(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143911
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】就寝時刻推定プログラム、情報処理装置、寝具、ウェアラブルデバイス及び睡眠環境制御装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/16 20060101AFI20241004BHJP
A61B 5/11 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
A61B5/16 130
A61B5/11 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056856
(22)【出願日】2023-03-31
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(71)【出願人】
【識別番号】598163064
【氏名又は名称】学校法人千葉工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100180758
【弁理士】
【氏名又は名称】荒木 利之
(72)【発明者】
【氏名】奥村 悦久
(72)【発明者】
【氏名】石橋 知明
(72)【発明者】
【氏名】高橋 哲也
(72)【発明者】
【氏名】信川 創
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038PP05
4C038VA15
4C038VB31
(57)【要約】
【課題】夜間頻尿の患者の個体差を考慮して夜間頻尿減少のための方法を提示する就寝時刻推定プログラム、情報処理装置、寝具、ウェアラブルデバイス及び睡眠環境制御装置を提供する。
【解決手段】情報処理装置1は、患者2の動作に応じた加速度を取得する加速度取得手段100と、患者2が就寝した時刻を推定する就寝時刻推定手段101と、加速度情報に基づいて患者2の睡眠特徴量を推定する睡眠特徴量推定手段102と、患者の就寝時刻と睡眠特徴量の複数の組を用いて、当該患者の就寝時刻と睡眠特徴量の関係を求め、当該関係に基づいて頻尿回数が低減される推奨就寝時刻を推定する推奨就寝時刻推定手段103とを有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータを、
取得した患者の就寝時刻と睡眠特徴量の複数の組を用いて、当該患者の就寝時刻と睡眠特徴量の関係を求め、当該関係に基づいて頻尿回数が低減される推奨就寝時刻を推定する推定手段として機能させるための就寝時刻推定プログラム。
【請求項2】
前記推定手段は、前記推奨就寝時刻と前記就寝時刻との差を睡眠周期より小さく設定する請求項1に記載の就寝時刻推定プログラム。
【請求項3】
前記推定した就寝時刻を出力する出力手段をさらに有する請求項1に記載の就寝時刻推定プログラム。
【請求項4】
前記睡眠特徴量は、前記患者の睡眠中の体動を検出して推定されたものである請求項1に記載の就寝時刻推定プログラム。
【請求項5】
前記患者の睡眠中の体動は、前記患者が身につけた加速度センサの出力に基づいて検出される請求項4に記載の就寝時刻推定プログラム。
【請求項6】
前記睡眠特徴量は、中途覚醒の時間である請求項1、4又は5に記載の就寝時刻推定プログラム。
【請求項7】
取得した患者の就寝時刻と睡眠特徴量の複数の組を用いて、当該患者の就寝時刻と睡眠特徴量の関係を求め、当該関係に基づいて頻尿回数が低減される推奨就寝時刻を推定する推定手段を有する情報処理装置。
【請求項8】
前記患者の体動を検出し、就寝時刻と睡眠特徴量を推定する、
請求項7に記載の情報処理装置を搭載した寝具。
【請求項9】
前記患者の体動を検出し、就寝時刻と睡眠特徴量を推定する、
請求項7に記載の情報処理装置を搭載したウェアラブルデバイス。
【請求項10】
請求項7に記載の情報処理装置が推定した前記推奨就寝時刻に基づいて制御対象の動作を制御する睡眠環境制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、就寝時刻推定プログラム、情報処理装置、寝具、ウェアラブルデバイス及び睡眠環境制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の技術として、夜間頻尿乃至夜間多尿の有用なモデルである睡眠期頻尿乃至多尿モデルに対して評価対象薬剤を投与するに際し、評価対象薬剤の睡眠期頻尿乃至多尿治療効果を評価する評価方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に開示された評価方法は、睡眠期頻尿乃至多尿モデルに対し、評価対象薬剤を投与する工程と、前記評価対象薬剤を投与した後の前記睡眠期頻尿乃至多尿モデルについて、前記評価対象薬剤に代えて前記評価対象薬剤を溶解可能な溶媒を投与した対照又は何も投与しない対照と比較して、(1)24時間尿量(質量)に対する睡眠期尿量(質量)の質量%(睡眠期尿量/24時間尿量)が、低下した場合に、前記評価対象薬剤が睡眠期頻尿乃至多尿の治療薬として有用であると評価する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した特許文献1の評価方法によれば、評価対象薬剤が睡眠気頻尿乃至多尿の治療薬として有用であるか評価するものの、夜間頻尿の患者の個体差を考慮して夜間頻尿減少のための方法を提示するものではない。
【0006】
本発明の目的は、夜間頻尿の患者の個体差を考慮して夜間頻尿減少のための方法を提示する就寝時刻推定プログラム、情報処理装置、寝具、ウェアラブルデバイス及び睡眠環境制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、上記目的を達成するため、以下の就寝時刻推定プログラム、情報処理装置、寝具、ウェアラブルデバイス及び睡眠環境制御装置を提供する。
【0008】
[1]コンピュータを、
取得した患者の就寝時刻と睡眠特徴量の複数の組を用いて、当該患者の就寝時刻と睡眠特徴量の関係を求め、当該関係に基づいて頻尿回数が低減される推奨就寝時刻を推定する推定手段として機能させるための就寝時刻推定プログラム。
[2]前記推定手段は、前記推奨就寝時刻と前記就寝時刻との差を睡眠周期より小さく設定する前記[1]に記載の就寝時刻推定プログラム。
[3]前記推定した推奨就寝時刻を出力する出力手段をさらに有する前記[1]に記載の就寝時刻推定プログラム。
[4]前記睡眠特徴量は、前記患者の睡眠中の体動を検出して推定されたものである前記[1]に記載の就寝時刻推定プログラム。
[5]前記患者の睡眠中の体動は、前記患者が身につけた加速度センサの出力に基づいて検出される前記[4]に記載の就寝時刻推定プログラム。
[6]前記睡眠特徴量は、中途覚醒の時間である前記[1]、[4]又は[5]に記載の就寝時刻推定プログラム。
[7]取得した患者の就寝時刻と睡眠特徴量の複数の組を用いて、当該患者の就寝時刻と睡眠特徴量の関係を求め、当該関係に基づいて頻尿回数が低減される推奨就寝時刻を推定する推定手段を有する情報処理装置。
[8]前記患者の体動を検出し、就寝時刻と睡眠特徴量を推定する、
前記[7]に記載の情報処理装置を搭載した寝具。
[9]前記患者の体動を検出し、就寝時刻と睡眠特徴量を推定する、
前記[7]に記載の情報処理装置を搭載したウェアラブルデバイス。
[10]前記[7]に記載の情報処理装置が推定した前記推奨就寝時刻に基づいて制御対象の動作を制御する睡眠環境制御装置。
【発明の効果】
【0009】
請求項1、7-10に係る発明によれば、夜間頻尿の患者の個体差を考慮して夜間頻尿減少のための方法を提示することができる。
請求項2に係る発明によれば、推奨就寝時刻と就寝時刻との差を睡眠周期より小さく設定することができる。
請求項3に係る発明によれば、推定した就寝時刻を出力することができる。
請求項4に係る発明によれば、患者の睡眠中の体動を検出して睡眠特徴量を推定することができる。
請求項5に係る発明によれば、患者の睡眠中の体動を、患者が身につけた加速度センサの出力に基づいて検出することができる。
請求項6に係る発明によれば、睡眠特徴量を中途覚醒の時間として、夜間頻尿の患者の個体差を考慮して夜間頻尿減少のための方法を提示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施の形態に係る情報処理装置の構成の一例を示す概略図である。
【
図2】
図2は、実施の形態に係る情報処理装置の構成例を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、就寝時刻情報及び睡眠特徴量情報の構成例を示す概略図である。
【
図4】
図4は、ある典型的な夜間頻尿患者における就寝時刻と中途覚醒時間との関係の一例を示すグラフ図である。
【
図5】
図5は、複数の患者についての就寝時刻と中途覚醒時間との関係の一例を示すグラフ図である。
【
図6】
図6は、平均就寝時刻と調整後の就寝時刻の一例を示す表である。
【
図7】
図7(a)~(d)は、介入の有無による夜間頻尿回数の変化を比較するためのグラフ図である。
【
図8】
図8は、就寝時刻の調整時間と介入前後の夜間頻尿回数の差との関係を示すグラフ図である。
【
図9】
図9は、介入の前後の睡眠の質及び夜間頻尿に関係する数値の比較結果を示す表である。
【
図10】
図10は、就寝時刻推定手段の就寝時刻の推定動作を説明するためのタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施の形態]
(情報処理装置の構成)
図1は、実施の形態に係る情報処理装置の構成の一例を示す概略図である。
【0012】
この情報処理装置1は、例えば、患者2の腕に装着する時計型のウェアラブル端末であり、必要に応じて外部装置と通信可能に構成される。患者2は、夜間頻尿患者であるものとし、就寝中に中途覚醒し、数回用を足すものとする。なお、本実施の形態において「夜間頻尿」とは、就寝時刻から起床時刻の間に排尿のために起きる症状であり、「夜間排尿回数」とはその回数のように定義するものとする。
【0013】
情報処理装置1は、患者2の要求に応じて、患者2を診察する医師等の要求に応じて、医師等の操作する外部機器の要求に応じて又は自動で動作するものであって、本体内に情報を処理するための機能を有するCPU(Central Processing Unit)やフラッシュメモリ、患者2の動作を検出するための加速度センサ、文字や画像を表示するLCD(Liquid Crystal Display)等の電子部品を備える。
【0014】
情報処理装置1は、例えば、患者2に常時装着され、加速度センサにより患者2の体動に基づく加速度を検出し、当該加速度の特徴量を解析することで活動量を算出し、それを基に状態を判別して、特に就寝、入眠、中途覚醒、起床等の動作を判別し、記録する。なお、情報処理装置1が加速度のみを取得し、以降の動作を他の装置に実行させるものであってもよい。また、情報処理装置1がウェアラブル端末の場合、加速度を検出できれば時計型の端末に限らず、メガネ型、ヘルメット型、ウエア型、シューズ型等の端末を用いてもよく、その型は問わない。
【0015】
また、患者2の就寝、入眠、中途覚醒、起床等の動作を判別できれば加速度以外の情報を用いてもよく、例えば、カメラを用いて患者2を撮影して得られた映像から同様の動作を判別してもよいし、ベッド、枕、リクライニングシート等の寝具に振動センサを配置して得られた振動の情報から同様の動作を判別してもよく、判別のための手段は限定されないし、複数の手段を組み合わせて判別するものであってもよい。
【0016】
(情報処理装置の構成)
図2は、実施の形態に係る情報処理装置1の構成例を示すブロック図である。
【0017】
情報処理装置1は、CPU等から構成され、各部を制御するとともに、各種のプログラムを実行する制御部10と、フラッシュメモリ等の記憶媒体から構成され情報を記憶する記憶部11と、患者2の体動に伴う加速度を検出して加速度情報を出力する加速度センサ12と、文字や数字により複数の情報を表示するLCD等からなる表示部13とを備える。また必要に応じて、患者2の操作を受け付ける操作ボタン、ネットワークを介して外部と通信する通信部を備える。
【0018】
制御部10は、後述する就寝時刻推定プログラム110を実行することで、加速度取得手段100、就寝時刻推定手段101、睡眠特徴量推定手段102、推奨就寝時刻推定手段103、表示制御手段104等として機能する。
【0019】
加速度取得手段100は、加速度センサ12が出力する情報を加速度情報111として取得し、記憶部11に格納する。
【0020】
就寝時刻推定手段101は、加速度情報111を解析して患者2が就寝した時刻(就寝時刻)を推定し、又は患者2若しくは医師の就寝時刻の入力操作に応じて就寝時刻情報112として記憶部11に格納する。ここで、「就寝時刻」とは、患者2が入眠潜時の前であって床に入る時刻であり、実際に眠りについた「睡眠開始時刻」と区別する。なお、就寝時刻の推定方法は、「(2)推定動作」において詳細に説明する。
【0021】
睡眠特徴量推定手段102は、加速度情報111を解析して患者2の睡眠の特徴を表す値を推定し、睡眠特徴量情報113として記憶部11に格納する。なお、睡眠特徴量の一例として、本実施の形態では睡眠中の中途覚醒時間を用いるが、その他、睡眠の質を表す様々な値を用いることができる。
【0022】
推奨就寝時刻推定手段103は、患者2の就寝時刻情報112、睡眠特徴量情報113の複数の組を用いて、当該患者2の就寝時刻と睡眠特徴量の関係を求め、当該関係に基づいて頻尿回数を低減するために推奨される就寝時刻である「推奨就寝時刻」を推定する。
【0023】
表示制御手段104は、出力手段の一例であり、推奨就寝時刻推定手段103が推定した推奨睡眠時刻を表示部13に表示する他、情報処理装置1の動作に必要な文字、画像等の情報を表示部13に表示制御する。
【0024】
記憶部11は、制御部10を上述した各手段100-104として動作させる就寝時刻推定プログラム110、加速度情報111、就寝時刻情報112、睡眠特徴量情報113等を記憶する。
【0025】
図3は、就寝時刻情報112及び睡眠特徴量情報113の構成例を示す概略図である。
【0026】
就寝時刻情報112及び睡眠特徴量情報113は、患者ごとに関連づけられた情報であり、情報が得られた日と、就寝時刻と、中途覚醒の時間とを有する。
【0027】
(情報処理装置の動作)
次に、本実施の形態の作用を、(1)基本動作、(2)推定動作に分けて説明する。
【0028】
(1)基本動作
まず、患者2は、情報処理装置1を装着して生活行動をする。情報処理装置1の加速度取得手段100は、加速度センサ12が出力する情報を加速度情報111として取得し、記憶部11に格納する。加速度センサ12は、一例として、2軸の加速度を検出し、加速度の分解能を0.025G、毎秒32回の計測頻度とする。
【0029】
特に患者2は、夜間に就寝し、入眠し、覚醒して起床する。また、患者2は、夜間頻尿患者であるため就寝中に中途覚醒し、数回用を足すものとする。情報処理装置1の加速度取得手段100は、これら一連の行動の間、加速度センサ12が出力する加速度情報111を記録する。なお、加速度情報111は、例えば、加速度センサ12の出力データを全て記録する方法の他、1秒間毎のピーク値を記録するものであってもよい。
【0030】
(2)推定動作
図10は、就寝時刻推定手段101の就寝時刻の推定動作を説明するためのタイミングチャートである。横軸を時刻とし、縦軸を加速度の大きさとする。
【0031】
次に、就寝時刻推定手段101は、加速度情報111を解析して、例えば、睡眠状態、覚醒状態、休憩状態のいずれであるか推定する。睡眠状態は、各所定の期間i
1、i
2…内の活動量(一例として、強さ(加速度のピーク値);
図10中の下向き三角)が当該期間の長さに対して定められた閾値a
THを下回る場合である(期間の長さを変化させる場合、閾値も変化させる。)。また、覚醒状態は、所定の期間i
1、i
2…内の活動量が当該期間の長さに対して定められた閾値a
THを上回る場合である。なお、睡眠状態の閾値a
TH1と覚醒状態の閾値a
TH2は同じであってもよいし、異なっていてもよい。睡眠期間は、複数の所定の期間において睡眠状態となっていない回数が予め定めた回数以下となっている期間(t
2~t
4)であり、覚醒期間は、複数の所定の期間において睡眠状態となっている回数が予め定めた回数以下となっている期間(~t
1、t
5~)である。また、覚醒期間の間を休憩期間(t
1~t
5)とする。
【0032】
就寝時刻推定手段101は、覚醒期間から休憩期間に変わるタイミングt1を患者2が就寝した時刻(就寝時刻)として推定し、就寝時刻情報112として記憶部11に格納する。また、休憩期間から覚醒期間に変わるタイミングt5を患者2が起床した時刻として推定し、必要に応じて就寝時間の記録に用いる。なお、就寝時刻や起床時刻の推定方法は、加速度情報111を用いる場合であってもここに説明した方法に限定されるものではなく、就床や起床を検出できれば他の方法であってもよい。
【0033】
また、睡眠特徴量推定手段102は、加速度情報111を解析して患者2の睡眠の特徴を表す値として中途覚醒時間を推定し、睡眠特徴量情報113として記憶部11に格納する。具体的には、睡眠期間中に一定以上の体動を検知した場合(t3)を中途覚醒とし、中途覚醒していた時間を中途覚醒時間として検出する。なお、中途覚醒時間は、体動の検出に加速度センターを用いた場合は、前述した覚醒期間と同様にして求めることができる。この時に、設定する閾値や予め定める回数は、前述のものと同じにしてもよいし、別々に設定してもよい。
【0034】
次に、推奨就寝時刻推定手段103は、患者2の就寝時刻情報112、睡眠特徴量情報113の複数の組を用いて、当該患者2の就寝時刻と睡眠特徴量の関係を求め、当該関係に基づいて睡眠特徴量の改善する就寝時刻を、頻尿回数が低減される就寝時刻として推奨就寝時刻を推定する。
【0035】
推奨就寝時刻推定手段103は、最急降下法を採用し、以下の数式に基づいて推奨就寝時刻を推定する。
【数1】
ここで、Xは1週間の就寝時刻の平均、df(X)/dXは就寝時刻と中途覚醒回数との関係から求まる傾きであり、αは係数であって算出される就寝時刻の調整時間が睡眠周期の1サイクル(90分とした場合)を超えないようにするため-90<αdf(X)/dX<90の間に設定することが好ましく、この場合α=150とすることが好ましい。なお、就寝時刻の調整時間が睡眠周期を超えないよう調整する理由は、就寝時刻の調整量が大きすぎると患者への侵襲が大きくなるためである。つまり、推奨就寝時刻推定手段103は、推奨就寝時刻と就寝時刻との差を睡眠周期より小さく設定する。
【0036】
表示制御手段104は、推奨就寝時刻推定手段103が推定した推奨就寝時刻を表示部13に表示する他、さらに好ましくは起床予定時刻等の情報を表示部13に表示制御する。
【0037】
患者2は、情報処理装置1の表示部13に表示された推奨睡眠時刻を確認し、自らの就寝時刻を調整する。又は、当該時刻は医師の確認の後、医師による操作の結果表示されるものであってもよい。患者2は、就寝時刻を調整した後、同様に情報処理装置1を装着して調整された就寝時刻に基づいて生活行動をする。情報処理装置1は、上記説明した動作を繰り返し、調整後に得られた情報に基づいて再度推奨就寝時刻を表示するものであってもよい。
【0038】
[実施例]
上記実施の形態の構成、方法を用いて、以下の実施例に示す検証を実施した。患者として参加者24人をSequenceA、Bの二つの集団に分け、SequenceAは非介入期間→介入期間とし、SequenceBは介入期間→非介入期間とした。なお、介入期間、非介入期間ともに4週間で、その間に2週間のwashout期間を設定した。いずれの期間も1週目と4週目に情報処理装置1としてPHILIPS社製のActiwatch spectrumを用い、測定を行った。排尿回数、尿量の記録、及び睡眠スコア、排尿状態スコアをアンケートによって記録した。介入期間においては、それぞれの参加者について1週目のデータから得られた推奨就寝時刻である最適な就寝時刻を設定し、以後の3週間をその時刻に就寝させた。なお、SequenceA、Bの集団ともに性別、年齢、体重、BMI、LUTS(Lower urinary tract symptoms、下部尿路症状)の治療歴等の背景因子について有意な差は認められていない。
【0039】
図4は、ある典型的な夜間頻尿患者における就寝時刻と中途覚醒時間との関係の一例を示すグラフ図である。
【0040】
1週間の就寝時刻と中途覚醒時間を記録したところ、就寝時刻が遅いほど中途覚醒時間が短くなる負の関係を認めた。
【0041】
図5は、複数の患者についての就寝時刻と中途覚醒時間との関係の一例を示すグラフ図である。
【0042】
患者24人の1週間の就寝時刻と中途覚醒時間を記録した。結果、患者24人中22人において、就寝時間が遅い程、中途覚醒時間が短くなるという、負の相関関係を認めた。これらの結果より、高齢の夜間頻尿患者においては、睡眠相が前進している割合が極めて多い可能性が示唆される。
【0043】
図6は、平均就寝時刻と調整後の就寝時刻の一例を示す表である。
【0044】
図6は、それぞれの参加者について上記した数1の数式を用いて就寝時刻を調整した結果である。患者24人の就寝時刻を「Adjustment time」分だけ調整し、全体では平均41分遅らせることとなった。
【0045】
図7(a)~(d)は、介入の有無による夜間頻尿回数の変化を比較するためのグラフ図である。
【0046】
患者24人をSequenceA(n=12)とSequence B(n=12)の集団に分け、介入期間、非介入期間それぞれの夜間排尿回数(NUF:Nocturnal Urinary Frequency、夜間排尿回数)の変化を比較した。結果、
図7(a)は、SequenceA(非介入期間→介入期間)の集団において12名中10名が、夜間頻尿回数が減少したことを示し、
図7(b)は、介入期間前後の夜間排尿回数の改善幅が、非介入期間と比較して有意(p<0.001)であることを示しているのに対して、
図7(c)に示すSequenceB(介入期間→非介入期間)の集団は3名のみが夜間頻尿回数を減少させ、9名が増加し、
図7(d)は、やはり介入期間前後の夜間排尿回数の改善幅が、非介入期間と比較して有意であった(p=0.01)ことを示している。
【0047】
図8は、就寝時刻の調整時間と介入前後の夜間頻尿回数の差との関係を示すグラフ図である。
【0048】
患者24人の就寝時刻の調整時間と介入前後の夜間頻尿回数の差を調べたところ、就寝時刻の調整時間と、介入前後の夜間排尿回数の差に有意な負の相関を認めた。つまり、就寝時刻の調整幅が大きいほど、夜間排尿回数が大きく改善することがわかった。なお、図示していないが夜間排尿量(NUV:Nocturnal Urine Volume、夜間多尿;ml)もまた、介入期間の前後での減少量が、非介入期間と比較して有意な改善を認めた。
【0049】
図9は、介入の前後の睡眠の質及び夜間頻尿に関係する数値の比較結果を示す表である。
【0050】
代表的な睡眠の質を表す数値としてPSQI(ピッツバーグ睡眠質問票:睡眠の質を18項目で評価するスコア。21点満点。高いほど質が悪い。カットオフ値は5.5点で,6点以上は「睡眠に障害がある群」とされる。)のスコアが、患者24人の平均及び標準偏差について、介入の前後において6点以上の障害のある群からカットオフ値である5.5点以下まで有意に低下した。適切な時刻に就寝することで、夜間頻尿だけでなく、睡眠の質もまた有意に改善したことがわかる。
【0051】
また、夜間頻尿に関係する値としてOABSS(過活動膀胱症状スコア:過活動膀胱症状を評価するスコア。15点満点。高いほど重症。)、IPSS(国際前立腺症状スコア:前立腺肥大症症状を評価するスコア。35点満点。高いほど重症。)、IPSS-QOL(国際前立腺症状QOLスコア:IPSSに関連し、その時点の下部尿路症状におけるQOLを評価するスコア。5点満点。高いほど重症。)についても有意ではないもののそれぞれ改善していることが示された。
【0052】
(実施の形態の効果)
上記した実施の形態によれば、就寝時刻情報112及び睡眠特徴量情報113との関係から推奨する就寝時刻を推定するようにしたため、当該推定就寝時刻に就寝することで夜間頻尿回数を減少させることができる。現に、本発明を用いた推定就寝時刻の就寝により、夜間排尿回数が有意に減少したことが示された。
【0053】
また、本発明により睡眠特徴量が向上することが確認されたため、夜間頻尿患者のみならず、非夜間頻尿の不眠症患者にも応用できる可能性がある。
【0054】
[他の実施の形態]
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々な変形が可能である。
【0055】
例えば、情報処理装置1は、表示制御手段104により表示部13に推奨就寝時刻を表示する他、制御対象として他の装置の動作を制御する睡眠環境制御装置として動作するものであってもよい。睡眠環境制御装置は、制御対象として、例えば、出力部(表示画面やスピーカー等)を備えた壁掛け時計、机、テーブル等のリビングに備えられた家具等、又は寝室に設置された調度類に対し、動作の一例として当該出力部に推奨就寝時刻を提示させる。また、当該提示方法は、推奨睡眠時刻の表示に限らず音声や映像での提示であってもよい。また、睡眠環境制御装置は、制御対象として、電動のカーテンレールを制御して推奨就寝時刻に基づいてカーテンを開け閉めさせるものであってもよいし、照明のコントローラーを制御して照明の明るさ、色等を推奨就寝時刻に基づいて制御するものであってもよいし、ベッドのコントローラーを制御してリクライニング角度等を推奨就寝時刻に基づいて制御するものであってもよい。
【0056】
上記実施の形態では制御部10の各手段100~104の機能をプログラムで実現したが、各手段の全て又は一部をASIC等のハードウエアによって実現してもよい。また、上記実施の形態で用いたプログラムをCD-ROM等の記録媒体に記憶して提供することもできる。また、上記実施の形態で説明した上記ステップの入れ替え、削除、追加等は本発明の要旨を変更しない範囲内で可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 :情報処理装置
2 :患者
10 :制御部
11 :記憶部
12 :加速度センサ
13 :表示部
100 :加速度取得手段
101 :就寝時刻推定手段
102 :睡眠特徴量推定手段
103 :推奨就寝時刻推定手段
104 :表示制御手段
110 :就寝時刻推定プログラム
111 :加速度情報
112 :就寝時刻情報
113 :睡眠特徴量情報