(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143858
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】柱状ハニカム構造フィルタ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 39/20 20060101AFI20241003BHJP
B01D 46/00 20220101ALI20241003BHJP
F01N 3/022 20060101ALI20241003BHJP
C04B 38/00 20060101ALI20241003BHJP
C04B 41/85 20060101ALI20241003BHJP
C04B 35/195 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B01D39/20 D
B01D46/00 302
F01N3/022 C
C04B38/00 303Z
C04B41/85 Z
C04B35/195
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056773
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】高田 大暉
(72)【発明者】
【氏名】土屋 祐典
(72)【発明者】
【氏名】永井 隼悟
【テーマコード(参考)】
3G190
4D019
4D058
4G019
【Fターム(参考)】
3G190AA02
3G190AA12
3G190AA13
3G190BA02
3G190CA03
3G190CA13
4D019AA01
4D019BA05
4D019BB06
4D019BC07
4D019BD01
4D019CA01
4D019CB04
4D019CB06
4D019CB07
4D058JA37
4D058JA38
4D058JB06
4D058JB28
4D058SA08
4D058TA06
4G019FA12
(57)【要約】
【課題】PM捕集性能が改善された柱状ハニカム構造フィルタを提供する。
【解決手段】入口側底面から出口側底面まで延び、入口側底面が開口して出口側底面に目封止部を有する複数の第1セルと、入口側底面から出口側底面まで延び、入口側底面に目封止部を有し、出口側底面が開口する複数の第2セルとを備え、複数の第1セルと複数の第2セルは多孔質隔壁を挟んで交互に隣接配置されている柱状ハニカム構造フィルタであって、それぞれの第1セルの表面には、複数の粒子で構成される多孔質膜が形成されており、前記多孔質膜を膜厚方向に平行な断面で観察し、前記複数の粒子について、隣り合う粒子間の膜厚方向に垂直な方向の距離である粒子間距離を測定し、粒子間距離の度数分布を求めると、累積比率90%となる粒子間距離(D90)が12.0μm以下である、
柱状ハニカム構造フィルタ。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入口側底面から出口側底面まで延び、入口側底面が開口して出口側底面に目封止部を有する複数の第1セルと、入口側底面から出口側底面まで延び、入口側底面に目封止部を有し、出口側底面が開口する複数の第2セルとを備え、複数の第1セルと複数の第2セルは多孔質隔壁を挟んで交互に隣接配置されている柱状ハニカム構造フィルタであって、
それぞれの第1セルの表面には、複数の粒子で構成される多孔質膜が形成されており、
前記多孔質膜を膜厚方向に平行な断面で観察し、前記複数の粒子について、隣り合う粒子間の膜厚方向に垂直な方向の距離である粒子間距離を測定し、粒子間距離の度数分布を求めると、累積比率90%となる粒子間距離(D90)が12.0μm以下である、
柱状ハニカム構造フィルタ。
【請求項2】
前記累積比率90%となる粒子間距離(D90)が、11.0μm以下である請求項1に記載の柱状ハニカム構造フィルタ。
【請求項3】
前記多孔質膜を膜厚方向に平行な断面で観察し、前記複数の粒子について、隣り合う粒子間の膜厚方向に垂直な方向の距離である粒子間距離を測定し、粒子間距離の度数分布を求めると、粒子間距離の平均値が5.3μm以下である請求項1に記載の柱状ハニカム構造フィルタ。
【請求項4】
前記粒子間距離の平均値が5.0μm以下である請求項3に記載の柱状ハニカム構造フィルタ。
【請求項5】
前記多孔質膜を膜厚方向に平行な断面で観察し、前記複数の粒子について、隣り合う粒子間の膜厚方向に垂直な方向の距離である粒子間距離を測定し、粒子間距離の度数分布を求めると、粒子間距離の標準偏差が3.6μm以下である請求項1又は3に記載の柱状ハニカム構造フィルタ。
【請求項6】
前記粒子間距離の標準偏差が3.4μm以下である請求項5に記載の柱状ハニカム構造フィルタ。
【請求項7】
前記多孔質膜の平均膜厚が2~40μmである請求項1又は2に記載の柱状ハニカム構造フィルタ。
【請求項8】
前記多孔質膜の主成分が炭化珪素、アルミナ、シリカ、コージェライト又はムライトである請求項1又は2に記載の柱状ハニカム構造フィルタ。
【請求項9】
入口側底面から出口側底面まで延び、入口側底面が開口して出口側底面に目封止部を有する複数の第1セルと、入口側底面から出口側底面まで延び、入口側底面に目封止部を有し、出口側底面が開口する複数の第2セルとを備え、複数の第1セルと複数の第2セルは多孔質隔壁を挟んで交互に隣接配置されている柱状ハニカム構造体を用意する工程と、
入口側底面に対して垂直な方向から入口側底面に向かって、セラミックス粒子を含有するエアロゾルをエアロゾルジェネレータのノズルから噴射しながら、出口側底面に吸引力を与えて、噴射されたエアロゾルを入口側底面から吸引し、第1セルの表面に前記セラミックス粒子を付着させる工程と、
第1セルの表面に付着した前記セラミックス粒子を焼付処理し、第1セルの表面に複数の粒子で構成される多孔質膜を生成する工程と、
を含み、
前記エアロゾルジェネレータは、BET比表面積が3.5m2/g以上の前記セラミックス粒子を収容する収容部を有しており、前記セラミックス粒子は前記収容部から前記ノズルに供給されるように構成されている、
柱状ハニカム構造フィルタの製造方法。
【請求項10】
前記収容部は、BET比表面積が4.0m2/g以上の前記セラミックス粒子を収容する請求項9に記載の柱状ハニカム構造フィルタの製造方法。
【請求項11】
前記エアロゾルジェネレータは、加圧された駆動ガスを流すための駆動ガス流路、当該駆動ガス流路の途中に設けられて当該駆動ガス流路の外周側から当該駆動ガス流路内に向かって前記セラミックス粒子を前記収容部から吸引可能な供給口、及び、当該駆動ガス流路の先端に取り付けられてエアロゾルを噴射可能な前記ノズルを備える、
請求項9又は10に記載の柱状ハニカム構造フィルタの製造方法。
【請求項12】
前記収容部は、レーザー回折・散乱法により測定される体積基準の累積粒度分布におけるメジアン径(D50)が0.5~3.0μmの前記セラミックス粒子を収容する請求項9又は10に記載の柱状ハニカム構造フィルタの製造方法。
【請求項13】
前記焼付処理は、炉内雰囲気温度が1100~1300℃の加熱炉内に、第1セルの表面に付着した前記セラミックス粒子を有する前記柱状ハニカム構造体を1.5~4時間保持することを含む請求項9又は10に記載の柱状ハニカム構造フィルタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は柱状ハニカム構造フィルタに関する。また、本発明は柱状ハニカム構造フィルタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン及びガソリンエンジン等の内燃機関から排出される排ガス中にはスス等の粒子状物質(以下、PM:Particulate Matterと記す。)が含まれる。ススは人体に対し有害であり排出が規制されている。現在、排ガス規制に対応するために、通気性のある小細孔隔壁に排ガスを通過させ、スス等のPMを濾過するDPF及びGPFに代表されるフィルタが幅広く用いられている。
【0003】
PMを捕集するためのフィルタとしては、入口側底面から出口側底面まで高さ方向に延び、入口側底面が開口して出口側底面に目封止部を有する複数の第1セルと、第1セルに隔壁を挟んで隣接配置されており、入口側底面から出口側底面まで高さ方向に延び、入口側底面に目封止部を有し出口側底面が開口する複数の第2セルとを備えたウォールフロー式の柱状ハニカム構造フィルタが知られている。
【0004】
近年、排ガス規制強化に伴い、より厳しいPMの排出基準(PN規制:Particle Matterの個数規制)が導入されており、フィルタにはPMの高捕集性能(PN高捕集効率)が要求されている。そこで、セルの表面にPMを捕集するための層(以下、「多孔質膜」又は「捕集層」ともいう。)を形成することが提案されている(特許文献1~3)。多孔質膜を形成することにより、圧力損失を低減させつつPMの捕集を行うことができる。多孔質膜の形成方法としては、柱状ハニカム構造体の入口側底面に向かって、セラミックス粒子を含有するエアロゾルを供給し、第1セルの表面に付着させた後、熱処理を行う方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-154272号公報
【特許文献2】特開2021-154274号公報
【特許文献3】特開2022-157612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
柱状ハニカム構造フィルタのPM捕集性能を向上する上で、セルの表面に多孔質膜を形成することは有効であると考えられる。しかしながら、従来、多孔質膜を製造するための方法については種々検討されているが、多孔質膜自体の構造がPM捕集性能に与える影響については解明が進んでいなかった。例えば、これまで多孔質膜の膜厚及び膜形成処理前の原料粒子の粒度がPM捕集性能に与える影響が確認されている程度であった。特許文献3には多孔質膜の平均細孔径について言及されているが、PM捕集性能を改善する余地が残されている。
【0007】
上記事情に鑑み、本発明は一実施形態において、PM捕集性能が改善された柱状ハニカム構造フィルタを提供することを課題とする。また、本発明は別の一実施形態において、そのような柱状ハニカム構造フィルタの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討したところ、多孔質膜に含まれる粒子間距離がPM捕集性能と関係が深く、特に累積比率90%となる粒子間距離(D90)を制御することがPM捕集性能の改善に効果的であることを見出した。本発明は当該知見に基づいて完成したものであり、以下に例示される。
【0009】
[態様1]
入口側底面から出口側底面まで延び、入口側底面が開口して出口側底面に目封止部を有する複数の第1セルと、入口側底面から出口側底面まで延び、入口側底面に目封止部を有し、出口側底面が開口する複数の第2セルとを備え、複数の第1セルと複数の第2セルは多孔質隔壁を挟んで交互に隣接配置されている柱状ハニカム構造フィルタであって、
それぞれの第1セルの表面には、複数の粒子で構成される多孔質膜が形成されており、
前記多孔質膜を膜厚方向に平行な断面で観察し、前記複数の粒子について、隣り合う粒子間の膜厚方向に垂直な方向の距離である粒子間距離を測定し、粒子間距離の度数分布を求めると、累積比率90%となる粒子間距離(D90)が12.0μm以下である、
柱状ハニカム構造フィルタ。
[態様2]
前記累積比率90%となる粒子間距離(D90)が、11.0μm以下である態様1に記載の柱状ハニカム構造フィルタ。
[態様3]
前記多孔質膜を膜厚方向に平行な断面で観察し、前記複数の粒子について、隣り合う粒子間の膜厚方向に垂直な方向の距離である粒子間距離を測定し、粒子間距離の度数分布を求めると、粒子間距離の平均値が5.3μm以下である態様1又は2に記載の柱状ハニカム構造フィルタ。
[態様4]
前記粒子間距離の平均値が5.0μm以下である態様3に記載の柱状ハニカム構造フィルタ。
[態様5]
前記多孔質膜を膜厚方向に平行な断面で観察し、前記複数の粒子について、隣り合う粒子間の膜厚方向に垂直な方向の距離である粒子間距離を測定し、粒子間距離の度数分布を求めると、粒子間距離の標準偏差が3.6μm以下である態様1~4の何れかに記載の柱状ハニカム構造フィルタ。
[態様6]
前記粒子間距離の標準偏差が3.4μm以下である態様5に記載の柱状ハニカム構造フィルタ。
[態様7]
前記多孔質膜の平均膜厚が2~40μmである態様1~6の何れかに記載の柱状ハニカム構造フィルタ。
[態様8]
前記多孔質膜の主成分が炭化珪素、アルミナ、シリカ、コージェライト又はムライトである態様1~7の何れかに記載の柱状ハニカム構造フィルタ。
[態様9]
入口側底面から出口側底面まで延び、入口側底面が開口して出口側底面に目封止部を有する複数の第1セルと、入口側底面から出口側底面まで延び、入口側底面に目封止部を有し、出口側底面が開口する複数の第2セルとを備え、複数の第1セルと複数の第2セルは多孔質隔壁を挟んで交互に隣接配置されている柱状ハニカム構造体を用意する工程と、
入口側底面に対して垂直な方向から入口側底面に向かって、セラミックス粒子を含有するエアロゾルをエアロゾルジェネレータのノズルから噴射しながら、出口側底面に吸引力を与えて、噴射されたエアロゾルを入口側底面から吸引し、第1セルの表面に前記セラミックス粒子を付着させる工程と、
第1セルの表面に付着した前記セラミックス粒子を焼付処理し、第1セルの表面に複数の粒子で構成される多孔質膜を生成する工程と、
を含み、
前記エアロゾルジェネレータは、BET比表面積が3.5m2/g以上の前記セラミックス粒子を収容する収容部を有しており、前記セラミックス粒子は前記収容部から前記ノズルに供給されるように構成されている、
柱状ハニカム構造フィルタの製造方法。
[態様10]
前記収容部は、BET比表面積が4.0m2/g以上の前記セラミックス粒子を収容する態様9に記載の柱状ハニカム構造フィルタの製造方法。
[態様11]
前記エアロゾルジェネレータは、加圧された駆動ガスを流すための駆動ガス流路、当該駆動ガス流路の途中に設けられて当該駆動ガス流路の外周側から当該駆動ガス流路内に向かって前記セラミックス粒子を前記収容部から吸引可能な供給口、及び、当該駆動ガス流路の先端に取り付けられてエアロゾルを噴射可能な前記ノズルを備える、
態様9又は10に記載の柱状ハニカム構造フィルタの製造方法。
[態様12]
前記収容部は、レーザー回折・散乱法により測定される体積基準の累積粒度分布におけるメジアン径(D50)が0.5~3.0μmの前記セラミックス粒子を収容する態様9~11の何れかに記載の柱状ハニカム構造フィルタの製造方法。
[態様13]
前記焼付処理は、炉内雰囲気温度が1100~1300℃の加熱炉内に、第1セルの表面に付着した前記セラミックス粒子を有する前記柱状ハニカム構造体を1.5~4時間保持することを含む態様9~12の何れかに記載の柱状ハニカム構造フィルタの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一実施形態に係る柱状ハニカム構造フィルタによれば、PM捕集性能が改善された柱状ハニカム構造フィルタを提供することができる。また、柱状ハニカム構造フィルタの多孔質膜に含まれる粒子間距離とPM捕集性能の関係が解明されたので、この関係を性能評価の基礎として用いることで、柱状ハニカム構造フィルタの開発スピードを加速することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】柱状ハニカム構造フィルタの一例を模式的に示す斜視図である。
【
図2】柱状ハニカム構造フィルタの一例をセルの延びる方向に平行な断面から観察したときの模式的な断面図である。
【
図3】柱状ハニカム構造フィルタをセルの延びる方向に直交する断面から観察したときの模式的な部分拡大図である。
【
図4】エアロゾルジェネレータの構造例を模式的に示す図である。
【
図5】粒子付着装置の構成例を説明するための模式図である。
【
図6】多孔質膜を膜厚方向に平行な断面で観察した時のSEM画像の例である。
【
図7】粒子間距離(D90)と捕集性能の関係を示すグラフである。
【
図8】多孔質膜の平均厚みを求めるために切り出した柱状ハニカム構造フィルタ断面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に本発明の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0013】
<1.柱状ハニカム構造フィルタ>
本発明の一実施形態に係る柱状ハニカム構造フィルタについて説明する。柱状ハニカム構造フィルタは、燃焼装置、典型的には車両に搭載されるエンジンからの排ガスラインに装着されるススを捕集するDPF(Diesel Particulate Filter)及びGPF(Gasoline Particulate Filter)として使用可能である。本発明に係る柱状ハニカム構造フィルタは、例えば、排気管内に設置することができる。
【0014】
図1及び
図2には、柱状ハニカム構造フィルタ100の模式的な斜視図及び断面図がそれぞれ例示されている。この柱状ハニカム構造フィルタ100は、外周側壁102と、外周側壁102の内周側に配置され、入口側底面104から出口側底面106まで平行に延び、入口側底面104が開口して出口側底面106に目封止部109を有する複数の第1セル108と、外周側壁102の内周側に配置され、入口側底面104から出口側底面106まで平行に延び、入口側底面104に目封止部109を有し、出口側底面106が開口する複数の第2セル110とを備える。この柱状ハニカム構造フィルタ100においては、第1セル108及び第2セル110が多孔質の隔壁112を挟んで交互に隣接配置されていることにより、入口側底面104及び出口側底面106はそれぞれハニカム状を呈している。
【0015】
柱状ハニカム構造フィルタ100の上流側の入口側底面104にスス等の粒子状物質(PM)を含む排ガスが供給されると、排ガスは第1セル108に導入されて第1セル108内を下流に向かって進む。第1セル108は下流側の出口側底面106に目封止部109を有するため、排ガスは第1セル108と第2セル110を区画する多孔質の隔壁112を透過して第2セル110に流入する。粒子状物質は隔壁112を通過できないため、第1セル108内に捕集され、堆積する。粒子状物質が除去された後、第2セル110に流入した清浄な排ガスは第2セル110内を下流に向かって進み、下流側の出口側底面106から流出する。
【0016】
図3には、柱状ハニカム構造フィルタ100をセル108、110の延びる方向に直交する断面で観察したときの模式的な部分拡大図が示されている。柱状ハニカム構造フィルタ100のそれぞれの第1セル108の表面(第1セル108を区画形成する隔壁112の表面に同じ。)には、多孔質膜114が形成されている。
【0017】
多孔質膜114は複数の粒子で構成されている。多孔質膜114を構成する複数の粒子は互いに結合した三次元構造を有する。多孔質膜114を膜厚方向に平行な断面で観察し、多孔質膜114を構成する複数の粒子について、隣り合う粒子間の膜厚方向に垂直な方向の距離である粒子間距離を測定し、粒子間距離の度数分布を求めると、累積比率90%となる粒子間距離(D90)が短くなるにつれてPM捕集性能が向上しやすい。後述する粒子間距離の平均値を制御することも有意義であるが、D90のような大細孔にガスがより流れやすくなるため、粒子間距離(D90)を制御する方がPM捕集性能の改善には効果的である。
【0018】
具体的には、粒子間距離(D90)は、12.0μm以下であることが好ましく、11.0μm以下であることがより好ましく、10.0μm以下であることが更により好ましく、9.0μm以下であることが更により好ましく、8.0μm以下であることが更により好ましい。粒子間距離(D90)の下限は特に設定されないが、圧力損失を抑制するという観点及びPM捕集性能の改善効果が飽和するという観点から、D90は、0.5μm以上であることが好ましく、0.75μm以上であることがより好ましく、1.0μm以上であることが更により好ましく、1.5μm以上であることが更により好ましく、2.0μm以上であることが更により好ましい。従って、粒子間距離(D90)は例えば、0.5~12.0μmであることが好ましく、0.75~11.0μmであることがより好ましく、1.0~10.0μmであることがより好ましく、1.5~9.0μmであることがより好ましく、2.0~8.0μmであることが更により好ましい。
【0019】
多孔質膜114を膜厚方向に平行な断面で観察し、多孔質膜114を構成する複数の粒子について、隣り合う粒子間の膜厚方向に垂直な方向の距離である粒子間距離を測定し、粒子間距離の度数分布を求めると、粒子間距離の(算術)平均値も短い方がPM捕集性能を高める上で望ましい。
【0020】
具体的には、粒子間距離の平均値は、5.3μm以下であることが好ましく、5.0μm以下であることがより好ましく、4.5μm以下であることが更により好ましく、4.0μm以下であることが更により好ましい。粒子間距離の平均値の下限は特に設定されないが、圧力損失を抑制するという観点及びPM捕集性能の改善効果が飽和するという観点から、粒子間距離の平均値は、0.25μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましく、0.75μm以上であることが更により好ましく、1.0μm以上であることが更により好ましい。従って、粒子間距離の平均値は例えば、0.25~5.3μmであることが好ましく、0.5~5.0μmであることがより好ましく、0.75~4.5μmであることが更により好ましく、1.0~4.0μmであることが更により好ましい。
【0021】
多孔質膜114を膜厚方向に平行な断面で観察し、多孔質膜114を構成する複数の粒子について、隣り合う粒子間の膜厚方向に垂直な方向の距離である粒子間距離を測定し、粒子間距離の度数分布を求めると、粒子間距離の標準偏差も小さい方がPM捕集性能を高める上で望ましい。
【0022】
具体的には、粒子間距離の標準偏差は、3.6μm以下であることが好ましく、3.4μm以下であることがより好ましく、3.2μm以下であることが更により好ましい。粒子間距離の標準偏差の下限は特に設定されず、0でもよいが、製造容易性の観点から、粒子間距離の標準偏差は、0.5μm以上であることが好ましく、0.7μm以上であることがより好ましい。従って、粒子間距離の標準偏差は例えば、0.5~3.6μmであることが好ましく、0.5~3.4μmであることがより好ましく、0.7~3.2μmであることが更により好ましい。
【0023】
多孔質膜114を膜厚方向に平行な断面で観察し、多孔質膜114を構成する複数の粒子について、隣り合う粒子間の膜厚方向に垂直な方向の距離である粒子間距離を測定する手順は以下の通りである。柱状ハニカム構造フィルタの入口側底面付近の中心軸(径方向中心)付近、出口側底面付近の中心軸付近、高さ方向(セルの延びる方向の長さ方向)中心付近の中心軸付近からそれぞれ試料(サイズ=10mm×10mm×10mm)を採取する。
【0024】
次いで、各試料の多孔質膜の膜厚方向に平行な断面を電子顕微鏡(SEM)によって倍率1000で観察する。次いで、画像解析ソフトを使用して、SEM画像に対して空間部と固体部の2値化処理を行う。
【0025】
多孔質膜を隔壁との境界付近、外表面付近、及び厚み中央付近の三つの領域に分け、それぞれの領域において、膜厚方向に垂直な方向の直線(SME画像上のスケールで長さ70μm、線幅0.5μm)を引き、これらの直線がそれぞれ横切る各空間部(=粒子間距離)の線分長さを測定し、度数分布を求める。
【0026】
この際、隔壁との境界付近の領域においては隔壁部分が含まれないように直線を引く。また、外表面は必ずしも平坦ではなく、凹凸がある場合があるが、外表面を形成する凹凸による空間部が含まれないように、外表面付近の領域における直線を引く。また、3本の直線は等間隔で引く。
図6に実施例1の多孔質膜の断面SEM画像の例と共に3本の直線を示す。
【0027】
このようにして3つの試料のすべてについて、それぞれ粒子間距離の度数分布を求め、それぞれについて、粒子間距離(D90)、粒子間距離の平均値、及び粒子間距離の標準偏差の3つのパラメータを算出する。そして、3つの試料の結果から、それぞれのパラメータの平均値を求め、柱状ハニカム構造フィルタとしての測定値とする。
【0028】
多孔質膜の平均膜厚の下限は、PM捕集性能を高めるという観点から、2μm以上であることが好ましく、4μm以上であることがより好ましく、6μm以上であることが更により好ましい。また、多孔質膜の平均膜厚の上限は、圧力損失の上昇を抑制するという観点から、40μm以下であることが好ましく、35μm以下であることがより好ましく、30μm以下であることが更により好ましい。従って、多孔質膜の平均膜厚は、例えば、2~40μmであることが好ましく、4~35μmであることがより好ましく、6~30μmであることが更により好ましい。
【0029】
多孔質膜の平均膜厚は以下の方法で測定する。柱状ハニカム構造フィルタの第1セルの延びる方向を座標軸の延びる方向とし、入口側底面の座標値を0、出口側底面の座標値をXとする。そして、以下のA1、A2、A3、B1、B2、B3の6箇所において多孔質膜の平均厚みを5視野ずつ測定し、これらの全体の平均値を柱状ハニカム構造体の多孔質膜の平均膜厚とする。
A1:座標値0.1X~0.3Xの範囲における柱状ハニカム構造フィルタの第1セルの延びる方向に直交する断面における中心部。
B1:座標値0.1X~0.3Xの範囲における柱状ハニカム構造フィルタの第1セルの延びる方向に直交する断面における外周部。
A2:座標値0.4X~0.6Xの範囲における柱状ハニカム構造フィルタの第1セルの延びる方向に直交する断面における中心部。
B2:座標値0.4X~0.6Xの範囲における柱状ハニカム構造フィルタの第1セルの延びる方向に直交する断面における外周部。
A3:座標値0.7X~0.9Xの範囲における柱状ハニカム構造フィルタの第1セルの延びる方向に直交する断面における中心部。
B3:座標値0.7X~0.9Xの範囲における柱状ハニカム構造フィルタの第1セルの延びる方向に直交する断面における外周部。
【0030】
多孔質膜の平均厚みを測定する際の柱状ハニカム構造フィルタの中心部及び外周部は以下のように決定される。柱状ハニカム構造フィルタを第1セルの延びる方向に直交する断面から観察したときに、当該断面の重心から外周側壁の外表面に向かって線分を引き、当該線分の延びる方向を座標軸の延びる方向とし、重心の座標値を0、外周側壁の外表面の座標値をRとする。この場合、当該線分において、座標値0~0.2Rの範囲が中心部であり、座標値0.7R~0.9Rの範囲が外周部である。このような線分を当該断面において多数引き、各線分における中心部と外周部を集合すると、当該断面における中心部及び外周部の範囲が得られる。
【0031】
A1、A2、A3、B1、B2、B3の各箇所における多孔質膜の平均厚みは以下の方法により測定される。柱状ハニカム構造フィルタの多孔質膜の平均厚みを求めたい箇所(中心部又は外周部)から、第1セルの延びる方向に平行であり、且つ、外周側壁の外表面から重心に向かう線分に平行な断面を切り出す。3D形状測定機(例:キーエンス社製VR-3200)により、倍率25倍、観察視野12.5mm(横)×9.5mm(縦)の条件で当該断面を観察する。この際、観察視野の横方向が第1セルの延びる方向と平行になるように観察する。
【0032】
図8には、切り出した断面の模式図が示されている。断面観察により、多孔質膜が形成されている第1セル108と多孔質膜が形成されていない第2セル110を特定する。次いで、当該断面上で最も中央に近い位置で隣接し合う三つの第1セル108を特定する。また、当該断面上で最も中央に近い位置で隣接し合う三つの第1セル108に挟まれた、二つの第2セル110の中央領域110a(基準面)をそれぞれ特定し、両領域のプロファイルから基準面が最も水平になる様、画像処理ソフト(例:キーエンス社製3D形状測定機VR-3200に付属のソフトウェア)で水平出しを行う。水平出しの後、二つの第2セル110)の中央領域110aについて、範囲指定を行いその領域の平均高さH2を測定する。また、水平出しの後、三つの第1セル108の中央領域108aについて、範囲指定を行いその領域の平均高さH1を測定する。一視野における平均高さH1と平均高さH2の差を、当該視野における多孔質膜の平均厚みとする。なお、中央領域108a、110aは、それぞれのセルを区画する一対の隔壁112の間の距離を三等分したときの中央部分の領域を指す。
【0033】
A1、A2、A3、B1、B2、B3の各箇所について、任意の5視野の多孔質膜の平均厚みを求め、それらをA1、A2、A3、B1、B2、B3の各箇所における多孔質膜の平均厚みとする。そして、これらの全体の平均値を柱状ハニカム構造フィルタの多孔質膜の平均膜厚とする。
【0034】
多孔質膜はセラミックスを材料とすることができる。例えば、多孔質膜はコージェライト、炭化珪素(SiC)、タルク、マイカ、ムライト、セルベン、チタン酸アルミニウム、アルミナ、窒化珪素、サイアロン、リン酸ジルコニウム、ジルコニア、チタニア及びシリカから選択される1種又は2種以上のセラミックスを含有することができる。多孔質膜の主成分は炭化珪素、アルミナ、シリカ、コージェライト又はムライトとすることが好ましい。中でも、表面酸化膜(Si2O)の存在により互いに強固に結合して剥離し難い多孔質膜が得られることから、多孔質膜の主成分は炭化珪素であることが好ましい。多孔質膜の主成分とは、多孔質膜の50質量%以上を占める成分を指す。多孔質膜はSiCが50質量%以上を占めることが好ましく、70質量%以上を占めることがより好ましく、90質量%以上を占めることが更により好ましい。多孔質膜を構成するセラミックスの形状には特に制限はないが、例えば粒状及び繊維状が挙げられる。
【0035】
柱状ハニカム構造フィルタの隔壁及び外周側壁を構成する材料としては、限定的ではないが、多孔質セラミックスを挙げることができる。セラミックスの種類としては、コージェライト、ムライト、リン酸ジルコニウム、チタン酸アルミニウム、炭化珪素(SiC)、珪素-炭化珪素複合材(例:Si結合SiC)、コージェライト-炭化珪素複合材、ジルコニア、スピネル、インディアライト、サフィリン、コランダム、チタニア、窒化珪素等が挙げられる。そして、これらのセラミックスは、1種を単独で含有するものでもよいし、2種以上を含有するものであってもよい。
【0036】
柱状ハニカム構造フィルタは、スス等のPMの燃焼を補助するPM燃焼触媒、酸化触媒(DOC)、窒素酸化物(NOx)を除去するためのSCR触媒及びNSR触媒、並びに、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)及び窒素酸化物(NOx)を同時に除去可能な三元触媒を担持する場合がある。本実施形態に係る柱状ハニカム構造フィルタにおいても種々の触媒を担持してもよい。
【0037】
柱状ハニカム構造フィルタの底面形状に制限はないが、例えば円形、楕円形、レーストラック形及び長円形等のラウンド形状の他、三角形及び四角形等の多角形とすることができる。
図1の柱状ハニカム構造フィルタ100は、底面形状が円形状であり、全体として円柱状である。
【0038】
柱状ハニカム構造フィルタの高さ(入口側底面から出口側底面までの長さ)は特に制限はなく、用途や要求性能に応じて適宜設定すればよい。柱状ハニカム構造フィルタの高さと各底面の最大径(柱状ハニカム構造フィルタの各底面の重心を通る径のうち、最大長さを指す)の関係についても特に制限はない。従って、柱状ハニカム構造フィルタの高さが各底面の最大径よりも長くてもよいし、柱状ハニカム構造フィルタの高さが各底面の最大径よりも短くてもよい。
【0039】
セルの延びる方向に垂直な断面におけるセルの形状に制限はないが、四角形、六角形、八角形、又はこれらの組み合わせであることが好ましい。これらのなかでも、正方形及び六角形が好ましい。セル形状をこのようにすることにより、柱状ハニカム構造フィルタに流体を流したときの圧力損失を小さくすることができる。
【0040】
柱状ハニカム構造フィルタは、一体成形品として提供することも可能である。また、柱状ハニカム構造フィルタは、それぞれが外周側壁を有する複数の柱状ハニカム構造フィルタのセグメントを、側面同士で接合して一体化し、セグメント接合体として提供することも可能である。柱状ハニカム構造フィルタをセグメント接合体として提供することにより、耐熱衝撃性を高めることができる。
【0041】
隔壁の気孔率の下限は、排ガスの圧力損失を低く抑えるという観点からは、40%以上であることが好ましく、44%以上であることがより好ましく、48%以上であることが更により好ましい。また、隔壁の気孔率の上限は、柱状ハニカム構造フィルタの強度を確保するという観点から、75%以下であることが好ましく、70%以下であることがより好ましく、65%以下であることが更により好ましい。従って、隔壁の気孔率は、例えば、40~75%であることが好ましく、44~70%であることがより好ましく、48~65%であることが更により好ましい。
【0042】
隔壁の気孔率は、以下の方法で測定される。柱状ハニカム構造フィルタの入口側底面付近の中心軸(径方向中心)付近、出口側底面付近の中心軸付近、高さ方向(セルの延びる方向の長さ方向)中心付近の中心軸付近からそれぞれ試料(サイズ=10mm×10mm×10mm)を採取する。次いで、各試料の隔壁断面(一視野当たりの大きさ:150μm×150μm)をSEM(走査型電子顕微鏡)によって1000倍の拡大率で撮影し、画像解析ソフトを用いて、空間部と固体部の2値化処理を行う。次に、視野中に空間部が占める面積比率を求め、当該比率の平均値を算出して当該試料における隔壁の気孔率(%)とする。そして、3つの試料の気孔率の平均値を求め、これを柱状ハニカム構造フィルタとしての測定値とする。
【0043】
柱状ハニカム構造フィルタにおける隔壁の平均厚みの上限は、圧力損失を抑制するという観点から、0.37mm以下であることが好ましく、0.35mm以下であることがより好ましく、0.33mm以下であることが更により好ましい。但し、柱状ハニカム構造フィルタの強度を確保するという観点からは、隔壁の平均厚みの下限は、0.10mm以上であることが好ましく、0.13mm以上であることがより好ましく、0.15mm以上であることが更により好ましい。従って、例えば、柱状ハニカム構造フィルタにおける隔壁の平均厚みは、0.10~0.37mmであることが好ましく、0.13~0.35mmであることがより好ましく、0.15~0.33mmであることが更により好ましい。
【0044】
本明細書において、隔壁の厚みは、セルの延びる方向に直交する断面において、隣接するセルの重心同士を線分で結んだときに当該線分が隔壁を横切る長さを指す。隔壁の平均厚みは、すべての隔壁の厚みの平均値を指す。
【0045】
セル密度(セルの延びる方向に垂直な単位断面積当たりのセルの数)は、特に制限はないが、例えば6~2000セル/平方インチ(0.9~311セル/cm2)、更に好ましくは50~1000セル/平方インチ(7.8~155セル/cm2)、特に好ましくは100~400セル/平方インチ(15.5~62.0セル/cm2)とすることができる。
【0046】
柱状ハニカム構造フィルタは、一体成形品として提供することも可能である。また、柱状ハニカム構造フィルタは、それぞれが外周側壁を有する複数の柱状ハニカム構造フィルタのセグメントを、側面同士で接合して一体化し、セグメント接合体として提供することも可能である。柱状ハニカム構造フィルタをセグメント接合体として提供することにより、耐熱衝撃性を高めることができる。
【0047】
<2.柱状ハニカム構造フィルタの製造方法>
柱状ハニカム構造フィルタの製造方法について以下に例示的に説明する。まず、セラミックス原料、分散媒、造孔材及びバインダーを含有する原料組成物を混練して坏土を形成した後、坏土を押出成形することにより所望の柱状ハニカム成形体に成形する。原料組成物中には分散剤等の添加剤を必要に応じて配合することができる。押出成形に際しては、所望の全体形状、セル形状、隔壁厚み、セル密度等を有する口金を用いることができる。
【0048】
柱状ハニカム成形体を乾燥した後、柱状ハニカム成形体の両底面の所定位置に目封止部を形成した上で目封止部を乾燥し、目封止部を有する柱状ハニカム成形体を得る。この後、柱状ハニカム成形体に対して脱脂及び焼成を実施することで柱状ハニカム構造体を得る。その後、柱状ハニカム構造体の第1セルの表面に多孔質膜を形成することで柱状ハニカム構造フィルタが得られる。
【0049】
セラミックス原料は焼成後に残存し、セラミックスとしてハニカム構造体の骨格を構成する部分の原料である。セラミックス原料としては、焼成後に上述したセラミックスを形成することのできる原料を使用することができる。セラミックス原料は例えば粉末の形態で提供することができる。セラミックス原料としては、コージェライト、ムライト、ジルコン、チタン酸アルミニウム、炭化珪素、窒化珪素、ジルコニア、スピネル、インディアライト、サフィリン、コランダム、チタニア等のセラミックスを得るための原料が挙げられる。具体的には、限定的ではないが、シリカ、タルク、アルミナ、カオリン、蛇紋石、パイロフェライト、ブルーサイト、ベーマイト、ムライト、マグネサイト、水酸化アルミニウム等が挙げられる。セラミックス原料は、1種類を単独で使用するものであっても、2種類以上を組み合わせて使用するものであってもよい。
【0050】
DPF及びGPF等のフィルタ用途の場合、セラミックスとしてコージェライトを好適に使用することができる。この場合、セラミックス原料としてはコージェライト化原料を使用することができる。コージェライト化原料とは、焼成によりコージェライトとなる原料である。コージェライト化原料は、アルミナ(Al2O3)(アルミナに変換される水酸化アルミニウムの分を含む):30~45質量%、マグネシア(MgO):11~17質量%及びシリカ(SiO2):42~57質量%の化学組成からなることが望ましい。
【0051】
分散媒としては、水、又は水とアルコール等の有機溶媒との混合溶媒等を挙げることができるが、特に水を好適に用いることができる。
【0052】
造孔材としては、焼成後に気孔となるものであれば、特に限定されず、例えば、小麦粉、澱粉、発泡樹脂、吸水性樹脂、多孔質シリカ、炭素(例:グラファイト)、セラミックスバルーン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエステル、アクリル、フェノール等を挙げることができる。造孔材は、1種類を単独で使用するものであっても、2種類以上を組み合わせて使用するものであってもよい。造孔材の含有量は、焼成体の気孔率を高めるという観点からは、セラミックス原料100質量部に対して0.5質量部以上であることが好ましく、2質量部以上であるのがより好ましく、3質量部以上であるのが更により好ましい。造孔材の含有量は、焼成体の強度を確保するという観点からは、セラミックス原料100質量部に対して10質量部以下であることが好ましく、7質量部以下であるのがより好ましく、4質量部以下であるのが更により好ましい。
【0053】
バインダーとしては、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等の有機バインダーを例示することができる。特に、メチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロースを併用することが好適である。また、バインダーの含有量は、ハニカム成形体の強度を高めるという観点から、セラミックス原料100質量部に対して4質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であるのがより好ましく、6質量部以上であるのが更により好ましい。バインダーの含有量は、焼成工程での異常発熱によるキレ発生を抑制する観点から、セラミックス原料100質量部に対して9質量部以下であることが好ましく、8質量部以下であるのがより好ましく、7質量部以下であるのが更により好ましい。バインダーは、1種類を単独で使用するものであっても、2種類以上を組み合わせて使用するものであってもよい。
【0054】
分散剤には、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリエーテルポリオール等を用いることができる。分散剤は、1種類を単独で使用するものであっても、2種類以上を組み合わせて使用するものであってもよい。分散剤の含有量は、セラミックス原料100質量部に対して0~2質量部であることが好ましい。
【0055】
柱状ハニカム成形体の底面を目封止する方法は、特に限定されるものではなく、公知の手法を採用することができる。目封止部の材料については、特に制限はないが、強度や耐熱性の観点からセラミックスであることが好ましい。セラミックスとしては、コージェライト、ムライト、ジルコン、チタン酸アルミニウム、炭化珪素、窒化珪素、ジルコニア、スピネル、インディアライト、サフィリン、コランダム、及びチタニアからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有するセラミックス材料であることが好ましい。焼成時の膨張率を同じにでき、耐久性の向上につながるため、目封止部はハニカム成形体の本体部分と同じ材料組成とすることが更により好ましい。
【0056】
ハニカム成形体を乾燥した後、脱脂及び焼成を実施することで柱状ハニカム構造体を製造することができる。乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程の条件はハニカム成形体の材料組成に応じて公知の条件を採用すればよく、特段に説明を要しないが以下に具体的な条件の例を挙げる。
【0057】
乾燥工程においては、例えば、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等の従来公知の乾燥方法を用いることができる。なかでも、成形体全体を迅速かつ均一に乾燥することができる点で、熱風乾燥と、マイクロ波乾燥又は誘電乾燥とを組み合わせた乾燥方法が好ましい。
【0058】
目封止部を形成する場合は、乾燥したハニカム成形体の両底面に目封止部を形成した上で目封止部を乾燥することが好ましい。目封止部は、入口側底面から出口側底面まで延び、入口側底面が開口して出口側底面に目封止部を有する複数の第1セルと、入口側底面から出口側底面まで延び、入口側底面に目封止部を有し、出口側底面が開口する複数の第2セルとが、多孔質隔壁を挟んで交互に隣接配置されるように、所定位置に形成する。
【0059】
次に脱脂工程について説明する。バインダーの燃焼温度は200℃程度、造孔材の燃焼温度は300~1000℃程度である。従って、脱脂工程はハニカム成形体を200~1000℃程度の範囲に加熱して実施すればよい。加熱時間は特に限定されないが、通常は10~100時間程度である。脱脂工程を経た後のハニカム成形体は仮焼体と称される。
【0060】
焼成工程は、ハニカム成形体の材料組成にもよるが、例えば仮焼体を1350~1600℃に加熱して、3~10時間保持することで行うことができる。このようにして、入口側底面から出口側底面まで延び、入口側底面が開口して出口側底面に目封止部を有する複数の第1セルと、入口側底面から出口側底面まで延び、入口側底面に目封止部を有し、出口側底面が開口する複数の第2セルとを備え、複数の第1セルと複数の第2セルは多孔質隔壁を挟んで交互に隣接配置されている柱状ハニカム構造体が作製される。
【0061】
次いで、焼成工程を経た柱状ハニカム構造体の第1セルの表面に多孔質膜を形成する。まず、柱状ハニカム構造体の入口側底面に対して垂直な方向から入口側底面に向かって、好ましくは入口側底面の中心部に向かって、セラミックス粒子を含有するエアロゾルを噴射しながら、出口側底面に吸引力を与えて、噴射されたエアロゾルを入口側底面から吸引し、第1セルの表面にセラミックス粒子を付着させる工程を実施する。例示的には、エアロゾルの噴射ノズルと入口側底面の距離は500mm~2000mmとすることができる。
【0062】
エアロゾルは、エアロゾルジェネレータを用いて噴射可能である。エアロゾルジェネレータは一実施形態において、セラミックス粒子を収容する収容部を有しており、セラミックス粒子は収容部からノズルに供給され、ノズルからエアロゾルが噴射されるように構成されている。
【0063】
多孔質膜を構成する複数の粒子について、粒子間距離を短くして緻密な多孔質膜を形成するために、BET比表面積が3.5m2/g以上のセラミックス粒子が収容部に収容されていることが好ましい。理論によって本発明が限定されることを意図するものではないが、BET比表面積大きいと、粒子が嵩高くなり製膜時にエアロゾルとして吹き付ける際、より均一に分散するため、粒子間距離を短くできると考えられる。収容部に収容されるセラミックス粒子のBET比表面積の下限は、4.0m2/g以上であることがより好ましく、6.0m2/g以上であることがより好ましく、8.0m2/g以上であることがより好ましく、10.0m2/g以上であることがより好ましく、12.0m2/g以上であることがより好ましく、14.0m2/g以上であることがより好ましく、16.0m2/g以上であることが更により好ましい。収容部に収容されるセラミックス粒子のBET比表面積の上限は特に設定されないが、製造コストが高くなる割には捕集性能が飽和する傾向にあるため、100.0m2/g以下であることが好ましく、90.0m2/g以下であることがより好ましく、80.0m2/g以下であることが更により好ましい。従って、収容部に収容されるセラミックス粒子のBET比表面積は、例えば3.0~100.0m2/gであることが好ましく、4.0~90.0m2/gであることがより好ましく、6.0~80.0m2/gであることがより好ましく、8.0~80.0m2/gであることがより好ましく、10.0~80.0m2/gであることがより好ましく、12.0~80.0m2/gであることがより好ましく、14.0~80.0m2/gであることがより好ましく、16.0~80.0m2/gであることが更により好ましい。
【0064】
セラミックス粒子のBET比表面積を大きくする方法としては、例えば、原料粒子を小さくする、粉砕方式を変更する(ジェットミルからボールミル)などの方法が挙げられる。逆に、セラミックス粒子のBET比表面積を小さくする方法としては、例えば、原料粒子を大きくする方法が挙げられる。
【0065】
セラミックス粒子のBET比表面積は、JIS Z8830:2013の方法により、BET一点法に従って測定する。
【0066】
また、粒子間距離を短くして緻密な多孔質膜を形成するために、BET比表面積を制御することに加えて、セラミックス粒子の粒径を制御することが有利である。具体的には、収容部に収容されるセラミックス粒子は、レーザー回折・散乱法により測定される体積基準の累積粒度分布におけるメジアン径(D50)の上限は、3.0μm以下であることが好ましく、2.5μm以下であることがより好ましく、2.0μm以下であることが更により好ましい。また、当該メジアン径(D50)の下限は、0.5μm以上であることが好ましく、0.7μm以上であることがより好ましく、0.9μm以上であることが更により好ましい。従って、当該メジアン径(D50)は、例えば、0.5~3.0μmであることが好ましく、0.7~2.5μmであることがより好ましく、0.9~2.0μmであることが更により好ましい。
【0067】
セラミックス粒子としては、多孔質膜を構成する先述したセラミックスの粒子が使用される。例えば、コージェライト、炭化珪素(SiC)、タルク、マイカ、ムライト、セルベン、チタン酸アルミニウム、アルミナ、窒化珪素、サイアロン、リン酸ジルコニウム、ジルコニア、チタニア及びシリカから選択される1種又は2種以上を含有するセラミックス粒子を使用することができる。セラミックス粒子の主成分は炭化珪素、アルミナ、シリカ、コージェライト又はムライトとすることが好ましい。セラミックス粒子の主成分とは、セラミックス粒子の50質量%以上を占める成分を指す。セラミックス粒子はSiCが50質量%以上を占めることが好ましく、70質量%以上を占めることがより好ましく、90質量%以上を占めることが更により好ましい。
【0068】
収容部に収容されているセラミックス粒子は、時間の経過と共に凝集する場合がある。特に、微細なセラミックス粒子は凝集が生じやすい傾向にある。このため、凝集をほぐしてからエアロゾルジェネレータのノズルからセラミックス粒子を噴射することが好ましい。そこで、エアロゾルジェネレータは、加圧された駆動ガスを流すための駆動ガス流路と、駆動ガス流路の途中に設けられて駆動ガス流路の外周側から駆動ガス流路内に向かってセラミックス粒子を収容部から吸引可能な供給口と、駆動ガス流路の先端に取り付けられてエアロゾルを噴射可能なノズルとを備えることが好ましい。駆動ガス流路の外周側から駆動ガス流路内に向かってセラミックス粒子が供給される場合、駆動ガスによるセラミックス粒子に対する解砕効果が高くなるので、凝集が抑制されたセラミックス粒子をエアロゾルジェネレータのノズルから噴射することが可能になる。一実施形態においては、駆動ガス流路を流れる駆動ガスの流れ方向に対して略垂直な方向からセラミックス粒子が駆動ガス流路内に導入されるように供給口を構成することができる。
【0069】
(エアロゾルジェネレータ)
図4には、凝集が抑制されたセラミックス粒子を噴射するのに好適なエアロゾルジェネレータ400の構成例が模式的に示されている。
エアロゾルジェネレータ400は、
加圧された駆動ガスを流すための駆動ガス流路407と、
駆動ガス流路407の途中に設けられて駆動ガス流路407の外周側から駆動ガス流路407内に向かってセラミックス粒子402を吸引可能な供給口407iと、
駆動ガス流路407の先端に取り付けられてエアロゾルを噴射可能なノズル401と、
セラミックス粒子402を吸引搬送するための流路403であって、前記供給口407iに連通する出口403eを備えた流路403と、
セラミックス粒子402を収容すると共に、吸引搬送するための流路403にセラミックス粒子402を供給するための収容部409と、
を有する。
【0070】
収容部409には、例えば漏斗を使用することができる。所定のBET比表面積を有するセラミックス粒子が収容部409内に収容されている。収容部409に収容されているセラミックス粒子402は、駆動ガス流路407からの吸引力を受けて、収容部409の底部に設けられた出口409eから流路403を通って出口403eまで搬送された後、供給口407iから駆動ガス流路407内に導入される。この際、収容部409の入口409iから吸引される周囲ガス(典型的には空気)も、セラミックス粒子402と共に流路403を通って駆動ガス流路407内に導入される。図示のエアロゾルジェネレータ400においては、出口403eと供給口407iは共通している。また、図示のエアロゾルジェネレータ400においては、駆動ガス流路407を流れる駆動ガスの流れ方向に対して略垂直な方向からセラミックス粒子402が駆動ガス流路407内に導入される。
【0071】
駆動ガス流路407内に供給されたセラミックス粒子402は、駆動ガス流路407を流れる駆動ガスと衝突し、解砕されながら混合されてエアロゾルとなり、ノズル401から噴射される。ノズル401は、柱状ハニカム構造体の入口側底面に対して垂直な方向にエアロゾルが噴射される位置及び向きに設置することが好ましい。より好ましくは、ノズル401は、入口側底面の中心部に向かって入口側底面に対して垂直な方向にエアロゾルが噴射される位置及び向きに設置される。
【0072】
収容部409へのセラミックス粒子402の供給は、限定的ではないが、例えば、スクリューフィーダー及びベルトコンベヤー等の粉体定量供給機411を用いて実施するのが好ましい。粉体定量供給機411から排出されるセラミックス粒子402は、重力によって収容部409内に落下させることができる。
【0073】
好ましい実施形態において、駆動ガス流路407は、流路が絞られたベンチュリ部407vを途中に有し、供給口407iがベンチュリ部407vのうち最も流路が絞られた箇所よりも下流側に設けられている。駆動ガス流路407がベンチュリ部407vを有すると、ベンチュリ部407vを通過する駆動ガスの速度が上昇するので、ベンチュリ部407vの下流において供給されるセラミックス粒子402に対して、より高速の駆動ガスを衝突させることができるので、解砕力が向上する。駆動ガスによる解砕力を高めるため、供給口407iは、ベンチュリ部407vのうち最も流路が絞られた箇所の下流側であって当該箇所に隣接して設けることがより好ましい。当該構成は、例えば、駆動ガス流路407及び吸引搬送するための流路403の接続を、ベンチュリエジェクター410を用いて行うことで実現できる。
【0074】
ベンチュリ部407vを通過する直前の駆動ガスの流速の下限は、セラミックス粒子の解砕力を高めるという観点から、13m/s以上であることが好ましく、20m/s以上であることがより好ましく、26m/s以上であることが更により好ましい。ベンチュリ部407vを通過する直前の駆動ガスの流速の上限は特に設定されないが、通常は50m/s以下であり、典型的には40m/s以下である。
【0075】
ベンチュリ部の流路断面積に対するベンチュリ部の直前における流路断面積の比の下限は、解砕力を高めるという観点で、8以上であることが好ましく、16以上であることがより好ましい。ベンチュリ部の流路断面積に対するベンチュリ部の直前における流路断面積の比の上限は、特に制限はないが、大きすぎるとベンチュリ部の圧損が大きくなることから、64以下であることが好ましく、32以下であることがより好ましい。ここで、ベンチュリ部の流路断面積は、ベンチュリ部において最も流路の狭い箇所における流路断面積を意味する。また、ベンチュリ部の直前における流路断面積は、ベンチュリ部の上流側において流路が狭くなる直前の流路断面積を意味する。
【0076】
ベンチュリエジェクター410を用いると、例えば駆動ガスを駆動ガス流路407に流したときに、吸引搬送するための流路403に対して大きな吸引力を付与することができ、吸引搬送するための流路403がセラミックス粒子402によって詰まるのを防止することができる。ベンチュリエジェクター410は、吸引搬送するための流路403がセラミックス粒子402によって詰まったときのセラミックス粒子402の除去手段としても有効である。
【0077】
駆動ガスとしては、圧力調整した圧縮空気等の圧縮ガスを使用することでノズル401からのエアロゾルの噴射流量を制御可能である。駆動ガスとしては、セラミックス粒子の凝集を抑制するためにドライエアー(例えば、露点が10℃以下)を使用することが好ましい。なお、本明細書において、「露点」はJIS Z8806:2001に準拠した高分子式の静電容量式露点計により測定される値を指す。
【0078】
(粒子付着装置)
図5には、柱状ハニカム構造体の第1セルの表面にセラミックス粒子を付着させる工程を実施するのに好適な粒子付着装置510の構成例が模式的に示されている。
粒子付着装置510は、
柱状ハニカム構造体500を保持するためのホルダー514と、
柱状ハニカム構造体500の出口側底面506に吸引力を与えるためのブロア512と、
セラミックス粒子を含有するエアロゾルを、入口側底面504に対して垂直な方向から入口側底面504に向かって噴射し、第1セルの表面にセラミックス粒子を付着させるためのエアロゾルジェネレータ511と、
エアロゾルジェネレータ511のノズル511a及び入口側底面504の間に設けられ、エアロゾルにその内部を通過させて案内するためのチャンバー513と、
を備える。
【0079】
ホルダー514は、柱状ハニカム構造体500の入口側底面504が露出した状態で、エアロゾルジェネレータ511のノズル511aに対向する位置で保持できるように構成される。例えば、ホルダー514は外周側壁502を把持する為のチャック機構514bを有することができる。チャック機構としては、特に制限はないが、バルーンチャックが例示的に挙げられる。また、ホルダー514は、柱状ハニカム構造体500を通過したエアロゾルが拡散せずに一方向に整流するための、ハウジング514aを有することができる。
【0080】
チャンバー513の側壁513dは、例えば円筒状や角筒等の筒状に形成することができる。チャンバー513は入口側底面504に対向する面513aを有する。入口側底面504に対向する面513aは、エアロゾルジェネレータ511のノズル511aの挿入口513bを有する。当該構成により、エアロゾルジェネレータ511から噴射されるエアロゾルをチャンバー513内に直接導入することができる。典型的には、チャンバー513の側壁513dの下流側端部513eはホルダー514に連結されており、当該対向する面513aは、チャンバー513の側壁513dの下流側端部513eに対して反対側にある上流側端部513fに設けられる。
【0081】
側壁513d、及び/又は、入口側底面504に対向する面513aには、周囲ガスを取り込むための開口513cを設けることができる。これにより、ブロア512からの吸引力に応じてチャンバー513に流入するガス流量を調整することができる。しかしながら、
図5に示すように、チャンバー513の側壁513dには周囲ガスを取り込むための開口513cを設けず、チャンバー513に流入する周囲ガスは入口側底面504に対向する面513aに設けた開口513cからのみ取り込むことが好ましい。
【0082】
周囲ガスを入口側底面504に対向する面513aからのみ取り込むことで、噴霧されたエアロゾルの流れ方向と同方向に周囲ガスが流入するため、エアロゾルに対する外乱が無くなってエアロゾルが安定するという利点が得られる。逆に、チャンバー513の側壁513dに開口513cがあると、そこから流入した周囲ガスが外乱となりやすく、エアロゾルの流れが不安定となるため不利である。従って、好ましい実施形態において、入口側底面504に対向する面513aは、周囲ガスを当該チャンバー513内に取り込むための一又は二以上の開口513cを有し、当該対向する面513a以外に周囲ガスを当該チャンバー513内に取り込むための開口を有しない。
【0083】
チャンバー513の対向する面513aは、挿入口513bを中心とする同心円状の閉鎖部518を有してもよい。その場合、周囲ガスをチャンバー513内に取り込むための一又は二以上の開口513cは閉鎖部518よりも外周側に設けられている。閉鎖部518を形成する方法には特に制限はないが、一実施形態において、ノズル511aの挿入口513bを有する円盤状プレートを使用することができる。
【0084】
閉鎖部518を設けることにより、エアロゾルジェネレータ511のノズル511a付近からの周囲ガスの流入が防止される。一方で、チャンバー513の側壁513d付近からは周囲ガスが流入する。これにより、開口513cから流入して側壁513d付近を流れる周囲ガスにノズル511aから噴射されたエアロゾルが引き込まれるため、エアロゾルの流れ方向に対して垂直な方向にエアロゾルが均一に広がりやすくなるという利点が得られる。閉鎖部518は、例えばチャンバー513の対向する面(内面)513aの面積の50~87%を閉鎖することができ、典型的には70~80%を閉鎖することができる。ここで、対向する面(内面)513aの面積は、非開口部の他、挿入口513b及び開口513cを含めた面積である。
【0085】
チャンバー513の対向する面513aには、パンチングプレート及び/又は不織布を使用することができる。更に、開口513cには凝集した粉やハニカムの破片及び塵を巻き込む可能性があるため、フィルタ513gを設置してもよい。
【0086】
チャンバー513を流れるエアロゾルの流路の断面積が入口側底面504の大きさよりも大きい場合には、流路の断面積が入口側底面504に向かって漸減するように、テーパー部513hを側壁513dの下流側端部513eに設けてもよい。側壁513dの下流側端部513eにおいてテーパー部513hが形成する流路断面の輪郭は入口側底面504の外周輪郭と合致させることが好ましい。テーパー部513hを設けることで、セラミックス粒子が入口側底面504に吸い込まれやすくなる。
【0087】
ノズル511aの出口から柱状ハニカム構造体500の入口側底面504までの距離Lは、柱状ハニカム構造体500の入口側底面504の面積Aに応じて設計するのが好ましい。具体的には、面積A(mm2)が大きくなるにつれて、距離L(mm)を長くすることが、エアロゾルの流れ方向に対して垂直な方向にエアロゾルが均一に広がりやすいという理由により好ましい。
【0088】
エアロゾルジェネレータ511から噴射されたエアロゾルは、ブロア512からの吸引力によりチャンバー513内部を通過した後、ホルダー514に保持された柱状ハニカム構造体500の入口側底面504から柱状ハニカム構造体500の第1セル内に吸い込まれる。第1セル内に吸い込まれたエアロゾル中のセラミックス粒子は第1セルの表面に付着する。
【0089】
ホルダー514のハウジング514aは、柱状ハニカム構造体500の出口側底面506の下流側に、排気口514eを有している。排気口514eは、排気管515に接続されており、その下流側にはブロア512が設けられている。このため、セラミックス粒子が除去されたエアロゾルは、柱状ハニカム構造体500の出口側底面506から排出されると、排気管515を通過した後、ブロア512を通って排気される。排気管515には流量計516を設置し、流量計516で計測されるガス流量を監視することができ、また、必要なガス流量に応じてブロア512の強弱を制御することができる。
【0090】
第1セルの表面に付着させるセラミックス粒子の膜厚安定性を高めるという観点から、第1セルの表面にセラミックス粒子を付着させる工程において、チャンバー513内を流れるエアロゾルの平均流速は0.5m/s~3.0m/sが好ましく、1.0~2.0m/sがより好ましい。
【0091】
第1セルの表面に付着させるセラミックス粒子の膜厚安定性を高めるという観点から、第1セルの表面にセラミックス粒子を付着させる工程において、柱状ハニカム構造体内を流れるエアロゾルの平均流速の下限は5m/s以上であることが好ましく、8m/s以上であることがより好ましい。また、多孔質膜の高気孔率を維持するために、柱状ハニカム構造体内を流れるエアロゾルの平均流速の上限は20m/s以下とすることが好ましく、15m/s以下とすることが好ましい。
【0092】
第1セルの表面にセラミックス粒子を付着させる工程を継続すると、セラミックス粒子の付着量の増加に伴い、柱状ハニカム構造体の入口側底面及び出口側底面の間の圧力損失が上昇する。よって、セラミックス粒子の付着量と圧力損失の関係を予め求めておくことで、圧力損失に基づいて第1セルの表面にセラミックス粒子を付着させる工程の終点を決定することができる。そこで、粒子付着装置510は、柱状ハニカム構造体500の入口側底面504及び出口側底面506の間の圧力損失を測定するために差圧計550を設置することができ、当該差圧計の値に基づいて当該工程の終点を決定してもよい。
【0093】
チャンバー513内にはレーザー回折式粒度分布測定装置519を設置してもよい。レーザー回折式粒度分布測定装置519を設置することで、エアロゾルジェネレータ511から噴射されるエアロゾル中のセラミックス粒子の粒度分布をリアルタイムで計測可能である。これにより、所望の粒度分布をもつセラミックス粒子が柱状ハニカム構造体に供給されているか否かを監視することができる。
【0094】
第1セルの表面にセラミックス粒子を付着させる工程を実施すると、柱状ハニカム構造体500の入口側底面504にはセラミックス粒子が付着しているので、スクレーバ等の治具で入口側底面を均しながらセラミックス粒子をバキューム等で吸引除去することが好ましい。
【0095】
(焼付処理)
その後、第1セルの表面に付着したセラミックス粒子を焼付処理し、第1セルの表面に複数の粒子で構成される多孔質膜を生成する。一実施形態において、焼付処理は、炉内雰囲気温度が1100~1300℃の加熱炉内に、第1セルの表面に付着したセラミックス粒子を有する柱状ハニカム構造体を1.5~4時間保持することを含む。1100℃以上で焼付処理することにより、隔壁と膜材料が固着するという利点が得られる。また、1300℃以下で焼付処理することにより、必要以上の酸化による膜の不均一化を防ぐという利点が得られる。保持時間は、長くなると多孔質膜を構成する複数の粒子の粒子間距離が長くなりやすいので、4時間以下とすることが有利である。一方で、保持時間は、短すぎると多孔質膜が剥離しやすくなるため、1.5時間以上とすることが有利である。
【0096】
焼付処理は、生産速度を高めるため、昇温時に室温(25℃)から最高温度に到達するまでの平均昇温速度を100℃/Hr以上とすることが好ましい。また、焼付処理は、クラックの発生を抑制するという理由により、昇温時に室温(25℃)から最高温度に到達するまでの平均昇温速度を200℃/Hr以下とすることが好ましい。また、焼付処理は、クラックの発生を抑制し、窯材への負担を軽減するという理由により、降温時に最高温度から室温(25℃)に到達するまでの平均降温速度を200℃/Hr以下とすることが好ましい。また、焼付処理は、生産速度を高めるため、降温時に最高温度から室温(25℃)に到達するまでの平均降温速度を100℃/Hr以上とすることが好ましい。
【0097】
好ましい実施形態において、焼付処理は、炉内雰囲気温度が1100~1200℃の加熱炉内に、第1セルの表面に付着したセラミックス粒子を有する柱状ハニカム構造体を1.5~4時間保持することを含む。より好ましい実施形態において、焼付処理は、炉内雰囲気温度が1200℃の加熱炉内に、第1セルの表面に付着したセラミックス粒子を有する柱状ハニカム構造体を1.5~2.5時間、更により好ましくは2~2.5時間保持することを含む。
【0098】
焼付処理は、例えば電気炉又はガス炉内に、セラミックス粒子を付着後の柱状ハニカム構造体を載置することで実施することができる。加熱処理により、セラミックス粒子同士が結合すると共に、セラミックス粒子が第1セル内の隔壁に焼き付き、第1セルの表面に多孔質膜が形成される。加熱処理を空気等の酸素含有条件下で実施すると、表面酸化膜がセラミックス粒子表面に生成されセラミックス粒子同士の結合が促進される。これにより、剥離し難い多孔質膜が得られる。
【実施例0099】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を例示するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0100】
<実施例1>
(1)柱状ハニカム構造体の製造
コージェライト化原料100質量部に、造孔材を3質量部、分散媒を55質量部、有機バインダーを6質量部、分散剤を1質量部、それぞれ添加し、混合、混練して坏土を調製した。コージェライト化原料としては、アルミナ、水酸化アルミニウム、カオリン、タルク、及びシリカを使用した。分散媒としては水を使用し、造孔材としては吸水性ポリマーを使用し、有機バインダーとしてはヒドロキシプロピルメチルセルロースを使用し、分散剤としては脂肪酸石鹸を使用した。
【0101】
この坏土を押出成形機に投入し、所定形状の口金を介して押出成形することにより円柱状のハニカム成形体を得た。得られたハニカム成形体を誘電乾燥及び熱風乾燥した後、所定の寸法となるように両底面を切断してハニカム乾燥体を得た。
【0102】
得られたハニカム乾燥体について、第1セル及び第2セルが交互に隣接配置するようにコージェライトを材料として目封止した後に、大気雰囲気下で約200℃で加熱脱脂し、更に大気雰囲気下で1420℃で5時間焼成し、柱状ハニカム構造体を得た。なお、柱状ハニカム構造体は以下の試験に必要な数を製造した。
【0103】
柱状ハニカム構造体の仕様は以下である。
全体形状:直径132mm×高さ120mmの円柱状
セルの流路方向に垂直な断面におけるセル形状:正方形
セル密度(単位断面積当たりのセルの数):200cpsi
隔壁の厚み:8mil(0.2mm)(口金の仕様に基づく公称値)
【0104】
(2)柱状ハニカム構造体へのセラミックス粒子の付着
上記で作製した柱状ハニカム構造体に対して、
図5に示す構成の粒子付着装置を使って、柱状ハニカム構造体の入口側底面の中心部に向かって入口側底面に対して垂直な方向に、セラミックス粒子を含有するエアロゾルを噴射し、第1セルの表面にセラミックス粒子を付着させた。粒子付着装置の仕様及び稼働条件は以下である。
・チャンバー
形状:円筒形
内径:300mm
長さ:600mm
周囲ガス:空気
周囲ガスを取り込むための開口位置:柱状ハニカム構造体の入口側底面に対向する面のみ
開口へのフィルタ設置:有
エアロゾルジェネレータのノズル位置:当該対向する面の中央部
当該対向する面の構造:パンチングプレート
(パンチングプレートの中央部にエアロゾルジェネレータのノズルを挿入するための挿入口を設けた。また、当該挿入口を中心とする直径150mmの円盤状プレートを固定し、閉鎖部を形成した。)
エアロゾルジェネレータのノズルの出口から柱状ハニカム構造体の入口側底面までの距離L:600mm
・エアロゾルジェネレータ:
図4に示す構造を有する自社製作品
種類:連続式エアロゾルジェネレータ
駆動ガス流路及び吸引搬送するための流路の接続方式:ベンチュリエジェクター
セラミックス粒子の供給口の設置個所:ベンチュリ部のうち最も流路が絞られた箇所の下流側であって当該箇所に隣接する位置
収容部へのセラミックス粒子の供給方法:スクリューフィーダー
収容部の種類:漏斗
収容部に収容するセラミックス粒子の種類:SiC粒子(市販品)
収容部に収容するセラミックス粒子のBET比表面積:表1参照
(測定装置:Mauntech社製型式Macsorb(登録商標) HM model-1200
測定方式:BET一点法(JIS Z8830:2013)
使用ガス:窒素
前処理:試料を真空下110℃、2時間の条件で脱気処理
試料測定量:1g)
(算出方法:試料を吸着セルに入れ、加熱しながら吸着セル内を真空にすることで、試料表面に吸着しているガス分子を除去し、試料の重量を計測する。その後、試料を封入した状態の吸着セル内に窒素ガスを流す。その結果、試料表面に窒素が吸着し、更に窒素ガスの流入量を増加させることにより、ガス分子が試料表面に複数の層をなす。このとき、上記の過程を圧力変化に対する吸着量の変化としてプロットしたグラフを作成し、得られたグラフから試料表面だけに吸着したガス分子の吸着量をBET吸着等温式より求める。このとき、窒素分子に関しては、予め吸着占有面積が既知であるため、ガス分子の吸着量に基づいて試料の表面積が求められる。)
収容部に収容するセラミックス粒子の体積基準の粒度分布(レーザー回折・散乱法により測定):メジアン径(D50):表1参照
駆動ガス:圧縮ドライエアー(露点10℃以下)
吸引される周囲ガス:空気
駆動ガスがベンチュリ部を通過する直前の駆動ガスの流速:26m/s(アネモマスターにより測定)
ベンチュリ部の流路断面積に対するベンチュリ部の直前における流路断面積の比=1:0.028
ノズルから噴射されるエアロゾルの平均流量:120L/min(流量計により測定)
エアロゾルジェネレータのノズル内径:12mm
・稼働条件
ブロア吸い込み流量:4000L/min
チャンバー内を流れるエアロゾルの平均流速:1m/s(アネモマスターにより測定)
柱状ハニカム構造体内を流れるエアロゾルの平均流速:約7m/s(流量/セル開口面積により算出)
【0105】
(3)焼付処理
このようにして得られたセラミックス粒子が付着している柱状ハニカム構造体の入口側底面をスクレーバで均しながら、入口側底面に付着したセラミックス粒子をバキュームで吸引除去した。その後、柱状ハニカム構造体を電気炉に入れ、表1に記載の焼付温度及び保持時間の条件で大気雰囲気下で焼付処理することで、第1セルの表面に多孔質膜を形成し、柱状ハニカム構造フィルタを得た。焼付処理の際、昇温時に室温(25℃)から最高温度に到達するまでの平均昇温速度を150℃/Hrとし、降温時に最高温度から室温(25℃)に到達するまでの平均降温速度を150℃/Hrとした。なお、柱状ハニカム構造フィルタは、下記の特性評価を実施するのに必要な数を作製した。
【0106】
<実施例2~8、比較例1~4>
エアロゾルジェネレータの収容部に収容するセラミックス粒子のBET比表面積及びメジアン径(D50)を、表1に記載の条件に変更し、焼付処理を表1に記載の条件に変更した他は、実施例1と同じ条件で柱状ハニカム構造フィルタを製造した。また、多孔質膜の平均膜厚はエアロゾル流量及び吹き付け時間を一定とすることにより、すべての試験例で15μmとなるようにした。使用したセラミックス粒子は何れも市販品であった。
【0107】
<隔壁の気孔率>
上記の製造方法で得られた実施例1~8及び比較例1~4に係る柱状ハニカム構造フィルタの隔壁の気孔率を先述した測定方法に従ってSEM画像に基づき測定したところ、何れの試験例についても59%であった。測定に使用した装置はFE-SEM(型式:ULTRA55(ZEISS製))とした。画像解析ソフトはリンクス株式会社のHALCON-バージョン11.0.5を使用した。結果を表1に示す。
【0108】
<多孔質膜特性>
(1)平均膜厚
上記の製造方法で得られた実施例1~8及び比較例1~4に係る柱状ハニカム構造フィルタの多孔質膜の平均膜厚を先述した測定方法に従って測定したところ、何れの試験例についても15μmであった。測定に使用した3D形状測定機はキーエンス社製VR-3200とした。
(2)粒子間距離
上記の製造方法で得られた実施例1~8及び比較例1~4に係る柱状ハニカム構造フィルタの多孔質膜を構成する複数の粒子について、隣り合う粒子間の膜厚方向に垂直な方向の距離である粒子間距離の度数分布を先述した測定方法に従ってSEM画像に基づき求め、粒子間距離(D90)、粒子間距離の平均値(Ave.)、及び粒子間距離の標準偏差(σ)を算出した。測定に使用した装置はFE-SEM(型式:ULTRA55(ZEISS製))とした。画像解析ソフトはリンクス株式会社のHALCON-バージョン11.0.5を使用した。
結果を表1に示す。
【0109】
<フィルタ性能>
(1)PM捕集試験
上記の製造方法で得られた実施例1~8及び比較例1~4に係る柱状ハニカム構造フィルタについて、それぞれ以下のPM捕集試験を実施した。エアロゾルジェネレータから噴射された粒径100~1000nm程度のDEHS(セバシン酸ビス(2-エチルヘキシン))粒子のようなオイル粒子を含有するエアロゾルを、500~10000L/分の流量で、30秒間、柱状ハニカム構造フィルタに供給し、柱状ハニカム構造フィルタにPMを捕集させ、柱状ハニカム構造フィルタの入口側(ガス流れ方向の上流側)及び出口側(ガス流れ方向下流側)にて排ガス中のPN(排出粒子数)を、PNカウンターによって測定した。捕集性能を、(入口側の粒子個数-出口側の粒子個数)/入口側の粒子個数×100(%)の式により計算した。
結果を表1に示す。また、粒子間距離(D90)と捕集性能の関係を示すグラフを
図7に示す。
【0110】