(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143871
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】低誘電カバー部材および電子部品
(51)【国際特許分類】
H01Q 1/42 20060101AFI20241003BHJP
G01S 7/03 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
H01Q1/42
G01S7/03 246
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056787
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100173428
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】前岨 晋一
【テーマコード(参考)】
5J046
5J070
【Fターム(参考)】
5J046AA03
5J046AB09
5J046RA03
5J046RA08
5J070AB24
5J070AF02
(57)【要約】
【課題】優れた透過性をもって透過させるべきミリ波について、その周波数領域の選択を行い得る低誘電カバー部材、この低誘電カバー部材を備える信頼性に優れた電子部品を提供すること。
【解決手段】本発明の低誘電カバー部材1は、樹脂材料を主材料として構成され、互いの比誘電率が異なる少なくとも2層以上の積層体で構成され、例えば、その厚さ方向において、2層の被覆層としての高誘電層3が、1層の中間層としての低誘電層2を挟むサンドイッチ構造を有している。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材料を主材料として構成され、互いの比誘電率が異なる少なくとも2層以上の積層体で構成されることを特徴とする低誘電カバー部材。
【請求項2】
前記積層体は、その平均厚さが0.1mm以上5.0mm以下である請求項1に記載の低誘電カバー部材。
【請求項3】
前記積層体は、その厚さ方向において、2層の被覆層が、1層の中間層を挟むサンドイッチ構造を有し、
前記被覆層の比誘電率は、前記中間層の比誘電率よりも高いか、もしくは、低い請求項1に記載の低誘電カバー部材。
【請求項4】
2層の前記被覆層は、同一の平均厚さを有し、
1層の前記被覆層の平均厚さをA[mm]とし、1層の前記中間層の平均厚さをB[mm]としたとき、0.10≦A/B≦0.80なる関係を満足する請求項3に記載の低誘電カバー部材。
【請求項5】
前記積層体は、さらに充填材を含み、
各前記層に含まれる、前記樹脂材料の種類およびその含有量、ならびに、前記充填材の種類およびその含有量を適宜設定することで、各前記層における比誘電率が決定される請求項1に記載の低誘電カバー部材。
【請求項6】
前記積層体は、その25℃における引張弾性率が、0.5GPa以上である請求項5に記載の低誘電カバー部材。
【請求項7】
請求項1に記載の低誘電カバー部材を備えることを特徴とする電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低誘電カバー部材および電子部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、数十GHz帯域~数百GHz帯域のような高周波数帯の電磁波であるミリ波を送受信するレーダー装置を有する無線通信機器およびセンサー等の開発がなされている。このような無線通信機器およびセンサー等において、レーダー装置は、通常、電磁波(ミリ波)の送信および受信の少なくとも一方を行うアンテナモジュールと、このアンテナモジュールの収納および保護の少なくとも一方を実施する低誘電カバー部材(躯体)としてのレドームとを有している。
【0003】
この低誘電カバー部材すなわちレドームは、アンテナモジュールの機能に阻害が生じないことを目的に、優れたミリ波(電磁波)の透過性を示し、かつ、躯体としての機能を発揮させることを目的に優れた機械的強度を有することが求められ、種々のものが検討されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
そして、この低誘電カバー部材では、アンテナモジュールの種類や用途に応じて、優れた透過性をもって透過させるミリ波(電磁波)の周波数が異なってくるが、現状では、優れた透過性をもって透過させるべきミリ波の周波数領域の選択を十分には行い得ていないのが実情であった。
【0005】
なおこのような問題は、レーダー装置が備えるレドームに限らず、例えば、レーダー筐体、レーダーを設置するバンパー等においても同様に生じている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、優れた透過性をもって透過させるべきミリ波について、その周波数領域の選択を行い得る低誘電カバー部材、この低誘電カバー部材を備える信頼性に優れた電子部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的は、下記(1)~(7)に記載の本発明により達成される。
(1) 樹脂材料を主材料として構成され、互いの比誘電率が異なる少なくとも2層以上の積層体で構成されることを特徴とする低誘電カバー部材。
【0009】
(2) 前記積層体は、その平均厚さが0.1mm以上5.0mm以下である上記(1)に記載の低誘電カバー部材。
【0010】
(3) 前記積層体は、その厚さ方向において、2層の被覆層が、1層の中間層を挟むサンドイッチ構造を有し、
前記被覆層の比誘電率は、前記中間層の比誘電率よりも高いか、もしくは、低い上記(1)または(2)に記載の低誘電カバー部材。
【0011】
(4) 2層の前記被覆層は、同一の平均厚さを有し、
1層の前記被覆層の平均厚さをA[mm]とし、1層の前記中間層の平均厚さをB[mm]としたとき、0.10≦A/B≦0.80なる関係を満足する上記(3)に記載の低誘電カバー部材。
【0012】
(5) 前記積層体は、さらに充填材を含み、
各前記層に含まれる、前記樹脂材料の種類およびその含有量、ならびに、前記充填材の種類およびその含有量を適宜設定することで、各前記層における比誘電率が決定される上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の低誘電カバー部材。
【0013】
(6) 前記積層体は、その25℃における引張弾性率が、0.5GPa以上である上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の低誘電カバー部材。
【0014】
(7) (1)ないし(6)のいずれかに記載の低誘電カバー部材を備えることを特徴とする電子部品。
【発明の効果】
【0015】
本発明の低誘電カバー部材は、レーダー装置等の電子部品が備える低誘電性を示すカバー部材として用いられるものである。
【0016】
このような低誘電カバー部材は、本発明では、樹脂材料を主材料として構成され、互いの比誘電率が異なる少なくとも2層以上の積層体で構成される。かかる構成をなす積層体からなる低誘電カバー部材において、各層における比誘電率の大きさや、積層体(低誘電カバー部材)の厚さ(総厚)等を、適宜設定することで、優れた透過性をもって透過させるべきミリ波について、その周波数領域の選択を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】低誘電カバー部材を透過する高周波数帯の電磁波を測定するフリースペース法が適用された透過量測定装置を説明するための模式図である。
【
図2】本発明の低誘電カバー部材の第1実施形態を示す縦断面図である。
【
図3】本発明の低誘電カバー部材の第2実施形態を示す縦断面図である。
【
図4】実施例1A、比較例1A、2Aの低誘電カバー部材において、周波数60GHz以上90GHz以下の範囲内のミリ波と、フリースペース法により測定されるミリ波の反射Sパラメーター値(dB)との関係を示すグラフである。
【
図5】実施例1B、比較例1B、2Bの低誘電カバー部材において、周波数60GHz以上90GHz以下の範囲内のミリ波と、フリースペース法により測定されるミリ波の反射Sパラメーター値(dB)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の低誘電カバー部材および電子部品を添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0019】
<低誘電カバー部材>
図1は、低誘電カバー部材を透過する高周波数帯の電磁波を測定するフリースペース法が適用された透過量測定装置を説明するための模式図である。
【0020】
本発明の低誘電カバー部材1は、樹脂材料を主材料として構成され、互いの比誘電率が異なる少なくとも2層以上の積層体で構成されるものである。
【0021】
ここで、本発明の低誘電カバー部材1(低誘電カバーシート)は、例えば、電子部品としてのレーダー装置が備えるアンテナモジュールの収納および保護の少なくとも一方を行う躯体としてのレドーム、すなわち、レーダー装置のような電子部品が備える低誘電性を示すカバー部材(成形体)として用いられる。
【0022】
なお、低誘電カバー部材1を、レドームとして用いる場合、アンテナモジュールを収納および保護の少なくとも一方を行う状態に応じて、低誘電カバー部材1は、如何なる形状を有していてもよく、
図1に示すように平板状をなす他、中空部を備えるドーム状または箱状をなすものであってもよい。また、レーダー装置を車載用のものとして用いる場合、このレーダー装置は、自動運転時にヒト等のモノの飛び出しや、車線からの車のはみ出し等を感知するミリ波レーダーすなわち車載用センサーとして用いられる。
【0023】
このような低誘電カバー部材1(積層体)において、本発明では、2層以上で備える各層における比誘電率の大きさが異なることで、各層間において比誘電率が異なる界面を形成することができ、これに起因して、特定の周波数領域を有するミリ波を、優れた透過性をもって透過させることができるようになる。
【0024】
そして、優れた透過性をもって透過させるミリ波における、特定の周波数領域の選択は、各層における比誘電率の大きさを異ならせることの他、さらに、積層体(低誘電カバー部材1)の厚さ(総厚)を異ならせることにより実現される。
【0025】
すなわち、積層体(低誘電カバー部材1)を構成する各層における比誘電率の大きさ、および、積層体(低誘電カバー部材1)の厚さ(総厚)を、適宜設定することで、優れた透過性をもって透過させるべきミリ波について、その周波数領域の選択を行うことができる。
【0026】
各層に含まれる樹脂材料としては、特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、セルロース系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等の熱可塑性樹脂が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、優れた低誘電性を示す樹脂材料であると言う観点からは、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂およびポリアミド系樹脂が好ましく用いられ、特に、ポリオレフィン系樹脂が好ましく用いられる。
【0027】
このポリオレフィン系樹脂としては、特に限定されないが、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)のようなポリエチレン系樹脂;結晶性プロピレン単独重合体、結晶性プロピレン-エチレンランダム共重合体、結晶性プロピレン-α-オレフィンランダム共重合体、エチレンおよびα-オレフィンの少なくとも一方とプロピレンとの結晶性ブロック共重合体のような結晶性ポリプロピレン系樹脂等のポリプロピレン系樹脂;ブテン-1単独重合体、ブテン-1-α-オレフィン共重合体のようなポリブテン系樹脂;4-メチルペンテン-1単独重合体、4-メチルペンテン-1-α-オレフィン共重合体のようなポリメチルペンテン系樹脂;塩化ビニル単独重合体、塩化ビニル-α-オレフィン共重合体のようなポリ塩化ビニル系樹脂;スチレン単独重合体、スチレン-α-オレフィン共重合体のようなポリ塩化ビニル系樹脂;シクロヘキシル、ノルボルネン骨格等の環状モノマーを重合成分に含む環状ポリオレフィン、環状ポリオレフィン共重合体のような環状オレフィン系樹脂等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができるが、中でも、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂および環状オレフィン系樹脂であることが好ましい。これらのものを用いることで、低誘電カバー部材1を、より確実に低誘電性を発揮するものとし得る。
【0028】
なお、α-オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン-1、ヘキセン-1、オクテン-1、デカン-1、テトラデカン-1、オクタデカン-1等が挙げられる。
【0029】
また、ポリアミド系樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド6のような脂肪族ポリアミド、ポリアミド10C、ポリアミド9C、ポリアミド6Cのような脂環式ポリアミド、ポリアミド12T、ポリアミド6T、ポリアミド6Iのような半芳香族ポリアミド等が挙げられる。
【0030】
さらに、ポリエステル系樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等が挙げられる。
【0031】
ここで、例えば、平均厚さ1.0mmの平板状をなすポリオレフィン系樹脂としてのポリプロピレンで構成される層(カバーフィルム)は、周波数60GHz以上90GHz以下の範囲内において、その比誘電率が2.3程度の大きさを示し、また、平均厚さ1.0mmの平板状をなすポリアミド系樹脂としてのポリアミド6で構成される層は、周波数60GHz以上90GHz以下の範囲内において、その比誘電率が3.4程度の大きさを示し、さらに、平均厚さ1.0mmの平板状をなすポリエステル系樹脂としてのポリブチレンテレフタレートで構成される層は、周波数60GHz以上90GHz以下の範囲内において、その比誘電率が3.3程度の大きさを示す。
【0032】
したがって、例えば、各層に含まれる樹脂材料として、ポリプロピレン(ポリオレフィン系樹脂)と、ポリアミド6(ポリアミド系樹脂)およびPBT(ポリエステル系樹脂)のうちの少なくとも1種とを選択し、各層に含まれる、これら樹脂材料の含有量を適宜設定することで、各層における、周波数60GHz以上90GHz以下の範囲内での比誘電率の大きさを、2.2以上3.0以下程度の範囲内に設定することができる。
【0033】
なお、低誘電カバー部材1の各層における比誘電率は、それぞれ、例えば、JIS C 2565に準拠して、空洞共振器法が適用された誘電率測定装置を用いて求めることができる。
【0034】
また、低誘電カバー部材1(積層体)は、各層において、樹脂材料の他に、さらに、充填材を含有していてもよい。低誘電カバー部材1(積層体)に充填材が含まれることで、低誘電カバー部材1の低誘電性を維持しつつ、低誘電カバー部材1に優れた機械的強度を付与することができる。
【0035】
また、低誘電カバー部材1(積層体)が、樹脂材料としてポリオレフィン系樹脂を含有する場合、前述の通り、ポリオレフィン系樹脂は、特に優れた低誘電性を示す樹脂材料であり、これに比較して充填材は、高誘電性示す材料である。そのため、低誘電カバー部材1の各層にポリオレフィン系樹脂(樹脂材料)の他に、さらに充填材が含まれることで、各層における、比誘電率の大きさを、各層に充填材が含まれない場合と比較して、高く設定することができる。
【0036】
充填材としては、特に限定されず、無機充填材または有機充填材の何れであってもよいが、無機充填材であることが好ましい。無機充填材によれば、比較的少量の低誘電カバー部材1への添加により、低誘電カバー部材1の各層の比誘電率を低く設定しつつ、低誘電カバー部材1に、優れた機械的強度を確実に付与することができる。
【0037】
無機充填材としては、特に限定されないが、例えば、シリカ、アルミナ、窒化シリコン、酸窒化シリコン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化マンガン、シリコンカーバイト、窒化シリコンカーバイト、炭素添加シリコンオキサイド、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸ビスマス、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウム、酸化ジルコニウム、タルク、クレー、雲母粉、酸化亜鉛、ハイドロタルサイト、ベーマイト、カーボンブラック、炭素繊維、ガラス繊維、ボロン繊維等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、ガラス繊維、タルクおよびシリカであることが好ましい。これらのものを用いることで、低誘電カバー部材1の各層の比誘電率を確実に低く設定しつつ、低誘電カバー部材1に、優れた機械的強度を確実に付与することができる。
【0038】
また、シリカとしては、例えば、誘電正接が低い低誘電シリカ、無定形シリカ、溶融シリカ、結晶シリカ、合成シリカ、中空シリカ等が挙げられるが、中でも、低誘電シリカまたは中空シリカであることが好ましい。
【0039】
また、低誘電カバー部材1(積層体)の各層における、充填材の含有量は、10重量%以上50重量%以下であることが好ましく、15重量%以上40重量%以下であることがより好ましい。これにより、低誘電カバー部材1の各層の比誘電率を確実に低く設定しつつ、低誘電カバー部材1に、優れた機械的強度を確実に付与することができる。
【0040】
また、低誘電カバー部材1(積層体)には、上述したベース樹脂および充填材以外のその他の材料が含まれていてもよい。
【0041】
その他の材料としては、例えば、着色剤、増感剤、安定剤、界面活性剤、酸化防止剤、還元防止剤および表面調整剤等が挙げられる。
【0042】
以上のように、低誘電カバー部材1の各層に含まれる、樹脂材料の種類およびその含有量、さらには、充填材の種類およびその含有量を適宜設定することで、各層における比誘電率の大きさを決定することができる。
【0043】
このように各層における比誘電率の大きさを決定して、各層における比誘電率の大きさを異ならせることで、優れた透過性をもって透過させるミリ波における、特定の周波数領域の選択が行われるが、前述の通り、積層体(低誘電カバー部材1)の厚さ(総厚)を異ならせることによっても、前記選択を行い得る。
【0044】
この場合、低誘電カバー部材1(積層体)は、その平均厚さが好ましくは0.1mm以上5.0mm以下、より好ましくは0.5mm以上2.0mm以下の範囲内に設定される。かかる範囲内において、低誘電カバー部材1の厚さを設定することによっても、優れた透過性をもって透過させるミリ波における、特定の周波数領域を選択することができる。
【0045】
また、以上のようにして、低誘電カバー部材1を透過するミリ波は、以下に示す波長領域において、以下に示すように透過することが好ましい。すなわち、フリースペース法が適用された透過量測定装置20を用いて測定される、低誘電カバー部材1を透過する高周波数帯の電磁波(ミリ波)は、例えば、以下に示す波長領域において、以下に示す透過性を示すこと、すなわち、低い反射Sパラメーター値(dB)を示すことが好ましい。
【0046】
ここで、このミリ波の透過量を測定するための透過量測定装置20は、
図1に示すように、ベクトルネットワークアナライザ21と、低誘電カバー部材1を中央に位置させて対向配置された2つの誘電体レンズ23と、高周波数帯の電磁波(ミリ波)を入力波31として低誘電カバー部材1に照射する送信アンテナ22と、低誘電カバー部材1を透過した透過波32を受信する受信アンテナ24とを有している。
【0047】
この透過量測定装置20において、ベクトルネットワークアナライザ21が備える第1ポートに配線を介して送信アンテナ22が接続され、ベクトルネットワークアナライザ21が備える第2ポートに配線を介して受信アンテナ24が接続されている。そして、ベクトルネットワークアナライザ21を用いて、誘電体レンズ23を介して送信アンテナ22から低誘電カバー部材1に対して入力波31が照射され、さらに、低誘電カバー部材1を透過した入力波31の透過波32が誘電体レンズ23を介して受信アンテナ24により受信され、その後、ベクトルネットワークアナライザ21により、入力波31に対する透過波32の透過量が反射Sパラメーターの値(dB)として算出される。
【0048】
かかる構成をなしている透過量測定装置20において、
図1に示すように、低誘電カバー部材1を、送信アンテナ22と受信アンテナ24との間の中央に配置し、かつ、送信アンテナ22からの入力波31と受信アンテナ24が受信する透過波32とがなす角度が0°となるように、入力波31と低誘電カバー部材1とがなす角度を90°とし、透過波32と低誘電カバー部材1とがなす角度を90°として、低誘電カバー部材1に対して、送信アンテナ22と受信アンテナ24とを配置する。このときに、透過量測定装置20により、周波数26GHz以上300GHz以下の範囲内の入力波31が、低誘電カバー部材1を透過する透過波32として測定され、これら入力波31と透過波32とから求められる反射Sパラメーターについて、低誘電カバー部材を、樹脂材料を主材料として含有する単層体で構成する場合と比較して、周波数26GHz以上300GHz以下の範囲内において、その大きさが小さくなる領域を有している。これにより、低誘電カバー部材1は、特定の周波数領域を有するミリ波を、優れた透過性をもって透過させているものであると言うことができる。
【0049】
また、低誘電カバー部材1(積層体)は、充填材を含むことで、優れた機械的強度が付与されていることが好ましいが、具体的には、その25℃における引張弾性率が、0.5GPa以上であることが好ましく、1.0GPa以上100.0GPa以下であることがより好ましい。低誘電カバー部材1の25℃における引張弾性率が、上記のような大きさであることを満足することで、低誘電カバー部材1は、優れた機械的強度が付与されていると言うことができる。
【0050】
なお、低誘電カバー部材1の25℃における引張弾性率は、例えば、JIS K 7127に準拠して、引張試験機を用いて求めることができる。
【0051】
以上のような低誘電カバー部材1は、互いの比誘電率が異なる少なくとも2層以上の積層体で構成されるが、その積層体の具体的な構成としては、例えば、その厚さ方向において、2層の被覆層が、1層の中間層を挟むサンドイッチ構造を有しており、被覆層および中間層のうち、被覆層の比誘電率が中間層の比誘電率よりも高いか、もしくは、低くなっている構成のものが挙げられる。
【0052】
すなわち、低誘電カバー部材1は、1層の低誘電層2からなる中間層の上面および下面を、それぞれ、2層の高誘電層3からなる被覆層で被覆したサンドイッチ構造をなすもの、もしくは、1層の高誘電層3からなる中間層の上面および下面を、それぞれ、2層の低誘電層2からなる被覆層で被覆したサンドイッチ構造をなすものが挙げられる。低誘電カバー部材1を、このようなサンドイッチ構造を有するものとすることで、特定の周波数領域を有するミリ波を、優れた透過性をもって、選択的に透過させることができる。
【0053】
そこで、以下では、1層の低誘電層2の両面を、それぞれ、2層の高誘電層3で被覆したサンドイッチ構造をなす低誘電カバー部材1を第1実施形態として説明し、さらに、1層の高誘電層3の両面を、それぞれ、2層の低誘電層2で被覆したサンドイッチ構造をなす低誘電カバー部材1を第2実施形態として説明する。
【0054】
<第1実施形態>
図2は、本発明の低誘電カバー部材の第1実施形態を示す縦断面図である。
【0055】
なお、以下では、説明の都合上、
図2の上側を「上」、下側を「下」と言う。また、
図2では、低誘電カバー部材1の厚さ方向を誇張して図示しているため、実際の寸法とは大きく異なる。
【0056】
第1実施形態の低誘電カバー部材1は、
図2に示すように、1層の低誘電層2の上面および下面を、それぞれ、2層の高誘電層3で被覆したサンドイッチ構造、すなわち、その厚さ方向において、2層の高誘電層3(被覆層)が、1層の低誘電層2(中間層)を挟むサンドイッチ構造をなしている。
【0057】
この低誘電カバー部材1において、本実施形態では、1層の低誘電層2は、樹脂材料単独で構成されるものであり、この樹脂材料がポリオレフィン系樹脂で構成されており、これにより、周波数60GHz以上90GHz以下の範囲内での比誘電率の大きさが、2.2以上2.4以下程度の範囲内に設定されている。
【0058】
また、2層の高誘電層3は、それぞれ、樹脂材料と充填材とで構成されるものであり、樹脂材料がポリオレフィン系樹脂で構成され、充填材が無機充填材で構成されており、これにより、周波数60GHz以上90GHz以下の範囲内での比誘電率の大きさが、2.6以上2.8以下程度の範囲内に設定されている。
【0059】
これら高誘電層3における充填材(無機充填材)の含有量は、15重量%以上40重量%以下であるのが好ましく、25重量%以上35重量%以下であるのがより好ましい。これにより、高誘電層3の比誘電率を、比較的容易に前記範囲内に設定することができる。
【0060】
かかる構成をなす低誘電カバー部材1において、本実施形態では、その平均厚さ(総厚)が好ましくは0.3mm以上1.5mm以下、より好ましくは0.8mm以上1.2mm以下の範囲内に設定される。そして、各高誘電層3(被覆層)の平均厚さをA3[mm]とし、低誘電層2(中間層)の平均厚さをB2[mm]としたとき、好ましくは0.10≦A3/B2≦0.80なる関係を、より好ましくは0.40≦A3/B2≦0.60なる関係を満足するように、高誘電層3の厚さおよび低誘電層2の厚さが設定されている。
【0061】
低誘電カバー部材1を、上記のような層構成をなすものとすることで、フリースペース法が適用された、透過量測定装置20により測定される反射Sパラメーターが周波数80GHz以上90GHz以下の範囲内において-30dB以下となる極小ピークを有するものとされる。
【0062】
なお、本明細書中において、「極小ピーク」とは、入力波31と透過波32とから求められる反射Sパラメーターが測定された周波数の範囲内において、反射Sパラメーターが、急峻なピークを形成している頂点(最小値)のことを言う。また、急峻なピークではなく、なだらかなピークを形成している場合や、ピーク自体を形成していない場合には、反射Sパラメーターが測定された周波数の範囲内における、透過量の「最小値」を「極小ピーク」として取り扱うこととする。
【0063】
<第2実施形態>
図3は、本発明の低誘電カバー部材の第2実施形態を示す縦断面図である。
【0064】
なお、以下では、説明の都合上、
図3の上側を「上」、下側を「下」と言う。また、
図3では、低誘電カバー部材1の厚さ方向を誇張して図示しているため、実際の寸法とは大きく異なる。
【0065】
第2実施形態の低誘電カバー部材1は、
図3に示すように、1層の高誘電層3の上面および下面を、それぞれ、2層の低誘電層2で被覆したサンドイッチ構造、すなわち、その厚さ方向において、2層の低誘電層2(被覆層)が、1層の高誘電層3(中間層)を挟むサンドイッチ構造をなしている。
【0066】
この低誘電カバー部材1において、本実施形態では、2層の低誘電層2は、樹脂材料単独で構成されるものであり、この樹脂材料がポリオレフィン系樹脂で構成されており、これにより、周波数60GHz以上90GHz以下の範囲内での比誘電率の大きさが、2.2以上2.4以下程度の範囲内に設定されている。
【0067】
また、1層の高誘電層3は、それぞれ、樹脂材料と充填材とで構成されるものであり、樹脂材料がポリオレフィン系樹脂で構成され、充填材が無機充填材で構成されており、これにより、周波数60GHz以上90GHz以下の範囲内での比誘電率の大きさが、2.6以上2.8以下程度の範囲内に設定されている。
【0068】
この高誘電層3における充填材(無機充填材)の含有量は、15重量%以上40重量%以下であるのが好ましく、25重量%以上35重量%以下であるのがより好ましい。これにより、高誘電層3の比誘電率を、比較的容易に前記範囲内に設定することができる。
【0069】
かかる構成をなす低誘電カバー部材1において、本実施形態では、その平均厚さ(総厚)が好ましくは1.0mm以上2.0mm以下、より好ましくは1.3mm以上1.7mm以下の範囲内に設定される。そして、低誘電層2(被覆層)の平均厚さをA2[mm]とし、高誘電層3(中間層)の平均厚さをB3[mm]としたとき、好ましくは0.10≦A2/B3≦0.80なる関係を、より好ましくは0.40≦A2/B3≦0.60なる関係を満足するように、高誘電層3の厚さおよび低誘電層2の厚さが設定されている。
【0070】
低誘電カバー部材1を、上記のような層構成をなすものとすることで、フリースペース法が適用された、透過量測定装置20により測定される反射Sパラメーターが周波数65GHz以上75GHz以下の範囲内において-25dB以下となる極小ピークを有するものとされる。
【0071】
以上、本発明の低誘電カバー部材および電子部品について説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0072】
例えば、本発明の低誘電カバー部材は、上述したような、無線通信機器およびセンサーが備える電子部品としてのレーダー装置が有する低誘電カバー部材(レドーム)の他、例えば、電子部品としてのレーダー筐体、レーダーを設置するバンパー等が有する低誘電カバー部材等に適用することができる。
【実施例0073】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
なお、本発明はこれらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0074】
1.原材料の準備
まず、各実施例および各比較例の低誘電カバー部材の製造に用いた原材料を以下に示す。
【0075】
(ポリオレフィン系樹脂1)
ポリオレフィン系樹脂1として、ポリプロピレン(ホモPP、住友化学社製、「FS2011-DG2」)を用意した。
【0076】
(充填材1)
充填材1として、タルク(日本タルク社製、「ミクロエースK-1」)を用意した。
【0077】
2.低誘電カバー部材(成形体)の作製
[実施例1A]
ポリオレフィン系樹脂1(100.0重量%)を単軸混練機で混練した混練物2Aと、ポリオレフィン系樹脂1(70.0重量%)および充填材1(30.0重量%)を単軸混練機で混練した混練物3Aとを調製し、その後、これらを、混練物3A、混練物2A、混練物3Aの積層順でフィルム状に共押し出しすることで、混練物3Aに由来する平均厚さ0.25mmの高誘電層3と、混練物2Aに由来する平均厚さ0.50mの低誘電層2と、混練物3Aに由来する平均厚さ0.25mmの高誘電層3とがこの順で積層された積層体で構成される、平均厚さ1.0mmの平板状をなす実施例1Aの低誘電カバー部材1(成形体)を得た。
【0078】
なお、低誘電カバー部材1が備える低誘電層2について、その周波数60GHz、70GHz、80GHzおよび周波数90GHzにおける比誘電率を、ベクトルネットワークアナライザ(Keysight Technology社製、「N5290A」)を用いて、JIS C 2565に準拠して測定したところ、それぞれ、2.38、2.37、2.37、および2.35であった。また、低誘電カバー部材1が備える高誘電層3について、その周波数60GHz、70GHz、80GHzおよび周波数90GHzにおける比誘電率を、上記と同様にして測定したところ、それぞれ、2.75、2.74、2.72、および2.70であった。
【0079】
さらに、低誘電カバー部材1について、その25℃における引張弾性率を、引張試験機(エー・アンド・デイ社製、「RTF-1250」)を用いて、JIS K 7127に準拠して測定したところ、1.1GPaであった。
【0080】
[比較例1A]
ポリオレフィン系樹脂1(70.0重量%)および充填材1(30.0重量%)を単軸混練機で混練した混練物3Aを調製し、フィルム状に押し出すことで、高誘電層3で構成される、平均厚さ1.0mmの平板状をなす比較例1Aの低誘電カバー部材1(成形体)を得た。
【0081】
[比較例2A]
ポリオレフィン系樹脂1(100.0重量%)を単軸混練機で混練した混練物2Aを調製し、フィルム状に押し出すことで、低誘電層2で構成される、平均厚さ1.0mmの平板状をなす比較例2Aの低誘電カバー部材1(成形体)を得た。
【0082】
[実施例1B]
ポリオレフィン系樹脂1(100.0重量%)を単軸混練機で混練した混練物2Aと、ポリオレフィン系樹脂1(70.0重量%)および充填材1(30.0重量%)を単軸混練機で混練した混練物3Aとを調製し、その後、これらを、混練物2A、混練物3A、混練物2Aの積層順でフィルム状に共押し出しすることで、混練物2Aに由来する平均厚さ0.38mmの低誘電層2と、混練物3Aに由来する平均厚さ0.75mの高誘電層3と、混練物2Aに由来する平均厚さ0.38mmの低誘電層2とがこの順で積層された積層体で構成される、平均厚さ1.5mmの平板状をなす実施例1Bの低誘電カバー部材1(成形体)を得た。
【0083】
[比較例1B]
ポリオレフィン系樹脂1(70.0重量%)および充填材1(30.0重量%)を単軸混練機で混練した混練物3Aを調製し、フィルム状に押し出すことで、高誘電層3で構成される、平均厚さ1.5mmの平板状をなす比較例1Aの低誘電カバー部材1(成形体)を得た。
【0084】
[比較例2A]
ポリオレフィン系樹脂1(100.0重量%)を単軸混練機で混練した混練物2Aを調製し、フィルム状に押し出すことで、高誘電層3で構成される、平均厚さ1.5mmの平板状をなす比較例2Aの低誘電カバー部材1(成形体)を得た。
【0085】
3.評価
各実施例および各比較例の低誘電カバー部材1を透過するミリ波の透過量を、以下の方法で評価した。
【0086】
すなわち、
図1に示す透過量測定装置20として、ベクトルネットワークアナライザ21(Keysight Technology社製、「N5290A」)を備えるものを用意した。
【0087】
そして、各実施例および各比較例の低誘電カバー部材1について、それぞれ、送信アンテナ22からの入力波31と受信アンテナ24が受信する透過波32とがなす角度が0°となるように、低誘電カバー部材1に対して送信アンテナ22と受信アンテナ24とを配置した(
図1参照)。その後、周波数60GHz、周波数70GHz、周波数80GHzおよび周波数90GHzの入力波31を送信アンテナ22から照射して、この入力波31が低誘電カバー部材1を透過する透過波32を、受信アンテナ24を用いて測定することにより、これら入力波31と透過波32とから入力波31の透過量としての反射Sパラメーター(dB)を算出した。
以上のようにして得られた評価結果について、
図4、
図5および表1、表2に示す。
【0088】
【0089】
図4および表1に示したように、実施例1Aの低誘電カバー部材1では、低誘電層2と高誘電層3とを有し、低誘電層2を中間層とするサンドイッチ構造を備えることで、互いの比誘電率が異なる少なくとも2層以上の積層体で構成されることを満足しており、これにより、周波数80GHz以上90GHz以下の範囲内において認められる、フリースペース法により測定される反射Sパラメーターが、-30dB以下となる結果を示した。すなわち、各実施例の低誘電カバー部材1では、特定の周波数領域を有するミリ波について、選択的に、優れた透過性をもって透過させ得ることが明らかとなった。
【0090】
これに対して、比較例1A、2Aの低誘電カバー部材1では、低誘電層2または高誘電層3の単独層で構成される構造をなしており、互いの比誘電率が異なる少なくとも2層以上の積層体で構成されることについて満足しておらず、その結果、実施例1Aのような、周波数80GHz以上90GHz以下の範囲内において認められる、フリースペース法により測定される反射Sパラメーターが、-30dB以下とはならない結果を示した。すなわち、比較例1A、2Aの低誘電カバー部材1では、特定の周波数領域を有するミリ波について、優れた透過性をもって透過させることができない結果となった。
【0091】
【0092】
また、
図5および表2に示したように、実施例1Bの低誘電カバー部材1では、低誘電層2と高誘電層3とを有し、高誘電層3を中間層とするサンドイッチ構造を備えることで、互いの比誘電率が異なる少なくとも2層以上の積層体で構成されることを満足しており、これにより、周波数65GHz以上75GHz以下の範囲内において認められる、フリースペース法により測定される反射Sパラメーターが、-25dB以下となる結果を示した。すなわち、各実施例の低誘電カバー部材1では、特定の周波数領域を有するミリ波について、選択的に、優れた透過性をもって透過させ得ることが明らかとなった。
【0093】
これに対して、比較例1B、2Bの低誘電カバー部材1では、低誘電層2または高誘電層3の単独層で構成される構造をなしており、互いの比誘電率が異なる少なくとも2層以上の積層体で構成されることについて満足しておらず、その結果、実施例1Bのような、周波数65GHz以上75GHz以下の範囲内において認められる、フリースペース法により測定される反射Sパラメーターが、-25dB以下とはならない結果を示した。すなわち、比較例1B、2Bの低誘電カバー部材1では、特定の周波数領域を有するミリ波について、優れた透過性をもって透過させることができない結果となった。