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特開2024-143884発達支援システムおよび発達支援方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143884
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】発達支援システムおよび発達支援方法
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/22 20240101AFI20241003BHJP
【FI】
G06Q50/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056805
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】520056589
【氏名又は名称】特定非営利活動法人アスペ・エルデの会
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(74)【代理人】
【識別番号】100224661
【弁理士】
【氏名又は名称】牧内 直征
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(72)【発明者】
【氏名】辻井 正次
(72)【発明者】
【氏名】曽我部 哲也
(72)【発明者】
【氏名】浜田 恵
(72)【発明者】
【氏名】黒田 美保
(72)【発明者】
【氏名】香取 みずほ
(72)【発明者】
【氏名】山下 結子
(72)【発明者】
【氏名】石島 大
(72)【発明者】
【氏名】中島 卓裕
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA13
(57)【要約】
【課題】発達状態を正確に評価でき、発達障害を有する子供の社会性の発達支援に広く利用できる発達支援システムなどを提供する。
【解決手段】発達支援システム1は、子供の発達を支援する支援者に利用され、子供を撮影する撮影装置2と、支援者が操作する電子情報端末3と、撮影装置2および電子情報端末3に接続されて動画の保存および送信を行う情報処理装置4とから構成され、撮影装置2は、子供と支援者とが交流する動画を撮影するとともに、動画を情報処理装置4に送信する動画取得手段2aを有し、電子情報端末3は、情報処理装置4から送信される動画を表示する表示手段3aと、動画における子供の状況を入力可能な状況入力手段3bとを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
子供の発達を支援する支援者に利用される発達支援システムであって、
該発達支援システムは、前記子供を撮影する撮影装置と、前記支援者が操作する電子情報端末と、前記撮影装置および前記電子情報端末に接続されて前記動画の保存および送信を行う情報処理装置とから構成され、
前記撮影装置は、前記子供と前記支援者とが交流する動画を撮影するとともに、前記動画を前記情報処理装置に送信する動画取得手段を有し、
前記電子情報端末は、前記情報処理装置から送信される前記動画を表示する表示手段と、前記動画における前記子供の状況を入力可能な状況入力手段とを有することを特徴とする発達支援システム。
【請求項2】
前記子供が乳幼児または児童であり、
該乳幼児または児童と前記支援者との交流が、遊戯によって行われることを特徴とする請求項1記載の発達支援システム。
【請求項3】
前記状況入力手段は、前記子供の状況を、予め設定された項目から選択して入力可能であり、入力された前記子供の状況を数値へと変換する機能を有することを特徴とする請求項1または請求項2記載の発達支援システム。
【請求項4】
前記電子情報端末は、前記動画に基づいて前記子供の状況を判断する解析手段を有し、
前記状況入力手段は、前記解析手段により判断された前記子供の状況を自動的に入力する機能を有することを特徴とする請求項1または請求項2記載の発達支援システム。
【請求項5】
子供の発達を支援する発達支援方法であって、
前記子供を撮影する撮影装置と、前記子供の発達を支援する支援者が操作する電子情報端末と、前記撮影装置および前記電子情報端末に接続されて前記動画の保存および送信を行う情報処理装置とから構成される発達支援システムを利用し、
前記発達支援方法は、前記撮影装置が、前記子供と前記支援者とが交流する動画を撮影するとともに、前記動画を前記情報処理装置に送信する動画取得ステップと、
前記情報処理装置が、前記動画を保存して、前記電子情報端末からの要求に応じて前記動画を送信する動画送信ステップと、
前記電子情報端末が、前記情報処理装置から送信される前記動画を表示する動画表示ステップと、
前記電子情報端末において、前記動画における前記子供の状況が入力される状況入力ステップと、
を有することを特徴とする発達支援方法。
【請求項6】
前記子供が乳幼児または児童であり、
該乳幼児または児童と前記支援者との交流が、遊戯によって行われることを特徴とする請求項5記載の発達支援方法。
【請求項7】
前記状況入力ステップにおいて、前記子供の状況が、予め設定された項目から選択して入力され、入力された前記子供の状況が数値へと変換されることを特徴とする請求項5または請求項6記載の発達支援方法。
【請求項8】
前記電子情報端末は、前記動画に基づいて前記子供の状況を判断する解析手段を有し、
前記状況入力ステップにおいて、前記解析手段により判断された前記子供の状況が、前記状況入力手段により自動的に入力されることを特徴とする請求項5または請求項6記載の発達支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、子供の発達支援に使用する、スマートフォンやタブレット端末上で動作するアプリケーションを利用した発達支援システムおよび発達支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
知的障害、自閉症スペクトラム障害、注意欠陥多動性障害、学習障害などの発達障害を有する人は、他人との関係づくりやコミュニケーションなどが得意でない一方、場面によっては優れた能力を発揮することができるため、アンバランスな特性を周囲から理解されにくい障害である。発達障害を有する人が個々の能力を伸ばし、自立していくためには、発達障害に対する周囲の理解とともに、社会性発達を促すための適切な支援が行われることが重要である。
【0003】
発達障害を有する人に対する支援は、従来から様々な方法で行われてきた。例えば、特許文献1には、発達障害を有する人に関する各種情報、特に、検査情報を集約し、プライバシーに配慮しながらこういった情報を支援者が円滑に共有できる発達障害者支援システムが記載されている。
【0004】
発達障害を有する人の発達促進には、子供のうちに早期に診断し、適切な支援を行うことも重要である。例えば、特許文献2には、軽度発達障害者等の障害者に対して所望する教材をデータベースから迅速に検索できる学習支援プログラムが記載されている。
【0005】
また、特許文献3には、肯定表現と否定表現、及び/又は、対義語を少なくとも1組含み、且つ(a)記号、(b)絵、(c)音声、(d)映像の群から選択される1つ以上で記録された媒体によって子どもの言語発達を支援する子ども向けの言語学習教材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-101853号公報
【特許文献2】特開2019-179103号公報
【特許文献3】特開2015-64411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の場合、発達障害を有する人の生涯支援を目的とする技術であって、発達の促進自体を支援するものではない。また、特許文献2の場合、軽度発達障害者等の障害者に対する教材を用いた学習を支援するものであり、社会性の発達促進を目的とするものではない。一方、特許文献3記載の言語学習教材は、言語発達を支援するものであり、社会性の発達にも寄与すると考えられる。
【0008】
ここで、発達障害を有する人(特に、発達障害を有する子供)の社会性の発達促進のためには、発達を支援する活動とともに、発達状態を正確に評価して把握することの両方が適切になされることが重要である。特に、発達状態の正確な評価は、評価者ごとの主観による評価バラツキや、支援活動時(例えば、子供との交流時)と発達状態評価時(用紙などへの記入時)での時間的隔たりなどに起因して、容易ではない。
【0009】
本発明はこのような背景に鑑みてなされたものであり、子供の発達状態を正確に評価でき、社会性の発達を促進するための発達支援システムおよび発達支援方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発達支援システムは、子供の発達を支援する支援者に利用される発達支援システムであって、該発達支援システムは、上記子供を撮影する撮影装置と、上記支援者が操作する電子情報端末と、上記撮影装置および上記電子情報端末に接続されて上記動画の保存および送信を行う情報処理装置とから構成され、上記撮影装置は、上記子供と上記支援者とが交流する動画を撮影するとともに、上記動画を上記情報処理装置に送信する動画取得手段を有し、上記電子情報端末は、上記情報処理装置から送信される上記動画を表示する表示手段と、上記動画における上記子供の状況を入力可能な状況入力手段とを有することを特徴とする。
【0011】
上記子供が乳幼児または児童であり、該乳幼児または児童と上記支援者との交流が、遊戯によって行われることを特徴とする。
【0012】
上記状況入力手段は、上記子供の状況を、予め設定された項目から選択して入力可能であり、入力された上記子供の状況を数値へと変換する機能を有することを特徴とする。
【0013】
上記電子情報端末は、上記動画に基づいて上記子供の状況を判断する解析手段を有し、上記状況入力手段は、上記解析手段により判断された上記子供の状況を自動的に入力する機能を有することを特徴とする。
【0014】
本発明の発達支援方法は、子供の発達を支援する発達支援方法であって、上記子供を撮影する撮影装置と、上記子供の発達を支援する支援者が操作する電子情報端末と、上記撮影装置および上記電子情報端末に接続されて上記動画の保存および送信を行う情報処理装置とから構成される発達支援システムを利用し、上記発達支援方法は、上記撮影装置が、上記子供と上記支援者とが交流する動画を撮影するとともに、上記動画を上記情報処理装置に送信する動画取得ステップと、上記情報処理装置が、上記動画を保存して、上記電子情報端末からの要求に応じて上記動画を送信する動画送信ステップと、上記電子情報端末が、上記情報処理装置から送信される上記動画を表示する動画表示ステップと、上記電子情報端末において、上記動画における上記子供の状況が入力される状況入力ステップと、を有することを特徴とする。
【0015】
上記子供が乳幼児または児童であり、該乳幼児または児童と上記支援者との交流が、遊戯によって行われることを特徴とする。
【0016】
上記状況入力ステップにおいて、上記子供の状況が、予め設定された項目から選択して入力され、入力された上記子供の状況が数値へと変換されることを特徴とする。
【0017】
上記電子情報端末は、上記動画に基づいて上記子供の状況を判断する解析手段を有し、上記状況入力ステップにおいて、上記解析手段により判断された上記子供の状況が、上記状況入力手段により自動的に入力されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の発達支援システムは、撮影装置が、子供と支援者とが交流する動画を撮影するとともに、動画を情報処理装置に送信する動画取得手段を有し、電子情報端末が、情報処理装置から送信される動画を表示する表示手段と、動画における子供の状況を入力可能な状況入力手段とを有するので、子供と支援者との間での交流における子供の状況を漏れなく記録できる。その結果、子供の発達状態を正確に評価できるので、子供に対して適切な支援を行うことができ、社会性の発達を促進できる。
【0019】
子供が乳幼児または児童であり、該乳幼児または児童と支援者との交流が、遊戯によって行われるので、子供の興味を引きやすく、子供と支援者との交流の活発化につながる。その結果、本来の発達状態が表出し正確な評価がなされやすいため、子供の社会性の発達をより促進できる。
【0020】
状況入力手段は、子供の状況を、予め設定された項目から選択して入力可能であり、入力された子供の状況を数値へと変換する機能を有するので、子供の状況を文章で入力する場合よりも入力者ごとでの評価バラツキが低減するとともに、子供の発達状態の評価を定量的に行うことができ、より正確に評価できる。これにより、子供に対してより適切な支援を行うことができ、社会性の発達をさらに促進できる。
【0021】
電子情報端末は、動画に基づいて子供の状況を判断する解析手段を有し、状況入力手段は、解析手段により判断された子供の状況を自動的に入力する機能を有するので、人間による入力の場合に比べて入力ミスや欠落が起こりにくく、発達状態の評価バラツキがさらに低減される。
【0022】
本発明の発達支援方法は、撮影装置が、子供と支援者とが交流する動画を撮影するとともに、動画を情報処理装置に送信する動画取得ステップと、情報処理装置が、動画を保存して、電子情報端末からの要求に応じて動画を送信する動画送信ステップと、電子情報端末が、情報処理装置から送信される動画を表示する動画表示ステップと、電子情報端末において、動画における子供の状況が入力される状況入力ステップと、を有するので、子供と支援者との間での交流における子供の状況を漏れなく記録できる。その結果、子供の発達状態を正確に評価できるので、子供に対して適切な支援を行うことができ、社会性の発達を促進できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】発達支援システムの概要図である。
図2】遊びのプログラムによる発達支援の流れを示す図である。
図3】電子情報端末の表示手段に表示される画面の一例である。
図4】発達支援方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の発達支援システムおよび発達支援方法が対象とする子供は、主に発達障害などの困難を有する子供である。具体的には、例えば、発達障害を有する乳幼児期(0~5歳)や、児童期(6~12歳)の子供である。また、発達障害を有さない場合であっても、同様の課題を有する子供なども本発明の対象とする子供に含まれる。
【0025】
本発明の発達支援システムおよび発達支援方法は、このような子供に対して、パーソナルコンピュータ(以下、「PC」ともいう)や、タブレット端末、スマートフォンなどの電子情報端末上で動作するアプリケーション(本発明では「アプリケーション」を単に「アプリ」ともいう)を用いて、子供と支援者との交流を通じて子供の発達支援を促進することができる。電子情報端末上のアプリで子供の発達支援システムを利用できれば、子供の発達を促進する活動(プログラム)の実施も容易となり、発達支援施設の職員(例えば、言語聴覚士など)だけでなく、発達支援施設が近隣に無い保護者などでも一定水準の発達支援を子供に対して行うことができ、社会的に非常に有益といえる。
【0026】
以下、本発明の発達支援システムについて説明する。本発明の発達支援システムの構成の一例を図1に基づいて説明する。図1は、発達支援システムの概要図である。本発明の発達支援システム1は、例えば、子供の発達を支援する支援者に利用される。ここで、支援者は、発達支援施設や学校の職員のほか、子供の保護者であってもよい。
【0027】
図1において、発達支援システム1は、子供を撮影する撮影装置2と、支援者が操作する電子情報端末3と、撮影装置2および電子情報端末3に接続されて動画の保存および送信を行う情報処理装置4とから構成され、これらはネットワーク5を介して接続されている。
【0028】
ここで、本発明において、電子情報端末と情報処理装置の構成は、(1)電子情報端末と情報処理装置とがネットワークを介して接続される構成(情報処理装置とクライアントとが分離)、(2)電子情報端末内に情報処理装置を持ち、両者が直接接続され単独でアプリを動作可能な構成(情報処理装置とクライアントとが一体)、のいずれであってもよい。また、(1)の場合における「ネットワーク」とはデータの送受信可能な電子通信回線を示し、有線LAN、無線LAN、WAN、インターネットなどが該当する。その他、本発明の発達支援システムおよび発達支援方法において、電子情報端末と情報処理装置間における各情報の送受信に際しては、プライバシー性の高い情報であることから、SSLを用いるか、所定の暗号化を行い送信することが好ましい。
【0029】
電子情報端末3としては、後述する各手段を備えるものであれば特に限定されず、スマートフォン、タブレット、携帯電話、ノートPCなどの携帯型端末や、自室などに備え付けられたPC、施設に配置された専用端末などが挙げられる。
【0030】
図1において、撮影装置2は、子供と支援者とが交流する動画を撮影するとともに、動画を情報処理装置4に送信する動画取得手段2aを有する。情報処理装置4は、動画を保存する記憶手段4aと、電子情報端末3からの要求に応じて動画を送信する通信手段4bと、動画や後述する状況入力手段3bにより入力された情報を処理する処理手段4cとを有している。電子情報端末3は、情報処理装置4から送信される動画を表示する表示手段3aと、動画における子供の状況を入力可能な状況入力手段3bとを有する。ここで、特に明示してある場合を除き、動画などの情報を情報処理装置4や電子情報端末3に「保存する」とは、情報処理装置4や電子情報端末3の半導体メモリや磁気ディスクなどの記憶媒体内に所定形式で保存することをいう。
【0031】
撮影装置2と電子情報端末3とは、直接接続(一体化)された撮影装置付き電子情報端末であってもよい。この場合、動画の情報処理装置4への送信は、例えば、電子情報端末3から行われるようにできる。撮影装置2および情報処理装置4は、電子情報端末3と直接接続されていてもよい。また、情報処理装置4における記憶手段4a、通信手段4b、および処理手段4cのうちいずれかの手段(例えば、処理手段4c)が電子情報端末3と直接接続され、その他の手段(例えば、記憶手段4aおよび通信手段4b)がネットワーク5を介して接続される構成であってもよい。
【0032】
表示手段3aおよび状況入力手段3bによる動作は、例えば、電子情報端末3上で動作するアプリを用いて実行される。アプリは、ネットワーク5を介して使用する場合、例えば、電子情報端末3上のWebブラウザ上で動作するプログラミング言語によるプログラムと、情報処理装置4上のプログラムが協調することによって動作するアプリケーションである。また、ブラウザを利用する場合とは別に、電子情報端末3に専用のアプリとしてインストールする形態であってもよい。
【0033】
状況入力手段3bでは、例えば、動画における経過時間を表す動画再生時間ごとでの子供の状況を入力できる。この場合、交流を開始してからの経過時間と、子供の状況との関係をデータとして収集し、蓄積できることとなる。その結果、1回の交流における子供の変化を容易に可視化でき、発達状態の正確な評価に寄与する。なお、状況入力手段3bは、動画再生時間の情報を含まず、少なくとも子供の状況を入力できればよい。
【0034】
支援者は、子供と交流する動画を撮影した後に、上記発達支援システムを用いて子供の状況を入力することで、交流時には子供とのやり取りのみに集中できる。また、入力時には動画を見ながら子供の状況を注意深く観察できるため、記憶に頼らない正確な評価が行われやすい。さらに、子供の状況を記入用紙に手書きで記入する場合と比べ、用紙の散逸が起こりにくいため、データの蓄積がなされやすい。その結果、一人の子供についての経時的な変化を追跡可能となるとともに、複数の子供の間での比較も可能となり、例えば、年齢と発達状況の関係から将来の発達予測も可能となりうる。
【0035】
ここで、子供の社会性発達を促すために、遊戯(遊び)を通して社会性の発達を支援する活動(以下、「遊びのプログラム」ともいう)について説明する。遊びのプログラムでは、子供と支援者との間でおもちゃ(玩具)などを使って遊びながら交流することを繰り返し、社会性発達を促す。本発明において、乳幼児または児童と、支援者との交流が、遊びのプログラムなどの遊戯によって行われることが好ましく、本発明は、遊びのプログラムにおける子供の発達状態の評価に特に有用である。
【0036】
遊びのプログラムによる発達支援の流れを図2に基づいて説明する。図2は、遊びのプログラムによる発達支援の流れを示す図である。
【0037】
図2に示すように、STEP1として、遊びのプログラムを始める前に、SPACE(Short Play And Communication Evaluation)というアセスメントを行う。具体的には、子供がおもちゃを使ってどのように遊ぶか、目の前にいる支援者に対してどのように働きかけるかを観察して、子供の発達状況を確認し、遊びのプログラムで達成する目標を決定する。
【0038】
STEP2として、上記SPACEの結果に基づき、子供に合わせた種々のおもちゃを使って支援者と遊ぶ(遊びのプログラムの実施)。子供の遊びを支援者が真似したり、支援者がおもちゃの遊び方を見せたり、相手と共有する働きかけを示したりしながら、遊びを広げていく。なお、遊びのプログラムは1回のセッションが約20分であり、セッション中、保護者は、別室で子供の様子を見たり、自ら支援者として子供と遊んだりしてもよい。
【0039】
STEP3として、遊びのプログラムを20~30回程度実施した後、再びアセスメントを行う。再度のアセスメントでは、子供の発達や次の目標を設定し、その後の遊びのプログラムに反映させる。アセスメントと所定回数の遊びのプログラムを繰り返すサイクルを継続的に行うことで、子供の遊び方が広がったり、支援者への反応が変わったりする。
【0040】
本発明の発達支援システムを用いて遊びのプログラムを実施する場合について図3を用いて説明する。図3は、電子情報端末の表示手段に表示される画面の一例を示す図である。図3に示すように、表示手段の画面30上には、動画を再生する動画再生領域31と、子供の状況を入力する状況入力領域32と、入力された子供の状況を一覧できる状況一覧領域33が表示されている。
【0041】
状況入力領域32には、要求、共同注意、遊び、言葉の4つの観点で分けられた領域が表示され、各領域内には、具体的な状況を表わす項目(タグ)が表示されている。ここで、要求領域34には、子供が支援者にして欲しいことを求める際に行う行動のタグが表示され、共同注意領域35には、子供と支援者が同じものに注意を向けることに関するタグが表示されている。また、遊び領域36には、遊んだ内容や遊びに用いたおもちゃに関するタグが表示され、言葉領域37には、子供が発した言葉や動作に関するタグが表示されている。
【0042】
支援者は、子供との交流後に、交流の際の動画を再生しながら、場面(経過時間)ごとに、子供の状況をタグから選択して入力できる。具体的には、支援者は、状況入力手段によって、子供の状況を、予め設定された項目から選択して(クリックやタッチすることにより)入力できる。この場合、要求領域34からは、例えば、渡す、手を伸ばす、指差し、ジェスチャー、言葉、などの項目から選択して入力できる。共同注意領域35からは、例えば、無視、反応、見る、指差し(注視なし)、指差し、見せる、渡す、などの項目から選択して入力できる。遊び領域36からは、例えば、おもちゃなし、単純、組み合わせ(1対1)、組み合わせ、前象徴、象徴、離席、などの項目から選択して入力できる。言葉領域37からは、例えば、発声、ジェスチャー、単語、2語文、3語文以上、などの項目から選択して入力できる。なお、一つの経過時間において、1または複数の項目を選択でき、コメントを入力することもできる。
【0043】
なお、支援者は、一人でも二人以上であってもよい。また、子供の状況は、例えば、タグからの選択による入力に限らず、タッチスクリーンパネルやキーボードからの文章入力によってなされてもよい。
【0044】
さらに、状況入力手段は、入力された子供の状況を数値へと変換する機能を有することが好ましい。具体的には、各タグに対して点数を設定することにより子供の状況を数値へと変換できる。タグの点数は、例えば、社会性の高い行動程高くなるように設定できる。共同注意の場合、例えば、指差し<見せる<渡す、の順で高い点数を設定する。上記構成により、子供の状況を文章で入力する場合よりも、入力者ごとでの評価バラツキが低減される。その結果、セッションごとに支援者が異なる場合でも、子供の発達状況の経時的な変化をより正確に追跡できるとともに、複数の子供の間での比較も、より高い精度で行えることが期待される。
【0045】
また、状況入力手段からは、支援者の状況(行動)も入力できることが好ましい。これにより、支援者の行動と、それに対する子供の反応という形で情報が蓄積される結果、子供の発達促進に効果的な支援者の行動が明らかになることが期待される。
【0046】
電子情報端末は、動画に基づいて子供の状況を判断する解析手段を有してもよい。この場合、状況入力手段は、解析手段により判断された子供の状況を自動的に入力する機能を有することが好ましい。これにより、支援者は、子供との交流後に電子情報端末を見ながら入力する作業から解放されることとなり、遊びのプログラムのセッション自体の質向上に注力でき、子供の発達促進に寄与すると考えられる。また、入力者ごとでの評価バラツキという問題が無くなり、子供の発達状況の経時的な変化をさらに正確に追跡できるとともに、複数の子供の間での比較も、一層高い精度で行えることが期待される。解析手段としては、例えば、深層学習や機械学習によって作成される、画像、動画、または音声解析を行うことができる人工知能を用いることができる。なお、解析手段は、情報処理装置が有していてもよい。
【0047】
本発明の発達支援方法の一例を図4に基づいて説明する。図4は、本発明の発達支援方法のフロー図である。図4に示すように、本発明の発達支援方法は、本発明の発達支援システム、すなわち、子供を撮影する撮影装置と、支援者が操作する電子情報端末と、撮影装置および電子情報端末に接続されて動画の保存および送信を行う情報処理装置とから構成される発達支援システムを利用して実施される。発達支援システムの各構成の詳細は、上述のとおりである。
【0048】
本発明の発達支援方法は、動画取得ステップS1と、動画送信ステップS2と、動画表示ステップS3と、状況入力ステップS4とを備える。以下、各ステップS1~S4について説明する。
【0049】
動画取得ステップS1:
動画取得ステップS1では、支援者が設置または装着した撮影装置によって、子供と支援者とが交流する動画が撮影されるとともに、撮影された動画は情報処理装置に送信される。動画取得ステップS1では、上述のように、子供が乳幼児または児童であり、該乳幼児または児童と支援者との交流が、遊びのプログラムなどの遊戯によって行われることが好ましい。なお、本発明における遊戯には、玩具を介在した遊戯以外に、動物やロボットを介在した遊戯も含む。
【0050】
動画送信ステップS2:
動画送信ステップS2では、撮影装置から送信された動画が情報処理装置に保存された後、情報処理装置は電子情報端末からの要求に応じて動画を送信する。
【0051】
動画表示ステップS3:
動画表示ステップS3では、電子情報端末の表示手段において、情報処理装置から送信される動画が表示される。本ステップにおいて、支援者は、動画の再生、一時停止、早送り、巻き戻しなどを自由に行うことができる。
【0052】
状況入力ステップS4:
状況入力ステップS4では、電子情報端末において、動画における子供の状況が入力される。本ステップにおいて、支援者は、動画を再生しながらの入力、一時停止状態での入力のいずれもできる。電子情報端末が解析手段を有する場合、入力は、状況入力手段により自動的に行われてもよい。この場合、動画表示ステップS3を省略することもできる。
【0053】
上記S1~S4のステップは支援者によって行われる撮影装置や電子情報端末の操作に基づいて実施される。S1~S4のステップは、子供と支援者との交流が行われた日に実施されてもよいし、それぞれ別の日に実施されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の発達支援システムおよび発達支援方法は、子供の発達状態を正確に評価できるので、発達障害を有する子供の社会性の発達支援に広く利用できる。
【符号の説明】
【0055】
1 発達支援システム
2 撮影装置
2a 動画取得手段
3 電子情報端末
3a 表示手段
3b 状況入力手段
4 情報処理装置
4a 記憶手段
4b 通信手段
4c 処理手段
5 ネットワーク
30 画面
31 動画再生領域
32 状況入力領域
33 状況一覧領域
34 要求領域
35 共同注意領域
36 遊び領域
37 言葉領域
図1
図2
図3
図4