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2024-143889ゲル作製用組成物、ハイドロゲルの製造方法及びハイドロゲル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143889
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】ゲル作製用組成物、ハイドロゲルの製造方法及びハイドロゲル
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/44 20060101AFI20241004BHJP
   C08L 33/26 20060101ALI20241004BHJP
   C08F 220/58 20060101ALI20241004BHJP
   C08F 261/04 20060101ALI20241004BHJP
   B29C 64/124 20170101ALI20241004BHJP
   B29C 64/314 20170101ALI20241004BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20241004BHJP
【FI】
C08F2/44 C
C08L33/26
C08F220/58
C08F261/04
B29C64/124
B29C64/314
B33Y70/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056827
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002440
【氏名又は名称】積水化成品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】羽鳥 貴顕
【テーマコード(参考)】
4F213
4J002
4J011
4J026
4J100
【Fターム(参考)】
4F213AA19
4F213AA21
4F213AA29
4F213AA44
4F213AB07
4F213AR15
4F213AR17
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL12
4F213WL23
4F213WL96
4J002BE022
4J002BG131
4J002FD026
4J002GD00
4J002GF00
4J011AA05
4J011BA04
4J011PA63
4J011PC02
4J011PC08
4J026AA30
4J026BA28
4J026BA32
4J026DB11
4J026DB12
4J026DB36
4J026FA09
4J026GA06
4J100AL62Q
4J100AM21P
4J100BA03P
4J100CA04
4J100CA23
4J100EA03
4J100FA03
4J100FA19
4J100JA15
(57)【要約】
【課題】3Dプリンタで重合により立体造形するときに液の取り扱い性が容易であり、ハイドロゲルの柔らかさを確保しつつ、かつ造形精度の高いハイドロゲルが得られるゲル作製用組成物を提供する。
【解決手段】N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドと、分子内に重合性の炭素-炭素二重結合を2つ以上有する架橋性単量体と、ポリビニルアルコールと、水とを含有するゲル作製用組成物であって、前記N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドの量が40~70質量%であり、かつ前記ポリビニルアルコールの量が0.50~6.0質量%である、ゲル作製用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドと、分子内に重合性の炭素-炭素二重結合を2つ以上有する架橋性単量体と、ポリビニルアルコール系重合体と、水とを含有するゲル作製用組成物であって、
前記N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドの量が40~70質量%であり、かつ前記ポリビニルアルコール系重合体の量が0.50~6.0質量%である、ゲル作製用組成物。
【請求項2】
可塑剤をさらに含み、水と可塑剤との合計量がゲル作製用組成物の全量に対して25~55質量%である請求項1に記載のゲル作製用組成物。
【請求項3】
前記ゲル作製用組成物の溶液粘度が100~1500mPa・sである請求項1に記載のゲル作製用組成物。
【請求項4】
請求項1に記載のゲル作製用組成物を3Dプリンタにより造形することを含む、ハイドロゲルの製造方法。
【請求項5】
高分子マトリックスと、ポリビニルアルコール系重合体と、水とを含有するハイドロゲルであって、
前記高分子マトリックスが、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドと分子内に重合性の炭素-炭素二重結合を2つ以上有する架橋性単量体との共重合体であり、
前記N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドの量が40~70質量%であり、かつ前記ポリビニルアルコールの量が0.50~6.0質量%である、ハイドロゲル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル作製用組成物、ハイドロゲルの製造方法及びハイドロゲルに関する。
【背景技術】
【0002】
3Dプリンタなどを活用して、光照射により硬化する樹脂組成物を必要な立体形状に造形できる技術が多く出てきている。それに伴い3Dプリンタで立体造形できる樹脂組成物としてプラスチック、金属、ゴムなど用途に合わせた材料も多く出てきている。
【0003】
例えば、特許文献1は、重量平均分子量が1000以下のウレタン化(メタ)アクリル化合物(a)、(メタ)アクリルアミド化合物(b)、光重合開始剤(c)、及び平均粒子径が0.75~10μmである球状無機粒子(d)を含有し、前記球状無機粒子(d)の含有量が、前記重量平均分子量が1000以下のウレタン化(メタ)アクリル化合物(a)、(メタ)アクリルアミド化合物(b)、及びその他の重合性単量体の合計量100質量部に対して50~400質量部である、光造形用樹脂組成物、及びかかる光造形用樹脂組成物を用いて光学的立体造形法によって立体造形物を製造する方法について開示している。
【0004】
特許文献2は、 第1のポリマーと、可視光領域に吸収波長を有する光重合開始剤と、前記光重合開始剤の作用により重合して第2のポリマーを形成するモノマーと、を含み、前記第1のポリマーと前記第2のポリマーとがゲルを構成する3Dプリンタ用ゲル材料を、可視光を照射する光照射部を備える光造形方式の3Dプリンタを用い、点距離fが10~18mm、X走査速度が1~10mm/秒、Y走査速度が1~10mm/秒、積算光量が10~40000mJ/cm、走査回数が1~20回の条件にて硬化させる、構造物の製造方法について開示している。
【0005】
特許文献3は、3Dプリント用の高分子ゲル製造用溶液であって、不飽和モノマー(a1)及び架橋性モノマー(a2)の共重合体であり、架橋構造を有する重合体からなる粒子(A)と、前記粒子(A)と網目構造を形成する重合体(B)を形成する不飽和モノマー(b1)と、溶媒(c)と、光重合開始剤(d)と、光吸収剤(e)とを含み、 前記架橋性モノマー(a2)が下記式(4)で表される化合物を含む、高分子ゲル製造用溶液について開示している。
【0006】
特許文献1の光造形用樹脂組成物では、モノマーにウレタン化(メタ)アクリレートを使用している。このため樹脂組成物の皮膚刺激性が高い。
【0007】
特許文献2,3の3Dプリント用の高分子ゲル製造用溶液は、モノマーにN,N-ジメチルアクリルアミド(DMAAm)や、他にも皮膚刺激性が高い材料が使用されている。このため、高分子ゲル製造用溶液及び得られたゲルには皮膚刺激性、アレルギーなどの感作性などの問題がある。
【0008】
このように、3Dプリンタによる造形に使用される硬化前の樹脂組成物は皮膚刺激性が高いものが多く、手などに触れると皮膚刺激をおこすおそれがある。また、ハイドロゲルのような柔らかい材料を製造するための3Dプリンタ用の樹脂組成物は、実用化されているものは少ない。
【0009】
特許文献4は、シート状のハイドロゲルを製造するための配合液について開示しているが、特許文献4に記載の配合液を光造形方式の3Dプリンタを用いて立体形状のゲルを作製すると、意図した造形ができず積層時に層間剥離が発生し、またゲルの寸法精度が悪くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2022-041276
【特許文献2】特許第7054136号
【特許文献3】特許第7205345号
【特許文献4】特許第5952763号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決すべき課題は、3Dプリンタで重合により立体造形するときに取り扱い性が容易であり、ハイドロゲルの柔らかさを確保しつつ、かつ造形精度の高いハイドロゲルが得られるゲル作製用組成物、ハイドロゲルの製造方法及び該ゲル作製用組成物から製造されるハイドロゲルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以下に記載の実施形態を包含する。
[項1]
N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドと、分子内に重合性の炭素-炭素二重結合を2つ以上有する架橋性単量体と、ポリビニルアルコールと、水とを含有するゲル作製用組成物であって、
前記N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドの量が40~70質量%であり、かつ前記ポリビニルアルコールの量が0.50~6.0質量%である、ゲル作製用組成物。
[項2]
可塑剤をさらに含み、水と可塑剤との合計量がゲル作製用組成物の全量に対して25~55質量%である項1に記載のゲル作製用組成物。
[項3]
前記ゲル作製用組成物の溶液粘度が100~1500mPa・sである項1に記載のゲル作製用組成物。
[項4]
項1に記載のゲル作製用組成物を3Dプリンタにより造形することを含む、ハイドロゲルの製造方法。
[項5]
高分子マトリックスと、ポリビニルアルコールと、水とを含有するハイドロゲルであって、
前記高分子マトリックスが、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドと分子内に重合性の炭素-炭素二重結合を2つ以上有する架橋性単量体との共重合体であり、
前記N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドの量が40~70質量%であり、かつ前記ポリビニルアルコールの量が0.50~6.0質量%である、ハイドロゲル。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、3Dプリンタで重合により立体造形するときに取り扱いが容易であり、ハイドロゲルの柔らかさを確保しつつ、かつ造形精度の高いハイドロゲルが得られるゲル作製用組成物が提供される。また、かかるゲル作製用組成物を用いることにより、造形精度の高いハイドロゲルを得ることができる。本発明の実施形態のゲル作製用組成物は、N,N-ジメチルアクリルアミド(DMAAm)を含まないように構成することができるため、皮膚刺激性を少なくすることができ、安全性が高い。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において、「含有する(comprise)」は、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」も包含する概念である。
【0015】
本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。また、本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値又は実施例から一義的に導き出せる値に置き換えてもよい。更に、本明細書において、「~」で結ばれた数値は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を意味する。
【0016】
本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味し、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を指す。「(メタ)アクリロイル」は、アクリロイル及び/又はメタクリロイルを指す。「(メタ)アクリルアミド」は、アクリルアミド及び/又はメタクリルアミドを指す。
【0017】
本明細書において、「3Dプリンタ」は、光を照射する光照射部を備える光造形方式の3Dプリンタを意味する。
【0018】
本明細書において、「ゲル」とは、ポリマー鎖同士が物理的もしくは化学的に結合することで網目構造を形成し、形成した網目構造に液状媒体を取り込んで膨潤した構造体を意味する。
【0019】
本明細書において、「ハイドロゲル」とは、水を主成分とする液状媒体を、ポリマーで構成された網目構造中に取り込んでいるゲルを意味する。なお、液状媒体は、ハイドロゲルの物性に影響が出ない範囲で、水に溶解する有機溶剤又は水と混和する有機溶剤を含んでいてもよい。
【0020】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0021】
本発明の一態様のゲル作製用組成物は、単官能単量体としてのN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドと、分子内に重合性の炭素-炭素二重結合を2つ以上有する架橋性単量体と、ポリビニルアルコールと、水とを含有し、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドの量が40~70質量%であり、かつポリビニルアルコールの量が0.50~6.0質量%である。なお、単官能単量体は、分子内に重合性の炭素-炭素二重結合を1つ有する単量体を指す。本発明の実施形態のゲル作製用組成物は、N,N-ジメチルアクリルアミド(DMAAm)を含まないように構成することができるため、皮膚刺激性を少なくすることができ、安全性が高い。
【0022】
N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドの量は、光造形を可能にする点で、ゲル作製用組成物の全量に対して40質量%以上である。また、ゲル作製用組成物の粘度及びゲル作製用組成物の硬化により得られるハイドロゲルの柔軟性の点で、ゲル作製用組成物の全量に対して70質量%以下とする。ゲル作製用組成物中のN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドの量が40質量%未満であると、光造形ができないか、もしくは造形精度が悪いハイドロゲルが生じるおそれがある。一方、ゲル作製用組成物中のN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドの量が70質量%を超えると、ゲル作製用組成物の粘度が高くなるか、及び/又は組成物の安定性が悪くなるおそれがある。また、ゲル作製用組成物の硬化により得られるハイドロゲルの柔軟性が失われてしまうおそれがある。
【0023】
分子内に重合性の炭素-炭素二重結合を2つ以上有する架橋性単量体(以下、単に「架橋性単量体」と称する場合がある)としては、分子内に重合性を有する炭素-炭素二重結合を2つ以上有する単量体であれば特に限定されないが、N,N’-メチレンビス(メタ)アクリルアミド、N,N’-エチレンビス(メタ)アクリルアミド、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリグリセリンジ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル系架橋性単量体を使用することが好ましい。これらの架橋性単量体は、それぞれ、単独で用いても、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
ゲル作製用組成物における架橋性単量体の量は、十分な機械的強度が得られる限り、特に限定されるものではないが、ゲル作製用組成物の全量に対して、0.0010~1.0質量%であることが好ましく、0.010~1.0質量%であることがより好ましい。ゲル作製用組成物における架橋性単量体の量が0.0010質量%以上であると、硬化した後でゲルとなるのに十分な架橋密度が得られる。ゲル作製用組成物おける架橋性単量体の量が1.0質量%以下であると、硬化した後で柔軟性のあるゲル、例えば十分な機械的強度(特に、十分な引張強度)と伸縮性を有するゲルが得られる。
【0025】
ゲル作製用組成物における単官能単量体(特にはN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド)と架橋性単量体の合計量は、硬化した後でゲルとなるのに十分な架橋密度を得る点で、41~72質量%であることが好ましい。
【0026】
ポリビニルアルコール系重合体は、ゲル作製用組成物を硬化して得られるゲルが、柔らかさや伸縮性を発現するために添加される。
【0027】
ポリビニルアルコール系重合体は、十分な機械的強度、特に、十分な引張強度を得ると共に、均一なゲル作製用組成物を得る点で、重合度が1000~2000のポリビニルアルコールであることが好ましい。
【0028】
ポリビニルアルコール系重合体としては特に限定されず、例えばポリ酢酸ビニルのけん化により得られるポリビニルアルコール; トリフルオロ酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、2-エチルヘキサン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ソルビン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル、tert-ブチル安息香酸ビニル、バーサティック酸ビニル等の酢酸ビニル以外のビニルエステルの単独重合体;前記ビニルエステル及び酢酸ビニルの少なくとも2種からなる共重合体をけん化して得られたもの等を挙げることができる。これらのポリビニルアルコール系重合体は、それぞれ単独で用いても、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
ゲル作製用組成物におけるポリビニルアルコール系重合体の量は、ゲル作製用組成物を硬化して得られるハイドロゲルの柔らかさを確保し、べたつきを抑える点で、ゲル作製用組成物の全量に対して0.50質量%以上である。また、単官能単量体、架橋性単量体、ポリビニルアルコール系重合体、及び任意選択の他の成分を水に溶解させてゲル作製用組成物を得る際のポリビニルアルコール系重合体の溶解性の点で、ゲル作製用組成物の全量に対して6.0質量%以下である。
【0030】
ポリビニルアルコール系重合体の量は、単官能単量体と架橋性単量体の合計量(特にはN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドと架橋性単量体の合計量)100質量部に対して、1.0~15質量部であることが好ましく、1.0~10質量部であることがより好ましい。ポリビニルアルコール系重合体の量が単官能単量体と架橋性単量体の合計量(特にはN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドと架橋性単量体の合計量)100質量部に対して1.0質量部以上であると、ゲル作製用組成物を硬化して作製されたゲルは、ハイドロゲルが有する柔らかさを有するゲルとなる。一方、前記ポリビニルアルコール系重合体の量が単官能単量体と架橋性単量体の合計量(特にはN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドと架橋性単量体の合計量)100質量部に対して15質量部以下であると、単官能単量体、架橋性単量体、ポリビニルアルコール系重合体、及び任意選択の他の成分を水に溶解させてゲル作製用組成物を得る際に、ポリビニルアルコール系重合体を十分に溶解させることができる。
【0031】
本発明で使用されるポリビニルアルコール系重合体のけん化度は、80~98モル% であることが好ましい。けん化度が80モル%以上のポリビニルアルコール系重合体を使用した場合には、ハイドロゲルの製造において、単官能単量体、架橋性単量体、ポリビニルアルコール系重合体、及び任意選択の他の成分が水に均一に溶解された配合液であるゲル作製用組成物を得やすく、また、得られるハイドロゲルの安定性が良好である。けん化度が98モル%以下の前記ポリビニルアルコール系重合体を使用した場合には、ゲル作製用組成物中でポリビニルアルコール系重合体が十分に溶解することができ、ハイドロゲルの製造において、単官能単量体、前記架橋性単量体、前記ポリビニルアルコール系重合体、及び任意選択の他の成分が水に均一に溶解した配合液であるゲル作製用組成物を得やすい。なお、ポリビニルアルコール系重合体の「けん化度」は、JIS K 6726-1994に準じて測定することができる。
【0032】
ゲル作製用組成物における水の量は、単官能単量体と架橋性単量体の合計量(特にはN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドと架橋性単量体の合計量)100質量部に対して、30~55質量部であることが好ましく、35~50質量部であることがより好ましい。水の量が、単官能単量体と架橋性単量体の合計量(特にはN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドと架橋性単量体の合計量)100質量部に対して、30質量部以上であると、機械的強度を得るために十分な量のポリビニルアルコール系重合体を水に溶解させることができ、十分な量のポリビニルアルコール系重合体を単官能単量体と架橋性単量体からなる共重合体(以下、「高分子マトリックス」とも言う)に保持させてハイドロゲル中に含有させることができ、ハイドロゲルの十分な機械的強度、特に、十分な引張強度が得られる。一方、水の量が、単官能単量体と架橋性単量体の合計量(特にはN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドと架橋性単量体の合計量)100質量部に対して55質量部以下であると、機械的強度を得るために十分な量のポリビニルアルコール系重合体を水に溶解させることができ、かつ単官能単量体と架橋性単量体からなる共重合体(高分子マトリックス)が保持可能な水分量であり、乾燥による物性変動が生じにくい。
【0033】
本発明の実施形態のゲル作製用組成物はさらに、可塑剤を含有してもよい。
【0034】
可塑剤としては特に限定されず、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオールなどのジオール類; グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等の他の多価アルコール類; ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグリセリン等の多価アルコール縮合体; ポリオキシエチレングリセリン等の多価アルコール変成体等を挙げることができる。
【0035】
可塑剤が使用される場合、ゲル作製用組成物における可塑剤の量は、単官能単量体と架橋性単量体の合計量(特にはN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドと架橋性単量体の合計量)100質量部に対して、5.0~70質量部であることが好ましい。
【0036】
また、ゲル作製用組成物が可塑剤を含む場合、水と可塑剤の合計量がゲル作製用組成物の全量に対して25~55質量%であることが好ましい。水と可塑剤の合計量がゲル作製用組成物の全量に対して25質量%以上であると、ゲル作製用組成物を硬化して得られるハイドロゲルの柔らかさが確保される。水と可塑剤の合計量がゲル作製用組成物の全量に対して55質量%以下であると、ゲル作製用組成物を硬化して得られるハイドロゲル中の高分子マトリックスによる強度が発現し、ハイドロゲルからなる立体造形物の造形精度が良好である。さらに、ゲル作製用組成物中の水と可塑剤の質量比は、ハイドロゲルの柔らかさ及び造形精度の点で、10:1~1:5であることが好ましく、5:1~1:2であることがより好ましい。
【0037】
本発明の実施形態のゲル作製用組成物はさらに、光吸収剤を含有してもよい。光吸収剤は、光を吸収して熱エネルギーあるいは他の波長の光に変換する物質を示す。光吸収剤を含むと、3Dプリンタにおける造形精度がより優れる。光吸収剤としては、ゲル化に用いる光を吸収可能なものであればよい。
【0038】
光吸収剤としては、紫外線吸収剤としては、スチルベン誘導体、トリアジン誘導体などが挙げられる。これらの光吸収剤はいずれか1種を単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
光吸収剤の量(光吸収剤が2種以上の場合は、その合計量)は、ゲル作製用組成物の全量に対して0.010~5.0質量%が好ましく、0.10~0.50質量%がより好ましく、0.10~0.30質量%がより好ましい。
【0040】
本発明の実施形態のゲル作製用組成物は、単官能単量体と架橋性単量体を重合するために、光重合開始剤を含有してもよい。
【0041】
光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジル、ベンゾフェノン、p-メトキシベンゾフェノン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、α,α-ジメトキシ-α-フェニルアセトフェノン、メチルフェニルグリオキシレート、エチルフェニルグリオキシレート、4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン等のカルボニル化合物;テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド等の硫黄化合物;2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ベンゾイルジエトキシフォスフィンオキサイド、フェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィン酸塩等のアシルフォスフィンオキサイド系化合物が挙げられる。これらは1種でもよく2種以上を併用してもよい。
【0042】
光重合開始剤の量(光重合開始剤が2種以上の場合は、その合計量)は、ゲル作製用組成物の全量に対して0.010~5.0質量%が好ましく、0.10~0.50質量%がより好ましく、0.10~0.40質量%がより好ましい。
【0043】
本発明の実施形態のゲル作製用組成物は、必要に応じて、他の添加剤( 以下、単に「添加剤」という) を含有してもよい。添加剤としては、例えば、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド以外の単官能単量体、電解質、防腐剤、殺菌剤、防徴剤、防錆剤、酸化防止剤、安定剤、香料、界面活性剤、着色剤、抗炎症剤、ビタミン剤、美白剤、その他薬効成分等を挙げることができる。これら添加剤は、単独で用いても、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド以外の単官能単量体としては、アクリロイル基(H2C=CH-C(=O)-)又はメタクリロイル基(H2C=C(CH3)-C(=O)-)を有する、重合してポリマー(重合体)を形成可能なモノマーであるアクリル系単量体が挙げられ、アクリル系単量体としては、(メタ)アクリルアミド系単量体及び(メタ)アクリル酸エステル等の水溶性単量体が挙げられる。ゲル作製用組成物は、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド以外の単官能単量体を含有することもできるし、あるいは含有しないこともできるが、ゲル作製用組成物におけるN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド以外の単官能単量体の量は少ない方が好ましく、例えばゲル作製用組成物に対し10質量%以下であり、好ましくは5.0質量%以下であり、より好ましくはN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド以外の単官能単量体を含まない。
【0045】
N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド以外の単官能単量体として、(メタ)アクリル酸を含む場合、ゲル作製用組成物はグリコールビニルエーテルをさらに含有し、ハイドロゲルは、かかる(メタ)アクリル酸とグリコールビニルエーテルが重合された共重合体を含有してもよい。
【0046】
電解質としては特に限定されず、例えば、ハロゲン化ナトリウム、ハロゲン化リチウム、ハロゲン化カリウム等のハロゲン化アルカリ金属;ハロゲン化マグネシウム、ハロゲン化カルシウム等のハロゲン化アルカリ土類金属;その他の金属ハロゲン化物等が挙げられる。また、上記電解質として、各種金属の、次亜塩素酸塩、亜塩素酸塩、塩素酸塩、過塩素酸塩、塩酸塩、硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩、燐酸塩も好適に用いられる。また、上記電解質として、アンモニウム塩、各種錯塩等の無機塩類;酢酸、安息香酸、乳酸等の一価有機カルボン酸の塩;酒石酸等の多価有機カルボン酸の塩;フタル酸、コハク酸、アジピン酸、クエン酸等の多価カルボン酸の一価又は二価以上の塩;スルホン酸、アミノ酸等の有機酸の金属塩;有機アンモニウム塩等も好適である。
【0047】
ゲル作製用組成物の溶液粘度は特に限定されないが、ハイドロゲルからなる立体造形物の造形の点では、100~1500mPa・sであることが好ましい。
【0048】
以上説明した本発明の実施形態のゲル作製用組成物は、べたつきが少ない点で3Dプリンタで重合により立体造形するときに取り扱いが容易であり、ハイドロゲルの柔らかさを確保しつつ、かつ重合することにより造形精度の高いハイドロゲルを得ることができる。
【0049】
本発明の実施形態のゲル作製用組成物は、3Dプリンタ(積層造形法)に用いることができる。
【0050】
本発明の実施形態のハイドロゲルの製造方法は、上記実施形態のゲル作製用組成物を3Dプリンタにより造形する工程を含む。造形する工程とは、ゲル作製用組成物の一部に光を照射して重合させて所定形状のゲル層を形成する操作を複数回繰り返して、前記ゲル層の積層物からなるハイドロゲルを形成する工程を意味する。ゲル作製用組成物は流動性を有し、重合させると硬化して、流動性を有しないハイドロゲルとなる。3Dプリンタは、光造形方式の公知の3Dプリンタを用いて行うことができる。
【0051】
ゲル作製用組成物を重合させて得られたハイドロゲルも本発明の範囲に含まれる。
【0052】
本発明の実施形態のハイドロゲルは、高分子マトリックスと、ポリビニルアルコール系重合体と、水とを含有するハイドロゲルであって、高分子マトリックスが、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドと分子内に重合性の炭素-炭素二重結合を2つ以上有する架橋性単量体との共重合体であり、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドの含有量が40~70質量%であり、かつ前記ポリビニルアルコール系重合体の含有量が0.50~6.0質量%である、ハイドロゲルである。
【0053】
ハイドロゲル中の高分子マトリックスの量は、41~72質量%であることが好ましい。ハイドロゲル中のポリビニルアルコール系重合体、水、可塑剤、その他の成分の好ましい量は、上述のゲル作製用組成物中のそれらの各成分の量と同じであってよい。
【0054】
以下の実施例は、例示のみを意図したものであり、何ら本発明の技術的範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例0055】
1.ゲル作製用組成物の調製及びハイドロゲルの作製
実施例1
N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド(KJケミカルズ株式会社製)65質量部と、架橋性単量体としてポリエチレングリコール#600ジアクリレート(A-600)(新中村化学工業株式会社製)を0.50質量部、ポリビニルアルコール重合体として重合度1800、ケン化度88mol%のポリビニルアルコールを3質量%、光吸収剤としてKayaphor SN conc(スチルベン誘導体、日本化薬株式会社製)を0.10質量部、可塑剤としてグリセリン、及び水を混合し、溶解撹拌して均一な配合液を得た。
【0056】
この配合液に市販のアルキルフェノン系光重合開始剤とアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤を、合計量で0.40質量%加えて更に撹拌し溶解させた。得られた配合液を3Dプリンタ(Photon Mono 4K 3Dプリンタ Anycubic社製)を液槽内に入れ、LCD方式にて液面の下方から405nmのLED光を20秒間照射し、20mm角の立方体を造形した。積算光量は100mJ/cmであった。
【0057】
造形後、365nmの紫外光を12,000mJ/cm照射することにより、20mm角の立方体形状のハイドロゲルを得た。
【0058】
実施例2~7及び比較例1~6
配合液を表1に示した組成とした以外は実施例1と同じ方法で、20mm角の立方体形状のハイドロゲルを得た。実施例1~7及び比較例1~6において、ゲル作製用組成物中の水と可塑剤の質量比は、5:1~1:2の範囲内とした。
【0059】
なお、実施例6で使用した架橋性単量体はN,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBAA)である。実施例7で使用した架橋性単量体はポリエチレングリコール#1000ジアクリレート(A-1000)(新中村化学工業株式会社製)である。比較例5で使用した単官能単量体はアクリロイルモルフォリンである。比較例6で使用した単官能単量体はアクリルアミドである。
【0060】
2.ハイドロゲルの評価
上記実施例1~7及び比較例1~6のそれぞれについて、下記の項目を評価した。表1に結果を示す。評価が空欄になっている箇所は、測定しなかったことを指す。
【0061】
実施例1~7は、液の相溶性、造形精度、及びゲルの柔らかさのいずれも良好であった。
【0062】
これに対し、比較例1のハイドロゲルはべたつきがあり造形精度が悪かった。比較例2、3は液の相溶性が悪く、均一なゲル作製用組成物を製造することができなかった。比較例4のハイドロゲルは、べたつきが多いため取り扱い性が悪かった。比較例5及び6は、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを含有せず他の単官能単量体を使用した例であるが、ハイドロゲルの造形精度及び柔軟性がいずれも劣っていた。
【0063】
(1)組成物の相溶性
単官能単量体、架橋性単量体、ポリビニルアルコール重合体、光吸収剤、可塑剤、及び水を含むゲル作製用組成物が製造できるかどうかを評価した。
〇…ダマ、溶け残りのない液体になっている
×…ダマや粉末が溶けずに残っている
【0064】
(2)造形精度
○…データ通り(20mm角の立方体)にできている
×…寸法が大きくずれている、積層時の剥がれがみられる
【0065】
(3)取り扱い性(べたつき)
○…ゲルのべたつきがない
×…ゲルがべたついており、取り扱い性が悪い
【0066】
(4)ゲルの柔らかさ
アスカーゴム硬度計C型(高分子計器株式会社製)を20mm角のハイドロゲルのサンプルに上から押し当て、硬度計の上に1kgの重りを載せた時の数値を確認した。
〇…65以下
×…65を超える
【0067】
(5)組成物の粘度
重合開始剤を添加した後の組成物の粘度を粘度計(東機産業株式会社製 粘度計 TVB-10H)で測定した。組成物の温度は20℃、回転数は50rpmとした。
【0068】
【表1】