(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143855
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】ハニカム構造体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 38/00 20060101AFI20241003BHJP
C04B 38/06 20060101ALI20241003BHJP
C04B 35/195 20060101ALI20241003BHJP
B28B 3/26 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C04B38/00 303Z
C04B38/06 D
C04B35/195
B28B3/26 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056768
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】元木 浩二
(72)【発明者】
【氏名】林 広晃
【テーマコード(参考)】
4G019
4G054
【Fターム(参考)】
4G019FA12
4G019FA13
4G054AA06
4G054AB09
4G054BD19
(57)【要約】
【課題】結晶性のコージェライトの特徴である優れた耐熱衝撃性を生かしながら、パティキュレートに対する高い捕集効率と低い圧損性能をより高い次元で両立することのできる、ハニカム構造体を提供する。
【解決手段】ハニカム構造体であって、ハニカム構造体の内部を通過し、多孔質隔壁によって区画される複数のセルチャンネルを有し、主結晶相であるコージェライトを80.0~94.0質量%と、副結晶相に含まれるセリアとを含有し、多孔質隔壁は、水銀圧入法により測定される気孔率が60%以上であり、多孔質隔壁は、水銀圧入法により測定される体積基準の累積細孔径分布において、小細孔側からの累積10%細孔径(D10)、累積50%細孔径(D50)及び累積90%細孔径(D90)が、(D90-D10)/D50≦1.2の関係を満たす、ハニカム構造体。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハニカム構造体であって、
ハニカム構造体の内部を通過し、多孔質隔壁によって区画される複数のセルチャンネルを有し、
主結晶相であるコージェライトを80.0~94.0質量%と、副結晶相に含まれるセリアとを含有し、
多孔質隔壁は、水銀圧入法により測定される気孔率が60%以上であり、
多孔質隔壁は、水銀圧入法により測定される体積基準の累積細孔径分布において、小細孔側からの累積10%細孔径(D10)、累積50%細孔径(D50)及び累積90%細孔径(D90)が、(D90-D10)/D50≦1.2の関係を満たす、
ハニカム構造体。
【請求項2】
多孔質隔壁の累積50%細孔径(D50)が、10~20μmである請求項1に記載のハニカム構造体。
【請求項3】
多孔質隔壁の累積10%細孔径(D10)が、8μm以上、且つ累積90%細孔径(D90)が、34μm以下である請求項1に記載のハニカム構造体。
【請求項4】
副結晶相がムライト、スピネル、サフィリン及びクリストバライトより選択される一種又は二種以上の化合物を更に含有する請求項1又は2に記載のハニカム構造体。
【請求項5】
セリアと、ムライト、スピネル、サフィリン及びクリストバライトより選択される一種又は二種以上の化合物との合計含有率が4.0~20.0質量%である請求項4に記載のハニカム構造体。
【請求項6】
セリアの含有率が0.5~5.0質量%である請求項1又は2に記載のハニカム構造体。
【請求項7】
セリアの含有率が0.5~5.0質量%である請求項5に記載のハニカム構造体。
【請求項8】
セルチャンネルの延びる方向における40℃~800℃の線膨張係数が0.6×10-6/K~2.0×10-6/Kである請求項1又は2に記載のハニカム構造体。
【請求項9】
ハニカム構造体の製造方法であって、
コージェライト化原料、セリア、分散媒、造孔材及びバインダーを含有する原料組成物を混練して坏土を形成した後、当該坏土を押出成形することにより、ハニカム成形体であって、ハニカム成形体の内部を通過し、多孔質隔壁によって区画される複数のセルチャンネルを有するハニカム成形体を得る工程と、
前記ハニカム成形体を焼成する工程と、
を含み、
前記焼成する工程は、焼成時の最高温度をX(℃)とし、最高温度での保持時間をY(hr)とし、前記ハニカム成形体中のコージェライト化原料100質量部に対するセリアの含有量をZ(質量部)とすると、
160≦(X-1345)×Y×(Z+0.5)2≦7680
が成立するように実施する製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハニカム構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン等の内燃機関から排出される排ガスには、環境汚染の原因となる炭素を主成分とするパティキュレート(粒子状物質)が多量に含まれている。そのため、一般的にディーゼルエンジン等の排気系には、パティキュレートを捕集するためのフィルタ(Diesel Particulate Filter:DPF)が搭載されている。また近年ではガソリンエンジンから排出されるパティキュレートも問題視されており、ガソリンエンジンにもフィルタ(Gasoline Particulate Filter:GPF)が搭載されるようになってきている。
【0003】
このようなフィルタにはハニカム構造体が利用されていることが多い。また、ハニカム構造体を構成する材料としては、耐熱衝撃性の高さからコージェライトが多用されている。コージェライトを主成分とする多孔質ハニカム構造体は、コージェライト化原料、分散媒、造孔材、バインダー及び各種添加剤を適宜加えて得られた原料組成物を混練し、坏土とした後、所定の口金を介して押出成形することで、ハニカム形状の成形体(ハニカム成形体)を作製し、このハニカム成形体を乾燥した後に焼成することで製造することが出来る。
【0004】
従来、コージェライトを主成分とするハニカム構造体においては、低熱膨張による耐熱衝撃性確保や高強度化という点において、高いコージェライト結晶量(相)を有することが求められており、原料組成や焼成条件が種々検討されてきた(特許文献1~3)。
【0005】
また、ハニカム構造体の性能を左右するパラメータの一つとして、気孔率及び細孔径分布が知られている。そして、気孔率及び細孔径分布を制御することで、機械的強度、熱膨張係数等の向上や排ガスを流した時の圧力損失を低下させる技術が開発されてきた(特許文献4~8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-207978号公報
【特許文献2】特開平6-263528号公報
【特許文献3】特表2002-530262号公報
【特許文献4】特表2009-542570号公報
【特許文献5】特表2019-506289号公報
【特許文献6】国際公開第2016/152236号
【特許文献7】国際公開第2013/047908号
【特許文献8】特開2018-030105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、高いコージェライト結晶量(相)を有するハニカム構造体においては、パティキュレートに対する高い捕集効率と低い圧損性能の両立という観点で未だ改善の余地があり、更なる性能向上が求められる。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、一実施形態において、結晶性のコージェライトの特徴である優れた耐熱衝撃性を生かしながら、パティキュレートに対する高い捕集効率と低い圧損性能をより高い次元で両立することのできる、ハニカム構造体を提供することを課題とする。また、本発明は別の一実施形態において、そのようなハニカム構造体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、マグネシア源、シリカ源及びアルミナ源の複数原料から合成(焼成)されるコージェライト結晶は、細孔径分布がブロードとなりやすく、このことが原因でパティキュレートに対する高い捕集効率と低い圧損性能の両立を妨げていることを見出した。本発明は当該知見に基づいて完成したものであり、以下に例示される。
【0010】
[態様1]
ハニカム構造体であって、
ハニカム構造体の内部を通過し、多孔質隔壁によって区画される複数のセルチャンネルを有し、
主結晶相であるコージェライトを80.0~94.0質量%と、副結晶相に含まれるセリアとを含有し、
多孔質隔壁は、水銀圧入法により測定される気孔率が60%以上であり、
多孔質隔壁は、水銀圧入法により測定される体積基準の累積細孔径分布において、小細孔側からの累積10%細孔径(D10)、累積50%細孔径(D50)及び累積90%細孔径(D90)が、(D90-D10)/D50≦1.2の関係を満たす、
ハニカム構造体。
[態様2]
多孔質隔壁の累積50%細孔径(D50)が、10~20μmである態様1に記載のハニカム構造体。
[態様3]
多孔質隔壁の累積10%細孔径(D10)が、8μm以上、且つ累積90%細孔径(D90)が、34μm以下である態様1又は2に記載のハニカム構造体。
[態様4]
副結晶相がムライト、スピネル、サフィリン及びクリストバライトより選択される一種又は二種以上の化合物を更に含有する態様1~3の何れかに記載のハニカム構造体。
[態様5]
セリアと、ムライト、スピネル、サフィリン及びクリストバライトより選択される一種又は二種以上の化合物との合計含有率が4.0~20.0質量%である態様4に記載のハニカム構造体。
[態様6]
セリアの含有率が0.5~5.0質量%である態様1~5の何れかに記載のハニカム構造体。
[態様7]
セルチャンネルの延びる方向における40℃~800℃の線膨張係数が0.6×10-6/K~2.0×10-6/Kである態様1~6の何れかに記載のハニカム構造体。
[態様8]
ハニカム構造体の製造方法であって、
コージェライト化原料、セリア、分散媒、造孔材及びバインダーを含有する原料組成物を混練して坏土を形成した後、当該坏土を押出成形することにより、ハニカム成形体であって、ハニカム成形体の内部を通過し、多孔質隔壁によって区画される複数のセルチャンネルを有するハニカム成形体を得る工程と、
前記ハニカム成形体を焼成する工程と、
を含み、
前記焼成する工程は、焼成時の最高温度をX(℃)とし、最高温度での保持時間をY(hr)とし、前記ハニカム成形体中のコージェライト化原料100質量部に対するセリアの含有量をZ(質量部)とすると、
160≦(X-1345)×Y×(Z+0.5)2≦7680
が成立するように実施する製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一実施形態によれば、結晶性のコージェライトの特徴である優れた耐熱衝撃性を生かしながら、パティキュレートに対する高い捕集効率と低い圧損性能をより高い次元で両立することが可能となる。よって、当該ハニカム構造体は高性能が要求されるフィルタとして好適に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】ウォールスルー型のハニカム構造体を模式的に示す斜視図である。
【
図2】ウォールスルー型のハニカム構造体をセルの延びる方向に平行な断面で観察したときの模式的な断面図である。
【
図3】ウォールフロー型の柱状ハニカム構造体を模式的に示す斜視図である。
【
図4】ウォールフロー型の柱状ハニカム構造体をセルの延びる方向に平行な断面から観察したときの模式的な断面図である。
【
図5】スキージ方式による目封止部の形成方法の一例を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に本発明の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0014】
(1.ハニカム構造体)
本発明の一実施形態に係るハニカム構造体は、ハニカム構造体の内部を通過し、多孔質隔壁によって区画される複数のセルチャンネルを有する。当該ハニカム構造体は一実施形態において、ウォールスルー型又はウォールフロー型の柱状ハニカム構造体として提供される。当該ハニカム構造体の用途は特に制限はない。例示的には、ヒートシンク、フィルタ(例:GPF、DPF)、触媒担体、摺動部品、ノズル、熱交換器、電気絶縁用部材及び半導体製造装置用部品といった種々の産業用途に使用される。中でも、内燃機関、ボイラー等からの排ガス中に含まれる粒子状物質を捕集するフィルタや、排ガス浄化用触媒の触媒担体として好適に利用可能である。とりわけ、当該ハニカム構造体は、自動車用排ガスフィルタ及び/又は触媒担体として好適に利用可能である。
【0015】
図1及び
図2には、ウォールスルー型のハニカム構造体100の模式的な斜視図及び断面図がそれぞれ例示されている。このハニカム構造体100は、外周側壁102と、外周側壁102の内周側に配設され、第一底面104から第二底面106まで流体の流路(セルチャンネル)を形成する複数のセル108を区画形成する多孔質隔壁112とを備える。このハニカム構造体100においては、各セル108の両端が開口しており、第一底面104から一つのセル108に流入した排ガスは、当該セルを通過する間に浄化され、第二底面106から流出する。なお、ここでは第一底面104を排ガスの上流側とし、第二底面106を排ガスの下流側としたが、第一底面及び第二底面の区別は便宜上のものであり、第二底面106を排ガスの上流側とし、第一底面104を排ガスの下流側としてもよい。
【0016】
図3及び
図4には、ウォールフロー型のハニカム構造体200の模式的な斜視図及び断面図がそれぞれ例示されている。このハニカム構造体200は、外周側壁202と、外周側壁202の内周側に配設され、第一底面204から第二底面206まで流体の流路(セルチャンネル)を形成する複数のセル208a、208bを区画形成する多孔質隔壁212とを備える。ハニカム構造体200において、複数のセル208a、208bは、外周側壁202の内側に配設され、第一底面204から第二底面206まで延び、第一底面204が開口して第二底面206に目封止部209を有する複数の第1セル208aと、外周側壁202の内側に配設され、第一底面204から第二底面206まで延び、第一底面204に目封止部209を有し、第二底面206が開口する複数の第2セル208bに分類することができる。そして、このハニカム構造体200においては、第1セル208a及び第2セル208bが多孔質隔壁212を挟んで交互に隣接配置されている。
【0017】
ハニカム構造体200の上流側の第一底面204にスス等の粒子状物質を含む排ガスが供給されると、排ガスは第1セル208aに導入されて第1セル208a内を下流に向かって進む。第1セル208aは下流側の第二底面206に目封止部209を有するため、排ガスは第1セル208aと第2セル208bを区画する多孔質隔壁212を透過して第2セル208bに流入する。粒子状物質は多孔質隔壁212を通過できないため、第1セル208a内に捕集され、堆積する。粒子状物質が除去された後、第2セル208bに流入した清浄な排ガスは第2セル208b内を下流に向かって進み、下流側の第二底面206から流出する。なお、ここでは第一底面204を排ガスの上流側とし、第二底面206を排ガスの下流側としたが、第一底面及び第二底面の区別は便宜上のものであり、第二底面206を排ガスの上流側とし、第一底面204を排ガスの下流側としてもよい。
【0018】
ハニカム構造体の底面形状に制限はないが、例えば円形状、楕円形状、レーストラック形状及び長円形状等のラウンド形状、三角形状及び四角形状等の多角形状、並びに、その他の異形形状とすることができる。図示のハニカム構造体は、底面形状が円形状であり、全体として円柱状である。
【0019】
ハニカム構造体の高さ(第一底面から第二底面までの長さ)は特に制限はなく、用途や要求性能に応じて適宜設定すればよい。ハニカム構造体の高さは、例えば40mm~450mmとすることができる。ハニカム構造体の高さと各底面の最大径(ハニカム構造体の各底面の重心を通る径のうち、最大長さを指す)の関係についても特に制限はない。従って、ハニカム構造体の高さが各底面の最大径よりも長くてもよいし、ハニカム構造体の高さが各底面の最大径よりも短くてもよい。
【0020】
ハニカム構造体の多孔質隔壁は、圧力損失という観点から、水銀圧入法により測定される気孔率の下限が60%以上であることが好ましく、62%以上であることがより好ましい。また、多孔質隔壁は、ハニカム構造体の機械的強度という観点から、水銀圧入法により測定される気孔率の上限が70%以下であることが好ましく、68%以下であることがより好ましい。従って、多孔質隔壁は、水銀圧入法により測定される気孔率が例えば60~70%であることが好ましく、62~68%であることがより好ましい。本明細書において「気孔率」は、JIS R1655:2003に規定される水銀圧入法によって測定される。また、気孔率は、多孔質ハニカム構造体の6箇所から偏りなく多孔質隔壁の試料(それぞれ0.3g)を採取してそれぞれの気孔率を求めたときの平均値を測定値とする。
【0021】
また、多孔質隔壁の細孔径分布がシャープであることは、パティキュレートに対する高い捕集効率と低い圧損性能をより高い次元で両立させる上で望ましい。具体的には、多孔質隔壁は、水銀圧入法により測定される体積基準の累積細孔径分布において、小細孔側からの累積10%細孔径(D10)、累積50%細孔径(D50)及び累積90%細孔径(D90)が、(D90-D10)/D50≦1.2の関係を満たすことが好ましく、(D90-D10)/D50≦1.1の関係を満たすことがより好ましく、(D90-D10)/D50≦1.0の関係を満たすことが更により好ましい。(D90-D10)/D50の下限は0であるが、製造容易性の観点から、0.5≦(D90-D10)/D50を満たすことが通常であり、0.8≦(D90-D10)/D50であるのが典型的である。従って、多孔質隔壁は、例えば0.5≦(D90-D10)/D50≦1.2を満たすことができ、好ましくは0.8≦(D90-D10)/D50≦1.1を満たすことができる。
【0022】
従来、多孔質隔壁が上述したような高気孔率を有しており、結晶性のコージェライトを高比率で含有する場合、このようなシャープな細孔径分布を得ることは、困難であった。コージェライト結晶は焼成時に出来る細孔を制御する事が難しいために細孔径分布がブロードになりやすいという理由に加え、コージェライト化原料の粒子間の隙間に由来する細孔制御が難しいという理由による。しかしながら、結晶性のコージェライトの含有率を少し低く設定し、セリアを添加し、且つ、製造方法に後述するような工夫を付与したことで、このようなシャープの細孔径分布を得ることができる。これにより、結晶性のコージェライトの特徴である優れた耐熱衝撃性を生かしながら、パティキュレートに対する高い捕集効率と低い圧損性能をより高い次元で両立することが可能となる。
【0023】
本明細書において、多孔質隔壁のD10、D50及びD90は、水銀ポロシメータによりJIS R1655:2003に規定される水銀圧入法によって測定される。水銀圧入法とは、試料を真空状態で水銀中に浸漬した状態で均等圧を加え、圧力を徐々に上昇させながら水銀を試料中に圧入し、圧力と細孔内に圧入された水銀の容量から細孔径分布を算出する方法である。圧力を徐々に上昇させると、径の大きい細孔から順に水銀が圧入され水銀の累積容量が増加し、最終的に全ての細孔が水銀で満たされると、累積容量は平衡量に達する。このときの累積容量が全細孔容積(cm3/g)である。そして、小細孔側から全細孔容積の10%の容積の水銀が圧入された時点の細孔径が累積10%細孔径(D10)であり、小細孔側から全細孔容積の50%の容積の水銀が圧入された時点の細孔径が累積50%細孔径(D50)であり、小細孔側から全細孔容積の90%の容積の水銀が圧入された時点の細孔径が累積90%細孔径(D90)である。
【0024】
ハニカム構造体の6箇所から偏りなく多孔質隔壁の試料(それぞれ0.3g)を採取してそれぞれの細孔径分布を測定してD10、D50及びD90を求め、平均値を測定値とする。
【0025】
多孔質隔壁の累積50%細孔径(D50)は用途に応じて適切な範囲に設定することが望ましい。例えば、フィルタ用途としてハニカム構造体を使用する場合、多孔質隔壁のD50は20μm以下であることが好ましく、18μm以下であることがより好ましい。多孔質隔壁のD50が上記範囲であることにより、粒子状物質の捕集効率が有意に向上する。また、多孔質隔壁のD50は10μm以上であることが好ましく、12μm以上であることがより好ましい。多孔質隔壁のD50が上記範囲であることにより、圧力損失の上昇を抑制することができる。従って、多孔質隔壁のD50は、例えば、10~20μmであることが好ましく、12~18μmであることがより好ましい。
【0026】
同様に、多孔質隔壁の累積10%細孔径(D10)及び累積90%細孔径(D90)も用途に応じて適切な範囲に設定することが望ましい。例えば、フィルタ用途としてハニカム構造体を使用する場合、D10が8μm以上、且つ、D90が34μm以下であることが好ましく、D10が9μm以上、且つ、D90が32μm以下であることがより好ましく、D10が10μm以上、且つ、D90が30μm以下であることが更により好ましい。D10及びD90をこのような範囲に制御することは、パティキュレートに対する高い捕集効率と低い圧損性能をより高い次元で両立させる上で有利である。
【0027】
ハニカム構造体は、細孔径分布をシャープにするという観点から、主結晶相であるコージェライト(2MgO・2Al2O3・5SiO2)の含有率が80.0質量%以上であることが好ましく、82.0質量%以上であることがより好ましい。但し、主結晶相であるコージェライトの含有率が高すぎても細孔径分布をシャープにすることが難しくなる。このため、当該ハニカム構造体は、主結晶相であるコージェライトの含有率が94.0質量%以下であることが好ましく、90.0質量%以下であることがより好ましい。従って、当該ハニカム構造体は、例えば、主結晶相であるコージェライトの含有率が、80.0~94.0質量%であることが好ましく、82.0~90.0質量%であることがより好ましい。
【0028】
ハニカム構造体(特に外周側壁及び隔壁)は、細孔径分布をシャープにするという観点から、セリアを副結晶相中に含有することが好ましい。更に、細孔径分布をシャープにするという観点から、副結晶相は、ムライト、スピネル、サフィリン及びクリストバライトより選択される一種又は二種以上の化合物を含有することが好ましい。ハニカム構造体(特に外周側壁及び隔壁)中の、セリアと、ムライト、スピネル、サフィリン及びクリストバライトより選択される一種又は二種以上の化合物との合計含有率の下限は、細孔径分布をシャープにするという観点から、4.0質量%以上であることが好ましく、6.0質量%以上であることがより好ましく、8.0質量%以上であることが更により好ましい。ハニカム構造体(特に外周側壁及び隔壁)中の、セリアと、ムライト、スピネル、サフィリン及びクリストバライトより選択される一種又は二種以上の化合物との合計含有率の上限は、捕集性能の観点から、20.0質量%以下であることが好ましく、18.5質量%以下であることがより好ましく、17.5質量%以下であることが更により好ましい。従って、一実施形態において、ハニカム構造体(特に外周側壁及び隔壁)中の、セリアと、ムライト、スピネル、サフィリン及びクリストバライトより選択される一種又は二種以上の化合物の合計含有率は、4.0~20.0質量%であることが好ましく、6.0~18.5質量%であることがより好ましく、8.0~17.5質量%であることが更により好ましい。
【0029】
ハニカム構造体(特に外周側壁及び隔壁)中の、セリアの含有率の下限は、細孔径分布をシャープにするという観点から、0.5質量%以上であることがより好ましく、1.0質量%以上であることが更により好ましい。ハニカム構造体(特に外周側壁及び隔壁)中の、セリアの含有率の上限は、捕集性能の観点から、5.0質量%以下であることが好ましく、4.0質量%以下であることがより好ましい。従って、一実施形態において、ハニカム構造体(特に外周側壁及び隔壁)中の、セリアの含有率は、0.5~5.0質量%であることが好ましく、1.0~4.0質量%であることがより好ましい。
【0030】
ハニカム構造体中の主結晶相であるコージェライト、及び、副結晶相に含まれるセリア等の化合物の含有率は、以下の方法によって測定される。
多孔質隔壁のサンプルを、ハニカム構造体の高さ方向中央の径方向中心及び外周付近の2箇所から試料(3.0g)を1個ずつ採取し、それぞれ粉砕して測定試料を作製する。各測定試料に対して、CuのKα線を用いたX線回折法により2θ=8~100°の範囲のX線解析測定を行い、リートベルト解析プログラムRIETANを用いて解析し、コージェライト、セリア、ムライト、スピネル、サフィリン、クリストバライトのそれぞれの質量含有率を求める。そして、二つの測定試料における各化合物の質量含有率の平均値を各化合物の質量含有率とし、各化合物の含有率の平均値の合計を合計含有率とする。
【0031】
ハニカム構造体のセルチャンネルの延びる方向における40℃~800℃の線膨張係数は、低いことが好ましい。例えば、本発明の一実施形態に係るハニカム構造体は、十分なコージェライト結晶量が確保されていることにより、0.6×10-6/K~2.0×10-6/K、典型的には0.6×10-6/K~1.8×10-6/Kの範囲の当該線膨張係数を有することができる。線膨張係数は、JIS R1618:2002に従って測定される。
【0032】
ハニカム構造体の線膨張係数を測定するためのサンプルは以下の手順で採取する。ハニカム構造体から3mm×3mm×20mm(セルの延びる方向の長さ)の大きさの角柱状サンプルをハニカム構造部の径方向及び高さ方向の中心部から切り出す。当該サンプルに対して上述した温度変化条件で線膨張係数を測定し、測定値とする。
【0033】
ハニカム構造体における隔壁の平均厚みは、強度確保の観点から152μm以上であることが好ましく、178μm以上であることがより好ましく、203μm以上であることが更により好ましい。また、隔壁の平均厚みは圧力損失を抑制するという観点から305μm以下であることが好ましく、279μm以下であることがより好ましく、254μm以下であることが更により好ましい。従って、隔壁の平均厚みは、例えば、152~305μmであることが好ましく、178~279μmであることがより好ましく、203~254μmであることが更により好ましい。隔壁の厚みは、セルの延びる方向(ハニカム構造体の高さ方向)に直交する断面において、隣接するセルの重心同士を線分で結んだときに当該線分が隔壁を横切る長さを指す。隔壁の平均厚みは、すべての隔壁の厚みの平均値を指す。
【0034】
一実施形態において、第一底面及び第二底面の目封止部は共に、目封止部の平均深さが2~8mmである。目封止部の平均深さが2mm以上であることで目封止部の強度を確保することができる。目封止部の平均深さは好ましくは3mm以上である。また、目封止部の平均深さが8mm以下であることで、セル内で粒子状物質を捕集する隔壁の面積が小さくなるのを防止できる。目封止部の平均深さは好ましくは7mm以下である。目封止部のセルの延びる方向の深さを各底面について任意の20箇所測定し、その平均値を各底面における目封止部の平均深さとする。
【0035】
ハニカム構造体のセル密度(単位断面積当たりのセルの数)については特に制限はなく、例えば6~2000セル/平方インチ(0.9~311セル/cm2)、好ましくは50~1000セル/平方インチ(7.8~155セル/cm2)、より好ましくは100~600セル/平方インチ(15.5~92.0セル/cm2)とすることができる。ここで、セル密度は、セルの全数(目封止されたセルを含む。)を、ハニカム構造体の外周側壁を除く一方の底面積で割ることにより算出される。
【0036】
ハニカム構造体を触媒担体として使用する場合、隔壁の表面に目的に応じた触媒をコーティングすることができる。触媒としては、限定的ではないが、炭化水素(HC)及び一酸化炭素(CO)を酸化燃焼させて排気ガス温度を高めるための酸化触媒(DOC)、スス等のPMの燃焼を補助するPM燃焼触媒、窒素酸化物(NOx)を除去するためのSCR触媒及びNSR触媒、並びに、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)及び窒素酸化物(NOx)を同時に除去可能な三元触媒が挙げられる。触媒は、例えば、貴金属(Pt、Pd、Rh等)、アルカリ金属(Li、Na、K、Cs等)、アルカリ土類金属(Mg、Ca、Ba、Sr等)、希土類(Ce、Sm、Gd、Nd、Y、La、Pr等)、遷移金属(Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Sc、Ti、Zr、V、Cr等)等を適宜含有することができる。
【0037】
(2.製造方法)
本発明の一実施形態に係るハニカム構造体の製造方法を以下に例示的に説明する。まず、コージェライト化原料、分散媒、造孔材及びバインダーを含有する原料組成物を混練して坏土を形成した後、当該坏土を押出成形することにより、ハニカム成形体であって、ハニカム成形体の内部を通過し、多孔質隔壁によって区画される複数のセルチャンネルを有するハニカム成形体を得る。ハニカム成形体は、外周側壁と、外周側壁の内周側に配置され、第一底面から第二底面まで延び、第一底面及び第二底面が共に開口部を有することができる。原料組成物中には分散剤や他のセラミックス原料等の添加剤を必要に応じて配合してもよい。押出成形に際しては、所望の全体形状、セル形状、隔壁厚み、セル密度等を有する口金を用いることができる。
【0038】
コージェライト化原料とは、焼成によりコージェライトとなる原料であり、例えば粉末の形態で提供することができる。例えば、タルク、アルミナ、水酸化アルミニウム及びシリカ等を適切な割合で配合して使用することができる。コージェライト化原料は、アルミナ(Al2O3)(アルミナに変換される水酸化アルミニウムの分を含む):30~45質量%、マグネシア(MgO):11~17質量%及びシリカ(SiO2):42~57質量%の化学組成を有することが望ましい。
【0039】
また、細孔径分布をシャープにするという観点及び比較的低温でのコージェライト結晶の生成を促進するという観点から、原料組成物中には焼結助剤としてセリアを添加することが好ましい。従って、原料組成物又はハニカム成形体中のセリアの含有量の下限は、コージェライト化原料100質量部に対して、0.5質量部以上であることが好ましく、1.0質量部以上であることがより好ましい。原料組成物又はハニカム成形体中のセリアの含有量の上限は、コージェライト化原料100質量部に対して、捕集性能の観点から、5.0質量部以下であることが好ましく、4.0質量部以下であることがより好ましい。従って、一実施形態において、原料組成物又はハニカム成形体中のセリアの含有量は、コージェライト化原料100質量部に対して、0.5~5.0質量部であることが好ましく、1.0~4.0質量部であることがより好ましい。なお、ハニカム成形体中のコージェライト化原料100質量部に対するセリアの含有量は後述するZ(質量部)に等しい。
【0040】
原料組成物に添加するセリアは、ハニカム構造体の隔壁及び外周側壁における細孔径分布をシャープにする効果を高めるという観点から、レーザー回折・散乱法により求めた体積基準の累積粒度分布におけるメジアン径(D50)の上限が10μm以下であることが好ましく、8μm以下であることがより好ましく、6μm以下であることが更により好ましい。また、原料組成物に添加するセリアは、凝集による内部欠陥が発生するという観点から、レーザー回折・散乱法により求めた体積基準の累積粒度分布におけるメジアン径(D50)の下限が0.1μm以上であることが好ましく、0.3μm以上であることがより好ましく、0.5μm以上であることが更により好ましい。従って、例えば、原料組成物に添加するセリアのメジアン径(D50)は、0.1~10μmであることが好ましく、0.3~8μmであることがより好ましく、0.5~6μmであることが更により好ましい。
【0041】
分散媒としては、水、又は水とアルコール等の有機溶媒との混合溶媒等を挙げることができるが、特に水を好適に用いることができる。
【0042】
乾燥工程が実施される前のハニカム成形体の分散媒の含有量は、コージェライト化原料100質量部に対して、20~110質量部であることが好ましく、25~100質量部であることがより好ましく、30~90質量部であることが更により好ましい。ハニカム成形体の分散媒の含有量が、コージェライト化原料100質量部に対して、20質量部以上であることで、ハニカム構造体の品質が安定し易いという利点が得られやすい。ハニカム成形体の分散媒の含有量が、コージェライト化原料100質量部に対して、110質量部以下であることで、乾燥時の収縮量が小さくなり、変形を抑制することができる。本明細書において、ハニカム成形体の分散媒の含有量は、乾燥減量法により測定される値を指す。
【0043】
造孔材としては、焼成後に気孔となるものであれば、特に限定されず、例えば、小麦粉、澱粉、発泡樹脂、吸水性樹脂、シリカゲル、炭素(例:グラファイト)、セラミックスバルーン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエステル、アクリルポリマー、フェノール等を挙げることができる。造孔材は、1種類を単独で使用するものであっても、2種類以上を組み合わせて使用するものであってもよい。造孔材の含有量は、焼成後のハニカム構造体の気孔率を高めるという観点からは、コージェライト化原料100質量部に対して3質量部以上であることが好ましく、6質量部以上であるのがより好ましく、9質量部以上であるのが更により好ましい。造孔材の含有量は、焼成後のハニカム構造体の強度を確保するという観点からは、コージェライト化原料100質量部に対して30質量部以下であることが好ましく、27質量部以下であるのがより好ましく、24質量部以下であるのが更により好ましい。セリアを添加すると気孔率が低下しやすいので、同じ気孔率を達成するのに必要な造孔材はセリアを添加しない場合に比べて多くなる傾向にある。
【0044】
バインダーとしては、メチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等の有機バインダーを例示することができる。また、バインダーの含有量は、焼成前のハニカム成形体の強度を高めるという観点から、コージェライト化原料100質量部に対して4質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であることがより好ましく、6質量部以上であることが更により好ましい。バインダーの含有量は、焼成工程での異常発熱によるキレ発生を抑制する観点から、コージェライト化原料100質量部に対して9質量部以下であることが好ましく、8質量部以下であることがより好ましく、7質量部以下であることが更により好ましい。バインダーは、1種類を単独で使用するものであっても、2種類以上を組み合わせて使用するものであってもよい。
【0045】
分散剤には、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリエーテルポリオール等を用いることができる。分散剤は、1種類を単独で使用するものであっても、2種類以上を組み合わせて使用するものであってもよい。分散剤の含有量は、コージェライト化原料100質量部に対して0~5質量部であることが好ましい。
【0046】
ハニカム成形体の乾燥は、例えば、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等の従来公知の乾燥方法を用いることができる。これらの中でも、ハニカム成形体全体を迅速かつ均一に乾燥することができる点で、熱風乾燥と、マイクロ波乾燥又は誘電乾燥とを組み合わせた乾燥方法が好ましい。
【0047】
目封止部を備えたハニカム構造体を製造する場合には、ハニカム成形体又は当該成形体を乾燥した乾燥体の所定のセルの開口部を、目封止材によって目封止してもよい。それぞれの目封止部は、第1セル及び第2セルの目封止部を形成すべき開口部に目封止部形成用スラリーを充填し、その後、充填された当該スラリーを乾燥及び焼成する方法で形成することができる。目封止部形成用スラリーは、公知の組成に従って調合すればよいが、例えばコージェライト化原料、分散媒、造孔材及びバインダーを含有することができる。目封止部形成用スラリーは、セリアを含有してもよい。
【0048】
例示的には、目封止部形成用スラリーは、コージェライト化原料100質量部に対して、分散媒を30~60質量部、造孔材を5~20質量部、バインダーを0.2~2.0質量部含有する。好ましい実施形態において、目封止部形成用スラリーは、コージェライト化原料100質量部に対して、分散媒を35~50質量部、造孔材を8~16質量部、バインダーを0.2~1.5質量部含有する。
【0049】
分散媒としては、水、又は水とアルコール等の有機溶媒との混合溶媒等を挙げることができるが、特に水を好適に用いることができる。
【0050】
造孔材としては、焼成後に気孔となるものであれば、特に限定されず、例えば、小麦粉、澱粉、発泡樹脂、吸水性樹脂、シリカゲル、炭素(例:グラファイト)、セラミックスバルーン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエステル、アクリル樹脂、フェノール等を挙げることができる。造孔材は、1種類を単独で使用するものであっても、2種類以上を組み合わせて使用するものであってもよい。
【0051】
バインダーとしては、メチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等の有機バインダーを例示することができる。バインダーは、1種類を単独で使用するものであっても、2種類以上を組み合わせて使用するものであってもよい。
【0052】
目封止部形成用スラリーは適宜分散剤を含有してもよい。分散剤は、例えば、コージェライト化原料100質量部に対して、0~2.0質量部含有することができる。分散剤としては、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、及びポリアルコール等を列挙することができる。分散剤は、1種類を単独で使用するものであっても、2種類以上を組み合わせて使用するものであってもよい。
【0053】
目封止部形成用スラリーのセルの開口部への充填は、例えば以下の「スキージ方式」で実施することができる。
図5に示すように、チャック120を用いて固定された乾燥後のハニカム成形体500の上側の底面(ここでは図中の第二底面106)にフィルム121を貼着し、当該フィルム121に目封止部の配設条件(例えば、「市松模様」等)に対応する位置にレーザーを照射し、フィルム121に複数の孔126を穿設する。
【0054】
その後、フィルム121の上に目封止部形成用スラリー124を載せ、スキージ122をフィルム121に沿って
図5における矢印方向に移動させる操作を行う。これにより、フィルム121の孔126に対応する位置に開口したセル125に一定量の目封止部形成用スラリー124が充填される。
【0055】
目封止部の深さは、スキージ122の移動操作の回数、スキージ122とフィルム121との間の接触角度、スキージ122のフィルム121に対する押付圧力、及び、目封止部形成用スラリー124の粘度等によって変化させることが可能である。
【0056】
目封止部形成用スラリー124の充填後は、フィルム121を剥がし、ハニカム成形体500全体を乾燥する。これにより、セル125に充填された目封止部形成用スラリー124が乾燥し、焼成前の目封止部が形成される。乾燥は、例えば、100~230℃の乾燥温度で60~100秒程度の条件で実施することができる。乾燥後、目封止部はフィルムの厚み分だけハニカム成形体の底面から突出するので、必要に応じて削り取ることができる。
【0057】
フィルムの材料は、特に制限はないが、孔を形成するための熱加工が容易であるため、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド、又はテフロン(登録商標)であることが好ましい。また、フィルムは粘着層を備えていることが好ましく、粘着層の材料は、アクリル系樹脂、ゴム系(例えば、天然ゴム又は合成ゴムを主成分とするゴム)、又はシリコン系樹脂であることが好ましい。フィルムは、例えば厚みが20~50μmの粘着フィルムを好適に使用することができる。
【0058】
上記「スキージ方式」以外に、目封止部形成用スラリーをセルの開口部へ充填する方法としては、「圧入方式」が挙げられる。「圧入方式」は、フィルムを貼着し、孔を穿けたハニカム成形体の底面部を、目封止部形成用スラリーを溜めた液槽に浸し、セルに目封止部形成用スラリーを充填する方法である。この場合、目封止部の深さは、ハニカム成形体を目封止部形成用スラリーに浸す深さによって変化させることができる。
【0059】
必要に応じて目封止部形成用スラリーが充填されたハニカム成形体はこの後、脱脂工程及び焼成工程を受け、これによりハニカム構造体が製造される。バインダーの燃焼温度は200℃程度、造孔材の燃焼温度は300~1000℃程度である。従って、脱脂工程はハニカム成形体を200~1000℃程度の範囲に加熱して実施すればよい。加熱時間は特に限定されないが、通常は、10~100時間程度である。脱脂工程を経た後のハニカム成形体は仮焼体と称される。
【0060】
焼成工程は、焼成時の最高温度をX(℃)とし、最高温度での保持時間をY(hr)とし、ハニカム成形体中のコージェライト化原料100質量部に対するセリアの含有量をZ(質量部)とすると、必要なコージェライト結晶量を確保しつつも細孔径分布をシャープにするため、(式1)が成立するように実施することが好ましく、(式2)が成立するように実施することがより好ましく、(式3)が成立するように実施することが更により好ましい。
160≦(X-1345)×Y×(Z+0.5)2≦7680 ・・・(式1)
160≦(X-1345)×Y×(Z+0.5)2≦4840 ・・・(式2)
160≦(X-1345)×Y×(Z+0.5)2≦3720 ・・・(式3)
焼成工程は、仮焼体に対して実施することが好ましい。
ムライト、スピネル、サフィリン及びクリストバライトは、原料組成物中に添加する必要はなく、上記条件で焼成する時に適量が副生成し、副結晶相を構成する。
【0061】
X(℃)は、細孔径分布をシャープするという観点から、1430以下であることが好ましく、1400以下であることがより好ましく、1380以下であることが更により好ましい。X(℃)は、コージェライト結晶の生成を促進するという観点から、1345以上であることが好ましく、1350以上であることがより好ましく、1355以上であることが更により好ましい。従って、X(℃)は、例えば1345~1430であることが好ましく、1350~1400であることがより好ましく、1355~1380であることが更により好ましい。
【0062】
Y(hr)は、製造容易性の観点から、24以下であることが好ましく、16以下であることがより好ましい。Y(hr)は、コージェライト結晶の生成を促進するという観点から、7以上であることが好ましく、12以上であることがより好ましい。従って、Y(hr)は、例えば7~24であることが好ましく、12~16であることがより好ましい。
【0063】
Z(質量部)の好ましい条件については先述した通りである。
【実施例0064】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を例示するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0065】
<ハニカム構造体の製造(比較例1~5、実施例1~9)>
(1)柱状ハニカム成形体の作製
コージェライト化原料、分散媒、造孔材、バインダー、分散剤及び焼結助剤を表1に記載の質量比で添加することで得られた原料組成物を混練して坏土を調製した。コージェライト化原料としては、タルク、アルミナ、水酸化アルミニウム、及びシリカを使用した。分散媒としては水を使用した。造孔材としてはアクリルポリマーを使用した。バインダーとしてはメチルセルロースを使用し、分散剤としてはエチレングリコールを使用した。焼結助剤としてセリア(レーザー回折・散乱法により求めた体積基準の累積粒度分布におけるメジアン径=1.0μm)を使用した。
【0066】
この坏土を押出成形機に投入し、所定形状の口金を介して押出成形することにより円柱状の柱状ハニカム成形体を得た。得られた柱状ハニカム成形体を誘電乾燥及び熱風乾燥し、更に熱風乾燥をした後、所定の寸法となるように両底面を切断した。
【0067】
(2)目封止部の形成
コージェライト化原料100質量部に、分散媒を40質量部、造孔材を10質量部、バインダーを2質量部、分散剤を1質量部それぞれ添加し、混練して目封止部形成用スラリーを調合した。コージェライト化原料としては、タルク、アルミナ、水酸化アルミニウム、及びシリカを使用した。分散媒としては水を使用し、造孔材としては発泡樹脂を使用し、バインダーとしてはメチルセルロースを使用し、分散剤としてはエチレングリコールを使用した。先述した「スキージ方式」を用いて、第1セル及び第2セルが交互に隣接配置するように、この目封止部形成用スラリーを両底面に充填した。その後、大気雰囲気下で180℃×200秒の条件で乾燥を行った。
【0068】
(3)焼成
次いで、大気雰囲気下、約200℃の条件で加熱脱脂し、更に大気雰囲気下、表1に記載の最高温度及び最高温度での保持時間の条件で焼成することにより、目封止部を有する柱状ハニカム構造体を得た。焼成時の最高温度をX(℃)とし、最高温度での保持時間をY(hr)とし、ハニカム成形体中のコージェライト化原料100質量部に対するセリアの含有量をZ(質量部)としたときの、(X-1345)×Y×(Z+0.5)2の値を表1に示す。柱状ハニカム構造体は下記の試験に必要な数を製造した。
【0069】
(4)ハニカム構造体の仕様
得られたハニカム構造体の仕様は以下である。
全体形状:直径132mm×高さ152mmの円柱状
セルの流路方向に垂直な断面におけるセル形状:正方形
セル密度(単位断面積当たりのセルの数):300セル/平方インチ(47セル/cm2)
隔壁の平均厚み:8.5mil(216μm)(口金の仕様に基づく公称値)
目封止部の平均深さ:5mm
【0070】
<特性評価>
上記で得られた各ハニカム構造体に対して種々の特性評価を行った。
【0071】
(1.気孔率)
ハニカム構造体の気孔率(%)を、先述した水銀圧入法に従って求めた。結果を表1に示す。
【0072】
(2.多孔質隔壁の細孔径分布)
ハニカム構造体の多孔質隔壁について、先述した水銀圧入法により体積基準の累積細孔径分布を測定し、小細孔側からの累積10%細孔径(D10)、累積50%細孔径(D50)、累積90%細孔径(D90)、及び(D90-D10)/D50を求めた。結果を表1に示す。
【0073】
(3.線膨張係数:CTE)
ハニカム構造体の径方向及び高さ方向の中心部から先述した方法でサンプルを採取し、ハニカム構造体のセルチャンネルの延びる方向における40℃~800℃の線膨張係数をJIS R1618:2002に従って測定した。結果は表1に示す。
【0074】
(4.組成分析)
ハニカム構造体に対して、PANalytical社製のX’pert PRO装置を利用して、先述したX線回折法により組成分析を行い、コージェライト、ムライト、スピネル、サフィリン、クリストバライト及びセリアの質量含有率をそれぞれ測定した。結果を表1に示す。
【0075】
(5.フィルタ性能の評価)
(5-1)捕集性能
ハニカム構造体を、1.2L直噴ガソリンエンジン車両のエンジン排気マニホルドの出口側に接続して、排ガス浄化装置の流出口から排出されるガスに含まれる煤の個数を、PN測定方法によって測定した。走行モードに関しては、RDE走行のワーストを模擬した走行モード(RTS95)を実施した。モード走行後に排出された煤の個数の累計を、判定対象となるハニカム構造体の煤の個数とし、その煤の個数から捕集効率(%)を算出した。表1の「捕集性能」の欄に、比較例1のハニカム構造体の捕集効率の値を100%として、下記評価基準に基づき、各実施例及び比較例のハニカムフィルタの評価を行った。結果を表1に示す。
評価「◎」:捕集効率比(%)の値が、110%を超える場合
評価「〇」:捕集効率比(%)の値が、105%を超え、110%以下である場合
評価「△」:捕集効率比(%)の値が、100%を超え、105%以下である場合
評価「×」:捕集効率比(%)の値が、100%以下の場合
【0076】
(5-2)圧力損失
1.2L直噴ガソリンエンジンから排出される排ガスを700℃、600m3/hの流量で流入させて、ハニカム構造体の流入端面側と流出端面側の圧力を測定した。そして、流入端面側と流出端面側との圧力差を算出することにより、ハニカム構造体の圧力損失(kPa)を求めた。表1の「圧損」の欄に、比較例1のハニカム構造体の圧力損失の値を100%とした場合における、各実施例及び比較例のハニカム構造体を圧力損失の値(%)を示す。圧力損失評価においては、下記評価基準に基づき、各実施例のハニカムフィルタの評価を行った。結果を表1に示す。
評価「◎」:圧力損失比(%)の値が、90%以下である場合
評価「〇」:圧力損失比(%)の値が、90%を超え、95%以下である場合
評価「△」:圧力損失比(%)の値が、95%を超え、100%以下である場合
評価「×」:圧力損失比(%)の値が、100%を超える場合
【0077】
(5-3)耐熱衝撃性
予め室温+550℃に熱した電気炉にハニカム構造体を入れ、ハニカム構造体全体が、電気炉の加熱温度と同一温度となる十分な時間(30分)加熱した後、冷却速度50℃/minにて室温まで空冷した。この冷却における熱衝撃により、ハニカム構造体の側面、端面、又は内部にクラックが発生しているか検査した。室温まで冷却した際にクラックが発生せずに至った場合、その加熱温度をクリアしたとみなした。クラックの有無は目視、打音等で検査した。クリアしたハニカム構造体について、50℃ステップで電気炉の加熱温度を上昇させ、上記試験をクラックが発生するまで繰り返して行った。耐熱衝撃性の評価においては、下記評価基準に基づき、各実施例のハニカムフィルタの評価を行った。結果を表1に示す。
評価「×」:室温+550℃でクラックが発生した場合
評価「△」:室温+550℃までクリアした場合
評価「〇」:室温+600℃までクリアした場合
評価「◎」:室温+650℃までクリアした場合
【0078】
【0079】
(6.考察)
表1の結果から、本発明の実施例に係るハニカム構造体は、耐熱衝撃性、パティキュレートに対する高い捕集効率、及び低い圧損性能を高い次元で達成できていることが分かる。比較例1~4は、コージェライト含有量、気孔率、セリアの有無、及び(D90-D10)/D50の少なくとも一つが不適切であったことから、捕集性能又は圧損の評価に×が見られた。