(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143856
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】排ガス処理装置用筒状部品及び排ガス処理装置
(51)【国際特許分類】
F01N 3/28 20060101AFI20241003BHJP
F01N 3/20 20060101ALI20241003BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20241003BHJP
B01J 35/50 20240101ALI20241003BHJP
B01J 35/57 20240101ALI20241003BHJP
【FI】
F01N3/28 301P
F01N3/28 311M
F01N3/20 K ZAB
B01D53/94 222
B01D53/94 245
B01D53/94 280
B01J35/02 G
B01J35/04 301F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056770
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】濱崎 真
(72)【発明者】
【氏名】松井 紫甫
(72)【発明者】
【氏名】野呂 貴志
【テーマコード(参考)】
3G091
4D148
4G169
【Fターム(参考)】
3G091AB02
3G091AB03
3G091AB05
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4D148AA06
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4G169EA18
4G169EA26
4G169EE03
(57)【要約】
【課題】キャニング性及び耐熱衝撃性に優れた排ガス処理装置用筒状部品を提供する。
【解決手段】筒状金属部材と、前記筒状金属部材の内周面に設けられた絶縁層と、を備え、前記絶縁層の外表面は、前記筒状金属部材の周方向に沿って測定されるJIS B0601:2013に規定の算術平均粗さRaが0.5μm以上10.0μm以下であり、十点平均粗さRzjis94が1.0μm以上25.0μm以下である、排ガス処理装置用筒状部品。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状金属部材と、
前記筒状金属部材の内周面に設けられた絶縁層と、
を備え、
前記絶縁層の外表面は、前記筒状金属部材の周方向に沿って測定されるJIS B0601:2013に規定の算術平均粗さRaが0.5μm以上10.0μm以下であり、十点平均粗さRzjis94が1.0μm以上25.0μm以下である、
排ガス処理装置用筒状部品。
【請求項2】
前記絶縁層の外表面は、前記筒状金属部材の周方向に沿って測定されるJIS B0601:2013に規定の算術平均粗さRaが1.0μm以上4.0μm以下であり、十点平均粗さRzjis94が2.0μm以上10.0μm以下である、
請求項1に記載の排ガス処理装置用筒状部品。
【請求項3】
前記絶縁層が結晶質を含むガラスを含み、該ガラスはケイ素、ホウ素及びマグネシウムを含み、該ガラス中のケイ素の含有量が20mol%以下であり、マグネシウムの含有量が10mol%以上、ホウ素の含有量が40mol%以下である請求項1又は2に記載の排ガス処理装置用筒状部品。
【請求項4】
前記ガラスが更に、バリウムと、ランタン、亜鉛又はそれらの組み合わせと、を含む請求項3に記載の排ガス処理装置用筒状部品。
【請求項5】
前記絶縁層の厚みが30μm~800μmである請求項1又は2に記載の排ガス処理装置用筒状部品。
【請求項6】
前記絶縁層の外表面の静摩擦係数が0.5~4.0である請求項1又は2に記載の排ガス処理装置用筒状部品。
【請求項7】
通電することにより発熱可能な柱状の電気加熱型担体と、
前記電気加熱型担体を収容する請求項1又は2に記載の排ガス処理装置用筒状部品と、
を備える排ガス処理装置。
【請求項8】
前記電気加熱型担体と前記排ガス処理装置用筒状部品との間にマット材を更に備える請求項7に記載の排ガス処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス処理装置用筒状部品に関する。また、本発明は、排ガス処理装置用筒状部品及びこれに収容された電気加熱型担体を備える排ガス処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両などのエンジンから排出される排ガス中に含まれるHC、CO、NOx等の有害物質の浄化処理のため、柱状のハニカム構造体に触媒を担持したものが使用されている。ハニカム構造体に担持した触媒によって排ガスを処理する場合、触媒を活性温度まで昇温する必要があるが、エンジン始動時には、触媒が活性温度に達していないため、排ガスが十分に浄化されないという問題があった。特に、プラグインハイブリッド車(PHEV)やハイブリッド車(HV)は、その走行に、モーターのみによる走行を含むことから、エンジン始動頻度が少なく、エンジン始動時の触媒温度が低いため、エンジン始動直後の排ガス浄化性能が低下し易い。
【0003】
そこで、電気加熱型担体(例えば、電気加熱型のハニカム構造体)に一対の電極を設けて通電させることにより、電気加熱型担体を加熱する電気加熱触媒(EHC:Electrically Heated Catalyst)が提案されている。この電気加熱触媒は、電気加熱型担体を金属製の筒状部品(筒状容器)に収容した状態で使用されている。電気加熱触媒は通電により熱を発生するが、電気加熱触媒に電圧をかけると筒状部品にも電気が流れ、車全体に電気が流れてしまう。
【0004】
そこで、筒状部品を電気的に保護することを目的として筒状部品の内周面を絶縁層で保護する技術が知られている(特許第5408341号公報、特許第5864213号公報、特開2022-131300号公報、特開2022-132045号公報)。筒状部材に収容された電気加熱型担体は、筒状部品の内周面との間の摩擦力によって保持されているが、電気加熱型担体は電極の存在により筒状部品との接触面積が低下しやすいことに加え、絶縁層は摩擦係数が小さい傾向にあるため、筒状部品と電気加熱型担体の間の摩擦力が低下し、排ガスの圧力及び車両振動等による外力によって、電気加熱型担体が筒状部品から抜けたり、振動によって電気加熱型担体の位置がずれたりする恐れがある。そこで、筒状部品と電気加熱型担体の間の摩擦力を高めることが求められている。
【0005】
この点、国際公開第2021/176767号には、筒状金属部材と、前記筒状金属部材の内周面に設けられた絶縁層とを備え、前記絶縁層の表面は、凹凸部を有し且つ静摩擦係数が0.30以上である排ガス処理装置用筒状部材が提案されている。静摩擦係数が0.30以上の表面を得るため、当該国際公開には、凹凸部の高低差(排ガスの流れ方向に平行な絶縁層の断面図において、最も低い部分と最も高い部分との高低差)が、好ましくは300μm以下であること、絶縁層の表面は、凹凸部の割合が、好ましくは30%以上であることが記載されている。
【0006】
また、当該国際公開の実施例には、筒状金属部材の内周面に絶縁層形成用スラリーを塗布して乾燥塗布層を形成し、この乾燥塗布層の表面に凸部を有する型を押し付けることで所定の溝形状の凹部を形成し、その後、加熱することで絶縁層を形成したことが記載されている。そして、得られた絶縁層は、実施例1において、厚さが300μm、気孔率が9%、凹凸部の高低差が23μm、凹凸部の割合が66%、静摩擦係数が0.33であったこと、実施例2において、厚さが300μm、気孔率が5%、凹凸部の高低差が23μm、凹凸部の割合が80%、静摩擦係数が0.35であったことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5408341号公報
【特許文献2】特許第5864213号公報
【特許文献3】特開2022-131300号公報
【特許文献4】特開2022-132045号公報
【特許文献5】国際公開第2021/176767号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
筒状部品と電気加熱型担体の間の摩擦力を高めることは、電気加熱型担体を筒状部材内で所定の場所に保持する機能(キャニング性)を高める上で重要である。しかしながら、特許文献5で記載されているような凹凸部の高低差を規定するだけでは絶縁層の摩擦係数を上昇させるのにも限界があった。また、特許文献5では絶縁層の耐熱衝撃性について検討されていないが、絶縁層は高温の排ガスに耐える耐熱衝撃性を有することが望ましい。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みて創作されたものであり、一実施形態において、優れたキャニング性と優れた耐熱衝撃性を両立可能な絶縁層を備える排ガス処理装置用筒状部品を提供することを課題とする。また、本発明は別の一実施形態において、そのような排ガス処理装置用筒状部品を備える排ガス処理装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、筒状金属部材の周方向に沿って測定される絶縁層の算術平均粗さRa及び十点平均粗さRzjis94が所定の範囲を満たすことが、優れたキャニング性と優れた耐熱衝撃性を両立可能な絶縁層を実現する上で有利であることを見出した。特許文献5に記載の凹凸部の高低差は、最大高さRzに類似すると考えられるが、優れたキャニング性と優れた耐熱衝撃性を両立する上では、算術平均粗さRa及び十点平均粗さRzjis94の両者を適切な範囲に制御することの方が重要である。本発明は当該知見に基づいて完成したものであり、以下に例示される。
【0011】
[態様1]
筒状金属部材と、
前記筒状金属部材の内周面に設けられた絶縁層と、
を備え、
前記絶縁層の外表面は、前記筒状金属部材の周方向に沿って測定されるJIS B0601:2013に規定の算術平均粗さRaが0.5μm以上10.0μm以下であり、十点平均粗さRzjis94が1.0μm以上25.0μm以下である、
排ガス処理装置用筒状部品。
[態様2]
前記絶縁層の外表面は、前記筒状金属部材の周方向に沿って測定されるJIS B0601:2013に規定の算術平均粗さRaが1.0μm以上4.0μm以下であり、十点平均粗さRzjis94が2.0μm以上10.0μm以下である、
態様1に記載の排ガス処理装置用筒状部品。
[態様3]
前記絶縁層が結晶質を含むガラスを含み、該ガラスはケイ素、ホウ素及びマグネシウムを含み、該ガラス中のケイ素の含有量が20mol%以下であり、マグネシウムの含有量が10mol%以上、ホウ素の含有量が40mol%以下である態様1又は2に記載の排ガス処理装置用筒状部品。
[態様4]
前記ガラスが更に、バリウムと、ランタン、亜鉛又はそれらの組み合わせと、を含む態様3に記載の排ガス処理装置用筒状部品。
[態様5]
前記絶縁層の厚みが30μm~800μmである態様1~4の何れかに記載の排ガス処理装置用筒状部品。
[態様6]
前記絶縁層の外表面の静摩擦係数が0.5~4.0である態様1~5の何れかに記載の排ガス処理装置用筒状部品。
[態様7]
通電することにより発熱可能な柱状の電気加熱型担体と、
前記電気加熱型担体を収容する態様1~6の何れかに記載の排ガス処理装置用筒状部品と、
を備える排ガス処理装置。
[態様8]
前記電気加熱型担体と前記排ガス処理装置用筒状部品との間にマット材を更に備える態様7に記載の排ガス処理装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一実施形態によれば、キャニング性と耐熱衝撃性が共に優れている絶縁層を備える排ガス処理装置用筒状部品を提供することができる。従って、この排ガス処理装置用筒状部品を用いることで高品質な排ガス処理装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る排ガス処理装置用筒状部品を排ガスの流れ方向に垂直な方向から観察したときの模式的な断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る排ガス処理装置を排ガスの流れ方向に垂直な方向から観察したときの模式的な断面図である。
【
図3】
図2に示す排ガス処理装置におけるb-b’線の模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に本発明を実施するための形態を図面を参照しながら詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0015】
(1.排ガス処理装置用筒状部品)
図1には、本発明の一実施形態に係る排ガス処理装置用筒状部品を排ガスの流れ方向に垂直な方向から観察したときの模式的な断面図が示されている。
図1に示す本発明の一実施形態に係る排ガス処理装置用筒状部品100は、筒状金属部材10と、筒状金属部材10の内周面に設けられた絶縁層20とを備える。絶縁層20の内周側には中空部30が形成されており、中空部30に電気加熱型担体を収容することで、排ガス処理装置を構成可能である。なお、
図1に示す筒状部品100は円筒状であるが、筒状部品100の形状は目的に応じて適切に設計され得る。
【0016】
[1-1.筒状金属部材]
筒状金属部材10は、柱状の電気加熱型担体を収容可能である。筒状金属部材10の軸方向は柱状の電気加熱型担体の軸方向(排ガスの流れ方向に同じ)と一致し、筒状金属部材10の中心軸Oは柱状の電気加熱型担体の中心軸と一致することが好ましい。また、筒状金属部材10の軸方向の中央位置は、柱状の電気加熱型担体の軸方向の中央位置と一致することが好ましい。さらに、筒状金属部材10は、軸方向にわたって一様であってよいが、少なくとも一部(例えば、軸方向両端部など)が縮径又は拡径していてもよい。
【0017】
絶縁層を設ける前の筒状金属部材の内周面は、特に限定されないが、筒状金属部材の周方向に沿って測定される算術平均粗さRaが、好ましくは10.0μm以下、より好ましくは7.0μm以下、更により好ましくは5.0μm以下である。このような範囲に算術平均粗さRaを制御することにより、絶縁層を筒状金属部材の内周面に均一に形成することができる。また、この算術平均粗さRaは、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.5μm以上、更により好ましくは1.0μm以上である。このような範囲に算術平均粗さRaを制御することにより、アンカー効果によって筒状金属部材の内周面に対する絶縁層の密着力を高めることができる。従って、絶縁層を設ける前の筒状金属部材の内周面は、筒状金属部材の周方向に沿って測定される算術平均粗さRaが、例えば0.1μm以上10.0μm以下であることが好ましく、0.5μm以上7.0μm以下であることがより好ましく、1.0μm以上5.0μm以下であることが更により好ましい。絶縁層を設ける前の筒状金属部材の内周面をこのような範囲に設定することは、絶縁層の表面粗さを後述する適切な範囲にする上でも有利である。算術平均粗さRaは、筒状金属部材の内周面を表面処理することにより調整可能である。限定的ではないが、表面処理の代表例としては、ブラスト加工等の粗面化処理が挙げられる。
本明細書において、筒状金属部材の内周面の「算術平均粗さRa」は、JIS B0601:2013に準拠して触針式の表面粗さ測定機によって測定される。
【0018】
筒状金属部材の材質は、製造性の観点から金属であることが好ましく、ステンレス、チタン合金、銅合金、アルミ合金、真鍮などが挙げられる。その中でも、耐久信頼性が高く、安価という理由により、ステンレスが好ましい。
【0019】
筒状金属部材の肉厚は、特に限定されないが、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.3mm以上、更により好ましくは0.5mm以上である。このような範囲に筒状金属部材の肉厚を制御することにより、耐久信頼性を確保することができる。また、筒状金属部材の肉厚は、好ましくは10.0mm以下が好ましく、5.0mm以下がより好ましく、3.0mm以下が更により好ましい。このような範囲に筒状金属部材の肉厚を制御することにより、筒状金属部材を軽量化することができる。従って、筒状金属部材の肉厚は、例えば0.1mm以上10.0mm以下であることが好ましく、0.3mm以上5.0mm以下であることがより好ましく、0.5mm以上3.0mm以下であることが更により好ましい。
【0020】
筒状金属部材の軸方向の長さは、目的、電気加熱型担体の長さ等に応じて適切に設定され得る。筒状金属部材の長さは、例えば30mm~600mmとすることができ、40mm~500mmとすることもでき、50mm~400mmとすることもできる。好ましくは、筒状金属部材の軸方向の長さは、電気加熱型担体の長さよりも大きい。この場合、電気加熱型担体は、筒状金属部材から露出しないようにして配置することができる。
【0021】
筒状金属部材の内径(水力直径)及び排ガスの流れ方向に垂直な断面形状は、収容する電気加熱型担体の外径及び外周形状、並びに絶縁層の厚みに応じて、所望の把持圧力が得られるように設定すればよい。
【0022】
[1-2.絶縁層]
再び
図1を参照すると、筒状金属部材10の内周面に設けられた絶縁層20の外表面21は、筒状金属部材10の周方向に沿って測定される算術平均粗さRaが0.5μm以上10.0μm以下であり、筒状金属部材10の周方向に沿って測定される十点平均粗さRzjis94が1.0μm以上25.0μm以下である。好ましい実施形態においては、当該算術平均粗さRaは1.0μm以上4.0μm以下であり、当該十点平均粗さRzjis94が2.0μm以上10.0μm以下である。より好ましい実施形態においては、当該算術平均粗さRaは1.0μm以上3.0μm以下であり、当該十点平均粗さRzjis94が2.0μm以上5.0μm以下である。
【0023】
このような範囲に絶縁層20の外表面の算術平均粗さRa及び十点平均粗さRzjis94を制御することで、キャニング性と耐熱衝撃性が共に優れている絶縁層を得ることができる。算術平均粗さRaは小さすぎても大きすぎてもキャニング性を悪化させる。また、算術平均粗さRaが適切な範囲であったとしても、局所的に大きな凹凸があるとクラックの起点になり、耐熱衝撃性を低下させる要因になる。このため、算術平均粗さRaに加えて十点平均粗さRzjis94の両者を適切な範囲に制御することが重要となる。
本明細書において、絶縁層の外表面の「算術平均粗さRa」は、JIS B0601:2013に準拠して触針式の表面粗さ測定機によって基準長さ3mmで測定される。
本明細書において、絶縁層の外表面の「十点平均粗さRzjis94」は、JIS B0601:2013に準拠して触針式の表面粗さ測定機によって基準長さ3mmで測定される。
【0024】
絶縁層の厚みは、特に限定されないが、好ましくは800μm以下、より好ましくは600μm以下、更により好ましくは450μm以下である。このような範囲に厚みを制御することにより、筒状金属部材の内表面から絶縁層を剥離し難くすることができる。また、絶縁層の厚みは、好ましくは30μm以上、より好ましくは50μm以上、更により好ましくは100μm以上である。従って、絶縁層の厚みは、例えば、30~800μmが好ましく、50~600μmがより好ましく、100~450μmが更により好ましい。このような範囲に絶縁層の厚みを制御することにより、柱状の電気加熱型担体と筒状金属部材との間の絶縁性を安定的に確保することができる。本明細書において、絶縁層の「厚み」は、以下の方法で測定される。排ガス処理装置用筒状部品の中心軸Oを通り、排ガスの流れ方向に平行な任意の断面を切り出す。当該断面において、絶縁層が設けられている筒状金属部材の内周面の総長さLを測定する。また、当該断面において、絶縁層の総面積Sを測定する。絶縁層の「厚み」Tは、T=S/Lによって与えられる。
【0025】
絶縁層の外表面の静摩擦係数は、好ましくは0.5~4.0であり、より好ましくは0.6~2.0であり、更により好ましくは0.6~1.5である。このような範囲に静摩擦係数を制御することにより、排ガスの圧力及び車両振動による外力に伴う電気加熱型担体のずれ(排ガスの流れ方向への移動)を抑制し得る摩擦力を確保することができる。
本明細書において、絶縁層の外表面の「静摩擦係数」は、JIS K7125:1999に準拠して測定される。
【0026】
絶縁層の材質は、特に限定されないが、結晶質を含むガラスを含むことが好ましい。ガラスが結晶質を含むことにより、高温(例えば、750℃以上)においても軟化及び変形し難い絶縁層を形成することができる。更に、ガラスが結晶質を含むことにより、筒状金属部材との密着性に優れた絶縁層を形成することができる。筒状金属部材との熱膨張係数の差を小さくでき、加熱時に発生する熱応力を小さくできるからである。なお、結晶質(結晶)の有無は、X線回折法により確認することができる。
【0027】
ガラスは、ケイ素、ホウ素及びマグネシウムを含むことが好ましい。これにより、均一性の高い絶縁層を形成することができ、かつ、高温(例えば、750℃以上)においても軟化及び変形し難い絶縁層を形成することができる。ケイ素は、例えばSiO2の形態でガラスに含有され得る。ホウ素は、例えばB2O3の形態でガラスに含有され得る。マグネシウムは、例えばMgOの形態でガラスに含有され得る。従って、ガラスは、例えばSiO2-B2O3-MgO系ガラスであり得る。
【0028】
ケイ素(実質的には、SiO2)は、ガラスの骨格を形成する成分である。ケイ素は、より詳細には、熱処理することで結晶を析出させるための成分であり、かつ、ガラス化範囲を広げてガラス化しやすくするとともに、耐水性及び耐熱性を向上させる成分である。ガラス中のケイ素の含有量は、好ましくは20mol%以下であり、より好ましくは17mol%以下であり、更により好ましくは5mol%以上15mol%以下であり、特に好ましくは10mol%以上15mol%以下である。ホウ素(実質的には、B2O3)は、溶融性及び流動性を高めると共に、耐失透性を高める成分である。ガラス中のホウ素の含有量は、特に制限はないが、好ましくは40mol%以下であり、より好ましくは20mol%以上40mol%以下であり、更により好ましくは25mol%以上37mol%以下であり、特に好ましくは28mol%以上35mol%以下である。マグネシウム(実質的には、MgO)は、結晶の構成成分であり、かつ、高温粘性を下げて溶融性及び流動性を高める成分である。ガラスがマグネシウムを含むことにより、高温においても軟化及び変形し難く、かつ、均一性の高い絶縁層を形成することができる。ガラス中のマグネシウムの含有量は、好ましくは10mol%以上であり、より好ましくは15mol%以上55mol%以下であり、更により好ましくは25mol%以上52mol%以下である。
【0029】
ケイ素及びマグネシウムの含有量がこのような範囲であれば、上記の効果(均一性が高く、かつ、高温においても軟化及び変形し難い絶縁層の形成)が顕著なものとなる。更にホウ素の含有量が適切であると、上記の効果がより顕著なものとなる。本明細書において、ガラス中の元素含有量は、酸素原子を除くガラス中の全原子の量を100mol%としたときの当該元素の原子のモル比率である。ガラス中のケイ素、ホウ素及びマグネシウム等の元素含有量は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析法により測定することができる。
【0030】
ガラスは、バリウムを更に含んでいてもよい。この場合、ガラスは、ランタン、亜鉛又はそれらの組み合わせを更に含んでいてもよい。バリウムは、例えばBaOの形態でガラスに含有され得る。ランタンは、例えばLa2O3の形態でガラスに含有され得る。亜鉛は、例えばZnOの形態でガラスに含有され得る。バリウム(実質的には、BaO)及び亜鉛(実質的には、ZnO)はそれぞれ、結晶の構成成分である。ランタン(実質的には、La2O3)は、流動性を向上させるための成分である。ガラスがバリウムと、必要に応じて更にランタン、亜鉛又はそれらの組み合わせとを含むことにより、筒状金属部材との密着性に極めて優れた絶縁層を形成することができる。バリウムがガラスに含まれる場合、ガラス中のバリウムの含有量は、好ましくは20mol%以下であり、より好ましくは2mol%以上20mol%以下である。また、ガラス中のバリウムの含有量は、一実施形態においては2mol%以上6mol%以下とすることができ、別の一実施形態においては6mol%以上18mol%以下とすることもできる。ランタンがガラスに含まれる場合、ランタンのガラス中の含有量は、好ましくは20mol%以下であり、より好ましくは2mol%以上20mol%以下であり、更により好ましくは2mol%以上17mol%以下である。亜鉛がガラスに含まれる場合、亜鉛のガラス中の含有量は、好ましくは20mol%以下であり、より好ましくは2mol%以上10mol%以下であり、更により好ましくは3mol%以上8mol%以下である。ガラス中のランタン及び亜鉛の合計含有量は、一実施形態においては4mol%以上20mol%以下とすることができ、別の一実施形態においては8mol%以上20mol%以下とすることもできる。ガラス中のバリウム、ランタン及び亜鉛の原子の量は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析法により測定することができる。
【0031】
ガラスは、他の金属元素を更に含んでいてもよい。このような金属元素としては、アルミニウム、カルシウム、ストロンチウムが挙げられる。これらの金属元素は、ガラスに単独で含有されてもよく2種以上が組み合わされて含有されてもよい。他の金属元素もまた、上記元素と同様に金属酸化物(例えば、Al2O3、CaO、SrO)の形態でガラスに含有され得る。アルミニウム(実質的には、Al2O3)は、ガラスの骨格を形成し、歪点を高め、粘性を調整し、更に分相を抑制する成分である。カルシウム(実質的には、CaO)は、ガラス化範囲を広げてガラス化しやすくする成分であり、かつ、歪点を低下させずに、高温粘性を下げて溶融性および流動性を高める成分である。ストロンチウム(実質的には、SrO)は、ガラス化範囲を広げてガラス化しやすくする成分であり、かつ、分相を抑制し、耐失透性を高める成分である。
【0032】
アルミニウムがガラスに含まれる場合、アルミニウムのガラス中の含有量は、例えば15mol%以下とすることができ、5mol%以上15mol%以下とすることもでき、更には5mol%以上10mol%以下とすることもできる。また、カルシウムがガラスに含まれる場合、カルシウムのガラス中の含有量は、例えば7mol%以下とすることができ、3mol%以上7mol%以下とすることもできる。ストロンチウムがガラスに含まれる場合、ストロンチウムのガラス中の含有量は、例えば12mol%以下とすることができ、8mol%以上12mol%以下とすることもできる。ガラス中のアルミニウム、カルシウム及びストロンチウム等の他の金属の原子の量は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析法により測定することができる。
【0033】
ガラス中のアルカリ金属元素の含有量は、例えば1000質量ppm以下であり得る。すなわち、ガラスはいわゆる無アルカリガラスであり得る。ガラス中のアルカリ金属元素の含有量は、好ましくは800質量ppm以下であり、より好ましくは質量500ppm以下であり、更により好ましくは200質量ppm以下であり、特に好ましくは100質量ppm以下である。アルカリ金属元素の含有量は小さいほど好ましく、例えば実質的にゼロ(検出限界未満)であり得る。ガラス中のアルカリ金属元素の含有量が非常に小さいことにより、高温下においても環境負荷物質の発生が抑制され得る排ガス処理装置用筒状部品を実現することができる。本明細書において「ガラス中のアルカリ金属元素の含有量」とは、ガラスに含まれるアルカリ金属元素の合計量を意味する。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウムが挙げられる。ガラスに含まれるアルカリ金属元素は、例えば、ナトリウム、カリウム又はその組み合わせであり得る。また、ガラスに含まれるアルカリ金属元素は、例えば、ナトリウムであり得る。アルカリ金属元素の含有量は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析により測定することができる。
【0034】
絶縁層は、任意の適切な方法により形成され得る。絶縁層は、代表的には、ガラス源を含むスラリー(分散体)を塗布及び乾燥して塗膜を形成し、当該塗膜を焼成することにより形成される。スラリーは、ガラス源として素原料を含んでいてもよく、ガラスフリットを含んでいてもよい。以下、代表例として、ガラス源としてガラスフリットを含むスラリーを用いて絶縁層を形成する方法について説明する。
【0035】
一実施形態において、絶縁層の形成方法は、ガラス源(素原料)からガラスフリットを作製する工程と、ガラスフリットを含む原料スラリーを調製する工程と、該スラリーの塗膜を筒状金属部材の内周面に形成する工程と、該塗膜を焼成して、ガラスを含む絶縁層を形成する工程とを含む。
【0036】
素原料の具体例としては、珪砂(ケイ素源)、ドロマイト(マグネシウムおよびカルシウム源)、酸化ホウ素、アルミナ(アルミニウム源)、酸化バリウム、酸化ランタン、酸化亜鉛(亜鉛華)、酸化ストロンチウムが挙げられる。素原料は酸化物に限られず、例えば炭酸物又は水酸化物であってもよい。ガラスフリットは、代表的には、ガラスの素原料からガラスを合成し、得られたガラスを粉砕(例えば、粗粉砕および微粉砕の2段階で粉砕)することにより作製可能である。ガラスの合成時には高温(代表的には、1200℃以上)で長時間の溶融が行われる。
【0037】
ガラスフリットのメジアン径の下限は、絶縁層表面粗さ確保の観点から、20μm以上であることが好ましく、24μm以上であることがより好ましく、28μm以上であることが更に好ましい。ガラスフリットのメジアン径の上限は、絶縁膜の膜厚バラつき抑制の観点から、50μm以下であることが好ましく、40μm以下であることがより好ましく、35μm以下であることが更に好ましい。従って、ガラスフリットのメジアン径は、例えば、20~50μmであることが好ましく、24~40μmであることがより好ましく、28~35μmであることが更により好ましい。ガラスフリットのメジアン径は、JIS Z8825:2013「粒子径解析-レーザー回折・散乱法」に準じて体積基準粒子径分布を測定し、算出される。
【0038】
上記のガラスフリットと溶媒とを混合することにより、原料スラリー(分散体)が調製される。絶縁層表面粗さ確保のために原料スラリーの20℃におけるJIS Z8803:2011に準拠した方法で内筒定速方式の共軸二重円筒形回転粘度計を用いて測定される粘度の下限は、50mPa・s以上であることが好ましく、100mPa・s以上であることがより好ましい。また、単位時間当たりの塗布量のバラつき抑制のために、原料スラリーの20℃における JIS Z8803:2011に準拠した方法で内筒定速方式の共軸二重円筒形回転粘度計を用いて測定される粘度の上限は、1000mPa・s以下であることが好ましく、500mPa・s以下であることがより好ましい。従って、原料スラリーの粘度は例えば、50~1000mPa・sであることが好ましく、100~500mPa・sであることがより好ましい。
【0039】
溶媒は、水であってもよく有機溶媒であってもよい。溶媒は、好ましくは水又は水溶性有機溶媒であり、より好ましくは水である。溶媒は、ガラスフリット100質量部に対して、好ましくは50質量部~300質量部、より好ましくは80質量部~200質量部の割合で混合され得る。原料スラリー調製時には、スラリー助剤(例えば、樹脂、可塑剤、分散剤、増粘剤、各種添加剤)が更に混合されてもよい。スラリー助剤の種類、数、組み合わせ、配合量等は、目的に応じて適切に設定され得る。なお、本明細書において「溶媒」とは、原料スラリーに含まれる液状媒体をいい、溶媒および分散媒を包含する概念である。
【0040】
次に、原料スラリーを筒状金属部材の内周面に塗布し、乾燥して塗膜を形成する。塗布方法としては、任意の適切な方法が用いられ得る。塗布方法の具体例としては、スプレー、筒状金属部材の絶縁層形成部分以外をマスクしての浸漬、バーコートが挙げられる。塗布厚みは、絶縁層の上記所望の厚みに応じて調整され得る。乾燥温度は、例えば40℃~120℃であり、また例えば50℃~110℃である。乾燥時間は、例えば1分~60分であり、また例えば10分~30分である。
【0041】
最後に、塗膜を焼成して絶縁層を形成する。焼成温度は、好ましくは1100℃以下であり、より好ましくは600℃~1100℃であり、さらに好ましくは700℃~1050℃である。焼成時間は、例えば5分~30分であり、また例えば8分~15分である。
【0042】
(2.排ガス処理装置)
図2には、本発明の一実施形態に係る排ガス処理装置を排ガスの流れ方向に垂直な方向から観察したときの模式的な断面図が示されている。
図3には、
図2に示す排ガス処理装置におけるb-b’線の模式的な断面図が示されている。
図2及び
図3に示されるように、排ガス処理装置200は、通電することにより発熱可能な柱状の電気加熱型担体50と、電気加熱型担体50を収容する排ガス処理装置用筒状部品100とを備える。
【0043】
排ガス処理装置200は、排ガスの流れ方向に垂直な方向において、排ガス処理装置用筒状部品100から電気加熱型担体50の外周面にかかる把持圧力が0.2~2.0MPaであることが好ましく、0.5~1.0MPaであることがより好ましい。このような範囲に把持圧力を制御することにより、排ガスの圧力及び車両振動による外力に伴う電気加熱型担体50のずれ(排ガスの流れ方向への移動)を安定して抑制することができる。
ここで、把持圧力は、薄型センサシートを用い、室温(25℃)で電気加熱型担体50の外周面にかかる圧力を測定することによって求めることができる。具体的には、把持圧力は、電気加熱型担体50の外周面にタクタイルセンサを巻いた状態で排ガス処理装置用筒状部品100に収容し、タクタイルセンサで読み取られる圧力から電気加熱型担体50の外周面にかかる圧力を測定する。
【0044】
電気加熱型担体50としては、特に限定されないが、外周壁51と、外周壁51の内側に配設され、第1端面52から第2端面53まで流路を形成する複数のセル54を区画形成する隔壁55とを有するハニカム構造体であることが好ましい。セル54は、第1端面52から第2端面53まで貫通して両者が開口していてもよいし、第1端面52側又は第2端面53側の何れか一方のセル54の端部に目封止部が形成されていてもよい。
【0045】
電気加熱型担体50の外形は特に限定されず、例えば端面が円形状、オーバル形状、楕円形状、レーストラック形状及び長円形状等のラウンド形状の柱体、端面が三角形状及び四角形状等の多角形状の柱体、並びに、端面がその他の異形形状を有する柱体とすることができる。図示の電気加熱型担体50は、端面形状が円形状であり、全体として円柱状である。
【0046】
電気加熱型担体50(外周壁51及び隔壁55)の材質としては、通電してジュール熱により発熱可能なものであれば特に限定されず、金属やセラミックスなどを用いることができる。電気加熱型担体50の材質としてセラミックスを用いる場合、例えば、アルミナ、ムライト、ジルコニア及びコージェライトなどの酸化物系セラミックス、炭化珪素、窒化珪素及び窒化アルミなどの非酸化物系セラミックスからなる群から選択される少なくとも1種のセラミックスを用いることができる。また、炭化珪素-金属珪素複合材や炭化珪素/グラファイト複合材などを用いることもできる。これらの中でも、耐熱性と導電性との両立の観点から、電気加熱型担体50の材質は、珪素-炭化珪素複合材又は炭化珪素を主成分とするセラミックスを含有することが好ましい。電気加熱型担体50の材質が、珪素-炭化珪素複合材を主成分とするというときは、電気加熱型担体50が、珪素-炭化珪素複合材(合計質量)を、全体の90質量%以上含有することを意味する。ここで、珪素-炭化珪素複合材は、骨材としての炭化珪素粒子、及び炭化珪素粒子を結合させる結合材としての珪素を含有しており、複数の炭化珪素粒子が、炭化珪素粒子間に細孔を形成するようにして、珪素によって結合されていることが好ましい。電気加熱型担体50の材質が、炭化珪素を主成分とするというときは、電気加熱型担体50が、炭化珪素(合計質量)を、全体の90質量%以上含有することを意味する。
【0047】
電気加熱型担体50の製造方法は、特に限定されず、当該技術分野において公知の方法に準じて行うことができる。例示的に、電気加熱型担体50としてハニカム構造体を製造する方法を説明する。まず、炭化珪素粉末(炭化珪素)に、金属珪素粉末(金属珪素)、バインダ、界面活性剤、造孔材、水などを添加して成形原料を作製する。次に、得られた成形原料を混練して坏土を形成した後、坏土を押出成形してハニカム成形体を作製する。押出成形に際しては、所望の全体形状、セル形状、隔壁厚み、セル密度などを有する口金を用いることができる。次に、得られたハニカム成形体について、乾燥を行った後、焼成することによってハニカム構造体を作製することができる。
【0048】
電気加熱型担体50の外周壁51には、一対の電極部61が設けられていることが好ましい。一対の電極部61は、電気加熱型担体50の中心軸を挟んで、電気加熱型担体50の外周面に排ガスの流れ方向に帯状に延設される。一対の電極部61を設けることで、一対の電極部61間に電圧を印加したときの電気加熱型担体50の発熱分布の均一性が高くなる。
【0049】
電極部61の材質としては、特に限定されないが、金属及び導電性セラミックスを用いることができる。金属の例としては、Ag、Cu、Ni、Au、Pd、Cr、Fe、Co、Ni、Si又はTiの単体金属又はこれらの金属よりなる群から選択される少なくとも一種の金属を含有する合金が挙げられる。導電性セラミックスの例としては、炭化珪素(SiC)や、珪化タンタル(TaSi2)及び珪化クロム(CrSi2)等の金属珪化物などの金属化合物が挙げられる。また、上記導電性セラミックスの一種以上と上記金属の一種以上の組み合わせからなる複合材(サーメット)を用いてもよい。サーメットの具体例としては、金属珪素と炭化珪素との複合材、珪化タンタルや珪化クロムなどの金属珪化物と金属珪素と炭化珪素の複合材、更には上記の一種又は二種以上の金属に熱膨張低減の観点から、アルミナ、ムライト、ジルコニア、コージェライト、窒化珪素及び窒化アルミ等の絶縁性セラミックスを一種又は二種以上添加した複合材が挙げられる。電極部61の材質としては、上記の各種金属及び導電性セラミックスの中でも、珪化タンタルや珪化クロムなどの金属珪化物と金属珪素と炭化珪素の複合材との組み合わせとすることが、電気加熱型担体50と同時に焼成できるので製造工程の簡素化に資するという理由により好ましい。
【0050】
電極部61の電気抵抗率は、電気加熱型担体50の電気抵抗率よりも低いことが好ましい。このような構成とすることにより、電極部61に優先的に電気が流れ易くなるため、通電時に電気がセル54の流路方向及び周方向に広がり易くなる。電極部61の電気抵抗率は、電気加熱型担体50の電気抵抗率の1/10以下であることが好ましく、1/20以下であることがより好ましく、1/30以下であることが更により好ましい。ただし、両者の電気抵抗率の差が大きくなりすぎると、対向する電極部61の端部間に電流が集中して電気加熱型担体50の発熱が偏ってしまう。そのため、電極部61の電気抵抗率は、電気加熱型担体50の電気抵抗率の1/200以上であることが好ましく、1/150以上であることがより好ましく、1/100以上であることが更により好ましい。本発明において、電極部61の電気抵抗率は、四端子法により25℃で測定した値とする。
【0051】
電極部61の形成方法としては、特に限定されず、当該技術分野において公知の方法に準じて行うことができる。例えば、電極部形成用ペースト又はスラリーを電気加熱型担体50の外周面にスクリーン印刷などの方法を用いて塗布した後、焼成すればよい。なお、電極部形成用ペースト又はスラリーの焼成は、ハニカム成形体の焼成と同時に行ってもよい。
【0052】
一対の電極部61にはそれぞれ、金属端子60を接合することができる。金属端子60は、一対の電極部61のそれぞれの外表面に直接又は間接的に接合可能である。そのため、排ガス処理装置用筒状部品100の筒状金属部材10及び絶縁層20には、金属端子60が電極部61に接合できるようにするための貫通穴を設けることができる。金属端子60を介して電気加熱型担体50に電圧を印加すると通電してジュール熱により電気加熱型担体50を発熱させることが可能である。これにより、例えば、電気加熱型担体50に担持された触媒をエンジン始動前又はエンジン始動時に触媒の活性温度まで昇温することができる。その結果、エンジン始動時においても排ガスを十分に処理(代表的には、浄化)することができる。
【0053】
一方の金属端子60は電源(例えば、バッテリ)のプラス極に接続することができ、他方の金属端子60は(例えば、バッテリ)のマイナス極に接続することができる。金属端子60の周囲には、筒状金属部材10と金属端子60とが絶縁されるように、隙間を設けてもよいし、絶縁材料製のカバー62を設けることもできる。
【0054】
電気加熱型担体50は、筒状部品100の中空部30に、代表的には同軸に収容される。電気加熱型担体50は、筒状部品100に直接(すなわち、他の部材を介さずに)収容されてもよく、又は、マット材(図示せず)を介して収容されてもよい。電気加熱型担体50が筒状部品100に直接収容される場合には、電気加熱型担体50は筒状部品100に例えば嵌合によって固定される。
【0055】
マット材は、緩衝材として機能するため、電気加熱型担体50の破損を抑制することができる。また、マット材が絶縁性である場合、電気加熱型担体50を通電させた際に筒状金属部材10にも電気が流れることを抑制することができる。マット材としては、特に限定されないが、セラミックス繊維などの無機繊維を含むことが好ましい。セラミックス繊維は、アルミナ、ムライト、炭化珪素、窒化珪素、ジルコニア、チタニアからなる群より選ばれる1種又はそれらの複合物を含むことが好ましい。マット材は、代表的には電気加熱型担体50の外周面を全周にわたって覆い、筒状部品100はマット材を介して電気加熱型担体50を保持し得る。
【0056】
電気加熱型担体50に触媒を担持することにより、電気加熱型担体50を触媒体として使用することができる。電気加熱型担体50がハニカム構造体である場合、隔壁55が触媒を担持することができる。隔壁55に触媒を担持させることにより、セル54を通過する排ガス中のCO、NOx、炭化水素などを触媒反応によって無害な物質にすることが可能となる。触媒としては、例えば、貴金属系触媒又はそれ以外の触媒が挙げられる。貴金属系触媒としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)といった貴金属をアルミナ細孔表面に担持し、セリア、ジルコニア等の助触媒を含む三元触媒や酸化触媒、又は、アルカリ土類金属と白金を窒素酸化物(NOx)の吸蔵成分として含むNOx吸蔵還元触媒(LNT触媒)が例示される。貴金属を用いない触媒として、銅置換又は鉄置換ゼオライトを含むNOx選択還元触媒(SCR触媒)等が例示される。また、これらの触媒から選択される二種以上の触媒を用いてもよい。なお、触媒の担持方法についても特に制限はなく、公知の担持方法を採用することができる。
【実施例0057】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を例示するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0058】
<1.排ガス処理装置用筒状部品の製造>
(実施例1)
SUS430製の肉厚3mmの円筒状の金属管の内周面を#24のアルミナ砥粒を用いたサンドブラスト処理に供した。処理時間は1分間とした。サンドブラスト処理後の金属管の内周面について、JIS B0601:2013に従う算術平均粗さRaをミツトヨ社製型式SJ-210の触針式表面粗さ測定機によって、金属管の周方向に沿って測定したところ、0.6μmであった。
【0059】
一方、珪砂(Si源)、B2O3、Mg(OH)2、BaCO3を所定量配合した素原料を溶融し、ガラスフリットを作製した。得られたガラスフリットを湿式ボールミル法で粉砕し、分級することで、メジアン径が20μmのガラスフリットを得た。ガラスフリットのメジアン径は、JIS Z8825:2013「粒子径解析-レーザー回折・散乱法」に準じて算出した。このガラスフリット100質量部に水100質量部を加えて、ボールミル処理器で湿式混合し、ガラス原料分散体(スラリー)を調製した。得られたスラリーの20℃における粘度を、粘度計(リオン社製型式VT-06)を用いて先述した方法で測定した。結果を表1に示す。
【0060】
上記で得たサンドブラスト処理後の金属管の内周面全体にガラス原料分散体をスプレー塗布して塗膜を形成し、50℃で乾燥させた。次いで、乾燥塗膜が形成された金属管を860℃の加熱炉内で焼成することで絶縁層を形成し、排ガス処理装置用筒状部品を製造した。この排ガス処理装置用筒状部品は、下記の試験に供するのに必要な数だけ製造した。
【0061】
(実施例2)
サンドブラスト処理の条件を変えることで円筒状金属管の内周面のRaを0.9μmに変え、分級条件を変更することでガラスフリットのメジアン径を30μmに変え、スラリーの粘度が実施例1と同程度になるようにスラリー中の水の配合比を変更した他は、実施例1と同じ手順で排ガス処理装置用筒状部品を下記の試験に必要な数だけ製造した。
【0062】
(実施例3)
サンドブラスト処理の条件を変えることで円筒状金属管の内周面のRaを1.8μmに変え、分級条件を変更することでガラスフリットのメジアン径を30μmに変え、スラリーの粘度が表1に記載の範囲内に入るようにスラリー中の水の配合比を変更した他は、実施例1と同じ手順で排ガス処理装置用筒状部品を下記の試験に必要な数だけ製造した。
【0063】
(実施例4)
サンドブラスト処理の条件を変えることで円筒状金属管の内周面のRaを4.5μmに変え、分級条件を変更することでガラスフリットのメジアン径を40μmに変え、スラリーの粘度が表1に記載の範囲内に入るようにスラリー中の水の配合比を変更した他は、実施例1と同じ手順で排ガス処理装置用筒状部品を下記の試験に必要な数だけ製造した。
【0064】
(実施例5)
サンドブラスト処理の条件を変えることで円筒状金属管の内周面のRaを7.2μmに変え、分級条件を変更することでガラスフリットのメジアン径を50μmに変え、スラリーの粘度が表1に記載の範囲内に入るようにスラリー中の水の配合比を変更した他は、実施例1と同じ手順で排ガス処理装置用筒状部品を下記の試験に必要な数だけ製造した。
【0065】
(比較例1)
サンドブラスト処理の条件を変えることで円筒状金属管の内周面のRaを0.1μmに変え、分級条件を変更することでガラスフリットのメジアン径を5μmに変え、スラリーの粘度が表1に記載の範囲内に入るようにスラリー中の水の配合比を変更した他は、実施例1と同じ手順で排ガス処理装置用筒状部品を下記の試験に必要な数だけ製造した。
【0066】
(比較例2)
サンドブラスト処理の条件を変えることで筒状金属管の内周面のRaを12.0μmに変え、分級条件を変更することでガラスフリットのメジアン径を60μmに変え、スラリーの粘度が表1に記載の範囲内に入るようにスラリー中の水の配合比を変更した他は、実施例1と同じ手順で排ガス処理装置用筒状部品を下記の試験に必要な数だけ製造した。
【0067】
(比較例3)
SUS430製の肉厚3mmの円筒状の金属管の内周面を#24~60のアルミナ砥粒を用いたサンドブラスト処理に供した。処理時間は1分間とした。サンドブラスト処理後の金属管の内周面について、JIS B0601:2013に従う算術平均粗さRaをミツトヨ社製型式SJ-210の触針式表面粗さ測定機によって、金属管の周方向に沿って測定したところ、2.0μmであった。
【0068】
次いで、実施例1で作製したガラスフリットの分級条件を変更することでメジアン径を30μmに変更したガラスフリット100質量部に対して水100質量部加え、ボールミル処理器で湿式混合してガラス原料分散体(スラリー)を得た。
【0069】
上記で得たサンドブラスト処理後の金属管の内周面全体にガラス原料分散体をスプレー塗布して塗膜を形成し、50℃で60分間乾燥させた。次いで、国際公開第2021/176767号の
図2及び
図3に示されるような溝形状の凹部を形成するために、乾燥塗膜に凹部に対応する凸部を有する型を押し付け、金属管を860℃の加熱炉内で10分間焼成することで凹凸部の高低差が23.0μmの絶縁層を形成し、排ガス処理装置用筒状部品を製造した。この排ガス処理装置用筒状部品は、下記の試験に供するのに必要な数だけ製造した。
【0070】
<2.排ガス処理装置用筒状部品の特性>
【0071】
(2-1.絶縁層の厚み)
上記で得られた各排ガス処理装置用筒状部品の絶縁層の厚みについて、排ガス処理装置用筒状部品の中心軸Oを通り、排ガスの流れ方向に平行な任意の断面を切り出し、先述した測定方法で測定した。結果を表1に示す。
【0072】
(2-2.絶縁層の表面粗さ)
上記で得られた各排ガス処理装置用筒状部品の絶縁層の外表面について、JIS B0601:2013に従う算術平均粗さRa及び十点平均粗さRzjis94を、ミツトヨ社製型式SJ-210の触針式表面粗さ測定機によって、金属管の周方向に沿って測定した。結果を表1に示す。
【0073】
(2-3.絶縁層の静摩擦係数)
上記で得られた各排ガス処理装置用筒状部品の絶縁層の外表面について、JIS K7125:1999に準拠し、静摩擦係数を測定した。結果を表1に示す。
【0074】
(2-4.絶縁層の結晶性)
上記で得られた各排ガス処理装置用筒状部品の絶縁層が、結晶質であるか非晶質であるかを、X線回折法(XRD)により、判別した。回折線に結晶の回折ピークが得られた場合は、結晶化している(結晶質)と判別し、回折線がハローで回折ピークが得られなかった場合は、非晶質と判別した。結果を表1に示す。
【0075】
(2-5.絶縁層の組成)
上記で得られた各排ガス処理装置用筒状部品の絶縁層を構成するガラス中の酸素原子を除く元素含有量を、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析法により測定した。結果を表1に示す。
【0076】
(2-6.キャニング性)
外形が直径80mm、長さ65mmの円柱状である、日本ガイシ製のハニカム構造体を常法に従って作製した。このハニカム構造体を、上記で得られた各排ガス処理装置用筒状部品の中空部に挿通して把持した。タクタイルセンサで把持圧力を測定したところ、0.5MPaであった。その後、温度600℃で押し抜き速度1mm/minでハニカム構造体を押し抜いたときの最大荷重(N)を測定し、キャニング性の指標とした。キャニング性の評価は以下の基準で行った。結果を表1に示す。
○(良好):最大荷重が450N以上
△(許容可能):最大荷重が250N以上450N未満
×(不良):最大荷重が250N未満
【0077】
(2-7.耐熱衝撃性)
上記で得られた各排ガス処理装置用筒状部品を、雰囲気温度が900℃の加熱炉内に30分置いた後、すぐに、雰囲気温度が150℃の加熱炉内に置き換えて5分置いた。その後、加熱炉から取り出して絶縁層のクラックの有無を目視により確認した。これを1サイクルとして繰り返し、絶縁層にクラックが発生するまでのサイクル数を測定し、以下の基準で耐熱衝撃性を評価した。
○(良好):9サイクル以上繰り返してもクラック発生せず(10回で終了)
△(許容可能):5サイクル~8サイクルでクラック発生
×(不良):1サイクル~4サイクルでクラック発生
【0078】
【0079】
<3.考察>
比較例1では、排ガス処理装置用筒状部品の絶縁層の外表面における算術平均粗さRa及び十点平均粗さRzjis94が小さすぎ、キャニング性が悪かった。比較例2では、排ガス処理装置用筒状部品の絶縁層の外表面における算術平均粗さRa及び十点平均粗さRzjis94が大きすぎ、キャニング性及び耐熱衝撃性が共に悪かった。比較例3では、排ガス処理装置用筒状部品の絶縁層の外表面における算術平均粗さRaが大きすぎ、耐熱衝撃性が悪かった。一方、実施例1~5においては、排ガス処理装置用筒状部品の絶縁層の外表面における算術平均粗さRa及び十点平均粗さRzjis94の両者が適切な範囲に調整されていたことで、キャニング性及び耐熱衝撃性に優れた排ガス処理装置用筒状部品が得られた。