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特開2024-143861柱状ハニカム構造体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143861
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】柱状ハニカム構造体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 39/20 20060101AFI20241003BHJP
   B01D 46/00 20220101ALI20241003BHJP
   F01N 3/022 20060101ALI20241003BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B01D39/20 D
B01D46/00 302
F01N3/022 C
C04B38/00 303Z
C04B38/00 304Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056776
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】土屋 祐典
【テーマコード(参考)】
3G190
4D019
4D058
4G019
【Fターム(参考)】
3G190AA02
3G190AA12
3G190AA13
3G190BA41
3G190CA03
3G190CA13
4D019AA01
4D019BA05
4D019BB06
4D019BC07
4D019BD01
4D019BD02
4D019CA01
4D019CB04
4D019CB06
4D058JA37
4D058JA38
4D058JB06
4D058JB28
4D058SA08
4D058TA06
4G019FA12
(57)【要約】      (修正有)
【課題】焼結助剤を含有しコージェライトを主成分とする柱状ハニカム構造体の機械的強度の低下を抑制する。
【解決手段】隔壁を挟んで交互に隣接配置される第1セル及び第2セルと、目封止部とを有する柱状ハニカム構造体。該構造体は、主成分としてのコージェライトと、セリア、ジルコニア、及びチタニアから選択される一種又は二種以上の焼結助剤とを含有しており、隔壁のうち、第二底面が有する目封止部の第1セルの延びる方向の最深部から第二底面までの範囲Aにおける部位、及び、第一底面が有する目封止部の第2セルの延びる方向の最深部から第一底面までの範囲Bにおける部位の平均気孔率をP1(%)とし、隔壁のうち、第二底面が有する目封止部の第1セルの延びる方向の最深部から、第一底面が有する目封止部の第2セルの延びる方向の最深部までの範囲Cにおける部位の平均気孔率をP2(%)とすると、-4≦P1-P2≦7を満たす。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周側壁と、外周側壁の内周側に配置され、第一底面から第二底面まで延び、第一底面に開口部を有し、第二底面に目封止部を有する複数の第1セルと、外周側壁の内周側に配置され、第一底面から第二底面まで延び、第一底面に目封止部を有し、第二底面に開口部を有する複数の第2セルとを備え、複数の第1セルと複数の第2セルは隔壁を挟んで交互に隣接配置されている柱状ハニカム構造体であって、
外周側壁、隔壁及び目封止部は焼成されていると共に、主成分としてのコージェライトと、セリア、ジルコニア、及びチタニアから選択される一種又は二種以上の焼結助剤とを含有しており、
隔壁のうち、第二底面が有する目封止部の第1セルの延びる方向の最深部から第二底面までの範囲Aにおける部位、及び、第一底面が有する目封止部の第2セルの延びる方向の最深部から第一底面までの範囲Bにおける部位の平均気孔率をP1(%)とし、
隔壁のうち、第二底面が有する目封止部の第1セルの延びる方向の最深部から、第一底面が有する目封止部の第2セルの延びる方向の最深部までの範囲Cにおける部位の平均気孔率をP2(%)とすると、-4≦P1-P2≦7を満たす、
柱状ハニカム構造体。
【請求項2】
-2≦P1-P2≦5を満たす請求項1に記載の柱状ハニカム構造体。
【請求項3】
55≦P2≦70を満たす請求項1又は2に記載の柱状ハニカム構造体。
【請求項4】
隔壁のうち、前記範囲Aにおける部位及び前記範囲Bにおける部位のセリア、ジルコニア、及びチタニアから選択される一種又は二種以上の焼結助剤の合計含有率の平均値をS1(%)とし、隔壁のうち、前記範囲Cにおける部位のセリア、ジルコニア、及びチタニアから選択される一種又は二種以上の焼結助剤の合計含有率の平均値をS2(%)とし、水銀圧入法により測定される体積基準の累積細孔径分布における隔壁の累積50%細孔径をD50(μm)とすると、(S2-S1)/D50×100≦6を満たす請求項1又は2に記載の柱状ハニカム構造体。
【請求項5】
隔壁のうち、前記範囲Cにおける部位は、水銀圧入法により測定される体積基準の累積細孔径分布において、小細孔側からの累積10%細孔径(D10)、累積50%細孔径(D50)及び累積90%細孔径(D90)が、(D90-D10)/D50≦1.2の関係を満たす請求項1又は2に記載の柱状ハニカム構造体。
【請求項6】
外周側壁と、外周側壁の内周側に配置され、第一底面から第二底面まで延び、第一底面に開口部を有し、第二底面に目封止部を有する複数の第1セルと、外周側壁の内周側に配置され、第一底面から第二底面まで延び、第一底面に目封止部を有し、第二底面に開口部を有する複数の第2セルとを備え、複数の第1セルと複数の第2セルは隔壁を挟んで交互に隣接配置されている柱状ハニカム構造体の製造方法であって、
コージェライト化原料、分散媒、造孔材及びバインダーに加えて、セリア、ジルコニア、及びチタニアから選択される一種又は二種以上の焼結助剤を含有する原料組成物を混練して坏土を形成した後、当該坏土を押出成形することにより、外周側壁と、外周側壁の内周側に配置され、第一底面から第二底面まで延び、第一底面及び第二底面が共に開口部を有する柱状ハニカム成形体を得る工程と、
前記柱状ハニカム成形体を乾燥後、第1底面及び第2底面の目封止部を形成すべき開口部に、コージェライト化原料、分散媒、造孔材及びバインダーに加えて、セリア、ジルコニア、及びチタニアから選択される一種又は二種以上の焼結助剤を含有する目封止部形成用スラリーを充填する工程と、
前記目封止部形成用スラリーが充填された前記柱状ハニカム成形体を焼成する工程と、
を含み、
前記原料組成物中の焼結助剤について、コージェライト化原料100質量部に対する合計添加量をC1質量部とし、前記目封止部形成用スラリー中の焼結助剤について、コージェライト化原料100質量部に対する合計添加量をC2質量部とすると、-8≦C1-C2≦1を満たす、
製造方法。
【請求項7】
-6≦C1-C2≦0を満たす請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
1≦C2≦10を満たす請求項6又は7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記原料組成物中の焼結助剤、及び、前記目封止部形成用スラリー中の焼結助剤は共に、レーザー回折・散乱法により求めた体積基準の累積粒度分布におけるメジアン径(D50)が0.1~10μmである請求項6又は7に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は柱状ハニカム構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン等の内燃機関から排出される排ガスには、環境汚染の原因となる炭素を主成分とするパティキュレート(粒子状物質)が多量に含まれている。そのため、一般的にディーゼルエンジン等の排気系には、パティキュレートを捕集するためのフィルタ(Diesel Particulate Filter:DPF)が搭載されている。また近年ではガソリンエンジンから排出されるパティキュレートも問題視されており、ガソリンエンジンにもフィルタ(Gasoline Particulate Filter:GPF)が搭載されるようになってきている。
【0003】
フィルタとしては、外周側壁と、外周側壁の内周側に配置され、第一底面から第二底面まで延び、第一底面が開口して第二底面に目封止部を有する複数の第1セルと、外周側壁の内周側に配置され、第一底面から第二底面まで延び、第一底面に目封止部を有し、第二底面が開口する複数の第2セルとを、隔壁を挟んで交互に隣接配置したウォールフロー式の柱状ハニカム構造体が知られている。
【0004】
特許文献1には、圧力損失の増加を抑制しつつ、最大スス堆積量が多く、高い耐久性を実現することが可能なハニカムフィルタを提供することを目的とする発明が記載されている。当該ハニカムフィルタは、流体の流路となる一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を有する筒状のハニカム構造体と、所定の前記セルの一方の開口端部及び残余の前記セルの他方の開口端部に配設された目封止部と、を備え、前記隔壁の気孔率が、46%以下であり、前記ハニカム構造体のパーミアビリティーが、0.8μm2以上であり、細孔径が40μm以上の細孔の細孔容積率が、7.5%以下であり、且つ、細孔径が10μm以下の細孔の細孔容積率が、25%以下であり、前記ハニカム構造体の40℃から800℃における熱膨張係数が、1.0×10-6/℃以下であるという特徴を有する。
【0005】
また、特許文献1には、隔壁がコージェライトを主成分とする多孔質体からなり、
前記隔壁が、前記隔壁中に、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、及び酸化イットリウムからなる群より選択される少なくとも1種を含み、前記酸化セリウムの含有率が3.0質量%以下であり、前記酸化ジルコニウムの含有率が2.5質量%以下であり、前記酸化イットリウムの含有率が2.0質量%以下であることが記載されている。特許文献1には、このように構成することによって、ガス透過性に関係しない細孔の形成を抑制し、パーミアビリティーを維持したまま、低気孔率のハニカム構造体を作製することができると記載されている。ハニカム構造体の気孔率が低くなると、ハニカムフィルタの熱容量が増大するので、ハニカムフィルタの耐久性が高くなり、最大スス堆積量を向上させることができることも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2013/047908号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されているように、コージェライトを主成分とするハニカムフィルタにおいて、セリア(酸化セリウム)等を少量添加することは、ガス透過性に関係しない細孔の形成を抑制し、パーミアビリティーを維持したまま、低気孔率のハニカム構造体を作製する上で有利である。しかし、特許文献1に記載されているハニカムフィルタは目封止部が焼成されていないため、強度が十分とは言えず、使用中にアッシュ等によって目封止部が損傷を受けやすい。更には強い圧力が掛かると目封止部が脱落してしまうおそれもある。
【0008】
一方で目封止部を焼成したとしても、コージェライトを主成分とし、酸化セリウム等の焼結助剤が添加されたハニカムフィルタは、十分な機械的強度が得られないという問題があることが分かった。このため、酸化セリウム等の焼結助剤を添加したハニカムフィルタにおいて、高い気孔率を採用することは難しかった。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、一実施形態において、焼結助剤を含有し、コージェライトを主成分とする柱状ハニカム構造体の機械的強度の低下を抑制することを課題とする。また、本発明は別の一実施形態において、機械的強度が向上した柱状ハニカム構造体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者が上記課題を解決するべく鋭意検討したところ、焼成時に隔壁から目封止部に焼結助剤が移動する事で、目封止部近傍の隔壁の気孔率が局所的に増加するために強度低下が起こっていることが分かった。焼結助剤は毛細管現象によって小細孔側に集まって小細孔を塞ぐが、その際に目封止材にも移動していた。また、焼結助剤は細孔を塞ぐ効果を有するため、気孔率を維持するために造孔材を通常より多く使用しており、焼結助剤を取られた部分の隔壁はより高気孔率となってしまうことも分かった。
【0011】
このような事象を発見した結果、本発明者は、焼結助剤の隔壁から目封止部への移動を抑制して目封止部近傍の隔壁の気孔率の上昇を抑えることが機械的強度の低下を抑制することにつながると考えるに至り、目封止部にも焼結助剤を添加することが有効であることを見出した。本発明は当該知見に基づいて完成したものであり、以下に例示される。
【0012】
[態様1]
外周側壁と、外周側壁の内周側に配置され、第一底面から第二底面まで延び、第一底面に開口部を有し、第二底面に目封止部を有する複数の第1セルと、外周側壁の内周側に配置され、第一底面から第二底面まで延び、第一底面に目封止部を有し、第二底面に開口部を有する複数の第2セルとを備え、複数の第1セルと複数の第2セルは隔壁を挟んで交互に隣接配置されている柱状ハニカム構造体であって、
外周側壁、隔壁及び目封止部は焼成されていると共に、主成分としてのコージェライトと、セリア、ジルコニア、及びチタニアから選択される一種又は二種以上の焼結助剤とを含有しており、
隔壁のうち、第二底面が有する目封止部の第1セルの延びる方向の最深部から第二底面までの範囲Aにおける部位、及び、第一底面が有する目封止部の第2セルの延びる方向の最深部から第一底面までの範囲Bにおける部位の平均気孔率をP1(%)とし、
隔壁のうち、第二底面が有する目封止部の第1セルの延びる方向の最深部から、第一底面が有する目封止部の第2セルの延びる方向の最深部までの範囲Cにおける部位の平均気孔率をP2(%)とすると、-4≦P1-P2≦7を満たす、
柱状ハニカム構造体。
[態様2]
-2≦P1-P2≦5を満たす態様1に記載の柱状ハニカム構造体。
[態様3]
55≦P2≦70を満たす態様1又は2に記載の柱状ハニカム構造体。
[態様4]
隔壁のうち、前記範囲Aにおける部位及び前記範囲Bにおける部位のセリア、ジルコニア、及びチタニアから選択される一種又は二種以上の焼結助剤の合計含有率の平均値をS1(%)とし、隔壁のうち、前記範囲Cにおける部位のセリア、ジルコニア、及びチタニアから選択される一種又は二種以上の焼結助剤の合計含有率の平均値をS2(%)とし、水銀圧入法により測定される体積基準の累積細孔径分布における隔壁の累積50%細孔径をD50(μm)とすると、(S2-S1)/D50×100≦6を満たす態様1~3の何れかに記載の柱状ハニカム構造体。
[態様5]
隔壁のうち、前記範囲Cにおける部位は、水銀圧入法により測定される体積基準の累積細孔径分布において、小細孔側からの累積10%細孔径(D10)、累積50%細孔径(D50)及び累積90%細孔径(D90)が、(D90-D10)/D50≦1.2の関係を満たす態様1~4の何れかに記載の柱状ハニカム構造体。
[態様6]
外周側壁と、外周側壁の内周側に配置され、第一底面から第二底面まで延び、第一底面に開口部を有し、第二底面に目封止部を有する複数の第1セルと、外周側壁の内周側に配置され、第一底面から第二底面まで延び、第一底面に目封止部を有し、第二底面に開口部を有する複数の第2セルとを備え、複数の第1セルと複数の第2セルは隔壁を挟んで交互に隣接配置されている柱状ハニカム構造体の製造方法であって、
コージェライト化原料、分散媒、造孔材及びバインダーに加えて、セリア、ジルコニア、及びチタニアから選択される一種又は二種以上の焼結助剤を含有する原料組成物を混練して坏土を形成した後、当該坏土を押出成形することにより、外周側壁と、外周側壁の内周側に配置され、第一底面から第二底面まで延び、第一底面及び第二底面が共に開口部を有する柱状ハニカム成形体を得る工程と、
前記柱状ハニカム成形体を乾燥後、第1底面及び第2底面の目封止部を形成すべき開口部に、コージェライト化原料、分散媒、造孔材及びバインダーに加えて、セリア、ジルコニア、及びチタニアから選択される一種又は二種以上の焼結助剤を含有する目封止部形成用スラリーを充填する工程と、
前記目封止部形成用スラリーが充填された前記柱状ハニカム成形体を焼成する工程と、
を含み、
前記原料組成物中の焼結助剤について、コージェライト化原料100質量部に対する合計添加量をC1質量部とし、前記目封止部形成用スラリー中の焼結助剤について、コージェライト化原料100質量部に対する合計添加量をC2質量部とすると、-8≦C1-C2≦1を満たす、
製造方法。
[態様7]
-6≦C1-C2≦0を満たす態様6に記載の製造方法。
[態様8]
1≦C2≦10を満たす態様6又は7に記載の製造方法。
[態様9]
前記原料組成物中の焼結助剤、及び、前記目封止部形成用スラリー中の焼結助剤は共に、レーザー回折・散乱法により求めた体積基準の累積粒度分布におけるメジアン径(D50)が0.1~10μmである態様6~8の何れかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一実施形態によれば、セリア等の焼結助剤を含有し、コージェライトを主成分とする柱状ハニカム構造体の機械的強度の低下を抑制することが可能となる。これにより、例えば更なる低圧損を実現するために隔壁の気孔率を高めたとしても、製品として必要な機械的強度を確保することが可能になる。また、セリア等の焼結助剤を添加することで細孔径分布をシャープにする、換言すれば細孔径の均一性の高い細孔を得ることができる。細孔径分布がシャープであることは、低圧損と捕集性能のバランスを向上させる上で有利であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】ウォールフロー型の柱状ハニカム構造体を模式的に示す斜視図である。
図2】ウォールフロー型の柱状ハニカム構造体をセルの延びる方向に平行な断面から観察したときの模式的な断面図である。
図3】一方の表面から他方の表面まで隔壁の厚み方向Dに沿って気孔率(%)を測定したときの気孔率のプロファイルの例である。
図4】断面画像上で隔壁の一方の表面の位置を特定する方法を説明する概念図である。
図5】柱状ハニカム構造体の隔壁をセルの延びる方向に平行な断面で観察したときの目封止部近傍の模式的な部分拡大図である。
図6】柱状ハニカム構造体の隔壁をセルの延びる方向に直交する断面で観察したときの模式的な部分拡大図である。
図7】スキージ方式による目封止部の形成方法の一例を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に本発明の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0016】
(1.柱状ハニカム構造体)
図1及び図2には、ウォールフロー型の自動車用排ガスフィルタ及び/又は触媒担体として適用可能な柱状ハニカム構造体100の模式的な斜視図及び断面図がそれぞれ例示されている。この柱状ハニカム構造体100は、外周側壁102と、外周側壁102の内周側に配置され、第一底面104から第二底面106まで平行に延び、第一底面104が開口して第二底面106に目封止部109を有する複数の第1セル108と、外周側壁102の内周側に配置され、第一底面104から第二底面106まで平行に延び、第一底面104に目封止部109を有し、第二底面106が開口する複数の第2セル110とを備える。この柱状ハニカム構造体100においては、第1セル108及び第2セル110が隔壁112を挟んで交互に隣接配置されている。
【0017】
例えば、柱状ハニカム構造体100の上流側の第一底面104にスス等の粒子状物質を含む排ガスが供給されると、排ガスは第1セル108に導入されて第1セル108内を下流に向かって進む。第1セル108は下流側の第二底面106が目封止されているため、排ガスは第1セル108と第2セル110を区画する多孔質の隔壁112を透過して第2セル110に流入する。粒子状物質は隔壁112を通過できないため、第1セル108内に捕集され、堆積する。粒子状物質が除去された後、第2セル110に流入した清浄な排ガスは第2セル110内を下流に向かって進み、下流側の第二底面106から流出する。
【0018】
柱状ハニカム構造体100の底面形状に制限はないが、例えば円形状、楕円形状、レーストラック形状及び長円形状等のラウンド形状、三角形状及び四角形状等の多角形状、並びに、その他の異形形状とすることができる。図示の柱状ハニカム構造体100は、底面形状が円形状であり、全体として円柱状である。
【0019】
柱状ハニカム構造体の高さ(第一底面から第二底面までの長さ)は特に制限はなく、用途や要求性能に応じて適宜設定すればよい。柱状ハニカム構造体の高さは、例えば40mm~450mmとすることができる。柱状ハニカム構造体の高さと各底面の最大径(柱状ハニカム構造体の各底面の重心を通る径のうち、最大長さを指す)の関係についても特に制限はない。従って、柱状ハニカム構造体の高さが各底面の最大径よりも長くてもよいし、柱状ハニカム構造体の高さが各底面の最大径よりも短くてもよい。
【0020】
柱状ハニカム構造体の外周側壁、隔壁及び目封止部は焼成されていると共に、それぞれ、主成分としてコージェライトを含有する。このことは、外周側壁、隔壁及び目封止部をそれぞれ構成する材料100質量%中のコージェライト(2MgO・2Al23・5SiO2)の合計質量割合が50質量%以上であることを意味する。外周側壁、隔壁及び目封止部をそれぞれ構成する材料100質量%中のコージェライトの質量割合は70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。コージェライトの質量割合は、X線回折法(XRD)で測定される。
【0021】
細孔径分布をシャープにするという観点から、柱状ハニカム構造体の外周側壁及び隔壁はそれぞれ、セリア、ジルコニア、及びチタニアから選択される一種又は二種以上の焼結助剤を含有することが好ましく、少なくともセリアを含有することがより好ましい。また、機械的強度の低下を抑制するという観点から、柱状ハニカム構造体の目封止部は、セリア、ジルコニア、及びチタニアから選択される一種又は二種以上の焼結助剤を含有することが好ましく、少なくともセリアを含有することがより好ましい。
【0022】
隔壁がセリア、ジルコニア、及びチタニアから選択される一種又は二種以上の焼結助剤を含有する場合、柱状ハニカム構造体の機械的強度の低下を抑制するため、隔壁の目封止部近傍における気孔率(%)と、隔壁の目封止部から離れた箇所における気孔率(%)の差が少ないことが望ましい。具体的には、P1-P2≦7を満たすことが好ましく、P1-P2≦5満たすことがより好ましく、P1-P2≦4を満たすことが更により好ましい。P1-P2の上限が7以下であることで、柱状ハニカム構造体の機械的強度の低下が抑制されるという利点が得られる。但し、P1-P2を小さくし過ぎても、剛性差によるハニカム構造体の機械的強度の低下という弊害が生じ得ることから、-4≦P1-P2を満たすことが好ましく、-2≦P1-P2満たすことがより好ましく、0≦P1-P2を満たすことが更により好ましい。従って、例えば、-4≦P1-P2≦7を満たすことが好ましく、-2≦P1-P2≦5満たすことがより好ましく、0≦P1-P2≦3を満たすことが更により好ましい。
【0023】
1は、隔壁112のうち、第二底面106が有する目封止部109の第1セル108の延びる方向の最深部から第二底面106までの範囲Aにおける部位、及び、第一底面104が有する目封止部109の第2セル110の延びる方向の最深部から第一底面104までの範囲Bにおける部位の平均気孔率(%)を指す。
2は、隔壁112のうち、第二底面106が有する目封止部109の第1セル108の延びる方向の最深部から、第一底面104が有する目封止部109の第2セル110の延びる方向の最深部までの範囲Cにおける部位の平均気孔率(%)を指す。
【0024】
2は、低圧損を実現する観点から、55≦P2を満たすことが好ましく、57≦P2を満たすことがより好ましく、59≦P2を満たすことが更により好ましい。また、P2は、機械的強度を確保する観点から、P2≦70を満たすことが好ましく、P2≦68を満たすことがより好ましく、P2≦66を満たすことが更により好ましい。従って、例えば、55≦P2≦70を満たすことが好ましく、57≦P2≦68を満たすことがより好ましく、59≦P2≦66を満たすことが更により好ましい。
【0025】
1及びP2は以下の手順で測定される。まず、P2の測定手順について説明する。上記範囲Cにおける隔壁の部位から偏りなく、セルの延びる方向に平行な断面が露出する隔壁のサンプル(断面サイズ(縦20mm×横2mm)×奥行0.3mm)を3個採取する。次いで、各サンプルの当該断面をX線顕微鏡により観察してCTスキャンした後、得られた3次元断面画像を輝度に基づき二値化処理して、空間部分と実体部分の多数のボクセル(一個のボクセルの大きさ=隔壁の壁面方向(Y方向)の長さ:0.8μm、隔壁の厚み方向(X方向)の長さ:0.8μm、隔壁の奥行方向(Z方向)の長さ:0.8μmの立方体)に分ける。
X線顕微鏡の測定条件は、倍率4倍である。
二値化処理は大津の2値化の方法で実施する。
【0026】
次いで、3次元断面画像上の任意の一つの隔壁の所定の領域(隔壁の壁面方向(Y方向)の長さ:340μm、隔壁の厚み方向(X方向)の長さ:厚み全体を包含し、隔壁両側に空間部分をそれぞれ50μm以上有する長さ、隔壁の奥行方向(Z方向)の長さ:300μm)について、二値化処理されたボクセルデータに基づき、一方の表面から他方の表面まで隔壁の厚み方向(X方向)に沿った0.8μmおきの気孔率(%)のプロファイルを得る(図3参照)。厚み0.8μmの気孔率は、0.8μmの厚み領域(隔壁の壁面方向(Y方向)の長さ:340μm、隔壁の厚み方向(X方向)の長さ:0.8μm、隔壁の奥行方向(Z方向)の長さ:300μm)について、気孔率=(空間部分のボクセル数)/(当該領域の全ボクセル数)×100(%)の計算式に従って算出される。当該計算を画面左端から0.8μmおきに上記所定領域全体に対して行うことで、一方の表面から他方の表面まで隔壁の厚み方向(X方向)に沿った0.8μmおきの気孔率(%)のプロファイルが得られる。
【0027】
このとき、隔壁の一方の表面の位置は、図4に示すように、隔壁の壁面方向に平行な線分から測定対象となる隔壁の一方の表面までの厚み方向D(X方向)の距離Mを測定したときの最頻値の位置とする。当該距離Mは、二値化処理された画像上で、隔壁の壁面方向(厚み方向(X方向)に垂直なY方向)の長さ340μmにわたって0.8μm間隔で測定する。隔壁の他方の表面の位置についても同様に特定する。
【0028】
このようにして、各サンプルから任意の一つの隔壁の気孔率のプロファイルを得て、当該プロファイルから当該隔壁の平均気孔率を求める。そして、上記範囲Cにおける合計3個の隔壁のサンプルの平均値を、平均気孔率P2(%)とする。
【0029】
次に、P1の測定手順について説明する。上記範囲A及び範囲Bにおける隔壁の部位から偏りなく、セルの延びる方向に平行な断面が露出する隔壁のサンプル(断面サイズ(縦20mm×横2mm)×奥行0.3mm)をそれぞれ3個、合計6個採取する。次いで、P2の測定と同じ方法で、各サンプルの当該断面をX線顕微鏡により観察してCTスキャンした後、得られた3次元断面画像を輝度に基づき二値化処理して、空間部分と実体部分の多数のボクセルに分ける。
【0030】
次いで、3次元断面画像上の任意の一つの隔壁の所定の領域(隔壁の壁面方向(Y方向)の長さ:340μm、隔壁の厚み方向(X方向)の長さ:厚み全体を包含し、隔壁両側に空間部分をそれぞれ50μm以上有する長さ、隔壁の奥行方向(Z方向)の長さ:300μm)について、二値化処理されたボクセルデータに基づき、一方の表面から他方の表面まで隔壁の厚み方向(X方向)に沿った0.8μmおきの気孔率(%)のプロファイルを、P2の測定と同じ方法で得る。但し、上記範囲A及び範囲Bにおける隔壁は、一方の表面112aはセルの空間と隣接する一方で、他方の表面112bが目封止部109と隣接する。目封止部109と隔壁112の境界は特定するのが難しい。そこで、当該隔壁112の他方の表面112bの目封止部109が隣接していない範囲Cにおける隔壁の表面112cの位置を先述した方法で特定し、当該表面112cに沿った直線Lを引いて目封止部との境界とする。図5に、柱状ハニカム構造体の隔壁をセルの延びる方向に平行な断面で観察したときの目封止部近傍の模式的な部分拡大図を示す。
【0031】
このようにして、各サンプルから任意の一つの隔壁の気孔率のプロファイルを得て、当該プロファイルから当該隔壁の平均気孔率を求める。そして、上記範囲A及び範囲Bにおける合計6個の隔壁のサンプルの平均値を、平均気孔率P1(%)とする。
【0032】
コージェライトを主成分とし、上記焼結助剤を含有する柱状ハニカム構造体において、機械的強度の低下を抑制するためには、焼結助剤の隔壁から目封止部への移動を抑制し、隔壁の目封止部近傍における気孔率が局所的に低下するのを抑制することが有利である。焼結助剤の移動は、目封止部と隔壁との間の焼結助剤の濃度差に起因すると考えられるため、目封止部にも同様の焼結助剤を隔壁と同程度、好ましくは隔壁より多く添加することで抑制が可能である。この濃度差は、後述する隔壁の累積50%細孔径(D50)に応じて適切に設定することが好ましい。
【0033】
具体的には、隔壁の目封止部近傍におけるセリア、ジルコニア、及びチタニアから選択される一種又は二種以上の焼結助剤の合計含有率の平均値S1(%)と、隔壁の目封止部から離れた箇所における当該焼結助剤の合計含有率の平均値S2(%)と、隔壁の累積50%細孔径(D50)(μm)は、以下の関係を満たすことが好ましい。具体的には、(S2-S1)/D50×100≦6を満たすことが好ましく、(S2-S1)/D50×100≦4を満たすことがより好ましく、(S2-S1)/D50×100≦2を満たすことが更により好ましい。(S2-S1)/D50×100の上限が6以下であることで、柱状ハニカム構造体の機械的強度の低下が抑制されるという利点が得られる。(S2-S1)/D50×100の下限は特に設定されないが、を小さくし過ぎても機械的強度低下の抑制効果が飽和する一方で、下記に示すS2の範囲を考慮すれば、-6≦(S2-S1)/D50×100を満たすことが一般的であり、-4≦(S2-S1)/D50×100満たすことが典型的であり、-2≦(S2-S1)/D50×100を満たすことがより典型的である。従って、例えば、-6≦(S2-S1)/D50×100≦6を満たすことが好ましく、-4≦(S2-S1)/D50×100≦4満たすことがより好ましく、-2≦(S2-S1)/D50×100≦2を満たすことが更により好ましい。
【0034】
1は、隔壁112のうち、第二底面106が有する目封止部109の第1セル108の延びる方向の最深部から第二底面106までの範囲Aにおける部位、及び、第一底面104が有する目封止部109の第2セル110の延びる方向の最深部から第一底面104までの範囲Bにおける部位のセリア、ジルコニア、及びチタニアから選択される一種又は二種以上の焼結助剤の合計含有率の平均値(%)を指す。
2は、隔壁112のうち、第二底面106が有する目封止部109の第1セル108の延びる方向の最深部から、第一底面104が有する目封止部109の第2セル110の延びる方向の最深部までの範囲Cにおける部位のセリア、ジルコニア、及びチタニアから選択される一種又は二種以上の焼結助剤の合計含有率の平均値(%)を指す。
【0035】
細孔径分布をシャープにするという観点から、1≦S2であることが好ましく、2≦S2であることがより好ましく、3≦S2であることが更により好ましい。また、隔壁の融点が低下するのを抑制するという観点から、S2≦10であることが好ましく、S2≦8であることがより好ましく、S2≦6であることが更により好ましい。従って、例えば、1≦S2≦10であることが好ましく、2≦S2≦8であることがより好ましく、3≦S2≦6であることが更により好ましい。
【0036】
また、焼結助剤の隔壁から目封止部への移動を抑制するという観点から、柱状ハニカム構造体の目封止部は、セリア、ジルコニア、及びチタニアから選択される一種又は二種以上の焼結助剤を含有することが好ましく、少なくともセリアを含有することがより好ましい。目封止部におけるセリア、ジルコニア、及びチタニアから選択される一種又は二種以上の焼結助剤の合計含有率の平均値をS3(%)とすると、焼結助剤の隔壁から目封止部への移動を抑制するという観点から、1≦S3であることが好ましく、2≦S3であることがより好ましく、3≦S3であることが更により好ましい。また、目封止部の融点が低下するのを抑制するという観点から、S3≦10であることが好ましく、S3≦8であることがより好ましく、S3≦6であることが更により好ましい。従って、例えば、1≦S3≦10であることが好ましく、2≦S3≦8であることがより好ましく、3≦S3≦6であることが更により好ましい。
【0037】
焼結助剤の合計含有率は、走査型電子顕微鏡(SEM)に装着したエネルギー分散型X線分析装置(EDS)によって測定される。具体的には、外周側壁、隔壁及び目封止部の測定箇所から、セルの延びる方向に平行な断面が露出するサンプル(大きさ:15mm×15mm×15mm)を採取して断面をダイヤモンドスラリーを用いて鏡面研磨した研磨面を観察試料とする。この研磨面を200倍率でSEM-EDS分析により観察(一視野の大きさ:700μm×700μm)及び元素マッピングする。SEM画像上の空間部分を除く実体部分の面積を100%として、Ceが占める面積を画像解析により求め、これをセリアの含有率とみなす。同様に、SEM画像上の空間部分を除く実体部分の面積を100%として、Zrが占める面積を画像解析により求め、これをジルコニアの含有率とみなす。画面上の空隙部分は除く実体部分の面積を100%として、Tiが占める面積を画像解析により求め、これをチタニアの含有率とみなす。
【0038】
1の測定方法について説明する。先述した方法で、上記範囲A及び範囲Bにおける隔壁の部位から偏りなく、セルの延びる方向に平行なする断面が露出する隔壁のサンプルをそれぞれ2個、合計4個採取し、それぞれ観察試料を作製する。各観察試料に対して、先述したSEM-EDS分析により元素マッピングし、セリア、ジルコニア、及びチタニアから選択される一種又は二種以上の焼結助剤の合計含有率を求める。そして、全ての観察試料における合計含有率の平均値をS1(%)とする。
【0039】
2の測定方法について説明する。先述した方法で、上記範囲Cにおける隔壁の部位から偏りなく、セルの延びる方向に平行な断面が露出する隔壁のサンプルを2個採取し、それぞれ観察試料を作製する。各観察試料に対して、先述したSEM-EDS分析により元素マッピングし、セリア、ジルコニア、及びチタニアから選択される一種又は二種以上の焼結助剤の合計含有率を求める。そして、全ての観察試料における合計含有率の平均値をS2(%)とする。
【0040】
3の測定方法について説明する。先述した方法で、第一底面及び第二底面の近傍から偏りなく、セルの延びる方向に平行な断面が露出する目封止部のサンプルをそれぞれ2個、合計4個採取し、それぞれ観察試料を作製する。各観察試料に対して、先述したSEM-EDS分析により元素マッピングし、セリア、ジルコニア、及びチタニアから選択される一種又は二種以上の焼結助剤の合計含有率を求める。そして、全ての観察試料における合計含有率の平均値をS3(%)とする。
【0041】
柱状ハニカム構造体における隔壁の平均厚みは、強度確保の観点から152μm以上であることが好ましく、178μm以上であることがより好ましく、203μm以上であることが更により好ましい。また、隔壁の平均厚みは圧力損失を抑制するという観点から305μm以下であることが好ましく、279μm以下であることがより好ましく、254μm以下であることが更により好ましい。図6には、柱状ハニカム構造体100の隔壁112をセルの延びる方向に直交する断面で観察したときの模式的な部分拡大図が示されている。隔壁の厚みは、セルの延びる方向(柱状ハニカム構造体の高さ方向)に直交する断面において、隣接するセルの重心O同士を線分Nで結んだときに当該線分Nが隔壁を横切る長さを指す。隔壁の厚み方向Dは、当該線分Nに平行な方向を指す。隔壁の平均厚みは、すべての隔壁の厚みの平均値を指す。
【0042】
一実施形態において、第一底面及び第二底面の目封止部は共に、目封止部の平均深さが2~8mmである。目封止部の平均深さが2mm以上であることで目封止部の強度を確保することができる。目封止部の平均深さは好ましくは3mm以上である。また、目封止部の平均深さが8mm以下であることで、セル内で粒子状物質を捕集する隔壁の面積が小さくなるのを防止できる。目封止部の平均深さは好ましくは7mm以下である。目封止部のセルの延びる方向の深さを各底面について任意の20箇所測定し、その平均値を各底面における目封止部の平均深さとする。
【0043】
柱状ハニカム構造体のセル密度(単位断面積当たりのセルの数)については特に制限はなく、例えば6~2000セル/平方インチ(0.9~311セル/cm2)、更に好ましくは50~1000セル/平方インチ(7.8~155セル/cm2)、特に好ましくは100~600セル/平方インチ(15.5~92.0セル/cm2)とすることができる。ここで、セル密度は、セルの全数(目封止されたセルを含む。)を、柱状ハニカム構造体の外周側壁を除く一方の底面積で割ることにより算出される。
【0044】
隔壁の細孔径分布はシャープであることが低圧損と捕集性能のバランスを両立する上で望ましい。具体的には、隔壁、とりわけ隔壁のうち、範囲Cにおける部位は、水銀圧入法により測定される体積基準の累積細孔径分布において、小細孔側からの累積10%細孔径(D10)、累積50%細孔径(D50)及び累積90%細孔径(D90)が、(D90-D10)/D50≦1.2の関係を満たすことが好ましく、(D90-D10)/D50≦1.1の関係を満たすことがより好ましく、(D90-D10)/D50≦1.0の関係を満たすことが更により好ましい。(D90-D10)/D50の下限は0であるが、製造容易性の観点から、0.5≦(D90-D10)/D50を満たすことが通常である。
【0045】
本明細書において、隔壁のD10、D50及びD90は、水銀ポロシメータによりJIS R1655:2003に規定される水銀圧入法によって測定される。水銀圧入法とは、試料を真空状態で水銀中に浸漬した状態で均等圧を加え、圧力を徐々に上昇させながら水銀を試料中に圧入し、圧力と細孔内に圧入された水銀の容量から細孔径分布を算出する方法である。圧力を徐々に上昇させると、径の大きい細孔から順に水銀が圧入され水銀の累積容量が増加し、最終的に全ての細孔が水銀で満たされると、累積容量は平衡量に達する。このときの累積容量が全細孔容積(cm3/g)である。そして、小細孔側から全細孔容積の10%の容積の水銀が圧入された時点の細孔径が累積10%細孔径(D10)であり、小細孔側から全細孔容積の50%の容積の水銀が圧入された時点の細孔径が累積50%細孔径(D50)であり、小細孔側から全細孔容積の90%の容積の水銀が圧入された時点の細孔径が累積90%細孔径(D90)である。
【0046】
隔壁から試料(0.3g)を柱状ハニカム構造体の上記範囲Cから、径方向の中心部及び外周部を含めて偏りなく6個採取してそれぞれの細孔径分布を測定してD10、D50及びD90を求め、平均値を測定値とする。
【0047】
隔壁のD50は用途に応じて適切な範囲に設定することが望ましい。例えば、フィルタ用途として柱状ハニカム構造体を使用する場合、隔壁、とりわけ隔壁のうち、範囲Cにおける部位のD50は28μm以下であることが好ましく、26μm以下であることがより好ましく、24μm以下であることが更により好ましい。隔壁のD50が上記範囲であることにより、粒子状物質の捕集効率が有意に向上する。また、隔壁のD50は5μm以上であることが好ましく、6μm以上であることがより好ましく、7μm以上であることが更により好ましい。隔壁のD50が上記範囲であることにより、圧力損失の上昇を抑制することができる。
【0048】
柱状ハニカム構造体の機械的強度の1つの目安がアイソスタティック破壊強度である。柱状ハニカム構造体のアイソスタティック破壊強度の測定においては、柱状ハニカム構造体を圧力容器内の水中に沈め、水圧を徐々に増加させることで柱状ハニカム構造体に等方的な圧力を加える試験が行われる。圧力容器内の水圧が徐々に増加することで、最終的に柱状ハニカム構造体の隔壁や外周側壁に破壊が生じる。破壊が生じた際の圧力の値(破壊強度)がアイソスタティック破壊強度である。アイソスタティック破壊強度は、社団法人自動車技術協会発行の自動車規格(JASO M505-87)に基づいて測定される。
【0049】
柱状ハニカム構造体を、自動車用排ガスフィルタ及び/又は触媒担体として適用する上では、アイソスタティック破壊強度の下限は0.5MPa以上であることが好ましく、1.0MPa以上であることがより好ましく、1.5MPa以上であることが更により好ましい。アイソスタティック破壊強度の上限は特に設定されないが、3.0MPa以下であるのが通常であり、2.5MPa以下であるのが典型的である。
【0050】
柱状ハニカム構造体を触媒担体として使用する場合、隔壁の表面に目的に応じた触媒をコーティングすることができる。触媒としては、限定的ではないが、炭化水素(HC)及び一酸化炭素(CO)を酸化燃焼させて排気ガス温度を高めるための酸化触媒(DOC)、スス等のPMの燃焼を補助するPM燃焼触媒、窒素酸化物(NOx)を除去するためのSCR触媒及びNSR触媒、並びに、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)及び窒素酸化物(NOx)を同時に除去可能な三元触媒が挙げられる。触媒は、例えば、貴金属(Pt、Pd、Rh等)、アルカリ金属(Li、Na、K、Cs等)、アルカリ土類金属(Mg、Ca、Ba、Sr等)、希土類(Ce、Sm、Gd、Nd、Y、La、Pr等)、遷移金属(Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Sc、Ti、Zr、V、Cr等)等を適宜含有することができる。
【0051】
(2.製造方法)
本発明の一実施形態に係る柱状ハニカム構造体の製造方法を以下に例示的に説明する。まず、コージェライト化原料、分散媒、造孔材及びバインダーに加えて、セリア、ジルコニア、及びチタニアから選択される一種又は二種以上の焼結助剤を含有する原料組成物を混練して坏土を形成した後、当該坏土を押出成形することにより、外周側壁と、外周側壁の内周側に配置され、第一底面から第二底面まで延び、第一底面及び第二底面が共に開口部を有する柱状ハニカム成形体を得る。原料組成物中には分散剤や他のセラミックス原料等の添加剤を必要に応じて配合してもよい。押出成形に際しては、所望の全体形状、セル形状、隔壁厚み、セル密度等を有する口金を用いることができる。
【0052】
コージェライト化原料とは、焼成によりコージェライトとなる原料であり、例えば粉末の形態で提供することができる。コージェライト化原料は、アルミナ(Al23)(アルミナに変換される水酸化アルミニウムの分を含む):30~45質量%、マグネシア(MgO):11~17質量%及びシリカ(SiO2):42~57質量%の化学組成を有することが望ましい。
【0053】
細孔径分布をシャープにするという観点から、セリア、ジルコニア、及びチタニアから選択される一種又は二種以上の焼結助剤の合計添加量は、コージェライト化原料100質量部に対して、2質量部以上であることが好ましく、3質量部以上であることがより好ましく、4質量部以上であることが更により好ましい。外周側壁及び隔壁の融点が低下するのを抑制するという観点から、セリア、ジルコニア、及びチタニアから選択される一種又は二種以上の焼結助剤の合計添加量は、コージェライト化原料100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましく、8質量部以下であることがより好ましく、6質量部以下であることが更により好ましい。
【0054】
原料組成物に添加する焼結助剤は、柱状ハニカム構造体の隔壁及び外周側壁における組成均一性を高めるという観点から、レーザー回折・散乱法により求めた体積基準の累積粒度分布におけるメジアン径(D50)の上限が10μm以下であることが好ましく、8μm以下であることがより好ましく、6μm以下であることが更により好ましい。また、原料組成物中の焼結助剤は、凝集による内部欠陥が発生するという観点から、レーザー回折・散乱法により求めた体積基準の累積粒度分布におけるメジアン径(D50)の下限が0.1μm以上であることが好ましく、0.3μm以上であることがより好ましく、0.5μm以上であることが更により好ましい。従って、例えば、原料組成物中の焼結助剤のメジアン径(D50)は、0.1~10μmであることが好ましく、0.3~8μmであることがより好ましく、0.5~6μmであることが更により好ましい。
【0055】
分散媒としては、水、又は水とアルコール等の有機溶媒との混合溶媒等を挙げることができるが、特に水を好適に用いることができる。
【0056】
乾燥工程が実施される前の柱状ハニカム成形体の分散媒の含有量は、コージェライト化原料100質量部に対して、20~110質量部であることが好ましく、25~100質量部であることがより好ましく、30~90質量部であることが更により好ましい。柱状ハニカム成形体の分散媒の含有量が、コージェライト化原料100質量部に対して、20質量部以上であることで、柱状ハニカム構造体の品質が安定し易いという利点が得られやすい。柱状ハニカム成形体の分散媒の含有量が、コージェライト化原料100質量部に対して、90質量部以下であることで、乾燥時の収縮量が小さくなり、変形を抑制することができる。本明細書において、柱状ハニカム成形体の分散媒の含有量は、乾燥減量法により測定される値を指す。
【0057】
造孔材としては、焼成後に気孔となるものであれば、特に限定されず、例えば、小麦粉、澱粉、発泡樹脂、吸水性樹脂、シリカゲル、炭素(例:グラファイト)、セラミックスバルーン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエステル、アクリル樹脂、フェノール等を挙げることができる。造孔材は、1種類を単独で使用するものであっても、2種類以上を組み合わせて使用するものであってもよい。造孔材の含有量は、焼成後の柱状ハニカム構造体の気孔率を高めるという観点からは、コージェライト化原料100質量部に対して3質量部以上であることが好ましく、6質量部以上であるのがより好ましく、9質量部以上であるのが更により好ましい。造孔材の含有量は、焼成後の柱状ハニカム構造体の強度を確保するという観点からは、コージェライト化原料100質量部に対して30質量部以下であることが好ましく、27質量部以下であるのがより好ましく、24質量部以下であるのが更により好ましい。
【0058】
バインダーとしては、メチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等の有機バインダーを例示することができる。また、バインダーの含有量は、焼成前の柱状ハニカム成形体の強度を高めるという観点から、コージェライト化原料100質量部に対して4質量部以上であることが好ましく、4.5質量部以上であるのがより好ましく、5質量部以上であるのが更により好ましい。バインダーの含有量は、焼成工程での異常発熱によるキレ発生を抑制する観点から、コージェライト化原料100質量部に対して9質量部以下であることが好ましく、8質量部以下であるのがより好ましく、7質量部以下であるのが更により好ましい。バインダーは、1種類を単独で使用するものであっても、2種類以上を組み合わせて使用するものであってもよい。
【0059】
分散剤には、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリエーテルポリオール等を用いることができる。分散剤は、1種類を単独で使用するものであっても、2種類以上を組み合わせて使用するものであってもよい。分散剤の含有量は、コージェライト化原料100質量部に対して0~2質量部であることが好ましい。
【0060】
柱状ハニカム成形体の乾燥は、例えば、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等の従来公知の乾燥方法を用いることができる。これらの中でも、柱状ハニカム成形体全体を迅速かつ均一に乾燥することができる点で、熱風乾燥と、マイクロ波乾燥又は誘電乾燥とを組み合わせた乾燥方法が好ましい。
【0061】
柱状ハニカム成形体を乾燥した後、柱状ハニカム成形体の両底面に目封止部を形成する。それぞれの目封止部は、第1セル及び第2セルの目封止部を形成すべき開口部に目封止部形成用スラリーを充填し、その後、充填された当該スラリーを乾燥及び焼成する方法で形成することができる。目封止部形成用スラリーは、コージェライト化原料、分散媒、造孔材及びバインダーに加えて、セリア、ジルコニア、及びチタニアから選択される一種又は二種以上の焼結助剤を含有することができる。
【0062】
例示的には、目封止部形成用スラリーは、コージェライト化原料100質量部に対して、分散媒を30~60質量部、造孔材を5~20質量部、バインダーを0.2~2.0質量部含有する。好ましい実施形態において、目封止部形成用スラリーは、コージェライト化原料100質量部に対して、分散媒を35~50質量部、造孔材を8~16質量部、バインダーを0.2~1.5質量部含有する。
【0063】
目封止部形成用スラリー中のセリア、ジルコニア、及びチタニアから選択される一種又は二種以上の焼結助剤の合計添加量は、先述した柱状ハニカム成形体を得るための原料組成物中のセリア、ジルコニア、及びチタニアから選択される一種又は二種以上の焼結助剤の合計添加量に応じて調整することが望ましい。具体的には、柱状ハニカム成形体を得るための原料組成物中の焼結助剤について、コージェライト化原料100質量部に対する合計添加量をC1質量部とし、目封止部形成用スラリー中の焼結助剤について、コージェライト化原料100質量部に対する合計添加量をC2質量部とすると、焼結助剤の隔壁から目封止部への移動を抑制する観点から、C1-C2≦1を満たすことが好ましく、C1-C2≦0を満たすことがより好ましく、C1-C2≦-1を満たすことが更により好ましい。但し、C1-C2を小さくし過ぎても焼結助剤の隔壁から目封止部への移動を抑制する効果が飽和する一方で、隔壁の融点が低下しやすいので、-8≦C1-C2を満たすことが好ましく、-6≦C1-C2を満たすことがより好ましく、-4≦C1-C2を満たすことが更により好ましい。従って、例えば、-8≦C1-C2≦1を満たすことが好ましく、-6≦C1-C2≦0を満たすことがより好ましく、-4≦C1-C2≦-1を満たすことが更により好ましい。
【0064】
1とC2が上記関係を満たせば、C2自体には特段の制限はないが、1≦C2≦10を満たすことが通常であり、1.5≦C2≦8を満たすことが典型的であり、2.0≦C2≦6を満たすことがより典型的である。
【0065】
目封止部形成用スラリー中の焼結助剤は、組成の均一性という観点から、レーザー回折・散乱法により求めた体積基準の累積粒度分布におけるメジアン径(D50)の上限が10μm以下であることが好ましく、8μm以下であることがより好ましく、6μm以下であることが更により好ましい。また、目封止部形成用スラリー中の焼結助剤は、凝集による内部欠陥が発生するという観点から、レーザー回折・散乱法により求めた体積基準の累積粒度分布におけるメジアン径(D50)の下限が0.1μm以上であることが好ましく、0.3μm以上であることがより好ましく、0.5μm以上であることが更により好ましい。従って、例えば、目封止部形成用スラリー中の焼結助剤のメジアン径(D50)は、0.1~10μmであることが好ましく、0.3~8μmであることがより好ましく、0.5~6μmであることが更により好ましい。
【0066】
分散媒としては、水、又は水とアルコール等の有機溶媒との混合溶媒等を挙げることができるが、特に水を好適に用いることができる。
【0067】
造孔材としては、焼成後に気孔となるものであれば、特に限定されず、例えば、小麦粉、澱粉、発泡樹脂、吸水性樹脂、シリカゲル、炭素(例:グラファイト)、セラミックスバルーン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエステル、アクリル樹脂、フェノール等を挙げることができる。造孔材は、1種類を単独で使用するものであっても、2種類以上を組み合わせて使用するものであってもよい。
【0068】
バインダーとしては、メチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等の有機バインダーを例示することができる。バインダーは、1種類を単独で使用するものであっても、2種類以上を組み合わせて使用するものであってもよい。
【0069】
目封止部形成用スラリーは適宜分散剤を含有してもよい。分散剤は、例えば、コージェライト化原料100質量部に対して、0.1~3質量部含有することができ、好ましくは0.2~2質量部含有することができる。分散剤としては、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、及びポリアルコール等を列挙することができる。分散剤は、1種類を単独で使用するものであっても、2種類以上を組み合わせて使用するものであってもよい。
【0070】
目封止部形成用スラリーのセルの開口部への充填は、例えば以下の「スキージ方式」で実施することができる。図7に示すように、チャック120を用いて固定された乾燥後の柱状ハニカム成形体600の上側の底面(ここでは図中の第二底面106)にフィルム121を貼着し、当該フィルム121に目封止部の配設条件(例えば、「市松模様」等)に対応する位置にレーザーを照射し、フィルム121に複数の孔126を穿設する。
【0071】
その後、フィルム121の上に目封止部形成用スラリー124を載せ、スキージ122をフィルム121に沿って図7における矢印方向に移動させる操作を行う。これにより、フィルム121の孔126に対応する位置に開口したセル125に一定量の目封止部形成用スラリー124が充填される。
【0072】
目封止部の深さは、スキージ122の移動操作の回数、スキージ122とフィルム121との間の接触角度、スキージ122のフィルム121に対する押付圧力、及び、目封止部形成用スラリー124の粘度等によって変化させることが可能である。
【0073】
目封止部形成用スラリー124の充填後は、フィルム121を剥がし、柱状ハニカム成形体600全体を乾燥する。これにより、セル125に充填された目封止部形成用スラリー124が乾燥し、焼成前の目封止部が形成される。乾燥は、例えば、100~230℃の乾燥温度で60~150秒程度の条件で実施することができる。乾燥後、目封止部はフィルムの厚み分だけ柱状ハニカム成形体の底面から突出するので、必要に応じて削り取ることができる。
【0074】
フィルムの材料は、特に制限はないが、孔を形成するための熱加工が容易であるため、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド、又はテフロン(登録商標)であることが好ましい。また、フィルムは粘着層を備えていることが好ましく、粘着層の材料は、アクリル系樹脂、ゴム系(例えば、天然ゴム又は合成ゴムを主成分とするゴム)、又はシリコン系樹脂であることが好ましい。フィルムは、例えば厚みが20~50μmの粘着フィルムを好適に使用することができる。
【0075】
上記「スキージ方式」以外に、目封止部形成用スラリーをセルの開口部へ充填する方法としては、「圧入方式」が挙げられる。「圧入方式」は、フィルムを貼着し、孔を穿けた柱状ハニカム成形体の底面部を、目封止部形成用スラリーを溜めた液槽に浸し、セルに目封止部形成用スラリーを充填する方法である。この場合、目封止部の深さは、柱状ハニカム成形体を目封止部形成用スラリーに浸す深さによって変化させることができる。
【0076】
目封止部形成用スラリーが充填された柱状ハニカム成形体はこの後、脱脂工程及び焼成工程を受け、これにより柱状ハニカム構造体が製造される。バインダーの燃焼温度は200℃程度、造孔材の燃焼温度は300~1000℃程度である。従って、脱脂工程はハニカム成形体を200~1000℃程度の範囲に加熱して実施すればよい。加熱時間は特に限定されないが、通常は、10~100時間程度である。脱脂工程を経た後のハニカム成形体は仮焼体と称される。焼成工程は、柱状ハニカム構造体の材料組成にもよるが、例えば仮焼体を1300~1450℃に加熱して、3~24時間保持することで行うことができる。
【実施例0077】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を例示するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0078】
<比較例1-1>
(1)柱状ハニカム成形体の作製
コージェライト化原料100質量部に、分散媒を80質量部、造孔材を25質量部、バインダーを5質量部、分散剤を1質量部それぞれ添加することで得られた原料組成物を混練して坏土を調製した。コージェライト化原料としては、アルミナ、水酸化アルミニウム、カオリン、タルク、及びシリカを使用した。分散媒としては水を使用し、造孔材としては吸水性樹脂、シリカゲルを使用し、バインダーとしてはメチルセルロースを使用し、分散剤としてはエチレングリコールを使用した。
【0079】
この坏土を押出成形機に投入し、所定形状の口金を介して押出成形することにより円柱状の柱状ハニカム成形体を得た。得られた柱状ハニカム成形体を誘電乾燥及び熱風乾燥した後、所定の寸法となるように両底面を切断し、70℃×2時間の条件で更に熱風乾燥した。
【0080】
(2)目封止部の形成
コージェライト化原料100質量部に、分散媒を40質量部、造孔材を10質量部、バインダーを2質量部、分散剤を1質量部それぞれ添加し、混練して目封止部形成用スラリーを調合した。コージェライト化原料としては、アルミナ、水酸化アルミニウム、カオリン、タルク、及びシリカを使用した。分散媒としては水を使用し、造孔材としては発泡樹脂を使用し、バインダーとしてはメチルセルロースを使用し、分散剤としてはエチレングリコールを使用した。先述した「スキージ方式」を用いて、第1セル及び第2セルが交互に隣接配置するように、この目封止部形成用スラリーを両底面に充填した。その後、大気雰囲気下で180℃×200秒の条件で乾燥を行った。
【0081】
(3)焼成
次いで、大気雰囲気下、約200℃で加熱脱脂し、更に大気雰囲気下、1400℃で10時間焼成することにより、目封止部を有する柱状ハニカム構造体を得た。柱状ハニカム構造体は下記の試験に必要な数を製造した。
【0082】
(4)柱状ハニカム構造体の仕様
得られた柱状ハニカム構造体の仕様は以下である。
全体形状:直径132mm×高さ152mmの円柱状
セルの流路方向に垂直な断面におけるセル形状:正方形
セル密度(単位断面積当たりのセルの数):300セル/平方インチ(47セル/cm2
隔壁の平均厚み:8.5mil(216μm)(口金の仕様に基づく公称値)
目封止部の平均深さ:5mm
当該柱状ハニカム構造体の外周側壁、隔壁及び目封止部について、CuのKα線を用いたPANalytical社製のX’pert PRO装置を使用し、X線回折法により2θ=8~100°の範囲のX線解析測定を行ない、リートベルト解析プログラムRIETANを用いて解析して求めたコージェライト結晶相比率を分析したところ、75~94質量%であった。
【0083】
<比較例1-2~1-6、実施例1-1~1-9>
焼結助剤として、セリア、ジルコニア、チタニアの三種類を用意した。これらは粉末状であり、レーザー回折・散乱法により求めた体積基準の累積粒度分布におけるメジアン径(D50)を求めた結果を以下に示す。
・セリア:1μm
・ジルコニア:1μm
・チタニア:1μm
【0084】
ハニカム成形体用の原料組成物中のコージェライト化原料100質量部に対する焼結助剤の添加量C1(質量部)、及び目封止部形成用スラリー中のコージェライト化原料100質量部に対する焼結助剤の添加量C2(質量部)を表1に記載の条件とした他は、比較例1-1と同じ製造条件で、柱状ハニカム構造体を得た。柱状ハニカム構造体は下記の試験に必要な数を製造した。
【0085】
<比較例2-1>
(1)柱状ハニカム成形体の作製
コージェライト化原料100質量部に、分散媒を80質量部、造孔材を25質量部、バインダーを5質量部、分散剤を1質量部それぞれ添加することで得られた原料組成物を混練して坏土を調製した。コージェライト化原料としては、アルミナ、水酸化アルミニウム、カオリン、タルク、及びシリカを使用した。分散媒としては水を使用し、造孔材としては吸水性樹脂、シリカゲルを使用し、バインダーとしてはメチルセルロースを使用し、分散剤としてはエチレングリコールを使用した。
【0086】
この坏土を押出成形機に投入し、所定形状の口金を介して押出成形することにより円柱状の柱状ハニカム成形体を得た。得られた柱状ハニカム成形体を誘電乾燥及び熱風乾燥した後、所定の寸法となるように両底面を切断し、70℃×2時間の条件で更に熱風乾燥した。
【0087】
(2)目封止部の形成
コージェライト化原料100質量部に、分散媒を40質量部、造孔材を10質量部、バインダーを2質量部、分散剤を1質量部それぞれ添加し、混練して目封止部形成用スラリーを調合した。コージェライト化原料としては、アルミナ、水酸化アルミニウム、カオリン、タルク、及びシリカを使用した。分散媒としては水を使用し、造孔材としては発泡樹脂を使用し、バインダーとしてはメチルセルロースを使用し、分散剤としてはエチレングリコールを使用した。先述した「スキージ方式」を用いて、第1セル及び第2セルが交互に隣接配置するように、この目封止部形成用スラリーを両底面に充填した。
【0088】
(3)焼成
その後、大気雰囲気下で180℃×200秒の条件で乾燥を行った。次いで、大気雰囲気下、約200℃で加熱脱脂し、更に大気雰囲気下、1400℃で10時間焼成することにより、目封止部を有する柱状ハニカム構造体を得た。柱状ハニカム構造体は下記の試験に必要な数を製造した。
【0089】
(4)柱状ハニカム構造体の仕様
得られた柱状ハニカム構造体の仕様は以下である。
全体形状:直径132mm×高さ152mmの円柱状
セルの流路方向に垂直な断面におけるセル形状:正方形
セル密度(単位断面積当たりのセルの数):340セル/平方インチ(53セル/cm2
隔壁の平均厚み:11mil(279μm)(口金の仕様に基づく公称値)
目封止部の平均深さ:5mm
当該柱状ハニカム構造体の外周側壁、隔壁及び目封止部について、CuのKα線を用いたPANalytical社製のX’pert PRO装置を使用し、X線回折法により2θ=8~100°の範囲のX線解析測定を行ない、リートベルト解析プログラムRIETANを用いて解析して求めたコージェライト結晶相比率を分析したところ、75~94質量%であった。
【0090】
<比較例2-2~2-6、実施例2-1~2-9>
焼結助剤として、セリア、ジルコニア、チタニアの三種類を用意した。これらは粉末状であり、レーザー回折・散乱法により求めた体積基準の累積粒度分布におけるメジアン径(D50)を求めた結果を以下に示す。
・セリア:1μm
・ジルコニア:1μm
・チタニア:1μm
【0091】
ハニカム成形体用の原料組成物中のコージェライト化原料100質量部に対する焼結助剤の添加量C1(質量部)、及び目封止部形成用スラリー中のコージェライト化原料100質量部に対する焼結助剤の添加量C2(質量部)を表2に記載の条件とした他は、比較例2-1と同じ製造条件で、柱状ハニカム構造体を得た。柱状ハニカム構造体は下記の試験に必要な数を製造した。
【0092】
<特性評価>
上記で得られた各柱状ハニカム構造体に対して種々の特性評価を行った。
【0093】
(1.気孔率)
柱状ハニカム構造体の上述した範囲A及び範囲B(目封止部近傍)における隔壁の部位の平均気孔率P1(%)、及び上述した範囲C(目封止部から離れた箇所)における隔壁の部位の平均気孔率P2(%)を、先述した方法に従って求めた。測定結果に基づき、P1-P2を算出した。結果を表1及び表2に示す。
【0094】
(2.SEM-EDS分析)
柱状ハニカム構造体の上述した範囲A及び範囲B(目封止部近傍)における隔壁の部位の焼結助剤の合計含有率の平均値であるS1(%)、上述した範囲C(目封止部から離れた箇所)における隔壁の部位の焼結助剤の合計含有率の平均値であるS2(%)、及び目封止部における焼結助剤の合計含有率の平均値であるS3(%)を、先述した方法に従って求めた。SEM-EDS分析に用いた装置は、株式会社日立ハイテク製型式S-3400Nとした。結果を表1及び表2に示す。
【0095】
(3.細孔径分布の測定)
柱状ハニカム構造体の隔壁の細孔径分布(D10、D50及びD90)を先述した方法に従って、水銀圧入法により測定した。測定結果に基づき、(D90-D10)/D50を算出した。また、SEM-EDS分析の結果に基づき、(S2-S1)/D50×100を算出した。結果を表1及び表2に示す。
【0096】
(4.アイソスタティック破壊強度の測定)
柱状ハニカム構造体のアイソスタティック破壊強度を、社団法人自動車技術協会発行の自動車規格(JASO M505-87)に基づいて測定した。結果を表1及び表2に示す。
【0097】
【表1】
【0098】
【表2】
【0099】
(5.考察)
所定の焼結助剤を添加していない比較例1-1、2-1は、アイソスタティック破壊強度は優れているものの、細孔径分布がブロードであった。これに対して、所定の焼結助剤を添加した比較例1-2~1-7、2-2~2-7は、細孔径分布がシャープになった。しかしながら、これらの例は製造条件であるC1-C2が不適切であったため、目封止部近傍における隔壁の部位の平均気孔率P1が大きくなり、-4≦P1-P2≦7を満たさなかった。このため、アイソスタティック破壊強度が顕著に低下した。
【0100】
一方、実施例1-1~1-9、実施例2-1~2-9は、柱状ハニカム構造体の隔壁及び外周側壁を構成する部分が所定の焼結助剤を含有し、-4≦P1-P2≦7を満たした。このため、細孔径分布をシャープにしながらも、アイソスタティック破壊強度の低下を抑制することができた。更に、P1-P2を最適化することで所定の焼結助剤を添加する前の例(比較例1-1、2-1)と遜色ないアイソスタティック破壊強度が得られることも分かる。
【符号の説明】
【0101】
100 :柱状ハニカム構造体
102 :外周側壁
104 :第一底面
106 :第二底面
108 :第1セル
109 :目封止部
110 :第2セル
112 :隔壁
112a :表面
112b :表面
112c :表面
120 :チャック
121 :フィルム
122 :スキージ
124 :目封止部形成用スラリー
125 :セル
126 :孔
600 :柱状ハニカム成形体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7