(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143892
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】空間分割多重光伝送システム
(51)【国際特許分類】
H04J 14/00 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
H04J14/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056830
(22)【出願日】2023-03-31
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 2023年(令和5年)3月3日にhttps://www.kagawa-u.ac.jp/29599/、https://jpn.nec.com/press/202303/20230303_02.html、及びhttps://www.santec.com/media/jp/news_release/a376にて公開 2023年(令和5年)3月6日にhttps://www.furukawa.co.jp/release/2023/comm_20230306.htmlにて公開 2023年(令和5年)3月5日(現地時間)に光ファイバ通信国際会議(Optical Fiber Communication Conference & Exposition(OFC))2023にて公開
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人情報通信研究機構「革新的情報通信技術研究開発委託研究/Beyond 5G超大容量無線通信を支える空間多重光ネットワーク・ノード技術の研究開発、経済性と転送性能に優れた空間多重光ネットワーク基盤技術の研究開発」委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304028346
【氏名又は名称】国立大学法人 香川大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】神野 正彦
【テーマコード(参考)】
5K102
【Fターム(参考)】
5K102AA02
5K102AD01
5K102AL12
5K102AL15
5K102NA00
5K102PH47
5K102PH48
(57)【要約】
【課題】非対称トラフィックを効率的に収容可能な空間分割多重光伝送システムを実現する。
【解決手段】D本の方路を有する複数の空間分割多重光ノード装置が空間分割多重光伝送路で互いに結ばれた空間分割多重光伝送システムにおいて、前記空間分割多重光伝送路は1本のマルチコアファイバであり、前記空間分割多重光ノード装置は、帯域可変光送信器が発生する任意の波長の光信号を各方路のマルチコアファイバの任意のコアから出力し、各方路のマルチコアファイバの任意のコアから入力した任意の波長の光信号を、任意の前記帯域可変光受信器で受信するように構成される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
D本の方路を有する複数の空間分割多重光ノード装置が空間分割多重光伝送路で互いに結ばれた空間分割多重光伝送システムであって、
前記空間分割多重光伝送路は1本のマルチコアファイバであり、前記空間分割多重光ノード装置は、方路毎に配置されたD個の空間分割多重光伝送モジュールを有し、
前記空間分割多重光伝送モジュールは、空間多重分離編集部と、光スイッチ部と、帯域可変光送受信部とを有し、
前記空間多重分離編集部は、
一方に1本の入力マルチコアファイバポートを備え、他方にN本の出力マルチコアファイバポートを備える1×Nコア選択スイッチと、一方に1本のマルチコアファイバポートを備え、他方に1本のシングルモードファイバポートを備えるM個のコアセレクタとを有し、
前記光スイッチ部は、一方にM本のシングルモードファイバポートを備え、他方にT本のシングルモードファイバポートを備えるM×T波長選択スイッチであり、
前記帯域可変光送受信部は、
帯域可変光送信器と帯域可変光受信器とを有する帯域可変光送受信器を1個あるいは複数個だけ備え、
前記1×Nコア選択スイッチの1本の入力マルチコアファイバポートは、方路毎に配置された前記空間分割多重光伝送路である1本のマルチコアファイバに接続され、
前記1×Nコア選択スイッチのN本のマルチコアファイバポートのうち(D-1)本のマルチコアファイバポートは、他の空間分割多重光伝送モジュール内に配置された1×Nコア選択スイッチと接続され、他のマルチコアファイバポートは、前記コアセレクタのマルチコアファイバポートに接続され、前記各コアセレクタの各シングルモードファイバポートは、前記M×T波長選択スイッチのM本のシングルモードファイバポートのいずれかに接続され、前記M×T波長選択スイッチのT本のシングルモードファイバポートのいずれかには、前記帯域可変光送信器又は前記帯域可変光受信器が接続され、
前記空間分割多重光ノード装置は、前記帯域可変光送信器が発生する任意の波長の光信号を各方路のマルチコアファイバの任意のコアから出力し、各方路のマルチコアファイバの任意のコアから入力した任意の波長の光信号を、任意の前記帯域可変光受信器で受信するように構成されたことを特徴とする空間分割多重光伝送システム。
【請求項2】
請求項1に記載の空間分割多重光伝送システムであって、
前記複数の空間分割多重光ノード装置における少なくとも1つの空間分割多重光ノード装置において、前記D個の空間分割多重光伝送モジュールに配置されるD個のM×T波長選択スイッチに代えて、1台の(D・M)×T波長選択スイッチを備え、
前記帯域可変光送信器が発生する任意の波長の光信号を任意の方路のマルチコアファイバの任意のコアから出力し、任意の方路のマルチコアファイバの任意のコアから入力した任意の波長の光信号を、任意の前記帯域可変光受信器で受信するように構成されたことを特徴とする空間分割多重光伝送システム。
【請求項3】
請求項1に記載の空間分割多重光伝送システムであって、
前記複数の空間分割多重光ノード装置における少なくとも1つの空間分割多重光ノード装置において、前記M×T波長選択スイッチに代えて、M×Tマルチキャストスイッチを備え、
前記帯域可変光送信器は、任意の波長の光信号を発生する機能を有し、前記帯域可変光受信器は、任意の波長の光信号を選択的に受信する機能を有することを特徴とする空間分割多重光伝送システム。
【請求項4】
請求項2に記載の空間分割多重光伝送システムであって、
前記複数の空間分割多重光ノード装置における前記少なくとも1つの空間分割多重光ノード装置において、前記(D・M)×T波長選択スイッチに代えて、(D・M)×Tマルチキャストスイッチを備え、
前記帯域可変光送信器は、任意の波長の光信号を発生する機能を有し、前記帯域可変光受信器は、任意の波長の光信号を選択的に受信する機能を有することを特徴とする空間分割多重光伝送システム。
【請求項5】
請求項1に記載の空間分割多重光伝送システムであって、
各空間分割多重光ノード装置において、前記1×Nコア選択スイッチと前記コアセレクタに代えて、一方に1本のマルチコアファイバポートを備え、他方に複数個のシングルモードファイバポートを備えるファンイン・ファンアウト機器を備えることを特徴とする空間分割多重光伝送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非対称トラフィックを効率的に収容可能な空間分割多重光伝送システムを実現するための技術に関連するものである。
【背景技術】
【0002】
年率30%から40%で引き続き加速度的に増加する通信需要に応えるため、従来の波長分割多重(WDM)技術に加え、一本の光ファイバ内に複数のコアを収容するマルチコアファイバ(MCF)(非特許文献1)や、空間分割多重(SDM)光信号を多重分離するファンイン・ファンアウト機器(非特許文献2)など、SDM技術の研究開発が推進されている。
【0003】
光通信分野におけるその他の特徴的な最近の進歩としては、(1)シンボルレートやサブキャリア数、ビット/シンボル数を変化させて伝送レートを変更可能な帯域可変(BV)トランスポンダ(非特許文献3)、(2)高接続自由度の再構築可能分岐挿入多重装置(ROADM)を可能にするN×M波長選択スイッチ(WSS)やN×Mマルチキャストスイッチ(MCS)(非特許文献4ないし6)、(3)SDM光信号をスイッチ可能なコア選択スイッチ(CSS)、コアセレクタ(CS)などの空間分割多重光スイッチ(非特許文献7ならびに8)が挙げられる。
【0004】
一方、IPネットワークにおいて、上り下りのデータ通信量が実際には少なからず非対称であるにも関わらず、アクセス光ネットワークを除く、メトロ光ネットワーク、コア光ネットワーク、海底光ネットワークにおいては、上り下りで同一の伝送レート(例えば100 Gb/s)が採用されている。今後、クラウドコンピューティングの進展に伴い、データセンタとバックボーンネットワークとの間のトラフィックの非対称性がいっそう拡大する可能性があり、その場合、上り下りで同一の伝送レートを採用する場合のリンク資源の無駄の問題は看過できなくなることが予想される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】K. Saitoh, "Multicore fiber technology," Journal of Lightwave Technology, vol. 34, no. 1, pp. 55-66, 2016.
【非特許文献2】K. Kawasaki, T. Sugimori, K. Watanabe, T. Saito, and R. Sugizaki, "Four-fiber fan-out for MCF with square lattice structure," in Proc. Optical Fiber Communication Conference (OFC), W3H.4., 2017.
【非特許文献3】M. Jinno, "Elastic optical networking: Roles and benefits in beyond 100-Gb/s era," Journal of Lightwave Technology, 35, 5, pp.1116-1124, 2016.
【非特許文献4】D. M. Marom, P. D. Colbourne, A. D'Errico, N. K. Fontaine, Y. Ikuma, R. Proietti, L. Zong, J. M. Rivas-Moscoso, and I. Tomkos, "Survey of photonic switching architectures and technologies in support of spatially and spectrally flexible optical networking [invited]," J. Opt. Commun. Netw., vol. 9, no. 1, pp. 1-26, 2017.
【非特許文献5】Y. Ma, L. Stewart, J. Armstrong, I. G. Clarke and G. Baxter, "Recent Progress of Wavelength Selective Switch," in Journal of Lightwave Technology, vol. 39, no. 4, pp. 896-903, 15 Feb.15, 2021, doi: 10.1109/JLT.2020.3022375.
【非特許文献6】P. D. Colbourne, S. McLaughlin, C. Murley, S. Gaudet and D. Burke, "Contentionless Twin 8×24 WSS with Low Insertion Loss," 2018 Optical Fiber Communications Conference and Exposition (OFC), 2 018,Th4A.1.
【非特許文献7】M. Jinno, T. Kodama, and T. Ishikawa, "Principle, design, and prototyping of core selective switch using free-space optics for spatial channel network," J. Lightw. Technol., vol. 38, no. 18, pp. 4895-4905, 2020.
【非特許文献8】M. Jinno, T. Ishikawa, T. Kodama, H. Hasegawa, and S. Subramaniam, "Enhancing the flexibility and functionality of SCNs: demonstration of evolution toward any-core-access, nondirectional, and contentionless spatial channel cross-connects," in Journal of Lightwave Technology, 13(8) D80-D92, 2021.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図1は従来技術に基づくSDM光伝送システムであり、複数のSDM光ノード装置が、2芯のMCFからなるSDM伝送路で結ばれている。ここでMCFとは、クラッド内に単一モードコアが複数配置された光ファイバであり、これまでに4コアファイバ、7コアファイバ、19コアファイバ等が実現されている(非特許文献1)。
【0007】
2芯MCFの一方は上り光信号を、他方は下り光信号の伝送を担う。MCF内の各コアにはWDM光信号が伝送され、その伝送方向はMCFで同一(単方向)である。このような2芯単方向伝送方式は、従来から光伝送方式に用いられてきた一般的な方式である。図中のSDM光ノード装置AとCはそれぞれ、3つの隣接SDM光ノード装置と2芯MCFで結ばれているので、SDM光ノード装置AとCのノード次数Dは3(方路数も同じく3)であるという。
【0008】
図2は従来のSDM光ノード装置(D=3の場合を例示)の構成例である。各方路に2台の1×N CSSが配置され、各1×N CSSは2芯MCFの一方と接続されている。1×N CSSのN本の出力MCFポートのうち(D-1)本を用いて、他の方路用に配置された1×N CSSと接続されている。残りの出力MCFポートはCSに接続される。ここで、1×N CSSは入力MCFポート内の複数のコアを他の方路に接続するか、このSDM光ノード装置で分岐挿入するためCSに接続するかの設定を担う。各CSは接続されたMCF内の1つのコアを選択的にSMFポートに接続する機能を提供する。
【0009】
各CSのSMFポートには波長多重分離器(WMUX)が接続される。WMUXはWDM光信号を波長毎に分離して、波長に対応する送信機(Tx)ならびに受信機(Rx)に導く。これらのTX、Rxはクライアント装置、例えばIPルーター(R)のインタフェース(IF)と接続される。このようにして、IPルーターは
図1のSDM光伝送システムを介して地理的に離れた隣接IPルーターとの間で双方向のデータ通信を実現している。
【0010】
一方、背景技術でも述べたように、IPネットワークにおいて、上り下りのデータ通信量が実際には少なからず非対称である。しかし、アクセス光ネットワークを除く、メトロ光ネットワーク、コア光ネットワーク、海底光ネットワークにおいては、上り下りで同一の伝送レート(例えば100Gb/s)が採用されている。今後、クラウドコンピューティングの進展に伴い、データセンタとバックボーンネットワークとの間のトラフィックの非対称性がいっそう拡大する可能性があり、その場合、たとえSDM技術を導入してリンク容量を拡大したとしても、上り下りで同一の伝送レートを採用し、上り下りの伝送容量が依然として同一のままであれば、せっかく拡大したリンク資源は無駄になり、光通信ネットワークの経済性は著しく損なわれる恐れがある。これが従来技術に基づく2芯単方向SDM伝送システムの課題である。
【0011】
本発明は、上記の点を鑑みてなされたものであり、非対称トラフィックを効率的に収容可能な空間分割多重光伝送システムを実現するための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
開示の技術によれば、D本の方路を有する複数の空間分割多重光ノード装置が空間分割多重光伝送路で互いに結ばれた空間分割多重光伝送システムであって、
前記空間分割多重光伝送路は1本のマルチコアファイバであり、前記空間分割多重光ノード装置は、方路毎に配置されたD個の空間分割多重光伝送モジュールを有し、
前記空間分割多重光伝送モジュールは、空間多重分離編集部と、光スイッチ部と、帯域可変光送受信部とを有し、
前記空間多重分離編集部は、
一方に1本の入力マルチコアファイバポートを備え、他方にN本の出力マルチコアファイバポートを備える1×Nコア選択スイッチと、一方に1本のマルチコアファイバポートを備え、他方に1本のシングルモードファイバポートを備えるM個のコアセレクタとを有し、
前記光スイッチ部は、一方にM本のシングルモードファイバポートを備え、他方にT本のシングルモードファイバポートを備えるM×T波長選択スイッチであり、
前記帯域可変光送受信部は、
帯域可変光送信器と帯域可変光受信器とを有する帯域可変光送受信器を1個あるいは複数個だけ備え、
前記1×Nコア選択スイッチの1本の入力マルチコアファイバポートは、方路毎に配置された前記空間分割多重光伝送路である1本のマルチコアファイバに接続され、
前記1×Nコア選択スイッチのN本のマルチコアファイバポートのうち(D-1)本のマルチコアファイバポートは、他の空間分割多重光伝送モジュール内に配置された1×Nコア選択スイッチと接続され、他のマルチコアファイバポートは、前記コアセレクタのマルチコアファイバポートに接続され、前記の各コアセレクタの各シングルモードファイバポートは、前記M×T波長選択スイッチのM本のシングルモードファイバポートのいずれかに接続され、前記M×T波長選択スイッチのT本のシングルモードファイバポートのいずれかには、前記帯域可変光送信器又は前記帯域可変光受信器が接続され、
前記空間分割多重光ノード装置は、前記帯域可変光送信器が発生する任意の波長の光信号を各方路のマルチコアファイバの任意のコアから出力し、各方路のマルチコアファイバの任意のコアから入力した任意の波長の光信号を、任意の前記帯域可変光受信器で受信するように構成されたことを特徴とする空間分割多重光伝送システムが提供される。
【発明の効果】
【0013】
開示の技術によれば、1本のマルチコアファイバ内の複数のコアを、上りと下りのトラフィックで効率的に共有することで、非対称トラフィックを無駄なく1本のマルチコアファイバ内に収容可能となり、結果的により多くのユーザーを収容可能とする空間分割多重光伝送システムを実現するための技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】従来技術に基づく空間分割多重光伝送システムの構成例を示す図である。
【
図2】従来の空間分割多重光ノード装置の構成例を示す図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係る空間分割多重光伝送システムの構成例を示す図である。
【
図4】実施例1における空間分割多重光ノード装置の構成例を示す図である。
【
図5】1×2コア選択スイッチの機能を示す図である。
【
図7】1×2波長選択スイッチの機能を示す図である。
【
図8】M×T WSSの構成例を示す図である(M=3,T=4の場合の例)。
【
図9】本実施の形態に係る技術の効果を説明する図であり、上り下り同一帯域の場合を示す(4ユーザーを収容する場合の例)。
【
図10】本実施の形態に係る技術の効果を説明する図であり、上りが下りよりも帯域が狭い(トラフィック量が少ない)場合を示す(収容ユーザー数が6に増加した場合の例)。
【
図11】実施例2における空間分割多重光ノード装置の構成例を示す図である。
【
図12】実施例5における空間分割多重光伝送システムの構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態(本実施の形態)を説明する。以下で説明する実施の形態は一例に過ぎず、本発明が適用される実施の形態は、以下の実施の形態に限られるわけではない。
【0016】
以下の実施例の説明において、請求項と実施例との対応を分かり易くするために、例えば"(実施例1:請求項1の実施例)"のように、説明する実施例が、どの請求項に対応する実施例であるかを記載している。ただし、これは説明の便宜のためであり、請求項に係る発明の範囲が、その実施例に限定されることを意味するわけではない。また、本明細書での請求項番号は、出願当初の請求項番号である。
【0017】
また、以下の説明で使用するD、N、M、Tはいずれも、1以上の整数であり、より具体的には、2でもよいし、3でもよいし、4以上の整数であってもよい。
【0018】
(実施例1:請求項1の実施例)
図3に実施例1における空間分割多重光伝送システムの構成例を示す。実施例1における空間分割多重光伝送システムにおいて、複数のSDM光ノード装置100A~100Dが、1芯のMCFからなるSDM伝送路で結ばれている。
【0019】
1芯MCF内の一部のコアが上り光信号を、他のコアは下り光信号の伝送を担う。上り信号が伝搬するコアの数とクラッド内の配置は任意である。これは、上りと下りでトラフィック量が対称であっても非対称であってもよいことを意味する。MCF内の各コアにはWDM光信号が伝送され、その伝送方向はMCFのコア毎に異なることとしてよい。このような1芯双方向非対称伝送機能を提供できることが、本発明に係る技術の特徴の一つである。
【0020】
図4に実施例1における空間分割多重光伝送システムを構成するSDM光ノード装置100(D=3の場合を例示)の構成例を示す。
図4に示すとおり、SDM光ノード装置100において、各方路に1台の1×N CSSが配置され、各1×N CSSは1本のMCFと接続されている。1×N CSSのN本の出力MCFポートのうち(D-1)本を用いて、他の方路用に配置された1×N CSSと接続されている。残りの出力MCFポートにはそれぞれCSが接続され、それらのSMFポートは、M×T波長選択スイッチ(WSS)の一方のSMFポート側に接続される。M×T WSSの他方のSMFポート側には、帯域可変送信機(BV-Tx)と帯域可変受信機(BV-Rx)が接続される。1台のBV-Txと1台のBV-Rxがユーザー装置であるIPルーターのIFに接続される。
【0021】
図4に示すように、1×N CSSと、CSと、M×T WSSと、BV-Tx及びBV-Rxとで、空間分割多重光伝送モジュールが構成される。
図4には、方路1に接続される1×N CSSを有する空間分割多重光伝送モジュール110が示されている。同様に、方路2に接続される1×N CSSを有する空間分割多重光伝送モジュールと、方路3に接続される1×N CSSを有する空間分割多重光伝送モジュールが存在する。
【0022】
各空間分割多重光伝送モジュールは、空間多重分離編集部111と、光スイッチ部112と、帯域可変光送受信部113とを備える。
図4においては、図示の便宜上、方路3に接続される1×N CSSを有する空間分割多重光伝送モジュールについての空間多重分離編集部111と、光スイッチ部112と、帯域可変光送受信部113とが図示されている。
【0023】
図4に示すとおり、空間多重分離編集部111は、1×N CSSとCSを有し、光スイッチ部112は、M×T WSSを有し、帯域可変光送受信部113は、BV-TxとBV-Rxを有する。
【0024】
<CSSについて>
まず、CSSについて、簡単のためN=2の場合について説明する。
図5に示すように、1×2 CSSは第1のMCFが一方に、2本のMCF(第2のMCF、第3のMCF)が他方に配置される。今、それぞれのMCFがC本のコアを有し、それぞれ1番からC番まで番号が割り当てられているとする。同図では、可視性の観点からコアは1次元に配置されているように記載しているが、各コアは2次元上の任意の位置に配置可能である。
【0025】
1×2 CSSは、第1のMCFの任意のコアを、第2のMCFあるいは第3のMCFのいずれかの中の所望のMCFの同一番号のコアに接続する機能をもつ。この「同一番号のコアに接続する」とは、異なるコアへの接続はできないということを意味し、以降では、「コア変換機能を有しない」と表現する。CSSは光信号の伝搬方向についての制約はなく、第1のMCFを入力ポートとし第2のMCFと第3のMCFを出力ポートとして用いることもできるし、反対に第2のMCFと第3のMCFを入力ポート、第1のMCFを出力ポートとして用いることができる。
【0026】
同図では、第1のMCFのコア1とコア4を第2のコアのコア1とコア4に接続し、第1のMCFのコア2とコア3を第2のコアのコア2とコア3に接続するように、1×2 CSSを設定した場合の接続状態を表している。
【0027】
このように第1のMCFのコアが出力される出力MCFを、コア毎に独立して設定できることが、CSSの特徴である。Nは2に限られることはなく、3以上の整数であっても同様の機能を提供できる。非特許文献7に、このようなCSSの実現方法の一つが示されている。
【0028】
<CSについて>
次にCSについて説明する。
図6に示すように、CSはMCFが一方に配置され、SMFが他方に配置される。今、MCFがC本のコアを有し、それぞれ1番からC番まで番号が割り当てられているとする。同図では、可視性の観点からコアは1次元に配置されているように記載しているが、各コアは2次元上の任意の位置に配置可能である。CSはMCFの任意のコアを、SMFのコアに接続する機能をもつ。
図6では、コア番号4のコアがSMFのコアと選択的に接続されている場合が例示されている。非特許文献8に、このようなCSの実現方法の一つが示されている。
【0029】
<1×N WSSについて>
次にM×T WSSについて説明するが、その基礎技術として、まず1×N WSSについて説明する。簡単のためN=2の場合について説明する。
図7に示すように、1×2 WSSにおいて、第1のSMFが一方に、2本のSMF(第2のSMF、第3のSMF)が他方に配置される。今、第1のSMFに波長が異なる4つの光信号が入力され、それぞれの波長に1番からC番までの波長番号が割り当てられているとする。1×2 WSSは、第1のSMFに入力した任意の波長の光信号を、第2のSMFあるいは第3のSMFのいずれかに出力する機能をもつ。WSSは光信号の伝搬方向についての制約はなく、第1のSMFを入力ポートとし第2のSMFと第3のSMFを出力ポートとして用いることもできるし、反対に第2のSMFと第3のSMFを入力ポート、第1のSMFを出力ポートとして用いることができる。
【0030】
同図では、第1のSMFに入力した波長が異なる4つの光信号のうち、波長1と波長2、波長4の光信号が第2のSMFから出力し、波長3の光信号が第3のSMFから出力するように、1×2 WSSを設定した場合の接続状態を表している。Nは2に限られることはなく、3以上の整数であっても同様の機能を提供できる。非特許文献4と5に、このようなWSSの実現方法の一つが示されている。
【0031】
<M×T WSSについて>
M×T WSSは、M個の1×T WSSとT個のM×1光スイッチ(OSW)を
図8のように接続することで実現できる。
図8はM=3、T=4の場合についての構成を例示している。ここで、M×1 OSWは一方にM本のSMFポートを、他方に1本のSMFポートを有し、M本のSMFポートのうちのいずれか1本を他方の1本のSMFポートに接続する機能をもつ。
【0032】
M×T WSSはM個の1×T WSSのいずれかのWSSのSMFに入力した任意の波長の光信号を、T個のM×1 OSWのいずれかに出力する機能をもつ。M×1 OSWは、WSSと同様に光信号の伝搬方向についての制約はない。従って、M×T WSSも光信号の伝搬方向についての制約はない。非特許文献4と5に、このようなM×T WSSの実現方法の一つが示されている。
【0033】
M×T WSSは
図8のように個別の複数の1×T WSSとM×1 OSWを組み合わせて構成しなくても、1つの空間光学系に集積して構築することもできる。非特許文献6に、そのような集積型M×T WSSの実現方法の一つが示されている。
【0034】
図4に示す実施例1における空間分割多重光伝送システムを構成するSDM光ノード装置100において、各方路の1本のMCFに対応して配置される1台の1×N CSSは、入力MCFポート内の複数のコアを他の方路に接続するか、このSDM光ノード装置100で分岐挿入するためCSに接続するかの設定を担う。各CSは接続されたMCF内の1つのコアを選択的にM×T WSSのノード装置側SMFポートに導く。
【0035】
M×T WSSにより、ノード装置側SMFポートに入力したWDM光信号の中の所望の波長の光信号をBV-TxあるいはBV-Rxに接続する機能を提供する。SDM光ノード装置を構成する、CSS、CS、M×T WSSには方向性がないので、伝送方向の異なるWDM光信号を同時に収容可能である。
【0036】
以上説明したように、各方路の1芯MCFに対して1台のCSSを配置し、MCFの各コアにそれぞれ独立に上り下りのトラフィックを割り当てることで、1芯MCF双方向SDM光ノード装置を構成することができる。上り下りのトラフィックには任意のコアに割り当てることができ、その比率も任意である。個々のIPルーターのIFとBV-TxとBV-Rxからなる送受信機を接続し、これらをM×T WSSのユーザー側ポートに収容すれば、1芯MCFのコア資源を無駄なく利用して、地理的に離れた隣接IPルーターとの間の非対称データトラフィックを経済的に収容することが可能である。
【0037】
<動作原理>
その原理(及び効果)について
図9及び
図10を用いて説明する。ここで、見やすさの観点から、
図9の空間分割多重光ノード装置100Aは、
図4に示した実施例1の空間分割多重光ノード装置における方路3に対応する空間分割多重光伝送モジュールのみを記載している。同様に空間分割多重光ノード装置100Bは、方路1に対応する空間分割多重光伝送モジュールのみを記載している。
【0038】
図9において、MCFは4本のコアを有し、M×T WSSのサイズが4×12 WSSの場合について例示してある。今、簡単のためMCFの各コアの最大伝送可能なトラフィック量(ビットレート)を20Tb/s、BV-TxとBV-Rxの伝送レート可変範囲を1Tb/s-10Tb/s、各方路に向けての分岐挿入に使用可能な上り下りのコア総数を4と仮定する。
【0039】
上り下りともに最大伝送レートの10Tb/s(対称トラフィック)が必要なユーザーに対しては、2ユーザー分の上り光信号(合計20Tb/s)と下り光信号(合計20 Tb/s)を、それぞれ上り用のコアと下り用のコアに収容することができる。従って、
図9に示すように、4コアを使って収容可能なユーザー数は4となる。
【0040】
次に、各ルーター間の下りの必要伝送レートが3.3Tb/s、上りの必要伝送レートが10Tb/sである場合(非対称トラフィック)を考える。使用する送受信機が帯域可変機能を有せず、SXCの配下にM×N WSSではなく、通常の1×N WSSが配置されている場合は、下りの必要伝送レートが3.3Tb/sであったとしても、必要コア数は同じく4であり、下りのトラフィックを運ぶコアの容量2Tb/sのうち、未使用の13.4Tb/sの帯域は無駄になる。
【0041】
一方、本発明に係る技術の空間分割多重光ノード装置の構成を使用することで、利用可能な4本のコアのうち、3本を上りトラフィックに、1本を下りトラフィックに割り当てることで、
図10に示すように、収容可能なユーザー数を4から6に増加させることが可能になる。
【0042】
具体的には、3本の上りコアに10Tb/s×6ユーザー分(10Tb/s×2ユーザー×3コア=60Tb/s)のトラフィックを収容し、1本の下りコアに3.3Tb/s×6ユーザー分(3.3Tb/s×6ユーザー×1コア=19.8Tb/s)を収容する。
【0043】
以上のように、本発明に係る空間分割多重光伝送システムを用いれば、1本のMCFのコア資源を上りと下りのトラフィックで無駄なく融通し合うことで、現実的に多くのIPルーター間で発生する非対称データトラフィックを、経済的に提供可能である。
【0044】
<実施例1の空間分割多重光伝送システムの構成のまとめ>
以上説明したとおり、実施例1の空間分割多重光伝送システムは、D本の方路を有する複数の空間分割多重光ノード装置が空間分割多重光伝送路で互いに結ばれた空間分割多重光伝送システムである。前記空間分割多重光伝送路は1本のMCFであり、前記空間分割多重光ノード装置は、方路毎に配置されたD個の空間分割多重光伝送モジュールを有する。
【0045】
前記空間分割多重光伝送モジュールは、空間多重分離編集部111と、光スイッチ部112と、帯域可変光送受信部113とを有する。
【0046】
前記空間多重分離編集部111は、一方に1本の入力MCFポートを備え、他方にN本の出力MCFポートを備える1×N CSSと、一方に1本のMCFポートを備え、他方に1本のSMFポートを備えるM個のCSとを有する。
【0047】
前記光スイッチ部112は、一方にM本のSMFポートを備え、他方にT本のSMFポートを備えるM×T WSSである。前記帯域可変光送受信部113は、BV-TxとBV-Rxとを有する帯域可変光送受信器を1個あるいは複数個だけ備える。
【0048】
前記1×N CSSの1本の入力MCFポートは、方路毎に配置された前記空間分割多重光伝送路である1本のMCFに接続され、前記1×N CSSのN本のMCFポートのうち(D-1)本のMCFポートは、他の空間分割多重光伝送モジュール内に配置された1×N CSSと接続され、他のMCFポートは、前記CSのMCFポートに接続され、前記の各CSの各MCFポートは、前記M×T WSSのM本のSMFポートのいずれかに接続され、前記M×T WSSのT本のSMFポートのいずれかには、前記BV-Tx又は前記BV-Rxが接続される。
【0049】
実施例1の空間分割多重光伝送システムにおける空間分割多重光ノード装置は、前記BV-Txが発生する任意の波長の光信号を各方路のMCFの任意のコアから出力し、各方路のMCFの任意のコアから入力した任意の波長の光信号を、任意の前記BV-Rxで受信するように構成されている。
【0050】
(実施例2:請求項2の実施例)
次に、実施例2を説明する。実施例2では、実施例1の空間分割多重光伝送システムの複数の空間分割多重光ノード装置における少なくとも1つの空間分割多重光ノード装置において、D個の空間分割多重光伝送モジュールに配置されるD個のM×T WSSに代えて1台の(D・M)×T WSSを備える。
図11に、
図4に示す構成における3つのM×T WSSを1台の(D・M)×T WSS120に置き換えた構成例を示す。
図11の例では、D=3である。
【0051】
実施例2の空間分割多重光ノード装置において、BV-Txが発生する任意の波長の光信号を任意の方路のMCFの任意のコアから出力し、任意の方路のMCFの任意のコアから入力した任意の波長の光信号を、任意のBV-Rxで受信する。
【0052】
実施例2の空間分割多重光伝送システムの動作及び効果は、実施例1の空間分割多重光伝送システムの動作及び効果と同様である。
【0053】
(実施例3:請求項3の実施例)
次に、実施例3を説明する。実施例3では、実施例1の空間分割多重光伝送システムの複数の空間分割多重光ノード装置における少なくとも1つの空間分割多重光ノード装置において、M×T WSSに代えて、M×T MCSが備えられる。
【0054】
実施例3におけるM×T MCSを備える空間分割多重光ノード装置において、BV-Rxは、任意の波長の光信号を発生する機能を有し、BV-Rxは、任意の波長の光信号を選択的に受信する機能を有する。
【0055】
実施例3の空間分割多重光伝送システムの動作及び効果は、実施例1の空間分割多重光伝送システムの動作及び効果と同様である。
【0056】
(実施例4:請求項4の実施例)
次に、実施例4を説明する。実施例4では、実施例2の空間分割多重光伝送システムの複数の空間分割多重光ノード装置における少なくとも1つの空間分割多重光ノード装置において、(D・M)×T WSSに代えて、(D・M)×T MCSが備えられる。
【0057】
実施例4における(D・M)×T MCSを備える空間分割多重光ノード装置において、BV-Rxは、任意の波長の光信号を発生する機能を有し、BV-Rxは、任意の波長の光信号を選択的に受信する機能を有する。
【0058】
実施例4の空間分割多重光伝送システムの動作及び効果は、実施例1の空間分割多重光伝送システムの動作及び効果と同様である。
【0059】
(実施例5:請求項5の実施例)
次に、実施例5を説明する。実施例5では、実施例1の空間分割多重光伝送システムの複数の空間分割多重光ノード装置における各空間分割多重光ノード装置において、1×N CSSとCSに代えて、一方に1本のMCFポートを備え、他方に複数個のSMFポートを備えるファンイン・ファンアウト機器(FIFO)を備える。
【0060】
図12に、空間分割多重光ノード装置100A、100Bにおける1×N CSSとCSが、FIFO130A、130Bに置き換えられた構成例を示す。
【0061】
実施例5の空間分割多重光伝送システムの動作及び効果は、実施例1の空間分割多重光伝送システムの動作及び効果と同様である。
【0062】
以上、本実施の形態について説明したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0063】
100、100A~100D 空間分割多重光ノード装置
110 空間分割多重光伝送モジュール
111 空間多重分離編集部
112 光スイッチ部
113 帯域可変光送受信部
120 (D・M)×T WSS
130A、130B FIFO