使用して形成することが好ましい。スリットは、電極層形成ペースト付き未焼成ハニカム構造体の側面に開口するように形成する。電極層形成ペースト付き未焼成ハニカム構造体の側面は、外周壁が露出している外表面と、電極層形成ペーストの外表面に分類される。電極層付き未焼成ハニカム構造体の側面に形成するスリットの位置、幅、長さ、深さ、数等は、上述したハニカム構造体に形成されるスリットに関して述べた通りである。
【0105】
(工程4)
工程4は、電極層付き未焼成ハニカム構造体の側面に形成されたスリットに、充填材用原料を充填する工程である。工程4では、まず、充填材用原料を調製する。充填材用原料は、上述した充填材を作製するための原料である。例えば、充填材用原料は、骨材、ネック材、バインダ、界面活性剤、造孔材、水等を混合して得られた混合物を混練して得ることができる。充填材用原料は、スラリー状のものであることが好ましい。骨材及びネック材は、ハニカム構造体の実施形態を説明した際に述べた通りである。充填材用原料を調製する際、好ましい骨材及びネック材を選択して使用することができる。
【0106】
充填材用原料中の骨材の含有比率、及び充填材用原料中のネック材の含有比率は、ハニカム構造体の実施形態を説明した際に述べた通りである。骨材の含有比率及びネック材の含有比率は、充填材用原料を調製する段階で、適宜、好ましい数値範囲となるように調節することができる。骨材の平均粒子径は、300μm以下であることが好ましく、1~150μmであることが好ましく、2~50μmであることが好ましい。ネック材の平均粒子径は、300μm以下であることが好ましく、1~150μmであることが好ましく、2~50μmであることが好ましい。骨材及びネック材の平均粒子径はレーザー回折法で粒度の頻度分布を測定したときの、体積基準による算術平均径を指す。
【0107】
充填材用原料に用いるバインダとしては、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、グリセリン等を挙げることができる。これらの中でも、メチルセルロースとヒドロキシプロポキシルセルロースとを併用することが好ましい。バインダの含有量は、骨材及びネック材の合計質量を100質量部としたときに、0~25質量部であることが好ましい。
【0108】
水の含有量は、骨材及びネック材の合計質量を100質量部としたときに、15~75質量部であることが好ましい。
【0109】
充填材用原料に用いる界面活性剤としては、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリアルコール等を用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。界面活性剤の含有量は、骨材及びネック材の合計質量を100質量部としたときに、0~15質量部であることが好ましい。
【0110】
充填材用原料に用いる造孔材としては、焼成後に気孔となるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、グラファイト、澱粉、発泡樹脂、吸水性樹脂、シリカゲル等を挙げることができる。造孔材の含有量は、骨材及びネック材の合計質量を100質量部としたときに、0~85質量部であることが好ましい。造孔材の平均粒子径は、3~150μmであることが好ましい。3μmより小さいと、気孔を十分形成できないことがある。150μmより大きいと、大気孔ができやすくなり、強度低下を起こすことがある。造孔材の平均粒子径はレーザー回折法で粒度の頻度分布を測定したときの、体積基準による算術平均径を指す。
【0111】
電極層付き未焼成ハニカム構造体の側面に形成されたスリットに、充填材用原料を充填する方法については特に制限はないが、シリンジ等を用いて、充填材用原料をスリットに充填する方法を挙げることができる。このような方法によれば、スリット内に充填材用原料を均等に充填することができ、また、スリットへの充填材用原料の充填率も容易に変化させることが可能である。勿論、充填材用原料を、箆(へら)等を用いてスリット内に充填してもよい。
【0112】
充填材用原料充填済み未焼成ハニカム構造体に対して、乾燥を行うことが好ましい。乾燥理条件は例えば、大気雰囲気にて、50~100℃の温度で2~12時間とすることができる。
【0113】
(工程5)
工程5は、充填材用原料充填済み未焼成ハニカム構造体を焼成してハニカム構造体を得る工程である。焼成前に、バインダ等を除去するため、脱脂を行ってもよい。脱脂及び焼成の方法は特に限定されず、電気炉、ガス炉等を用いて焼成することができる。焼成条件としては、ハニカム構造体の材質にもよるが、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気において、1400~1500℃で、1~20時間加熱することが好ましい。
【0114】
(工程6)
工程6は、電極層に金属端子を接合する工程である。接合方法としては、特に制限はないが、例えば、溶射、溶接及びロウ付が挙げられる。電極層と金属端子との接合性を向上させる点から、溶射等の方法により下地層を形成してもよい。
【0115】
電気加熱型担体には用途に応じて適切な触媒を担持してもよい。ハニカム構造体に触媒を担持させる方法としては、例示的には、触媒スラリーを、従来公知の吸引法等によりセル内に導入し、隔壁の表面や細孔に付着させた後、高温処理を施して、触媒スラリーに含まれる触媒を隔壁に焼き付けて、担持する方法が挙げられる。
【実施例0116】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を例示するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0117】
<試験番号1>
(1.円柱状の坏土の作製)
炭化珪素(SiC)粉末と金属珪素(Si)粉末とを80:20の質量割合で混合してセラミックス原料を調製した。そして、セラミックス原料に、バインダとしてヒドロキシプロピルメチルセルロース、造孔材として吸水性樹脂を添加すると共に、水を添加して成形原料とした。そして、成形原料を真空土練機により混練し、円柱状の坏土を作製した。バインダの含有量は炭化珪素(SiC)粉末と金属珪素(Si)粉末の合計を100質量部としたときに7質量部とした。造孔材の含有量は炭化珪素(SiC)粉末と金属珪素(Si)粉末の合計を100質量部としたときに3質量部とした。水の含有量は炭化珪素(SiC)粉末と金属珪素(Si)粉末の合計を100質量部としたときに42質量部とした。炭化珪素粉末の平均粒子径は20μmであり、金属珪素粉末の平均粒子径は6μmであった。また、造孔材の平均粒子径は20μmであった。炭化珪素粉末、金属珪素粉末及び造孔材の平均粒子径は、レーザー回折法で粒度の頻度分布を測定したときの、体積基準による算術平均径を指す。
【0118】
(2.ハニカム乾燥体の作製)
得られた円柱状の坏土を所定の口金構造を有する押出成形機を用いて成形し、セルの延びる方向に垂直な断面における各セル形状が六角形である円柱状のハニカム成形体を得た。このハニカム成形体を高周波誘電加熱乾燥した後、熱風乾燥機を用いて120℃で2時間乾燥し、両端面を所定量切断して、ハニカム乾燥体を作製した。
【0119】
(3.電極層形成ペーストの調製)
金属珪素(Si)粉末、炭化珪素(SiC)粉末、メチルセルロース、グリセリン、及び水を、自転公転攪拌機で混合して、電極層形成ペーストを調製した。Si粉末、及びSiC粉末は体積比で、Si粉末:SiC粉末=40:60となるように配合した。また、Si粉末、及びSiC粉末の合計を100質量部としたときに、メチルセルロースは0.5質量部であり、グリセリンは10質量部であり、水は38質量部であった。金属珪素粉末の平均粒子径は6μmであった。炭化珪素粉末の平均粒子径は35μmであった。これらの平均粒子径はレーザー回折法で粒度の頻度分布を測定したときの、体積基準による算術平均径を指す。
【0120】
(4.電極層形成ペーストの塗布)
上記の電極層形成ペーストを上記のハニカム乾燥体の外周壁の外表面上に中心軸を挟んで対向するように、曲面印刷機によって二箇所塗布した。各塗布部は、ハニカム乾燥体の両端面間の全長に亘って帯状に形成した(角度θ=180°、中心角α=127°)。次に、ハニカム乾燥体に塗布した電極層形成ペーストを乾燥させて、電極層付き未焼成ハニカム乾燥体を得た。乾燥温度は、70℃とした。
【0121】
(5.スリットの形成)
次に、電極層付き未焼成ハニカム乾燥体の側面に、セルの延びる方向に第一端面から第二端面まで延び、ハニカム乾燥体の中心軸Oに向かう方向の深さを有するスリットを8本形成した。8本のスリットは一対の第一スリット、一対の第二スリット、一対の第三スリット、一対の第四スリットに分類される。各スリットは、リューターを用いて形成した。
【0122】
(6.充填材用原料の調製)
充填材用原料を調製した。まず、シリカ(酸化珪素)からなるネック材と、炭化珪素からなる骨材、コージェライトからなる骨材を混合した。以下、炭化珪素からなる骨材を、「SiC骨材」ということがある。コージェライトからなる骨材を、「Cd骨材」ということがある。ネック材とSiC骨材とCd骨材とは、質量比が12:6:82(ネック材:SiC骨材:Cd骨材)となるように混合した。これに、バインダ(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、保湿剤(グリセリン)、分散剤(界面活性剤)、造孔材を添加すると共に、水を添加して、混合した。混合物を縦型の撹拌機で混練して充填材用原料とした。バインダの含有量は、ネック材とSiC骨材とCd骨材の合計を100質量部としたときに、1.0質量部とした。グリセリンの含有量は、ネック材とSiC骨材とCd骨材の合計を100質量部としたときに、4.0質量部とした。界面活性剤の含有量は、ネック材とSiC骨材とCd骨材の合計を100質量部としたときに、0.3質量部とした。造孔材の含有量は、ネック材とSiC骨材とCd骨材の合計を100質量部としたときに、6.7質量部とした。水の含有量は、ネック材とSiC骨材とCd骨材の合計を100質量部としたときに、34.5質量部とした。充填材用原料に用いたSiC骨材の平均粒子径は、3μmであった。充填材用原料に用いたCd骨材の平均粒子径は、8μmであった。充填材用原料に用いた造孔材の平均粒子径は、20μmであった。ネック材、SiC骨材、Cd骨材及び造孔材の平均粒子径は、レーザー回折法で粒度の頻度分布を測定したときの、体積基準による算術平均径を指す。
【0123】
次に、得られた充填材用原料を、上記で作製した電極層付き未焼成ハニカム乾燥体のスリット内に充填して、充填材用原料充填済み未焼成ハニカム乾燥体を得た。充填材用原料を充填する際には、充填材用原料をシリンジ内に導入し、このシリンジを用いて、スリット内に充填(注入)した。一対の第一スリット及び一対の第二スリットについては、電極層付き未焼成ハニカム乾燥体の第一端面からセルの延びる方向の長さの10%までの領域を除き、スリットの溝部が完全に充填材で満たされるように充填材を充填した。一対の第三スリット及び一対の第四スリットについては、セルの延びる方向の長さ全体にわたってスリットの溝部が完全に充填材で満たされるように充填材を充填した。
【0124】
(7.焼成)
充填材用原料充填済み未焼成ハニカム乾燥体を、大気雰囲気下で乾燥した後、550℃で3時間、大気雰囲気下で脱脂した。次に、脱脂した充填材用原料充填済み未焼成ハニカム乾燥体を1450℃で2時間、大気雰囲気下で焼成し、円柱状の導電性ハニカム構造体を得た。なお、導電性ハニカム構造体は下記の試験に必要な数を作製した。
【0125】
(8.ハニカム構造体の仕様)
上記の製造条件で得られたハニカム構造体は、端面が直径93mm(電極層を除く)の円形であり、高さ(セルの延びる方向における長さ)が100mmであった。セル密度は90セル/cm2であり、外周壁の厚みは300μmであり、隔壁の厚みは90mmであり、隔壁の気孔率は45%であり、隔壁の平均細孔径は8.6μmであった。電極層の厚みは0.3mmであった。充填材の気孔率は60%であった。
【0126】
上記の製造条件で得られたハニカム構造体について、隔壁及び外周壁の体積抵抗率は四端子法により25℃で測定したときに100Ωcmであった。電極層の体積抵抗率は四端子法により25℃で測定したときに1.3Ωcmであった。
【0127】
上記の製造条件で得られたハニカム構造体のハニカム構造部及び充填材について、先述した測定方法に従い、25~800℃の熱膨張係数を測定した。ハニカム構造部の熱膨張係数(α1)は4.7×10-6/Kであった。充填材の熱膨張係数(α2)は4.8×10-6/Kであった。従って、熱膨張係数比率(α2/α1)は1.021であった。
【0128】
上記の製造条件で得られたハニカム構造体の充填材について、先述した測定方法に従い、充填材のヤング率を求めたところ、1.7GPaであった。
【0129】
上記の製造条件で得られたハニカム構造体について、形成された8本のスリットの設置箇所及び寸法は以下の通りのである。
(1)一対の第一スリット
周方向:第一電極層の周方向両端から周方向にそれぞれ10mm以内の外周壁が露出している外表面(開口幅(直線距離)は約1.1mm)
セルの延びる方向:第一端面から第二端面まで(ハニカム構造体の高さに等しく、両端面に開口を有する。)
深さ方向:約3.0mm
(2)一対の第二スリット
周方向:第二電極層の周方向両端から周方向にそれぞれ10mm以内の外周壁が露出している外表面(開口幅(直線距離)は約1.1mm)
セルの延びる方向:第一端面から第二端面まで(ハニカム構造体の高さに等しく、両端面に開口を有する。)
深さ方向:約3.0mm
(3)一対の第三スリット
周方向:外周壁の露出した外表面の周方向中心(開口幅(直線距離)は約1.1mm)
セルの延びる方向:第一端面から第二端面まで(ハニカム構造体の高さに等しく、両端面に開口を有する。)
深さ方向:約3.0mm
(4)一対の第四スリット
周方向:第一電極層(又は第二電極層)の外表面の周方向中心(開口幅(直線距離)は約1.1mm)
セルの延びる方向:第一端面から第二端面まで(ハニカム構造体の高さに等しく、両端面に開口を有する。)
深さ方向:約3.0mm
【0130】
また、上記の製造条件で得られたハニカム構造体について、先述した測定方法に従い、一対の第一スリット、一対の第二スリット、一対の第三スリット、及び一対の第四スリットのセルの延びる方向における所定の座標値範囲における平均充填率(F0-0.1、F0.1-1.0)を求めた。また、これに基づき、F0-0.1/F0.1-1.0を求めた。更に、充填材の平均深さ(D0-0.1、D0.1-1.0)を先述した測定方法に従って求めた。結果を表1に示す。
【0131】
<試験番号2>
一対の第一スリット及び一対の第二スリットについて、電極層付き未焼成ハニカム乾燥体の第一端面からセルの延びる方向の長さの40%までの領域を除き、スリットの溝部が完全に充填材で満たされるように充填材を充填した。その他は、試験番号1と同一の製造条件でハニカム構造体を得た。表1に充填材の条件を示す。
【0132】
<試験番号3>
一対の第一スリット及び一対の第二スリットについて、電極層付き未焼成ハニカム乾燥体の第一端面からセルの延びる方向の長さの70%までの領域を除き、スリットの溝部が完全に充填材で満たされるように充填材を充填した。その他は、試験番号1と同一の製造条件でハニカム構造体を得た。表1に充填材の条件を示す。
【0133】
<試験番号4(比較例)>
一対の第一スリット及び一対の第二スリットについて、電極層付き未焼成ハニカム乾燥体のスリットの溝部が完全に充填材で満たされるように充填材を充填した。その他は、試験番号1と同一の製造条件としてハニカム構造体を得た。表1に充填材の条件を示す。
【0134】
【0135】
(7.耐熱衝撃性のシミュレーション)
各試験番号に係るハニカム構造体のモデルを作製し、所定の走行モードでの排ガスを流した時の外周壁及び電極層に発生する最大応力値を、ANSYS社の有限要素法解析ソフトウェアによってシミュレーションした。シミュレーションの条件は以下である。
・走行モード:ハニカム構造体の中心部の温度を高温域(800℃~1000℃)まで昇温させた後に中温域(500℃~700℃)、低温域(100℃~200℃)まで段階的に降温させる。
・排ガス温度:100℃~820℃
・排ガス流量:10g/s~90g/s
排ガスは第一端面が入口側になるようにハニカム構造体に流した。結果を表2に示す。
-:基準(試験番号4)
△:基準の応力値よりも低く、減少割合が5%以下
〇:基準の応力値に対する減少割合が5%よりも大きく、10%以下
【0136】
<8.ガスシール性>
各試験番号に係るハニカム構造体に対して、第一スリット、第二スリット及び第二端面の中心部(半径2mmの円)を除く全面をマスキングテープでマスキングし、第二端面の前記中心部を配管に接続し、真空ポンプによって18L/minの流量で真空引きした。その時に真空計が示す圧力値で序列をつけた。結果を表2に示す。
-:基準(試験番号4)
〇:基準比よりも圧力値が高いが、増加割合が10%以上50%未満
△:基準比よりも圧力値が高いが、増加割合が50%以上90%未満
【0137】
【0138】
<V.考察>
試験番号4はスリットを充填材で完全に満たしたことで、ガスシール性は優れているが耐熱衝撃性は不十分であった。これに対して、試験番号1~3は、ガスシール性と耐熱衝撃性が共に優れていた。特に、試験番号2は、スリットを充填材で充填する際の充填条件が好適であったことで、耐熱衝撃性及びガスシール性を高次元で両立することができた。